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特開2024-102229抗EGFR抗体及び抗体薬物コンジュゲート
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024102229
(43)【公開日】2024-07-30
(54)【発明の名称】抗EGFR抗体及び抗体薬物コンジュゲート
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/28 20060101AFI20240723BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20240723BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20240723BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20240723BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20240723BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240723BHJP
   A61K 49/00 20060101ALI20240723BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240723BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20240723BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240723BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240723BHJP
   A61K 38/08 20190101ALI20240723BHJP
   A61K 31/704 20060101ALI20240723BHJP
   A61K 31/7036 20060101ALI20240723BHJP
   A61K 31/407 20060101ALI20240723BHJP
   C12P 21/08 20060101ALN20240723BHJP
【FI】
C07K16/28 ZNA
C07K16/46
C12N15/13
C12N15/62 Z
C12N15/63 Z
C12N5/10
A61K49/00
A61P35/00
A61K47/68
A61K45/00
A61K39/395 L
A61K38/08
A61K31/704
A61K31/7036
A61K31/407
C07K16/28
C12P21/08
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024074883
(22)【出願日】2024-05-02
(62)【分割の表示】P 2023025869の分割
【原出願日】2015-03-20
(31)【優先権主張番号】61/968,819
(32)【優先日】2014-03-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.BRIJ
2.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】512212195
【氏名又は名称】アッヴィ・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】エドワード・ビー・ライリー
(72)【発明者】
【氏名】アンドリュー・シー・フィリップス
(72)【発明者】
【氏名】ロレンゾ・ベナトゥイル
(72)【発明者】
【氏名】フリッツ・ジー・ブキャナン
(72)【発明者】
【氏名】ジョナサン・エイ・ムールブルック
(72)【発明者】
【氏名】チャン-ミン・シェイ
(72)【発明者】
【氏名】ジェニファー・ペレス
(57)【要約】      (修正有)
【課題】本発明は抗上皮成長因子(EGFR)抗体及び抗体薬物コンジュゲート(ADC)に関し、前記抗体及びADCを使用する組成物と方法を提供する。
【解決手段】抗hEGFR抗体またはその抗原結合部分または、少なくとも1個の薬物と結合させたADCであって、特定の配列を有し、約1×10-6M以下の解離定数でEGFRと結合し、インビボヒト非小細胞肺癌(NSCLC)異種移植アッセイにおいて少なくとも約50%の腫瘍増殖阻害率%で腫瘍増殖を阻害する、抗体及びADCを提供する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗ヒト上皮成長因子受容体(抗hEGFR)抗体又はその抗原結合部分であって、
a)アミノ酸配列CGADSYEMEEDGVRKC(配列番号45)内のエピトープに結合するか、又は競合結合アッセイにおいて上皮成長因子受容体変異体III(EGFRvIII)(配列番号33)との結合に関して第2の抗hEGFR抗体と競合し、ここで前記第2の抗EGFR抗体は、配列番号1に記載のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号5に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む;
b)表面プラズモン共鳴法により測定した場合に、約1×10-6M以下の解離定数(K)でEGFR(1-525)(配列番号47)と結合し;および
c)インビボヒト非小細胞肺癌(NSCLC)異種移植アッセイにおいて、前記NSCLC異種移植アッセイにおいて、EGFRに特異的ではないヒトIgG抗体と比較して少なくとも約50%の腫瘍増殖阻害率%(TGI%)で腫瘍増殖を阻害する、ここで、前記抗hEGFR抗体又はその抗原結合部分と同一の用量と頻度でEGFRに非特異的なヒトIgG抗体を投与される、
前記抗体又はその抗原結合部分。
【請求項2】
表面プラズモン共鳴法により測定した場合に、約1×10-6M~約1×10-10MのKでEGFR(1-525)(配列番号47)と結合する請求項1に記載の抗体又はその抗原結合部分。
【請求項3】
表面プラズモン共鳴法により測定した場合に、約1×10-6M~約1×10-7MのKでEGFR(1-525)(配列番号47)と結合する請求項1に記載の抗体又はその抗原結合部分。
【請求項4】
表面プラズモン共鳴法により測定した場合に、約8.2×10-9M以下のKでEGFRvIII(配列番号33)と結合する請求項1から3のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合部分。
【請求項5】
表面プラズモン共鳴法により測定した場合に、約8.2×10-9M~約6.3×10-10MのKでEGFRvIII(配列番号33)と結合する請求項1から3のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合部分。
【請求項6】
表面プラズモン共鳴法により測定した場合に、約8.2×10-9M~約2.0×10-9MのKでEGFRvIII(配列番号33)と結合する請求項1から3のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合部分。
【請求項7】
インビボヒト非小細胞肺癌(NSCLC)異種移植アッセイにおいて、EGFRに非特異的なヒトIgG抗体と比較して、腫瘍増殖を少なくとも約60%阻害する請求項1から6のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合部分。
【請求項8】
インビボヒト非小細胞肺癌(NSCLC)異種移植アッセイにおいて、EGFRに非特異的なヒトIgG抗体と比較して、腫瘍増殖を少なくとも約70%阻害する請求項1から6のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合部分。
【請求項9】
インビボヒト非小細胞肺癌(NSCLC)異種移植アッセイにおいて、EGFRに非特異的なヒトIgG抗体と比較して、腫瘍増殖を少なくとも約80%阻害する請求項1から6のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合部分。
【請求項10】
前記抗体又はその抗原結合部分が、配列番号12に記載のアミノ酸配列を含む重鎖CDR3ドメイン、配列番号11に記載のアミノ酸配列を含む重鎖CDR2ドメイン及び配列番号10に記載のアミノ酸配列を含む重鎖CDR1ドメインと;配列番号8に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3ドメイン、配列番号7に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2ドメイン及び配列番号6に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1ドメインとを含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合部分。
【請求項11】
前記抗体又はその抗原結合部分が、配列番号9に記載のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号5に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合部分。
【請求項12】
配列番号15に記載のアミノ酸配列を含む重鎖と、配列番号13に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖とを含む請求項1から9のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合部分。
【請求項13】
配列番号40に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3ドメイン、配列番号39に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2ドメイン及び配列番号38に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1ドメインと;
配列番号37に記載のアミノ酸配列を含む重鎖CDR3ドメイン、配列番号36に記載のアミノ酸配列を含む重鎖CDR2ドメイン及び配列番号35に記載のアミノ酸配列を含む重鎖CDR1ドメインと
を含む抗hEGFR抗体又はその抗原結合部分。
【請求項14】
50、52、54、56、58、60、62、64、66、68、70、72、74、76及び78から構成される群から選択されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と;51、53、55、57、59、61、63、65、67、69、71、73、75、77及び79から構成される群から選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む抗hEGFR抗体又はその抗原結合部分。
【請求項15】
配列番号10、11及び12;配列番号16、17及び18;配列番号10、11及び19;配列番号20、11及び12;配列番号21、3及び22;配列番号16、17及び19;配列番号2、3及び4;配列番号10、3及び12;配列番号80、11及び18;配列番号80、3及び18;配列番号20、3及び12;配列番号80、11及び12;並びに配列番号81、11及び22から構成される群から選択される重鎖CDRセット(CDR1、CDR2及びCDR3)と;
配列番号6、7及び8;配列番号23、24及び25;配列番号26、27及び28;配列番号29、30及び31;配列番号6、7及び84;配列番号82、83及び31;並びに配列番号82、27及び85から構成される群から選択される軽鎖CDRセット(CDR1、CDR2及びCDR3)を含む抗hEGFR抗体又はその抗原結合部分であって、
前記抗体又はその抗原結合部分が、配列番号2、3及び4の重鎖CDRセットと、配列番号6、7及び8の軽鎖CDRセットを同時に含むことはない前記抗hEGFR抗体又はその抗原結合部分。
【請求項16】
配列番号41に記載のアミノ酸配列を含む重鎖定常領域及び/又は配列番号43に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖定常領域を含む、請求項1から15のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合部分。
【請求項17】
前記抗体又はその抗原結合部分が、ヒトIgG定常領域、ヒトIgM定常領域、ヒトIgE定常領域及びヒトIgA定常領域から構成される群から選択される重鎖免疫グロブリン定常領域を含む、請求項1から15のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合部分。
【請求項18】
前記IgG定常領域が、IgG1定常領域、IgG2定常領域、IgG3定常領域及びIgG4定常領域から構成される群から選択される請求項17に記載の抗体又はその抗原結合部分。
【請求項19】
前記抗体が、多重特異性抗体である、請求項1から18のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合部分。
【請求項20】
前記抗体又はその抗原結合部分が、Fab、Fab’、F(ab’)、Fv、ジスルフィド結合したFv、scFv、シングルドメイン抗体及びダイアボディから構成される群から選択される、請求項1から19のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合部分。
【請求項21】
前記抗体又はその抗原結合部分が、造影剤と結合している、請求項1から20のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合部分。
【請求項22】
前記造影剤が、放射性標識物質、酵素、蛍光標識物質、発光標識物質、生物発光標識物質、磁気標識物質及びビオチンから構成される群から選択される、請求項21に記載の抗体又はその抗原結合部分。
【請求項23】
前記放射性標識物質が、インジウムである請求項22に記載の抗体又はその抗原結合部分。
【請求項24】
請求項1から23のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合部分と、医薬的に許容可能な担体とを含有する医薬組成物。
【請求項25】
請求項1から23のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合部分を少なくとも1個の薬物と結合させた抗体薬物コンジュゲート(ADC)。
【請求項26】
前記少なくとも1個の薬物が、抗アポトーシス剤、有糸分裂阻害剤、抗腫瘍性抗生物質、免疫調節剤、遺伝子治療用核酸、アルキル化剤、抗血管新生薬、代謝拮抗剤、ホウ素含有剤、化学療法剤、ホルモン剤、抗ホルモン剤、コルチコステロイド、感光性治療剤、オリゴヌクレオチド、放射性核種剤、放射線増感剤、トポイソメラーゼ阻害剤及びチロシンキナーゼ阻害剤から構成される群から選択される、請求項25に記載のADC。
【請求項27】
前記有糸分裂阻害剤が、ドラスタチン、アウリスタチン、メイタンシノイド及び植物アルカロイドから構成される群から選択される、請求項26に記載のADC。
【請求項28】
前記アウリスタチンが、モノメチルアウリスタチンF(MMAF)又はモノメチルアウリスタチンE(MMAE)である、請求項27に記載のADC。
【請求項29】
前記メイタンシノイドが、DM1、DM2、DM3及びDM4から構成される群から選択される、請求項27に記載のADC。
【請求項30】
前記抗腫瘍性抗生物質が、アクチノマイシン、アントラサイクリン、カリケアマイシン及びデュオカルマイシンから構成される群から選択される、請求項26に記載のADC。
