(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101933
(43)【公開日】2024-07-30
(54)【発明の名称】環境負荷評価システム
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/08 20120101AFI20240723BHJP
【FI】
G06Q50/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023006167
(22)【出願日】2023-01-18
(71)【出願人】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大渕 正博
(72)【発明者】
【氏名】吉澤 睦博
【テーマコード(参考)】
5L049
5L050
【Fターム(参考)】
5L049CC07
5L050CC07
(57)【要約】
【課題】建物の耐震性能を考慮して環境負荷の評価を可能とすることを目的とする。
【解決手段】環境負荷評価システムは、建物の地点の地震の発生確率と地震の強さと関係を示す所定の地震ハザード評価、並びにあらかじめ設定された建物の使用期間及び環境負荷に関する評価期間を取得する評価条件取得部と、所定の耐震設計から得られる建物の構造特性を入力として、前記構造特性に基づいて、損傷度ごとに、前記構造特性から建物の脆弱性を評価するための所定の関数を用いて、建物についての耐震性能を評価する耐震性能評価部と、損傷度ごとに、前記地震ハザード評価及び前記耐震性能に基づく地震被害に関する損害額、所定の建設費用、及び環境負荷の特定指標に関する原単位を用いて、前記使用期間と前記評価期間に対する、統合した環境負荷への影響度を評価する環境負荷評価部と、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の地点の地震の発生確率と地震の強さと関係を示す所定の地震ハザード評価、並びにあらかじめ設定された建物の使用期間及び環境負荷に関する評価期間を取得する評価条件取得部と、
所定の耐震設計から得られる建物の構造特性を入力として、前記構造特性に基づいて、損傷度ごとに、前記構造特性から建物の脆弱性を評価するための所定の関数を用いて、建物についての耐震性能を評価する耐震性能評価部と、
損傷度ごとに、前記地震ハザード評価及び前記耐震性能に基づく地震被害に関する損害額、所定の建設費用、及び環境負荷の特定指標に関する原単位を用いて、前記使用期間と前記評価期間に対する、統合した環境負荷への影響度を評価する環境負荷評価部と、
環境負荷評価システム。
【請求項2】
前記環境負荷評価部は、
所定の影響カテゴリー、前記地震被害に関する損害額、前記建設費用、及び前記特定指標に関する原単位を用いて、特定指標に対する環境負荷へのカテゴリー影響度を算出し、
前記カテゴリー影響度と、総合的な環境負荷を評価するための統合化係数とに基づいて、総合的な環境負荷への影響度を算出し、
前記総合的な環境負荷への影響度に対して前記使用期間及び前記評価期間の比を掛け合わせて、前記統合した環境負荷への影響度を評価する、請求項1に記載の環境負荷評価システム。
【請求項3】
前記地震被害に関する損害額は、損傷度ごとに、前記地震ハザード評価と、前記耐震性能の評価結果とを積分して合算することにより算出される建物の損傷度を組み込んだ損害額を用いる、
請求項1に記載の環境負荷評価システム。
【請求項4】
前記建物を新築又は改修とする場合において、
前記地震ハザード評価と前記使用期間とに基づく、前記耐震設計に必要とされる地震荷重を算出し、出力する算出部を更に含む、
請求項1に記載の環境負荷評価システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境負荷評価システムに関する。
【背景技術】
【0002】
建物の耐震性能の評価においては、災害の想定方法(ハザードカーブ)、建物の損傷推定(フラジリティカーブ)、及び損傷による被害額(リスクカーブやPML値など)を評価する手法が主に採用されている。
【0003】
耐震性能を直接評価する手法の他に、地震リスクを評価し、その値を目標値以下に低減するという方法で目標性能を満足する種々の手法がある。
【0004】
例えば、耐震性能についてIs値やPML値により定量的に算定できる建物の耐震性能評価に関する技術がある(例えば、特許文献1)。
【0005】
また、生産施設の地震リスクの評価に関する技術がある(例えば、特許文献2)。特許文献2では、生産施設や一般の建築物などの地震被害を定量的に評価し、複数の耐震対策の費用対効果を評価し、耐震投資の意志決定支援を可能としている。
