(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101948
(43)【公開日】2024-07-30
(54)【発明の名称】ガスセンサ
(51)【国際特許分類】
G01N 27/409 20060101AFI20240723BHJP
【FI】
G01N27/409 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023006196
(22)【出願日】2023-01-18
(71)【出願人】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(72)【発明者】
【氏名】清家 雄也
(72)【発明者】
【氏名】牧 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】矢板 航平
(72)【発明者】
【氏名】片桐 康太
【テーマコード(参考)】
2G004
【Fターム(参考)】
2G004BB04
2G004BC02
2G004BF01
2G004BF27
2G004BH09
2G004BH11
(57)【要約】
【課題】短尺化しても弾性体の溶損リスクが低く、かつ、リード線保持部が弾性体の貫通孔の内面と干渉したり、貫通孔を塞いだりすることのないガスセンサを提供する。
【解決手段】本発明の一側面に係るガスセンサは、弾性体を筒状体に固定する縮径部が1つ形成され、弾性体の先端面からリード線保持部までが0.1mm以上離れており、さらに、所定の関係式を満たすように各部材のサイズ等を調整することで、接点ずれの発生を防止する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に延び、先端側に検出部を有すると共に、後端側に素子電極を有するセンサ素子と、
前記軸方向に延び、先端側において前記素子電極に電気的に接続される端子金具と、
前記センサ素子と前記端子金具とが内部に配置された筒状体と、
前記端子金具の後端側に電気的に接続され、前記筒状体の後端側の開口端から外方に延びるリード線と、
前記開口端を封止するよう配置され、前記軸方向に延びる貫通孔が内部に形成されており、前記貫通孔に前記リード線の被膜部分を収容した弾性体と、
を備え、
前記端子金具の後端には、前記リード線を圧着して保持するリード線保持部が形成されており、
前記筒状体には、前記弾性体の一部を周囲から加締めている縮径部が1つ形成されており、
前記軸方向において、前記弾性体の先端側の端面から、前記リード線保持部までは0.1mm以上離れており、
以下の数式(1)を満たす、
ガスセンサ。
(Da-Db)×Sa>Fc/(μ×q) ・・・数式(1)
ここで、前記数式(1)において、
「Da」は、前記弾性体の、前記縮径部によって加締められていない部分である非加締め部分の直径を表し、
「Db」は、前記弾性体の、前記縮径部によって加締められている部分である被加締め部分の直径を表し、
「Sa」は、前記リード線の前記被膜部分の、前記被加締め部分における前記貫通孔に収容されている部分の表面積を表し、
「Fc」は、前記素子電極と前記端子金具との電気的接続を切断する、前記軸方向の荷重の大きさを表し、
「μ」は、前記弾性体と前記リード線の前記被膜部分との間の静止摩擦係数を表し、
「q」は、前記縮径部によって前記弾性体を径方向に単位長さ加締めたときに、前記弾性体によって前記リード線の前記被膜部分へと加えられる、単位面積当たりの圧力を表す。
【請求項2】
前記素子電極と、前記素子電極に電気的に接続される前記端子金具の先端側の部分とを収容したセラミックハウジングと、
前記軸方向において、前記セラミックハウジングと前記弾性体との間に配置されるスペーサと、
をさらに備える、
請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項3】
前記端子金具の前記リード線保持部は、前記スペーサの内部に配置されている、
請求項2に記載のガスセンサ。
【請求項4】
前記弾性体の材料はフッ素ゴムである、
請求項1または2に記載のガスセンサ。
【請求項5】
前記リード線の前記被膜部分は、フッ素樹脂により被膜されている、
請求項1または2に記載のガスセンサ。
【請求項6】
前記非加締め部分の直径Daと、前記被加締め部分の直径Dbとは、以下の数式(2)を満たす、
請求項1または2に記載のガスセンサ。
Db/Da≧0.5 ・・・数式(2)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の排気ガス等の被測定ガスにおける酸素やNOxなどの特定のガス成分の濃度を測定するために使用されるガスセンサが知られている。係るガスセンサは、例えば、センサ素子を収容した筒状体と、前記筒状体の開口端から外方に延びるリード線と、前記センサ素子と前記リード線とを電気的に接続する金属端子と、前記開口端を封止するよう配置され、前記リード線が挿入される弾性体と、を備える。このような構成を備えるガスセンサについて、弾性体のシール性を確保してガス濃度の検出精度を向上させつつ、金属端子とセンサ素子との接続部分が位置ずれ(接点ずれ)を起こすのを防止するための種々の試みが知られている。例えば、下掲の特許文献1には、以下のガスセンサが開示されている。すなわち、特許文献1に開示のガスセンサにおいて、前記筒状体の開口端は、内部に貫通孔が形成された前記弾性体によって封止され、前記貫通孔には、前記リード線を圧着して保持する前記端子金具のリード線保持部と、前記リード線とが収容されている。そして、特許文献1に開示のガスセンサにおいて、前記筒状体の後端側は、軸方向に所定間隔を空けた2箇所が加締められ、係る2箇所の縮径部によって前記弾性体は多段(具体的には、2段)で加締められて前記筒状体に固定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本件発明者らは、上述の特許文献1に開示された構成を備えるガスセンサ(従来のガスセンサ)には、次のような問題点があることを見出した。
【0005】
第1に、従来のガスセンサは、弾性体を筒状体に固定するために、前記筒状体の、軸方向に所定間隔を空けた2箇所を加締めている。つまり、従来のガスセンサの弾性体は、前記筒状体の内部において、前記筒状体の開口端から、少なくとも、前記2箇所の加締め位置のうち前記筒状体の先端側の加締め位置まで、延びている。そのため、前記弾性体を前記筒状体に固定するために2つの縮径部を前記筒状体に設ける従来のガスセンサは、前記縮径部を1つとする場合に比べて、前記弾性体の軸方向の長さを、長くせざるを得ない。そして、係る従来のガスセンサについて、ガスセンサ全体の軸方向の長さを短くしようとすると、つまり、短尺化しようとすると、以下の問題が生じる。すなわち、前記弾性体の軸方向の長さを維持しつつ、ガスセンサ全体の軸方向の長さを短くしようとすると、ガスセンサの先端から、特に、ガスセンサの先端側にある熱源から、前記弾性体までの間隔を十分に確保することが困難となる。そのため、従来のガスセンサは、ガスセンサ全体の軸方向の長さを短くしようとした場合に、前記熱源から前記弾性体までの間隔を十分に確保することができず、前記弾性体が高温にさらされて溶損を起こす可能性がある。つまり、本件発明者らは、従来のガスセンサについて、短尺化した場合に弾性体の溶損リスクが高くなるという問題点を見出した。
【0006】
第2に、従来のガスセンサにおいて、前記リード線を圧着して保持する前記端子金具のリード線保持部は、前記弾性体の内部に形成された前記貫通孔に収容されている。そして、前記2箇所の縮径部によって前記弾性体の周囲が加締められることで、従来のガスセンサにおいて、前記貫通孔の内面と前記リード線保持部とは、互いに接触した状態にある。そのため、過酷な環境下での使用、長期間にわたる使用等によるガスセンサの振動などが原因となって、従来のガスセンサにおいては、前記貫通孔の内面と前記リード線保持部とが干渉し合い、前記筒状体内の気密性を悪化させるリスクがある。つまり、本件発明者らは、従来のガスセンサについて、リード線保持部が弾性体の貫通孔の内面と干渉して弾性体のシール性を低下させ、筒状体内の気密性を悪化させるリスクがあるという問題点を見出した。
【0007】
第3に、従来のガスセンサにおいては、前記2箇所の縮径部によって前記弾性体の周囲が加締められることで、前記貫通孔に収容された前記リード線保持部が、前記貫通孔を完全に塞いでしまう(言い換えれば、完全に閉塞してしまう)可能性がある。ここで、ガスセンサにおいては、例えば、前記リード線の被膜と金属線(導体)との間(言い換えれば、被膜の内側)を、外気および前記筒状体内の気体が通ることで、前記筒状体内に外気が導入され、また、前記筒状体内の気体が外部に排出される。しかしながら、前記リード線保持部が前記貫通孔を完全に閉塞してしまうと、前記筒状体内と外部空間との間での気体の入れ替え、循環ができなくなり、ガスセンサのセンサ測定精度が悪化するリスクがある。つまり、本件発明者らは、従来のガスセンサについて、リード線保持部が弾性体の貫通孔を塞いでセンサ測定精度を悪化させるリスクがあるという問題点を見出した。
【0008】
本発明は、一側面では、このような事情を鑑みてなされたものであり、その目的は、短尺化しても弾性体の溶損リスクが低く、かつ、リード線保持部が弾性体の貫通孔の内面と干渉したり、貫通孔を塞いだりすることのないガスセンサを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上述した課題を解決するために、以下の構成を採用する。
【0010】
第1の観点に係るガスセンサは、軸方向に延び、先端側に検出部を有すると共に、後端側に素子電極を有するセンサ素子と、前記軸方向に延び、先端側において前記素子電極に電気的に接続される端子金具と、前記センサ素子と前記端子金具とが内部に配置された筒状体と、前記端子金具の後端側に電気的に接続され、前記筒状体の後端側の開口端から外方に延びるリード線と、前記開口端を封止するよう配置され、前記軸方向に延びる貫通孔が内部に形成されており、前記貫通孔に前記リード線の被膜部分を収容した弾性体と、を備え、前記端子金具の後端には、前記リード線を圧着して保持するリード線保持部が形成されており、前記筒状体には、前記弾性体の一部を周囲から加締めている縮径部が1つ形成されており、前記軸方向において、前記弾性体の先端側の端面から、前記リード線保持部までは0.1mm以上離れており、以下の数式(1)を満たす。
(Da-Db)×Sa>Fc/(μ×q) ・・・数式(1)
【0011】
ここで、前記数式(1)において、「Da」は、前記弾性体の、前記縮径部によって加締められていない部分である非加締め部分の直径を表し、「Db」は、前記弾性体の、前記縮径部によって加締められている部分である被加締め部分の直径を表し、「Sa」は、前記リード線の前記被膜部分の、前記被加締め部分における前記貫通孔に収容されている部分の表面積を表し、「Fc」は、前記素子電極と前記端子金具との電気的接続を切断する、前記軸方向の荷重の大きさを表し、「μ」は、前記弾性体と前記リード線の前記被膜部分との間の静止摩擦係数を表し、「q」は、前記縮径部によって前記弾性体を径方向に単位長さ加締めたときに、前記弾性体によって前記リード線の前記被膜部分へと加えられる、単位面積当たりの圧力を表す。
【0012】