【請求項31】
請求項25から30のいずれか一項に記載のADCを複数個含むADC混合物と、医薬的に許容可能な担体とを含有する医薬組成物。
【請求項32】
前記ADC混合物が、2~4の平均薬物対抗体比(DAR)を有する、請求項31に記載の医薬組成物。
【請求項33】
前記ADC混合物が、各々2~8のDARを有するADCを含む、請求項31に記載の医薬組成物。
【請求項34】
癌をもつ対象の治療方法であって、前記癌をもつ対象を治療するように、請求項24又は31から33のいずれか一項に記載の医薬組成物を前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項35】
前記癌が、乳癌、肺癌、膠芽腫、前立腺癌、膵臓癌、結腸癌、頭頸部癌及び腎臓癌から構成される群から選択される、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記癌が、扁平上皮癌である、請求項34に記載の方法。
【請求項37】
前記扁平上皮癌が、肺扁平上皮癌又は頭頸部扁平上皮癌である、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記癌が、トリプルネガティブ乳癌である、請求項34に記載の方法。
【請求項39】
前記癌が、非小細胞肺癌である、請求項34に記載の方法。
【請求項40】
前記癌が、EGFR過剰発現を特徴とする、請求項34から39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
固形腫瘍をもつ対象における固形腫瘍増殖の阻害又は抑制方法であって、前記固形腫瘍増殖を阻害又は抑制するように、前記固形腫瘍をもつ対象に請求項24又は31から33のいずれか一項に記載の医薬組成物を投与することを含む、方法。
【請求項42】
固形腫瘍をもつ対象における固形腫瘍増殖の阻害又は抑制方法であって、前記固形腫瘍増殖を阻害又は抑制するように、前記固形腫瘍をもつ対象に有効量の請求項1から23又は25から30のいずれか一項に記載の抗体又はADCを投与することを含む、方法。
【請求項43】
前記固形腫瘍が、EGFRを発現する固形腫瘍又はEGFRvIII陽性固形腫瘍である、請求項41又は42に記載の方法。
【請求項44】
前記固形腫瘍がEGFRを過剰発現する固形腫瘍である、請求項41又は42に記載の方法。
【請求項45】
前記固形腫瘍が、非小細胞肺癌又は膠芽腫である、請求項41から44のいずれか一項に記載の方法。
【請求項46】
前記抗体、ADC又は医薬組成物を別の薬剤又は別の療法と併用投与する、請求項34から45のいずれか一項に記載の方法。
【請求項47】
前記別の薬剤が、抗PD1抗体、抗CTLA-4抗体、テモゾロミド、bcl-xl阻害剤、イブルチニブ、ドゥベリシブ、イデラリシブ、ベネトクラックス及びニコチンアミドホスホリボシルトランスフェラーゼ(NAMPT)阻害剤から構成される群から選択される、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記別の療法が、放射線である、請求項46に記載の方法。
【請求項49】
前記別の薬剤が、化学療法剤である、請求項46に記載の方法。
【請求項50】
請求項1から23のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合部分をコードする単離核酸。
【請求項51】
請求項50に記載の核酸を含むベクター。
【請求項52】
請求項51に記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項53】
原核細胞又は真核細胞である請求項52に記載の宿主細胞。
【請求項54】
前記真核細胞が、動物細胞、原生動物細胞、植物細胞及び真菌細胞から構成される群から選択される、請求項53に記載の宿主細胞。
【請求項55】
前記動物細胞が、哺乳動物細胞、昆虫細胞及び鳥類細胞から構成される群から選択される請求項54に記載の宿主細胞。
【請求項56】
前記哺乳動物細胞が、CHO細胞、COS細胞及びSp2/0細胞から構成される群から選択される、請求項55に記載の宿主細胞。
【請求項57】
抗hEGFR抗体をアウリスタチンと結合させた抗hEGFR抗体薬物コンジュゲート(ADC)であって、前記抗体が配列番号12のアミノ酸配列を含む重鎖CDR3ドメイン、配列番号11のアミノ酸配列を含む重鎖CDR2ドメイン及び配列番号10のアミノ酸配列を含む重鎖CDR1ドメインと;配列番号8のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3ドメイン、配列番号7のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2ドメイン及び配列番号6のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1ドメインとを含む前記抗hEGFR抗体薬物コンジュゲート(ADC)。
【請求項58】
前記抗体が、配列番号9に記載のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号5のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む、請求項57に記載のADC。
【請求項59】
前記抗体が、IgG重鎖免疫グロブリン定常領域を含む、請求項57又は58に記載のADC。
【請求項60】
前記IgGが、IgG1又はIgG4重鎖免疫グロブリン定常領域である、請求項59に記載のADC。
【請求項61】
前記アウリスタチンが、モノメチルアウリスタチンF(MMAF)又はモノメチルアウリスタチンE(MMAE)である、請求項57から60のいずれか一項に記載のADC。
【請求項62】
前記抗体が、配列番号15のアミノ酸配列を含む重鎖と、配列番号13のアミノ酸配列を含む軽鎖とを含む、請求項57又は58に記載のADC。
【請求項63】
前記抗体が、マレイミドカプロイル、バリン-シトルリン、p-アミノベンジルアルコール(mc-vc-PABA)を含むリンカーにより前記アウリスタチンと共有結合している、請求項61に記載のADC。
【請求項64】
前記ADCが、放射性標識物質を含む、請求項57から63のいずれか一項に記載のADC。
【請求項65】
前記放射性標識物質が、インジウムである、請求項64に記載のADC。
【請求項66】
請求項57から65のいずれか一項に記載のADCと、医薬的に許容可能な担体とを含有する医薬組成物。
【請求項67】
請求項57から65のいずれか一項に記載のADCを含むADC混合物を含有する医薬組成物であって、前記ADC混合物における平均薬物対抗体比(DAR)の範囲が2~4である、医薬組成物。
【請求項68】
抗hEGFR抗体薬物コンジュゲート(ADC)を含むADC混合物と、医薬的に許容可能な担体とを含有する医薬組成物であって、前記ADC混合物は平均薬物対抗体比(DAR)が2~4であり、前記ADCは配列番号12のアミノ酸配列を含む重鎖CDR3ドメイン、配列番号11のアミノ酸配列を含む重鎖CDR2ドメイン及び配列番号10のアミノ酸配列を含む重鎖CDR1ドメインと;配列番号8のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3ドメイン、配列番号7のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2ドメイン及び配列番号6のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1ドメインとを含む抗hEGFR抗体と、モノメチルアウリスタチンE(MMAE)を結合させたものである、医薬組成物。
【請求項69】
前記抗体の重鎖可変領域が配列番号9に記載のアミノ酸配列を含み、前記抗EGFR抗体の軽鎖可変領域が配列番号5に記載のアミノ酸配列を含む、請求項68に記載の医薬組成物。
【請求項70】
前記抗体が、IgG重鎖免疫グロブリン定常領域を含む、請求項68又は69に記載の医薬組成物。
【請求項71】
前記IgGが、IgG1又はIgG4重鎖免疫グロブリン定常領域である請求項70に記載の医薬組成物。
【請求項72】
前記抗体が、配列番号15に記載のアミノ酸配列を含む重鎖と、配列番号13のアミノ酸配列を含む軽鎖とを含む請求項68又は69に記載の医薬組成物。
【請求項73】
前記MMAEが、マレイミドカプロイル、val-cit、PABAを含むリンカーにより前記抗体と結合している、請求項68から72のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項74】
癌をもつ対象の治療方法であって、前記癌をもつ対象を治療するように、請求項68から73のいずれか一項に記載の医薬組成物を前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項75】
前記癌が、乳癌、肺癌、膠芽腫、前立腺癌、膵臓癌、結腸癌、頭頸部癌及び腎臓癌から構成される群から選択される、請求項74に記載の方法。
【請求項76】
前記癌が、扁平上皮癌である、請求項74に記載の方法。
【請求項77】
前記扁平上皮癌が、肺扁平上皮癌又は頭頸部扁平上皮癌である、請求項76に記載の方法。
【請求項78】
前記癌が、トリプルネガティブ乳癌である、請求項74に記載の方法。
【請求項79】
前記癌が、非小細胞肺癌である、請求項74に記載の方法。
【請求項80】
前記癌が、EGFR過剰発現を特徴とする、請求項74から79のいずれか一項に記載の方法。
【請求項81】
固形腫瘍をもつ対象における固形腫瘍増殖の阻害又は抑制方法であって、前記固形腫瘍増殖が阻害又は抑制されるように、前記固形腫瘍をもつ対象に請求項66から73のいずれか一項に記載の医薬組成物を投与することを含む、方法。
【請求項82】
前記固形腫瘍が、非小細胞肺癌又は膠芽腫である、請求項81に記載の方法。
【請求項83】
前記固形腫瘍が、扁平上皮癌である、請求項81に記載の方法。
【請求項84】
前記固形腫瘍が、EGFRvIII陽性固形腫瘍又はEGFRを発現する固形腫瘍である、請求項81から83のいずれか一項に記載の方法。
【請求項85】
前記固形腫瘍が、EGFRを過剰発現する、請求項81から83のいずれか一項に記載の方法。
【請求項86】
前記医薬組成物を別の薬剤又は別の療法と併用投与する、請求項74から85のいずれか一項に記載の方法。
【請求項87】
前記別の薬剤が抗PD1抗体、抗CTLA-4抗体、テモゾロミド、bcl-xl阻害剤、イブルチニブ、ドゥベリシブ、イデラリシブ、ベネトクラックス及びニコチンアミドホスホリボシルトランスフェラーゼ(NAMPT)阻害剤から構成される群から選択される、請求項86に記載の方法。
【請求項88】
前記別の療法が、放射線である、請求項86に記載の方法。
【請求項89】
前記別の薬剤が、化学療法剤である、請求項86に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
ヒト上皮成長因子受容体(HER-1又はErb-B1とも言い、本願では「EGFR」と言う。)はc-erbB癌原遺伝子によりコードされる170kDa膜貫通型受容体であり、固有のチロシンキナーゼ活性を示す(Modjtahedi et al.,Br.J.Cancer 73:228-235(1996);Herbst and Shin,Cancer 94:1593-1611(2002))。SwissProtデータベースエントリーP00533はヒトEGFRの配列を提供している。EGFRはチロシンキナーゼ介在性シグナル伝達経路を介して多数の細胞内プロセスを調節し、限定されないが、細胞増殖、分化、細胞生存、アポトーシス、血管新生、有糸分裂及び転移を制御するシグナル伝達経路の活性化が挙げられる(Atalay et al.,Ann.Oncology 14:1346-1363(2003);Tsao and Herbst,Signal 4:4-9(2003);Herbst and Shin,Cancer 94:1593-1611(2002);Modjtahedi et al.,Br.J.Cancer 73:228-235(1996))。
【0002】
EGFRの公知リガンドとしては、EGF、TGFA/TGF-α、アンフィレグリン、エピジェン/EPGN、BTC/ベタセルリン、エピレグリン/EREG及びHBEGF/ヘパリン結合性EGFが挙げられる。リガンドがEGFRと結合すると、受容体ホモ及び/又はヘテロ二量化と主要な細胞質残基の自己リン酸化を引き起こす。リン酸化したEGFRはGRB2等のアダプタータンパク質を動員し、その結果、少なくとも以下の主要な下流シグナル伝達カスケード、即ちRAS-RAF-MEK-ERK、PI3キナーゼ-AKT、PLCγ-PKC及びSTATモジュールを含む複雑な下流のシグナル伝達カスケードを活性化する。この自己リン酸化は更にそれ自体のホスホチロシン結合性SH2ドメインを介してリン酸化チロシンと会合する複数の他のタンパク質による下流の活性化とシグナル伝達を誘発する。これらの下流のシグナル伝達タンパク質はMAPK、Akt及びJNK経路を始めとする複数のシグナル伝達カスケードを開始し、細胞増殖をもたらす。リガンドがEGFRと結合すると、NF-κBシグナル伝達カスケードを活性化する場合もある。リガンド結合は更にRGS16等の他のタンパク質を直接リン酸化し、そのGTPase活性を活性化し、潜在的にEGF受容体シグナル伝達をGタンパク質共役型受容体シグナル伝達と連動させる。リガンド結合は更にMUC1をリン酸化し、SRC及びCTNNB1/β-カテニンとのその相互作用を亢進する。
【0003】
膀胱癌、脳腫瘍、頭頸部癌、膵臓癌、肺癌、乳癌、卵巣癌、結腸癌、前立腺癌及び腎臓癌を含む多数のヒト悪性病態でEGFRの過剰発現が報告されている。(Atalay et al.,Ann.Oncology 14:1346-1363(2003);Herbst and Shin,Cancer 94:1593-1611(2002);及びModjtahedi et al.,Br.J.Cancer 73:228-235(1996))。これらの病態の多くにおいて、EGFRの過剰発現は患者の予後不良と相関又は関連する。(Herbst and Shin,Cancer 94:1593-1611(2002);及びModjtahedi et al.,Br.J.Cancer 73:228-235(1996))。悪性細胞よりも一般に低レベルではあるが、EGFRは正常組織、特に皮膚、肺及び胃腸管の上皮組織の細胞でも発現される(Herbst and Shin,Cancer 94:1593-1611(2002))。
【0004】
EGFR遺伝子の増幅(即ちEGFR遺伝子の複数のコピー)を含む腫瘍はかなりの割合のものがde2-7EGFR、ΔEGFR、EGFRvIII又はΔ2-7(本願ではこれらの用語を同義に使用する。)と呼ばれる前記受容体の短縮型(Wikstrand et al.(1998)J.Neurovirol.4,148-158)を同時発現する(Olapade-Olaopa et al.(2000)Br.J.Cancer.82,186-94)。de2-7EGFRに見られる再構成の結果、エキソン2~7にまたがる801ヌクレオチドを欠失するインフレーム成熟mRNAが生成される(Wong et al.(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.89,2965-9;Yamazaki et al.(1990)Jpn.J.Cancer Res.81,773-9;Yamazaki et al.(1988)Mol.Cell.Biol.8,1816-20;及びSugawa et al.(1990)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.87,8602-6)。対応するEGFRタンパク質は細胞外領域の残基6~273からなる267アミノ酸を欠失すると共に、融合接合部に新規グリシン残基をもつ(Sugawa et al.,1990)。この欠失とグリシン残基の挿入が相俟って欠失界面にユニークな接合部ペプチドが生成される(Sugawa et al.,1990)。
