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特開2024-101893施設栽培における高輝度LED、ミスト発生装置、CO2発生装置の3つを連携させて制御することで、光合成速度を向上させる環境制御・作物生産システム
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  • 特開-施設栽培における高輝度LED、ミスト発生装置、CO2発生装置の3つを連携させて制御することで、光合成速度を向上させる環境制御・作物生産システム 図1
  • 特開-施設栽培における高輝度LED、ミスト発生装置、CO2発生装置の3つを連携させて制御することで、光合成速度を向上させる環境制御・作物生産システム 図2
  • 特開-施設栽培における高輝度LED、ミスト発生装置、CO2発生装置の3つを連携させて制御することで、光合成速度を向上させる環境制御・作物生産システム 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101893
(43)【公開日】2024-07-30
(54)【発明の名称】施設栽培における高輝度LED、ミスト発生装置、CO2発生装置の3つを連携させて制御することで、光合成速度を向上させる環境制御・作物生産システム
(51)【国際特許分類】
   A01G 7/00 20060101AFI20240723BHJP
   A01G 7/02 20060101ALI20240723BHJP
   A01G 9/18 20060101ALI20240723BHJP
   A01G 9/24 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
A01G7/00 603
A01G7/00 601A
A01G7/02
A01G7/00 601Z
A01G9/18
A01G9/24 M
A01G9/24 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023006096
(22)【出願日】2023-01-18
(71)【出願人】
【識別番号】513078332
【氏名又は名称】有限会社グリーンラボラトリー
(72)【発明者】
【氏名】森屋 末三
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 泰永
【テーマコード(参考)】
2B022
2B029
【Fターム(参考)】
2B022DA01
2B022DA11
2B022DA17
2B029JA01
2B029MA06
2B029SA01
2B029SA02
2B029SE04
(57)【要約】
【課題】植物に必要最低限の光、CO2、湿度を制御する機器とシステムで、光合成速度の向上や生産の安定化をはかり、夏場の冷房機などの上記以外の機材にかかるコスト軽減を実現した環境制御システムを提供する。
【解決手段】植物の光合成量を推測して得た設定値と、5から7のセンサーからの信号をもとに、2から4の機器を制御し、栽培植物にとって適した光、CO2濃度、湿度環境にすることで光合成速度の向上を促す。また、太陽光と同程度の光量子を発する高輝度LED3を使用することによって、植物にこれまで以上に安定した光環境を提供することが可能となった。光、CO2、湿度の3点制御により、作物生産を周年安定的に実施可能となり、冷房機等のコスト軽減を実現する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
施設栽培における施設内の光・湿度・二酸化炭素(以下、CO2)濃度を制御するシステムであって、前記施設内の補光するための高輝度発光ダイオード(以下、LED)と、前記LEDを設定値に基づき動かすための照度センサーと、前記施設内のCO2濃度を管理するためのCO2発生装置と、前記施設内のCO2濃度を測るCO2センサーと、前記施設内の湿度を管理するミスト発生装置と、前記施設内の湿度を計測する湿度センサーと、前記3種のセンサーからの信号を受信し、設定値によって各種機器を制御するコントロールボックスを有することを特徴とする環境制御システム。
【請求項2】
