(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101906
(43)【公開日】2024-07-30
(54)【発明の名称】歯科用修復材組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 6/887 20200101AFI20240723BHJP
A61K 6/30 20200101ALI20240723BHJP
A61K 6/71 20200101ALI20240723BHJP
A61K 6/838 20200101ALI20240723BHJP
【FI】
A61K6/887
A61K6/30
A61K6/71
A61K6/838
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023006117
(22)【出願日】2023-01-18
(71)【出願人】
【識別番号】515279946
【氏名又は名称】株式会社ジーシー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】高橋 慎
(72)【発明者】
【氏名】小原 由希
(72)【発明者】
【氏名】葛西 侑毅
【テーマコード(参考)】
4C089
【Fターム(参考)】
4C089AA06
4C089BA00
4C089BD04
4C089BD10
(57)【要約】
【課題】初期接着性及び接着耐久性の何れにも優れる歯科用修復材組成物を提供する。
【解決手段】酸基を有する重合性単量体、酸基を有さない重合性単量体、及び、無機フィラー、を含有し、前記無機フィラーの含有量が60質量%以上であり、酸基を有さない非水溶性でありベンゼン環を有する重合性単量体の含有量が2.9質量%以下である、歯科用修復材組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸基を有する重合性単量体、
酸基を有さない重合性単量体、及び、
無機フィラー、を含有し、
前記無機フィラーの含有量が60質量%以上であり、
酸基を有さない非水溶性でありベンゼン環を有する重合性単量体の含有量が2.9質量%以下である、
歯科用修復材組成物。
【請求項2】
酸基を有さない水溶性の重合性単量体の含有量が1.9質量%以下である、
請求項1に記載の歯科用修復材組成物。
【請求項3】
アクリルアミド系重合性単量体の含有量が1.9質量%以下である、
請求項1に記載の歯科用修復材組成物。
【請求項4】
前記酸基を有さない重合性単量体の含有量が前記酸基を有する重合性単量体の含有量より多い、
請求項1に記載の歯科用修復材組成物。
【請求項5】
前記酸基を有さない重合性単量体は、1分子中に8以下のエチレンオキシド単位を有する(メタ)アクリレートを含む、
請求項1乃至4の何れか1項に記載の歯科用修復材組成物。
【請求項6】
前記酸基を有さない重合性単量体は、前記(メタ)アクリレート以外の重合性単量体を含み、
前記(メタ)アクリレートの含有量が前記(メタ)アクリレート以外の前記重合性単量体の含有量より多い、
請求項5に記載の歯科用修復材組成物。
【請求項7】
酸基を有する重合性単量体、
酸基を有さない重合性単量体、及び、
無機フィラーを含有する歯科用修復材組成物であって、
前記歯科用修復材組成物中の液成分の象牙質に対する接触角が32°未満であり、
前記歯科用修復材組成物の硬化体の吸水量が40μg/mm3未満である、
歯科用修復材組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用修復材組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、歯科用コンポジットレジン等の歯科用修復材組成物として、酸基を有する重合性組成物を配合した自己接着性歯科用コンポジットレジンが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の接着性歯科用修復材組成物では、初期接着性(初期の接着力)はある程度高くなるものの、接着耐久性(耐久試験後の接着力)が低いという問題がある。
【0005】
本発明の課題は、初期接着性及び接着耐久性に優れる歯科用修復材組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る歯科用修復材組成物は、酸基を有する重合性単量体、酸基を有さない重合性単量体、及び、無機フィラー、を含有し、前記無機フィラーの含有量が60質量%以上であり、酸基を有さない非水溶性でありベンゼン環を有する重合性単量体の含有量が2.9質量%以下である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、初期接着性及び接着耐久性に優れる歯科用修復材組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0009】
<歯科用修復材組成物>
本実施形態に係る歯科用修復材組成物は、酸基を有する重合性単量体、酸基を有さない重合性単量体、及び、無機フィラーを含有する。本明細書において、歯科用修復材組成物とは、う蝕等で欠損した歯の一部を修復するための歯科材料である。
【0010】