【0005】
EGFRvIIIは神経膠腫、乳癌、肺癌、卵巣癌及び前立腺癌を含む多数の腫瘍種で報告されている(Wikstrand et al.(1997)Cancer Res.57,4130-40;Olapade-Olaopa et al.(2000)Br.J.Cancer.82,186-94;Wikstrand,et al.(1995)Cancer Res.55,3140-8;Garcia de Palazzo et al.(1993)Cancer Res.53,3217-20)。この短縮型受容体はリガンドと結合しないが、構成的活性が低く、ヌードマウスで腫瘍異種移植片として増殖させた神経膠腫細胞に有意な増殖効果を付与し(Nishikawa et al.(1994)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.91,7727-31)、NIH3T3細胞(Batra et al.(1995)Cell Growth Differ.6,1251-9)とMCF-7細胞を形質転換させることができる。神経膠腫細胞でde2-7EGFRにより利用される細胞内メカニズムは完全には解明されていないが、アポトーシスの低下(Nagane et al.(1996)Cancer Res.56,5079-86)と増殖の若干の亢進(Nagane et al.,1996)を伴うことが報告されている。この短縮型受容体の発現は腫瘍細胞に限定されているので、抗体療法の高度に特異的な標的となる。
【0006】
抗体薬物コンジュゲート(ADC)は化学的リンカーを介して抗体を細胞毒性薬と結合させた新規類の治療薬である。ADCの治療概念は抗体の結合能を薬物と結び付けるものであり、標的表面抗原との結合により薬物を腫瘍細胞に送達するために抗体を使用する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Modjtahedi et al.,Br.J.Cancer 73:228-235(1996)
【非特許文献2】Herbst and Shin,Cancer 94:1593-1611(2002)
【非特許文献3】Atalay et al.,Ann.Oncology 14:1346-1363(2003)
【非特許文献4】Tsao and Herbst,Signal 4:4-9(2003)
【非特許文献5】Wikstrand et al.(1998)J.Neurovirol.4,148-158
【非特許文献6】Olapade-Olaopa et al.(2000)Br.J.Cancer.82,186-94
【非特許文献7】Wong et al.(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.89,2965-9
【非特許文献8】Yamazaki et al.(1990)Jpn.J.Cancer Res.81,773-9
【非特許文献9】Yamazaki et al.(1988)Mol.Cell.Biol.8,1816-20
【非特許文献10】Sugawa et al.(1990)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.87,8602-6
【非特許文献11】Wikstrand et al.(1997)Cancer Res.57,4130-40
【非特許文献12】Wikstrand,et al.(1995)Cancer Res.55,3140-8
【非特許文献13】Garcia de Palazzo et al.(1993)Cancer Res.53,3217-20
【非特許文献14】Nishikawa et al.(1994)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.91,7727-31
【非特許文献15】Batra et al.(1995)Cell Growth Differ.6,1251-9
【非特許文献16】Nagane et al.(1996)Cancer Res.56,5079-86
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、癌治療において治療目的で使用することができる抗EGFR抗体及びADCが当技術分野で依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
ある種の態様において、本発明はEGFRvIIIと特異的に結合する抗EGFR抗体及び抗体薬物コンジュゲート(ADC)を提供する。
【0010】
1実施形態において、本発明は抗ヒト上皮成長因子受容体(抗hEGFR)抗体又はその抗原結合部分であって、アミノ酸配列CGADSYEMEEDGVRKC(配列番号45)内のエピトープに結合するか、又は競合結合アッセイにおいて上皮成長因子受容体変異体III(EGFRvIII)(配列番号33)との結合に関して第2の抗hEGFR抗体と競合し、ここで、前記第2の抗EGFR抗体は、配列番号1に記載のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号5に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む;表面プラズモン共鳴法により測定した場合に、約1×10-6M以下の解離定数(K)でEGFR(1-525)(配列番号47)と結合し;およびインビボヒト非小細胞肺癌(NSCLC)異種移植アッセイにおいて、前記NSCLC異種移植アッセイにおいて、EGFRに特異的ではないヒトIgG抗体と比較して少なくとも約50%の腫瘍増殖阻害率%(TGI%)で腫瘍増殖を阻害する、ここで、前記抗hEGFR抗体又はその抗原結合部分と同一の用量と頻度でEGFRに非特異的なヒトIgG抗体を投与される、ものに関する。
【0011】
本発明のある種の実施形態において、前記抗体又はその抗原結合部分は、表面プラズモン共鳴法により測定した場合に、約1×10-6M~約1×10-10MのKでEGFR(1-525)(配列番号47)と結合する。
【0012】
本発明の他の実施形態において、前記抗体又はその抗原結合部分は、表面プラズモン共鳴法により測定した場合に、約1×10-6M~約1×10-7MのKでEGFR(1-525)(配列番号47)と結合する。
【0013】
ある種の実施形態において、前記抗体又はその抗原結合部分は、表面プラズモン共鳴法により測定した場合に、約8.2×10-9M以下のKでEGFRvIII(配列番号33)と結合する。その他の実施形態において、前記抗体又はその抗原結合部分は、表面プラズモン共鳴法により測定した場合に、約8.2×10-9M~約6.3×10-10MのKでEGFRvIII(配列番号33)と結合する。所定の実施形態において、前記抗体又はその抗原結合部分は、表面プラズモン共鳴法により測定した場合に、約8.2×10-9M~約2.0×10-9MのKでEGFRvIII(配列番号33)と結合する。
【0014】
本発明の更に他の実施形態において、前記抗体又はその抗原結合部分は、インビボヒト非小細胞肺癌(NSCLC)異種移植アッセイにおいて、EGFRに非特異的なヒトIgG抗体と比較して、腫瘍増殖を少なくとも約60%阻害する。
【0015】
ある種の実施形態において、本発明はインビボヒト非小細胞肺癌(NSCLC)異種移植アッセイにおいて、EGFRに非特異的なヒトIgG抗体と比較して、腫瘍増殖を少なくとも約70%阻害する抗体又はその抗原結合部分に関する。ある種の実施形態において、前記抗体又はその抗原結合部分は、インビボヒト非小細胞肺癌(NSCLC)異種移植アッセイにおいて、EGFRに非特異的なヒトIgG抗体と比較して、腫瘍増殖を少なくとも約80%阻害する。
【0016】
所定の実施形態において、前記抗体又はその抗原結合部分は、配列番号12に記載のアミノ酸配列を含む重鎖CDR3ドメイン、配列番号11に記載のアミノ酸配列を含む重鎖CDR2ドメイン及び配列番号10に記載のアミノ酸配列を含む重鎖CDR1ドメインと;配列番号8に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3ドメイン、配列番号7に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2ドメイン及び配列番号6に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1ドメインとを含む。更に別の実施形態において、前記抗体又はその抗原結合部分は、配列番号9に記載のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号5に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む。他の実施形態において、前記抗体又はその抗原結合部分は、配列番号41に記載のアミノ酸配列を含む重鎖定常領域及び/又は配列番号43に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖定常領域を含む。別の実施形態において、前記抗体又はその抗原結合部分は、配列番号15に記載のアミノ酸配列を含む重鎖と、配列番号13に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖とを含む。別の実施形態では、前記抗体又はその抗原結合部分をアウリスタチンと結合させる。
【0017】
本発明は更に、ある種の実施形態において、本願に記載するもの等の抗体又はその抗原結合部分をコードする単離核酸を提供する。
【0018】
本発明は更に、ある種の実施形態において、配列番号40に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3ドメイン、配列番号39に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2ドメイン及び配列番号38に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1ドメインと;配列番号37に記載のアミノ酸配列を含む重鎖CDR3ドメイン、配列番号36に記載のアミノ酸配列を含む重鎖CDR2ドメイン及び配列番号35に記載のアミノ酸配列を含む重鎖CDR1ドメインを含む抗hEGFR抗体又はその抗原結合部分を包含する。
【0019】
ある種の実施形態において、本発明は50、52、54、56、58、60、62、64、66、68、70、72、74、76及び78から構成される群から選択されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と;51、53、55、57、59、61、63、65、67、69、71、73、75、77及び79から構成される群から選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む抗hEGFR抗体又はその抗原結合部分に関する。
【0020】
他の実施形態において、本発明は配列番号10、11及び12;配列番号16、17及び18;配列番号10、11及び19;配列番号20、11及び12;配列番号21、3及び22;配列番号16、17及び19;配列番号2、3及び4;配列番号10、3及び12;配列番号80、11及び18;配列番号80、3及び18;配列番号20、3及び12;配列番号80、11及び12;並びに配列番号81、11及び22から構成される群から選択される重鎖CDRセット(CDR1、CDR2及びCDR3)と;配列番号6、7及び8;配列番号23、24及び25;配列番号26、27及び28;配列番号29、30及び31;配列番号6、7及び84;配列番号82、83及び31;並びに配列番号82、27及び85から構成される群から選択される軽鎖CDRセット(CDR1、CDR2及びCDR3)を含む抗hEGFR抗体又はその抗原結合部分を包含する(但し、前記抗体又はその抗原結合部分が、配列番号2、3及び4の重鎖CDRセットと、配列番号6、7及び8の軽鎖CDRセットを同時に含むことはない。)。所定の実施形態において、前記抗体又はその抗原結合部分は、配列番号41に記載のアミノ酸配列を含む重鎖定常領域及び/又は配列番号43に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖定常領域を含む。
【0021】
本発明の所定の実施形態において、前記抗体又はその抗原結合部分は、ヒトIgG定常領域、ヒトIgM定常領域、ヒトIgE定常領域及びヒトIgA定常領域から構成される群から選択される重鎖免疫グロブリン定常領域を含む。所定の実施形態において、前記IgG定常領域はIgG1定常領域、IgG2定常領域、IgG3定常領域及びIgG4定常領域から構成される群から選択される。他の実施形態において、前記抗体は多重特異性抗体である。
【0022】
本発明の他の実施形態において、前記抗体又はその抗原結合部分は、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv、ジスルフィド結合したFv、scFv、シングルドメイン抗体及びダイアボディを含む。
【0023】
本発明の更に他の実施形態では、前記抗体又はその抗原結合部分を造影剤と結合させる。本発明のある種の実施形態において、前記造影剤は、放射性標識物質、酵素、蛍光標識物質、発光標識物質、生物発光標識物質、磁気標識物質及びビオチンから構成される群から選択される。本発明の他の実施形態において、前記放射性標識物質は、インジウムである。更に他の実施形態において、本発明は前記抗体又はその抗原結合部分と、医薬的に許容可能な担体とを含有する医薬組成物を包含する。
【0024】
本発明は更に、所定の実施形態では、本願に記載する抗体又はその抗原結合部分を少なくとも1個の薬物と結合させた抗体薬物コンジュゲート(ADC)を包含する。ある種の実施形態において、前記抗体は抗ヒト上皮成長因子受容体(抗hEGFR)抗体又はその抗原結合部分であり、アミノ酸配列CGADSYEMEEDGVRKC(配列番号45)内のエピトープに結合するか、又は競合結合アッセイにおいて上皮成長因子受容体変異体III(EGFRvIII)(配列番号33)との結合に関して第2の抗hEGFR抗体と競合し、ここで前記第2の抗EGFR抗体は、配列番号1に記載のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号5に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む、;表面プラズモン共鳴法により測定した場合に、約1×10-6M以下の解離定数(K)でEGFR(1-525)(配列番号47)と結合し;およびインビボヒト非小細胞肺癌(NSCLC)異種移植アッセイにおいて、前記NSCLC異種移植アッセイにおいて、EGFRに特異的ではないヒトIgG抗体と比較して少なくとも約50%の腫瘍増殖阻害率%(TGI%)で腫瘍増殖を阻害する、ここで、前記抗hEGFR抗体又はその抗原結合部分と同一の用量と頻度でEGFRに非特異的なヒトIgG抗体を投与される、本発明の1実施形態において、前記少なくとも1個の薬物は、抗アポトーシス剤、有糸分裂阻害剤、抗腫瘍性抗生物質、免疫調節剤、遺伝子治療用核酸、アルキル化剤、抗血管新生薬、代謝拮抗剤、ホウ素含有剤、化学療法剤、ホルモン剤、抗ホルモン剤、コルチコステロイド、感光性治療剤、オリゴヌクレオチド、放射性核種剤、放射線増感剤、トポイソメラーゼ阻害剤及びチロシンキナーゼ阻害剤から構成される群から選択される。ある種の実施形態において、前記有糸分裂阻害剤は、ドラスタチン、アウリスタチン、メイタンシノイド及び植物アルカロイドである。ある種の実施形態において、前記薬物はドラスタチン、アウリスタチン、メイタンシノイド及び植物アルカロイドである。アウリスタチンの1例はモノメチルアウリスタチンF(MMAF)又はモノメチルアウリスタチンE(MMAE)である。メイタンシノイドの例としては、限定されないが、DM1、DM2、DM3及びDM4が挙げられる。ある種の実施形態において、前記抗腫瘍性抗生物質は、アクチノマイシン、アントラサイクリン、カリケアマイシン及びデュオカルマイシンから構成される群から選択される。ある種の実施形態において、前記アクチノマイシンはピロロベンゾジアゼピン(PBD)である。
