(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101909
(43)【公開日】2024-07-30
(54)【発明の名称】量子チップ、量子デバイス、および量子コンピュータ
(51)【国際特許分類】
H10N 60/82 20230101AFI20240723BHJP
H10N 60/12 20230101ALI20240723BHJP
H01L 21/60 20060101ALI20240723BHJP
G06N 10/20 20220101ALI20240723BHJP
【FI】
H10N60/82
H10N60/12 Z ZAA
H01L21/60 301L
G06N10/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023006126
(22)【出願日】2023-01-18
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2020年度 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「高効率・高速処理を可能とするAIチップ・次世代コンピューティングの技術開発/次世代コンピューティング技術の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109313
【弁理士】
【氏名又は名称】机 昌彦
(74)【代理人】
【識別番号】100149618
【弁理士】
【氏名又は名称】北嶋 啓至
(72)【発明者】
【氏名】山道 智博
(72)【発明者】
【氏名】多田 あゆ香
【テーマコード(参考)】
4M113
5F044
【Fターム(参考)】
4M113AA00
4M113AC45
4M113AC50
4M113AD61
4M113AD62
4M113AD63
4M113BA04
4M113BA15
4M113CA13
4M113CA14
4M113CA16
4M113CA17
5F044DD18
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ワイヤーボンディングの作業性が向上し、ボンディングワイヤーの密度の揺らぎを低減できる量子チップ、量子チップと量子チップが実装されるサンプルホルダとを備える量子デバイス及び量子デバイスと量子デバイスが格納される希釈冷凍機と量子デバイスに接続された制御装置とを備える量子コンピュータを提供する。
【解決手段】量子チップ10は、基板11と、基板11の表面に形成された超伝導層12と、基板の外縁に沿って超伝導層12の表面に形成された電極13と、基板11の外縁に沿って超伝導層の12表面に形成された周期構造130と、を備える。電極13は、基板11の外縁に沿って、超伝導層12の表面に形成され、ボンディングワイヤー15との接着性が高い材質である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板の表面に形成された超伝導層と、
前記基板の外縁に沿って前記超伝導層の表面に形成された電極と、
前記基板の外縁に沿って前記超伝導層の表面に形成された周期構造と、を備える量子チップ。
【請求項2】
前記周期構造は、
前記電極に接続される複数のボンディングワイヤーの目印として形成される請求項1に記載の量子チップ。
【請求項3】
前記周期構造は、
前記電極に接続される複数のボンディングワイヤーの間隔に対して整数分の一の周期性を有する請求項2に記載の量子チップ。
【請求項4】
前記周期構造は、
前記基板の外縁に対して垂直な方向に周期性を有する形状である請求項2に記載の量子チップ。
【請求項5】
前記周期構造は、
前記電極に接続される複数のボンディングワイヤーの目印として前記電極に形成された複数の突起によって構成され、
複数の前記突起は、前記基板の外縁に対して垂直な方向に突出する請求項1に記載の量子チップ。
【請求項6】
前記周期構造は、
前記電極に接続される複数のボンディングワイヤーの目印として前記電極に形成された複数の凹みによって構成され、
複数の前記凹みは、前記基板の外縁に対して垂直な方向に陥没する請求項1に記載の量子チップ。
【請求項7】
前記周期構造は、
前記電極に接続される複数のボンディングワイヤーの目印として前記超伝導層に形成された複数の印によって構成される請求項1に記載の量子チップ。
【請求項8】
請求項1に記載の量子チップと、
前記量子チップが実装されるサンプルホルダと、を備える量子デバイス。
【請求項9】
前記サンプルホルダ側の基板には、前記量子チップとの電気的接続に用いられるボンディングワイヤーの位置の目印になるパターンが形成される請求項8に記載の量子デバイス。
【請求項10】
請求項8または9に記載の量子デバイスと、
前記量子デバイスが格納される希釈冷凍機と、
前記量子デバイスに接続された制御装置と、を備える量子コンピュータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、量子コンピュータに搭載される量子チップ等に関する。
【背景技術】
【0002】
量子チップは、サンプルホルダに実装された状態で、量子コンピュータに搭載される。量子チップの電極とサンプルホルダの電極とは、アルミニウムAlなどのワイヤーを用いたワイヤーボンディングによって、電気的に接続される。サンプルホルダ側基板には、ワイヤーが接着しやすい金AuがめっきされたPCB(Printed Circuit Board)が用いられる。それに対し、量子チップには、ワイヤーが接着しにくいニオブNb等の超伝導体が成膜される。そのため、サンプルホルダ側と比べると、量子チップ側の方が、ワイヤーが接着しにくい。量子チップの試作において、ワイヤーボンディングは、手作業で行われることが多い。そのため、量子チップ側のワイヤーの接着に失敗した場合、ワイヤーの除去に工数が掛かったり、量子チップやPCBの表面に劣化が起こったりする。
【0003】
特許文献1には、n型酸化物半導体層、n型クラッド層、発光層、p型クラッド層、およびp型コンタクト層からなる成長層が基板上に積層された酸化物半導体発光素子について開示されている。特許文献1の素子は、成長層の一部をエッチングすることにより露出したn型酸化物半導体層上に、ニッケルNi、銅Cu、および銀Agなどを含まない遷移金属の酸化物からなるオーミック電極が設けられたことを特徴とする。特許文献1には、ボンディングワイヤーの密着性を高めるために、オーミック電極の上にAlパッド電極を形成することが開示されている。
【0004】
