(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101924
(43)【公開日】2024-07-30
(54)【発明の名称】軸受用鋼
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20240723BHJP
C22C 38/60 20060101ALI20240723BHJP
C21D 8/06 20060101ALI20240723BHJP
C21D 9/40 20060101ALN20240723BHJP
【FI】
C22C38/00 301Y
C22C38/60
C21D8/06 A
C21D9/40 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023006148
(22)【出願日】2023-01-18
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(74)【代理人】
【識別番号】100119079
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 佐保子
(72)【発明者】
【氏名】大森 靖浩
【テーマコード(参考)】
4K032
4K042
【Fターム(参考)】
4K032AA01
4K032AA06
4K032AA07
4K032AA11
4K032AA12
4K032AA14
4K032AA16
4K032AA19
4K032AA23
4K032AA26
4K032AA31
4K032AA32
4K032BA02
4K032CA01
4K032CA02
4K032CA03
4K032CC03
4K032CC04
4K032CD01
4K032CD02
4K032CD03
4K032CF02
4K042AA22
4K042BA03
4K042CA05
4K042CA06
4K042CA08
4K042CA10
4K042DA01
4K042DA02
4K042DC02
4K042DC03
4K042DD02
4K042DE02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】転がり軸受等の部品製造に必要な加工性は確保しながら、焼入・焼もどし後の硬さの低下を抑制することが可能な軸受用鋼を提供する。
【解決手段】質量%で、C:0.85%以上1.20%以下、Si:0.10%以上1.10%以下、Mn:0.20%以上1.30%以下、Cr:0.80%以上1.80%以下、Al:0.050%以下、O:0.0030%以下及びSb:0.0005%以上0.0050%以下を含有し、残部はFe及び不可避的不純物からなる成分組成を有し、初析セメンタイト面積率1.3%未満であり、残部がパーライト組織であるミクロ組織を有する、軸受用鋼。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C:0.85%以上1.20%以下、
Si:0.10%以上1.10%以下、
Mn:0.20%以上1.30%以下、
Cr:0.80%以上1.80%以下、
Al:0.050%以下、
O:0.0030%以下及び
Sb:0.0005%以上0.0050%以下を含有し、
残部はFe及び不可避的不純物からなる成分組成を有し、
初析セメンタイト面積率1.3%未満であり、残部がパーライト組織であるミクロ組織を有する、軸受用鋼。
【請求項2】
さらに質量%で、
Cu:0.05%以上0.20%以下、
Ni:0.05%以上0.20%以下及び
Mo:0.03%以上0.10%以下からなる群より選択される少なくとも一種以上を含有する、請求項1記載の軸受用鋼。
【請求項3】
質量%で、
C:0.85%以上1.20%以下、
Si:0.10%以上1.10%以下、
Mn:0.20%以上1.30%以下、
Cr:0.80%以上1.80%以下、
Al:0.050%以下、
O:0.0030%以下及び
Sb:0.0005%以上0.0050%以下を含有し、
残部はFe及び不可避的不純物からなる成分組成を有し、
面積率で、球状炭化物を12%以上20%以下有し、残部がフェライトであり、
前記球状炭化物の平均粒径が0.50μm未満であり、かつ最大粒径が2.50μm以下であるミクロ組織を有する、軸受用鋼。
【請求項4】
さらに質量%で、
Cu:0.05%以上0.20%以下、
Ni:0.05%以上0.20%以下及び
