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特開2024-10221リラグルチド、セマグルチド及びGLP-1の化学酵素合成
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024010221
(43)【公開日】2024-01-23
(54)【発明の名称】リラグルチド、セマグルチド及びGLP-1の化学酵素合成
(51)【国際特許分類】
   C12P 21/02 20060101AFI20240116BHJP
   C12N 15/52 20060101ALN20240116BHJP
   C12N 15/31 20060101ALN20240116BHJP
   C12N 9/00 20060101ALN20240116BHJP
   C07K 14/605 20060101ALN20240116BHJP
【FI】
C12P21/02 B ZNA
C12N15/52 Z
C12N15/31
C12N9/00
C07K14/605
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023191845
(22)【出願日】2023-11-09
(62)【分割の表示】P 2020570646の分割
【原出願日】2019-03-11
(31)【優先権主張番号】18161084.1
(32)【優先日】2018-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】518337902
【氏名又は名称】フレゼニウス カビ イプスム エス.アール.エル
【氏名又は名称原語表記】FRESENIUS KABI IPSUM S.R.L.
(74)【代理人】
【識別番号】100122471
【弁理士】
【氏名又は名称】籾井 孝文
(72)【発明者】
【氏名】クワートフリーク, ピーター, ジャン, レオナード, マリオ
(72)【発明者】
【氏名】トプラク, アナ
(72)【発明者】
【氏名】ナエヘンズ, ティモ
(57)【要約】
【課題】GLP-1又はその類似体、特にリラグルチド又はセマグルチドを酵素的に合成する新規の方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、(a)配列His-X-Glu-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-Val-Ser-(チオ)エステルを含む第1のペプチド断片を含むペプチドC末端エステル又はチオエステルと、(b)配列H-Ser-Tyr-Leu-Glu-Gly-Gln-Ala-Ala-Y-Glu-Phe-Ile-Ala-Trp-Leu-Val-Z-Gly-Arg-Glyを含む第2のペプチド断片を含むN末端非保護アミンを有するペプチド求核剤とを酵素的にカップリングさせることを含む、配列His-X-Glu-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-Val-Ser-Ser-Tyr-Leu-Glu-Gly-Gln-Ala-Ala-Y-Glu-Phe-Ile-Ala-Trp-Leu-Val-Z-Gly-Arg-Glyを含むペプチドを合成するための方法に関し、ここで、XはAla又はα-アミノ-イソ酪酸(Aib)残基であり、YはLysであり、このLysは遊離側鎖ε-アミノ基を有するか、或いはLysの側鎖ε-アミノ基は保護基によって保護されているか、或いはLysの側鎖ε-アミノ基はアミノ酸又は別の官能基によって官能化されており、ZはArg又はLysである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)配列His-X-Glu-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-Val-Ser-(チオ)エステルを含む第1のペプチド断片を含むペプチドC末端エステル又はチオエステルと、
(b)配列H-Ser-Tyr-Leu-Glu-Gly-Gln-Ala-Ala-Y-Glu-Phe-Ile-Ala-Trp-Leu-Val-Z-Gly-Arg-Glyを含む第2のペプチド断片を含むN末端非保護アミンを有するペプチド求核剤と
を酵素的にカップリングさせることを含む、配列His-X-Glu-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-Val-Ser-Ser-Tyr-Leu-Glu-Gly-Gln-Ala-Ala-Y-Glu-Phe-Ile-Ala-Trp-Leu-Val-Z-Gly-Arg-Glyを含むペプチドを合成するための方法であって、
- Xが、Ala又はα-アミノ-イソ酪酸(Aib)残基であり、
- YがLysであり、前記Lysが遊離側鎖ε-アミノ基を有するか、或いは前記Lysの側鎖ε-アミノ基が保護基によって保護されているか、或いは前記Lysの側鎖ε-アミノ基がアミノ酸又は別の官能基、特に、γ-Glu-OH、Pal-γ-Glu-OH、AEEA-AEEA-γ-Glu-OH及びAEEA-AEEA-γ-Glu-N-17-カルボキシヘプタデカノイル-OH[式中、Palはパルミトイルであり、AEEA-AEEAは-2-[2-(2-アミノエトキシ)エトキシ]アセチル-2-[2-(2-アミノエトキシ)エトキシ]アセチルである]からなる群から選択される官能基によって官能化されており、
- ZがArg又はLysであり、
前記酵素カップリングがリガーゼによって触媒される、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配列His-X-Glu-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-Val-Ser-Ser-Tyr-Leu-Glu-Gly-Gln-Ala-Ala-Y-Glu-Phe-Ile-Ala-Trp-Leu-Val-Z-Gly-Arg-Glyを含むペプチドを合成するために、リガーゼの存在下でペプチド断片のカップリングが酵素的に実行される方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アミノ酸配列H-His-X-Glu-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-Val-Ser-Ser-Tyr-Leu-Glu-Gly-Gln-Ala-Ala-Y-Glu-Phe-Ile-Ala-Trp-Leu-Val-Z-Gly-Arg-Gly-OHを含むいくつかのペプチドは、インスリン分泌性ペプチドとして当該技術分野においてよく知られている。これらのペプチドは、GLP-1、リラグルチド及びセマグルチドを含む。
【0003】
ヒトGLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)は、式H-His-Ala-Glu-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-Val-Ser-Ser-Tyr-Leu-Glu-Gly-Gln-Ala-Ala-Lys-Glu-Phe-Ile-Ala-Trp-Leu-Val-Lys-Gly-Arg-Gly-OHを有する。
【0004】
リラグルチドは、上記の配列の20位のリジンのε-アミノ基において、Gluで離間されたパルミチン酸によって置換されたArg20-GLP-1類似体である。したがって、リラグルチドは、式H-His-Ala-Glu-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-Val-Ser-Ser-Tyr-Leu-Glu-Gly-Gln-Ala-Ala-Lys(Pal-γ-Glu)-Glu-Phe-Ile-Ala-Trp-Leu-Val-Arg-Gly-Arg-Gly-OHを有する(図1も参照、全てのキラルアミノ酸残基はL-アミノ酸残基である)。Lys(Pal-γ-Glu)において、Lys残基のε-アミノ基はγ-Gluカルボキシル側鎖と連結されており、GluはN-パルミトイル化されている。
【0005】
セマグルチドは、式H-His-Aib-Glu-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-Val-Ser-Ser-Tyr-Leu-Glu-Gly-Gln-Ala-Ala-Lys(AEEA-AEEA-γ-Glu-17-カルボキシヘプタデカノイル)-Glu-Phe-Ile-Ala-Trp-Leu-Val-Arg-Gly-Arg-Gly-OHを有する。本明細書において、AEEA-AEEA-γ-Glu-17-カルボキシヘプタデカノイルは、N-(17-カルボキシ-l-オキソヘプタデシル)-L-γ-グルタミル-2-[2-(2-アミノエトキシ)エトキシ]アセチル-2-[2-(2-アミノエトキシ)エトキシ]アセチルである(図2も参照、全てのキラルアミノ酸残基はL-アミノ酸残基である)。
【0006】
これらのペプチドは、例えば、II型糖尿病の処置において使用することができる。さらに、例えば、リラグルチドは、肥満症の処置において、成人患者における習慣的な体重管理のための低カロリーの食事及び身体活動の増加に対する注射可能な補助剤として使用することができる。
【0007】
GLP-1、リラグルチド及びセマグルチドのようなオリゴペプチドを含むペプチドを合成するためのプロセスは、当該技術分野において知られている。GLP-1及びその類似体などのインスリン分泌性ペプチドの合成方法は、国際公開第2007147816号パンフレット及び国際公開第2016/046753号パンフレットに記載されている。国際公開第2016/046753号パンフレットの「発明の背景」には、適切な調製方法、特に、組換え方法論、固相担体における逐次合成、アミノ酸残基(1~10)を含有するペプチド配列とアミノ酸残基(11~31)を含有する配列とのカップリングを含むリラグルチドの固相合成、又はアミノ酸残基(1~4)、(15~16)及び(17~31)を含有するペプチド配列の調製、アミノ酸残基(15~16)を含有するペプチドと(17~31)とのカップリング、及びアミノ酸配列(1~4)を含有するペプチドとのカップリングの前のアミノ酸の逐次付加を含むリラグルチドの固相合成についての詳細な説明が示されている。
【0008】
国際公開第2016/046753号パンフレットによると、GLP-1ペプチドは、液相若しくは固相ペプチド合成又はその組み合わせを含むプロセスにおいて調製される。このプロセスは、少なくとも2つの断片が末端Gly残基においてカップリングされる最終カップリングステップを含み、断片の少なくとも1つは少なくとも2つのサブ断片のカップリングによって調製される。リラグルチドは、特に、His-Ala-Glu-Glyと、Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-Val-Ser-Ser-Tyr-Leu-Glu-Gly-Gln-Ala-Ala-Lys(Pal-Glu-OX)-Glu-Phe-Ile-Ala-Trp-Leu-Val-Arg-Gly-Arg-Gly-OHとをカップリングさせることによって得られる。この配列中、XはH、又はGlu α-カルボン酸基のための保護基を表す。
【0009】
国際公開第2016/046753号パンフレットの「発明の背景」から分かるように、より良好でより効率的及び/又はより安価なプロセスを提供するために、又は改善された収率及び純度を有する生成物を達成するようにより容易に精製され得る生成物を提供するために、リラグルチド又はセマグルチドなどのGLP-1タンパク質の合成のための新規の方法を発見することが依然として必要とされている。特に、良好な収率において、毒性又は他に望ましくない試薬の使用を必要としてはならず、且つ高純度を有する生成物を得るために容易に精製され得る、リラグルチド又はセマグルチドなどのGLP-1及び類似体を特に工業規模で調製するための方法を提供する必要性が示される。
【0010】
リラグルチド又はセマグルチドのようなGLP-1又はその類似体の酵素合成は、国際公開第2007147816号パンフレット及び国際公開第2016/046753号パンフレットでは示唆されておらず、これらはいずれも化学合成に焦点が当てられている。
【0011】
しかしながら、上記の従来技術に同様に記載されるように、完全に化学的なペプチドの合成には欠点がある。さらに、15個のアミノ酸よりも長いペプチドは、副反応のために固相で合成するのが非常に困難であることが多い。結果として、精製が厄介である。したがって、10個のアミノ酸よりも長いペプチドは、側鎖が保護されたオリゴペプチド断片の固相合成と、その後の、例えば、20個のアミノ酸のペプチドを作製するための10+10縮合などにおける溶液中での化学的縮合との組み合わせによって合成されることが多い。化学的に側鎖が保護されたオリゴペプチド断片の縮合の主要な欠点は、アシル供与体のC末端アミノ酸残基の活性化の際にラセミ化が生じることである。対照的に、酵素触媒によるペプチドカップリングはラセミ化が完全になく、側鎖官能基における副反応がないなどの、化学的なペプチド合成を上回るいくつかの他の利点を有する。工業的用途のために、動力学的アプローチに基づいた、すなわちアシル供与体C末端エステルを用いる、酵素ペプチド合成の概念は、最も魅力的である(例えば、N.Sewald and H.-D.Jakubke,in:“Peptides:Chemistry and Biology”,1st reprint,Ed.Wiley-VCH Verlag GmbH,Weinheim 2002を参照)。
【0012】
水溶液中の酵素カップリングの問題は、水の存在がカップリングよりも加水分解を促進する傾向があることである。水溶液中のオリゴペプチド断片の酵素的縮合に関していくつかの報告が公開されている(Kumaran et al.Protein Science,2000,9,734;Bjoerup et al.Bioorg.Med.Chem.1998,6,891;Homandberg et al.Biochemistry,1981,21,3387;Komoriya et al.Int.J.Pep.Prot.Res.1980,16,433)。
【0013】
Wellsら(米国特許第5,403,737号明細書)により、水溶液中のオリゴペプチドの酵素的縮合は、B.アミロリケファシエンス(B.amyloliquefaciens)由来のサブチリシンであるサブチリシンBPN’(配列番号2)の活性部位を変更することによって著しく改善され得ることが見出された。2つの突然変異、すなわちS221C及びP225Aを導入したときに、野生型サブチリシンBPN’と比較して500倍増大した合成対加水分解比(S/H比)を有する、サブチリガーゼ(subtiligase)と呼ばれるサブチリシンBPN’変異体が得られた。さらなる実験において、Wellsらは、サブチリガーゼに5つの付加的な突然変異を追加して、酵素をより安定化させた(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1994,91,12544)。スタビリガーゼ(stabiligase)と呼ばれる新しい突然変異体はドデカ硫酸ナトリウム及びグアニジウム塩酸塩に対して適度により耐性であると思われたが、依然として加水分解が主要な副反応であった。
【0014】
国際公開第2016/056913号パンフレットには、サブチリシンBPN’変異体又はその相同体に特定の突然変異を提供することによって、サブチリガーゼ又はスタビリガーゼのような酵素が水性環境で(オリゴ)ペプチド合成のために使用されたときに遭遇する望ましくない高加水分解活性に対する解決策が提供される。これらの変異体又は相同体は、特に、第1のペプチド断片及び第2のペプチド断片をカップリングさせることによるペプチドの合成を触媒するのに適しており、ここで、第1の断片はペプチドC末端エステル又はチオエステルであり、第2の断片は、N末端非保護アミンを有するペプチド求核剤である。
【0015】
