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特開2024-101996流体デバイス、検出キット及び標的物質の検出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024101996
(43)【公開日】2024-07-30
(54)【発明の名称】流体デバイス、検出キット及び標的物質の検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 35/10 20060101AFI20240723BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
G01N35/10 A
G01N37/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023210039
(22)【出願日】2023-12-13
(31)【優先権主張番号】P 2023005941
(32)【優先日】2023-01-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100139686
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 史朗
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雄太
(72)【発明者】
【氏名】後藤 圭佑
【テーマコード(参考)】
2G058
【Fターム(参考)】
2G058CC02
2G058CC05
2G058DA07
(57)【要約】
【課題】検出精度の向上が可能な流体デバイス及び検出キットを提供する。また、ノイズの発生を抑制し高い検出精度を実現可能な標的物質の検出方法を提供する。
【解決手段】一面に複数のウェルを有する基板と、基板のウェルに対向して配置された蓋部材と、を備え、蓋部材は、蓋部材の厚さ方向に貫通する注入口と、注入口と連通し、注入口の上方に延びる注入管と、蓋部材の厚さ方向に貫通する排出口と、排出口と連通し、排出口の上方に延びる排出管と、蓋部材の上面の周縁部に沿って設けられた平面視環状の壁部と、を有し、壁部の上端は、注入管及び排出管の上端よりも高い流体デバイス。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一面に複数のウェルを有する基板と、
前記基板の前記ウェルに対向して配置された蓋部材と、を備え、
前記蓋部材は、前記蓋部材の厚さ方向に貫通する注入口と、
前記注入口と連通し、前記注入口の上方に延びる注入管と、
前記蓋部材の厚さ方向に貫通する排出口と、
前記排出口と連通し、前記排出口の上方に延びる排出管と、
前記蓋部材の上面の周縁部に沿って設けられた平面視環状の壁部と、を有し、
前記壁部の上端は、前記注入管及び前記排出管の上端よりも高い流体デバイス。
【請求項2】
前記蓋部材は、前記ウェルに対向する蓋本体と、
前記蓋本体と別体に設けられ、前記蓋本体に嵌合して前記壁部を構成する壁本体と、を有する請求項1に記載の流体デバイス。
【請求項3】
前記壁本体は、平面視で前記注入管と重なるガイド部を有し、
前記ガイド部は、平面視で前記注入口と重なるガイド孔を有する請求項2に記載の流体デバイス。
【請求項4】
前記壁部に嵌合し、前記壁部の上端を気密に閉じる蓋を有する請求項1に記載の流体デバイス。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の流体デバイスと、
水よりも高密度であり油性の封止液と、を有する検出キット。
【請求項6】
請求項1から4のいずれか1項に記載の流体デバイスを用いた標的物質の検出方法であって、
前記標的物質と反応する検出試薬と、前記標的物質を含む試料との混合水溶液を調整する工程と、
前記注入口から前記流体デバイスの内部に前記混合水溶液を導入し、前記混合水溶液を前記ウェルに充填する工程と、
前記流体デバイスに油性の封止液を導入し、前記内部の前記混合水溶液を前記排出口から排出すると共に、前記封止液によって前記混合水溶液を前記ウェルに封止する工程と、
前記流体デバイスを加熱して前記標的物質と前記検出試薬との反応を生じさせ、前記標的物質を検出する工程と、を有し、
前記封止液は、水よりも高密度であり、
前記封止する工程では、前記蓋部材と前記壁部とで囲まれた空間に排出された前記混合水溶液の液面が、前記注入管及び前記排出管の上端よりも高い位置となると共に、前記封止液の液面が、前記注入管及び前記排出管の上端よりも低い位置となる液量の前記封止液を前記流体デバイスに導入する標的物質の検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体デバイス、検出キット及び標的物質の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体分子を流体デバイス内で検出する技術が知られている。例えば、DNAマイクロアレイ技術では、微小孔に生体分子を導入し、加熱を伴う反応を行うことにより、生体分子を検出する場合がある。
【0003】
また、生体分子を単分子検出できる技術が知られている。このような技術としては、例えば、非特許文献1に記載されたデジタルEnzyme-Linked ImmunoSorbent Assay(ELISA)、デジタルPolymerase Chain Reaction(PCR)、デジタルInvasive Cleavaged Assay(ICA)等のデジタル計測技術が挙げられる。
【0004】
発明者らは、以前に、複数のウェルを有する反応容器(流体デバイス)を用いたデジタル計測技術を開発している(特許文献1参照)。以前開発した方法では、まず、流体デバイスの流路に標的物質を含む水性媒体を送液し、流路壁面に設けられた複数のウェルに水性媒体を充填する。次いで、流路に油性封止液を送液して複数のウェル内の水性媒体を油性封止液で封止する。これにより、各ウェルを複数の独立した反応空間とする。さらに、流体デバイスを加熱することで反応溶液を加熱し、検出反応させることにより、標的物質の検出を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6183471号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の方法では、検出反応に発光を利用することがある。微量の標的物質の検出を行う際、少量であってもノイズの発光が混ざると検出精度が低下しやすく、改善が求められていた。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、検出精度の向上が可能な流体デバイス及び検出キットを提供することを目的とする。また、ノイズの発生を抑制し高い検出精度を実現可能な標的物質の検出方法を提供することを合わせて目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明の一態様は、以下の態様を包含する。
