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特開2024-102107プラズマエッチング装置用部材等に好適な成膜材料およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024102107
(43)【公開日】2024-07-30
(54)【発明の名称】プラズマエッチング装置用部材等に好適な成膜材料およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 4/11 20160101AFI20240723BHJP
   H01L 21/3065 20060101ALI20240723BHJP
   H01L 21/31 20060101ALI20240723BHJP
   C23C 14/08 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
C23C4/11
H01L21/302 101G
H01L21/31 C
H01L21/31 F
C23C14/08
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024066355
(22)【出願日】2024-04-16
(62)【分割の表示】P 2023566353の分割
【原出願日】2022-12-08
(31)【優先権主張番号】P 2021200979
(32)【優先日】2021-12-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000109875
【氏名又は名称】トーカロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000095
【氏名又は名称】弁理士法人T.S.パートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100082887
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 利春
(74)【代理人】
【識別番号】100181331
【弁理士】
【氏名又は名称】金 鎭文
(74)【代理人】
【識別番号】100183597
【弁理士】
【氏名又は名称】比企野 健
(72)【発明者】
【氏名】浜島 和雄
(72)【発明者】
【氏名】矢野 歩
(72)【発明者】
【氏名】森笹 真司
(57)【要約】
【課題】 プラズマエッチング装置用部材として好適である、耐プラズマ性が高いY含有成膜材料およその製造方法を提供する。
【解決手段】 ZrO、HfO又はNbからなる金属酸化物と、Yと、を含む固溶体を含む成膜材料であり、前記金属酸化物がZrOである場合は、ZrOの含有量が2~12モル%であり、前記金属酸化物がHfOである場合は、HfOの含有量が4~24モル%であり、前記金属酸化物がNbである場合は、Nbの含有量が1~8モル%であり、且つ該固溶体の結晶構造がYの正六面体結晶構造を有することを特徴とする成膜材料。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ZrO、HfO又はNbからなる金属酸化物と、Yと、を含む固溶体を含む成膜材料であって、前記金属酸化物がZrOである場合は、ZrOの含有量が7~12モル%であり、前記金属酸化物がHfOである場合は、HfOの含有量が4~16モル%であり、前記金属酸化物がNbである場合は、Nbの含有量が1~8モル%であり、且つ該固溶体の結晶構造がYの正六面体結晶構造を有することを特徴とする成膜材料。
【請求項2】
前記金属酸化物がZrOである場合、ZrOの含有量が8~11モル%である請求項1に記載の成膜材料。
【請求項3】
前記金属酸化物がHfOである場合、HfOの含有量が10~16モル%である請求項1に記載の成膜材料。
【請求項4】
前記金属酸化物がNbである場合、Nbの含有量が3~7モル%である請求項1に記載の成膜材料。
【請求項5】
前記固溶体に含まれる、Y原子に対するZr、Hf又はNb原子の比率が、成膜材料に含まれる固溶体の無作為に選んだ5点において、絶対値に対して±5%以内である請求項1~4のいずれかに記載の成膜材料。
【請求項6】
前記固溶体が、X線回折(XRD)において、Yの正六面体結晶構造のピークのみが生じる請求項1~4のいずれかに記載の成膜材料。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか1項に記載の成膜材料を用いて物理蒸着する成膜方法。
【請求項8】
請求項7に記載の成膜方法によって基材上に保護被膜を形成するプラズマエッチング装置用部材の製造方法。
【請求項9】
請求項1~4のいずれかに記載の成膜材料の製造方法であって、ZrO、HfO又はNbからなる金属酸化物粉末と、Y粉末と、の混合粉末であり、前記金属酸化物がZrOである場合は、ZrOの含有量が7~12モル%である混合粉末を1000~1600℃で熱処理して固溶体を形成し、前記金属酸化物がHfOである場合は、HfOの含有量が4~16モル%である混合粉末を1200~1600℃で熱処理して固溶体を形成し、前記金属酸化物がNbである場合は、Nbの含有量が1~8モル%である混合粉末を1200~1600℃で熱処理して固溶体を形成することを特徴とする成膜材料の製造方法。
【請求項10】
前記固溶体を形成した後、15~40μmの平均粒径を有する粒子に造粒し、1200~1500℃の温度で熱処理する請求項9に記載の成膜材料の製造方法。
【請求項11】
請求項1~4のいずれかに記載の成膜材料の製造方法であって、
