(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024102078
(43)【公開日】2024-07-30
(54)【発明の名称】カルボキシマルトース第二鉄による鉄欠乏症の治療
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7135 20060101AFI20240723BHJP
A61P 7/06 20060101ALI20240723BHJP
A61K 33/26 20060101ALI20240723BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240723BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240723BHJP
A61K 31/59 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
A61K31/7135
A61P7/06
A61K33/26
A61P43/00 121
A61K39/395 N
A61K31/59
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024063262
(22)【出願日】2024-04-10
(62)【分割の表示】P 2021522342の分割
【原出願日】2019-10-29
(31)【優先権主張番号】18203223.5
(32)【優先日】2018-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】18203818.2
(32)【優先日】2018-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】511228241
【氏名又は名称】ファーマコスモス ホールディング エー/エス
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】シデルマン クリステンセン, トビアス
(72)【発明者】
【氏名】シャファリッツキー デ ムッカデル, フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】トムスン, ラース ルゲ
(72)【発明者】
【氏名】ストローム, クラース クリスティアン
(57)【要約】 (修正有)
【課題】鉄欠乏症を治療する方法を提供する。
【解決手段】カルボキシマルトース第二鉄の第1の用量及び第2の用量を投与することを含む、鉄欠乏症を治療する方法であって、ここで、第1の用量と第2の用量との間の時間が少なくとも10日である、方法とする。好ましくは、前記第1の用量及び前記第2の用量はそれぞれ、元素鉄の500mgを超えないか、又は12か月の期間内に投与される元素鉄の総量が5000mgを超えない、方法である。さらに、前記カルボキシマルトース第二鉄の投与に対する適格性を決定するための対象のモニタリング又は同定、及びカルボキシマルトース第二鉄によって誘発される副作用を軽減又は低下させるための前記カルボキシマルトース第二鉄体と追加の薬物との組み合わせを提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシマルトース第二鉄の第1の用量及び第2の用量を投与することを含む、鉄欠乏症を治療する方法であって、ここで、第1の用量と第2の用量との間の時間が少なくとも10日である、方法。
【請求項2】
カルボキシマルトース第二鉄の第1の用量及び第2の用量を投与することを含む、鉄欠乏症を治療する方法であって、ここで、第1の用量及び第2の用量はそれぞれ、元素鉄の500mgを超えないか、又は12か月の期間内に投与される元素鉄の総量が5000mgを超えない、方法。
【請求項3】
対象にカルボキシマルトース第二鉄を投与することを含む、鉄欠乏症を治療する方法であって、ここで、対象はFGF23媒介性副作用のリスクが低減されている、方法。
【請求項4】
FGF23媒介性副作用のリスクが低減された対象が、
(1)正常な血清リン酸塩レベル、特に>2.5mg/dL;
(2)正常な血清ビタミンDレベル、特に1,25-ジヒドロキシビタミンDレベルが以下の範囲内である:男性:<16歳:24-86pg/mL、≧16歳:18-64pg/mL、女性:<16歳:24-86pg/mL、≧16歳:18-78pg/mL;
(3)正常な血清イオン化カルシウムレベル、特に1.16-1.32mg/dL;
(4)正常な血清PTHレベル、特に15-65pg/mL;
(5)正常な尿中リン酸塩部分排泄率、特に10-20%のFEPi(0.1-0.2分画);及び
(6)(1)、(2)、(3)、(4)及び(5)の組み合わせ
からなる群から選択される血液又は尿パラメータを有する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
FGF23媒介性副作用のリスクが低減された対象が、
(1)正常な血清骨特異的アルカリホスファターゼレベル、特に6.5-22.4U/L;
(2)正常な血清アルカリホスファターゼレベル、特に31-40U/L;
(3)正常な血清I型コラーゲンのN末端プロペプチド(PINP)レベル、特に15.13-85.50ng/mL;
(4)正常な血清カルボキシ末端コラーゲン架橋(CTx)レベル、特に0.03-1.01ng/mL;及び
(5)(1)、(2)、(3)及び(4)の組み合わせ
からなる群から選択される血液パラメータを有する、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
FGF23媒介性副作用のリスクが低減された対象が、以下の除外基準:
(1)減量手術を受けたことがある;
(2)肥満;
(3)不整脈のリスクが高い心臓疾患;
(4)原発性又は続発性副甲状腺機能亢進症;
(5)喘息又は慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの肺障害
(6)X連鎖性低リン血症、常染色体優性低リン血症性くる病、常染色体劣性低リン血症性くる病などの低リン血症をもたらす遺伝性疾患;
(7)続発性低リン血症又は腫瘍誘発性低リン血症;
(8)例えば骨粗鬆症又は骨軟化症などの、骨の障害;及び
(9)鉄投与後1日から2か月以内に手術が予定されている
のうちの1つ又は複数、特に全てがないことによって特徴づけられる、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
FGF23媒介性副作用のリスクが低減された対象が、最大呼吸圧及び/又は最大吸気圧、特に、男性:≧117-(0.83x年齢)cm H2O、女性:≧95-(0.57x年齢)cm H2Oの最大呼吸圧;及び/又は男性:≧62-(0.15x年齢)cm H2O、女性:≧62-(0.50x年齢)cm H2Oの最大吸気圧として測定される正常な呼吸容量によって特徴づけられる、請求項3に記載の方法。
【請求項8】
カルボキシマルトース第二鉄の第1の用量を投与された対象をモニタリングする方法であって、対象から得られた生物学的試料において、(1)血清リン酸塩レベル、(2)血清ビタミンDレベル、(3)血清イオン化カルシウムレベル、(4)血清PTHレベル及び(5)尿中リン酸塩部分排泄率からなる群から選択される少なくとも1つの血液又は尿パラメータを決定することを含み、ここで、少なくとも1つの血液又は尿パラメータが請求項4において定義されるとおりである場合、対象はカルボキシマルトース第二鉄の第2の用量を投与されるのに適格である、方法。
【請求項9】
カルボキシマルトース第二鉄の第1の用量を投与された対象をモニタリングする方法であって、対象から得られた生物学的試料において、(1)血清骨特異的アルカリホスファターゼレベル、(2)血清アルカリホスファターゼレベル、(3)血清I型コラーゲンのN末端プロペプチド(PINP)レベル、及び(4)血清カルボキシ末端コラーゲン架橋(CTx)レベルからなる群から選択される少なくとも1つの血液パラメータを決定することを含み、ここで、少なくとも1つの血液パラメータが請求項5において定義されるとおりである場合、対象はカルボキシマルトース第二鉄の第2の用量を投与されるのに適格である、方法。
【請求項10】
対象の呼吸容量を決定することを含む、カルボキシマルトース第二鉄の第1の用量を投与された対象をモニタリングする方法であって、ここで、呼吸容量が正常である場合、対象はカルボキシマルトース第二鉄の第2の用量を投与されるのに適格である、方法。
【請求項11】
FGF23媒介性副作用のリスクが低減された対象を同定する方法であって、対象から得られた生物学的試料において、(1)血清リン酸塩レベル、(2)血清ビタミンDレベル、(3)血清イオン化カルシウムレベル、(4)血清PTHレベル及び(5)尿中リン酸塩部分排泄率からなる群から選択される少なくとも1つの血液又は尿パラメータを決定することを含み、ここで、少なくとも1つの血液又は尿パラメータが請求項4において定義されるとおりである場合、対象はFGF23媒介性副作用のリスクが低減されている、方法。
【請求項12】
FGF23媒介性副作用のリスクが低減された対象を同定する方法であって、対象から得られた生物学的試料において、(1)血清骨特異的アルカリホスファターゼレベル、(2)血清アルカリホスファターゼレベル、(3)血清I型コラーゲンのN末端プロペプチド(PINP)、及び(4)血清カルボキシ末端コラーゲン架橋(CTx)レベルからなる群から選択される少なくとも1つの血液パラメータを決定することを含み、ここで、少なくとも1つの血液パラメータが請求項5において定義されるとおりである場合、対象はFGF23媒介性副作用のリスクが低減されている、方法。
【請求項13】
FGF23媒介性副作用のリスクが低減された対象を同定する方法であって、対象が以下の除外基準:
(1)減量手術を受けたことがある;
(2)肥満;
(3)不整脈のリスクが高い心臓疾患;
(4)原発性又は続発性副甲状腺機能亢進症;
(5)喘息又は慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの肺障害
(6)X連鎖性低リン血症、常染色体優性低リン血症性くる病、常染色体劣性低リン血症性くる病などの低リン血症をもたらす遺伝性疾患;
(7)続発性低リン血症又は腫瘍誘発性低リン血症;
(8)例えば骨粗鬆症又は骨軟化症などの、骨の障害;及び
(9)鉄投与後1日から2か月以内に手術が予定されている
のうちの1つ又は複数、特に全てによって特徴づけられるかどうかを決定することを含み、ここで、対象が、前期除外基準のうちの1つ又は複数、特に全てがないことによって特徴づけられる場合、対象はFGF23媒介性副作用のリスクが低減されている、方法。
【請求項14】
対象の呼吸容量を決定することを含む、FGF23媒介性副作用のリスクが低減された対象を同定する方法であって、ここで、呼吸容量が正常である場合、対象はFGF23媒介性副作用のリスクが低減されている、方法。
【請求項15】
鉄欠乏症の治療における使用のためのカルボキシマルトース第二鉄と、1つ又は複数の追加の薬物との組み合わせであって、ここで、追加の薬物が、
(1)カルシトリオール、アルファカルシドール、コレカルシフェロール又はエルゴカルシフェロールなどのビタミンD;及び
(2)ブロスマブなどの抗FGF23アンタゴニスト抗体
からなる群から選択される、組み合わせ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、IV鉄炭水化物複合体による鉄欠乏症の治療、前記IV鉄炭水化物複合体の投与に対する適格性を決定するための対象のモニタリング又は同定、及びIV鉄炭水化物複合体によって誘発される副作用を軽減又は低下させるための前記IV鉄炭水化物複合体と追加の薬物との組み合わせの分野に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
鉄欠乏(ID)は、重要な酸素輸送体であるヘモグロビンを生産する身体の能力を低下させ、主要なエネルギー(ATP)を生成する酵素の機能を低下させる。その結果、症状としては、疲労のほか、心拍数の増加、息切れ、胸痛などのエネルギー不足の兆候が含まれる。
【0003】
IDは深刻な結果をもたらす。慢性心不全(CHF)患者では、死亡又は入院のリスクは、正常な鉄状態を有する患者と比較してIDの患者で増加する。生活の質(QoL)は深刻な影響を受け、鉄貯蔵が回復すると急速に改善する。手術を受けるID又はIDAの患者は、一部には輸血のリスクが高いため、転帰が不良である。母体の鉄欠乏は、早産及び胎児の脳の発達障害のリスクの増加と関連している。
【0004】
鉄貯蔵が枯渇すると、鉄欠乏性貧血(IDA)を発症する。これは一般的である。WHOによると、世界中で約10億人がIDAに罹患している。450万人の患者がIDAと診断されている。ほとんどのIDA患者では、毎日の経口鉄は第一選択療法であるが、コンプライアンスの欠如、有効性の欠如及び副作用のために失敗することが多い。
【0005】
高用量静注(IV)鉄は魅力的な治療選択肢である。患者は典型的には、年間1-3グラムの鉄を必要とし、高用量のIV鉄は効果的かつ迅速に症状を改善し、ヘモグロビンレベルを増加させる。高用量のIV鉄は1回又は数回の来院で治療を可能にし、IV鉄は経口鉄が効かない患者に対する唯一の選択肢である。
【0006】
カルボキシマルトース第二鉄(FCM)は、新世代の高用量IV鉄製剤に属する。従来の低用量製剤(グルコン酸第二鉄及びスクロース鉄)では5-20回の来院が必要であったが、これらの新世代製剤は、本製剤の高速注入により、1回又は2回の来院で鉄補正を可能にする。
【0007】
鉄欠乏症又は鉄欠乏性貧血を治療するためにヒトに静脈内投与したとき、全ての鉄複合体について中等度かつ一過性の血清リン酸塩(S-リン酸塩)の減少が観察されている。この一般的な現象は、非経口鉄療法の主な意図された効果である赤血球生成におけるリン酸塩の消費と関連していると考えられている。例えば、Van Wyck et al., 2009を参照のこと。他の人は、腎リン酸塩の損失が近位尿細管細胞に対するIV鉄の直接的な毒性効果による近位尿細管機能障害の結果である可能性があると仮定するリン酸塩消耗の理論を支持している。Prats et al., 2013.
