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特開2024-101905異種非鉄金属接合材の試験方法、および、異種非鉄金属接合材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101905
(43)【公開日】2024-07-30
(54)【発明の名称】異種非鉄金属接合材の試験方法、および、異種非鉄金属接合材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/00 20060101AFI20240723BHJP
   G01N 3/24 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
G01N3/00 Q
G01N3/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023006114
(22)【出願日】2023-01-18
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】伊東 正登
【テーマコード(参考)】
2G061
【Fターム(参考)】
2G061AA11
2G061AB03
2G061BA04
2G061CB18
2G061DA01
2G061EA03
(57)【要約】
【課題】異種非鉄金属接合材からの試験材の切り出し後、せん断試験を行って接合強度を評価することができる異種非鉄金属接合材の試験方法を提供する。
【解決手段】平板状の試験材であり、厚さをh、長辺方向または長軸方向の長さをL、前記長さL以下となる短辺方向または短軸方向の長さをLとした時に、0.13≦h/L≦0.64である試験材を用い、該試験材の形状を有し、成分が同一ではない非鉄金属製の試験材を複数重ねた状態で加熱し、厚さ方向に圧縮力を付与して前記複数の試験材を接合した異種非鉄金属接合材を形成し、得られた異種非鉄金属接合材の接合面に対し、せん断力を付与して接合強度を評価することを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状の試験材であり、厚さをh、長辺方向または長軸方向の長さをL、前記長さL以下となる短辺方向または短軸方向の長さをLとした時に、0.13≦h/L≦0.64である試験材を用い、該試験材の形状を有し、成分が異なる非鉄金属製の試験材を複数重ねた状態で所望の温度に加熱し、厚さ方向に圧縮力を付与して前記複数の試験材を接合した異種非鉄金属接合材(アルミニウム同士の接合材を除く)を形成し、得られた異種非鉄金属接合材の接合面に対し、せん断力を付与して接合強度を評価することを特徴とする異種非鉄金属接合材の試験方法。
【請求項2】
前記平板状の試験材が平面視矩形状であり、前記試験材の前記長辺方向の変形を拘束しながら前記圧縮力を付与する金型により前記圧縮力を付与することを特徴とする請求項1に記載の異種非鉄金属接合材の試験方法。
【請求項3】
前記試験材の短辺方向または短軸方向に平行、かつ、前記試験材の厚さ方向に延在する複数の切断面であるか、前記試験材の長辺方向または長軸方向に平行、かつ、前記試験材の厚さ方向に延在する複数の切断面のいずれかの切断面に沿って前記異種非鉄金属接合材の中央部を含むように前記異種非鉄金属接合材から中間試験材を切り出し、次いで前記中間試験材の中央部を含み、前記中間試験材の厚さ方向に延在する複数の切断面に沿って前記中間試験材から接合強度評価の実施試験材を切り出すことを特徴とする請求項1に記載の異種非鉄金属接合材の試験方法。
【請求項4】
前記試験材において接合以前の接合するべき面の表面粗さRaを0.01μm以上30μm以下とすることを特徴とする請求項1に記載の異種非鉄金属接合材の試験方法。
【請求項5】
前記試験材の厚さ方向に前記圧縮力を付加して前記異種非鉄金属接合材を形成する場合の圧下率を0.5%以上20.0%以下とすることを特徴とする請求項1に記載の異種非鉄金属接合材の試験方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の異種非鉄金属接合材の試験方法による試験を、複数の前記試験材の成分、圧下率、加熱温度から選択される少なくとも1種以上のパラメータを変更して実施し、前記パラメータの変更に伴う接合強度の試験結果に及ぼす影響を見極め、良好な接合強度が得られた前記パラメータの条件に基づき、異種非鉄金属接合材を製造することを特徴とする異種非鉄金属接合材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成分が異なる非鉄金属製の試験材を複数積層した異種非鉄金属接合材の試験方法、および、異種非鉄金属接合材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属同士の接合方法の一つとして、熱間塑性加工による圧着接合法が知られている。特に熱間圧延は生産性が高く、異種アルミニウム板同士などの接合が工業的に広く行われている。
熱間塑性加工による金属同士の接合では、強度差(変形抵抗差)があるほど製造難易度が高い。より具体的には、熱間圧延では一端接合したと思われても、圧延を続行し、接合界面に接合強度以上の応力が作用すると剥離を生じ、生産性を損なうことがあり、最悪の場合は接合が上手くいかないとズレにより所望形状への製造が出来なくなる可能性がある。
このため熱間塑性加工によって、どの程度の接合強度になるかを把握することは重要な技術テーマであると考えられる。
【0003】
従来、例えば、以下の特許文献1において、板厚が初期の60%以上である場合に圧下率を1.0%以上5%以下に指定し、剥離を避けつつ圧下する技術が開示されている。また、特許文献1の記載では、その後の板厚が初期の30%以上60%未満である間は圧下率を5%以上15%以下として圧延する技術が開示されている。
以下の特許文献2には、アルミニウムクラッド材を製造するためのパススケジュールに関し、剥離を生じない臨界せん断応力を圧延実績データに基づいて求め、この臨界せん断応力を界面での累積ひずみを用いて定量化しておき、圧延パス毎に界面に作用するせん断応力を数値解析により求め、そのせん断応力が臨界せん断応力を超えないように設計する技術が開示されている。
【0004】