ZrO、HfO又はNbを含む金属酸化物ゾルと、Y粉末と、を含む混合液を原料としてスプレードライ造粒し、得られたZrO微粒子、HfO微粒子又はNb微粒子とY微粒子との一次粒子から構成される球状粒子を酸化雰囲気中で1000~1500℃の温度で熱処理することにより、固溶体を形成することを特徴とする成膜材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造に用いられるプラズマエッチング装置用部材等に好適な成膜材料、成膜材料を用いた成膜方法、プラズマエッチング装置の製造方法、および成膜材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造におけるプラズマエッチングは、ウエハに回路を作製するステップで採用されている。プラズマエッチングを開始する前に、ウエハは、フォトレジスト若しくはハードマスク(通常、酸化物若しくは窒化物)でコーティングされ、その後のフォトリソグラフィーの工程で回路パターンに合わせて露光される(パターニング工程)。プラズマエッチングでは、パターニング後のウエハに対してプラズマエッチングを施すことにより、選択的に被エッチング材料を除去する(エッチング工程)。
このパターニング工程とエッチング工程は、半導体製造工程において、複数回繰り返される。なお、プラズマエッチングでは、物理的なスパッタ効果のみではなく、フッ素系や塩素系などのハロゲン系ガスを用いたプラズマをウエハに照射して、化学的なスパッタ効果も併せて被エッチング材料を除去している。
【0003】
プラズマエッチングでは、高集積度の半導体回路を形成するに伴い、略垂直のプロファイルを作製する必要があるため、プラズマから高エネルギーかつ高密度のイオンやラジカルを放出させる。このため、エッチング対象であるウエハのみでなく、エッチングが行われるチャンバの内面を構成する材料もプラズマ照射の影響を受け消耗する。そして、このようにして生じたパーティクルがウエハの回路上に付着して、半導体チップ製造の歩留りを低下させる一因となっている。
【0004】
一般的に、プラズマエッチングを行うチャンバを構成する材料は、アルミニウム合金などの金属材料であり、ハロゲン系ガスプラズマの暴露に対する耐性は高くない。そこで、チャンバには、耐プラズマ性材料が被覆され、プラズマによりチャンバが削れてパーティクルが発生することを抑制している。チャンバに被覆される耐プラズマ性材料としては、例えば、セラミックス材料が挙げられる。金属酸化物などのセラミックス材料は結晶構造が複雑であり、化学的な安定性も高いため、プラズマの暴露に対して良好な耐久性を示す。
【0005】
セラミックス材料の中でも、特に、酸化イットリウム(Y)は、半導体デバイスの作製に使用される類のハロゲン含有プラズマに対して、高い耐プラズマ性を有することが判明している材料である。例えば、特許文献1では、プラズマ処理容器内部の金属、セラミックス、炭素材料などの基材の表面に対して、Y溶射皮膜を被覆することにより、耐プラズマエロージョン性に優れるプラズマ処理容器内部材が提案されている。
【0006】
また、特許文献2では、半導体処理装置などの表面に、溶射プロセスによりY含有固溶体被膜を形成する前駆体酸化物を火炎溶射、熱溶射、またはプラズマ溶射により溶射被覆し、耐プラズマ性とともに、低電気抵抗を有する被膜を得る方法が提案されている。そして、この場合の前駆体酸化物として、ZrO、CeO、HfO、Nb、Sc、Nd、Sm、Yb、Erおよびそれらの組み合せからなる群から選択された少なくとも1種の他の酸化物と、Yとの少なくとも2種類の混合酸化物を使用することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】日本特開2001-164354号公報
【特許文献2】日本特表2010-535288号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、よく知られているように、先端技術分野に供される半導体は増々高集積化し、チップに形成される回路の線幅は20nm以下が要求されている。このため、プラズマエッチングにおいて以前は問題にならなかった数十nm程の大きさの微小パーティクルも問題となっており、以前にも増して耐プラズマ性への要求レベルも厳しくなっている。
【0009】
しかしながら、本発明者が研究を行った結果、特許文献1に記載される材料は、近年の耐プラズマ性の高い要求レベルを十分に満たしているとは言えなかった。
また、特許文献2に記載される溶射法で形成されるY含有固溶体被膜は、その改善目的が被膜の有する電気的特性である低い電気抵抗率にあり、被膜の耐プラズマ性は、Yと同じであり、特に改善されていない。これは、特許文献2からしても明らかにされている。すなわち、特許文献2には、「表1」中のY含有固溶体試料1~4の有する耐プラズマ性を表すエロ―ジョン速度が、その添付図5に示されているが、それらの試料1~4の耐プラズマ性は、従来の材料であるAl、AlN、ZrOなどよりも良好ではあるものの、純粋なYと同じであることが報告されている。
【0010】
本発明は、このような状況の下でなされた発明であり、半導体製造工程などのプラズマエッチング装置用部材などとして好適である、耐プラズマ性自体の特性がより高い優れたY含有固溶体成膜材料、該成膜材料を用いた成膜方法、プラズマエッチング装置用部材の製造方法、および成膜材料の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を達成するべく、Yを含む成膜材料の有する耐プラズマ性について研究を進めたところ、Yと、特定の金属酸化物と、を含む固溶体を含む成膜材料であり、特定の金属酸化物がZrO、HfO、又はNbであって、固溶体に含まれるこれら金属酸化物の含有量が、それぞれ、特定範囲にあり、該固溶体が有する結晶構造が、Yの正六面体結晶構造を有する場合、このY含有材料の耐プラズマ特性が向上し、エロ―ジョン(消耗)速度が低下することを見出した。
