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特開2024-102154抗IL-6受容体抗体を含有するBBB機能低下の抑制剤
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  • 特開-抗IL-6受容体抗体を含有するBBB機能低下の抑制剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024102154
(43)【公開日】2024-07-30
(54)【発明の名称】抗IL-6受容体抗体を含有するBBB機能低下の抑制剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20240723BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20240723BHJP
   A61P 9/14 20060101ALI20240723BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20240723BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20240723BHJP
【FI】
A61K39/395 N
A61P25/00 ZNA
A61P9/14
A61P37/06
C12N15/13
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024071421
(22)【出願日】2024-04-25
(62)【分割の表示】P 2021511193の分割
【原出願日】2020-02-17
(31)【優先権主張番号】P 2019068693
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 平成31年2月18日、https://www.neurology-jp.org/neuro2019/abstract/pdf/adoption_03.pdfを通じて発表。
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】000003311
【氏名又は名称】中外製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】竹下 幸男
(72)【発明者】
【氏名】神田 隆
(72)【発明者】
【氏名】芹澤 賢一
(57)【要約】      (修正有)
【課題】血液脳関門の機能低下の抑制剤を提供する。
【解決手段】それぞれ特定の配列を有するCDR1、CDR2、およびCDR3を含む重鎖可変領域、ならびにそれぞれ特定の配列を有するCDR1、CDR2、およびCDR3を含む軽鎖可変領域を含む抗体、を含有する血液脳関門の機能低下の抑制剤、血液脳関門のタイトジャンクションの破綻の抑制剤、CNSへの白血球浸潤の抑制剤、患者が保有する血中IgGのCNSへの透過の抑制剤、および、血液脳関門の機能低下を抑制する、および/または低下した血液脳関門の機能を回復する、視神経脊髄炎スペクトラム疾患、神経ベーチェット病、神経サルコイドーシス、中枢神経ループス(神経精神ループス)、自己免疫性脳炎、又はVogt-小柳-原田病の治療剤を提供する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号:1の配列を有するCDR1、配列番号:2の配列を有するCDR2、および配列番号:3の配列を有するCDR3を含む重鎖可変領域、ならびに
配列番号:4の配列を有するCDR1、配列番号:5の配列を有するCDR2、および配列番号:6の配列を有するCDR3を含む軽鎖可変領域を含む抗体、を含有する血液脳関門の機能低下の抑制剤。
【請求項2】
前記血液脳関門の機能低下が、血液脳関門のタイトジャンクションの破綻である、請求項1に記載の抑制剤。
【請求項3】
前記血液脳関門の機能低下が、CNSへの白血球浸潤である、請求項1に記載の抑制剤。
【請求項4】
前記血液脳関門の機能低下が、患者が保有する血中IgGのCNSへの透過である、請求項1に記載の抑制剤。
【請求項5】
視神経脊髄炎スペクトラム疾患、神経ベーチェット病、神経サルコイドーシス、中枢神経ループス(神経精神ループス)、自己免疫性脳炎、又はVogt-小柳-原田病の患者における血液脳関門の機能低下、血液脳関門のタイトジャンクションの破綻、CNSへの白血球の浸潤、又は患者が保有する血中IgGのCNSへの透過を抑制する、請求項1~4のいずれかに記載の抑制剤。
【請求項6】
配列番号:1の配列を有するCDR1、配列番号:2の配列を有するCDR2、および配列番号:3の配列を有するCDR3を含む重鎖可変領域、ならびに
配列番号:4の配列を有するCDR1、配列番号:5の配列を有するCDR2、および配列番号:6の配列を有するCDR3を含む軽鎖可変領域を含む抗体、を含有する、急性期の視神経脊髄炎スペクトラム疾患の治療剤。
【請求項7】
配列番号:1の配列を有するCDR1、配列番号:2の配列を有するCDR2、および配列番号:3の配列を有するCDR3を含む重鎖可変領域、ならびに
配列番号:4の配列を有するCDR1、配列番号:5の配列を有するCDR2、および配列番号:6の配列を有するCDR3を含む軽鎖可変領域を含む抗体、を含有する、血液脳関門の機能回復剤。
【請求項8】
配列番号:1の配列を有するCDR1、配列番号:2の配列を有するCDR2、および配列番号:3の配列を有するCDR3を含む重鎖可変領域、ならびに
配列番号:4の配列を有するCDR1、配列番号:5の配列を有するCDR2、および配列番号:6の配列を有するCDR3を含む軽鎖可変領域を含む抗体、を含有する、血液脳関門の機能低下を抑制する、および/または低下した血液脳関門の機能を回復させる、視神経脊髄炎スペクトラム疾患、神経ベーチェット病、神経サルコイドーシス、中枢神経ループス(神経精神ループス)、自己免疫性脳炎、又はVogt-小柳-原田病の治療剤。
【請求項9】
前記血液脳関門の機能低下が、血液脳関門のタイトジャンクションの破綻である、請求項8に記載の治療剤。
【請求項10】
前記血液脳関門の機能低下が、CNSへの白血球の浸潤である、請求項8に記載の治療剤。
【請求項11】
前記血液脳関門の機能低下が、患者が保有する血中IgGのCNSへの透過である、請求項8に記載の治療剤。
【請求項12】
配列番号:1の配列を有するCDR1、配列番号:2の配列を有するCDR2、および配列番号:3の配列を有するCDR3を含む重鎖可変領域、ならびに
配列番号:4の配列を有するCDR1、配列番号:5の配列を有するCDR2、および配列番号:6の配列を有するCDR3を含む軽鎖可変領域を含む抗体、を含有する、神経サルコイドーシス、中枢神経ループス(神経精神ループス)又はVogt-小柳-原田病の治療剤。
【請求項13】
前記抗体が、配列番号:7の軽鎖可変領域及び配列番号:8の重鎖可変領域を含む抗体を含有する、請求項1~12のいずれかに記載の抑制剤又は治療剤。
【請求項14】
