(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101889
(43)【公開日】2024-07-30
(54)【発明の名称】建築構造物、および壁用部材
(51)【国際特許分類】
E04B 2/12 20060101AFI20240723BHJP
E04B 2/02 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
E04B2/12
E04B2/02 113
E04B2/02 112
E04B2/02 135
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023006085
(22)【出願日】2023-01-18
(71)【出願人】
【識別番号】000230630
【氏名又は名称】株式会社ルミカ
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【弁理士】
【氏名又は名称】南瀬 透
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【弁理士】
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(74)【代理人】
【識別番号】100219483
【弁理士】
【氏名又は名称】宇野 智也
(72)【発明者】
【氏名】原田 士郎
(72)【発明者】
【氏名】中村 一貴
(57)【要約】
【課題】多様な形状の建築物を建築しやすい壁構造を有する建築構造物のための壁用部材等を提供する。
【解決手段】裏面と、第一の側面21とのなす第一の角度θ1が鋭角である板状の下側部材20と、下側部材20と結合され、裏面と、下側部材20の第一の側面21と反対側の第二の側面32とのなす第二の角度θ2が鋭角である板状の上側部材30と、下側部材20の下面と上側部材30の上面とがそれぞれ互いに嵌合可能な形状の嵌合部(凹部25、凸部35)と、上下方向に軸部材を配置するための孔26、36とを有する、壁用部材10。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
裏面と第一の側面とのなす第一の角度θ1が鋭角である板状の下側部材と、前記下側部材と結合され、裏面と前記下側部材の前記第一の側面と反対側である第二の側面とのなす第二の角度θ2が鋭角である板状の上側部材と、を有する壁用部材を複数用いて建築された建築構造物であって、
壁の少なくとも一部に、隣り合う二枚の前記壁用部材の一方を第一の壁用部材とし、他方を第二の壁用部材として組み合わせた組合せ部があり、
前記組合せ部が、前記第一の壁用部材の第二側面側で、前記第一の壁用部材の下側部材の裏面と前記第二の壁用部材の下側部材の第一の側面とが接し、かつ、前記第一の壁用部材の上側部材の第二の側面と第二の壁用部材の裏面とが接する配置であり、
前記壁が、前記組合せ部が繰り返し配置された部分を有する壁構造部を有する、建築構造物。
【請求項2】
前記壁用部材が、前記下側部材の下面と前記上側部材の上面とがそれぞれ互いに嵌合可能な形状の嵌合部と、上下方向に軸部材を配置するための孔を有し、
前記壁用部材の孔に、長尺の軸部材を挿し、上下に配置した下側の前記壁用部材の上側部材の嵌合部に、上側の前記壁用部材の下側部材の対応する嵌合部を嵌合させて、前記壁構造部を、上下に2段以上設けたものである、請求項1に記載の建築構造物。
【請求項3】
平面視したとき、五角形以上の多角形構造物である、請求項1に記載の建築構造物。
【請求項4】
平面視したとき、略正多角形状である、請求項3に記載の建築構造物。
【請求項5】
裏面と、第一の側面とのなす第一の角度θ1が鋭角である板状の下側部材と、
前記下側部材と結合され、裏面と、前記下側部材の前記第一の側面と反対側の第二の側面とのなす第二の角度θ2が鋭角である板状の上側部材と、を有する、壁用部材。
【請求項6】
前記下側部材の下面と前記上側部材の上面とがそれぞれ互いに嵌合可能な形状の嵌合部、および/または、上下方向に軸部材を配置するための孔を有する、請求項5に記載の壁用部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は建築構造物に関する。また、建築構造物を建築するための壁用部材に関する。
【背景技術】
【0002】