以下の非特許文献1には、図10に示すようにCuの第1円柱体100とAlの円板体101とCuの第2円柱体102を積み重ねて加圧し、接合材を得た後、第1円柱体100と第2円柱体102をそれらの中心軸に沿って離間する方向に引張試験を実施し、引張強さを測定する試験方法について記載されている。
以下の非特許文献2には、熱間圧縮接合における界面すべり量が接合強度に及ぼす影響の研究として、図11(A)に示すように上下に配置した基台105とパンチ106の間に、心材と皮材を模擬した円柱状の試験材107、108を積み重ね、500℃に加熱しながら加圧接合する試験について記載されている。
更に、非特許文献2には、傾斜圧縮試験として、図11(B)に示すように基台105とパンチ106の間に、下窄まり状の傾斜面109を有する円柱状の上部試験材110と、前記傾斜面109を受ける傾斜凹面111を有する筒状の下部試験材112を設けて行う試験方法が記載されている。この試験方法では、心材と皮材に見立てた上部試験材110と下部試験材112の接合面を斜面としているので、界面すべり量の影響を把握できると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平09-184038号公報
【特許文献2】特開2007-098444号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「塑性加工技術シリーズ 19 1.4 接合状態の評価」、コロナ社刊行、日本塑性加工学会編、1990年、P16
【非特許文献2】藤井秀平他著、「熱間圧縮接合における界面すべり量が接合強度に及ぼす影響」、第70回塑性加工連合講演会、P221~P222、2019年10月12日~13日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載されている圧下率を調整する技術は、材料構成の影響を考慮していないため、更に早めに高圧下率にするなどのパススケジュールの効率化に寄与する技術は開示されていない。
特許文献2に記載されている臨界せん断応力を求める手法では、経験の少ない材料構成の場合、パススケジュールを決定できない問題があり、また、実施例として具体的な材料への応用結果や実例が開示されていない問題がある。
【0008】
非特許文献1の記載によれば、圧縮率50~70%の冷間圧接後に300℃以下で焼き鈍しを行うと記載されているが、例えば、2~20%程度の圧下率に制御することは容易ではなく、Alの円板体101は2mm以下の厚みとなるので、適切なせん断試験も容易ではないと考えられる。
非特許文献2に記載の技術によれば、図面11(A)では圧力を受けた円柱状の下部試験材107が樽型に変形し、接合するべき界面に大きな変形を付与するのは容易ではないと考えられる。このため、大きな界面変形量に対応した接合強度の評価は容易ではないと想定される。また、図面11(B)でも界面の変形量を大きくすることは容易ではないと想定される。また、図面11(B)の圧縮後の試験材はそのまま上下方向に引っ張るしか評価方法がないと考えられる。
【0009】
一方で、従来から、実スケールや中規模スケールで熱間加工の試作試験を実施することで(実際に熱間圧延を実施することで)試料を採取し、各試料の接合強度を評価することが可能である。
ところが、実スケールや中規模スケールにおける評価方法は、例えば、条件変量が容易ではないため、試作試験として極めてコスト高となる問題がある。従って、接合強度を評価する方法は、圧縮試験機や引張試験機などを用いた小型試験での評価方法であることが望ましい。
【0010】
しかし、従来の小型試験方法では強度差(変形抵抗差)のある異種金属同士の接合性を評価することは困難であった。
なぜなら、塑性加工は各材料の変形が伴うので、大きな形状の変化がない溶接やろう付けにおける接合性の評価とは違った難しさがあるためである。たとえば、強度が低い金属の変形が卓越し、強度が高い金属はあまり変形しないことがあり、極端な場合、強度が低い金属だけが変形する場合がある。また、塑性変形によって、それぞれの金属の形状が変化するので、そのまま引っ張るなどの強度評価を実施しても、試験材形状が揃わず、試験方法として平等な評価ができない問題があった。
【0011】
本願発明は、上述の背景に鑑みなされたもので、圧縮試験機や引張試験機などを用いた小型試験が出来る試験方法であり、異種非鉄金属接合材からの試験材の切り出し後、せん断試験を行って接合強度を評価することができる技術の提供を目的とする。
また、本願発明は、上述のせん断試験において異種非鉄金属接合材を構成する材料の種類と加圧条件と加熱温度を変更して求めた接合強度測定結果を用いて異種非鉄金属接合材を製造する方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明の態様1の異種非鉄金属接合材の試験方法は、平板状の試験材であり、厚さをh、長辺方向または長軸方向の長さをL、前記長さL以下となる短辺方向または短軸方向の長さをLとした時に、0.13≦h/L≦0.64である試験材を用い、該試験材の形状を有し、成分が異なる非鉄金属製の試験材を複数重ねた状態で所望の温度に加熱し、厚さ方向に圧縮力を付与して前記複数の試験材を接合した異種非鉄金属接合材(アルミニウム同士の接合材を除く)を形成し、得られた異種非鉄金属接合材の接合面に対し、せん断力を付与して接合強度を評価することを特徴としている。
【0013】
本発明の態様2の異種非鉄金属接合材の試験方法は、本発明の態様1の異種非鉄金属接合材の試験方法において、前記平板状の試験材が平面視矩形状であり、前記試験材の前記長辺方向の変形を拘束しながら前記圧縮力を付与する金型により前記圧縮力を付与することを特徴としている。
【0014】
本発明の態様3の異種非鉄金属接合材の試験方法は、本発明の態様1または態様2の異種非鉄金属接合材の試験方法において、前記試験材の短辺方向または短軸方向に平行、かつ、前記試験材の厚さ方向に延在する複数の切断面であるか、前記試験材の長辺方向または長軸方向に平行、かつ、前記試験材の厚さ方向に延在する複数の切断面のいずれかの切断面に沿って前記異種非鉄金属接合材の中央部を含むように前記異種非鉄金属接合材から中間試験材を切り出し、次いで前記中間試験材の中央部を含み、前記中間試験材の厚さ方向に延在する複数の切断面に沿って前記中間試験材から接合強度評価の実施試験材を切り出すことを特徴としている。