【0008】
カルボキシマルトース第二鉄(FCM)は、透析を受けていないID又はIDAの患者を治療するために非常に一般的に使用される鉄炭水化物複合体である。これは、米国ではInjectafer(登録商標)の商品名で、EU及びその他の多くの国ではFerinject(登録商標)の商品名で市販されている。FCMの典型的な治療計画は、1週間間隔で静脈内注入として投与される750mgの元素鉄の2回の用量(これは米国のラベルによると承認された使用法である)、又は1000mgの元素鉄の注入とその1週間後に500-1000mgの追加用量(これはEUのラベルによると承認された使用法である)のいずれかで構成される。
【0009】
FCMは、デキストラン鉄(Wolf et al., 2013)、スクロース鉄(WO2013/134273A1)及びイソマルトシド鉄1000(Bager et al., 2016, Schaefer et al., 2016, Zoller et al., 2017)と比較して、血清リン酸塩の大幅かつ長期の低下をもたらし、その結果、低リン血症、すなわち血清リン酸塩が低すぎることを特徴とする状態の有病率が高くなることが示されている。
【0010】
しかしながら、FCMによる治療に起因する低リン血症(Anand G, Schmid C, BMJ Case rep 2017)及びその後数か月間に発生する骨軟化症などのその後の骨合併症(例えば、Schaefer et al. 2017; Klein et al. 2018)に関する個別の症例報告があるものの、このような知見は大多数の出版物によって積極的に反論されているか、好奇心をそそるほど珍しいものと特徴づけられている。FCMの使用に関する多数の科学出版物は、関連する低リン血症が、一過性、無症候性及び/又は臨床的に無関係であるとどのように考えられるかを記載している。例えば、Aksan et al., 2007; Bregman et al., 2014; Charytan et al., 2013; Evstatiev, 2011; Hussain et al., 2013; Ikuta etal., 2018; Prats et al., 2013; Qunibi et al., 2011; Sari et al., 2017; Seid et al., 2008; Stein et al., 2018; Van Wyck et al., 2009を参照。この観点は、生化学的パラメータの変化にもかかわらず、低下したリン酸塩レベルの短期的な臨床的影響を実証する研究がないことによってこれまで支持されてきた。
【0011】
米国及びEUの規制当局もこれまでのところ、FCM関連低リン血症は一過性で、無症候性であり、臨床的に無関係であるという立場を取っている。米国FDAは、2007年の非承認書簡において、臨床的に重要な低リン血症を、製品の安全性を検証するために追加の臨床データによって解決する必要がある3つの潜在的な安全性リスクの1つとして記載していたが、Injectafer(登録商標)のスポンサーによるその後のデータの提出により、臨床的に重要な低リン血症の問題を含む非承認書簡において提起された全ての臨床的(有効性及び安全性)問題は、十分に解決されていると2013年に結論づけた(米国連邦医薬品局医薬品評価研究センター、申請番号:203565Orig1s000、要約レビュー2013)。FCMに伴う低リン血症は軽度で一過性であるという見解は、現在承認されているラベルにも反映されており、このラベルには、副作用として低リン血症が記載されているが、短期的又は長期的な結果のいずれの観点からも、低リン血症に関連する特別な警告は提供されていない。それどころか、副作用としてのその記載は別として、欧州におけるFCMの規制承認の一部を形成する欧州製品概要(SmPC)における低リン血症の唯一の言及は、以下の声明である:「臨床試験では、血清リンの最小値は約2週間後に得られ、フェインジェクト治療後4~12週間でその値はベースラインの範囲内に戻っていた」。
【0012】
線維芽細胞成長因子23(FGF23)は、リン酸塩及びビタミンDの恒常性を調節する骨細胞由来ホルモンである。それはタンパク質分解による切断を受け、その結果、切断されていない、つまりインタクトなFGF23(iFGF23)の混合物となり、その切断断片はin vivoで見出される。静脈内鉄に応答した血清リン酸塩の減少は、FGF23の急激な増加によって媒介されることが示唆されたため、Wolfらは、大量の子宮出血に続発する鉄欠乏性貧血の女性のC末端及びインタクトなFGF23レベルに対する鉄欠乏及びその急速な補正の影響を調べた。彼らの知見は、鉄欠乏がC末端FGF23(cFGF23)レベルを増加させ、FCMが一時的にiFGF23レベルを増加させ、血清リン酸塩を減少させることを示唆した。Wolf et al., 2013;WO2013/134273A1.
【0013】
驚くべきことに、当技術分野における一般的な理解に反して、現在の実践に従ったFCMによる治療は、筋機能の低下及び骨代謝回転の増加などの直接的な臨床結果をもたらすことを見出した。さらに、1週間間隔でFCMを繰り返し投与することに関する現在の実践は、iFGF23に自己相乗的影響をもたらし、2回目の投与は1回目の投与よりも2-3倍高い増加につながることを見出した。
【0014】
この理解に基づいて、根底にあるID又はIDAの治療においてFCMを使用する改善された方法の必要性が明らかに存在し、その方法は、筋機能の低下及び骨代謝回転の増加などのiFGF23誘発性の帰結のリスクを実質的に減少させる。FCM治療のこれら及び他のiFGF23誘発性の代謝、栄養、筋骨格への影響は、以下、iFGF23媒介性又はiFGF23誘発性副作用と呼ばれる。
【発明の概要】
【0015】
要旨
本発明の一態様では、カルボキシマルトース第二鉄による治療は、有効性を失うことなく完了することができるが、自己相乗作用を回避するために、投与されるFCMのタイミング及び/又は量を調整することにより、iFGF23媒介性副作用のリスクが低減される。
【0016】
本発明の第2の態様では、患者は、IV鉄の適格性を規定するために一般的に使用される基準、すなわちID又はIDAの診断、及び経口鉄を許容又は吸収する能力の潜在的な欠如に基づいてのみならず、iFGF23媒介性副作用に苦しむ可能性がより低いことに基づいて、カルボキシマルトース第二鉄による治療のために選択される。
【0017】
本発明の第3の態様では、カルボキシマルトース第二鉄の第1の用量を投与された対象をモニターし、対象がカルボキシマルトース第二鉄の第2の用量を投与されるのに適格であるかどうか、又はいつであるかを決定する。
【0018】
本発明の第4の態様では、FGF23媒介性副作用のリスクが低減された対象が同定される。
【0019】
本発明の第5の態様では、カルボキシマルトース第二鉄は、iFGF23媒介性副作用の影響を軽減又は低下させるために、支持薬物と組み合わされる。
【0020】
これらの態様に沿って、本発明は特に、定義された計画に従って、及び/又は対象の選択されたサブグループにカルボキシマルトース第二鉄を投与することを含む、鉄欠乏症を治療する方法;FCMの第1の用量を投与された対象をモニタリングして、さらなるFCM投与のタイミング及び/又は量を調整するための、又は本発明の治療方法に適した対象を同定するための診断方法;及びiFGF23媒介性副作用の影響を軽減又は低下させる他の薬物とFCMの組み合わせに関する。
【0021】
前記第1の態様の第1の実施態様では、本発明は、カルボキシマルトース第二鉄の第1の用量及び第2の用量を投与することを含む、鉄欠乏症を治療する方法であって、ここで、第1の用量と第2の用量との間の時間が少なくとも10日である、方法に関する。
【0022】
前記第1の態様の第2の実施態様では、本発明は、カルボキシマルトース第二鉄の第1の用量及び第2の用量を投与することを含む、鉄欠乏症を治療する方法であって、ここで、第1の用量及び第2の用量はそれぞれ、元素鉄の500mgを超えない、方法に関する。
【0023】
前記第1の態様の第3の実施態様では、本発明は、カルボキシマルトース第二鉄の1回以上の用量を投与することを含む、鉄欠乏症を治療する方法であって、ここで、12か月の期間内に投与される元素鉄の総量は5000mgを超えない、方法に関する。
【0024】
前記第2の態様の第1の実施態様では、本発明は、カルボキシマルトース第二鉄を投与することを含む鉄欠乏症を治療する方法であって、ここで、FGF23媒介性副作用のリスクが低減された対象は、本明細書に開示される血液パラメータを有する、方法に関する。
【0025】
前記第2の態様の第2の実施態様では、本発明は、カルボキシマルトース第二鉄を投与することを含む鉄欠乏症を治療する方法であって、ここで、FGF23媒介性副作用のリスクが低減された対象は、本明細書中に開示される除外基準がないことによって特徴づけられる、方法に関する。
【0026】
前記第2の態様の第3の実施態様では、本発明は、カルボキシマルトース第二鉄を投与することを含む鉄欠乏症を治療する方法であって、ここで、FGF23媒介性副作用のリスクが低減された対象は、本明細書に開示される呼吸容量によって特徴づけられる、方法に関する。
【0027】
前記第3の態様の第1の実施態様では、本発明は、カルボキシマルトース第二鉄の第1の用量を投与された対象をモニタリングする方法であって、対象から得られた生物学的試料において、(1)血清リン酸塩レベル、(2)血清ビタミンDレベル、(3)血清イオン化カルシウムレベル、(4)血清PTHレベル及び(5)尿中リン酸塩部分排泄率からなる群から選択される少なくとも1つの血液又は尿パラメータを決定することを含み、ここで、少なくとも1つの血液又は尿パラメータが本明細書に開示されるとおりである場合、対象はカルボキシマルトース第二鉄の第2の用量を投与されるのに適格である、方法に関する。
【0028】
前記第3の態様の第2の実施態様では、本発明は、カルボキシマルトース第二鉄の第1の用量を投与された対象をモニタリングする方法であって、対象から得られた生物学的試料において、(1)血清骨特異的アルカリホスファターゼレベル、(2)血清アルカリホスファターゼレベル、(3)血清I型コラーゲンのN末端プロペプチド(PINP)レベル、及び(4)血清カルボキシ末端コラーゲン架橋(CTx)レベルからなる群から選択される少なくとも1つの血液パラメータを決定することを含み、ここで、少なくとも1つの血液パラメータが本明細書に開示されるとおりである場合、対象はカルボキシマルトース第二鉄の第2の用量を投与されるのに適格である、方法に関する。
【0029】
前記第3の態様の第3の実施態様では、本発明は、対象の呼吸容量を決定することを含む、カルボキシマルトース第二鉄の第1の用量を投与された対象をモニタリングする方法であって、ここで、呼吸容量が本明細書に開示されるとおりである場合、対象はカルボキシマルトース第二鉄の第2の用量を投与されるのに適格である、方法に関する。
【0030】
前記第4の態様の第1の実施態様では、本発明は、FGF23媒介性副作用のリスクが低減された対象を同定する方法であって、対象から得られた生物学的試料において、(1)血清リン酸塩レベル、(2)血清ビタミンDレベル、(3)血清イオン化カルシウムレベル、(4)血清PTHレベル及び(5)尿中リン酸塩部分排泄率からなる群から選択される少なくとも1つの血液又は尿パラメータを決定することを含み、ここで、少なくとも1つの血液又は尿パラメータが本明細書に開示されるとおりである場合、対象はFGF23媒介性副作用のリスクが低減されている、方法に関する。
【0031】
前記第4の態様の第2の実施態様では、本発明は、FGF23媒介性副作用のリスクが低減された対象を同定する方法であって、対象から得られた生物学的試料において、(1)血清骨特異的アルカリホスファターゼレベル、(2)血清アルカリホスファターゼレベル、(3)血清I型コラーゲンのN末端プロペプチド(PINP)レベル、及び(4)血清カルボキシ末端コラーゲン架橋(CTx)レベルからなる群から選択される少なくとも1つの血液パラメータを決定することを含み、ここで、少なくとも1つの血液パラメータが本明細書に開示されているとおりである場合、対象はFGF23媒介性副作用のリスクが低減されている、方法に関する。
【0032】
前記第4の態様の第3の実施態様では、本発明は、FGF23媒介性副作用のリスクが低減された対象を同定する方法であって、対象が以下の除外基準:
(1)減量手術を受けたことがある;
(2)肥満;
(3)不整脈のリスクが高い心臓疾患;
(4)原発性又は続発性副甲状腺機能亢進症;
(5)喘息又は慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの肺障害