請求項1に記載した環境制御システムにおいて、前記コントロールボックス内部に、前記各種センサーからの信号を受信する制御用コンピューターと、前記制御用コンピューターが受信した信号とその数値から推定される光合成速度をもとに設定された設定値がプログラムされ、その設定値を元に前記LED、CO2発生装置、ミスト発生装置を制御する基盤と、前記ミスト発生装置を操作する電磁弁と、全体の電源であるブレーカーを有することを特徴とした環境制御システム。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載した環境制御システムにおいて、無線インターネットを有し、同じネットワーク内にあるPCを離れたPCから遠隔操作することでデータを随時確認し、必要があれば口頭やメール等での指示により、現場にいる者が手動で、コントロールボックスのタイマー等を操作、設定値の変更が可能なことを特徴とした環境制御システム。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載した環境制御システムにおいて、高輝度LED、CO2発生装置から繋がれたチューブ等を栽培植物の株元部に設置し、局所施用することを特徴とした環境制御システム。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載した環境制御システムにおいて、栽培植物の茎部もしくは株元部に設置し、前記植物の下方から、もしくは葉裏に光照射するように設置し、波長域が赤外光域と紫外光領域のLED素子が任意の数、混合して直線的に並べられた、PPFD(光合成有効光量子束密度。後述)が太陽光と同程度の値で、被覆材で覆われた高輝度LEDを有することを特徴とする環境制御システム。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載した環境制御システムにおいて、微細な粒子の出るミストノズルを適当な個数有した、前記ミスト発生装置に繋がれた高圧ホースを前記施設内の上部に取り付け、設定値に合わせてミストを発生させることで前記施設内の湿度を制御することを特徴とした環境制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、施設栽培の花や野菜等の栽培環境において、作物生産を周年安定的に実施可能とする環境制御システム、プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、施設を利用した野菜や花きの生産現場では、周年生産、周年出荷が求められている。周年生産、周年出荷は、以下の点で経営上のメリットがある。
(1) 継続した出荷が可能となることによる販売単価の向上
(2) 年間契約が可能となることによる雇用労力の安定的な確保
(3) 施設設備の稼働率・利用率向上による生産量の増加
【0003】
しかし、日本では一部の生産者を除いて周年生産、周年出荷は行われていない。
日本は南北方向に長い上に、四季がはっきりしており、その地域、その季節の気候に合わせた作物が生産されている。とくに夏期は高温により、また、冬期は低温と低日射によって作物の生育が不安定となったりコストがかかるため、その期間を避けた生産体系が地域ごとに確立しており、同一作物を年間を通して連続して生産出荷することは従来ほとんど行われてこなかった。
【0004】
このように周年生産・周年出荷するには、夏期、冬期の生産を安定化することが必須であるがとくに夏期高温期の生産が難しい。関東以西の暖地では冬を超える冬春栽培は一般的に行われているが、6-8月は栽培を休止している。高温期に栽培を行う場合、これまで遮光カーテンや冷房が利用されてきた。遮光は日射量の減少を伴うので、光合成量が大きく減少することが多く、収量の低下が避けられない。また日中の冷房はコストが大きくコチョウランなど一部の高単価な作物を除いて非現実的であり、また、夜間だけ冷房する夜間冷房は可能であるが、高温期は日長が長く、夜間冷房を実施可能な時間が短いので効果は限定的である。
【0005】
上述した課題を克服するために、以下のような先行技術が開発されている。しかし、いずれも効果は限定的であり、高温期、低温期の作物生産を十分に安定するだけの効果は有していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014-150759号公報
【特許文献2】特開2014-176374号公報
【特許文献3】特開2022-122289号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「電照栽培の基礎と実践」、農研機構花き研究所、久松完監修、pp.22-23,pp.166-167
【非特許文献2】Mochizuki, Y., Umeda, H., Saito, T., Higashide, T. and Iwasaki, Y. (2018). Effect of low temperature and solar radiation on dry-matter production, fruit yield and emergence of malformed fruit in strawberry (Fragaria × ananassa Duch.). Acta Hortic.1227, 313-316
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
