(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024102019
(43)【公開日】2024-07-30
(54)【発明の名称】エラストマー
(51)【国際特許分類】
C08G 63/91 20060101AFI20240723BHJP
A61L 27/18 20060101ALN20240723BHJP
【FI】
C08G63/91
A61L27/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024005290
(22)【出願日】2024-01-17
(31)【優先権主張番号】63/480,304
(32)【優先日】2023-01-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (その1) 発行日 令和5年1月19日 刊行物名 第34回高分子ゲル研究討論会 要旨集 発行者名 第34回高分子ゲル研究討論会事務局 (その2) 開催日 令和5年1月19日~令和5年1月20日(公開日は令和5年1月19日) 集会名、開催場所 第34回高分子ゲル研究討論会 東京大学 山上会館(東京都文京区本郷7-3-1) (その3) 発行日 令和5年1月19日 刊行物名 第34回高分子ゲル研究討論会 要旨集 発行者名 第34回高分子ゲル研究討論会事務局 (その4) 開催日 令和5年1月19日~令和5年1月20日(公開日は令和5年1月20日) 集会名、開催場所 第34回高分子ゲル研究討論会 東京大学 山上会館(東京都文京区本郷7-3-1) (その5) 開催日 令和5年3月4日 集会名、開催場所 関東高分子若手研究会2022年度学生発表会 東京工業大学 大岡山キャンパス西9号館 W933(東京都目黒区大岡山2-12-1) (その6) ウェブサイトの掲載日 令和5年5月9日 ウェブサイトのアドレス https://member.spsj.or.jp/convention/spsj2023/ (その7) 開催日 令和5年5月24日~令和5年5月26日(公開日は令和5年5月26日) 集会名、開催場所 第72回高分子学会年次大会 Gメッセ群馬(群馬県高崎市岩押町12-24) (その8) ウェブサイトの掲載日 令和5年5月9日 ウェブサイトのアドレス http://www.kcms.jp/fiber2023/index.html (その9) 開催日 令和5年5月24日~令和5年5月26日(公開日は令和5年5月24日) 集会名、開催場所 第72回高分子学会年次大会 Gメッセ群馬(群馬県高崎市岩押町12-24) (その10) ウェブサイトの掲載日 令和5年6月7日 ウェブサイトのアドレス http://www.kcms.jp/fiber2023/index.html (その11) 開催日 令和5年6月14日~令和5年6月16日(公開日は令和5年6月14日) 集会名、開催場所 2023年繊維学会年次大会 タワーホール船堀(東京都江戸川区船堀4丁目1-1)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (その12) ウェブサイトの掲載日 令和5年5月29日 ウェブサイトのアドレス https://www.jaci-gsc.com/12th_web/ (その13) 開催日 令和5年6月13日~令和5年6月14日(公開日は令和5年6月14日) 集会名、開催場所 第12回JACI/GSCシンポジウム 一橋大学一橋講堂(東京都千代田区一ツ橋2丁目1-2学術総合センター内) (その14) ウェブサイトの掲載日 令和5年8月10日 ウェブサイトのアドレス https://9idmrcs.jp/files/9IDMRCS_Abstracts_book.pdf?20230822 (その15) 開催日 令和5年8月12日~令和5年8月18日(公開日は令和5年8月17日) 集会名、開催場所 9th International Discussion Meeting on Relaxations in Complex Systems(9IDMRCS) 幕張メッセ(千葉市美浜区中瀬2-1) (その16) 開催日 令和5年8月21日 集会名、開催場所 第4回MMCコロキウム 東京大学生産技術研究所(東京都目黒区駒場4丁目6-1) (その17) 発行日 令和5年9月4日 刊行物名 NanoPol2023 Abstract、 発行者名 NanoPol2023 事務局 (その18) 開催日 令和5年9月4日~令和5年9月8日(公開日は令和5年9月4日) 集会名、開催場所 NanoPol2023 International University Center for Research(フランス国オルレアン 1 rue Dupanloup,45000 ORLEANS) (その19) 発行日 令和5年9月15日 刊行物名 日本ゴム協会東海支部 2023年9月度月例講演会 要旨集 発行者名 日本ゴム協会東海支部 (その20) 開催日 令和5年9月15日 集会名、開催場所 日本ゴム協会東海支部 2023年9月度月例講演会 名古屋市工業研究所第1会議室(名古屋市熱田区六番三丁目4番41号)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (その21) ウェブサイトの掲載日 令和5年9月13日 ウェブサイトのアドレス https://member.spsj.or.jp/convention/tohron2023/index.php (その22) 開催日 令和5年9月26日~令和5年9月28日(公開日は令和5年9月27日) 集会名、開催場所 第72回高分子討論会 香川大学(香川県高松市幸町1-1) (その23) ウェブサイトの掲載日 令和5年9月13日 ウェブサイトのアドレス https://member.spsj.or.jp/convention/tohron2023/index.php (その24) 開催日 令和5年9月26日~令和5年9月28日(公開日は令和5年9月28日) 集会名、開催場所 第72回高分子討論会 香川大学(香川県高松市幸町1-1) (その25) ウェブサイトの掲載日 令和5年11月20日 ウェブサイトのアドレス https://prodigi.jp/▲~▼fiber2023/index.html (その26) 開催日 令和5年11月27日~令和5年11月28日(公開日は令和5年11月28日) 集会名、開催場所 2023年繊維学会 秋季研究発表会 京都テルサ(京都府京都市南区東九条下殿田町70) (その27) ウェブサイトの掲載日 令和5年12月1日 ウェブサイトのアドレス https://confit.atlas.jp/guide/event/mrm2023/top (その28) 開催日 令和5年12月11日~令和5年12月16日(公開日は令和5年12月13日) 集会名、開催場所 MRM2023/IUMRS-ICA2023 国立京都国際会館(京都府京都市左京区岩倉大鷺町422)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.PYTHON
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(71)【出願人】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中川 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】吉江 尚子
(72)【発明者】
【氏名】青木 大輔
【テーマコード(参考)】
4C081
4J029
【Fターム(参考)】
4C081AB01
4C081CA16
4C081DA12
4J029AC05
4J029EG09
4J029FC05
4J029FC08
4J029JC252
4J029KH01
(57)【要約】
【課題】多分岐型ポリマーを重合してなる新規エラストマーを提供する。
【解決手段】ポリエステルを骨格とする多分岐型ポリマーとリンカーとを重合してなるエラストマーであって、前記多分岐型ポリマーが側鎖又は末端に第1の官能基を有し、前記リンカーが側鎖又は末端に、前記第1の官能基と反応性の第2の官能基を有する、エラストマー。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルを骨格とする多分岐型ポリマーとリンカーとを重合してなるエラストマーであって、
前記多分岐型ポリマーが側鎖又は末端に第1の官能基を有し、
前記リンカーが側鎖又は末端に、前記第1の官能基と反応性の第2の官能基を有する、エラストマー。
【請求項2】
前記多分岐型ポリマーが、脂肪族ポリエステルを骨格とする多分岐型ポリマーを含む請求項1に記載のエラストマー。
【請求項3】
前記多分岐型ポリマーが、三分岐型ポリマー又は四分岐型ポリマーを含む請求項1に記載のエラストマー。
【請求項4】
第1の官能基及び第2の官能基の一方が、チオール基及びアミノ基よりなる群から選択され、
第1の官能基及び第2の官能基の他方が、求電子性官能基が、マレイミジル基、ビニルスルホニル基、ノルボルネン基、ブロモ基、エポキシ基、N-スクシンイミジルエステル基、スルホスクシンイミジルエステル基、N-アシルイミダゾール基、及びアクリロイル基よりなる群から選択される、請求項1に記載のエラストマー。
【請求項5】
第1の官能基及び第2の官能基の一方がアジ基を含み、第1の官能基及び第2の官能基の他方がアルキニル基を含む、請求項1に記載のエラストマー。
【請求項6】
複数の、ポリエステルを骨格とする多分岐型ポリマーに由来する構成単位と、
前記複数の多分岐型ポリマーに由来する構成単位のうちの隣接する多分岐型ポリマーに由来する構成単位を結合する、リンカー部位と、
を含むエラストマー。
【請求項7】
一軸引張試験において、破断伸長比が15以上である請求項1~6のいずれか一項に記載のエラストマー。
【請求項8】
最大伸長比が10以上、かつ接線弾性率の初期値に対する破断直前の接線弾性率の比Et,max/Et,minが1000以上である請求項1~6のいずれか一項に記載のエラストマー。
【請求項9】
無溶媒環境下で非結晶性である請求項1~6のいずれか一項に記載のエラストマー。
【請求項10】
ポリエステルを骨格とする多分岐型ポリマーとリンカーとを重合することを含む、エラストマーの製造方法であって、
前記多分岐型ポリマーが側鎖又は末端に第1の官能基を有し、
前記リンカーが側鎖又は末端に、前記第1の官能基と反応性の第2の官能基を有する、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多分岐型ポリマーを重合してなるエラストマーに関する。
【背景技術】
【0002】
19世紀に天然ゴムの加硫が偶然発見されて以来、エラストマーは私たちの社会に欠かせない素材のひとつとなっている。エラストマーの柔軟性、伸縮性、弾性は他に類を見ないものであり、したがって他の種類の材料で代替することはできない。エラストマーは、柔軟なポリマー鎖の三次元架橋ネットワークから構成されており、その機械的特性は、ネットワークの構造とポリマー鎖を構成する繰り返し単位に大きく依存する。従来のエラストマーは一般に、線状のポリマー鎖をランダムに結合させて製造されるため、ネットワーク構造には必然的に不均一性が存在した(
図1(a))。
ダングリング鎖は弾性に寄与せず、架橋点間の鎖長が不均一であると、変形時には少数の鎖に応力が集中する。
【0003】
過去数十年の間に、架橋ポリマーネットワークの構造制御は大きく進歩した。構造の不均一性を低減する最も有望な方法は、モジュール組立戦略である(非特許文献1-3) (
図1(b))。多腕ポリマーの鎖の末端を溶液中で結合させると、理想的にはダングリング鎖のないネットワークが得られる。多腕ポリマーの分子量分布を狭くすることで、隣接する架橋点間の鎖長を均一にすることができる。この単純かつ強力な戦略は、現在、制御されたネットワーク構造と予測可能な特性を有するゲル材料を作製するための便利なツールとなっている(非特許文献3,4) 。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】T. Sakai et al., Macromolecules 2008, 41, 5379
【非特許文献2】X. Li et al., Science Advances 2019, 5, eaax8647
【非特許文献3】S.Nakagawa et al., Polym. Chem. 2022, 13, 2074
【非特許文献4】M. Ohira et al., Advanced Materials 2022, 34, 2108818
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これまでの研究は主に溶媒中の架橋ゲルに対してなされており、しかし、無溶媒エラストマーへのモジュール組立戦略の応用は、これまでほとんど追求されてこなかった。鎖はゲルよりもエラストマーの方がはるかに密に詰まっている。従って、無溶媒エラストマーに高度に均質なネットワーク構造を付与すれば、これまでにない機械的性能につながる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下に記載の実施形態を包含する。
項1.