(6)X連鎖性低リン血症、常染色体優性低リン血症性くる病、常染色体劣性低リン血症性くる病などの低リン血症をもたらす遺伝性疾患;
(7)続発性低リン血症又は腫瘍誘発性低リン血症;
(8)例えば骨粗鬆症又は骨軟化症などの、骨の障害;及び
(9)鉄投与後1日から2か月以内に手術が予定されている
のうちの1つ又は複数、特に全てによって特徴づけられるかどうかを決定することを含み、ここで、対象が、除外基準のうちの1つ又は複数、特に全てがないことによって特徴づけられる場合、対象はFGF23媒介性副作用のリスクが低減されている、方法。
【0033】
前記第4の態様の第4の実施態様では、本発明は、対象の呼吸容量を決定することを含む、FGF23媒介性副作用のリスクが低減された対象を同定する方法であって、ここで、呼吸容量が本明細書に開示されるとおりである場合、対象はFGF23媒介性副作用のリスクが低減されている、方法に関する。
【0034】
前記第5の態様の第1の実施態様では、本発明は、カルボキシマルトース第二鉄と、以下からなる群から選択される1つ又は複数の追加の薬物との組み合わせに関する:
(1)カルシトリオールなどのビタミンD;
(2)グルコース-1-リン酸、リン酸カルシウム、又はリン酸ナトリウムなどのリン酸塩;及び
(3)ブロスマブなどの抗FGF23アンタゴニスト抗体。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】
図1は、IDA-04試験における低リン血症の発生(主要評価項目)の分析をまとめた表である。
【
図2】
図2は、IDA-05試験における低リン血症の発生(主要評価項目)の分析をまとめた表である。
【
図3】
図3は、来院毎のリン酸塩レベル≦2.0mg/dLの発生率を示す(IDA-04とIDA-05の組み合わせ、FCM:左側のバー、IIM:右側のバー)。
【
図4】
図4は、来院毎のリン酸塩レベル≦1.0mg/dLの発生率を示す(IDA-04とIDA-05の組み合わせ、FCM:左側のバー、IIM:右側のバー)。
【
図5】
図5は、経時的な平均絶対リン酸塩レベルを示す(IDA-04とIDA-05の組み合わせ)。
【
図6】
図6は、iFGF23の経時的な変化を示す(IDA-04)。
【
図7】
図7は、iFGF23の経時的な変化を示す(IDA-05)。
【
図8】
図8は、cFGF23の経時的な変化を示す(IDA-04)。
【
図9】
図9は、cFGF23の経時的な変化を示す(IDA-05)。
【
図10】
図10は、尿中リン酸塩部分排泄率の経時的な変化を示す(IDA-04とIDA-05の組み合わせ)。
【
図11】
図11は、ビタミンDレベルの経時的なベースラインからの平均変化と絶対変化を示す(IDA-04とIDA-05の組み合わせ)。
【
図12】
図12は、インタクトな副甲状腺ホルモンレベルの経時的なベースラインからの変化と絶対変化を示す(IDA-04とIDA-05の組み合わせ)
【
図13】
図13は、カルシウムイオンの経時的なベースラインからの変化と絶対変化を示す(IDA-04とIDA-05の組み合わせ)。
【
図14】
図14は、筋機能及び骨代謝回転のいくつかのマーカーの経時的な平均変化を示す(IDA-04とIDA-05の組み合わせ)。
【
図15】
図15は、呼吸筋力の経時的な平均変化を示す(IDA-04とIDA-05の組み合わせ)。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本明細書において、鉄炭水化物複合体を投与することを含む鉄欠乏症を治療する治療法、鉄炭水化物複合体の第1の用量を投与された対象をモニタリングする方法、本発明の治療法に適した対象を同定する方法、及び鉄炭水化物複合体と追加の薬物との組み合わせが記載され、ここで、鉄炭水化物複合体は治療中の対象におけるiFGF23レベルの有意な(例えば、統計的に有意な)増加を誘発する。したがって、本発明の方法は、iFGF23の有意な増加を誘導する機構を共有し、その結果、血清リン酸塩レベルを低下させ、ひいては低リン血症を引き起こし得る複合体に適用可能である。これには、ヨーロッパと米国で一般的に使用されている他のIV鉄剤(スクロース鉄(Venofer(登録商標))、グルコン酸鉄(Ferrlecit(登録商標))、イソマルトシド鉄1000(Monofer(登録商標))、又はデキストラン鉄(Cosmofer(登録商標)/INFeD(登録商標)及びDexferrum(登録商標))は含まれていないが、日本でFesin(登録商標)として入手可能な含糖酸化鉄(名称が似ているにもかかわらず、Venofer(登録商標)のスクロース鉄とは異なる)、ポリマルトース鉄のいくつかの種、とりわけカルボキシマルトース第二鉄(FCM)を含む、アジア太平洋で入手可能な特定の複合体が含まれる。臨床試験及び症例報告からの結果は、iFGF23媒介性の血清リン酸塩レベルの低下及び低リン血症の発症のリスクが最も高いのは、ポリマルトース鉄、含糖酸化鉄、及びとりわけカルボキシマルトース第二鉄と関連していることを示唆している。例えば、Van Wyck et al., 2013を参照のこと。
【0037】
したがって、本発明の好ましい鉄炭水化物複合体は、カルボキシマルトース第二鉄(FCM)である。本明細書中で使用される用語「カルボキシマルトース第二鉄」は、鉄、例えば水酸化鉄、及びカルボキシマルトースを含むコロイド複合体を指す。カルボキシマルトースは、例えばアルデヒド末端基の酸化により、カルボキシル化、すなわちカルボキシ基を含むように修飾されたデンプン又はデンプン誘導体に基づく。特定のカルボキシマルトース第二鉄は、例えば、VIT-45及びWO2004/037865A1としてWO2007/081744A1に記載されているように、マルトデキストリンを酸化することによって得ることができる。カルボキシマルトース第二鉄の好ましい例は、米国ではInjectafer(登録商標)の商品名で、欧州連合及び他の多くの国ではFerinject(登録商標)の商品名で市販されている。
【0038】
定義
本記述をより容易に理解できるようにするために、特定の用語を最初に定義する。追加の定義は、詳細な説明の全体にわたって記載されている。
【0039】
対象の「治療」又は「療法」とは、疾患に関連する症状、合併症、状態、又は生化学的指標の発症、進行、発症、重症度、又は再発を、逆転、軽減、改善、抑制、減速、又は予防することを目的として、対象に対して実施される任意のタイプの介入若しくはプロセス、又は活性剤の投与を指す。
【0040】
「対象(subject)」は、任意のヒト又は非ヒト動物を含む。用語「非ヒト動物」は、非ヒト霊長類、ヒツジ、イヌなどの脊椎動物、及びマウス、ラット及びモルモットなどのげっ歯類が含まれるが、これらに限定されない。好ましい実施態様では、対象はヒトである。用語「対象」及び「患者」は、本明細書では互換的に使用される。
【0041】
薬物又は治療薬の「治療上有効量(therapeutically effective amount)」又は「治療上有効用量(therapeutically effective dose)」とは、単独で又は他の治療薬と組み合わせて使用される場合に、疾患の発症に対して対象を保護する、又は疾患症状の重症度の減少、疾患症状のない期間の頻度と期間の増加、又は疾患の苦痛による機能障害若しくは障害の予防によって証明される疾患の退行を促進する、任意の量の薬物である。疾患の退行を促進する治療薬の能力は、当業者に知られている様々な方法を使用して、例えば、臨床試験中のヒト対象において、ヒトにおける有効性を予測する動物モデルシステムにおいて、又はin vitroアッセイで薬剤の活性をアッセイすることによって評価することができる。
【0042】
「線維芽細胞成長因子23(FGF23)」は、リン酸塩及びビタミンDの恒常性を調節する骨細胞由来ホルモンである。FGF23はタンパク質分解による切断を受け、その結果、切断されていない、つまりインタクトなFGF23(iFGF23)の混合物となり、その切断断片はin vivoで見出される。インタクト型であるiFGF23は、リン酸代謝に関連した活性型であり、リン酸の尿中排泄を制御し、iFGF23のレベルが増加するとリン酸塩が尿中に排出される。現在、2つの主要なタイプの抗体アッセイが存在し、1つはiFGF23のみを捕捉し、もう1つはホルモンのC末端に結合し、したがってiFGF23とC末端断片の両方を捕捉する。したがって、後者の計量値であるcFGF23は、インタクトなFGF23断片とC末端のFGF23断片の合計の尺度である。このように、FGF23に関係する2つの試験、iFGF23とcFGF23が存在し、それらは異なる解釈を有する。
【0043】
「低リン血症」とは、血清リン酸塩レベルが低すぎることを特徴とする状態である。有害事象共通用語規準(CTCAE)第4.0版では、4段階の低リン血症が示されている。
【0044】
本明細書中で使用される場合、特に明記しない限り、低リン血症の頻度は、2mg/dL未満の血清リン酸塩レベルを指す。
【0045】
本明細書中で使用される用語「血清リン酸塩(S-リン酸塩)」は、硫酸の存在下で、無機リンとモリブデン酸アンモニウムとの反応によって形成される、式(NH4)3[PO4](MoO3)12を有するリンモリブデン酸アンモニウム錯体として測定される血清血中の無機リンのレベルを指す。錯体は、Roche Modular and Cobas Analyzerを使用して、スペクトルの紫外領域(340nm)で測光的に測定される。
【0046】
本明細書中で使用される用語「血清ビタミンD」は、液体クロマトグラフィー及びタンデム質量分析(LC-MS/MS)によって測定される血清中のビタミンD、特に25-ヒドロキシビタミンD、1,25-ジヒドロキシビタミンD、及び24,25-ジヒドロキシビタミンDのレベルを指す。
【0047】
本明細書中で使用される用語「血清イオン化カルシウム」は、IL GEM Premier 3500 PAKカートリッジを使用して測定される、血清中のカルシウムイオン(Ca2+)のレベルを指す。中心的コンポーネントはセンサカードであり、血液試料がセンサに提示される、低容量の気密性チャンバを提供する。pH及び電解質センサは全てイオン選択性電極の原理に基づいており、すなわち、特定のイオンに対して選択的に透過性である膜を横切って電位を確立することができる。pH及び電解質センサは、内部Ag/AgCl参照電極及び内部塩層からなる、ポリ塩化ビニル(PVC)ベースのイオン選択電極である。電位はカード参照電極に対して測定される。
【0048】
本明細書中で使用される用語「血清副甲状腺ホルモン(PTH)」は、一定量の2つの抗ヒトPTH抗体を使用した、直接化学発光測定技術を使用する2部位サンドイッチ免疫測定法を使用して測定される血清中の血清副甲状腺ホルモンのレベルを指す。副甲状腺によって産生されるPTHは、細胞外カルシウム濃度を調節する主要な循環因子である。異常に低いイオン化カルシウム濃度は、PTHの分泌を引き起こす。PTH分子は標的組織中の1型PTH受容体に結合し、細胞外カルシウム濃度の増加をもたらす一連の反応を開始する。PTHは破骨細胞による骨吸収を刺激し、その結果、骨からカルシウムが放出される。PTHは腎尿細管からの経細胞的カルシウム再吸収を刺激し、腎臓を刺激して1,25-ジヒドロキシビタミンDを生成し、これが腸管に作用してカルシウム再吸収を増加させる。ほとんどの臨床状態において、細胞外カルシウムのレベルが上昇すると、負のフィードバック機構を介してPTH分泌を抑制するであろう。
【0049】
用語「リン酸塩の尿中部分排泄率(FEPi)」(ときにFEPO4と略記)は、腎臓で前尿から再吸収されないリン酸塩の量、すなわち、対象が血液中に有するリン酸塩の割合として、最終的に尿中にどのくらいの量のリン酸塩が排出されるのかの尺度である。このように計算される:FEPi=[PO4(尿)*クレアチニン(血清)]/[PO4(血清)*クレアチニン(尿)]*100。10-20%のFEPi(0.1-0.2分画)は通常正常と考えられ;<10%のFEPi(<0.1分画)は通常低いと考えられ;FEPi>20%(>0.2分画)は通常高いと考えられる。尿中のリン酸塩は、血清と同じ方法を使用して測定される。
【0050】
本明細書中で使用される用語「血清骨特異的アルカリホスファターゼ」は、骨特異的アルカリホスファターゼ(BAP)に特異的なマウスモノクローナル抗体を使用した一段階免疫酵素化学発光アッセイであるベックマン-コールターオスターゼアッセイを使用して測定される、血清中の骨特異的アルカリホスファターゼのレベルを指す。
【0051】