【0012】
本発明は、かかる新規な知見に基づくものであり、下記の態様を有する。
(1)ZrO、HfO又はNbからなる金属酸化物と、Yと、を含む固溶体を含む成膜材料であって、前記金属酸化物がZrOである場合は、ZrOの含有量が2~12モル%であり、前記金属酸化物がHfOである場合は、HfOの含有量が4~24モル%であり、前記金属酸化物がNbである場合は、Nbの含有量が1~8モル%であり、且つ該固溶体の結晶構造がYの正六面体結晶構造を有することを特徴とする成膜材料。
【0013】
(2)前記金属酸化物がZrOである場合、ZrOの含有量が7~12モル%である上記(1)に記載の成膜材料。
(3)前記金属酸化物がHfOである場合、HfOの含有量が8~20モル%である上記(1)に記載の成膜材料。
(4)前記金属酸化物がNbである場合、Nbの含有量が3~7モル%である(1)に記載の成膜材料。
【0014】
(5)前記固溶体に含まれる、Y原子に対するZr、Hf又はNb原子の比率が、成膜材料に含まれる固溶体の無作為に選んだ5点において、絶対値に対して±5%以内である上記(1)~(4)のいずれかに記載の成膜材料。
(6)前記固溶体が、X線回折(XRD)において、Yの正六面体結晶構造のピークのみが生じる上記(1)~(5)のいずれかに記載の成膜材料。
(7)上記(1)~(6)のいずれかに記載の成膜材料を用いて溶射する成膜方法。
(8)上記(1)~(6)のいずれかに記載の成膜材料を用いて物理蒸着する成膜方法。
(9)上記(7)又は(8)に記載の成膜方法によって基材上に保護被膜を形成するプラズマエッチング装置用部材の製造方法。
【0015】
(10)上記(1)~(9)のいずれかに記載の成膜材料の製造方法であって、
ZrO、HfO又はNbからなる金属酸化物粉末と、Y粉末と、の混合粉末であり、前記金属酸化物がZrOである場合は、ZrOの含有量が2~12モル%である混合粉末を1000~1600℃で熱処理して固溶体を形成し、前記金属酸化物がHfOである場合は、HfOの含有量が4~24モル%である混合粉末を1200~1600℃で熱処理して固溶体を形成し、前記金属酸化物がNbである場合は、Nbの含有量が1~8モル%である混合粉末を1200~1600℃で熱処理して固溶体を形成することを特徴とする成膜材料の製造方法。
(11)上記固溶体を形成した後、15~40μmの平均粒径を有する粒子に造粒し、1200~1500℃の温度で熱処理する上記(10)に記載の成膜材料の製造方法。
(12)上記(1)~(9)のいずれかに記載の成膜材料の製造方法であって、
ZrO、HfO又はNbを含む金属酸化物ゾルと、Y粉末と、を含む混合液を原料としてスプレードライ造粒し、得られたZrO微粒子とY微粒子との一次粒子から構成される球状粒子を酸化雰囲気中で1000~1500℃の温度で熱処理することにより、固溶体を形成することを特徴とする成膜材料の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、フッ素などのハロゲンを含むガスから生成されたプラズマによるドライエッチングに供されるチャンバなどの装置を形成するに適した、装置内面をプラズマから保護し、プロセス中に生じる塵埃を抑制することが可能である、高い耐プラズマ性を有するY含有固溶体成膜材料、その成膜材料を用いた成膜方法、その成膜材料の製造方法が提供される。
更に、フッ素などのハロゲンを含むガスから生成されたプラズマによるドライエッチングに供されるチャンバなどの、高い耐プラズマ性を有するプラズマエッチング装置用部材の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】Yの結晶格子構造におけるY原子と酸素原子との立体的関係を示す。
図2】YとZrOの二元系状態図である。
図3】YとHfOの二元系状態図である。
図4】YとNbの二元系状態図である。
図5a】実施例3の固溶体のXRD図である。
図5b】比較例3の固溶体のXRD図である。
図6a】実施例5の固溶体のXRD図である。
図6b】比較例5の固溶体のXRD図である。
図7a】実施例8の固溶体のXRD図である。
図7b】比較例7の固溶体のXRD図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、本明細書(特許請求の範囲を含む)において、数値範囲を記載する場合、上限と下限の単位が同じのとき、例えば、「2モル%~12モル%」を「2~12モル%」、「1000℃~1600℃」を「1000~1600℃」と記載し、下限の単位の記載を省略する場合がある。
<成膜材料>
本発明のY含有固溶体成膜材料を用いて成膜した被膜は、高い耐プラズマ性を有するが、これは下記の経緯により到達されたものである。
本発明の成膜材料の主たる構成成分であるYは、上記したように、半導体製造プロセスなどで多用され、フッ素を含むプラズマに対して最も耐性が高い材料の一つとして知られている。ここで、図1に示すように、Yの単位格子は、酸素を8配位可能な正六面体構造であるにも拘わらず、Yは酸素が6配位となっている。本発明者は、このことから結晶中に多くの酸素空位が存在しているが、この酸素空位に何らかの手段で酸素を配し欠陥を減じることによって、Yの耐プラズマ性を一層向上させることができるのはないかと考えた。
【0019】