当該構成では、前記ガスセンサにおいて、前記弾性体を前記筒状体に固定するために前記筒状体に形成される前記縮径部を、「1つ」とする。そのため、前記ガスセンサは、前記弾性体を前記筒状体に固定するための縮径部を、前記筒状体に、所定の間隔を空けて「2つ」形成する従来のガスセンサと比べて、前記弾性体の前記軸方向の長さを短くすることができる。
【0013】
したがって、前記ガスセンサは、ガスセンサ全体の軸方向の長さを短くする(短尺化する)場合であっても、前記筒状体の後端側の前記開口端を封止する前記弾性体から、前記ガスセンサの先端までの間隔を十分に確保することができる。つまり、前記ガスセンサは、全体を短尺化する場合であっても、前記弾性体から、前記ガスセンサの先端側にある熱源までの間隔を十分に確保することができる。そのため、前記ガスセンサは、全体を短尺化する場合であっても、前記弾性体から前記熱源までの間隔を十分に確保することで、前記弾性体が高温にさらされて溶損を起こすといった事態が発生するのを防止できるとの効果を奏する。
【0014】
また、前記ガスセンサにおいて、前記リード線保持部は、前記弾性体の前記貫通孔内にはなく、具体的には、前記リード線保持部は、前記軸方向において、前記弾性体の先端側の端面から、0.1mm以上離れている。
【0015】
したがって、前記ガスセンサにおいて、前記リード線保持部は、前記弾性体の前記貫通孔の内面と干渉することがなく、また、前記リード線保持部が、前記貫通孔を閉塞してしまうこともない。つまり、前記ガスセンサは、前記リード線保持部が前記弾性体の前記貫通孔の内面と干渉するのを防止することができ、かつ、前記リード線保持部が前記貫通孔を閉塞してしまうのを防止することができるとの効果を奏する。
【0016】
ここで、前記弾性体を前記筒状体に固定するための前記縮径部を「1つ」とした場合、前記リード線の前記軸方向の移動を、前記弾性体(特に、前記被加締め部分)によって抑制するのは困難となることが想定される。つまり、前記縮径部を1つとした場合、前記リード線が前記軸方向に移動しやすくなることが想定される。そして、前記リード線が前記軸方向に移動しやすくなるのに伴って、前記リード線保持部において前記リード線に圧着された前記端子金具も前記軸方向に移動しやすくなり、前記端子金具と前記素子電極との電気的接続が失われやすくなる(切断されやすくなる)。したがって、前記縮径部を1つとした場合、前記ガスセンサにおいて、接点ずれ(前記端子金具と前記素子電極との電気的接続の切断)が発生しやすくなることが想定される。
【0017】
そこで、前記ガスセンサは、前記数式(1)を満たすように各部材のサイズ等を調整することにより、接点ずれの発生を抑制している。つまり、前記数式(1)を満たすようにサイズ等が調整された各部材を備える前記ガスセンサは、前記弾性体(特に、1つだけの前記縮径部に対応する、1つだけの前記被加締め部分)により前記リード線の前記軸方向の移動を抑制し、接点ずれの発生を防止する。具体的には、前記ガスセンサにおいて、前記非加締め部分の直径Da、前記被加締め部分の直径Db、前記表面積Sa、前記静止摩擦係数μ、および、前記単位長さ加締めたときの圧力qは、前記数式(1)を満たす。
【0018】
本件発明者らは、前記弾性体(特に、前記被加締め部分)によって、前記リード線は、以下のようにして前記軸方向の移動を抑制されていることを確認した。すなわち、内部に形成された前記貫通孔に前記リード線の前記被膜部分を収容した前記弾性体を周囲から加締めることで、前記リード線(特に、前記被膜部分)に径方向の力(垂直抗力Fn)が働く。これによって、前記リード線の前記軸方向の動きに対して、前記弾性体と前記被膜部分との間の静止摩擦係数μと、前記垂直抗力Fnとに比例した静止摩擦力Ffが発生する。すなわち、「Ff=μ×Fn」である。係る静止摩擦力Ffによって、前記リード線は前記軸方向に移動するのを抑制される。
【0019】
前記垂直抗力Fnは、前記単位長さ加締めたときの圧力q、前記非加締め部分の直径Daと前記被加締め部分の直径Dbとの差、および、前記表面積Saに比例する。すなわち、「Fn=(Da-Db)×Sa×q」である。前述のとおり、前記単位長さ加締めたときの圧力qは、前記弾性体が径方向に単位長さ加締められたときに、前記弾性体によって前記被膜部分へと加えられる、単位面積当たりの圧力を示している。また、前記表面積Saは、前記被膜部分の、前記被加締め部分(より正確には、前記被加締め部分における前記貫通孔)に収容されている部分の表面積である。なお、前記表面積Saは、前記弾性体の内部に形成された複数の前記貫通孔のそれぞれに複数の前記リード線のそれぞれの前記被膜部分が収容されている場合、以下のように表わされる。すなわち、複数の前記リード線のそれぞれの外径(円周長)Do、前記被加締め部分の前記軸方向の長さLa、および、複数の前記リード線の本数Nmを用いて、「Sa=Do×La×Nm」と表される。
【0020】
以上に説明してきた通り、「Ff=μ×Fn」であり、「Fn=(Da-Db)×Sa×q」であるから、前記弾性体と前記被膜部分との間の前記静止摩擦力Ffは、「Ff=μ×(Da-Db)×Sa×q」と表される。
【0021】
そして、本件発明者らは、前記端子金具と前記素子電極とを電気的に接続したガスセンサに対して、前記リード線を前記軸方向に引っ張る検査を行なって、接点ずれが生じる、前記軸方向の荷重の大きさを確認した。その結果、本件発明者らは、接点ずれを生じさせる、前記軸方向の荷重(の大きさ)が、前記軸方向の荷重(の大きさ)Fcであることを確認した。すなわち、本件発明者らは、接点ずれが発生した(つまり、前記端子金具と前記素子電極との電気的接続が切断された)ときの、前記リード線を前記軸方向に引っ張る力(荷重)の大きさが、前記軸方向の荷重の大きさFcであることを確認した。
【0022】
そのため、前記静止摩擦力Ff(の大きさ)を、前記軸方向の荷重(の大きさ)Fcよりも大きくすることで、接点ずれの発生を防止することができる。前述のとおり、「Ff=μ×(Da-Db)×Sa×q」であるから、「μ×(Da-Db)×Sa×q>Fc」とすることで、接点ずれの発生を防止することができる。係る関係式を変形して、前記数式(1)の「(Da-Db)×Sa>Fc/(μ×q)」を得る。
【0023】
したがって、前記非加締め部分の直径Da、前記被加締め部分の直径Db、前記被膜部分の前記表面積Sa、前記静止摩擦係数μ、および、前記単位長さ加締めたときの圧力qが前記数式(1)を満たす前記ガスセンサは、接点ずれの発生を防止することができる。
【0024】
さらに、前記筒状体に形成される前記縮径部は1つであるため、前記ガスセンサは、縮径部を前記筒状体に所定の間隔を空けて2つ形成する従来のガスセンサと比べて、寸法を管理すべき項目を低減でき、検査工数・検査コストを削減することができる。また、上述の通り、前記ガスセンサは、従来のガスセンサと比べて、前記弾性体を短尺化できるため、前記弾性体の材料コストを低減でき、さらに、前記弾性体の材料の選択肢を広げて最適な材料を選択することを可能とする。
【0025】
第2の観点に係るガスセンサは、上記第1の観点に係るガスセンサにおいて、前記素子電極と、前記素子電極に電気的に接続される前記端子金具の先端側の部分とを収容したセラミックハウジングと、前記軸方向において、前記セラミックハウジングと前記弾性体との間に配置されるスペーサと、をさらに備えてもよい。
【0026】
当該構成では、前記ガスセンサは、前記セラミックハウジングと、前記スペーサとをさらに備える。つまり、前記ガスセンサにおいて、前記弾性体は、前記セラミックハウジングおよび前記スペーサよりも、前記軸方向において後端側に配置される。そのため、前記ガスセンサは、前記セラミックハウジングおよび前記スペーサによって、前記ガスセンサの先端側にある前記熱源から発せられる熱が、前記弾性体へと伝わるのをより効果的に抑制することができるとの効果を奏する。なお、前記軸方向において前記弾性体よりも先端側に配置される前記スペーサは、耐熱性の材料によって構成されることが好ましい。耐熱性の材料によって前記スペーサを構成することで、前記軸方向において前記弾性体よりも先端側に配置される前記スペーサが、前記熱源から発せられる熱によって溶損を起こすといった事態が発生するのを防止できる。
【0027】
第3の観点に係るガスセンサは、上記第2の観点に係るガスセンサにおいて、前記端子金具の前記リード線保持部は、前記スペーサの内部に配置されていてもよい。当該構成では、前記ガスセンサにおいて、前記端子金具の前記リード線保持部は、前記スペーサの内部に配置されている。したがって、前記ガスセンサは、前記リード線保持部が前記弾性体と干渉したり、前記弾性体の前記貫通孔を塞いだりするのをより効果的に防止することができるとの効果を奏する。
【0028】
第4の観点に係るガスセンサは、上記第1から上記第3の何れかの観点に係るガスセンサにおいて、前記弾性体の材料はフッ素ゴムであってもよい。当該構成では、前記ガスセンサにおいて、前記弾性体の材料は、耐性、強度などのさまざまな面で優れた性能を持ち、特に耐熱性および耐油性に優れたフッ素ゴムである。そのため、前記ガスセンサは、例えば、高温環境下でも前記弾性体のシール性を確保して、ガス濃度の検出精度を維持、向上させることができるとの効果を奏する。
【0029】
第5の観点に係るガスセンサは、上記第1から上記第4の何れかの観点に係るガスセンサにおいて、前記リード線の前記被膜部分は、フッ素樹脂により被膜されていてもよい。当該構成では、前記ガスセンサにおいて、前記リード線の被膜材料は、誘電率が小さく、絶縁耐久性および耐熱性などに優れたフッ素樹脂である。そのため、前記ガスセンサは、高性能化、小型精密化などを実現できるとの効果を奏する。
【0030】
第6の観点に係るガスセンサは、上記第1から上記第5の何れかの観点に係るガスセンサにおいて、前記非加締め部分の直径Daと、前記被加締め部分の直径Dbとは、以下の数式(2)を満たしてもよい。
Db/Da≧0.5 ・・・数式(2)
【0031】
当該構成では、前記ガスセンサにおいて、前記弾性体の、前記非加締め部分の直径Daと、前記被加締め部分の直径Dbとは、上述の数式(2)を満たし、つまり、前記被加締め部分の直径Dbは、前記非加締め部分の直径Daの50%以上である。本件発明者らは、前記被加締め部分の直径Dbを前記非加締め部分の直径Daの50%未満とすると、以下の問題が発生することを確認した。すなわち、前記筒状体と前記弾性体との間に隙間が生じて、前記弾性体のシール性(前記弾性体によって実現される、前記筒状体内の気密性)が悪化するなどの問題が発生することを確認した。したがって、前記ガスセンサは、前記被加締め部分の直径Dbを、前記非加締め部分の直径Daの50%以上とすることで、前記弾性体のシール性を確保してガス濃度の検出精度を維持、向上させることができるとの効果を奏する。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、短尺化しても弾性体の溶損リスクが低く、かつ、リード線保持部が弾性体の貫通孔の内面と干渉したり、貫通孔を塞いだりすることのないガスセンサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】
図1は、実施の形態に係るガスセンサの構成の一例を概略的に示す断面模式図である。
【
図2】
図2は、
図1のガスセンサの要部構成の一例を示す断面模式図である。
【
図3】