酸基を有する重合性単量体としては、特に限定されないが、例えば、酸基を有する(メタ)アクリレートである。ここで、(メタ)アクリレートとは、アクリレート及びメタクリレートから選ばれる少なくとも何れかを示す。
【0011】
また、酸基を有する(メタ)アクリレートとしては、特に限定されず、例えば、リン酸基を有する(メタ)アクリレート、ピロリン酸基を有する(メタ)アクリレート、カルボキシル基を有する(メタ)アクリレート、チオリン酸基を有する(メタ)アクリレート、スルホン酸基を有する(メタ)アクリレート、ホスホン酸基を有する(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0012】
リン酸基を有する(メタ)アクリレートとしては、例えば、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、ビス[2-(メタ)アクリロイルオキシエチル]ハイドロジェンホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンホスフェート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルフェニルハイドロジェンホスフェート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート(以下、MDPと省略する場合がある)、1,3-ジ(メタ)アクリロイルプロパン-2-ジハイドロジェンホスフェート、1,3-ジ(メタ)アクリロイルプロパン-2-フェニルハイドロジェンホスフェート、ビス[5-{2-(メタ)アクリロイルオキシエトキシカルボニル}ヘプチル]ハイドロジェンホスフェート等、及びこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩等が挙げられる。
【0013】
ピロリン酸基を有する(メタ)アクリレートとしては、ピロリン酸ビス〔2-(メタ)アクリロイルオキシエチル〕、ピロリン酸ビス〔4-(メタ)アクリロイルオキシブチル〕、ピロリン酸ビス〔6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕、ピロリン酸ビス〔8-(メタ)アクリロイルオキシオクチル〕、ピロリン酸ビス〔10-(メタ)アクリロイルオキシデシル〕等、及びこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩、及びアンモニウム塩等、が挙げられる。
【0014】
カルボキシル基を有する(メタ)アクリレートとしては、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸無水物、4-(メタ)アクリロイルオキシデシルトリメリット酸、4-(メタ)アクリロイルオキシデシルトリメリット酸無水物、11-(メタ)アクリロイルオキシ-1,1-ウンデカンジカルボン酸、1,4-ジ(メタ)アクリロイルオキシピロメリット酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルマレイン酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフタル酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸等、が挙げられる。
【0015】
チオリン酸基を有する(メタ)アクリレートとしては、例えば、チオリン酸基を有する(メタ)アクリレートとしては、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンチオホスフェート、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンチオホスフェート、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルジハイドロジェンチオホスフェート、5-(メタ)アクリロイルオキシペンチルジハイドロジェンチオホスフェート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンチオホスフェート、7-(メタ)アクリロイルオキシヘプチルジハイドロジェンチオホスフェート、8-(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンチオホスフェート、9-(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンチオホスフェート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンチオホスフェート、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジハイドロジェンチオホスフェート、12-(メタ)アクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンチオホスフェート、13-(メタ)アクリロイルオキシトリデシルジハイドロジェンチオホスフェート、14-(メタ)アクリロイルオキシテトラデシルジハイドロジェンチオホスフェート、15-(メタ)アクリロイルオキシペンタデシルジハイドロジェンチオホスフェート、16-(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルジハイドロジェンチオホスフェート、17-(メタ)アクリロイルオキシヘプタデシルジハイドロジェンチオホスフェート、18-(メタ)アクリロイルオキシオクタデシルジハイドロジェンチオホスフェート、19-(メタ)アクリロイルオキシノナデシルジハイドロジェンチオホスフェート、20-(メタ)アクリロイルオキシイコシルジハイドロジェンチオホスフェート等、及びこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩等が挙げられる。
