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特開2024-101941皮膚イメージ分析方法、皮膚イメージ分析装置、およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101941
(43)【公開日】2024-07-30
(54)【発明の名称】皮膚イメージ分析方法、皮膚イメージ分析装置、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 10/00 20060101AFI20240723BHJP
   A61B 5/00 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
A61B10/00 Q
A61B5/00 M
A61B10/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023006184
(22)【出願日】2023-01-18
(71)【出願人】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】新井 智大
(72)【発明者】
【氏名】町田 明子
(72)【発明者】
【氏名】長谷部 伸
(72)【発明者】
【氏名】工藤 敦子
【テーマコード(参考)】
4C117
【Fターム(参考)】
4C117XA02
4C117XB01
4C117XB18
4C117XD05
4C117XE03
4C117XE71
4C117XE73
4C117XQ13
(57)【要約】
【課題】ユーザが自身の肌に対して有しているイメージを分析する。
【解決手段】本発明の一実施形態である方法は、ユーザの肌の問題による社会的な場面からの回避行動の情報と、前記ユーザの自身の肌に対する否定的評価の情報と、の少なくとも一方を含む皮膚イメージ尺度の情報を取得することと、前記皮膚イメージ尺度を分析することと、を含む。
【選択図】図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザの肌の問題による社会的な場面からの回避行動の情報と、前記ユーザの自身の肌に対する否定的評価の情報と、の少なくとも一方を含む皮膚イメージ尺度の情報を取得することと、
前記皮膚イメージ尺度を分析することと
を含む方法。
【請求項2】
前記皮膚イメージは、自己の肌に対する認知、感情、行動からなる多面的な概念である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記肌の問題による社会的な場面からの回避行動は、自分の肌の状態が原因で大勢の人がいる場所に外出するのを戸惑ったことがあることと、自分の肌の状態が原因で人と面と向かってコミュニケーションするのを避けたことがあることと、の少なくとも一方を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記自身の肌に対する否定的評価は、自分の肌には欠点があると思うことと、自分の肌で変えたいところがあると思うことと、の少なくとも一方を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記皮膚イメージ尺度に基づいて、皮膚の問題の有無を予測する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記皮膚イメージ尺度に基づいて、自尊心、特性不安、抑うつ傾向を予測する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記皮膚イメージ尺度に基づいて、自己の肌に対する評価の傾向を予測する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記皮膚イメージ尺度が類似する者が過去に購入した化粧品をレコメンドする、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
ユーザの肌の問題による社会的な場面からの回避行動の情報と、前記ユーザの自身の肌に対する否定的評価の情報と、の少なくとも一方を含む皮膚イメージ尺度の情報を取得する取得部と、
前記皮膚イメージ尺度を分析する分析部と
を備えた皮膚イメージ分析装置。
【請求項10】
イメージ尺度分析装置を
ユーザの肌の問題による社会的な場面からの回避行動の情報と、前記ユーザの自身の肌に対する否定的評価の情報と、の少なくとも一方を含む皮膚イメージ尺度の情報を取得する取得部、
前記皮膚イメージ尺度を分析する分析部
として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚イメージ分析方法、皮膚イメージ分析装置、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、"ボディイメージ(自己の身体に対する認知、感情、行動からなる多面的な概念と定義される)"の歪みが、特に女性において、食異常行動や精神疾患に影響することが知られている。ボディイメージの歪みは、客観的な身体特徴(例えば、BMI(ボディマス指数))に必ずしも起因するとは限らず、むしろ実際の身体と主観的なボディイメージの間に生じる乖離が問題とされる場合が多い。
【0003】
このようなボディイメージを測る尺度として、BICI(Body Image Skin Concern Inventory)およびBAS-2(Body Appreciation Scale-2)が知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】GUPTA ET AL, "Cutaneous Body Image: Empirical Validation of a Dermatologic Construct", THE JOURNAL OF INVESTIGATIVE DERMATOLOGY, The Society for Investigative Dermatology, Inc.
