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特開2024-101963親水性フィルム、膜、親水性部材およびセンサチップ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101963
(43)【公開日】2024-07-30
(54)【発明の名称】親水性フィルム、膜、親水性部材およびセンサチップ
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/28 20060101AFI20240723BHJP
   G01N 27/327 20060101ALI20240723BHJP
   G01N 27/416 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
G01N27/28 M
G01N27/327 353F
G01N27/416 338
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023006218
(22)【出願日】2023-01-18
(71)【出願人】
【識別番号】000125978
【氏名又は名称】株式会社きもと
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100118991
【弁理士】
【氏名又は名称】岡野 聡二郎
(72)【発明者】
【氏名】太田 哲司
(57)【要約】
【課題】 検知部に導く液体試料の液量を増量可能な膜を有する親水性フィルムから形成された親水性部材が組み込まれたセンサチップを提供する。
【解決手段】 パッケージの側面に形成された液体試料を内部に取り込むための導入口17と、該導入口からの液体試料を検知部の一例としての電極151,152側へ誘導する流路16を備えたセンサチップ10において、水溶性樹脂を含む樹脂材料によって5~50nmの厚み範囲で形成され、表面の一端に接触した液体試料を他端側へ導く膜21を有する親水性フィルム100から形成された親水性部材12を、その膜が流路16の内壁の少なくとも一部を形成するように配置したセンサチップ10。
【選択図】 図3

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パッケージの側面に形成された液体試料を内部に取り込むための導入口と、該導入口からの液体試料を検知部へ誘導する流路を備えたセンサチップに用いられる親水性部材を得るための親水性フィルムであって、
表面の一端に接触した液体試料を他端側へ導く膜を有し、
前記膜は、水溶性樹脂を含む樹脂材料によって5~50nmの厚み範囲で形成されていることを特徴とする親水性フィルム。
【請求項2】
前記樹脂材料として、前記膜の表面の対水接触角が該膜の厚みの減少に伴って低下し、やがて極小値を示し、その後上昇する特性を備えたものを用いる、請求項1に記載の親水性フィルム。
【請求項3】
前記樹脂材料が、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールまたはポリビニルアセタールである、請求項1または2に記載の親水性フィルム。
【請求項4】
請求項1または2に記載の親水性フィルムの膜。
【請求項5】
パッケージの側面に形成された液体試料を内部に取り込むための導入口と、該導入口からの液体試料を検知部へ誘導する流路を備えたセンサチップに用いられる親水性部材であって、
請求項1または2に記載の親水性フィルムから形成された親水性部材。
【請求項6】
パッケージの側面に形成された液体試料を内部に取り込むための導入口と、該導入口からの液体試料を検知部へ誘導する流路を備えたセンサチップにおいて、
請求項5に記載の親水性部材を、その膜が前記流路の内壁の少なくとも一部を形成するように配置したことを特徴とするセンサチップ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親水性フィルム、該親水性フィルムの膜、前記親水性フィルムから形成された親水性部材、該親水性部材を構成部品として含むセンサチップに関する。
【背景技術】
【0002】