また、信号線/グランドを結合するワイヤーは、単なる導体ではなく、インダクタとして作用する。非特許文献1には、ワイヤーのインダクタによる影響を低減するために、グランドに配置するワイヤーをできるだけ密かつ等間隔にすることが好ましいと、報告されている。
【0005】
特許文献2には、半導体の製造方法について開示されている。特許文献2には、ソルダレジストに設けられた開口部から露出する帯状配線のボンディング領域に対応して、ワイヤーボンディングの目印となるマークを設けることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004-228401号公報
【特許文献2】特開2014-056966号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J.Wenner, et.al., ”Wirebond crosstalk and cavity modes in large chip mounts for superconducting qubits,” Supercond. Sci. Technol. 24, (2011) 065001).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の手法では、量子チップに成膜された超伝導体の上に、ワイヤーと接着しやすいAl等の金属が成膜される。このようにすれば、量子チップ側のワイヤーの接着性が向上して、量子チップ側のワイヤーが接着しやすくなる。また、量子チップ側のワイヤーの接着性が向上すれば、ワイヤーの除去や、量子チップやPCBの表面の劣化が起こりにくくなる。
【0009】
特許文献2の手法のように、ワイヤーボンディングの目印となるマークを量子チップに設ければ、ワイヤーボンディングの作業性が向上する。しかし、単なる目印があるだけでは、手作業で行われるワイヤーボンディングにおいて発生しやすいワイヤーの密度の揺らぎを解消できない。
【0010】
本開示の目的は、ワイヤーボンディングの作業性が向上し、ボンディングワイヤーの密度の揺らぎを低減できる量子チップ等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示の一態様の量子チップは、基板と、基板の表面に形成された超伝導層と、基板の外縁に沿って超伝導層の表面に形成された電極と、基板の外縁に沿って超伝導層の表面に形成された周期構造と、を備える。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、ワイヤーボンディングの作業性が向上し、ボンディングワイヤーの密度の揺らぎを低減できる量子チップ等を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第1の実施形態に係る量子チップの構成の一例を示す概念図である。
【
図2】第1の実施形態に係る量子チップの電極の一部分とサンプルホルダ側基板との位置関係の一例を示す概念図である。
【
図3】第1の実施形態に係る量子チップの電極とサンプルホルダ側基板の電極とをボンディングワイヤーで接続した状態の一例を示す概念図である。
【
図4】第1の実施形態に係る量子チップをサンプルホルダに実装した状態の一例を示す概念図である。
【
図5】第2の実施形態に係る量子チップの構成の一例を示す概念図である。
【
図6】第2の実施形態に係る量子チップの電極の一部分とサンプルホルダ側基板との位置関係の一例を示す概念図である。
【
図7】第2の実施形態に係る量子チップの電極とサンプルホルダ側基板の電極とをボンディングワイヤーで接続した状態の一例を示す概念図である。
【
図8】第3の実施形態に係る量子デバイスの構成の一例を示す概念図である。
【
図9】第3実施形態に係る量子デバイスを構成する量子チップの電極の一部分とサンプルホルダ側基板との位置関係の一例を示す概念図である。
【
図10】第3の実施形態に係る量子デバイスを構成する量子チップの電極とサンプルホルダ側基板の電極とをボンディングワイヤーで接続した状態の一例を示す概念図である。
【
図11】第3の実施形態の変形例に係る量子デバイスを構成する量子チップの電極とサンプルホルダ側基板の電極とをボンディングワイヤーで接続した状態の一例を示す概念図である。
【
図12】第4の実施形態に係る量子コンピュータの構成の一例を示すブロック図である。
【
図13】第5実施形態に係る量子チップの構成の一例を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。ただし、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい限定がされているが、発明の範囲を以下に限定するものではない。なお、以下の実施形態の説明に用いる全図においては、特に理由がない限り、同様箇所には同一符号を付す。また、以下の実施形態において、同様の構成・動作に関しては繰り返しの説明を省略する場合がある。
【0015】
(第1の実施形態)
まず、第1の実施形態に係る量子チップについて図面を参照しながら説明する。本実施形態の量子チップは、サンプルホルダに実装される。本実施形態の量子チップは、ボンディングワイヤーを用いて、サンプルホルダ側基板と電気的に接続される。本実施形態の量子チップは、サンプルホルダに実装された状態で、量子コンピュータに搭載される。本実施形態の量子チップは、サンプルホルダに実装された状態で、10ミリケルビンmK以下の極低温環境を実現する希釈冷凍機の内部に搭載される。
【0016】
(構成)
図1は、本実施形態に係る量子チップ10の構成の一例を示す概念図である。量子チップ10は、基板11、超伝導層12、電極13、端子17、信号線18、および量子回路19を備える。本実施形態においては、量子チップ10がマイクロ波回路である例をあげる。例えば、量子チップ10は、線形共振器やキャパシティなどであってもよい。また、量子チップ10は、平面回路ではなく、3次元回路や立体量子回路などの立体的な回路で実現されてもよい。
【0017】
基板11の表面には、超伝導層12が形成される。例えば、基板11の素材は、高抵抗シリコンや、サファイア、ダイヤモンドなどである。基板11の素材は、高抵抗シリコン、サファイア、およびダイヤモンドに限定されない。例えば、基板11の素材は、III-V族半導体やII-VI族半導体などの化合物半導体であってもよい。基板11は、単結晶であってもよいし、多結晶やアモルファスであってもよい。
【0018】