【0006】
また、対象建物に適合したPMLを評価する技術がある(例えば、特許文献3)。特許文献3では、PMLのもととなる損失分布を、記物の各層各部位間における損失発生の相関係数と、建物の各層各部位における損失分布に基づいて算出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003-147970号公報
【特許文献2】特開2007-148547号公報
【特許文献3】特開2011-027481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、建物の建設における評価という観点では、耐震性能の評価だけでなく、環境負荷として二酸化炭素排出量及びエネルギー使用量などの環境負荷を考慮する評価が提案されている。従来技術においては、建物の建設、再建設に関わる環境負荷は考慮されていなかった。そのため、このような環境負荷に対する世界的な動向に対し、建物の建設における環境負荷の評価が求められている。
【0009】
本発明は上記事実を考慮して、建物の耐震性能を考慮して環境負荷の評価を可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の環境負荷評価システムは、建物の地点の地震の発生確率と地震の強さと関係を示す所定の地震ハザード評価、並びにあらかじめ設定された建物の使用期間及び環境負荷に関する評価期間を取得する評価条件取得部と、所定の耐震設計から得られる建物の構造特性を入力として、前記構造特性に基づいて、損傷度ごとに、前記構造特性から建物の脆弱性を評価するための所定の関数を用いて、建物についての耐震性能を評価する耐震性能評価部と、損傷度ごとに、前記地震ハザード評価及び前記耐震性能に基づく地震被害に関する損害額、所定の建設費用、及び環境負荷の特定指標に関する原単位を用いて、前記使用期間と前記評価期間に対する、統合した環境負荷への影響度を評価する環境負荷評価部と、を含む。これにより、建物の耐震性能を考慮して環境負荷の評価を可能とする。
【0011】
また、環境負荷評価システムにおいて、前記環境負荷評価部は、所定の影響カテゴリー、前記地震被害に関する損害額、前記建設費用、及び前記特定指標に関する原単位を用いて、ごとの環境負荷へのカテゴリー影響度を算出し、前記カテゴリー影響度と、総合的な環境負荷を評価するための統合化係数とに基づいて、総合的な環境負荷への影響度を算出し、前記総合的な環境負荷への影響度に対して前記使用期間及び前記評価期間の比を掛け合わせて、前記統合した環境負荷への影響度を評価する、ようにできる。これにより、影響カテゴリーが考慮された細分化された環境負荷を評価できる。
【0012】
また、環境負荷評価システムにおいて、前記地震被害に関する損害額は、損傷度ごとに、前記地震ハザード評価の結果と、前記耐震性能の評価結果とを積分して合算することにより算出される建物の損傷度を組み込んだ損害額を用いる、ようにできる。これにより、環境負荷の評価のための指標に、建物の損傷度に応じた地震被害を考慮できる。
【0013】
また、環境負荷評価システムにおいて、前記建物を新築又は改修とする場合において、
前記地震ハザード評価と前記使用期間とに基づく、前記耐震設計に必要とされる地震荷重を算出し、出力する算出部を更に含む、ようにできる。これにより、耐震性能の評価のための情報として必要とされる地震荷重を出力し、ユーザの設計の利便性を向上できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、建物の耐震性能を考慮して環境負荷の評価を可能とする、という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、環境負荷評価システムの機能的な構成を示す図である。
【
図2】
図2は、地震ハザード評価のグラフの一例を示す図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施形態に係る環境負荷評価システムの処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[本発明の実施形態]
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。まず、本実施形態の背景及び先行技術の問題点について説明する。
【0017】
上記課題において述べたような建物の耐震性能の評価においては、災害の想定方法(ハザードカーブ)、建物の損傷推定(フラジリティカーブ)、そして損傷による被害額(リスクカーブやPML値など)を評価する手法が主に採用されている。