前記抗体が、配列番号:9の軽鎖及び配列番号:10の重鎖を有する抗体を含有する、請求項1~13のいずれかに記載の抑制剤又は治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配列番号:1の配列を有するCDR1、配列番号:2の配列を有するCDR2、および配列番号:3の配列を有するCDR3を含む重鎖可変領域、ならびに配列番号:4の配列を有するCDR1、配列番号:5の配列を有するCDR2、および配列番号:6の配列を有するCDR3を含む軽鎖可変領域を含む抗体を含有する、血液脳関門(BBB)機能低下の抑制剤、血液脳関門のタイトジャンクションの破綻の抑制剤、CNSへの白血球浸潤の抑制剤、患者が保有する血中IgGのCNSへの透過の抑制剤、並びに、血液脳関門の機能低下を抑制し、および/または低下した血液脳関門の機能を回復させる、視神経脊髄炎スペクトラム疾患、神経ベーチェット病、神経サルコイドーシス、中枢神経ループス(神経精神ループス)、自己免疫性脳炎、又はVogt-小柳-原田病の治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
血液脳関門(BBB)は、中枢神経系(CNS)内に異物や炎症性細胞が侵入することを防ぎ、中枢神経系のホメオスタシス維持に重要な役割を担っている。その基本構造は、基底膜に裏打ちされた血管内皮細胞、アストロサイト、ペリサイトの3細胞によって構成されている。血管内皮細胞がタイトジャンクションを構成し、ペリサイトが基底膜を介して血管内皮細胞を裏打ちしている。またアストロサイトのエンドフットが基底膜に沿って発達し、グリアリミタンスを形成しており、このタイトジャンクションとグリアリミタンスが物理的なバリアとなっている。また物理的なバリアのみならず、BBBには多様なトランスポーターや受容体が発現しており循環血液と中枢神経間の物質交換が厳密に制御されているなどの特徴も有しており、これらが中枢神経系内に異物や炎症性細胞が侵入することを防ぎ、中枢神経系のホメオスタシス維持に重要な役割を担っている。何らかのきっかけによりこのBBB機能が破綻すると病因となる様々な物質や炎症性細胞が中枢神経系内に浸潤し、炎症反応を引き起こすことで神経細胞に重大な傷害を与えてしまう。
【0003】
視神経脊髄炎関連疾患(視神経脊髄炎スペクトラム疾患:NMOSD)は自己免疫性の重度の炎症性脱髄疾患であり、当初はデビック病と呼ばれていたが、2006年にWingerchukらによりNMO(視神経炎及び脊髄炎を少なくとも伴う)の診断基準が提唱され、2007年にはNMOSDとして、典型的なNMOに加えて視神経炎又は脊髄炎のみの症例も同じ範疇として捉えられるようになった。また、2015年に、広義の疾患群としてNMOSDという概念が提唱され、現在は、NMOSDという診断名が広く一般的に用いられている。視神経炎及び/又は横断性脊髄炎を臨床的特徴とし(非特許文献1)、重度の機能障害を来たすことが多く、視覚障害(失明)、運動障害及び感覚障害等の様々な障害を引き起こす。NMOSD は再発と寛解を繰り返す疾患であり、重度の再発時には、歩行障害、完全対麻痺又は全感覚脱失に至る場合がある。一般に、NMOの病態が二次的に進行していくことはなく、多くの障害は単発で起きる重度の急性期発作によって引き起こされる。
【0004】
SA237は、IgG1抗体であるトシリズマブのアミノ酸配列を改変し、血漿中半減期を延長するようにデザインした改変IgG2のヒト化抗ヒトIL-6レセプター中和抗体である。SA237は、トシリズマブと比較して、1)pH依存的なIL-6レセプターへの結合、抗体等電点の低下、及び酸性条件下でのFcRnへの結合増強による、血漿中半減期の延長、2)Fcγ レセプターへの結合能低下とIgG2骨格の採用による、ADCC・CDCなどのエフェクター作用の低減等の特徴を有する。
SA237について視神経脊髄炎スペクトラム疾患の患者を対象とした臨床試験が行われている(非特許文献2~7)
【0005】
視神経脊髄炎スペクトラム疾患では、その病態形成に自己抗体である抗AQP4抗体が関与していることが知られており、プラズマブラストがその産生源であること、プラズマブラストの生存や抗AQP4抗体産生能がIL-6により促進されること、そしてこれらが抗IL-6受容体抗体により阻害されることが報告されている(非特許文献8)。また、NMO患者の脳脊髄液(CSF)中ではIL-6濃度が高く、CSF/Serum Albumin ratioで評価したBBB(血液脳関門)透過性はCSF中IL-6濃度と相関したことから、IL-6がBBB機能低下、抗AQP4抗体の中枢移行に関与していることが報告されている(非特許文献9)。さらに、内皮細胞とアストロサイトを共培養したin vitro BBB modelを用いた評価ではNMO-IgG(NMO患者由来のIgG)がアストロサイトに作用しIL-6を産生させること、IL-6は内皮細胞の透過性、炎症性細胞浸潤を亢進し、BBB機能を低下させることが示されている。さらに、抗IL-6受容体抗体はNMO-IgGによる炎症性細胞浸潤亢進を抑制することも報告されている(非特許文献10)。
しかしながら、SA237がBBB機能低下を抑制することはこれまでに知られていなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Lancet Neurol. 2007 Sep;6(9):805-15
【非特許文献2】https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT02028884
【非特許文献3】https://clinicaltrials.gov/ct2/show/study/NCT02073279?show_locs=Y#locn
【非特許文献4】https://www.clinicaltrialsregister.eu/ctr-search/search?query=SA-307JG
【非特許文献5】https://www.clinicaltrialsregister.eu/ctr-search/trial/2015-005431-41/HR
【非特許文献6】https://s3.amazonaws.com/gjcf-wp-uploads/wp-content/uploads/2016/05/16162202/12_12_14_Chugai_Webinar_PPT_Complete_Deck_FINAL.pdf
【非特許文献7】EAN the home of neurology EPR3103 (https://ipp-ean18.netkey.at/index.php?p=recorddetail&rid=f16c1ff3-f5ec-4b71-8a99-7c39bdc90418&t)
【非特許文献8】Chihara N et al., Proc Natl Acad Sci USA 2011; 108: 3701-3706
【非特許文献9】Uchida T et al., Mult Scler 2017; 23: 1072-1084
【非特許文献10】Takeshita Y et al., Neurol Neuroimmunol Neuroinflamm 2016; 4: e311
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものである。本発明は、視神経脊髄炎スペクトラム疾患にIL-6および血液脳関門の機能低下が関与し得ることに着目し、当該機能低下に対するSA237の効果を検討し、それを通じて、SA237の新たな用途、すなわち、血液脳関門の機能低下の抑制剤、ならびに脳脊髄液中のIL-6の濃度が高く、かつ血液脳関門の機能が低下した種々の疾患の治療剤としての用途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記の課題を解決するために鋭意研究を行った。その結果、SA237が血液脳関門の機能低下を抑制することを見出した。特に、SA237が血液脳関門のタイトジャンクションの破綻を抑制することを見出した。