本発明者らは、国際公開第2007147816号パンフレット又は国際公開第2016/046753号パンフレットに記載される、ペプチド断片から出発するGLP-1、リラグルチド及びセマグルチドの合成に対して酵素的な断片縮合を適用することを考えた。とりわけ、本発明者らは、酵素的な断片縮合によって、リラグルチド、セマグルチド又はGLP-1のアミノ酸残基1~10を有する10-merペプチドと、アミノ酸残基11~31を含有する21-merペプチドとを、10-merを(チオ)エステルとして、21-merを求核剤として用いてカップリングさせることを考えた。アミノ酸残基1~10を有するペプチドC末端(チオ)エステルと、アミノ酸残基11~31を含有するペプチド求核剤とをカップリングさせるために、P1’及びP2’の両方におけるセリンの存在は、ペプチド求核剤にとって不利であることが見出された。有効なカップリングが不十分であることのさらに可能性のある理由は、ペプチドC末端(チオ)エステルのP4における非疎水性アミノ酸(スレオニン)の存在であり得る。さらに、本発明者らは、アミノ酸残基1~4を有するペプチドC末端(チオ)エステルと、アミノ酸残基5~31を含有するペプチド求核剤とをカップリングさせることを試みたが、不成功であった。本発明者らは、特に、ペプチドC末端(チオ)エステルのP4におけるヒスチジンの存在、及び/又はP1におけるグリシンの存在が有効なカップリングにとって有害であると結論付けた。本開示の実施例1及び2に示されるように、水性反応媒体中でもリガーゼの存在下での酵素カップリングによってこれらのペプチドを調製することが可能であるが、サブチリシン変異体又はその相同体のようなリガーゼが、ペプチドC末端エステル又はチオエステルのP4位(C末端から4番目のアミノ酸)に疎水性アミノ酸残基を有するC末端ペプチド(チオ)エステルのカップリングを好むという考察などの科学的な考察に基づいて設計された、いくつかのプロセスについては収率が予想外に低いことが見出された。とりわけ、サブチリシンBPN’変異体の存在下で、13-merC末端エステルHis-Ala-Glu-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-Val-Ser-Ser-Tyr-OCam-Leu-OHと、18-merペプチド求核剤H-Leu-Glu-Gly-Gln-Ala-Ala-Lys-Glu-Phe-Ile-Ala-Trp-Leu-Val-Arg-Gly-Arg-Glyとを酵素的にカップリングさせることによって、リラグルチドのアミノ酸配列を有するペプチド(「H-リラグルチド-1~31-OH」)を調製する方法が実行された。C末端エステルのP4位における疎水性アミノ酸残基Valの存在により、これらの断片はリラグルチドアミノ酸配列を高収率で作製するために特に良好な断片となり得ると予想されたが、このペプチドは、非常に低収率で得られた(実施例1を参照)。実施例に2示されるように、対応する9-merC末端エステル及び22-merペプチド求核剤からのH-リラグルチド-1~31-OHの酵素的調製による収率は、P4位の疎水性Phe残基の存在によりこれらの断片が酵素的縮合反応のために特に良好な断片になり得ることが予想されたが、さらに低かった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、GLP-1又はその類似体、特にリラグルチド又はセマグルチドを酵素的に合成する新規の方法を提供することである。一般にこれらのペプチドのために、特に、これらを作製するための手段の幅を広げるために、代替的な酵素的ペプチド合成プロセスが必要とされている。特に、前述の問題又は上記従来技術で議論される問題の1つ又は複数を克服するようなプロセス、より具体的には、全収率の改善又選択性の改善を提供することが目的である。
【0017】
本発明の主題であり得る1つ又は複数の他の目的は、以下の説明から得られる。
【課題を解決するための手段】
【0018】
驚くことに、今回、これらの目的の1つ又は複数は、断片の縮合によるペプチドの酵素合成を含み、前記ペプチドの2つの特定の断片がリガーゼ、特にサブチリシン変異体又は相同体の存在下でカップリングされる方法において、GLP-1又はその類似体が調製される方法によって満たされることが見出された。
【0019】
したがって、本発明は、配列His-X-Glu-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-Val-Ser-Ser-Tyr-Leu-Glu-Gly-Gln-Ala-Ala-Y-Glu-Phe-Ile-Ala-Trp-Leu-Val-Z-Gly-Arg-Glyを含むペプチドを合成するための方法に関し、ここで、
- Xは、Ala又はα-アミノ-イソ酪酸残基(Aib)であり、
- YはLysであり、このLysは遊離側鎖ε-アミノ基(すなわち、非誘導体化リジン残基)を有するか、或いはその側鎖ε-アミノ基は保護基によって保護されているか、或いはそれはアミノ酸又は別の官能基によって官能化されており、
- ZはArg又はLysであり、
本方法は、
(a)配列His-X-Glu-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-Val-Ser-(チオ)エステルを含む第1のペプチド断片を含むペプチドC末端エステル又はチオエステルと、
(b)配列H-Ser-Tyr-Leu-Glu-Gly-Gln-Ala-Ala-Y-Glu-Phe-Ile-Ala-Trp-Leu-Val-Z-Gly-Arg-Glyを含む第2のペプチド断片を含むN末端非保護アミンを有するペプチド求核剤とを酵素的にカップリングさせることを含み、酵素カップリングはリガーゼによって触媒される。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に従う方法が、水性反応媒体中で実行したときにも、対象のペプチド(ライゲーション生成物)の合成を高収率で可能にすることは、特に驚くべきことである。結局、C末端(チオ)エステル断片のP4位のSerは極性であり、科学的観点から、これは酵素カップリング反応のために好ましくないことが予想された。
【0021】
これは、ペプチド断片上に側鎖保護基を全く必要とすることなく、且つ断片の一方又は両方に、溶解度を高めるための官能基(例えば、ペプチド骨格アミド官能基上の2-ヒドロキシ-4-メトキシベンジルアミド基、又はカップリング反応に関与しない各断片の末端の極性アミノ酸のペプチド-タグ)を提供することを必要とせずに達成されたが、特定の実施形態では、保護基又は溶解度増強基が使用され得る。ペプチド求核剤の溶解度は低いので、溶解度増強基を必要としなくても高いS/H比は驚くべきことである。
【0022】
本発明に従う方法では、ペプチド求核剤のYは、遊離側鎖ε-アミノ基(すなわち、非誘導体化リジン残基)を有するLysであり得る。しかしながら、本発明は、YがLysであり、その側鎖ε-アミノ基が官能基を含むペプチド求核剤、特に、YがLysγ-Glu、Lys(AEEA-AEEA-γ-Glu、Lys(Pal-γ-Glu-OH)又はLys(AEEA-AEEA-γ-Glu-17-カルボキシヘプタデカノイル-OH)であるペプチド求核剤のカップリングも可能にする。立体的に非常に要求の厳しいこのような基の存在にもかかわらず、このようなペプチド求核剤を使用した効率的な酵素カップリングが可能であることも、特に驚くべきことである。この態様では、さらに驚くべきことに、ペプチド求核剤は高い疎水性を有する(これは、Lysの側鎖ε-アミノ基における疎水性基(例えば、脂肪酸テールなど)の存在によって増大される)が、水性反応媒体中でも高い合成対加水分解比(S/H比)が達成される。一般に、S/H比は求核剤の濃度と直接関連し、したがって水溶液中の求核剤の溶解度と直接関連することが本発明者らの知見である。疎水性官能基の存在は、得られる分子の溶解度を非常に低くするので、本発明で定義されるような、すなわち、11-merペプチド(チオ)エステル及び20-merペプチド求核剤を含む、(チオ)エステルとペプチド求核剤とのカップリングの場合でもS/H比が非常に高いことは、したがって非常に驚くべきことである。異なる(チオ)エステル及びペプチド求核剤(Y位置に側鎖官能基が提供されてもされなくても)、例えば、対応する9-mer(チオ)エステル及び22-merペプチド求核剤をカップリングさせることによって同じライゲーション生成物を得ることが試みられた参照方法は、成功しなかった。
【0023】
YがLysであり、その側鎖ε-アミノ基がアミノ酸又は別の官能基によって官能化されているペプチド求核剤とのカップリングは、特に、本明細書中の他の箇所でさらに詳細に記載されるように、サブチリシンBPN’変異体を用いて可能であることが見出された。YがLysであり、その側鎖ε-アミノ基が官能化されたペプチド求核剤を用いてカップリングが実行される方法の好ましい実施形態も以下にさらに詳細に説明されるであろう。
【0024】
本発明の目的のために、「合成対加水分解比」(S/H比)は、エステル又はチオエステル基が加水分解された(オリゴ)ペプチドC末端エステル又はチオエステルの量で除した、酵素的に合成された(オリゴ)ペプチド生成物の量を意味する。S/H比の決定に関するさらなる詳細については、国際公開第2016/056913号パンフレットが参照される。
【0025】
本明細書で使用される「又は」という用語は、他に明記されない限り、又は文脈から「・・・又は・・・のいずれか」を意味することが分からない限り、「及び/又は」として定義される。
【0026】
本明細書で使用される「a」又は「an」という用語は、他に明記されない限り、又は文脈から単数形のみを指すべきであることが分からない限り、「少なくとも1つ」として定義される。
【0027】
単数形の名詞(例えば、化合物、添加剤など)に言及する場合、文脈から単数形のみを指すべきであることが分からない限り、複数形が含まれることを意味する。
【0028】
「pH」という用語は、本明細書では、見かけのpH、すなわち標準的な較正されたpH電極を用いて測定されるpHに対して使用される。
【0029】
本発明の目的のために、「ペプチド」は、2つ以上のアミノ酸から構成される任意の鎖を意味する。したがって、ペプチドは一般に、少なくとも概念的に、型通りの水の損失を伴った1つの分子のカルボニル炭素から別の分子の窒素原子への共有結合の形成により、2つ以上のアミノカルボン酸分子(すなわちアミノ酸)から構成されるアミドである。「ペプチド」という用語は、通常、α-アミノ酸から形成される構造に適用されるが、ペプチドは、1つ若しくは複数のベータ-アミノ酸及び/又は1つ若しくは複数のγ-アミノ酸などの他のアミノ酸を含んでいてもよい。
【0030】
ペプチドのアミノ酸配列は一次構造と称される。実施形態において、ペプチドは、本質的に二次構造を含まず、且つ本質的に三次構造を含まない。
【0031】
実施形態において、本発明に従う方法で合成された、又はカップリングすべきペプチドは、本質的にアミノ酸残基からなる。例えば、GLP-1はアミノ酸残基からなる。さらなる実施形態において、ペプチドは本質的にアミノ酸単位及び保護基からなる。
【0032】
さらなる実施形態では、本発明に従う方法で合成された、又はカップリングすべきペプチドは、ペプチド鎖と、脂肪酸などの別の残基とのコンジュゲートである。これらのペプチドは、リポペプチドと呼ばれる。脂肪酸は、例えば、溶解度を変化させるために使用することができる。適切な脂肪酸の例は、C8~C24飽和脂肪酸及びC8~C24不飽和脂肪酸である。所望により、例えば、水性環境における溶解度を増大させるために、ペプチドと脂肪酸との間に極性リンカーが提供される。リラグルチド及びセマグルチドは、ペプチド鎖と脂肪酸とのコンジュゲートであるペプチドである。セマグルチドは、ペプチドと脂肪酸残基との間に極性リンカーを含む。
【0033】
通常、ペプチド(この用語は、オリゴペプチド、タンパク質及びキメラペプチドを含む)は、最大約35000個までのアミノ酸単位、特に3~20000個、より具体的には4~1000個又は5~500個のアミノ酸単位を含む。本発明に従うリガーゼは、His-X-Glu-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-Val-Ser-Ser-Tyr-Leu-Glu-Gly-Gln-Ala-Ala-Y-Glu-Phe-Ile-Ala-Trp-Leu-Val-Z-Gly-Arg-Gly以外のペプチドの合成ために使用されてもよい。このようなペプチドは、好ましくは、500個以下のアミノ酸単位、特に200個以下、より具体的には100個以下のアミノ酸単位を含む。特に好ましい実施形態では、合成されるペプチドは、少なくとも10個のアミノ酸単位、より具体的には、少なくとも15個のアミノ酸、少なくとも25個のアミノ酸又は少なくとも40個のアミノ酸を含む。このようなペプチドからの断片は広い範囲内で選択することができ、断片の長さは少なくとも2個、特に少なくとも5個、より具体的には少なくとも10個でよく、上限は合成されるペプチドの長さによって決定される。
【0034】
「オリゴペプチド」は、本発明との関連において、2~200個のアミノ酸単位から構成される、特に5~100個のアミノ酸単位から構成される、より具体的には10~50個のアミノ酸単位から構成されるペプチドを意味する。
【0035】
本発明の目的のために、「ペプチド結合」は、(i)1つのα-アミノ酸のα-アミノ末端、又は1つのベータ-アミノ酸のベータ-アミノ末端のいずれかと、(ii)1つの他のα-アミノ酸のα-カルボキシル末端、又は1つの他のベータ-アミノ酸のベータ-カルボキシル末端のいずれかとの間のアミド結合を意味する。好ましくは、ペプチド結合は、1つのα-アミノ酸のα-アミノ末端と、別のα-アミノ酸のα-カルボキシルとの間にある。
【0036】
本発明との関連では、「アミノ酸側鎖」は、任意のタンパク質原性(proteinogenic)又は非タンパク質原性アミノ酸側鎖を意味する。
【0037】
タンパク質原性アミノ酸は、遺伝コードによってコードされるアミノ酸である。タンパク質原性アミノ酸は、アラニン(Ala)、バリン(Val)、ロイシン(Leu)、イソロイシン(Ile)、セリン(Ser)、スレオニン(Thr)、メチオニン(Met)、システイン(Cys)、アスパラギン(Asn)、グルタミン(Gln)、チロシン(Tyr)、トリプトファン(Trp)、グリシン(Gly)、アスパラギン酸(Asp)、グルタミン酸(Glu)、ヒスチジン(His)、リジン(Lys)、アルギニン(Arg)、プロリン(Pro)及びフェニルアラニン(Phe)を含む。セレノシステイン(Sec、U)は、構造がシステインに対応するが、ただし硫黄原子の代わりにセレンを含有するアミノ酸である。タンパク質原性アミノ酸は、前記アミノ酸のL-立体異性体である(立体異性体を有さないグリシンを除く)。
【0038】
本発明に従う方法における特定の対象の非タンパク質原性アミノ酸は、2-アミノイソ酪酸(Aib)であり、これは、セマグルチドのペプチド鎖の一部を形成する。
【0039】
「(チオ)エステル」という用語は、本明細書では、「エステル又はチオエステル」という語句の省略形として使用される。
【0040】
「N末端保護」という用語は、本明細書では、一般に、別のペプチド又は同じペプチド分子のC末端カルボン酸基へのカップリングからN末端アミン基を少なくとも実質的に保護する保護基が、ペプチドのN末端アミン基、通常はN末端α-アミン基に提供されることを示すために使用される。
【0041】
「C末端保護」という用語は、本明細書では、一般に、別のペプチド又は同じペプチド分子のN末端アミン基へのカップリングからカルボン酸基を実質的に保護する保護基が、ペプチドのC末端カルボン酸基、通常はC末端α-カルボン酸基に提供されることを示すために使用される。
【0042】
タンパク質又はポリペプチド(特に、リガーゼなどの酵素)に関して本明細書で使用される「突然変異された」又は「突然変異」という用語は、野生型又は天然に存在するタンパク質又はポリペプチド配列中の少なくとも1つのアミノ酸が、これらのアミノ酸をコードする核酸の突然変異誘発によって、異なるアミノ酸によって置換されている、配列中に挿入されている、配列に付加されている、又は配列から欠失されていることを意味する。突然変異誘発は当該技術分野において周知の方法であり、例えば、Sambrook et al.,Molecular Cloning-A Laboratory Manual,2nd ed.,Vol.1-3(1989)に記載されるように、PCRによる、又はオリゴヌクレオチド媒介性突然変異誘発による部位特異的突然変異誘発を含む。遺伝子に関して本明細書で使用される「突然変異された」又は「突然変異」という用語は、その遺伝子の核酸配列又はその制御配列中の少なくとも1つのヌクレオチドが、突然変異誘発によって、異なるヌクレオチドによって置換されている、配列中に挿入されている、配列に付加されている、又は配列から欠失されており、結果的に、定性的又は定量的に変更された機能を有するタンパク質配列の転写をもたらすか、或いはその遺伝子のノックアウトをもたらすことを意味する。
【0043】
本明細書において、アミノ酸置換を示すための省略形は、置換されるアミノ酸の一文字アミノ酸コードと、それに続く、タンパク質アミノ酸配列中で置換が行われる場所を指定する数字とを使用する。この数字は、野生型アミノ酸配列のアミノ酸位置である。したがって、突然変異されたアミノ酸配列については、野生型酵素においてその数字を有する位置に対応するアミノ酸位置である。より小さい数の位置における1つ又は複数の他の突然変異(付加、挿入、欠失など)のために、実際の位置は同じである必要はない。当業者は、NEEDLEなどの一般に知られているアライメント技術を用いて、対応する位置を決定することができるであろう。この数字の後に、その中の野生型アミノ酸を置換するアミノ酸の一文字コードが続く。例えば、S221Cは、221位に対応する位置におけるセリンのシステインへの置換を示す。Xは、置換されるアミノ酸以外の任意のタンパク質原性アミノ酸を示すために使用される。例えば、S221Xは、221位に対応する位置におけるセリンの、任意の他のタンパク質原性アミノ酸への置換を示す。