図3は、変形例1に係るガスセンサの構成の一例を概略的に示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の一側面に係る実施の形態(以下、「本実施形態」とも表記する)を、図面に基づいて説明する。ただし、以下で説明する本実施形態は、あらゆる点において本発明の例示に過ぎない。本発明の範囲を逸脱することなく種々の改良や変形を行うことができることは言うまでもない。つまり、本発明の実施にあたって、実施形態に応じた具体的構成が適宜採用されてもよい。
【0035】
本件発明者らは、端子金具のリード線保持部と、リード線とを内部に形成された貫通孔に収容した弾性体を、筒状体の、軸方向に所定間隔を空けた2つの縮径部によって加締める従来のガスセンサには、以下の問題点があることを見出した。すなわち、ガスセンサ全体を短尺化すると弾性体が溶損するリスクが高くなり、また、リード線保持部が弾性体の貫通孔の内面と干渉したり、貫通孔を塞いだりして、筒状体内の気密性およびセンサ測定精度を悪化させるリスクがあるとの問題点を見出した。
【0036】
そこで、本発明の一側面に係るガスセンサにおいて、弾性体によって後端側の開口端が封止される筒状体には、この弾性体の一部を周囲から加締めている縮径部が1つだけ形成されている。つまり、本発明の一側面に係るガスセンサが備える縮径部は、1つである。また、本発明の一側面に係るガスセンサにおいて、弾性体の先端側の端面から、端子金具のリード線保持部までの、軸方向の間隔は、0.1mm以上である。つまり、本発明の一側面に係るガスセンサにおいて、リード線保持部は弾性体の貫通孔内に収容されておらず、具体的には、リード線保持部は、弾性体(弾性体の先端側の端面)から0.1mm以上離れた位置に配置される。
【0037】
本発明の一側面に係るガスセンサは、弾性体を筒状体に固定するための縮径部を1つとすることで、係る縮径部を軸方向に所定間隔を空けて2つ形成する従来のガスセンサと比べて、弾性体の軸方向の長さを短くすることができる。そのため、本発明の一側面に係るガスセンサは、ガスセンサ全体を短尺化する場合であっても、筒状体の後端側の開口端を封止する弾性体から、ガスセンサの先端側にある熱源までの間隔を十分に確保することができる。したがって、本発明の一側面に係るガスセンサは、全体を短尺化する場合であっても、弾性体から熱源までの間隔を十分に確保することで、弾性体が高温にさらされて溶損を起こすといった事態が発生するのを防止することができる。
【0038】
また、本発明の一側面に係るガスセンサは、端子金具のリード線保持部を、弾性体(弾性体の先端面)から軸方向に0.1mm以上離すことで、リード線保持部が弾性体の貫通孔の内面と干渉したり、貫通孔を塞いだりするといった事態が発生するのを防止する。そのため、本発明の一側面に係るガスセンサは、リード線保持部が弾性体の貫通孔の内面と干渉したり、貫通孔を塞いだりして、筒状体内の気密性およびセンサ測定精度を悪化させるリスクを抑制することができる。
【0039】
さらに、縮径部を1つとした場合にも、リード線が軸方向に移動して接点ずれを発生させることがないよう、本発明の一側面に係るガスセンサにおいて、各部材のサイズ等は、所定の条件(関係式)を満たすように調整されている。具体的には、本発明の一側面に係るガスセンサにおいて、各部材のサイズ等は、後述する数式(1)を満たすように調整されている。本件発明者らは、数式(1)を満たすように各部材のサイズ等を調整することで、縮径部を1つとした場合にも、リード線の軸方向の移動を抑制して、接点ずれの発生を防止できることを確認した。そのため、本発明の一側面に係るガスセンサは、数式(1)を満たすようにサイズ等が調整された各部材を備えることで、縮径部を1つとした場合にも、接点ずれの発生を防止することができる。
【0040】
以上に説明したように、本発明の一側面に係るガスセンサは、弾性体を筒状体に固定するための縮径部を1つとし、また、端子金具のリード線保持部を、弾性体(弾性体の先端側の端面)から軸方向に0.1mm以上離れた位置に配置する。そして、本発明の一側面に係るガスセンサにおいて、各部材のサイズ等は、数式(1)を満たすように調整されている。係る構成を採用することで、本発明の一側面に係るガスセンサは、短尺化しても弾性体の溶損リスクが低く、かつ、リード線保持部が弾性体の貫通孔の内面と干渉したり、貫通孔を塞いだりすることがなく、さらに、接点ずれの発生を防止することができる。以下では先ず、
図1および
図2を用いて、本発明の一側面に係るガスセンサとして、ガスセンサ1について説明する。
【0041】
[構成例]
<ガスセンサの全体概要>
図1は、本実施形態に係るガスセンサ1の構成の一例を概略的に示す断面模式図である。すなわち、
図1は、ガスセンサ1の、長手方向の軸(軸線、図の左右方向に沿う線)に平行でかつ軸に接する断面の構成を、模式的に示す。ガスセンサ1は、本発明の「ガスセンサ」の一例であり、自動車の排気ガス等の被測定ガスにおける酸素やNO
xなどの特定ガスの濃度(特定ガス濃度)を検出可能なガスセンサである。
図1に例示するように、ガスセンサ1は、軸を有し、長手方向(軸方向)に沿って延びるように構成されており、長手方向のそれぞれの端として先端および後端を有している。長手方向の一方の端が先端、他方の端が後端である。
図1の例では、ガスセンサ1は、ガスセンサ1の先端が左方向を向き、ガスセンサ1の後端が右方向を向くように配置されている。すなわち、
図1の左右方向が、長手方向(軸方向)に相当する。本実施形態では、ガスセンサ1は、センサ素子10、筒状体20、端子金具30、リード線40、弾性体50、セラミックハウジング60、および、保護カバー70を備える。ガスセンサ1においてセンサ素子10は、筒状体20と、保護カバー70とによって囲繞され、筒状体20と、保護カバー70とは、全体として、センサ素子10を内部に収容する収容部材(ケーシング)を構成している。センサ素子10は、筒状体20および保護カバー70と同軸に配置されており、係るセンサ素子10の中心軸の延在方向は、ガスセンサ1の軸方向と一致している。
【0042】
(センサ素子)
センサ素子10は、本発明の「センサ素子」の一例であり、軸方向(
図1の左右方向)に沿って延びるように構成される。
図1に例示するセンサ素子10は、細長な平板状の(長尺板状の)素子である。センサ素子10は、先端側に不図示の検出部を有すると共に、後端側に不図示の素子電極を有する。
図1に例示するセンサ素子10は、先端側が外側多孔質層によって被膜されており、係る外側多孔質層は、例えば被測定ガス中の水分等が付着してセンサ素子10の素子本体にクラックが生じるのを抑制する保護層としての役割を果たしている。
【0043】
ガスセンサ1においてセンサ素子10は、先端側がガスセンサ1の先端の方を向くように配置されている。例えば、センサ素子10の一態様においては、センサ素子10の内部に導入された被測定ガスがセンサ素子10の内部で還元ないしは分解されて酸素イオンが発生する。このようなセンサ素子10を備えるガスセンサ1においては、センサ素子10の内部を流れる酸素イオンの量が被測定ガス中における検知対象ガスである特定ガスの濃度に比例することに基づいて、当該特定ガスの濃度が求められる。
【0044】
図1に示す例においてセンサ素子10の先端側は、保護カバー70によって囲繞されており、後端側は、外筒22内に突出しており、両者の間の略中央部分は、環装部品80により、両端部間を気密に封止する態様にて主体金具21の内部に固定されている。
【0045】
(環装部品)
環装部品80は、
図1に示す例では、第1セラミックサポータ81と、圧粉体82と、第2セラミックサポータ83とからなる。第1セラミックサポータ81および第2セラミックサポータ83は、セラミックス製の碍子である。より詳細には、第1セラミックサポータ81および第2セラミックサポータ83の軸中心位置には、センサ素子10の断面形状に応じた形状の貫通孔(図示省略)が設けられており、当該貫通孔にセンサ素子10が挿通されることによって、第1セラミックサポータ81および第2セラミックサポータ83はセンサ素子10に環装されている。なお、第1セラミックサポータ81は、図面左側において主体金具21のテーパー面に係止されている。
【0046】
一方、圧粉体82は、タルクなどのセラミックス粉末を成型したものである。圧粉体82は、第1セラミックサポータ81および第2セラミックサポータ83と同様に、貫通孔にセンサ素子10が挿通されることによって、センサ素子10に環装されていた2つの成型体(不図示)が、センサ素子10の周囲に環装された状態で主体金具21の内部に配置された後、さらに圧縮されて一体となったものである。より詳細には、圧粉体82をなすセラミックス粒子は、第1セラミックサポータ81および第2セラミックサポータ83と主体金具21とに囲繞され、かつ、主体金具21の内部の、センサ素子10が貫通する空間に、密に充填されている。圧粉体82の圧縮充填により、センサ素子10の先端側と、後端側との間の気密封止が、実現される。
【0047】
図1には、環装部品80を第1セラミックサポータ81と、圧粉体82と、第2セラミックサポータ83とによって構成する例を示した。しかしながら、ガスセンサ1において、環装部品80を第1セラミックサポータ81と、圧粉体82と、第2セラミックサポータ83とによって構成することは必須ではない。
図1に例示するガスセンサ1は、主体金具21の内部においてセンサ素子10を固定すると共に、センサ素子10の先端側と後端側との間を気密封止する環装部品80を備えている。
【0048】
(筒状体)
筒状体20は、本発明の「筒状体」の一例である。筒状体20は、例えば、金属製の筒状(例えば、円筒状)の部材であり、開口端が形成されている。筒状体20の内部にはセンサ素子10および端子金具30が配置されている。
図1に示す例では、筒状体20は、それぞれが金属製の部材である、筒状の主体金具21と、筒状の外筒22と、固定ボルト23とを含む。
【0049】
主体金具21は、金属製の筒状(例えば、円筒状)の部材である。主体金具21の内部には、センサ素子10と、該センサ素子10に環装された固定用の環装部品80とが、収容される。つまり、主体金具21は、センサ素子10の周りに環装された環装部品80の周囲に、さらに環装される。
図1に例示する主体金具21は、軸方向(長手方向)に沿ってセンサ素子10を囲むように構成され、特に、センサ素子10の先端側および後端側のそれぞれの一部を除く範囲を囲うように構成されている。
【0050】
外筒22は、金属製の筒状(例えば、円筒状)の部材であり、
図1に例示する外筒22は、センサ素子10の後端、および、セラミックハウジング60(端子金具30)の周囲を覆っている。
【0051】
外筒22の先端側の端部(開口端)は、主体金具21の後端側の外周端部に溶接固定されている。また、外筒22の後端側の開口端には、係る開口端を封止するように弾性体50が配置されている。外筒22の後端側には、後端側の開口端を封止するための弾性体50の一部を周囲から加締める縮径部221が、形成されている。縮径部221は、本発明の「縮径部」の一例である。縮径部221において外筒22がその周方向全体にわたって縮径状に外側から加締められることにより、弾性体50に径方向外側へと向かう反力を生じさせることによって、外筒22は封止されている。
【0052】