Mo:0.03%以上0.10%以下からなる群より選択される少なくとも一種以上を含有する、請求項3記載の軸受用鋼。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受用鋼に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車及び産業機械等に用いる転がり軸受用鋼としては、高炭素クロム軸受鋼(JIS 規格:SUJ2)が最も多く利用されている。このSUJ2は、0.95~1.10質量%(以下単に%で示す)のCを含有していることから非常に硬質であるため、まず球状化焼鈍を行って加工性を向上させたのち、成形加工し、その後に焼入・焼きもどし処理を施すことによって転がり軸受に必要な硬さを確保している。焼入・焼もどし後の硬さが低下した場合、転がり軸受にとって重要な転動疲労寿命の低下につながる。
【0003】
この問題に対処するため、特許文献1では、熱処理時の脱炭層発生による焼入・焼もどし後の硬さ低下を防止するため、Sbを適量添加した軸受用鋼が提案されている。
特許文献2では、圧延後のコイル材に温間精密圧延加工を施すことにより、焼入・焼もどし後の硬さ確保を図った転がり軸受の製造方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5-271866号公報
【特許文献2】特開2007-191796号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
転がり軸受については、振動や音響特性を改善する観点から、通常、切削又は研削により脱炭層が除去される。特許文献1に記載の軸受用鋼は、焼入・焼もどし後、脱炭層が存在する状態での表面硬さの低下を防止するのには有効であるが、この切削又は研削により脱炭層を除去した後の表面硬さの低下防止を図ることができないという問題があった。
また、特許文献2に記載の転がり軸受の製造方法は、温間精密圧延加工設備が必要であり、一般的な転がり軸受の製造設備では実施できないという問題があった。
【0006】
本発明は、上記の問題を有利に解決するものであり、転がり軸受等の部品製造に必要な加工性は確保しながら、焼入・焼もどし後の硬さの低下を抑制することが可能な軸受用鋼を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するため、鋼の成分組成、組織及び熱間圧延条件の硬さへの影響について鋭意検討を行った。その結果、本発明者は、焼入・焼もどし後の硬さ低下は、主に焼入・焼もどし処理時の加熱温度、加熱時間、冷却速度のばらつきによって生じるが、ばらつきが十分に抑制され、これらが同一の条件といえる場合においても硬さ低下が生じることがあることを見出した。そして、硬さ低下の原因について、本発明者が焼入・焼もどし処理前の素材のミクロ組織に着目して調査を行った結果、以下のことが明らかとなった。
1)圧延後の鋼材のミクロ組織において初析セメンタイトが増加すると焼入・焼もどし後硬さが低下する。
2)圧延後の鋼材のミクロ組織において初析セメンタイトが増加した場合、その後の球状化焼鈍後のミクロ組織において粗大な球状炭化物が増加する。
3)球状化焼鈍後の鋼材のミクロ組織において粗大な球状炭化物が増加した場合、その後の焼入・焼もどし処理において、加熱時の球状炭化物からオーステナイトマトリックスへのCの溶け込みが不足し、硬さが低下する。
【0008】
そして、本発明者がさらに検討した結果、鋼材の成分組成及び熱間圧延条件を制御することにより、熱間圧延後のミクロ組織において初析セメンタイトを面積率で1.3%未満とした軸受用鋼、また、当該鋼を球状化焼鈍して、球状炭化物平均粒径を0.50μm未満、かつ球状炭化物最大粒径を2.50μm以下とした軸受用鋼について、焼入・焼きもどし後の硬さ低下が抑制されるとの知見を得て、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
[1]質量%で、
C:0.85%以上1.20%以下、
Si:0.10%以上1.10%以下、
Mn:0.20%以上1.30%以下、
Cr:0.80%以上1.80%以下、
Al:0.050%以下、
O:0.0030%以下及び
Sb:0.0005%以上0.0050%以下を含有し、
残部はFe及び不可避的不純物からなる成分組成を有し、
初析セメンタイト面積率1.3%未満であり、残部がパーライト組織であるミクロ組織を有する、軸受用鋼。
[2]さらに質量%で、
Cu:0.05%以上0.20%以下、
Ni:0.05%以上0.20%以下及び
Mo:0.03%以上0.10%以下からなる群より選択される少なくとも一種以上を含有する、[1]の軸受用鋼。