【0009】
[1]一面に複数のウェルを有する基板と、前記基板の前記ウェルに対向して配置された蓋部材と、を備え、前記蓋部材は、前記蓋部材の厚さ方向に貫通する注入口と、前記注入口と連通し、前記注入口の上方に延びる注入管と、前記蓋部材の厚さ方向に貫通する排出口と、前記排出口と連通し、前記排出口の上方に延びる排出管と、前記蓋部材の上面の周縁部に沿って設けられた平面視環状の壁部と、を有し、前記壁部の上端は、前記注入管及び前記排出管の上端よりも高い流体デバイス。
【0010】
[2]前記蓋部材は、前記ウェルに対向する蓋本体と、前記蓋本体と別体に設けられ、前記蓋本体に嵌合して前記壁部を構成する壁本体と、を有する[1]に記載の流体デバイス。
【0011】
[3]前記壁本体は、平面視で前記注入管と重なるガイド部を有し、前記ガイド部は、平面視で前記注入口と重なるガイド孔を有する[2]に記載の流体デバイス。
【0012】
[4]前記壁部に嵌合し、前記壁部の上端を気密に閉じる蓋を有する[1]に記載の流体デバイス。
【0013】
[5][1]から[4]のいずれか1項に記載の流体デバイスと、水よりも高密度であり油性の封止液と、を有する検出キット。
【0014】
[6][1]から[4]のいずれか1項に記載の流体デバイスを用いた標的物質の検出方法であって、前記標的物質と反応する検出試薬と、前記標的物質を含む試料との混合水溶液を調整する工程と、前記注入口から前記流体デバイスの内部に前記混合水溶液を導入し、前記混合水溶液を前記ウェルに充填する工程と、前記流体デバイスに油性の封止液を導入し、前記内部の前記混合水溶液を前記排出口から排出すると共に、前記封止液によって前記混合水溶液を前記ウェルに封止する工程と、前記流体デバイスを加熱して前記標的物質と前記検出試薬との反応を生じさせ、前記標的物質を検出する工程と、を有し、前記封止液は、水よりも高密度であり、前記封止する工程では、前記蓋部材と前記壁部とで囲まれた空間に排出される前記封止液の液面が、前記注入管及び前記排出管の上端よりも低い位置となる液量の前記封止液を前記流体デバイスに導入する標的物質の検出方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、検出精度の向上が可能な流体デバイス及び検出キットを提供することができる。また、ノイズの発生を抑制し高い検出精度を実現可能な標的物質の検出方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本実施形態の流体デバイス及び検出キットを示す概略斜視図である。
図2図2は、流体デバイスに含まれる流体デバイスの断面図である。
図3図3は、本実施形態の標的物質の検出方法の説明図である。
図4図4は、本実施形態の標的物質の検出方法の説明図である。
図5図5は、本実施形態の標的物質の検出方法の説明図である。
図6図6は、ICA法の一例を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図1図6を参照しながら、本実施形態に係る流体デバイス、検出キット及び試料検出方法について説明する。なお、以下の全ての図面においては、図面を見やすくするため、各構成要素の寸法や比率などは適宜異ならせてある。
【0018】
≪流体デバイス、検出キット及び標的物質の検出方法≫
図1は、本実施形態の流体デバイス及び検出キットを示す概略斜視図である。図2は、流体デバイスに含まれる流体デバイスの断面図であり、図1の線分II-IIにおける矢視断面図である。
【0019】
検出キット100は、流体デバイス1と、検出試薬L1と、油性の封止液L2とを備える。検出試薬L1及び封止液L2は、例えば保存容器91,92にそれぞれ保存されている。検出キット100は、液状の試料に含まれる標的物質の検出に用いられる。
【0020】
試料は、標的物質を含む水溶液であり、例えば、生体試料、環境試料を含む。生体試料としては、特に制限されず、血清、血漿、尿、細胞培養液等が挙げられる。また、生体試料を鋳型とし、検出試薬として染色用試薬を含むPCR反応溶液等であってもよい。さらに、環境試料としては、例えば、河川の水、工場排水等が挙げられる。
【0021】
標的物質としては、例えば、DNA、RNA、タンパク質、ウイルス、細胞、エキソソーム等が挙げられる。ここで、RNAとしては、miRNA、mRNA等が挙げられる。また、細胞としては、細菌、酵母、動物細胞、植物細胞、昆虫細胞等が挙げられる。
【0022】
検出キット100は、流体デバイス1において、上述のような試料に含まれる標的物質と、検出試薬L1とを反応させ、標的物質を検出する。その際、検出キット100においては、封止液L2を用いて上記標的物質と検出試薬L1との反応に適した反応場を形成し、標的物質の検出を容易にする。
以下、順に説明する。
【0023】
<流体デバイス>
図1,2に示すように、流体デバイス1は、デバイス本体10と、アダプタ15と、蓋20とを有する。デバイス本体10が有する蓋本体12(後述)とアダプタ15とは、本発明における「蓋部材」を構成する。まだ、アダプタ15は、本発明における「壁本体」に該当する。
【0024】
[デバイス本体]
デバイス本体10は、ウェルプレート11、蓋本体12、壁部材13を有する。デバイス本体10は、内部空間Sに試料を収容し、試料に含まれる標的物質の検出反応を行う反応容器として用いられる。ウェルプレート11は、本発明の「基板」に該当する。
【0025】
(ウェルプレート)
ウェルプレート11は、平面視矩形又は短冊状を呈する板状部材である。「平面視」とは、ウェルプレートの上面11aの鉛直方向からの視野を指す。ウェルプレート11の上面11aには、ウェルプレート11の長手方向の中央に、複数のウェル(マイクロウェル)110が設けられている。
【0026】
マイクロウェル110は、ウェルプレート11の上面11aに設けられた凹部であり、上面11aに開口している。マイクロウェル110とは、上記凹部と、上面11aと平行であって上面11aに接する仮想平面とに囲まれた空間を指す。
【0027】
マイクロウェル110は、内部空間Sに収容した試料を内部に収容し、試料に含まれる標的物質と、検出試薬L1との反応場として機能する。
【0028】
ウェルプレート11の材料は、疎水性であることが好ましい。詳しくは、ウェルプレート11の上面11aを構成する材料は、封止液L2との接触角が5°以上80°以下であることが好ましい。このような材料でウェルプレート11を形成すると、上面11aと封止液L2との接触角が5°以上80°以下となる。上面11aの接触角が上記の範囲であると、後述する方法で内部空間Sに封止液を導入した場合に、マイクロウェル110に試料を隔離しやすい傾向にある。
【0029】