液体試料の検知部を備えたセンサチップが実用化されている。この種のセンサチップにおいては、液体試料を流路内部へ円滑に導入すべく、液体試料の受け入れ口たる導入口の間隙を、毛細管現象を展開するように寸法決めするとともに、流路奥に位置する検知部への液体試料の進行を促進すべく、流路の内部に親水化処理を施すことが試みられている(例えば特許文献1)。液体試料が導入口に接触すると毛細管現象によって流路に引き込まれ、すなわち毛細管現象によって吸引効果が生成され、それによって液体試料が流路に引きずり込まれる。
【0003】
親水化処理としては、例えば、樹脂中に界面活性剤を練り込んで樹脂基材を形成する方法、基材上に界面活性剤や親水性を有する樹脂を塗布する方法、基材表面にプラズマ処理やコロナ処理等の化学的な表面処理を行う方法、サンドブラスト処理等により基材表面を粗面化する方法が提案されている。また、酵素および電子受容体を含む反応部上に界面活性剤を塗布する、または反応部に界面活性剤を含有させることで、流路の内部を親水化する方法も提案されている(例えば特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001-159618号公報
【特許文献2】特開2012-58168号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、いずれかの方法による従来の親水化処理技術では、流路奥に配置される検知部に導く液体試料の液量が十分でなく、また流路内での液体試料の進行距離が短かったため、効率よく長く液体試料を進行させることができず、検知に長い時間を要していた。
【0006】
本発明の一側面では、検知部に導く液体試料の液量を増量可能な膜、該膜を有する親水性フィルム、該親水性フィルムから形成された親水性部材、該親水性部材が組み込まれ、短時間で検知可能なセンサチップを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、液体試料の毛細管現象による検知部への導入液量は、液体試料が接触する親水膜の、対水接触角の低さ度合いに依存し、これが低くなればなるほど、つまり膜表面の対水接触角を下げれば下げるほど、膜上に濡れ拡がる液体試料の高さ(すなわち液体試料の厚み)を稼ぐことができ、引いては検知部への導入液量を増やすことができるとの前提の下、親水膜の対水接触角を効率よく下げる方法について鋭意検討を進めた。その結果、膜厚を薄くしていくと、それに伴って膜表面の対水接触角が低くなり、その値はやがて極小値を示すことを確認した。つまり親水膜とその対水接触角との間には、膜厚が関わっていることを突き止め、この知見を元に、本発明を完成するに至った。水溶性樹脂を含む樹脂材料から形成される親水膜の対水接触角は、概ね、所定の膜厚範囲に極小値、つまり最も効率よく濡れ拡がる液体試料高さを実現可能な状態になると考えている。
【0008】
すなわち、本発明は、以下に示す種々の具体的態様を提供する。
(1)パッケージの側面に形成された液体試料を内部に取り込むための導入口と、該導入口からの液体試料を検知部へ誘導する流路を備えたセンサチップに用いられる親水性部材を得るための親水性フィルムであって、
表面の一端に接触した液体試料を他端側へ導く膜を有し、
前記膜は、水溶性樹脂を含む樹脂材料によって5~50nmの厚み範囲で形成されていることを特徴とする親水性フィルム。
(2)樹脂材料として、前記膜の表面の純水接触角が厚みの減少に伴って低下し、やがて極小値を示し、その後上昇する特性を備えたものを用いる、上記(1)に記載の親水性フィルム。
【0009】
(3)樹脂材料が、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールまたはポリビニルアセタールである、上記(1)または(2)に記載の親水性フィルム。
(4)上記(1)~(3)のいずれか1項に記載の親水性フィルムの膜。
【0010】
(5)パッケージの側面に形成された液体試料を内部に取り込むための導入口と、該導入口からの液体試料を検知部へ誘導する流路を備えたセンサチップに用いられる親水性部材であって、
上記(1)~(3)のいずれか1項に記載の親水性フィルムから形成された親水性部材。
【0011】