【0018】
耐震性能を直接評価する手法の他に、地震リスクを評価し、その値を目標値以下に低減するという方法で目標性能を満足する手法がある。例えば、特許文献2の技術では、対象は生産施設に限定されているが、直接損失額(建物損失額、設備損失額、ユーティリティ損失額)だけでなく、間接被害として一定期間建物が使用できなることによる間接損失額も含めて評価されている。一方、アメリカ合衆国連邦緊急事態管理庁(FEMA)による報告書「FEMA P-58」(参考文献1)においては、建物の耐震性能を評価する際に、環境負荷として二酸化炭素排出量及びエネルギー使用量を考慮する評価手法が提案されている。さらに、国土強靭化年次計画2021の懇親会の場において、「カーボンニュートラルな視点を加えた強靭化」などの意見が出されていたことが、報じられている。そのため、今後は日本国内の建設においても、建物の地震リスクに関する評価は、耐震性能評価だけでなく、環境負荷の評価も考慮した地震リスク評価が不可欠になることが予想される。
[参考文献1]Federal Emergency Management Agency:Development of Next Generation Performance-Based Seismic Design Procedures for New and Existing Buildings,FEMA P-58,2018,URL"https://femap58.atcouncil.org/reports",
【0019】
このような世界的な動向に対し、上記の先行特許においては、建物の再建設に関わる環境負荷(例えば、二酸化炭素の排出量、エネルギー使用量など)は考慮されていない。また、FEMA P-58による提案手法が現時点では最先端の手法となっているが、この手法に対しては次の2つの課題がある。
【0020】
1つ目は、建物の供用期間(使用期間)が長いほど設計用の地震荷重が大きくなり、より性能(強度)の高い部材(柱、梁)を用いる必要があり、建設時の環境負荷はやや増加することが想定される。しかし、より性能の高い部材を用いることで建物の長寿命化につながることで、トータルとしての環境負荷は低減する。また、部材の強度が高くなることで地震による倒壊リスクが低減されることも、再建設の可能性を減らすという観点で環境負荷の低減につながる。このように建物の供用期間や部材の性能は環境負荷に密接に関係するのだが、FEMA P-58では建物の長寿命化による環境負荷の低減は考慮されていない点が課題である。
【0021】
2つ目は、環境負荷について考慮の対象が十分でない点である。FEMA P-58の手法では、二酸化炭素の排出量、及びエネルギー使用量の2つしか考慮されていなかった。そのため、国際標準化機構(ISO)により規定された環境負荷の評価手法(例えばISO14040:環境マネジメント-ライフサイクルアセスメント)と整合していないことである。また、ISO 14040では複数の指標に対して特性化係数により共通の単位に変換し、さらに統合することで、総合的な指標で評価しているのに対し、FEMA P-58では二酸化炭素の排出量とエネルギー使用量を個別に評価しているに留まっている点も課題である。例えば、環境省のエコアクション21によれば、二酸化炭素の排出量とエネルギー使用量の他に、廃棄物排出量、化学物質使用量、及び水使用量が指標となっている。
【0022】
そこで、本実施形態の手法ではFEMA P―58の課題を改善した、環境負荷を考慮した上で建物の耐震性能を評価、もしくは災害による地震リスク(損失額)を評価するシステムを提案する。本実施形態の手法において提案する環境負荷評価システムでは、災害の想定方法(ハザード)、建物の損傷推定(フラジリティ)、そして建物の損傷による環境負荷への影響評価を入力とする。そして、環境負荷評価システムは、建物の再建設に関わる環境負荷を考慮した建物の耐震性能を算出する。環境負荷評価システムの具体的な手順を下記(1)~(13)の段階で実施される。後述する環境負荷評価システムの各部の構成が各段階に対応してくるが、詳細については後述する。
【0023】
(1)建物の地点の設定
(2)該当地点における地震ハザードの評価
(3)建物の供用期間(使用期間)の設定
(4)環境負荷に関する評価期間の設定
(5)地震荷重の算定[新築又は改修の場合]
(6)耐震設計の実施[新築又は改修の場合]
(7)構造特性の入力[既存建築物の場合]
(8)耐震性能の評価
(9)建物の損傷度ごとの損傷確率(フラジリティ関数)の評価
