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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101915
(43)【公開日】2024-07-30
(54)【発明の名称】硬化型滑材、及び推進工法
(51)【国際特許分類】
   C09K 8/02 20060101AFI20240723BHJP
   E21D 9/06 20060101ALI20240723BHJP
   E21D 11/00 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
C09K8/02
E21D9/06 301L
E21D11/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023006136
(22)【出願日】2023-01-18
(71)【出願人】
【識別番号】303057365
【氏名又は名称】株式会社安藤・間
(71)【出願人】
【識別番号】594203999
【氏名又は名称】株式会社タック
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【弁理士】
【氏名又は名称】沖中 仁
(72)【発明者】
【氏名】野口 真未
(72)【発明者】
【氏名】粥川 幸司
(72)【発明者】
【氏名】瀧川 信二
(72)【発明者】
【氏名】吉田 智哉
(72)【発明者】
【氏名】吉田 修康
(72)【発明者】
【氏名】森田 駿矢
【テーマコード(参考)】
2D054
2D155
【Fターム(参考)】
2D054AC18
2D054AD22
2D054FA12
2D155BA04
2D155JA00
(57)【要約】
【課題】大深度・高水圧下であっても滑材効果と裏込め効果とを得ることができる硬化型滑材を提供する。
【解決手段】推進管11,12と地山との間に生じるテールボイド15に注入される硬化型滑材50であって、セメント及び/又はセメント系固化材からなる硬化材100~200kgと、モンモリロナイト、バイデライト及びサポナイトからなる群より選択される少なくとも一種のスメクタイト系粘土鉱物を主成分とする助材60~100kgと、酸化亜鉛、珪フッ化塩、ホウ砂、糖類又はその誘導体、リグニンスルホン酸塩及びオキシカルボン酸塩からなる群より選択される少なくとも一種を主成分とする安定剤1~20kgと、水とを混合してなるA液と、A液を硬化させるための塑強調整剤であるB液と、を含有し、A液1000Lに対するB液の配合量が20~100Lに設定される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
推進管と地山との間に生じるテールボイドに注入される硬化型滑材であって、
セメント及び/又はセメント系固化材からなる硬化材100~200kgと、モンモリロナイト、バイデライト及びサポナイトからなる群より選択される少なくとも一種のスメクタイト系粘土鉱物を主成分とする助材60~100kgと、酸化亜鉛、珪フッ化塩、ホウ砂、糖類又はその誘導体、リグニンスルホン酸塩及びオキシカルボン酸塩からなる群より選択される少なくとも一種を主成分とする安定剤1~20kgと、水とを混合してなるA液と、
前記A液を硬化させるための塑強調整剤であるB液と、
を含有し、
前記A液1000Lに対する前記B液の配合量が20~100Lに設定される硬化型滑材。
【請求項2】
前記A液1000Lに対する前記B液の配合量が33~100Lである場合において、塩化カルシウム、塩化マグネシウム及びその混合物からなる群より選択される少なくとも一種を主成分とするゲル化促進剤が前記A液に配合され、
前記ゲル化促進剤の前記A液中の配合量が1~8kgに設定される請求項1に記載の硬化型滑材。
【請求項3】
アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン性界面活性剤及び高分子系界面活性剤からなる群より選択される少なくとも一種を主成分とする起泡剤が前記A液に配合され、
前記起泡剤の前記A液中の配合量が0.2~0.4kgに設定される請求項1又は2に記載の硬化型滑材。
【請求項4】
前記B液は、珪酸ナトリウム、ポリ塩化アルミニウム及びその混合物からなる群より選択される少なくとも一種を含む水溶液である請求項1又は2に記載の硬化型滑材。
【請求項5】
前記A液と前記B液との混合によって液体から可塑状になるまでのゲルタイムが15秒以内、前記A液と前記B液との混合直後の粘性が100dPa・s以上、28日後の一軸圧縮強度が200~1000kN/mである請求項1又は2に記載の硬化型滑材。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の硬化型滑材を用いた推進工法であって、
前記A液を調製する工程と、
前記A液と前記B液とを混合する工程と、
前記A液と前記B液との混合液を、推進管と地山との間に生じるテールボイドに注入する工程と、
を包含する推進工法。
【請求項7】