夏期高温期および冬期低温期に生育が不安定となる理由は、基本的には光合成量が不足するからである。特に、日射量が強い夏期高温期に生産を休止することは、収量に大きなマイナスである。日本より高緯度地域にあるオランダで果菜類の面積当たり収量が日本より格段に多い理由の一つに、日射の豊富な夏に生産が可能となるからである。作物が正常に生育するには、生育に必要なだけの十分な光合成産物があることが極めて重要となる。日射の強い高温期の生育不良の原因が光合成産物の不足である、ということは、これまでよく理解されていない。夏期の高温は生育速度を増加させ、光合成産物の必要量を大きく増加させる。つまり、高温条件下では、より多くの光合成産物が必要となり、通常は不足しがちとなっている。冷房は気温を低下させることによって生育速度を低下させるためには有効ではあるが、莫大な光エネルギーがハウスに入るとともに、外気温も高い日中に冷房を行って気温を低下させることは現実的ではなく、日射のない夜間の冷房はコスト的には可能であるが、夏期高温期は日長が長く夜間が短いので、効果は極めて限定的である。
【0009】
遮光は、気温を低下させる効果はあるが日射量が大きく減少するので、光合成量が大きく減少する。国内で一般的な内部遮光(遮光カーテン)を利用する場合は、遮光カーテンが日射エネルギーを吸収するのでカーテンの温度が上昇し、ハウス内に熱が再放出されるので、日射量の低下割合に比べて気温の低下割合が小さく、生育の安定には効果が低い。
【0010】
本発明は、遮光や冷房を行わずに夏期高温期の作物生育の安定化を可能とする技術を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の環境制御システムは、夏期高温期にLEDで補光することにより、冷房や遮光カーテンを使用しなくても、夏の高温期に植物栽培が可能となり、安定的な周年栽培に大きく貢献するものである。さらにLEDに独自開発のミストとCO2施用を組み合わせることで、先行技術よりも更に効率的に植物の光合成速度を向上させることが可能となり、夏期高温期の生育安定を実現する。
【発明の効果】
【0012】
本発明は4点の効果がある。
(1) 高輝度LEDによる補光、ミスト発生装置、CO2発生装置の制御を組み合わせることにより、光合成速度を向上し、作物の周年安定生産が実現可能であること。
(2) ミスト発生装置の使用によって施設内の気温を低下させ、生育速度を抑制するとともに、湿度を高め(飽差を低下させ)水分ストレスを緩和できる。
(3) 日射が少ない冬期低温期にLEDで補光することにより光合成速度を増加させることができる。同時に湿度(飽差)制御、CO2濃度制御と組み合わせ、光合成速度を増加させ正常な生育を可能とすること。
(4) 夏期高温期にLED補光、ミストによる細霧冷房、CO2濃度制御を行うことによって、遮光や冷房を使わず周年栽培ができ、大幅なコストダウンと収量増加を実現することが可能となることである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施の形態にかかる環境制御システムを適用した栽培施設の構成図である。
図2】本発明の環境制御システムの断面図である。
図3図1の環境制御システムで使用する、3の高輝度LEDの詳細図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図にしたがって説明する。図1は、本発明の環境制御システムを適用した栽培施設とシステムの全体図である。図1において、1は栽培施設で、湿度を制御するためのミスト発生装置2、光強度を制御するための高輝度LED3、CO2濃度を制御するためのCO2発生装置4が備えられている。また、湿度センサー5と、照度センサー6と、CO2センサー7が備えられている。5から7のセンサーからの信号を受信する受信部を有し、あらかじめ設定値がプログラムされた基盤を有し、2から4の各種装置を制御するコントロールボックス8を備えている。そして、9は無線インターネット機器で、10は9と同じインターネット内に設置され、8のコントロールボックスで得たデータを取得するためのパソコンで、11は外部インターネットを通じて遠隔で10で取得したデータを閲覧、確認をするための外部パソコンである。
【0015】