超伝導層12は、基板11の表面に形成される。超伝導層12は、量子チップ10の使用温度において、超伝導性を示す素材の層である。超伝導層12の素材については、量子チップ10の使用温度において、超伝導性を示せば、特に限定を加えない。例えば、超伝導層12の素材は、ニオブNbやタンタルTa、アルミニウムAlや、インジウムIn、鉛Pb、錫Sn、レニウムRe、パラジウムPd、チタンTi、モリブデンMoなどの金属である。例えば、超伝導層12の素材は、これらの金属のうち少なくともいずれかを含む合金であってもよい。例えば、超伝導層12の素材は、チタン窒化物やニオブ窒化物、タンタル窒化物などの窒化物であってもよい。例えば、超伝導層12は、スパッタリングやALD(Atomic Layer Deposition)などの成膜方法によって形成される。
【0019】
電極13は、基板11の外縁に沿って、超伝導層12の表面に形成される。電極13は、ボンディングワイヤーとの接着性が高い材質である。例えば、電極13は、アルミニウムAlなどの金属である。電極13の形成方法については、特に限定を加えない。例えば、電極13は、反応性イオンエッチングRIE(Reactive Ion Etching)によって形成される。電極13は、信号線18に接続される端子であってもよいし、グランドであってもよい。
【0020】
図2は、量子チップ10の電極13の一部を拡大した概念図である。
図2には、サンプルホルダ側基板16の一部分(電極)を示す。
図3は、量子チップ10の電極13と、サンプルホルダ側基板16の電極とをボンディングワイヤー15で電気的に接続させた状態を示す概念図である。例えば、サンプルホルダ側基板16の電極には、ボンディングワイヤー15が接着しやすいAu金がめっきされる。例えば、サンプルホルダ側基板16は、ボンディングワイヤー15が接着しやすいAu金がめっきされたPCB(Printed Circuit Board)等によって実現される。例えば、量子チップ10の電極13やサンプルホルダ側基板16の電極と、ボンディングワイヤー15とは、超音波を用いて接着される。
【0021】
電極13は、周期構造130を有する。周期構造130は、電極13の長手方向に対して垂直な方向に突出した複数の突起によって構成される。すなわち、周期構造130は、基板11の外縁に対して垂直な方向に周期性を有する形状である。周期構造130は、サンプルホルダ側基板16の電極との接続に用いられるボンディングワイヤー15の接着位置の目印として、形成される。周期構造130の周期性を目印として作業すれば、ワイヤーボンディングの作業性が向上し、ボンディングワイヤー15の密度の揺らぎが低減する。例えば、周期構造130を構成する複数の突起は、隣接し合うボンディングワイヤー15の間隔に対して、整数分の一の周期性を有する(整数は2以上)。周期構造130を構成する突起の間隔を、ボンディングワイヤー15の間隔の1/2~1/10にしておけば、ボンディングを失敗した際に、接着位置をずらせば、ワイヤーボンディングをやり直せる。例えば、サンプルホルダ側基板16および量子チップ10のうち少なくともいずれかの側にボンディングワイヤー15が接着しにくい箇所があった場合、周期構造130を目安に接着位置をずらすことができる。周期構造130などの目印がないと、ワイヤーボンディングに失敗した場合、ボンディングワイヤー15が接着しにくい箇所でワイヤーボンディングを再度試して、何回も失敗を繰り返す可能性がある。
【0022】
周期構造130の周期性を目印として接着位置をずらす際には、例えば、接着に失敗した際に目印にした突起に隣接する突起の位置を目印として、接着位置をずらせばよい。それ以降のワイヤーボンディングにおいては、通常の接着予定位置の目印である突起に隣接した突起の位置を目印として、接着位置を順次ずらせばよい。このようにすれば、接着に失敗した接着位置以降は、ボンディングワイヤー15の間隔が通常の間隔で保たれる。このようにすれば、接着しにくい箇所の回避のために異なった間隔になっているボンディングワイヤー15の組が1組になり、それ以外の隣接するボンディングワイヤー15の組が等間隔に保たれる。突起の間隔を前述の範囲(1/2~1/10)にすれば、ボンディングワイヤー15の通常の間隔からずらして接着した箇所の間隔の差異を小さくできる。また、突起の間隔をボンディングワイヤー15の間隔の1/3~1/10にしたり、さらに1/4~1/10にしたりすることで、ボンディングワイヤー15の通常の間隔とずらして接着した箇所の間隔の差異をさらに小さくできる。ボンディングワイヤー15の通常の間隔に対して突起の間隔が狭すぎると、隣接したボンディングワイヤー15の間の突起が多くなり、接着位置の目安として使いづらくなる。そのため、隣接したボンディングワイヤー15の間隔は、上記の範囲に設定されることが好ましい。
【0023】
図2~
図3には、周期構造130が複数の矩形状の突起によって構成される例を示す。例えば、周期構造130を構成する突起の長さは、基板11の内側向きと基板11の外側向きで、異なっていてもよい。基板11の内側に配置された突起の長さを伸ばして、突起が目立つように形成されてもよい。例えば、基板11の内側方向のみに周期構造130が形成されてもよい。この場合、基板11の外縁に沿って、電極13の長手方向を形成できるので、ボンディングワイヤー15の長さを短縮できる。ボンディングワイヤー15の長さを短縮できれば、ボンディングワイヤー15のインダクタンスを低減できる。
【0024】
また、周期構造130を構成する突起の長さは、隣接する突起の長さと異なっていてもよい。例えば、定規の目盛りのように、周期構造130は、長い突起と短い突起とが周期的に配置された形状であってもよい。そのような形状の場合、長い突起の幅を太くすることで、長い突起が目立つように形成されてもよい。また、突起の形状は、矩形ではなく、直角三角形や二等辺三角形などの三角形であってもよい。また、突起の先端は、円弧状に丸められていてもよい。周期構造130を構成する突起は、電極13の長手方向に対して垂直ではない方向に突出してもよい。また、周期構造130は、電極13の長手方向に沿って延伸された正弦波のような周期性を有する形状であってもよい。
【0025】
本実施形態の電極13の周期構造130は、ボンディングワイヤー15の密度の均一性が求められる超伝導回路に好適である。ボンディングワイヤー15には、量子チップ10およびサンプルホルダ側基板16のグランド同士を接続するワイヤーと、量子チップ10の端子17とサンプルホルダ側基板16の信号線とを接続するワイヤーとが含まれる。グランドを接続するボンディングワイヤー15は、密に均一であることが好ましい。信号線を接続するボンディングワイヤー15は、端子17の狭い電極にたくさん打つことができないので、グランドを接続するボンディングワイヤー15と比べると均一さは求められない。
【0026】