木材等を用いて建築されている建築構造物の多くは、平面視したとき、四角形を基準として、これを組み合わせた形状のものが多い。これは、木材を加工するとき、接合部分も含めて、加工しやすい直角に加工した部分を多用できるためである。丸太を利用するログハウス調の建物も同様である。
【0003】
近年、換気性が高く接触機会を減少することができることや、サウナブームなどの各種の流行なども相まって、屋外レジャーの需要も増えその多様性も増してきている。屋外では、風雨などの天候の影響も受けやすく、各種設備の利用条件を設定するために、利便性が高く建築しやすい小屋状の建築物など求められている。
【0004】
一方で、平面視したとき、五角形以上の形状の建物は基本となる部材の構造が直角のみではなくなり複雑な角度の組み合わせとなるため加工が難しい。このため、柱の加工部を複数の壁材が取り付け可能なものとするものとして建築することも考えられる。
【0005】
特許文献1は、木製の部材を積層して壁面を組み立てるとともに屋根葺き材と床板材を付設して成るログハウスの壁面ユニット部材であって、旧家屋の解体時に廃材として出る古木材を原料として使用することに特長があり、且つ該古木材を最長寸法が28~100cmの3~20種の所定寸法形状のユニット部材に成形加工するとともに、該ユニット部材を積層して隣接するユニット部材同士が相互に係止する嵌合機構にて固定することにより釘その他の固定具なしでログハウスの壁面が高精度で強固に組み立てられることを特徴とするものを開示している。
【0006】
特許文献2は、平面視したとき略環状の水槽部と、前記水槽部の上部に設けられた棚に配置されたプランターと、を有する魚類の飼育と植物の栽培とを行う構造物を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8-239923号公報
【特許文献2】特開2020-162436号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1のように、組み立て可能なログハウスの壁面ユニットが知られているが、この構造は方形状の構造には適しているが、形状の自由度は低くなる。特許文献2のように、多角形状のようにするためには、柱や梁と、その間に配置する壁とを別々の部材とすることも有効な場合があるが、それぞれ長い部材を用いて建築することが想定される。この場合、各部材が大きくなるため必然的に重くなり搬送や組み立てるとき作業性が低下する場合がある。また、予め設計に合わせたものを準備する必要性が高くなり、建築時の選択肢が少なくなりやすい。
【0009】
一方で、いわゆる小屋程度の大きさの建築物等は、様々な場所に需要者のニーズに合わせて自在に建築しやすいほうがよい。このために、搬送しやすく組み合わせの自由度が高く組み立てやすい部材で建築できるほうが良い。しかし、組み合わせの自由度が高く、搬送しやすい高さの部材とすると、部材の設計が難しいものとなる。特に、多角形の建築構造物を容易に組み立てできるような部材は、その設計も難しい。
【0010】
かかる状況下、本発明は、多様な形状の建築物を建築しやすい壁構造を有する建築構造物、またそのための壁用部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
【0012】
<1> 裏面と第一の側面とのなす第一の角度θ1が鋭角である板状の下側部材と、前記下側部材と結合され、裏面と前記下側部材の前記第一の側面と反対側である第二の側面とのなす第二の角度θ2が鋭角である板状の上側部材と、を有する壁用部材を複数用いて建築された建築構造物であって、
壁の少なくとも一部に、隣り合う二枚の前記壁用部材の一方を第一の壁用部材とし、他方を第二の壁用部材として組み合わせた組合せ部があり、
前記組合せ部が、前記第一の壁用部材の第二側面側で、前記第一の壁用部材の下側部材の裏面と前記第二の壁用部材の下側部材の第一の側面とが接し、かつ、前記第一の壁用部材の上側部材の第二の側面と第二の壁用部材の裏面とが接する配置であり、
前記壁が、前記組合せ部が繰り返し配置された部分を有する壁構造部を有する、建築構造物。
<2> 前記壁用部材が、前記下側部材の下面と前記上側部材の上面とがそれぞれ互いに嵌合可能な形状の嵌合部と、上下方向に軸部材を配置するための孔を有し、