(10)建物の損傷度ごとの環境負荷への影響度の評価
(11)建物の長寿命化による環境負荷の低減効果の評価
(12)総合的な環境負荷を評価(複数の指標で評価された環境負荷について、特性化係数により共通単位に変換した上で統合)
(13)上記(12)の算定結果をシステム上で表示
【0024】
図1は、環境負荷評価システムの機能的な構成を示す図である。環境負荷評価システム100は、記憶部102と、評価条件取得部110と、算出部112と、耐震性能評価部114と、環境負荷評価部116と、表示部118を含んで構成される。環境負荷評価システム100のハードウェア構成としては、CPU(Central Processing Unit)、各処理ルーチンを実現するためのプログラム等を記憶したROM(Read Only Memory)、データを一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)、記憶手段としてのメモリ、及びネットワークインタフェース等を含んだコンピュータにより実現される。記憶部102は、機能として、ROM、RAM、又はメモリの何れかを用いてデータを記憶する。
【0025】
記憶部102には、評価条件取得部110で取得された各種データが格納される。また、記憶部102には、環境負荷の評価に用いるデータとして、環境負荷の特定指標に関する原単位(SU)、影響カテゴリー(IC)、及び統合化係数(IF)が格納される。環境負荷の評価に用いるデータのそれぞれについては後述する。
【0026】
以下、環境負荷評価システム100の各部について説明する。
【0027】
評価条件取得部110は、ユーザが設定した建物の地点、地震ハザード評価、建物の使用期間、及び環境負荷に関する評価期間を取得する。また、評価条件取得部110は、耐震性能評価部114による処理の前に、建物の耐震設計を取得する。耐震設計は、建物の構造特性及び建物の建設費用を含むデータである。地震ハザード評価及び建物の使用期間は、算出部112への入力となる。建物の構造特性及び建物の試用期間は、耐震性能評価部114への入力となる。建物の建設費用及び環境負荷に関する評価期間は環境負荷評価部116への入力となる。なお、地震ハザード評価は、建物の地点の地震の発生確率と地震の強さと関係を示す。評価条件取得部110で取得する各データは、上記段階の(1)~(7)に対応する。評価条件取得部110が取得するこれらのデータは、ユーザからのデータ自体の入力又は入力に応じた外部の記憶装置等への参照により取得すればよい。
【0028】
(1)の設定された建物の地点は、本システムでは、建物の住所又は緯度及び経度のユーザからの入力を取得する実施形態とするが、その他に地図上で設定する態様としてもよい。
【0029】
(2)の地震ハザード評価について説明する。設定した建物の地点における地震ハザード評価は、評価を実施するか、又は既存の地震ハザード評価の結果から取得する必要がある。ここでは、参考文献2にある地震ハザード評価を取得する態様とする。
図2は、地震ハザード評価のグラフの一例を示す図である。当該グラフは地震ハザードカーブであり、縦軸は超過確率、横軸は工学的基盤上の最大速度(cm/s)である。(A)の実線が全ての地震、(B)の破線が海溝型地震、(C)の点線が活断層などの浅い地震の最大速度に応じた超過確率の推移を示している。
[参考文献2]防災科学技術研究所:地震ハザードステーション,URL"https://www.j-shis.bosai.go.jp/",
【0030】
本実施形態では評価条件取得部110で設定した地点について評価済みの地震ハザード評価を取得することとしたが、システム内で地震ハザード評価を計算する態様としてもよい。この態様の場合、上記[参考文献2]に類似する評価手法(例えば、防災科学技術研究所が開示している他の評価手法)に基づいて算定できる。
【0031】
(3)の設定された建物の使用期間(供用期間ともいう)について説明する。ここでの本システムで取得する建物の使用期間は、整数の年数の期間を用いる方法とする。その他の方法として、例えば、「長寿命(100年)」、「一般的な寿命(50年)」、「短寿命(30年)」、などの選択肢を設定しておき、ユーザが選択肢を選ぶことで建物の供用期間を設定し、設定した建物の使用期間を取得する実施形態としてもよい。なお、以下の説明では、使用期間は一般的な50年の場合を例に説明する。
【0032】
(4)の設定された環境負荷に関する評価期間について説明する。ここでの本システムで取得する環境負荷に関する評価期間は、整数の年数の期間を用いる方法とする。その他の方法として、例えば、「長期間(200年)」、「一般的な期間(100年)」、「短期間(50年)」、などの選択肢を設定しておき、ユーザが選択肢を選ぶことで環境負荷に関する評価期間を設定し、設定した建物の使用期間を取得する実施形態としてもよい。