例えば、エッチングで超伝導層12を除去して、ワイヤーボンディングの目印となる周期的な印が超伝導層12に設けられてもよい。また、電極13に沿って、ワイヤーボンディングの目印となる配線パターンが、超伝導層12の上面に設けられてもよい。それらの目印は、周期構造130に対応して設けられてもよいし、周期構造130の替わりに設けられてもよい。
【0027】
ボンディングワイヤー15は、量子チップ10の電極13と、サンプルホルダ側基板16の電極とを接続するワイヤーである。電極13がグランドである場合、量子チップ10とサンプルホルダ側基板16のグランド同士を接続するために、できるだけ高密度のボンディングワイヤー15で均一にボンディングを施すことが好ましい。
【0028】
ボンディングワイヤー15の素材には、電極13と接着しやすいものが選ばれる。例えば、電極13の素材がアルミニウムAlの場合、ボンディングワイヤー15の素材として、アルミニウムAlが選択される。アルミニウムAlは、量子チップ10の使用温度において超伝導状態である。また、アルミニウムAlは、比較的柔軟であるため、ボンディングしやすい。例えば、ボンディングワイヤー15の素材には、金Auなどの金属が選択されてもよい。
【0029】
端子17は、信号線18に接続された端子である。例えば、端子17は、電極13と同様の素材である。端子17は、ボンディングワイヤー15によって、サンプルホルダ側基板16の電極に接続される。端子17には、サンプルホルダ側基板16を介して、外部の信号源(図示しない)から供給される信号が入力される。また、端子17には、信号線18を介して、量子回路19からの信号が伝播する。例えば、信号線18を介して量子回路19から端子17に伝播した信号は、サンプルホルダ側基板16を介して、外部の読み出し回路(図示しない)に伝送される。例えば、端子17には、特性評価や動作確認などに用いられるテスト用の信号が入力される。例えば、端子17には、量子回路19で演算処理される信号が入力される。端子17を介して入出力される信号については、特に限定を加えない。
【0030】
信号線18は、端子17と量子回路19とを接続する。例えば、信号線18は、共平面導波路やコプラーナ導波路などの導波路である。信号線18には、端子17からの信号が伝播する。端子17から信号線18を伝播した信号は、量子回路19に入力される。また、信号線18には、量子回路19からの信号が伝播する。量子回路19から信号線18に伝播した信号は、端子17に向けて進行する。例えば、基板11の表面に成膜された超伝導体のうち、グランド面や信号線18を形成する導体の間の超伝導体を除去して、基板11を露出させてパターニングすることで、信号線18を形成できる。例えば、信号線18の素材は、量子チップ10の使用温度において超伝導状態であるニオブNbやアルミニウムAlである。ただし、信号線18の素材は、量子チップ10の使用温度において超伝導状態であれば、ニオブNbやアルミニウムAlに限定されない。
【0031】
量子回路19は、信号線18に接続される。例えば、量子回路19は、ジョセフソンパラメトリック発振器JPO(Josephson parametric oscillator)からなる少なくとも一つの量子ビットと、少なくとも一つの結合器とを含む。少なくとも1つの量子ビットは、少なくとも一つの結合器に接続される。例えば、量子回路19は、複数の量子ビットや複数の結合回路が組み合わされた構成を有する。量子回路19は、少なくとも一つのジョセフソンパラメトリック発振器JPOで構成された回路であってもよい。また、量子回路19は、少なくとも一つの結合器で構成された回路であってもよい。量子回路19の配線パターンには、特に限定を加えない。量子回路19には、信号線18を伝播した信号が入力される。量子回路19は、入力された信号に対して、量子演算を実行する。量子回路19が実行する量子演算については、量子ビットを用いた演算であれば、特に限定を加えない。量子回路19は、量子演算された信号を、信号線18に出力する。量子回路19の素材は、主に超伝導材料によって構成される。
図1の例において、量子回路19の外形は正方形であるが、量子回路19の外形については、特に限定を加えない。例えば、量子回路19は、基板11の表面に成膜されたに超伝導材料を、パターニングすることで形成できる。
【0032】
図4は、サンプルホルダ160に量子チップ10が実装された状態の一例を示す概念図である。サンプルホルダ160に量子チップが実装されたデバイスを量子デバイス100と呼ぶ。量子チップ10は、サンプルホルダ160に実装された状態で、量子コンピュータ(図示しない)の希釈冷凍機の内部に搭載される。量子チップ10は、希釈冷凍機の内部において、10ミリケルビンmK以下の極低温環境で使用される。
【0033】
以上のように、本実施形態の量子チップは、基板、超伝導層、電極、および周期構造を備える。基板は、一般的な半導体と比べて電気抵抗の高い高抵抗半導体基板である。超伝導層は、基板の表面に形成される。電極は、基板の外縁に沿って、超伝導層の表面に形成される。周期構造は、前記電極に接続される複数のボンディングワイヤーの目印として、基板の外縁に沿って超伝導層の表面に形成される。周期構造は、電極に形成された複数の突起によって構成される。複数の突起は、基板の外縁に対して垂直な方向に突出する。
【0034】
量子チップの試作において、ワイヤーボンディングは、顕微鏡で接着箇所を視認しながら、ワイヤーボンダーを用いて手作業で行われることが多い。一般的な量子チップでは、PCB/量子チップに基準となる目盛りがない。そのため、熟練の作業者であっても、ボンディングワイヤーの本数や密度にばらつきが発生する。ボンディングワイヤーの接着に失敗した場合、ピンセット等を用いて、そのボンディングワイヤーを除去する必要がある。そのため、ボンディングワイヤーの接着に失敗した場合、ワイヤーの除去に工数が掛かったり、量子チップやPCBの表面に劣化が起こったりする。
【0035】
信号線/グランドを結合するボンディングワイヤーは、単なる導体ではなく、インダクタとして作用する。ワイヤーのインダクタによる影響を低減するためには、グランドに配置するワイヤーを、できるだけ密かつ等間隔にすることが好ましい。また、ワイヤーのインダクタによる影響を低減するためには、グランドに配置するワイヤーをできるだけ短くすることが好ましい。
【0036】
本実施形態の量子チップは、基板の外縁に沿って超伝導層の表面に形成された周期構造を有する。周期構造は、電極に形成された複数の突起によって構成される。周期構造は、電極に施されるワイヤーボンディングの目印となる。そのため、本実施形態によれば、周期構造の周期性を目印として作業することによって、ワイヤーボンディングの作業性が向上し、ボンディングワイヤーの密度の揺らぎを低減できる。本実施形態の構成は、量子チップのみならず、一般的な半導体チップにも適用できる。