ポリエステルを骨格とする多分岐型ポリマーとリンカーとを重合してなるエラストマーであって、
前記多分岐型ポリマーが側鎖又は末端に第1の官能基を有し、
前記リンカーが側鎖又は末端に、前記第1の官能基と反応性の第2の官能基を有する、エラストマー。
項2.
前記多分岐型ポリマーが、脂肪族ポリエステルを骨格とする多分岐型ポリマーを含む項1に記載のエラストマー。
項3.
前記多分岐型ポリマーが、三分岐型ポリマー又は四分岐型ポリマーを含む項1に記載のエラストマー。
項4.
第1の官能基及び第2の官能基の一方が、チオール基及びアミノ基よりなる群から選択され、
第1の官能基及び第2の官能基の他方が、求電子性官能基が、マレイミジル基、ビニルスルホニル基、ノルボルネン基、ブロモ基、エポキシ基、N-スクシンイミジルエステル基、スルホスクシンイミジルエステル基、N-アシルイミダゾール基、及びアクリロイル基よりなる群から選択される、項1に記載のエラストマー。
項5.
第1の官能基及び第2の官能基の一方がアジ基を含み、第1の官能基及び第2の官能基の他方がアルキニル基を含む、項1に記載のエラストマー。
項6.
複数の、ポリエステルを骨格とする多分岐型ポリマーに由来する構成単位と、
前記複数の多分岐型ポリマーに由来する構成単位のうちの隣接する多分岐型ポリマーに由来する構成単位を結合する、リンカー部位と、
を含むエラストマー。
項7.
一軸引張試験において、破断伸長比が15以上である項1~6のいずれか一項に記載のエラストマー。
項8.
最大伸長比が10以上、かつ接線弾性率の初期値に対する破断直前の接線弾性率の比Et,max/Et,minが1000以上である項1~6のいずれか一項に記載のエラストマー。
項9.
無溶媒環境下で非結晶性である項1~6のいずれか一項に記載のエラストマー。
項10.
ポリエステルを骨格とする多分岐型ポリマーとリンカーとを重合することを含む、エラストマーの製造方法であって、
前記多分岐型ポリマーが側鎖又は末端に第1の官能基を有し、
前記リンカーが側鎖又は末端に、前記第1の官能基と反応性の第2の官能基を有する、方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ポリエステルを骨格とする多分岐型ポリマーを重合してなる新規なエラストマーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本研究のコンセプト。(a)従来のエラストマー。非晶性の低Tgポリマーがランダムに架橋され、高度に不均一なポリマーネットワークとなる。伸長により、応力は少数の鎖に集中し、一部の鎖は応力を受けない。(b)本研究で開発された均質なエラストマー。非晶性の低Tgマルチアームプレポリマーを末端結合させると、非常に均質なゲルが得られ、これを乾燥させると無溶媒エラストマーが得られる。伸長により均一な応力分布が期待できる。
【
図2】OH末端PMCL(3-arm 30k)の
1H NMRスペクトル。
【
図3】OH末端PMCL(4-arm 20k)の
1H NMRスペクトル。
【
図4】OH末端PMCL(4-arm 40k)の
1H NMRスペクトル。
【
図5】3つのOH末端PMCLのSEC曲線。4-arm 20kのデータは、他のサンプルとは異なる装置(Prominence GPC, Shimadzu, Japan, TSKgel GMHHR-M カラム使用, DMF + LiCl 10 mMで溶出)を使用して測定されたことに注意すべきである。したがって、4-arm 20kのピーク位置は他の2つのサンプルのそれと比較できない。
【
図6】PhMal末端PMCL(3-arm 30k)の
1H NMRスペクトル。
【
図7】PhMal末端PMCL(4-arm 20k)の
1H NMRスペクトル。
【
図8】PhMal末端PMCL(4-arm 40k)の
1H NMRスペクトル。
【
図9】鎖末端修飾前後のPMCL(3-arm 30k)の
1H NMRスペクトル。
【
図11】エラストマーの調製スキーム。PhMal末端多腕PMCLを溶液中でジチオールリンカー(DODT)と反応させる。得られたゲルから溶媒を除去し、PMCLエラストマーを得た。
【
図12】実施例のエラストマーの延伸性を示す写真。エラストマーフィルムの寸法は19mm×7mm×0.25mmであった。フィルムは4-arm 20k前駆体から調製した。
【
図13】実施例のエラストマーの耐穿刺性を示す写真。
【
図14】一軸引張試験前および試験中のリング状エラストマー試験片を示す写真。(左)試験前、(右)試験中。
【
図15】3-arm 30k前駆体から合成したエラストマーの応力-ひずみ曲線。延伸速度はdλ/dt=0.05秒
-1。再現性を示すために3つの試験片(Piece 1~3)のデータを示す。
【
図16】接線弾性率(Tangent modulus)Et=d
σtrue/d
εtrueと伸長比の関係。
【
図17】ひずみ硬化を示す広範な伸縮性高分子材料に対する、最大伸長比対ひずみ硬化度(E
t,max/E
t,min)のアシュビー型プロット。
【
図18】種々の前駆体ポリマーから合成したエラストマーの応力-ひずみ曲線。3-arm 30kの曲線は
図15から複製した。再現性を確認するため、各エラストマーについて3つの試験片を試験した。
【
図19】エラストマーの機械的耐久性試験。エラストマーは3-arm 30k前駆体から調製した。リング状試験片の100サイクル引張試験。1サイクルで試験片に与えられた変形を示す写真。
【
図20】
図19のエラストマーの機械的耐久性試験。100サイクル試験中に加えられた伸長比(上)と観察された工学応力(下)。
【
図21】
図19のエラストマーの機械的耐久性試験。100サイクル試験におけるすべての応力-ひずみ曲線。
【
図22】
図19のエラストマーの機械的耐久性試験。サイクル数の関数としての各サイクルの最大応力と荷重仕事。
【
図23】(a)-(d)ノッチ付きリング試験片の繰返し引張試験。試験片に部分的な切り込みを入れ、10回の負荷-除荷サイクルを行った。公称伸長比は1.5から11まで増加させ、その後1サイクルで1.5まで減少させた。(b,c)1サイクル目(b)と10サイクル目(c)で公称伸長比を変えたときの写真。(d) 繰返し試験中の公称伸長比(上)と観察された引張力(下)。
【
図24】4-arm 20k前駆体から合成したエラストマーのTensile-SWAXS分析。実験のレイアウト。試験片をdλ/dt= 0.1 s
-1の速度でλ=1から13まで引き伸ばし、すぐに同じ速度で除荷した。SWAXS測定はこの過程で連続して行われた。
【
図25】λ=12.3で収集したWAXS画像。破線の長方形は、
図27aでの拡大表示範囲を示す。
【
図26】λ=12.3で収集したSAXS画像。青い破線の長方形は、
図27bでの拡大表示範囲を示す。
【
図27】(a)延伸及び除荷中の各λにおけるWAXS画像。(b)延伸及び解放中の各λにおけるWSAXS画像。
図25と
図26の点線の矩形で示した範囲を示す。
【
図28】(a)方位角86°≦β≦94°の範囲でセクター平均して得られた1次元WAXSプロファイル。大きなひずみで現れるピークとショルダを三角形で示す。(b)λ=1及び12.3における1次元WAXSプロファイルのピークデコンボリューション解析結果。強度は、21-26 nm
-1のq範囲における積分強度によって正規化されている。まず、λ=1のアモルファスハローを擬Voigt関数でフィッティングした。このアモルファスハローの強度をベースラインとして、λ=12.3のフィッティングを行い、さらに2つの擬Voigt関数を追加してピークとショルダをモデル化した。これらの2つの関数の幅は、カーブフィッティングの際に等しくなるように制約された。(c)ストリークが現れる2次元画像上の限られた領域をセクター平均して得られた1次元SAXSプロファイル。実線は、べき乗則モデルI(q) = Aq
-dに従った線形フィッティング結果を表す。Amorphous halo: アモルファスハロー、peaks:ピーク、total: 全体。
【
図29】(a)正規化WAXSピーク強度(i
WAXS)、(b)q = 0.1 nm
-1における正規化SAXS強度(iSAXS)、及び(c)伸張及び解放中のエラストマーの巨視的工学応力σ
eng。Streching: 延伸、Releasing: 除荷。
【
図30】市販のゴムバンド(TT-01, 株式会社ユタカメイク)の応力-ひずみ曲線。ひずみ速度は0.05秒
-1。 (a)伸長比に対してプロットした工学応力。(b)真応力(true stress)を真ひずみ(true strain)に対してプロットしたもの。区間と線形フィッティングの結果も示す。(c)各区間における接線弾性率。
【
図32】OH末端PDXO(4-arm 13k)の
1H NMRスペクトル。
【
図33】アジド末端PDXO(4-arm 11k)の
1H NMRスペクトル。
【
図34】OH末端PDXO(4-arm 13k)とアジド末端PDXO(4-arm 11k)のSEC曲線。
【
図35】アジド末端マルチアームPDXO溶液及びゲル化過程の赤外吸収スペクトル
【
図36】異なる架橋剤比で調製したゲルのアジド末端の反応率の時間変化
【
図37】異なる分子量の前駆体ポリマーから調製したエラストマーの応力-ひずみ曲線
【
図38】異なる架橋剤比で調製したエラストマーの応力-ひずみ曲線
【
図39】4-arm 9k PDXO前駆体から合成したエラストマーのTensile-WAXS分析。(a)応力-ひずみ曲線。(b)延伸中の各λにおけるWAXS画像
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書において、「含有する」及び「有する」は、「実質的にのみからなる」、及び「のみからなる」も包含する概念である。
【0010】
本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値と任意に組み合わせることができる。また、本明細書に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値又は実施例から一義的に導き出せる値に置き換えてもよい。更に、本明細書において、「~」で結ばれた数値は、「~」の前後の数値を下限値及び上限値として含む数値範囲を意味する。
【0011】
本明細書において、「エラストマー」とは、室温でゴム弾性を示す、架橋構造を有するポリマーを指す。室温は、通常15~30℃を指す。
【0012】
本明細書において、「Ca-Cb」は炭素数がaからbまでのいずれかであること指す。例えば、C1-C6は炭素数が1から6までのいずれかを指す。
【0013】
本発明者らは、ポリエステルを骨格とする多分岐型ポリマーのモジュール組立によって作製されたエラストマーについて報告する。
【0014】