【非特許文献2】M.M. Chren et al, "Measurement Properties of Skindex-16: A Brief Quality-of-Life Measure for Patients with Skin Diseases", Journal of Cutaneous Medicine and Surgery, Volume 5 Number 2 March 2001
【非特許文献3】H.L. Littleton et al, "Development of the body image concern inventory" BEHAVIOUR RESEARCH AND THERAPY, 43(2005)229-241
【非特許文献4】Tracy L. Tylka et al, "The Body Appreciation Scale-2: Item refinement and psychometric evaluation" Body Image 12 (2015) 53-67
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
皮膚疾患を有する患者のQuality of Life(QOL)を評価する目的として、Cutaneous Body Image Scale(非特許文献1)やSkindex-16(非特許文献2)が開発された。これらの尺度は、皮膚科学の臨床現場においては、患者が自身の皮膚に対して有するイメージを調べる方法として用いられている。しかしながら、ここで言う"皮膚イメージ"とは、心理学におけるボディイメージとは独立した概念であった。
【0006】
皮膚イメージもボディイメージに内包されると考えられ、ボディイメージ研究で見出された知見と同じ枠組みを共有しながら皮膚イメージを理解できるものと推測される。しかしながら、心理学において、既存のボディイメージ理論やボディイメージ尺度に則って開発された皮膚イメージの尺度は存在しなかった。つまり、ユーザが自身の肌に対して有しているイメージ(不満、満足)を測ることができる心理学的に妥当と言える質問紙は存在しなかった。
【0007】
そこで、本発明では、ユーザが自身の肌に対して有しているイメージを分析することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態である方法は、ユーザの肌の問題による社会的な場面からの回避行動の情報と、前記ユーザの自身の肌に対する否定的評価の情報と、の少なくとも一方を含む皮膚イメージ尺度の情報を取得することと、前記皮膚イメージ尺度を分析することと、を含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ユーザが自身の肌に対して有しているイメージを分析することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】SICIの因子負荷行列を示す図である。
図2】SICIの因子負荷量のプロットを示す図である。
図3】SICIおよびSASの収束的、弁別的妥当性を示す図である。
図4】SICIおよびSASの基準関連妥当性を示す図である。
図5】SICIおよびSASの増分妥当性を示す図である。
図6】SICIおよびSASの日常の肌評価との関連を示す図である。
図7】SICIおよびSASの他の皮膚イメージ尺度との関連を示す図である。
図8】SICIおよびSASの皮膚パラメータとの関連を示す図である。
図9】SICIおよびSASの皮膚パラメータとの関連を示す図である。
図10】本発明の一実施形態に係る皮膚イメージ分析装置の機能ブロック図である。
図11】本発明の一実施形態に係る皮膚イメージ分析処理のフローチャートである。
図12】本発明の一実施形態に係る皮膚イメージ分析処理のフローチャートである。
図13】本発明の一実施形態に係る皮膚イメージ分析装置のハードウェア構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【0012】
<用語の説明>
・本明細書において、「皮膚イメージ」とは、自己の肌に対する認知、感情、行動からなる多面的な概念である。「皮膚イメージ」は、自己の肌に対するネガティブなイメージ、および、自己の肌に対するポジティブなイメージを含む。
・本明細書において、「皮膚イメージ尺度」とは、皮膚イメージを測るための尺度であり、自己の肌に対するネガティブなイメージを測るための尺度(SICI)および自己の肌に対するポジティブなイメージを測るための尺度(SAS)を含む。
【0013】
まず、既存のネガティブなボディイメージを測る尺度であるBICI(Body Image Skin Concern Inventory(特許文献3参照))、および、ポジティブなボディイメージを測る尺度であるBAS-2(Body Appreciation Scale-2(特許文献4参照))について説明する。