なお、上記接触角は、JIS R3257-1999に規定された静滴法に準じて、水の代わりに封止液L2を用いて測定して求める。
【0030】
ウェルプレート11の材料は、電磁波透過性を有するものであってもよく、有しないものであってもよい。ここで、透過性判断の対象である電磁波としては、X線、紫外線、可視光線、赤外線等が挙げられる。ウェルプレート11が電磁波透過性を有する場合、ウェルプレート11を有するデバイス本体10で行った実験結果を解析するために、電磁波を利用することが可能になる。例えば、電磁波を照射した結果生じる蛍光、燐光等をウェルプレート11側から計測することができる。なお、「電磁波透過性」とは、電波・光・X線・ガンマ線など、種々の波長の電磁波を透過可能である性質を意味する。
【0031】
詳しくは後述するが、例えば、マイクロウェル110において、可視光領域である400~700nmの波長範囲にピークを有する蛍光を生じさせ試料検出を行う場合には、少なくとも可視光領域の光に対して良好な透過性を有する材料を用いればよい。
【0032】
電磁波透過性を有する材料としては、例えば、ガラス、樹脂等が挙げられる。樹脂としては、例えば、ABS樹脂、ポリカーボネート、COC(シクロオレフィンコポリマー)、COP(シクロオレフィンポリマー)、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ酢酸ビニル、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)等が挙げられる。これらの樹脂は各種添加剤を含んでいてもよく、複数の樹脂が混合されたポリマーアロイであってもよい。
【0033】
電磁波透過性を有する材料は、自家蛍光を実質的に有しないことが好ましい。自家蛍光を実質的に有しないとは、材料が、試料検出に使用する波長の自家蛍光を全く有しないか、有していても試料検出に影響を与えないほど微弱であることを意味する。例えば、検出対象の蛍光に比べて1/2以下、1/10以下程度の自家蛍光であれば、試料検出に影響を与えないほど微弱であるといえる。このような材料を用いてウェルプレート11を形成すると、電磁波を利用した試料検出において、検出の感度を高めることができる。
【0034】
電磁波透過性を有し、かつ自家蛍光を発しない材料としては、例えば、石英ガラスが挙げられる。自家蛍光が微弱であり、電磁波を用いた試料検出に支障がない素材としては、低蛍光ガラス、アクリル樹脂、COC(シクロオレフィンコポリマー)、COP(シクロオレフィンポリマー)、CPP(Cast Polypropylene、無延伸ポリプロピレン)等が挙げられる。
【0035】
ウェルプレート11の厚みは、適宜決定することが出来る。ウェルプレート11側から蛍光顕微鏡を用いて蛍光を観察する場合には、ウェルプレート11の厚みは、例えば5mm以下であってもよく、2mm以下であってもよく、1.6mm以下であってもよい。
【0036】
ウェルプレート11は、上記材料のみを用いた単層の構成であってもよく、複数の材料の積層体であってもよい。積層体を加工してウェルプレート11を形成する場合、マイクロウェル110を有する層と、当該層を支持する層とは別の材料であってもよい。この場合、マイクロウェル110を有する層の材料は、水に濡れやすい親水性(水との接触角が70°以上180°以下)であることが好ましい。
【0037】
(マイクロウェル)
マイクロウェル110の形状は、種々の形状を採用することができる。マイクロウェル110の形状として、例えば円筒形、楕円筒形、多角筒形等の筒形、円錐形、角錐形等の錘形、円錐台、角錐台等の錘台形を例示できる。マイクロウェル110が錐形又は錘台形の場合、開口径がウェルの深さ方向に漸減する形状であるとよい。
【0038】
マイクロウェル110の底部は、平坦であってもよく、曲面(凸面や凹面)であってもよい。
【0039】
マイクロウェル110の平面視形状が円形の場合、マイクロウェル110の開口部の直径(開口径)は、例えば10nm~100μmであれば好ましく、100nm~50μmがより好ましく、1μm~20μmがさらに好ましい。また、マイクロウェル110の深さは、例えば10nm~100μmであれば好ましく、100nm~50μmがより好ましく、1μm~20μmがさらに好ましい。
【0040】
マイクロウェル110の容量は、例えば1fL以上6nL以下であれば好ましく、1fL以上5pL以下がより好ましく、1fL以上2pL以下がさらに好ましく、1fL以上300fL以下が特に好ましい。1つあたりのマイクロウェル110の容量がこのような範囲であると、デジタルPCRやインベーダー反応等の微小空間内で行う酵素反応を好適に行うことができる。デジタルPCRにより、例えば遺伝子の変異検出等を行うことができる。
【0041】
マイクロウェル110の容積は、走査型電子顕微鏡や位相差顕微鏡を用いてマイクロウェル110の寸法を測定することにより算出することができる。
【0042】
ウェルプレート11は、同形同大の複数のマイクロウェル110を有している。同形同大とは、デジタル計測を行うために要求される程度に同一の形状で同一の容量であればよく、製造上の誤差程度のばらつきであれば許容される。
【0043】
マイクロウェル110の密度は、例えば10万~1000万個/cmであり、好ましくは10万~500万個/cmであり、更に好ましくは10万~100万個/cmである。マイクロウェル110の密度がこのような範囲であると、所定数のマイクロウェル110に試料を封入させる操作が容易である。また、実験結果を解析するためのウェルの観察も容易である。
【0044】
(蓋本体)
蓋本体12は、平面視でウェルプレート11と同じ輪郭形状(短冊状)を呈している。蓋本体12は、ウェルプレート11の上面11aに対し隙間を開けて対向して配置されている。
【0045】
蓋本体12には、厚さ方向に貫通する2つの貫通孔を有する。2つの貫通孔は、蓋本体12の長手方向の一端側と他端側とにそれぞれ設けられている。一方の貫通孔は、デバイス本体10の内部空間Sに液状物を注入する際に用いる注入口121であり、他方の貫通孔は、内部空間Sから液状物を排出させる際に用いる排出口122である。
【0046】
ここで、「液状物」には、液状の試料の他、検出試薬や封止液も該当する。
【0047】
注入口121、内部空間S及び排出口122はこの順に連通し、全体として流路FCを形成している。デバイス本体10では、流路FCに液状物を適宜流動させて、標的物質の検出反応を行う。平面視において、注入口121と排出口122との間に、複数のマイクロウェル110が配置されている。
【0048】
蓋本体12の上面12aには、注入口121の周囲を囲む筒状の注入ポート(注入管)125が設けられている。注入ポート125は、注入口121の上方に延び、注入口121と連通している。注入ポート125は、例えば、液状物を充填したシリンジを用いて内部空間に液状物を充填する際、シリンジの接続に用いる。
【0049】