前記推進管における前記地山との接触面の少なくとも一部に、前記地山との間の摩擦力を低減するための摩擦力低減剤を塗布する工程をさらに包含する請求項6に記載の推進工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、推進管と地山との間に生じるテールボイドに注入される硬化型滑材、及び当該硬化型滑材を用いた推進工法に関する。
【背景技術】
【0002】
上下水道、電力通信ケーブル、その他地下構造物等を地中に埋設する工法として、推進工法が知られている。推進工法は、発進立坑を出発点として管を埋設する位置の地中に掘進機を設置し、掘進機の先端に取り付けられた回転カッタで地中を掘削しながら前進し、掘進機の後側に推進管を継ぎ足して、発進立坑に設置された推進用ジャッキで推進管を圧入・埋設し、地中に継ぎ足された推進管によって目的とする地中管路を築造する工法である。
【0003】
上記のような推進工法では、推進管の外径を超える外径の回転カッタを備えた掘進機によって掘削が行われる。このため、推進管の外周と地山との間には余掘部(テールボイド)が形成される。テールボイドには、推進管の推進中における推進管と地山との間の摩擦抵抗を減少させるために、高吸水性ポリマー、無機系可塑剤、粘土、オイル等からなる滑材を注入したり、推進管の推進工程期間中では滑材として機能し、推進管の推進完了後では固結材として機能する硬化型滑材をテールボイドに注入したりしている。
【0004】
硬化型滑材に関し、特許文献1には、セメント、多糖類、珪酸ナトリウム及び必要に応じて親水性潤滑剤からなる懸濁液にカルボン酸系遅延剤を添加した硬化型滑材が提案されている。また、特許文献2には、ベントナイト、セメント、アルキルアリールスルホン酸系界面活性剤からなる硬化型滑材が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7-331234号公報
【特許文献2】特開平10-237435号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の高吸水性ポリマー等からなる滑材を用いた推進工法では、以下のような問題点が存在する。
(1)高吸水性ポリマー等は強度発現するような材料でないため、施工後裏込め材のような強度発現する材料で置換する必要がある。
(2)滑材は材料を水に溶解して調製するものが多く、湧水等で水希釈されてしまう。
(3)土砂の間隙から滑材が流出したり、載荷土圧によって滑材が圧密されたりするなどして、滑材本来の機能を発揮しないことがある。
【0007】
一方、特許文献1及び2で提案されているような硬化型滑材では、硬化開始までの時間が十分に長いものではなかったり、それとは逆に、硬化速度が遅すぎて、硬化までの時間が過度に長くかかり、硬化しても耐久性が不十分であったり、強度が劣ったりして、施工期間の使用に十分に応え得るものではなかった。
【0008】
今後、益々大深度・高水圧下といった条件下での施工が増えることが想定されており、このような条件下では、圧密脱水等による滑材効果の欠如や、テールボイド欠如による裏込め材の置換不能が懸念される。
【0009】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、大深度・高水圧下であっても滑材効果と裏込め効果とを得ることができる硬化型滑材、及び当該硬化型滑材を用いた推進工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための本発明に係る硬化型滑材の特徴構成は、
推進管と地山との間に生じるテールボイドに注入される硬化型滑材であって、
セメント及び/又はセメント系固化材からなる硬化材100~200kgと、モンモリロナイト、バイデライト及びサポナイトからなる群より選択される少なくとも一種のスメクタイト系粘土鉱物を主成分とする助材60~100kgと、酸化亜鉛、珪フッ化塩、ホウ砂、糖類又はその誘導体、リグニンスルホン酸塩及びオキシカルボン酸塩からなる群より選択される少なくとも一種を主成分とする安定剤1~20kgと、水とを混合してなるA液と、
前記A液を硬化させるための塑強調整剤であるB液と、
を含有し、
前記A液1000Lに対する前記B液の配合量が20~100Lに設定されることにある。
【0011】
本構成の硬化型滑材によれば、強度発現させる硬化材と、硬化前のブリーディングを抑制する助材と、流動性を確保し、且つ凝結・硬化の進行を遅延させる安定剤と、急速にゲル化・硬化させる性質を有するB液(塑強調整剤)とが一体不可分で且つ相互に機能的又は作用的に関連することにより、推進管の敷設進行中では滑材としての効果を発現させて推進管の押し込みを円滑に行うことができるとともに、推進到達後にはテールボイド内で固結して管路の安定化を図ることができる。こうして、施工を容易にすることができるとともに、テールボイドを安定に維持して管路地盤の崩落を防ぐことができ、大深度・高水圧下であっても滑材効果と裏込め効果とを得ることができる。
【0012】
本発明に係る硬化型滑材において、