[3]質量%で、
C:0.85%以上1.20%以下、
Si:0.10%以上1.10%以下、
Mn:0.20%以上1.30%以下、
Cr:0.80%以上1.80%以下、
Al:0.050%以下、
O:0.0030%以下及び
Sb:0.0005%以上0.0050%以下を含有し、
残部はFe及び不可避的不純物からなる成分組成を有し、
面積率で、球状化物を12%以上20%以下有し、残部がフェライトであり、
前記球状炭化物の平均粒径が0.50μm未満であり、かつ最大粒径が2.50μm以下であるミクロ組織を有する、軸受用鋼。
[4]さらに質量%で、
Cu:0.05%以上0.20%以下、
Ni:0.05%以上0.20%以下及び
Mo:0.03%以上0.10%以下からなる群より選択される少なくとも一種以上を含有する、[3]の軸受用鋼。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、焼入・焼もどし後の硬さに優れた軸受用鋼を提供することができ、転がり軸受への適用に極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】軸受部品等の製品を製造する代表的な製造工程を示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を具体的に説明する。
【0013】
<成分組成>
まず、本発明の軸受用鋼における成分組成について説明する。なお、以下の成分組成を表す「%」は、特に断らない限り「質量%」を意味するものとする。
【0014】
C: 0.85%以上1.20%以下
Cは、軸受用鋼として必要な強度を確保するために必須の元素であり、0.85%以上含有させる。しかしながら、1.20%を超えると熱間圧延後の初析セメンタイトが増加し、焼入・焼きもどし後の硬さが低下するため、C含有量は1.20%以下とする。C含有量は、好ましくは、0.95%以上であり、また、1.10%以下である。
【0015】
Si: 0.10%以上1.10%以下
Siは、脱酸及び焼入・焼きもどし後の硬さ確保に有効な元素であり、0.10%以上含有させる。しかしながら、1.10%を超えるとフェライト相の固溶硬化により、初析セメンタイトの増加を招き、また、鍛造性及び機械加工性を劣化させるため、Si含有量は1.10%以下とする。Si含有量は、好ましくは、0.15%以上であり、また、0.80%以下である。
【0016】
Mn:0.20%以上1.30%以下
Mnは、脱酸に必要な元素であり、また焼入・焼きもどし後の硬さ確保に有効な元素であり、0.20%以上含有させる。しかしながら、1.30%を超えると初析セメンタイトの増加を招き、また、鍛造性及び機械加工性を劣化させるため、Mn含有量は1.30%以下とする。Mn含有量は、好ましくは、0.30%以上であり、また、1.20%以下である。
【0017】
Cr:0.80%以上1.80%以下
Crは、焼入・焼きもどし後の硬さ確保に有効であるとともに、炭化物の形成を著しく促進し、かつパーライトラメラー間隔及びパーライトノジュールを細かくする効果を有し、最終的に炭化物球状化による鍛造性向上に必要な元素であり、0.80%以上含有させる。一方、1.80%を超えて含有させてもその効果は増加せず、かえって初析セメンタイトの増加を招き、鍛造性及び疲労強度等の機械的特性にも悪影響を与えるため、Cr含有量は1.80%以下とする。Cr含有量は、好ましくは、0.90%以上であり、また、1.60%以下である。
【0018】
Al: 0.050%以下
Alは、脱酸材であり、多量に含有させてもその効果が飽和し、コストアップにつながるため、Al含有量は0.050%以下とし、好ましくは0.040%以下である。Al含有量の下限は特に限定されないが、脱酸の点から、0.005%以上とすることができる。
【0019】
O:0.0030%以下
Oは、Alと結合し硬質な酸化物系非金属介在物を形成し、鍛造性や転動疲労寿命を低下させることから少ないほうが望ましい。そのため、O含有量は0.0030%以下とし、好ましくは、0.0015%以下である。O含有量の下限は特に限定されず、0%であってもよいが、極端に低減させることはコスト増につながるため、例えば、0.0004%以上とすることができる。
【0020】
Sb:0.0005%以上0.0050%以下