また、弾性体50によって封止された外筒22の後端側の開口端からは、リード線40が、弾性体50の内部に形成された貫通孔(不図示)を通って、外部に引き出されている。リード線40の被膜と金属線(導体)との間(言い換えれば、被膜の内側)を通って、外筒22の内部空間には外気(大気)が導入され、外筒22の内部空間は、基準ガス(大気)雰囲気となっている。センサ素子10の後端は、基準ガスで満たされた外筒22の内部空間内に配置されている。
【0053】
固定ボルト23は、ガスセンサ1を測定位置(取り付け位置)に固定する際に用いられる環状の部材であり、主体金具21と同軸に固定されている。固定ボルト23は、ねじ切りがされたボルト部と、係るボルト部を螺合する際に保持される保持部とを備えている。固定ボルト23のボルト部は、ガスセンサ1の取り付け位置に設けられたナットと螺合する。例えば、自動車の排気管に設けられたナット(ナット部)に、固定ボルト23のボルト部が螺合されることで、ガスセンサ1は、保護カバー70の側が排気管内に露出する態様にて該排気管に固定される。
【0054】
これまでに説明してきた通り、
図1に例示する筒状体20は、主体金具21と、外筒22と、固定ボルト23とを含み、全体として筒状(例えば、円筒状)の部材として、特に、軸方向に延びる筒状の部材として構成されている。すなわち、
図1に例示する筒状体20は、筒状の主体金具21と、主体金具21の後端側の外周端部に溶接固定される筒状の外筒22と、主体金具21の先端側の外周に配置される固定ボルト23とを含む、軸方向に延びる円筒状の部材である。例えば、筒状体20とガスセンサ1(センサ素子10)とは同軸であり、筒状体20は、軸方向(長手方向)のそれぞれの端として先端および後端を有しており、筒状体20の先端がガスセンサ1の先端の方を向くように配置されている。そして、筒状体20の内部には、センサ素子10と、該センサ素子10に環装された固定用の環装部品80と、セラミックハウジング60(端子金具30)とが収容され、後端側の開口端を弾性体50によって封止されている。筒状体20(外筒22)の後端側には、筒状体20の開口端を封止するための弾性体50を固定するための縮径部221が形成され、縮径部221は、弾性体50の一部を周囲から加締めている。
【0055】
なお、ガスセンサ1において、筒状体20が、主体金具21と、外筒22と、固定ボルト23とを含むことは必須ではない。筒状体20は、固定ボルト23を含んでいなくてもよいし、主体金具21と外筒22とは一体的に形成された部材であってもよい。ガスセンサ1において、筒状体20は、センサ素子10が内部に配置され、開口端が形成された、筒状の部材であればよい。
【0056】
(端子金具)
端子金具30は、本発明の「端子金具」の一例である。端子金具30は、軸方向に延びる金属製の部材(接点部材)である。ガスセンサ1において、センサ素子10(特に、その素子電極)と、リード線40とは、端子金具30を介して、電気的に接続されている。
図1に例示するように、端子金具30は、センサ素子10の素子電極と電気的に接続する素子接触部31を先端側に有し、また、リード線40を圧着して保持するリード線保持部32を後端側に有する。
【0057】
例えば、端子金具30の先端側の素子接触部31は、セラミックハウジング60に掛止された状態でセンサ素子10の素子電極に接しており、また、端子金具30の後端側のリード線保持部32は、リード線40を圧着して保持している。端子金具30において、素子接触部31とリード線保持部32との間の部分は、板バネ状をなしていてもよい。
図1に示す例では、端子金具30のリード線保持部32は、軸方向において、弾性体50よりも先端側に配置されている。また、端子金具30の素子接触部31は、セラミックハウジング60に収容されており、つまり、素子接触部31とセンサ素子10の素子電極とは、セラミックハウジング60内で、電気的に接続されている。
【0058】
(セラミックハウジング)
セラミックハウジング60は、本発明の「セラミックハウジング」の一例である。セラミックハウジング60は、センサ素子10の後端側(具体的には、センサ素子10の後端側に設けられた素子電極)と、端子金具30の先端側(具体的には、素子接触部31)と、を収容したセラミック製の部材である。つまり、
図1に例示するガスセンサ1において、センサ素子10(特に、素子電極)と端子金具30(特に、素子接触部31)とは、セラミックハウジング60内で、電気的に接続されている。
【0059】
例えば、端子金具30の先端側(素子接触部31)を収容したセラミックハウジング60に、素子電極が設けられたセンサ素子10の後端側が挿入されている。係る挿入状態において、センサ素子10の後端側に設けられた素子電極と、端子金具30の先端側(素子接触部31)とは、互いに接することになる。素子電極が設けられたセンサ素子10の後端側とセラミックハウジング60との間に、端子金具30の先端側(素子接触部31)が挟持固定されることで、センサ素子10の素子電極と端子金具30とが電気的に接続されていてもよい。
【0060】
セラミックハウジング60は、筒状体20内での位置(例えば、軸方向における位置)を固定されており、特に、先端側への移動を抑制されている。セラミックハウジング60は、例えば、不図示のセラハウ固定部材によって、筒状体20内での軸方向における位置を固定され、特に、先端側への移動を抑制されている。係るセラハウ固定部材は、例えば、筒状体20の内部でセラミックハウジング60を径方向内側に押圧するバネ部材と、係るバネ部材を押さえつけることによりバネ力を発揮させるカシメリングとにより構成されていてもよい。
【0061】
(リード線)
リード線40は、本発明の「リード線」の一例である。リード線40は、端子金具30を介してセンサ素子10の素子電極と電気的に接続し、筒状体20の開口端から外方に延びている。具体的には、リード線40は、その先端側において端子金具30の後端側(すなわち、リード線保持部32)と電気的に接続されており、また、リード線40の後端側は、筒状体20の開口端から外方に延びている。そして、上述のとおり、リード線40と筒状体20(外筒22)との隙間は弾性体50によって封止されている。
【0062】
例えば、リード線40は、弾性体50の内部に設けられた貫通穴(不図示)に挿通されている。リード線40の先端側の端部(具体的には、
図2において説明する非被膜部分42)は、端子金具30の後端側(リード線保持部32)に圧着固定され、また、リード線40の後端側の端部は、外部の装置(コントローラ)、電源等に接続されている。これにより、センサ素子10(特に、センサ素子10の素子電極)と、外部の装置、電源等とが、端子金具30およびリード線40を通じて電気的に接続される。なお、
図1には、端子金具30とリード線40とがそれぞれ2つである例を示しているが、これはあくまで図示の簡単のためである。実際には、ガスセンサ1は、上記の電気的な接続に必要な数の端子金具30およびリード線40を備えている。
【0063】
ガスセンサ1においては、例えば、リード線40の被膜と金属線(導体)との間(言い換えれば、被膜の内側)を、外気および筒状体20内の気体が通ることで、筒状体20内に外気が導入され、また、筒状体20内の気体が外部に排出される。
【0064】
(弾性体)
弾性体50は、本発明の「弾性体」の一例である。弾性体50は、弾性を有する部材であり、例えばゴム製である。弾性体50は、筒状体20の開口端(
図1に示す例では、後端側の開口端)を封止するよう配置され、リード線40が挿入される。具体的には、弾性体50の内部には、軸方向に延びる貫通孔が形成されており、例えば、軸方向に延びる貫通孔が複数形成されている。弾性体50の内部に形成された貫通孔には、リード線40(特に、被膜部分41)が収容され(挿入され)、例えば、弾性体50の内部に形成された複数の貫通孔のそれぞれに、複数のリード線40のそれぞれが、収容されている(挿入されている)。
【0065】
弾性体50の材料は、例えば、フッ素ゴムである。フッ素ゴムは、耐性、強度などのさまざまな面で優れた特性を有し、特に耐熱性および耐油性に優れている。そのため、ガスセンサ1は、フッ素ゴムからなる弾性体50を利用することで、例えば、高温環境下でも弾性体50のシール性を確保して、ガス濃度の検出精度を維持、向上させることができるとの効果を奏する。ただし、ガスセンサ1にとって、弾性体50の材料をフッ素ゴムとすることは必須ではなく、ガスセンサ1は、弾性を有する素材を適宜、弾性体50の材料に用いてもよい。
【0066】
(保護カバー)
保護カバー70は、センサ素子10のうち、使用時に被測定ガスに直接に接触する部分である先端側の所定範囲を保護する、略円筒状の外装部材である。
図1に例示する保護カバー70は、軸方向(長手方向)に沿って、筒状体20(主体金具21)の先端側の少なくとも一部の周りを囲み、センサ素子10の先端を越えて延びるように構成されている。例えば、保護カバー70は、センサ素子10および筒状体20の先端側の一部を軸周りに囲うように構成される。保護カバー70は、軸方向のそれぞれの端として先端および後端を有しており、保護カバー70の先端がセンサ素子10の先端よりもガスセンサ1の先端側に配置されている。
【0067】
保護カバー70には、気体が通過可能な複数の貫通孔(不図示)が設けられている。係る貫通孔を通じて保護カバー70内に流入した被測定ガスが、センサ素子10における直接の検知対象となる。なお、保護カバー70に設けられる貫通孔の種類、配置個数、配置位置、形状などは、保護カバー70の内部への被測定ガスの流入態様を考慮して、適宜に定められてよい。
【0068】
図1に示す例では、保護カバー70は、センサ素子10の先端を覆う有底筒状の内側カバー71と、内側カバー71を覆う有底筒状の外側カバー72とを備えている。内側カバー71は、第1部材71Bおよび第2部材71Aを備え、センサ素子10および筒状体20(主体金具21)の先端側の少なくとも一部の周囲を覆うように構成されている。第1部材71Bは、筒状体20の先端部の外壁から軸方向に沿って延び、筒状体20の先端を越えた辺りで軸方向に垂直な方向に径が小さくなった後に、軸方向に沿ってさらに延びるように構成されている。第2部材71Aは、第1部材71Bの先端側の一部の周囲を覆うように構成されている。外側カバー72は、内側カバー71の周囲を覆うように構成されている。
【0069】
内側カバー71によって囲まれた空間としてセンサ素子室が形成されており、センサ素子10の先端は、このセンサ素子室内に配置されている。内側カバー71の第1部材71B、第2部材71Aおよび外側カバー72には、開口が適宜設けられており、これにより、センサ素子室は、保護カバー70の外側の空間と接続している。ただし、保護カバー70の構成および形状は、このような例に限定されなくてよい。保護カバー70の構成および形状は、実施の形態に応じて適宜決定されてよい。
【0070】
保護カバー70の材料には、例えば、ステンレス鋼(例えば、SUS)等の金属材料が用いられてよい。保護カバー70は、金属材料を適宜成形することで、製造されてよい。なお、この保護カバー70は、ガスセンサ1の構成から省略されてもよい。
【0071】
<ガスセンサの後端側の詳細>
図2は、ガスセンサ1の要部を模式的に示す拡大断面図である。具体的には、
図2は、ガスセンサ1の後端側の詳細を示す。
図2において、紙面上下方向が、ガスセンサ1(センサ素子10)の軸方向(長手方向)であり、紙面下側が先端側、紙面上側が後端側である。
【0072】
(縮径部の個数などについて)