前記A液1000Lに対する前記B液の配合量が33~100Lである場合において、塩化カルシウム、塩化マグネシウム及びその混合物からなる群より選択される少なくとも一種を主成分とするゲル化促進剤が前記A液に配合され、
前記ゲル化促進剤の前記A液中の配合量が1~8kgに設定されることが好ましい。
【0013】
B液の配合量を増やすとゲルタイムは延びるが強度を向上させることができる一方、B液の配合量を減らすとゲルタイムは短縮するが強度を低下させてしまうことになる。ゲル化が遅延すると、テールボイドへの注入後の湧水等によって希釈されてしまうことになる。強度が不足すると、管路地盤の崩落を招く虞がある。本構成の硬化型滑材によれば、A液1000Lに対するB液の配合量が33~100Lである場合において、ゲル化促進剤のA液中の配合量を1~8kgに設定し、B液の配合量とゲル化促進剤の配合量とのバランスを図ることにより、強度を向上させつつ、ゲルタイムを短縮することができ、テールボイドへの注入後の湧水等による希釈を抑制することができる。
【0014】
本発明に係る硬化型滑材において、
アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン性界面活性剤及び高分子系界面活性剤からなる群より選択される少なくとも一種を主成分とする起泡剤が前記A液に配合され、
前記起泡剤の前記A液中の配合量が0.2~0.4kgに設定されることが好ましい。
【0015】
本構成の硬化型滑材によれば、単位体積あたりの重量を低下させて軽量化を図ることで、上載荷重に伴う摩擦力を低減することができるとともに、流動性を向上させることができ、これによって施工をより容易にすることができる。また、助材によるブリーディング抑制機能とも相俟ってブリーディングをより効果的に抑制することができる。
【0016】
本発明に係る硬化型滑材において、
前記B液は、珪酸ナトリウム、ポリ塩化アルミニウム及びその混合物からなる群より選択される少なくとも一種を含む水溶液であることが好ましい。
【0017】
本構成の硬化型滑材によれば、珪酸ナトリウム、ポリ塩化アルミニウム及びその混合物からなる群より選択される少なくとも一種を含む水溶液がB液として用いられるので、硬化材、助材、安定剤及び水を混合してなるA液を速やかにゲル化及び硬化させることができ、塑性強度を速やかに高めることができる。
【0018】
本発明に係る硬化型滑材において、
前記A液と前記B液との混合によって液体から可塑状になるまでのゲルタイムが15秒以内、前記A液と前記B液との混合直後の粘性が100dPa・s以上、28日後の一軸圧縮強度が200~1000kN/mであることが好ましい。
【0019】
本構成の硬化型滑材によれば、A液とB液との混合によって液体から可塑状になるまでのゲルタイムが15秒以内で、A液とB液との混合直後の粘性が100dPa・s以上であり、しかも28日後の一軸圧縮強度が200~1000kN/mであるので、テールボイドに充填後の当該硬化型滑材の流出、及び載荷土圧による圧密を抑止することができるとともに、管路地盤を安定的に保つことができ、施工後に裏込め材のような強度発現する材料での置換を行う工程が不要となる。
【0020】
次に、上記課題を解決するための本発明に係る推進工法の特徴構成は、
上記の硬化型滑材を用いた推進工法であって、
前記A液を調製する工程と、
前記A液と前記B液とを混合する工程と、
前記A液と前記B液との混合液を、推進管と地山との間に生じるテールボイドに注入する工程と、
を包含することにある。
【0021】
本構成の推進工法によれば、硬化材、助材、安定剤及び水を混合して調製したA液と、塑強調整剤であるB液とを混合することで速やかにゲル化及び硬化を促進させることができ、塑性強度を速やかに高めることができる。これにより、テールボイドへの注入後に湧水による希釈を抑制することができる他、A液とB液との混合比率によって一軸圧縮強度を制御することができる。従って、推進管の敷設進行中では滑材としての効果を発現させて推進管の押し込みを円滑に行うことができるとともに、推進到達後にはテールボイド内で固結して管路の安定化を図ることができる。こうして、施工を容易にすることができるとともに、テールボイドを安定的に維持して管路地盤の崩落を防ぐことができ、大深度・高水圧下であっても滑材効果と裏込め効果とを得ることができる。
【0022】
本発明に係る推進工法において、
前記推進管における前記地山との接触面の少なくとも一部に、前記地山との間の摩擦力を低減するための摩擦力低減剤を塗布する工程をさらに包含することが好ましい。
【0023】
本構成の推進工法によれば、推進管における地山との接触面の少なくとも一部に、地山との間の摩擦力を低減するための摩擦力低減剤が塗布されるので、推進管と地山との間に生じる摩擦力をより低減することができ、推進管を地中に押し込む動作をより容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、硬化型滑材注入式推進工法の施工設備の一例を示す模式図である。