前記壁用部材の孔に、長尺の軸部材を挿し、上下に配置した下側の前記壁用部材の上側部材の嵌合部に、上側の前記壁用部材の下側部材の対応する嵌合部を嵌合させて、前記壁構造部を、上下に2段以上設けたものである、前記<1>に記載の建築構造物。
<3> 平面視したとき、五角形以上の多角形構造物である、前記<1>または<2>に記載の建築構造物。
<4> 平面視したとき、略正多角形状である、前記<3>に記載の建築構造物。
<5> 裏面と、第一の側面とのなす第一の角度θ1が鋭角である板状の下側部材と、
前記下側部材と結合され、裏面と、前記下側部材の前記第一の側面と反対側の第二の側面とのなす第二の角度θ2が鋭角である板状の上側部材と、を有する、壁用部材。
<6> 前記下側部材の下面と前記上側部材の上面とがそれぞれ互いに嵌合可能な形状の嵌合部、および/または、上下方向に軸部材を配置するための孔を有する、前記<5>に記載の壁用部材。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、多様な形状を建築しやすい壁構造を有する建築構造物を建築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の壁用部材の第一の実施形態に係る概要図である。
【
図2】本発明の壁用部材を構成する部材に係る概要図である。
【
図3】本発明の壁用部材の第一の実施形態に係る概要図である。
【
図4】本発明の建築構造物を建築する流れを示す概要図である。
【
図5】本発明の壁用部材の第一の実施形態に係る像である。
【
図6】本発明の壁用部材を組み立てる例を示す像である。
【
図7】本発明の壁用部材を組み合わせるときの配置を説明するための概要図である。
【
図8】本発明の建築構造物に利用できる扉側壁用部材に係る概要図である。
【
図9】本発明の建築構造物に利用できる土台用部材に係る概要図である。
【
図10】本発明の建築構造物を建築する流れを示す概要図である。
【
図11】本発明の建築構造物を建築する流れを示す概要図である。
【
図12】本発明の建築構造物の例を示す概要図である。
【
図13】本発明の建築構造物の他の例を示す概要図である。
【
図14】本発明の建築構造物の他の例を示す像である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を変更しない限り、以下の内容に限定されない。なお、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後の数値を含む表現として用いる。
【0016】
[本発明の壁用部材]
本発明の壁用部材は、裏面と、第一の側面とのなす第一の角度θ1が鋭角である板状の下側部材と、前記下側部材と結合され、裏面と、前記下側部材の前記第一の側面と反対側の第二の側面とのなす第二の角度θ2が鋭角である板状の上側部材と、を有する。本発明の壁用部材は、前記下側部材の下面と前記上側部材の上面とがそれぞれ互いに嵌合可能な形状の嵌合部、および/または、上下方向に軸部材を配置するための孔を有するものとすることが好ましい。
【0017】
[本発明の建築構造物]
本発明の建築構造物は、本発明の壁用部材を複数用いて建築された建築構造物であって、壁の少なくとも一部に、隣り合う二枚の前記壁用部材の一方を第一の壁用部材とし、他方を第二の壁用部材として組み合わせた組合せ部があり、前記組合せ部が、前記第一の壁用部材の第二側面側で、前記第一の壁用部材の下側部材の裏面と前記第二の壁用部材の下側部材の第一の側面とが接し、かつ、前記第一の壁用部材の上側部材の第二の側面と第二の壁用部材の裏面とが接する配置であり、前記壁が、前記組合せ部が繰り返し配置された部分を有する壁構造部を有する。
【0018】
なお、本願において本発明の壁用部材を用いて本発明の建築構造物を得ることもでき、本願はこれらの製造方法や、これらを用いる建築方法と捉えることもでき、本願においてそれぞれに対応する構成は相互に利用することができる。
【0019】
本発明者らは、平面視したとき例えば正八角形や、正十二角形のような多角形の建築構造物を容易に建築する手法を検討した。様々な需要に応えるために、建築資材となる各構造の部材は、搬送しやすく作業性に優れた重さや大きさ程度のものとすることが好ましい。このため、特に高さ方向に積み上げていき、その位置を適切に位置決めする必要がある壁用部材の設計が非常に重要になることを経験している。