図2に例示するように、ガスセンサ1において、「弾性体50の一部を周囲から加締める」縮径部221は、筒状体20(外筒22)に「1つ」形成され、例えば、筒状体20の後端側に「1つ」形成される。そして、弾性体50は、係る「1つ」の縮径部221によって加締められている部分である被加締め部分51と、軸方向において被加締め部分51よりも先端側の部分である非加締め部分52とを含む。非加締め部分52は、軸方向において被加締め部分51よりも先端側の、縮径部221によって加締められていない部分と捉えることもできる。弾性体50の先端面53は、弾性体50の、軸方向において先端側の端面であり、被加締め部分51の先端側の端面と捉えることもできる。
【0073】
図2に示す例において、「Da」は、弾性体50の、縮径部221によって加締められていない部分である非加締め部分52の直径(単位:[mm])を示している。
図2に示す例では、非加締め部分52の直径Daは、弾性体50の先端面53の直径と捉えることもできる。また、「Db」は、弾性体50の、縮径部221によって加締められている部分である被加締め部分51の直径(単位:[mm])を示している。ガスセンサ1において、被加締め部分51の直径Dbは、非加締め部分52の直径Daの50%以上である。
【0074】
また、以下の説明においては、縮径部221によって弾性体50を径方向に単位長さ加締めたときに、弾性体50によってリード線40の被膜部分41へと加えられる、単位面積当たりの圧力を、「単位長さ加締めたときの圧力q」(単位:[N/mm3])とする。なお、以下の説明においては、「単位長さ加締めたときの圧力q」を単に「圧力q」と略記することがある。圧力qは、「縮径部221によって弾性体50を径方向に単位長さ加締めたときに、弾性体50によってリード線40の被押圧部分411へと加えられる、単位面積当たりの圧力」と捉えることもできる。リード線40の被押圧部分411についての詳細は後述する。
【0075】
弾性体50にはリード線40が挿入されており、特に、
図2に例示するように、弾性体50の内部には、リード線40の被膜部分41が収容されている。具体的には、上述のとおり弾性体50の内部には軸方向に延びる貫通孔が形成されており、係る貫通孔に、リード線40が、特にリード線40の被膜部分41が、収容されている。
【0076】
リード線40は、所定の被膜材料によって被膜された部分である被膜部分41と、係る被膜材料によって被膜されていない部分である非被膜部分42とを含む。非被膜部分42は、被膜材料によって被膜されていない、むき出しの金属線(導体)と捉えることもでき、端子金具30のリード線保持部32に圧着されている。
【0077】
リード線40の被膜部分41は、例えば、フッ素樹脂により被膜されており、つまり、リード線40の被膜材料は、例えば、フッ素樹脂である。フッ素樹脂は、誘電率が小さく、絶縁耐久性および耐熱性などに優れている。そのため、ガスセンサ1は、フッ素樹脂を被膜材料とするリード線40を利用することで、例えば、高性能化、小型精密化などを実現できるとの効果を奏する。ただし、ガスセンサ1にとって、リード線40の被膜材料をフッ素樹脂とすることは必須ではなく、ガスセンサ1は、リード線の被膜材料として好適な素材を適宜、リード線40の被膜材料に用いてもよい。
【0078】
リード線40の被膜部分41のうち、弾性体50の被加締め部分51における貫通孔に収容されている部分が、被押圧部分411である。被押圧部分411は、リード線40の被膜部分41のうち、「被加締め部分51の内部に形成されている貫通孔に収容され、係る貫通孔の内面によって外周面を押圧されている部分」と捉えることもできる。
【0079】
また、以下の説明においては、リード線40の被押圧部分411の表面積を、「表面積Sa」(単位:[mm
2])と称する。つまり、「表面積Sa」は、「リード線40の被膜部分41のうち、弾性体50の被加締め部分51における貫通孔に収容されている部分」である被押圧部分411の表面積である。例えば、ガスセンサ1が、「軸方向に延びる貫通孔が内部に複数形成された弾性体50」を備え、係る複数の貫通孔のそれぞれに、複数のリード線40のそれぞれが収容されている場合、リード線40の被押圧部分411の表面積Saは以下の値を示す。すなわち、リード線40の被押圧部分411の表面積Saは、係る複数のリード線40のそれぞれの被押圧部分411の表面積の和(合計)を示す。
図2に示す例では、弾性体50の内部には、軸方向に延びる貫通孔が2つ形成されており、係る2つの貫通孔のそれぞれに、2つのリード線40(特に、2つの被膜部分41)のそれぞれが、収容されている。そのため、
図2に示す例では、2つの被膜部分41のそれぞれの被押圧部分411の表面積の合計が、「リード線40の被押圧部分411の表面積Sa」となる。
【0080】
図2に示す例において、「La」は、リード線40の被押圧部分411の長さ(軸方向における長さ)(単位:[mm])を示している。各リード線40の外径(円周長)を「外径Do(単位:[mm])」とし、弾性体50に収容されているリード線40の本数を「本数Nm」とすると、上述の表面積Saは、以下のように表わすことができる。すなわち、被押圧部分411の表面積Saは、各リード線40の外径Do、リード線40の本数Nm、および、被押圧部分411の長さLaを用いて、「Sa=Do×La×Nm」と表すことができる。なお、以下の説明においては、表面積Saについて、単位の記載は省略する。同様に、「非加締め部分52の直径Da」、「被加締め部分51の直径Db」、および、「単位長さ加締めたときの圧力q」についても、単位の記載は省略する。
【0081】
(弾性体の先端面からリード線保持部までの距離について)
図2に例示するように、端子金具30の後端側には、リード線40を圧着して保持するリード線保持部32が形成されており、つまり、端子金具30は、軸方向において後端側に、リード線保持部32を有する。具体的には、端子金具30のリード線保持部32は、リード線40の非被膜部分42(金属線)を圧着して保持している。そして、端子金具30のリード線保持部32は、軸方向において、弾性体50よりも先端側に配置されており、つまり、リード線保持部32は、弾性体50の先端面53よりも、軸方向において先端側に配置されている。例えば、リード線40の被膜部分41のうち、少なくとも一部は、弾性体50の貫通孔に収容されておらず、弾性体50(弾性体50の先端面53)よりも先端側に突き出ている。
【0082】
特に、ガスセンサ1においてリード線保持部32は、軸方向において、弾性体50の先端面53から所定の距離を隔てた位置に配置され、
図2に示す例では、弾性体50の先端面53とリード線保持部32との間には、間隔Li(単位:[mm])が設けられている。なお、「弾性体50の先端面53と、リード線保持部32との間の、軸方向における間隔Li」についても、「表面積Sa」、「直径Da」、「直径Db」、および、「単位長さ加締めたときの圧力q」と同様に、以下の説明においては、単位の記載を省略する。
【0083】
図2に示す例において、「Li」は、弾性体50の先端面53と、リード線保持部32との間の間隔を示しており、特に、係る間隔の、軸方向における長さを示している。
図2に例示するガスセンサ1において、弾性体50の先端面53から、リード線保持部32までの、軸方向における長さ(
図2における間隔Li)は、「0.1mm」以上である。すなわち、ガスセンサ1において、リード線保持部32は、弾性体50の先端面53(先端側の端面)から、軸方向に0.1mm以上離れた位置に配置されている。
【0084】
これまでに説明してきたとおり、ガスセンサ1において、弾性体50を筒状体20(外筒22)に固定するために筒状体20に形成される縮径部221は、「1つ」である。そのため、ガスセンサ1は、『弾性体を筒状体に固定するための縮径部を、前記筒状体に、所定の間隔を空けて「2つ」形成する』従来のガスセンサと比べて、弾性体50の軸方向の長さを短くすることができる。すなわち、軸方向に所定の間隔を空けて縮径部を「2つ」形成する従来のガスセンサにおいて、弾性体は、前記筒状体の後端側の開口端から、少なくとも、「2つ」の縮径部のうち前記筒状体の先端側の縮径部まで、軸方向に延びている必要があった。これに対して、ガスセンサ1において、弾性体50は、筒状体20の後端側の開口端から、「1つ」の縮径部221まで延びていればよい。そのため、筒状体20の後端側に形成する縮径部221を「1つ」とするガスセンサ1は、『縮径部を、軸方向に所定の間隔を空けて「2つ」形成する』従来のガスセンサと比べて、弾性体50の軸方向の長さを短くすることができる。
【0085】
したがって、ガスセンサ1は、ガスセンサ全体の軸方向の長さを短くする(短尺化する)場合であっても、筒状体20の後端側の開口端を封止する弾性体50から、ガスセンサ1の先端までの間隔を十分に確保することができる。つまり、ガスセンサ1は、全体を短尺化する場合であっても、弾性体50から、ガスセンサ1の先端側にある熱源までの間隔を十分に確保することができる。そのため、ガスセンサ1は、全体を短尺化する場合であっても、弾性体50から前記熱源までの間隔を十分に確保することで、弾性体50が高温にさらされて溶損を起こすといった事態が発生するのを防止できるとの効果を奏する。
【0086】
また、ガスセンサ1において、端子金具30のリード線保持部32は、弾性体50の貫通孔内にはなく、具体的には、リード線保持部32は、軸方向において、弾性体50の先端面53(先端側の端面)から、0.1mm以上離れている。
【0087】
したがって、ガスセンサ1において、端子金具30のリード線保持部32は、弾性体50の貫通孔の内面と干渉することがなく、また、リード線保持部32が、弾性体50の貫通孔を閉塞してしまうこともない。つまり、ガスセンサ1は、リード線保持部32が弾性体50の貫通孔の内面と干渉するのを防止することができ、かつ、リード線保持部32が弾性体50の貫通孔を閉塞してしまうのを防止することができるとの効果を奏する。
【0088】
(各部材のサイズ等について)
ここで、弾性体50を筒状体20に固定するための縮径部221を「1つ」とした場合、リード線40の軸方向の移動を、弾性体50(特に、被加締め部分51)によって抑制するのは困難となることが想定される。つまり、縮径部221を1つとした場合、リード線40が軸方向に移動しやすくなることが想定される。そして、リード線40が軸方向に移動しやすくなるのに伴ない、リード線保持部32においてリード線40に圧着された端子金具30も軸方向に移動しやすくなり、端子金具30とセンサ素子10の素子電極との電気的接続が失われ易くなる(切断され易くなる)。したがって、縮径部221を1つとした場合、ガスセンサ1において、接点ずれ(端子金具30とセンサ素子10の素子電極との電気的接続の切断)が発生しやすくなることが想定される。
【0089】
そこで、ガスセンサ1は、以下の数式(1)を満たすように各部材のサイズ等を調整することにより、接点ずれの発生を抑制している。つまり、数式(1)を満たすようにサイズ等が調整された各部材を備えるガスセンサ1は、弾性体50(特に、1つだけの縮径部221に対応する、1つだけの被加締め部分51)によりリード線40の軸方向の移動を抑制し、接点ずれの発生を防止する。具体的には、ガスセンサ1において、非加締め部分52の直径Da、被加締め部分51の直径Db、リード線40の被押圧部分411の表面積Sa、静止摩擦係数μ、および、単位長さ加締めたときの圧力qは、数式(1)を満たす。すなわち、ガスセンサ1は、