本発明の第1の態様によれば、ポリエステルを骨格とする多分岐型ポリマーとリンカーとを重合してなるエラストマーであって、
前記多分岐型ポリマーが側鎖又は末端に第1の官能基を有し、
前記リンカーが側鎖又は末端に、前記第1の官能基と反応性の第2の官能基を有する、エラストマーが提供される。
【0015】
ポリエステルを骨格とする多分岐型ポリマーは、1種類であってもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。また、ポリエステルは、単一重合体であってもよいし、共重合体であってもよい。
【0016】
ポリエステルを骨格とする多分岐型ポリマーのポリエステルとしては、脂肪族ポリエステル、脂環族ポリエステルが挙げられる。
【0017】
脂肪族ポリエステルとしては、ポリ(ε-カプロラクトン)(PCL)、ポリ(δ-カプロラクトン)、ポリ(δ-デカラクトン)、ポリ(δ-バレロラクトン)、ポリ乳酸、ポリグリコール酸(PGA)、ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)、ポリジオキサノン、ポリ(1,4-ジオキセパン-2-オン)、これらの共重合体、またはこれらの組み合わせが挙げられる。
【0018】
脂環族ポリエステルとしては、ポリエチレンシクロヘキサノエートなどのポリC2-C6アルキレンC6-C12 シクロアルカノエートなどが挙げられる。
【0019】
一つの実施形態では、ポリエステルを骨格とする多分岐型ポリマーのポリエステル骨格が、下記式(I)で表される繰り返し単位を有する。
【0020】
【化1】
式(I)中、
各pは、それぞれ同一又は異なり、0~6の整数であり、
各qは、それぞれ同一又は異なり、0~6の整数であり、
各nは、それぞれ同一又は異なり、2以上の整数であり、
RはC
1-C
6アルキル基である。
【0021】
上記式(I)で表わされるポリエステル骨格を有する多分岐型ポリマーは、炭素骨格にRの分岐部を有する。このため、式(I)で表わされるポリエステル骨格を有する多分岐型ポリマーをリンカーと重合して得られたエラストマーは、かかる分岐部を有しない多分岐型ポリマーをリンカーと重合して得られた重合体と比較して、外力を加えない状態での常温における結晶性が低く、ゴム弾性をより顕著に発揮する。
【0022】
pおよびqは、いずれも1以上の整数であってもよいし、一方が1以上の整数であって他方が0であってもよいし、いずれもゼロであってもよい。
【0023】
nの上限は特に限定されないが、例えば10000である。一つの実施形態では、nは10~1000の整数である。別の実施形態では、nは20~500の整数である。
【0024】
一つの実施形態では、ポリエステルを骨格とする多分岐型ポリマーのポリエステル骨格が、下記式(II)で表される繰り返し単位を有する。
【0025】
【化2】
式(II)中、
各pは、それぞれ同一又は異なり、1~6の整数であり、
各qは、それぞれ同一又は異なり、1~6の整数であり、
各nは、それぞれ同一又は異なり、2以上の整数である。
【0026】
上記式(II)で表わされるポリエステル骨格を有する多分岐型ポリマーは、主鎖炭素骨格にエーテル結合を有する。このため、式(II)で表わされるポリエステル骨格を有する多分岐型ポリマーをリンカーと重合して得られたエラストマーは、かかるエーテル結合を有しない多分岐型ポリマーをリンカーと重合して得られた重合体と比較して、外力を加えない状態での常温における結晶性が低く、ゴム弾性をより顕著に発揮する。
【0027】
nの上限は特に限定されないが、例えば10000である。一つの実施形態では、nは10~1000の整数である。別の実施形態では、nは20~500の整数である。
【0028】
一つの実施形態では、ポリエステルを骨格とする多分岐型ポリマーが、脂肪族ポリエステルを骨格とする多分岐型ポリマーを含む。脂肪族ポリエステルを骨格とする多分岐型ポリマーは、得られたエラストマーが他の既存の材料では得られない非常に高いひずみ硬化性と高い伸縮性を示す点で好ましい。
【0029】
本明細書において、ポリエステルを骨格とする多分岐型ポリマーは、三分岐以上に分岐するポリマーである。このため、ポリエステルを骨格とする多分岐型ポリマーをリンカーを介して重合してなるエラストマーは、架橋された網目構造を有する。好ましい実施形態では、ポリエステルを骨格とする多分岐型ポリマーが、三分岐型ポリマー又は四分岐型ポリマーを含む。
【0030】
一つの実施形態では、ポリエステルを骨格とする多分岐型ポリマーが、側鎖又は末端に1又は2以上の第1の官能基を有する。一つの実施形態では、ポリエステルを骨格とする多分岐型ポリマーが、三分岐の各々の側鎖又は末端に3つの第1の官能基を有する三分岐型ポリマーを含む。別の実施形態では、ポリエステルを骨格とする多分岐型ポリマーが、四分岐の各々の側鎖又は末端に4つの第1の官能基を有する四分岐型ポリマーを含む。
【0031】
好ましい一つの実施形態では、ポリエステルを骨格とする多分岐型ポリマーが、下記式(III)で表わされる三分岐型ポリマーである。
【0032】
【化3】
式(III)中、
各pは、それぞれ同一又は異なり、0~6の整数であり、
各qは、それぞれ同一又は異なり、0~6の整数であり、
各nは、それぞれ同一又は異なり、2以上の整数であり、
R
1は水素又はC
1-C
6アルキル基であり、
R
2はC
1-C
6アルキル基であり、
X
1は、反応性官能基である。
【0033】
上記式(III)で表わされる三分岐型ポリマーは、炭素骨格にR2の分岐部を有する。このため、式(III)で表わされる三分岐型ポリマーをリンカーと重合して得られたエラストマーは、かかる分岐部を有しない三分岐型ポリマーをリンカーと重合して得られた重合体と比較して、外力を加えない状態での常温における結晶性が低く、ゴム弾性をより顕著に発揮する。
【0034】
pおよびqは、いずれも1以上の整数であってもよいし、一方が1以上の整数であって他方が0であってもよいし、いずれもゼロであってもよい。
【0035】
nの上限は特に限定されないが、例えば10000である。一つの実施形態では、nは10~1000の整数である。別の実施形態では、nは20~500の整数である。
【0036】
X1の反応性官能基は、上記第1の官能基を含むか、上記第1の官能基からなる。
【0037】
一つの実施形態としては、X1の反応性官能基は、求核性官能基又は求電性官能基を含む。求核性官能基としては、チオール基及びアミノ基よりなる群から選択される求核性官能基が挙げられる。求電子性官能基としては、マレイミジル基、ビニルスルホニル基、ノルボルネン基、ブロモ基、エポキシ基(以上、チオール基と反応性)、N-スクシンイミジルエステル基、スルホスクシンイミジルエステル基、N-アシルイミダゾール基、及びアクリロイル基(以上、アミノ基と反応性)よりなる群から選択される求電子性官能基が挙げられる。
【0038】
X1は、求核性官能基又は求電性官能基と結合する、C1-C6アルキレン基、C1-C6アルケニレン基、フェニレン基、カルボニル基、-NH-、アミド結合(-NHCO-)、エーテル結合(-O-)、ウレタン結合、ウレア結合又はこれらの組み合わせ等の官能基をさらに含んでもよい。
【0039】
【化4】
好ましい一つの実施形態では、ポリエステルを骨格とする多分岐型ポリマーが、下記式(IV)で表わされる四分岐型ポリマーである。
【0040】
【化5】
式(IV)中、
各pは、それぞれ同一又は異なり、0~6の整数であり、
各qは、それぞれ同一又は異なり、0~6の整数であり、
各nは、それぞれ同一又は異なり、2以上の整数であり、
R
1は水素又はC
1-C
6アルキル基であり、
R
2はC
1-C
6アルキル基であり、
X
1は、反応性官能基であり、
rはそれぞれ同一又は異なり、1~6の整数である。
【0041】
上記式(IV)で表わされる四分岐型ポリマーは、炭素骨格にR2の分岐部を有する。このため、式(IV)で表わされる四分岐型ポリマーをリンカーと重合して得られたエラストマーは、かかる分岐部を有しない四分岐型ポリマーをリンカーと重合して得られた重合体と比較して、外力を加えない状態での常温における結晶性が低く、ゴム弾性をより顕著に発揮する。
【0042】
pおよびqは、いずれも1以上の整数であってもよいし、一方が1以上の整数であって他方が0であってもよいし、いずれもゼロであってもよい。
【0043】
nの上限は特に限定されないが、例えば10000である。一つの実施形態では、nは10~1000の整数である。別の実施形態では、nは20~500の整数である。
【0044】
X1の反応性官能基は、上記第1の官能基を含むか、上記第1の官能基からなる。
【0045】
一つの実施形態としては、X1の反応性官能基は求核性官能基又は求電性官能基を含む。求核性官能基としては、チオール基及びアミノ基よりなる群から選択される求核性官能基が挙げられる。求電子性官能基としては、マレイミジル基、ビニルスルホニル基、ノルボルネン基、ブロモ基、エポキシ基、N-スクシンイミジルエステル基、スルホスクシンイミジルエステル基、N-アシルイミダゾール基、及びアクリロイル基よりなる群から選択される求電子性官能基が挙げられる。
【0046】
X1は、求核性官能基又は求電性官能基と結合する、C1-C6アルキレン基、C1-C6アルケニレン基、フェニレン基、カルボニル基、-NH-、アミド結合(-NHCO-)、エーテル結合(-O-)、ウレタン結合、ウレア結合又はこれらの組み合わせ等の官能基をさらに含んでもよい。
【0047】
好ましい一つの実施形態では、ポリエステルを骨格とする多分岐型ポリマーが、下記式(V)で表わされる三分岐型ポリマーである。
【0048】
【化6】
式(V)中、
各pは、それぞれ同一又は異なり、1~6の整数であり、
各qは、それぞれ同一又は異なり、1~6の整数であり、
各nは、それぞれ同一又は異なり、2以上の整数であり、
R
1は水素又はC
1-C
6アルキル基であり、
X
1は、反応性官能基である。
【0049】
上記式(V)で表わされる三分岐型ポリマーは、主鎖炭素骨格にエーテル結合を有する。このため、式(V)で表わされる三分岐型ポリマーをリンカーと重合して得られたエラストマーは、かかる分岐部を有しない三分岐型ポリマーをリンカーと重合して得られた重合体と比較して、外力を加えない状態での常温における結晶性が低く、ゴム弾性をより顕著に発揮する。
【0050】
nの上限は特に限定されないが、例えば10000である。一つの実施形態では、nは10~1000の整数である。別の実施形態では、nは20~500の整数である。
【0051】
反応性官能基X1は、上記第1の官能基を含むか、上記第1の官能基からなる。
【0052】