【0025】
本発明は更に、所定の実施形態において、抗EGFR抗体をアウリスタチンと結合させたADCを包含し、前記抗体は配列番号12のアミノ酸配列を含むCDR3ドメイン、配列番号11のアミノ酸配列を含むCDR2ドメイン及び配列番号10のアミノ酸配列を含むCDR1ドメインを含む重鎖可変領域と;配列番号8のアミノ酸配列を含むCDR3ドメイン、配列番号7のアミノ酸配列を含むCDR2ドメイン及び配列番号6のアミノ酸配列を含むCDR1ドメインとを含む軽鎖可変領域を含む。1実施形態において、前記抗体は配列番号9に記載のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号5のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む。更に別の実施形態において、本発明は配列番号15に記載のアミノ酸配列を含む重鎖と、配列番号13のアミノ酸配列を含む軽鎖を含む抗体又はその抗原結合部分を包含する。
【0026】
本発明は更に、所定の実施形態では、抗EGFR抗体を少なくとも1個の薬物(例えばMMAEが挙げられるが、これに限定するものではない。)と結合させたADCを包含し、薬物1~8分子を抗体と結合させる。1実施形態では、薬物1~4分子をADCの抗体と結合させる。1実施形態では、薬物2~4分子をADCの抗体と結合させる。
【0027】
本発明は更に、所定の実施形態では、抗EGFR抗体を少なくとも1個の薬物と結合させたADCを包含し、前記薬物はマレイミドカプロイル、バリン-シトルリンリンカーを介して結合させている。別の実施形態において、前記薬物はマレイミドカプロイル、バリン-シトルリン、p-アミノベンジルオキシカルバモイル(PABA)リンカーを介して薬物と結合させている。
【0028】
本発明は更に、所定の実施形態では、リンカー(例えばマレイミドカプロイル、バリン-シトルリン)を介して抗EGFR IgG1抗体をモノメチルアウリスタチンE(MMAE)と共有結合させたADCを包含する。ある種の実施形態において、前記抗体は配列番号9に記載のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号5に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む。ある種の実施形態では、MMAE1~4分子を抗体と連結する。
【0029】
本発明は更に、所定の実施形態では、抗EGFR IgG1抗体をマレイミドカプロイル、バリン-シトルリン、p-アミノベンジルオキシカルバモイル-モノメチルアウリスタチンE(mc-vc-PABA-MMAE)と共有結合させたADCを包含し、前記抗体は配列番号9に記載のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号5に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含み、MMAE1~4分子を前記抗体と連結する。ある種の実施形態において、前記抗体は配列番号15に記載のアミノ酸配列を含む重鎖と、配列番号13に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖とを含む。ある種の実施形態では、MMAE2~4分子を前記抗体と連結する。ある種の実施形態では、図11に示すように前記EGFR抗体をmc-vc-PABA-MMAEと連結する。
【0030】
本発明は更に、所定の実施形態では、ヒトEGFRに特異的なIgG1抗体と、MMAEと、MMAEを前記抗体に共有結合させるリンカーを含むEGFR特異的ADCを包含する。ある種の実施形態において、前記抗体は配列番号12のアミノ酸配列を含むCDR3ドメイン、配列番号11のアミノ酸配列を含むCDR2ドメイン及び配列番号10のアミノ酸配列を含むCDR1ドメインを含む重鎖可変領域と;配列番号8のアミノ酸配列を含むCDR3ドメイン、配列番号7のアミノ酸配列を含むCDR2ドメイン及び配列番号6のアミノ酸配列を含むCDR1ドメインとを含む軽鎖可変領域を含む。1実施形態において、前記抗体は配列番号9に記載のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号5のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む。更に別の実施形態において、本発明は配列番号15に記載のアミノ酸配列を含む重鎖と、配列番号13のアミノ酸配列を含む軽鎖を含む抗体又はその抗原結合部分を包含する。
【0031】
更に他の実施形態において、本発明は本願に記載するADCを複数含むADC混合物と医薬的に許容可能な担体とを含有する医薬組成物を包含する。ある種の実施形態において、前記ADC混合物は平均薬物対抗体比(DAR)が2~4である。他の実施形態において、前記ADC混合物は各々DARが2~8であるADCを含む。ある種の実施形態において、前記ADC混合物は平均薬物対抗体比(DAR)が約2.4~約3.6である。
【0032】
ある種の実施形態において、本発明は癌をもつ対象の治療方法として、前記癌をもつ対象を治療するように、本願に記載する医薬組成物を前記対象に投与することを含む方法を包含する。1実施形態において、前記癌は乳癌、肺癌、膠芽腫、前立腺癌、膵臓癌、結腸癌、頭頸部癌及び腎臓癌から構成される群から選択される。1実施形態において、前記癌は乳癌、肺癌、膠芽腫、前立腺癌、膵臓癌、結腸癌、大腸癌、頭頸部癌、中皮腫、腎臓癌、扁平上皮癌、トリプルネガティブ乳癌及び非小細胞肺癌から構成される群から選択される。1実施形態において、前記癌は乳癌である。1実施形態において、前記癌は肺癌である。1実施形態において、前記癌は前立腺癌である。1実施形態において、前記癌は膵臓癌である。1実施形態において、前記癌は結腸癌である。1実施形態において、前記癌は頭頸部癌である。1実施形態において、前記癌は腎臓癌である。1実施形態において、前記癌は大腸癌である。1実施形態において、前記癌は中皮腫である。1実施形態において、前記癌は扁平上皮癌である。1実施形態において、前記癌はトリプルネガティブ乳癌である。1実施形態において、前記癌は非小細胞肺癌である。ある種の実施形態において、前記扁平上皮癌は肺扁平上皮癌又は頭頸部扁平上皮癌である。
【0033】
更に別の実施形態において、前記癌はEGFRの増幅を含み、又はEGFRを過剰発現する。ある種の実施形態において、前記癌はEGFR過剰発現を特徴とする。ある種の実施形態において、前記癌はEGFR増幅を特徴とする。
【0034】
本発明は更に、ある種の実施形態において、固形腫瘍をもつ対象における固形腫瘍増殖の阻害又は抑制方法として、前記固形腫瘍増殖を阻害又は抑制するように、前記固形腫瘍をもつ対象に本願に記載する医薬組成物を投与することを含む方法を包含する。ある種の実施形態において、前記固形腫瘍はEGFR過剰発現を特徴とする。ある種の実施形態において、前記固形腫瘍はEGFR増幅を特徴とする。
【0035】
本発明の1実施形態において、本発明は固形腫瘍をもつ対象における固形腫瘍増殖の阻害又は抑制方法として、前記固形腫瘍増殖を阻害又は抑制するように、前記固形腫瘍をもつ対象に有効量の本願に記載する抗体又はADCを投与することを含む方法を包含する。
【0036】
ある種の実施形態において、前記固形腫瘍はEGFRを発現する固形腫瘍又はEGFRvIII陽性固形腫瘍である。他の実施形態において、前記固形腫瘍は、非小細胞肺癌又は膠芽腫である。他の実施形態において、前記固形腫瘍は、扁平上皮癌である。
【0037】
本発明の1実施形態において、本発明は癌をもつ対象の治療方法として、抗EGFR抗体又はその抗原結合部分を少なくとも1個のアウリスタチンと結合させた有効量のADCを投与することを含む方法を提供し、前記抗EGFR抗体又はその抗原結合部分は、IgGアイソタイプであり、配列番号12に記載のアミノ酸配列を含むCDR3ドメイン、配列番号11に記載のアミノ酸配列を含むCDR2ドメイン及び配列番号10に記載のアミノ酸配列を含むCDR1ドメインを含む重鎖可変領域と、配列番号8に記載のアミノ酸配列を含むCDR3ドメイン、配列番号7に記載のアミノ酸配列を含むCDR2ドメイン及び配列番号6に記載のアミノ酸配列を含むCDR1ドメインを含む軽鎖可変領域を含む。ある種の実施形態では、前記抗体又はその抗原結合部分をmc-vc-PABA-MMAEと連結している。
【0038】
ある種の実施形態において、本発明は癌をもつ対象の治療方法として、本願に記載する医薬組成物を別の薬剤又は別の療法と併用投与することを含む方法を包含する。ある種の実施形態において、前記別の薬剤は、抗PD1抗体(例えばペンブロリズマブ(Keytruda(R))ないしニボルマブ)、抗CTLA-4抗体(例えばイピリムマブ)、イブルチニブ、ドゥベリシブ、イデラリシブ、ベネトクラックス及びテモゾロミドから構成される群から選択される。ある種の実施形態において、前記別の療法は、放射線である。ある種の実施形態において、前記別の薬剤は、抗PD1抗体(例えばペンブロリズマブ(Keytruda(R))ないしニボルマブ)である。ある種の実施形態において、前記別の薬剤は、抗CTLA-4抗体(例えばイピリムマブ)である。ある種の実施形態において、前記別の薬剤はイブルチニブである。ある種の実施形態において、前記別の薬剤はドゥベリシブである。ある種の実施形態において、前記別の薬剤はイデラリシブである。ある種の実施形態において、前記別の薬剤はベネトクラックスである。ある種の実施形態において、前記別の薬剤はテモゾロミドである。
【0039】
本発明は更に、ある種の実施形態において、本願に記載するもの等の抗体又はその抗原結合部分をコードする単離核酸を提供する。更に、本発明は前記核酸を含むベクターと、前記ベクターを含む宿主細胞、例えば原核細胞又は真核細胞(例えば動物細胞、原生動物細胞、植物細胞及び真菌細胞)を包含する。本発明の実施形態において、前記動物細胞は哺乳動物細胞、昆虫細胞及び鳥類細胞から構成される群から選択される。1実施形態において、前記哺乳動物細胞はCHO細胞、COS細胞及びSp2/0細胞から構成される群から選択される。
【0040】
ある種の実施形態において、本発明は抗hEGFR抗体をアウリスタチンと結合させた抗hEGFR抗体薬物コンジュゲート(ADC)に関し、前記抗体は配列番号12のアミノ酸配列を含む重鎖CDR3ドメイン、配列番号11のアミノ酸配列を含む重鎖CDR2ドメイン及び配列番号10のアミノ酸配列を含む重鎖CDR1ドメインと;配列番号8のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3ドメイン、配列番号7のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2ドメイン及び配列番号6のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1ドメインとを含む。1実施形態において、前記抗体は配列番号9に記載のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号5のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む。更に別の実施形態において、前記抗体はIgG重鎖免疫グロブリン定常領域を含む。更に別の実施形態において、前記IgGは、IgG1又はIgG4重鎖免疫グロブリン定常領域である。
【0041】
1実施形態において、本発明は前記アウリスタチンが、モノメチルアウリスタチンF(MMAF)又はモノメチルアウリスタチンE(MMAE)である、ADCを包含する。1実施形態において、本発明は前記アウリスタチンが、モノメチルアウリスタチンF(MMAF)であるADCを包含する。1実施形態において、本発明は前記アウリスタチンが、モノメチルアウリスタチンE(MMAE)である、ADCを包含する。
【0042】
別の実施形態において、本発明は配列番号15のアミノ酸配列を含む重鎖と、配列番号13のアミノ酸配列を含む軽鎖を含む。
【0043】
本発明の更に別の実施形態において、前記抗EGFR抗体はマレイミドカプロイル、バリン-シトルリン、p-アミノベンジルアルコール(mc-vc-PABA)を含むリンカーを介して前記アウリスタチンと共有結合している。
【0044】
1実施形態において、本発明は抗EGFRと放射性標識物質(例えばインジウム)を含むADCを包含する。
【0045】
1実施形態では、本願に記載する抗EGFR抗体を少なくとも1個のピロロベンゾジアゼピン(PBD)と共有結合させる。ある種の実施形態では、図21に示すように本願に開示する抗EGFR抗体をPBDと連結する(即ちSGD-1882)。
【0046】
所定の実施形態において、本発明は本願に記載するADCと医薬的に許容可能な担体とを含有する医薬組成物に関する。ある種の実施形態において、本発明は本願に記載するADCを含むADC混合物を含有する医薬組成物に関し、前記ADC混合物における平均薬物対抗体比(DAR)の範囲は2~4である。ある種の実施形態において、前記ADC混合物における平均薬物対抗体比(DAR)の範囲は2.4~3.6である。
【0047】
1実施形態において、本発明は抗hEGFR抗体薬物コンジュゲート(ADC)を含むADC混合物と医薬的に許容可能な担体とを含有する医薬組成物に関し、前記ADC混合物は、平均薬物対抗体比(DAR)が2~4であり、前記ADCは配列番号12のアミノ酸配列を含む重鎖CDR3ドメイン、配列番号11のアミノ酸配列を含む重鎖CDR2ドメイン及び配列番号10のアミノ酸配列を含む重鎖CDR1ドメインと、配列番号8のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3ドメイン、配列番号7のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2ドメイン及び配列番号6のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1ドメインとを含む、抗hEGFR抗体にモノメチルアウリスタチンE(MMAE)を結合させたものである。
【0048】
1実施形態において、前記抗体の重鎖可変領域は配列番号9に記載のアミノ酸配列を含み、前記抗EGFR抗体の軽鎖可変領域は配列番号5に記載のアミノ酸配列を含む。
【0049】
本発明の他の実施形態において、前記抗体はIgG重鎖免疫グロブリン定常領域を含む。その他の実施形態において、本発明はIgG1又はIgG4重鎖免疫グロブリン定常領域を含む抗体を包含する。1実施形態において、本発明はIgG1アイソタイプである抗体を包含する。
【0050】
更に別の実施形態において、本発明は配列番号15に記載のアミノ酸配列を含む重鎖と、配列番号13のアミノ酸配列を含む軽鎖を含む抗体を包含する。1実施形態において、本発明はマレイミドカプロイル、val-cit、PABAリンカーによりMMAEを前記抗体と結合させる。
【0051】