(6)パッケージの側面に形成された液体試料を内部に取り込むための導入口と、該導入口からの液体試料を検知部へ誘導する流路を備えたセンサチップにおいて、
上記(5)に記載の親水性部材を、その膜が前記流路の内壁の少なくとも一部を形成するように配置したことを特徴とするセンサチップ。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、検知部に導く液体試料の液量を増量可能な膜、該膜を有する親水性フィルム、該親水性フィルムから形成された親水性部材、該親水性部材が組み込まれ、短時間で検知可能なセンサチップを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】親水性フィルムの一例における構造を示す断面図である。
図2】親水性部材を備えるセンサチップの一例における構造を示す斜視図である。
図3図2のIII-III線に沿って切断した断面図である。
図4図2のセンサチップにおける構造を示す分解斜視図である。
図5図2のセンサチップの一部を示す平面図である。
図6】センサ装置の一例における構造を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。なお、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。また、図面の寸法比率は、図示の比率に限定されるものではない。但し、以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、本明細書において、例えば「1~100」との数値範囲の表記は、その上限値「100」及び下限値「1」の双方を包含するものとする。また、他の数値範囲の表記も同様である。
【0015】
(第1実施形態)
図1に親水性フィルム100を示す。しかし、本発明の親水性フィルムは当該親水性フィルム100の構成に限定されない。
図1に示す例において、親水性フィルム100は、基材20と、この基材20の一方の主面20a側に設けられた親水層21と、を備えた積層構造(2層構造)を有するものとなっている。この積層構造において、親水層21は基材20の一方の主面20a側における最表面に露出した状態で配置されている。
【0016】
「基材の一方の主面側に設けられた」とは、図1で示すように基材20の表面に親水層21が直接載置された態様のみならず、基材20の表面と親水層21との間に任意の層(例えばプライマー層等)が介在した態様を包含する意味である。そのため、親水層21を備えた積層構造とは、親水層21のみが直接積層した構造のみならず、上述した2層構造、及び、2層構造に任意の層をさらに設けた構造を包含する意味である。
【0017】
図1に示す例において、基材20は、親水層21を支持可能なものである限り、その種類は特に限定されない。寸法安定性、機械的強度及び軽量化等の観点から、合成樹脂フィルムが好ましく用いられる。合成樹脂フィルムの具体例としては、ポリエステルフィルム、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)フィルム、ポリイミドフィルム、ポリアミドフィルム、ポリアミドイミドフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム等が挙げられる。また、アクリル系、ポリオレフィン系、セルロース系、ポリスルホン系、ポリフェニレンスルフィド系、ポリエーテルスルホン系、ポリエーテルエーテルケトン系のフィルムを用いることもできる。これらの中でも、基材20としては、ポリエステルフィルムが好適に用いられる。とりわけ、一軸又は二軸延伸フィルム、特に二軸延伸ポリエステルフィルムは、機械的強度及び寸法安定性に優れるため、特に好ましい。これらは1種を単独で用いることができ、また2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0018】
基材20の厚みは、要求性能及び用途に応じて適宜設定でき、特に限定されない。軽量化及び薄膜化の観点からは、基材20の厚みは、0.5~200μmが好ましく、より好ましくは1~150μm、さらに好ましくは5~140μm、特に好ましくは10~130μmである。