一つの実施形態としては、X1の反応性官能基は求核性官能基又は求電性官能基を含む。求核性官能基としては、チオール基及びアミノ基よりなる群から選択される求核性官能基が挙げられる。求電子性官能基としては、マレイミジル基、ビニルスルホニル基、ノルボルネン基、ブロモ基、エポキシ基、N-スクシンイミジルエステル基、スルホスクシンイミジルエステル基、N-アシルイミダゾール基、及びアクリロイル基よりなる群から選択される求電子性官能基が挙げられる。
【0053】
X1は、求核性官能基又は求電性官能基と結合する、C1-C6アルキレン基、C1-C6アルケニレン基、フェニレン基、カルボニル基、-NH-、アミド結合(-NHCO-)、エーテル結合(-O-)、ウレタン結合、ウレア結合又はこれらの組み合わせ等の官能基をさらに含んでもよい。
【0054】
好ましい一つの実施形態では、ポリエステルを骨格とする多分岐型ポリマーが、下記式(VI)で表わされる四分岐型ポリマーである。
【0055】
【化7】
式(VI)中、
各pは、それぞれ同一又は異なり、0~6の整数であり、
各qは、それぞれ同一又は異なり、0~6の整数であり、
各nは、それぞれ同一又は異なり、2以上の整数であり、
R
1は水素又はC
1-C
6アルキル基であり、
X
1は、反応性官能基であり、
rはそれぞれ同一又は異なり、1~6の整数である。
【0056】
上記式(VI)で表わされる四分岐型ポリマーは、主鎖炭素骨格にエーテル結合を有する。このため、式(VI)で表わされる四分岐型ポリマーをリンカーと重合して得られたエラストマーは、かかる分岐部を有しない四分岐型ポリマーをリンカーと重合して得られた重合体と比較して、外力を加えない状態での常温における結晶性が低く、ゴム弾性をより顕著に発揮する。
【0057】
pおよびqは、いずれも1以上の整数であってもよいし、一方が1以上の整数であって他方が0であってもよいし、いずれもゼロであってもよい。
【0058】
nの上限は特に限定されないが、例えば10000である。一つの実施形態では、nは10~1000の整数である。別の実施形態では、nは20~500の整数である。
【0059】
X1の反応性官能基は、上記第1の官能基を含むか、上記第1の官能基からなる。
【0060】
一つの実施形態としては、X1の反応性官能基は求核性官能基又は求電性官能基を含む。求核性官能基としては、チオール基及びアミノ基よりなる群から選択される求核性官能基が挙げられる。求電子性官能基としては、マレイミジル基、ビニルスルホニル基、ノルボルネン基、ブロモ基、エポキシ基、N-スクシンイミジルエステル基、スルホスクシンイミジルエステル基、N-アシルイミダゾール基、及びアクリロイル基よりなる群から選択される求電子性官能基が挙げられる。
【0061】
X1は、求核性官能基又は求電性官能基と結合する、C1-C6アルキレン基、C1-C6アルケニレン基、フェニレン基、カルボニル基、-NH-、アミド結合(-NHCO-)、エーテル結合(-O-)、ウレタン結合、ウレア結合又はこれらの組み合わせ等の官能基をさらに含んでもよい。
【0062】
ポリエステルを骨格とする多分岐型ポリマーの重量平均分子量は、特に限定されないが、例えば1000~500000が挙げられる。より特定的には、2000~100000であり、さらに特定的には5000~50000である。
【0063】
一つの実施形態では、リンカーが、側鎖又は末端に1又は2以上の第2の官能基を有する。別の実施形態では、リンカーが、両末端に第2の官能基を有する。さらに別の実施形態では、リンカーが、両末端に第2の官能基を有する直線状の分子である。別の実施形態では、リンカーが、分子内に2つの第2の官能基を有する化合物である。
【0064】
一つの実施形態では、リンカーが、下記式(VII)で表される化合物である。
【0065】
R
1およびR
2はそれぞれ独立して、置換または無置換のC
1-C
6のアルキレン基であり、R
3は、-R
4-O-R
5-(R
4およびR
5はそれぞれ独立して、置換または無置換のC
1-C
6のアルキレン基である)又は-R
4-O-(R
4は置換または無置換のC
1-C
6のアルキレン基である)であり、kは0以上の整数であり、lは0以上の整数であり、mは0以上の整数であり、ただしk、l、及びmの合計が1以上であり、X
2は反応性官能基である。
【0066】
R3およびR4の置換基は炭素鎖1~6の直鎖または分岐鎖のアルキル基、シクロへキシル基、フェニル基、又はハロゲン(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素など)である。
【0067】
反応性官能基X2は、上記第2の官能基を含むか、上記第2の官能基からなる。
【0068】
式(VII)において、好ましくはkは0~3、より好ましくは0~2、より好ましくは0または1である。
【0069】
式(VII)において、好ましくはlは1~5、より好ましくは1~4、より好ましくは1~3である。
【0070】
式(VII)において、好ましくはmは0~3、より好ましくは0~2、より好ましくは0または1である。
【0071】
式(VII)において、R1は好ましくはメチレン又はアルキレンである。
【0072】
式(VII)において、R2は好ましくはメチレン又はアルキレンである。
【0073】
式(VII)において、R4は好ましくはメチレン又はアルキレンである。
【0074】
式(VII)において、R5は好ましくはR4と同一であり、メチレン又はアルキレンである。
【0075】
一つの実施形態では、前記第1の官能基は、求核性官能基及び求電性官能基のうちの一方であり、前記第2の官能基は、求核性官能基又は求電性官能基のうちの他方であり、前記第1の官能基と前記第2の官能基は反応性である。多分岐型ポリマーがその側鎖又は末端に有する求核性官能基及び求電性官能基の一方と、リンカーがその側鎖又は末端に有する求核性官能基及び求電性官能基の他方とは、求核性官能基と求電性官能基が反応性であれば特に限定されない。
【0076】
一つの実施形態では、求核性官能基が、チオール基及びアミノ基よりなる群から選択される。
【0077】
一つの実施形態では、求電子性官能基が、マレイミジル基、ビニルスルホニル基、ノルボルネン基、ブロモ基、エポキシ基、N-スクシンイミジルエステル基、スルホスクシンイミジルエステル基、N-アシルイミダゾール基、及びアクリロイル基よりなる群から選択される。
【0078】
一つの実施形態では、ポリエステルを骨格とする多分岐型ポリマーが、チオール基及びアミノ基よりなる群から選択される求核性官能基を有し、リンカーが、マレイミジル基、ビニルスルホニル基、ノルボルネン基、ブロモ基、エポキシ基、N-スクシンイミジルエステル基、スルホスクシンイミジルエステル基、N-アシルイミダゾール基、及びアクリロイル基よりなる群から選択される求電子性官能基を有する。
【0079】
別の実施形態では、ポリエステルを骨格とする多分岐型ポリマーがマレイミジル基、ビニルスルホニル基、ノルボルネン基、ブロモ基、エポキシ基、N-スクシンイミジルエステル基、スルホスクシンイミジルエステル基、N-アシルイミダゾール基、及びアクリロイル基よりなる群から選択される求電子性官能基を有し、リンカーが、チオール基及びアミノ基よりなる群から選択される求核性官能基を有する。
【0080】
一つの実施形態では、上記第1の官能基と上記第2の官能基の組み合わせとしては、アジド-アルキン、マレイミド-チオール、ビオチン-アビジン又はストレプトアビジン、ブロモ-チオール、ヨード-チオール、OPSS-チオール、ベンゾフェノン-求核性試薬、ATFBA-求核性試薬、アルキン-アジド、ヒドラジン-アミン、アルデヒド-アミン、アクロイル-オレフィン、アミノ-NHSエステル、エポキシ-アミン、アルコール、又はチオール、酸-アミン、アルコール、又はチオール、水酸基-酸などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0081】
一つの好ましい実施形態では、前記第1の官能基はアジ基であり、前記第2の官能基は、アルキニル基である。一つの実施形態では、前記第1の官能基はアルキニル基であり、前記第2の官能基は、アジ基である。ポリエステルを骨格とする多分岐型ポリマーとリンカーは、アジドとアルキンのクリック反応によっても重合することができる。
【0082】
ポリエステルを骨格とする多分岐型ポリマーの側鎖又は末端の第1の官能基と、リンカーの第2の官能基とを架橋する場合、ポリエステルを骨格とする多分岐型ポリマーの側鎖又は末端の第1の官能基の全数がリンカーの第2の官能基と反応してもよいが、第1の官能基の一部がリンカーの第2の官能基と反応してもよい。一つの実施形態において、第1態様のエラストマーにおいて、ポリエステルを骨格とする多分岐型ポリマーの第1の官能基中の全数、リンカーの第2の官能基と反応した第1の官能基の数の割合は、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、又は100%であってよい。別の実施形態において、第1態様のエラストマーにおいて、リンカーの第2の官能基中の全数、ポリエステルを骨格とする多分岐型ポリマーの第1の官能基と反応した第2の官能基の数の割合は、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、又は100%であってよい。
【0083】
本発明の第2の態様によれば、複数の、ポリエステルを骨格とする多分岐型ポリマーに由来する構成単位と、前記複数の多分岐型ポリマーに由来する構成単位のうちの隣接する多分岐型ポリマーに由来する構成単位を結合する、リンカー部位と、を含むエラストマーが提供される。
【0084】
ポリエステルを骨格とする多分岐型ポリマーについては第1の態様に関して詳細に説明した通りである。リンカー部位は、第1の態様に関して詳細に説明したリンカーに由来するリンカー部位であってよい。
【0085】
上記第1の態様のエラストマー及び第2の態様のエラストマーは、ゴムなどの公知の架橋性高分子と比較して、より均一化された架橋の網目構造を有するため、室温でゴム弾性を示すとともに、高いひずみ硬化性と高い伸縮性を有することができる。
【0086】
好ましい実施形態では、上記第1の態様のエラストマー及び第2の態様のエラストマーは、無溶媒環境下で非結晶性である。特には、外力を加えない状態で、室温で無溶媒環境下で非結晶性である。
【0087】
一つの実施形態では、エラストマーは、一軸引張試験において、破断伸長比が15以上である。このような構成のエラストマーは、ひずみ硬化性に優れている。
【0088】
一つの実施形態では、エラストマーは、接線弾性率の初期値に対する破断直前の接線弾性率の比Et,max/Et,minが1000以上である。
【0089】
一つの実施形態では、エラストマーは、接線弾性率の初期値に対する破断直前の接線弾性率の比Et,max/Et,minが2000以上である。
【0090】