本発明の1実施形態において、本発明は癌をもつ対象の治療方法として、前記癌をもつ対象を治療するように、本願に記載する抗体又はADCを含有する医薬組成物を前記対象に投与することを含む方法を提供する。1実施形態において、前記癌は乳癌、肺癌、膠芽腫、前立腺癌、膵臓癌、結腸癌、頭頸部癌及び腎臓癌から構成される群から選択される。1実施形態において、前記癌は乳癌、肺癌、膠芽腫、前立腺癌、膵臓癌、結腸癌、大腸癌、頭頸部癌、中皮腫、腎臓癌、扁平上皮癌、トリプルネガティブ乳癌及び非小細胞肺癌から構成される群から選択される。更に別の実施形態において、前記癌はEGFRの増幅を含み、又はEGFRを過剰発現する。1実施形態において、前記扁平上皮癌は肺扁平上皮癌又は頭頸部扁平上皮癌である。1実施形態において、前記癌はEGFRを過剰発現する癌である。1実施形態において、前記癌はEGFR増幅を特徴とする。1実施形態において、前記癌は乳癌である。1実施形態において、前記癌は肺癌である。1実施形態において、前記癌は前立腺癌である。1実施形態において、前記癌は膵臓癌である。1実施形態において、前記癌は結腸癌である。1実施形態において、前記癌は頭頸部癌である。1実施形態において、前記癌は腎臓癌である。1実施形態において、前記癌は大腸癌である。1実施形態において、前記癌は中皮腫である。1実施形態において、前記癌は扁平上皮癌である。1実施形態において、前記癌はトリプルネガティブ乳癌である。1実施形態において、前記癌は非小細胞肺癌である。ある種の実施形態において、前記扁平上皮癌は肺扁平上皮癌又は頭頸部扁平上皮癌である。
【0052】
また、ある種の実施形態において、本発明は固形腫瘍をもつ対象における固形腫瘍増殖の阻害又は抑制方法を提供し、前記方法は前記固形腫瘍増殖を阻害又は抑制するように、前記固形腫瘍をもつ対象に本願に記載する医薬組成物を投与することを含む。1実施形態において、前記固形腫瘍は、非小細胞肺癌又は膠芽腫である。更に別の実施形態において、前記固形腫瘍はEGFRvIII陽性腫瘍又はEGFRを発現する固形腫瘍である。更に別の実施形態において、前記固形腫瘍はEGFRを過剰発現する固形腫瘍である。更に別の実施形態において、前記固形腫瘍はEGFRが増幅している腫瘍である。1実施形態において、前記固形腫瘍はEGFRが増幅している非小細胞肺癌である。1実施形態において、前記固形腫瘍はEGFRが過剰発現している非小細胞肺癌である。1実施形態において、前記固形腫瘍はEGFRが増幅している膠芽腫である。1実施形態において、前記固形腫瘍はEGFRが過剰発現している膠芽腫である。
【0053】
ある種の実施形態において、本発明は投与を必要とする対象(例えば癌又は固形腫瘍をもつ対象)に本願に記載する医薬組成物を投与する併用療法を提供する。別の薬剤又は別の療法の投与と同時、投与前又は投与後に本願に記載する医薬組成物を投与することができる。ある種の実施形態において、前記別の薬剤は、抗PD1抗体、抗CTLA-4抗体、テモゾロミド、bcl-xl阻害剤及びニコチンアミドホスホリボシルトランスフェラーゼ(NAMPT)阻害剤から構成される群から選択される。更に他の実施形態において、前記別の薬剤は、化学療法剤である。ある種の実施形態において、前記別の療法は、放射線である。他の実施形態において、前記別の薬剤はイブルチニブ(Imbruvica(R),Pharmacyclics)である。他の実施形態において、前記別の薬剤はドゥベリシブである。他の実施形態において、前記別の薬剤はイデラリシブ(Zydelig(R),Gilead Sciences,Inc.)である。他の実施形態において、前記別の薬剤はベネトクラックス(ABT-199/GDC-0199,AbbVie,Inc.)である。ある種の実施形態において、前記別の薬剤は、抗PD1抗体(例えばペンブロリズマブ(Keytruda(R))ないしニボルマブ)である。ある種の実施形態において、前記別の薬剤は抗CTLA-4抗体(例えばイピリムマブ)である。ある種の実施形態において、前記別の薬剤はテモゾロミドである。
【0054】
ある種の実施形態において、本発明は本願に記載する抗体の抗原結合領域(例えばCDR)又は本願に記載するscFvを含むキメラ抗原受容体(CAR)に関する。ある種の実施形態において、本発明は、配列番号40に記載のアミノ酸配列を含むCDR3ドメイン、配列番号39に記載のアミノ酸配列を含むCDR2ドメイン及び配列番号38に記載のアミノ酸配列を含むCDR1ドメインを含む軽鎖可変領域と;配列番号37に記載のアミノ酸配列を含むCDR3ドメイン、配列番号36に記載のアミノ酸配列を含むCDR2ドメイン及び配列番号35に記載のアミノ酸配列を含むCDR1ドメインとを含む重鎖可変領域を含むCARに関する。
【0055】
ある種の実施形態において、本発明は配列番号12に記載のアミノ酸配列を含むCDR3ドメイン、配列番号11に記載のアミノ酸配列を含むCDR2ドメイン及び配列番号10に記載のアミノ酸配列を含むCDR1ドメインを含む重鎖可変領域と;配列番号8に記載のアミノ酸配列を含むCDR3ドメイン、配列番号7に記載のアミノ酸配列を含むCDR2ドメイン及び配列番号6に記載のアミノ酸配列を含むCDR1ドメインを含む軽鎖可変領域を含むCARに関する。
【図面の簡単な説明】
【0056】
図1】Ab1(配列番号1及び5)及びAbA(配列番号9及び5)の重鎖可変領域(VH)及び軽鎖可変領域(VL)アミノ酸配列を示す。VH領域及びVL領域内のCDR配列を四角で囲み、Ab1 VH配列とAbA VH配列の不一致部分を影付きで示す。
図2】Ab1(配列番号13及び14)及びAbA(配列番号13及び15)の全長軽鎖及び重鎖を示す。重鎖におけるAb1配列とAbA配列の不一致部分を影付きで示す。
図3】複数のAb1変異体抗体をAb1及びAb2と比較したBiacore結合アッセイ親和性測定値をまとめた表である。EGFR(1-525)とEGFRvIIIを結合解析に使用した。図3に示すk(M-1-1)は抗体が抗原と会合して抗体/抗原複合体を形成する際の速度定数を意味し、k(s-1)は抗体が抗体/抗原複合体から解離する際の解離速度定数を意味し、K(M)は平衡解離定数を意味する。
図4】FACS解析の結果をまとめたグラフであり、AbAはA431腫瘍細胞(ヒト扁平上皮癌細胞)との結合がAb1よりも改善されたが、Ab2と比較すると結合親和性が低いことが明らかである。
図5】FACS競合アッセイの結果を示し、Ab1変異体抗体はAb1と同一のEGFRエピトープを認識することが分かる。
図6】Ab1及びAb1変異体抗体とEGFR(1-525)の結合の結果をまとめたものである。黒丸はAb1又はAb2(対照)を表し、黒丸はAb1変異体抗体を表す。円はグループ1及びグループ2を表し、図7にデータをまとめる。
図7】種々の細胞株でAb1及びAb1変異体抗体の活性をインビトロ試験したウェスタンブロット分析の結果を示す。SCC-15からの細胞(図7A)とH292細胞を実施例4に記載するような条件に暴露し、抗ホスホチロシンEGFR(pY EGFR)、抗EGFR(tot EGFR(全長EGFR))及び抗アクチン(アクチン)抗体を使用してウェスタンブロット分析により分析した。図7AはAb1、Ab2及びAb1変異体抗体がSCC-15細胞においてEGFRのEGF介在性チロシンリン酸化を阻害する能力を表す結果を示す。図7BはAb1、Ab2及びAb1変異体抗体がH292細胞においてEGFRのEGF介在性チロシンリン酸化を阻害する能力を表す結果を示す。
図8】Ab1、Ab2及びAb1変異体を使用したpEGFR ELISAアッセイの結果(図8A)と、A431阻害試験でAb2及びAbPと比較したAb1の阻害レベル(図8B)をグラフにより示す。図8AのY軸は450nmにおける光学密度(OD)である。
図9】FACS結合アッセイを使用して野生型EGFRを発現する正常ヒト上皮角化細胞とAb1、Ab2及びAb1変異体抗体の結合を試験した結果をグラフにより示す。
図10】AbA、AbG、AbK、AbM及びAbPがヒトNSCLC癌異種移植片において腫瘍増幅を阻害する能力をAb1、Ab2及びヒトIgG(huIgG)対照と比較したマウス異種移植片阻害アッセイの結果をグラフにより示す。矢印は各種抗体の投与時点を示す。
図11】AbA-マレイミドカプロイル-vc-PABA-MMAE ADC(本願では「AbA-vcMMAE」と称する。)の構造を示す。
図12】AbA-vcMMAEの精製の疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)分析の結果を示す。
図13】AbA-vcMMAEのサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)分析の結果を示す。
図14】抗EGFR ADCを使用した2種類のマウス異種移植片阻害アッセイの結果をグラフにより示す。図14AはヒトNSCLC癌異種移植片に由来するNCI-H1703細胞における腫瘍増幅の阻害を比較したマウス異種移植片阻害アッセイの結果を示し、AbA-vcMMAEの阻害がAb1及びAb1-mcMMAF ADCと比較して増加していることが明らかである。図14BはヒトNSCLC癌異種移植片に由来するEBC-1細胞における腫瘍増幅の阻害を比較したマウス異種移植片阻害アッセイの結果を示し、AbA-vcMMAEの阻害がAb1及びAb1-mcMMAF ADCと比較して増加していることが明らかである。矢印は抗体の投与時点を示す。
図15】抗EGFR ADCを使用したマウス異種移植片阻害アッセイの結果をグラフにより示す。図15AはNCI-H292細胞における腫瘍増殖の阻害を比較したマウス異種移植片阻害アッセイの結果を示し、精製AbA-vcMMAE(AbA-vcMMAEp)及びAbA-vcMMAEによる阻害が精製Ab1-vcMMAE(Ab1-vcMMAEp)、Ab1-vcMMAE、精製Ab1-mcMMAF ADC(Ab1-mcMMAFp)及びAb1-mcMMAF(3種類の対照と比較)と比較して増加していることが明らかである。図15BはNCI-H292細胞における腫瘍増殖の阻害を比較したマウス異種移植片阻害アッセイの結果を示し、AbA-vcMMAEの阻害活性が精製AbA-vcMMAE(AbA-vcMMAEp)と比較して増加し、AbA-vcMMAEの阻害活性が精製Ab1-vcMMAE(Ab1-vcMMAEp)、Ab1-vcMMAE、Ab1-mcMMAF及びAb1-mcMMAFpと比較して増加していることが明らかである。図15A及びBの分子の投与量は括弧内に示す(即ち3mg/kg又は6mg/kg)。矢印は抗体又はADCの投与時点を示す。図15の対照2はEGFRと結合しない抗破傷風毒素抗体である陰性対照を表す。
図16】Ab1変異体重鎖可変領域(VH)ライブラリーデザイン(図16A)及びAb1変異体軽鎖可変領域(VL)ライブラリーデザイン(図16B)のアミノ酸配列を示す。
図17】EGFRの模式図であり、Ab1及びAb2が結合する領域を示す。
図18】抗EGFR ADCを使用した(NCI-H292(NSCLC)細胞による)マウス異種移植片阻害アッセイの結果をグラフにより示す。分子の投与量を括弧内に示す(即ち3mg/kg又は6mg/kg)。矢印は抗体又はADCの投与時点を示す。
図19】抗EGFR MMAE及びMMAF ADCを使用したマウス膠芽腫異種移植片阻害アッセイの結果をグラフにより示す。図19の分子の投与量を括弧内に示す(即ち1mg/kg)。矢印は抗体又はADCの投与時点を示す。図19の対照2はEGFRと結合しない抗破傷風毒素抗体である陰性対照を表す。
図20図20A及びBは111Inで標識したAbA、Ab1又は対照抗体を使用して2種類の腫瘍モデル(夫々SW48(図20A)及びEBC1(図20B)腫瘍モデル)でEGFRを発現する腫瘍による抗体取込み効率を比較した単一光子放射断層撮影(SPECT)画像アッセイの結果をグラフにより示す。
図21】マレイミドカプロイル-バリン-アラニンリンカーを介して抗体(Ab)と結合させたPBD二量体(SGD-1882)(全体をSGD-1910と称する。)の構造を示す。
【発明を実施するための形態】
【0057】
本発明の各種態様は抗EGFR抗体及び抗体フラグメント、抗EGFR ADC、並びにその医薬組成物、更にこのような抗体及びフラグメントを作製するための核酸、組換え発現ベクター及び宿主細胞に関する。ヒトEGFRを検出するため、ヒトEGFR活性を(インビトロ又はインビボで)阻害するため、更に上皮癌、乳癌、大腸癌、頭頸部癌(例えば膠芽腫)、肺癌、腎臓癌、膵臓癌、中皮腫、扁平上皮癌(例えば肺扁平上皮癌又は頭頸部扁平上皮癌)、トリプルネガティブ乳癌、非小細胞肺癌及び前立腺癌等の癌を治療するために本願に記載する抗体又はADCを使用する方法も本発明の対象とする。
【0058】
I.定義
本発明を理解し易くするために、先ず所定の用語を定義する。更に、当然のことながら、パラメータの数値又は数値範囲を記載する場合には、記載する数値の中間の数値及び範囲も本発明に含むものとする。
【0059】
「抗上皮成長因子(EGF)受容体抗体」又は「抗EGFR抗体」なる用語は本願では同義に使用し、EGFRと特異的に結合する抗体を意味する。着目抗原(即ちEGFR)と「結合する」抗体とは、前記抗原を発現する細胞を標的とするのに有用となるような十分な親和性で前記抗原と結合することができる抗体である。好ましい実施形態において、前記抗体はヒトEGFR(hEGFR)と特異的に結合する。抗EGFR抗体の例は下記実施例1に開示する。特に指定しない限り、「抗EGFR抗体」なる用語は野生型EGFR又はEGFRの任意変異体(例えばEGFRvIII)と結合する抗体を意味するものとする。
【0060】
野生型ヒトEGFRのアミノ酸配列を配列番号32として以下に示し、同配列中、シグナルペプチド(アミノ酸残基1-24)は下線で示し、細胞外領域のアミノ酸残基(ECD,アミノ酸残基25-645)は太字で強調する。EGFRの短縮型野生型ECD(本願ではEGFR(1-525)とも言う。)は配列番号47に対応し、配列番号32のアミノ酸と等価である。野生型EGFRの成熟型はこのタンパク質からシグナルペプチドを除いたもの、即ち配列番号32のアミノ酸残基25~1210に対応する。
【0061】
【化1】
【0062】
シグナル配列(下線部)を含めたヒトEGFRのECDのアミノ酸配列を配列番号34として以下に示す。
【0063】
【化2】
【0064】
EGFRの全体構造を図17に示す。EGFRのECDは4領域からなる(Cochran et al.(2004)J.Immunol.Methods,287,147-158)。領域I及びIIIはリガンドの高親和性結合部位の形成に寄与することが示唆されている。領域II及びIVはシステインリッチなラミニン様領域であり、タンパク質折畳みを安定化させ、予想されるEGFR二量化界面を含む。
【0065】
EGFR遺伝子増幅を伴う遺伝子再構成の結果としてEGFR変異体が生じると思われる。
【0066】
ヒト癌に最も一般的に存在するEGFRの変異体はEGFRvIIIである(Kuan et al. Endocr Relat Cancer.8(2):83-96(2001))。遺伝子増幅過程でEGFRの細胞外領域に267アミノ酸の欠失が生じ、融合接合部にグリシン残基が挿入される。従って、EGFRvIIIは野生型EGFRの細胞外領域のアミノ酸6~273を欠失し、接合部にグリシン残基が挿入されている。EGFRのEGFRvIII変異体は細胞外領域の267アミノ酸残基を欠失し、欠失接合部にグリシンが挿入されている。EGFRvIIIアミノ酸配列を配列番号33として以下に示す(ECDは太字で強調し、配列番号46に対応し、シグナル配列は下線で示す。)。
【0067】
【化3】
【0068】
EGFRvIIIは構成的シグナル伝達によりリガンド非依存的に腫瘍進行に寄与する。EGFRvIIIは正常組織で発現されることは知られていない(Wikstrand et al.Cancer Research 55(14):3140-3148(1995);Olapade-Olaopa et al.Br J Cancer.82(1):186-94(2000))が、乳癌、神経膠腫、NSCL癌、卵巣癌及び前立腺癌を含む腫瘍細胞で顕著な発現を示す(Wikstrand et al.Cancer Research 55(14):3140-3148(1995);Ge et al.Int J Cancer.98(3):357-61(2002);Wikstrand et al.Cancer Research 55(14):3140-3148(1995);Moscatello et al.Cancer Res.55(23):5536-9(1995);Garcia de Palazzo et al.Cancer Res.53(14):3217-20(1993);Moscatello et al.Cancer Res.55(23):5536-9(1995);及びOlapade-Olaopa et al.2(1):186-94(2000))。