図2は、図1の1栽培施設内の本発明の環境制御システムの断面図である。図において、20はバラ、キク、ラン等の花や、イチゴ等の果物あるいは野菜等の栽培植物で、栽培トレイ21に設けられた栽培畝22に植えられている。この栽培畝22は露地植えであれば土壌を使用するが、屋内で行う植物工場では水耕栽培として養液を用いることもできる。3は図1における高輝度LED3で、栽培植物20の茎部もしくは株元部に相当する下方に配設された高輝度LEDである。図2では、栽培植物をひとつの畝に対し、1列の栽培植物を想定しており、栽培植物の下方全体に照射できるように2列配設としているが、配設本数や位置をこれに限定するものではなく、栽培植物に合わせて調整が可能なものとする。2は図1の2におけるミスト発生装置2であり、栽培施設1の適所に配設し、上方から下方に対し噴霧する。ここで言う適所とは、天井部などであるが、植物体の至近距離に配設した場合、植物が濡れてしまい病気の原因になる事などから、ある程度離して配設することが好ましく、施設の構造や栽培植物によって調整が可能とする。23は、図1におけるCO2発生装置4に繋がれたチューブなどで、穴が空いており、CO2を局所的に施用するものである。本発明では、上述のように高輝度LEDと同様に23を栽培植物20の株元に配設し、必要最低限の施用を目的としている。
【0016】
図3は、図1の環境制御システムで使用する、高輝度LED3の詳細図である。図において3は、内部に電気的に通電接続された複数のLED素子3c及びLED素子3dを使用した高輝度LEDで、防水性に優れ、かつ耐久性のあるテープ状もしくは帯状に形成されている。照明効果を損なわないように透明でかつ柔軟性のある樹脂材料でLED素子3c及びLED素子3dをモールドしたり、透明なビニール材等で包み込んで構成すれば容易に制作することができる。また、内部に照明用の LED素子3c、3dを複数個内在させた高輝度LED3の両端に接続部を構成しておけば任意の長さに接続して使用することができ、栽培畝22の長さに対応して使用することができる。また、高輝度LED3の内部に設けるLED素子3c及びLED素子3dは、LED素子を連続的に並べてもよく、栽培植物の植栽ピッチに合わせて配置してもいい。さらに光量的に不足するようであれば複数のLED素子を集合させてもよく、また異なる波長域のLED素子を集合させてもいいが、いずれもテープ状もしくは帯状に構成して使用する。なお、3aはAC/DC変換器で、3bは電源コンセントである。
【実施例0017】
本発明の環境制御システムは、植物の光合成速度を向上させるために光、CO2、湿度を複合的に制御するものである。特に遮光や冷房を行わずに、もしくは最低限の遮光を行うだけで、光合成速度を向上し、夏期高温期の生育を安定化できることが大きな特徴である。
【0018】
本発明で使用する高輝度LEDは、従来にはない強い光を出すことに成功している。さらに微細なミストを噴霧する高性能なミスト発生装置とCO2発生装置を加えた3つの複合制御システムとしては従来にはない、新規のものである。
【0019】
強い光の高輝度LEDを使用し、更には栽培植物の至近距離で葉の裏から照射する。夏期高温期は日射強度が比較的強いため、群落上部もしくは表面に位置する葉は光合成の光飽和点を超えている。一方で、群落の内部は光強度が弱く、群落全体としては光飽和点に達していない。本発明は、光強度の強いLEDを群落内部に設置し、葉の裏面から照射することにより、群落全体として光合成量を増加する。
【0020】
植物は既知のように、光合成によって生長に必要な糖質を生成している。光合成では、植物は葉の気孔から吸収したCO2と根から吸い上げた水を原料として、光エネルギーと葉緑素のはたらきで糖質をつくり、酸素を放出する。主な光合成色素には、クロロフィル(葉緑素)やカロテノイドがあり、これら光合成色素分子が集まって巨大な色素タンパク質複合体を形成し、光エネルギーが集められる。つまり植物が光合成をして成長するためには、水、CO2、光の3点が重要な要素となっている。
【0021】
上記の光合成がどれだけ行われたか、つまり植物がどれだけ成長しているかを測る方法として、光合成速度がある。植物が吸収したCO2量を計測することで、把握することが可能となる。
【0022】
植物の光合成と光強度の関係をCO2の交換速度を指標にしてみると、暗黒化で呼吸によるCO2の放出がみられ、光強度が増すにつれ、光合成が高まる。やがて呼吸によるCO2の放出と光合成によるCO2の吸収が等しくなり、CO2の出入りが見かけ上ゼロになる。この時の光強度を光補償点と呼ぶ。さらに光強度を増すと光合成が頭打ちになる。このときの光強度を光飽和点という。
【0023】
生物において光によって引き起こされる反応の多くは、生体内で光受容体が起こす光化学反応に基づくと想定され、吸収されるエネルギー量でなく、量子数が重要になる。そのため、植物の光合成や光形態形成などの現象を取り扱う場合は、エネルギー量ベースではなく、光量子数単位で考えることが望ましいとされている。植物栽培環境での光環境を評価する場合、光合成有効光量子束密度(Photosynthetically photon flux density、以下PPFDと呼ぶ。単位:μmol・m-2・s-1)を用いることが多い。(非特許文献1)本発明で使用される高輝度LEDは、このPPFDの向上を主眼として改良・開発したものである。