【0016】
スルホン酸基を有する(メタ)アクリレートとしては、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、2-スルホエチル(メタ)アクリレート等、が挙げられる。
【0017】
ホスホン酸基を有する(メタ)アクリレートとしては、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルホスフォネート、5-(メタ)アクリロイルオキシペンチル-3-ホスフォノプロピオネート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル-3-ホスフォノプロピオネート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシル-3-ホスフォノプロピオネート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル-3-ホスフォノアセテート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシル-3-ホスフォノアセテート等、及びこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩等が挙げられる。
【0018】
酸基を有する重合性単量体としては、リン酸基を有する(メタ)アクリレートが好ましく、中でも初期接着性の点で、10-メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート(MDP)がより好ましい。
【0019】
これらの酸基を有する重合性単量体は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0020】
歯科用修復材組成物中の酸基を有する重合性単量体の含有量は、特に限定されないが、例えば、歯科用修復材組成物100質量%に対して0.5~15質量%であり、好ましくは1~10質量%であり、より好ましくは2~7質量%である。歯科用修復材組成物中の酸基を有する重合性組成物の含有量が0.5~15質量%であると、歯科用修復材組成物の初期接着性が向上する。
【0021】
酸基を有さない重合性単量体としては、特に限定されないが、例えば、酸基を有さない(メタ)アクリレートであり、好ましくはジ(メタ)アクリレートである。
【0022】
酸基を有さない(メタ)アクリレートは、特に限定されず、例えば、1分子中に8以下のエチレンオキシド単位を有する(メタ)アクリレート、ウレタン基を有する(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0023】
1分子中に8以下のエチレンオキシド単位を有する(メタ)アクリレートとしては、5以下のエチレンオキシド単位を有する(メタ)アクリレートが好ましく、4以下のエチレンオキシド単位を有する(メタ)アクリレートがより好ましい。本明細書において、エチレンオキシド単位には、平均繰り返し単位が含まれる。
【0024】
4以下のエチレンオキシド単位を有する(メタ)アクリレートとしては、例えば、トリエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA)等が挙げられる。
【0025】
ウレタン基を有する(メタ)アクリレート等としては、例えば、ウレタンジメタクリレート(UDMA)が挙げられる。
【0026】
これらの酸基を有さない(メタ)アクリレート化合物は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0027】
歯科用修復材組成物中の酸基を有さない重合性組成物の含有量は、特に限定されないが、例えば、歯科用修復材組成物100質量%に対して5~45質量%であり、好ましくは10~40質量%であり、より好ましくは15~35質量%である。歯科用修復材組成物中の酸基を有さない(メタ)アクリレート化合物の含有量が5~45質量%であると、歯科用修復材組成物の接着耐久性が向上し、歯科用修復材組成物の硬化体の機械的強度が向上する。
【0028】
なお、酸基を有さない重合性単量体の少なくとも一部がトリエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA)の場合、TEGDMAの含有量は、歯科用修復材組成物100質量%に対して5質量%以上であることが好ましく、より好ましくは8質量%以上、更に好ましくは10質量%以上である。