そこで、本発明者は、Yに他の金属酸化物を添加することによって、前述の酸素空位に酸素を配し欠陥を減じることを試みた。この結果、本発明者は、Yに添加する金属酸化物が、下記のa、bの2つの要件を満たす場合、金属酸化物-Y複合固溶体のプラズマ曝露による消耗速度が顕著に低下し、耐プラズマ特性が向上することを見出した。
a.金属酸化物の結晶格子構造における酸素が8配位または10配位する。
b.金属酸化物をYに対して1モル%以上添加しても、Yの正六面体結晶構造が維持される。
【0020】
本発明において、Yに添加する金属酸化物のうち、ZrOおよびHfOは酸素が8配位する金属酸化物であり、Nbは酸素が10配位する金属酸化物である。
なお、図2は、YとZrOの二元系状態図であり、図3は、YとHfOの二元系状態図であり、図4は、YとNbの二元系状態図である。これらの二元系状態図からして、ZrO、HfOまたはNbをYに対して少量添加しても、Yの正六面体結晶構造が維持されることが示唆されている。
【0021】
また、ZrOおよびHfOは、酸素原子を8配位している金属酸化物であるが、温度変化などによって酸素原子を放出する傾向がある。したがって、Yに対して、ZrOまたはHfOを固溶させることにより、ZrOまたはHfOから放出された酸素原子が、Yの酸素空位に配され、欠陥を減じることが可能となる。ただし、添加するZrOまたはHfOの量が多い場合、Yは正六面体構造を維持できなくなり、結果的に耐プラズマ性が低下してしまう。
【0022】
また、Nbは、酸素原子を10配位している金属酸化物であるが、温度変化などによって酸素原子を放出する傾向がある。したがって、YにNbを固溶させることにより、Nbから放出された酸素原子がYの酸素空位に配され、欠陥を減じることが可能となる。ただし、添加するNbの量が多い場合、Yは正六面体構造を維持できなくなり、結果的に耐プラズマ性が低下する。
【0023】
このように、Yに対して、酸素が8配位または10配位する金属酸化物を、Yの正六面体結晶構造が維持される量比で添加すると、結晶中の酸素空位に酸素が導入されるため、欠陥密度が低下し、結晶の安定性が向上する。この結果、この結晶の物理スパッタおよび化学スパッタに対する耐性が増すものと考えられる。
【0024】
本発明の成膜材料は、Yに対して、ZrO、HfO、またはNbからなる金属酸化物を固溶させてなる材料であり、この場合に、上記したように、Yに対して固溶させる量は耐プラズマ性に関係するので重要である。金属酸化物の含有量が小さい場合も、逆に大きい場合にも、得られる固溶体の有する耐プラズマ性の向上は小さくなる。なお、本発明では、Yを主酸化物と言い、ZrO、HfO、またはNbからなる添加金属酸化物を副酸化物と言う場合がある。
【0025】
金属酸化物がZrOである場合、固溶体中、ZrOの含有量は、2~12モル%であり、好ましくは7~12モル%、より好ましくは8~11モル%である。
金属酸化物がHfOである場合、固溶体中、HfOの含有量は、4~24モル%であり、好ましくは8~20モル%、より好ましくは10~16モル%である。
また、金属酸化物がNbである場合、固溶体中、Nbの含有量は、1~8モル%であり、好ましくは3~7モル%、より好ましくは4~6モル%である。
【0026】
本発明の高い耐プラズマ特性を有するY含有固溶体の成膜材料に含まれる固溶体の結晶構造は、ZrO、HfO、またはNbからなる添加金属酸化物が固溶されていても、原料であるYの正六面体結晶構造を有する。本発明において、結晶構造は、好ましくは、X線回折(XRD)で確認することができる。固溶体が有する結晶構造がYの正六面体結晶を有する場合、固溶体のX線回折(XRD)は、Yの正六面体結晶構造のピークのみが生じる。
本明細書において、X線回折において、Yの正六面体結晶構造のピークのみが生じるとは、Yの正六面体結晶構造と同じピークを有する一方で、Yに固溶させた金属酸化物のピークを有しないことを意味する。換言すれば、本発明のY含有固溶体をX線回折した場合の線図は、Yの正六面体構造の線図と同じ位置(それが平行移動した位置)にピークが見られる、すなわち、Yの正六面体構造の線図と同形となることを意味する。なお、両者のX線回折図におけるピークの大きさは、必ずしも同じでなくてもよい。
【0027】
<成膜材料の製造方法>
以下に本発明のY含有固溶体成膜材料の製造方法の代表例について説明する。
まず、ZrO粉末、HfO粉末、または、Nb粉末と、Y粉末と、を回転ボールミル等の装置を用いて粉砕・混合し、電気炉などを用いて大気中または不活性雰囲気中で高温熱処理し、互いに一体化(例えば焼結)させる。つまり、Y粉末と、ZrO粉末、HfO粉末、または、Nb粉末との混合粉末を熱処理することで互いを一体化させる工程を有する。
【0028】
ただし、Y粉末とZrO粉末との混合粉末の場合、ZrOの含有量が2~12モル%であり、好ましくは7~12モル%である。また、Y粉末とHfO粉末との混合粉末の場合、HfOの含有量が4~24モル%であり、好ましくは8~20モル%である。Y粉末とNb粉末との混合粉末の場合、Nbの含有量が1~8モル%であり、好ましくは3~7モル%である。
【0029】
本発明のY含有固溶体成膜材料では、添加された金属酸化物が、成膜材料中において均一に固溶されていることが好ましく、以下の製造方法によれば、均一な成膜材料を得ることができる。
本発明で得られる均一な成膜材料は、成膜材料に含まれる固溶体粒子について無作為に5点選び、各点毎にY原子に対する添加された金属酸化物を構成する金属原子の含有量比を求め、かかる値における、全5点の金属原子/Y原子のばらつきが絶対値に対して、±5%以内のものを指す。なお、ここにおける絶対値とは、添加金属酸化物が成膜材料中に均一に固溶していると仮定したときの金属原子/Y原子の理論値のことである。