【0069】
本願で使用する「EGFRの生物活性」とはEGFRの全ての固有の生物学的性質を意味し、限定されないが、上皮成長因子(EGF)との結合、腫瘍増殖因子α(TGFα)との結合、ホモ二量化、JAK2キナーゼ活性の活性化、MAPKキナーゼ活性の活性化、及び膜貫通型受容体タンパク質チロシンキナーゼ活性の活性化が挙げられる。
【0070】
抗体又はADCと第2の化学種の相互作用に関して本願で使用する「特異的結合」又は「特異的に結合する」なる用語はこの相互作用が前記化学種上の特定の構造(例えば抗原決定基又はエピトープ)の存在に依存することを意味し、例えば、抗体はタンパク質一般を認識するのではなく、特定のタンパク質構造を認識してこれと結合する。抗体又はADCがエピトープ「A」に特異的である場合、標識した「A」と前記抗体を含有する反応混合物中にエピトープA(又は遊離した未標識のA)を含む分子が存在するならば、標識したAが前記抗体又はADCと結合する量は減少する。
【0071】
本願で使用する「hEGFRと特異的に結合する」又は「hEGFRとの特異的結合」なる表現は抗EGFR抗体又はADCがAb1又はAb1 ADCと比較して同等以上の親和性でhEGFRと相互作用できることを意味する。
【0072】
本願で使用する「EGFR(1-525)との特異的結合」又は「EGFR(1-525)と特異的に結合する」なる用語はEGFR(1-525)と結合し、表面プラズモン共鳴法により測定した場合の解離定数(K)が2.3×10-6M以下である抗体又はADCを意味する。
【0073】
「抗体」なる用語は、一般に2本の重(H)鎖と2本の軽(L)鎖の4本のポリペプチド鎖から構成される免疫グロブリン(Ig)分子、又はIg分子の本質的な標的結合特徴を保持するその任意の機能的フラグメント、突然変異体、変異体もしくは誘導体を広義に意味する。このような突然変異体、変異体又は誘導体抗体フォーマットは当分野で公知である。その非限定的な実施形態について以下に説明する。
【0074】
全長抗体において、各重鎖は重鎖可変領域(本願ではHCVR又はVHと略称する。)と重鎖定常領域から構成される。重鎖定常領域はCH1、CH2及びCH3の3個のドメインから構成される。各軽鎖は軽鎖可変領域(本願ではLCVR又はVLと略称する。)と軽鎖定常領域から構成される。軽鎖定常領域は1個のドメインCLから構成される。VH及びVL領域は更に相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変領域とその間に配置されたフレームワーク領域(FR)と呼ばれる保存度の高い領域に区分することができる。各VH及びVLはアミノ末端からカルボキシ末端に向かってFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4の順に配置された3個のCDRと4個のFRから構成される。免疫グロブリン分子は任意タイプ(例えばIgG、IgE、IgM、IgD、IgA及びIgY)及びクラス(例えばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1及びIgA2)又はサブクラスとすることができる。
【0075】
本願で使用する抗体の「抗原結合部分」(又は単に「抗体部分」)なる用語は抗原(例えばhIL-13)と特異的に結合する能力を保持する抗体の1個以上のフラグメントを意味する。全長抗体のフラグメントにより抗体の抗原結合機能を実施できることが示されている。このような抗体の実施形態は2種以上の異なる抗原と特異的に結合する二重特異性、デュアル特異性又は多重特異性フォーマットでもよい。抗体の「抗原結合部分」なる用語に含まれる結合フラグメントの例としては、(i)VL、VH、CL及びCH1ドメインから構成される1価フラグメントであるFabフラグメント;(ii)ヒンジ領域でジスルフィド橋により連結された2個のFabフラグメントからなる2価フラグメントであるF(ab’)フラグメント;(iii)VHドメインとCH1ドメインから構成されるFdフラグメント;(iv)抗体のシングルアームのVLドメインとVHドメインから構成されるFvフラグメント;(v)単一可変ドメインから構成されるdAbフラグメント(本願に援用するWard et al,(1989)Nature 341:544-546,Winter et al.,PCT公開WO90/05144A1);並びに(vi)単離された相補性決定領域(CDR)が挙げられる。更に、FvフラグメントのVL及びVHの2つのドメインは別々の遺伝子によりコードされるが、組換え法を使用して合成リンカーにより結合し、VL領域とVH領域が対合して1価分子を形成する1本のタンパク鎖として作製することができる(1本鎖Fv(scFv)と言う;例えばBird et al.(1988)Science 242:423-426;及びHuston et al.(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5879-5883参照。)。このような1本鎖抗体も抗体の「抗原結合部分」なる用語に含むものとする。本発明のある種の実施形態では、scFv分子を融合タンパク質に組込んでもよい。ダイアボディ等の他の形態の1本鎖抗体も含む。ダイアボディはVHドメインとVLドメインが1本のポリペプチド鎖上で発現される2価の二重特異性抗体であるが、非常に短いリンカーを使用するため、同一鎖上の2つのドメイン間で対合することができず、これらのドメインは別の鎖の相補性ドメインと対合し、2つの抗原結合部位を形成する(例えばHolliger,P.,et al.(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:6444-6448;Poljak,R.J.,et al.(1994)Structure 2:1121-1123参照。)。このような抗体結合部分は当分野で公知である(Kontermann and Dubel eds.,Antibody Engineering(2001)Springer-Verlag.New York.790 pp.(ISBN 3-540-41354-5)。
【0076】
本願で使用する「抗体コンストラクト」なる用語はリンカーポリペプチド又は免疫グロブリン定常領域に連結された1個以上の本発明の抗原結合部分を含むポリペプチドを意味する。リンカーポリペプチドはペプチド結合により結合した2個以上のアミノ酸残基を含み、1個以上の抗原結合部分と連結するために使用される。このようなリンカーポリペプチドは当分野で周知である(例えばHolliger,P.,et al.(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:6444-6448;Poljak,R.J.,et al.(1994)Structure 2:1121-1123参照。)。免疫グロブリン定常領域とは重鎖又は軽鎖定常領域を意味する。ヒトIgG重鎖及び軽鎖定常領域アミノ酸配列の例は当分野で公知であり、以下の通りである。
【0077】
【表1】
【0078】
更に、抗体又はその抗原結合部分は、前記抗体又はその抗原結合部分と1個以上の他のタンパク質又はペプチドの共有的又は非共有的結合により形成されるより大きな免疫接着分子の一部でもよい。このような免疫接着分子の例としてはストレプトアビジンコア領域を使用して形成される四量体scFv分子(Kipriyanov,S.M.,et al.(1995)Human Antibodies and Hybridomas 6:93-101)や、システイン残基、マーカーペプチド及びC末端ポリヒスチジンタグを使用して形成される2価ビオチン化scFv分子(Kipriyanov,S.M.,et al.(1994)Mol.Immunol.31:1047-1058)が挙げられる。Fab及びF(ab’)フラグメント等の抗体部分は夫々全長抗体のパパイン又はペプシン消化等の慣用技術を使用して全長抗体から作製することができる。更に、抗体、抗体部分及び免疫接着分子は本願に記載するような標準組換えDNA技術を使用して取得することができる。
【0079】
本願で使用する「単離抗体」とは異なる抗原特異性をもつ他の抗体を実質的に含まない抗体を意味する(例えばEGFRと特異的に結合する単離抗体はEGFR以外の抗原と特異的に結合する抗体を実質的に含まない。)。しかし、EGFRと特異的に結合する単離抗体は他の抗原(例えば他の種に由来するEGFR分子)と交差反応性をもつ場合がある。更に、単離抗体は他の細胞材料及び/又は化学物質を実質的に含まない場合がある。
【0080】
「ヒト化抗体」なる用語は非ヒト種(例えばマウス)に由来する重鎖及び軽鎖可変領域配列を含むが、VH及び/又はVL配列の少なくとも一部が「ヒト様」の程度を増すように、即ちヒト生殖細胞系列可変配列との類似性を増すように改変された抗体を意味する。特に、「ヒト化抗体」なる用語は着目抗原と免疫特異的に結合し、実質的にヒト抗体のアミノ酸配列をもつフレームワーク(FR)領域と、実質的に非ヒト抗体のアミノ酸配列をもつ相補性決定領域(CDR)を含む抗体又はその変異体、誘導体、アナログもしくはフラグメントである。CDRに関連して本願で使用する「実質的に」なる用語は非ヒト抗体CDRのアミノ酸配列と少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%又は少なくとも99%一致するアミノ酸配列をもつCDRを意味する。ヒト化抗体はCDR領域の全部又は実質的に全部が非ヒト免疫グロブリン(即ちドナー抗体)のCDR領域に対応し、フレームワーク領域の全部又は実質的に全部がヒト免疫グロブリンコンセンサス配列のフレームワーク領域である少なくとも1個、典型的には2個の可変ドメイン(Fab、Fab’、F(ab’)、FabC、Fv)の実質的に全部を含む。好ましくは、ヒト化抗体は更に免疫グロブリン定常領域(Fc)、典型的にはヒト免疫グロブリンの定常領域の少なくとも一部を含む。所定の実施形態において、ヒト化抗体は軽鎖と重鎖の少なくとも可変領域を含む。抗体は更に重鎖のCH1、ヒンジ、CH2、CH3及びCH4領域を含んでいてもよい。所定の実施形態において、ヒト化抗体はヒト化軽鎖のみを含む。他の実施形態において、ヒト化抗体はヒト化重鎖のみを含む。特定の実施形態において、ヒト化抗体は軽鎖のヒト化可変領域及び/又はヒト化重鎖のみを含む。
【0081】
ヒト化抗体はIgM、IgG、IgD、IgA及びIgEを含む任意クラスの免疫グロブリンと、限定されないが、IgG1、IgG2、IgG3及びIgG4を含む任意アイソタイプから選択することができる。ヒト化抗体は2種以上のクラス又はアイソタイプに由来する配列を含むことができ、当分野で周知の技術を使用して所望のエフェクター機能を最適化するように特定の定常領域を選択することができる。
【0082】
「Kabatナンバリング」、「Kabat定義」及び「Kabatラベリング」なる用語を本願では同義に使用する。これらの用語は当分野で認知されており、抗体又はその抗原結合部分の重鎖及び軽鎖可変領域において他のアミノ酸残基よりも可変度の高い(即ち超可変性の)アミノ酸残基のナンバリングシステムを意味する(Kabat et al.(1971)Ann.NY Acad,Sci.190:382-391及びKabat,E.A.,et al.(1991)Sequences of Proteins of Immunological Interest,Fifth Edition,U.S.Department of Health and Human Services,NIH Publication No.91-3242)。重鎖可変領域では、超可変領域はCDR1のアミノ酸31~35位、CDR2のアミノ酸50~65位、及びCDR3のアミノ酸95~102位に位置する。軽鎖可変領域では、超可変領域はCDR1のアミノ酸24~34位、CDR2のアミノ酸50~56位、及びCDR3のアミノ酸89~97位に位置する。
【0083】
本願で使用する「CDR」なる用語は抗体可変領域配列内の相補性決定領域を意味する。重鎖(HC)と軽鎖(LC)の可変領域の各々に3個ずつCDRが存在し、可変領域の各々でCDR1、CDR2及びCDR3(又は特定的にHC CDR1、HC CDR2、HC CDR3、LC CDR1、LC CDR2及びLC CDR3)と呼称される。本願で使用する「CDRセット」なる用語は抗原と結合することが可能な単一の可変領域に存在する3個1組のCDRを意味する。これらのCDRの厳密な境界は種々のシステムにより種々に定義されている。Kabatにより記載されているシステム(Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest(National Institutes of Health,Bethesda,Md.(1987)及び(1991))は抗体の任意可変領域に適用可能な明確な残基ナンバリングシステムを規定するのみならず、3個のCDRを定義する厳密な残基境界を規定する。これらのCDRをKabat CDRと言う場合がある。Chothiaら(Chothia & Lesk,J.Mol.Biol.196:901-917(1987)及びChothia et al.,Nature 342:877-883(1989))はKabat CDR内の所定のサブ部分がアミノ酸配列レベルでは多様性に富んでいるにも拘わらず、ほぼ同一のペプチド主鎖構造をとることを見いだした。これらのサブ部分はL1、L2及びL3又はH1、H2及びH3と呼ばれ、ここで「L」及び「H」は夫々軽鎖領域と重鎖領域を表す。これらの領域をChothia CDRと呼ぶ場合があり、その境界はKabat CDRとオーバーラップする。Kabat CDRとオーバーラップするCDRを定義する他の境界はPadlan(FASEB J.9:133-139(1995))とMacCallum(J Mol Biol 262(5):732-45(1996))により記載されている。上記システムの1種に厳密には従わないとしても、Kabat CDRとオーバーラップする更に他のCDR境界定義もあり、特定残基もしくは残基群又はCDR全体が抗原結合に有意に影響を与えないという予想又は実験結果に基づいて短くしたものや長くしたものがある。本願で使用する方法はこれらのシステムのいずれに従って定義されたCDRも使用することができるが、好ましい実施形態はKabat又はChothiaの定義によるCDRを使用する。
【0084】
本願で使用する「フレームワーク」又は「フレームワーク配列」なる用語は可変領域からCDRを除いた残りの配列を意味する。CDR配列の厳密な定義は種々のシステムにより決定することができるので、フレームワーク配列の意味は相応に種々に解釈される。6個のCDR(軽鎖のCDR-L1、CDR-L2及びCDR-L3と重鎖のCDR-H1、CDR-H2及びCDR-H3)は軽鎖及び重鎖のフレームワーク領域を更に各鎖で4個のサブ領域(FR1、FR2、FR3及びFR4)に分割し、CDR1はFR1とFR2の間、CDR2はFR2とFR3の間、CDR3はFR3とFR4の間に位置する。個々のサブ領域をFR1、FR2、FR3又はFR4と特定せずに、単にフレームワーク領域と言う場合もあるが、その場合には、1本の天然型免疫グロブリン鎖の可変領域内のFR全体を意味する。本願で使用するFRとは4個のサブ領域の1個を意味し、FRsとはフレームワーク領域を構成する4個のサブ領域の2個以上を意味する。
【0085】
