(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101966
(43)【公開日】2024-07-30
(54)【発明の名称】残存歯支持装置、部分義歯及び残存歯支持装置生産方法
(51)【国際特許分類】
A61C 5/80 20170101AFI20240723BHJP
A61C 13/00 20060101ALI20240723BHJP
A61C 8/00 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
A61C5/80
A61C13/00 Z
A61C8/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023006222
(22)【出願日】2023-01-18
(71)【出願人】
【識別番号】523021553
【氏名又は名称】高野 智幸
(71)【出願人】
【識別番号】523019952
【氏名又は名称】中島 博之
(74)【代理人】
【識別番号】100180921
【弁理士】
【氏名又は名称】峰 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】高野 智幸
(72)【発明者】
【氏名】中島 博之
【テーマコード(参考)】
4C159
【Fターム(参考)】
4C159AA55
4C159AA71
4C159RR20
(57)【要約】
【課題】 本発明は、審美性を保ちつつ、従来よりも歯を強固に支持できる残存歯支持装置等を提供することを目的とする。
【解決手段】 口腔内での残存歯の位置が動かないように支持する残存歯支持装置であって、上顎又は下顎の歯肉の周囲を取り囲む歯肉包囲部と、前記残存歯に接して前記残存歯の位置が動かないように支持する残存歯支持部と、前記残存歯の歯冠を露出させる開口部とを備える、残存歯支持装置である。本発明の各観点によれば、審美性を保ちつつ、従来よりも強固に残存歯を支持することが可能な残存歯支持装置を提供することが可能になる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
口腔内での残存歯の位置が動かないように支持する残存歯支持装置であって、
上顎又は下顎の歯肉の周囲を取り囲む歯肉包囲部と、
前記残存歯に接して前記残存歯の位置が動かないように支持する残存歯支持部と、
前記残存歯の歯冠を露出させる開口部とを備える、残存歯支持装置。
【請求項2】
天然歯が欠損している部分である天然歯欠損部に配置される人工歯と、
前記人工歯を支える土台となる床部とをさらに備え、
前記床部は、前記歯肉包囲部に接続している、請求項1記載の残存歯支持装置。
【請求項3】
天然歯が欠損している部分である天然歯欠損部に配置され、インプラントを導入するガイドとなるサージカルガイド穴と、
前記歯肉包囲部に接続していて、前記サージカルガイド穴を支える土台となるサージカルガイド床部とをさらに備える、請求項1記載の残存歯支持装置。
【請求項4】
前記開口部は、前記残存歯の前記歯冠のどこも覆わずに露出させる、請求項1記載の残存歯支持装置。
【請求項5】
前記歯肉包囲部は、透光性の素材からなる、請求項1記載の残存歯支持装置。
【請求項6】
前記素材は、ポリカーボネートである、請求項5記載の残存歯支持装置。
【請求項7】
天然歯が欠損している部分である天然歯欠損部に配置される人工歯と、前記人工歯を支える土台となる床部とを備える、部分義歯であって、
上顎又は下顎の歯肉の周囲を取り囲む歯肉包囲部と、
残存歯に接して前記残存歯の位置を支持する残存歯支持部とを備える、部分義歯。
【請求項8】
口腔内での残存歯の位置が動かないように支持する残存歯支持装置を生産する残存歯支持装置生産方法であって、
前記残存歯支持装置は、
上顎又は下顎の全部の歯を覆う歯肉の周囲を取り囲む歯肉包囲部と、
前記残存歯に接して前記残存歯の位置が動かないように支持する残存歯支持部と、
前記残存歯の歯冠を露出させる開口部とを備え、
前記口腔内の3Dデータにおいて、
前記開口部が形成されるように、前記残存歯の周囲を一周取り囲む第1境界線を決定する第1境界線決定ステップと、