【0029】
本実施形態の歯科用修復材組成物では、酸基を有さない重合性単量体が、1分子中に8以下のエチレンオキシド単位を有する(メタ)アクリレート(例えば、TEGDMA)と、1分子中に8以下のエチレンオキシド単位を有する(メタ)アクリレート以外の重合性単量体(例えば、ウレタン基を有する(メタ)アクリレート)を含む場合、1分子中に8以下のエチレンオキシド単位を有する(メタ)アクリレートの含有量は、該(メタ)アクリレート以外の重合性単量体の含有量より多いことが好ましい。
【0030】
また、本実施形態の歯科用修復材組成物では、酸基を有さない重合性単量体の含有量が、酸基を有さない(メタ)アクリレート以外の重合性単量体を含み、酸基を有する重合性単量体の含有量より多いことが好ましい。
【0031】
無機フィラーとしては、特に限定されないが、例えば、無水ケイ酸粉末、ヒュームドシリカ、アルミナ粉末、ガラス粉末(例えば、バリウムガラス粉末、フルオロアルミノシリケートガラス粉末)等が挙げられる。なお、これらの無機フィラーは、シランカップリング剤等の表面処理剤で疎水化処理がなされていてもよい。
【0032】
これらの無機フィラーは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0033】
歯科用修復材組成物中の無機フィラーの含有量は、例えば、60質量%以上であることが好ましく、より好ましくは65質量%以上、更に好ましくは68質量%以上である。なお、歯科用修復材組成物中の無機フィラーの含有量の上限は、特に限定されないが、88質量%以下であることが好ましく、より好ましくは85質量%以下、更に好ましくは83質量%以下である。
【0034】
歯科用修復材組成物中の無機フィラーの配合量が60質量%以上であると、歯科用修復材組成物の硬化体の機械的強度が向上する。なお、歯科用修復材組成物中の無機フィラーの配合量の上限が88質量%以下であると、無機フィラーを含む歯科用組成物の粘性が高くなりすぎず、歯科用修復材組成物の操作性の低下を抑制することができる。
【0035】
本実施形態の歯科用修復材組成物は、更に、酸基を有さない水溶性の重合性単量体(ただし、後述のアクリルアミド系重合性単量体を除く)を含有していてもよい。本明細書において、水溶性とは、25℃の水に10wt%以上溶解することを示す。
【0036】
この場合、歯科用修復材組成物の接着耐久性の低下を抑制する観点から、歯科用修復材組成物中の酸基を有さない水溶性の重合性単量体の含有量は1.9質量%以下であり、好ましくは1質量%以下であり、より好ましくは0.4質量%以下であり、特に好ましくは0質量%(非含有)である。
【0037】
酸基を有さない水溶性の重合性単量体としては、特に限定されないが、例えば、ヒドロキシル基を有する重合性単量体、1分子中に9以上のエチレンオキシド単位を有する重合性単量体等である。
【0038】
ヒドロキシル基を有する重合性単量体の具体例としては、グリセロールジメタクリレート(GDMA)、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、ビスフェノールAジグリシジルメタクリレート(Bis-GMA)等が挙げられる。
【0039】
1分子中に9以上のエチレンオキシド単位を有する重合性単量体の具体例としては、ポリエチレングリコール#600ジメタクリレート(14G)、エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート(m+n=30;BPE-1300N)等が挙げられる。
【0040】
本実施形態の歯科用修復材組成物は、更に、アクリルアミド系重合性単量体を含有していてもよい。本明細書において、アクリルアミド系重合性単量体とは、アクリルアミド基又はメタクリルアミド基を分子内に有する重合性単量体を示す。
【0041】
この場合、歯科用修復材組成物の接着耐久性の低下を抑制する観点から、歯科用修復材組成物中の含有量は1.9質量%以下であることが好ましく、0.4質量%以下であることがより好ましく、特に好ましくは0質量%(非含有)であることが更に好ましい。
【0042】
アクリルアミド系重合性単量体としては、特に限定されないが、例えば、N,N-ジエチルアクリルアミド、N,N-ヘキサメチレンビス(メタクリルアミド)等が挙げられる。
【0043】
本実施形態の歯科用修復材組成物は、更に、酸基を有さない非水溶性でありベンゼン環を有する重合性単量体を含有してもよい。本明細書において、非水溶性とは、25℃の水に0.1wt%以上溶解しないことを示す。
【0044】
この場合、歯科用修復材組成物の接着耐久性の低下を抑制する観点から、歯科用修復材組成物中の酸基を有さない非水溶性でありベンゼン環を有する重合性単量体の含有量は2.9質量%以下であり、好ましくは2質量%以下であり、より好ましくは0質量%(非含有)である。
【0045】
酸基を有さない非水溶性でありベンゼン環を有する重合性単量体としては、特に限定されないが、例えば、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパンのうち、エトキシ基の平均付加モル数が2.6である化合物(BPE-100、D2.6E)等が挙げられる。
【0046】