図2図2は、SiO/NaO比率に対する比重とモル比との関係図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施形態では、大深度・高水圧下であっても滑材効果と裏込め効果とを発揮する硬化型滑材を用いた推進工法を例に挙げて説明する。ここで、「大深度」とは、地下室の建設のための利用が通常行われない深さ(地下40m以深)、又は建築物の基礎の設置のための利用が通常行われない深さ(支持地盤上面から10m以深)のうちの何れか深い方の深さの地下のことである。また、「高水圧」として想定される水圧の範囲は、300~700kN/m程度である。ただし、本発明は、以下に説明する実施形態や図面に記載される構成に限定されることは意図しない。以下の説明において、特に断りのない限り、後述する硬化材、助材、起泡剤、安定剤及びゲル化促進剤の配合量は、後述するA液1000Lに含まれる質量(kg)で表すこととする。
【0026】
<推進工法の施工設備の概略構成>
図1は、硬化型滑材注入式推進工法の施工設備の一例を示す模式図である。なお、図1において、施工設備を構成する各種機器については、理解容易化のために適宜誇張又は簡略化しており、実際の施工設備を構成する各種機器の大小関係や配置等を厳密に反映したものではない。
【0027】
図1において、推進工法が施工される推進工事区間の始点位置には、発進立坑1が造築され、終点位置には、到達立坑2が造築されている。発進立坑1には、推進用ジャッキ3と反力支圧板4とが設置されている。発進立坑1を出発点として管を埋設する位置の地中には、掘進機5が配されている。掘進機5の後方には、例えばヒューム管である通常の推進管11と、所要の滑材注入孔を有する推進管12(以下、「接続管12」と称する。)とからなる推進管群10が配されている。そして、掘進機5の先端に取り付けられた回転カッタ5aで地中を掘削しながら前進し、掘進機5の後側に通常の推進管11及び適当な間隔で介在される接続管12を継ぎ足して、推進用ジャッキ3で推進管群10を圧入・埋設し、これを繰り返すことによって目的とする地中管路が構築される。
【0028】
図1に示す推進工法においては、推進管群10の外径を超える外径の回転カッタ5aを備えた掘進機5によって掘削が行われる。このため、推進管群10の外周と地山との間にはテールボイド15が形成される。テールボイド15には、推進管群10の推進中における推進管群10と地山との間の摩擦抵抗を減少させるために、滑材注入装置20により、接続管12に設けてある所要の滑材注入孔を通して硬化型滑材50が注入される。
【0029】
<滑材注入装置>
滑材注入装置20は、発進立坑1の周辺の地上に設置される装置本体21と、推進管群10の内部における滑材注入位置付近に配される混合器22と、滑材注入孔を通して硬化型滑材を注入可能に接続管12に装着される滑材注入ノズル23とを備えている。
【0030】
装置本体21は、A液を貯留するためのA液タンク24と、B液を貯留するためのB液タンク25と、A液を混合器22へと圧送するためのA液圧送ポンプ26と、B液を混合器22へと圧送するためのB液圧送ポンプ27とを備えている。なお、装置本体21は、図示される機器以外に、図示されない所要の圧力スイッチ、圧力センサ、流量計、バルブ等を備えている。
【0031】
図1におけるA部拡大図に示すように、混合器22は、二液(A液、B液)を混合するために設けられる。なお、図1のA部拡大図において、図の理解容易化のため、当該拡大図において図示される混合器22に接続される配管のみ図示することとし、当該拡大図において図示されていない混合器22に接続される配管については図示省略することとする。混合器22は、流体流れの上流側から下流側に向かって順に配設される第一ポート部31、第二ポート部32及び所要の滑材吐出部33を有している。第一ポート部31とA液タンク24とは、A液圧送ポンプ26を途中に介在した状態でA液供給配管35によって接続されている。第二ポート部32とB液タンク25とは、B液圧送ポンプ27を途中に介在した状態でB液供給配管36によって接続されている。滑材吐出部33と滑材注入ノズル23とは、滑材供給配管37よって接続されている。
【0032】
<硬化型滑材>
A液タンク24には、硬化材、助材及び安定剤、並びに必要に応じて起泡剤及びゲル化促進剤を含有する水溶液であるA液が貯留されている。一方、B液タンク25には、塑性強度を高める塑強調整剤としてのB液が貯留されている。硬化型滑材50は、A液タンク24からA液供給配管35を介して供給されるA液と、B液タンク25からB液供給配管36を介して供給されるB液とを混合器22で混合することによって調製される。硬化型滑材50は、A液とB液との混合により、ゲルタイム(液体から可塑状になるまでの時間)15秒以内にゲル化し、100dPa・s以上の粘性を確保し、硬化工程を経て硬化した28日後の一軸圧縮強度が200~1000kN/mとなる。硬化型滑材50は、硬化により十分な強度が出現されて周辺地盤を支えることができる。硬化型滑材50の目標性状を表1に示す。
【0033】
【表1】
【0034】
<硬化材>