本明細書中で使用される用語「血清アルカリホスファターゼ」は、Roche Modularアナライザを使用して酵素的に測定された血清中のアルカリホスファターゼのレベルを指す。マグネシウム及び亜鉛イオンの存在下で、p-ニトロフェニルリン酸はホスファターゼによってリン酸とp-ニトロフェノールに切断される。放出されたp-ニトロフェノールは、アルカリホスファターゼ活性に比例し、測光的に測定される。
【0052】
本明細書中で使用される用語「I型コラーゲンの血清N末端プロペプチド(PINP)」は、Cobas e601アナライザ上でサンドイッチ原理、電気化学発光免疫測定法(ECLIA)を使用して測定される血清中のPINPのレベルを指す。最初のインキュベーションの間、試料中のPINP及びビオチン化モノクローナルPINP特異的抗体を一緒にインキュベートする。2回目のインキュベーションの間、ストレプトアビジンでコーティングされた標識微粒子と、ルテニウム錯体(Trs(2,2-ビピリジル)ルテニウム(II)錯体(Ru(bpy)23+))で標識されたモノクローナルPINP特異的抗体を加えてサンドイッチ複合体を形成させ、これがビオチンとストレプトアビジンの相互作用を介して固相に結合する。反応混合物は測定セル内に吸引され、そこで微粒子が電極の表面上に磁気的に捕捉される。電極に電圧を印加すると化学発光が誘導され、これは光電子増倍管によって測定される。結果は較正曲線を介して決定される。較正曲線は、試薬バーコードを介して提供される2点較正とマスター曲線によって機器固有に生成される。
【0053】
本明細書中で使用される用語「血清カルボキシ末端コラーゲン架橋(CTx)」は、Cobas e601アナライザ上でサンドイッチ原理、電気化学発光免疫測定法(ECLIA)を使用して測定される、血清中のCTxレベルを指す。最初のインキュベーションの間、50μLの試料及びビオチン化モノクローナル抗β-CrossLaps抗体を一緒にインキュベートする。2回目のインキュベーションの間、ストレプトアビジンでコーティングされた標識微粒子と、ルテニウム錯体で標識されたモノクローナルP-ベータ-CrossLaps特異的抗体を加えてサンドイッチ複合体を形成させ、これがビオチンとストレプトアビジンの相互作用を介して固相に結合する。反応混合物は測定セル内に吸引され、そこで微粒子が電極の表面上に磁気的に捕捉される。次いで、結合していない物質はProCellで除去される。電極に電圧を印加すると化学発光が誘導され、これは光電子増倍管によって測定される。結果は較正曲線を介して決定される。較正曲線は、試薬バーコードを介して提供される2点較正とマスター曲線によって機器固有に生成される。
【0054】
本明細書中で使用される用語「血清クレアチンキナーゼ(CK)」は、Roche Modular and Cobas Analyzerを使用して酵素的に測定される血清中のCKレベルを指す。CKは、クレアチンリン酸によるADPのリン酸化を触媒する。ATPが機能してグルコースをリン酸化し、生じたグルコース-6-リン酸がNADP+をNADPHに変換する。NADPH形成の速度はCK活性に比例し、測光的に測定される。CKは、ATPからクレアチンへのリン酸の可逆的転移を触媒する酵素である。これにより、高エネルギーリン酸をATP中でより安定な形で貯蔵することが可能になる。CKは、骨格筋、心筋、甲状腺、前立腺及び脳に高濃度に存在し、肝臓、腎臓、肺及びその他の組織にはごく少量しか存在しない。したがって、血清CK活性の増加は、主に横紋筋(骨格筋又は心筋)への損傷に起因し、まれに脳への損傷に起因する。これらの様々な疾患の鑑別は臨床的根拠に基づいてしばしばなされるが、これが不可能な場合もある。CKアイソザイムの測定は、その問題の解決に役立つ。
【0055】
本明細書中で使用される用語「血清フェリチン」は、2部位免疫酵素法(「サンドイッチ」アッセイ)を使用して測定される血清中のフェリチンのレベルを指す。フェリチンは、体内の主要な鉄貯蔵蛋白である。フェリチンの濃度は体内の総鉄貯蔵量に正比例し、その結果、血清フェリチンレベルは鉄状態の評価において一般的な診断ツールとなる。鉄欠乏性貧血の患者は、血清フェリチンレベルが正常対象の約10分の1であるが、鉄過剰症(ヘモクロマトーシス、ヘモジデリン沈着症)の患者は、血清フェリチンレベルが正常よりもはるかに高い。フェリチンレベルは、鉄欠乏症を早期に検出する感度の高い手段も提供する。成人及び小児の両方において、慢性炎症は、鉄貯蔵量との関係でフェリチンレベルの不均衡な増加をもたらす。フェリチンレベルの上昇は、急性及び慢性肝疾患、慢性腎不全、及び一部の腫瘍性疾患においても観察される。
【0056】
上記の血液パラメータは血清中で測定されるが、血漿中でも同様に測定可能であることが知られている。血清レベルと血漿レベルは相関し、互いに変換することができる。
【0057】
本明細書中で使用される用語「減量手術」は、胃バンドにより胃のサイズを縮小するか、胃の一部を切除することによって(スリーブ状胃切除術又は十二指腸スイッチによる胆膵路転換手術)、又は小腸を切除し、小腸を小さな胃袋に再経路指定することによって、体重減少を導入することを目的とした外科的処置を指す。
【0058】
「肥満」とは、人の体重をその人の身長の2乗で除した測定値である肥満度指数(BMI)が30kg/m2を超えるほどの過剰な体重によって特徴づけられる状態である。
【0059】
「不整脈のリスクが高い心臓疾患」とは、冠動脈疾患、心内膜炎、心臓弁膜症、高血圧、糖尿病、及び肥満を含むが、これらに限定されない、不整脈又は異常な心拍リズムを発症する可能性を高める心血管疾患及び危険因子を特徴とする状態である。
【0060】
「原発性又は続発性副甲状腺機能亢進症」は、副甲状腺ホルモンの過剰分泌を特徴とする状態である。
【0061】
「喘息」とは、気道に炎症や狭窄を起こし、喘鳴、胸部絞扼感、息切れ、咳などを繰り返し起こす慢性の肺疾患を特徴とする状態である。
【0062】
「慢性閉塞性肺疾患(COPD)」は、肺からの空気の流れを妨げる慢性炎症性肺疾患を特徴とする状態である。
【0063】
「X連鎖性低リン血症」は、血液中のリン酸塩のレベルが低いこと、くる病及び/又は骨軟化症、並びに成長の減退を特徴とする遺伝性腎リン酸塩消耗疾患を特徴とする状態である。
【0064】
「常染色体優性又は劣性低リン血症性くる病」は、血液中のリン酸塩のレベルが低いために、骨が柔らかくなり曲がりやすくなることを特徴とする状態である。
【0065】
「続発性低リン血症」は、経口摂取量の減少又は腸内吸収の減少に起因する血液中のリン酸塩のレベルの低下を特徴とする状態である。
【0066】
「腫瘍誘発性低リン血症」は、FGF23産生腫瘍など、腫瘍に続発する血液中のリン酸塩のレベルの低下を特徴とする状態である。
【0067】
「骨粗しょう症」とは、体が骨を失いすぎたり、骨が少なくなりすぎたり、あるいはその両方であるときに起こる骨の病気を特徴とする状態である。その結果、骨が弱くなる。
【0068】
「骨軟化症」は、主に利用可能なリン酸塩、カルシウム、ビタミンDの不十分なレベルに起因して、又はカルシウムの再吸収のために骨代謝が損なわれることによって引き起こされる骨の軟化を特徴とする状態である。骨代謝の障害は、不十分な骨石灰化を引き起こす。
【0069】
「鉄投与後1日から2か月以内に手術が予定されている」対象は、鉄投与の1日から2か月以内に手術を受けるであろう対象である。
【0070】
本文の目的のために、文献での実践と一致して、鉄炭水化物複合体の用量をmg又はgで明記する場合、値はmgで提供される元素鉄の量を指す。
【0071】
A.治療方法
本明細書中では、定義された投与計画に従って、及び/又は対象の選択されたサブグループにカルボキシマルトース第二鉄を投与することを含む、鉄欠乏症を治療する治療法を記載する。したがって、本発明はまた、前記方法で使用するためのカルボキシマルトース第二鉄、鉄欠乏症を治療するためのカルボキシマルトース第二鉄の使用、又は鉄欠乏症を治療するための医薬の製造におけるカルボキシマルトース第二鉄の使用に関する。
【0072】
I.投与計画
本発明のこの態様の第1の実施態様によれば、鉄欠乏症を治療する方法は、鉄炭水化物複合体、特にFCMの反復投与を含み、これは第1の用量と第2の用量との間の時間が少なくとも10日であることを特徴とする。例えば、第1の用量が0日目に投与された場合、第2の用量は10日目以降に投与される。好ましくは、第1の用量と第2の用量との間の時間は、少なくとも14日、18日、21日、28日、35日、42日、49日、又は56日である。場合によっては、第1の用量と第2の用量との間の時間が、少なくとも3か月又は6か月であることが好都合であることもある。
【0073】
投与される元素鉄の1日用量は、500mgから1000mgの範囲にあり得る治療上有効量であり、例えば、500mg、750mg、又は1000mgの元素鉄である。
【0074】
用量は、特に1日1回の用量である。例えば、カルボキシマルトース第二鉄の典型的な1日1回の用量は、500mg、750mg又は1000mgの元素鉄である。反復投与では、750mgの元素鉄の第1の用量の後に750mgの元素鉄の第2の用量が続き、又は1000mgの元素鉄の第1の用量の後に500mgから1000mgの元素鉄、例えば、500mg、750mg又は1000mgの元素鉄の第2の用量が続く。FCMのさらなる用量が続くことがある。
【0075】
本発明のこの態様の第2の実施態様によれば、鉄欠乏症を治療する方法は、鉄炭水化物複合体、特にFCMの反復投与を含み、これは、第1の用量及び第2の用量の各々が、元素鉄の500mgを超えないか、又は500mg未満であることを特徴とする。例示的な量は、500mg、400mg、300mg、200mg及び100mgを含む。
【0076】
本発明のこの態様の第3の実施態様によれば、鉄欠乏症の治療方法は、鉄炭水化物複合体、特にFCMの投与を含み、これは、12か月の期間内に投与される鉄元素の総量が5000mgを超えないことを特徴としている。好ましくは、12か月の期間内に投与される元素鉄の総量は、4000mg、3000mg又は2000mgを超えない。
【0077】
II.対象の選択されたサブグループ
本発明の方法は、典型的には、それを必要とする対象に対して実施される。本発明の方法を必要とする対象は、鉄欠乏症、特に、慢性失血、急性失血、妊娠、出産、授乳、小児発育、大量の子宮出血、月経、消化管出血、慢性内出血、炎症性腸疾患、うっ血性心不全、レストレスレッグ症候群、寄生虫感染症、慢性腎臓病や腎不全などによる腎機能の喪失又は障害、透析、手術、アルコール、サリチル酸塩、ステロイド、非ステロイド系抗炎症剤、赤血球生成促進剤(ESA)又は鉄の吸収を阻害する薬剤などの薬剤の慢性的な摂取に伴う鉄欠乏症を有するか、該鉄欠乏症と診断されたか、該鉄欠乏症の疑いがあるか、又は鉄欠乏症を発症するリスクがある対象である。鉄貯蔵が枯渇すると、鉄欠乏性貧血(IDA)を発症する。IDに罹患している患者はIDAを有する可能性があり、IDAの患者は必然的にIDに罹患している。ID及びIDAを診断する方法は、当技術分野で十分に確立されており、診療において一般的に使用されている。
【0078】
鉄欠乏症を有する、鉄欠乏症と診断されている、鉄欠乏症の疑いがある、又は鉄欠乏症を発症するリスクがある対象には、経口鉄が対象において許容されないか効果がない場合、鉄炭水化物複合体、特にカルボキシマルトース第二鉄の形態でIV鉄を与えられるであろう。IV鉄が適応される別の状況は、鉄を迅速に送達する必要がある場合である。
【0079】
本発明による治療に適している対象の特定のグループは、FGF23媒介性副作用のリスクが低減されていることを特徴とする。
【0080】
本発明のこの態様の第1の実施態様によれば、FGF23媒介性副作用のリスクが低減された対象は、以下からなる群から選択される血液又は尿パラメータを有する:
(1)正常な血清リン酸塩レベル、特に>2.5mg/dL;
(2)正常な血清ビタミンDレベル、特に1,25-ジヒドロキシビタミンDが以下の範囲内である:男性:<16歳:24-86pg/mL、≧16歳:18-64pg/mL、女性:<16歳:24-86pg/mL、≧16歳:18-78pg/mL;
(3)正常な血清イオン化カルシウムレベル、特に1.16-1.32mmol/L;
(4)正常な血清PTHレベル、特に15-65pg/mL;
(5)正常な尿中リン酸塩部分排泄率、特に10-20%のFEPi(0.1-0.2分画);
(6)(1)、(2)、(3)、(4)、及び(5)の組み合わせ。
【0081】
本発明のこの態様の第2の実施態様によれば、FGF23媒介性副作用のリスクが低減された対象は、以下からなる群から選択される血液パラメータを有する:
(1)正常な血清骨特異的アルカリホスファターゼレベル、特に6.5-22.4U/L;
(2)正常な血清アルカリホスファターゼレベル、特に31-140U/L;
(3)正常な血清I型コラーゲンのN末端プロペプチド(PINP)レベル、特に15.13-85.50ng/mL;