【0019】
基材20表面のぬれ性を改善し、親水層21との接着性を向上させる観点から、必要に応じて、基材20の表面に各種公知の表面処理(例えばコロナ放電処理やプラズマ処理等)を行うこともできる。コロナ放電処理時の雰囲気ガスとしては、特に限定されないが、空気(EC処理)、酸素(OE処理)、窒素(NE処理)、炭酸ガス(CE処理)等から選ばれる少なくとも1種のガスが挙げられる。これらのうち、経済性の観点からはEC処理で表面処理することが好ましく、また接着性向上の観点からはNE処理、またはCE処理で表面処理することが好ましい。本発明においては、経済性の観点から基材20の表面をEC処理で表面処理することがより好ましい。
基材20の外観は、透明、半透明、不透明のいずれであってもよく、特に限定されない。例えば発泡ポリエステルフィルム等の発泡した合成樹脂フィルムや、各種顔料を含有させた合成樹脂フィルムを用いることもできる。
【0020】
図1に示す例において、親水層21は、本発明の膜の一例であり、本実施形態では、例えば、着滴46秒後の対水接触角が90°未満の親水膜である。なお、本明細書において、上記対水接触角は、JIS R3257に準拠した方法で測定することができ、具体的には以下の方法で測定して得られた値とする。親水性フィルム100を25mm幅に裁断し、測定サンプルを得る。JIS R3257:1999に準じ、接触角測定装置(例えば、協和界面科学社製、DMo-701等)を用いて親水層21の対水接触角を測定する。具体的には、室温25℃、湿度40%の環境下で水平に置いた親水性フィルム100の親水層21表面へ水滴2μL(超純水)を滴下する。滴下してから46秒後の、純水と親水層21表面とのなす角度を対水接触角とする。測定は5回行い、それらを平均し測定値とする。なお、対水接触角は、画像解析ソフト(例えば、協和界面科学社製、FAMAS等)を用いた真円フィッティング法により、画像データを解析することで算出することができる。
【0021】
毛細管現象を促進させる観点から、親水層21の上記対水接触角は、例えば5°以上30°以下であることが好ましく、より好ましくは25°以下、さらに好ましくは15°以下である。なおここでいう毛細管現象とは、液体(本例で言えば液体試料)が、当該液体が接する物体が形成する空間内を、前記物体との界面張力により当該液体が有する表面張力に抗して自動で濡れ広がって移動することを指している。従って液体が移動する方向が上下方向である場合だけでなく、横方向であっても毛細管現象という用語を使用する。
【0022】
親水層21を構成する成分としては、水溶性樹脂を含む樹脂材料が挙げられる。水溶性樹脂には、水溶解性樹脂、水・アルコール系混合溶媒溶解性樹脂、および水系エマルジョン樹脂が含まれる。具体的には、例えば、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、水溶性ナイロン樹脂(水溶性ポリアミド樹脂)、メチルセルロース樹脂、エチルセルロース樹脂、カルボキシメチルセルロース樹脂、ヒドロキシエチルセルロース樹脂、ヒドロキシプロピルセルロース樹脂、ヒドロキシプロピルメチルセルロース樹脂、ポリアクリル酸メチルエステル、ポリアクリル酸エチルエステル、ポリビニルアセタール樹脂、ポリエステル樹脂系エマルジョン、ポリ酢酸ビニル樹脂系エマルジョン、アクリル樹脂系エマルジョン、等が挙げられる。
【0023】
親水層21は、これらの成分から適宜選択して含めた樹脂材料で構成することが好ましく、被膜の形成しやすさの観点からは、ビニル結合がある樹脂であるポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールまたはポリビニルアセタールを含めることがより好ましい。これらは、1種を単独で用いることができ、また2種以上を組み合わせて用いることもできる。また、上述の特性を有するように、上記列挙した成分の分子量、構造式等を制御することが好ましい。
水溶性樹脂を含む樹脂材料中に、水分散性シリカ(コロイダルシリカ)、アルカリケイ酸塩(水ガラス)、界面活性剤等を含んでもよい。すなわち親水層21は、水溶性樹脂とともに、水分散性シリカ、アルカリケイ酸塩、界面活性剤等の別成分をさらに含んでもよい。