【0015】
本発明の態様4の異種非鉄金属接合材の試験方法は、本発明の態様1から態様3のいずれかひとつの異種非鉄金属接合材の試験方法において、前記試験材において接合以前の接合するべき面の表面粗さRaを0.01μm以上30μm以下とすることを特徴としている。
【0016】
本発明の態様5の異種非鉄金属接合材の試験方法は、本発明の態様1から態様4のいずれかひとつの異種非鉄金属接合材の試験方法において、前記試験材の厚さ方向に前記圧縮力を付加して前記異種非鉄金属接合材を形成する場合の圧下率を0.5%以上20.0%以下とすることを特徴している。
【0017】
本発明の態様6の異種非鉄金属接合材の製造方法は、本発明の態様1から態様5のいずれかひとつの異種非鉄金属接合材の試験方法による試験を、複数の前記試験材の成分、圧下率、前記加熱温度から選択される少なくとも1種以上のパラメータを変更して実施し、前記パラメータの変更に伴う接合強度の試験結果に及ぼす影響を見極め、良好な接合強度が得られた前記パラメータの条件に基づき、異種非鉄金属接合材を製造することを特徴としている。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る異種非鉄金属接合材の試験方法によれば、試験材の形状を0.13≦h/LS≦0.64と規定したので、組成が異なり、よって強度が異なる異種金属の組み合わせからなる異種非鉄金属接合材であっても、短辺長さと厚さの比率範囲を規定した試験材を用い、この試験材にせん断力を付与することで異種金属同士の界面の接合強度を試験により確実に測定できる。
本発明に係る異種非鉄金属接合材の試験方法は、圧縮試験機や引張試験機などを用いた小型試験ができる評価方法であり、実施することが容易であり、かつ、いずれの異種金属の組み合わせの接合材であっても適用できる利点を有する。
このため、異種非鉄金属接合材において界面剥離を引き起こす接合強度を予め把握できるので、2層構造あるいは3層構造などのようなクラッド材を製造する場合、パススケジュールに応じた適切な圧縮率を選択し、クラッド材の製造方法に活用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明に係る実施形態の模擬試験装置を示す構成図。
図2】同板状試験材を示す斜視図である。
図3】比較例の試験材を示すもので、(A)は接合前の板状試験材を重ねた状態を示す正面図、(B)は接合後の試験材を示す正面図である。
図4】JISに規定されている種々の接着強さの評価方法について示すもので、(A)は、JIS K 6849に規定されている引張試験の試験材を示す説明図、(B)はJIS K 6850に規定されている引張せん断試験の試験材を示す説明図、(C)はJIS K 6852に規定されている圧縮せん断試験の試験材を示す説明図、(D)はJIS K 6853に規定されている割裂試験の試験材を示す説明図、(E)はJIS K 6854に規定されている180°剥離試験の試験材を示す説明図、(F)はJIS K 6854に規定されているT型剥離試験の試験材を示す説明図、(G)はJIS K 6855に規定されている衝撃試験の試験材を示す説明図、(H)はJIS K 6856に規定されている曲げ試験の試験材を示す説明図である。
図5】本発明に用いて好適な板状試験材をJIS規定の引張せん断試験あるいはJIS規定の圧縮せん断試験に適用する場合の問題点について示す説明図である。
図6】異種非鉄金属接合材から実施試験材を切り出す工程について示すもので、(A)は異種アルミニウム接合材の切断位置を示す斜視図、(B)は異種アルミニウム接合材から切り出した中間試験材を示す斜視図、(C)は中間試験材から切り出した実施試験材を示す斜視図である。
図7】本発明に係る試験方法を用いて図6(C)に示した実施試験材に対し、せん断応力を付加する試験を行う場合の説明図である。
図8】従来の試験機を用いて図6(C)に示した実施試験材に対し、せん断応力を付加する試験を行う場合を示す図であり、(A)は試験機の説明図、(B)は実施試験材に作用する曲げモーメントを示す図である。
図9】本発明に係る試験方法に適用する板状試験材とその作製に用いて好適な熱間圧縮装置を示す説明図であり、(A)は熱間圧縮装置の要部を示す斜視図、(B)は異種非鉄金属接合材の切断位置を示す斜視図、(C)は異種非鉄金属接合材から切り出した中間試験材を示す斜視図、(D)は中間試験材から切り出した実施試験材を示す斜視図である。
図10】非特許文献1に記載されている圧縮方法に用いる試料を示す説明図である。
図11】非特許文献2に記載されている圧縮方法について示すもので、(A)は第1の例を示す側面図、(B)は第2の例を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面に基づき、本発明の一実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合がある。
【0021】
本発明者は、組成の異なる非鉄金属からなる2枚の金属板を用意し、これら2枚の金属板を重ね合わせて金型にセットし、500℃で加圧接合し、2層構造の異種非鉄金属接合材(アルミニウム同士の接合材を除く)を作製する初期検討試験を行った。そして、得られた異種非鉄金属接合材から棒状の試験材を切り出してみたところ、切出時に異種非鉄金属接合材の接合界面に負荷がかかり、界面で剥離を生じ、接合強度の評価を実施することができなかった。
この初期検討試験の結果に鑑み、本発明者が検討し、試験に用いる異種非鉄金属接合材について、その高さや幅、長さの比が重要ではないかと推定した。
【0022】
図1(A)は、後に詳細に説明する実施例や比較例の結果を基に、望ましい形状の異種非鉄金属接合材を得る場合に有効な2枚の板状試験材1、2を重ねた状態を示し、図1(B)は圧縮接合後の2層構造の異種非鉄金属接合材3のモデル構造を示す。本実施形態の以下の説明では、板状試験材1の強度が板状試験材2の強度よりも高いと仮定する。