【0020】
この壁用部材として、多角形とするためには、必然的に、角に相当する部分で直角以外の角度を傾けるための構造が必要となる。また、ボルトなどで位置決めの補助などを行うとしても、単独の部材を複数段積み上げていくと、上下にジグザグ状になったり、一方に傾きすぎやすくなる場合もある。一方で、複数段を組み合わせておいた部材を製造しようとすると、板状部材に様々な角度の部分が必要な複雑な加工となり現実的ではない。このような試行錯誤の結果、本発明者らは、建築の経験が浅い未習熟者であっても、多様な形状を建築しやすい本発明にかかる壁用部材や、それを用いた本発明にかかる建築用構造物を見出した。
【0021】
[壁用部材10]
図1~
図3は、本発明の壁用部材の第一の実施形態に係る概要図である。
図1は壁用部材10の正面図である。
図2は、
図1の壁用部材10を構成する部材の平面図である。
図3は、壁用部材10の斜視図である。
【0022】
壁用部材10は、下側部材20と、上側部材30とを結合部材4で結合した部材である。この壁用部材10を積むように合わせていくことで、建築構造物の壁の一部を建築することができる。
【0023】
壁用部材10について、裏面(23、33)は、壁用部材10を用いて建築構造物としたときの、内側である内面側の面である。表面(24、34)は、壁用部材10を用いて建築構造物としたときの、外側である外面側の面である。壁用部材10の第一の側面(21)と、第二の側面(32)の形状と、これを活かして組みつなげることで、表面と、裏面とは、それぞれ、表面が外面に相当し、裏面が内面に相当する向きとなる。
【0024】
[下側部材20]
下側部材20は、壁用部材10を壁として用いるときの鉛直方向の下側となる板状の部材である。下側部材20は、裏面23と、第一の側面21とのなす第一の角度θ1が鋭角である。下側部材20の下面は、上側部材30の凸部35と嵌合可能な凹部25を有する。また、建築構造物としたときの鉛直方向となる上下方向に軸部材を配置するための孔26を有する。
【0025】
[上側部材30]
上側部材30は、壁用部材10を壁として用いるときの鉛直方向の上側となる板状の部材である。上側部材30は、裏面33と、第二の側面32とのなす第二の角度θ2が鋭角である。上側部材30の上面は、下側部材20の凹部25と嵌合可能な凸部35を有する。また、建築構造物としたときの鉛直方向となる上下方向に軸部材を配置するための孔36を有する。
【0026】
[嵌合部(凹部25、凸部35)]
図4は、本発明の建築構造物を建築する流れを示す概要図である。壁用部材10は、下に組み立てた上側部材30の凸部35に、その上に組み立てる他の壁用部材10の凹部25を嵌め合わせて、積み上げることができる。下段の壁用部材10の凹部25は、土台用部材61に凸部35に相当する形状を設けておくことで、この土台用部材61に積み上げることもできる。なお、凹部25と、凸部35は、互いに上下に配置したときに嵌合可能な嵌合部があればよく、
図1等の壁用部材10の凹凸とは逆の凹凸としてもよいし、嵌合可能な他の構造を採用してもよい。
【0027】
このように、上下に配置した下側の壁用部材10の上側部材30の嵌合部に、上側の壁用部材10の下側部材20の対応する嵌合部を嵌合させて、壁用部材を2段以上設けた壁構造部とすることもできる。このとき、壁用部材10の孔に、長尺の軸部材を挿して、軸部材による誘導や位置決め、補強などを行いながら積み上げることもできる。
【0028】
[上側部材と下側部材の結合]
下側部材20と上側部材30は、それぞれの傾斜部分や、互いにはみ出した部分を伴い、壁用部材10は複雑な形状である。このため、下側部材20と上側部材30は、
図2に示すような別々の部材として加工したものを用いることが好ましい。そして、下側部材20と上側部材30を、結合したものとすることができる。
【0029】
下側部材20と上側部材30を結合するとき、裏面23と裏面33の面を合わせて結合する。この結合は、下側部材20と上側部材30を結合することができる任意の手段で結合してよいが、例えば、接着剤による接着や、ビス留め、ダボ留め、U字釘、上下の部材の嵌合加工などで結合することができる。この例では、結合部材4でいわゆるダボ留めで結合している。
【0030】
また、下側部材20の第一の側面21よりも、