Sbは、初析セメンタイトを不安定化し、生成量を低下させる作用があり、本発明において重要な元素である。また、Sbは、結晶粒界に偏析して粒界からの酸素侵入を抑制することで鋼の加熱時の脱炭を抑制する作用があり、脱炭による表層部の硬さ低下抑制に有用である。これらの点から、Sb含有量は0.0005%以上とする。しかしながら、多量に添加してもその効果が飽和し、コストアップにつながるため、Sb含有量は0.0050%以下とする。Sb含有量は、好ましくは、0.0003%以上であり、また、0.0035%以下である。
【0021】
上記の元素に加え、Cu:0.05%以上0.20%%以下、Ni:0.05%以上0.20%以下、Mo:0.03%以上0.10%以下からなる群より選択される1種又は2種以上を、任意成分として含有させることができる。
【0022】
Cu:0.05%以上0.20%以下、Ni:0.05%以上0.20%以下、Mo:0.03%以上0.10%以下
Cu、Ni及びMoは、いずれも焼入性を高め、鋼の転動疲労寿命を向上させるのに有効な元素であるため、これらを含有させる場合、Cu含有量は0.05%以上、Ni含有量は0.05%以上、Mo含有量は0.03%以上とすることができる。しかしながら、Cu、Moを過剰に含有させた場合、初析セメンタイトの増加及び鍛造性の低下が起こり、また、Niを過剰に含有させた場合、残留オーステナイトが多量に生成し、鋼材硬さが低下して転動疲労寿命が低下する。このため、これらを含有させる場合、Cu含有量は0.20%以下、Ni含有量は0.20%以下、Mo含有量は0.10%以下とすることができる。
【0023】
成分組成の残部は、Fe及び不可避的不純物である。
【0024】
<ミクロ組織>
次に、本発明の軸受用鋼におけるミクロ組織について説明する。
【0025】
本発明の軸受用鋼は、鋼材を熱間圧延した熱間圧延材及び熱間圧延材に球状化焼鈍を施した球状化焼鈍材を包含する。
【0026】
熱間圧延材のミクロ組織
熱間圧延後のミクロ組織は、初析セメンタイト面積率1.3%未満であり、残部がパーライト組織である。初析セメンタイトが増加すると焼入・焼もどし後硬さが低下し、転がり軸受における転動疲労寿命の低下につながる。このため、熱間圧延材のミクロ組織における初析セメンタイト面積率を1.3%未満とする。初析セメンタイト面積率は、好ましくは、1.2%以下である。初析セメンタイトの下限は特に限定されず、0%であってもよい。
【0027】
球状化焼鈍材のミクロ組織
熱間圧延材に球状化焼鈍を施した後のミクロ組織における球状炭化物は、平均粒径が0.50μm未満であり、かつ最大粒径2.50μm以下である。球状化焼鈍後のミクロ組織において、粗大な球状炭化物が増加すると焼入・焼もどし処理において、加熱時の球状炭化物からオーステナイトマトリックスへのCの溶け込みが不足し、硬さが低下する。硬さ低下防止のため、球状炭化物は平均粒径0.50μm未満、かつ最大粒径2.50μm以下とする。球状炭化物の平均粒径は、好ましくは0.45μm以下、かつ最大粒径は好ましくは2.10μm以下である。球状炭化物の平均粒径は0.05μm以上であることができる。
【0028】
球状化焼鈍材のミクロ組織は、面積率で、球状炭化物を12%以上20%以下有することができる。球状炭化物の面積率は、焼入・焼きもどし後の硬さ確保の点から、好ましくは13%以上18%以下である。ミクロ組成の残部はフェライトである。
【0029】
初析セメンタイトの面積率は、以下のようにして求める。
熱間圧延材から試験片を採取し、圧延方向に平行な垂直断面(L断面)について、研磨後ナイタールで腐食し、走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、倍率1万倍で20視野(一視野92μm×121μm)の断面組織観察を行い、各視野内で観察される初析セメンタイトについて面積率を画像解析によって求め、20視野の算術平均を初析セメンタイトの面積率とする。
【0030】
球状炭化物の平均粒径は、以下のようにして求める。
球状化焼鈍材から試験片を採取し、圧延方向に平行な垂直断面(L断面)について、研磨後ピクラールで腐食し、走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、倍率1万倍で20視野(一視野92μm×121μm)の断面組織観察を行い、各視野内で観察される球状炭化物の円相当径の個数平均を画像解析によって求め、20視野の算術平均を球状炭化物の平均粒径とする。各視野内で観察対象とする球状炭化物は、円相当径(粒径)が0.05μm以上のものとする。
【0031】
球状炭化物の最大粒径は、以下のようにして求める。