【0009】
本発明はこのような知見に基づくものであり、具体的には以下を含む。
〔1〕配列番号:1の配列を有するCDR1、配列番号:2の配列を有するCDR2、および配列番号:3の配列を有するCDR3を含む重鎖可変領域、ならびに
配列番号:4の配列を有するCDR1、配列番号:5の配列を有するCDR2、および配列番号:6の配列を有するCDR3を含む軽鎖可変領域を含む抗体、を含有する血液脳関門の機能低下の抑制剤。
〔2〕前記血液脳関門の機能低下が、血液脳関門のタイトジャンクションの破綻である、〔1〕に記載の抑制剤。
〔3〕前記血液脳関門の機能低下が、CNSへの白血球浸潤である、〔1〕に記載の抑制剤。
〔4〕前記血液脳関門の機能低下が、患者が保有する血中IgGのCNSへの透過である、〔1〕に記載の抑制剤。
〔5〕視神経脊髄炎スペクトラム疾患、神経ベーチェット病、神経サルコイドーシス、中枢神経ループス(神経精神ループス)、自己免疫性脳炎、又はVogt-小柳-原田病の患者における血液脳関門の機能低下、血液脳関門のタイトジャンクションの破綻、CNSへの白血球の浸潤、又は患者が保有する血中IgGのCNSへの透過を抑制する、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の抑制剤。
〔6〕配列番号:1の配列を有するCDR1、配列番号:2の配列を有するCDR2、および配列番号:3の配列を有するCDR3を含む重鎖可変領域、ならびに
配列番号:4の配列を有するCDR1、配列番号:5の配列を有するCDR2、および配列番号:6の配列を有するCDR3を含む軽鎖可変領域を含む抗体、を含有する、急性期の視神経脊髄炎スペクトラム疾患の治療剤。
〔7〕配列番号:1の配列を有するCDR1、配列番号:2の配列を有するCDR2、および配列番号:3の配列を有するCDR3を含む重鎖可変領域、ならびに
配列番号:4の配列を有するCDR1、配列番号:5の配列を有するCDR2、および配列番号:6の配列を有するCDR3を含む軽鎖可変領域を含む抗体、を含有する、血液脳関門の機能回復剤。
〔8〕配列番号:1の配列を有するCDR1、配列番号:2の配列を有するCDR2、および配列番号:3の配列を有するCDR3を含む重鎖可変領域、ならびに
配列番号:4の配列を有するCDR1、配列番号:5の配列を有するCDR2、および配列番号:6の配列を有するCDR3を含む軽鎖可変領域を含む抗体、を含有する、血液脳関門の機能低下を抑制する、および/または低下した血液脳関門の機能を回復させる、視神経脊髄炎スペクトラム疾患、神経ベーチェット病、神経サルコイドーシス、中枢神経ループス(神経精神ループス)、自己免疫性脳炎、又はVogt-小柳-原田病の治療剤。
〔9〕前記血液脳関門の機能低下が、血液脳関門のタイトジャンクションの破綻である、〔8〕に記載の治療剤。
〔10〕前記血液脳関門の機能低下が、CNSへの白血球の浸潤である、〔8〕に記載の治療剤。
〔11〕前記血液脳関門の機能低下が、患者が保有する血中IgGのCNSへの透過である、〔8〕に記載の治療剤。
〔12〕配列番号:1の配列を有するCDR1、配列番号:2の配列を有するCDR2、および配列番号:3の配列を有するCDR3を含む重鎖可変領域、ならびに
配列番号:4の配列を有するCDR1、配列番号:5の配列を有するCDR2、および配列番号:6の配列を有するCDR3を含む軽鎖可変領域を含む抗体、を含有する、神経サルコイドーシス、中枢神経ループス(神経精神ループス)又はVogt-小柳-原田病の治療剤。
〔13〕前記抗体が、配列番号:7の軽鎖可変領域及び配列番号:8の重鎖可変領域を含む抗体を含有する、〔1〕~〔12〕のいずれかに記載の抑制剤又は治療剤。
〔14〕前記抗体が、配列番号:9の軽鎖及び配列番号:10の重鎖を有する抗体を含有する、〔1〕~〔13〕のいずれかに記載の抑制剤又は治療剤。
【0010】
また本発明は、下記〔1A〕~〔2D〕も提供する。
〔1A〕抗IL-6受容体抗体を対象に投与する工程を含む、血液脳関門の機能低下(例えば、血液脳関門のタイトジャンクションの破綻、CNSへの白血球浸潤、又は患者が保有する血中IgGのCNSへの透過)を抑制する方法、または低下した血液脳関門の機能を回復させる方法。
〔1B〕血液脳関門の機能低下(例えば、血液脳関門のタイトジャンクションの破綻、CNSへの白血球浸潤、又は患者が保有する血中IgGのCNSへの透過)の抑制または低下した血液脳関門の機能の回復(回復の促進)において用いるための、抗IL-6受容体抗体。
〔1C〕血液脳関門の機能低下(例えば、血液脳関門のタイトジャンクションの破綻、CNSへの白血球浸潤、又は患者が保有する血中IgGのCNSへの透過)を抑制するため、または低下した血液脳関門の機能を回復させるための医薬組成物の製造における、抗IL-6受容体抗体の使用。
〔1D〕抗IL-6受容体抗体を有効成分として含有する、血液脳関門の機能低下(例えば、血液脳関門のタイトジャンクションの破綻、CNSへの白血球浸潤、又は患者が保有する血中IgGのCNSへの透過)を抑制するため、または低下した血液脳関門の機能を回復させるための医薬組成物。
〔2A〕抗IL-6受容体抗体を対象に投与する工程を含み、当該工程によって血液脳関門の機能低下が抑制されるおよび/または低下した血液脳関門の機能が回復する、視神経脊髄炎スペクトラム疾患、神経ベーチェット病、神経サルコイドーシス、中枢神経ループス(神経精神ループス)、自己免疫性脳炎、又はVogt-小柳-原田病を予防または治療する方法。
〔2B〕血液脳関門の機能低下を抑制させる、および/または低下した血液脳関門の機能を回復させる、視神経脊髄炎スペクトラム疾患、神経ベーチェット病、神経サルコイドーシス、中枢神経ループス(神経精神ループス)、自己免疫性脳炎、又はVogt-小柳-原田病の予防または治療において用いるための、抗IL-6受容体抗体。
〔2C〕視神経脊髄炎スペクトラム疾患、神経ベーチェット病、神経サルコイドーシス、中枢神経ループス(神経精神ループス)、自己免疫性脳炎、又はVogt-小柳-原田病を予防または治療するための医薬組成物の製造における、抗IL-6受容体抗体の使用であって、前記抗体が血液脳関門の機能低下を抑制し、および/または低下した血液脳関門の機能を回復する抗体である、前記使用。
〔2D〕抗IL-6受容体抗体を有効成分として含有する、血液脳関門の機能低下を抑制し、および/または低下した血液脳関門の機能を回復する、視神経脊髄炎スペクトラム疾患、神経ベーチェット病、神経サルコイドーシス、中枢神経ループス(神経精神ループス)、自己免疫性脳炎、又はVogt-小柳-原田病を予防または治療するための医薬組成物。
〔1A〕~〔2D〕に記載の抗IL-6受容体抗体は、配列番号:1の配列を有するCDR1、配列番号:2の配列を有するCDR2、および配列番号:3の配列を有するCDR3を含む重鎖可変領域、ならびに配列番号:4の配列を有するCDR1、配列番号:5の配列を有するCDR2、および配列番号:6の配列を有するCDR3を含む軽鎖可変領域を含む抗体であり、好ましくは配列番号:7の軽鎖可変領域および配列番号:8の重鎖可変領域を含む抗体であり、さらに好ましくは配列番号:9の軽鎖及び配列番号:10の重鎖を有する抗体である。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、SA237を含有する血液脳関門の機能低下の抑制剤が提供された。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、実施例にて使用したBBB in vitro modelの模式図を示す。