硬化型滑材50において、硬化材は、滑材の硬化を促進し、強度発現させる目的で使用される。硬化材としては、例えば、普通セメント、高炉セメント、早強セメント等のセメント、及び/又は、セメントに高炉スラグや石膏、消石灰等を混合して作られたセメント系固化材を主成分とするものが挙げられる。ここで、セメント及び/又はセメント系固化材を主成分とするとは、硬化材の質量を100質量%としたとき、セメント及び/又はセメント系固化材の質量が80質量%以上であり、より好ましくは90質量%以上であり、最も好ましく95質量%以上である、とすることである。上限としては、特に制限はなく、100質量%であってもよい。なお、硬化材として、セメント及びセメント系固化材と同様に水に懸濁した際に、硬化反応を示す性質を持つものであってもよい。硬化材の配合量は、100~200kgであり、好ましくは125~175kgである。100~200kgの範囲であれば、B液添加比率に応じて自由な強度設定が可能である。
【0035】
<助材>
硬化型滑材50において、助材は、水に懸濁した際に膨潤し粘稠性を示すものであり、ブリーディングや材料分離を抑制する目的で使用される。助材は、モンモリロナイト、バイデライト及びサポナイトからなる群より選択される少なくとも一種のスメクタイト系粘土鉱物を主成分とするものである。ここで、スメクタイト系粘土鉱物を主成分とするとは、上記硬化材における主成分の定義と同様で、助材の質量を100質量%としたとき、スメクタイト系粘土鉱物の質量が80質量%以上であり、より好ましくは90質量%以上であり、最も好ましく95質量%以上である、とすることである。上限としては、特に制限はなく、100質量%であってもよい。助材の配合量は、60~100kgであり、好ましくは70~90kgである。
【0036】
<安定剤>
硬化型滑材50において、安定剤は、A液の流動性を確保し、凝結・硬化を遅延させる目的で使用される。安定剤は、酸化亜鉛、珪フッ化塩、ホウ砂、糖類又はその誘導体、リグニンスルホン酸塩及びオキシカルボン酸塩からなる群より選択される少なくとも一種を主成分とするものである。ここで、当該群より選択される少なくとも一種を主成分とするとは、上記硬化材における主成分の定義と同様で、安定剤の質量を100質量%としたとき、当該群より選択される少なくとも一種の質量が80質量%以上であり、より好ましくは90質量%以上であり、最も好ましく95質量%以上である、とすることである。上限としては、特に制限はなく、100質量%であってもよい。また、安定剤としては、塑強調整剤(B液)の添加・混合による凝結・硬化を阻害しないものが使用される。安定剤の配合量は、1.0~20.0kgであり、好ましくは1.5~3.0kgであり、より好ましくは2.0~2.5kgである。
【0037】
<塑強調整剤>
硬化型滑材50において、塑強調整剤(B液)は、A液と混合することで任意にゲル化・硬化を制御することを目的で使用される。塑強調整剤は、珪酸ナトリウム、ポリ塩化アルミニウム及びその混合物からなる群より選択される少なくとも一種を含む水溶液である。より具体的には、塑強調整剤として、SiO/NaOで表されるモル比で3~4の範囲にある珪酸ナトリウムの濃度が30~40%である珪酸ナトリウムの水溶液(水ガラス)や、ポリ塩化アルミニウムの濃度が10~16%であるポリ塩化アルミニウムの水溶液が挙げられる。A液1000Lに対する塑強調整剤の配合量は、20~100Lであり、好ましくは33~75Lである。
【0038】
<ゲル化促進剤>
硬化型滑材50において、ゲル化促進剤は、塑強調整剤と混合した際のゲルタイムを短縮する目的で使用される。ゲル化促進剤は、塩化カルシウム、塩化マグネシウム及びその混合物からなる群より選択される少なくとも一種を主成分とする。ここで、当該群より選択される少なくとも一種を主成分とするとは、上記硬化材における主成分の定義と同様で、ゲル化促進剤の質量を100質量%としたとき、当該群より選択される少なくとも一種の質量が80質量%以上であり、より好ましくは90質量%以上であり、最も好ましく95質量%以上である、とすることである。上限としては、特に制限はなく、100質量%であってもよい。ゲル化促進剤の配合量は、A液1000Lに対するB液の配合量が33~100Lである場合において、好ましくは1~8kgであり、施工中のテールボイド内の地下水の状況や、地盤の間隙への流出の有無を判断しながら、添加量を適宜増減する。
【0039】
<起泡剤>
硬化型滑材50において、起泡剤は、A液の単位体積重量の低減、及び流動性の制御を目的として使用される。起泡剤は、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン性界面活性剤及び高分子系界面活性剤からなる群より選択される少なくとも一種を主成分とするものである。ここで、当該群より選択される少なくとも一種を主成分とするとは、上記硬化材における主成分の定義と同様で、起泡剤の質量を100質量%としたとき、当該群より選択される少なくとも一種の質量が80質量%以上であり、より好ましくは90質量%以上であり、最も好ましく95質量%以上である、とすることである。上限としては、特に制限はなく、100質量%であってもよい。起泡剤の配合量は、好ましくは0.2~0.4kgであり、より好ましくは0.25~0.35kgである。
【0040】