例えば、Yに対して10モル%のZrOを固溶させてなる成膜材料の場合、絶対値は0.111であり、Yに対して10モル%のZrOを固溶させてなる成膜材料が均一であるとは、無作為に選んだ5点の全てにおいて、Zr原子/Y原子の値が0.111±0.00555の範囲にあることを意味する。
【0030】
なお、固溶体における金属原子の含有率を求める方法としては、例えば、誘導結合プラズマ発光分光分析装置を用いる方法が挙げられる。このように、成膜材料の段階で均一に固溶していることにより、成膜後の被膜においても均一に固溶している状態を保てるため、被膜中の耐プラズマ性のばらつきを抑制することができる。
【0031】
以下、Y含有固溶体成膜材料の製造方法について、金属酸化物がZrOである場合を例にとって説明する。金属酸化物がHfOまたはNbである場合も、これに準じた製造方法にて作製することができる。
粉末とZrO粉末とを粉砕・混合する際に用いる粉末の純度は99.5重量%以上が好ましい。また、粉砕・混合工程に供されるこれらの粉末の平均粒子径(D50)は4μm以下であることが好ましく、粉砕・混合を行った混合粉の平均粒子径は2μm以下とすることが好ましい。
【0032】
熱処理前のZrO粉末の平均粒子径は、Y粉末の平均粒子径の好ましくは1/3以下、より好ましくは1/5である。ZrO粉末の混合比は、Y粉末に比べて少ないため、Y粉末とZrO粉末との接点はその分少なくなる。そこで、ZrO粉末の平均粒子径を、Y粉末の平均粒子径を上記の範囲にすることによって、Y粉末とZrO粉末との接触機会を増やすことができる。このように、Y粉末とZrO粉末との接触機会が多い状態で熱処理を行うことにより、固相反応が促進され、短時間でY粉末に対してZrO粉末を固溶させることが可能となる。
【0033】
粉末とZrO粉末との混合粉末を焼結させる際の熱処理は、好ましくは1100℃~1600℃、より好ましくは1300~1500℃で行われる。これにより、Y粉末とZrO粉末との固相反応速度を十分速くすることが可能となり、かつ、熱処理後の焼結体の粒度調整が可能となる。なお、Y粉末とHfO粉末との混合粉末を焼結させる際の熱処理、或いは、Y粉末とNb粉末との混合粉末を焼結させる際の熱処理は、いずれも、好ましくは、1200~1600℃、より好ましくは1400~1600℃で行われる。これにより、Y粉末とHfO粉末との固相反応速度、或いは、Y粉末とNb粉末との固相反応速度を十分速くすることが可能となり、かつ、熱処理後の焼結体の粒度調整が可能となる。
なお、上記範囲より低い温度で熱処理を行った場合、組織の均一化を十分に行えず、また、固相反応速度が遅くなるため、製造時間が非常に長くなる。一方、上記範囲よりも高い温度で処理を行った場合、Y粒子同士の焼結が活発となり、固結が進行することによって、以降の粒度調整などが困難となる。なお、熱処理時間は、好ましくは3~12時間、より好ましくは5~8である。
【0034】
次に、熱処理により互いに焼結させた合成粉末をほぐして溶媒等に加え、スラリーとした後、スプレードライ法などによって、平均粒径が好ましくは15~40μmを有する球形粒子に造粒する。これらの造粒粒子は酸化雰囲気中で電気炉などを用いて、有機バインダーを除去し、かつ球形粒子の破壊強度を向上せしめるために好ましくは1200~1500℃、より好ましくは1350~1500℃に加熱した後、成膜材料として供される。
【0035】
なお、本発明の成膜材料の製造方法は、上述の方法に限定されない。他の方法として、金属酸化物を分散質とする微粒子分散ゾルや金属塩を用いる方法が挙げられる。例えば、YとZrOとの混合比が上記した好ましい所定の比率となるように市販のZrOゾルとY粉末を混合し、この混合液を原料としてスプレードライ造粒することにより、ZrO微粒子とY微粒子との一次粒子から構成される球形粒子が得られる。この球形粒子を酸化雰囲気中で好ましくは1000~1500℃の温度で熱処理することにより、一体化のための反応処理と球形粒子の破壊強度向上を同時に実現することが可能であり、熱処理後の球形粒子は成膜材料として供される。なお、上記ZrOゾルは、HfOゾルやNbゾルに置き換えても同様に成膜材料として供されうる。
【0036】
さらに、本発明の成膜材料の製造方法は、電融、粉砕法によっても可能である。例えば、所定の配合比に混合したY粉末とZrO粉末とを電融法によって、好ましくは3000~4000℃の温度で溶融・鋳造することにより、溶融時の高温履歴によってYの正六面体結晶構造が維持された合成材料の鋳塊が得られる。この鋳塊をジョークラッシャーやボールミルなどの装置を用いて順次粉砕し、適した粒度範囲に調整すれば成膜材料として供される。
【0037】
<成膜方法>
本発明の成膜材料を用いた被膜の成膜方法としては、溶射法や物理蒸着法などの既知の方法が挙げられる。以下にてそれぞれの成膜方法について説明する。本発明の成膜材料を用いた溶射法または物理蒸着法により成膜された被膜は、高い耐プラズマ性を有する。
【0038】
本発明に好適な溶射法としては、大気圧プラズマ溶射法や減圧プラズマ溶射法などが挙げられる。なかでも、大気圧プラズマ溶射法が好ましい。本発明に好適な大気圧プラズマ溶射法は、装置および条件を含めて、既知のものが使用できるが、たとえば、下記が挙げられる。
溶射装置:プラズマ溶射ガン(スルーザーメテコ社製 9MB)
作動電圧:65V
作動電流:700A
一次ガス(Ar)流量:60NL/min
二次ガス(H)流量:5NL/min
溶射距離:140mm
【0039】