【0044】
「リガーゼ」という用語は、本明細書では、第1のペプチドのC末端及び別のペプチドのN末端をカップリングさせることによるペプチド結合の形成を触媒することによって、2つのペプチドのカップリングにおける触媒活性を有する酵素に対して使用される。一般に、本発明に従う(方法で使用される)リガーゼは、11-merのHis-X-Glu-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-Val-Ser-(チオ)エステルと、20-merペプチド求核剤のH-Ser-Tyr-Leu-Glu-Gly-Gln-Ala-Ala-Y-Glu-Phe-Ile-Ala-Trp-Leu-Val-Z-Gly-Arg-Glyとのカップリングに関するリガーゼ活性を有する。
【0045】
Schechter及びBergerにより定義されるように、リガーゼを含むプロテアーゼ中の活性部位残基は、サブサイトと呼ばれる隣接ポケットから構成される。各サブサイトポケットは、本明細書では配列位置と呼ばれるペプチド基質配列中の対応する残基に結合する。この定義によると、基質配列中のアミノ酸残基は、-P4-P3-P2-P1-P1’-P2’-P3’-P4’-.(切断できる結合は、P1位とP1’位の間に位置する)のように切断部位から外側に向かって連続して番号付けされるが、活性部位のサブサイト(ポケット)は、-S4-S3-S2-S1-S1’-S2’-S3’-S4’-.のように、それに対応して標識化される(Schechter and Berger,Biochem Biophys Res Commun.1967 Apr 20;27(2):157-62)。全てのプロテアーゼが前記サブサイトの全てを有するわけではないことに注意すべきである。例えば、S3’及び/又はS4’ポケットは、本発明に従うサブチリシンBPN’変異体又はその相同体中には存在しないことがある。
【0046】
本発明の目的のために、「S1、S2、S3及びS4ポケット」は、ペプチドアシル供与体のアミノ酸と相互作用をするプロテアーゼ(特に、リガーゼ)のアミノ酸を意味する。アシル供与体ペプチドのC末端アミノ酸(1番目のアミノ酸;P1)は、プロテアーゼのS1ポケット中のアミノ酸と相互作用をする。アシル供与体ペプチドの最後から2番目のアミノ酸(C末端から2番目のアミノ酸;P2)は、プロテアーゼのS2ポケット中のアミノ酸と相互作用をし、3番目のアミノ酸(P3)はS3と、4番目のアミノ酸(P4)はS4ポケットと相互作用をする。プロテアーゼのS1~S4結合ポケットは、プロテアーゼの一次構造中では遠くにあり得るが、三次元空間では近接するいくつかのアミノ酸によって画定される。本発明の目的のために、S1’及びS2’ポケットは、ペプチド求核剤のN末端アミノ酸と相互作用をするプロテアーゼのアミノ酸を意味する。ペプチド求核剤のN末端アミノ酸は、プロテアーゼのS1’ポケット中のアミノ酸と相互作用をする。ペプチド求核剤のN末端の最後から2番目のアミノ酸は、プロテアーゼのS2’ポケット中のアミノ酸と相互作用をする。プロテアーゼのS1’及びS2’結合ポケットは、プロテアーゼの一次構造中では遠くにあり得るが、三次元空間では近接するいくつかのアミノ酸によって画定される。
【0047】
酵素が括弧内の酵素クラス(EC)に関して言及される場合、酵素クラスは、Nomenclature Committee of the International Union of Biochemistry and Molecular Biology(NC-IUBMB)によって提供される酵素命名法(Enzyme Nomenclature)に基づいて酵素が分類される又は分類され得るクラスであり、この命名法は、http://www.chem.qmul.ac.uk/iubmb/enzyme/において見出すことができる。特定のクラスに(まだ)分類されていないが、そのように分類され得る他の適切な酵素も含むことを意味する。
【0048】
相同体は、通常、それが相同であるペプチド又は酵素と共通する意図された機能を有し、例えば、同じ反応、特に本発明に従う方法の酵素カップリングを触媒することができる。
【0049】
アミノ酸又はヌクレオチド配列は、特定のレベルの類似性を示す場合に相同であると言われる。2つの相同配列が近接して関連するか又はより離れて関連するかは、それぞれ、高い又は低い「同一性パーセント」又は「類似性パーセント」によって示される。
【0050】
「相同性」、「相同性パーセント」、「同一性パーセント」又は「類似性パーセント」という用語は、本明細書では互換的に使用される。本発明の目的のために、本明細書では、2つのアミノ酸配列の同一性パーセントを決定するために、最適な比較を目的として完全な配列がアラインされることが定義される。2つの配列間のアライメントを最適化するために、比較される2つの配列のいずれかにギャップが導入され得る。このようなアライメントは、比較される配列の全長にわたって実行される。或いは、アライメントは、より短い長さにわたって、例えば、約20個、約50個、約100個又はそれ以上の核酸又はアミノ酸にわたって実行されてもよい。同一性の割合は、報告されるアライン領域にわたる2つの配列間の同一マッチの割合である。
【0051】
2つの配列間の配列の比較及び同一性パーセントの決定は、数学的アルゴリズムを用いて達成することができる。当業者は、2つの配列をアラインさせて、2つの配列間の相同性を決定するために、いくつかの異なるコンピュータプログラムが利用可能であるという事実を認識するであろう(Kruskal,J.B.(1983)An overview of sequence comparison In D.Sankoff and J.B.Kruskal,(ed.),Time warps,string edits and macromolecules:the theory and practice of sequence comparison,pp.1-44 Addison Wesley)。2つのアミノ酸配列間の同一性パーセントは、2つの配列のアライメントのためのNeedleman及びWunschのアルゴリズムを用いて決定することができる(Needleman,S.B.and Wunsch,C.D.(1970)J.Mol.Biol.48,pp443-453)。Needleman-Wunschアルゴリズムは、コンピュータプログラムNEEDLEに実装されている。本発明の目的のために、EMBOSSパッケージからのNEEDLEプログラムを使用した(バージョン2.8.0以上、EMBOSS:The European Molecular Biology Open Software Suite(2000)Rice,P.Longden,I.and Bleasby,A.Trends in Genetics 16,(6)pp276-277,http://emboss.bioinformatics.nl/)。タンパク質配列については、置換マトリックスのためにEBLOSUM62が使用される。他のマトリックスを指定することもできる。アミノ酸配列のアライメントのために使用される任意選択的なパラメータは、10のギャップオープンペナルティ及び0.5のギャップ伸長ペナルティである。当業者は、これらの全ての異なるパラメータがわずかに異なる結果をもたらすが、異なるアルゴリズムを使用する場合、2つの配列の同一性の全体の割合は有意に変更されないことを認識するであろう。
【0052】
2つのアラインされた配列間の相同性又は同一性は次のように計算される:両方の配列中で同一のアミノ酸を示す、アライメント中の対応する位置の数を、アライメント中のギャップの総数を減算した後のアライメントの全長で除する。本明細書で定義される同一性は、NOBRIEFオプションを用いることによりNEEDLEから得ることができ、プロブラムの出力で「最長同一性」として標識される。本発明の目的のために、2つの配列間の同一性(相同性)のレベルは、プログラムNEEDLEを用いることにより実行され得る「最長同一性」の定義に従って計算される。
【0053】
ポリペプチド配列、特に酵素配列は、配列データベースに対する検索を実施するため、例えば、他のファミリーメンバー又は関連配列を同定するために、「クエリー配列」としてさらに使用することができる。このような検索は、BLASTプログラムを用いて実施することができる。BLAST分析を実施するためのソフトウェアは、National Center for Biotechnology Information(http://www.ncbi.nlm.nih.gov)を通して公的に利用可能である。BLASTPはアミノ酸配列に対して使用される。BLASTプログラムは、フォルトとして以下を使用する:
- オープンギャップに対するコスト:デフォルト=タンパク質について11
- 伸長ギャップに対するコスト:デフォルト=タンパク質について1
- 期待値:デフォルト=10
- ワードサイズ:デフォルト=megablastについて28/タンパク質について3。
【0054】
さらに、アミノ酸配列クエリーと、検索される相同配列との間の局所同一性(相同性)の程度は、BLASTプログラムによって決定される。しかしながら、特定の閾値を超えるマッチを与える配列セグメントのみが比較される。したがって、これらのマッチングセグメントに対してのみプログラムにより同一性が計算される。したがって、このようにして計算された同一性は、局所同一性と称される。
【0055】
「相同体」という用語は、本明細書では、特に、相同体ペプチド又は酵素が比較されるペプチド、特に酵素と、少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%又は少なくとも99%の配列同一性を有するペプチド、より具体的には酵素に対して使用される。明らかに、配列同一性は100%未満になる。配列同一性の割合は、突然変異の数と、相同体が比較されるペプチド(酵素)の長さとに依存する。「最長同一性」アライメントにおいて、欠失は考慮されない。
【0056】
本発明の目的のために、「縮合」は、ペプチドのC末端カルボキシル官能基と、特定の別のペプチドの求核剤のN末端アミン官能基との間の新たなアミド結合の形成を意味する。
【0057】
ペプチドの「類似体」という用語は、特に、前記ペプチドの構造的類似体及び/又は機能的類似体であるペプチドに対して使用される。機能的類似体は、インビボで同じ標的(例えば、細胞膜上の同じ標的受容体)を有し、構造的類似体はアミノ酸配列における高い類似性を有する。ペプチドの機能的類似体は、全アミノ酸配列にわたって比較的低いアミノ酸配列同一性、例えば約50%以下のアミノ酸配列同一性を有し得るが、N-末端部分付近又はC末端部分付近などのアミノ酸配列のセグメントにおいて、それが類似体であるペプチドとは高い配列同一性(したがって、高い構造的類似性)を有し得る。構造的類似体は、特に、ペプチドが類似体であるそのペプチドのアミノ酸配列と少なくとも60%、より具体的には少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%の配列同一性、より好ましくは少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。明確さ及び簡潔な説明を目的として、本明細書では特徴は同じ又は別の実施形態の一部として記載されるが、本発明の範囲が、記載される特徴の全て又は一部の組み合わせを有する実施形態を含み得ることは認識されるであろう。本明細書において明確に定義されない本明細書で使用される用語は、国際公開第2016/056913号パンフレットにおいて定義される通りであるか、或いはそこに定義されていなければ、共通の一般的知識にしたがって使用される。
【0058】
ペプチドC末端エステル又はチオエステルは、アミノ酸配列His-X-Glu-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-Val-Ser-(チオ)エステルを含む第1のペプチド断片を含み、ここで、Xは、Ala又はα-アミノ-イソ酪酸単位(Aib)である。これが第1のペプチド断片のアミノ酸配列である第1のペプチド断片を用いて、特に良好な結果が達成された。特定の実施形態では、N末端は、少なくとも1つのアミノ酸(W、以下を参照)、例えば、Gly又はPheにより延長され、延長されたペプチドのN末端には、保護基、通常はエドマン型保護基が提供される(以下を参照)。所望により、例えば、反応媒体中の溶解度を変更するために、N末端にペプチドタグを提供することができる。しかしながら、特に水性反応媒体中でない場合には、これは一般に必要ではない。
【0059】
ペプチドC末端エステル又はチオエステルは、通常、活性化(チオ)エステルであり、すなわち、酵素カップリング反応に関与することができるカルボキシエステル又はカルボキシチオエステル基を含有する。原則として、任意の(置換又は非置換)アルキル又は(置換又は非置換)アリール(チオ)エステルを使用することができる。酵素カップリング反応に関与することができる(チオ)エステルの典型的な例は、メチル-、エチル、プロピル-、イソプロピル-、フェニル-、ベンジル-(例えば、p-カルボキシ-ベンジル-)、2,2,2-トリクロロエチル-、2,2,2-トリフルオロエチル-、シアノメチル-及びカルボキシアミドメチル-(チオ)エステルである。
【0060】
式ペプチド-(C=O)-O-CX-C(=O)N-Rによって表されるカルボキシアミドメチル型エステル(Cam-エステル)を用いて、特に良好な結果が得られた。本明細書において、各X及びXは独立して、水素原子又はアルキル基を表す。X及びXの両方が水素原子である(ペプチド-(C=O)-O-CH-C(=O)N-R)場合に、良好な結果が達成された。本明細書において、Rは水素原子又はアルキル基を表し、Rは、水素原子若しくはアルキル基、又はアミノ酸の側鎖官能基上で若しくはアミノ酸の側鎖官能基の1つ若しくは複数上で任意選択的に保護されたC末端カルボキシアミド若しくはカルボン酸官能基を有するアミノ酸若しくはペプチド残基を表す。本明細書において、各アルキル基は独立して、(置換又は非置換)C1~C7アルキル基、好ましくは(置換又は非置換)線状C1~C6アルキル基、より好ましくは(置換又は非置換)線状C1~C3アルキル基、最も好ましくはメチル基を表すことができる。R及びRの両方が水素原子を表すか、或いはRが水素原子を表し、且つRが、アミノ酸の側鎖官能基上で又はアミノ酸の側鎖官能基の1つ又は複数上で任意選択的に保護されたC末端カルボキシアミド又はカルボン酸官能基を有するアミノ酸又はペプチド残基を表す本発明の方法において特に良好な結果が達成された。
【0061】
Cam-AA1-AA2-エステルを使用することが特に有利であり、ここで、AA1は第1のアミノ酸残基であり、AA2は第2のアミノ酸残基である。本明細書において、AA1は、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、メチオニン又はトリプトファン単位などの疎水性アミノ酸残基である。AA2は、アルギニン又はリジン単位などの塩基性アミノ酸残基である。特に好ましいのは、Cam-Phe-Arg及びCam-Phe-Lysである。AA1及びAA2は、通常、遊離側鎖官能基、すなわち保護基又は別の残基を持たない側鎖官能基を有する。
【0062】
また特に良好な結果は、カルボキシル置換されたベンジルエステル、特に、式ペプチド-(C=O)-O-CH-C-COE(式中、Eは水素原子、アンモニウムイオンなどの正帯電塩イオン、又はアミノ酸の側鎖官能基上で若しくはアミノ酸の側鎖官能基の1つ若しくは複数上で任意選択的に保護されたC末端カルボキシアミド若しくはカルボン酸官能基を有するアミノ酸若しくはペプチド残基を表す)によって表されるp-カルボキシル置換ベンジルエステルを用いても得られた。また良好な結果は、式ペプチド-(C=O)-O-CH-C-COE(式中、Eは上記のように定義され、ここで、フェニル環(上記式中のC)中の1つ又は複数の水素原子は、ヒドロキシ、アルコキシ、アリールオキシ又はハロゲンなどの置換基によって置き換えられる)によって表されるp-カルボキシル置換ベンジルエステルを用いても得られた。
【0063】
ペプチドC末端(チオ)エステルはN末端非保護であっても、N末端保護されていてもよい。
【0064】
適切なN末端保護基は、ペプチドの合成のために使用可能なN-保護基である。このような基は当業者に知られている。適切なN-保護基の例としては、カルバマート又はアシル型の保護基、例えば、「Cbz」(ベンジルオキシカルボニル)、「Boc」(tert-ブチルオキシカルボニル)、「For」(ホルミル)、「Fmoc」(9-フルオレニルメトキシカルボニル)、「PhAc」(フェナセチル)及び「Ac」(アセチル)が挙げられる。基For、PhAc及びAcは、それぞれ、酵素ペプチドデホルミラーゼ、PenGアシラーゼ又はアシラーゼを用いて酵素的に導入及び切断され得る。