同様に、蓋本体12の上面12aには、排出口122の周囲を囲む筒状の排出ポート(排出管)126が設けられている。排出ポート126は、排出口122の上方に延び、排出口122と連通している。排出ポート126は、例えば、内部空間Sから液状物を抜き出す際に、液状物が流動するチューブの接続に用いる。
【0050】
蓋本体12の材料は、上述したウェルプレート11の材料として例示した材料を採用することができる。蓋本体12の材料は、ウェルプレート11の材料と同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0051】
また、蓋本体12の材料は、電磁波透過性を有していてもよく、電磁波透過性を有していなくてもよい。
【0052】
マイクロウェル110を明視野で観察する場合、ウェルプレート11と蓋本体12との少なくとも一方は光透過性を有する。
【0053】
蓋本体12の材料は、疎水であることが好ましい。詳しくは、蓋本体12の内部空間Sに面する面(下面12b)を構成する材料は、封止液L2との接触角が5°以上80°以下であることが好ましい。このような材料で蓋本体12を形成すると、下面12bと封止液L2との接触角が5°以上80°以下となる。下面12bの接触角が上記の範囲であると、後述する方法で内部空間Sに封止液を導入した場合に、マイクロウェル110に試料を隔離しやすい傾向にある。
【0054】
(壁部材)
壁部材13は、平面視で閉環状に形成され、ウェルプレート11の上面11aの外縁に沿って配置されている。図1では、壁部材13の内部空間Sに面する壁面は、平面視で略矩形であり、注入口121側において幅が漸減している。
【0055】
壁部材13は、ウェルプレート11と蓋本体12とに挟持され、一体となることでデバイス本体10を形成する。ウェルプレート11と蓋本体12と壁部材13とで囲まれた空間は、液状の試料が収容される内部空間Sである。内部空間Sは、短冊状のウェルプレート11に沿って、ウェルプレート11の長手方向に伸びている。
【0056】
壁部材13は、内部空間Sの壁面として機能する上、ウェルプレート11と蓋本体12との間のスペーサとして機能する。壁部材13の高さ、すなわち内部空間Sの高さは、例えば100μm以下であってもよい。
【0057】
壁部材13の材料は、特に制限されないが、例えば芯材フィルムの両面にアクリル系粘着剤が積層された両面粘着テープを好適に用いることができる。芯材フィルムの材料は、シリコーンゴム、アクリル発泡体を例示することができる。このような材料を用いて壁部材13を形成することで、内部空間Sを液密に形成することができる。
【0058】
また、壁部材13の材料は、上述したウェルプレート11と同じ材料を採用することができる。このような材料で形成された壁部材13は、接着剤による接着、又は熱溶着、超音波溶着、レーザー溶着等による溶着により、ウェルプレート11及び蓋本体12と一体化することができる。
【0059】
なお、壁部材13は、ウェルプレート11と一体的に形成され、ウェルプレート11の一部を構成していてもよい。同様に、壁部材13は蓋本体12と一体的に形成され、蓋本体12の一部を構成していてもよい。
【0060】
上述のウェルプレート11は、公知の射出成形、マイクロインプリンティング技術やナノインプリンティング技術を用いて製造することができる。また、ウェルプレート11は、公知のフォトリソグラフィ技術を用い、エッチングでマイクロウェル110を形成することで製造することもできる。
【0061】
上述の蓋本体12は、公知の射出成形、光造形、切削加工にて、また適宜これらの方法を組み合わせて製造することができる。
【0062】
壁部材13が蓋本体12と一体的に形成されている場合、壁部材13は、公知の射出成形にて蓋本体12と同時に製造することができる。壁部材13が蓋本体12と別体である場合、壁部材13は、上述した芯材フィルムの両面にアクリル系粘着剤が積層された両面粘着テープを切り抜くことで製造することができる。
【0063】
[アダプタ]
アダプタ(壁本体)15は、蓋本体12に対し上方から嵌合し、蓋本体12とともに蓋部材12Aを構成する。アダプタ15は、平面視環状の部材であり、蓋本体12に嵌合することで蓋本体12の上面12aの周縁部に沿って設けられた壁部を構成する。すなわち、蓋部材12Aは、上面12aの周縁部に沿って設けられた壁部を有する。
【0064】
流体デバイス1において、デバイス本体10の底面(ウェルプレート11の下面11b)は、外部に露出している。また、流体デバイス1では、アダプタ15が蓋本体12(デバイス本体10)に嵌合した状態で、アダプタ15の下端15yがデバイス本体10の下端よりも上方に位置する。そのため、例えば後述する検出方法において、流体デバイス1をヒータ上で加熱する際、デバイス本体10の底面がヒータ面に直接接することとなり、加熱が容易となる。
【0065】
蓋部材12Aは、蓋本体12とアダプタ15とで囲まれた空間S2を有する。後述する様に、空間S2は、標的物質の検出操作において廃液を貯留する貯留部として機能する。蓋部材12Aにおいて、蓋部材12Aの壁部の上端、すなわちアダプタ15の上端15xは、注入ポート125及び排出ポート126の上端よりも高い。
【0066】
アダプタ15の内周には、蓋本体12の側面を覆う第1面15aと、第1面15aよりも径が小さい第2面15bと、第1面15aと第2面15bとを接続する第3面15cとが設けられている。アダプタ15を蓋本体12に嵌合させた際、第3面15cと蓋本体12の上面12aとの間にはパッキン155が配置されている。これにより、デバイス本体10とアダプタ15との界面からの液漏れを抑制できる。
【0067】
また、アダプタ15の内周には、平面視で注入ポート125と重なるガイド部151が設けられている。ガイド部151は、平面視で注入口121と重なるガイド孔151hを有する。
【0068】
アダプタ15の材料は、上述したウェルプレート11の材料として例示した材料を採用することができる。アダプタ15の材料は、蓋本体12の材料と同じであってもよく、異なっていてもよい。アダプタ15の材料が、ウェルプレート11及び蓋本体12の材料と同じであると、後述する検出反応において流体デバイス1を加熱した際、温度変化により生じる体積変化に伴って部材間の歪みが生じにくく好ましい。
【0069】
アダプタ15の第1面15aに、例えばシリコーンゴム、合成ゴム等を材料とする滑り止め層が形成されていると、アダプタ15をデバイス本体10に嵌合させた際にアダプタ15の滑り止めとして機能し、アダプタ15が抜けにくくなるため好ましい。
【0070】
また、アダプタ15の材料は、電磁波透過性を有していてもよく、電磁波透過性を有していなくてもよい。
【0071】
アダプタ15は、公知の射出成形、光造形、切削加工にて、また適宜これらの方法を組み合わせて製造することができる。製造の際、変形や歪みを抑制するため、適宜肉厚を調整してもよい。
【0072】
[蓋]