ヒト化抗体のフレームワーク領域とCDR領域は親配列に厳密に対応する必要はなく、例えばその部位のCDR又はフレームワーク残基がドナー抗体又はコンセンサスフレームワークのいずれにも対応しないように少なくとも1個のアミノ酸残基の置換、挿入及び/又は欠失によりドナー抗体CDR又はコンセンサスフレームワークに突然変異を誘発してもよい。しかし、好ましい1実施形態において、このような突然変異は広範囲にならない。通常では、ヒト化抗体残基の少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも95%が親FR及びCDR配列に対応する。本願で使用する「コンセンサスフレームワーク」なる用語はコンセンサス免疫グロブリン配列中のフレームワーク領域を意味する。本願で使用する「コンセンサス免疫グロブリン配列」なる用語は近縁免疫グロブリン配列のファミリーに最高頻度で存在するアミノ酸(又はヌクレオチド)から形成される配列を意味する(例えばWinnaker,From Genes to Clones(Verlagsgesellschaft,Weinheim,Germany 1987参照。)。免疫グロブリンファミリーにおいて、コンセンサス配列の各位置はこのファミリーでこの位置に最高頻度で存在するアミノ酸により占められる。2種類のアミノ酸が同等の高頻度で存在する場合には、どちらをコンセンサス配列に加えてもよい。
【0086】
ペプチド又はポリペプチド配列に関する「アミノ酸配列一致度百分率(%)」は特定ペプチド又はポリペプチド配列と候補配列を整列させ、保存置換を配列一致度の一部として考慮せずに必要に応じて最大の配列一致度百分率に達するようにギャップを導入した後にこのペプチド又はポリペプチド配列中のアミノ酸残基と一致する候補配列中のアミノ酸残基の百分率として定義される。アミノ酸配列一致度を決定する目的での整列は例えば、BLAST、BLAST-2、ALIGN又はMegalign(DNASTAR)ソフトウェア等の公共入手可能なコンピュータソフトウェアを使用して当業者に公知の各種方法により実施することができる。当業者は比較する配列の全長にわたって最大アラインメントを達成するために必要な任意アルゴリズムを含めてアラインメントの測定に適したパラメータを決定することができる。1実施形態において、本発明は配列番号1~31、35~40又は50~85のいずれか1種に記載のアミノ酸配列に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%又は少なくとも99%の一致度をもつアミノ酸配列を包含する。
【0087】
「多価抗体」なる用語は本願では2個以上の抗原結合部位を含む抗体の意味で使用する。ある種の実施形態において、多価抗体は3個以上の抗原結合部位をもつように作製することができ、一般には天然型抗体以外のものである。
【0088】
「多重特異性抗体」なる用語は2種以上の無関係の抗原と結合することが可能な抗体を意味する。1実施形態において、多重特異性抗体は2種の無関係の抗原と結合することが可能な二重特異性抗体であり、例えばEGFR(例えばEGFRvIII)とCD3とに結合する二重特異性抗体又はその抗原結合部分である。
【0089】
「デュアル可変ドメイン」又は「DVD」なる用語は本願では同義に使用し、2個以上の抗原結合部位を含み、四価以上の結合性タンパク質である抗原結合性タンパク質である。このようなDVDは単一特異性(即ち1種の抗原と結合可能)でもよいし、多重特異性(即ち2種以上の抗原と結合可能)でもよい。2本の重鎖DVDポリペプチドと2本の軽鎖DVDポリペプチドを含むDVD結合性タンパク質をDVDIgと呼ぶ。DVDIgの各半分は重鎖DVDポリペプチド及び軽鎖DVDポリペプチドと、2個の抗原結合部位を含む。各結合部位は重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含み、抗原結合部位1個当たり合計6個のCDRが抗原結合に関与する。1実施形態では、本願に記載するCDRを抗EGFR DVDで使用する。
【0090】
「キメラ抗原受容体」又は「CAR」なる用語は少なくとも(1)抗原結合領域(例えば抗体の重鎖又は軽鎖可変領域)と、(2)CARをT細胞に固定するための膜貫通領域と、(3)1個以上の細胞内シグナル伝達領域を含む組換えタンパク質を意味する。
【0091】
「活性」なる用語は抗体(例えばhEGFR抗原と結合する抗hEGFR抗体)もしくはADCの抗原との結合特異性/親和性及び/又は抗体(例えばhEGFRと結合してhEGFRの生物活性を阻害する抗hEGFR抗体)の中和力価等の活性を包含し、例えばEGFRを発現する細胞株(例えばヒト肺癌細胞株H292)におけるEGFRのリン酸化の阻害、又はEGFRを発現する細胞株(例えばヒトH292肺癌細胞、ヒトH1703肺癌細胞株又はヒトEBC1肺癌細胞)の増殖の阻害が挙げられる。
【0092】
本願で使用する「非小細胞肺癌(NSCLC)異種移植アッセイ」なる用語は抗EGFR抗体又はADCが腫瘍増殖(例えば更なる増殖)を阻害できるか否か及び/又は免疫不全マウスへのNSCLC細胞の移植に起因する腫瘍増殖を抑制できるか否かを調べるために使用されるインビボアッセイを意味する。NSCLC異種移植アッセイは腫瘍が所望のサイズ(例えば200~250mm)まで増殖するようにNSCLC細胞を免疫不全マウスに移植後、抗体又はADCを前記マウスに投与し、抗体又はADCが腫瘍増殖を阻害及び/又は抑制できるか否かを調べる。ある種の実施形態では、対照抗体、例えば腫瘍細胞と特異的に結合しないヒトIgG抗体(又はその集合)、例えば癌に関連しない抗原に特異的な抗体又は非癌性材料(例えば正常ヒト血清)から得られる抗体と比較した腫瘍増殖阻害百分率(%TGI)により前記抗体又はADCの活性を測定する。このような実施形態では、抗体(又はADC)と対照抗体を同一用量、同一頻度及び同一経路でマウスに投与する。1実施形態において、NSCLC異種移植アッセイで使用されるマウスは重症複合免疫不全症(SCID)マウス及び/又は無胸腺CD-1ヌードマウスである。NSCLC異種移植アッセイで使用することができるNSCLC細胞の例としては、限定されないが、H292細胞(例えばNCIH292[H292](ATCC(R)CRL1848(TM))が挙げられる。
【0093】
「エピトープ」なる用語は抗体又はADCが結合する抗原の領域を意味する。ある種の実施形態において、エピトープ決定基はアミノ酸、糖側鎖、ホスホリル又はスルホニル等の化学的に活性な表面分子群を含み、ある種の実施形態では、特定の三次元構造特徴及び/又は特定の電荷特徴をもつ場合がある。ある種の実施形態では、タンパク質及び/又は巨大分子の複雑な混合物中でその標的抗原を優先的に認識する場合に抗体は抗原と特異的に結合すると言う。特定の実施形態において、本発明の抗体は(hEGFRの成熟形のアミノ酸残基287~302に対応する)アミノ酸配列CGADSYEMEEDGVRKC(配列番号45)により表されるエピトープと結合する。
【0094】
本願で使用する「表面プラズモン共鳴」なる用語は例えばBIAcoreシステム(Pharmacia Biosensor AB,Uppsala,スウェーデン及びPiscataway,NJ)を使用してバイオセンサーマトリックス内のタンパク質濃度の変化の検出によりリアルタイム生体特異的相互作用の解析を可能にする光学現象を意味する。詳細な説明については、Jonsson,U.,et al.(1993)Ann.Biol.Clin.51:19-26;Jonsson,U.,et al.(1991)Biotechniques 11:620-627;Johnsson,B.,et al.(1995)J.Mol.Recognit.8:125-131;及びJohnnson,B.,et al.(1991)Anal.Biochem.198:268-277参照。1実施形態において、表面プラズモン共鳴は実施例2に記載する方法に従って測定される。
【0095】
本願で使用する「kon」又は「k」なる用語は抗体が抗原と会合して抗体/抗原複合体を形成する際の速度定数を意味するものである。
【0096】
本願で使用する「koff」又は「k」なる用語は抗体が抗体/抗原複合体から解離する際の解離速度定数を意味するものである。
【0097】
本願で使用する「K」なる用語は特定の抗体-抗原相互作用(例えばAbA抗体とEGFR)の平衡解離定数を意味するものである。Kはk/kにより計算される。
【0098】
本願で使用する「競合結合」なる用語は第3の分子(例えば抗原)上の結合部位に関して第1の抗体が第2の抗体と競合する状況を意味する。1実施形態では、FACS解析を使用して2種の抗体間の競合結合を測定する。
【0099】
「競合結合アッセイ」なる用語は2種以上の抗体が同一エピトープと結合するか否かを判定するために使用されるアッセイである。1実施形態において、競合結合アッセイは標識抗体の蛍光シグナルが非標識抗体の導入により低下するか否かを調べることにより、2種以上の抗体が同一エピトープと結合するか否かを判定するために使用される競合蛍光活性化セルソーティング(FACS)アッセイであり、同一エピトープに関して競合している場合には蛍光レベルが低下する。競合結合FACSアッセイの1例を実施例3に示し、(EGFRvIIIを発現する)U87MG細胞を使用した競合FACSアッセイについて記載する。
【0100】
本願で使用する「標識抗体」なる用語は結合性タンパク質(例えば抗体)の同定を可能にする標識物質を組込んだ抗体又はその抗原結合部分を意味する。好ましくは、標識物質は検出可能なマーカーであり、例えば放射性標識アミノ酸を組込む方法や、標識アビジン(例えば光学的方法もしくは比色法により検出可能な蛍光マーカー又は酵素活性を付加したストレプトアビジン)により検出可能なビオチニル部分をポリペプチドに結合する方法が挙げられる。ポリペプチドの標識物質の例としては限定されないが、放射性同位体ないし放射性核種(例えば 14 35S、90Y、99Tc、111In、125I、131I、177Lu、166Ho又は153Sm)、蛍光標識物質(例えばFITC、ローダミン及びランタニド蛍光体)、酵素標識物質(例えば西洋ワサビペルオキシダーゼ、ルシフェラーゼ、アルカリホスファターゼ)、化学発光マーカー、ビオチニル基、二次レポーターにより認識される所定のポリペプチドエピトープ(例えばロイシンジッパー対配列、二次抗体の結合部位、金属結合ドメイン、エピトープタグ)、及び磁性物質(例えばガドリニウムキレート剤)が挙げられる。
【0101】
「抗体薬物コンジュゲート」又は「ADC」なる用語は抗体又はその抗原結合フラグメント等の結合性タンパク質を1個以上の化学的薬物(本願では薬剤とも言う。)と化学的に連結したものを意味し、このような薬物は場合により治療剤又は細胞毒性剤でもよい。好ましい1実施形態において、ADCは抗体と、細胞毒性薬又は治療薬と、前記薬物を前記抗体に結合又は連結させるリンカーを含む。ADCは通常では1~8の任意数の薬物を抗体に結合しており、2、4、6又は8の薬物負荷種が挙げられる。ADCに含むことができる薬物の非限定的な例は有糸分裂阻害剤、抗腫瘍性抗生物質、免疫調節剤、遺伝子治療用ベクター、アルキル化剤、抗血管新生薬、代謝拮抗剤、ホウ素含有剤、化学療法剤、ホルモン剤、抗ホルモン剤、コルチコステロイド、感光性治療剤、オリゴヌクレオチド、放射性核種剤、トポイソメラーゼ阻害剤、チロシンキナーゼ阻害剤及び放射線増感剤である。
【0102】
「抗上皮成長因子抗体薬物コンジュゲート」、「抗EGFR抗体薬物コンジュゲート」又は「抗EGFR ADC」なる用語は本願では同義に使用され、EGFRと特異的に結合する抗体を1個以上の化学物質と結合させたADCを意味する。1実施形態において、前記抗EGFR ADCは抗体AbAをアウリスタチン(例えばMMAE又はMMAF)と結合させたものである。抗体AbAの軽鎖と重鎖に対応するアミノ酸配列を夫々配列番号13及び配列番号15に示す。
【0103】
本願で使用する「アウリスタチン」なる用語は有糸分裂阻害剤のファミリーを意味する。アウリスタチン誘導体も「アウリスタチン」なる用語の定義に含まれる。アウリスタチンの例としては、限定されないが、アウリスタチンE(AE)、モノメチルアウリスタチンE(MMAE)、モノメチルアウリスタチンF(MMAF)、及びドラスタチンの合成アナログが挙げられる。1実施形態では、本願に記載する抗EGFR抗体をアウリスタチンと結合させ、抗EGFR ADCを形成する。
【0104】
本願で使用する「AbA-vcMMAE」なる用語はマレイミドカプロイル、バリン-シトルリン、p-アミノベンジルオキシカルバモイル(PABA)リンカーを介して抗体AbAをモノメチルアウリスタチンE(MMAE)と結合させたADCの意味で使用する。AbA-vcMMAEを図11に示す。
【0105】
本願で使用する「mcMMAF」なる用語はマレイミドカプロイル-モノメチルアウリスタチンF(MMAF)のリンカー/薬物組合せの意味で使用する。
【0106】
「薬物対抗体比」又は「DAR」なる用語はADCの抗体に結合した薬物(例えばアウリスタチン)の数を意味する。ADCのDARは1~8とすることができるが、抗体上の連結部位数に応じてそれ以上(例えば10)とすることも可能である。DARなる用語は個々の抗体に負荷される薬物の数の意味で使用する場合もあるし、あるいは1群のADCの平均DARの意味で使用する場合もある。
【0107】
本願で使用する「望ましくないADC種」なる用語は薬物負荷数の異なるADC種から分離すべき任意薬物負荷種を意味する。1実施形態において、望ましくないADC種なる用語は6以上の薬物負荷種、即ちDAR6、DAR7、DAR8及びDAR8超(即ち6、7、8又は8超の薬物負荷種)等のDARが6以上のADCを意味することができる。別の実施形態において、望ましくないADC種なる用語は8以上の任意薬物負荷種、即ちDAR8及びDAR8超(即ち8又は8超の薬物負荷種)等のDARが8以上のADCを意味することができる。
【0108】
本願で使用する「ADC混合物」なる用語は不均一なDAR分布のADCを含有する組成物を意味する。1実施形態において、ADC混合物は、DAR分布が1~8、例えば2、4、6及び8(即ち2、4、6及び8の薬物負荷種)のADCを含有する。特に、1、3、5及び7のDARも混合物に含むような分解生成物でもよい。更に、混合物内のADCは、DARが8超でもよい。ADC混合物は分子鎖間ジスルフィド還元後に結合させることにより得られる。1実施形態において、ADC混合物は、DARが4以下(即ち4以下の薬物負荷種)のADCと、DARが6以上(即ち6以上の薬物負荷種)のADCを併有する。
【0109】
「癌」なる用語は無制御な細胞増殖を典型的な特徴とする哺乳動物の生理的状態を意味又は表現するものである。癌の例としては、限定されないが、癌腫、リンパ腫、芽細胞腫、肉腫及び白血病又はリンパ系悪性腫瘍が挙げられる。このような癌のより具体的な例としては、膠芽腫、非小細胞肺癌、肺癌、結腸癌、大腸癌、頭頸部癌、乳癌(例えばトリプルネガティブ乳癌)、膵臓癌、扁平上皮腫瘍、扁平上皮癌(例えば肺扁平上皮癌又は頭頸部扁平上皮癌)、肛門癌、皮膚癌及び外陰癌が挙げられる。1実施形態では、EGFR遺伝子の増幅により、EGFRの短縮型であるEGFRvIIIを発現する腫瘍をもつ患者に本発明の抗体又はADCを投与する。1実施形態では、EGFRを過剰発現する可能性のある固形腫瘍をもつ患者に本発明の抗体又はADCを投与する。1実施形態では、扁平上皮非小細胞肺癌(NSCLC)をもつ患者に本発明の抗体又はADCを投与する。1実施形態では、進行固形腫瘍を含む固形腫瘍をもつ患者に本発明の抗体又はADCを投与する。
【0110】
本願で使用する「EGFRを発現する腫瘍」なる用語はEGFRタンパク質を発現する腫瘍を意味する。1実施形態において、腫瘍におけるEGFR発現は腫瘍細胞膜の免疫組織化学染色を使用して判定され、腫瘍試料中でバックグラウンドレベルを上回る免疫組織化学染色が検出されるならば、この腫瘍はEGFRを発現する腫瘍であると判断される。腫瘍におけるEGFRの発現の検出方法は当分野で公知であり、例えばEGFR pharmDx(TM)Kit(Dako)が挙げられる。一方、「EGFR陰性腫瘍」は免疫組織化学技術により測定した場合に、腫瘍試料中でバックグラウンドを上回るEGFR膜染色のない腫瘍として定義される。