<硬化型滑材を用いた推進工法>
図1に示すように、上記硬化型滑材50を用いた推進工法においては、掘進機5の先端に取り付けられた回転カッタ5aで地中を掘削しながら前進し、掘進機5の後側に適宜に接続管12を介在させつつ推進管11を継ぎ足し、推進管11及び接続管12からなる推進管群10を推進用ジャッキ3で圧入・埋設し、地中に継ぎ足された推進管11及び接続管12よりなる推進管群10によって目的とする地中管路を築造するようにされている。
【0041】
上記のような推進工法では、推進管群10の外径を超える外径の回転カッタ5aを備えた掘進機5によって掘削が行われる。このため、推進管群10の外周と地山との間にはテールボイド15が形成される。テールボイド15には、推進管群10の推進工程期間中では滑材として機能し、推進管群10の推進完了後では固結材として機能する硬化型滑材50が注入される。
【0042】
テールボイド15への硬化型滑材50の注入は、硬化材、助材、安定剤、並びに必要に応じてゲル化促進剤及び起泡剤を混合してA液を調製するA液調製工程と、A液と塑強調整剤であるB液とを混合する二液混合工程と、A液とB液との混合液(硬化型滑材50)をテールボイド15に注入する滑材注入工程とを経て行われる。
【0043】
推進工法においては、必要に応じて、推進管群10における地山との接触面の少なくとも一部に、地山との間の摩擦力を低減するための摩擦力低減剤を塗布する減摩剤塗布工程を行うことが好ましい。これにより、推進管群10を推進用ジャッキ3で地中に押し込む際に、推進管群10と地山との間の摩擦力を硬化型滑材50との相乗効果によってより低減することができるため、推進管群10の押込動作をより円滑に行うことができる。
【0044】
<摩擦力低減剤>
減摩剤塗布工程において用いられる摩擦力低減剤としては、例えば、エポキシ樹脂や、シリコーン樹脂等を用いることができる。
【0045】
以上、本発明の硬化型滑材、及び推進工法について、一実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記実施形態に記載した構成に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【実施例0046】
以下、本発明の硬化型滑材、及び推進工法の実施例について説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【0047】
以下の実施例1~13及び比較例2~23を調製するにあたって用いた硬化材、助材、起泡剤、安定剤、ゲル化促進剤及び塑強調整剤の製造会社及び製品名は以下の通りである。
硬化材:(株)タック、「タックメント」
助材 :(株)タック、「TAC-βII」
起泡剤:(株)タック、「TAC-2c」
安定剤:(株)タック、「TAC-Re」
ゲル化促進剤:(株)タック、「TACゲル」
塑強調整剤 :(株)タック、「TAC-3G」
【0048】
<実施例>
下記の表2に示す配合量にて実施例1~13の硬化型滑材を調製した。
【0049】
【表2】
【0050】
<比較例1>
本発明の硬化型滑材に対する比較例1として、下記の表3に示す配合量にて従来型の二液固結型滑材を調製した。
【0051】
【表3】
【0052】
<比較例2~23>
下記の表4に示す配合量にて比較例2~23の硬化型滑材を調製した。
【0053】
【表4】
【0054】
<ゲルタイムの測定>
実施例1~13及び比較例1~23についてゲルタイムを測定した。ゲルタイムは、B液をA液に投入し、直ちにハンドミキサを用いて混合し計時する方法で測定した。測定結果を以下の表5及び6に示す。
【0055】
【表5】
【0056】
【表6】
【0057】
表5に示すように、実施例1~13は、ゲルタイムが15秒以内となっており、表1に示す硬化型滑材の目標性状を満足している。これに対し、表6に示すように、比較例1,12,13,15~17はゲルタイムが15秒を超えており、硬化型滑材の目標性状を満足していない。ゲルタイムは、硬化材の配合量が少ない場合、あるいは塑強調整剤の配合量が多い場合に、目標性状を満足しない傾向がある。よって、硬化材及び塑強調整剤の配合量に応じた適切なゲル化促進剤配合量を見い出す必要がある。例えば、実施例6及び比較例12は何れも、硬化材が150kgで、塑強調整剤が50Lであり、実施例6と比較例12とでは硬化材及び塑強調整剤の配合量が同じであるが、ゲル化促進剤が無添加の比較例12のゲルタイムが20秒であるのに対し、ゲル化促進剤3kgを添加した実施例6のゲルタイムが10秒となっており、実施例6は比較例12の2分の1までゲルタイムが短縮されていることが分かる。同様に、実施例8及び比較例15は何れも、硬化材が150kg、塑強調整剤が75Lであり、実施例8と比較例15とでは硬化材及び塑強調整剤の配合量が同じであるが、ゲル化促進剤無添加の比較例15のゲルタイムが43秒であるのに対し、ゲル化促進剤6kgを添加した実施例8のゲルタイムが11秒となっており、実施例8は比較例15の約4分の1程度にまでゲルタイムが短縮されていることが分かる。
【0058】
<粘性の測定>