蓋20は、蓋部材12Aの壁部(アダプタ15)に嵌合し、壁部の上端側を気密に閉じる。蓋20は、本体201と、本体201の周縁部に設けられたフランジ22とを有する。
【0073】
蓋20は、本体201がアダプタ15の第2面15bに嵌合し、フランジ202の下面202aがアダプタ15の上端15xと接することで、蓋部材12Aの壁部の上端側を閉じる構成となっている。
【0074】
[検出試薬]
検出試薬L1は、標的物質と反応して、標的物質の検出に用いられる。検出試薬L1としては、緩衝物質、酵素、基質、抗体、抗体断片等が挙げられる。
【0075】
酵素は、例えば標的物質が核酸である場合には、標的物質に関連する鋳型核酸に対する酵素反応等の生化学的反応を行うために、生化学的反応の内容に対応して選択される。鋳型核酸に対する生化学的反応は、例えば、鋳型核酸が存在する条件下でシグナル増幅が起こるような反応である。
【0076】
検出試薬L1は、採用する検出反応に応じて選択される。具体的な検出反応としては、ICA法、ループ介在等温増幅(LAMP)法(商標登録)、5’→3’ヌクレアーゼ法(TaqMan(登録商標)法)、蛍光プローブ法等が挙げられる。
【0077】
[封止液]
封止液L2は、油性であり、水よりも高密度である。本明細書において、液体の密度は、公知の方法により25℃で測定した値とする。
【0078】
封止液L2の密度は、1.1g/cm以上であってもよく、1.3g/cm以上であってもよく、1.5g/cm以上であってもよい。
【0079】
また、封止液L2は、水性の液体である試料と互いに混和しないか、混和しにくいものであることが好ましい。封止液L2は、内部に試料と検出試薬L1との混合水溶液を収容したマイクロウェル110の開口部を覆い、マイクロウェル110の内部に収容した混合水溶液同士が互いに混合しないように、個別に封止する機能を有する。
【0080】
封止液L2は、オイルであることが好ましい。オイルとしては、フッ素系オイル、シリコーン系オイル、炭化水素系オイル又はこれらの混合物等を使用することができる。具体的な封止液としては、FC-40、FC-43、FC-770、FC-72、FC-3283(いずれも3M社製)等のフッ素系液体が挙げられる。
【0081】
また、封止液L2は、PCR反応等に用いられるミネラルオイル等も用いることができる。
【0082】
<試料検出方法>
図3~6は、本実施形態の標的物質の検出方法の説明図である。標的物質の検出方法は、本実施形態の流体デバイス1を用いて実施され、以下の工程を含む。
(1)標的物質と反応する検出試薬L1と、試料との混合水溶液を調整する工程
(2)上述の流体デバイス1を用い、流体デバイス1(デバイス本体10)の内部(内部空間S)に混合水溶液を導入して、混合水溶液をマイクロウェル110に充填する工程
(3)デバイス本体10に、油性の封止液L2を導入し、内部空間Sの混合水溶液を排出ポート126から排出すると共に、封止液L2によって混合水溶液をマイクロウェル110に封止する工程
(4)デバイス本体10を加熱して標的物質と検出試薬L1との反応を生じさせ、標的物質を検出する工程
【0083】
以下の説明では、上述の流体デバイス1を用いて標的物質の検出方法を実施することとする。図3~5では、蓋20を省略して図示する。
【0084】
(1)混合水溶液を調整する工程
まず、液状の試料と検出試薬L1とを混合し、混合水溶液を調整する。混合水溶液における検出試薬L1の濃度は、用いる検出試薬L1の種類及び検出反応の種類に応じて適宜調整する。
【0085】
用いる検出試薬L1は、吸着防止剤を含んでもよい。吸着防止剤は、混合水溶液中に含まれる標的物質や酵素などが部材に吸着することを抑制する機能を有する。吸着防止剤には、界面活性剤、タンパク質が挙げられる。
【0086】
標的物質の検出を容易にするため、混合水溶液の調整に先立って試料を前処理してもよい。前処理としては、濃度調整(希釈、濃縮)、担持体による担持、2種以上の標的物質の結合反応、フィルタリングによる濾過滅菌、pH調整、熱処理による標的物質の変性(アニーリング)などが挙げられる。
【0087】
(2)混合水溶液をマイクロウェルに充填する工程
次いで、図3に示すように、注入口121から内部空間Sに、検出試薬L1を含む混合水溶液Lを注入する。混合水溶液Lの注入は、シリンジAを用いて行うとよい。その際、シリンジAをガイド孔151hに挿入することで、注入口121に対するシリンジAの位置合わせが容易となる。
【0088】
混合水溶液Lが内部空間S(流路FC)を流動すると、内部空間Sに開口しているマイクロウェル110にも混合水溶液Lが充填される。
【0089】
このとき、1つのマイクロウェル110の内部に1つの標的物質が充填されるように、予め混合水溶液Lの濃度を調整しておくことが好ましい。例えば、後述の試料検出方法を実施した後、混合水溶液Lが高濃度であることによって標的物質の定量が困難という結果となった場合には、当該結果を予備実験結果として用い、混合水溶液Lを希釈する。このように濃度調整された混合水溶液Lの密度は、概ね1g/cmと近似することができる。そのため、水より高密度の液体である封止液L2は、混合水溶液Lよりも高密度の液体と判断できる。
【0090】
上記操作により、1つのマイクロウェル110に1つ以下、すなわち、0個又は1個の標的物質が充填される。これにより、後述の検出反応が確認されたマイクロウェル110の数と、標的物質の数とが対応して、標的物質の検出を1個単位で行うことができ、すなわちデジタル計測が可能となる。なお、全てのマイクロウェル110に標的物質が導入される必要はない。
【0091】
標的物質をマイクロウェル110に導入する手段は、特に制限されず、検出対象である標的物質に応じた適切な手段を選択することができる。例えば、標的物質を自重によりデバイス本体10内(流路FC内)で沈降させ、マイクロウェルに分配する方法が挙げられる。
【0092】
また、標的物質を捕捉する物質(捕捉物)を利用し、自重で沈降しにくい標的物質に捕捉物を結合させて送液してもよい。さらに、予めマイクロウェルに捕捉物を固定化させておき、混合水溶液Lと共に送液された標的物質を捕捉物に捕捉させることで、標的物質のマイクロウェル110への導入効率を向上させることもできる。
【0093】
捕捉物と標的物質とを結合させる反応は、任意の時点で行うことができる。例えば、混合水溶液を調整する前に、サンプルチューブ内で標的物質と捕捉物を接触させることにより行ってもよい。
【0094】
または、捕捉物をマイクロウェル110に導入した後に、標的物質をマイクロウェル110に導入し、マイクロウェル110で捕捉物と標的物質とを接触させてもよい。
【0095】
捕捉物は、標的物質を捕捉することができる物質である。捕捉物は、例えば、固相と標的物質に対する特異的結合物質との結合体であってもよい。
【0096】