なお、以下の説明では、環境負荷に関する評価期間は、一般的な100年の場合を例とする。これは、地球温暖化係数やライフサイクルアセスメントなど環境負荷に関する評価において、評価期間が一般的に100年とされているためである。
【0033】
算出部112は、建物を新築又は改修とする場合において、地震ハザード評価と使用期間とに基づく、耐震設計に必要とされる地震荷重を算出し、出力する。地震荷重は、ユーザによる耐震設計(当該耐震設計に含まれる構造特性の設計)のために用いられる。算出部112で、地震荷重を算出した場合には、算出後に評価条件取得部110で耐震設計から得られる建物の構造特性を取得する。なお、算出部112の処理は、上記段階の(5)に対応する。評価の対象が既存建築物の場合には、算出部112の処理は省略される。
【0034】
算出部112では、上記(2)による地震ハザード評価と上記(3)の建物の使用期間から地震荷重を算定する。具体的には、建物の供用期間を評価期間とした地震ハザード評価の結果(地震ハザードカーブ)における、ある超過確率の値に対応する地震の揺れの大きさに基づいて地震荷重を算出し、設定する。
【0035】
地震荷重は、
図2の地震ハザードカーブに従って設定できる。評価期間50年の地震ハザードカーブでは、10%の値(約50cm/sec,再現期間475年に相当)又は2%の値(約70cm/sec,再現期間2475年に相当)に基づき、地震荷重を設定する。また、
図2の工学的基盤に対する結果に対して、地表における地震荷重を算定するためには、
図2の数値に地盤増幅率を乗じる必要がある。例えば、参考文献2の地点特性を読み込む方法を用いると、例えば大阪市生野区の地点では地盤増幅率は2.29となる。地点特性は、メッシュコード、緯度及び経度、地盤増幅率、地表のパーセンテージごとの震度、工学的基盤上のパーセンテージごとの最大速度等である(パーセンテージは超過確率に対するものである)。例えば、地震ハザード評価の結果として地表における地震動の最大速度は70×2.29=160.3(cm/sec)となる。ただし、その他の増幅率を算定する方法を用いて地盤増幅率を評価する態様としてもよい。
【0036】
また、地震荷重は一般的に応答スペクトルにより規定されるため、地表における最大速度を応答スペクトルに変換する必要がある。変換方法は、例えば、参考文献3の手法により最大速度(PGV)から最大加速度(PGA)に変換する。参考文献4の方法を参考に、計算されたPGAに基準化加速度応答スペクトルを乗じることで、耐震設計に用いる応答スペクトルを算定できる。
[参考文献3]林孝幸,福島誠一郎,矢代晴実:最大加速度と最大速度を地震動指標に用いた確率論的地震ハザード評価,日本建築学会構造系論文集 第617号,pp.185-192,2007
[参考文献4]日本建築学会,建築物荷重指針・同解説2015
【0037】
ユーザは、出力された地震荷重に基づいて、耐震設計を行う。耐震設計は建築基準法など関連する法令および建築物の構造関係技術基準などに基づいて実施すればよい。ここで、算出された地震荷重が、法令に定められている地震荷重を下回った場合には法令に定められている地震荷重を用いる必要がある。それ以外の場合には算出された地震荷重を用いる。耐震設計の結果、柱や梁などの構造特性及び建設費用が得られる。
【0038】
耐震性能評価部114は、耐震設計から得られる建物の構造特性を入力として、構造特性に基づいて、損傷度ごとに、フラジリティ関数を用いて、建物についての耐震性能を評価する。フラジリティ関数は、構造特性から建物の脆弱性を評価するための関数である。なお、耐震性能評価部114の処理は、上記段階の(8)に対応する。
【0039】
耐震性能に関しては様々指標があるが、本システムの実施形態では構造耐震指標であるIs値を用いる。Is値が耐震性能評価部114の入力とする建物の構造特性の一例である。Is値は参考文献5に規定された算定式に基づいて算定される。
[参考文献5]「建築物の耐震診断及び耐震改修の促進を図るための基本的な方針」
【0040】
耐震性能評価部114は、得られたIs値を用いて、建物の損傷度ごとの損傷確率Pfをフラジリティ関数によって評価する。本システムの実施形態では、建物の損傷度は小破、中破、及び大破の3つとする。建物の損傷確率Pfは、参考文献6による以下(1)式に示すフラジリティ関数にIs値を入力することで算出する。