前記歯肉の周囲を一周取り囲む第2境界線を決定する第2境界線決定ステップとを含む、残存歯支持装置生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、残存歯支持装置、部分義歯及び残存歯支持装置生産方法に関し、特に、口腔内での残存歯の位置が動かないように支持する残存歯支持装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、従来の部分義歯51は、
図6に示す通り、天然歯が欠損している部分に近い残存歯に金属製のバネ53を引っ掛けることにより装着していた(特許文献1)。バネを引っ掛ける歯を維持歯55という。
図6は、従来の部分義歯を例示する図であり、部分義歯51を複数装着した状態を(a)正面から見た図、(b)左側面から見た図、(c)口蓋側から見た図である。
【0003】
口腔内の型取りから部分義歯の完成までの間に、維持歯55やその他の残存歯が移動して装着できない場合や、部分義歯の装着時に違和感や痛みが生じてしまう場合があった。
【0004】
そのため、部分義歯を製作する前に、まずは残存歯が移動しないよう支持する必要があった。従来より、残存歯の支持方法としては、動揺歯の治療をし場合によっては神経をとりかぶせ物を作りその後部分入れ歯の製作する。もしくは一時的に隣接する残存歯の口蓋側をセメントで接着して支持する方法をもちいてる。これは、口蓋側のみに処置を行うため、唇側及び頬側の見た目が損なわれることがなく、審美性に優れた方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の残存歯支持方法では、残存歯が顔表面側に移動してしまうのを防止することが困難であった。
【0007】
そこで、本発明は、審美性を保ちつつ、従来よりも歯を強固に支持できる残存歯支持装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の観点は、口腔内での残存歯の位置が動かないように支持する残存歯支持装置であって、上顎又は下顎の歯肉の周囲を取り囲む歯肉包囲部と、前記残存歯に接して前記残存歯の位置が動かないように支持する残存歯支持部と、前記残存歯の歯冠を露出させる開口部とを備える、残存歯支持装置である。
【0009】
本発明の第2の観点は、第1の観点の残存歯支持装置であって、天然歯が欠損している部分である天然歯欠損部に配置される人工歯と、前記人工歯を支える土台となる床部とをさらに備え、前記床部は、前記歯肉包囲部に接続している。
【0010】
本発明の第3の観点は、第1又は第2の観点の残存歯支持装置であって、天然歯が欠損している部分である天然歯欠損部に配置され、インプラントを導入するガイドとなるサージカルガイド穴と、前記残存歯支持部に接続していて、前記サージカルガイド穴を支える土台となるサージカルガイド床部とをさらに備える。
【0011】
本発明の第4の観点は、第1から第3のいずれかの観点の残存歯支持装置であって、前記開口部は、前記残存歯の前記歯冠の全体を露出させる。
【0012】
本発明の第5の観点は、第1から第4のいずれかの観点の残存歯支持装置であって、前記残存歯支持部は、透光性の素材からなる。
【0013】
本発明の第6の観点は、第5の観点の残存歯支持装置であって、前記素材は、ポリカーボネートである。
【0014】
本発明の第7の観点は、天然歯が欠損している部分である天然歯欠損部に配置される人工歯と、前記人工歯を支える土台となる床部とを備える、部分義歯であって、上顎又は下顎の歯肉の周囲を取り囲む歯肉包囲部と、残存歯に接して前記残存歯の位置を支持する残存歯支持部とを備える、部分義歯である。
【0015】
本発明の第8の観点は、口腔内での残存歯の位置が動かないように支持する残存歯支持装置を生産する残存歯支持装置生産方法であって、前記残存歯支持装置は、上顎又は下顎の全部の歯を覆う歯肉の周囲を取り囲む歯肉包囲部と、前記残存歯に接して前記残存歯の位置が動かないように支持する残存歯支持部と、前記残存歯の歯冠を露出させる開口部とを備え、前記口腔内の3Dデータにおいて、前記開口部が形成されるように、前記残存歯の周囲を一周取り囲む第1境界線を決定する第1境界線決定ステップと、前記歯肉の周囲を一周取り囲む第2境界線を決定する第2境界線決定ステップとを含む、残存歯支持装置生産方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の各観点によれば、審美性を保ちつつ、従来よりも強固に残存歯を支持することが可能な残存歯支持装置を提供することが可能になる。