図1(A)の板状試験材1、2を圧縮してそれらの厚さ方向に圧縮力を付与し、図1(B)に示す第1層1Aと第2層2Aからなる異種非鉄金属接合材3を得ることができる。この異種非鉄金属接合材3において、強度の低い板状試験材2から生成した第2層2Aの方が変形の度合いが大きく、第1層1Aより第2層2Aの方が大きな変形量となる。また、図1(B)に符号4で示す部分が第1層1Aと第2層2Aの界面で密着した接合部を示す。この接合部4は、第1層1Aと第2層2Aの幅方向両端部を除いた領域に生成されている。
【0023】
図2は、接合前の板状試験材1の斜視図を示すが、この板状試験材1は平面視長方形状であり、長辺長さL、短辺長さL、高さ(厚さ)hを有すると仮定し、h<L<Lの関係を有する。
また、後述する実施例と比較例の対比結果から、板状試験材1、2において0.13≦h/Ls≦0.64の関係を有することが望ましい。
【0024】
これらに対し、図3は、接合後に界面で剥離を生じ易い板状試験材の一例を示すもので、図3(A)に示すように板状試験材5と板状試験材6を積み重ねた構造を有するが、h>Lsの関係を有する組み合わせの板状試験材5、6である。ここでも、板状試験材5の強度は板状試験材6の強度より高いと仮定する。
【0025】
図3(B)に示すように圧縮力により接合すると、第1層5A、第2層6Aを積層した2層構造となるが、第1層5Aと第2層6Aの界面では、界面両端部分に幅の狭い接合部7、7のみが生成する。図3(B)に示す接合構造では部分的にしか接合していないため、試験材の切り出し加工を行うと接合界面で容易に剥離する。板状試験材5、6に強度差があると強度が低い方(板状試験材6の片側に)変形が集中する傾向があるため、このような幅の狭い接合部7、7が生成すると予想できる。
【0026】
一方で、図1図2に示すように0.13≦h/Ls≦0.64の関係を有する板状試験材1、2では、上下の試験材とも均一に変形し、界面全体が接合される。より詳しくは、高強度材の方が低強度材よりも変形は小さい傾向となるが、h/Lを小さくすることで、変形量の偏りが小さくなり、概ね均一とみなせるように変形する。この場合、界面は広く概ね全体的に接合するため、切り出し加工などの試験材加工が問題なく可能となる。
相対的に高さhの比が小さくなることで、試験材全体に圧力がかかりやすくなり、安定した接合試験に供することができるとも言える。
【0027】
矩形状断面あるいは円形断面の試験材において、h/Lが0.13未満の場合、界面は均一に接合すると考えられるが、Ls=30mmであっても、hが3.8mm未満と小さくなるため、接合強度の試験材として後述する試験装置への固定に必要な長さの確保が困難になる。試験材を比例的に大きく形成し、Lを大きくすることでhの絶対値を大きくすることもできるが、高温圧縮試験機に求められる荷重容量と加熱必要出力が大きくなり、コスト高となる。これに対し、0.13≦h/L≦0.64の範囲内では上述したような、無理なく接合試験ができる。更に無理なく良好に接合試験が可能な範囲として、矩形断面形状の場合、0.2≦h/L≦0.64の範囲を選択できる。
h/Lが0.13未満の場合、評価する熱間圧縮の圧下率を小さく制限する必要がある。試験材の形状を比例的に変更することを本実施形態では制限しないが、試験を実施する毎に取り扱う試験材の大きさと、試験材に対応した試験機の容量、規模がバランスの取れたものとなるので、h/Lが0.13未満の場合は不必要に試験機がコスト高になると考える。
【0028】
以上説明した考えに基づき、試験材1、2の形状について検討すると、板状試験材1、2の長辺方向は短辺方向よりもh/Lが小さくなるので、短辺方向のh/Lは注目するべきパラメータになると考えられる。
【0029】
次に本発明者は、接合強度を求める試験を実施する場合、評価条件も重要であると考えた。図4はJISに規定されている種々の接着強さの評価方法である。
図4(A)は、JIS K 6849に規定されている引張試験の試験材と引張力の印加方向を示し、図4(B)はJIS K 6850に規定されている引張せん断試験の試験材と引張力の印加方向を示す。
図4(C)はJIS K 6852に規定されている圧縮せん断試験の試験材と力の印加方向を示し、図4(D)はJIS K 6853に規定されている割裂試験の試験材と力の印加方向を示す。
図4(E)はJIS K 6854に規定されている180°剥離試験の試験材と試験材の引張方向を示し、図4(F)はJIS K 6854に規定されているT型剥離試験の試験材と力を加える方向を示す。
図4(G)はJIS K 6855に規定されている衝撃試験の試験材と衝撃力の印加方向を示し、図4(H)はJIS K 6856に規定されている曲げ試験の試験材と力を印加する方向を示す。
【0030】
これら種々の評価条件に鑑み、本発明者は、熱間塑性加工で接合し、試験の途中で接合面が剥がれないように接合強度を知りたい場合、界面に垂直方向の引張よりは、界面に沿う方向のせん断の方が重要であると考えた。
更に、本発明者は、以下に説明する試験材加工を行うことが有効であると考えた。ただし、以下に説明する試験材の加工方法は、本発明を実施する場合の一例であって、本発明を実施する場合に以下の加工方法に制約されるものではない。
【0031】
図5(A)に示す第1層1Aと第2層2Aを有する異種非鉄金属接合材3の場合、図5(B)に示すようにJIS K 6850に従う引張せん断試験を行うには、第1層1A、第2層2Aを更に図5(B)に示す形状に加工する必要がある。
また、図5(C)に示すようにJIS K 6852に従う圧縮せん断試験を実施する場合も第1層1A、第2層2Aを更に加工する必要があり、加工途中で剥離が生じ易い問題があり、現実的ではない。
溶接のような接合前後で変形しないような接合方法であれば、初めから強度試験を想定して接合体を作ることができるが、異種非鉄金属接合材3の場合は手間のかかる加工方法となる。また、以下に説明する図面に示す通りに精度よく加工しないと、接合界面に適切にせん断力を付与できないと考えられる。
【0032】
本実施形態では、図6(A)、(B)、(C)に示す順に加工を実施し、異種非鉄金属接合材3から中間試験材10を切り出し、この中間試験材10から切り出して接合強度評価の実施試験材11を得る方法を採用する。この実施試験材11を用い、後述する図7に示す試験装置30により接合強度を測定し、測定した接合強度を評価することができる。
【0033】