図2図2は、BBB in vitro modelのアストロサイト側および/または内皮細胞側からNMOSD患者プール血清および健常者プール血清から精製したIgG(NMOSD-IgGおよびNormal-IgG)を作用させた際の経上皮/内皮電気抵抗値(TEER)に与える影響を評価した結果を示す。横軸は時間、縦軸は経上皮/内皮電気抵抗値(TEER)を示す。
図3図3は、BBB in vitro modelのアストロサイト側および内皮細胞側からNMOSD-IgG及びSA237を同時に作用させた際のTEERに与える影響を評価した結果を示す。
図4図4は、BBB in vitro modelのアストロサイト側からNMOSD-IgG及びSA237を同時に作用させた際のTEERに与える影響を評価した結果を示す。
図5図5は、BBB in vitro modelの内皮細胞側からNMOSD-IgG及びSA237を同時に作用させた際のTEERに与える影響を評価した結果を示す。
図6図6は、BBB in vitro modelのアストロサイト側および内皮細胞側からSA237を作用させた際のTEERに与える影響を評価した結果を示す。
図7図7は、BBB in vitro modelのアストロサイト側からNMOSD-IgGを作用させ、その24時間後にアストロサイト側からSA237を作用させた際のTEERに与える影響を評価した結果を示す。
図8図8は、3D Bioflux Flow Chamberによる流速負荷をかけた白血球浸潤アッセイにおける、NMO-IgGにより誘導される白血球浸潤に対するSA237の効果を示す。メンブレンを通過した全末梢血単核球細胞(PBMC)、CD4+細胞、CD8+細胞、およびCD19+細胞の数を、コントロールIgG投与群に対する相対値で示している。*p<0.05、独立t検定(n=6/群)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
一局面において、本開示は、抗IL-6受容体抗体を有効成分として含有する医薬組成物を提供する。一態様において、本発明の医薬組成物は、対象に投与することにより、血液脳関門の機能低下を抑制すること、および/または低下した当該機能の回復を促進することができる。したがって、本発明の医薬組成物は、血液脳関門の機能低下の抑制剤、血液脳関門の機能回復促進剤、または機能回復剤と表現することもできる。本発明の医薬組成物は、投与した対象において血液脳関門の機能低下を抑制すること、および/または低下した当該機能の回復を促進することが可能な量(有効量)の抗IL-6受容体抗体を含有する。
本発明の医薬組成物に含有される抗IL-6受容体抗体の例としては、配列番号:1の配列を有するCDR1(SA237の重鎖CDR1)、配列番号:2の配列を有するCDR2(SA237の重鎖CDR2)、および配列番号:3の配列を有するCDR3(SA237の重鎖CDR3)を含む重鎖可変領域、ならびに配列番号:4の配列を有するCDR1(SA237の軽鎖CDR1)、配列番号:5の配列を有するCDR2(SA237の軽鎖CDR2)、および配列番号:6の配列を有するCDR3(SA237の軽鎖CDR3)を含む軽鎖可変領域を含む抗体が挙げられる。当該抗体は、好ましくは、配列番号:8の重鎖可変領域(SA237の重鎖可変領域)及び配列番号:7の軽鎖可変領域(SA237の軽鎖可変領域)を含む抗体であり、さらに好ましくは、配列番号:10の配列を含む重鎖(SA237の重鎖)及び配列番号:9の配列を含む軽鎖(SA237の軽鎖)を含む抗体である。特にSA237が好ましい。本明細書において、「対象」は、血液脳関門の機能が低下しているか、またはそのリスクを有する個体であって、好適にはヒトであるが、非ヒト哺乳動物であってもよい。
【0014】
本明細書において、「血液脳関門の機能低下」は、血液脳関門のバリア機能の低下(バリア機能破綻、バリア機能不全と表現することもできる)を意味し、例えば、血液脳関門のタイトジャンクションの破綻、CNSへの異物や炎症性細胞(例えば白血球)の浸潤、および患者が保有する血中IgGのCNSへの透過を含む。一態様において、本発明の医薬組成物は、対象に投与することにより、血液脳関門のタイトジャンクションの破綻、CNSへの白血球の浸潤、および患者が保有する血中IgGのCNSへの透過からなる群より選択される1つ以上を抑制することができる。したがって、本発明の医薬組成物は、血液脳関門のタイトジャンクションの破綻の抑制剤、CNSへの白血球の浸潤の抑制剤、または患者が保有する血中IgGのCNSへの透過の抑制剤と表現することもできる。白血球の具体的な例としては、リンパ球(B細胞、ヘルパーT細胞、制御性T細胞、キラーT細胞、NK細胞、NKT細胞)、顆粒球(好中球、好酸球、好塩基球)、単球などを挙げることができるが、好ましくは末梢血単核球細胞(peripheral blood mononuclear cell、PBMC)であり、より好ましくはCD4+細胞、CD8+細胞、およびCD19+細胞であり、特に好ましくはCD4+細胞およびCD8+細胞である。
【0015】
血液脳関門の機能は、公知のBBBモデル、例えば、WO2017/179375に記載の方法に従って作製されたBBB in vitro modelを用いて評価することができる。
例えば、本明細書の実施例に記載されているように、図1に示すBBB in vitro modelの上層である内皮細胞側(血管腔側に相当)、下層であるアストロサイト側(中枢神経側に相当)、またはその両側から種々の分子(例えば、NMOSD患者および健常者プール血清から精製したIgGやSA237)を添加した際の経上皮/内皮電気抵抗値(TEER)の経時的な変化を測定することで、血液脳関門のタイトジャンクションを評価することができる。例えば、NMOSD患者由来のIgG(NMOSD-IgG)を添加した際のTEERの経時的な低下が、本発明の医薬組成物の適用によって抑制された場合に、血液脳関門の機能低下が抑制されていることが示される。
また、BBB in vitro modelの上層である内皮細胞側からNMOSD-IgGを作用させた後に、下層であるアストロサイト側のNMOSD-IgG量を測定することで、IgGの血液脳関門透過性を評価することができる。下層側のIgG量が、本発明の医薬組成物の適用によって減少した場合に、血液脳関門の機能低下が抑制されていることが示される。
他の例示的評価方法として、流速負荷型BBBモデル(Takeshita Y et al., J Neurosci Methods 2014 Jul 30; 232: 165-172)を用いることができる。例えば、微小血管内皮細胞/ペリサイト/アストロサイトを共培養したメンブレンを装着したチャンバー内に炎症性細胞(例えば白血球)等を流し、例えばNMOSD-IgG存在下で膜外に浸潤した異物や炎症性細胞を測定することで、CNSへの浸潤の指標とすることができる。
【0016】