【0024】
水溶性樹脂を含む樹脂材料から形成される親水層21の厚みは、5~50nm(0.005~0.05μm)が好ましく、より好ましくは10~30nmである。この膜厚範囲にあるときに、水溶性樹脂を含む樹脂材料から形成される親水層21の対水接触角が、概ね、極小値を示し、その結果、親水層21上で最も効率よく濡れ拡がる液体試料高さを実現することが期待される。
【0025】
表1に、水溶解性樹脂のポリビニルピロリドン(K-120、アッシュランド社製、分子量210万~300万)からなる親水膜Aについて、その膜厚(nm)を変動させた場合の対水接触角(着滴46秒後)と表面抵抗率(Ω/□)を測定した結果を示す。表2に、水溶解性樹脂のポリビニルアルコール(ゴーセノールKH-17、日本合成化学工業社製、部分ケン化型、ケン化度78.5~81.5モル%)からなる親水膜Bについて、同様に、膜厚を変動させた場合の対水接触角と表面抵抗率を測定した結果を示す。表3に、水・アルコール系混合溶媒溶解性樹脂のポリビニルアセタール(エスレックKX-5、積水化学工業社製、重合度約2000、アセタール化度9±2モル%)からなる親水膜Cについて、同様に、膜厚を変動させた場合の対水接触角と表面抵抗率を測定した結果を示す。
【0026】
【表1】
【0027】
【表2】
【0028】
【表3】
【0029】
表1~3により、親水膜A~Cのいずれも膜厚を薄くしていくと、それに伴って膜表面の対水接触角が低くなり、やがては極小値を示している。また、親水膜Aの場合、膜厚15nm付近に、親水膜Bの場合、膜厚30nm付近に、親水膜Cの場合、膜厚70nm付近に、それぞれ、対水接触角の極小値を示すことも理解できる。親水膜A~Cのいずれも、それぞれの膜表面の対水接触角が極小値を示す膜厚にて、形成されることによって、最も効率よく濡れ拡がる液高さが実現され、これにより液が途切れることなく最もスムーズに、毛細管現象による吸引効果の生成に寄与し得るものと考えている。
【0030】
なお、表面抵抗率については、対水接触角と同様に推移している。すなわち膜厚を薄くしていくと、それに伴って膜表面の表面抵抗率が低くなり、やがては極小値を示している。しかしながら、その極小値を示す膜厚は、必ずしも対水接触角とは一致していない。
【0031】
基材20上への親水層21の製膜(親水性フィルム100の製造)は、溶媒中に、膜の構成成分を添加して混合攪拌することにより均一な塗布液を調製し、これを、基材20の主面上に公知の塗布方法(ドクターコート、ディップコート、ロールコート、バーコート、ダイコート、ブレードコート、エアナイフコート、キスコート、スプレーコート、スピンコート等)により塗布し、乾燥させることにより実現可能である。
なお、基材20と親水層21との接着を向上させるため、必要に応じてアンカー処理やコロナ処理等を行うこともできる。さらに、必要に応じて、基材20と親水層21との間にプライマー層や接着層等の中間層を設けることもできる。
【0032】
親水性フィルム100の総厚みは、軽量化及び薄膜化の観点から、基材20の厚みと同様、0.5~200μmが好ましく、より好ましくは1~150μm、さらに好ましくは5~140μm、特に好ましくは10~130μmである。
【0033】
(作用)
本実施形態の親水性フィルム100は、水溶性樹脂を含む樹脂材料によって5~30nmの厚み範囲で形成された膜を、親水層21で採用しており、その親水層21の対水接触角は極小値、つまり最も効率よく濡れ拡がる溶液高さを実現可能な状態になる。そのため、親水性フィルム100から形成された親水性部材(例えば図3に示す親水性部材12)を、パッケージの側面に形成された液体試料を内部に取り込むための導入口と、該導入口からの液体試料を検知部へ誘導する流路を備えたセンサチップ(例えば図2図5に示すセンサチップ10)の構成部品に、特にその膜(親水層21)が前記流路の内壁の少なくとも一部(例えば天面)を形成するように配置することで、膜上に濡れ拡がる液体試料の高さを稼ぐことができ、引いては検知部への導入液量を増やすことができる。また効率よく長く試料を進行させることもできるため、センサチップによる短時間での検知が可能となる。
【0034】
(変形例)
