(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101993
(43)【公開日】2024-07-30
(54)【発明の名称】不織布およびエアフィルター濾材
(51)【国際特許分類】
D04H 1/54 20120101AFI20240723BHJP
D04H 1/435 20120101ALI20240723BHJP
B01D 39/16 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
D04H1/54
D04H1/435
B01D39/16 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023208970
(22)【出願日】2023-12-12
(31)【優先権主張番号】P 2023005595
(32)【優先日】2023-01-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鹿野 秀和
(72)【発明者】
【氏名】石井 健太郎
【テーマコード(参考)】
4D019
4L047
【Fターム(参考)】
4D019AA01
4D019BA12
4D019BA13
4D019BB05
4D019BC06
4D019BC11
4D019BC15
4D019BD01
4D019CA02
4D019CB04
4D019CB06
4D019DA01
4D019DA03
4D019DA06
4L047AA21
4L047AA27
4L047AA28
4L047AB02
4L047AB07
4L047BA09
4L047BA21
4L047CB10
4L047CC12
(57)【要約】
【課題】本発明は、高捕集効率と低圧力損失を兼ね備えた、エアフィルター濾材に好適な不織布を提供する。
【解決手段】繊維径が1.0μm未満であって平均繊維径R1が0.01~0.90μmの繊維A、繊維径が1.0μm以上10μm未満であって平均繊維径R2が1.2~7.5μmの繊維B、繊維径が10μm以上であって平均繊維径R3が15~50μmの繊維Cおよび熱接着性の繊維Dを含み、繊維A~Dが有機繊維であることを特徴とする不織布である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維径が1.0μm未満であって平均繊維径R1が0.01~0.90μmの繊維A、繊維径が1.0μm以上10μm未満であって平均繊維径R2が1.2~7.5μmの繊維B、繊維径が10μm以上であって平均繊維径R3が15~50μmの繊維Cおよび熱接着性の繊維Dを含み、繊維A~Dが有機繊維であることを特徴とする不織布。
【請求項2】
平均繊維径比(R2/R1)が5~50であり、平均繊維径比(R3/R2)が2~20であることを特徴とする請求項1記載の不織布。
【請求項3】
請求項1または2に記載の不織布を用いてなるエアフィルター濾材。
【請求項4】
請求項3に記載のエアフィルター濾材を用いてなるエアフィルター。
【請求項5】
請求項4に記載のエアフィルターを備えているファンフィルターユニット。
【請求項6】
請求項4に記載のエアフィルターを備えているクリーンルームまたは半導体製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアフィルター濾材に好適な不織布とエアフィルター濾材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、空間の清浄化に対する要求が高まっており、粒径2.5μm以下のダストによる健康問題への対策や、半導体や医薬品の製造における無塵化等、住環境から産業にいたる幅広い分野で、空気中の微細なダストを除去するエアフィルターが使用されている。特に、クリーンルームや半導体製造装置等、極めて高度に清浄な空気を必要とする空間においては、HEPAフィルター(High Efficiency Particulate Air filter)やULPAフィルター(Ultra Low Penetration Air filter)に代表される、高性能なエアフィルターが使用されている。
【0003】
従来より、HEPAフィルターやULPAフィルターのエアフィルター濾材には、ガラス繊維製の不織布や、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)製の多孔膜が用いられている。しかしながら、ガラス繊維製の不織布およびPTFE製の多孔膜からなるエアフィルター濾材はいずれも、使用後に埋立処分されており、環境負荷が大きいという課題があった。
【0004】
そこで、近年の環境意識の高まりにより、より環境負荷の小さい、極細のポリエステル繊維からなり、優れたフィルター性能を有する不織布が種々提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1では、繊維直径が200~800nmのナノファイバーと、ナノファイバーよりも太い繊維、バインダー繊維の3種類のポリエステル繊維を含む不織布を用いたエアフィルター濾材が提案されている。この提案によると、プリーツ性および耐風圧変形性に優れる低圧力損失と高捕集性能を有するエアフィルター濾材を提供することができるとしている。
【0006】
また、特許文献2では、繊維直径が100~1000nmのナノファイバーと、繊維直径が4~12μmの繊維、バインダー繊維の3種類のポリエステル繊維を含む不織布を用いたエアフィルター濾材が提案されている。この提案によると、地合いの均一性に優れ、かつ薄膜でプリーツ加工性に優れる低圧力損失と高捕集性能を有するエアフィルター濾材を提供することができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2015-140495号公報