(Da-Db)×Sa>Fc/(μ×q) ・・・数式(1)
を満たす。
【0090】
なお上述のとおり、リード線40の被押圧部分411は、リード線40の被膜部分41のうち、弾性体50の被加締め部分51における貫通孔に収容されている部分である。弾性体50の複数の貫通孔のそれぞれに、複数のリード線40のそれぞれの被膜部分41が収容されている場合、表面積Saは、係る複数のリード線40のそれぞれの被押圧部分411の表面積を、合計したものである。また、詳細は後述するが、数式(1)における「Fc」は、端子金具30とセンサ素子10の素子電極との電気的接続を切断する軸方向の荷重であり、検査等により予め大きさ(値)を求めることのできる軸方向の荷重である。
【0091】
本件発明者らは、弾性体50(特に、被加締め部分51)によって、リード線40は、以下のようにして軸方向の移動を抑制されていることを確認した。すなわち、内部に形成された貫通孔にリード線40の被膜部分41を収容した弾性体50を周囲から加締めることで、リード線40(特に、被膜部分41のうち、被押圧部分411)に径方向の力(垂直抗力Fn)が働く。これによって、リード線40の軸方向の動きに対して、弾性体50と被膜部分41(特に、被押圧部分411)との間の静止摩擦係数μと、垂直抗力Fnとに比例した静止摩擦力Ffが発生する。すなわち、「Ff=μ×Fn」である。係る静止摩擦力Ffによって、リード線40は軸方向に移動するのを抑制される。
【0092】
垂直抗力Fnは、上述の「単位長さ加締めたときの圧力q」、「非加締め部分52の直径Daと被加締め部分51の直径Dbとの差」、および、「被押圧部分411の表面積Sa」に比例する。すなわち、「Fn=(Da-Db)×Sa×q」である。前述のとおり、「単位長さ加締めたときの圧力q」は、弾性体50が径方向に単位長さ加締められたときに、弾性体50によって被膜部分41へと加えられる、単位面積当たりの圧力を示している。また、「被押圧部分411の表面積Sa」は、被膜部分41の「弾性体50の被加締め部分51(より正確には、被加締め部分51における貫通孔)に収容されている部分」の表面積である。さらに、「被押圧部分411の表面積Sa」は、弾性体50の内部に形成された複数の貫通孔のそれぞれに複数のリード線40のそれぞれの被膜部分41が収容されている場合、以下のように表わされる。すなわち、複数のリード線40のそれぞれの外径(円周長)Do、被加締め部分51の軸方向の長さLa、および、複数のリード線40の本数Nmを用いて、「Sa=Do×La×Nm」と表される。
【0093】
以上に説明してきた通り、「Ff=μ×Fn」であり、「Fn=(Da-Db)×Sa×q」であるから、弾性体50と被膜部分41との間の静止摩擦力Ffは、「Ff=μ×(Da-Db)×Sa×q」と表される。
【0094】
そして、本件発明者らは、端子金具30とセンサ素子10の素子電極とを電気的に接続したガスセンサに対して、リード線40を軸方向に引っ張る検査を行なって、接点ずれが生じる、軸方向の荷重の大きさを確認した。その結果、本件発明者らは、接点ずれを生じさせる、軸方向の荷重(の大きさ)が、軸方向の荷重(の大きさ)Fcであることを確認した。すなわち、本件発明者らは、接点ずれが発生した(つまり、端子金具30とセンサ素子10の素子電極との電気的接続が切断された)ときの、リード線40を軸方向に引っ張る力(荷重)の大きさが、軸方向の荷重の大きさFcであることを確認した。
【0095】
そのため、静止摩擦力Ff(の大きさ)を、軸方向の荷重(の大きさ)Fcよりも大きくすることで、接点ずれの発生を防止することができる。前述のとおり、「Ff=μ×(Da-Db)×Sa×q」であるから、「μ×(Da-Db)×Sa×q>Fc」とすることで、接点ずれの発生を防止することができる。係る関係式を変形して、数式(1)の「(Da-Db)×Sa>Fc/(μ×q)」を得る。
【0096】
したがって、非加締め部分52の直径Da、被加締め部分51の直径Db、被押圧部分411の表面積Sa、静止摩擦係数μ、および、単位長さ加締めたときの圧力qが、数式(1)を満たすガスセンサ1は、接点ずれの発生を防止することができる。
【0097】
さらに、筒状体20に形成される縮径部221は1つであるため、ガスセンサ1は、縮径部221を筒状体20に所定の間隔を空けて2つ形成する従来のガスセンサと比べて、寸法を管理すべき項目を低減でき、検査工数・検査コストを削減することができる。また、上述の通り、ガスセンサ1は、従来のガスセンサと比べて、弾性体50を短尺化できるため、弾性体50の材料コストを低減でき、さらに、弾性体50の材料の選択肢を広げて最適な材料を選択することを可能とする。
【0098】
なお、上述の検査によって本件発明者らは、「端子金具30とセンサ素子10の素子電極との電気的接続を切断する、軸方向の荷重の大きさFc」が、例えば、「150[N]」または「180[N]」であることを確認した。ただし、本発明に係るガスセンサにとって、「端子金具30とセンサ素子10の素子電極との電気的接続を切断する、軸方向の荷重の大きさFc」が「150」または「180」であることは必須ではない。本発明に係るガスセンサにおける「Fc」は、ガスセンサの各部材のサイズ、形状、材料等に応じて適宜求められる。
【0099】
また、「弾性体50とリード線40の被膜部分41との間の静止摩擦係数μ」は、弾性体50およびリード線40の被膜部分41のそれぞれの材料(材質)に応じて予め求めることができる。同様に、「単位長さ加締めたときの圧力q」は、弾性体50の材料に応じて予め求めることができる。したがって、数式(1)中の「μ×q」の値は、弾性体50およびリード線40の被膜部分41のそれぞれの材料に応じて予め求めることができる。例えば、弾性体50の材料としてフッ素ゴムを、また、リード線40の被膜部分41の材料としてフッ素樹脂を採用した場合、「μ×q」の値は、「1.7」または「1.1」であった。ただし、本発明に係るガスセンサにとって、「μ×q」の値が「1.7」または「1.1」であることは必須ではない。本発明に係るガスセンサにおける「μ×q」の値は、弾性体およびリード線の被膜部分のそれぞれの材料(材質)に応じて予め求めることができる。
【0100】
さらに、ガスセンサ1において、非加締め部分52の直径Daと、被加締め部分51の直径Dbとは、以下の数式(2)を満たす。すなわち、ガスセンサ1は、
Db/Da≧0.5 ・・・数式(2)
を満たす。つまり、ガスセンサ1において、被加締め部分51の直径Dbは、非加締め部分52の直径Daの50%以上である。
【0101】
本件発明者らは、被加締め部分51の直径Dbを非加締め部分52の直径Daの50%未満とすると、以下の問題が発生することを確認した。すなわち、筒状体20と弾性体50との間に隙間が生じて、弾性体50のシール性(弾性体50によって実現される、筒状体20内の気密性)が悪化するなどの問題が発生することを確認した。したがって、ガスセンサ1は、被加締め部分51の直径Dbを、非加締め部分52の直径Daの50%以上とすることで、弾性体50のシール性を確保してガス濃度の検出精度を維持、向上させることができるとの効果を奏する。
【0102】
<リード線保持部の収納状態についての考察>
これまでに説明してきたとおり、本発明に係るガスセンサにおいて、端子金具のリード線保持部(リード線を圧着して保持する部分)は、弾性体の内部にはなく、具体的には、リード線保持部は、軸方向において、弾性体の先端面から0.1mm以上離れている。例えば、ガスセンサ1において、リード線保持部32は、弾性体50の貫通孔内にはなく、具体的には、リード線保持部32は、軸方向において、弾性体50の先端面53(先端側の端面)から、0.1mm以上離れている。
【0103】
ここで、
図1および
図2に例示するガスセンサ1において、リード線保持部32は、筒状体20(外筒22)の内部空間において露出している。例えば、端子金具30の先端側の素子接触部31は、セラミックハウジング60の内部に収容されているのに対して、端子金具30の後端側のリード線保持部32は、セラミックハウジング60よりも後端側で、筒状体20の内部空間内で露出している。しかしながら、本発明に係るガスセンサにおいて、端子金具のリード線保持部が、筒状体の内部空間において露出していることは必須ではない。本発明に係るガスセンサにおいて、リード線保持部は、周囲を、弾性体以外の部材によって覆われた状態で、筒状体内に収容されていてもよい。本発明に係るガスセンサにおいて、端子金具のリード線保持部は、軸方向において弾性体の先端面から0.1mm以上離れていればよい。本発明に係るガスセンサにおいて、端子金具のリード線保持部が、露出した状態で筒状体内に収容されているか、それとも、弾性体以外の部材によって覆われた状態で筒状体内に収容されているかは、ガスセンサの用途、利用環境などに応じて適宜決められる。以下、本発明の一側面に係る、「端子金具のリード線保持部が、弾性体以外の部材によって覆われた状態で筒状体内に収容されている」ガスセンサについて、
図3を用いて説明する。
【0104】
図3は、変形例1に係るガスセンサ1Aの構成の一例を概略的に示す断面模式図である。すなわち、
図3は、ガスセンサ1Aの、長手方向の軸(軸線、図の左右方向に沿う線)に平行でかつ軸に接する断面の構成を、模式的に示す。ガスセンサ1Aは、本発明の「ガスセンサ」の一例であり、自動車の排気ガス等の被測定ガスにおける酸素やNO
xなどの特定ガスの濃度(特定ガス濃度)を検出可能なガスセンサである。ガスセンサ1Aは、ガスセンサ1が備える構成に加えてさらにスペーサ90を備える点を除いて、ガスセンサ1と同様であるため、スペーサ90以外の構成について、詳細な説明は省略する。
【0105】
図3の例では、ガスセンサ1Aは、ガスセンサ1Aの先端が左方向を向き、ガスセンサ1Aの後端が右方向を向くように配置されている。すなわち、
図3の左右方向が、長手方向(軸方向)に相当する。ガスセンサ1Aは、ガスセンサ1と同様に、センサ素子10、筒状体20、端子金具30、リード線40、弾性体50、セラミックハウジング60、および、保護カバー70を備え、ガスセンサ1Aはさらに、スペーサ90を備えている。
【0106】
(スペーサ)
スペーサ90は、本発明の「スペーサ」の一例である。スペーサ90は、ガスセンサ1A(センサ素子10)の軸方向において、セラミックハウジング60と弾性体50との間に配置される。つまり、スペーサ90は、筒状体20(外筒22)の内部において、セラミックハウジング60と弾性体50とに挟み込まれて(介在して)いる。例えば、スペーサ90は、セラミックハウジング60によって、軸方向の移動(特に、先端側への移動)を制限されている。
【0107】
図3に例示するスペーサ90には、リード線40が挿入されている。具体的には、スペーサ90の内部に、リード線40と、端子金具30(特に、リード線40を圧着して保持するリード線保持部32)とが収容されている。例えば、スペーサ90の内部には、軸方向に延びる貫通孔が形成されている。スペーサ90の内部には、弾性体50の内部と同様に、軸方向に延びる貫通孔が複数形成されていてもよい。スペーサ90の内部に形成された貫通孔に、リード線40と、端子金具30のリード線保持部32とは収容されている(挿入されている)。例えば、スペーサ90の内部に形成された複数の貫通孔のそれぞれに、複数のリード線40およびリード線保持部32のそれぞれが、収容されている(挿入されている)。