球状化焼鈍材から試験片を採取し、圧延方向に平行な垂直断面(L断面)について、研磨後ピクラールで腐食し、走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、倍率1万倍で20視野(一視野92μm×121μm)の断面組織観察を行い、各視野内で観察される球状炭化物の円相当径の最大値を画像解析によって求め、20視野の最大値を球状炭化物の最大粒径とする。各視野内で観察対象とする球状炭化物は、円相当径が0.05μm以上のものとする。
【0032】
面積率は、以下のようにして求められる。
球状化焼鈍材から試験片を採取し、圧延方向に平行な垂直断面(L断面)について、研磨後ピクラールで腐食し、走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、倍率1万倍で20視野(一視野92μm×121μm)の断面組織観察を行い、各視野内で観察される球状炭化物の総面積を画像解析によって求め、それを視野面積で割って面積率を求め、20視野の算術平均を球状炭化物の面積率とする。各視野内で観察対象とする球状炭化物は、円相当径(粒径)が0.05μm以上のものとする。
【0033】
<軸受用鋼の製造方法>
次に、本発明の軸受用鋼の製造方法について説明する。
図1に、軸受部品等の製品を製造する代表的な製造工程を示す。ここで、S1は素材となる線材製造工程、S2は搬送工程、S3は製品(軸受部品)仕上げ工程である。線材製造工程(S1)では鋼塊を熱間圧延して線材とし、球状化焼鈍により軟化処理を行った後、品質検査して出荷する。
搬送工程(S2)後、製品(軸受部品)仕上げ工程(S3)で、該線材を所定の寸法に切断し、冷間鍛造を行い、必要に応じて切削、研削、研磨等の加工で所望の形状(例えば、鋼球やころ)とした後、焼入・焼きもどし処理を行って、製品とする。
【0034】
本発明の軸受用鋼は、一実施態様で、所定の成分組成を有する鋼塊を熱間圧延した線材である熱間圧延材である。
【0035】
鋼塊の成分組成は、本発明の軸受用鋼における成分組成と同様であり、
質量%で、
C:0.85%以上1.20%以下、
Si:0.10%以上1.10%以下、
Mn:0.20%以上1.30%以下、
Cr:0.80%以上1.80%以下、
Al:0.050%以下、
O:0.0030%以下及び
Sb:0.0005%以上0.0050%以下を含有し、
残部はFe及び不可避的不純物からなる成分組成を有する。
【0036】
鋼塊の成分組成は、さらに質量%で、
Cu:0.05%以上0.20%以下、
Ni:0.05%以上0.20%以下及び
Mo:0.03%以上0.10%以下からなる群より選択される少なくとも一種以上を含有することができる。
【0037】
本発明の軸受用鋼の製造方法では、熱間圧延工程において所定の条件を満たすようにすることで、熱間圧延材におけるミクロ組織及び当該熱間圧延材に球状化焼鈍を施した後の球状炭化物の平均粒径及び最大粒径を所定の範囲内に制御することができる。
【0038】
熱間圧延工程
熱間圧延工程では、所定の成分組成を有する鋼塊を準備し、950℃以上1250℃以下で加熱した鋼塊を圧延仕上げ温度:800℃以上で熱間圧延し、800~550℃の温度域の冷却速度を0.4℃/s超で冷却する。これらの条件を満たすことで、初析セメンタイト面積率1.3%未満であり、残部がパーライト組織であるミクロ組織を有する熱間圧延材を得ることができ、この材を軸受用鋼として用いることができる。
【0039】
圧延加熱温度:950℃以上1250℃以下
熱間圧延材に粗大セメンタイトが析出しないよう、溶解・鋳造時から残存する炭化物を固溶させるため、鋼塊を950℃以上1250℃以下の温度で加熱して圧延する。
【0040】
圧延加熱温度が950℃に満たないと、溶解・鋳造時から残存する炭化物が十分に固溶しない。一方、1250℃を超えると、表面スケールが過大に生成し表面疵が発生しやすくなり、また、結晶粒が粗大化して鍛造性が悪化する。このため、圧延加熱温度は950℃以上1250℃以下とする。圧延加熱温度は、好ましくは、980℃以上であり、また、1200℃以下である。
【0041】
圧延仕上げ温度:800℃以上
圧延仕上げ温度が800℃未満の場合、熱間変形抵抗が増大し圧延負荷が高くなる。従って、圧延仕上げ温度は800℃以上とする。なお、圧延仕上げ温度の上限値は、1100℃程度とすることが好ましい。
【0042】
圧延後冷却速度:0.4℃/s超
圧延後の冷却において、800~550℃の温度域の冷却速度を0.4℃/s超とする。
パーライト変態温度範囲である800~550℃の温度域の冷却速度を0.4℃/s超とすることで、圧延後のパーライトラメラー間隔を微細化し、球状化焼鈍後の球状炭化物を微細に制御することができる。冷却速度の上限値は、30℃/s程度が好ましい。