【特許文献2】特開2022-105839号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1記載の方法では、プリーツ性および耐風圧変形性に優れる不織布を得ることはできるものの、HEPAフィルターやULPAフィルターに必要とされる捕集効率には未達であり、低圧力損失と高捕集効率の両立という観点においても効果が不十分であった。
【0009】
また、特許文献2記載の方法では、薄膜でプリーツ加工性に優れる不織布を得ることができ、さらにHEPAフィルターやULPAフィルターに必要とされる捕集効率に到達し得る一方で、圧力損失は高いものであり、低圧力損失と高捕集効率の両立という観点においては効果が不十分であった。
【0010】
本発明の課題は、上記従来技術の問題点を解決し、高捕集効率と低圧力損失を兼ね備えた、エアフィルター濾材に好適な不織布及びそれを用いたエアフィルター濾材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、繊維径が1.0μm未満の繊維に加えて、特定範囲の平均繊維径を有する2種類の繊維、および熱接着性の繊維を含む不織布とすることで、高捕集効率と低圧力損失を兼ね備え、エアフィルター濾材に好適に用いることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
上記課題は本発明、すなわち、繊維径が1.0μm未満であって平均繊維径R1が0.01~0.90μmの繊維A、繊維径が1.0μm以上10μm未満であって平均繊維径R2が1.2~7.5μmの繊維B、繊維径が10μm以上であって平均繊維径R3が15~50μmの繊維Cおよび熱接着性の繊維Dを含み、繊維A~Dが有機繊維であることを特徴とする不織布によって解決することができる。
【0013】
また、平均繊維径比(R2/R1)が5~50であり、平均繊維径比(R3/R2)が2~20であることが好ましい。
【0014】
前記不織布はエアフィルター濾材に好適に採用することができ、さらに前記エアフィルター濾材はエアフィルターに好適に採用することができる。
【0015】
また、前記エアフィルターは、ファンフィルターユニット、クリーンルーム、半導体製造装置に好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高捕集効率と低圧力損失を兼ね備えた、エアフィルター濾材に好適な不織布を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の不織布は、繊維径が1.0μm未満であって平均繊維径R1が0.01~0.90μmの繊維A、繊維径が1.0μm以上10μm未満であって平均繊維径R2が1.2~7.5μmの繊維B、繊維径が10μm以上であって平均繊維径R3が15~50μmの繊維Cおよび熱接着性の繊維Dを含み、繊維A~Dが有機繊維である。
【0018】
以下、本発明の不織布について詳細に説明する。
【0019】
本発明の不織布に用いられる繊維A~Dは有機繊維である。本発明における有機繊維とは、有機物を主成分とする繊維状の材料である。有機繊維の具体例として、木材パルプ等から製造されるセルロース、コットンや、麻、ウール、シルク等の天然繊維、レーヨン等の再生繊維、アセテート等の半合成繊維、ポリエステルやナイロン、アクリル等に代表される合成繊維等が挙げられるが、これらに限定されない。なかでも、力学特性や寸法安定性の観点から、熱可塑性ポリマーからなる合成繊維であることが好ましい。熱可塑性ポリマーの具体例として、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ乳酸等のポリエステル、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610等のポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィンや、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリフェニレンサルファイド、熱可塑性ポリウレタン等の熱可塑性ポリマーおよびそれらの共重合体が挙げられるが、これらに限定されない。なかでも、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリアミド6、ポリアミド66等のポリアミド、ポリフェニレンサルファイドは、力学特性や耐熱性を兼ね備えているため好ましい。
【0020】
本発明における有機繊維は、本発明の効果を損なわない範囲で、副次的添加物を加えて種々の改質が行われたものであってもよい。副次的添加物の具体例として、相溶化剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、蛍光増白剤、離型剤、抗菌剤、核形成剤、熱安定剤、難燃剤、帯電防止剤、着色防止剤、調整剤、艶消し剤、消泡剤、防腐剤、ゲル化剤、ラテックス、フィラー、インク、着色料、染料、顔料、香料等が挙げられるが、これらに限定されない。これらの副次的添加物は単独で使用してもよく、複数を併用してもよい。
【0021】