【0017】
従来、正面からの見た目を損なわないためには、残存歯の唇側及び頬側ではなく、口蓋側のみにセメントを接着させて支持していた。食事中は、歯に対して口腔内側から顔表面側への咬合圧が加わりやすく、残存歯は特に顔表面側へ移動しやすい。従来は、前歯を支持する場合、口腔内側をセメントで固定することが多く、顔表面側への移動を防止しにくかった。
【0018】
本願発明の各観点によれば、歯肉の周囲が取り囲まれるため、口腔内側からだけでなく、顔表面側からも残存歯を支持することが可能になる。よって、従来は防止しにくかった顔表面側への天然歯の移動も抑えることが可能になる。
【0019】
また、本願発明の残存歯支持部は、セメントで接着させる必要はなく、残存歯を支える歯肉の周囲を覆うことで支持する。そのため、従来よりも残存歯への負荷を軽減することが可能になる。
【0020】
なお、従来のマウスピース型矯正装置では、口蓋側からだけではなく、唇側及び頬側からも残存歯を支持することが可能であった。しかし、マウスピース型矯正装置は、歯冠を覆うものであるため、正面からの見た目が損なわれていた。また、食事の際には、マウスピース型矯正装置を取り外す必要があった。
【0021】
本願発明の各観点によれば、会話や食事において口を開く程度では、残存歯支持装置が上唇及び/又は下唇に隠れて露出しにくい。そのため、正面からの見た目が損なわれない点で審美性に優れている。また、開口部により残存歯の歯冠は露出されているため、装着したまま食事が可能である。つまり、審美性及び機能性に優れた残存歯支持装置等を提供することが可能となる。
【0022】
さらに、本願発明の第2の観点によれば、従来であれば別々に装着していた部分義歯及び残存歯支持装置を一体化させることが可能になる。そのため、使用者にとって従来以上に使い勝手のよい残存歯支持装置を提供することが可能となる。
【0023】
また、従来の部分義歯は、残存歯の一部を維持歯として、バネを引っ掛けることにより装着していた。そのため、維持歯に大きな負荷がかかっていた。
【0024】
本発明の第2の観点によれば、一部の残存歯のみに負荷をかけることはなく、歯肉全体に負荷を分散することが可能になる。
【0025】
さらに、本発明の第3の観点によれば、残存歯の位置が移動しないよう支持しつつ、インプラントのサージカルガイドとしても機能する残存歯支持装置を提供することが可能になる。
【0026】
本願発明の第4の観点によれば、残存歯の歯冠の全体を露出させたままで残存歯を支持する。そのため、さらに目立ちにくく、審美性の良い残存歯支持装置を提供することが可能になる。
【0027】
本願発明の第5の観点によれば、残存歯支持装置を使用していても歯肉が透過して見えることとなる。そのため、少なくとも残存歯支持装置が目立ちにくいという意味で、さらに審美性の高い残存歯支持装置を提供することが可能になる。
【0028】
本願発明の第6の観点によれば、審美性に優れていることに加えて、強度及び耐久性の高い残存歯支持装置を提供することが可能になる。ポリカーボネートは、従来は歯科材料としては用いられていなかった。ポリカーボネートは、従来より歯科材料として使用されている他のレジンに比べて、引張強度、圧縮強度、酸耐性及びアルカリ耐性が高く優れた材料である。そのため、目立ちにくさと支持強度を両立させる本発明の残存歯支持装置の素材として特に優れているといえる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本願発明の実施例1に係る残存歯支持装置1の3Dモデルを例示する図である。
【
図2】本願発明の実施例2に係る残存歯支持装置21の3Dモデルを例示する図である。
【
図3】本願発明の実施例3に係る残存歯支持装置の3Dモデルを例示する図である。
【
図4】本願発明の実施例4に係る残存歯支持装置21の3Dモデルを例示する図である。
【