(4)正常な血清カルボキシ末端コラーゲン架橋(CTx)レベル、特に0.03-1.01ng/mL;及び
(5)(1)、(2)、(3)及び(4)の組み合わせ。
【0082】
本発明のこの態様の第3の実施態様によれば、FGF23媒介性副作用のリスクが低減された対象は、以下の除外基準:
(1)減量手術を受けたことがある;
(2)肥満;
(3)不整脈のリスクが高い心臓疾患;
(4)原発性又は続発性副甲状腺機能亢進症;
(5)喘息又は慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの肺障害
(6)X連鎖性低リン血症、常染色体優性低リン血症性くる病、常染色体劣性低リン血症性くる病などの低リン血症をもたらす遺伝性疾患;
(7)続発性低リン血症又は腫瘍誘発性低リン血症;
(8)例えば骨粗鬆症又は骨軟化症などの、骨の障害;及び
(9)鉄投与後1日から2か月以内に手術が予定されている、例えば、好ましくは、鉄投与後1週間から3週間以内に手術が予定されているなど
のうちの1つ又は複数、特に全てがないことによって特徴づけられる。
【0083】
本発明のこの態様の第4の実施態様によれば、FGF23媒介性副作用のリスクが低減された対象は、最大呼吸圧及び最大吸気圧、特に男性:≧117-(0.83x年齢)cm H2O、女性:≧95-(0.57x年齢)cm H2Oの最大呼吸圧;及び/又は男性:≧62-(0.15x年齢)cm H2O、女性:≧62-(0.50x年齢)cm H2Oの最大吸気圧として測定される正常な呼吸容量によって特徴づけられる。
【0084】
第5の態様によれば、FGF23媒介性副作用のリスクが低減された対象は、本明細書に開示される血液/尿パラメータの両方を有し、本明細書に開示される除外基準がないことによって特徴づけられる。
【0085】
第6の態様によれば、FGF23媒介性副作用のリスクが低減された対象は、本明細書に開示される血液/尿パラメータを有し、本明細書に開示される除外基準がないことによって特徴づけられ、かつ本明細書に開示される正常な呼吸容量によって特徴づけられる。
【0086】
本発明による治療に適している対象のさらなる特定のグループは、慢性腎臓病(CKD)を有する対象である。慢性腎臓病(CKD)患者では、腎機能が低下しており、リン酸塩を尿中に排泄する能力が損なわれ、その結果、高リン血症(リン酸塩が高すぎる状態)に罹患する傾向があるため、鉄治療後の低リン血症の頻度ははるかに低い。一方、高リン血症への傾向により、CKD患者は、非常に高いFGF23レベルを機能させる傾向がある。これはiFGF23を生成して腎臓を介したリン酸塩の尿中部分排泄率を増加させることによって、高血清リン酸塩レベルを相殺する身体の試みが継続しているためである。このため、CKD患者ではiFGF23レベルが上昇し、その結果、低リン血症のリスクが低いにもかかわらず、iFGF23の他の下流効果がより顕著になる可能性がある。
【0087】
B.診断方法
本明細書にさらに記載されるのは、鉄炭水化物複合体の第1の用量を投与された対象をモニタリングする方法であって、対象から得られた生物学的試料において、(1)血清リン酸塩レベル、(2)血清ビタミンDレベル、(3)血清イオン化カルシウムレベル、(4)血清PTHレベル及び(5)尿中リン酸塩部分排泄率からなる群から選択される少なくとも1つの血液又は尿パラメータを決定することを含み、ここで、少なくとも1つの血液又は尿パラメータが本明細書に開示されるとおりである場合、対象は鉄炭水化物複合体の第2の用量を投与されるのに適格である、方法である。
【0088】
本明細書にさらに記載されるのは、カルボキシマルトース第二鉄の第1の用量を投与された対象をモニタリングする方法であって、対象から得られた生物学的試料において、(1)血清骨特異的アルカリホスファターゼレベル、(2)血清アルカリホスファターゼレベル、(3)血清I型コラーゲンのN末端プロペプチド(PINP)レベル、及び(4)血清カルボキシ末端コラーゲン架橋(CTx)レベルからなる群から選択される少なくとも1つの血液パラメータを決定することを含み、ここで、少なくとも1つの血液パラメータが本明細書に開示されるとおり正常である場合、対象はカルボキシマルトース第二鉄の第2の用量を投与されるのに適格である、方法である。
【0089】
さらに本明細書中に記載されるのは、対象の呼吸容量を決定することを含む、カルボキシマルトース第二鉄の第1の用量を投与された対象をモニタリングする方法であって、ここで、呼吸容量が本明細書に開示されるとおり正常である場合、対象はカルボキシマルトース第二鉄の第2の用量を投与されるのに適格である、方法である。
【0090】
本発明の治療方法に適した対象を同定する方法もまた、本明細書に記載される。そのような方法には、FGF23媒介性副作用のリスクが低減された対象を同定する方法が含まれ、対象から得られた生物学的試料において、(1)血清リン酸塩レベル、(2)血清ビタミンDレベル、(3)血清イオン化カルシウムレベル、(4)血清PTHレベル及び(5)尿中リン酸塩部分排泄率からなる群から選択される少なくとも1つの血液又は尿パラメータを決定することを含み、ここで、少なくとも1つの血液又は尿パラメータが本明細書に開示されるとおり正常である場合、対象はFGF23媒介性副作用のリスクが低減されている、方法が含まれる。
【0091】
本明細書中にさらに記載されるのは、FGF23媒介性副作用のリスクが低減された対象を同定する方法であって、対象から得られた生物学的試料において、(1)血清骨特異的アルカリホスファターゼレベル、(2)血清アルカリホスファターゼレベル、(3)血清I型コラーゲンのN末端プロペプチド(PINP)レベル、及び(4)血清カルボキシ末端コラーゲン架橋(CTx)レベルからなる群から選択される少なくとも1つの血液パラメータを決定することを含み、ここで、少なくとも1つの血液又は尿パラメータが本明細書に開示されているとおり正常である場合、対象はFGF23媒介性副作用のリスクが低減されている、方法である。
【0092】
本明細書中にさらに記載されるのは、FGF23媒介性副作用のリスクが低減された対象を同定する方法であって、対象が以下の除外基準:
(1)減量手術を受けたことがある;
(2)肥満;
(3)不整脈のリスクが高い心臓疾患;
(4)原発性又は続発性副甲状腺機能亢進症;
(5)喘息又は慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの肺障害
(6)X連鎖性低リン血症、常染色体優性低リン血症性くる病、常染色体劣性低リン血症性くる病などの低リン血症をもたらす遺伝性疾患;
(7)続発性低リン血症又は腫瘍誘発性低リン血症;
(8)例えば骨粗鬆症又は骨軟化症などの、骨の障害;及び
(9)鉄投与後1日から2か月以内に手術が予定されている
のうちの1つ又は複数、特に全てによって特徴づけられるかどうかを決定することを含み、ここで、対象が、除外基準のうちの1つ又は複数、特に全てがないことによって特徴づけられる場合、対象はFGF23媒介性副作用のリスクが低減されている、方法。
【0093】
本明細書中にさらに記載されるのは、対象の呼吸容量を決定することを含む、FGF23媒介性副作用のリスクが低減された対象を同定する方法であって、ここで、呼吸容量が本明細書に開示されるとおり正常である場合、対象はFGF23媒介性副作用のリスクが低減されている、方法である。
【0094】
生物学的試料は、対象から得られた任意の試料であり得、ここで、試料は、前記血液又は尿パラメータを決定することを可能にする。いくつかの実施態様では、生物学的試料は血液試料を含む。いくつかの実施態様では、生物学的試料は血漿試料を含む。好ましい実施態様では、生物学的試料は血清試料を含む。他の好ましい実施態様では、生物学的試料は尿試料を含む。診断方法は、対象の試料について実施されるので、方法は、ex vivo、特にin vitroで実施される。
【0095】
生物学的試料は、当技術分野で知られている任意の方法によって採取及び/又は入手することができる。いくつかの実施態様では、生物学的試料は、例えば、対象の循環系から直接試料を取り出すことによって、対象から直接得られる。他の実施態様では、生物学的試料は研究室から得られ、ここで、研究室又は前任者は、対象から直接生物学的試料を以前に得た。いくつかの実施態様では、生体試料は新鮮であり、例えば、試料は長期間凍結又は保存されていない。他の実施態様では、生物学的試料は、37℃未満の温度で保存されている。
【0096】
本発明による対象をモニタリング及び同定する診断方法は、いくつかの実施態様において、さらに、鉄炭水化物複合体、特にカルボキシマルトース第二鉄を、鉄炭水化物複合体の第2の用量を投与されるのに適格であり、かつ/又はFGF23媒介性副作用のリスクが低減されていると同定された対象に投与することを含む。投与計画及び患者の選択されたサブグループに関する本明細書の開示は、この点に関して適用可能である。
【0097】
C.薬物の組み合わせ
本明細書にさらに記載されるのは、鉄欠乏症の治療における使用のためのFCMと、1つ又は複数の追加の薬物との組み合わせであり、ここで、追加の薬物は、以下からなる群から選択される:
(1)ビタミンD;
(2)リン酸塩;及び
(3)抗FGF23アンタゴニスト抗体。
【0098】
FCMは、活性型ビタミンD、1,25-ジヒドロキシビタミンDの減少をもたらし、24,25-ジヒドロキシビタミンDの増加をもたらす。ビタミンDの治療上有効量を投与すると、この影響を低減することができる。この目的のために、アルファカルシドール、特にカルシトリオールの投与が好ましい。あるいは、コレカルシフェロール又はエルゴカルシフェロールを投与してもよい。
【0099】
アルファカルシドール又はカルシトリオールを投与する場合は、第1のFCM用量の投与前の3日以内に投与してもよい。あるいは、アルファカルシドール又はカルシトリオールの投与は、第1のFCM用量の同じ日に開始される。さらに別の方法は、第1のFCM用量の投与後、1日目、2日目、3日目、4日目、5日目、6日目又は7日目、又は14日目にアルファカルシドール又はカルシトリオールの投与を開始することである。
【0100】
カルシトリオールは、好都合には、0.125μgから2μg、例えば0.125μgから1μgなど、例えば0.25μgから0.75μgなど、例えば0.50μgの1日用量で投与される。
【0101】
アルファカルシドールは、好都合には、0.25μgから5μg、例えば0.5μgから2μgなど、例えば1μgなどの1日用量で投与される。
【0102】
FCM投与の前処置として投与するか、FCM投与後に投与するかにかかわらず、カルシトリオール又はアルファカルシドールによる治療は、血中パラメータ、特にビタミンDレベルが正常になるまで、又は治療開始後3週間、4週間、5週間、又は6週間までのどちらか早い方まで継続される。
【0103】
コレカルシフェロール又はエルゴカルシフェロールは、好ましくは、FCMによる治療前に、例えば、第1のFCM用量の投与前に、14日、7日、6日、あるいは5日、4日、3日、2日、1日などの期間投与される。
【0104】
コレカルシフェロールは、好都合には、140μgから2500μg、好ましくは300μgから600μgなど、好ましくは500μgなどの毎週の用量で投与される。
【0105】
エルゴカルシフェロールは、好都合には、10μgから1250μg、好ましくは500μgなどの1日用量で投与される。
【0106】
本発明の一実施態様では、本明細書に開示される第1のFCM用量の投与前のコレカルシフェロール又はエルゴカルシフェロールのいずれかによる前治療の後に、本明細書に開示される第1のFCM用量の投与に続いてアルファカルシドール又はカルシトリオールによる治療が行われる。
【0107】
FCMは血清リン酸塩の減少にもつながるので、治療上有効量のリン酸塩を投与すると、この影響を低減することができる。例えば、グルコース-1-リン酸塩又はリン酸カルシウム、リン酸カリウム又はリン酸ナトリウムなどのリン酸塩は、経口的又は静脈内(IV)に投与することができる。
【0108】
IV投与のためのリン酸塩の治療上有効量には、10mmolから50mmol、特に30mmolから40mmol、特に15mmolから35mmolのリン酸塩の単回用量、好ましくは1日1回の用量が含まれ、これは、血清リン酸塩が正常化するまで繰り返され得る。
【0109】
経口投与のためのリン酸塩の治療上有効量には、15mmolから85mmol、特に30mmolから65mmol、特に45mmolから50mmolのリン酸塩の単回用量、好ましくは1日1回の用量が含まれ、これは、血清リン酸塩が正常化するまで繰り返され得る。
【0110】
