(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024102008
(43)【公開日】2024-07-30
(54)【発明の名称】プリコート工法
(51)【国際特許分類】
H05K 3/34 20060101AFI20240723BHJP
B23K 1/08 20060101ALI20240723BHJP
B23K 1/00 20060101ALI20240723BHJP
B23K 1/20 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
H05K3/34 505Z
B23K1/08 320
B23K1/00 J
B23K1/08 B
B23K1/20 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024004057
(22)【出願日】2024-01-15
(31)【優先権主張番号】P 2023005737
(32)【優先日】2023-01-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】302006957
【氏名又は名称】倉本 武夫
(72)【発明者】
【氏名】倉本 武夫
【テーマコード(参考)】
4E080
5E319
【Fターム(参考)】
4E080AA01
4E080AB03
5E319AC01
5E319BB01
5E319BB05
5E319CC24
5E319CC33
5E319CD21
5E319CD26
5E319GG01
5E319GG20
(57)【要約】
【課題】微細化する部品を実装するために大型化した基板側電極に実装用ソルダペーストをマスクを通した従来のスクリーン印刷供給方式行うと電極位置と対応するマスクの位置が狂うため正確な該ペースト供給が不可能となっている。
【解決手段】表面実装用基板に配置されソルダレジストにより囲まれた電極部にソルダペースト又ははんだ粉末を供給する供給工程と該供給工程後の該基板をはんだが接する電極金属とはんだ金属の金属拡散反応を進め次の工程で脱落しないまで加熱する加熱工程と該加熱工程後に前記ソルダペースト又ははんだ粉末の箇所に噴流はんだを接触させる接触工程とを含む工程により該電極部に確実にはんだが濡れるプリコート工法を確立した。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面実装用基板に配置されソルダレジストにより囲まれた電極部に、ソルダペースト又ははんだ粉末を供給する供給工程と、該供給工程後の該基板をはんだが接する電極金属とはんだ金属との金属拡散反応を進め、次の工程で脱落しないまで加熱する加熱工程と、該加熱工程後に噴流はんだを前記ソルダペースト又ははんだ粉末の箇所に接触させる接触工程と、を含むプリコート工法。
【請求項2】
前記ソルダペーストは、はんだ粉末を20重量%以上含むことを特徴とする請求項1記載のプリコート工法。
【請求項3】
前記加熱工程は前記供給工程において供給されたはんだ組成の融点とその融点からマイナス20℃の間の温度範囲で行われることを特徴とする請求項1記載のプリコート工法。
【請求項4】
前記供給工程後に、前記電極部に供給されたソルダペーストに対してフラックスを塗布する塗布工程を行うことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のプリコート工法。
【請求項5】
基板が超音波振動の付与された溶融はんだ中に浸漬又は溶融面と接触後に
噴流はんだと接触することを経て該基板の電極上にはんだを被覆するプリコ
ート工法。
【請求項6】
振動数が20KHzから60KHzの超音波が付与された溶融はんだを使用す
る請求項5記載のプリコート工法。
【請求項7】
超音波振動が付与されるはんだの融点が100℃以上250℃以下のはんだを使
用する請求項1及び請求項2のプリコート工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細な電極がデザインされた表面実装用基板(以下基板と称する)の該電極部にはんだ被覆(以下プリコートと称する)を行う工法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な部品実装では基板と部品との接続ははんだ接合により行われており、実装までの通常の工程は基板の電極部に対してソルダペースト(以下ペーストと称する)をメタルマスクの開口部を通してスクリーン印刷方式で供給し該ペースト部に該部品を搭載後リフローして実装する。