【0037】
また、周期構造の周期性は、手作業によるワイヤーボンディングのみならず、ワイヤーボンディングを自動で行う際の基準にもなる。通常のワイヤーボンダーと比べて、周期構造の周期性に合わせてワイヤーボンディングを自動で行うように構成されたワイヤーボンダーは、ボンディングワイヤーの密度の揺らぎを低減できる。
【0038】
本実施形態の一態様において、周期構造は、電極に接続される複数のボンディングワイヤーの間隔に対して整数分の一の周期性を有する。例えば、周期構造は、隣接するボンディングワイヤーの間隔に対して1/2~1/10の周期性を有する。周期構造などの目印がないと、ワイヤーボンディングに失敗した場合、ボンディングワイヤーが接着しにくい箇所でワイヤーボンディングを再度試して、何回も失敗を繰り返す可能性がある。本態様によれば、サンプルホルダ側基板および量子チップのうち少なくともいずれかの側にボンディングワイヤーが接着しにくい箇所があった場合、周期構造を目安に接着位置をずらすことができる。そのため、本態様によれば、ワイヤーボンディングで失敗した場合、隣接するボンディングワイヤーの間の周期構造に含まれるいずれかの目印の位置にずらして、ワイヤーボンディングをやり直すことができる。
【0039】
本実施形態の一態様において、周期構造は、基板の外縁に対して垂直な方向に周期性を有する形状である。例えば、周期構造は、複数の突起によって構成される。例えば、周期構造は、正弦波のような周期性のある形状である。本態様によれば、周期構造の周期性を目印として作業することによって、ワイヤーボンディングの作業性が向上し、ボンディングワイヤーの密度の揺らぎを低減できる。
【0040】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態に係る量子チップについて図面を参照しながら説明する。本実施形態の量子チップは、電極の周期構造が第1の実施形態と異なる。本実施形態の量子チップに形成される電極の周期構造は、第1の実施形態の量子チップに形成される電極の周期構造と組み合わされてもよい。
【0041】
(構成)
図5は、本実施形態に係る量子チップ20の構成の一例を示す概念図である。量子チップ20は、基板21、超伝導層22、電極23、端子27、信号線28、および量子回路29を備える。
【0042】
基板21は、第1の実施形態の基板11と同様の構成である。基板21は、一般的な半導体と比べて電気抵抗の高い高抵抗半導体基板である。
【0043】
超伝導層22は、第1の実施形態の超伝導層12と同様の構成である。超伝導層22は、基板21の表面に形成される。超伝導層22は、量子チップ20の使用温度において、超伝導性を示す素材の層である。
【0044】
電極23は、基板21の外縁に沿って、超伝導層22の表面に形成される。電極23は、ボンディングワイヤーとの接着性が高い材質である。電極23は、第1の実施形態の電極13と同様の素材である。例えば、電極23は、アルミニウムAlなどの金属である。電極23の形成方法については、特に限定を加えない。例えば、電極23は、エッチングによって形成される。電極23は、信号線28に接続される端子であってもよいし、グランドであってもよい。
【0045】
図6は、量子チップ20の電極23の一部を拡大した概念図である。
図6には、サンプルホルダ側基板26の一部分(電極)を示す。
図7は、量子チップ20の電極23と、サンプルホルダ側基板26の電極とをボンディングワイヤー25で電気的に接続させた状態を示す概念図である。例えば、サンプルホルダ側基板26の電極には、ボンディングワイヤー25が接着しやすいAu金がめっきされる。例えば、量子チップ20の電極23やサンプルホルダ側基板26の電極と、ボンディングワイヤー25とは、超音波を用いて接着される。
【0046】
電極23は、周期構造230を有する。周期構造230は、電極23の長手方向に対して垂直な方向に陥没した複数の凹みによって構成される。すなわち、周期構造230は、基板21の外縁に対して垂直な方向に周期性を有する形状である。周期構造230は、サンプルホルダ側基板26の電極との接続に用いられるボンディングワイヤー25の接着位置の目印として、形成される。周期構造230の周期性を目印として作業すれば、ワイヤーボンディングの作業性が向上し、ボンディングワイヤー25の密度の揺らぎが低減する。例えば、周期構造230を構成する複数の凹みは、隣接し合うボンディングワイヤー25の間隔に対して、整数分の一の周期性を有する(整数は2以上)。周期構造230を構成する複数の凹みの間隔を、ボンディングワイヤー25の間隔の1/2~1/10にしておけば、ボンディングを失敗した際に、接着位置をずらせば、ワイヤーボンディングをやり直せる。例えば、サンプルホルダ側基板26および量子チップ20のうち少なくともいずれかの側にボンディングワイヤー25が接着しにくい箇所があった場合、周期構造230を目安に接着位置をずらすことができる。周期構造230などの目印がないと、ワイヤーボンディングに失敗した場合、ボンディングワイヤー25が接着しにくい箇所でワイヤーボンディングを再度試して、何回も失敗を繰り返す可能性がある。
【0047】
図6~
図7には、周期構造230が複数の矩形状の凹みによって構成される例を示す。例えば、周期構造230を構成する凹みの深さは、基板21の内側向きと基板21の外側向きで、異なっていてもよい。基板21の内側に形成された凹みを深くして、凹みが目立つように形成されてもよい。例えば、基板21の内側方向のみに周期構造230が形成されてもよい。この場合、基板21の外縁側には周期構造230がないため、ボンディングワイヤー25の接着箇所を選択する際の自由度が向上する。
【0048】
また、周期構造230を構成する凹みの深さは、隣接する凹みの深さと異なっていてもよい。例えば、定規の目盛りのように、周期構造230は、深い突起と浅い突起とが周期的に配置された形状であってもよい。そのような形状の場合、深い凹みの幅を太くすることで、深い突起が目立つように形成されてもよい。また、凹みの形状は、矩形ではなく、直角三角形や二等辺三角形などの三角形であってもよい。また、凹みの底は、円弧状に丸められていてもよい。周期構造230を構成する凹みは、電極23の長手方向に対して垂直ではない方向に窪んでいてもよい。また、周期構造230は、電極23の長手方向に沿って延伸された正弦波のような周期性を有する形状であってもよい。
【0049】