本発明の不織布に用いられる繊維Dは熱接着性の繊維である。熱接着性の繊維を用いることにより、不織布を構成する繊維同士を物理的に接着することができるため、後述する湿式抄紙による不織布加工時に不織布を構成する繊維が脱落することを抑制でき、また、不織布の立体構造を保持することができ、かつ不織布の強度を向上させることができる。熱接着性の繊維は、特に限定されるものではないが、例えば、融点が150℃以下の熱可塑性ポリマーを鞘に配した芯鞘繊維を好適に採用できる。このような芯鞘繊維を用いた場合、不織布を形成させた後、ヤンキードライヤーやエアースルードライヤー等の乾燥工程、またはカレンダー等の熱処理工程を経ることで、熱接着性の繊維の表面の鞘成分が融解し、不織布を構成する他の繊維と接着され、不織布の剛性を高めることができるため好ましい。さらに、熱接着性の繊維の芯成分が、不織布の強度確保に寄与することができるため好ましい。なお、熱接着性の繊維の芯成分の融点が、鞘成分の融点よりも高温であり、その融点の差が20℃以上であれば、熱接着性の繊維の表面の鞘成分が十分に融解しやすく、かつ芯成分の配向の低下が抑制され、十分な熱接着性と高い剛性を両立することができるため好ましい。
【0022】
また、繊維Dの繊維径は10.0~14.0μmであることが好ましい。繊維Dの繊維径が10.0μm以上であれば、繊維Dと不織布を構成する他の繊維との接着により、不織布の強度を確保することができるため好ましい。繊維Dの繊維径は10.5μm以上であることがより好ましく、11.0μm以上であることが更に好ましい。一方、繊維Dの繊維径が14.0μm以下であれば、繊維Dと不織布を構成する他の繊維とを均一かつ強固に接着することができるため好ましい。繊維Dの繊維径は13.5μm以下であることがより好ましく、13.0μm以下であることが更に好ましい。
【0023】
本発明の不織布に用いられる繊維Aは、繊維径が1.0μm未満の繊維であって、その平均繊維径R1が0.01~0.90μmである。本発明における平均繊維径R1とは、実施例記載の方法で測定される値を指す。繊維径が細いほど高比表面積となり、不織布とした際に高捕集性能を発現するため好ましいが、平均繊維径R1が0.01μm以上であれば、高捕集性能に加えて、不織布加工時の取扱い性や成形加工性が良好となり、使用時の耐久性に優れた不織布を得ることができる。平均繊維径R1は0.05μm以上であることがより好ましく、0.10μm以上であることが更に好ましい。一方、平均繊維径R1が0.90μm以下であれば、繊維径の細さに起因する高比表面積の効果により、不織布とした際に優れた捕集性能を発現する。平均繊維径R1は0.70μm以下であることがより好ましく、0.50μm以下であることが更に好ましい。
【0024】
本発明の不織布に用いられる繊維Bは、繊維径が1.0μm以上10μm未満の繊維であって、その平均繊維径R2が1.2~7.5μmである。本発明における平均繊維径R2とは、実施例記載の方法で測定される値を指す。平均繊維径R2が1.2μm以上であれば、不織布中において、繊維Aおよび繊維Bが過度に緻密化することがないため、高圧力損失化を抑制でき、高捕集性能と低圧力損失を両立した不織布を得ることができる。平均繊維径R2は2.0μm以上であることがより好ましく、3.0μm以上であることが更に好ましい。一方、平均繊維径R2が7.5μm以下であれば、後述する湿式抄紙による不織布加工時に、繊維Bより細い繊維Aが脱落することを抑制でき、得られる不織布中において、繊維Bが繊維Aの足場となり、3次元的に均質な微細空間を形成することができる。平均繊維径R2は7.0μm以下であることがより好ましく、6.5μm以下であることが更に好ましい。
【0025】
本発明の不織布に用いられる繊維Cは、繊維径が10μm以上の繊維であって、その平均繊維径R3が15~50μmである。本発明における平均繊維径R3とは、実施例記載の方法で測定される値を指す。平均繊維径R3が15μm以上であれば、不織布中において繊維Aおよび繊維Bによって形成される微細空間を、繊維Cによって拡張することができるため、主に繊維Aの寄与による高捕集性能を維持しつつ、不織布全体としての圧力損失を低くすることが可能となる。平均繊維径R3は17μm以上であることがより好ましく、20μm以上であることが更に好ましい。一方、平均繊維径R3が50μm以下であれば、繊維Cによって不織布中の微細空間が過度に拡張されることがないため、捕集性能が低下することを抑制でき、高捕集性能と低圧力損失を両立した不織布を得ることができる。平均繊維径R3は45μm以下であることがより好ましく、40μm以下であることが更に好ましい。
【0026】
本発明の不織布において、平均繊維径比(R2/R1)は5~50であることが好ましい。平均繊維径比(R2/R1)が5以上であれば、不織布中において、繊維Aおよび繊維Bが過度に緻密化することが抑制されるため、高圧力損失化を抑制でき、高捕集性能と低圧力損失を両立した不織布を得ることができるため好ましい。平均繊維径比(R2/R1)は10以上であることがより好ましく、15以上であることが更に好ましい。一方、平均繊維径比(R2/R1)が50以下であれば、後述する湿式抄紙による不織布加工時に、繊維Bより細い繊維Aが脱落することが抑制されるため、得られる不織布中において、繊維Bが繊維Aの足場となり、3次元的に均質な微細空間を形成することができるため好ましい。平均繊維径比(R2/R1)は40以下であることがより好ましく、30以下であることが更に好ましい。
【0027】
本発明の不織布において、平均繊維径比(R3/R2)は2~20であることが好ましい。平均繊維径比(R3/R2)が2以上であれば、繊維Cによって不織布中の微細空間が拡張され、高捕集性能と低圧力損失を両立した不織布を得ることができるため好ましい。平均繊維径比(R3/R2)は4以上であることがより好ましく、6以上であることが更に好ましい。一方、平均繊維径比(R3/R2)が20以下であれば、不織布中の微細空間が過度に拡張されることが抑制されるため、捕集性能の低下が抑制され、高捕集性能と低圧力損失を両立した不織布を得ることができるため好ましい。平均繊維径比(R3/R2)は18以下であることがより好ましく、16以下であることが更に好ましい。