【0003】
部品サイズの小型化はパソコン及びスマートホンなどの情報機器、ウエアラブル端末はじめ各種機器及びLED搭載のディスプレー分野などにおいて益々高まっている。部品の小型化に伴い該部品と該基板を接続する電極(接点)も当然微小化する。小型部品の一例として0402部品(0.4mm×0.2mm)を該基板に搭載する場合について述べると0402部品の電極は約0.2mm□となり電極間も約0.1mm以下と狭い。更にはこのような部品を狭い間隔で複数個配置されることも普通に行われる。複数の部品搭載をデザインした該基板は製作時では生産性を高めるために該基板を多数配置(一般には多面付けと称される)して可能な限り大きなサイズの基板として製作されている。
【0004】
このように複数の小型部品搭載をデザインした該大型化基板に対して該ペーストのスクリーン印刷を行うと該マスク開口部と対応する該基板の該電極部の位置が合わず該ペーストが該電極部に正しく供給できない大きな問題に直面する。複数の原因があるものの該基板と該メタルマスクの熱膨脹率の違いが主な原因であるので解決には該基板を大幅に小さくする以外に有効な対策がない。
【0005】
基板の製作面積の縮小は生産性の低下を招くのでコストが上がる。更には該マスクも実際には生産の都合上で複数枚必要なことが多く高価となる。以上の状況から別工法によるはんだ供給は産業界から求められている。
【0006】
上記課題を解決する技術として基板側にはんだを予め供給するプリコート技術が知られている。プリコート技術には様々な工法が提案されているが公知技術の中で安価な代表的な例はホットエアーレベラー法(非特許文献1)が知られている。この工法は溶融はんだ槽中にフラックスを塗布した基板が浸漬され引き上げ時にホットエアーを吹き付けて過剰はんだを除去し処理される。得られるはんだ量(厚さ)はバラツキが比較的大きいことと部品実装用には量が不足しているので基板防錆用及び部品実装時に印刷されるペーストとのはんだ濡れ確保のために使用されている。
【0007】
その他のプリコート法としては特許文献1の工法がある。この工法でははんだ量の精度は高く実装に必要なはんだ量も得られるが工程数が多くなり生産性を高めるためのライン化には装置的な課題もあり安価実現には厳しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】MEIKO Labo 超初心者向けプリント基板の基礎知識:表面処理
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前述のように微細電極がデザインされている大型化した基板に対して従来のペーストをスクリーン印刷によるはんだ供給法で行うと位置ずれが発生し該微細電極部に実装に必要なはんだが供給できない。
【0011】
公知のプリコート技術の中では実装へのはんだ量を満足させる工法もあるが工程が多岐にわたり自動化も簡単ではない。従って安価であり生産性も高い工法を求めるエレクトロニクス分野の要求に対しては受け入られにくい課題を有している。
【0012】
本発明者は高価なマスクを用いずにプリコートが安価でしかも簡便な工法開発に取り組んできた。溶融はんだが噴流する装置(以下ディップ装置と称する)をプリコート手段として使用する検討を行った。該ディップ装置は挿入部品の実装ラインとして一般的に利用されているがプリコート手段として検討された事例はない。
【0013】
該装置を従来の挿入部品の実装と同じように該基板に対してフラックスを塗布し該装置を通過させると該電極部の全電極数の高々数%程度にプリコートされるに過ぎない。更に微細になれば全くプリコートが出来ないことも起る。
【0014】
この原因は微細電極を有する基板の断面模式図(
図2)に示すように該基板の該電極部周囲がソルダレジスト(以下SRと称する)で囲まれ該電極部表面は該SR表面より低い位置関係にあるので該電極部と噴流はんだとの接触が不充分となり所謂はんだ濡れ不良が発生する。(以下この現象を未着と称する)
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記未着を解決するための数々の試みを行った中でディップ装置に入る前の基板側に前処理としてペースト又ははんだ粉末を該電極部に供給した後、(以降供給工程と称する)該はんだ融点からマイナス20℃の間の温度で該基板を加熱してから(以降加熱工程と称する)噴流はんだと接触することによって(以降接触工程と称する)目的であるプリコートを得た。