本発明の特定の実施態様によれば、追加の薬物の組み合わせが使用される。ビタミンDとリン酸塩の組み合わせが特に好ましい組み合わせである。
【0111】
抗FGF23抗体は、X連鎖性低リン血症などの非常にまれな疾患の治療に使用される。市場に出た最初の製剤はブロスマブである。抗FGF23抗体は、FCMの投与後に非常に重度のFGF23媒介性副作用、例えば1mg/dL未満の血清リン酸塩レベル、又はベースラインと比較して100pg/mL以上増加したiFGF23レベルなどを経験している患者に使用されることが好ましい。
【0112】
好ましい実施態様によれば、追加の薬物は経口投与される。これは、追加の薬物がグルコース-1-リン酸、リン酸カルシウム又はリン酸ナトリウムなどのリン酸塩、あるいはカルシトリオールなどのビタミンDである場合に特に好都合である。
【0113】
特定の実施態様によれば、追加の薬物はFCM投与の第1の用量の前に投与される。これは、追加の薬物が、コレカルシフェロール又はエルゴカルシフェロールである場合、特に好都合である。
【0114】
別の実施態様によれば、追加の薬物はFCM投与の第1の用量の後、第2の用量の前に投与される。これは、追加の薬物が、カルシトリオール又はアルファカルシドールである場合、特に好都合である。リン酸塩を追加の薬物として使用する場合、FCM投与の第1の用量の後にリン酸塩を投与することが同様に好ましい。
【0115】
追加の薬物の投与量は、通常、成人に投与される薬物の量を指す。乳児に対する投与量は、適宜調整され得る。
【0116】
例示的な実施態様
1.カルボキシマルトース第二鉄の第1の用量及び第2の用量を投与することを含む、鉄欠乏症を治療する方法であって、ここで、第1の用量と第2の用量との間の時間が少なくとも10日である、方法。
2.第1の用量と第2の用量との間の時間が、少なくとも14日、18日、21日、28日、35日、42日、49日、又は56日である、実施態様1に記載の方法。
3.第1の用量と第2の用量との間の時間が、少なくとも3か月又は6か月である、実施態様1に記載の方法。
4.第1の用量及び第2の用量が、1日1回の用量である、実施態様1~3のいずれか一項に記載の方法。
5.第1の用量が750mgの元素鉄であり、かつ第2の用量が750mgの元素鉄である、実施態様1~4のいずれか一項に記載の方法。
6.カルボキシマルトース第二鉄の第1の用量及び第2の用量を投与することを含む、鉄欠乏症を治療する方法であって、ここで、第1の用量及び第2の用量はそれぞれ、元素鉄の500mgを超えないか、又は500mg未満である、方法。
7.カルボキシマルトース第二鉄の1回以上の用量を投与することを含む、鉄欠乏症を治療する方法であって、ここで、12か月の期間内に投与される元素鉄の総量が5000mgを超えない、方法。
8.対象にカルボキシマルトース第二鉄を投与することを含む、鉄欠乏症を治療する方法であって、ここで、対象はFGF23媒介性副作用のリスクが低減されている、方法。
9.FGF23媒介性副作用のリスクが低減された対象が、
(1)正常な血清リン酸塩レベル、特に>2.5mg/dL;
(2)正常な血清ビタミンDレベル、特に1,25-ジヒドロキシビタミンDが以下の範囲内である:男性:<16歳:24-86pg/mL、≧16歳:18-64pg/mL、女性:<16歳:24-86pg/mL、≧16歳:18-78pg/mL;
(3)正常な血清イオン化カルシウムレベル、特に1.16-1.32mg/dL;
(4)正常な血清PTHレベル、特に15-65pg/mL;
(5)正常な尿中リン酸塩部分排泄率、特に10-20%のFEPi(0.1-0.2分画);及び
(6)(1)、(2)、(3)、(4)及び(5)の組み合わせ
からなる群から選択される血液又は尿パラメータを有する、実施態様8に記載の方法。
10.FGF23媒介性副作用のリスクが低減された対象が、
(1)正常な血清骨特異的アルカリホスファターゼレベル、特に6.5-22.4U/L;
(2)正常な血清アルカリホスファターゼレベル、特に31-40U/L;
(3)正常な血清I型コラーゲンのN末端プロペプチド(PINP)レベル、特に15.13-85.50ng/mL;
(4)正常な血清カルボキシ末端コラーゲン架橋(CTx)レベル、特に0.03-1.01ng/mL;及び
(5)(1)、(2)、(3)及び(4)の組み合わせ
からなる群から選択される血液パラメータを有する、実施態様8に記載の方法。
11.FGF23媒介性副作用のリスクが低減された対象が、以下の除外基準:
(1)減量手術を受けたことがある;
(2)肥満;
(3)不整脈のリスクが高い心臓疾患;
(4)原発性又は続発性副甲状腺機能亢進症;
(5)喘息又は慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの肺障害
(6)X連鎖性低リン血症、常染色体優性低リン血症性くる病、常染色体劣性低リン血症性くる病などの低リン血症をもたらす遺伝性疾患;
(7)続発性低リン血症又は腫瘍誘発性低リン血症;
(8)例えば骨粗鬆症又は骨軟化症などの、骨の障害;及び
(9)鉄投与後1日から2か月以内に手術が予定されている
のうちの1つ又は複数、特に全てがないことによって特徴づけられる、実施態様8に記載の方法。
12.FGF23媒介性副作用のリスクが低減された対象が、最大呼吸圧及び/又は最大吸気圧、特に、男性:≧117-(0.83x年齢)cm H2O、女性:≧95-(0.57x年齢)cm H2Oの最大呼吸圧;及び/又は男性:≧62-(0.15x年齢)cm H2O、女性:≧62-(0.50x年齢)cm H2O
の最大吸気圧として測定される正常な呼吸容量によって特徴づけられる、実施態様8に記載の方法。
13.実施態様8-12に定義されるFGF23媒介性副作用のリスクが低減された対象を治療するための、実施態様1~7のいずれか一項に記載の方法。
14.カルボキシマルトース第二鉄の第1の用量を投与された対象をモニタリングする方法であって、対象から得られた生物学的試料において、(1)血清リン酸塩レベル、(2)血清ビタミンDレベル、(3)血清イオン化カルシウムレベル、(4)血清PTHレベル及び(5)尿中リン酸塩部分排泄率からなる群から選択される少なくとも1つの血液又は尿パラメータを決定することを含み、ここで、少なくとも1つの血液又は尿パラメータが実施態様9において定義されるとおりである場合、対象はカルボキシマルトース第二鉄の第2の用量を投与されるのに適格である、方法。
15.カルボキシマルトース第二鉄の第1の用量を投与された対象をモニタリングする方法であって、対象から得られた生物学的試料において、(1)血清骨特異的アルカリホスファターゼレベル、(2)血清アルカリホスファターゼレベル、(3)血清I型コラーゲンのN末端プロペプチド(PINP)レベル、及び(4)血清カルボキシ末端コラーゲン架橋(CTx)レベルからなる群から選択される少なくとも1つの血液パラメータを決定することを含み、ここで、少なくとも1つの血液パラメータが実施態様10において定義されるとおりである場合、対象はカルボキシマルトース第二鉄の第2の用量を投与されるのに適格である、方法。
16.対象の呼吸容量を決定することを含む、カルボキシマルトース第二鉄の第1の用量を投与された対象をモニタリングする方法であって、ここで、呼吸容量が正常である場合、対象はカルボキシマルトース第二鉄の第2の用量を投与されるのに適格である、方法。
17.FGF23媒介性副作用のリスクが低減された対象を同定する方法であって、対象から得られた生物学的試料において、(1)血清リン酸塩レベル、(2)血清ビタミンDレベル、(3)血清イオン化カルシウムレベル、(4)血清PTHレベル及び(5)尿中リン酸塩部分排泄率からなる群から選択される少なくとも1つの血液又は尿パラメータを決定することを含み、ここで、少なくとも1つの血液又は尿パラメータが実施態様9において定義されるとおりである場合、対象はFGF23媒介性副作用のリスクが低減されている、方法。
18.FGF23媒介性副作用のリスクが低減された対象を同定する方法であって、対象から得られた生物学的試料において、(1)血清骨特異的アルカリホスファターゼレベル、(2)血清アルカリホスファターゼレベル、(3)血清I型コラーゲンのN末端プロペプチド(PINP)レベル、及び(4)血清カルボキシ末端コラーゲン架橋(CTx)レベルからなる群から選択される少なくとも1つの血液パラメータを決定することを含み、ここで、少なくとも1つの血液パラメータが実施態様10において定義されるとおりである場合、対象はFGF23媒介性副作用のリスクが低減されている、方法。
19.FGF23媒介性副作用のリスクが低減された対象を同定する方法であって、対象が以下の除外基準:
(1)減量手術を受けたことがある;
(2)肥満;
(3)不整脈のリスクが高い心臓疾患;
(4)原発性又は続発性副甲状腺機能亢進症;
(5)喘息又は慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの肺障害
(6)X連鎖性低リン血症、常染色体優性低リン血症性くる病、常染色体劣性低リン血症性くる病などの低リン血症をもたらす遺伝性疾患;
(7)続発性低リン血症又は腫瘍誘発性低リン血症;
(8)例えば骨粗鬆症又は骨軟化症などの、骨の障害;及び
(9)鉄投与後1日から2か月以内に手術が予定されている
のうちの1つ又は複数、特に全てによって特徴づけられるかどうかを決定することを含み、ここで、対象が、前期除外基準のうちの1つ又は複数、特に全てがないことによって特徴づけられる場合、対象はFGF23媒介性副作用のリスクが低減されている、方法。
20.対象の呼吸容量を決定することを含む、FGF23媒介性副作用のリスクが低減された対象を同定する方法であって、ここで、呼吸容量が正常である場合、対象はFGF23媒介性副作用のリスクが低減されている、方法。
21.鉄欠乏症の治療における使用のためのカルボキシマルトース第二鉄と、1つ又は複数の追加の薬物との組み合わせであって、ここで、追加の薬物が、
(1)ビタミンD;
(2)リン酸塩;及び
(3)抗FGF23アンタゴニスト抗体
からなる群から選択される、組み合わせ。
22.ビタミンDが、カルシトリオール、アルファカルシドール、コレカルシフェロール又はエルゴカルシフェロールである、実施態様21に記載の組み合わせ。
23.カルシトリオール又はアルファカルシドールが、第1のFCM用量の投与前の3日以内に投与される、実施態様22に記載の組み合わせ。
24.カルシトリオール又はアルファカルシドールの投与が、第1のFCM用量の同じ日に開始される、実施態様22に記載の組み合わせ。
25.カルシトリオール又はアルファカルシドールの投与が、第1のFCM用量の投与後、1日目、2日目、3日目、4日目、5日目、6日目又は7日目、又は14日目に開始される、実施態様22に記載の組み合わせ。
26.コレカルシフェロール又はエルゴカルシフェロールが、第1のFCM用量の投与前に、14日、7日、6日、あるいは5日、4日、3日、2日、1日の期間投与される、実施態様22に記載の組み合わせ。
27.コレカルシフェロール又はエルゴカルシフェロールが、第1のFCM用量の投与前に投与され、その後、第1のFCM用量の投与に続いてカルシトリオール又はアルファカルシドールによる治療が行われる、実施態様22に記載の組み合わせ。
28.追加の薬物が経口投与される、実施態様21~27のいずれか一項に記載の組み合わせ。
29.追加の薬物が、カルボキシマルトース第二鉄投与の第2の用量の前に投与される、実施態様21~28のいずれか一項に記載の組み合わせ。
30.実施態様1~13のいずれか一項に記載の方法における使用のための、実施態様21~29のいずれか一項に記載の組み合わせ。
【0117】
本発明の開示は、以下の実施例によってさらに例示されるが、これらはさらに限定するものと解釈されるべきではない。本出願を通して引用されている全ての図及び全ての参考文献、Genbank配列、特許及び公開特許出願の内容は、参照により本明細書に明示的に組み込まれる。
【実施例0118】
鉄欠乏性貧血の成人の対象において、イソマルトシド鉄(「IIM」、商品名:Monofer(登録商標)、Monoferric(登録商標))及びカルボキシマルトース第二鉄(「FCM」、商品名:Injectafer、Ferinject)による治療に関連した低リン血症の発生率を比較する2つの前向き無作為化非盲検比較試験が実施された。
【0119】
試験計画
試験は無作為化、非盲検、比較試験であった。鉄欠乏性貧血(IDA)の対象は、次のいずれかの治療の1つの治療コースに1対1で無作為化された。
・ A群:イソマルトシド鉄1000(Monofer(登録商標)、Pharmacosmos、ホルベック、デンマーク、以下、イソマルトシド鉄と呼ばれる)、ベースラインで1000mg