一つの実施形態では、エラストマーは、最大伸長比が10以上、かつ接線弾性率の初期値に対する破断直前の接線弾性率の比Et,max/Et,minが1000以上である。
【0091】
接線弾性率、及び接線弾性率の初期値に対する破断直前の接線弾性率の比の測定方法は実施例に記載の測定方法に従う。
【0092】
一つの実施形態では、上記第1又は第2の態様のエラストマーを含有するゲル組成物であって、エラストマーのゲル分率が90%以上であるゲル組成物が提供される。
【0093】
一つの実施形態では、上記第1又は第2の態様のエラストマーを含有するゲル組成物であって、エラストマーのゲル分率が90%以上であり、ゲル組成物中の溶媒の量が25質量%以下であるゲル組成物が提供される。溶媒としては、水、エタノールなどの水以外の水性溶媒、有機溶媒が挙げられる。ゲル組成物中の溶媒の量は、20質量%以下、10質量%以下、5質量%以下、又は1質量%以下であってもよい。
【0094】
本発明の実施形態のエラストマーは、医学、薬学、化学、工学、電子工学などの幅広い分野へ適用することができる。例えば、本発明の実施形態のエラストマーはひずみ硬化性と伸縮性に優れているため、ロボットの関節の材料として使用することができ、本発明の実施形態のエラストマーを使用した関節は、硬さを広範囲に調整することができる。
【0095】
本発明の一つの態様によれば、ポリエステルを骨格とする多分岐型ポリマーとリンカーとを重合することを含む、ポリマーの製造方法であって、
前記多分岐型ポリマーが、側鎖又は末端に求核性官能基又は求電性官能基を有し、
前記リンカーが側鎖又は末端に求核性官能基又は求電性官能基を有し、
前記多分岐型ポリマーが側鎖又は末端に求核性官能基を有する場合、前記リンカーは側鎖又は末端に求電性官能基を有し、多分岐型ポリマーの側鎖又は末端に求核性官能基と、前記リンカーの側鎖又は末端に求電性官能基は反応性であり、
前記多分岐型ポリマーが側鎖又は末端に求電性官能基を有する場合、前記リンカーは側鎖又は末端に求核性官能基を有し、前記多分岐型ポリマーの側鎖又は末端に求電性官能基と、前記リンカーの側鎖又は末端に求核性官能基は反応性である、方法が提供される。
【0096】
一つの実施形態では、上記多分岐型ポリマーが、側鎖又は末端に1又は2以上の求核性官能基又は求電性官能基を有する。一つの実施形態では、上記多分岐型ポリマーが、三分岐の各々の側鎖又は末端に3つの求核性官能基又は求電性官能基を有する三分岐型ポリマーを含む。別の実施形態では、上記多分岐型ポリマーが、四分岐の各々の側鎖又は末端に4つの求核性官能基又は求電性官能基を有する四分岐型ポリマーを含む。
【0097】
一つの実施形態では、リンカーが、側鎖又は末端に1又は2以上の求核性官能基又は求電性官能基を有する。別の実施形態では、リンカーが、両末端に求核性官能基又は求電性官能基を有する。別の実施形態では、リンカーが、分子内に2つの求核性官能基又は求電性官能基を有する化合物である。
【0098】
前記多分岐型ポリマーが求核性官能基を有する場合、前記リンカーは求電性官能基を有し、前記多分岐型ポリマーが求電性官能基を有する場合、前記リンカーは求核性官能基を有する。
【0099】
ポリエステルを骨格とする多分岐型ポリマーとリンカーとの重合は、有機溶媒中で行われることが好ましい。有機溶媒としては、DMF、THF、1,4-ジオキサン、トルエン、キシレン、クロロホルム、塩化メチレン、四塩化炭素、1,1,2-トリクロロエタンを含むがこれらに限定されない。
【0100】
好ましい実施形態では、より構造均一性を有するエラストマーを得る点で、ポリエステルを骨格とする多分岐型ポリマーの側鎖又は末端の第1の官能基の合計数と、リンカーにおける前記第1の官能基と反応性の第2の官能基の合計数の比が、1:9~9:1であることが好ましく、5:1~1:5であることがより好ましく、3:1~1:3であることがより好ましく、2:1~1:2であることがより好ましく、3:2~2:3であることがより好ましい。特定の実施形態では、ポリエステルを骨格とする多分岐型ポリマーの側鎖又は末端の第1の官能基の合計数と、リンカーにおける前記第1の官能基と反応性の第2の官能基の合計数とが、実質的に等しい。
【0101】
架橋前のポリエステルを骨格とする多分岐型ポリマーと、リンカーとを、架橋により硬化させることにより、本発明の実施形態のエラストマーを製造することができる。
【0102】
一つの実施形態では、架橋前のポリエステルを骨格とする多分岐型ポリマーと、リンカーとをそれぞれの官能基を介して重合又は架橋する場合に、刺激により重合又は架橋反応を促進することができる。刺激としては、熱・温度、pH、磁気、振動、湿度、水、電磁波、光、電気、及び圧力から成る群から選択される1種又は2種以上が挙げられるがこれらに限定されない。当業者には得られるゲルの均一な構造を保持する目的で、適切な刺激を選択することができる。
【0103】
一つの実施形態では、架橋前のポリエステルを骨格とする多分岐型ポリマーと、リンカーとを含む組成物を型に入れて硬化させることにより、その意図された目的に応じて、シート状、球状等の所望の形状に成形することができる。シート状のゲルであるゲルシートの形は、さらに意図された目的に応じて任意の形状とすることができ、例えば平面視で略矩形、略円形等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0104】
本明細書中に引用されているすべての特許出願及び文献の開示は、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれるものとする。
【0105】
以下の実施例は、例示のみを意図したものであり、何ら本発明の技術的範囲を限定することを意図するものではない。特に断らない限り、試薬は、市販されているか、又は当技術分野で慣用の手法、公知文献の手順に従って入手又は調製する。
【実施例0106】
試験1
1.方法
(1)材料
リン酸ジフェニル(DPP)、ジ(トリメチロールプロパン)(DTMP)、トリメチロールプロパン(TMP)は、東京化成工業株式会社(日本)から購入した。ジブチルスズジラウレート(DBTDL)、乾燥トルエン、乾燥ジクロロメタン(DCM)及び乾燥エタノールは、富士フイルム和光純薬株式会社(日本)から購入した。すべての試薬は、特に断りのない限り、受け取った状態で使用した。4-メチル-ε-カプロラクトン(異性体混合物)(MCL)及びp-マレイミドフェニルイソシアネート(PMPI) は文献に従って合成した(それぞれJ.L.Self et al., J. Am. Chem. Soc.2020, 142, 7567及びR. Takashima et al., Journal of Polymer Science Part A: Polymer Chemistry 2019, 57,2396)。
【0107】
(2)キャラクタリゼーション
1H NMR スペクトルは ECZ-600R 分光計(日本電子株式会社, 日本) で記録した。サイズ排除クロマトグラフィ(SEC)測定は、トリプル検出器(OmniSEC Reveal, Malvern Panalytical, 英国)を備えたNexera SECシステム(株式会社島津製作所, 日本)を用いて行った。カラムと溶離液は、それぞれTSKgel GMHHR-M(東ソー株式会社、日本)及びクロロホルムとした。測定は40℃で行った。
【0108】
(3)OH末端マルチアームPMCLの合成
OH末端4-arm 40kの合成を例として説明する。撹拌子、200mL三角フラスコ、及び50mLスクリューバイアルを100℃のオーブンで乾燥させた。乾燥した 50 mL バイアルにDPP 4.999 g (19.98 mmol) を秤量した。5 mLプラスチックチューブにDTMP 125.4 mg(0.5009 mmol)を秤量した。フラスコ、バイアル、プラスチックチューブを窒素充填グローブボックスに入れた。グローブボックス内で、三角フラスコにMCL 24.89 mL(ε-カプロラクトンと同じ密度を仮定すると約25.6 g、1.03 g mL
-1; 約200 mmol)とDTMPを入れた。バイアル中のDPPを乾燥トルエン25mLに溶解し、この溶液を三角フラスコに加え、重合を開始した。反応の進行はSECでモニターした。反応は200分後に過剰のTEAでDPPを中和することにより停止させた。粗混合物をメタノールに注ぎ、粘稠な沈殿物を遠心分離により分離し、これを合計4回繰り返した。少量の低分子量画分がSECで観察されたが、これはおそらく水からの開始によるものと考えられる。したがって、THFを良溶媒、メタノールを貧溶媒として分液沈殿を繰り返し、目的の高分子量画分を単離した。生成物を最終的にガラスバイアルに収集し、室温で真空乾燥し、11.7g(モノマー供給量に基づき46%)の無色粘稠液を得た。
1H NMRスペクトルを
図4に示す。特性評価結果は表1を参照。他のOH末端マルチアームPMCLを同様の方法で合成した。開始剤の供給量は、所望の分子量を得るために変化させた。3-arm PMCLでは、TMPを開始剤として使用した。
【0109】
(4)PhMal末端PMCLの合成
ここでは例としてPhMal末端4-arm 40kの合成を示す。2.00gのOH末端化4-arm PMCL(Mn=40kDa;0.05mmol;0.20mmolヒドロキシ末端基)、267.8mgのPMPI(1.39mmol;ヒドロキシに対して7.0当量)、及び78.7mgのDBTDL(0.125mmol、イソシアネートに対して約9%)をオーブンで乾燥させたスクリューバイアルに別々に取り、オーブンで乾燥させた500mL エルレンマイヤー型フラスコとともに窒素充填グローブボックスに入れた。グローブボックス内で、ポリマーをバイアル内の20mLの乾燥DCMに溶解した。PMPIとDBTDLを60mLの乾燥DCMに溶解し、三角フラスコに入れた。ポリマー溶液をフラスコに滴下し、さらに20mLの乾燥DCMを加え、バイアルに残ったポリマーを回収した。淡黄色の溶液をグローブボックス内で一晩撹拌した。その後、1 mLの乾燥エタノールをフラスコに加え、過剰のイソシアネートをクエンチした。混合物を数時間攪拌した後、フラスコをグローブボックスから取り出した。混合物を濃縮し、メタノールで4回沈殿させた。この段階で、生成物には不溶性の固形分が含まれており、これは残留尿素である可能性がある。不溶性部分を除去するため、生成物を最小量のトルエンに溶解し、溶液をシリンジフィルターでろ過した。窒素気流でトルエンを乾燥させ、室温で真空乾燥すると、2.06g(約100%)の黄色の粘稠な液体として生成物が得られた。
1H NMRスペクトルを
図8に示す。特性評価結果については表1を参照。異なるアーム数と分子量を有するPhMal末端PMCLの合成も同様に行った。
【0110】
(5)モジュール組立によるエラストマーの製造