【0065】
本発明者らはさらに、フェニルチオカルバモイル(PTC)基などの置換チオカルバモイル基が、断片縮合によるペプチドの酵素合成方法においてC末端(チオ)エステルのN末端α-アミン官能基のための有用な保護基であることに気付いた。このような基の使用はそれ自体、例えば、エドマン分解プロセスから周知である。エドマン型のアミノ酸配列決定のために使用可能な保護剤は本明細書中でエドマン型保護剤とも呼ばれ、ペプチドのアミン基(特に、N末端アミン)にカップリングされた同様の薬剤は本明細書中でエドマン型保護基と呼ばれる。本発明者らは、リラグルチド又はセマグルチドを得るために酵素カップリング反応の後に得られたペプチドがY位置に官能基が提供されることを必要とする場合、例えば、PalをLys-γ-Glu(Y)にカップリングさせる場合、又は17-カルボキシヘプタデカン酸をLys-AEEA-AEEA-γ-Glu(Y)にカップリングさせる場合に、エドマン型保護剤(付加的な連結アミノ酸、例えばグリシンを介してN末端α-アミノ官能基に結合される)が有効な保護基を形成することを見出した。置換チオカルバモイル基は、前記アミン官能基と、対応するイソチオシアネートとを(わずかに)アルカリ性条件下で反応させることによって、N末端α-アミノ官能基に提供することができる。したがって、フェニルチオカルバモイル(PTC)基はフェニルイソチオシアネート(PITC)を用いて導入することができ、メチルチオカルバモイル(MTC)基は、メチルイソチオシアネート(MITC)を用いて導入することができる。酸性条件下では、このような置換チオカルバモイル基は、チアゾリノン誘導体の形態で結合されたα-アミノ酸と一緒にペプチドから切断される。
【0066】
N末端保護を提供するこの新しい方法は、例えばFmocと比べて、水性反応系中の溶解度に関して有利であることが見出された。これは、固相合成を用いる場合の適合性に関して、例えばBocと比べて有利であることが見出された。置換チオカルバモイル部分などのエドマン型保護基は中性又はアルカリ性pHでは保護基として特にうまく機能し、酸性pHでは容易に除去することが可能である。したがって、このような基は通常、本明細書中の他の箇所でさらに詳細に記載されるように、中性又はアルカリ性pHで良好なS/H比を有するサブチリシンBPN’変異体又は相同体のようなリガーゼを用いて、このようなpHでのカップリング反応において使用される。
【0067】
エドマン型保護部分を使用する場合の適切な保護/脱保護条件は、エドマン型分解法においてこのような部分を使用する場合に当該技術分野で通常知られている条件を含む。置換チオカルバモイル基は、水性反応媒体中でも良好な溶解度に寄与することと組み合わされて、特に有効であることが見出された。置換チオカルバモイル基は芳香族又は脂肪族であり得る。好ましくは、置換チオカルバモイル基は、アリール置換チオカルバモイル基、又はアルキル置換チオカルバモイル基である。特に好ましいアリール置換チオカルバモイル基はC6~C12-アリール置換チオカルバモイル基であり、より具体的には、フェニルチオカルバモイル(PTC)である。特に好ましいアルキル置換チオカルバモイル基はC1~C6-アルキル置換チオカルバモイル基であり、より具体的には、メチルチオカルバモイル(MTC)である。置換チオカルバモイル基の導入のために使用される好ましいイソチオシアネートのさらなる例は、FITC、BAMPITC、DNTC、DNSAPITC、ダンシルアミノ-PITC、3-POPIC、4-POPIC、CIPIC及び7-[(N,N-ジメチルアミノ)スルホニル]-2,1,3-ベンゾオキサジアゾール-4-イルイソチオシアネート(DBD-NCS)などの、H.Matsunaga,T.Santa,K.Hagiwara,H.Homma,K.Imai,S.Uzu,K.Nakashima,S.Akiyama,Anal.Chem.1995,67,4276において言及されるものである。参照によって援用される4276頁の左側及び右側欄にわたる段落を参照されたい。さらに別の好ましい例は、7-アミノスルホニル-4-(2,1,3-ベンゾオキサジアゾリル)-イソチオシアネート(ABD-NCS)である。
【0068】
置換チオカルバモイル部分の代替として、エドマン型分解法によるペプチド中のアミノ酸の配列決定に適した別の部分を、同様にして、すなわち連結アミノ酸を介してペプチドC末端エステルのN末端を前記部分で標識化し、ペプチド求核剤との酵素カップリングの後にその部分を連結アミノ酸残基と一緒にカップリング生成物の残りの部分から切断することによって、保護基として使用することができる。したがって、連結アミノ酸残基を介してペプチドのN末端に標識化され、連結アミノ酸残基と一緒に切断除去され得る適切な保護部分も、本明細書では「エドマン型保護基」と呼ばれる。
【0069】
さらに、2つ以上のアミノ酸を介して(すなわち、ペプチド鎖を介して)エドマン型保護基をペプチドC末端(チオ)エステルに連結させることが可能である。次に、ペプチド配列決定法において行われるものと同様の方法で、その部分により標識化し、そしてその部分とアミノ酸を切断除去するいくつかのサイクルによって、連結アミノ酸を除去することができる。付加的な連結アミノ酸の使用は必要ではないが、所望により、例えば、選択の反応媒体中のペプチドC末端(チオ)エステルの溶解度を変更するために使用することができる。
【0070】
したがって、特定の好ましい実施形態では、本発明に従う方法は、(a)式P-W-His-X-Glu-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-Val-Ser-(チオ)エステルによって表されるペプチドC末端エステル又はチオエステルと、(b)ペプチド求核剤とを酵素的にカップリングさせることを含む。本明細書において、Pはエドマン型保護基、好ましくはフェニルチオカルバモイル(PTC)又はメチルチオカルバモイル(MTC)部分を表す。本明細書において、vは、少なくとも1、通常は1~10、好ましくは1~4、より好ましくは1、2又は3、最も好ましくは1の整数であり、vは、アミノ酸残基Wの数を表す。各Wは、同じであっても異なっていてもよい。通常、各Wは、タンパク質原性アミノ酸の群から選択されるが、原則として、エドマン型の切断条件下でP-Wとして切断除去が可能であれば、別のアミノ酸も使用され得る。
【0071】
このN末端保護されたペプチドC末端(チオ)エステルは求核剤(b)とカップリングされ、それによりN末端保護されたペプチドP-W-His-X-Glu-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-Val-Ser-Ser-Tyr-Leu-Glu-Gly-Gln-Ala-Ala-Y-Glu-Phe-Ile-Ala-Trp-Leu-Val-Z-Gly-Arg-Glyが形成される。その後このペプチドは切断反応を受け、ここで、ペプチドWv-1-His-X-Glu-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-Val-Ser-Ser-Tyr-Leu-Glu-Gly-Gln-Ala-Ala-Y-Glu-Phe-Ile-Ala-Trp-Leu-Val-Z-Gly-Arg-Gly(このペプチドは、C末端で伸長され得る)が形成される。
【0072】
v-1>0の場合、基Pは、ペプチドのWのN末端α-アミノ官能基にカップリングされ、その後、P-Wは切断により除去される。次に、カップリング及び切断サイクルは、ペプチドHis-X-Glu-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-Val-Ser-Ser-Tyr-Leu-Glu-Gly-Gln-Ala-Ala-Y-Glu-Phe-Ile-Ala-Trp-Leu-Val-Z-Gly-Arg-Glyが得られるまで繰り返される。
【0073】
ペプチドのN末端へのPの標識化は、通常は弱アルカリ性条件、例えば約pH8で、前記Pに対して知られているエドマン型の方法論に基づいて、それ自体が知られている方法で達成される。ペプチドのN末端からのP-Wの切断は、通常は酸性条件、普通は約4以下、特に約3以下、例えば0~2の範囲のpHで、前記Pに対して知られているエドマン型の方法論に基づいて、それ自体が知られている方法で達成される。例えば、トリフルオロ酢酸(TFA)が使用され得る。
【0074】
ペプチド(チオ)エステルのN末端保護は、Yが、パルミチン酸とカップリングされる必要のある遊離α-アミノ官能基を持つLys(γ-Glu-OH)部分を含む方法において、或いはYが、17-カルボキシ-ヘプタデカン酸とカップリングされる必要のある遊離α-アミノ官能基を持つLys(AEEA-AEEA-γ-Glu-OH)部分を含む場合に特に有用である。
【0075】
特に、保護される側鎖官能基を持たないペプチドC末端(チオ)エステルを用いて、良好な結果が達成された。しかしながら、実施形態では、1つ又は複数の側鎖官能基、例えば全ての側鎖官能基に保護基が提供される。適切な保護基は当業者に知られている。カルボン酸基は、例えば、シクロヘキシル、ベンジル又はアリル基によって保護することができる。
【0076】
ペプチドC末端(チオ)エステルの活性化C末端(チオ)エステル基は、ラセミ化を伴わずに固相合成を用いて高い収率及び純度で合成することができる。カルボキシアミドメチル型の(チオ)エステル(Rは水素原子を表し、Rは、アミノ酸の側鎖官能基上で又はアミノ酸の側鎖官能基の1つ又は複数上で任意選択的に保護されたC末端カルボン酸官能基を有するアミノ酸又はペプチド残基を表す)を使用する付加的な利点は、安価で工業的に入手可能な2-クロロトリチルクロリドを用いてその活性化C末端エステル又はチオエステル基を合成できることである。
【0077】
ペプチドC末端(チオ)エステルの活性化C末端(チオ)エステル基は、溶液相合成によって、又は発酵によって、すなわち微生物を用いて合成することもできる。当該技術分野で一般に知られているように、発酵プロセスは、化合物、すなわちペプチドの好気性又は嫌気性条件下での産生を含む。発酵を用いてペプチド(チオ)エステルを得るための確実な方法は、いわゆるインテイン発現による(例えば、E.K.Lee,Journal of Chemical Technology and Biotechnology,2010,9,11-18を参照)。種々のインテイン発現系キットが市販されている(例えば、IMPACTTMキット)。ペプチド(チオ)エステルの発酵生産のための他の方法は、当該技術分野において知られている。
【0078】
N末端非保護アミンを有するペプチド求核剤は、アミノ酸配列H-Ser-Tyr-Leu-Glu-Gly-Gln-Ala-Ala-Y-Glu-Phe-Ile-Ala-Trp-Leu-Val-Z-Gly-Arg-Gly(「第2のペプチド断片」)を含む。これがペプチド求核剤のアミノ酸配列であるペプチド求核剤を用いて、特に良好な結果が達成された。水溶液系中でも、ペプチド求核剤の溶解度又は反応性を高めるためにC末端をペプチドタグ又は別の誘導体によって延長することを必要とせずに酵素カップリングがうまく機能することは、特に本発明の重要な利点である。
【0079】
実施形態では、ペプチド求核剤はC末端保護される。別の実施形態では、C末端保護を含まない。
【0080】
特に、保護される側鎖官能基を持たないペプチド求核剤を用いて、良好な結果が達成された。
【0081】
実施形態において、ペプチド求核剤の1つ又は複数の側鎖官能基(特に、1つ又は複数のヒドロキシル、カルボキシル又はアミン基)には、保護基が提供される。適切な保護基は、当業者に知られている。カルボン酸基は、例えば、シクロヘキシル、ベンジル又はアリル基によって保護することができ、アミン官能基は、例えば、アリルオキシカルボニル基又はトリフルオロアセチル基によって保護することができる。
【0082】
ペプチド求核剤は、固相合成、溶液相合成又は発酵などの当該技術分野において知られている方法を用いて合成され得る。
【0083】
上述のように、YはLysであり、このLysの側鎖ε-アミノ基は、保護基によって保護され得る。しかしながら、側鎖ε-アミノ基を保護することは、一般に、満足できるカップリング収率及び速度のために必要ではなく、特に、サブチリシン又はその相同体がリガーゼとして使用される場合には必要でない。特に、本明細書に記載されるサブチリシンBPN’変異体又は相同体は、位置YにおけるLysのε-アミノ基が保護基を含まない場合でも、両方の断片をカップリングさせるのに適している。
【0084】
したがって、通常、ペプチド求核剤のYは、遊離ε-アミノ側鎖を有するか、又は官能化ε-アミノ側鎖を有するリジン残基である。例えば、GLP-1が合成される対象のペプチドである場合、又はペプチド求核剤のYが既にリラグルチド若しくはセマグルチドを得るために必要とされる官能化を含む場合、酵素カップリングによって得られる生成物は対象のペプチドであり得る(任意選択的に、もしあれば保護基を除去した後)。或いは、酵素カップリングによって得られる生成物は続いて、特にアミノ酸又は別の官能基、より具体的には、Pal-γ-Glu-OH、及びAEEA-AEEA-γ-Glu-N-17-カルボキシヘプタデカノイル-OH(式中、Palはパルミトイルであり、AEEA-AEEAは2-[2-(2-アミノエトキシ)エトキシ]アセチル-2-[2-(2-アミノエトキシ)エトキシ]アセチルである)からなる群から選択される官能基によって官能化されるようにさらなる反応を受けることができる。リラグルチド若しくはセマグルチドを得るため、又はリラグルチド若しくはセマグルチドの合成に適したペプチド求核剤を提供するために、Yの遊離アミノ酸側鎖を官能化する方法は、当該技術分野で一般に知られている方法論に基づくこともでき、或いは、本発明の実施例に、又は本明細書中で引用される参考文献で言及される文献で記載される技術に基づいていてもよい。特に、官能化プロトコルは、米国特許第6,451,974B1号明細書に基づいて使用され得る。
【0085】
特に好ましい実施形態では、本発明に従う方法で合成されるペプチドは、リラグルチドである。
【0086】
本発明は、(a)配列His-Ala-Glu-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-Val-Ser-(チオ)エステルを含む第1のペプチド断片を含むペプチドC末端エステル又はチオエステルと、(b)配列H-Ser-Tyr-Leu-Glu-Gly-Gln-Ala-Ala-Y-Glu-Phe-Ile-Ala-Trp-Leu-Val-Arg-Gly-Arg-Gly(式中、YはLys(Pal-γ-Glu-OH)である)を含む第2のペプチド断片を含むペプチド求核剤との酵素的なカップリングを可能にするという点で有利である。したがって、対応する11-merペプチドC末端(チオ)エステル及び20-merN末端求核剤をカップリングさせ、それによりリラグルチドを得る酵素カップリングが実行され得る。ペプチド(チオ)エステルのN末端α-アミノ官能基には、エドマン型保護基を説明する際に本明細書中の他の箇所で定義されるように、P-Wで表される基などの保護基が提供され得るが、とりわけ、ペプチド(チオ)エステルのN末端の保護を用いず、任意のさらなる保護基を必要とせずに、Y=Lys(Pal-γ-Glu-OH)を有するペプチド求核剤が、式His-Ala-Glu-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-Val-Ser-(チオ)エステルによって表されるペプチドC末端エステル又はチオエステルにカップリングされる方法を用いて、特に良好な結果が達成された。
【0087】
さらに好ましい実施形態では、リラグルチドは、(a)配列His-Ala-Glu-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-Val-Ser-(チオ)エステルを含む第1のペプチド断片を含むペプチドC末端エステル又はチオエステルと、(b)配列H-Ser-Tyr-Leu-Glu-Gly-Gln-Ala-Ala-Lys(γ-Glu-OH)-Glu-Phe-Ile-Ala-Trp-Leu-Val-Arg-Gly-Arg-Glyを含む第2のペプチド断片を含むペプチド求核剤とを酵素的にカップリングさせ、その後、前記Lys(γ-Glu-OH)残基にパルミトイル基(Pal)を提供し、それにより、リラグルチドを得ることを含む方法において調製される。この実施形態では、ペプチドC末端エステル又はチオエステルのN末端α-アミノ官能基は通常、酵素カップリングの間、好ましくはエドマン型保護基によって保護される。
【0088】