・ B群:カルボキシマルトース第二鉄(Ferinject(登録商標)/Injectafer(登録商標)、Vifor社、スイス)、ベースライン及び7日目に750mg、累積投与量:1500mg
【0120】
米国のラベルに従って、FCMは750mgの元素鉄を1週間間隔で2回の単回用量で投与された。イソマルトシド鉄1000は、1000mgの元素鉄の単回用量として投与された。
【0121】
目的
試験の主な目的は、イソマルトシド鉄又はカルボキシマルトース第二鉄で治療されたIDAの対象における低リン血症の発生率を比較することであった。
【0122】
試験の副次的安全性目的は、IDAの対象におけるイソマルトシド鉄とカルボキシマルトース第二鉄の治療の効果を以下の点で比較することであった:
(1)重度の低リン血症の発生率
(2)低リン血症の時間
(3)最終来院時に低リン血症が認められた対象の割合
(4)S-リン酸塩(絶対[Δ]及び相対[%]変化)
(5)リン酸塩尿中部分排泄率
(6)インタクトな線維芽細胞増殖因子23(iFGF23)、C末端FGF23(cFGF23)、ビタミンD(25、1、25、24、25)、副甲状腺ホルモン(PTH)、及びイオン化カルシウム
(7)有害事象(AE)及び生化学的安全性パラメータ
【0123】
試験の副次的有効性の目的は、IDAを有する対象において、ヘモグロビン(Hb)、s-フェリチン、及びトランスフェリン飽和度(TSAT)に対するイソマルトシド鉄及びカルボキシマルトース第二鉄治療の効果を比較することであった。
【0124】
主要目的及び副次的目的に加えて、イソマルトシド鉄及びカルボキシマルトース第二鉄の効果に関する探索的解析が以下を含めて実施された。
(1)生化学的骨/筋マーカー
(2)筋力
【0125】
評価項目
主要評価項目は、ベースラインから35日目までの任意の時点における低リン血症(s-リン酸塩<2mg/dLと定義)の発生率とした。
【0126】
安全性の副次的評価項目は以下のとおりであった:
・ ベースラインから35日目までの任意の時点で1.0mg/dL未満のs-リン酸塩の発生率
・ ベースラインから35日目までの低リン血症を伴う時間(すなわち、s-リン酸塩が<2.0mg/dLである時間)
・ 35日目に低リン血症が認められた対象の割合
・ ベースラインから1、7、8、14、21、及び35日目までのs-リン酸塩の絶対変化[Δ]及び相対変化[%]
・ 1、7、8、14、21、及び35日目でのリン酸塩尿中部分排泄率
・ iFGF23、cFGF23、ビタミンD(25、1、25、24、25)、PTH、及びイオン化カルシウムのベースラインから1、7、8、14、21、及び35日目までの変化
・ 有害事象の種類及び発生率
・ 無作為化治療の第1の用量の開始時又は終了後に始まる重篤又は重度の過敏症反応(すなわち、治療下で発現した有害事象)。過敏症用語は、標準化国際医薬用語集クエリ(SMQ)用語として定義された。
【0127】
さらに、身体検査並びにバイタルサイン、身長、体重、心電図(ECG)、及び安全性検査パラメータの測定が、標準的な安全性評価の一部として測定された。
【0128】
有効性の副次的評価項目は以下のとおりであった:
・ ベースラインから1、7、8、14、21、35日目までのHb、s-フェリチン、及びTSATの変化
探索的評価項目は以下のとおりであった:
・ ベースラインから1日目、7日目、8日目、14日目、21日目、及び35日目までの生化学的骨/筋マーカー(血清中のI型コラーゲンのN末端プロペプチド(PINP)、カルボキシ末端コラーゲン架橋(CTx)、s-アルカリホスファターゼ(骨特異的及び総)、クレアチンキナーゼ)の変化
・ 慢性疾患治療の機能評価(Functional Assessment of Chronic Illness Therapy)(FACIT)疲労尺度により測定したベースラインから14日目及び35日目までの疲労症状の変化
・ Short Form(SF)-36質問票により測定したベースラインから14日目及び35日目までのQoLの変化
・ Visual Analogue Scale(VAS)で測定したベースラインから14日目及び35日目までの骨痛の変化
・ 握力により測定したベースラインから14日目及び35日目までの筋力の変化
・ 「1kgアームリフト」試験及び「30秒椅子立ち上がり」試験により測定したベースラインから14日目及び35日目までの上肢及び下肢近位筋機能の変化。
・ 最大吸気圧(MIP)及び最大呼気圧(MEP)によって測定されたベースラインから14日目及び35日目までの呼吸筋強度の変化
【0129】
安全性評価
試験では、以下の安全性評価が含まれた:
・ s-リン酸塩(血液及び尿)、iFGF23、cFGF23、ビタミンD(25、1、25、24、25)、PTH、及びイオン化カルシウムの測定
・ 有害事象が収集され、関連性、重症度、重篤度、及び予測性について評価されるであろう。それらは当局に報告され、国際的及び地域的な要求事項に従ってフォローアップされるであろう。
・ 身体検査、バイタルサイン、ECG、身長、体重、及び安全性検査パラメータの測定
【0130】
有効性評価
試験は、以下の有効性評価が含まれた:
・ ヘモグロビン、s-フェリチン、TSAT、及びs-鉄
【0131】
探索的評価
探索的評価は以下が含まれた:
・ 血清N末端PINP、CTx、s-アルカリホスファターゼ(骨特異的及び総)、及びクレアチンキナーゼの測定
・ MIP及びMEP
【0132】
試験期間及び来院回数
個々の対象について、試験期間は5週間(28日間のスクリーニング期間を含む)であり、各対象は8回の来院を行った。
【0133】
対象集団
以下の適格基準を満たした対象が含まれた。
【0134】
組み入れ基準:
対象が以下の基準を満たした場合、試験の組み入れに適格とされるであろう:
1. 異常な子宮出血、胃腸疾患、がん、減量手術(胃バイパス手術)、及び重大な失血につながるその他の状態など、様々な病因*によって発症したIDAを有する18歳以上の男性又は女性
2. Hb≦11g/dL
3. 体重>50kg
4. S-フェリチン≦100ng/mL
5. 推算糸球体濾過量(eGFR)≧65mL/min/1.73m2
6. S-リン酸塩>2.5mg/dL
7. 試験登録前に少なくとも1か月間***の経口鉄療法に対する不耐性又は無応答性の記録された病歴**
8. 参加する意思及びインフォームド・コンセント・フォーム(ICF)への署名
*IDAの病因(不明の場合も含む)が病歴に記録され、原文書で確認された。
**経口鉄療法に対する不耐性及び無応答は、病歴において徴候と症状とともに記録され、原文書で確認された。
***治験責任医師の判断により、過去9か月以内に少なくとも1か月の経口鉄療法に対する不耐性又は無応答性の文書があり、それらの対象者は再び経口鉄の候補にはならない。
【0135】
除外基準:
対象が以下のいずれかの基準を満たした場合、この試験の組み入れに適格としなかった:
1. 72時間以内に500mLを超える急性出血
2. 治験責任医師の判断による主にIDA以外の要因による貧血
3. ヘモクロマトーシス又はその他の鉄貯蔵障害
4. イソマルトシド鉄又はカルボキシマルトース第二鉄の任意の成分に対する既知の過敏反応
5. IV鉄化合物に対する過去の重篤な過敏反応
6. スクリーニング前の過去30日以内のIV鉄による治療
7. スクリーニング前の過去30日以内に、エリスロポエチン又はエリスロポエチン刺激剤、赤血球輸血、放射線療法、及び/又は化学療法による治療
8. スクリーニング前の過去30日以内に治験薬の投与を受けた
9. 試験期間内に予定されている外科的処置
10. アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALAT)及び/又はアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(ASAT)が正常値上限の3倍超(例えば、非代償性肝硬変又は活動性肝炎)
11. スクリーニング前の過去30日以内に全身麻酔下での手術
12. スクリーニング前の過去30日以内の非ウイルス性感染症
13. 過去6か月以内のアルコール又は薬物乱用
14. 未治療の副甲状腺機能亢進症
15. 腎移植
16. 推定余命が6か月未満、又はがん患者の場合は、米国東海岸がん臨床試験グループ(ECOG)の活動指標>1
17. 対象が試験の要件を理解することを妨げる状態及び/又は推定されるノンコンプライアンス
18. 治験責任医師の意見において、対象の疾患管理が危険にさらされたり、又は対象が試験の要件を遵守できなくなるおそれがある、その他の検査所見の異常、医学的状態、又は精神障害
19. 妊娠中又は授乳中の女性。妊娠を避けるため、妊娠する可能性のある女性には、全試験期間中及び最終投与後7日間は適切な避妊(例えば、子宮内避妊具、ホルモン避妊薬、又は二重バリア法)を使用する必要がある
【0136】
【0137】
試験的治療
以下に記載するように、イソマルトシド鉄の1つの治療コース(A群)又はカルボキシマルトース第二鉄の1つの治療コース(B群)のいずれかを対象に投与した。
・ A群:イソマルトシド鉄1000mgを、ベースライン時に0.9%塩化ナトリウム100mLで希釈し、約20分かけて単回静脈内注入として投与した(50mgの鉄/分、累積投与量1000mg)。
・ B群:カルボキシマルトース第二鉄750mgを、ベースライン及び7日目に少なくとも15分かけて注入して投与した(累積投与量:1500mg)。
【0138】
試験薬物の投与前に、前投薬(抗ヒスタミン薬やステロイド薬など)は許可されなかった。対象がアレルギー又は喘息などのために毎日治療を受けている場合、これは「前投薬」とはみなされず、継続することができた。
【0139】
統計解析
主要評価項目である、ベースラインから35日目までの任意の時点での低リン血症(s-リン酸塩<2mg/dLと定義)の発生率を表にまとめ、各治療群について正確な95% CIを推定した。
【0140】
コクラン・マンテル・ヘンツェル法を使用して、層(基礎疾患の種類(婦人科失血によるIDAを有する女性;はい/いいえ)及びスクリーニングs-リン酸塩レベル(3.5mg/dL未満、又は3.5mg/dL以上)を調整して、リスク差及び関連する95% CIの推定により、イソマルトシド鉄をカルボキシマルトース第二鉄と比較した。
【0141】
感受性に関しては、治療群と基礎疾患のタイプを因子とし、ベースラインのs-リン酸塩を共変量としたロジスティック回帰モデルとフィッシャーの正確確率検定により、治療群を治療群間で比較した。
【0142】
安全性解析セットの全ての対象が解析に含まれた。ベースライン後の最初のリン酸塩測定は1日目に行われたため、欠測値は非常に少ないと予測される。ベースライン後のリン酸測定が利用できなかった対象がいた場合、これらの対象は一次解析でs-リン酸塩が2mg/dL未満であると設定されるであろう。
【0143】
全ての統計解析は、統計解析計画書に記載されるであろう。
【0144】
【0145】
試験の評価
人口統計及びベースライン評価
生年月日、性別、人種、民族、喫煙習慣が収集された。現在の喫煙者は、過去6か月以内に喫煙していた対象として定義された。
【0146】
妊娠検査
妊娠可能性のある全ての女性に対して、尿妊娠検査が実施された。試験は、現場の担当者によって処理され、解釈された。
【0147】
関連する病歴
関連する病歴を記録した。試験期間中のその後の来院時に病歴の変化を記録した(症状又は疾患の悪化は有害事象として記録した)。以下を収集した:疾患及び開始日と終了日。IDAを引き起こす基礎疾患を除いて、試験への登録の12か月を超える前に発生した開始日は、12か月を超えると設定された。
【0148】
併用薬
対象が任意の併用薬を受けていた場合、それはベースライン来院時に記録された。併用薬の変更は、試験期間中のその後の来院時に記録された。以下が収集された:商品名、適応症、経路、用量、頻度、単位、開始日と終了日。試験への登録の12か月を超える前に発生した開始日は、12か月を超えると設定された。
【0149】
身体検査
治験責任医師の判断に基づいて身体検査が実施され、以下を含めることができる:
・ 頭-目-耳-鼻-喉
・ 心臓血管系
・ 呼吸器系
・ 神経系
・ 消化器系
・ 筋骨格系
・ 泌尿生殖器系
・ 皮膚科学系
・ その他、必要に応じて
【0150】
身長
身長は靴なしで測定した。
【0151】
体重
体重を測定した。
【0152】
バイタルサイン
心拍数及び血圧は、対象が試験薬物を投与された次の時点で測定された:注入の約0~10分前、注入中、5~15分、及び注入の終了後20~40分。バイタルサインが所定の時間間隔内に複数回測定された場合、その期間の最低血圧(付随する収縮期血圧と心拍数を含む)の測定値が電子症例報告書(eCRF)に記録された。
【0153】
心電図