図3には、スペーサ90の内部に貫通孔が2つ形成され、係る2つの貫通孔のそれぞれに、2つのリード線40のそれぞれと、2つのリード線保持部32のそれぞれとが、収容されている例が示されている。そして、ガスセンサ1Aにおいて、リード線保持部32とリード線40とは、スペーサ90内で、電気的に接続されている。
【0108】
スペーサ90は、例えば、耐熱性の材料によって構成される。耐熱性の材料によってスペーサ90を構成することで、軸方向において弾性体50よりも先端側に配置されるスペーサ90が、ガスセンサ1Aの先端側にある熱源から発せられる熱によって溶損を起こすといった事態が発生するのを防止できる。例えば、弾性体50とセラミックハウジング60との間にスペーサ90を介在させることにより、ガスセンサ1Aの使用時等における弾性体50の過剰な昇温を防ぐことができる。つまり、弾性体50への伝熱を抑えるという観点からは、スペーサ90の熱伝導率は低い方が望ましい。ただし、スペーサ90によって弾性体50の温度上昇が抑えられる一方で、スペーサ90は高温度となるため、スペーサ90自体には十分な耐熱性が必要となる。そこで、スペーサ90を耐熱性の材料によって構成することで、上述の熱源から弾性体50への伝熱を抑えつつ、スペーサ90自体が熱源から発せられる熱によって溶損を起こすといった事態が発生するのを防止できる。
【0109】
なお、
図3には、スペーサ90を1つの部材とする例を示しているが、スペーサ90は、複数の構成要素(構成部材)によって構成されていてもよい。例えば、スペーサ90は、軸方向において先端側に配置されるスペーサ先端側部分と、後端側に配置されるスペーサ後端側部分とを有していてもよい。すなわち、スペーサ90を、スペーサ先端側部分とスペーサ後端側部分とを含む多段構成(例えば、2段構成)としてもよい。
【0110】
スペーサ90を利用して、ガスセンサ1Aの使用時における弾性体50の昇温を抑制する場合、上述のスペーサ先端側部分およびスペーサ後端側部分は、それぞれ、以下のように構成されてもよい。すなわち、軸方向において先端側に配置されるスペーサ先端側部分の材質としては、スペーサ後端側部分よりも優れた耐熱性を具備するという点から、樹脂よりも高融点である、セラミックスが選択される。好ましくは、耐熱性に加え断熱性の点からも好適な、熱伝導率が32W/m・K以下であるセラミックスが選択され、より好ましくはアルミナ(熱伝導率:32W/m・K)またはステアタイト(熱伝導率:2W/m・K)が選択される。これに対して、弾性体50と接するスペーサ後端側部分の材質としては、低熱伝導性を具備するという点から、セラミックス等よりも樹脂が選択される。好ましくは、スペーサ後端側部分に用いる樹脂は、何れもフッ素樹脂であるPTFE(ポリテトラフルオロエチレン、融点327°C)またはPFA(パーフルオロアルコキシアルカン、融点310°c)である。これらの樹脂は、低熱伝導性に加え、ゴム製の弾性体50よりも高い耐熱性を有している。例えば、PTFEについていえば、その熱伝導率は0.2W/m・Kであり、連続最高使用温度(最高温度での使用が連続する場合の当該最高温度)は260°Cである。
【0111】
図3に例示するガスセンサ1Aにおいて、筒状体20(外筒22)は、センサ素子10の後端、セラミックハウジング60(端子金具30)、および、スペーサ90の周囲を覆っている。すなわち、
図3に示す例では、筒状体20の内部には、センサ素子10と、該センサ素子10に環装された固定用の環装部品80と、セラミックハウジング60(端子金具30)と、スペーサ90とが収容され、後端側の開口端を弾性体50によって封止されている。
【0112】
また、ガスセンサ1Aにおいて、リード線40は、例えば、弾性体50およびスペーサ90に連続的に設けられた貫通穴(不図示)に挿通されており、先端側の端部(非被膜部分42)は端子金具30のリード線保持部32に圧着固定されている。なお、
図3には、端子金具30とリード線40とがそれぞれ2つである例を示しているが、これはあくまで図示の簡単のためである。実際には、ガスセンサ1Aは、上記の電気的な接続に必要な数の端子金具30およびリード線40を備えている。
【0113】
図3に例示する端子金具30のリード線保持部32は、スペーサ90内に収容されており、つまり、
図3に例示するガスセンサ1Aにおいて、リード線保持部32とリード線40とは、スペーサ90内で、電気的に接続されている。また、端子金具30の素子接触部31は、セラミックハウジング60に収容されている。
【0114】
これまでに説明してきたとおり、
図3に例示するガスセンサ1Aは、
図1および
図2を用いて説明したガスセンサ1が備える構成に加えてさらに、スペーサ90を備える。すなわち、ガスセンサ1Aは、「センサ素子10の素子電極と、係る素子電極に電気的に接続される端子金具30の先端側の部分(素子接触部31)とを収容した」セラミックハウジング60と、スペーサ90と、を備えている。ガスセンサ1Aにおいてスペーサ90は、軸方向において、セラミックハウジング60と弾性体50との間に配置される。つまり、ガスセンサ1Aにおいて、弾性体50は、セラミックハウジング60およびスペーサ90よりも、軸方向において後端側に配置される。
【0115】
そのため、ガスセンサ1Aは、セラミックハウジング60およびスペーサ90によって、ガスセンサ1Aの先端側にある熱源から発せられる熱が、弾性体50へと伝わるのをより効果的に抑制することができるとの効果を奏する。なお、軸方向において弾性体50よりも先端側に配置されるスペーサ90は、耐熱性の材料によって構成されることが好ましい。耐熱性の材料によってスペーサ90を構成することで、軸方向において弾性体50よりも先端側に配置されるスペーサ90が、上述の熱源から発せられる熱によって溶損を起こすといった事態が発生するのを防止できる。
【0116】
ガスセンサ1Aにおいて、端子金具30のリード線保持部32は、スペーサ90の内部に配置されている。したがって、ガスセンサ1Aは、リード線保持部32が弾性体50と干渉したり、弾性体50の貫通孔を塞いだりするのをより効率的に防止することができるとの効果を奏する。
【0117】
なお、スペーサ90を備える点を除いて、ガスセンサ1Aは、ガスセンサ1と同様の構成を備える。すなわち、ガスセンサ1Aは、ガスセンサ1と同様に、センサ素子10と、筒状体20と、端子金具30と、リード線40と、弾性体50とを備えている。ガスセンサ1Aにおいて、端子金具30の後端には、リード線40(特に、リード線40の非被膜部分42)を圧着して保持するリード線保持部32が形成されており、筒状体20には、弾性体50の一部を周囲から加締めている縮径部221が1つ形成されている。したがって、ガスセンサ1Aは、ガスセンサ全体の軸方向の長さを短くする(短尺化する)場合であっても、筒状体20の後端側の開口端を封止する弾性体50から、ガスセンサ1Aの先端までの間隔を十分に確保することができる。つまり、ガスセンサ1Aは、全体を短尺化する場合であっても、弾性体50から、ガスセンサ1Aの先端側にある熱源までの間隔を十分に確保することができる。そのため、ガスセンサ1Aは、全体を短尺化する場合であっても、弾性体50から熱源までの間隔を十分に確保することで、弾性体50が高温にさらされて溶損を起こすといった事態が発生するのを防止できるとの効果を奏する。
【0118】
また、ガスセンサ1Aにおいて、リード線保持部32は、弾性体50の貫通孔内にはなく、具体的には、弾性体50の先端面53から、リード線保持部32までは、軸方向において0.1mm以上離れている。したがって、ガスセンサ1Aにおいて、リード線保持部32は、弾性体50の貫通孔の内面と干渉することがなく、また、リード線保持部32が、貫通孔を閉塞してしまうこともない。つまり、ガスセンサ1Aは、リード線保持部32が弾性体50の貫通孔の内面と干渉するのを防止することができ、かつ、リード線保持部32が貫通孔を閉塞してしまうのを防止することができるとの効果を奏する。
【0119】
さらに、ガスセンサ1Aにおいて、非加締め部分52の直径Da、被加締め部分51の直径Db、リード線40の被押圧部分411の表面積Sa、静止摩擦係数μ、および、単位長さ加締めたときの圧力qは、数式(1)を満たす。すなわち、ガスセンサ1Aは、
(Da-Db)×Sa>Fc/(μ×q) ・・・数式(1)
を満たす。
【0120】
上述のとおり、直径Da、直径Db、表面積Sa、静止摩擦係数μ、および、単位長さ加締めたときの圧力qが、数式(1)を満たす場合、弾性体50が、リード線40の軸方向の移動を効果的に抑制するため、接点ずれの発生を防止することができる。したがって、ガスセンサ1Aは、接点ずれの発生を防止することができる。
【0121】
さらに、筒状体20に形成される縮径部221は1つであるため、ガスセンサ1Aは、縮径部221を筒状体20に所定の間隔を空けて2つ形成する従来のガスセンサと比べて、寸法を管理すべき項目を低減でき、検査工数・検査コストを削減することができる。また、上述の通り、ガスセンサ1Aは、従来のガスセンサと比べて、弾性体50を短尺化できるため、弾性体50の材料コストを低減でき、さらに、弾性体50の材料の選択肢を広げて最適な材料を選択することを可能とする。
【0122】
ここで、ガスセンサ1Aにおいても、ガスセンサ1と同様に、非加締め部分52の直径Daと、被加締め部分51の直径Dbとは、以下の数式(2)を満たす。すなわち、ガスセンサ1Aは、
Db/Da≧0.5 ・・・数式(2)
を満たす。つまり、ガスセンサ1Aにおいて、被加締め部分51の直径Dbは、非加締め部分52の直径Daの50%以上である。
【0123】
上述のとおり、本件発明者らは、被加締め部分51の直径Dbを非加締め部分52の直径Daの50%未満とすると、弾性体50のシール性が悪化するなどの問題が発生することを確認した。したがって、ガスセンサ1Aは、被加締め部分51の直径Dbを、非加締め部分52の直径Daの50%以上とすることで、弾性体50のシール性を確保してガス濃度の検出精度を維持、向上させることができるとの効果を奏する。
【0124】
[特徴]
以上のとおり、本実施形態に係るガスセンサ1およびガスセンサ1Aは、それぞれ、センサ素子10と、筒状体20と、端子金具30と、リード線40と、弾性体50とを備える。センサ素子10は、軸方向に延び、先端側に検出部を有すると共に、後端側に素子電極を有する。筒状体20は、筒状(例えば、円筒状)の部材であり、その内部に、センサ素子10と端子金具30とが配置される。端子金具30は、軸方向に延び、先端側(具体的には、素子接触部31)においてセンサ素子10の素子電極に電気的に接続され、後端には、リード線40を圧着して保持するリード線保持部32が形成されている。リード線40は、端子金具30の後端側(具体的には、リード線保持部32)に電気的に接続され、筒状体20の後端側の開口端から外方に延びる。弾性体50は、筒状体20の後端側の開口端を封止するよう配置され、軸方向に延びる貫通孔が内部に形成されており、係る貫通孔にリード線40の被膜部分41を収容している。
【0125】