【0028】
本発明の不織布において、繊維A~Dの配合比(重量%)は、特に制限がなく、各繊維の繊維径や、不織布の用途や要求特性に応じて適宜選択することができるが、繊維Aの配合比は5~40重量%であることが好ましく、繊維Dの配合比は5~50重量%であることが好ましい。繊維Aの配合比が5重量%以上であれば、繊維Aの繊維径の細さに由来する高比表面積の効果により、不織布とした際に優れた捕集性能を発現するため好ましい。繊維Aの配合比は10重量%以上であることがより好ましく、15重量%以上であることが更に好ましい。一方、繊維Aの配合比が40重量%以下であれば、不織布中において、繊維Aが過度に緻密化することが抑制されるため、高圧力損失化を抑制でき、高捕集性能と低圧力損失を両立した不織布を得ることができるため好ましい。繊維Aの配合比は35重量%以下であることがより好ましく、30重量%以下であることが更に好ましい。また、繊維Dの配合比が5重量%以上であれば、不織布中における繊維同士の接着性が確保されるため、後述する湿式抄紙による不織布加工時に不織布を構成する繊維が脱落することを抑制でき、得られる不織布の強度も良好となるため好ましい。繊維Dの配合比は10重量%以上であることがより好ましく、15重量%以上であることが更に好ましい。一方、繊維Dの配合比が50重量%以下であれば、繊維Dの接着によって、不織布中の微細空間が小さくなったり、微細空間が閉塞することを抑制できるため、不織布へ空気を通過させた際に空気の流れが阻害されず、高圧力損失化を抑制できるため好ましい。繊維Dの配合比は45重量%以下であることがより好ましく、40重量%以下であることが更に好ましい。
【0029】
また、繊維Bの配合比は10~60重量%であることが好ましく、繊維Cの配合比は3~20重量%であることが好ましい。繊維Bの配合比が10重量%以上であれば、後述する湿式抄紙による不織布加工時に、繊維Bより細い繊維Aが脱落することが抑制されるため、得られる不織布中において、繊維Bが繊維Aの足場となり、3次元的に均質な微細空間を形成することができるため好ましい。繊維Bの配合比は15重量%以上であることがより好ましく、20重量%以上であることが更に好ましい。一方、繊維Bの配合比が60重量%以下であれば、繊維A~Dそれぞれについて前述の効果を発現した不織布を得ることができるため好ましい。繊維Bの配合比は55重量%以下であることがより好ましく、50重量%以下であることが更に好ましい。また、繊維Cの配合比が3重量%以上であれば、繊維Cによって不織布中の微細空間が拡張され、高捕集性能と低圧力損失を両立した不織布を得ることができるため好ましい。繊維Cの配合比は5重量%以上であることがより好ましく、7重量%以上であることが更に好ましい。一方、繊維Cの配合比が20重量%以下であれば、繊維Cによって不織布中の微細空間が過度に拡張されることが抑制されるため、捕集性能の低下が抑制され、高捕集性能と低圧力損失を両立した不織布を得ることができるため好ましい。繊維Cの配合比は17重量%以下であることがより好ましく、15重量%以下であることが更に好ましい。
【0030】
本発明の不織布の目付は10~200g/m2であることが好ましい。本発明における不織布の目付とは、実施例記載の方法で測定される値を指す。目付が10g/m2以上であれば、不織布加工時の取扱い性や成形加工性が良好となり、粗密差の少ない均一な不織布、かつ使用時の耐久性に優れた不織布を得ることができるため好ましい。目付は25g/m2以上であることがより好ましく、50g/m2以上であることが更に好ましい。一方、目付が200g/m2以下であれば、不織布の緻密化による高圧力損失化を抑制することができるとともに、エアフィルター濾材として用いる際にプリーツ加工等の成形加工性が良好であるため好ましい。目付は150g/m2以下であることがより好ましく、100g/m2以下であることが更に好ましい。
【0031】
本発明の不織布の厚さは0.05~1.0mmであることが好ましい。本発明における不織布の厚さとは、実施例記載の方法で測定される値を指す。厚さが0.05mm以上であれば、不織布加工時の取扱い性や成形加工性が良好となり、使用時の耐久性に優れた不織布を得ることができるため好ましい。また、エアフィルター濾材として用いる際にプリーツ加工等の成形加工性が良好であるため好ましい。厚さは0.1mm以上であることがより好ましく、0.2mm以上であることが更に好ましい。一方、厚さが1.0mm以下であれば、不織布の緻密化による高圧力損失化を抑制することができるため好ましい。また、エアフィルター濾材として用いる際にプリーツ加工を施してエアフィルターとしたときに、濾材の厚さによって隣接する濾材同士が接触する部分が低減されるため、濾過面積を確保でき、圧力損失の上昇を抑制できるため好ましい。厚さは0.9mm以下であることがより好ましく、0.8mm以下であることが更に好ましい。
【0032】
本発明の不織布の空隙率は70%以上であることが好ましい。本発明における不織布の空隙率とは、実施例記載の方法で測定される値を指す。空隙率が70%以上であれば、不織布の緻密化による高圧力損失化が抑制されるとともに、不織布中の微細空間内に効率的に空気が流れ込み、濾過性能が高まり、高捕集性能と低圧力損失を両立した不織布を得ることができるため好ましい。空隙率は80%以上であることがより好ましく、90%以上であることが更に好ましい。
【0033】
次に、本発明の不織布の製造方法の一例を以下に示す。
【0034】
まず、繊維B~Dの短繊維を水媒体中に投入し、離解機で撹拌して均一になるように分散させた繊維分散液を調製する。この工程では、繊維の仕込み量や水媒体の量、撹拌時間等により、繊維の分散性を調整することが可能であり、できるだけ各短繊維が水媒体中で均一に分散している状態が好ましい。また、水媒体への繊維の分散性を向上させるために分散剤を添加してもよいが、不織布に後加工を施す場合に、その加工性に影響が出ないよう、分散剤の添加量は必要最小限に留めることが好ましい。