補足物を構成する固相としては、粒子、膜、基板等が挙げられる。また、標的物質に対する特異的結合物質は1種類でもよいし、2種類以上であってもよい。例えば3種類であってもよいし、4種類であってもよいし、5種類以上であってもよい。
【0097】
粒子としては、特に制限されず、ポリマー粒子、磁気粒子、ガラス粒子等が挙げられる。粒子は、非特異的な吸着を避けるための表面処理が施された粒子が好ましい。また、特異的結合物質を固定化するために、表面にカルボキシル基等の官能基を有する粒子が好ましい。より具体的には、JSR社製の商品名「Magnosphere LC300」等を用いることができる。
【0098】
また、例えば標的物質としてウイルスを用いる場合、ウイルスが付着することができる細胞(すなわち、ウイルス受容体を有する細胞)を、捕捉物として用いてもよい。
【0099】
内部空間S及び全てのマイクロウェル110が混合水溶液Lで充填された後、流路FCを通過した混合水溶液Lは排出口122から排出される。
【0100】
排出口122から排出される混合水溶液Lは、符号αで示すように、排出ポート126の上端から空間S2にあふれ出る。空間S2にあふれ出た混合水溶液Lは、廃液として空間S2に貯留される。
【0101】
(3)混合水溶液をマイクロウェル110に封止する工程
次いで、図4に示すように、注入口121から流路FCに封止液L2を注入する。封止液L2の注入も、混合水溶液Lの注入と同様にシリンジAを用いて行うとよい。
【0102】
流路FCに送液された封止液L2は、内部空間Sにおいて上面11aの面方向に流動し、流路FCに送液された混合水溶液Lのうち、マイクロウェル110に収容されていない混合水溶液Lを押し流して置換する。これにより、封止液L2は、標的物質を含む混合水溶液Lを収容した複数のマイクロウェル110をそれぞれ個別に封止し、マイクロウェル110は独立した反応空間となる。
【0103】
封止液L2を注入する際には、内部空間Sにおいて封止液L2に気泡を含まないよう、封止液L2をゆっくりと注入すると良い。封止液L2の注入後には、注入作業により封止液L2に気泡を含んでいないことを目視で確認する。
【0104】
この時、用いる封止液L2は、上述した検出キット100に付属の封止液L2、特にフッ素系オイルが好ましい。
【0105】
流路FCが封止液L2で満たされると、余分な封止液L2は排出口122から排出される。排出口122から排出される封止液L2は、排出ポート126の上端から空間S2にあふれ出る。空間S2にあふれ出た封止液L2は、廃液として空間S2に貯留される。
【0106】
このとき、図5に示すように、空間S2においては、水性である混合水溶液Lと、油性である封止液L2とは二層に分離する。また、封止液L2は混合水溶液Lよりも高密度であるため、空間S2において下層側に位置する。
【0107】
図5に示すように、本工程では、蓋本体12とアダプタ15(壁部)とで囲まれた空間S2に排出される封止液L2の液面LSが、注入ポート125及び排出ポート126の上端よりも低い位置となる液量の封止液L2を流体デバイス1に導入して内部空間Sを置換する。これにより、排出ポート126の上端126aには、内部空間Sに充填されている封止液L2とは異なる混合水溶液Lが接し、上端126aの高さ位置に、廃液の混合水溶液Lと排出ポート126内の封止液L2との界面が形成されることとなる。また、空間S2においては、廃液の混合水溶液Lと封止液L2との界面は、注入ポート125の上端、及び排出ポート126の上端よりも低い位置に形成される。
【0108】
空間S2において、廃液の混合水溶液Lと封止液L2との界面が上述のような高さ位置に形成されるためには、内部空間Sを置換するために注入する封止液L2の液量を調整することで制御可能である。目安となる液量は、内部空間Sの容積と、アダプタ15の空間S2の容積とから概算可能である。
【0109】
(4)標的物質を検出する工程
次いで、流体デバイス1を加熱して標的物質と検出試薬L1との反応を生じさせる。その際、蓋20によりアダプタ15(壁部)の上端を気密に閉じた上で、検出試薬L1を反応させるとよい。
【0110】
標的物質を検出する方法は、検出したい標的物質の特性に合わせて、公知の任意の検出方法を使用することができる。例えば、まず必要に応じて標的物質由来のシグナルを検出可能なレベルまで増幅させる反応(シグナル増幅反応)を行い、次いで増幅されたシグナルを適切な手段を用いて検出することにより、行うことができる。
【0111】
本実施形態に係る検出方法において使用することができるシグナルの例としては、蛍光、化学発光、発色、電位変化、pH変化等が挙げられる。
【0112】
シグナル増幅反応は、例えば生化学反応、より具体的には酵素反応であってもよい。一例として、シグナル増幅反応は、シグナル増幅のための酵素を含んだ試薬液がウェル内に収容された状態で、流体デバイスを、所望の酵素活性が得られる一定温度条件下、例えば60℃以上、好ましくは約66℃で、所定時間、例えば少なくとも10分間、好ましくは約15分間、維持する等温反応である。
【0113】
シグナル増幅反応の例としては、具体的には、核酸を検出する反応を使用する場合は、インベーダー(登録商標)法等のICA反応や、LAMP(登録商標)法、TaqMan(登録商標)法、蛍光プローブ法等が挙げられる。
【0114】
シグナル増幅反応としては、ICA反応を用いることが特に好ましい。ICA反応は、(1)核酸同士の相補的結合と、(2)酵素による三重鎖構造の認識および切断との2つの反応のサイクルによってシグナル増幅が進行する。このようなシグナル増幅反応においては、標的物質以外の夾雑物による反応サイクル阻害の影響が小さい。したがって、マイクロウェル110内に標的物質以外の様々な成分(夾雑物)が存在する場合でも、ICA反応を用いることにより、標的物質を精度よく検出することができる。
【0115】
例えば、シグナル増幅反応にICA反応を用いる場合、混合水溶液Lは、ICA反応に必要な反応試薬及び鋳型核酸を含む。反応工程における生化学反応がICA反応である場合、等温反応による酵素反応によって、ウェルに標的物質が存在する場合には、蛍光物質が消光物質から遊離することによって、励起光に対応して所定の蛍光シグナルを発する。
【0116】
シグナル増幅反応にICA反応を用いる場合、標的物質と検出試薬との反応温度は50℃以上99℃以下であると好ましい。
【0117】
以下、ICA反応について、より詳細に説明する。
図6は、ICA法の一例を説明する模式図である。図6では、ICA法により標的物質であるDNAを検出する様子を示す。
【0118】
ICA反応に必要な反応試薬としては、フラッププローブ810、フラップエンドヌクレアーゼFEN、蛍光基質820、侵入プローブ(インベーダーオリゴ)830等のICA反応試薬が挙げられる。
【0119】
フラッププローブ810と侵入プローブ830とは、標的物質であるDNA(標的DNA)にハイブリダイズして二本鎖核酸140とフラップ構造を形成するように設計された核酸断片(オリゴヌクレオチド)である。