図2における左側に延長されてはみだす長さとして、幅方向で第一の側面21を超えるように上側部材30の第一の側面31を配置して結合する。この上側部材30の第一の側面31側にはみ出した部分の裏面33は、壁用部材10を組合せて組合せ部(
図6(c)参照)とするときの上側部材30の第二の側面32と接する面となる。
【0031】
また、上側部材30の第二の側面32よりも、
図2における右側に延長されてはみ出す長さとして、幅方向で第二の側面32を超えるように下側部材20の第二の側面22を配置して結合する。この下側部材20の第二の側面22側にはみ出した部分の裏面23は、壁用部材10を組合せて組合せ部(
図6(c)参照)とするときの下側部材20の第一の側面21と接する面となる。
【0032】
[第一の角度θ1、第二の角度θ2]
第一の角度θ1は、下側部材20の「裏面23」と、下側部材20の「第一の側面21」とのなす角度である。第二の角度θ2は、上側部材30の「裏面33」と、下側部材20の第一の側面21と反対側である上側部材30の「第二の側面32」とのなす角度である。
【0033】
第一の角度θ1、第二の角度θ2は、鋭角である。このため、隣り合う壁用部材を組合せたとき、周状に壁用部材を配置していくことで、五角形以上の多角形の形成に用いることができる。建築構造物としたときの具体的な設計により、第一の角度θ1および第二の角度θ2は、設計できる。角数が多い多角形の方が、いわゆるドーム状や筒状となり、風などに強いものとなることが期待される。このより角数が多い多角形とするためには、第一の角度θ1および第二の角度θ2はより鋭角とすることが好ましい。第一の角度θ1および第二の角度θ2は、例えば、75度以下や、70度以下、65度以下、60度以下などとすることができる。
【0034】
第一の角度θ1、第二の角度θ2は、隣り合わせで接する壁用部材の部分で同じ角度とすることが好ましい。この角度にずれがある場合、接する裏面と側面との間に隙間が生じやすくなる。仮に隙間が生じる場合は許容できる範囲や、通気性等の観点で意図的な範囲はそのままでもよいし、過剰な隙間となる場合は、隙間を閉じるための部材を配置してもよい。
【0035】
建築構造物を平面視したときにその角の和が360度となることで、周を囲む建築物となる。このことから、例えば、平面視したとき正五角形のものとするときは、360度/5角=72度の角度を基準に設計すればよい。同様に、正六角形とするときは360度/6角=60度の角度に、正八角形とするときは360度/8角=45度に、正十角形とするときは360度/10角=36度に、正十二角形とするときは360度/12角=30度にすることを基準に設計すればよい。なお、正多角形以外の形状としてもよく、入り口とする扉は、第一の角度θ1および第二の角度θ2に相当する加工を行っていない部材を用いて調整等をすることもできるため、前述した角度は目安として採用するのみでもよく、±10%や±5%、±2%程度の誤差も許容できる。
【0036】
第一の角度θ1と、第二の角度θ2は、正多角形用の角度設計として、同じ角度とすることが好ましい。このようにすることで、共通する部材を利用して、組合せ部や、壁構造部をつくることができるため、建築物を作製するための部材の種類を少なくすることができる。
【0037】
[大きさ]
壁用部材10の全体や各部分の大きさは、これを用いて建築する建築構造物の大きさや用途、壁用部材10を使用する部分などにあわせて適宜設定できる。小屋程度の大きさで使用するとき、建築構造物の高さ方向は、壁用部材10を土台部分のみに用いる場合は、人の腰程度までの高さとすることができ、壁用部材10の段数は2~5段程度を目安とすることができる。また、天井付近の高さまで壁用部材10を積み上げて用いる場合は、人の背を超える程度とすることができ、壁用部材10の段数は4段~10段程度を目安とすることができる。また、壁用部材の幅は、多角形の角数や建築構造物全体の大きさなどにより適宜設定することができる。また、壁用部材の厚みは、壁用部材の種類や強度などに基づいて適宜設定する事ができる。
【0038】
壁用部材10を小屋程度の大きさで正十二角形程度の角数の建築構造物を建築するために用いることを想定した場合などは、例えば、以下のような範囲とすることができる。
【0039】
壁用部材10の幅は、第一の側面21の端部から、第二の側面32の端部までの幅w1(