【0043】
熱間圧延工程で得られた熱間圧延材を球状化焼鈍に付して、球状炭化物の平均粒径が0.50μm未満であり、かつ最大粒径が2.50μm以下であるミクロ組織を有する球状化焼鈍材を得ることができ、この材を軸受用鋼として用いることができる。
【0044】
球状化焼鈍材である軸受用鋼は、所定の寸法に切断し、冷間鍛造を行い、必要に応じて切削、研削、研磨等の加工で所望の形状(例えば、鋼球やころ)とした後、焼入・焼きもどし処理を行って、軸受部品等の製品とすることができる。
【実施例0045】
以下、本発明の実施例について具体的に説明する。
【0046】
表1に示す組成の鋼(鋼種1~10)を150kg真空溶解炉にて溶製し、表2に示す圧延条件にて熱間圧延を行い、15mmφの線材とした。
得られた熱間圧延材について、組織観察を行った。組織観察では、前述した方法により、初析セメンタイトの面積率を求めた。
【0047】
鋼(鋼種1~10)について、上記の熱間圧延後、球状化焼鈍処理を施して、球状化焼鈍材を得た。球状化焼鈍処理は、熱間圧延材を780℃に加熱し、6.5時間保持することによって行った。
得られた球状化焼鈍材について、組織観察を行った。組織観察では、前述した方法により、球状炭化物の平均粒径及び最大粒径、ならびに球状炭化物の面積率を求めた。残部はフェライトである。
【0048】
さらに、球状化焼鈍材について、冷間鍛造性試験を行った。冷間鍛造性試験は,球状化焼鈍材より15mmφ×22.5mmの円柱状試験片を作成し300tプレスを用いて圧縮率を変えて圧縮試験を行った。試験片側面の割れ発生有無を目視にて確認し、割れの発生した圧縮率を割れ限界圧縮率として評価した。
【0049】
また、球状化焼鈍材に対して、焼入れ・焼きもどし処理を施して、焼入れ・焼きもどし処理材を得た。焼入れ・焼きもどし処理は、840℃に加熱し60分保持後、50℃の油中で油冷し、さらに170℃で1.5時間焼戻すことにより行った。
得られた焼入れ・焼きもどし処理材について、硬度測定を行った。硬度測定では、焼入れ・焼きもどし処理材の表面硬さを表面から0.05mmの位置で測定した。表面硬さの測定は、ビッカース硬度計を用い、JIS Z 2244に準拠して表面部の硬さを2.94N(300gf)の試験荷重で6点測定し、その平均値を表面硬さHVとした。
【0050】
表2に試験結果を示す。
【0051】
【0052】
【0053】
表2から明らかなように、発明例であるNo.1~4はいずれも、No.5~13の比較例に比べて、焼入れ焼きもどし後の表面硬さが高く優れている。
比較例No.5~13は圧延条件又は成分組成が本発明範囲外であった。これらの例では、得られた鋼組織が本発明範囲外であり、焼入れ焼きもどし後硬さ及び冷間鍛造性の少なくともいずれかが劣っている。
No.5は、圧延加熱温度及び圧延仕上げ温度が適正範囲に満たないため、本発明範囲の鋼組織が得られず、焼入れ焼きもどし後硬さが低い。
No.6は、圧延後冷却速度が本発明範囲に満たないため、初析セメンタイト面積率が高く、球状化焼鈍後の炭化物平均粒径及び炭化物最大粒径が本発明範囲よりも大きく、焼入れ焼きもどし後硬さが低下している。
No.7は、C含有量が適正範囲に満たず、焼入れ焼きもどし後硬さが低い。
No.8は、C含有量が適正範囲を超えており、初析セメンタイト面積率が高く、炭化物平均粒径及び炭化物最大粒径も大きく、焼入れ焼きもどし後硬さが低下している。
No.9は、Mo含有量、Si含有量及びMn含有量が適正範囲を超えており、初析セメンタイト面積率、炭化物平均粒径、炭化物最大粒径が本発明範囲を超えている。この例では、焼入れ焼きもどし後硬さが低下しており、また、冷間鍛造性も低下している。
No.10は、Cu含有量及びNi含有量が適正範囲を超えており、初析セメンタイト面積率、炭化物平均粒径、炭化物最大粒径が本発明範囲を超えている。この例では、焼入れ焼きもどし後硬さが低下している。
No.11は、Cr含有量及びMo含有量が適正範囲を超えており、Sb含有量が本発明範囲下限より低く、初析セメンタイト面積率、炭化物平均粒径、炭化物最大粒径が本発明範囲を超えている。この例では、焼入れ焼きもどし後硬さが低下しており、また、冷間鍛造性も低下している。
No.12は、O含有量が適正範囲を超えており、冷間鍛造性が低下している。
No.13は、Si、Mn、Cr含有量が適正範囲下限より低く、焼入れ焼きもどし後硬さが低下している。また、Cr含有量が低いため、冷間鍛造性が低下している。