【0014】
[BICI]
ネガティブなボディイメージを測る尺度であるBICIは、3つの因子(要素)からなる。具体的は、「容姿の問題からの回避行動」、「容姿への否定的評価」、「容姿の問題に対する安全確保行動」の3つの因子(要素)からなる。
【0015】
[BAS-2]
ポジティブなボディイメージを測る尺度であるBAS-2は、1つの因子(要素)からなる。
【0016】
本発明では、ネガティブなボディイメージを測る尺度であるBICI、および、ポジティブなボディイメージを測る尺度であるBAS-2の尺度内で用いられている文言を「身体」から「肌」に置き換え、肌に関する質問文として適切な表現となるように文全体を修正して、ネガティブな皮膚イメージを測る尺度およびポジティブな皮膚イメージを測る尺度を作成した。以下、それぞれについて説明する。
【0017】
[ネガティブな皮膚イメージを測る尺度であるSICI(Skin Image Concern Inventory)]
SICIは、以下のネガティブな皮膚イメージに関する18個の質問である。なお、回答は、まったくない(1点)~いつもそうだ(5点)の5段階である。
Q1.自分の肌に不満なところがある
Q2.かなりの時間をかけて鏡に映る自分の肌の見え方をチェックしている
Q3.自分の肌は周りの人に良い印象を与えていない
Q4.自分の肌の状態に満足いかないときには外に出て他人と会いたくない
Q5.自分の肌には欠点があると思う
Q6.自分の肌をよく見せるために化粧品を買う
Q7.自分の肌で変えたいところがあると思う
Q8.自分の肌のある部分を恥ずかしいと思う
Q9.自分の肌の見え方を友達や同年代の他人と比べる
Q10.自分の肌の欠点をメイクアップ等でごまかそうとする
Q11.自分の肌の欠点を細かくチェックする
Q12.自分の肌のある面を隠すためにメイクアップ化粧品等を使用する
Q13.自分の肌よりも他の人の肌の方がきれいだと思う
Q14.自分の肌の欠点についてSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)で調べたり、友人や親、信頼できる人(専門家など)に相談しようと思った、あるいは相談したことがある
Q15.自分の肌の状態が原因で大勢の人がいる場所に外出するのを戸惑ったことがある
Q16.自分の肌の欠点に他の人が気づくのではないかと心配になる
Q17.自分の肌の状態が原因で人と面と向かってコミュニケーションをするのを避けたことがある
Q18.鏡を見た際に自分の肌の欠点が目に入ると、そこから目をそむけたくなる
【0018】
[ポジティブな皮膚イメージを測る尺度であるSAS(Skin Appreciation Scale)]
SASは、以下のポジティブな皮膚イメージに関する10個の質問である。なお、回答は、全くない(1点)~いつも(5点)の5段階である。
Q1.自分の肌を大切に思っている
Q2.自分の肌はよい肌であると感じている
Q3.自分の肌にも少しはよいところがあると感じている
Q4.自分の肌に肯定的である
Q5.自分の肌が必要とすることに注意を払っている
Q6.自分の肌に対して愛情を感じる
Q7.自分の肌の個性的で他人と異なる部分を受け入れている
Q8.自分の肌に対する肯定的な姿勢が行動や他人とのコミュニケーションに表れてる(例:積極的に外出する、誰かと会いたくなる)
Q9.自分の肌に満足している
Q10.メディアで目にする魅力的な人々のイメージ(モデル、女優・俳優など)と異なっていても、自分の肌は美しいと感じる
【0019】
<尺度(SICIとSAS)の因子構造>
尺度(SICIとSAS)を因子分析したところ、尺度(SICIとSAS)の因子構造は以下のとおりであった。
【0020】
SICIは、BICIと同じ3因子構造であった。具体的には、SICIは、「回避行動(5項目)」と「否定的評価(5項目)」と「隠蔽行動(3項目)」の3つの因子からなる。
【0021】
因子分析の結果、下記の項目群が除外された。主に「確認行動」に関連する項目群が削除対象になった。そのため、皮膚イメージを理解および評価する目的の上では、ボディイメージのようにこれらの項目群を「隠蔽行動」に関連する下位因子に含めることは適切でないと考えられ、一般的なボディイメージにはない皮膚イメージの特徴であると推測される。
Q2.かなりの時間をかけて鏡に映る自分の肌の見え方をチェックしている
Q3.自分の肌は周りの人に良い印象を与えていない
Q9.自分の肌の見え方を友達や同年代の他人と比べる
Q11.自分の肌の欠点を細かくチェックする
Q18.鏡を見た際に自分の肌の欠点が目に入ると、そこから目をそむけたくなる
【0022】
SASは、BAS-2と同じ1因子構造(10項目)であった。
【0023】