本発明は、その要旨を逸脱しない範囲内で、任意に変更して実施することができる。例えば、親水層21は、基材20上に設けられることに限らず、基材20を省略してもよい。この場合、その親水性フィルム100は、基材20のない、親水層21のみの単層構造となる。また、2以上の親水膜により親水層21を形成してもよい。例えばある特性の親水膜及び他特性の親水膜が積層された積層親水層を親水層21として適用することができる。このとき、ある特性の親水膜及び他特性の親水膜の積層体として、親水層21に求められる上述した各種性能・物性を満たせばよい。
【0035】
(第2実施形態)
図2図5にセンサチップ10の一例を示す。しかし、本発明の親水性部材が用いられるセンサチップは当該センサチップ10の構成に限定されない。図3に親水性部材12の一例が示されている。しかし、本発明の親水性部材は当該親水性部材12の形状、構成に限定されない。なお、図2および図4では親水性部材12を除いており、また図4では便宜上、各構成要素を分離させた状態で示している。
【0036】
図2図5に示す例において、センサチップ10は、液体試料中の特定成分を電気化学的手段により検知するためのものであり、電極基板11と、スペーサ層13と、親水性部材12と、カバーフィルム14と、の積層体からなるパッケージを含んだものとなっている。
【0037】
電極基板11は、少なくとも一方の主面が絶縁性を有する支持基板上に、導電材料によって一対の電極(第1電極151、第2電極152)及び所定の配線153を含む電極パターン15を印刷することによって形成されている。支持基板には、樹脂基板等の、センサチップにおいて電極基板を構成する支持基板として用いられている公知の基板を用いることができる。また、支持基板は多層構造であってもよく、その場合、少なくとも一方の主面となる最外層が絶縁性を有する材料によって形成されていればよい。透明、不透明の別は不問である。
【0038】
一対の電極である第1電極151及び第2電極152は、検知部の一例であり、一方が作用極、他方が対極として機能する。第1電極151に接続された配線及び第2電極152に接続された配線が、それぞれ、端子15aまで延びている。電極パターン15は、センサチップにおいて電極等に用いられている公知の材料を用い、公知の方法で作製すればよいため、その材料及び作製方法は特には限定されない。また、電極、配線及び端子を同じ材料で形成する必要はなく、異なる材料を使用することも可能である。また、電極及び配線のパターン、並びに電極の数も、図2及び図4に示すものに限定されず、センサ装置の測定方式等に応じて適宜選択可能である。
【0039】
電極151,152のうち少なくとも作用極として機能する電極の表面には、例えば、酵素及び電子伝達体を含む試薬が塗布されることによって反応層(図示せず)が形成されていてもよい。ここで、図2図5に示す例のセンサチップにおける酵素及び電子伝達体の働きについて簡単に説明する。なお、ここでは、液体試料中の検知対象成分が血糖(グルコース)である場合を例に挙げて説明する。液体試料が酵素及び電子伝達体を含む試薬が塗布されている電極の表面に到達すると、酵素が液中のグルコースを酸化すると共に、酵素自身は還元される。還元状態の酵素は、電子伝達体(酸化状態)との酸化還元反応によって、電子伝達体を還元状態にする。この還元状態の電子伝達体が電極表面に到達し、電位が印加されている電極の表面で電子伝達体の酸化反応が起こることによって、電極間に電流が流れる。なお、このとき流れる電流が液中のグルコース濃度に依存するので、この電流値により液中のグルコース濃度(血糖値)が間接的に測定される。
【0040】
グルコース濃度の測定に用いられる酵素には、例えば、グルコースオキシダーゼ、グルコースデヒドロゲナーゼ及びグルコース脱水素酵素等、センサにおいてグルコース濃度の測定に用いられる公知の酵素が挙げられる。また、グルコース濃度の測定に用いられる電子伝達体は、例えば、フェロセン、フェロセン誘導体、キノン、キノン誘導体、有機伝導性塩及び塩化ヘキサアミンルテニウム(III)等、センサにおいてグルコース濃度の測定に用いられる公知の電子伝達体が挙げられる。また、検知対象成分がコレステロール等のグルコース以外の成分である場合は、それぞれの成分に応じた公知の酵素及び電子伝達体を用いればよい。