図6(A)に示す異種非鉄金属接合材3に対し、鎖線L1、L2で示すそれぞれの位置に異種非鉄金属接合材3の厚さ方向に沿って存在する切断面S1、S2に沿って、切り出し加工を実施し、図6(B)に示す中間試験材10を作製する。切断面S1、S2は、異種非鉄金属接合材3の中央部を異種非鉄金属接合材3の長さ方向両側から挟む位置にあり、鎖線L1、L2に沿うそれぞれの切断面S1、S2は、異種非鉄金属接合材3の長さ方向と直交する位置(短辺方向と平行位置)に形成される。一例として、異種非鉄金属接合材3の長さLが40mmの場合、異種非鉄金属接合材3の長さ方向一端から同長さ方向に12mm離間した位置に一方の切断面S1が策定され、異種非鉄金属接合材3の長さ方向他端から同長さ方向に12mm離間した位置に他方の切断面S2が策定される。よって、異種非鉄金属接合材3の長さ方向に沿う中間試験材10の長さは、16mmとなる。なお、実際には異種非鉄金属接合材3の切り取り幅が若干あるので、中間試験材10の長さは14~18mm程度となる。
【0034】
次に、中間試験材10において、短辺方向中央部分の幅2.0~2.5mmの領域を挟むように短辺方向両側に離間した鎖線L3、L4を描き、これらの鎖線L3、L4に沿って中間試験材10の厚さ方向に存在する切断面S3、S4に沿って中間試験材10から切り出し加工を行うと、図6(C)に示すロッド状の実施試験材11を得ることができる。
以上のように実施試験材11を切り出すと、図1(B)に示したように第1層1Aと第2層2Aの幅方向両端部において接合部4が未形成となる場合と同じように、異種非鉄金属接合材3の幅方向両端部(短辺方向両端部)に未接合部が存在していたとして、未接合部を除いて実施試験材11を切り出したこととなる。
【0035】
図6(A)~(C)に示す異種非鉄金属接合材3と中間試験材10に対する切り出し加工の場合、図5(A)→(B)に示す加工あるいは図5(A)→図5(C)に示す加工の場合と異なり、第1層1A、第2層2Aに対する負荷を小さくできるので、第1層1Aと第2層2Aの接合面に作用する負荷を小さくできる。従って、異種非鉄金属接合材3から加工して実施試験材11を得る場合、接合界面における剥離を防止できる。
なお、切り出し加工に関し、図6に示す手順が望ましいが、上述と同様の配慮を行いつつ、図6(A)に示す接合材3の長さ方向に平行に中間試験材を切り出し、その後、実施試験材11を切り出すという手順を採用しても良い。
実施試験材11は、第1層1Aから切り出された棒状の第1接合片15に対し、第2層2Aから切り出された棒状の第2接合片16が接合されたもので、第1接合片15の一面と第2接合片16の一面が突き合わされた状態で接合一体化されている。第1接合片15の一面と第2接合片16の一面を合わせた面が接合面17とされている。
【0036】
ここで、実施試験材11は、第1接合片15の一面と第2接合片16の一面が接合面17を介し接合され、第1接合片15の端面15aと第2接合片16の端面16aは図6(C)に示すように面一に揃えられている。以下、端面15aと端面16aを面一に揃えて構成した長方形状の面において、長辺側を実施試験材11の幅Wと称し、短辺側を実施試験材11の厚さtと称する。
実施試験材11を得たならば、実施試験材11に対し図7に示す試験装置を用いてせん断試験を実施する。
【0037】
図7は本実施形態に係る試験方法を実施する場合に用いる試験装置30を示す。この試験装置30は、下側挟持治具31と上側挟持治具32を有し、下側挟持治具31と上側挟持治具32は、図示略の支持機構により上下方向に接近離間自在に支持されている。この試験装置30に対し実施試験材11を図7に示すように取り付けることで後述する接合強度測定試験を実施することができる。
下側挟持治具31と上側挟持治具32の間にこれらに挟持された状態で実施試験材11の厚さtと同じ厚さを有する支持板33を設置する。また、下側挟持治具31と上側挟持治具32の間にこれらに挟持された状態で支持板33に隣接するように実施試験材11の第1接合片15を設置する。
実施試験材11については、第1接合片15の大部分を下側挟持治具31と上側挟持治具32で挟持するが、第1接合片15における接合面17側の一部を下側挟持治具31の側面31aと上側挟持治具32の側面32aから若干外側に突出させた状態となるように挟持する。
【0038】
試験装置30において、下側挟持治具31の側面31aと上側挟持治具32の側面32aの外側には下部挟持治具35と上部挟持治具36が設けられ、下部挟持治具35と上部挟持治具36は図示略の支持機構により上下方向に移動自在かつ互いに接近離間自在に設けられている。
下側挟持治具31の側面31aと上側挟持治具32の側面32aから外側に突出した第2接合片16の大部分を、下部挟持治具35と上部挟持治具36により上下から把持する。また、下部挟持治具35と上部挟持治具36の間に実施試験材11の厚さtと同等の厚さを有する支持板34を第2接合片16とともに挟持する。
【0039】
下側挟持治具31の側面31aと下部挟持治具35の間に若干のクリアランス(隙間)が設けられる。この隙間を埋めるように、下側挟持治具31の側面31aに下側潤滑テープ37を貼り付け、下部挟持治具35の側面に下部潤滑テープ38を貼り付ける。
上側挟持治具32の側面32aと下部挟持治具36の間に若干のクリアランス(隙間)が設けられる。この隙間を埋めるように、上側挟持治具32の側面32aに上側潤滑テープ39を貼り付け、上部挟持治具36の側面に上部潤滑テープ40を貼り付ける。
試験装置30において上述のクリアランスは、例えば、0.8mm程度に設定できる。
このクリアランスを埋めるために、実施試験材1の下方に下側潤滑テープ37と下部潤滑テープ38を設けるので、これら潤滑テープの厚さを0.4mm程度とする。また、実施試験材11の上方に上側潤滑テープ39と上部潤滑テープ40を設けるので、これら潤滑テープの厚さも0.4mm程度とする。
【0040】
図7に示す状態となるように実施試験材11をセットしたならば、上部挟持治具36と下部挟持治具37を下降させ、これらにより挟持した第2接合片16に対し、下向きの押圧力を作用させる。この押圧力の印加により実施試験材11のせん断試験を実施できる。
第2接合片16に対する押圧力を順次増加させ、実施試験材11において第1接合片15と第2接合片16が接合面17を介し分離した時点の押圧力を接合強度と把握することができる。接合強度は、詳細に言えば、せん断力付与時の最大荷重を界面断面積で除することで求めることができる。