以上より、皮膚イメージはボディイメージと同様の因子構造(つまり、概念の構造)を有する。
【0024】
図1および図2を参照しながら、ネガティブな皮膚イメージを測る尺度であるSICIの因子分析について詳細に説明する。
【0025】
図1は、SICIの因子負荷行列を示す図である。Factor1、Factor2、Factor3は、SICIの各質問に与える影響の強さを示す値である。h2は共通性、u2は独自性、comは複雑性を示す。図2は、SICIの因子負荷量のプロットを示す図である。
【0026】
このように、SICIの18個の質問から「確認行動」に関連する項目群(つまり、上述したQ2、Q3、Q9、Q11、Q18)を除外した質問は、3つの因子(Factor1、Factor2、Factor3)からなる。
・Factor1:肌の問題による社会的な場面からの回避行動である。具体的には、Q15、Q17、Q16、Q4、Q14である。
・Factor2:自身の肌に対する否定的評価である。具体的には、Q5、Q7、Q1、Q8、Q13である。
・Factor3:化粧品による肌の問題の隠蔽行動である。具体的には、Q12、Q10、Q6である。
【0027】
<尺度(SICIとSAS)の収束的、弁別的妥当性>
図3は、SICIおよびSASの収束的、弁別的妥当性を示す図である。具体的には、下記の各々のピアソン積率相関係数を示す。なお、図3の*は、相関係数が有意に0ではないことを示す。
・SICI Total:SICI Subscale1とSICI Subscale2とSICI Subscale3を合わせたものである(13項目)。
・SICI Subscale1:上述のFactor1(肌の問題による社会的な場面からの回避行動(5項目))である。
・SICI Subscale2:上述のFactor2(自身の肌に対する否定的評価(5項目))である。
・SICI Subscale3:上述のFactor3(化粧品による肌の問題の隠蔽行動(3項目))である。
・SAS:上述のSASの10項目である。
・BICI Total:BICI Subscale1とBICI Subscale2とBICI Subscale3を合わせたものである(19項目)。
・BICI Subscale1:ネガティブなボディイメージの「容姿の問題からの回避行動(6項目)」である。
・BICI Subscale2:ネガティブなボディイメージの「容姿への否定的評価(6項目)」である。
・BICI Subscale3:ネガティブなボディイメージの「容姿の問題に対する安全確保行動(7項目)」である。
・BAS-2:ポジティブなボディイメージ(10項目)である。
・RSES:自尊心
・SWLS:人生満足度
・STAI-T:特性不安
・CES-D:抑うつ傾向
・EAT-26:摂食障害傾向
【0028】
図3に示されるように、ボディイメージと同様に、皮膚イメージは精神的健康に関連する代表的な心理的変数(つまり、自尊心、人生満足度、特性不安、抑うつ傾向、摂食障害傾向)と相関関係を示す。具体的には、ネガティブな皮膚イメージを有するほど、自尊心が低く、人生満足度が低く、特性不安が高く、抑うつ傾向が高く、摂食障害傾向が高い。
【0029】
<尺度(SICIとSAS)の基準関連妥当性>
図4は、SICIおよびSASの基準関連妥当性を示す図である。予測子が、皮膚イメージ尺度の得点(つまり、SICI Totalの回答の得点、SASの回答の得点)あるいは下位尺度の得点(つまり、SICI Subscale1の回答の得点、SICI Subscale2の回答の得点、SICI Subscale3の回答の得点)であり、ターゲットが、顔の皮膚に問題(アトピー性皮膚炎、じんましん、外傷痕、火傷痕、過度な肌荒れや炎症がある場合)を有しているか否か(1:有している、0:有していない)であるロジスティック回帰モデルを構築した。
【0030】
図4では、各ロジスティック回帰モデルの予測精度を示す。予測値と実測値からROC(Receiver Operating Characteristic)曲線を求めて、AUC(Area Under Curve)を算出した。AUC<0.6であれば、その入力変数は顔の皮膚の問題の有無を予測するための予測子としてほとんど使い物にならないとみなす。なお、訓練データセットとは独立したテストデータセットを用いて算出された値ではない。
【0031】
図4に示されるように、ネガティブな皮膚イメージを予測子として用いた時に、モデル評価値であるAUCは比較的良い値を示した。具体的には、SICI Total、SICI Subscale1(Factor1(肌の問題による社会的な場面からの回避行動(5項目))、SICI Subscale2(Factor2(自身の肌に対する否定的評価(5項目))は、顔の皮膚の問題(アトピー性皮膚炎、じんましん、外傷痕、火傷痕、過度な肌荒れや炎症がある場合)の有無を予測する変数として有用であると考えられる。