【0035】
次いで、後述する方法に従い、繊維Aが水媒体中で均一に分散した、繊維Aの繊維分散液を調製する。この繊維Aの繊維分散液と、前述の繊維B~Dの繊維分散液とを混合して抄紙原液とし、これを湿式抄紙することで、繊維A~Dの中で最も細い繊維Aが均等に配置された不織布を得ることができる。
【0036】
本発明における繊維Aは、溶剤に対する溶解速度が異なる2種類以上のポリマーからなる海島繊維を利用することで製造することができる。本発明における海島繊維とは、難溶解性ポリマーからなる島成分が、易溶解性ポリマーからなる海成分の中に点在する構造を有している繊維である。
【0037】
この海島繊維を製糸する方法としては、溶融紡糸による海島複合紡糸が、生産性が高く、連続して製造できるという観点から好適であり、さらに、繊維径および断面形状の制御に優れるという観点から、海島複合口金を用いる方法が好ましい。
【0038】
本発明において島成分に用いる難溶解性ポリマーの具体例として、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ乳酸等のポリエステル、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610等のポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィンや、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリフェニレンサルファイド、熱可塑性ポリウレタン等の熱可塑性ポリマーおよびそれらの共重合体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0039】
本発明において海成分に用いる易溶解性ポリマーは、海成分の溶出工程を簡便化するという観点から、水系溶剤または熱水等に易溶解性を示すことが好ましい。本発明における易溶解性ポリマーとして、共重合ポリエステル、ポリ乳酸、ポリビニルアルコール等を用いることが好ましく、特に、ポリエチレングリコール、5-スルホイソフタル酸ナトリウムを単独または併用して共重合したポリエステルや、ポリ乳酸を用いることが、取扱い性および低濃度の水系溶剤に容易に溶解するという観点から好ましい。
【0040】
本発明における易溶解性とは、溶解処理に用いる溶剤に対して難溶解性ポリマーを基準とした際に、溶解速度比(易溶解性ポリマー/難溶解性ポリマー)が100以上であることを意味する。溶解処理の簡略化や時間短縮を考慮すると、この溶解速度比は大きいことが好ましく、溶解速度比は1000以上であることがより好ましく、10000以上であることが更に好ましい。係る範囲であれば、溶解処理が短時間で終了し、難溶解性ポリマーを不必要に劣化させることなく、本発明に適した繊維Aを得ることができるため好ましい。
【0041】
また、水系溶剤に対する溶解性および溶解の際に発生する廃液処理の簡易化という観点から、ポリ乳酸、5-スルホイソフタル酸ナトリウムを3~20mol%共重合したポリエステル、および前述した5-スルホイソフタル酸ナトリウムに加えて重量平均分子量500~3000のポリエチレングリコールを5~15wt%共重合したポリエステルが特に好ましい。
【0042】
以上より、前述の海島繊維の好適なポリマーの組み合わせの例として、海成分を5-スルホイソフタル酸ナトリウムを3~20mol%共重合し、かつ重量平均分子量500~3000のポリエチレングリコールを5~15wt%共重合したポリエステル、またはポリ乳酸のいずれかとし、島成分をポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートおよびそれらの共重合体のいずれかとすることが挙げられるが、これらに限定されない。
【0043】
前述の海島繊維の紡糸温度は、前述した観点から決定した、難溶解性ポリマーおよび易溶解性ポリマーのうち、主に高融点や高粘度のポリマーが流動性を示す温度とすることが好適である。この流動性を示す温度とは、ポリマーの特性や分子量によっても異なるが、そのポリマーの融点が目安となり、融点+60℃以下に紡糸温度を設定すればよい。係る範囲であれば、紡糸ヘッドまたは紡糸パック内においてポリマーの熱分解等が抑制されるため、分子量低下が抑制され、良好に海島繊維を製造することができるため好ましい。
【0044】
海島複合口金から溶融吐出された糸条は、冷却固化され、油剤等を付与することにより収束し、周速が規定されたローラーによって引き取られる。引取速度は、吐出量や目的とする繊維径等から決めることができ、海島繊維を安定に製造するという観点から、100~7000m/分であることが好ましい。紡糸された海島繊維は、力学特性や熱安定性を向上させるという観点から、延伸することが好ましく、紡糸したマルチフィラメントを一旦巻き取った後に延伸してもよく、巻き取ることなく紡糸に引き続いて延伸してもよい。
【0045】
前述の海島繊維は、数十~数百万本単位に束ねたトウにして、ギロチンカッター、スライスマシン、クライオスタット等の切断機等を使用して、所望の繊維長にカット加工を施すことが好ましい。カット加工後の繊維長Lは、海島繊維の島成分の直径(繊維Aの平均繊維径R1に相当)に対する比(L/R1)が1000~6000となるようにカットすることが好ましい。係る範囲であれば、不織布とした際に繊維同士の接触点が多くなり、繊維間の橋架け構造の形成が促進され、不織布の補強効果を高めることができるため好ましい。L/R1が1000以上であれば、湿式抄紙による不織布加工時に、不織布中から繊維Aが脱落することが抑制されるため好ましい。L/R1は1500以上であることがより好ましく、2000以上であることが更に好ましい。一方、L/R1が6000以下であれば、水媒体中において繊維Aが凝集することが抑制され、均質性の高い不織布を得ることができるため好ましい。L/R1は5500以下であることがより好ましく、5000以下であることが更に好ましい。