【0041】
スペーサ層13は、試料流路16を形成するためのスペーサ層であって、電極基板11上の少なくとも電極151,152と対応する部分に設けられたスリット13aを有しており、これ(スリット13a)によって試料流路16を構成している。スリット13aの幅の大きさと、スペーサ層13の厚さとによって、試料流路16の流路断面が決定される。スリット13aの幅は、例えば0.2~5mmとすることができる。また、スペーサ層13の厚さは、例えば0.1~1mmとすることができる。
【0042】
スペーサ層13は、電極基板11及びカバーフィルム14を互いに接合して一体化する。したがって、スペーサ層13には、例えば両面テープ等の、シート基材の両表面に粘着層を有するシート状の接合材が好適に用いられる。このような接合材を用いる場合、シート基材は親水性であってよい。シート基材は、スリット13aの側面において露出して試料流路16に面することになるので、親水性とすることにより、試料流路16へ液体試料をより導入しやすくなる。
【0043】
カバーフィルム14は、スペーサ層13上に配置されており、電極基板11の第1主面11aに対向している。カバーフィルム14は、表裏関係にある第一面(表面)と第二面(裏面)を有する板状部材によって形成され、その第二面が電極基板11の第1主面11aに対向して配置されている。板状部材の材質は特に限定されず、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム等の、センサにおいてカバーフィルムとして用いられている公知のフィルムを用いることができる。
カバーフィルム14の、試料導入口17とは反対側のいずれかの位置には、カバーフィルム14の厚み方向に貫通する空気孔14aが設けられている。空気孔14aは、試料流路16に繋がっており、またその平面形状は、特に限定されるものではない。カバーフィルム14には、その第二面と接するように、カバーフィルム14と同じ大きさの親水性部材12が配置されている。
【0044】
親水性部材12は、図1に示す親水性フィルム100から形成されている。そのため、親水性部材12は、図1に示す親水性フィルムと同様の積層構造を有する。親水性部材12は、その親水層21をスペーサ層13側に向けた状態で配置されており、試料流路16の壁面の一部(天面)を構成する。なお、親水性部材12にもカバーフィルム14の空気孔14aに対応した空気孔が設けられている。
【0045】
電極基板11と、スペーサ層13のスリット13aと、カバーフィルム14の第二面に配置される親水性部材12とによって形成される領域が試料流路16となり、電極基板11、スペーサ層13、親水性部材12及びカバーフィルム14の積層体の側面における試料流路16の開口が試料導入口17となる。
【0046】
液体試料(検体)は、試料導入口17から毛細管現象で試料流路16の奥(試料導入口17と反対側の端部)まで導入されるとともに、電極151,152(検知部の一例)へと到達する。なお、導入可能な液体試料は、水系の溶液全般を含み、液状であれば、特に限定されない。液体試料として、体液(血液、血清、血漿、唾液、尿等)を用いる場合には、検知対象となる特定成分としては、例えば、グルコース、コレステロール、遊離脂肪酸、中性脂肪、尿酸、乳酸等が挙げられる。
【0047】
(作用)
本実施形態の親水性部材12は、図1に示す親水性フィルム100から形成されている。そのため、これをパッケージの側面に形成された液体試料を内部に取り込むための導入口17と、該導入口からの液体試料を検知部(電極151,152側)へ誘導する流路16を備えた、図2図5に示すセンサチップ10の構成部品に、特にその膜(親水層21)が流路16の内壁の少なくとも一部(例えば図3に示すがごとき天面)を形成するように配置することで、上述したのと同様、膜上に濡れ拡がる液体試料の高さを稼ぐことができ、引いては電極151,152への導入液量を増やすことができる。また効率よく長く液体試料を進行させることもできるため、センサチップ10による短時間での検知が可能となる。
【0048】
(変形例)