本実施形態の歯科用修復材組成物は、更に、光重合開始剤、光重合促進剤、重合禁止剤を含有してもよい。
【0047】
光重合開始剤としては、特に限定されないが、例えば、カンファーキノン(CQ)等のα-ジケトン化合物、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,6-ジメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,6-ジメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド等のアシルホスフィンオキシド化合物、ベンジルケタール、ジアセチルケタール、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタール、ベンジルビス(2-メトキシエチル)ケタール、4,4'-ジメチル(ベンジルジメチルケタール)、アントラキノン、1-クロロアントラキノン、2-クロロアントラキノン、1,2-ベンズアントラキノン、1-ヒドロキシアントラキノン、1-メチルアントラキノン、2-エチルアントラキノン、1-ブロモアントラキノン、チオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン、2-ニトロチオキサントン、2-メチルチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2,4-ジイソプロピルチオキサントン、2-クロロ-7-トリフルオロメチルチオキサントン、チオキサントン-10,10-ジオキシド、チオキサントン-10-オキシド、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾフェノン、ビス(4-ジメチルアミノフェニル)ケトン、4,4'-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、アジド基を含む化合物等が挙げられる。これらの光重合開始剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0048】
歯科用修復材組成物中の光重合開始剤の含有量は、特に限定されないが、例えば、歯科用修復材組成物100質量%に対して0.005~5質量%であり、好ましくは0.01~3質量%である。歯科用修復材組成物中の光重合開始剤の含有量が0.005~5質量%であると、歯科用修復材組成物の接着性が向上し、歯科用修復材組成物の保存安定性が向上する。
【0049】
光重合促進剤としては、特に限定されないが、例えば、N,N-ジメチル-p-トルイジン、トリエタノールアミン、トリルジエタノールアミン、4-ジメチルアミノ安息香酸メチル、4-ジメチルアミノ安息香酸エチル(EPA)、4-ジメチルアミノ安息香酸イソアミル等の3級アミン、バルビツール酸、1,3-ジメチルバルビツール酸、1,3,5-トリメチルバルビツール酸、1,3,5-トリエチルバルビツール酸、5-ブチルバルビツール酸、1-ベンジル-5-フェニルバルビツール酸、1-シクロヘキシル-5-エチルバルビツール酸等のバルビツール酸誘導体等が挙げられる。これらの光重合促進剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0050】
歯科用修復材組成物中の光重合促進剤の含有量は、特に限定されないが、例えば、歯科用修復材組成物100質量%に対して0.005~5質量%であることが好ましく、より好ましくは0.01~3質量%であることが更に好ましい。本実施形態の歯科用修復材組成物中の光重合促進剤の含有量が0.005~5質量%以下であると、歯科用修復材組成物の重合効率が更に向上する。
【0051】
重合禁止剤としては、特に限定されないが、例えば、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、2,6-tert-ブチル-2,4-キシレノール等が挙げられる。これらの重合禁止剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0052】
歯科用修復材組成物中の重合禁止剤の含有量は、特に限定されないが、例えば、歯科用修復材組成物100質量%に対して0.005~3質量%であり、好ましくは0.01~1質量%である。
【0053】
また、本実施形態の歯科用修復材組成物は、歯科用修復材組成物中の液成分の象牙質に対する接触角が32°未満であり、好ましくは30°未満、より好ましくは28°未満である。本明細書において、液成分の象牙質に対する接触角とは、象牙質上に液成分を滴下したときに生じる象牙質と液成分との角度を示す。
【0054】
更に、本実施形態の歯科用修復材組成物は、歯科用修復材組成物の硬化体の吸水量が40μg/mm3未満であり、好ましくは35μg/mm3未満、より好ましくは30μg/mm3未満である。本明細書において、硬化体の吸水量とは、ISO 4049:2019 歯科-ポリマーベースの修復材料 7.12 水分吸着と水溶性(Dentistry - Polymer-based restorative materials, 7.12 Water sorption and solubility)に準拠した硬化体の吸水量を示す。