【0046】
前述の海島繊維から海成分を溶解除去することで、繊維Aを製造することができる。すなわち、海成分の易溶解性ポリマーを溶解可能な溶剤等に、前述のカット加工後の海島繊維を浸漬して、易溶解性ポリマーを除去すればよい。易溶解性ポリマーが、5-スルホイソフタル酸ナトリウムやポリエチレングリコール等が共重合された共重合ポリエチレンテレフタレートやポリ乳酸の場合には、水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ水溶液を用いることができる。アルカリ水溶液の場合、海島繊維とアルカリ水溶液の浴比(海島繊維の重量(g):アルカリ水溶液の重量(g))は、1:5~1:10000であることが好ましく、1:10~1:5000であることがより好ましい。係る範囲であれば、海成分の易溶解性ポリマーが溶解する際に、不必要に繊維A同士が絡み合うことが抑制されるため好ましい。
【0047】
また、アルカリ水溶液のアルカリ濃度は、0.1~5重量%であることが好ましく、0.5~3重量%であることがより好ましい。係る範囲であれば、海成分の易溶解性ポリマーの溶解が短時間で完了し、島成分の難溶解性ポリマーを不必要に劣化させることなく、繊維Aが均質に分散した繊維分散液を得ることができるため好ましい。また、アルカリ水溶液の温度は、特に限定されるものではないが、50℃以上とすることで、海成分の易溶解性ポリマーの溶解の進行を早めることができるため好ましい。
【0048】
本発明においては、海島繊維から海成分の易溶解性ポリマーを溶解した水溶液を繊維Aの繊維分散液として、そのまま使用してもよく、酸やアルカリを添加してpHを調整したり、水で希釈して使用してもよい。また、繊維分散液中において、繊維Aが経時で凝集することを抑制するために分散剤を添加してもよい。分散剤の種類として、カチオン系化合物、ノニオン系化合物、アニオン系化合物等が挙げられるが、なかでも、水媒体中での電気的反発力による分散性向上の観点から、アニオン系化合物を用いることが好ましい。分散剤の添加量は、繊維Aの重量に対して0.001~10倍であることが好ましく、係る範囲であれば、湿式抄紙による不織布加工時の加工性を損なうことなく、繊維Aの分散性が確保されるため好ましい。
【0049】
本発明における繊維B~Dは、熱可塑性ポリマーからなる合成繊維である場合、溶融紡糸を行った後、必要に応じて延伸し、その後、前述のように所望の繊維長にカット加工することで製造することができる。ここで、繊維B~Dの繊維長は30mm以下であることが好ましい。繊維長が30mm以下であれば、水媒体中での分散時に繊維同士が強固に絡み合うことに伴う、繊維塊の形成が抑制され、均質な不織布を得ることができ、エアフィルター濾材として好適に使用できるため好ましい。
【0050】
このようにして調製した繊維Aの繊維分散液を、前述の繊維B~Dの繊維分散液と混合し、一定濃度に希釈して調整した後、傾斜ワイヤー、円網上等で脱水して、湿式抄紙による不織布を形成する。湿式抄紙に使用する装置としては、円網抄紙機、長網抄紙機、傾斜短網抄紙機、またはこれらを組み合わせた抄紙機等が挙げられるが、これらに限定されない。抄紙工程では、抄紙原液中での繊維の分散性に加え、抄紙速度や繊維や水媒体の量を調整して、濾水時の繊維の集積を制御することで、3次元的に均質な不織布を作製することができる。
【0051】
湿式抄紙により形成した不織布は、水分を除去するために乾燥工程に通す。乾燥方式としては、不織布の乾燥と、熱接着性の繊維の熱接着を同時に実施できるという観点から、熱風通気(エアースルー)を利用する方法や、熱回転ロール(熱カレンダーロール等)に接触させる方法を好適に採用できる。
【0052】
本発明の不織布は、高捕集効率と低圧力損失を兼ね備えているため、本発明の不織布を用いたエアフィルター濾材は空気清浄機用、エアコン用、ビル空調用、産業クリーンルーム用および自動車や列車等の車室用等のエアフィルター濾材として好適に用いることができる。また、クリーンルームや半導体製造装置等、極めて高度に清浄な空気を必要とする空間においては、例えば、クリーンルーム内へ外気を取り込むための空調機のエアフィルター、クリーンルーム内の空気を循環するための空調機のエアフィルター、およびクリーンルームや半導体製造装置の天井に設置されるファンフィルターユニットのエアフィルター等のエアフィルター濾材として好適に用いることができる。これらの本発明のエアフィルター濾材を用いたエアフィルターを備えたクリーンルームや半導体製造装置は、各種産業において有用なものとなる。
【実施例0053】
次に、実施例に基づき本発明を詳細に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、実施例中の各特性値は、以下の方法で求めたものである。
【0054】
A.平均繊維径