本発明に好適な物理蒸着法としては、スパッタリング法、イオンプレーティング法、アークイオンプレーティング法、電子ビーム物理蒸着法などが挙げられる。なかでも、電子ビーム物理蒸着法が好ましい。本発明に好適な電子ビーム物理蒸着法は、装置および条件を含めて、既知のものが使用できるが、たとえば、下記が挙げられる。
装置: Von Ardenne,Tuba150
基材温度: 450℃
チャンバ圧: 1.0Pa
作動電圧: 60kW
【0040】
<プラズマエッチング装置用部材の製造方法>
本発明の成膜材料は、半導体製造に用いられるプラズマエッチング装置用部材等に適用される。本発明におけるプラズマエッチング装置用部材とは、プラズマプロセス中にプラズマに晒されうる部材であって、例えば、エッチングチャンバ内部材、静電チャック等が挙げられる。
本発明におけるプラズマエッチング装置は、円筒型のチャンバ、電極等のプラズマ生成部、ウエハを保持するための静電チャック等の部材を有する。チャンバ内の静電チャック上に保持されたウエハは、プラズマ生成部により生成されたプラズマの作用により、エッチング処理が施される。この時、生成されたプラズマは、ウエハのみならず、チャンバ内部材や静電チャックにも作用する。
【0041】
本発明におけるプラズマエッチング装置用部材とは、上述のチャンバ内部材や静電チャック等のプラズマに晒されうる部材のことを指す。これらのプラズマエッチング装置用部材には、プラズマに晒されることにより発生する微小パーティクルの発生を抑制するため、高い耐プラズマ性が求められる。したがって、プラズマエッチング装置用部材の基材上に、溶射法または物理蒸着法により、本発明の成膜材料を用いた保護被膜を形成することによって、プラズマエッチング装置用部材が、高い耐プラズマ性を備えることが可能となる。
【実施例0042】
以下、実施例によって本発明について具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。本発明において、平均粒径は、特に言及のない限り、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径(D50)を意味する。
【0043】
(実施例1)
平均粒径が3.3μmのY粉末と、平均粒径が1.0μmのZrO粉末を準備した。ZrO粉末の含有量が、得られるY粉末とZrO粉末との混合物中、2モル%となるように、両者の粉末を乾式で遊星ミル(ジルコニアボールとジルコニアポットを使用)を用いて混合した。得られた混合粉末を、電気炉により、1500℃で10時間加熱し、固溶体の合成化処理に供した。次いで、合成化処理後の粉末をアルミナ乳鉢と乳棒を用いて解砕し、解砕後の粉末を用いて放電プラズマ焼結装置により焼結体(固溶体)を作製した。
【0044】
次に、作製した焼結体の表面を湿式エメリー紙(SiC砥粒)で#1200まで研磨し、X線回折法(XRD)によって結晶相を同定した。
最後に、X線回折法に供した焼結体をプラズマ曝露試験に供し、消耗速度を測定した。ここで、消耗速度は、焼結体の表面のうち、プラズマに曝露されないようマスキングを行った部位とプラズマに暴露された部位との段差を、レーザー顕微鏡を用いて測定した段差の大きさにより、以下のように定義した。
消耗速度=段差の大きさ(μm)/エッチング時間(分)
【0045】
プラズマ曝露試験には、ドライエッチング装置を用い、4インチのSiウエハ上に焼結体を静置し、プラズマに曝露した。プラズマの生成は、下記の条件で行った。
プラズマガス種と流量:
CF・・50sccm、 O・・・10sccm、
Ar・・・50sccm
RF出力・・800W、 バイアス・・600W
【0046】
(実施例2)
粉末とZrO粉末との混合物中のZrO粉末の含有量を5モル%となるようにしたこと以外は、実施例1と同様の方法にて、焼結体の作製、結晶相の同定、プラズマ曝露試験、および消耗速度の測定を行った。
【0047】
(実施例3)
粉末とZrO粉末との混合物中のZrO粉末の含有量を10モル%となるようにしたこと以外は、実施例1と同様の方法にて、焼結体の作製、結晶相の同定、プラズマ曝露試験、および消耗速度の測定を行った。
実施例3で、得られた焼結体粉末粒子1つの中で無作為に5点選び、各点毎にY原子に対するZr原子の含有量比を調べた結果、それぞれ0.1123、0.1088、0.1075、0.1115、0.1135であった。Yに対してZrOを10モル%固溶させてなる材料の絶対値は0.111であるため、本実施例で得られた粉末では、ZrOが粉末材料中において均一に固溶されていることが分かった。ここで、実施例3の固溶体の結晶相の同定に使用したXRD図を図5(a)に示す。図5(a)から、実施例3の固溶体は、Yの正六面体結晶構造のピークのみが生じていることが分かる。
【0048】
(比較例1)
粉末とZrO粉末との混合物中のZrO粉末の含有量を15モル%となるようにしたこと以外は、実施例1と同様の方法にて、焼結体の作製、結晶相の同定、プラズマ曝露試験、および消耗速度の測定を行った。
【0049】
(比較例2)
粉末とZrO粉末との混合物中のZrO粉末の含有量を20モル%となるようにしたこと以外は、実施例1と同様の方法にて、焼結体の作製、結晶相の同定、プラズマ曝露試験、および消耗速度の測定を行った。
【0050】
(比較例3)
粉末とZrO粉末との混合物中のZrO粉末の含有量を30モル%となるようにしたこと以外は、実施例1と同様の方法にて、焼結体の作製、結晶相の同定、プラズマ曝露試験、および消耗速度の測定を行った。ここで、比較例3の固溶体の結晶相の同定に使用したXRD図を図5(b)に示す。図5(b)から、比較例3の固溶体は、Yの正六面体結晶構造のピークだけでなく、ZrOのピークが生じていることが分かる。
【0051】