本明細書において、「機能低下の抑制」とは、血液脳関門の機能低下が本発明の医薬組成物の投与によって低減されることを意味し、例えば、血液脳関門のタイトジャンクションの破綻、CNSへの異物や炎症性細胞(例えば白血球)の浸潤、および患者が保有する血中IgGのCNSへの透過から選ばれる1つまたは複数が低減されることを指す。機能低下の抑制は、必ずしも機能低下を完全に防止することまでも必要とせず、機能低下が、本発明の医薬組成物を投与しなかった場合と比較して低減されていればよい。すなわち「機能低下の抑制」は機能低下の軽減と言い換えてもよい。本明細書においては、その機能低下の抑制の程度は制限されるものではなく、血液脳関門の機能低下の一部でも低減されれば、本発明における「機能低下の抑制」の意味に含まれる。特定の態様において、機能低下の抑制は、血液脳関門の機能低下の約20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%または95%の低減を指すことができる。「機能低下の抑制」には機能低下の防止(予防)も含まれる。より具体的な例としては、内皮細胞、基底膜、ペリサイト、インサート、アストロサイトを含むBBB in vitro modelの内皮細胞側及びアストロサイト側の両方にNMOSD-IgGを添加した120時間後のTEERの低下が、NMOSD-IgGと同時に本発明の医薬組成物を内皮細胞側及びアストロサイト側の両方に添加することにより、約20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%または95%抑制された場合に、血液脳関門の機能低下が抑制されていることが示される。
【0017】
また、本明細書において、「機能回復」とは、低下した血液脳関門の機能が本発明の医薬組成物の投与によって向上することを意味し、例えば、破綻した血液脳関門のタイトジャンクションの回復、CNSへの異物や炎症性細胞(例えば白血球)の浸潤の減少、および患者が保有する血中IgGのCNSへの透過の減少から選ばれる1つまたは複数を指す。機能回復は、必ずしも低下した機能を完全に回復させることまでも必要とせず、低下した機能が、本発明の医薬組成物を投与しなかった場合と比較して向上していればよい。本明細書においては、機能回復の程度は制限されるものではなく、低下した血液脳関門の機能の一部でも向上すれば、本発明における「機能回復」の意味に含まれる。特定の態様において、回復は、低下した血液脳関門の機能の約20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%または95%の向上を指すことができる。より具体的な例としては、内皮細胞、基底膜、ペリサイト、インサート、アストロサイトを含むBBB in vitro modelの内皮細胞側及びアストロサイト側の両方にNMOSD-IgGを添加した後(例えば24時間後)の低下したTEERが、NMOSD-IgGの添加24時間後に本発明の医薬組成物を添加することにより、(例えば本発明の医薬組成物の添加120時間後に)約20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%または95%上昇した場合に、血液脳関門の機能低下が回復されていることが示される。
【0018】
別の態様において、本発明の医薬組成物は、対象に投与することにより、血液脳関門の機能低下を抑制すること、および/または低下した当該機能の回復を促進することができ、ひいては脳脊髄液中のIL-6の濃度が高く血液脳関門の機能低下を伴う疾患を予防および/又は治療することができる。そのような疾患の例としては、視神経脊髄炎スペクトラム疾患(急性期の視神経脊髄炎スペクトラム疾患を含む)、神経ベーチェット病、神経サルコイドーシス、中枢神経ループス(神経精神ループス)、自己免疫性脳炎、およびVogt-小柳-原田病を挙げることができるが、それらに限定されない。したがって、本発明の医薬組成物は、血液脳関門の機能低下を抑制し、および/または低下した血液脳関門の機能を回復させる、視神経脊髄炎スペクトラム疾患、神経ベーチェット病、神経サルコイドーシス、中枢神経ループス(神経精神ループス)、自己免疫性脳炎、又はVogt-小柳-原田病の予防剤および/又は治療剤と表現することもできる。本発明の医薬組成物は、有効成分である抗IL-6受容体抗体がこれらの疾患を予防および/又は治療することが可能な投与量で投与される。
【0019】
別の局面において、本開示は、有効量の抗IL-6受容体抗体を対象に投与する工程を含む、血液脳関門の機能低下を抑制する方法、または低下した血液脳関門の機能を回復させる方法に関する。あるいは、本開示は、有効量の抗IL-6受容体抗体を対象に投与する工程を含む、血液脳関門の機能低下を抑制することによる、および/または低下した血液脳関門の機能を回復させることによる、視神経脊髄炎スペクトラム疾患、神経ベーチェット病、神経サルコイドーシス、中枢神経ループス(神経精神ループス)、自己免疫性脳炎、またはVogt-小柳-原田病を予防または治療する方法に関する。一態様において、当該方法は、少なくとも1つの追加の薬剤を対象に投与する工程をさらに含む。抗IL-6受容体抗体と当該追加の薬剤の併用は、併用投与(2つ以上の薬剤が、同じまたは別々の製剤に含まれる)および個別投与を包含し、個別投与の場合、抗IL-6受容体抗体の投与が追加の薬剤の投与に先立って、と同時に、および/または、続いて、行われ得る。当該追加の薬剤の例としては、免疫抑制剤及びステロイドから選択される1以上の薬剤が挙げられるが、これに限定されない。
【0020】
また別の局面において、本開示は、血液脳関門の機能低下の抑制または低下した血液脳関門の機能の回復(回復の促進)において用いるための抗IL-6受容体抗体に関する。あるいは、本開示は、血液脳関門の機能低下を抑制し、および/または低下した血液脳関門の機能を回復する、視神経脊髄炎スペクトラム疾患、神経ベーチェット病、神経サルコイドーシス、中枢神経ループス(神経精神ループス)、自己免疫性脳炎、またはVogt-小柳-原田病の予防または治療において用いるための抗IL-6受容体抗体に関する。あるいは、本開示は、血液脳関門の機能低下の抑制または低下した血液脳関門の機能の回復における抗IL-6受容体抗体の使用に関する。あるいは、本開示は、視神経脊髄炎スペクトラム疾患、神経ベーチェット病、神経サルコイドーシス、中枢神経ループス(神経精神ループス)、自己免疫性脳炎、またはVogt-小柳-原田病の予防または治療における抗IL-6受容体抗体の使用であって、前記抗体が血液脳関門の機能低下を抑制し、および/または低下した血液脳関門の機能を回復する抗体である、前記使用に関する。
あるいは、本開示は、血液脳関門の機能低下を抑制するため、または低下した血液脳関門の機能を回復させるための医薬組成物の製造における、抗IL-6受容体抗体の使用に関する。あるいは、本開示は、視神経脊髄炎スペクトラム疾患、神経ベーチェット病、神経サルコイドーシス、中枢神経ループス(神経精神ループス)、自己免疫性脳炎、またはVogt-小柳-原田病を予防または治療するための医薬組成物の製造における、抗IL-6受容体抗体の使用であって、前記抗体が血液脳関門の機能低下を抑制し、および/または低下した血液脳関門の機能を回復する抗体である、前記使用に関する。あるいは本発明は、抗IL-6受容体抗体と薬学的に許容される担体を混合する工程を含む、血液脳関門の機能低下を抑制するため、または低下した血液脳関門の機能を回復させるための医薬組成物の製造方法に関する。あるいは本発明は、抗IL-6受容体抗体と薬学的に許容される担体を混合する工程を含む、視神経脊髄炎スペクトラム疾患、神経ベーチェット病、神経サルコイドーシス、中枢神経ループス(神経精神ループス)、自己免疫性脳炎、またはVogt-小柳-原田病を予防または治療するための医薬組成物の製造方法であって、前記抗体が血液脳関門の機能低下を抑制し、および/または低下した血液脳関門の機能を回復する抗体である、前記方法に関する。このような医薬組成物は、抗IL-6受容体抗体および薬学的に許容される担体の他に、少なくとも1つの追加の薬剤を含んでもよい。