【0032】
<尺度(SICIとSAS)の増分妥当性>
図5は、SICIおよびSASの増分妥当性を示す図である。下記のように階層的重回帰分析(独立変数を段階的にモデルに加えていく方法)を実施した。
・ステップ1:年齢、皮膚の問題の有無、BMI(ボディマス指数)
・ステップ2:ボディイメージ尺度の得点(例えば、BICIまたはBAS-2)
・ステップ3:皮膚イメージ尺度の得点(例えば、SICIまたはSAS)
皮膚イメージがボディイメージと全く同じ情報を有するならば、ボディイメージ尺度の得点の後に皮膚イメージ尺度の得点をモデルに加えたとしても、モデルの予測力はほとんど上昇しない。ステップ2からステップ3において予測力が有意に増加したか否かの判断には、効果量Cohen'sf2を用いたf2>0.02(効果小)のとき、有意であると判断した。
【0033】
図5に示されるように、ボディイメージ尺度の得点を加えた後に、皮膚イメージ尺度の得点を加えるとモデルの予測力が増すことから、皮膚イメージはボディイメージにはない情報(要素)を含んでいることが示唆される。
【0034】
<SICIおよびSASの日常の肌評価との関連>
図6は、SICIおよびSASの日常の肌評価との関連を示す図である。経験サンプリング法により、2週間にわたり、一日に6回、ランダムなタイミングで、ポジティブな肌評価(8項目)およびネガティブな肌評価(8項目)の回答を求めた。なお、回答は、全くあてはまらない(1点)~非常にあてはまる(9点)の9段階である。
【0035】
年齢、SICIの下位3因子の得点ならびにSASの得点の4つを独立変数、経験サンプリング法で取得したポジティブな肌評価得点あるいはネガティブな肌評価得点を従属変数とした、線形混合モデルを構築した。このモデルは、上記の4変数を固定効果、各被験者をランダム効果として含めたランダム切片モデルであった。
【0036】
図6では、「年齢」、「SICIのFactor1(回避行動)」、「SICIのFactor2(否定的評価)」、「SICIのFactor3(隠蔽行動)」、「SAS」のそれぞれの「ポジティブな肌評価」、「ネガティブな肌評価」への寄与を示す。
【0037】
図6に示されるように、SASのポジティブな肌評価への有意な正の寄与が認められた。また、SICIのFactor1(回避行動)およびSICIのFactor2(否定的評価)のネガティブな肌評価への有意な正の寄与が認められた。また、SASのネガティブな肌評価への有意な負の寄与が認められた。このように、皮膚イメージは、日常での肌評価に影響する(バイアスをかける)ことが示唆される。例えば、ネガティブな皮膚イメージを強く持っている人は、自分の肌をネガティブに評価しやすい傾向がある。
【0038】
<SICIおよびSASの他の皮膚イメージ尺度との関連>
図7は、SICIおよびSASの他の皮膚イメージ尺度とのピアソン積率相関係数を示す表である。なお、図7において、*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001である。
【0039】
CBIS(Cutaneous body image scale)は、皮膚科領域で開発された尺度であり、いわゆる皮膚だけではなく、医学的には皮膚の1部に分類される、毛髪、爪についても言及する。Skindex-16は、皮膚疾患特異的なQOL(Quality of Life)の尺度であり、症状、感情、機能の3つの要素からなる。いずれも、臨床目的に開発された尺度であり、ボディイメージとは独立した文脈で開発された。
【0040】
図7より、既存の皮膚イメージ尺度(つまり、CBISとSkindex-16)と関連するが、完全に一致(相関係数≒±1.0)する訳ではないことから、SICIおよびSASは、既存の皮膚イメージ尺度では捉えることのできなかった異なる側面も捉えていることが示唆される。
【0041】
<SICIおよびSASの皮膚パラメータとの関連>
図8および図9は、SICIおよびSASの皮膚パラメータとの関連を示す図である。図8で示されるように、下記の9つの皮膚パラメータを主成分分析とバリマックス回転を用いて2つの主成分(PC1とPC2)に集約した。
・stratum corneum hydration:角質層水分量
・transepidermal water loss:経表皮水分蒸散量
・distensibility:皮膚粘弾性の指標、最大伸展長(皮膚の柔軟性)(R0)
・gross elasticity:皮膚粘弾性の指標、総弾性(R2)
・net elasticity:皮膚粘弾性の指標、正味の弾性(R5)
・biological elasticity:皮膚粘弾性の指標、戻り率(R7)
・black/white:CIE表色系の明るさ
・green/red:CIE表色系の緑みと赤み