【0120】
蛍光基質820は、ヘアピン構造を有し、蛍光物質Fと消光物質Qとが結合した核酸断片である。図6に示す蛍光基質820においては、核酸断片の5’末端に蛍光物質Fが結合され、5’末端から数塩基3’側に消光物質Qが結合されている。消光物質Qは、蛍光物質Fの発光を抑制している。
【0121】
まず、標的DNAにフラッププローブ810と侵入プローブ830とをハイブリダイズさせる。フラッププローブ810と侵入プローブ830とは、それぞれ標的DNAのSNP部位で1塩基オーバーラップし、不安定な3塩基様構造を形成する。その結果、第1フラップ部位811が形成される。第1フラップ部位811は、フラッププローブ810のうち、標的DNAとハイブリダイズしなかった部分である。
【0122】
続いて、FENは、上記3塩基様構造を認識して反応する。これにより、第1フラップ部位811が切断されて核酸断片811が生成し、混合水溶液L中に遊離する。
【0123】
生じた核酸断片811は、蛍光基質820にハイブリダイズする。核酸断片811は、蛍光基質820のヘアピン構造に侵入し、SNP部位で1塩基オーバーラップして、不安定な3塩基様構造を形成する。その結果、第2フラップ部位821が形成される。第2フラップ部位821は、蛍光基質820のうち、核酸断片811の侵入によりハイブリダイズしなくなった部分である。
【0124】
続いて、FENは、上記3塩基様構造を認識して反応する。これにより、第2フラップ部位821が切断され、核酸断片821が生成される。図6においては、蛍光基質820から核酸断片821が切断された残部を、符号820’で示している。
【0125】
その結果、蛍光物質Fが消光物質Qから離れ、蛍光FLを発生する。この蛍光FLを検出することにより、標的DNAを検出することができる。
【0126】
また、標的物質の検出は、標的物質に特異的に結合する物質(特異的結合物質)を標的物質に結合させ、結合した特異的結合物質を検出することによっても、行うことができる。例えば、標的物質がタンパク質である場合、ELISAを用いて検出することができる。より具体的には、検出は、例えばFRETの原理を用いたサンドイッチELISAにより、行ってもよい。
【0127】
FRETの原理を用いたサンドイッチ法を行う場合は、まず、第1の蛍光物質(ドナー)で標識した第1の特異的結合物質(例えば抗体)と、第1の蛍光物質の蛍光波長と重複する吸光波長を有する第2の蛍光物質(アクセプター)で標識した第2の特異的結合物質を準備する。
【0128】
続いて、標的物質(例えば抗原)を、第1の特異的結合物質と第2の特異的結合物質の両方と接触させ、複合体を形成させる。複合体が形成されると、ドナーとアクセプターの距離が近づき、ドナーの励起波長の照射によりアクセプターの蛍光波長を検出することができるようになる。あるいは、特異的結合物質を核酸断片で標識しておき、核酸断片をICA反応により検出してもよい。
【0129】
特異的結合物質としては、後述する構造体に対する特異的結合分子と同様のもの、例えば抗体、抗体断片、アプタマー等を使用することができる。標的物質に結合した特異的結合物質を検出するために、特異的結合物質を、例えばホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)等の酵素により、直接的又は間接的に標識してもよい。2以上の特異的結合物質を使用する場合は、各々の特異的結合分子を、互いに識別可能に標識することができる。
【0130】
シグナルの観察方法は、観察するシグナルの種類に応じて公知の適切な方法を選択することができる。例えば、明視野観察を行う場合は、ウェルアレイが設けられた基材に対して垂直方向に白色光を照射する。蛍光シグナルを観察する場合は、蛍光物質に対応する励起光をウェルの底側からウェル内へ照射し、蛍光物質が発する蛍光を観察する。観察されたウェルアレイの全体又は一部の画像を撮影して保存し、コンピューターシステムによる画像処理を行う。
【0131】
上記のような検出反応において流体デバイス1を加熱すると、内部空間Sに充填されている液体(混合水溶液L、封止液L2)や空間S2に貯留されている廃液が対流し移動する。このとき、対流により廃液が内部空間Sに移動すると、マイクロウェル110の内部に格納された標的物質や反応試薬も移動し、正確な評価を阻害するおそれがある。また、廃液が内部空間Sに移動すると、測定時のバックグラウンド輝度の上昇や、汚染による予期せぬ試薬反応を引き起こし、測定精度の低下に繋がる。
【0132】
これに対し、図5に示すように、排出ポート126の上端126aには、内部空間Sに充填されている封止液L2とは異なる混合水溶液Lが接している。混合水溶液Lと封止液L2とは、比重及び液性が異なり、相互に混ざりにくい。そのため、流体デバイス1を加温し流体デバイス1が保持する液体が対流したとしても、空間S2の廃液が内部空間Sに向かって流れ込むほどの大きな流れが生じにくく、内部空間Sが廃液で汚染されにくい。
【0133】
また、流体デバイス1は、アダプタ15を有することにより排出ポート126の上端よりも高い位置に壁部の上端があり、アダプタ15がない場合と比べ空間S2が拡大している。そのため、流体デバイス1では、多くの廃液を溢れさせること無く貯留することができ、作業の効率化が図れる。
【0134】
さらに、蓋20でアダプタ15の上端を閉じることにより、アダプタ15の空間S2においては、気相の空間容積が一定量となる。この場合、空間S2が減圧となるため、空間S2から流体デバイス1の内部空間S1への廃液の流入は生じにくい。また、一方のポート(例えば注入ポート125)から内部空間S1に廃液が流入すると共に、他方のポート(例えば排出ポート126)から空間S2へ封止液L2等が排出されるというような循環、対流が生じる理由もない。そのため、アダプタ15の上端を蓋20で気密に閉じることで、空間S2から内部空間S1への廃液の流入を抑制することができる。
【0135】
以上のような構成の流体デバイス1及び検出キット100によれば、検出精度の向上が可能となる。ノイズの発生を抑制し高い検出精度を実現可能な標的物質の検出方法を提供することができる。
【0136】
また、以上のような構成の試料検出方法によれば、ノイズの発生を抑制し、生体分子計測を高精度で実施可能となる。
【0137】
なお、本実施形態においては、アダプタ15が蓋本体12(デバイス本体10)に嵌合した状態で、アダプタ15の下端15yがデバイス本体10の下端よりも上方に位置することとしているが、これに限らない。アダプタ15が蓋本体12に嵌合した状態で、下端15yがデバイス本体10の下端と同じ高さ位置であってもよい。アダプタ15を装着することでアダプタ15を装着しない場合よりも重心位置が高くなるが、下端15yがデバイス本体10の下端と同じ高さとであることで、アダプタ15によっても流体デバイス1全体を支持することができる。これにより、流体デバイス1の転倒を抑制することができる。