本実施形態の電極23の周期構造230は、ボンディングワイヤー25の密度の均一性が求められる超伝導回路に好適である。ボンディングワイヤー25には、量子チップ20およびサンプルホルダ側基板26のグランド同士を接続するワイヤーと、量子チップ20およびサンプルホルダ側基板26の信号線を接続するワイヤーとが含まれる。グランドを接続するボンディングワイヤー25は、密に均一であることが好ましい。信号線を接続するボンディングワイヤー25は、狭い電極にたくさん打つことができないので、グランドを接続するボンディングワイヤー25と比べると均一さは求められない。
【0050】
例えば、リソグラフィで超伝導層22を除去して、ワイヤーボンディングの目印となる周期的な欠損部が超伝導層22に設けられてもよい。また、電極23に沿って、ワイヤーボンディングの目印となる配線パターンが、超伝導層22の上面に設けられてもよい。それらの目印は、周期構造230に対応して設けられてもよいし、周期構造230の替わりに設けられてもよい。
【0051】
ボンディングワイヤー25は、第1の実施形態のボンディングワイヤー15と同様の構成である。ボンディングワイヤー25は、量子チップ20の電極23と、サンプルホルダ側基板26の電極とを接続するワイヤーである。電極23がグランドである場合、量子チップ20とサンプルホルダ側基板26のグランド同士を接続するために、できるだけ高密度のボンディングワイヤー25で均一にボンディングを施すことが好ましい。
【0052】
端子27は、第1の実施形態の端子17と同様の構成である。端子27は、信号線28に接続された端子である。端子27は、ボンディングワイヤー25によって、サンプルホルダ側基板26の電極に接続される。端子27には、サンプルホルダ側基板26を介して、外部の信号源(図示しない)から供給される信号が入力される。また、端子27には、信号線28を介して、量子回路29からの信号が伝播する。例えば、信号線28を介して量子回路29から端子27に伝播した信号は、サンプルホルダ側基板26を介して、外部の読み出し回路(図示しない)に伝送される。例えば、端子27には、特性評価や動作確認などに用いられるテスト用の信号が入力される。例えば、端子27には、量子回路29で演算処理される信号が入力される。端子27を介して入出力される信号については、特に限定を加えない。
【0053】
信号線28は、第1の実施形態の信号線18と同様の構成である。信号線28は、端子27と量子回路29とを接続する。信号線28には、端子27からの信号が伝播する。端子27から信号線28を伝播した信号は、量子回路29に入力される。また、信号線28には、量子回路29からの信号が伝播する。量子回路29から信号線28に伝播した信号は、端子27に向けて進行する。
【0054】
量子回路29は、第1の実施形態の量子回路19と同様の構成である。量子回路29は、信号線28に接続される。例えば、量子回路29は、ジョセフソンパラメトリック発振器JPOからなる少なくとも一つの量子ビットと、少なくとも一つの結合器とを含む。少なくとも1つの量子ビットは、少なくとも一つの結合器に接続される。量子回路29は、少なくとも一つのジョセフソンパラメトリック発振器JPOで構成された回路であってもよい。また、量子回路29は、少なくとも一つの結合器で構成された回路であってもよい。量子回路29には、信号線28を伝播した信号が入力される。量子回路29は、入力された信号に対して、量子演算を実行する。量子回路29は、量子演算された信号を、信号線28に出力する。
【0055】
以上のように、本実施形態の量子チップは、基板、超伝導層、電極、および周期構造を備える。基板は、一般的な半導体と比べて電気抵抗の高い高抵抗半導体基板である。超伝導層は、基板の表面に形成される。電極は、基板の外縁に沿って、超伝導層の表面に形成される。周期構造は、前記電極に接続される複数のボンディングワイヤーの目印として、基板の外縁に沿って超伝導層の表面に形成される。周期構造は、電極に形成された複数の凹みによって構成される。複数の凹みは、基板の外縁に対して垂直な方向に陥没する。
【0056】
本実施形態の量子チップは、基板の外縁に沿って超伝導層の表面に形成された周期構造を有する。周期構造は、電極に形成された複数の凹みによって構成される。周期構造は、電極に施されるワイヤーボンディングの目印となる。そのため、本実施形態によれば、周期構造の周期性を目印として作業することによって、ワイヤーボンディングの作業性が向上し、ボンディングワイヤーの密度の揺らぎを低減できる。
【0057】
本実施形態の一態様において、周期構造は、電極に接続される複数のボンディングワイヤーの間隔に対して整数分の一の周期性を有する。例えば、周期構造は、隣接するボンディングワイヤーの間隔に対して1/2~1/10の周期性を有する。本態様によれば、ワイヤーボンディングで失敗した場合、隣接するボンディングワイヤーの間の周期構造に含まれるいずれかの目印の位置にずらして、ワイヤーボンディングをやり直すことができる。
【0058】
本実施形態の一態様において、周期構造は、基板の外縁に対して垂直な方向に周期性を有する形状である。例えば、周期構造は、複数の凹みによって構成される。例えば、周期構造は、正弦波のような周期性のある形状である。本態様によれば、周期構造の周期性を目印として作業することによって、ワイヤーボンディングの作業性が向上し、ボンディングワイヤーの密度の揺らぎを低減できる。
【0059】
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態に係る量子デバイスについて図面を参照しながら説明する。本実施形態の量子デバイスは、第1~第2の実施形態の量子チップを含む。本実施形態の量子デバイスは、ボンディングワイヤーの接着位置の目印がサンプルホルダ側にも形成される点において、第1~第2の実施形態と異なる。
【0060】
(構成)
図8は、本実施形態に係る量子デバイス300の構成の一例を示す概念図である。量子デバイス300は、量子チップ30およびサンプルホルダを備える。量子チップ30とサンプルホルダ側基板36は、ボンディングワイヤー35を介して、電気的に接続される。
【0061】
量子チップ30は、基板31、超伝導層32、電極33、端子37、信号線38、および量子回路39を備える。電極33には、第2の実施形態の周期構造230と同様に、周期構造330が形成される。量子チップ30は、ボンディングワイヤー35を介して、サンプルホルダ側基板36に実装される。本実施形態において、量子チップ30は、第2の実施形態の量子チップ20と同様の構成である。量子チップ30は、第1の実施形態の量子チップ10であってもよい。以下においては、量子チップ30に関する説明を省略する。