・blue/yellow:CIE表色系の青みと黄み
【0042】
年齢および上記で求めた2つの主成分(PC1とPC2)の3つを独立変数、SICIの総合得点あるいはSAS得点を従属変数とした、線形モデルを構築した。
【0043】
図9で示されるように、PC2のSICIの総合得点への有意な正の寄与が認められた。また、PC2からSICIのFactor2(否定的評価)への有意な正の寄与が認められた。また、PC2からSASへの有意な負の寄与が認められた。このように、肌色や角質層水分量、経表皮水分蒸散量といった、皮膚表面状態を表す皮膚パラメータが皮膚イメージに有意に寄与することが示唆された。
【0044】
<機能ブロック>
図10は、本発明の一実施形態に係る皮膚イメージ分析装置10の機能ブロック図である。皮膚イメージ分析装置10は、取得部101と、分析部102と、予測部103と、レコメンド部104と、を備える。皮膚イメージ分析装置10は、プログラムを実行することで、取得部101、分析部102、予測部103、レコメンド部104、として機能する。
【0045】
取得部101は、ユーザが質問紙に記入した情報(SICIの質問に対する回答およびSASの質問に対する回答)、あるいは、ユーザが皮膚イメージ分析装置10に入力した情報(SICIの質問に対する回答およびSASの質問に対する回答)を取得する。
【0046】
具体的には、取得部101は、ユーザの肌の問題による社会的な場面からの回避行動の情報と、当該ユーザの自身の肌に対する否定的評価の情報と、の少なくとも一方を含む皮膚イメージ尺度の情報(質問に対する回答)を取得する。
【0047】
「肌の問題による社会的な場面からの回避行動」は、自分の肌の状態が原因で大勢の人がいる場所に外出するのを戸惑ったことがあることと、自分の肌の状態が原因で人と面と向かってコミュニケーションするのを避けたことがあることと、の少なくとも一方を含む。「自身の肌に対する否定的評価」は、自分の肌には欠点があると思うことと、自分の肌で変えたいところがあると思うことと、の少なくとも一方を含む。
【0048】
分析部102は、取得部101が取得した皮膚イメージ尺度を分析する。具体的には、分析部102は、各質問の回答の得点を用いて、因子(Factor)ごとの平均点を算出する(例えば、「肌の問題による社会的な場面からの回避行動(Factor1)」に含まれる全質問に対する回答の平均点を算出する、「自身の肌に対する否定的評価(Factor2)」に含まれる全質問に対する回答の平均点を算出する)。
【0049】
[皮膚の問題の有無の予測]
予測部103は、分析部102が分析した皮膚イメージ尺度に基づいて、皮膚の問題(アトピー性皮膚炎、じんましん、外傷痕、火傷痕、過度な肌荒れや炎症がある場合)の有無を予測することができる。例えば、予測部103は、「肌の問題による社会的な場面からの回避行動(Factor1)」に含まれる質問に対する回答、および、「自身の肌に対する否定的評価(Factor2)」に含まれる質問に対する回答の得点が高いほど(つまり、不満であるほど)、皮膚の問題が有る可能性が高いと予測することができる。
【0050】
[精神的健康に関連する心理的変数の予測]
予測部103は、分析部102が分析した皮膚イメージ尺度に基づいて、自尊心、特性不安、抑うつ傾向等の精神的健康に関連する心理的変数を予測することができる。例えば、予測部103は、「肌の問題による社会的な場面からの回避行動(Factor1)」に含まれる質問に対する回答、および、「自身の肌に対する否定的評価(Factor2)」に含まれる質問に対する回答の得点が高いほど(つまり、不満であるほど)、自尊心が低く、人生満足度が低く、特性不安が高く、抑うつ傾向が高く、摂食障害傾向が高いと予測することができる。
【0051】
[自己の肌に対する評価の傾向の予測]
予測部103は、分析部102が分析した皮膚イメージ尺度に基づいて、日常における自己の肌に対する評価の傾向を予測することができる。例えば、予測部103は、「肌の問題による社会的な場面からの回避行動(Factor1)」に含まれる質問に対する回答、および、「自身の肌に対する否定的評価(Factor2)」に含まれる質問に対する回答の得点が高いほど(つまり、不満であるほど)、自分の肌をネガティブに評価しやすいと予測することができる。
【0052】
[化粧品のレコメンド]