図1参照)が、建築構造物の内側の辺の幅となる。また運搬性や、隣の壁用部材との組み合わせ時の作業性などを考慮して全体の幅w0(
図1参照)を設定する。このw0は、例えば、約30cm~2mや、50cm~1.5m程度とすることができる。また、w1は、このw0よりも10~50cm程度や、20~40cm程度短いものとすることができる。
【0040】
壁用部材10を用いて壁を建築するとき、各部材の運搬性や、作業性などから、複数段積み上げていくことが好ましい。このことから、壁用部材10の全体の高さは、20cm~80cm程度が好ましく、30cm~50cm程度がより好ましい。上側部材と、下側部材とは、同程度の高さでもよいし、高さの差があってもよい。
【0041】
壁用部材10の厚みは、壁の強度や、材質などに合わせて適宜設定できる。例えば、1cm~10cm程度や、2cm~5cm程度とすることができる。厚みが厚いほど、強度が高いものとしやすいが、厚すぎると、加工や搬送、組み立て、積み上げなどが難しくなる場合がある。
【0042】
また、壁用部材10は、人が容易に組み立てできるような重さで設計することが好ましく、15kg以下や、10kg以下、8kg以下のような重さとなるように製造することができる。
【0043】
壁用部材は、孔に軸部材を挿し込んで高さ方向に積みあげることができる。壁用部材は長期使用に伴い収縮などする場合がある。このとき、軸部材の天井側に取り付けたボルトなどで壁用部材の高さ方向に向かって増し締めすることもでき、壁用部材の収縮に合わせて壁全体の高さの調整をして、天井をつけ直す等することで収縮による隙間の発生などを防止することもできる。
【0044】
[材質]
壁用部材10の材質は、建築用材として使用されている各種のものを使用できる。特に、木製のものや、樹脂製のものなどとすることができる。なかでも主たる部材として木を用いる木製のものを用いることが好ましい。また、本発明の建築構造物は、ログハウス調のものとして設計することもできるため、丸太などを基にして製造してもよい。なお、この木製は主たる材質が木のものであり、一般的な建築物に利用されるような釘やビス、接着剤、塗工剤などの部材のように、結合や設計、耐久性向上などのために他の部材を利用したものも含む。
【0045】
図5は、本発明の壁用部材の製造例に係る像である。
図5(a)は、表面側から正面視した像である。
図5(b)は、背面側から斜視した像である。
図5(c)は、平面視した像である。この壁用部材は、木材を用いて製造したものであり、全体の高さ約370mm、全体の幅(w0)約1070mm、第一の側面の端部から第二の側面の端部(w1)約940mm、厚み約45mmである。下側部材と上側部材のそれぞれの高さは約185mmである。また、第一の角度θ1と第二の角度θ2はいずれも30度である。この壁用部材は、正十二角形状の壁に用いるために設計したものである。
【0046】
[多角形状の建築構造物]
本発明の建築構造物は、平面視したとき、五角形以上の多角形構造物とすることができる。この多角形は、内側の角度がいずれも180度未満で、90度以上とした、滑らかな角で設計したものとすることが好ましい。これは、外部から見ると、大きい平面が少なく、様々な向きからの風などの負荷がかかっても受け流すような、いわゆるドーム状や筒状に近いものとなる。
【0047】
例えば、建築構造物の平面視したときの形状は、五角形~三十六角形程度を目安とでき、六角形~二十角形程度とすることもできる。また、建築構造物は平面視したとき、略正多角形状とすることができる。正多角形状とする場合、壁用部材は共通の形状のものを使用できる辺がより多くなるため、部材の準備や、搬送時の積み込み、組み立てがより容易になる。また、様々な向きからみても同様の形状で負荷が分散しやすいものとなる。
【0048】
[大きさ]
建築構造物の全体の形状は、その建築構造物の用途などに合わせて適宜設定できる。本発明の壁用部材を周方向の扉以外の辺に広く使用する設計の場合、柱などを設けることなく建築しやすく、需要に応じて柔軟に組み立てるような小屋程度の大きさのものとすることが好ましい。このため、幅・奥行・直径に相当するような大きさが、1.5m~10mや、2m~8m程度のものとすることができる。また、高さは、1.5m~4m程度や、2m~3m程度とすることができる。
【0049】
図6は、本発明の壁用部材を組み立てる例を示す像である。