典型的な実験では、40mgのポリマーを小さなガラス管に取った。窒素充填グローブボックス内で、180μLの乾燥DMFをチューブに加え、ポリマーを溶解させた。所定濃度のDODTのDMF溶液20μLを加え、チューブを数十秒間激しく振って溶液を均一化した。この溶液をマイクロピペットで慎重に金型に注入し、密封した後、グローブボックス内で室温で2日間硬化させた。次にゲルを型から取り出し、乾燥DMFに1日、DMFとトルエンの1:1混合液にさらに1日、そしてトルエンに3日以上浸漬させた。トルエンで完全に膨潤したゲルは、最後に空気中と真空中で1週間以上乾燥させ、淡褐色の透明なエラストマーを得た。断面が長方形のリング状のテストピースとダンベル状のテストピースを製造するために、2種類の金型を使用した。後者の形状はISO 37-1A(JIS K6251-3)の1/4スケールで、厚さは約0.1mmであった。
【0111】
(6)一軸引張試験
一軸引張試験は、リング状試験片用の治具を装備した万能試験機(EZ-L、株式会社島津製作所)を用いて行った。治具は2本の棒からなり、そのうちの1本はリング試験片の均一な伸張を保証するために試験中に回転させた。伸長比をh= 2x/Linnerとして計算した。Linnerはリング試験片の内側輪郭の長さである。工学応力(engineering stress)はσeng=F/(2S)として計算される。式中、Fは引張力、Sはリングの断面積である。
【0112】
(7)引張試験及び小角/広角X線散乱の同時測定(Tensile-SWAXS)
Tensile-SWAXS実験は、高エネルギー加速器研究機構放射光実験施設(日本、つくば市)のビームラインBL-15A2に設置された小角散乱装置を用いて行った。特注の引張試験機をサンプルステージに取り付けた。引張試験機の詳細はS. Nakagawa et al., Soft Matter 2022, 18, 4527に記載されている。ダンベル状の試験片をクランプに固定した。入射X線ビームに対する試験片の位置は、ビームが試験片の直線部分の中心に当たるように慎重に調整した。試験片をdλ/dt = 0.1 s-1の速度でλ=1からλ=13まで一軸延伸し、すぐに同じ速度でλ=1まで除荷した。力はクランプの1つに接続したロードセルで記録した。SWAXS測定は試験中、定期的に行った。各フレームの露光時間は1秒で、連続するフレームの開始時刻間の間隔は約10秒であった。入射X線ビームの波長Λは0.1200nmであった。入射X線と透過X線の強度を、それぞれ試料前のイオンチェンバーとダイレクトビームストッパーのフォトダイオードでモニタした。散乱X線は2つの2次元検出器(WAXS用:PILATUS3 300K-W、SAXS用:PILATUS3 2M、Dectris社、スイス)で収集した。試料から検出器までの距離は、WAXS検出器が425 mm、SAXS検出器が3210 mmであった。WAXS検出器は試料に対して23°傾けた。直接ビームの位置と試料から検出器までの距離は、ベヘン酸銀(SAXSとWAXS用)と酸化セリウム(WAXS用)の標準試料を用いて校正した。収集したデータは、特注のPythonスクリプトを用いて解析した。散乱画像は、入射ビームフラックス、露光時間、吸収、検出器ピクセルの立体角カバー率、背景散乱について補正した。
【0113】
2.3分岐型または4分岐型の前駆体ポリマーの合成
エラストマーを、分子量分布の狭い3分岐型または4分岐型の前駆体ポリマーを末端結合することで作製した(
図1)。ポリ(4-メチル-ε-カプロラクトン)(PMCL)を主ポリマー成分として選択したのは、その非結晶性と低いガラス転移温度(T
g)の両方が柔軟なエラストマー材料に適しているからである。加えて、PMCLは酵素分解を受けることも知られており、そのモノマーである4-メチル-ε-カプロラクトン(MCL)はバイオマス資源から得られる可能性がある。マルチアームPMCLは、トリオールまたはテトラオールから、モノマーである4-メチル-ε-カプロラクトン(MCL)を酸触媒により開環重合することによって合成された。その後、各鎖末端のヒドロキシ基をフェニルマレイミド(PhMal)部分で修飾した(R. Takashima et al., Journal of Polymer Science Part A: Polymer Chemistry 2019, 57, 2096: R. Takashima et al., Soft Matter 2020, 16, 10869)。数平均分子量M
n=32 kDaの3分岐型、M
n=24 kDaの4分岐型、M
n=44 kDaの4分岐型である。これらの前駆体をそれぞれ3-arm 30k、4-arm 20k、4-arm 40kと称する。
【0114】
前駆体ポリマーの合成スキームをそれぞれスキーム1及び2に示す。
【0115】
まず、OH末端マルチアームPMCLを合成した(スキーム1)。
図2-4は、合成した OH 末端 PMCL 3-arm 30k、4-arm 20k、4-arm 40kのそれぞれの
1H NMR スペクトルを示す。
1H NMRに基づく数平均分子量Mn(NMR)は、末端の-CH
2-OHに対する繰り返し単位中の-CH
2-O-の積分比により決定した。ポリマーのSEC曲線を
図5に、光散乱検出器を用いて求めたM
n(SEC-LS)を表1に示す。すべてのポリマーは、低い多分散性(Mw/Mn < 1.1)で単峰性の分子量分布を示し、M
n(NMR)とM
n(SEC)はよく一致し、重合がよく制御されていることを示した。
【0116】
次に、OH末端ポリマーをイソシアネート基を有するPhMal化合物と反応させた(スキーム2)。生成物の
1 H NMRスペクトルを
図6-8に示す。その反応前後の拡大スペクトルを
図9で比較した。CH
2-OHに由来する3.7 ppmのOH末端のシグナルは消失し、PhMal部分のシグナルが現れた。生成物のSEC曲線を
図10に、M
n(SEC)とM
w/M
nを表1に示す。M
nだけでなく単峰性の分子量分布も反応中に維持されている。以上より、我々は狭い分子量分布を有するPhMal末端マルチアームPMCLの合成に成功した。
【0117】
【0118】
【0119】
【表1】
a: 繰り返し単位中の末端-CH
2-OHと-CH
2-O-の積分比から求めた。
b: 標準ポリスチレンを校正物質として用い、光散乱検出器と組み合わせたSECにより測定。
【0120】
3.エラストマーの合成
2.で製造した前駆体ポリマーを、ジメチルホルムアミド(DMF)溶液中で低分子量のジチオールリンカー(3,6-ジオキサ-1,8-オクタンジチオール、DODT)と混合した。高効率のチオール-マレイミドカップリング反応により、混合物は30分以内にゲル化した。このゲルを洗浄及び乾燥し、無溶媒エラストマーを得た。合成されたエラストマーのゲル分率は、3-arm 30k前駆体の場合、重量測定で約96%であり、ポリマーモジュールのほとんどが単一の巨大ネットワークに組み込まれていることが示された。
【0121】
4.エラストマーの物性の評価
図12,13は、実施例のエラストマーの定性的な機械的試験を示している。エラストマーは高い伸縮性と復元性を示した(
図12)。金属ピックではフィルムに穴が開かず(
図13)、高い靭性が実証された。機械的特性は、一軸引張試験によって定量的に評価した。
図14に示すように、リング状の試験片を用いた。
図15は、3-arm 30k前駆体から合成したエラストマーの応力-ひずみ曲線を示す。試験の再現性が良好であることを示すために、3つの試験片(piece 1-3)の結果を示している。高い延伸性(λ
break 約17)と極限強度(σ
break 約25MPa)が容易に確認できる。最もユニークな特徴は、小さなひずみと大きなひずみにおける硬さのコントラストである。応力-歪み曲線の勾配は、λが約15を超えると急激に増加する。
【0122】
この異常なひずみ硬化挙動を定量化するため、接線弾性率E
t=dσ
true/dε
true(σ
trueは真応力、ε
trueは真ひずみ)を計算した(
図16)。非圧縮性を仮定して、σ
true = λσ
eng という単純な関係を用いた。E
tは異なる伸長比における見かけの硬さの尺度である。E
tは、初期値E
t,min 約1MPaから破断直前の最大値E
t,max 約2GPaまで成長し、その比(E
t,max/E
t,min)は約2,000倍である。また、ひずみ硬化を示す種々の人工ポリマー材料と天然生体組織(C.Wu et al., ACS Nano 2019, 13, 10727; C. Guo et al., Small 2017, 13, 1702266参照 )のE
t,max/E
t,minも評価した。
図17はE
t,max/E
t,min及びλ
breakのアシュビー型のプロットである。参照材料の選択は、さまざまな強靭化メカニズムに基づくハイドロゲル及びエラストマー(E. Ducrot et al., Science 2014, 344, 186; E. Filippidi et al, Science 2017, 358, 502; A. Watts, et al., Biomacromolecules 2017, 18, 1845; H. Kim et al., Macromolecules 2017, 50, 4267; J. Wu et al., Advanced Materials 2017, 29, 1702616; M. Vatankhah-Varnosfaderani et al., Nature 2017, 549, 497)、市販のゴムバンド、ならびに生体組織である。本実施例のエラストマーは、人類に知られている他のいかなる材料も到達したことのない前例のない領域にあることは明らかである。
【0123】
前駆体設計の影響も調べた。3-arm 30k、4-arm 20k、及び4-arm 40k前駆体から合成したエラストマーの応力-ひずみ曲線と引張特性を、参考資料の
図18及び表2で比較した。興味深いことに、λ
break、σ
break、E
γなどの特性は前駆体の設計に大きく依存しなかった。アームの長さが2倍違っても、大きな影響はなかった。ひずみ硬化の開始とその程度(E
t,max/E
t,min)も、これらのエラストマーでは同様であった。これらの観察結果は、後で述べるように、本願実施例のエラストマーのひずみ硬化メカニズムによって説明できる。
【0124】
さらに、このエラストマーの機械的耐久性を、繰返し負荷-除荷試験と切り込み(ノッチ)付き試験片を用いた試験の2つの方法で評価した。
【0125】
図19~22は、実施例のエラストマー(3-arm前駆体、M
n=30 kDa)の繰返し負荷-除荷試験を示す。リング状試験片をλ=1からλ=11まで伸ばした後、λ=1まで戻して解放した(
図19)。このサイクルを間隔を空けずに連続して100回繰り返した。