なお、下部挟持治具35と上部挟持治具36は図示略の油圧装置などに接続され、上下移動される。実施試験材11に対する押圧力の増加に伴い、何れかの時点で接合面17がせん断破壊されるので、せん断破壊した際の荷重を図示略の油圧装置などに備えられたロードセルで把握できる。加重を試験材11の界面断面積で除することで上述の接合強度を求めることができる。
【0041】
試験装置30においては、第1接合片15と第2接合片16に作用させる曲げモーメントを極力少なくした状態でせん断試験を実施できる。また、下側挟持治具31と下部挟持治具35の間のクリアランスと、上側挟持治具32と上部挟持治具36の間のクリアランスを潤滑テープ37、38、39、40で塞ぎつつ上部挟持治具36と下部挟持治具37を下降させてせん断試験を実施する。このため、上述のクリアランスの影響で生じる曲げモーメントを極力少なくし、第1接合片15と第2接合片16の接合面17に曲げモーメントを除き、せん断力のみを作用させて接合強度を測定できる。
また、下側挟持治具31と上側挟持治具32の間に支持板33を挟み、下部挟持治具35と上部挟持治具36の間に支持板34を挟むことにより、実施試験材11を安定支持しながらせん断力を付加することができる。
【0042】
図8(A)は図7に示す試験装置30において、下部支持治具35と支持板34を省略し、上部挟持治具36に代わりに押下治具41を設け、押下治具41により第2接合片16の上面を下方に押圧し、せん断試験を行う試験装置43を示す。
図8(A)に示す試験装置43では、図8(B)に拡大して示すように、第1接合片15と第2接合片16の両方に曲げモーメントmf、mfが作用する。
図8(B)に示す曲げモーメントmf、mfが作用すると、第1接合片15と第2接合片16の接合部17の上部側に引張力が作用し、第1接合片15と第2接合片16を引き離す方向に引張力が作用する。また、第1接合片15と第2接合片16の接合部17の下部側に圧縮力が作用し、第1接合片15と第2接合片16を接近させる方向に圧力が作用する。接合部17の上部側に引張力が作用すると、ここではせん断応力+引張力が作用する条件となり、基礎的な試験として安定した結果が得られないおそれがある。
この点、図7に示す試験装置30であれば、曲げモーメントの影響を極力除いた、せん断のみによる接合強度を測定することが可能となり、より正確な測定が可能となる。
【0043】
図9(A)は、本実施形態の接合強度を求める試験に用いて好適な異種非鉄金属接合材3を作製するために用いる熱間圧縮装置50を示す。
熱間圧縮装置50は、角型ブロック状の下型51とパンチ52を備え、下型51の上面には図1に示した板状試験材1、2を受けるためのチャンネル溝53が形成されている。
チャンネル溝53の溝幅MWは、一例として、板状試験材1の長辺長さLと同一に形成されている。また、チャンネル溝53の溝幅に直交する方向の長さは、前述の長辺長さLよりも大きく形成されている。一例として図9(A)に示す下型51では、チャンネル溝53の長さ方向一端部53aが下型51の一方の端部に到達して開放され、チャンネル溝53の長さ方向他端部53bが下型51の他方の端部に到達して開放されている。チャンネル溝53は、例えば、板状試験材1、2を重ねた総厚の数倍程度の深さに形成されている。
【0044】
パンチ52は、下型51のチャンネル溝53に嵌合可能な凸部54を有する。凸部54の高さはチャンネル溝53の深さと同等である。下型51とパンチ52は、図示略の油圧装置などの移動機構により相対移動自在に設けられている。例えば、下型51が固定型であり、下型51に対しパンチ52が上下に移動自在に支持されている。また、下型51とパンチ52には、図示略の加熱装置(ヒータ)が組み込まれていて、下型51とパンチ52を所望の温度(例えば200℃~800℃など)に加熱できるように構成されている。
板状試験材1、2を熱間圧縮装置50にセットして接合するには、下型51のチャンネル溝53に図9(A)に示す向きとした板状試験材1、2を収容する。板状試験材1、2の長辺長さLとチャンネル溝53の溝幅は等しいので、板状試験材1、2の短辺側の端部をチャンネル溝53の両隅部に隙間無く挿入し、板状試験材1、2をチャンネル溝53の底部中央に収容する。
この後、パンチ52を所定の速度で下降させて凸部54をチャンネル溝53内に挿入し、凸部54の下面で板状試験材1、2を押圧し、それらの厚さ方向に圧縮力を付加することで、板状試験材1、2を接合し、異種非鉄金属接合材3を得ることができる。
【0045】
板状試験材1、2を熱間圧縮により接合すると、図9(B)に示す異種非鉄金属接合材3が得られるので、この異種非鉄金属接合材3の鎖線L1、L2に沿う切断面S1、S2に沿って切り出し、図9(C)に示す中間試験材10を得、この中間試験材10の鎖線L3、L4に沿う切断面S3、S4に沿って切り出すと、図9(D)に示す実施試験材11を得ることができる。
図9(A)に示す熱間圧縮装置50は、板状試験材1、2の長さ方向両端をチャンネル溝53の溝壁内面で拘束し、板状試験材1、2の長さ方向への伸びを抑止した状態で板状試験材1、2に圧縮力を付加する。このため、例えば、図1(B)に例示したように、強度の低い板状試験材2がその幅方向両側に若干膨らむように変形し、板状試験材1の変形量が少なく、板状試験材2の変形量が多い状態の異種非鉄金属接合材3が得られる。
【0046】
また、中間試験材10から複数の実施試験材11を切り出すこともできる。この場合、鎖線L3、L4に加えてこれらに対し等間隔で描く、鎖線L5、L6を策定し、これらの鎖線L5、L6に沿って中間試験材10の厚さ方向に延在する切断面に沿って切り出すことにより、例えば、3本の実施試験材11を得ることができる。
【0047】
「異種非鉄金属接合材の製造方法」
先に、異種非鉄金属接合材3から切り出した実施試験材11に対し、図7に示す試験装置30を用いて接合強度を測定する試験を実施できることについて説明した。
本実施形態では、異種非鉄金属接合材3を作製する場合、板状試験材1、2の材料を適宜変更し、板状試験材1、2に圧縮力を付加する場合の圧縮力の大小と、加熱温度を調整することで、材料の種別と、圧縮力の大小と、加熱温度に応じた複数の異種非鉄金属接合材を作成することができる。そして、複数の異種非鉄金属接合材から実施試験材を切り出して上述の接合強度を測定するならば、材料の種別と、圧縮力の大小と、加熱温度に応じ、如何なる接合力が得られるか、把握することができる。