実施例1~13及び比較例1~23について、A液及びB液の混合直後、1時間後、6時間後、12時間後の粘性を測定した。粘性の測定には、リオン株式会社製VT-04Fの1番ローターを使用した。測定結果を以下の表7及び8に示す。なお、粘性の目安は、清水が0.01dPa・s、気泡が5dPa・s、ジャムが60dPa・s、チューブグリスが300dPa・s程度である。
【0059】
【表7】
【0060】
【表8】
【0061】
表7に示すように、実施例1~13はA液とB液との混合直後の粘性が100dPa・s以上となっており、表1に示す硬化型滑材の目標性状を満足している。これに対し、表8に示すように、比較例2~7、9~11,14,19はA液とB液との混合直後の粘性が100dPa・s未満となっており、硬化型滑材の目標性状を満足していない。粘性は、硬化材の配合量及び塑強調整剤の配合量が少ない場合に、目標性状を満足しない傾向がある。よって、必要強度に応じた適切な配合を選定する必要がある。例えば、表2に示す実施例において、硬化材100kgの配合を基準とした場合、硬化型滑材の目標性状を満足するのは、実施例1のみの1ケースであり、硬化材200kgの配合を基準とした場合、硬化型滑材の目標性状を満足するのは、実施例13のみの1ケースである。これに対し、硬化材125kgの配合を基準とした場合、硬化型滑材の目標性状を満足するのは、実施例2及び3の2ケースであり、硬化材175kgの配合を基準とした場合、硬化型滑材の目標性状を満足するのは、実施例11及び12の2ケースであり、硬化材125kg又は175kgの配合を基準とした場合は2ケースから選定可能である。さらに、硬化材150kgの配合を基準とした場合、硬化型滑材の目標性状を満足するのは、実施例4~10の7ケースであり、7ケースから選定可能な自由度が高く比較的容易に調製できる配合を見出すことができる。
【0062】
<一軸圧縮強度の測定>
実施例1~13及び比較例1~23について、JIS A 1216「土の一軸圧縮試験」に従って、一軸圧縮強度を測定した。測定結果を以下の表9及び10に示す。
【0063】
【表9】
【0064】
【表10】
【0065】
表9に示すように、実施例1~13は28日後の一軸圧縮強度が200~1000kN/mの範囲であり、表1に示す硬化型滑材の目標性状を満足している。これに対し、表10に示すように、比較例1~11,19は28日後の一軸圧縮強度が200kN/m未満、比較例18,20~23は、1000kN/mを超えており、硬化型滑材の目標性状を満足していない。強度は、硬化材の配合量と塑強調整剤の配合量の適度なバランスで決定されるため、必要強度に応じた適切な配合を選定する必要がある。例えば、実施例5,8~10,12,13は、1日強度で目標性状200kN/m以上を満足しており、重要構造物近接施工等における有効な配合である。また、実施例7,9,10、比較例10,11,14は、A液の凝結・硬化を遅延させる安定剤を通常の5~10倍加えたケースであるが、安定剤を増やしてもゲルタイムはそれほど変化しないので(表5及び6参照)、安定剤の増量によって適度な粘性と強度を調整でき、地盤の性状や滑材注入装置20(図1参照)の性能に応じて種々のバリエーションを増やすことができる。なお、掘進機5等の故障により推進工法の施工を中止しなければならないなどのトラブル時において、安定剤の増量によってA液の凝結・硬化を遅延させることにより、A液の廃棄を回避することができる。
【0066】
<沈下量測定試験>
塑強調整剤の配合量の調整で強度設定が容易な実施例4,6,8及び比較例1について、圧密試験を行った。本試験は、試験容器(φ50mm×H55mm)の下部に各種硬化型滑材試料を25mm、上部に地山を想定した模擬砂(γ=19.03kN/m、含水比12.5%)を25mm、合計50mmの高さに敷きならし、その上部より、載荷治具(φ49.7mm)を用いて、鉛直土圧を想定した350kN/mの載荷を48時間まで連続して実施し、硬化型滑材の沈下量を測定することにより行われる。また、載荷後の硬化型滑材の高さを硬化型滑材の初期高さ25mmで除した値より、硬化型滑材の残存率を算出した。測定結果及び残存率を以下の表11に示す。
【0067】
【表11】
【0068】
表11に示すように、実施例4,6,8は、48時間後においても10%未満の沈下で留まり、表1に示す硬化型滑材の目標性状(残存率50%以上)を十分に満足しており、圧密に対する抵抗性が高く、自立性に優れていることが分かる。これに対し、比較例1は、載荷の時間経過により沈下が進行し、48時間後には残存率が50%程度にまで圧密された。表1に示す硬化型滑材の目標性状(残存率50%以上)を一応満足しているものの、1時間後において残存率が67%程度にまで急激に圧密されており、土砂の間隙から滑材が流出したり、上方からの載荷土圧によって硬化型滑材が圧密されたりするなどして、使用初期の段階において硬化型滑材本来の機能を発揮しない虞がある。
【0069】
<ろ水量測定試験>