図20は、印加されたλと観測された応力σ
engの時間経過を示す。応力-ひずみ曲線を
図21に示す。最大応力と負荷の仕事(負荷ステップの応力-ひずみ曲線下面積)は、最初は減少するが、サイクルの経過とともにほぼ一定に保たれる。
【0126】
物理的損傷に対する耐久性は、切り込み付きリング試験片を用いて調べた(
図23(a))。カミソリの刃でリングピースに切り込みを入れた。切り込みの幅はリングの幅の約半分である。この切り込み試験片に、公称伸び率1.5~11の間で10回の繰返し負荷と除荷を与えた。連続サイクルは30秒間隔で行った。
図23(b)及び(c)は、試験中の切り込みを入れた片の写真である。
図23(b)には、印加した公称伸長比と観察された引張力を時間の関数としてプロットした。試験片の伸張によって切り込みはかなり広がったが、致命的な破壊には至らなかった。
図23(c)をよく観察すると、黄色い三角形で示された切り込みの開きは、荷重をかけた段階とかけた後の段階とで、公称λが同じであればほとんど同じである。これは、切り込みの伝播が非常に抑制されていることを示している。切り込みを施された試験片は、最終的に破断することなく10回の荷重-除荷サイクルに耐えた(
図23(d))。この優れた切り込み鈍感性は、極端なひずみ硬化性によるものと考えられる。切り込みに近い領域は、試験片の他の部分よりも大きなひずみを受ける。このひずみはすぐに硬化の開始ひずみに達する。この局所的なひずみ硬化は、切り込みのさらなる進展を効果的に阻止する。
【0127】
5.ひずみ硬化メカニズム
次に、このエラストマーの高強度と驚異的なひずみ強度発現のメカニズムの解明を目指した。そのために、本発明者らは一軸引張試験と小角/広角X線散乱(Tensile-SWAXS)実験を同時に行った。エラストマーのダンベル型試験片(4-arm 20k前駆体)をλ=1から13まで延伸し、その後λ=1まで除荷した。連続SWAXS測定を引張試験中に行った(図 24)。代表的な WAXS 及び SAXS 像をそれぞれ
図25及び26に、各λにおける子午線に沿った拡大像を
図27(a)及び(b)に示す。
【0128】
図27(a)の WAXS イメージストリップには、λが 9 までの伸張比では拡散したアモルファスハローしか見られないが、λ> 10 では拡散したハローの上に明るいスポットが現れる。このスポットは λが増加するにつれて強まり、その後 λが減少するにつれて弱まる。
図28(a)は、方位角86°≦β≦94°(β:方位角、β=0°,180°は延伸方向に対応)の範囲における画像のセクター平均によって得られた延伸過程における一次元WAXSプロファイルを示す。ひずみが大きいと、大きなピークと小さなショルダが現れる。
図28(b)は、アモルファスハローの上に2つのピークがあると仮定して、λ=12.3のプロファイルをピーク分離解析した結果である。各ピークは擬Voigt関数でモデル化している。複数の散乱ピークの出現は、延伸による結晶のような秩序の形成を示唆している。以下、この秩序化現象をひずみ誘起秩序化(SIO)と呼ぶ。
【0129】
図27(b)の小角散乱像では、延伸時に子午線に沿って鋭い筋が現れている。一次元SAXSプロファイルは、筋が現れた領域上でセクター平均することによって得られ、
図28(c)にプロットされた。プロファイルは、指数約3.2の単純なべき乗則I(q)∝q
-dに従っており、粗い界面の存在を示唆している。これは、WAXSで観察されるSIOの前駆体として機能するプレ秩序(preordered)相の形成によるものと推定される。
【0130】
SWAXS で観察された構造変化の定量化により、SIO メカニズムのさらなる洞察が得られた。WAXSで観察されたSIOは、
図28(a)のメインピークの強度として定量化され、延伸前のλ=1の値で正規化された。この値をi
WAXSと呼ぶ。SAXSにおける界面散乱は、べき乗モデル I(q) = Aq
-dを用いたフィッティングから推定されたq = 0.1 nm
-1における強度として測定した。強度を延伸前のλ=1の値で正規化し、i
SAXSと称する。これら2つの値と巨視的応力σ
engをλに対してプロットしたのが
図29(a)~(c)である。WAXS強度i
WAXSはλ=7付近で増加し始め(
図29(a))、これは巨視的応力の上昇の開始とほぼ一致する(
図29(c))。この観察結果は、SIOによって形成された秩序相が、おそらく無秩序鎖の集合体よりも剛性が高く、このエラストマーの並外れたひずみ硬化性を引き起こしていることを示唆している。
【0131】
図29(b)は、SAXS強度i
SAXSもλとともに増加することを示しているが、増加の開始λはiWAXSのそれよりもはるかに低い。さらに興味深いのは、i
SAXSはλ=6付近で増加が止まるという事実である。われわれは、このSAXS強度は、WAXSで見られるSIOの前に形成されたある種の前駆体相から生じているという仮説を立てた。λ=約6以下の領域(
図29(a)-(c)ではレジームIとして割り当てられている)では、ネットワーク鎖の適度な伸長により、粗い界面を有する前駆体相が徐々に成長する。その後、前駆体相はλ=約7を超えるひずみで、より整然とした構造に変化し、その結果、明瞭な WAXS ピークが出現する(レジームII)。
【0132】
先に発明者らは、ひずみ硬化挙動が前駆体の構造(アーム数と分子量、
図18)に大きく依存しないことを発見した。これはおそらく、ひずみ硬化が主にSIOに支配されるためであろう。前駆体のアーム数と分子量に関係なく、エラストマー中の高密度に充填された PMCL 鎖は同様のひずみ場を経験し、その結果、同様の SIO 挙動、ひいてはひずみ硬化が生じる。
【0133】
オールシス1,4-ポリイソプレンを主成分とする天然ゴムがひずみ誘起結晶化(SIC)を起こすことはよく知られている(M. Tosaka、Polymer Journal 2007, 39, 1207)。最近では、大きなひずみを受ける強靭なハイドロゲル中のポリ(エチレングリコール)(PEG)鎖にもSICが見出されている(C.Liu et al., Science 2021, 372, 1078; T.Fujiyabu et al., Sicence Advances 2022,8,eabk0010)。SICを示すポリマー(天然ゴムやPEGなど)は、もともと静止溶融状態で結晶化可能である。しかし、今回のケースでは、PMCLはメチル側基の立体不規則性により静止状態では全く結晶化しない。ここでは本発明者らは結晶化しない立体規則性ポリマーであっても、高度に均一な網目構造に極端なひずみを与えると、秩序立った構造を形成することができることを示した。
【0134】
【0135】
6.文献データの分析
図17に使用した材料の詳細を表3にまとめた。材料選択の主な基準はひずみ硬化である。一軸引張試験でひずみ硬化を示す材料を選択した。この基準下で材料の種類の多様性を可能な限り最大化するよう努めた。
【0136】
データの収集及び処理は以下のように行った。応力-ひずみ曲線のグラフは、文献からビットマップ画像として収集した。数値データは、デジタイジングソフトウェアWebPlotDigitizer を用いて抽出した。得られたデータの応力軸とひずみ軸を、必要に応じてそれぞれσengとλに変換した。σengからσtrueへの変換は、非圧縮性を仮定してσtrue = λσengに従って行った。
【0137】
異なるひずみレベルにおけるE
t= dσ
true/dε
trueは以下のように推定した。ここでは、市販のゴムバンドのデータを例として使用する(
図30)。まず、σ
eng vs. λの生データを σt
true vs. ε
true データに変換し、スプライン補間して等間隔データを得た。ひずみゼロと破断時ひずみ(サンプルが降伏挙動を示した場合は降伏ひずみ)の間の補間点を、等しい幅の区間に分割した。各区間の曲線が線形関数でフィッティングできるように、区間の数を調整した。区間数は通常10程度で、各区間には10個の補間データ点が含まれた。各区間のデータ点を直線でフィッティングし、その直線の傾きをE
tとした。区間のE
tの最高値と最低値を使用して
図17のE
t,max/E
t,minを得た。
図17は、様々なパラメータの選択肢によるアシュビー型プロットである。ほとんどの場合、実施例のエラストマーは、これまでに報告された材料がカバーする領域から突出しており、この材料のユニークさが実証されている。
【0138】
【0139】
7.X線吸光度の解析
1.方法のセクションで述べたように、Tensile-SWAXS実験中にX線透過率τ
xをモニターした。
図31は、伸張比 λ に対するX線吸光度A
X= -ln τ
Xのプロットである。試料の薄膜化による吸光度の減少は明らかである。入射ビームの全断面が引き伸ばされた試料を通過する場合(すなわち、ビームの幅が試料の幅より小さい場合)、ビームは試料に一様に吸収され、観測されるA
Xは単純なBeer-Lambert則に従う。試料が非圧縮性であれば、厚さはd = d
0λ
-1/2として変化する。さらに、μが伸縮によって変化しないと仮定すると、吸光度は A
X= μd
0λ
-1/2と表すことができる。したがって、A
X λ
1/2 はλに依存しない定数となる。
図31はA
Xλ
1/2 も示しており、これは実験中ほぼ一定である。このことは上記の仮定が正しいことを示唆している。したがって、d = d
0λ
-1/2を使用して、試料の厚さに対して散乱強度を適切に補正した。本研究で報告されたすべての散乱強度データは、これに応じて補正されている。
【0140】
試験2
1.方法
(1)材料
リン酸ジフェニル(DPP)、ジ(トリメチロールプロパン)(DTMP)及び1,5-ジオキセパン-2-オン(DXO)、p-トルエンスルホニルクロリド (TsCl)及び5,6,11,12-テトラデヒドロジベンゾ[a,e]シクロオクテン(DIBOD)は、東京化成工業株式会社(日本)から購入した。アジ化ナトリウム、ピリジン、1,1,2-トリクロロエタン、乾燥トルエン、乾燥N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)及び乾燥ジクロロメタン(DCM)は、富士フイルム和光純薬株式会社(日本)から購入した。すべての試薬は、特に断りのない限り、受け取った状態で使用した。
【0141】
(2)OH末端マルチアームポリ(1,5-ジオキセパン-2-オン)(PDXO)の合成