本発明は、その要旨を逸脱しない範囲内で、任意に変更して実施することができる。例えば、親水性部材12の形成に用いた親水性フィルム100の親水層21は、基材20上に設けられることに限らず、基材20を省略してもよい。この場合、親水性部材12は、カバーフィルム14の第二面に設けられることとなる。親水性部材12は、試料流路16の天面にのみ設けられていてもよく、親水層21のみで親水性部材12を構成する場合も同様である。
【0049】
以上、本実施形態のセンサチップの構成例を説明したが、本発明のセンサチップは以上の構成例には限定されない。例えば、スリット13aの形状は、毛細管現象によって液体試料を導入できる形状であればよいため、図2図4に示したような直線状のスリットに限定されない。スリット13aは、例えば曲線状であってもよいし、ギザギザに屈曲した形状であってもよく、さらに直線状、曲線状、または屈曲形状の組み合わせであってもよい。また、電極基板11において、液体試料を検知する手段として、電極151,152の代わりに液体試料を検知する他の検知部が設けられていてもよい。
【0050】
センサチップの検知部は、上記構成例のごとき、一対の電極間に流れる電流検知部(電気化学的手段の1つ)に限定されず、他の電気化学的手段によるもの(例えば、電位差検知部、電解電量検知部、導電性検知部等)や、光学的手段によるもの(例えば、液体試料自体の色を分光測定する光学検知部等。この場合、光学系(レンズや受光素子)は、センサチップ以外の別装置(例えば、図6に示すセンサ装置6の装置本体部7)に内蔵されてよい)、その他の手段によるもの、であってもよい。
光学検知部の場合、電極基板11の支持基板は、該検知部が、光学的反射による場合は白色などの有色であることができ、また光学的透過による場合は透明であることができる。
【0051】
センサチップは、上記構成例のごとき、液体試料中の特定成分の検知に用いるものに限定されず、他の検知(例えば、液体試料自体の色を分光測定するものや、検知部に顕色反応試薬を担持しておき、それと反応した色によって液体試料の状態を把握するもの、等)に用いるものであってもよい。特に本発明のセンサチップは、液体試料の毛細管現象による検知部への導入液量を増やすことができるため、例えば顕色反応の色を見る場合、これまではスライドガラスに水溶液を滴で落として見ていた従来手法と比較して、些細な色の違いによる微妙な比較が可能になることが期待される。
【0052】
(第3実施形態)
図6にセンサ装置6の一例を示す。しかし、本発明のセンサ装置は当該センサ装置6の構成に限定されない。
【0053】
図6に示す例において、センサ装置6は、装置本体部7と、装置本体部7に対して着脱可能な、図2図5に示したセンサチップ10と、を含んでいる。装置本体部7は、センサチップ10の一対の電極151,152間を流れた電流値に基づいて、試料中の検出物質を検出する検出部(図示せず)と、検出部による検出結果を解析する解析部(図示せず)と、解析部による解析結果を測定値として表示する表示部8と、を含んでいる。
【0054】
以上、本実施形態のセンサ装置の構成例を説明したが、本発明のセンサ装置は以上の構成例には限定されない。例えば、上記構成例ではセンサチップがセンサ装置の装置本体部に着脱可能に設けられる構成、すなわちセンサチップのみが使い捨て部品である例について説明しているが、これに限定されない。例えば、センサチップ自体が、一対の電極間を流れた電流値に基づいて、試料中の検出物質を検出する検出部と、検出部による検出結果を解析する解析部と、解析部による解析結果を測定値として表示する表示部とをさらに含んでもよい。これにより、センサチップ自体が装置本体部を必要としない測定装置となり得る。センサチップ自体が測定装置となる場合は、測定装置自体を使い捨てとすることも可能となる。
【符号の説明】
【0055】
100・・・親水性フィルム
20・・・基材
21・・・親水層
10・・・センサチップ
11・・・電極基板
12・・・親水性部材
13・・・スペーサ層
13a・・・スリット
14・・・カバーフィルム
14a・・・空気孔
15・・・電極パターン
151・・・第1電極
152・・・第2電極
153・・・配線
15a・・・端子
16・・・試料流路
17・・・試料導入口
6・・・センサ装置
7・・・装置本体部
8・・・表示部


図1
図2
図3
図4
図5
図6