【0062】
サンプルホルダ側基板36には、量子チップ30が実装される開口が形成される。サンプルホルダ側基板36の表面には、パターン380が形成される。パターン380は、サンプルホルダ側基板36の開口部分の内辺に沿って形成された複数の貫通孔によって構成される。複数の貫通孔は、サンプルホルダ側基板36を貫く。パターン380は、貫通孔ではなく、サンプルホルダ側基板の表面に形成された穴であってもよい。また、パターン380は、サンプルホルダ側基板36の表面に形成された周期的な形状や模様であってもよい。
【0063】
図9は、量子チップ30の電極33の一部を拡大した概念図である。
図9には、サンプルホルダ側基板36の一部分(電極)を示す。
図10は、量子チップ30の電極33と、サンプルホルダ側基板36の電極とをボンディングワイヤー35で電気的に接続させた状態を示す概念図である。例えば、サンプルホルダ側基板36の電極には、ボンディングワイヤー35が接着しやすいAu金がめっきされる。例えば、量子チップ30の電極33やサンプルホルダ側基板36の電極と、ボンディングワイヤー35とは、超音波を用いて接着される。
【0064】
図9~
図10には、パターン380が複数の貫通孔によって構成される例を示す。パターン380を構成する貫通孔は、量子チップ30の周期構造330の周期性に合わせて形成される。パターン380を構成する貫通孔の径は、隣接する貫通孔の径と異なっていてもよい。例えば、パターン380は、径が大きい貫通孔と径が小さい貫通孔とが周期的に配置された形状であってもよい。また、貫通孔の形状は、円ではなく、矩形や三角形であってもよい。パターン380は、量子チップ30の電極33の長手方向に沿って延伸された正弦波のような周期性を有する形状であってもよい。
【0065】
図11は、本実施形態の変形例に係るサンプルホルダ側基板36-1の一例を示す概念図である。本変形例のサンプルホルダ側基板36-1の表面には、パターン381が形成される。パターン381は、サンプルホルダ側基板36-1の内辺に沿って形成された複数の電極によって構成されるパターンである。複数の電極は、サンプルホルダ側基板36-1の基板の表面に形成される。パターン381は、導電性のある電極からなるパターンではなく、絶縁性の材料で形成されたパターンであってもよい。
【0066】
パターン381を構成する複数の電極は、量子チップ30の周期構造330の周期性に合わせて形成される。パターン381を構成する電極の大きさは、隣接する電極の大きさと異なっていてもよい。例えば、パターン381は、大きい電極と小さい電極とが周期的に配置された形状であってもよい。また、電極の形状は、矩形ではなく、円形や三角形であってもよい。パターン381は、量子チップ30の電極33の長手方向に沿って延伸された正弦波のような周期性を有する形状であってもよい。
【0067】
以上のように、本実施形態の量子デバイスは、量子チップおよびサンプルホルダを備える。量子チップは、基板、超伝導層、電極、および周期構造を備える。基板は、一般的な半導体と比べて電気抵抗の高い高抵抗半導体基板である。超伝導層は、基板の表面に形成される。電極は、基板の外縁に沿って、超伝導層の表面に形成される。周期構造は、基板の外縁に沿って、超伝導層の表面に形成される。サンプルホルダには、量子チップが実装される。
【0068】
本実施形態の量子デバイスは、基板の外縁に沿って超伝導層の表面に形成された周期構造を有する量子チップを備える。周期構造は、電極に施されるワイヤーボンディングの目印となる。本実施形態によれば、周期構造の周期性を目印として作業することによって、ワイヤーボンディングの作業性が向上し、ボンディングワイヤーの密度の揺らぎを低減できる。
【0069】
本実施形態の一態様において、サンプルホルダ側基板には、量子チップとの電気的接続に用いられるボンディングワイヤーの位置の目印になるパターンが形成される。本態様によれば、量子チップの周期構造と、サンプルホルダ側基板のパターンとを目印として作業することによって、ワイヤーボンディングの作業性が向上し、ボンディングワイヤーの密度の揺らぎを低減できる。
【0070】
(第4の実施形態)
次に、第4の実施形態に係る量子コンピュータについて図面を参照しながら説明する。本実施形態の量子コンピュータは、各実施形態の量子チップを搭載する。以下においては、本実施形態の量子コンピュータが複数の装置によって構成される例をあげる。本実施形態の量子コンピュータに含まれる複数の装置は、近接した位置に配置されてもよいし、離れた位置に配置されてもよい。本実施形態の量子コンピュータは、複数の装置が分散して配置された量子計算システムとして構成されてもよい。
【0071】
本実施形態の量子コンピュータは、重ね合わせや量子もつれなどの量子力学の原理を用いた超並列演算を実行する。例えば、本実施形態の量子コンピュータは、ゲート型やアニーリング型などの量子コンピュータである。ゲート型の量子コンピュータは、素因数分解やデータベース検索などに関する特定の計算を、ノイマン型計算機よりも高速で演算できる。アニーリング型の量子コンピュータは、組合せ最適化問題を高速かつ高精度で演算できる。本実施形態の量子コンピュータは、ゲート型やアニーリング型に限定されない。以下の構成は、一例であって、本実施形態の量子コンピュータを限定するものではない。
【0072】
図12は、本実施形態に係る量子コンピュータ4の構成の一例を示すブロック図である。量子コンピュータ4は、量子デバイス400、希釈冷凍機420、入出力装置411、中央制御装置412、および測定装置413を備える。量子デバイス400は、希釈冷凍機420の内部に格納される。量子デバイス400は、量子チップ40およびサンプルホルダ460を含む。入出力装置411、中央制御装置412、および測定装置413は、制御装置410を構成する。制御装置410は、入出力装置411、中央制御装置412、および測定装置413のうち少なくともいずれかを含めばよい。制御装置410が設置される環境温度については、特に限定を加えない。
【0073】
希釈冷凍機420は、10mK以下の極低温の温度環境を実現する冷凍機である。例えば、希釈冷凍機420は、ヘリウム3とヘリウム4の混合溶液を用いた連続型の冷凍機によって実現される。希釈冷凍機420の内部(極低温環境)には、量子デバイス400が格納される。希釈冷凍機420は、制御装置410によって制御されてもよいし、制御装置410とは異なる装置によって制御されてもよい。
【0074】
量子デバイス400は、希釈冷凍機420の内部(極低温環境)に格納される。極低温環境下に配置された量子デバイス400と、通常温度の環境に設置された制御装置410とは、伝送線路(図示しない)を介して接続される。