標準的な12誘導心電図が記録された(日付、時刻、署名を含む)。ベースライン時及び他の治療のための来院時に、2回の心電図が記録された。1回は試験薬物の投与前、もう1回は投与開始から約30分後に記録された。経過観察の来院時に1回だけ心電図を記録した。
心電図は、心臓専門医が評価する必要はなかった。
【0154】
呼吸筋力
MIP及びMEPの測定は、呼吸筋の強度を評価するための非侵襲的な臨床的方法を提供し、筋圧を評価するために最も広く用いられている試験であった[ATS/ERSステートメント、2002]。MIPは横隔膜と他の吸気筋の強度を反映したが、MEPは腹筋と他の呼気筋の強度を反映している。MIP及びMEPは、MicroRPM(CareFusion Germany 234 GmbH、ヘーヒベルク、ドイツ)によって測定された。MIPとMEPの両方で3つの試験を行い、3つの試験の中で最も高い値を達成結果とした。
【0155】
臨床検査評価
血液試料は、試験薬物を投与する前に採取すること、及び可能であれば、パラメータの日内変動を減らすために、全ての来院時でその日の同じ時間に採取することが要求された。
【0156】
臨床検査評価は中央検査機関で実施した。全ての検査手順が記載された実験室マニュアルが各施設に提供された。
【0157】
適格性臨床検査評価
以下の適格性臨床検査評価を実施した:
・ 完全な血液検査セット:Hb、白血球/白血球(White Blood Cell)(WBC)、赤血球/赤血球(Red Blood Cell)(RBC)、ヘマトクリット、血小板、好中球顆粒球、リンパ球、単球、好酸球、好塩基球、平均赤血球ヘモグロビン(MCH)、平均赤血球容積(MCV)、平均赤血球ヘモグロビン濃度(MCHC)、及び網状赤血球数
・ 生化学:
・ S-フェリチン
・ S-リン酸塩
・ アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALAT)及びアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(ASAT)
・ C反応性タンパク質(CRP)
・ 推定糸球体濾過量(eGFR)
・ PTH
【0158】
ビタミンE
ビタミンEは、人口統計データの一部としてベースライン来院時に測定された。
【0159】
安全性臨床検査評価
以下の安全性臨床検査評価を解析した:
・ S-リン酸塩:無機リンは、硫酸存在下でモリブデン酸アンモニウムと、式(NH4)3[PO4](MoO3)12を有するリンモリブデン酸アンモニウム錯体を形成する。錯体は、Roche Modular and Cobas Analyzerを使用して、スペクトルの紫外領域(340nm)で測光的に決定された。
・ iFGF23及びcFGF23:ヒトインタクトFGF23は、カリフォルニア州サンクレメンテのImmontropics社によって製造された第2世代Elisaキットによって測定された。これは2部位酵素結合免疫吸着測定法であった。ヒトC末端FGF23は、カリフォルニア州サンクレメンテのImmontropics社によって製造されたElisaキットによって測定された。これは2部位酵素結合免疫吸着測定法であった。
・ ビタミンD(25、1、25、24、25):タンパク質の沈殿に続いて、25-ヒドロキシビタミンD2、25-ヒドロキシビタミンD3、及びそれらの内部標準が、支持液抽出(SLE)によって抽出された。窒素下で蒸発させた後、残留物を再構成し、タンデム質量分析検出(MS/MS)を備えた液体クロマトグラフィー(LC)を使用して分析した。標準曲線の範囲は、0.1mLの血清容量を使用して0.5ng/mLから200.00ng/mLであった。
・ PTH:インタクトPTHアッセイを、ADVIA Centaur XP機器用のiPTH試薬パックを使用して実施した。アッセイは、Lite Reagent中の2つの抗ヒトPTH抗体を一定量使用する直接化学発光測定技術を使用した2部位サンドイッチ免疫測定法であった。第1の抗体は、アクリジニウムエステルで標識されたポリクローナルヤギ抗ヒトPTH(N末端1-34)抗体であった。第2の抗体は、ビオチン化ポリクローナルヤギ抗ヒトPTH(39-84領域)抗体であった。固相中のストレプトアビジンを常磁性ラテックス粒子に共有結合させた。患者試料中に存在するPTHの量とシステムによって検出される相対光単位(RLU)の量との間には直接的な関係が存在する。
・ イオン化カルシウム:IL GEM Premier 3500 PAKカートリッジにより測定。中心的コンポーネントはセンサカードであり、試料がセンサに提示される、低容量の気密性チャンバを提供した。pH及び電解質センサは全てイオン選択性電極の原理に基づいており、すなわち、特定のイオンに対して選択的に透過性である膜を横切って電位を確立することができた。pH及び電解質センサは、内部Ag/AgCl参照電極及び内部塩層からなる、ポリ塩化ビニル(PVC)ベースのイオン選択電極であった。電位はカード参照電極に対して測定された。
・ 完全な血液検査セット:白血球/WBC、赤血球/RBC、ヘマトクリット、血小板、好中球、顆粒球、リンパ球、単球、好酸球、好塩基球、MCH、MCV、MCHC、及び網状赤血球数
・ 生化学:
・ S-ナトリウム、s-カリウム、s-カルシウム、s-尿素、s-クレアチニン、s-アルブミン
・ S-ビリルビン、ASAT、ALAT
・ CRP
【0160】
有効性臨床検査評価
以下の有効性臨床検査パラメータを解析した:
・ Hb
・ S-フェリチン:アクセスフェリチンアッセイは、2部位免疫酵素法(「サンドイッチ」アッセイ)であった。試料を、ヤギ抗フェリチン-アルカリホスファターゼコンジュゲート、及びヤギ抗マウス:マウス抗フェリチン複合体でコーティングされた常磁性粒子を含む反応容器に加えた。血清又は血漿(ヘパリン)フェリチンは固相上の固定化モノクローナル抗フェリチンに結合するが、ヤギ抗フェリチン酵素コンジュゲートはフェリチン分子上の異なる抗原部位と反応する。磁場中で分離し、洗浄すると、固相に結合していない物質が除去された。化学発光基質であるLumi-Phos*530を反応容器に加え、反応によって発生する光をルミノメータで測定した。
・ TSAT(s-鉄及びトランスフェリンを収集してTSATを計算する)
【0161】
探索的臨床検査評価
以下の探索的臨床検査評価を解析した:
・ 血清N末端PINP:測定方法はサンドイッチ原理の電気化学発光免疫測定法(ECLIA)とした。最初のインキュベーションの間、試料中のPINP及びビオチン化モノクローナルPINP特異的抗体を一緒にインキュベートした。2回目のインキュベーションの間、ストレプトアビジンでコーティングされた標識微粒子と、ルテニウム錯体(Trs(2,2-ビピリジル)ルテニウム(II)錯体(Ru(bpy)23+))で標識されたモノクローナルPINP特異的抗体を加えてサンドイッチ複合体を形成させ、これをビオチンとストレプトアビジンの相互作用を介して固相に結合させた。反応混合物は測定セル内に吸引され、そこで微粒子が電極の表面上に磁気的に捕捉された。電極に電圧を印加すると化学発光が誘導され、これが光電子増倍管によって測定された。結果は、試薬バーコードを介して提供される2点較正及びマスター曲線によって機器固有に生成された較正曲線を介して決定された。この方法はCobas e601 Analyzer上で実行された。
・ CTx:最初のインキュベーションの間、50μLの試料及びビオチン化モノクローナル抗β-CrossLaps抗体を一緒にインキュベートした。2回目のインキュベーションの間、ストレプトアビジンでコーティングされた標識微粒子と、ルテニウム錯体で標識されたモノクローナルP-ベータ-CrossLaps特異的抗体を加えてサンドイッチ複合体を形成させ、これをビオチンとストレプトアビジンの相互作用を介して固相に結合させた。反応混合物は測定セル内に吸引され、そこで微粒子が電極の表面上に磁気的に捕捉された。次いで、結合していない物質はProCellで除去された。電極に電圧を印加すると化学発光が誘導され、これが光電子増倍管によって測定された。結果は、試薬バーコードを介して提供される2点較正及びマスター曲線によって機器固有に生成された較正曲線を介して決定された。この方法はCobas e601 Analyzer上で実行された。
・ S-アルカリホスファターゼ(骨特異的及び総):骨特異的ホスファターゼ(BAP)は、Beckman Dxi 800で測定した。ベックマン-コールターオスターゼアッセイは、一段階免疫酵素化学発光アッセイであった。骨特異的アルカリホスファターゼ(BAP)に特異的なマウスモノクローナル抗体を、ヤギ抗マウスポリクローナル抗体でコーティングされた常磁性粒子を含む反応容器に加えた。キャリブレータ、コントロール、及びBAPを含む試料をコーティングされた粒子に加え、抗BAPモノクローナル抗体に結合させた。反応容器に化学発光基質であるLumi-Phos*530を加え、反応により発生する光をルミノメータで測定した。光生成は、試料中のBAP量に正比例する。試料中のBAPの量は、格納された多点較正曲線を用いて決定された。血清中の総アルカリホスファターゼのレベルは、Roche Modular Analyzerを使用して測定された。マグネシウムと亜鉛イオンの存在下で、p-ニトロフェニルリン酸はホスファターゼによってリン酸とp-ニトロフェノールに切断された。放出されたp-ニトロフェノールは、ALP活性に比例し、測光的に測定された。
・ クレアチンキナーゼ:クレアチンキナーゼ(CK)アッセイは、Roche Modular and Cobas Analyzerで実施した。反応は次のように進行した:
クレアチンリン酸 + ADP CK>クレアチン + ATP
ATP + グルコースHK > ADP + G-6-P
G-6-P + NADP+ > G-6-PDH 6-PG + NADPH + H+
【0162】
NADPHの形成は、等モル量のクレアチンの形成と同じ速度で進行した。NADPH形成の速度はCK活性に比例し、測光的に測定される。
【0163】
尿の評価
s-リン酸塩部分排泄率のレベルを評価するために、スポット尿サンプリングを採取した。
【0164】
有害事象
有害事象を収集し、試験薬物との関連性、重篤度、重症度、及び予測性について評価した。
【0165】
結果
主要な知見には、リン酸塩、ビタミンD及びカルシウムを管理する内分泌系に対するFCM投与計画の明らかな影響が含まれる。
【0166】
低リン血症の割合は、血清リン酸塩が2mg/dL未満の中等度から重症型と、1.0mg/dL以下の重症型のいずれにおいても、FCMの方がIIMよりも有意に高かった。
図1から5を参照。
【0167】
インタクトなiFGF23(iFGF23)はFCMの投与後に急激に増加し、その後数日間にわたって徐々に減少した。2回目の投与では、iFGF23は再び増加したが、今度は最初のレベルよりも数倍高いレベル、すなわち、驚くべきかつ以前は知られていなかった自己増幅効果にまで達した。IIMについては、本質的にiFGF23レベルの変化は観察されなかった。
図6及び7を参照。C末端FGF23(cFGF23)は、根底にある鉄欠乏性貧血のため当初高かったが、FCMの1回目の投与で急激に低下したのに対し、FCMの2回目の投与では増加した。
図8を参照。リン酸塩の尿中部分排泄率は、IIMに対してFCMで有意に増加した。
図10を参照。FCMは、PTHの増加、1,25‐ジヒドロキシビタミンDの減少、24,25‐ジヒドロキシビタミンDの増加及びイオン化カルシウムの減少をもたらした。
図11から13を参照。
【0168】
さらに、FCMは、以下の生化学的骨/筋マーカーによって測定されるように、骨代謝回転と筋機能の有意な変化を導いた。
【0169】
FCMはIMMと比較して、骨特異的アルカリホスファターゼの統計的に有意な増加を誘導した。
図14を参照。
【0170】
FCMは、IMMよりも統計的に有意に低いN末端PINP値を誘導した。
図14を参照。
【0171】
FCMは、IMMよりも統計的に有意に低いCTx値を誘導した。
図14を参照。
【0172】
FCMはIMMと比較して、アルカリホスファターゼの統計的に有意な増加を誘導した。
図14を参照。
【0173】
FCMはまた、最大呼吸圧及び/又は最大吸気圧として測定される呼吸容量を通じて具体的に測定されるように、コンパレータIV鉄治療に比べて筋機能の低下をもたらす。
図15を参照。
【0174】
均等物:
当業者は、本明細書に開示される特定の実施態様の多くの均等物を認識するか、又は日常的な実験のみを使用して確認することができるであろう。このような均等物は、添付の特許請求の範囲に包含されるものとする。
【0175】
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