[参考文献6]林康裕,鈴木祥之,宮腰淳一,渡辺基史:耐震診断結果を利用した既存RC造建築物の地震リスク表示,地域安全学会論文集 No.2,2000
【0041】
【0042】
ここで、(1)式の符号は下記の定義となる。以下のようにV0の値が損傷度ごとに異なる。
V:地表における最大速度(cm/sec)
V0:Is=0.4の建物の耐力中央値(最大速度)
(小破:100cm/sec,中破:150cm/sec,大破:200cm/sec)
ζf:ln(V)の標準偏差(=0.6)
φ:標準正規分布の累積確率分布関数
【0043】
環境負荷評価部116は、損傷度ごとに、使用期間と評価期間に対する、統合した環境負荷への影響度を評価する。環境負荷評価部116は、入力として、地震被害に関する損害額(LOSS)、建設費用(C)、及び環境負荷の特定指標に関する原単位(SU)を用いる。また、CO2排出量の指標だけでなく複数の特定指標を用いる場合、特定指標として影響カテゴリー(IC)を用いる。LOSSは、地震ハザード評価及び耐震性能の評価に基づいている。
【0044】
環境負荷の評価では、建物の損傷度ごとに、再建設や補修等による環境負荷への影響度を複数の指標で評価する。環境負荷への影響度に関する指標については、例えば、参考文献6で定義されているコア指標のうち建設業に関係ある特定指標を用いることができ、具体的には以下の特定指標が挙げられる。
[参考文献6]事業者の環境パフォーマンス指標ガイドライン」(環境省,2002年)
・総エネルギー投入量
・総物質投入量
・水資源投入量
・温室効果ガス排出量(CO2排出量)
・廃棄物量総排出量
・廃棄物等最終処分量
・総排水量
【0045】
本システムでは、環境負荷への影響度は原単位法の原単位(SU)を用いて推定する。原単位とは、過去の経済活動(ここでは建物の建設や解体)において発生した環境負荷について統計を取り、経済活動の単位あたり(例えば建設費用1億円)ごとの環境負荷への影響度を原単位として評価する単位である。原単位法は、この原単位に対して、経済活動規模を乗じることで環境負荷の影響度を評価する方法である。
【0046】
環境負荷評価部116は、まず、損傷度ごとに、以下(2)式に従って、特定指標(例えばCO2排出量)に関する環境負荷への影響度EL
0(IC)(カテゴリー影響度)を算出する。
【数2】
・・・(2)
地震被害に関する損害額(LOSS)は、損傷度ごとに、地震ハザード評価(地表における地震動の最大速度)と、耐震性能の評価結果(損傷確率Pf)とを積分して合算することにより算出される建物の損傷度を組み込んだ損害額を用いればよい。これにより、建物の損傷度に応じた経済的な損失率を考慮した損害額をLOSSとして設定できる。ただし、新築又は改修の場合は(6)で算定された建設費用を損失額に加える。また、建物の建設費用に、上記損失率を乗じることで損失額を算定する。ここでは、例えば、構造躯体に関しては、参考文献6の手法に基づいて評価される期待被害費用比を建設費用に乗じることで損失額を算定する。また、内装材・外装材等についても損失率を設定できる。
【0047】
上記地震被害に関する損害額(LOSS)である損失額に対し、原単位SUを乗じることで、総合的な環境負荷への影響度EL0が求まる。例えば、特定指標をCO2排出量とする場合については、「CO2排出量調査報告書」に記されている報告値(kg-CO2/億円)をSUとして乗じることでCO2排出量を設定できる。CO2以外の温室効果ガス排出量については、原単位法によって排出量を算定した後、地球温暖化係数を乗じることでCO2換算重量を算定する。
【0048】
またICは影響カテゴリー(下記、表1のインパクトカテゴリー)を意味する。環境負荷への影響度は様々な種類があるため、それを統合化して総合的な環境負荷を評価する必要があり、そのための影響カテゴリーを特定指標として用いる。
【表1】
【0049】
次に、環境負荷評価部116は、総合的な環境負荷を評価するための統合化係数(Integration Factor)をIFとして用いて、総合的な環境負荷への影響度EL
0を以下(3)式で算出する。
【数3】
・・・(3)
【0050】
ここで、ICには表1のインパクトカテゴリー又は表2の保護対象が該当する。IFには表1の重み付け、又は表2の経済換算係数が該当する。また、通常、LOSSは損失額で評価するが、地震による死亡者数などを考慮する場合には表2の経済換算係数で損失額に変換した上でEL
0を評価する。表2は、Life-cycle Impact Assessment Method based on Endpoint Modeling 2(以下、LIME2)の保護対象ごとの統合化係数を示す表である。