換言すると、材料の種別に応じ、どの程度の温度で、どの程度の圧縮力を付加すると、クラッド材としてどの程度の層間接合力を得ることができるかを把握できる。
【0048】
従って、2層積層構造のクラッド材を製造する場合、材料の種別を選択し、クラッドする場合の温度と圧縮力をどの程度に設定すると、どの程度の接合強度を有する2層クラッド材を製造できるのか、上述の試験により予め把握することができる。
そして、この把握結果に基づき、材料を選択し、目的の温度と圧縮力を印加して圧延によりクラッド材を製造すると、目的の接合性のクラッド材を得ることができる。
【0049】
なお、上述の例では、2層構造の異種非鉄金属接合材3を例に説明したが、3層構造あるいは4層構造などの多層構造のクラッド材を製造する場合にも、同様に接合強度の試験を実施し、試験結果の把握に基づいて、クラッド材を製造すると、目的の層間接合性を有する多層構造のクラッド材を製造できる。
それらの場合、図1(A)に示す2枚重ね構造に代えて、3枚重ね構造、あるいは、4枚重ね構造として、3層構造あるいは4層構造の異種非鉄金属接合材を作製し、これらから実施試験材を切り出して図7に示す試験装置30で評価し、評価結果に基づいて3層構造のクラッド材、4層構造のクラッド材を製造することができる。
3層構造あるいは4層構造とする場合においても、先に説明した、0.13≦h/L≦0.64の関係を満足することが好ましい。
【0050】
なお、上述の例では、図9(A)に示す熱間圧縮装置50を用いて異種非鉄金属接合材3を作製する場合について説明したが、異種非鉄金属接合材3を作製する装置は熱間圧縮装置50に限らず、板状試験材1、2の厚さ方向に圧縮力を付加できる装置であればいずれの装置を用いても差し支えない。
更に、異種非鉄金属接合材3から実施試験材11を切り出す方法と切り出し位置について、図6図9(A)を基に説明した切り出し方法には限らない。図6図9(A)に示す例では、異種非鉄金属接合材3の中央部から実施試験材11を切り出す場合について説明したが、中央部を除く位置から実施試験材11を切り出しても良い。
【0051】
また、上述したように板状試験材1、2に適用する金属材料は、異なる組成の非鉄金属(アルミニウム同士を除く)であれば、これらの組み合わせには限定されない。
また、異種非鉄金属接合材3は2層構造に限らず、3層構造あるいは4層構造を採用することもできる。例えば、熱交換器などの分野で多用されている非鉄金属板の3層構造や4層構造の積層体であっても良い。
【実施例0052】
本発明の効果を確認すべく実施した確認実験の結果について説明する。
表1に示す組み合わせとなるように、各種非鉄金属からなる板状試験材を準備し、接合試験を実施した。なお、板状試験材を構成する各金属の所定温度における変形抵抗を表2に示す。なお、表2における変形抵抗は、直径8mm高さ12mmの円柱圧縮試験で評価した。ひずみ速度0.1/secで対数ひずみ0.1における結果である。
各板状試験材の形状は、表3~5に示すh(高さ)、L(長辺長さ)、L(短辺長さ)、h/Lを有する平板形状とした。
【0053】
板状試験材の形状は、矩形で、本発明例では、表3、4に示すように、0.13≦h/L≦0.64の関係とした。実施例では、h=圧縮方向(3.8~9.0mm)、L=長辺長さ(矩形の場合40mm)、L=短辺長さ(14~30mm)の範囲であるが、0.13≦h/LS≦0.64を満たしていれば、圧縮試験機の仕様(最大荷重/均熱化可能サイズ)により比例的形状にすることもできる。また、試験材の形状は矩形に限らず、円柱や楕円状薄板や多角形薄板でもよい。
【0054】
上述の例では上側(SU側)を高強度材、下側(SL側)を低強度材としたが、逆でも構わない。接合においては、表面の平滑性が重要である。今回の試料は、圧延板から切削加工により作製し、接合試験前の表面の算術平均粗さRaは0.08μmから3.1μmの間とした。
また、各試料表面のうねりWaは0.09μmから2.9μmの間とした。粗さRaやうねりWaは、対象とする製造工程における表面粗さに合わせることが望ましいが、対象の製造工程向けに制御可能な範囲で例えば、Raを0.012μm~25μmにて粗さをあえて変量し、その効果を評価検討しても良い。なお、RaおよびWaの計測には共焦点レーザー顕微鏡を用いた。なお、計測に際し、Raを0.012μm~25μmを対象に計測できる手法であれば、共焦点レーザー顕微鏡ではなく他の手法でも良い。
【0055】
図9(A)に示すチャンネル溝53を有する下型51とそれに対向するパンチ52を備えた熱間圧縮装置50を用いた。本例では、チャンネル溝53の溝幅は40mmに設定し、矩形の場合の長辺長さLLと一致させている。
先の説明と同様、圧縮試験機の仕様(最大荷重/均熱化可能サイズ)により比例的形状にすることも出来る。また、剛性を高めるための追加的形状変更や高温試験としての均熱性を高めるための工夫を施した形状としてもよい。なお、LL方向は必ずしも拘束しなくてもよい。この場合、必ずしも図9(A)に示す熱間圧縮装置50を用いなくても、フラットなアンビル(鉄床、金敷き)で加熱圧縮してもよい。拘束により材料の塑性流動方向が変わるので、検討したい熱間接合プロセスに応じ適宜熱間圧縮装置の形状を選択することができる。
【0056】
なお、表2に示すように、(軟質材の変形抵抗÷硬質材の変形抵抗)が、0.881以上の本発明例を本実施例では提示していない。しかし、重ね合わせの2枚の塑性変形挙動は、より同質化する方向である。このため、(軟質材の変形抵抗÷硬質材の変形抵抗)が、0.881以上の場合であっても、本発明の技術思想から外れる可能性はない。
(軟質材の変形抵抗÷硬質材の変形抵抗)が0.130未満の組み合わせであっても、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内において、接合強度を測定する試験を実施することができる。
【0057】
熱間圧縮装置により得られた異種非鉄金属接合材の中央部から、厚さ方向はそのままで14~18mm×2~2.5mmの大きさの中間試験材を切出加工した(図6(A)の中央部で切断面S1、S2により挟まれた領域参照)。