【0138】
また、本実施形態においては、アダプタ15が蓋本体12の上方から嵌合することとしているが、これに限らない。例えば、アダプタ15の壁部にデバイス本体10を挿入可能とする開口部を設け、当該開口部を介し、アダプタ15に対してデバイス本体10を側面から差し込む構成でもよい。
【0139】
また、本実施形態においては、流体デバイス1がデバイス本体10とアダプタ15とに分離することとして説明したが、これに限らない。デバイス本体10の蓋本体12とアダプタ15とが一体に形成され、蓋部材を構成していても、本発明の効果を奏することができる。
【0140】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施の形態例について説明したが、本発明は係る例に限定されない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計、仕様等に基づき種々変更可能である。
【実施例0141】
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0142】
[流体デバイスの製造]
環状ポリオレフィン(品番「ZEONOR1020R」、日本ゼオン社製)を用い、射出成形にて、図1,2に示す流体デバイスを作製した。
【0143】
ウェルプレートの一方面に複数のマイクロウェルを形成した。ウェルプレートの厚さは0.6mmであった。マイクロウェルの開口形状は円形とした。マイクロウェルのサイズは、直径10μm、深さ15μmであった。基板上の6.0mm×30.0mmの領域に、マイクロウェルの中心と、当該マイクロウェルに最も近接するマイクロウェルの中心との間の距離が12μmとなるように、三角格子状に複数のマイクロウェルを配置し、ウェルアレイを形成した。
【0144】
蓋本体は壁部材と一体に形成した。壁部材の高さを30μmに調整することにより、流路(内部空間S)の高さを30μmとした。
【0145】
続いて、ウェルプレートと蓋本体(壁部材)とを、レーザー溶着により接合して、デバイス本体を作製した。
【0146】
[バッファーの調整]
流体デバイスに送液する水性媒体(バッファー)を表1の組成で調整した。以下、単位Mはmol/Lを表す。
【0147】
【表1】
【0148】
その他、実施例においては、下記の試薬を用いた。
封止液:フッ素オイル(Fluorinert FC-40、SIGMA-ALDRICH社製)
蛍光試薬:フルオロセイン-5(6)-イソチオシアナート(SIGMA-ALDRICH社製)
【0149】
<実施例1>
[実験例1-1]
流体デバイスの流路に、表1に示す組成のバッファーを注入した。注入後、蛍光顕微鏡(オールインワン蛍光顕微鏡、型番BZ-X810、キーエンス社製)を用い、Alexa Fluor 488用のフィルタを介して流体デバイスの蛍光観察を行った。観察結果を、バックグラウンド測定の結果とした。
【0150】
次いで、アダプタの空間S2に、廃液のモデルとして蛍光色素を溶解したバッファー(色素濃度500mM)を、注入ポート及び排出ポートが液面下になるまで充填した。その後、アダプタに蓋をすることなく66℃に加温したヒータ(アルミブロック恒温槽、型式DTU-Mini、TAITEC社製)上に流体デバイスを配置し、25分間静置した。
【0151】
空間S2の廃液(バッファー)を除去し、上記条件で蛍光観察を行った。これにより、空間S2に配置した蛍光色素入りのバッファーが内部空間Sへ逆流したか否かを確認した。
【0152】
[実験例1-2]
流体デバイスの流路に、バッファーの代わりに封止液を注入したこと以外は実験例1-1と同様にして、実験例1-2を行った。
【0153】
[評価結果]
評価の結果、実験例1-1では蛍光色素入りバッファーの逆流が確認された。一方、実験例1-2では蛍光は観察されず、蛍光色素入りバッファーの逆流は確認できなかった。
【0154】
<実施例2>
[実験例2-1]
流体デバイスの流路に、封止液を注入した。注入後、バックグラウンド測定を行った。
【0155】
次いで、アダプタの空間S2に、下記の混合液1を充填した。混合液1は、空間S2において、上層がバッファー、下層が封止液の2層に分離した。注入ポート及び排出ポートの上端は下層の液面下であり、空間S2の封止液とデバイス本体内の封止液とが連続した。
(混合液1)
蛍光色素入りバッファー(色素濃度500mM):0.2mL
封止液:1.3mL
【0156】
66℃に加温したヒータ上に流体デバイスを配置し、25分間静置した後、空間S2の廃液バッファーを除去し、上記条件で蛍光観察を行った。
【0157】
[実験例2-2]
流体デバイスの流路に、封止液を注入した。注入後、バックグラウンド測定を行った。
【0158】
次いで、アダプタの空間S2に、下記の混合液2を充填した。混合液は、空間S2において、上層がバッファーとエタノール、下層が封止液の2層に分離した。注入ポート及び排出ポートの上端は下層の液面よりも上に位置し、空間S2の封止液とデバイス本体内の封止液とが連続しなかった。
(混合液2)
蛍光色素入りバッファー(色素濃度500mM):0.6mL
封止液:0.6mL
70%エタノール:0.3mL
【0159】
66℃に加温したヒータ上に流体デバイスを配置し、25分間静置した後、空間S2の廃液バッファーを除去し、上記条件で蛍光観察を行った。
【0160】
[実験例2-3]
流体デバイスの流路に、封止液を注入した。注入後、バックグラウンド測定を行った。
【0161】
次いで、アダプタの空間S2に、下記の混合液3を充填した。混合液3は、空間S2において、上層がバッファー、下層が封止液の2層に分離した。注入ポート及び排出ポートの上端は下層の液面よりも上に位置し、空間S2の封止液とデバイス本体内の封止液とが連続しなかった。
(混合液3)
蛍光色素入りバッファー(色素濃度500mM):0.5mL
封止液:0.6mL
【0162】
66℃に加温したヒータ上に流体デバイスを配置し、25分間静置した後、空間S2の廃液バッファーを除去し、上記条件で蛍光観察を行った。
【0163】
[評価結果]
評価の結果、実験例2-1では蛍光色素入りバッファーの逆流が確認された。一方、実験例2-2、2-3では蛍光は観察されず、蛍光色素入りバッファーの逆流は確認できなかった。
【0164】
以上の結果より、本発明が有用であることが確認できた。
【符号の説明】
【0165】
1…流体デバイス、12…蓋本体、12A…蓋部材、13…壁部材、15…アダプタ(壁本体)、20…蓋、100…検出キット、121…注入口、122…排出口、125…注入ポート(注入管)、126…排出ポート(排出管)、126…排出管、151…ガイド部、151h…ガイド孔、A…シリンジ、FC…流路、L…混合水溶液、L1…検出試薬、L2…封止液、LS…液面、S2…空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6