図6(a)は、壁用部材101と、壁用部材102とを組み合わせるために接触させる各面を近くに配置した状態である。
図6(b)は、壁用部材101と壁用部材102とを組み合わせた状態の組合せ部70を平面視した像である。像6(c)は、
図6(b)の状態を斜視した像である。
【0050】
図6(d)は、
図6(b)、
図6(c)の状態に、さらに1つ追加で壁用部材を組み合わせて3面分に用いた状態の像である。
図6(e)は、図(b)、
図6(c)の状態に、さらに上段に1段の壁用部材を積み上げた状態である。
【0051】
[組合せ部70]
組合せ部70は、第一の壁用部材101と、第二の壁用部材102とを組み合わせたものである。
図6(a)における壁用部材101、壁用部材102について、これらの隣り合わせて用いる二枚の壁用部材の一方の第一の壁用部材とし壁用部材101(
図6(a)左側)とする。そして、他方の第二の壁用部材とし壁用部材102(
図6(a)右側)とする。そして、第一の壁用部材である壁用部材101の第二側面側に、第二の壁用部材である壁用部材102を配置して組み合わせていく。
【0052】
組合せ部70において、壁用部材101の下側部材の裏面は、壁用部材102の下側部材の第一の側面に接する。そして、壁用部材102の上側部材の裏面は、壁用部材101の上側部材の第二の側面に接する。これにより、第一の角度θ1と第二の角度θ2が30度で設計されているため、壁用部材101と壁用部材102は、平面視したとき30度の傾斜で配置される。このような設計の組合せ部をなす壁用部材を繰り返して配置していくことで、壁構造部の段を形成でき、さらに高さ方向に積み上げて複数段の壁構造部を設けることができる。壁構造部は、この組合せ部を繰り返した部分を有する建築構造物の壁の部分である。
【0053】
図7は、本発明の壁用部材を組み合わせるときの配置を説明するための概要図である。
図7(a)は、第一の壁用部材101と、第二の壁用部材102とを組み合わせるために、配置して移動させる向きを示した状態である。
図7(b)、(c)は、それぞれの壁用部材を組み合わせるために接触させた状態の図である。
図7(b)は、第一の壁用部材101と第二の壁用部材102のそれぞれの上側部材30の接触状態を示す。
図7(c)は、それぞれの下側部材20の接触状態を示す。これらの図は、
図6の(a)~(c)にも準じる状態である。また、第一の壁用部材101と、第二の壁用部材102は、
図1~3にも示す壁用部材10に準じる構造である。
【0054】
第一の壁用部材101は、第一の角度θ1を第一の角度θ11と示し、第二の角度θ2を第二の角度θ21と示す。第二の壁用部材102は、第一の角度θ1を第一の角度θ12と示し、第二の角度θ2を第二の角度θ22と示す。この組合せを行うとき、第一の壁用部材101の第二の角度θ21と、第二の壁用部材102の第一の角度θ12が、略同一であることが好ましい。ここでは、いずれの角度も約30度としている。
【0055】
図7(b)に示すように、上側部材30は、第一の壁用部材101の第二の側面32と、第二の壁用部材102の裏面33とが接触する。また、
図7(c)に示すように、下側部材は、第一の壁用部材101の裏面23と、第二の壁用部材の102の第一の側面21とが接触する。すなわち、上下部材で接し方が逆向きになる。さらに、第一の壁用部材101の下側部材20の孔26に挿した軸部材(図示せず)を、第二の壁用部材102の上側部材30の孔36に挿すことで位置合わせをすることもできる。
【0056】
これにより、各部材の裏面は、建築構造物の壁における内面側となり、ここでは、第一の角度θ12と第二の角度θ21がいずれも約30度であることから、各部材は平面視したとき傾斜して配置された状態になり、その内面のなす角度は約150度となる。この角度は、正十二角形の内角と同程度である。そして、このような組み合わせを繰り返した壁構造部を利用することで、平面視したとき正十二角形状の建築構造物を作ることができる。また、この配置は、第一の壁用部材101の下側部材20の上に、第二の壁用部材102の上側部材30が積まれる位置関係でもある。これを繰り返していくことで、隣り合う壁用部材と上下で異なる向きに接触しながら、周方向に互いに支えあう位置関係ともなるため様々な向きからの負荷に対してすぐれた強度を発揮して安定性が高いものとなることが期待できる。
【0057】
[扉側壁用部材]