【0024】
栽培植物の収量増加を実現するために、CO2施用など単体で機材を導入している事例も多いが、本当の収量増加のためにはCO2施用のみでも、光強度増加のみでも、気温や湿度のみの制御でも不十分である。つまり、各々単品ではなく、複合的に制御することで、生育速度と光合成速度を合わせることが重要である。
【0025】
生育速度は気温に、光合成速度は光強度、CO2濃度、湿度、葉面積等が強く影響する。本発明は、作物の生産において重要かつ不足しがちな光合成速度を、高輝度LED、ミスト発生装置、CO2濃度制御によって向上する。また、高温期はミスト発生装置によって気温を低下させ、生育速度を抑制する。この結果、高温期、低温期ともに生育が安定化し、収量が増加し、周年生産が実現される。
【0026】
一般的に、気温が低いと光合成速度は小さく、気温が高い方が植物の光合成速度は大きくなる。夏の高温期は、通常気温も太陽光の光強度も高い。それにもかかわらず、夏に徒長のような状態が多く見受けられるのは、高温期の生育速度に対して光強度が不足していることが原因である。つまり、夏の生育速度が大きくなる気温に合わせた十分な光強度を与えることで、収量増加に繋げることが可能となる。別の例では、葉面温度が上昇することにより、葉焼け等の高温障害が見られることがある。これは、葉面温度の上昇により、植物の蒸散を活発に行い、植物体内の水分を気孔から外部に放出することで、葉面温度を下げようとするためで、結果的に水分または湿度が不足することが原因である。
【0027】
本発明において、夏期高温期では、冷房機で温度を下げるのではなく、ミスト発生装置による細霧冷房と湿度管理をしながらも、高輝度LEDで補光をすることにより、これまで生育が上手くいかなかった高温下でも栽培が可能となる。一方、冬季低温乾燥期では、日照時間が短く光強度の弱い太陽光を高輝度LEDで補いながら、気温に合わせた湿度を制御することで、暖房の必要もなくなり、大幅なコストダウンが見込める。
【0028】
[高輝度LED]
一般に植物工場用等で販売されているLEDは、太陽光のPPFDよりも遥かに低い値のものが多い。対して、本発明で使用する高輝度LEDは太陽光に近いPPFDの値を出すことに成功しており、光合成を促進するために、より効果的な高輝度LEDとなっている。本発明で使用するLED素子は、赤外光域と紫外光域の波長を出すものであり、これらの波長を組み合わせた光源で栽培植物の補光をすると生育促進効果が確認されていることは公知である。
【0029】
本発明で使用する高輝度LEDは、図2のように栽培植物の茎部もしくは株元部という、下方の葉、特に葉の裏側に光を照射するように配設されたものである。特に葉の多い栽培植物の下部に関しては、上部の葉の隙間を通過して下部に到達する太陽光の量は、上部のそれと比べてかなり減衰しており、植物が本来保有している光合成能力を十分引き出せない状況にある。葉の裏側から照射しても、表側から照射しても、光合成量増加の効果は同じである。(非特許文献2)
【0030】
また、特許文献2では、上方と下方両方からの照射を提案しているが、LEDから発せられるPPFDは、植物体との距離が離れてしまうほど、その値は極端に低くなってしまい、補光の意味を持たなくなってしまう。そのため本発明では、上方は太陽光を主光源とし、高輝度LEDはより植物体の近くで照射可能な下部もしくは株元部としている。
【0031】
上記高輝度LEDの使用によって、光強度が増すとCO2の吸収・交換速度が上昇し、その結果として光合成が活発に行われる。しかし、そのCO2を吸収するためには、葉の気孔がしっかりと開いていることが重要である。気孔開閉には植物の蒸散が深く関わっており、その蒸散を活発化させるために重要なのが、湿度である。
【0032】
[ミスト発生装置]
蒸散とは、水が水蒸気として植物体内から大気へ拡散する現象をいう。葉の蒸散は主として気孔を通して行われるため、気孔開閉の要因となる。蒸散の目的は、主に3つである。(1)植物体の温度を下げるため、(2)根からの水を吸い上げるため、(3)植物体内の余分な水分を外に放出するため。この蒸散を活発にさせることで、気孔開閉が積極的になり、その結果、CO2吸収量が増加する。
【0033】
蒸散速度は葉内の飽和水蒸気圧(100%RH:相対湿度)と葉の外側の水蒸気圧との差が大きくなると増加する。この差を飽差と呼び、乾球温度と湿球温度を比べることによって測定する。飽差とは、ある温度における飽和水蒸気分圧と実際の水蒸気分圧の差のことであるが、この飽差の数値が大きいほど、乾燥しているということになる。極度な低湿度では、気孔が閉鎖し、そのため光合成が低下して生長が抑制される。一般的には、植物に適切な飽差レベルは、3~6g/m3だと言われており、本発明のミスト発生装置2は、栽培施設内の適切な飽差レベルの範囲内に湿度を保つことを目的として、ミスト発生装置2を制御するものである。