実施例によって得られた不織布を試料とし、不織布の表面を走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製SU-1510)にて、300~3000本の繊維を観察できる倍率で画像を撮影し、撮影された画像から無作為に抽出した100本の繊維の繊維径を測定した。繊維径については、2次元的に撮影された画像から、繊維軸に対して垂直方向の繊維幅を繊維径として、μm単位で小数点第2位まで測定した。以上の操作を、同様に撮影した10枚の画像について行い、10枚の画像より測定した合計1000本の繊維の繊維径に関し、繊維径が1.0μm未満の繊維の繊維径の平均値の小数点第3位を四捨五入して平均繊維径R1(μm)を算出し、繊維径が1.0μm以上10μm未満の繊維の繊維径の平均値の小数点第3位を四捨五入して平均繊維径R2(μm)を算出し、繊維径が10μm以上の繊維の繊維径の平均値の小数点第3位を四捨五入して平均繊維径R3(μm)を算出した。なお、撮影された画像において、5箇所以上で他の繊維との接着点を有する繊維については、繊維径の測定対象から除外した。上記の接着点とは、繊維同士が単に重なっている点ではなく、繊維同士が接合して一体化している点である。
【0055】
B.平均繊維径比
上記A項で算出した平均繊維径R1、R2、R3を用いて、R2/R1およびR3/R2を算出し、小数点第2位を四捨五入し、平均繊維径比R2/R1およびR3/R2とした。
【0056】
C.目付
実施例によって得られた不織布を試料とし、250mm×250mm角に切り出した不織布の重量を秤量し、単位面積(1m2)当たりの重量に換算した値の小数点第2位を四捨五入して、不織布の目付(g/m2)を算出した。測定は1試料につき、任意の3ヶ所を切り出して実施し、その平均値の小数点第2位を四捨五入して、目付とした。
【0057】
D.厚さ
上記C項の測定に用いた不織布を試料とし、ダイヤルシックネスゲージ(TECLOCK社製SM-114 測定子形状10mmφ、目量0.01mm、測定力2.5N以下)を用いて、不織布の厚さを測定した。測定は1試料につき、任意の5ヶ所で行い、その平均値の小数点第3位を四捨五入して、不織布の厚さ(mm)を算出した。
【0058】
E.空隙率
上記C項およびD項で算出した不織布の目付および厚さを用いて、下記式によって算出した値の小数点第2位を四捨五入して、不織布の空隙率(%)とした。
空隙率(%)=100-[目付(g/m2)/{厚さ(mm)×繊維密度(g/cm3)}]×0.1
なお、繊維密度は不織布を構成する繊維の密度を適用すればよく、PETの場合は1.38g/cm3として算出した。
【0059】
F.捕集効率
実施例・比較例によって得られた不織布を試料とし、直径200mmの円形に切り出した不織布を有効間口面積0.1m2のホルダーにセットし、面風速3.3m/分で鉛直方向に、粒径0.15~0.50μmのポリスチレンラテックス粒子を10000~25000個/m3含む空気を通過させ、フィルター上流および下流の粒径0.3~0.5μmの大気塵粉塵数をパーティクルカウンター(RION社製KC-01D)を用いて測定し、下記式によって捕集効率を算出した。
捕集効率(%)={1-(下流粒子数/上流粒子数)}×100
測定は1試料につき、任意の3ヶ所を切り出して実施し、その平均値の小数点第3位を四捨五入して、捕集効率(%)とした。
【0060】
G.圧力損失
実施例・比較例によって得られた不織布を試料とし、直径200mmの円形に切り出した不織布を有効間口面積0.1m2のホルダーにセットし、面風速3.3m/分で鉛直方向に空気を通過させ、フィルター上流と下流の圧力差を差圧計にて測定した。測定は1試料につき、任意の3ヶ所を切り出して実施し、その平均値の小数点第1位を四捨五入して、圧力損失(Pa)とした。
【0061】
H.性能指標
上記F項およびG項で算出した不織布の捕集効率および圧力損失を用いて、下記式、
性能指標(1/Pa)=-ln[{1-捕集効率(%)/100)}/圧力損失(Pa)]
によって算出した値の小数点第4位を四捨五入して、不織布の性能指標(1/Pa)とした。
【0062】
実施例1
ポリエチレンテレフタレート(PET)を島成分とし、5-スルホイソフタル酸ナトリウム8.0mol%および分子量1000のポリエチレングリコール10wt%を共重合した共重合PETを海成分とし、それぞれを150℃で12時間真空乾燥した。続いて、島成分を50重量%、海成分を50重量%の配合比でエクストルーダー型複合紡糸機へ供給して別々に溶融させ、紡糸温度285℃において、海島複合口金(島成分の数:2000、島成分の形状:丸)を組み込んだ紡糸パックに流入させ、吐出孔から複合ポリマー流を吐出量12g/分で吐出させて紡出糸条を得た。この紡出糸条を風温20℃、風速20m/分の冷却風で冷却し、給油装置で油剤を付与して収束させ、1000m/分で回転する第1ゴデットローラーで引き取り、第1ゴデットローラーと同じ速度で回転する第2ゴデットローラーを介して、ワインダーで巻き取って未延伸糸を得た。その後、延伸機を用いて、得られた未延伸糸を85℃と130℃に加熱したローラー間で3.4倍に延伸し、海島繊維(島成分の直径:0.15μm)を得た。
【0063】
得られた海島繊維を、繊維長が0.6mmとなるようにカット加工を施した。カット加工後の海島繊維を、1重量%の水酸化ナトリウム水溶液中で浴比1:100にて、90℃で30分処理した後、酢酸でpH=7に中和し、繊維Aの繊維分散液を得た。
【0064】
次いで、繊維BとしてPET短繊維(繊維径3.0μm、繊維長3.0mm)を配合比50重量%、繊維CとしてPET短繊維(繊維径25.0μm、繊維長5.0mm)を配合比10重量%、繊維Dとして熱接着性の芯鞘PET短繊維(芯成分:PET、鞘成分:ジカルボン酸成分としてテレフタル酸60mol%およびイソフタル酸40mol%、ジオール成分としてエチレングリコール85mol%およびジエチレングリコール15mol%の割合で共重合した融点110℃の共重合ポリエステル、芯鞘比(重量比)=50:50、繊維径10.0μm、繊維長5.0mm)を配合比30重量%となるように調整し、離解機によって水と均一に混合分散することで、繊維B~Dの繊維分散液を調製した。