【0021】
一態様において、本発明の医薬組成物は、有効量の抗IL-6受容体抗体を含有する単位投与剤形として製剤化されてもよい。本明細書において、「有効量」とは、所望の抑制、機能回復、治療または予防結果を達成するために有効である、必要な用量におけるおよび必要な期間にわたっての、量のことをいう。
【0022】
本発明の医薬組成物の投与量は、投与対象の状態、投与方法(例えば、投与回数、投与頻度、投与時期、投与経路)等に応じて適宜設定することができる。一態様において、1回の投与あたりの本発明の医薬組成物に含まれる抗IL-6受容体抗体の量の具体的な例としては、例えば、体重1kgあたりの投与量としては2~20mg(2~20mg/kg)、好ましくは2~8mg(2~8mg/kg)、さらに好ましくは8mg(8mg/kg)が、固定用量としては50~800mg/bodyが、好ましくは80~160mg/body、さらに好ましくは120mg/bodyが挙げられるが、これらに限定されない。
【0023】
本発明の医薬組成物の投与対象は哺乳動物である。哺乳動物は、これらに限定されるものではないが、飼育動物(例えば、ウシ、ヒツジ、ネコ、イヌ、ウマ)、霊長類(例えば、ヒト、およびサルなどの非ヒト霊長類)、ウサギ、ならびに、げっ歯類(例えば、マウスおよびラット)を含む。特定の態様では、本発明の医薬組成物の投与対象はヒトである。別の態様では、投与対象は非ヒト哺乳動物である。
【0024】
本発明の医薬組成物は、IL-6受容体に対する抗体を有効成分として含有する。
分子量約80kDのリガンド結合性蛋白質であるIL-6受容体は、IL-6と結合してIL-6/IL-6受容体複合体を形成し、次いで非リガンド結合性のシグナル伝達に係わる分子量約130kDの膜蛋白質gp130と結合することにより、IL-6の生物学的活性が細胞内に伝達される。
【0025】
本発明で使用される抗IL-6受容体抗体は、公知の手段を用いてポリクローナル又はモノクローナル抗体として得ることができる。本発明で使用される抗IL-6受容体抗体として、特に哺乳動物由来のモノクローナル抗体が好ましい。哺乳動物由来のモノクローナル抗体としては、ハイブリドーマによって産生されるもの、および遺伝子工学的手法により抗体遺伝子を含む発現ベクターで形質転換した宿主によって産生されるものがある。この抗体はIL-6受容体と結合することにより、IL-6のIL-6受容体への結合を阻害してIL-6の生物学的活性の細胞内への伝達を遮断する。
このような抗体としては、MR16-1抗体(Tamura, T. et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1993) 90, 11924-11928)、PM-1抗体 (Hirata, Y. et al., J. Immunol. (1989) 143, 2900-2906)、AUK12-20抗体、AUK64-7抗体、AUK146-15抗体(国際特許出願公開番号WO 92-19759)、Sarilumab、Vobarilizumab、BCD-089などが挙げられる。これらのうちで、ヒトIL-6受容体に対する好ましいモノクローナル抗体としてはPM-1抗体が例示され、またマウスIL-6受容体に対する好ましいモノクローナル抗体としてはMR16-1抗体が挙げられる。
【0026】
本発明における「抗IL-6受容体抗体」の好ましい例としては、ヒト化抗IL-6レセプターIgG1抗体であるトシリズマブ、及びトシリズマブの可変領域及び定常領域の改変を行ったヒト化抗IL-6レセプター抗体が挙げられ、具体的には配列番号:1の配列を有するCDR1(SA237の重鎖CDR1)、配列番号:2の配列を有するCDR2(SA237の重鎖CDR2)、および配列番号:3の配列を有するCDR3(SA237の重鎖CDR3)を含む重鎖可変領域、ならびに配列番号:4の配列を有するCDR1(SA237の軽鎖CDR1)、配列番号:5の配列を有するCDR2(SA237の軽鎖CDR2)、および配列番号:6の配列を有するCDR3(SA237の軽鎖CDR3)を含む軽鎖可変領域を含む抗体が挙げられる。当該抗体は、好ましくは、配列番号:8の重鎖可変領域(SA237の重鎖可変領域)及び配列番号:7の軽鎖可変領域(SA237の軽鎖可変領域)を含む抗体であり、さらに好ましくは、配列番号:10の配列を含む重鎖(SA237の重鎖)及び配列番号:9の配列を含む軽鎖(SA237の軽鎖)を含む抗体である。特にSA237が好ましい。
【0027】
このような抗体は、例えばWO2010/035769、WO2010/107108、WO2010/106812などに記載の方法に従って取得することができる。具体的には、上記抗IL-6受容体抗体の配列を基に、当業者に公知の遺伝子組換え技術を用いて抗体を作製することが可能である(例えば、Borrebaeck CAK and Larrick JW, THERAPEUTIC MONOCLONAL ANTIBODIES, Published in the United Kingdom by MACMILLAN PUBLISHERS LTD, 1990 参照)。組換え型抗体は、それをコードするDNAをハイブリドーマ、または抗体を産生する感作リンパ球等の抗体産生細胞からクローニングし、適当なベクターに組み込んで、これを宿主(宿主細胞)に導入し産生させて得ることができる。
【0028】
このような抗体の分離、精製は、通常の抗体の精製で使用されている分離、精製方法を使用すればよく、何ら限定されるものではない。例えば、クロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、溶媒沈殿、溶媒抽出、蒸留、免疫沈降、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動法、透析、再結晶等を適宜選択、組み合わせれば抗体を分離、精製することができる。
【0029】
本発明に使用する抗体は、ポリエチレングリコール(PEG)、放射性物質、トキシン等の各種分子と結合したコンジュゲート抗体でもよい。このようなコンジュゲート抗体は、得られた抗体に化学的な修飾を施すことによって得ることができる。なお、抗体の修飾方法はこの分野においてすでに確立されている。本発明における「抗体」にはこれらのコンジュゲート抗体も包含される。
また、本発明における「抗体」には、翻訳後修飾を受けたものが含まれる。翻訳後修飾は、重鎖又は軽鎖N末端のグルタミン又はグルタミン酸のピログルタミル化によるピログルタミン酸への修飾を含むが、これに限定されない。
【0030】
本明細書において、用語「医薬組成物」(抑制剤、機能回復促進剤、機能回復剤、治療剤および予防剤と表現することもできる)は、その中に含まれた有効成分の生物学的活性が効果を発揮し得るような形態にある調製物であって、かつ製剤が投与される対象に許容できない程度に毒性のある追加の要素を含んでいない、調製物のことをいう。本発明の医薬組成物は、その抑制、機能回復、治療または予防目的のために必要であれば1つより多くの有効成分を含んでもよい。互いに悪影響を与えあわない相補的な活性を伴うものが好ましい。このような有効成分は、意図された目的のために有効である量で、好適に組み合わせられて存在する。