さらに特に好ましい実施形態では、リラグルチドは、(a)配列His-Ala-Glu-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-Val-Ser-(チオ)エステルを含む第1のペプチド断片を含むペプチドC末端エステル又はチオエステルと、(b)配列H-Ser-Tyr-Leu-Glu-Gly-Gln-Ala-Ala-Y-Glu-Phe-Ile-Ala-Trp-Leu-Val-Arg-Gly-Arg-Gly(式中、Yは、遊離ε-アミノ側鎖を有するリジン残基である)を含む第2のペプチド断片を含むペプチド求核剤とを酵素的にカップリングさせ、その後、前記ε-アミノ側鎖にPal-γ-Glu-OHを提供し、それにより、リラグルチドを得ることを含む方法によって調製される。この実施形態では、ペプチド(チオ)エステルのN末端α-アミノ官能基において任意の保護基を使用することなく、特に良好な結果が達成された。
【0089】
代替の実施形態では、本発明に従う方法は、セマグルチドの合成を含む。
【0090】
有利な実施形態では、セマグルチドの合成は、(a)配列His-Aib-Glu-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-Val-Ser-(チオ)エステルを含む第1のペプチド断片を含むペプチドC末端エステル又はチオエステルと、(b)配列H-Ser-Tyr-Leu-Glu-Gly-Gln-Ala-Ala-Y-Glu-Phe-Ile-Ala-Trp-Leu-Val-Arg-Gly-Arg-Gly(式中、YはLys(AEEA-AEEA-γ-Glu-N-17-カルボキシヘプタデカノイル-OH)である)を含む第2のペプチド断片を含むペプチド求核剤とを酵素的にカップリングさせることを含む。それにより、セマグルチドを直接得ることができる。ペプチド(チオ)エステルのN末端α-アミノ官能基には、エドマン型保護基を説明する際に本明細書中の他の箇所で定義されるように、P-Wで表される基などの保護基が提供され得るが、とりわけ、ペプチド(チオ)エステルのN末端α-アミノ官能基の保護を用いず、任意のさらなる保護基を必要とせずに、Y=Lys(AEEA-AEEA-γ-Glu-N-17-カルボキシヘプタデカノイル-OH)を有するペプチド求核剤が、式His-Ala-Glu-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-Val-Ser-(チオ)エステルによって表されるペプチドC末端エステル又はチオエステルにカップリングされる方法を用いて、特に良好な結果が達成された。
【0091】
さらなる実施形態では、セマグルチドの合成方法は、(a)配列His-Aib-Glu-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-Val-Ser-(チオ)エステルを含む第1のペプチド断片を含むペプチドC末端エステル又はチオエステルと、(b)配列H-Ser-Tyr-Leu-Glu-Gly-Gln-Ala-Ala-Y-Glu-Phe-Ile-Ala-Trp-Leu-Val-Arg-Gly-Arg-Gly(式中、YはLys(AEEA-AEEA-γ-Glu-OH)である)を含む第2のペプチド断片を含むペプチド求核剤とを酵素的にカップリングさせ、その後、Lys(AEEA-AEEA-γ-Glu-OH)部分に17-カルボキシヘプタデカノイル基を提供することを含む。したがって、酵素カップリングの後のさらなる官能化によってセマグルチドを得ることができる。この実施形態では、ペプチドC末端エステル又はチオエステルのN末端α-アミノ官能基は通常、酵素カップリングの間、好ましくはエドマン型保護基によって保護される。
【0092】
さらなる実施形態では、セマグルチドは、(a)配列His-Aib-Glu-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-Val-Ser-(チオ)エステルを含む第1のペプチド断片を含むペプチドC末端エステル又はチオエステルと、(b)配列H-Ser-Tyr-Leu-Glu-Gly-Gln-Ala-Ala-Y-Glu-Phe-Ile-Ala-Trp-Leu-Val-Arg-Gly-Arg-Gly(式中、Yは、遊離ε-アミノ側鎖を有するリジン残基である)を含む第2のペプチド断片を含むペプチド求核剤とを酵素的にカップリングさせ、その後、前記εアミノ側鎖にAEEA-AEEA-γ-Glu-N-17-カルボキシヘプタデカノイル-OH基を提供し、それによりセマグルチドを得ることを含む方法によって得られる。したがって、酵素カップリングの後の官能化によってセマグルチドを得ることができる。この実施形態では、ペプチド(チオ)エステルのN末端α-アミノ官能基において任意の保護基(又は任意の側鎖官能基)を使用することなく、特に良好な結果が達成された。
【0093】
さらに別の代替の実施形態では、合成されるペプチドはGLP-1である。
【0094】
ペプチドC末端(チオ)エステル及びペプチド求核剤のカップリングを触媒するために使用されるリガーゼは、ペプチドC末端(チオ)エステルのC末端と、ペプチド求核剤のN末端との間のペプチド結合の形成を触媒することにより、両方のペプチドのカップリングにおける触媒活性を有する任意のリガーゼでよく、ここで、使用される反応媒体中のカップリング生成物のカップリング対加水分解についてのS/H比は1よりも大きい。通常、リガーゼはセリンプロテアーゼとして分類することができ、これは一般に、EC3.4.21に分類され得る。一般に、これは、Asp、His及びSerの順の触媒三残基を有する。
【0095】
特に、本発明に従う方法で使用されるリガーゼは、単離された酵素である。したがって、このリガーゼは、生物において産生された場合にはそれが発現された生物、通常は組換え生物から単離され、或いはそれが合成された反応媒体から単離される。特に、本発明の酵素は、粗製形態、又は例えば、Smith and Johnson,Gene 67:31-40(1988)に開示される単一段階精製法などの任意の適切技術によって実質的に精製された形態のいずれかで、本発明の目的のために単離されたと考えられる。
【0096】
特に、リガーゼはセリンエンドプロテアーゼであり得る。リガーゼは、使用される反応媒体中、特に水を含む反応媒体中、より具体的には水性媒体中で、通常、1よりも大きい、好ましくは2以上、特に5以上のS/H比を有する。この割合の上限値は重要ではなく、実際にはそれは、例えば、100以下、特に20以下であり得る。本発明に従う方法において使用されるリガーゼは一般に、少なくともサブチリシンBPN’と比較して改善された「合成対加水分解比」(S/H比)を有する。
【0097】
サブチリシンBPN’のS/H比で除した、本発明に従う(方法において使用される)リガーゼのS/H比は、少なくとも実施例に記載される条件下で、通常、100よりも大きい、好ましくは250以上、より好ましくは500以上、特に1000以上である。この割合の上限値は重要ではなく、それはほぼ無限であり得る。
【0098】
特に、サブチリシンBPN’変異体又はその相同体を用いて非常に良好な結果が達成された。
【0099】
特に、主要な溶媒として水を含む(例えば、全液体を基準として50~100wt.%)反応媒体中で酵素カップリングを実行する場合、国際公開第2016/056913号パンフレットに従うサブチリシンBPN’変異体又はその相同体は、特に適切であることが見出された。この公開物の内容は、特に、その特許請求の範囲に示されるようなサブチリシンBPN’変異体又は相同体についての詳細に関して、参照によって援用される。
【0100】
したがって、通常、カップリング反応のために使用されるリガーゼは、配列番号2で表されるサブチリシンBPN’又はその相同体配列と比べて、以下の突然変異:
- 75~83位に対応するアミノ酸の欠失;
- S221に対応するアミノ酸位置における突然変異(この突然変異は、S221C又はS221セレノシステインである);
- 好ましくは、P225に対応するアミノ酸位置における突然変異;
を含むサブチリシンBPN’変異体又はその相同体であり、
- アミノ酸位置は、配列番号2で表されるサブチリシンBPN’の配列に従って定義される。
【0101】
本発明に従う方法において使用するためのさらに好ましいリガーゼは、1つ又は複数の付加的な突然変異、特に、本明細書中の他の箇所、又は参照によって本明細書中に援用される国際公開第2016/056913号パンフレットにおいて特定されるような1つ又は複数のさらなる突然変異を含み得る。
【0102】
リガーゼ、特にサブチリシンBPN’変異体又はその相同体のS221に対応するアミノ酸位置における突然変異は、好ましくはS221Cである。
【0103】
P225に対応するアミノ酸位置における突然変異は、通常、酵素カップリングのS/H比のために有利である。突然変異は、通常、P225N、P225D、P225S、P225C、P225G、P225A、P225T、P225V、P225I、P225L、P225H、P225Qの群から、好ましくはP225N、P225D、P225S、P225C及びP225Gの群から選択され、より好ましくはP225N又はP225Dであり、最も好ましくP225Nである。
【0104】
良好な酵素安定性のために、リガーゼ、特にサブチリシンBPN’変異体又はその相同体は、好ましくは、配列番号2のQ2、S3、P5、S9、I31、K43、M50、A73、S188、Q206、N212、N218、T254及びQ271に対応するアミノ酸位置における突然変異の群から選択される1つ又は複数の突然変異を含む。
【0105】
Q2に対応する位置における好ましい突然変異は、Q2Kに対応する。
【0106】
S3に対応する位置における好ましい突然変異は、S3Cに対応する。
【0107】
P5に対応する位置における好ましい突然変異は、P5Sに対応する。
【0108】
S9に対応する位置における好ましい突然変異は、S9Aに対応する。
【0109】
I31に対応する位置における好ましい突然変異は、I31Lに対応する。
【0110】
K43に対応する位置における好ましい突然変異は、K43Nに対応する。
【0111】
M50に対応する位置における好ましい突然変異は、M50Fに対応する。
【0112】
A73に対応する位置における好ましい突然変異は、A73Lに対応する。
【0113】
S188に対応する位置における好ましい突然変異は、S188Pに対応する。
【0114】
Q206に対応する位置における好ましい突然変異は、Q206Cに対応する。
【0115】
N212に対応する位置における好ましい突然変異は、N212Gに対応する。
【0116】
T254に対応する位置における好ましい突然変異は、T254Aに対応する。
【0117】
Q271に対応する位置における好ましい突然変異は、Q271Eに対応する。
【0118】
特に好ましい実施形態では、リガーゼ、特にサブチリシンBPN’変異体又はその相同体は、Q2、S3、P5、S9、I31、K43、M50、A73、S188、Q206、N212、T254及びQ271に対応する位置における突然変異の群から選択される前記突然変異のうちの少なくとも6個、好ましくは少なくとも8個、より好ましくは少なくとも10個、特に12個、13個又は14個を含む。これは、水を主要な又は唯一の溶媒として含む反応媒体中での酵素の安定性のために特に好ましい。リガーゼは、本発明に従うペプチドの調製において酵素断片縮合活性(カップリング活性)を有することを条件として、サブチリシンBPN’と比較してさらなる突然変異、特に、本明細書中で引用される参考文献に記載されるような1つ又は複数のさらなる突然変異を有し得る。
【0119】
本発明に従う酵素、特に、本発明のサブチリシンBPN’変異体の相同体を突然変異誘発によって誘導させ得る鋳型酵素としてのサブチリシンBPN’の代替物は、他のサブチリシン、特にサブチリシンBPN’と少なくとも50%の相同性を有するサブチリシンである。
【0120】
適切なサブチリシンの配列は、クエリーとしてサブチリシンBPN’(配列番号2)を用いてデータベースをBLAST処理することによって、2014年8月11日に利用可能なUNIPROT配列データベース(http://www.uniprot.org/)から検索することができる。しかしながら、配列検索は、UNIPROTにも日付にも限定されない。当業者には、代替配列の保管場所(depository)を検索する方法、又は配列決定により付加的な相同体配列を収集する方法が分かる(例えば、Zooming in on metagenomics:molecular microdiversity of Subtilisin Carlsberg in soil.Gabor E,Niehaus F,Aehle W,Eck J.J Mol Biol.2012 Apr 20;418(1-2):16-20を参照)。
【0121】
特に、本発明はさらに、少なくとも、サブチリシンBPN’のL75からG83(G83を含む)までに対応するアミノ酸の前記欠失と、サブチリシンBPN’の221位に対応する位置におけるシステイン又セレノシステインと、本請求項1における前記さらなる突然変異の少なくとも1つとを有する変異体に関する。
【0122】
サブチリシンBPN’の配列は、配列番号2(成熟型)で示される。サブチリシンBPN’アミノ酸-107~275をコードする遺伝子は配列番号1に示される。サブチリシンBPN’変異体又は相同体は、国際公開第2016/056913号パンフレットに従う酵素に基づくことができるが、ただし、上述の突然変異を有することを条件とする。
【0123】
有利な実施形態では、リガーゼは、75~83位に対応するアミノ酸の欠失と、突然変異S221Cと、野生型サブチリシンBPN’(成熟)のM222、Y217、P225、F189、N218、E156、G166及びN62に対応するアミノ酸位置における1つ又は複数のさらなる突然変異、好ましくは少なくとも3つのさらなる突然変異、特に5~8個のさらなる突然変異とを有するサブチリシンBPN’変異体である。
【0124】
これらの突然変異のうち、特に、M222P、Y217H、P225N、F189W、N218D、E156N、G166E、N62Aに対応する突然変異により、良好な結果が達成された。配列番号3は、Ca2+結合ループの欠失、S221Cを有すると共に、前記のさらなる突然変異を有する、本発明に従う(使用のための)サブチリシンBPN’変異体を示す。Hisタグは精製を容易にするために包含されたものであり、リガーゼ活性のために必要なものではない。さらに好ましい酵素は、1つ又は複数の付加的な突然変異、特に、本明細書中の他の箇所、又は参照によって本明細書中に援用される国際公開第2016/056913号パンフレットにおいて特定されるような1つ又は複数のさらなる突然変異を含み得る。
【0125】
本発明の方法において、酵素反応は、通常、水を含む流体中で実施される。好ましくは、反応は、緩衝流体中で実施される。含水率は、通常、全液体を基準として10~100vol%、好ましくは20vol.%以上、好ましくは40vol.%以上、特に50vol.%以上、より具体的には60vol.%以上である。特に、70~100vol%の水、より具体的には90~100vol.%、95~100vol.%又は98~100vol.%の水を含む反応媒体中で、良好な結果が達成された。「水性」という用語は、少なくとも実質的に水からなる媒体に対して使用される。
【0126】
原則として、任意の緩衝液が適している。良好な緩衝液は、当業者に知られている。例えば、David Sheehan in Physical Biochemistry,2nd Ed.Wiley-VCH Verlag GmbH,Weinheim 2009;http://www.sigmaaldrich.com/life-science/core-bioreagents/biological-buffers/learning-center/buffer-calculator.htmlを参照されたい。特に良好な結果は、例えば、トリシンなどのグッド緩衝液を用いて達成された。緩衝液の濃度は、広い範囲、例えば、10~1000mMの範囲、特に25~500mMの範囲、より具体的には50~250mMの範囲内で選択され得る。ペプチド求核剤(YがLys(Pal-γ-Glu-OH)などである)をカップリングさせるために、比較的低いモル濃度の緩衝液が有利であることが見出された。
【0127】
本発明に従う方法におけるカップリング反応のための緩衝液のpHは、少なくとも5、特に少なくとも6、好ましくは少なくとも7であり得る。所望のpHは、通常11未満、特に10未満、さらにより好ましくは9未満である。通常、酵素カップリングに最適なpHは7~9の間である。
【0128】
S/H比が高いために、大幅に過剰なペプチドC末端エステル若しくはチオエステル又はペプチド求核剤は、一般に、縮合反応における高収率を達成するために必要とされない。一般に、これらは、ほぼ化学量論的な比率で、又はペプチドC末端エステルが過剰で、特に(a)ペプチドC末端エステル又はチオエステル対(b)ペプチド求核剤のモル比が1:1~5:1の範囲で接触される。化学量論的な比率について満足できる結果が達成されるが、過剰のペプチドC末端(チオ)エステルは、反応速度のために有利であることが見出された。したがって、好ましくは、(a)ペプチドC末端エステル又はチオエステル対(b)ペプチド求核剤のモル比は、1.05:1.0~4:1の範囲、より好ましくは1.1:1.0~3:1の範囲、さらにより好ましくは1.2:1.0~2.5:1.0の範囲、特に1.2:1.0~2.0:1.0の範囲である。