ガスセンサ1およびガスセンサ1Aのそれぞれにおいて、筒状体20には、弾性体50の一部を周囲から加締めている縮径部221が「1つ」形成されている。そのため、ガスセンサ1およびガスセンサ1Aは、それぞれ、『弾性体50を筒状体20に固定するための縮径部221を、筒状体20に、所定の間隔を空けて「2つ」形成する従来のガスセンサ』と比べて、弾性体50の軸方向の長さを短くすることができる。したがって、ガスセンサ1およびガスセンサ1Aは、それぞれ、ガスセンサ全体を短尺化する場合であっても、筒状体20の後端側の開口端を封止する弾性体50から、ガスセンサの先端までの間隔を十分に確保することができる。つまり、ガスセンサ1およびガスセンサ1Aは、それぞれ、全体を短尺化する場合であっても、弾性体50から、ガスセンサの先端側にある熱源までの間隔を十分に確保することができる。そのため、ガスセンサ1およびガスセンサ1Aは、それぞれ、全体を短尺化する場合であっても、弾性体50から熱源までの間隔を十分に確保することで、弾性体50が高温にさらされて溶損を起こすといった事態が発生するのを防止できるとの効果を奏する。
【0126】
ガスセンサ1およびガスセンサ1Aのそれぞれにおいて、弾性体50の先端面53(先端側の端面)から、リード線保持部32までは、軸方向において0.1mm以上離れている。したがって、ガスセンサ1およびガスセンサ1Aのそれぞれにおいて、リード線保持部32は、弾性体50の貫通孔の内面と干渉することがなく、また、リード線保持部32が、貫通孔を閉塞してしまうこともない。つまり、ガスセンサ1およびガスセンサ1Aは、それぞれ、リード線保持部32が弾性体50の貫通孔の内面と干渉するのを防止することができ、かつ、リード線保持部32が貫通孔を閉塞してしまうのを防止することができるとの効果を奏する。
【0127】
ガスセンサ1およびガスセンサ1Aのそれぞれにおいて、非加締め部分52の直径Da、被加締め部分51の直径Db、リード線40の被押圧部分411の表面積Sa、静止摩擦係数μ、および、単位長さ加締めたときの圧力qは、数式(1)を満たす。すなわち、ガスセンサ1およびガスセンサ1Aは、それぞれ、
(Da-Db)×Sa>Fc/(μ×q) ・・・数式(1)
を満たす。
【0128】
上述のとおり、直径Da、直径Db、表面積Sa、静止摩擦係数μ、および、単位長さ加締めたときの圧力qが、数式(1)を満たす場合、弾性体50が、リード線40の軸方向の移動を効果的に抑制するため、接点ずれの発生を防止することができる。したがって、ガスセンサ1およびガスセンサ1Aは、それぞれ、接点ずれの発生を防止することができる。
【0129】
さらに、筒状体20に形成される縮径部221は1つであるため、ガスセンサ1およびガスセンサ1Aは、それぞれ、「縮径部221を筒状体20に間隔を空けて2つ形成する」従来のガスセンサと比べて、以下の効果を奏する。すなわち、ガスセンサ1およびガスセンサ1Aは、それぞれ、寸法を管理すべき項目を低減でき、検査工数・検査コストを削減することができる。また、上述の通り、ガスセンサ1およびガスセンサ1Aは、それぞれ、従来のガスセンサと比べて、弾性体50を短尺化できる。そのため、ガスセンサ1およびガスセンサ1Aは、それぞれ、弾性体50の材料コストを低減でき、さらに、弾性体50の材料の選択肢を広げて最適な材料を選択することを可能とする。
【0130】
[変形例]
以上、本発明の実施形態について説明したが、前述までの実施形態の説明は、あらゆる点において本発明の例示に過ぎない。上記実施形態には、種々の改良および変形が行われてよい。上記実施形態の各構成要素に関して、適宜、構成要素の省略、置換および追加が行われてもよい。また、上記実施形態の各構成要素の形状および寸法は、実施の形態に応じて適宜変更されてよい。例えば、以下のような変更が可能である。なお、以下では、上記実施形態と同様の構成要素に関しては同様の符号を用い、上記実施形態と同様の点については、適宜説明を省略した。以下の変形例は適宜組み合わせ可能である。
【0131】
図3には、軸方向における先端側の端面(先端面)が平坦であるスペーサ90の例を示した。しかしながら、本発明に係るガスセンサにとって、スペーサ90の先端面が平坦であることは必須ではない。先端面においてセラミックハウジング60(特に、セラミックハウジング60の後端側の端面(後端面))と接するスペーサ90は、その先端面の一部においてのみ、セラミックハウジング60と接してもよい。例えば、スペーサ90の先端面に、1または複数の凹部を形成し、係る1または複数の凹部を除く部分において、スペーサ90の先端面とセラミックハウジング60(特に、セラミックハウジング60の後端面)とが接していてもよい。また、スペーサ90の先端面に、1または複数の凸部を形成し、係る1または複数の凸部の頂点(複数の凸部を形成する場合、複数の凸部のそれぞれの頂点)においてのみ、スペーサ90の先端面とセラミックハウジング60とが接していてもよい。
【0132】
スペーサ90が、その先端面の全体ではなく、先端面の一部においてのみ、セラミックハウジング60(特に、セラミックハウジング60の後端面)に接するようにすることで、本発明に係るガスセンサは、以下の効果を実現することができる。すなわち、本発明に係るガスセンサは、セラミックハウジング60からスペーサ90、さらには、弾性体50への伝熱を抑制することができるとの効果を奏する。例えば、スペーサ90の強度を確保しつつ、弾性体50の熱劣化を抑制できるように、本発明に係るガスセンサは、スペーサ90の先端面に、1または複数の、凹部および凸部の少なくとも一方を、形成してもよい。先端面に、1または複数の、凹部および凸部の少なくとも一方が形成されたスペーサ90は、先端面の全体ではなく、先端面の一部において、セラミックハウジング60(特に、セラミックハウジング60の後端面)に接する。
【0133】
[実施例]
本発明の効果(特に、接点ずれの防止性能)を検証するため、本件発明者らは、以下の水準1~8に係るガスセンサを作製し、振動試験を行なって上述の効果を検証した。振動試験においては、加速度を40Gに固定し、0.057oct/minの掃引速度で、正弦波(振動)の周波数を1000Hzから3300Hzまで変化させた。この振動を、土台に固定した水準1~8に係るガスセンサのそれぞれに対して入力して、接点ずれの発生の有無を確認した。ただし、本発明は、以下の実施例(水準)に限定されるものではない。
【表1】
【0134】
表1は、水準1~8に係るガスセンサのそれぞれの構成の概要、および、上述の振動試験の結果を示す。水準1~8は、それぞれ、
図1に例示する部材を備えるガスセンサである。ただし、水準1~8のそれぞれに係るガスセンサの、非加締め部分52の直径Da、被加締め部分51の直径Db、リード線40の被押圧部分411の表面積Sa、静止摩擦係数μ、および、単位長さ加締めたときの圧力qの少なくとも1つは、互いに異なる。言い換えれば、水準1~8のそれぞれに係るガスセンサは、直径Da、直径Db、表面積Sa、静止摩擦係数μ、および、単位長さ加締めたときの圧力qの値を除いて、同様の構成(部材)を備えている。
【0135】
表1中の「Da」は、水準1~8に係るガスセンサのそれぞれが備える弾性体50の、縮径部221によって加締められていない部分である非加締め部分52の直径Daを表す。表1中の「Db」は、水準1~8に係るガスセンサのそれぞれが備える弾性体50の、縮径部221によって加締められている部分である被加締め部分51の直径Dbを表す。表1中の「Sa」は、水準1~8に係るガスセンサのそれぞれが備えるリード線40の被押圧部分411の表面積Saを表す。上述のとおり、被押圧部分411は、リード線40(特に、被膜部分41)の「弾性体50の被加締め部分51における貫通孔に収容されている部分」である。表1中の「μ」は、水準1~8に係るガスセンサのそれぞれが備える弾性体50とリード線40の被膜部分41との間の静止摩擦係数μを表す。表1中の「q」は、筒状体20に1つ形成された縮径部221によって弾性体50を径方向に単位長さ加締めたときに、弾性体50によってリード線40の被膜部分41(特に、被押圧部分411)へと加えられる、単位面積当たりの圧力qを表す。つまり、表1中の「q」は、これまでに説明してきた「単位長さ加締めたときの圧力q」を表す。表1中の「Fc」は、水準1~8に係るガスセンサのそれぞれが備えるセンサ素子10の素子電極と端子金具30との電気的接続を切断する、軸方向の荷重の大きさFcを表す。表1中の「接点ずれ」は、振動試験に対する結果を示しており、「〇」は接点ずれが発生しなかったことを、「×」は接点ずれが発生したことを表す。
【0136】
「弾性体50とリード線40の被膜部分41との間の静止摩擦係数μ」は、弾性体50およびリード線40の被膜部分41のそれぞれの材料(材質)に応じて予め求めることができる。同様に、「単位長さ加締めたときの圧力q」は、弾性体50の材料に応じて予め求めることができる。したがって、表1中の「μ×q」の値は、弾性体50およびリード線40の被膜部分41のそれぞれの材料に応じて予め求めることができ、上述の試験においては、「1.7」または「1.1」であった。ただし、本発明に係るガスセンサにとって、「μ×q」の値が「1.7」または「1.1」であることは必須ではない。本発明に係るガスセンサにおける「μ×q」の値は、弾性体およびリード線の被膜部分のそれぞれの材料(材質)に応じて予め求めることができる。
【0137】
「センサ素子10の素子電極と端子金具30との電気的接続を切断する、軸方向の荷重の大きさFc」は、従来までの一般的なガスセンサについて、以下の検査を行なって求めた。すなわち、本件発明者らは、金属端子とセンサ素子の素子電極とを電気的に接続した一般的なガスセンサに対して、リード線を軸方向に引っ張る検査を行なって、接点ずれが生じる、軸方向の荷重の大きさを求めた。係る検査によって本件発明者らは、「素子電極と金属端子との電気的接続を切断する、軸方向の荷重の大きさFc」が、例えば、「150[N]」または「180[N]」であることを確認した。そこで、表1では、「Fc」は、「150」または「180」としている。ただし、本発明に係るガスセンサにとって、「センサ素子10の素子電極と端子金具30との電気的接続を切断する、軸方向の荷重の大きさFc」が「150」または「180」であることは必須ではない。本発明に係るガスセンサにおける「Fc」は、ガスセンサの各部材のサイズ、形状、材料等に応じて適宜求められる。
【0138】
(実験により確認できた事項)
表1において、水準1~8に係るガスセンサのうち、「(Da-Db)×Sa」が「Fc/(μ×q)」よりも大きい水準1、3、4、および、7に係るガスセンサについては、接点ずれが発生しなかった。これに対して、水準2、5、6、および、8に係るガスセンサについては、接点ずれが発生した。したがって、本件発明者らは、弾性体50を筒状体20に固定するための縮径部221を1つとし、かつ、弾性体50を短尺化してリード線保持部32から弾性体50の先端面53までの間隔を0.1mm以上としたガスセンサ1について、以下の事象を確認した。すなわち、係るガスセンサ1について、「(Da-Db)×Sa」を「Fc/(μ×q)」よりも大きくすることで、上述の静止摩擦力Fを利用してリード線40の軸方向の移動を抑制して、接点ずれを防止できるとの効果を奏することを確認した。
【符号の説明】
【0139】
1、1(A)…ガスセンサ、10…センサ素子、20…筒状体、221…縮径部、
30…端子金具、
31…素子接触部(素子電極に電気的に接続される端子金具の先端側の部分)、
32…リード線保持部、40…リード線、41…被膜部分、
411…被押圧部分(被膜部分の、被加締め部分における貫通孔に収容されている部分)、50…弾性体、51…被加締め部分、52…非加締め部分、
53…先端面(弾性体の先端側の端面)、60…セラミックハウジング、
90…スペーサ