(実施例4)
平均粒径が3.3μmのY粉末と、平均粒径が0.8μmのHfO粉末を準備した。HfO粉末の含有量が、得られるY粉末とHfO粉末との混合物中、5モル%となるように、両者の粉末を乾式で遊星ミル(ジルコニアボールとジルコニアポットを使用)を用いて混合した。得られた混合粉末を、電気炉により、1500℃で10時間加熱し、固溶体の合成化処理に供した。次に、合成化処理後の粉末をアルミナ乳鉢と乳棒を用いて解砕し、解砕後の粉末を用いて放電プラズマ焼結装置により焼結体(固溶体)を作製した。結晶相の同定、プラズマ曝露試験、および消耗速度の測定については、実施例1と同様の方法を用いて行った。
【0052】
(実施例5)
粉末とHfO粉末との混合物中のHfOの含有量を10モル%となるようにしたこと以外は、実施例4と同様の方法にて、焼結体の作製、結晶相の同定、プラズマ曝露試験、および消耗速度の測定を行った。ここで、実施例5の固溶体の結晶相の同定に使用したXRD図を図6(a)に示す。図6(a)から、実施例5の固溶体は、Yの正六面体結晶構造のピークのみが生じていることが分かる。
【0053】
(実施例6)
粉末とHfO粉末との混合物中のHfOの含有量を20モル%となるようにしたこと以外は、実施例4と同様の方法にて、焼結体の作製、結晶相の同定、プラズマ曝露試験、および消耗速度の測定を行った。
【0054】
(比較例4)
粉末とHfO粉末との混合物中のHfOの含有量を30モル%となるようにしたこと以外は、実施例4と同様の方法にて、焼結体の作製、結晶相の同定、プラズマ曝露試験、および消耗速度の測定を行った。
【0055】
(比較例5)
粉末とHfO粉末との混合物中のHfOの含有量を35モル%となるようにしたこと以外は、実施例4と同様の方法にて、焼結体の作製、結晶相の同定、プラズマ曝露試験、および消耗速度の確認を行った。ここで、比較例5の固溶体の結晶相の同定に使用したXRD図を図6(b)に示す。図6(b)から、比較例5の固溶体は、Yの正六面体結晶構造のピークだけでなく、HfOのピークが生じていることが分かる。
【0056】
(実施例7)
平均粒径が3.3μmのY粉末と、平均粒径が0.66μmのNb粉末を準備した。Nb粉末の含有量が、得られるY粉末とNb粉末との混合物中、2モル%となるように、両者の粉末を乾式で遊星ミル(ジルコニアボールとジルコニアポットを使用)を用いて混合した。得られた混合粉末を、電気炉により、1500℃で10時間加熱し、固溶体の合成化処理に供した。次に、合成化処理後の粉末をアルミナ乳鉢と乳棒を用いて解砕し、解砕後の粉末を用いて放電プラズマ焼結装置により焼結体(固溶体)を作製した。結晶相の同定、プラズマ曝露試験、および消耗速度の測定については、実施例1と同様の方法を用いて行った。
【0057】
(実施例8)
粉末とNb粉末との混合物中のNbの含有量を5モル%となるようにしたこと以外は、実施例7と同様の方法にて、焼結体の作製、結晶相の同定、プラズマ曝露試験、および消耗速度の測定を行った。ここで、実施例8の固溶体結晶相の同定に使用したXRD図を図7(a)に示す。図7(a)から、実施例8の固溶体は、Yの正六面体結晶構造のピークのみが生じていることが分かる。
【0058】
(比較例6)
粉末とNb粉末との混合物中のNbの含有量を10モル%となるようにしたこと以外は、実施例7と同様の方法にて、焼結体の作製、結晶相の同定、プラズマ曝露試験、および消耗速度の測定を行った。
【0059】
(比較例7)
粉末とNb粉末との混合物中のNbの含有量を15モル%となるようにしたこと以外は、実施例7と同様の方法にて、焼結体の作製、結晶相の同定、プラズマ曝露試験、および消耗速度の測定を行った。ここで、比較例7の固溶体の結晶相の同定に使用したXRD図を図7(b)に示す図7(b)から、比較例7の固溶体は、Yの正六面体結晶構造のピークだけでなく、Nbのピークが生じていることが分かる。
【0060】
(比較例8)
粉末とNb粉末との混合物中のNbの含有量を20モル%となるようにしたこと以外は、実施例7と同様の方法にて、焼結体の作製、結晶相の同定、プラズマ曝露試験、および消耗速度の測定を行った。
【0061】
(比較例9)
平均粒径が1~2μmのY粉末を用いて放電プラズマ焼結装置により焼結体を作製した。結晶相の同定、プラズマ曝露試験、および消耗速度の測定については、実施例1と同様の方法を用いて行った。
【0062】
上記した各実施例、および各比較例におけるX線回折の結果、および、プラズマ曝露試験の結果を、下記の表1に示す。
ここで、表1中のX線回折結果は、X線回折法を用いて結晶相を同定した結果、Yの正六面体構造のピークのみが検出されたものには〇を付しており、Yの正六面体構造のピークのほかにYに固溶させた金属酸化物のピークや複合酸化物等のピークが検出されたものには×を付している。
また、表1中の消耗率は、プラズマ曝露試験に供したSiウエハの消耗速度と、プラズマ曝露試験に供した各実施例、比較例の消耗速度と、を比較した値であり、Siウエハの消耗速度を100として、各試験片の消耗速度を消耗率として示す。
【0063】
【表1】
【0064】
表1の結果から、X線回折法により、Yの正六面体結晶構造のピークのみが検出された実施例1~8の焼結体(固溶体)の消耗率は、他の金属酸化物のピークが見られた比較例1~9の焼結体の消耗率に比べて小さくなっていることが分かる。すなわち、Yに対して、Yの正六面体結晶構造が維持される範囲の比率でZrO、HfO、または、Nbを固溶させることにより、プラズマによる消耗を顕著に低減できることを示している。
【0065】
次に、本発明の成膜材料を用いて得られる溶射被膜の実施例について説明する。
(実施例9)