【0129】
本発明の方法では、ペプチド断片の溶解度を改善するため、又は反応収率を改善するために、反応が実行される流体に添加剤を添加することが有利であり得る。このような添加剤は、塩又は有機分子、例えば、グアニジウム塩酸塩、尿素、ドデカ硫酸ナトリウム又はTweenであり得る。しかしながら、例えば、YがLys(Pal-γ-Glu-OH)などである実施形態において、完全に水性の反応媒体中でもこのような添加剤を用いずに良好な結果が達成された。
【0130】
反応は、完全に水性の液体中、又は水と、水混和性の共溶媒、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N-メチル-ピロリジノン(NMP)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMA)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトニトリル、エーテル、例えば、テトラヒドロフラン(THF)、2-メチル-テトラヒドロフラン(Me-THF)若しくは1,2-ジメトキシエタン、又は(ハロゲン化)アルコール、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、tert-ブタノール、2,2,2-トリフルオロエタノール(TFE)、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロパノール、又はこれらの有機溶媒の混合物との混合物中で実行され得る。サブチリシンBPN’変異体の安定性と、ペプチド基質の溶解度とに依存して、共溶媒の量は、好ましくは70vol%未満、より好ましくは60vol%未満、さらにより好ましくは50vol%未満、最も好ましくは40%未満である。
【0131】
原則として、使用されるリガーゼが十分な活性及び安定性を示す温度が選択される限り、酵素断片縮合の間の温度は重要ではない。このような温度は、ルーチン的に決定することができる。一般に、温度は、少なくとも-10℃、特に少なくとも0℃、又は少なくとも10℃であり得る。一般に、温度は、70℃以下、特に60℃以下、又は50℃以下であり得る。最適な温度条件は、特定の酵素断片縮合のための特定のリガーゼに対して、共通の一般知識及び本明細書で開示される情報に基づくルーチン的な実験を通して当業者により容易に特定することができる。一般に、温度は、20~50℃の範囲であるのが有利である。
【0132】
本発明はさらに、断片縮合によるペプチドの酵素カップリングを含む方法においてペプチドの合成の際に保護基を提供するためのエドマン型の薬剤の使用に関する。したがって、本発明はさらに、(a)式P-W-AA-(チオ)エステルで表されるペプチドC末端エステル又はチオエステルと、式AAで表されるペプチド求核剤とを酵素的にカップリングさせることを含むペプチドの合成方法に関し、このカップリングは、リガーゼ、好ましくは、本明細書中の他の箇所に記載されるようなサブチリシンBPN’変異体又は相同体によって触媒される。
【0133】
本明細書中、Pは、上記で定義したようにエドマン型保護基、好ましくはチオカルバモイル基を表す。ペプチドのN末端へのPのカップリングは、通常は弱アルカリ性条件、例えば約pH8で、前記Pに対して知られているエドマン型の方法論に基づいて、それ自体知られている方法で達成される。本明細書中、vは、少なくとも1、通常好ましくは1~10、好ましくは1~5、より好ましくは1、2又は3、最も好ましくは1の整数であり、vはアミノ酸残基Wの数を表し、ここで、各Wは同じであっても異なっていてもよく、好ましくは、上記のように定義される通りである。各AAはアミノ酸残基を表し、nは、ペプチドC末端エステル又はチオエステルのアミノ酸残基の数を表す整数であり、mは、ペプチド求核剤のアミノ酸残基の数を表す整数である。通常、n及びvの合計は、リガーゼによる認識を可能にするために少なくとも4である。好ましくは、nは、3~200の範囲、特に3~50の範囲、より具体的には3~25の範囲である。特定の実施形態では、nは少なくとも4、少なくとも6、少なくとも8、少なくとも10、少なくとも15又は少なくとも20である。好ましくは、mは、3~200の範囲、特に5~50の範囲、より具体的には8~30の範囲である。特定の実施形態では、mは少なくとも4、少なくとも10、少なくとも15又は少なくとも20である。
【0134】
カップリング生成物P-W-AA-AAは切断反応を受け、ペプチドWv-1-AA-AAが形成される。通常、切断は、酸性条件下で達成される。v-1>0の場合、その後にペプチドWv-1-AA-AAのN末端位置において基PがWにカップリングされ、P-Wv-1-AA-AAを形成し、その後にP-Wが切断される。これは次に、式AA-AAで表されるペプチドが得られるまで繰り返される。
【0135】
したがって、本発明は、配列His-X-Glu-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-Val-Ser-Ser-Tyr-Leu-Glu-Gly-Gln-Ala-Ala-Y-Glu-Phe-Ile-Ala-Trp-Leu-Val-Z-Gly-Arg-Glyを含むペプチドを合成するための方法に関し、式中、
- Xは、Ala又はα-アミノ-イソ酪酸(Aib)残基であり、
- YはLysであり、このLysは、遊離側鎖ε-アミノ基(すなわち、非誘導体化リジン残基)を有するか、或いはそのLys側鎖ε-アミノ基は保護基によって保護されているか、或いはそのLys側鎖ε-アミノ基はアミノ酸又は別の官能基によって官能化されており、
- Zは、Arg又はLysであり、
本方法は、
(c)配列His-X-Glu-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-Val-Ser-(チオ)エステルを含む、第1のペプチドC末端エステル又はチオエステル断片と、
(d)配列H-Ser-Tyr-Leu-Glu-Gly-Gln-Ala-Ala-Y-Glu-Phe-Ile-Ala-Trp-Leu-Val-Z-Gly-Arg-Glyを含むN末端非保護アミンを有する第2のペプチド求核剤断片と
を酵素的にカップリングさせることを含み、この酵素カップリングはリガーゼによって触媒され、前記リガーゼは、サブチリシンBPN’変異体、又は少なくとも80%、若しくは85%、若しくは90%、好ましくは95%の配列同一性を有するその相同体である。好ましくは、リガーゼは、75~83位に対応するアミノ酸の欠失と、突然変異S221Cと、野生型サブチリシンBPN’(成熟)のM222、Y217、P225、F189、N218、E156、G166及びN62に対応するアミノ酸位置における1つ又は複数のさらなる突然変異、好ましくは少なくとも3つのさらなる突然変異、特に5~8個のさらなる突然変異(これらのうち、最も好ましくは、1つの突然変異はP225におけるものである)とを有するサブチリシンBPN’変異体である。
【0136】
特に有利な実施形態では、本発明に従う方法で使用されるリガーゼは、サブチリシンBPN’変異体、又は配列番号14と少なくとも80%、若しくは85%、若しくは90%、好ましくは95%の配列同一性を有するその相同体であり、突然変異Q2K、S3C、P5S、S9A、I31L、K43N、M50F、A73L、Δ75-83、E156S、G166S、G169A、S188P、Q206C、N212G、Y217H、S221C、M222P、P225N、T254A、及びQ271Eが含まれ、任意選択的にHisタグが含まれる。
【0137】
別の好ましい実施形態では、本発明に従う方法で使用されるリガーゼは、配列番号3を有するサブチリシンBPN’変異体、又は少なくとも80%、若しくは85%、若しくは90%、好ましくは95%の配列同一性を有するその相同体であり、突然変異Q2K、S3C、P5S、S9A、I31L、K43N、M50F、N62A、A73L、Δ75-83、E156N、G166E、G169A、S188P、F189W、Q206C、N212G、Y217H、N218D、S221C、M222P、P225N、T254A、Q271Eが含まれ、任意選択的にHisタグが含まれる。
【0138】
配列番号14は、Ca2+結合ループの欠失、S221C及びさらなる突然変異を有する、本発明に従う(使用のための)サブチリシンBPN’変異体を示す。Hisタグは精製を容易にするために包含されたものであり、リガーゼ活性のために必要なものではない。
【0139】
また記載されるリガーゼの全て、好ましくは、配列番号14及び配列番号3によって指定されるもの、並びに少なくとも80%、又は85%、又は90%、好ましくは95%の配列同一性を有するこれらの相同体も本発明の実施形態である。
【0140】
好ましい実施形態では、本方法はさらに、YがLysであり、その側鎖ε-アミノ基が、γ-Glu-OH、Pal-γ-Glu-OH、AEEA-AEEA-γ-Glu-OH及びAEEA-AEEA-γ-Glu-N-17-カルボキシヘプタデカノイル-OH(式中、Palはパルミトイルであり、AEEA-AEEAは-2-[2-(2-アミノエトキシ)エトキシ]アセチル-2-[2-(2-アミノエトキシ)エトキシ]アセチルである)からなる群から選択される官能基によって官能化されることを特徴とする。
【0141】
さらにより好ましい実施形態では、前記Yは、Lys(γ-Glu-OH)、Lys(AEEA-AEEA-γ-Glu-OH)、Lys(Pal-γ-Glu-OH)又はLys(AEEA-AEEA-γ-Glu-17-カルボキシヘプタデカノイル-OH)である。
【0142】
「ペプチド断片」又は「断片」という用語は、定義された配列を有するより長いペプチドに関して、部分的なアミノ酸配列を有するペプチドを意味する。
【0143】
本発明は、以下の実施例によってこれから説明されるが、それらに限定されるものではない。
【実施例0144】
リガーゼの産生
突然変異誘発、クローニング及び発現
配列番号1は、サブチリシンBPN’アミノ酸-107~275をコードする野生型遺伝子を示す。ここで、アミノ酸-107~-1をコードするコドンが存在する。これらのアミノ酸は、完全成熟の際に切断除去されるシグナル配列、プレ配列及びプロ配列を含む。配列番号2は、成熟野生型サブチリシンBPN’(すなわち、アミノ酸-107~-1を有さない)を示す。実施例のために使用されるリガーゼは、配列番号3に示される通りであった。成熟野生型サブチリシンBPN’と比べて、このリガーゼは、突然変異Q2K、S3C、P5S、S9A、I31L、K43N、M50F、N62A、A73L、Δ75-83、E156N、G166E、G169A、S188P、F189W、Q206C、N212G、Y217H、N218D、S221C、M222P、P225N、T254A、及びQ271Eを有した。さらに、高速且つ効率的な精製を促進するために、配列番号3で示されるようにアミノ酸275の後にC末端Hisタグが取り付けられる。対応するアミノ酸配列は、サブチリシンBPN’の番号付けスキームに従って番号付けされる。したがって、使用されるリガーゼに対してサブチリシンBPN’の番号付けを維持するために、番号付けは、74から83まで飛ばされる。
【0145】
以下の合成実施例のために使用されるリガーゼをコードする遺伝子は、GenScriptから得た。MluI及びBamHI部位ベースのベクターを用いて、遺伝子をpUB-110大腸菌(E.coli)-枯草菌(B.subtilis)シャトルベクター(pBES)中にクローニングした(GenScriptによる)。シャトルベクター中で、遺伝子の発現はaprEプロモーターの制御下にある。ベクターは、バチルス属(Bacillus)の複製のpUB ori及びカナマイシン耐性マーカーを含有していた。またベクターは、大腸菌(E.coli)における維持のために複製のColE1 ori及びアンピシリン耐性マーカーも含有していた。得られたプラスミドpBES-リガーゼHISを大腸菌(E.coli)TOP10において増殖させ、枯草菌(B.subtilis)GX4935中に形質転換した(trpC2 metB10 lys-3 ΔnprE ΔaprE)。
【0146】
リガーゼの産生及び精製
対象のサブチリシン変異体遺伝子を有するプラスミドを含有する枯草菌(B.subtilis)の単一微生物コロニーを、振とうインキュベーター中37℃において、カナマイシン(10μg/mL)を含む5mLのLB中に播種した。抗生物質(カナマイシン10μg/mL)及びアミノ酸(100mg/LのTrp、100mg/LのMet及び100mg/LのLys)を補充した30mLのTerrific Brothに、0.6mLの一晩培養物を添加した。振とうインキュベーター(200rpm)中で細胞を37℃で48時間成長させた。遠心分離(15分、4,000rpm、4℃)により細胞を回収した。培地(30mL)をデカントし、Sartorius Vivaspin 15Rユニット(15mL、10kDaのMWカットオフ)において2回の遠心分離ステップ(15分、4000rpm、4℃)で濃縮した。次に、3回の洗浄/濃縮ステップ(14mLの緩衝液A、10分、4,000rpm、4℃)において、濃縮した培地(0.5mL)を緩衝液A(25mMのトリシン、pH7.5、0.5MのNaCl)と交換した。Hisタグ精製のために、Talon樹脂(2.5mL、Clonetech)をプラスチックカラムカートリッジに添加した。樹脂を20mLのMilliQ水で洗浄し、20mLの緩衝液Aにより平衡化した。粗酵素をカラムに負荷し、5mLの緩衝液Aで洗浄した。15mLの緩衝液B(25mMのトリシン、pH7.5、0.5MのNaCl、500mMのイミダゾール)を用いて酵素を溶出させた。溶出物を、Sartorius Vivaspin 15R(15mL、10kDaのMWカットオフ)において遠心分離(15分、4000rpm、4℃)により濃縮し、緩衝液を3回の洗浄/濃縮ステップ(15mLの緩衝液、10分、4,000rpm、4℃)で25mMのトリシン、pH7.5に交換した。
【0147】
タンパク質の純度はSDS-PAGEにより分析し、酵素濃度は、国際公開第2016056913(A1)号パンフレットに記載されるように決定した。純度は90%超であった。約2mg/mLの得られた酵素を含有する得られた水溶液(25mMのトリシン、pH7.5)をオリゴペプチド断片縮合のためにそのまま使用した。
【0148】
酵素断片縮合の実施例
材料及び方法
他に記載されない限り、化学物質は商業的供給源から入手し、さらに精製することなく使用した。全ての酵素断片縮合において、配列番号3のリガーゼを使用した。分析HPLCは、Agilent 1260 infinity Liquid Chromatographにおいて、逆相カラム(Phenomenex、C18、粒径5μm、250x4.6mm)を用いて40℃で実施した。UV検出は、UV-VIS204リニアスペクトロメータを用いて220nmで実施した。勾配プログラムは、0~25分の5%から98%の溶離液Bの直線的勾配傾斜と、25.1~30分の5%の溶離液Bとであった(溶離液A:HO中0.5mL/Lのメタンスルホン酸(MSA)、溶離液B:アセトニトリル中0.5mL/LのMSA)。流量は、0~25.1分まで1mL/分、25.2~29.8分まで2mL/分であり、次に30分で停止させるまで1mL/分に戻した。注入容積は10μLであった。分取HPLCは、Varian PrepStarシステムにおいて、固定相カラム(Phenomenex、C18、粒径10μm、250x50mm)を用いて実施した。LC-MSは、Agilent 1200シリーズ液体クロマトグラフにおいて、逆相カラム(Phenomenex、C18、粒径5μm、150x4.6mm)を用いて40℃で実施した。UV検出及び勾配プログラムは、分析HPLCについて記載した通りであった。分子量は、Agilent 6130四重極LC/MSシステムを用いて決定した。
【0149】
プロトコル1:Fmoc-グリコール酸の合成
tert-ブチル2-ヒドロキシ-アセテート(2.5g)を、ピリジン(15ml)及びジクロロメタン(DCM、30ml)の混合物中に溶解させた。次に、乾燥DCM(15ml)中のFmoc-クロリド(5g)を0℃で滴下した。反応混合物を室温で24時間攪拌した。溶媒を真空下で除去し、残渣をDCM(40ml)中に再溶解させ、1Mの重炭酸ナトリウム溶液(20mL)で2回洗浄し、塩水溶液(20ml)で2回洗浄し、無水硫酸マグネシウム上で乾燥させ、濃縮した。得られたFmoc-グリコール酸tert-ブチルエステル(4g)をトリフルオロ酢酸(TFA)、トリイソプロピルシラン(TIS)及び水(95/2.5/2.5、v/v/v、15mL)中に溶解させ、120分間攪拌した。溶媒を真空下で除去し、粘性の残渣を5%の重炭酸ナトリウム溶液(150ml)中に再溶解させ、ジエチルエーテル(75ml)で3回洗浄した。次に、水溶液を酢酸エチル(45mL)と混合し、40%のリン酸により0℃でpH=2まで酸性化した。有機層を集め、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。溶媒を真空下で除去して、最終生成物Fmoc-グリコール酸(Fmoc-GA)を得た。