【0055】
本実施形態の歯科用修復材組成物は、上述のように、酸基を有する重合性単量体、酸基を有さない重合性単量体、及び、無機フィラー、を含有し、無機フィラーの含有量が60質量%以上であり、酸基を有さない非水溶性でありベンゼン環を有する重合性単量体の含有量が2.9質量%以下である。これにより、本実施形態では、初期接着性および接着耐久性の何れにも優れる歯科用修復材組成物を得ることができる。
【0056】
本実施形態の歯科用修復材組成物は、酸基を有さない水溶性の重合性単量体の含有量が1.9質量%以下であることで、接着耐久性の低下を抑制することができる。
【0057】
本実施形態の歯科用修復材組成物は、アクリルアミド系重合性単量体の含有量が1.9質量%以下であることで、更に接着耐久性の低下を抑制することができる。
【0058】
本実施形態の歯科用修復材組成物は、更に、酸基を有さない重合性単量体の含有量が酸基を有する重合性単量体の含有量より多いことで、優れた初期接着性および接着耐久性を両立することができる。
【0059】
また、本実施形態の歯科用修復材組成物は、上述のように、酸基を有さない重合性単量体は、1分子中に8以下のエチレンオキシド単位を有する(メタ)アクリレートを含むことで、歯科用修復材組成物の接着耐久性が向上し、歯科用修復材組成物の硬化体の機械的強度が向上する。
【0060】
本実施形態の歯科用修復材組成物は、更に、酸基を有さない重合性単量体が1分子中に8以下のエチレンオキシド単位を有する(メタ)アクリレート以外の重合性単量体を含み、1分子中に8以下のエチレンオキシド単位を有する(メタ)アクリレートの含有量が1分子中に8以下のエチレンオキシド単位を有する(メタ)アクリレート以外の重合性単量体の含有量より多いことで、優れた初期接着性および接着耐久性を両立することができる。
【0061】
また、本実施形態の歯科用修復材組成物は、上述のように、酸基を有する重合性単量体、酸基を有さない重合性単量体、及び、無機フィラーを含有する歯科用修復材組成物が、歯科用修復材組成物中の液成分の象牙質に対する接触角が32°未満であり、歯科用修復材組成物の硬化体の吸水量が40μg/mm3未満である。これにより、本実施形態では、初期接着性および接着耐久性に優れる歯科用修復材組成物を得ることができる。
【実施例0062】
以下、本発明について、更に実施例および比較例を用いて説明する。なお、以下において、「部」及び「%」は、特に断りのない限り、質量基準である。また、各種の試験及び評価は、下記の方法に従う。
【0063】
<歯科用修復材組成物の調製>
歯科用修復材組成物として歯科用コンポジットレジン(実施例1~9および比較例1~13)を、表1、2に示す組成で調製した。
【0064】
なお、表1中の略称又は製品名で示される成分の仕様は、以下のとおりである。
【0065】
TEGDMA:トリエチレングリコールジメタクリレート
UDMA:ウレタンジメタクリレート
MDP:10-メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート
HEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレート
N,N-Diethylacrylamide:N,N-ジエチルアクリルアミド
14G:ポリエチレングリコール#600ジメタクリレート
BPE-1300N:エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート
Bis-GMA:ビスフェノールAジグリシジルメタクリレート
BPE-100:2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパンのエチレンオキサイド2.6付加体
CQ:カンファーキノン
EPA:4-ジメチルアミノ安息香酸エチル
BHT:ジブチルヒドロキシトルエン
アエロジル:ヒュームドシリカ(日本アエロジル社製、AEROSILは登録商標)
【0066】
<デンチン初期接着強さ(デンチン初期接着)>
ウシ下顎前歯の唇面を、流水下にて♯400のシリコン・カーバイド紙(丸本ストルアス社製)で研磨して平滑面を作製した。研磨終了後、表面の水をエアブローすることで乾燥した。
【0067】
乾燥後の平滑面に、前処理として、各例で調製された歯科用コンポジットレジンを少量塗布してアプリケータで10秒間アジテーションを行った。サンプルに、直径2.38mm及び深さ2.67mmの材料充填用貫通孔が中央に形成された板状のモールド(ULTRADENT社製)を固定した。更に、モールドの上から貫通孔を通して、歯科用コンポジットレジンが塗布された被接着サンプルの平滑面に対して、歯科重合用可視光線照射器(GC社製、G-ライトプリマII Plus)を用いて10秒間光照射を行った。
【0068】
次いで、被接着サンプルの平滑面と貫通孔とによって形成された凹部に、上記で少量塗布したものと同じ歯科用コンポジットレジンを更に充填し、上記同様にモールドの上から歯科重合用可視光線照射器を用いて10秒間光照射を行うことによって硬化させ、硬化物を得た。モールドを外して試験片とした。試験片は、各例につき計5個作製し、37℃に保持した恒温器内に24時間静置した。
【0069】