レコメンド部104は、分析部102が分析した皮膚イメージ尺度が類似する者が過去に購入した化粧品をレコメンドする。例えば、レコメンド部104は、ある特定のユーザの「肌の問題による社会的な場面からの回避行動(Factor1)」に含まれる質問に対する回答、および、「自身の肌に対する否定的評価(Factor2)」に含まれる質問に対する回答の得点がアルゴリズムに入力されると、データベース内に保存された多量の別ユーザの同得点行列から各ユーザ間の距離を計算して、入力されたユーザと似たような皮膚イメージを有する別ユーザを指定した人数(パラメータkとする)選出する。この時、距離の算出には例えばユークリッド距離を用いることができる。パラメータkは、目的や状況に合わせて適宜チューニングしてよい。ユーザ間距離を算出する際には、年齢や家族構成、居住地などの人類学的変数や性格特性といった他の心理学的変数も含めてもよい。アルゴリズムによって選出された別ユーザが過去に購入した化粧品をデータベースから単数あるいは複数選出してレコメンド(例えば、化粧品の情報を表示)することができる。
【0053】
<方法>
図11は、本発明の一実施形態に係る皮膚イメージ分析処理のフローチャートである。
【0054】
ステップ11(S11)において、取得部101は、ユーザの肌の問題による社会的な場面からの回避行動の情報と、当該ユーザの自身の肌に対する否定的評価の情報と、の少なくとも一方を含む皮膚イメージ尺度の情報を取得する。
【0055】
ステップ12(S12)において、分析部102は、S11で取得した皮膚イメージ尺度を分析する。
【0056】
ステップ13(S13)において、予測部103は、S12で分析した皮膚イメージ尺度に基づいて、皮膚の問題の有無を予測する。あるいは、予測部103は、S12で分析した皮膚イメージ尺度に基づいて、自尊心、特性不安、抑うつ傾向を予測する。あるいは、予測部103は、S12で分析した皮膚イメージ尺度に基づいて、自己の肌に対する評価の傾向を予測する。
【0057】
図12は、本発明の一実施形態に係る皮膚イメージ分析処理のフローチャートである。
【0058】
ステップ21(S21)において、取得部101は、ユーザの肌の問題による社会的な場面からの回避行動の情報と、当該ユーザの自身の肌に対する否定的評価の情報と、の少なくとも一方を含む皮膚イメージ尺度の情報を取得する。
【0059】
ステップ22(S22)において、分析部102は、S21で取得した皮膚イメージ尺度を分析する。
【0060】
ステップ23(S23)において、レコメンド部104は、S22で分析した皮膚イメージ尺度が類似する者が過去に購入した化粧品をレコメンドする。
【0061】
<効果>
このように、本発明の一実施形態では、ネガティブな皮膚イメージに関する質問に対するユーザの回答に基づいて、当該ユーザが自身の肌に対して有しているイメージ(不満)を定量化することができる。
【0062】
<ハードウェア構成>
図13は、本発明の一実施形態に係る皮膚イメージ分析装置10のハードウェア構成図である。皮膚イメージ分析装置10は、制御部1001と、主記憶部1002と、補助記憶部1003と、入力部1004と、出力部1005と、インタフェース部1006と、を備えることができる。以下、それぞれについて説明する。
【0063】
制御部1001は、補助記憶部1003にインストールされている各種プログラムを実行するプロセッサ(例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)など)である。
【0064】
主記憶部1002は、不揮発性メモリ(ROM(Read Only Memory))および揮発性メモリ(RAM(Random Access Memory))を含む。ROMは、補助記憶部1003にインストールされている各種プログラムを制御部1001が実行するために必要な各種プログラム、データ等を格納する。RAMは、補助記憶部1003にインストールされている各種プログラムが制御部1001によって実行される際に展開される作業領域を提供する。
【0065】
補助記憶部1003は、各種プログラムや、各種プログラムが実行される際に用いられる情報を格納する補助記憶デバイスである。
【0066】
入力部1004は、皮膚イメージ分析装置10の操作者が皮膚イメージ分析装置10に対して各種指示を入力する入力デバイスである。
【0067】
出力部1005は、皮膚イメージ分析装置10の内部状態等を出力する出力デバイスである。
【0068】
インタフェース部1006は、ネットワークに接続し、他の装置と通信を行うための通信デバイスである。
【0069】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は上述した特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0070】
101 取得部
102 分析部
103 予測部
104 レコメンド部
1001 制御部
1002 主記憶部
1003 補助記憶部
1004 入力部
1005 出力部
1006 インタフェース部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図10
図11
図12
図13