【0034】
ミスト発生装置2は、粒子が非常に細かいミストを噴霧するため、栽培施設内の湿度を調節しつつも、植物体が濡れにくく、濡れによる病気が発生しにくい。
【0035】
また、湿度制御と同時に細霧冷房として、夏の高温対策にも適しており、ミストの気化熱を利用して、栽培施設内の温度低下に貢献するものである。ミストの適切な噴霧量に関しては、VETH線図(Ventilation Evaporation Temperature Humidity Relation Curve)が公知である。これによれば、施設内環境に適した噴霧量を算出できる。本発明におけるミスト発生装置の噴霧に関しても、上記を参考にしている。
【0036】
[CO2発生装置]
CO2施用方法に関しては、灯油燃焼式や、LPガスを燃焼させた排気ガスを送風機やダクトを使ってハウス内に拡散する方法、液化炭酸ガス式等がある。CO2施用が必要な理由としては、栽培施設の外気のCO2濃度はおよそ400ppmだが、換気等はするものの基本的に閉鎖された空間である栽培施設では、施設内のCO2濃度は光合成により作物が吸収するため外気のCO2濃度を下回ることがあり、必要なCO2濃度が不足するためである。また、本発明で使用する高輝度LEDで光強度が増すことにより光合成が促進されると、それに伴ってCO2の吸収量も増えるため、余計にCO施用が必要となる。
【0037】
本発明では、植物が光合成で消費するCO2を人為的に供給するため、施用の容易さと、必要最低限の局所施用という観点から、CO2発生装置を液化炭酸ガスとし、前記機器と繋いだチューブ等を栽培植物の株元に配設する。前記チューブ等は、ポリ塩化ビニールやポリエチレン、ゴム製等で、柔軟性があり、数ミリ単位の小さい孔から水を均一に散水・噴霧できる多孔質の、CO2局所施用チューブでも、灌水用チューブでも良いとする。
【0038】
[実施例]
本発明で使用する高輝度LED、ミスト発生装置、CO2発生装置を用いた実施場所として、イチゴ2件、コチョウラン1件における実施結果を示す。
【0039】
イチゴ:葉面積の肥大により糖の生成が活発となり、茎径の肥大と果実の肥大が見られた。
コチョウラン:茎径の肥大と、節間が2割増加し、花数の増加や花の肥大が見られた。
【0040】
前述の3箇所で本発明の環境システムを導入、実施したところ、3件とも同様の結果が得られた。
【0041】
上記で、光合成速度を向上させるための本発明の詳細を説明してきたが、各種機材を複合的に制御するシステムの他、光合成量の推測値を数値で表示し、使用者が見てわかるような仕様にしている。ここで表示される光合成量は、ハウス内外のCO2濃度と湿度、野外風速から隙間換気回数を推測し、推測された隙間換気回数から植物に吸収されるCO2とハウス外に漏れたCO2を推測することで光合成量を推測するというものである。
【0042】
これは、本発明の制御内容に影響を与えるものではなく、あくまでもリアルタイムな情報が表示され、視覚的に光合成量がわかるという、使用者のための付随的機能である。
【0043】
この環境制御システムでは、図1に示すように、無線インターネット9と同じインターネットに接続されパソコン10にコントロールボックス8の受信部で受信したデータを取り込み蓄積する。それらを本発明人等、データ閲覧の許可を得たものが外部パソコン11から遠隔操作し、確認が可能なものとしている。遠隔操作により確認が出来る仕様にしている理由は、基本的には、この環境制御システムを導入した生産者が数値等を操作する必要は無いが、何か異常が発生した際に、もしくは、より適当な設定値が出てきた際に、そのデータをもとに修正・変更等を可能とするためである。
【0044】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、具体的構成は、この実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計の変更などがあっても発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明による環境制御システムは、果菜類や花きなど施設内で栽培される植物体に適しており、新設に限らず、既存の栽培施設等に代えて利用できる。
【符号の説明】
【0046】
1 栽培施設
2 ミスト発生装置
3 高輝度LED
4 CO2発生装置
5 湿度センサー
6 照度センサー
7 CO2センサー
8 コントロールボックス
9 無線インターネット
10 パソコン
11 外部パソコン
20 栽培植物
21 栽培トレイ
22 栽培畝
23 CO2発生装置のチューブ
3a AC/DC変換器
3b 電源コンセント
3c LED素子
3d LED素子

図1
図2
図3