その後、試験片を37℃水中に24時間浸漬した後、万能試験機(島津製作所社製、オートグラフ)にてクロスヘッド速度1.0mm/分にて、5個の試験片それぞれのせん断接着強さを測定し、平均値を求めた。デンチン初期接着性を、以下の基準で評価した。結果を表1、2に示す。
〔評価基準〕
優:13MPaを超える
良:11MPaを超え、13MPa以下
不可:11MPa以下
【0070】
<デンチンTC接着強さ(デンチンTC接着)>
上記のデンチン初期接着強さの試験と同様に得られた試験片を、各例につき計5個作製し、37℃に保持した恒温器内に24時間静置した後、試験片を37℃水中に24時間浸漬した後、接着耐久性を評価するためにサーマルサイクル(TC)を行った。5℃の冷水に30秒浸漬後、50℃の温水に30秒浸漬することを1万回繰り返した。万能試験機(島津製作所社製、オートグラフ、)にてクロスヘッド速度1.0mm/分にて、5個の試験片それぞれのせん断接着強さを測定し、平均値を求めた。デンチンTC接着性を、以下の基準で評価した。結果を表1、2に示す。
〔評価基準〕
優:13MPaを超える
良:11MPaを超え、13MPa以下
不可:11MPa以下
【0071】
<液成分の象牙質に対する接触角(デンチン接触角)>
ウシ下顎前歯の唇面を、流水下にて♯400のシリコン・カーバイド紙(丸本ストルアス社製)で研磨して象牙質を露出させ、象牙質の平滑面を作製した。研磨終了後、表面の水をエアブローすることで乾燥した。
【0072】
自動接触角計(協和界面科学株式会社製DM-501)にセットして、液成分とウシ抜去歯のデンチン研磨面の接触角を測定した。液量は0.5μL、着滴後1分後の接触角を測定した。デンチン接触角を、以下の基準で評価した。結果を表1、2に示す。
〔評価基準〕
優:28°未満
良:28°以上32°未満
不可:32°以上
【0073】
<歯科用修復材組成物の硬化体の吸水量(硬化体吸水量)>
ISO 4049:2019 歯科-ポリマーベースの修復材料 7.12 水分吸着と水溶性(Dentistry - Polymer-based restorative materials, 7.12 Water sorption and solubility)に従い、実施例及び比較例の硬化体の吸水量を測定した。光硬化には歯科重合用可視光線照射器(GC社製、G-ライトプリマII Plus)を用いて1回につき10秒間光照射を行った。歯科用修復材組成物の硬化体の吸水量を、以下の基準で評価した。結果を表1、2に示す。
〔評価基準〕
優:30μg/mm3未満
良:30μg/mm3以上40μg/mm3未満
不可:40μg/mm3以上
【0074】
<無機フィラー量>
無機フィラーの量が多いと吸水量が少なくなる観点から、無機フィラーの量を以下の基準で評価した。結果を表1、2に示す。
〔評価基準〕
優:68質量%以上
良:65質量%以上68質量%未満
可:60質量%以上65質量%未満
不可:60質量%未満
【0075】
【0076】
【0077】
表1より、実施例1~9の歯科用コンポジットレジンは、デンチン初期接着性、デンチンTC接着性の何れも、優又は良であった。
【0078】
一方、表2より、比較例1~13の歯科用コンポジットレジンは、デンチン初期接着性、デンチンTC接着性の少なくとも何れかが不可であった。
【0079】
以上に開示された実施形態は、例えば、以下の態様を含む。
【0080】
(付記1)
酸基を有する重合性単量体、
酸基を有さない重合性単量体、及び、
無機フィラー、を含有し、
前記無機フィラーの含有量が60質量%以上であり、
酸基を有さない非水溶性でありベンゼン環を有する重合性単量体の含有量が2.9質量%以下である、
歯科用修復材組成物。
【0081】
(付記2)
酸基を有さない水溶性の重合性単量体の含有量が1.9質量%以下である、
付記1に記載の歯科用修復材組成物。
【0082】
(付記3)
アクリルアミド系重合性単量体の含有量が1.9質量%以下である、
付記1又は2に記載の歯科用修復材組成物。
【0083】
(付記4)
前記酸基を有さない重合性単量体の含有量が前記酸基を有する重合性単量体の含有量より多い、
付記1乃至3の何れか1つに記載の歯科用修復材組成物。
【0084】
(付記5)
前記酸基を有さない重合性単量体は、1分子中に8以下のエチレンオキシド単位を有する(メタ)アクリレートを含む、
付記1乃至4の何れか1つに記載の歯科用修復材組成物。
【0085】
(付記6)
前記酸基を有さない重合性単量体は、前記(メタ)アクリレート以外の重合性単量体を含み、
前記(メタ)アクリレートの含有量が前記(メタ)アクリレート以外の前記重合性単量体の含有量より多い、
付記1乃至5の何れか一項に記載の歯科用修復材組成物。
【0086】
(付記7)
酸基を有する重合性単量体、
酸基を有さない重合性単量体、及び、
無機フィラーを含有する歯科用修復材組成物であって、
前記歯科用修復材組成物中の液成分の象牙質に対する接触角が32°未満であり、
前記歯科用修復材組成物の硬化体の吸水量が40μg/mm3未満である、
歯科用修復材組成物。
【0087】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内において、種々の変形、変更が可能である。