【0150】
プロトコル2:オリゴペプチド-OCam-Leu-OHエステルの合成
1グラムの予め負荷したFmoc-Leu-Wang樹脂(0.81mmol/グラムの負荷)をDCM(2x2分、10mL)及びN,N’-ジメチルホルムアミド(DMF、2x2分、10mL)で洗浄し、ピペリジン/DMF(1/5、v/v、2x8分、10mL)を用いてFmoc脱保護した。DMF(6x2分、10mL)で洗浄した後、DMF(45分、10mL)中の2-(1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスファート(HBTU、4当量)、OxymaPure(4当量)及びジ-イソプロピルエチルアミン(DIPEA、8当量)を用いてFmoc-GA(4当量)を樹脂にカップリングさせた。DMF(2x2分、10mL)で洗浄した後、ピペリジン/DMF(1/5、v/v、2x8分、10mL)を用いて樹脂をFmoc脱保護した。DMF(2x60分、10mL)中の4当量のFmoc-Xxx-OH、4当量のN,N’-ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)及び0.1当量の4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)を用いて第1のFmoc保護アミノ酸をカップリングさせることにより、Cam-Leu-OHエステルを形成した。ここで、及び本開示の他の部分において、「Xxx」は1つのアミノ酸(以下の実施例中の配列中に示されるような変数)を表す。セマグルチド出発材料のために、市販のFmoc-Aib-OH構成要素を使用した。
【0151】
DMF(6x2分、10mL)で洗浄した後、標準SPPSプロトコルに従って、ペプチドを伸長させた(Weng C.Chan and Peter White,OUP Oxford,2000)。TFA/TIS/水(95/2.5/2.5、v/v/v、15mL)の混合物を用いて、樹脂からの切断及び側鎖脱保護を120分間実施した。メチルtert-ブチルエーテル(MTBE)/n-ヘプタン(1/1、v/v、50mL)を用いて、粗ペプチドを沈殿させた。沈殿したペプチドを遠心分離によって回収し、MTBE/n-ヘプタン(1/1、v/v、50mL)で2回洗浄した後、アセトニトリル/水(1/1、v/v、50mL)から凍結乾燥させた。分取HPLCにより粗生成物を精製した後、純粋な画分を凍結乾燥させた。
【0152】
上記のように、しかし予め負荷したFmoc-Arg(Pbf)-Rink樹脂(0.62mmol/グラムの負荷)において、いくつかの代替ペプチドCam-エステル、すなわち、H-His-Ala-Glu-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-10Val-11Ser-OCam-Phe-Arg-NH、H-His-Ala-Glu-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-10Val-11Ser-OCam-Leu-Arg-NH、及びH-His-Ala-Glu-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-10Val-11Ser-OCam-Trp-Arg-NHを調製した。
【0153】
プロトコル3:オリゴペプチドC末端酸求核剤の合成
1グラムの予め負荷したFmoc-Gly-Wang樹脂(0.30mmol/グラムの負荷)をDCM(2x2分、10mL)及びDMF(2x2分、10mL)で洗浄し、ピペリジン/DMF(1/5、v/v、2x8分、10mL)を用いてFmoc脱保護した。標準SPPSプロトコルに従って、ペプチドを伸長させた(Weng C.Chan and Peter White,OUP Oxford,2000)。TFA/TIS/水(95/2.5/2.5、v/v/v、15mL)の混合物を用いて、樹脂からの切断及び側鎖脱保護を120分間実施した。MTBE/n-ヘプタン(1/1、v/v、50mL)を用いて、粗ペプチドを沈殿させた。沈殿したペプチドを遠心分離によって回収し、MTBE/n-ヘプタン(1/1、v/v、50mL)で2回洗浄した後、アセトニトリル/水(1/1、v/v、50mL)から凍結乾燥させた。分取HPLCにより粗生成物を精製した後、純粋な画分を凍結乾燥させた。
【0154】
プロトコル4:H-Gly-His-Ala-Glu-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-10Val-11Ser-OCam-Leu-OHのPTC保護
100mgのH-Gly-His-Ala-Glu-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-10Val-11Ser-OCam-Leu-OHを10mLのピリジン/水(1/1、v/v)中に溶解させた。この混合物に、25mgのフェニルイソチオシアネートを添加し、溶液を周囲温度で14時間攪拌した。粗反応混合物を50mLの水で希釈し、50mLのジクロロメタン(DCM)で3回洗浄した。分取HPLCにより水層を精製した後、純粋な画分を凍結乾燥させ、PTC-Gly保護ペプチドを得た。
【0155】
プロトコル5:γ-Glu又はPal-γ-Glu含有ペプチドの合成
市販のFmoc-Lys(Boc-γ-Glu-OBu)-OH又はFmoc-Lys(Pal-γ-Glu-OBu)-OH構成要素を用いて、一般的なプロトコル3に従った。
【0156】
プロトコル6:セマグルチド断片H-12Ser-13Tyr-14Leu-15Glu-16Gly-17Gln-18Ala-19Ala-20Lys(AEEA-AEEA-γ-Glu-N-17-カルボキシヘプタデカノイル-OH)-21Glu-22Phe-23Ile-24Ala-25Trp-26Leu-27Val-28Arg-29Gly-30Arg-31Gly-OHの合成
市販のFmoc-20Lys(Mtt)-OH及びBoc-12Ser(Bu)-OH構成要素を用いて、一般的なプロトコル3に従った。Boc-12-31-Wang断片のSPPSの後、10mLのTIS/TFA/DCM(1/1/48、v/v/v、3x15分)を用いてMtt保護基を除去した。Fmoc-AEEA-OH(2回)、Fmoc-Glu-OBu、及び17-カルボキシヘプタデカノイル-OBuのカップリングのために標準SPPS手順を使用した。TFA/TIS/水(95/2.5/2.5、v/v/v、15mL)の混合物を用いて、樹脂からの切断及び側鎖脱保護を120分間実施した。MTBE/n-ヘプタン(1/1、v/v、50mL)を用いて、粗ペプチドを沈殿させた。沈殿したペプチドを遠心分離によって回収し、MTBE/n-ヘプタン(1/1、v/v、50mL)で2回洗浄した後、アセトニトリル/水(1/1、v/v、50mL)から凍結乾燥させた。分取HPLCにより粗生成物を精製した後、純粋な画分を凍結乾燥させた。
【0157】
実施例1(参照):
13-mer+18-merアプローチを用いる、リラグルチド前駆体H-リラグルチド-1~31-OHの酵素合成
HPLCバイアル中で、6mgのH-His-Ala-Glu-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-10Val-11Ser-12Ser-13Tyr-OCam-Leu-OH及び9mgのH-14Leu-15Glu-16Gly-17Gln-18Ala-19Ala-20Lys-21Glu-22Phe-23Ile-24Ala-25Trp-26Leu-27Val-28Arg-29Gly-30Arg-31Gly-OHを800μLの2Mの塩化グアニジウム水中に溶解させた。この混合物に、50μLの1Mのトリシン緩衝液pH9.0を添加し、4MのNaOH溶液を用いてpHを8.3に調整した。続いて、10μLのTCEP(トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン)溶液(水中100mg/mL)及び100μLのリガーゼ溶液(10mg/mL)を添加した。混合物を周囲温度で反応させた。15分ごとに、10μLの反応混合物を取り出し、アセトニトリル/水(2/1、v/v)中5vol%のMSA 980μLの中でクエンチし、LC-MSを用いて分析した。
【0158】
90分後に、全てのCamエステル出発材料が消費され、生成物及び加水分解ピークを積分した。ライゲーション生成物H-His-Ala-Glu-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-10Val-11Ser-12Ser-13Tyr-14Leu-15Glu-16Gly-17Gln-18Ala-19Ala-20Lys-21Glu-22Phe-23Ile-24Ala-25Trp-26Leu-27Val-28Arg-29Gly-30Arg-31Gly-OHは14面積%であり、加水分解されたCam-エステルH-His-Ala-Glu-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-10Val-11Ser-12Ser-13Tyr-OHは86面積%であった。
【0159】
生成物H-リラグルチド-1~31-OHは、分取HPLCと、その後の純粋な画分の凍結乾燥とによって得ることができた。
【0160】
実施例2(参照):
9-mer+22-merアプローチを用いる、リラグルチド前駆体H-リラグルチド-1~31-OHの酵素合成
HPLCバイアル中で、6mgのH-His-Ala-Glu-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-OCam-Leu-OH及び10mgのH-10Val-11Ser-12Ser-13Tyr-14Leu-15Glu-16Gly-17Gln-18Ala-19Ala-20Lys-21Glu-22Phe-23Ile-24Ala-25Trp-26Leu-27Val-28Arg-29Gly-30Arg-31Gly-OHを800μLの2Mの塩化グアニジウム水中に溶解させた。この混合物に、50μLの1Mのトリシン緩衝液pH9.0を添加し、4MのNaOH溶液を用いてpHを8.3に調整した。続いて、10μLのTCEP溶液(水中100mg/mL)及び100μLのリガーゼ溶液(10mg/mL)を添加した。混合物を周囲温度で反応させた。15分ごとに、10μLの反応混合物をアセトニトリル/水(2/1、v/v)中5vol%のMSA 980μLの中でクエンチし、LC-MSを用いて分析した。
【0161】
300分後に、全てのCam-エステル出発材料が消費され、生成物及び加水分解ピークを積分した。ライゲーション生成物H-His-Ala-Glu-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-10Val-11Ser-12Ser-13Tyr-14Leu-15Glu-16Gly-17Gln-18Ala-19Ala-20Lys-21Glu-22Phe-23Ile-24Ala-25Trp-26Leu-27Val-28Arg-29Gly-30Arg-31Gly-OHは8面積%であり、加水分解されたCam-エステルH-His-Ala-Glu-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-OHは92面積%であった。
【0162】
生成物H-リラグルチド-1~31-OHは、分取HPLCと、その後の純粋な画分の凍結乾燥とによって得ることができた。
【0163】
実施例3:11-mer+20-merアプローチを用いる、H-リラグルチド-1~31-OHの酵素合成
HPLCバイアル中で、6mgのH-His-Ala-Glu-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-10Val-11Ser-OCam-Leu-OH及び10mgのH-12Ser-13Tyr-14Leu-15Glu-16Gly-17Gln-18Ala-19Ala-20Lys-21Glu-22Phe-23Ile-24Ala-25Trp-26Leu-27Val-28Arg-29Gly-30Arg-31Gly-OHを800μLの2Mの塩化グアニジウム水中に溶解させた。この混合物に、50μLの1Mのトリシン緩衝液pH9.0を添加し、4MのNaOH溶液を用いてpHを8.3に調整した。続いて、10μLのTCEP溶液(水中100mg/mL)及び100μLのリガーゼ溶液(10mg/mL)を添加した。混合物を周囲温度で反応させた。15分ごとに、10μLの反応混合物を取り出し、アセトニトリル/水(2/1、v/v)中5vol%のMSA 980μLの中でクエンチし、LC-MSを用いて分析した。
【0164】
180分後に、全てのCam-エステル出発材料が消費され、生成物及び加水分解ピークを積分した。ライゲーション生成物H-His-Ala-Glu-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-10Val-11Ser-12Ser-13Tyr-14Leu-15Glu-16Gly-17Gln-18Ala-19Ala-20Lys-21Glu-22Phe-23Ile-24Ala-25Trp-26Leu-27Val-28Arg-29Gly-30Arg-31Gly-OHは96面積%であり、加水分解されたCam-エステルH-His-Ala-Glu-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-10Val-11Ser-12Ser-13Tyr-OHは4面積%であった。
【0165】
生成物H-リラグルチド-1~31-OHは、分取HPLCと、その後の純粋な画分の凍結乾燥とによって得ることができた。
【0166】
したがって、本発明に従う方法は予想外に、C末端(チオ)エステル及びペプチド求核剤のためのカップリング部位がH-リラグルチド-1~31-OHのC末端又はN末端への2つのアミド結合である比較方法における収率よりもはるかに高い収率で、所望のカップリング生成物(すなわち、H-リラグルチド-1~31-OH、20Lysにおける誘導体化を伴わないリラグルチドのアミノ酸配列を有するペプチド)を提供することが示される。
【0167】
実施例4:11-mer+20-merアプローチを用いる、PTC-Gly-リラグルチド-1~31-[20Lys(γ-Glu)]-OHの酵素合成
HPLCバイアル中で、6mgのPTC-Gly-His-Ala-Glu-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-10Val-11Ser-OCam-Leu-OH及び10mgのH-12Ser-13Tyr-14Leu-15Glu-16Gly-17Gln-18Ala-19Ala-20Lys(γ-Glu)-21Glu-22Phe-23Ile-24Ala-25Trp-26Leu-27Val-28Arg-29Gly-30Arg-31Gly-OHを800μLの2Mの塩化グアニジウム水中に溶解させた。
【0168】
この混合物に、50μLの1Mのトリシン緩衝液pH9.0を添加し、4MのNaOH溶液を用いてpHを8.3に調整した。続いて、10μLのTCEP溶液(水中100mg/mL)及び100μLのリガーゼ溶液(10mg/mL)を添加した。混合物を周囲温度で反応させた。15分ごとに、10μLの反応混合物を取り出し、アセトニトリル/水(2/1、v/v)中5vol%のMSA 980μLの中でクエンチし、LC-MSを用いて分析した。
【0169】
180分後に、全てのCam-エステル出発材料が消費され、生成物及び加水分解ピークを積分した。ライゲーション生成物PTC-Gly-His-Ala-Glu-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-10Val-11Ser-12Ser-13Tyr-14Leu-15Glu-16Gly-17Gln-18Ala-19Ala-20Lys(γ-Glu)-21Glu-22Phe-23Ile-24Ala-25Trp-26Leu-27Val-28Arg-29Gly-30Arg-31Gly-OHは93面積%であり、加水分解されたCam-エステルPTC-Gly-His-Ala-Glu-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-10Val-11Ser-OHは7面積%であった。
【0170】