塑強調整剤の配合量の調整で強度設定が容易な実施例4,6,8及び比較例1について、ろ水量測定試験を行って地山保持性能の指標である残存率を算出した。かかる残存率は、APIろ過試験機シリンダー内に、地山想定の模擬砂(γ=19.03kN/m、含水比12.5%)を150mL相当、上部に硬化型滑材試料を150mL相当、計300mLを敷き詰め、シリンダー上部より430kN/mの空気圧にて加圧して、ろ過水量を測定し、測定されたろ過水量を滑材試料初期値150mLで除することで算出したものである。残存率の結果を表12に示す。
【0070】
【表12】
【0071】
表12に示すように、実施例4,6,8は、加圧60分後においても、残存率65%以上を示しており、表1に示す硬化型滑材の目標性状(残存率50%以上)を十分に満足しており、圧力に対する抵抗性に優れていることが分かった。これに対し、比較例1は、加圧60分後において、残存率33%までに減少した。先の圧密試験の結果と同様に、比較例1は圧力に対し脆弱であることが分かった。
【0072】
<長期浸漬試験>
塑強調整剤の配合量の調整で強度設定が容易な実施例4,6,8及び比較例1について、長期浸漬試験を行った。本試験は、φ50mm×H100mmの硬化型滑材供試体を、清水中及び海水中に浸漬した際の外観性状の変化を28日後まで観察し、清水中及び海水中の安定性を比較するものである。試験結果を表13に示す。
【0073】
【表13】
【0074】
表13に示すように、実施例4,6,8は、浸漬28日後まで供試体に変状は無く、清水中及び海水中の安定性が優れていることが分かった。これに対し、比較例1は、浸漬7日後より供試体の一部の欠損が見られ、浸漬21日後には供試体の断裂が見られた。特に海水中に浸漬したものでは、浸漬28日後に細かい欠片にまで崩壊しており、水中、特に海水中の安定性が低いことが分かった。
【0075】
<摩擦特性試験>
実施例1~13のうち、28日後の一軸圧縮強度が最も大きい実施例8(826kN/m)について、摩擦特性試験を行った。本発明では、鉛直応力が大きい条件で滑材効果を確認するために、ジオシンセティックス(土木・建築用途に用いられる繊維・高分子系資材)摩擦特性評価用の大型一面せん断試験機(せん断面積A=0.345m×0.490m=0.169m)を用いた。試験方法は、公益社団法人地盤工学会基準(土とジオシンセティックスの一面せん断試験方法(JGS 0941)」に準じて行った。鉛直応力は50kPa、150kPa、350kPaの3ケース、摩擦面は、鋼板及びコンクリート板を使用し、それぞれ摩擦力低減剤塗布有無の4ケース、合計12ケースにて実施した。本試験結果に基づく、静止摩擦係数を表14に示す。
【0076】
【表14】
【0077】
表14に示すように、摩擦力低減剤の塗布の有無にかかわらず、静止摩擦係数は0.2程度以下である。また、摩擦力低減剤の塗布により、静止摩擦係数は半分程度まで低減でき、高圧下で有効なことが見い出せた。
【0078】
本発明の硬化型滑材において、初期強度及びゲルタイムは、塑強調整剤として使用される珪酸ナトリウム含有水溶液における珪酸ナトリウムの添加量、濃度、モル比、A液に対する混合比率によって、表15に示すように変化する。
【0079】
【表15】
【0080】
珪酸ナトリウムの種類としては、例えば、1号~5号珪酸ナトリウムを挙げることができ、その配合を表16に示す。
【0081】
【表16】
【0082】
<塑強調整剤の濃度、モル比が性能に与える影響の試験>
実施例1~13のうち、28日後の一軸圧縮強度が最も大きい実施例8(826kN/m)において、塑強調整剤として使用される珪酸ナトリウム含有水溶液における珪酸ナトリウムの濃度、モル比を種々に変化させて、硬化型滑材の性状に与える影響について試験した(実施例8-1~8-9、比較例8-10~8-12)。その結果を表17(実施例8-1~8-9)及び表18(比較例8-10~8-12)に示す。なお、本試験においては、表16に示す1号~5号珪酸ナトリウムのうち、3号珪酸ナトリウム(モル比n=3.2、比重ρ=1.40)、5号珪酸ナトリウム(モル比n=3.7、比重ρ=1.32)、4号珪酸ナトリウム(モル比n=4.0、比重ρ=1.28)を用いた。
【0083】
【表17】
【0084】
【表18】
【0085】
図2は、SiO(二酸化珪素)及びNaO(酸化ナトリウム)の比率に対する比重とモル比との関係を示す図である。表17及び18に示す結果から、図2中記号D矢印で示す網掛ハッチング領域、すなわち、塑強調整剤として、SiO/NaOで表されるモル比で3~4の範囲、にある珪酸ナトリウムの濃度が27~39%である珪酸ナトリウム含有水溶液(水ガラス)を用いることが好ましいことが分かった。さらには、珪酸ナトリウムの濃度が30~37%であればより好ましい。なお、珪酸ナトリウム含有水溶液を清水で希釈し使用すれば、さらに適用範囲が拡大する。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の硬化型滑材、及び推進工法は、大深度・高水圧下において推進管と地山との間の摩擦力を低減し、且つテールボイドを安定に維持して管路地盤の崩落を防ぐ用途において利用可能である。
【符号の説明】
【0087】
11,12 推進管
15 テールボイド
50 硬化型滑材
図1
図2