【0031】
抑制、機能回復、治療または予防目的で使用される本発明の医薬組成物は、必要に応じて、適当な薬学的に許容される担体、媒体等と混和して調製し、凍結乾燥製剤又は溶液製剤とすることができる。適当な薬学的に許容される担体、媒体としては、例えば、滅菌水や生理食塩水、安定剤、賦形剤、酸化防止剤(アスコルビン酸等)、緩衝剤(リン酸、クエン酸、ヒスチジン、他の有機酸等)、防腐剤、界面活性剤(PEG、Tween等)、キレート剤(EDTA等)、結合剤等を挙げることができる。また、その他の低分子量のポリペプチド、血清アルブミン、ゼラチンや免疫グロブリン等の蛋白質、グリシン、グルタミン、アスパラギン、グルタミン酸、アスパラギン酸、メチオニン、アルギニン及びリシン等のアミノ酸、多糖及び単糖等の糖類や炭水化物、マンニトールやソルビトール等の糖アルコールを含んでいてもよい。注射用の水溶液とする場合には、例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液、例えば、D-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウムが挙げられ、適当な溶解補助剤、例えばアルコール(エタノール等)、ポリアルコール(プロピレングリコール、PEG等)、非イオン性界面活性剤(ポリソルベート80、ポリソルベート20、ポロキサマー188、HCO-50)等と併用してもよい。また、製剤中にヒアルロニダーゼ(hyaluronidase)を混合することによって、より大きな液量を皮下投与することも可能である(Expert Opin Drug Deliv. 2007 Jul;4(4):427-40.)。また、本発明の医薬組成物は予め注射筒に入れられていてもよい。尚、溶液製剤はWO2011/090088に記載の方法に従って作製することができる。
【0032】
また、必要に応じ本発明の医薬組成物をマイクロカプセル(ヒドロキシメチルセルロース、ゼラチン、ポリ[メチルメタクリル酸]等のマイクロカプセル)に封入したり、コロイドドラッグデリバリーシステム(リポソーム、アルブミンミクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子及びナノカプセル等)とすることもできる("Remington's Pharmaceutical Science 16th edition", Oslo Ed. (1980)等参照)。さらに、薬剤を徐放性の薬剤とする方法も公知であり、本発明の医薬組成物に適用し得る(Langer et al., J.Biomed. Mater.Res. 15: 267-277 (1981); Langer, Chemtech. 12: 98-105 (1982);米国特許第3,773,919号;欧州特許出願公開(EP)第58,481号; Sidman et al., Biopolymers 22: 547-556 (1983);EP第133,988号)。
【0033】
本発明の医薬組成物の投与は、任意の適切な経路を介して患者に投与することができる。例えば、ボーラスとしてまたは一定期間にわたる持続注入による静脈内、筋肉内、腹腔内、脳脊髄内、経皮、皮下、関節内、舌下、滑液内、経口、吸入、局所または外用による経路により患者に投与される。一態様において、本発明の医薬組成物の投与は全身投与であり、全身の外科的侵襲部位に癒着抑制効果を示す。
【0034】
なお、本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
【実施例0035】
次に、実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0036】
〔BBBのバリア機能に対するSA237の効果〕
(実験方法)
BBB in vitro modelの作成
BBBのバリア機能を評価するために、国際公開番号WO2017/179375A1の実施例1-1、1-2、1-3、及び1-4に記載の方法に従って作製されたBBB in vitro modelを用いた。作成したBBB modelを37℃で5日間共培養したものをバリア機能評価に使用した。図1に本研究に使用したBBB in vitro modelの模式図を示す。
【0037】
バリア機能の評価
作成したBBB in vitro modelの上層である内皮細胞側(血管腔側に相当)、下層であるアストロサイト側(中枢神経側に相当)、またはその両側からNMOSD患者および健常者プール血清から精製したIgGやSA237を添加した際の経上皮/内皮電気抵抗値(TEER)の経時的な変化を、細胞タイトジャンクションリアルタイムモニタリングシステムであるCellZscope(株式会社セルシードCSZ12001,CSZ24001)を用いて評価した。
【0038】
(結果)
作成したBBB in vitro modelの上層である内皮細胞側、下層であるアストロサイト側、またはその両側からNMOSD患者プール血清および健常者プール血清から精製したIgGを作用させ、CellZscopeでTEERの経時変化(5日間)を評価した(図2)。図2が示すように、NMOSD患者プール血清から精製したIgG(NMOSD-IgG)を作用させると、健常者プール血清から精製したIgG(Normal-IgG)を作用させた群と比較してTEERが低下した。TEERの低下はNMOSD-IgGを添加しておよそ24時間後から認められ、その後少なくとも120時間後までは持続した。またアストロサイト側および内皮細胞側、アストロサイト側、内皮細胞側にNMOSD-IgGを作用させたいずれの場合においてもTEERの低下は認められ、前述の順にTEER低下程度が大きかった。以上の結果からNMOSD-IgGは内皮細胞側、アストロサイト側のいずれにおいてもBBBのバリア機能を低下させることが明らかとなった。
次にNMOSD-IgGと同時にSA237を作用させた際のTEERに与える影響を評価した(図3, 4, 5)。図3が示すようにNMOSD-IgGおよびSA237(100 μg/mL)をアストロサイト側および内皮細胞側から作用させたところ、SA237はNMOSD-IgGによるTEER低下を約30%抑制した。また図4, 5が示すように、NMOSD-IgGおよびSA237(100 μg/mL)をアストロサイト側もしくは内皮細胞側それぞれから作用させた場合でも同様に、SA237はNMOSD-IgGによるTEER低下をそれぞれ約17%、約9%抑制した。以上の結果からSA237は内皮細胞側、アストロサイト側のいずれにおいてもNMOSD-IgGによるBBBバリア機能低下(より具体的には血液脳関門のタイトジャンクションの破綻)を抑制することが明らかとなった。
最後にSA237そのものがTEERに影響しうるかを評価するため、BBB in vitro modelにSA237単独で作用させた(図6)。図6が示すように、SA237単独でアストロサイト側および内皮細胞側から作用させたところ、10、100、1000 μg/mLのいずれの濃度においてもTEERに影響を与えなかった。以上の結果からSA237そのものはBBBバリア機能に影響を与えないことが明らかとなった。
【0039】