ZrO水性ゾル(日産化学社、商品名:ナノユースZR)、平均粒径1.5μmのY粉末、および、イオン交換水を用いて、Y-ZrOのスラリーを作製した。このスラリーに含有されるYとZrOとの合計量におけるZrOの含有比率は、10モル%であり、総固形分の含有率45重量%とした。
次いで、このスラリーに、総固形分の含有量の0.40重量%のアクリル系バインダー(中京油脂社、商品名:セルナWN-405)を添加してスプレードライ造粒を行い、平均粒径が36μmの球形粒子を得た。この球形粒子を、電気炉を用いて、大気雰囲気中で1350℃まで加熱して、脱バインダー処理および均一組成化処理を施し、固溶体からなる成膜材料を調製した。
次に、厚み3mm、縦20mm、横20mmの正方形アルミニウム合金(A5052)製の基板をサンドブラストし粗面化した後、その表面上に、大気プラズマ溶射装置(プラズマ溶射ガン(スルーザーメテコ社製 9MB))により、作動電圧:65V、作動電流:700A、一次ガス(Ar)流量:60NL/min、二次ガス(H)流量:5NL/min、溶射距離:140mmにて大気プラズマ溶射を施し、厚みが約0.15mmの溶射被膜を成膜した試験片を作製した。
【0066】
上記で作製した試験片の溶射面を#800の湿式エメリー紙で研磨し、純水中で超音波洗浄し、次いで、恒温槽での85℃乾燥を行った後、プラズマ暴露試験に供し、消耗速度を求めた。ここで、消耗速度はプラズマに曝露されないようマスキングを行った部位とプラズマに暴露された部位との段差を、レーザー顕微鏡を用いて測定した段差の大きさにより定義した。試験には、ドライエッチング装置を用い、ウエハ上に焼結体を静置し、プラズマに曝露した。プラズマの生成は、下記の条件で行った。
プラズマガス種と流量:
CF・・50sccm、 O・・・10sccm、
Ar・・・50sccm
RF出力・・800W、 バイアス・・600W
【0067】
(実施例10)
平均粒径が0.8μmのHfO粉末と、平均粒径が3.3μmのY粉末とを、得られる混合物中のHfOの含有比率が15モル%となるように秤量・混合した。次に、混合粉末をエタノール溶媒中でジルコニアボールとジルコニアポットを使用して混合した。次に、乾燥して得た混合粉末を、電気炉を用いて、空気気流中で1500℃まで加熱する熱処理を行い、Yに対してHfOを固溶させた複合粉末とした。次に、上記複合粉末の解砕を行い、得られる解砕物を使用し、イオン交換水を溶媒として固形分率40重量%のスラリーを作製した。
【0068】
上記で得られたスラリーに、固形分量の0.40重量%のアクリル系バインダー(中京油脂社、商品名:セルナWN-405)を添加してスプレードライ造粒に供した。この結果、平均粒径が31μmの球形粒子が得られた。さらに、この球形粒子を、電気炉を用いて、大気雰囲気中で1450℃まで加熱して、脱バインダー処理および均一組成化処理を施し、成膜材料を調製した。試験片の作製方法、および消耗速度の確認方法は、実施例9と同様の方法にて行った。
【0069】
(比較例10)
平均粒径が3.3μmのY粉末を固形分率40重量%としてイオン交換水に分散させ、スラリーとしたものを準備した。次に、このスラリーに固形分量に対して0.40重量%のアクリル系バインダー(中京油脂社、商品名:セルナWN-405)を添加してスプレードライ造粒に供し、平均粒径が33μmの造粒球形粉末を得た。さらに、この球形粒子を、電気炉を用いて、大気雰囲気中で1450℃まで加熱して、脱バインダー処理および均一組成化処理を施し、成膜材料を調製した。試験片の作製方法、および消耗速度の確認方法は、実施例9と同様の方法にて行った。
【0070】
(比較例11)
平均粒径が3.3μmのY粉末および平均粒径が0.9μmのZrO粉末を、得られる混合物中のZrOが18モル%になるよう均一混合した後、空気気流中で1450℃に加熱し、解砕した合成粉末をイオン交換水に固形分率40重量%として分散させ、スラリーとしたものを準備した。次に、このスラリーに固形分量に対して0.40重量%のアクリル系バインダー(中京油脂社、商品名:セルナWN-405)を添加してスプレードライ造粒に供し、平均粒径が33μmの造粒球形粉末を得た。さらに、この球形粒子を、電気炉を用いて、大気雰囲気中で1450℃まで加熱して、脱バインダー処理および均一組成化処理を施し、成膜材料を調製した。試験片の作製方法および消耗速度の確認方法は、実施例9と同様の方法にて行った。
【0071】
上記した各実施例、比較例におけるプラズマ曝露試験の結果を下記の表2に示す。ここで、表2中の消耗率とは、プラズマ曝露試験に供した比較例10のY溶射被膜の消耗速度と、プラズマ曝露試験に供した各実施例、比較例の消耗速度と、を比較した値であり、Y溶射被膜の消耗速度を100として示す。
【0072】
【表2】
【0073】
表2の結果から、実施例9の溶射被膜、および、実施例10の溶射被膜の消耗速度は、比較例10の溶射被膜の消耗率に比べて小さいことが分かる。一方、比較例11の溶射被膜の消耗率は、比較例10の溶射被膜の消耗率よりも大きいことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の成膜材料は、半導体製造工程におけるフッ素ガスなどのハロゲンガスを使用するプラズマエッチング装置用部材などを始めとする幅広い分野において有効である。
【0075】
なお、2021年12月10日に出願された日本特許出願2021-200979号の明細書、特許請求の範囲、図面、及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。
図1
図2
図3
図4
図5a
図5b
図6a
図6b
図7a
図7b