図8は、本発明の建築構造物に利用できる扉側壁用部材51、52に係る概要図である。建築構造物は、通常、いずれかの辺に扉を設ける。この扉を設ける辺は、扉の両端に合わせて、線状とする。このため、平面視したとき壁用部材を周状に配置していき、扉に接する辺となる部分は、壁用部材を組み合わせるための加工を行わずに直線状に加工した扉側壁用部材51、52を利用することができる。扉側壁用部材51、52の扉と反対の部分は、壁用部材に準じて、その部分が接する部材となる壁用部材の上側部材や下側部材や、接する第一の側面や第二の側面に対応した形状としたものとすることができる。
【0058】
[土台用部材61~63]
図9は、本発明の建築構造物に利用できる土台用部材61~63に係る概要図である。本発明の壁用部材を、最下段にも用いて建築してもよいが、土台部分に、土台用のものを用いて建築してもよい。
図9は、壁用部材とは異なる形状の土台用部材の例である。この土台用部材は、壁用部材の下側部材を配置できるものであればよい。例えば、壁用部材の下側部材を高さ方向に延長するような形状で、下側部材に準じる形状で下側部材と嵌合できる嵌合部を設けたものとしてもよいし、下側部材を嵌合させる他の壁用部材の上側部材に相当する形状のものとしてもよい。また、扉用部材も
図8等に開示したものを例に、同様の思想で設計できる。
図9に示す例は、
図1~7等で例示したものに合わせて、壁用部材10の下側部材20を延長する形状で加工したものをもとに、下側部材20の凹部25に嵌合させるための凸部35に準じる凸部(
図4参照)を設けたものである。
【0059】
[組み立て作業の例]
図10は、本発明の建築構造物を建築する流れを示す概要図である。ここでは、床部73の上に、平面視したとき、扉72も含めて正十二角形状となるように建築している。まず正十二角形状の土台部と扉72を設ける。この土台部には、軸部材64を設けている。次に、土台部の上段に、扉72横の扉側壁用部材52を配置して、反時計回りで、壁用部材10を順に組み立てていく。このとき、軸部材64に、壁用部材10の孔を挿しながら配置する。
【0060】
[壁構造部の建築例]
図11は、本発明の建築構造物を建築する流れを示す概要図である。
図10に示すような壁用部材等を2段分組み立てて、本発明の壁用部材を用いて建築した壁構造部71を設けた状態である。
【0061】
[建築構造物の建築例]
図12は、本発明の建築構造物の例を示す概要図である。この建築構造物91は、
図11で示す壁構造部71を建築した後、上段に、柱と、透明なパネルを組み立てて、ドーム状の建築構造物を建築したものである。この建築構造物は、各部材が比較的扱いやすい大きさのものを組み立てたものである。また、この建築構造物は、土台部分に壁用部材を用いているため、安定性にも優れている。
【0062】
[建築構造物の建築例]
図13は、本発明の建築構造物の他の例を示す概要図である。
図14は、本発明の建築構造物の他の例を示す像であり、
図13に示す形状の製造例である。
図13(a)は、平面視方向の断面概要図である。
図13(b)は、平面視した概要図である。
図13(c)は、側面視した概要図である。
図13(d)は、他の向きから側面視した概要図である。この建築構造物92は、
図11に準じて壁用部材を5段積み上げた壁構造部を利用したものである。この壁構造部を壁81に用いて、扉82、床83、階段84、天井85を有し、壁構造部を平面視したとき正十二角形状であり、胴長の筒状に準じる形状の小屋状のものである。さらに、天井には、欄干86を設けており、天井に登ることができるように、はしご87を設けている。この建築構造物92は、例えば、内部等にサウナ器具88などを設けて、サウナとして利用することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、建築物に利用することができ、産業上有用である。
【符号の説明】
【0064】
10 壁用部材
20 下側部材
21、31 第一の側面
22、32 第二の側面
23、33 裏面
24,34 表面
25 凹部
26、36 孔
30 上側部材
35 凸部
4 結合部材
51、52 扉側壁用部材
61~63 土台用部材
64 軸部材
70 組合せ部
71 壁構造部
72、82 扉
73、83 床
81 壁
84 階段
85 天井
86 欄干
87 はしご
88 サウナ器具
91、92 建築構造物