生成物PTC-Gly-リラグルチド-1~31-[20Lys(γ-Glu)]-OHは、分取HPLCと、その後の純粋な画分の凍結乾燥とによって得ることができた。
【0171】
実施例5:実施例4からのPTC-Gly-リラグルチド-1~31-[20Lys(γ-Glu)]-OH前駆体を用いる、H-リラグルチド-1~31-[20Lys(Pal-γ-Glu)]-OHの合成
2mgのPTC-Gly-His-Ala-Glu-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-10Val-11Ser -12Ser-13Tyr-14Leu-15Glu-16Gly-17Gln-18Ala-19Ala-20Lys(γ-Glu)-21Glu-22Phe-23Ile-24Ala-25Trp -26Leu-27Val-28Arg-29Gly-30Arg-31Gly-OHを500μLの水及び500μLのピリジン中に溶解させた。この溶液に、2mgのパルミチン酸N-ヒドロキシスクシンイミドエステル(Pal-OSu)を添加し、混合物を周囲温度で5時間反応させた後、溶媒を真空で蒸発させた。PTC-Gly基を切断(脱保護)するために、粗生成物PTC-Gly-His-Ala-Glu-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-10Val-11Ser-12Ser-13Tyr-14Leu-15Glu-16Gly-17Gln-18Ala-19Ala-20Lys(Pal-γ-Glu)-21Glu-22Phe-23Ile-24Ala-25Trp-26Leu-27Val-28Arg-29Gly-30Arg-31Gly-OHを水中5vol%のトリフルオロ酢酸中に溶解させた。
【0172】
完了(15分)後に、生成物H-His-Ala-Glu-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-10Val-11Ser -12Ser-13Tyr-14Leu-15Glu-16Gly-17Gln-18Ala-19Ala-20Lys(Pal-γ-Glu)-21Glu-22Phe-23Ile-24Ala-25Trp-26Leu-27Val-28Arg-29Gly-30Arg-31Gly-OHが得られ、これを分取HPLCにより精製した後、純粋な画分を凍結乾燥させた。
【0173】
実施例6:11-mer+20-merアプローチを用いる、H-リラグルチド-1~31-[20Lys(Pal-γ-Glu)]-OH(Pal=パルミトイル)の酵素合成
HPLCバイアル中で、6mgのH-His-Ala-Glu-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-10Val-11Ser-OCam-Leu-OH及び10mgのH-12Ser-13Tyr-14Leu-15Glu-16Gly-17Gln-18Ala-19Ala-20Lys(Pal-γ-Glu)-21Glu-22Phe-23Ile-24Ala-25Trp-26Leu-27Val-28Arg-29Gly-30Arg-31Gly-OHを950μLの水中に溶解させた。この混合物に、50μLの1Mのトリシン緩衝液pH9.0を添加し、3MのNaOH溶液を用いてpHを8.1に調整した。続いて、10μLのTCEP溶液(水中100mg/mL)及び100μLのリガーゼ溶液(10mg/mL)を添加した。混合物を周囲温度で反応させた。15分ごとに、10μLの反応混合物を取り出し、アセトニトリル/水(2/1、v/v)中5vol%のMSA 980μLの中でクエンチし、LC-MSを用いて分析した。
【0174】
180分後に、全てのCam-エステル出発材料が消費され、生成物及び加水分解ピークを積分した。ライゲーション生成物H-His-Ala-Glu-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-10Val-11Ser-12Ser-13Tyr-14Leu-15Glu-16Gly-17Gln-18Ala-19Ala-20Lys(Pal-γ-Glu)-21Glu-22Phe-23Ile-24Ala-25Trp-26Leu-27Val-28Arg-29Gly-30Arg-31Gly-OHは95面積%であり、加水分解されたCam-エステルH-His-Ala-Glu-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-10Val-11Ser-OHは5面積%であった。
【0175】
この実施例は、本発明が、単一の酵素カップリングステップにおいて高収率のリラグルチドの直接合成を可能にすることを示す。
【0176】
いくつかの代替のペプチドCam-エステル、すなわち(1)H-His-Ala-Glu-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-10Val-11Ser-OCam-Phe-Arg-NH、(2)H-His-Ala-Glu-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-10Val-11Ser-OCam-Leu-Arg-NH、及び(3)H-His-Ala-Glu-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-10Val-11Ser-OCam-Trp-Arg-NHを使用することを除いて、上記と同一のライゲーション反応を実施した。一般に、反応は、H-His-Ala-Glu-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-10Val-11Ser-OCam-Leu-OH(180分)エステルの場合よりも速く進行し、(1)の場合は80分後、(2)の場合は100分後、及び(3)の場合は85分後に完全な転化が得られた。
【0177】
実施例7:酵素的に合成された実施例3の前駆体H-リラグルチド-1~31-OHからのH-リラグルチド-1~31-[20Lys(Pal-γ-Glu)]-OHの合成
米国特許第6451974B1号明細書に記載されるプロトコルを用いて、前駆体H-His-Ala-Glu-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-10Val-11Ser-12Ser-13Tyr-14Leu-15Glu-16Gly-17Gln-18Ala-19Ala-20Lys-21Glu-22Phe-23Ile-24Ala-25Trp-26Leu-27Val-28Arg-29Gly-30Arg-31Gly-OHに、Pal-γ-Glu部分をカップリングさせて、生成物H-His-Ala-Glu-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-10Val-11Ser-12Ser-13Tyr-14Leu-15Glu-16Gly-17Gln-18Ala-19Ala-20Lys(Pal-γ-Glu)-21Glu-22Phe-23Ile-24Ala-25Trp-26Leu-27Val-28Arg-29Gly-30Arg-31Gly-OHを得た。
【0178】
実施例8:11-mer+20-merアプローチを用いる、H-セマグルチド-1~31-[20Lys(AEEA-AEEA-γ-Glu-N-17-カルボキシヘプタデカノイル-OH)]-OHの合成
HPLCバイアル中で、6mgのH-His-Aib-Glu-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-10Val-11Ser-OCam-Leu-OH及び10mgのH-12Ser-13Tyr-14Leu-15Glu-16Gly-17Gln-18Ala-19Ala-20Lys(AEEA-AEEA-γ-Glu-N-17-カルボキシヘプタデカノイル-OH)-21Glu-22Phe-23Ile-24Ala-25Trp-26Leu-27Val-28Arg-29Gly-30Arg-31Gly-OHを950μLの水中に溶解させた。この混合物に、50μLの1Mのトリシン緩衝液pH9.0を添加し、3MのNaOH溶液を用いてpHを8.1に調整した。続いて、10μLのTCEP溶液(水中100mg/mL)及び100μLのリガーゼ溶液(10mg/mL)を添加した。混合物を周囲温度で反応させた。15分ごとに、10μLの反応混合物を取り出し、アセトニトリル/水(2/1、v/v)中5vol%のMSA 980μLの中でクエンチし、LC-MSを用いて分析した。
【0179】
180分後に、全てのCam-エステル出発材料が消費され、生成物及び加水分解ピークを積分した。ライゲーション生成物H-His-Aib-Glu-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-10Val-11Ser-12Ser-13Tyr-14Leu-15Glu-16Gly-17Gln-18Ala-19Ala-20Lys(AEEA-AEEA-γ-Glu-N-17-カルボキシヘプタデカノイル-OH)-21Glu-22Phe-23Ile-24Ala-25Trp-26Leu-27Val-28Arg-29Gly-30Arg-31Gly-OHは96面積%であり、加水分解されたCam-エステルH-His-Ala-Glu-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-10Val-11Ser-OHは4面積%であった。
【0180】
この実施例は、本発明が、単一の酵素カップリングステップにおいて高収率のセマグルチドの直接合成を可能にすることを示す。
【0181】
実施例9:配列番号14の酵素変異体と共に11-mer+20-merアプローチを用いる、H-リラグルチド-1~31-OHの酵素合成
HPLCバイアル中で、10mgのH-His-Ala-Glu-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-10Val-11Ser-OCam-Leu-OH及び10mgのH-12Ser-13Tyr-14Leu-15Glu-16Gly-17Gln-18Ala-19Ala-20Lys-21Glu-22Phe-23Ile-24Ala-25Trp-26Leu-27Val-28Arg-29Gly-30Arg-31Gly-OHを500μLの50mMのトリシン緩衝液pH9.0中に溶解させた。3MのNaOH溶液を用いてpHを8.3に調整した。続いて、10μLのTCEP溶液(水中100mg/mL)及び100μLのリガーゼ溶液(10mg/mL)を添加した。混合物を周囲温度で反応させた。15分ごとに、10μLの反応混合物を取り出し、アセトニトリル/水(2/1、v/v)中5vol%のMSA 980μLの中でクエンチし、LC-MSを用いて分析した。
【0182】
240分後に、全てのCam-エステル出発材料が消費され、生成物及び加水分解ピークを積分した。ライゲーション生成物H-His-Ala-Glu-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-10Val-11Ser-12Ser-13Tyr-14Leu-15Glu-16Gly-17Gln-18Ala-19Ala-20Lys-21Glu-22Phe-23Ile-24Ala-25Trp-26Leu-27Val-28Arg-29Gly-30Arg-31Gly-OHは92面積%であり、加水分解されたCam-エステルH-His-Ala-Glu-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-10Val-11Ser-OHは8面積%であった。
【0183】
生成物H-リラグルチド-1~31-OHは、分取HPLCと、その後の純粋な画分の凍結乾燥とによって得ることができた。
【0184】
実施例10:配列番号3を有するサブチリシンBPN’変異体(C221S突然変異)から誘導されるセリンエンドプロテアーゼを用いるリラグルチドの酵素合成に適した断片の同定
1mgのリラグルチド1~31(20位のリジンにPal-γ-Gluを有するもの及び有さないもの)を1mLのトリシン緩衝液(50mM、pH=8.0)中に溶解させた。この混合物に、1μLのエンドプロテアーゼ溶液(1mg/mL)を添加し、反応混合物を室温で攪拌した。
【0185】
LC-MS分析を用いて30分ごとにサンプルを分析することにより、加水分解活性をモニターした。
【0186】
両方のペプチドについて、アミノ酸25とアミノ酸26との間の結合において最高の加水分解活性(断片1~25+26~31をもたらす)が得られ、その後に、アミノ酸5と6との間の結合における加水分解活性(断片1~5+6~31をもたらす)が続いた。比較例11において25-mer+6-merアプローチの良好性を試験した。
【0187】
実施例11:25-mer+6-merアプローチ(参照)、5-mer+26-merアプローチ(参照)、又は11-mer+20-merアプローチ(本発明に従う)を並行して使用する、リラグルチド前駆体H-リラグルチド-1~31-OHの酵素合成
HPLCバイアル中で、3μmolのエステル(1:H-His-Ala-Glu-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-10Val-11-Ser12Ser-13Tyr-14Leu-15Glu-16Gly-17Gln-18Ala-19Ala-20Lys(Pal-γ-Glu)-21Glu-22Phe-23Ile-24Ala-25Trp-OCam-Leu-OH、2:H-His-Ala-Glu-Gly-Thr-OCam-Leu-OH、又は3:H-His-Ala-Glu-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-10Val-11Ser-OCam-Leu-OH)と、2μmolのアミン(1:H-26Leu-27Val-28Arg-29Gly-30Arg-31Gly-OH、2:H-Phe-Thr-Ser-Asp-10Val-11Ser-12Ser-13Tyr-14Leu-15Glu-16Gly-17Gln-18Ala-19Ala-20Lys(Pal-γ-Glu)-21Glu-22Phe-23Ile-24Ala-25Trp-26Leu-27Val-28Arg-29Gly-30Arg-31Gly-OH、又は3:H-12Ser-13Tyr-14Leu-15Glu-16Gly-17Gln-18Ala-19Ala-20Lys(Pal-γ-Glu)-21Glu-22Phe-23Ile-24Ala-25Trp-26Leu-27Val-28Arg-29Gly-30Arg-31Gly-OH)とを950μLの水中に溶解させた。この混合物に、50μLの1Mのトリシン緩衝液pH9.0を添加し、3MのNaOH溶液を用いてpHを8.1に調整した。続いて、10μLのTCEP溶液(水中100mg/mL)及び100μLのリガーゼ(配列番号3に従う)溶液(10mg/mL)を添加した。混合物を周囲温度で反応させた。15分ごとに、10μLの反応混合物を取り出し、アセトニトリル/水(2/1、v/v)中5vol%のMSA 980μLの中でクエンチし、LC-MSを用いて分析した。
【0188】
180分後に、3つの反応のそれぞれについて、Cam-エステル出発材料が消費された。得られた生成物の混合物のサンプルを分析し、生成物及び加水分解ピークを積分した。1のライゲーション生成物は72面積%であり、2のライゲーション生成物は53面積%であり、3のライゲーション生成物は95面積%であった。
【0189】
配列
配列番号1:サブチリシンBPN’アミノ酸-107~275をコードする野生型遺伝子
ENA|K02496|K02496.1 B.サブチリシンBPN’バチルス・アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)
【化1】
【0190】
配列番号2:野生型サブチリシンBPN’(成熟)
>SUBT_BACAMサブチリシンBPN’バチルス・アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)成熟1~275
>sp|P00782|108-382
【化2】
【0191】
配列番号3:突然変異Q2K、S3C、P5S、S9A、I31L、K43N、M50F、N62A、A73L、Δ75-83、E156N、G166E、G169A、S188P、F189W、Q206C、N212G、Y217H、N218D、S221C、M222P、P225N、T254A、及びQ271E、並びにHisタグを有するサブチリシンBPN’変異体
【化3】
【0192】
配列番号14:突然変異Q2K、S3C、P5S、S9A、I31L、K43N、M50F、A73L、Δ75-83、E156S、G166S、G169A、S188P、Q206C、N212G、Y217H、S221C、M222P、P225N、T254A、及びQ271E、並びにHisタグを有するサブチリシンBPN’変異体
【化4】
【配列表】
2024010221000001.xml