この工法を工法1と称する。
【0016】
上記未着を解消するための他の方法として該基板が超音波振動の付与された溶融はんだ(以降単に超音波はんだと称す)と該基板との接触若しくは該溶融はんだ中への浸漬によって溶融はんだを該電極部に濡らした後ディップ装置を通過することによって目的の性能を達成するプリコートを得た。
この工法を工法2と称する。
【0017】
工法1では表面実装用基板に配置されソルダレジストにより囲まれた電極部に前処理としてソルダペースト又ははんだ粉末を供給する供給工程と該供給工程後の該基板をはんだが接する電極金属とはんだ金属との金属拡散反応を進め次の工程で脱落しないまで加熱する加熱工程と該加熱工程後に噴流はんだを前記ソルダペースト又ははんだ粉末の箇所に接触させる接触工程とを含む工程によって未着及びブリッジのない良好なプリコートが得られる。
【0018】
工法2では工法1で必須の基板へのペースト又は粉末の供給工程を行わずに該基板が超音波はんだと接触若しくは該溶融はんだ中に浸漬する工程を経てから噴流はんだと接触させることによって未着及びブリッジのない良好なプリコートが得られる。
【0019】
工法1と工法2を比較すると材料コストでは供給工程の不要な工法2が有利であるが設備コストに於いては工法1が有利な工法であり夫々特徴がある。工法1及び工法2により得られるプリコートの品質差は特に認められていない。
【発明の効果】
【0020】
ディップ装置を用いて微細電極部を有する該基板に工法1及び工法2によって未着及びブリッジがなく部品実装に必要なはんだ量を備えたプリコートが得られるので基板への表面処理分野及び部品実装分野に大きな影響を与え大変意義深い。更には基板への表面処理から実装までのトータルコストは従来法に比べ格段に安価にできることが明らかになった。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明に使用するディップ装置イメージ図を示す
【
図2】本発明の対象とする表面実装基板概略断面イメージ図を示す
【
図3】従来法ディップ処理時の基板イメージ図を示す
【
図4】工法1によるディップ処理時の基板イメージ図を示す
【
図5】工法1によりプリコートされた基板イメージ図を示す
【
図6】工法2の超音波はんだ装置イメージと該基板が接触し脱離後の基板イメージ図を示す
【
図7】
図6の基板をディップ処理するイメージ図を示す
【
図8】工法2によりプリコートされた基板イメージ図を示す
【
図9】0402部品搭載用テスト基板に対して実施例1でプリコートされた外観写真を示す
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は複数の小型部品搭載用にデザインされた大型化した基板に対しても高価なメタルマスクを必要としないでプリコート処理が可能な工法に関する。本プリコートはディップ装置の噴流はんだが該電極部に確実に濡れることによって得られる工法である。工法がシンプルであり自動化が容易なので生産性が高い特徴を有している。更に部品実装に必要なはんだ量が得られるので実装までのトータルコスト低減に寄与できる。
【0023】
本発明によるプリコート工程を具体的に説明する。
工法1では以下の工程で実施される。
工程1 表面実装用基板準備
工程2 供給工程(電極部にペースト又ははんだ粉末供給)
工程3 加熱工程(供給工程後の基板を加熱)
工程4 接触工程(ディップ装置でプロセス)
工程5 洗浄工程(水又は専用液洗浄)で完了
工程3の工程は既存ディップ装置そのままでも可能であるが加熱工程は別装置で行ってからディップ装置でプロセスすることも可能である。
更に詳しく説明すると表面実装用基板に多数の微細な電極部がデザインされ該電極部はソルダレジストによって囲まれている。該電極部にはんだ粉末が20重量%以上含有するペースト又ははんだ粉末が供給される供給工程を経て該供給後の基板が該ペースト又ははんだ粉末のはんだ金属と基板の電極金属が接し金属拡散反応を進めて次の噴流はんだとの接触工程で該ペースト又は粉末が脱落しない温度まで加熱する加熱工程後に噴流はんだと接する接触工程を経てから洗浄工程を行い本発明のプリコートが完成する。
【0024】