〔バリア機能が低下したBBBに対するSA237の改善効果〕
前述と同様、前記実施例にて使用したBBB in vitro modelと同じモデルにNMOSD-IgGを作用させ、その24時間後以降からSA237を添加し、CellZscopeにより測定したTEERに対する影響を評価した(図7)。NMOSD-IgG、SA237いずれもBBB in vitro modelのアストロサイト側(中枢神経側に相当)から作用させた。図7が示すように、NMOSD-IgGを作用させてから24時間後にSA237を作用させた群において、SA237非投与群よりも有意にTEERが上昇した。この結果から、SA237は、NMOSD-IgGにより低下したBBBバリア機能(より具体的には、破綻した血液脳関門のタイトジャンクション)を回復させることが明らかとなった。
【0040】
〔BBBへのIgG透過性に対するSA237の効果〕
前述と同様、前記実施例で使用したBBB in vitro modelの上層である内皮細胞側からIR-Dyeで標識したNMOSD-IgGを作用させ、その後、LI-COR社製Odysseyイメージングシステムを用いて下層であるアストロサイト側のNMOSD-IgGの蛍光量を測定することでBBBに対するIgGの透過性を評価し、これに対するSA237の作用を評価する。蛍光標識したIgGを用い、その蛍光量を蛍光プレートリーダーで測定することでIgG量を評価する。
【0041】
〔BBBへの白血球の浸潤に対するSA237の効果〕
微小血管内皮細胞/ペリサイト/アストロサイトを共培養したメンブレンを流速負荷型BBBモデル(Takeshita Y et al., J Neurosci Methods 2014 Jul 30; 232: 165-172)の専用チャンバーに装着して蓋を閉めて密閉し、密閉したチャンバーを37℃に設定したチャンバーウォーマーに置き、水槽で保温したPBMCをフローポンプを用いてチャンバー内に流入させた。この際にNMOSD-IgG存在下で膜外に浸潤した白血球の解析を実施することで、NMOSD-IgGによるBBBへの白血球の浸潤促進効果、白血球浸潤に関連したBBB機能を評価し、これに対するSA237の作用を評価した。
【0042】
(実験方法)
PBMC単離
PBMCは、当業者に公知の方法である、Lymphocyte Separation Medium (Mediatech, Herndon, VA)を用いた密度遠心により、健常者の新鮮なヘパリン添加血液から単離した。30mlのTEMバッファー(フェノールレッド不含、1%ウシ血清アルブミンおよび25mM Hepesを含有するRPMI 1640)に10x106個になるようにPBMCを再懸濁し、静脈切開後2時間以内にアッセイに用いた。PBMCを、チャンバー内に灌流する前に、製造業者のプロトコルに従ってカルセインAM(Invitrogen)で染色した。
【0043】
白血球浸潤アッセイ
流速負荷をかけた白血球浸潤アッセイを、3D Flow Chamber Device(C.B.S. Scientific company)を使用して行った(Takeshita Y et al., J Neurosci Methods 2014 Jul 30; 232: 165-72参照)。このシステムは、3D Flowポンプ、3D Flowチャンバー、および3D Flowメンブレンにより構成されている。3D Flowポンプは、最大8つのフローデバイスにプログラム可能な広範囲のせん断流を提供する (0.1~200dyne/cm2)。3D Flowチャンバー(奥行き:30mm、幅:70mm、高さ:8mm)は、3D Flowメンブレンが完全に収まる3つの別々のリザーバーを有する。3D Flowメンブレンは、直径が8mmであり、3μmの小孔を持つトラックエッチポリカーボネート製のメンブレンである。このメンブレンを、ラット尾コラーゲンI溶液(50μg/ml)(BD Bioscience, San Diego, CA)でコーティングし、12ウェルプレート中に配置した。このウェル内にてアストロサイト用培地を用いて、ヒト内皮細胞、ヒトペリサイト、およびヒトアストロサイトを33℃で2日間、マルチ培養した。培養後のメンブレンを37℃で1日インキュベートし、チャンバーに移した。37℃に保温したPBMCを、最終濃度333,000細胞/ml、1.5dyne/cm2のせん断応力(流速負荷)の条件でチャンバー内に60分間灌流した。PBMCを灌流させた後、アッセイと同じせん断応力を維持しながら、チャンバーに5分間PBSを流して遊離細胞を除去した。メンブレンを通過したPBMCをボトムチャンバーから回収した。メンブレンの反管腔側およびボトムチャンバーに接着した細胞を、0.5mM EDTAを用いてすばやく洗浄することにより取り出した。血球計数器を用いて、回収したPBMCの細胞数をカウントした。続いて、回収した細胞を、1%PFAで10分間固定し、PBS+0.1mM EDTAで洗浄し、その後マウスIgGでブロッキングした。細胞は抗ヒトCD45 efluor450、抗ヒトCD8a APC-efluor780(eBiosciences, San Diego, CA)、抗ヒトCD3 Alexa Fluor 647(Biolegend, San Diego, CA)、抗ヒトCD19 BV711および抗ヒトCD4 PE-CF594(BD Biosciences)で標識した。BD FACSCanto II (BD Biosciences)を用いたフローサイトメトリーによりデータを取得し、Flowjo 10.4.1(Treestar, Ashland, OR) を用いて、CD4+細胞、CD8+細胞、およびCD19+細胞の細胞数を解析した。
【0044】
(結果)
NMOSD-IgGを作用させた群では、コントロールIgGを作用させた群と比べて、膜外移行した全PBMC、CD4+細胞、およびCD8+細胞の数が増加した。一方、NMOSD-IgGおよびSA237を作用させた群では、NMOSD-IgG単独を作用させた群と比べて、膜外移行した全PBMC、CD4+細胞、およびCD8+細胞の数が有意に減少した(図8)。以上の結果から、SA237は、NMOSD-IgGによって促進される全PBMC、CD4+細胞、およびCD8+細胞の膜外移行を抑制することが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の抑制剤は、血液脳関門のタイトジャンクションの破綻、CNSへの白血球浸潤、および患者が保有する血中IgGのCNSへの透過等の血液脳関門の機能低下を抑制する効果を発揮することができる新たな手段を提供するものである。
また、本発明の治療剤は、血液脳関門の機能低下を抑制し、ひいては脳脊髄液中のIL-6の濃度が高くかつ血液脳関門の機能が低下した種々の疾患を治療することができる新たな手段を提供するものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
2024102154000001.app
【手続補正書】
【提出日】2024-05-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書に記載の発明。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】変更
【補正の内容】
【配列表】
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