【表2】
【0051】
表1、表2のうち、表2について具体的な態様を示す。将来の地震リスクによる建物の直接の損害額EL0を100億円と仮定し、また地震による死亡リスクを0.3%と仮定する。建物利用者を2000名と仮定すると、地震リスクによる平均死亡者数は2000人×0.3%=6人となる。死亡者の平均年齢を40歳、平均損失余命40歳と仮定する。損失余命の合計は6×40=240(歳・人)であり、表2の経済換算係数を用いると、損失余命による経済損失は240×1.47×107=35.28億円となる。これに建物の直接被害額100億円を合わせると、合計で135億円が地震リスクによる損失額として計算できる。
【0052】
環境負荷評価部116は、損傷度ごとに、以下(4)式に従って、総合的な環境負荷への影響度EL
0に対して使用期間P
S及び評価期間P
eの比を掛け合わせて、統合した環境負荷への影響度ELを評価する。
【数4】
・・・(4)
【0053】
表示部118は、損傷度ごとに評価した統合した環境負荷への影響度ELの結果を、表示インターフェースを用いて表示する。上記のようにして評価された影響度ELは、建物の長寿命化による低減効果が考慮される。
【0054】
次に、本発明の実施形態の環境負荷評価システム100の作用について説明する。
図3は、本発明の実施形態に係る環境負荷評価システム100の処理を示すフローチャートである。なお、環境負荷評価システム100のCPUがROMからプログラム及び各種データを読み出して実行することにより、各種処理を行う。CPUが、環境負荷評価システム100の各部として機能する。
【0055】
ステップS100では、評価条件取得部110は、ユーザが設定した建物の地点、地震ハザード評価、建物の使用期間、及び環境負荷に関する評価期間を取得する。
【0056】
ステップS102では、算出部112は、評価の対象の建物が、新築又は改修であるか、既存建築物かを判定する。新築又は改修である場合にはステップS104へ移行する。既存建築物である場合にはステップS106へ移行する。
【0057】
ステップS104では、算出部112は、地震ハザード評価と使用期間とに基づく、耐震設計に必要とされる地震荷重を算出し、出力する。
【0058】
ステップS106では、評価条件取得部110は、建物の耐震設計から得られる建物の構造特性及び建設費用を取得する。
【0059】
ステップS108では、耐震性能評価部114は、耐震設計から得られる建物の構造特性を入力として、構造特性に基づいて、損傷度ごとに、(1)式のフラジリティ関数を用いて、建物についての耐震性能を評価する。耐震性能の評価は、建物の損傷確率Pfとして得られる。
【0060】
ステップS110では、環境負荷評価部116は、損傷度ごとに、(2)式に従って、特定指標に関する環境負荷への影響度EL0を算出する。なお、入力として、地震被害に関する損害額(LOSS)、建設費用(C)、及び環境負荷の特定指標に関する原単位(SU)、影響カテゴリー(IC)を用いる。
【0061】
ステップS112では、環境負荷評価部116は、損傷度ごとに、総合的な環境負荷を評価するための統合化係数IFを用いて、総合的な環境負荷EL0を(3)式で算出する。
【0062】
ステップS114では、環境負荷評価部116は、損傷度ごとに、(4)式に従って、総合的な環境負荷への影響度EL0に対して使用期間PS及び評価期間Peの比を掛け合わせて、統合した環境負荷への影響度ELを評価する。
【0063】
ステップS116では、表示部118は、損傷度ごとに評価した統合した環境負荷への影響度ELの結果を、表示インターフェースを用いて表示する。
【0064】
以上、説明したように、本発明の実施形態に係る環境負荷評価システム100によれば、建物の耐震性能を考慮して環境負荷の評価を可能とする。
【0065】
また、本手法による環境負荷評価システムを活用することで、様々な環境負荷の指標を考慮して建物の設計が可能になる。本システムでは、耐震性能と環境負荷という異なる指標を、統合する手法を構築した。本システムでは様々な環境負荷の指標から1つの総合的な指標を評価することができ、この指標を活用することで、建物の耐震性能を考慮した総合的な環境負荷の観点から評価することが可能になる。
【0066】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内で様々な変形や応用が可能である。
【符号の説明】
【0067】
100 環境負荷評価システム
102 記憶部
110 評価条件取得部
112 算出部
114 耐震性能評価部
116 環境負荷評価部
118 表示部