本発明に使用するペーストははんだ粉末及びビヒクルを主成分とする組成物であって該ペースト中のはんだ粉末の割合は20重量%以上が好ましい。より好ましいペースト中のはんだ粉末の割合は50重量%以上95%以下である。20重量%未満の場合、同じ塗布量では未着が発生しやすくなること、塗布量を多くすると洗浄工程で廃液処理が負担となる。ビヒクル成分及び添加剤に特に制約はないが洗浄を考慮し選択されることが好ましい。具体的なビヒクル成分の一例としてロジン樹脂及び誘導体類、アクリル系樹脂類、ポリエステル系樹脂類、ポリエチレングリコール及び誘導体類などが必要に応じて水系、アルコール系及びセロソルブ系溶剤と共に使用できるがこれ等に特に限定されない。
【0025】
フラックス成分として公知なカルボン酸など有機酸類、ハロゲン化水素酸類、アミン類などが使用できるがこれ等に限定されない。
【0026】
フラックス成分を含有しないペーストは保存安定性が良い特徴があるので適宜選択し使用される。この場合は該ペーストを該電極部に供給後フラックスを該ペースト上に塗布し加熱工程に移る。
【0027】
この場合のフラックスは市販の水溶性ポストフラックス若しくはアルコール可溶性ポストフラックスなどから選択可能であり成分については特に限定しない。
【0028】
供給工程の供給手段としてはゴムなどで掻き落とすスキージ法が手軽で好ましい。他の手段としてはディスペンス、ベタのスクリーン印刷、パッド印刷などあるが特に限定するものではない。
【0029】
供給工程ではんだ粉末を使用する場合は該基板にフラックスを塗布後に該粉末を散布し必要であれば過剰粉末はエアーなどで除去後に加熱工程に移る。
【0030】
供給工程を経た該基板が噴流はんだと接触する前に加熱工程が必要である。加熱工程の温度は本発明で重要である。該ペーストのはんだ組成が96錫/3.5銀/0.5銅(数字は重量%) 融点217℃の場合、該基板温度ははんだ融点より低くても20℃以上の加熱が有効であることを実験の結果掴んだ。それ以下の温度では未着が発生しやすくなる。溶融温度以上の加熱は基板への熱ダメージを考慮し出来るだけ避けた方がよい。
【0031】
工法2の工程につき以下に説明する。
工程1 基板が超音波はんだと接触又は該はんだ中に浸漬し離脱
工程2 工程1の基板にフラックス塗布しディップ槽に投入
工程3 洗浄
【0032】
工法2で使用する超音波振動付与はんだについて説明する。
所謂超音波はんだ付け技術は公知であるがプリコート目的に使用される事例はない。主な原因は超音波はんだによって微細電極部へのはんだ濡れは十分確保されるものの該処理後の該基板が処理装置の溶融はんだから離脱する時に該電極部に濡れたはんだ量を制御することができないので過剰はんだ及びブリッジの発生が非常に多くプリコートとしては利用できない。
【0033】
上記のように超音波はんだ付けの利点を活用しつつ欠点である過剰はんだ及びブリッジの原因となるはんだ量(高さ)を均一化する手段として超音波はんだ処理後にディップ装置の噴流はんだ処理が極めてプリコートに有効なことが判明し工法2を確立した。
【0034】
超音波の発信周波数は好ましくは20KHz以上60KHz以下である。溶融はんだを該電極部に濡らす効果はキャビテーションによるので低周波数が有効であるが基板へのダメージを回避することが必要である。60KHz以下の場合には濡れ効果が低減しにくい。
【実施例0035】
工法1について詳細に説明する。
図2の構造模式図と同様な構成であって多数の部品搭載用にデザインされた部品搭載用テスト基板の電極部に供給工程では千住金属工業株式会社製ソルダペースト(商品名GLVはんだ粉末含有量約88重量%)をゴムスキージで供給した。加熱工程では千住金属工業株式会社製ディップ装置(装置名SPF2-400N)に備わっているプリヒートゾーンを使用して基板温度約190℃設定、コンベヤー速度0.6m/minで接触工程のディップ処理を行う。洗浄工程ではディップ後、IPA(イソプロピルアルコール)で洗浄し
図9のような全電極に良好なプリコートが得られた。はんだ高さはレーザ顕微鏡測定からSR表面から約15μm高かった。このはんだ量は部品実装で充分なことは知られている。
上記と同じテスト基板に供給する新たなペーストを準備した。ペーストは水溶性樹脂(三洋化成工業株式会社製商品名ニューポール75H-9000)80重量部 平均粒径約20μmであり同じはんだ組成のはんだ粉末20重量部から成る。供給工程では該基板電極部へ本ペーストをスキージ法で供給し使用した。該供給後に市販水溶性フラックス(千住金属工業製商品名スパークルWF2050)を該ペースト上からスプレー塗布した。その後、加熱工程では基板温度約190℃のプリヒート、同じコンベヤースピードで接触工程であるディップ処理した後IPA洗浄した。その結果得られたプリコートは全電極に良くはんだが濡れておりはんだ量も実施例1と同程度の約15μmであった。