より詳しくは、既述の長辺(L)方向の長さが40mm、既述の短辺(L)方向の長さが14~30mmとなるように、切出加工を実施した。
本発明の方法は界面全体を均一に接合させることができるが、図2(B)に示す接合部のイメージのように完全ではない場合(界面の幅方向両端側が一部未接続)も考えられるので、できるだけ中央部から試料を切り出すことが好ましい。
【0058】
試験の精度より試験の効率性を重視する場合、試験材を切出さずに、異種非鉄金属接合材3にそのまません断力を付与しても良い。本実施例では、切出加工した実施試験材11に対し、図7に示す試験装置30を用い、せん断力を付与して接合強度を測定した。
なお、L、Lの絶対値に応じ、同一の比率範囲内で、切り出した実施試験材の形状を比例形状とし、採用しても良い。せん断力を付与する前に、1000番以上の研磨で表面を平滑にすることが好ましい。その後、実施試験材の寸法を測定し、実施試験材の界面断面積を求めた。
【0059】
表3~表5に示す(圧縮)速度は熱間圧縮時のパンチの圧縮速度を示す。
表3~表5に示す圧下率は、圧縮前後の2枚(2枚の板状試験材の総厚と圧縮後の第1層と第2層の総厚)の厚さ合計に対して算出した。
表3~表5に示す接合面圧は、熱間圧縮時の最大荷重を初期試料断面積で除することで求めた。
表3~表5に示す接合強度は、せん断付与時の最大荷重を界面断面積で除することで求めた。
【0060】
【表1】
【0061】
【表2】
【0062】
【表3】
【0063】
【表4】
【0064】
【表5】
【0065】
表5に示す比較例1~13においては、試験材の形状がh/L>0.64のため、熱間圧縮後に試験材加工することができず、接合強度の評価不可であった。
これに対して、表3、表4に示す本発明例1~39においては、試験材の形状は、0.13≦h/LS≦0.64の式に合致する範囲であり、安定した接合状態の試験材が得られ、接合強度の評価が可能であった。
【0066】
表3、表4に示す結果から、温度、圧縮速度、圧下率、潤滑を容易に変量可能であり、体系的にデータ取得することで熱間加工条件と接合強度の関係を調査できることが分かった。
なお、表3~表5に示す潤滑とは、下型およびパンチと試料表面間の処理を意味し、潤滑なしとスプレーによるBN粉を塗装した潤滑とを行った。潤滑を行うことで接合面圧を低くし、接合面圧の影響を議論することができる。なお、潤滑する手段はBN粉による潤滑に限らず、他の潤滑手段を適用しても良い。
【0067】
材種は、表1、表2に示すように、C1~12に記載した様々な組み合わせで実施した。表3,表4の結果に示す通り、いずれの材種でも、問題なく試験を実施でき、異種非鉄金属同士の接合強度を求める接合試験を実施できた。
【0068】
「3層クラッド材の製造」
以上の試験結果を基に、心材の両面に皮材を被着した3層クラッド材の製造条件を決定できる。
例えば、一方の皮材をアルミニウム(A5052)から形成し、心材を銅(C1020)から形成し、他方の皮材をニッケル(Ni201)から形成した3層クラッド材を製造できる。一方の皮材のクラッド率を心材に対して0.1~25%、他方の皮材のクラッド率を心材に対して0.1~25%とできる。圧延温度は500℃に設定した。
【0069】
表3,表4に示す接合試験結果を基に下記の条件で3層クラッド材の製造条件を決定した。まず、心材と各皮材の接合しやすさに着目する。銅(C1020)とアルミニウム(A5052)との接合強度よりも、銅(C1020)とニッケル(Ni201)との接合強度の方が高いことが接合試験結果から確認される。このため、銅(C1020)とニッケル(Ni201)の方が比較的に接合し易く、銅(C1020)とアルミニウム(A5052)の方が比較的に接合し難いと言える。よって、今回の構成で注視すべきは銅(C1020)とアルミニウム(A5052)との接合となる。表3、表4の中から圧延に対応する条件として、L方向の拘束ありの結果を参照すればよい。
【0070】
接合試験結果を基とした圧延条件として、板厚が初期の91.9%超である間はパス毎圧下率0.9~1.4%で圧延する。パス毎圧下率0.9~1.4%とすることで、接合試験結果で確認できるようにアルミニウム(A5052)と銅(C1020)との接合が開始する。また、パス毎圧下率0.9~1.4%と適度に抑えることで、形成した接合が剥離するのを防ぐ。圧下を繰り返し、総圧下率が7.9%以上すなわち板厚が初期の91.9%以下となると、アルミニウム(A5052)と銅(C1020)との接合強度は15МPaまで高まることが見込まれる。板厚が初期の50%以上91.9%以下では、すでに十分な接合強度が得られているため、圧下率1.4%以上15%以下で圧延できる。ここで、パス毎圧下率を15%超にしてしまうと、界面に発生するせん断応力で剥離することが想定される。
【0071】
以降の板厚が初期の50%未満では接合などのクラッドとしての問題は生じ得ないので、条件指定なしで圧延の生産上の都合に従って圧延できる。
以上の結果、圧延中に界面が顕著にズレることなく、良好に圧延することが出来、目的の3層クラッド材を得ることができる。
従って、接合が難しい材料構成で、高コストな試作を複数回実施することなく、表3,表4に示す結果に基づき、層間接合性の良好な3層クラッド材を良好に製造することができる。
望ましくは数値解析等で発生するせん断応力を求め、その瞬間の接合応力と比較することにより、より効率的なパススケジュールを選択することもできる。
上記では、銅(C1020)とアルミニウム(A5052)とニッケル(Ni201)の3層クラッドの製造条件を決定したが、本発明の接合試験を実施しておけば、その他の異種非鉄金属の組み合わせ(アルミニウム同士の接合材を除く)による多層クラッドの製造条件を決定できる。
【符号の説明】
【0072】
1、2 板状試験材
1A 第1層
2A 第2層
3 異種非鉄金属接合材
4 接合部
10 中間試験材
11 実施試験材
15 第1接合片
16 第2接合片
17 接合部
30 試験装置
31 下側挟持治具
32 上側挟持治具
33 支持板
34 支持板
35 下部挟持治具
36 上部挟持治具
37、38、39、40 滑テープ
50 間圧縮装置
51 下型
52 パンチ
53 チャンネル溝
54 凸部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11