【0075】
入出力装置411は、量子チップ40を用いた量子演算で利用される情報処理装置である。入出力装置411は、ユーザの操作を受け付けるインターフェースを有する、入出力装置411は、ユーザの操作に応じて入力された信号を量子チップ40に送信する。また、入出力装置411は、量子チップ40による演算結果を受信する。入出力装置411は、受信した処理結果を出力する。例えば、入出力装置411は、受信した処理結果を表示部(図示しない)に表示させる。入出力装置411は、受信した処理結果を、他の装置やシステムに転送してもよい。
【0076】
入出力装置411は、汎用コンピュータや、量子計算に特化した専用コンピュータによって実現される。例えば、入出力装置411は、CPU(Central Processing Unit)やRAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ等を有する。例えば、入出力装置411は、据え置き型のコンピュータによって実現される。入出力装置411は、タブレットやスマートホンなどの携帯型の端末装置によって実現されてもよい。
【0077】
中央制御装置412は、量子コンピュータ4の動作を制御する情報処理装置である。例えば、中央制御装置412は、較正と演算の切替制御や、測定対象の量子ビットの選択制御、測定装置413における測定モードの切替制御を行う。中央制御装置412は、較正や演算のタイミングにおいて、制御信号を出力する。例えば、中央制御装置412は、入出力装置411および測定装置413に接続された切替装置(図示しない)に制御信号を出力する。較正などの測定動作のタイミングにおいて、中央制御装置412は、量子チップ40に測定装置413を接続する。量子演算などの演算動作のタイミングにおいて、中央制御装置412は、量子チップ40に入出力装置411を接続する。
【0078】
中央制御装置412は、入出力装置411および測定装置413を制御して、測定および演算のいずれかを実行する。測定時において、中央制御装置412は、測定のためのパラメータ等を測定装置413に対して設定し、サンプル対象の量子ビットや測定モードを設定する。例えば、中央制御装置412は、量子チップ40に含まれる量子ビットの反射測定結果を測定装置413から取得して、理論計算等に基づいて較正データを導出する。例えば、演算時において、中央制御装置412は、入出力装置411の信号発生器等に対して、較正データに基づいて信号周波数等の測定パラメータを設定してもよい。
【0079】
中央制御装置412は、汎用コンピュータや、量子計算に特化した専用コンピュータによって実現される。例えば、中央制御装置412は、CPUやRAM、ROM、フラッシュメモリ等を有する。中央制御装置412は、マイクロコンピュータやマイクロコントローラによって実現されてもよい。例えば、中央制御装置412は、サーバやクラウドに構築される。中央制御装置412は、端末型のコンピュータによって実現されてもよい。
【0080】
測定装置413には、中央制御装置412の制御に応じた測定を実行する。例えば、測定装置413は、マイクロ波信号発生器や、直流電流源、スペクトルアナライザ、ネットワークアナライザ、シグナルジェネレータなどの機器のうち少なくとも一つを含む。測定装置413には、中央制御装置412の制御に応じて、測定のためのパラメータ等が設定される。例えば、測定装置413には、サンプル対象の量子ビットの設定や測定モードが設定される。例えば、測定装置413は、量子チップ40に含まれる量子ビットの反射測定などを実行する。測定装置413は、中央制御装置412に測定結果を出力する。
【0081】
以上のように、本実施形態の量子コンピュータは、量子デバイス、希釈冷凍機、および制御装置を備える。量子デバイスは、量子チップおよびサンプルホルダを有する。量子チップは、基板、超伝導層、電極、および周期構造を備える。基板は、一般的な半導体と比べて電気抵抗の高い高抵抗半導体基板である。超伝導層は、基板の表面に形成される。電極は、基板の外縁に沿って、超伝導層の表面に形成される。周期構造は、基板の外縁に沿って、超伝導層の表面に形成される。量子デバイスには、量子チップが実装される。希釈冷凍機には、量子デバイスが格納される。制御装置は、量子デバイスに接続される。
【0082】
本実施形態の量子コンピュータは、基板の外縁に沿って超伝導層の表面に形成された周期構造を有する量子チップを含む量子デバイスを備える。周期構造は、電極に施されるワイヤーボンディングの目印となる。本実施形態によれば、周期構造の周期性を目印としてワイヤーボンディングされ、ボンディングワイヤーの密度の揺らぎが低減された量子デバイスを備えた量子コンピュータを提供できる。
【0083】
(第5の実施形態)
次に、第5の実施形態に係る量子チップについて図面を参照しながら説明する。本実施形態の量子チップは、第1~第2の実施形態に係る量子チップを簡略化した構成である。
【0084】
図13は、本実施形態に係る量子チップ50の構成の一例を示す概念図である。量子チップ50は、基板51、超伝導層52、電極53、および周期構造530を備える。基板51は、一般的な半導体と比べて電気抵抗の高い高抵抗半導体基板である。超伝導層52は、基板51の表面に形成される。電極53は、基板51の外縁に沿って、超伝導層52の表面に形成される。周期構造530は、基板51の外縁に沿って、超伝導層52の表面に形成される。
【0085】
本実施形態の量子チップは、基板の外縁に沿って超伝導層の表面に形成された周期構造を有する。周期構造は、電極に施されるワイヤーボンディングの目印となる。本実施形態によれば、周期構造の周期性を目印として作業することによって、ワイヤーボンディングの作業性が向上し、ボンディングワイヤーの密度の揺らぎを低減できる。
【0086】
以上、実施形態を参照して本発明を説明してきたが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【符号の説明】
【0087】
4 量子コンピュータ
10、20、30、40、50 量子チップ
11、21、31、51 基板
12、22、32、52 超伝導層
13、23、33、53 電極
15、25、35 ボンディングワイヤー
16、26、36、46 サンプルホルダ側基板
17、27、37 端子
18、28、38 信号線
19、29、39 量子回路
100、300、400 量子デバイス
130、230、330、530 周期構造
160 サンプルホルダ
380 パターン
410 制御装置
411 入出力装置
412 中央制御装置
413 測定装置
420 希釈冷凍機