ここでは例としてOH末端4-arm 13kの合成を示す。撹拌子、110 mLバイアル、及び50mLスクリューバイアルを100℃のオーブンで乾燥させた。乾燥した 50 mL バイアルにDPP 4.999 g (19.94 mmol) を秤量した。5 mLプラスチックチューブにDTMP 498.88 mg(1.993 mmol)を秤量した。バイアル、プラスチックチューブを窒素充填グローブボックスに入れた。グローブボックス内で、110 mLバイアルにDXO 25.0 g(約215 mmol)を入れた。110 mLバイアル中のDXOを30 mLの乾燥トルエンに溶解させ、DMTPを加えた。50 mLバイアル中のDPPを乾燥トルエン20 mLに溶解し、この溶液を110 mLバイアルに加え、重合を開始した。反応の進行はNMR及びSECでモニターした。反応は180分後に過剰のTEAでDPPを中和することにより停止させた。粗混合物にメタノールを注ぎ、粘稠な沈殿物を遠心分離により分離し、これを合計3回繰り返した。生成物を最終的にガラスバイアルに収集し、室温で真空乾燥し、22.9 g(モノマー供給量に基づき92%)の褐色粘稠液を得た。特性評価結果は表4を参照。他のOH末端マルチアームPDXOを同様の方法で合成した。開始剤の供給量は、所望の分子量を得るために変化させた。
【0142】
(3)アジド末端マルチアームPDXOの合成
ここでは例としてアジド末端4-arm 11kの合成を示す。オーブンで乾燥させた200 mLシュレンク管に10.00 gのOH末端4-arm PDXO(Mn=13.2 kDa;0.76 mmol;3.04 mmolヒドロキシ末端基)、乾燥させたスクリューバイアルに5.78 gのTsCl(30.40 mmol;ヒドロキシ末端基に対して10.0当量)を秤量した。シュレンク管に乾燥DCMを50 mL入れて管内のポリマーを溶解させ、2.5 mLのピリジン(密度0.98 g/mL;30.97mmol) をシリンジで加えた。TsClをシュレンク管に加え、褐色の溶液を一晩撹拌した。粗混合物をメタノールで3回沈殿させた。生成物をガラスバイアルに収集し、室温で真空乾燥すると、10.2 g(約100%)の黄褐色の粘稠な液体として生成物が得られた。次に10.2 gのトシル末端化4-arm PDXO(Mn=13.8 kDa;0.74 mmol;2.96mmolトシル末端基)を乾燥DMF50mLに溶解させ、200 mLシュレンク管に入れた。乾燥させたスクリューバイアルに秤量したアジ化ナトリウム1.92 g(29.5 mmol;トシル末端基に対して10.0等量)をシュレンク管に加え、白濁した溶液を一晩撹拌した。粗生成物をメタノールで3回沈殿させた。生成物をガラスバイアルに収集し、室温で真空乾燥すると、9.4 g(約94%)の黄褐色の粘稠な液体として生成物が得られた。特性評価結果については表4を参照。異なる分子量を有するアジド末端PDXOの合成も同様に行った。
【0143】
(4)モジュール組立によるエラストマーの製造
典型的な実験では、70mgのポリマーを小さなガラス管に取った。250μLの乾燥DMFをチューブに加え、ポリマーを溶解させた。ポリマー末端のアジド基と架橋剤のアルキンが等量(架橋剤比 = 100 %)になるように所定濃度のDIBODのDMF溶液100μLを加え、チューブを数十秒間激しく振って溶液を均一化した。この溶液をマイクロピペットで慎重に金型に注入し、密封した後、室温で2日間硬化させた。次にゲルを型から取り出し、乾燥DMFに1日、DMFとトルエンの1:1混合液にさらに1日、そしてトルエンに1日以上浸漬させた。トルエンで完全に膨潤したゲルは、最後に空気中と真空中で1週間以上乾燥させ、淡褐色の透明なエラストマーを得た。断面が長方形のリング状のテストピースとダンベル状のテストピースを製造するために、2種類の金型を使用した。後者の形状はISO 37-1A(JIS K6251-3)の1/4スケールで、厚さは約0.1mmであった。
【0144】
(5)赤外分光法(IR)
末端間反応の定量は赤外分光法(IR)を用いて行った。典型的な実験では、120mgのポリマーを小さなガラス管に取り、500μLの1,1,2-トリクロロエタンをチューブに加え、ポリマーを溶解させた。所定濃度のDIBOD溶液100μLを加え、チューブを数十秒間激しく振って溶液を均一化し、ポリマー溶液を溶液セル(窓板:KBr)に注入した。IRスペクトルはIRAffinity-1S (株式会社島津製作所, 日本)を用いて、反応中一定時間ごとに測定した。
【0145】
(6)一軸引張試験
一軸伸長試験は、試験1と同様に実施した。
【0146】
2.4分岐型の前駆体ポリマーの合成
マルチアームPDXOは、テトラオールから、モノマーであるDXOを酸触媒により開環重合することによって合成された。その後、各鎖末端のヒドロキシ基をトシラート基を経由してアジド基に変換した。前駆体ポリマーの合成スキームをそれぞれスキーム3及び4に示す。
【0147】
まず、OH末端マルチアームPDXOを合成した(スキーム3)。
図32は、合成したOH末端4-arm 13k PDXOの
1H NMRスペクトルである。
1H NMRに基づく数平均分子量M
n(NMR)は、開始剤残基の-CH
2-O-と繰り返し単位中の-CH
2-O-の積分比により決定した。ポリマーのSEC曲線を
図34に、光散乱検出器を用いて求めたM
n(SEC-LS)を表4に示す。低い多分散性(M
w/M
n < 1.1)で単峰性の分子量分布を示し、M
n(NMR)とM
n(SEC)はよく一致し、重合がよく制御されていることを示した。
【0148】
次に、OH末端を2段階の反応によりアジド末端に変換した(スキーム4)。OHとTsClの反応によりトシラートとしたのち、アジ化物イオンの求核置換反応によりアジド末端を得た。代表例として、アジド末端4-arm 11k PDXOの
1H NMRスペクトルを
図33に示す。-O-CH
2-CH
2-OH末端に由来する3.6 ppmのシグナルが、-O-CH
2-CH
2-N
3に由来する3.4 ppmに移動している。開始剤由来の-CH
2-O-とアジド末端の-O-CH
2-CH
2-N
3の積分比から求めた末端修飾率を表4に示した。いずれのポリマーにおいても90%以上の末端にアジド基が導入された。生成物のSEC曲線を
図34に、M
n(SEC)とM
w/M
nを表4に示す。M
nおよび単峰性の分子量分布が反応前後で維持されている。以上より、我々は狭い分子量分布を有するアジド末端マルチアームPDXOの合成に成功した。
【0149】
【0150】
【表4】
a: 繰り返し単位中の末端-CH
2-OHと-CH
2-O-の積分比から求めた。
b: 標準ポリスチレンを校正物質として用い、光散乱検出器と組み合わせたSECにより測定。
c: 開始剤由来の-CH
2-O-とアジド末端の-CH
2-CH
2-N
3の積分比から求めた。
【0151】
3.エラストマーの合成
2.で製造した前駆体ポリマーを、二つの歪んだアルキン結合を有するDIBODリンカーと溶液中で混合した。ポリマー末端のアジド基とDIBOD中のアルキン結合の間の高効率なカップリング反応(ひずみ促進アジド-アルキン環化付加反応)により、混合物は数分程度でゲル化した。このゲルを乾燥し、無溶媒エラストマーを得た。
【0152】
アジド基とアルキン結合の反応率はIRにより調査した。アジド末端PDXO溶液のIRスペクトルでは、末端のアジド基の伸縮振動に由来するピークが2100 cm
-1付近に観察された。DIBODと混合した後のゲル化過程におけるスペクトルの時間変化を追跡した結果、時間経過とともに2100 cm
-1のピークは減少し、長時間の反応後にはほとんど消失した(
図35)。ピークの面積からアジド基の反応率を算出したところ、最終的な反応率は99%であった。このことから、アジドとアルキンが等量存在する場合には、ネットワーク内に一方のポリマー鎖末端のみがネットワークにつながったダングリング鎖がほとんど存在しないことが分かった。
【0153】
次に、加えるDIBODの量を量論比から減らすことで、ダングリング鎖の導入を試みた。ポリマー末端の数に対するDIBOD中のアルキンの数の比を架橋剤比と定義する。架橋剤比を変化させた際の反応率の変化をIRにより調査した。架橋剤比をそれぞれ90,80,70%に設定して調製した場合の最終的な反応率は、それぞれ85,81,68%となった(
図36、表5)。このことから、架橋剤比を減少させることで、末端アジド基が未反応のまま残っているダングリング鎖を所望の割合でネットワーク内に導入できることが明らかとなった。
【0154】
【0155】
【0156】
4.エラストマーの物性の評価
図37と表6に分子量の異なる前駆体ポリマーから合成したエラストマーの一軸伸長試験の結果を示す。特に、三つの前駆体ポリマーから合成したものはいずれも高い延伸性(λ
break16以上)と強度(σ
break 13 MPa以上)を示し、高い靭性が実証された。λが約12までの範囲では1 MPa以下の低い応力で推移した後、λが約12を超えると応力-ひずみ曲線の勾配は急激に増加し、試験1と同様の特異なひずみ硬化が見られた。
【0157】
図38と表7に、4-arm 11k PDXOを用いたエラストマーにおいて反応率を変化させた場合の一軸伸長試験の結果を示す。反応率を低下させた場合にも、急激なひずみ硬化が観察された。反応率の低下とともにλ
breakは増加、σ
breakは低下し、さらにひずみ硬化がより高いλで開始するようになった。
【0158】
より定量的にこのひずみ硬化を解析するために、試験1と同様の方法で接線弾性率の最小値Et,minと最大値Et,maxを計算した。結果を表6および表7に示す。表6から、調べた前駆体ポリマーの分子量範囲においてはEt,minとEt,maxはほぼ前駆体ポリマーの分子量に依存せず、最大値と最小値の比Et,max/Et,minは約4,000~5,000倍と、試験1で到達した値よりもさらに高い値を示した。これに対し、反応率を低下させた場合には、Et,minとEt,maxはどちらも減少した(表7)。これは反応率の低下に伴って架橋密度が低下したことに起因すると考えられる。一方で対応するEt,max/Et,minは約5000~6000倍で大きく変化せず、ひずみ硬化の程度はネットワーク構造に依存しないことが示唆された。
【0159】
エラストマーの高強度とひずみ硬化の発現メカニズムを確認するために、一軸引張試験と広角X線散乱実験の同時測定(Tensile-WAXS)を行った。前駆体ポリマーとして4-arm 9kを用いたエラストマーのダンベル型試験片をλ=1から14まで延伸し、その過程で連続WAXS測定を行った。
図39(a)及び(b)に応力-ひずみ曲線と代表的なλにおける二次元WAXS像をそれぞれ示す。λが10より小さい領域ではブロードな非晶ハロのみが観察されるが、応力-ひずみ曲線においてひずみ硬化が開始するλ=10付近を越えると、ハロの上に明るいスポットが現れる。このスポットはλが増加するにつれて強まった。これは試験1のエラストマーと同様の結果であり、試験2のエラストマーにおいても、SIOによって形成された秩序相により並外れたひずみ硬化性が引き起こされたと考えられる。
【0160】
【0161】