図5】本願発明の実施例4に係る残存歯支持装置21を装着した状態の3Dモデルを例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を参照して本願発明の実施形態を詳細に説明する。なお、本願発明の実施例は、以下に記載する内容に限定されるものではない。
【実施例0031】
図1は、本願発明の実施例1に係る残存歯支持装置1(本願請求項記載の「残存歯支持装置」の一例)の3Dモデルを例示する図であり、(a)残存歯支持装置1のみ、(b)装着状態の残存歯支持装置1を示している。また、
図1は、上顎用であり、全ての天然歯が残存している場合の残存歯支持装置1を例示する図である。
【0032】
図1を参照して、残存歯支持装置1は、歯肉包囲部3と、残存歯支持部4と、開口部5とを備える。歯肉包囲部3は、歯肉の周囲を取り囲む。
図1では、歯肉包囲部3は、上顎の全部の歯を覆う歯肉を包囲している。また、残存歯支持部4は、残存歯に接する。歯肉包囲部3と残存歯支持部4とは連続した構造をしており、残存歯7の位置が動かないように支持する。また、歯肉包囲部3及び残存歯支持部4は、
図1では白く示しているが、実際には歯肉が透過して見える素材で構成される。特に、歯肉包囲部3及び残存歯支持部4は、ポリカーボネートであることが望ましい。開口部5は、残存歯7の歯冠を露出させる孔である。
【0033】
残存歯支持装置1は、少なくとも目立ちにくいという意味での審美性を保ちつつ、従来よりも強固に残存歯を支持することが可能である。
【0034】
図1(b)中の矢印Aは、食事中に歯に対して加わりやすい、口腔内側から顔表面側への咬合圧の方向を示すものである。残存歯支持装置1によれば、歯肉の周囲が取り囲まれるため、口腔内側からだけでなく、顔表面側からも残存歯を支持することが可能になる。よって、矢印Aの方向に咬合圧が加わることを抑えることができ、従来は防止しにくかった顔表面側への天然歯の移動も抑えることが可能になる。
【0035】
また、歯肉包囲部3及び残存歯支持部4は、セメントで接着させることはなく、残存歯7を支える歯肉の周囲を覆うだけである。そのため、従来よりも残存歯への負荷を軽減することが可能になる。
【0036】
また、従来のマウスピース型矯正装置では、口蓋側からだけではなく、唇側及び頬側からも残存歯を支持することが可能であった。しかし、マウスピース型矯正装置は、歯冠を覆うものであるため、正面からの見た目が損なわれていた。また、食事の際には、マウスピース型矯正装置を取り外す必要があった。
【0037】
残存歯支持装置1は、会話や食事において口を開く程度では、唇で隠れていてほぼ露出しないため、正面からの見た目が損なわれない。
【0038】
また、歯肉包囲部3及び残存歯支持部4は、歯肉が透過して見える透明なポリカーボネートを素材とする。そのため、大きく開口した時に見えたとしても、自然な見た目である。また、ポリカーボネートは、従来は歯科材料としては用いられていなかった。ポリカーボネートは、従来より歯科材料として使用されている他のレジンに比べて、引張強度、圧縮強度、酸耐性及びアルカリ耐性が高く優れた材料である。
【0039】
さらに、開口部3により残存歯7の歯冠は露出されているため、装着したまま食事が可能である。
また、従来の部分義歯は、残存歯の一部を維持歯として、バネを引っ掛けることにより装着していた。そのため、維持歯に大きな負荷がかかっていた。残存歯支持装置21では、一部の残存歯のみに負荷をかけることはなく、歯肉全体に負荷を分散することが可能になる。
本願発明の実施例2に係る残存歯支持装置21を生産する残存歯支持装置生産方法は、口腔内の3Dデータにおいて、開口部25が形成されるように、残存歯の周囲を一周取り囲む第1境界線を決定する第1境界線決定ステップと、歯肉の周囲を一周取り囲む第2境界線を決定する第2境界線決定ステップとを含む。
CADで従来の部分義歯又はマウスピース型矯正器具のモデルを設計する場合は、モデルの輪郭線を一筆書きで決定していた。そのため、従来は孔を有する部材を設計することができなかった。
本願発明の残存歯支持装置21のモデルを設計する場合は、開口部25を形成する第1境界線と、歯肉の周囲を一周取り囲む第2境界線を決定する。そのため、開口部25を有する残存歯支持装置21を設計することが可能になる。