【0065】
この繊維B~Dの繊維分散液に対して、前述の繊維Aの繊維分散液を、繊維Aの配合比が10重量%となるようにして均質に混合することで、抄紙原液を調製した。この抄紙原液を、熊谷理機工業社製角型シートマシン(250mm角)を用いて湿式抄紙した後、ローラー温度を110℃に設定した回転型乾燥機で乾燥・熱処理を施すことで不織布を得た。
【0066】
得られた不織布の評価結果を表1に示す。得られた不織布は、目付が50.1g/m2であり、厚さが0.45mmであった。不織布中において、繊維Bが繊維Aの足場として橋架け状に存在し、繊維Cによって不織布中の微細空間が拡張されており、さらに、繊維Dによって不織布を構成する繊維が接着されていた。また、高捕集効率と低圧力損失を兼ね備えているとともに、エアフィルター濾材において、捕集効率と圧力損失のバランスを表す性能指標も良好な値を示した。
【0067】
実施例2、3
繊維Aの繊維径を表1に示すとおり変更した以外は、実施例1と同様に不織布を作製した。
【0068】
得られた不織布の評価結果を表1に示す。繊維Aの繊維径が大きくなるにつれ、捕集効率と圧力損失が低くなる傾向が見られたが、捕集効率と圧力損失のバランスを表す性能指標は良好な値を示した。
【0069】
比較例1~4
比較例1では繊維Aを用いず、比較例2では繊維Bを用いず、比較例3では繊維Cを用いず、比較例4では繊維Dを用いず、また、繊維A~Dの配合比を表2に示すとおり変更した以外は、実施例2と同様に不織布を作製した。
【0070】
得られた不織布の評価結果を表2に示す。比較例1では、圧力損失は低い値を示した。しかしながら、繊維径が細く、高比表面積の効果によって塵を捕集する役割を担う繊維Aを用いていないため、捕集性能が発現せず、捕集効率は極めて低く、性能指標も極めて低い値を示した。
【0071】
比較例2では、圧力損失は低い値を示した。しかしながら、不織布中において、繊維Aの足場となる役割を担う繊維Bを用いていないため、湿式抄紙による不織布加工時に繊維Aの大部分が脱落し、その結果、繊維Aによる捕集性能が十分に発現せず、捕集効率は極めて低く、性能指標も極めて低い値を示した。
【0072】
比較例3では、捕集効率は高い値を示した。しかしながら、不織布中の微細空間を拡張する役割を担う繊維Cを用いていないため、不織布が緻密な構造となり、その結果、圧力損失はやや高くなり、性能指標もやや低い値を示した。
【0073】
比較例4では、圧力損失は低い値を示した。しかしながら、不織布を構成する繊維を接着する役割を担う繊維Dを用いていないため、湿式抄紙による不織布加工時に繊維Aの一部が脱落した。その結果、繊維Aによる捕集性能が十分に発現せず、捕集効率はやや低く、性能指標もやや低い値を示した。
【0074】
比較例5
繊維Aの繊維径を表2に示すとおり変更した以外は、実施例2と同様に不織布を作製した。
【0075】
得られた不織布の評価結果を表2に示す。比較例5では、圧力損失は低い値を示した。しかしながら、繊維Aの繊維径が大きいため、繊維Aによる捕集性能が発現せず、捕集効率は極めて低く、性能指標も極めて低い値を示した。
【0076】
比較例6
繊維Bの繊維径を表2に示すとおり変更した以外は、実施例2と同様に不織布を作製した。
【0077】
得られた不織布の評価結果を表2に示す。比較例6では、圧力損失は低い値を示した。しかしながら、繊維Bの繊維径が大きいため、繊維Aの足場としての機能が不十分であり、湿式抄紙による不織布加工時に繊維Aの一部が脱落した。その結果、繊維Aによる捕集性能が十分に発現せず、捕集効率はやや低く、性能指標もやや低い値を示した。
【0078】
比較例7
繊維Cの繊維径を表2に示すとおり変更した以外は、実施例2と同様に不織布を作製した。
【0079】
得られた不織布の評価結果を表2に示す。比較例7では、繊維Cの繊維径が大きいため、不織布中の微細空間が拡張されており、圧力損失は低い値を示した。しかしながら、微細空間が過度に拡張にされたことに伴い、繊維Aによる捕集性能が十分に発現せず、捕集効率は低く、性能指標も低い値を示した。
【0080】
比較例8、実施例4、5
繊維Bの繊維径を表3に示すとおり変更した以外は、実施例2と同様に不織布を作製した。
【0081】
得られた不織布の評価結果を表3に示す。比較例8では、捕集効率は高い値を示した。しかしながら、繊維Bの繊維径が小さいため、不織布が緻密な構造となり、その結果、圧力損失はやや高くなり、性能指標もやや低い値を示した。実施例4、5では、捕集効率と圧力損失は良好であり、捕集効率と圧力損失のバランスを表す性能指標も良好な値を示した。
【0082】
実施例6、7
繊維Cの繊維径を表3に示すとおり変更した以外は、実施例2と同様に不織布を作製した。
【0083】
得られた不織布の評価結果を表3に示す。繊維Cの繊維径が小さくなるにつれ、捕集効率と圧力損失が高くなる傾向が見られたが、捕集効率と圧力損失のバランスを表す性能指標は良好な値を示した。
【0084】
実施例8、9
繊維Bと繊維Cの配合比を表4に示すとおり変更した以外は、実施例2と同様に不織布を作製した。
【0085】
得られた不織布の評価結果を表4に示す。繊維Cの配合比が大きくなるにつれ、捕集効率と圧力損失が低くなる傾向が見られたが、捕集効率と圧力損失のバランスを表す性能指標は良好な値を示した。
【0086】
実施例10、11
抄紙原液の繊維量の調整により、不織布の目付を表4に示すとおり変更した以外は、実施例2と同様に不織布を作製した。
【0087】
得られた不織布の評価結果を表4に示す。目付が小さくなるにつれ、捕集効率と圧力損失が低くなる傾向が見られたが、捕集効率と圧力損失のバランスを表す性能指標は良好な値を示した。
【0088】
【0089】
【0090】
【0091】