【0111】
本願で使用する「EGFRvIII陽性腫瘍」なる用語はEGFRvIIIタンパク質を発現する腫瘍を意味する。1実施形態において、腫瘍におけるEGFRvIII発現は腫瘍細胞膜の免疫組織化学染色を使用して判定され、腫瘍試料中でバックグラウンドレベルを上回る免疫組織化学染色が検出されるならば、この腫瘍はEGFRvIIIを発現する腫瘍であると判断される。腫瘍におけるEGFRの発現の検出方法は当分野で公知であり、免疫組織化学アッセイが挙げられる。一方、「EGFRvIII陰性腫瘍」は免疫組織化学技術により測定した場合に、腫瘍試料中でバックグラウンドを上回るEGFRvIII膜染色のない腫瘍として定義される。
【0112】
「過剰発現する」、「過剰発現」又は「過剰発現している」なる用語は同義であり、通常では癌細胞において正常細胞に比較して検出可能な高レベルで転写又は翻訳される遺伝子を意味する。従って、過剰発現とは(転写亢進、転写後プロセシング、翻訳、翻訳後プロセシング、安定性改変及びタンパク質分解改変に起因する)タンパク質及びRNAの過剰発現と、タンパク質トラフィックパターン改変(核内転座増加)及び例えば基質の酵素加水分解増加の場合のような機能活性亢進に起因する局所過剰発現の両者を意味する。従って、過剰発現とはタンパク質又はRNA濃度を意味する。過剰発現は正常細胞又は比較細胞に比較して50%、60%、70%、80%、90%又はそれ以上とすることもできる。ある種の実施形態では、EGFRを過剰発現する可能性のある固形腫瘍を治療するために本発明の抗EGFR抗体又はADCを使用する。
【0113】
本願で使用する「投与する」なる用語は治療目的(例えばEGFR関連障害の治療)を達成するために物質(例えば抗EGFR抗体又はADC)を送達することを意味するものである。投与方式は非経口、経腸及び局所とすることができる。非経口投与は通常では注射による方法であり、限定されないが、静脈内、筋肉内、動脈内、髄腔内、関節腔内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、経気管支、皮下、表皮下、関節内、被膜下、くも膜下、脊髄内及び胸骨内注射及び輸液が挙げられる。
【0114】
本願で使用する「併用療法」なる用語は2種以上の治療物質(例えば抗EGFR抗体又はADCと別の治療剤)の投与を意味する。前記別の治療剤は抗EGFR抗体又はADCの投与と同時、投与前又は投与後に投与することができる。
【0115】
本願で使用する「有効量」又は「治療有効量」なる用語は障害(例えば癌)もしくはその1種以上の症状の重症度及び/もしくは持続期間を低減もしくは改善するため、障害の進行を予防するため、障害の退縮を誘導するため、障害に伴う1種以上の症状の再発、発現、発症もしくは進行を予防するため、障害を検出するため、又は別の療法(例えば予防剤又は治療剤)の予防もしくは治療効果を強化もしくは改善するために十分な薬物(例えば抗体又はADC)の量を意味する。有効量の抗体又はADCは例えば腫瘍増殖を阻害(例えば腫瘍体積の増加を抑制)、腫瘍増殖を抑制(例えば腫瘍体積を減少)、癌細胞数を減少、及び/又は癌に伴う症状の1種以上をある程度まで緩和することができる。有効量は例えば無病生存率(DFS)を改善すること、全生存率(OS)を改善すること、又は再発確率を低下させることができる。
【0116】
以下のサブセクションでは本発明の種々の態様を更に詳細に説明する。
【0117】
II.抗EGFR抗体
本発明の1態様はAb1及び当分野で公知の他の抗体よりも改善された特徴(例えばEGFRとの結合親和性の増加)をもつ抗EGFR抗体又はその抗原結合部分を提供する。本発明の別の態様は本願に記載する抗EGFR抗体と少なくとも1個の薬物(限定されないが、例えばアウリスタチン)を含む抗体薬物コンジュゲート(ADC)に関する。本発明の抗体又はADCは限定されないが、EGFRvIIIを発現する腫瘍細胞と結合する、EGFRを発現する腫瘍細胞上の野生型EGFRと結合する、EGFR上のエピトープCGADSYEMEEDGVRKC(配列番号45)を認識する、正常ヒト上皮角化細胞上のEGFRと結合する、及びマウスモデルにおける異種移植片腫瘍増殖を抑制又は阻害する等の特徴をもつ。
【0118】
Ab1(抗体1)はヒト化抗EGFR抗体である。Ab1の軽鎖及び重鎖配列を夫々配列番号13及び配列番号14に記載する(本願に援用する米国特許出願公開第20120183471号も参照。)。Ab1の軽鎖可変領域は配列番号5に記載し、配列番号6に記載のCDR1アミノ酸配列と、配列番号7に記載のCDR2アミノ酸配列と、配列番号8に記載のCDR3アミノ酸配列を含む。Ab1の重鎖可変領域は配列番号1に記載し、配列番号2に記載のCDR1アミノ酸配列と、配列番号3に記載のCDR2アミノ酸配列と、配列番号4に記載のCDR3アミノ酸配列を含む。
【0119】
一般に、本発明のAb1変異体抗体は親抗体Ab1のエピトープ特異性を保持する。従って、1実施形態において、本発明の抗EGFR抗体は配列番号45に記載のEGFRにおけるエピトープと結合することができ、及び/又はEGFRとの結合に関してAb1と競合することができる。各種実施形態において、前記結合は後記実施例3に記載するプロトコールに従って検定することができる。本発明の好ましい1実施形態において、前記抗EGFR抗体はAb1と競合し、EGFRの1-525(配列番号47)との結合親和性が改善され、例えば表面プラズモン共鳴法により測定した場合に、解離定数(K)が約1×10-6M~約1×10-10Mである。
【0120】
1実施形態において、本発明はAb1の変異体であり、改善された特徴(例えば後記実施例に記載するように、改善された結合親和性や、NSCLC腫瘍細胞増殖のインビボ阻害能)をもつ抗EGFR抗体に関する。これらの新規抗体を本願では総称して「Ab1変異体抗体」と言う。一般に、Ab1変異体抗体はAb1と同一のエピトープ特異性を保持する。従って、1実施形態において、本発明の抗EGFR抗体又はその抗原結合部分は、配列番号45に記載のアミノ酸配列内のエピトープと結合し、競合結合アッセイでEGFRvIIIとの結合に関して配列番号1に記載のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と配列番号5に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む、抗EGFR抗体と競合する。Ab1とは対照的に、本発明の抗EGFR抗体はヌードマウスでのH292ヒト非小細胞肺癌(NSCLC)異種移植アッセイにおいて、腫瘍増殖をインビボ阻害もしくは抑制することができ、及び/又は正常ヒト上皮角化細胞上の野生型EGFRと結合することができる。各種実施形態において、本発明の抗EGFR抗体又はその抗原結合フラグメントはEGFRの生物学的機能を調節することが可能である。上記態様の他の実施形態において、前記抗EGFR抗体又はその抗原結合フラグメントはEGFRvIIIと結合し、EGFRを過剰発現する細胞上のEGFRと結合し、EGFR上のエピトープCGADSYEMEEDGVRKC(配列番号45)を認識する。別の実施形態において、前記抗EGFR抗体又はその抗原結合フラグメントはEGFRvIII接合部ペプチドとは異なるエピトープにおいてEGFRvIIIと結合する。上記態様のその他の実施形態において、前記抗EGFR抗体又はその抗原結合フラグメントはEGFRとの結合に関してセツキシマブと競合しない。後記実施例に記載するAbA抗体及びAb1変異体は以下の特徴をもつ。
【0121】
即ち、本発明は競合結合アッセイでAb1と競合することができるが、腫瘍増殖を阻害又は抑制するのにより有効である抗EGFR抗体又はその抗原結合部分を包含する。1実施形態において、本発明の抗EGFR抗体又はその抗原結合部分は、アミノ酸配列CGADSYEMEEDGVRKC(配列番号45)内のエピトープと結合することができ、競合結合アッセイで上皮成長因子受容体変異体III(EGFRvIII)(配列番号33)との結合に関してAb1(即ち配列番号1に記載のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号5に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む、抗EGFR抗体)と競合することができる。
【0122】
1実施形態において、本発明の抗EGFR抗体又はその抗原結合部分は、表面プラズモン共鳴法により測定した場合に、約1×10-6M以下の解離定数(K)でEGFR(1-525)(配列番号47)と結合する。あるいは、前記抗体又はその抗原結合部分は、表面プラズモン共鳴法により測定した場合に、約1×10-6M~約1×10-10MのKでEGFR(1-525)(配列番号47)と結合する。あるいは、前記抗体又はその抗原結合部分は、表面プラズモン共鳴法により測定した場合に、約1×10-6M~約1×10-7MのKでEGFR(1-525)(配列番号47)と結合する。あるいは、本発明の抗体又はその抗原結合部分は、表面プラズモン共鳴法により測定した場合に、約1×10-6M~約5×10-10MのK、約1×10-6M~約1×10-9MのK、約1×10-6M~約5×10-9MのK、約1×10-6M~約1×10-8MのK、約1×10-6M~約5×10-8MのK、約5.9×10-7M~約1.7×10-9MのK、約5.9×10-7M~約2.2×10-7MのKでEGFR(1-525)(配列番号47)と結合する。ある種の実施形態において、本発明の抗体及び抗原結合フラグメントの解離定数(K)は1実施形態ではAb1の解離定数よりも小さく且つ抗EGFR抗体であるセツキシマブの速度よりも大きい。
【0123】
本発明の抗EGFR抗体及びその抗原結合部分の1つの利点は、前記抗体がEGFRvIIIを発現する腫瘍細胞と結合できるという点である。EGFRvIIIは所定種の癌に関係があるが、当分野で公知の多くの抗EGFR抗体(例えばセツキシマブ)はEGFRvIIIを発現する腫瘍における腫瘍増殖を阻害又は抑制するのに有効ではない。従って、1実施形態において、本発明の抗体又はその抗原結合部分は、表面プラズモン共鳴法により測定した場合に、約8.2×10-9M以下のKでEGFRvIII(配列番号33)と結合する。あるいは、本発明の抗体又はその抗原結合部分は、表面プラズモン共鳴法により測定した場合に、約8.2×10-9M~約6.3×10-10MのK、約8.2×10-9M~約2.0×10-9MのK、約2.3×10-9M~約1.5×10-10MのKでEGFRvIII(配列番号33)と結合する。
【0124】
本発明の抗体は1実施形態において、インビボ異種移植片マウスモデルにおいて腫瘍増殖を阻害又は抑制することができる。例えば、本発明の抗体又はその抗原結合部分は、インビボヒト非小細胞肺癌(NSCLC)異種移植アッセイにおいて、EGFRに非特異的なヒトIgG抗体と比較して、腫瘍増殖を少なくとも約50%阻害することができる。ある種の実施形態において、本発明の抗体又はその抗原結合部分は、インビボヒト非小細胞肺癌(NSCLC)異種移植アッセイにおいて、同一の用量と投与周期で投与した場合にEGFRに非特異的なヒトIgG抗体と比較して、腫瘍増殖を少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%又は少なくとも約80%阻害又は抑制することができる。ある種の実施形態において、本発明の抗体又はその抗原結合部分は、インビボヒト非小細胞肺癌(NSCLC)異種移植アッセイにおいて、同一の用量と投与周期で投与した場合にEGFRに非特異的なヒトIgG抗体と比較して、腫瘍増殖を約80%~約90%、又は約84%~約90%、又は約88%~約90%阻害又は抑制することができる。
【0125】
本願で使用する「異種移植アッセイ」なる用語はヒト細胞を拒絶しない免疫不全マウスの皮下又は腫瘍の原発巣である臓器種にヒト腫瘍細胞を移植するヒト腫瘍異種移植アッセイを意味する。
【0126】
なお、上記特徴を併有する抗EGFR抗体又はその抗原結合部分も本発明の実施形態とみなす。例えば、本発明の抗体は表面プラズモン共鳴法により測定した場合に、約1×10-6M以下の解離定数(K)でEGFR(1-525)(配列番号47)と結合し、アミノ酸配列CGADSYEMEEDGVRKC(配列番号45)内のエピトープと結合し、競合結合アッセイで上皮成長因子受容体変異体III(EGFRvIII)(配列番号33)との結合に関してAb1(即ち配列番号1に記載のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と配列番号5に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む、抗EGFR抗体)と競合することができる。
【0127】
ある種の実施形態において、前記抗EGFR抗体又はその抗原結合部分は、アミノ酸配列CGADSYEMEEDGVRKC(配列番号45)内のエピトープと結合し、競合結合アッセイで上皮成長因子受容体変異体III(EGFRvIII)(配列番号33)との結合に関してAb1(即ち配列番号1に記載のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と配列番号5に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む、抗EGFR抗体)と競合し、表面プラズモン共鳴法により測定した場合に、約8.2×10-9M以下のKでEGFRvIII(配列番号33)と結合する。
【0128】
ある種の実施形態において、前記抗EGFR抗体又はその抗原結合部分は、アミノ酸配列CGADSYEMEEDGVRKC(配列番号45)内のエピトープと結合し、競合結合アッセイで上皮成長因子受容体変異体III(EGFRvIII)(配列番号33)との結合に関してAb1(即ち配列番号1に記載のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と配列番号5に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む、抗EGFR抗体)と競合し、インビボ異種移植片マウスモデルにおいて腫瘍増殖を阻害又は抑制する。より具体的には、本発明の抗体又はその抗原結合部分は、インビボヒト非小細胞肺癌(NSCLC)異種移植アッセイにおいて、同一の用量と投与周期で投与した場合にEGFRに非特異的なヒトIgG抗体と比較して、腫瘍増殖を少なくとも約50%阻害することができる。あるいは、本発明の抗体又はその抗原結合部分は、インビボヒト非小細胞肺癌(NSCLC)異種移植アッセイにおいて、同一の用量と投与周期で投与した場合にEGFRに非特異的なヒトIgG抗体と比較して、腫瘍増殖を少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%又は少なくとも約80%阻害又は抑制することができる。ある種の実施形態において、本発明の抗体又はその抗原結合部分は、インビボヒト非小細胞肺癌(NSCLC)異種移植アッセイにおいて、同一の用量と投与周期で投与した場合にEGFRに非特異的なヒトIgG抗体と比較して、腫瘍増殖を約80%~約90%、又は約84%~約90%、又は約88%~約90%阻害又は抑制することができる。
【0129】
上記特徴のいずれかを併有する抗体を本発明の態様とする。以下に詳述する本発明のADCも上記特徴のいずれかをもつことができる。
【0130】
1実施形態において、本発明は配列番号40に記載のアミノ酸配列を含むLC CDR3ドメイン、配列番号39に記載のアミノ酸配列を含むLC CDR2ドメイン、及び配列番号38に記載のアミノ酸配列を含むLC CDR1ドメインと、配列番号37に記載のアミノ酸配列を含むHC CDR3ドメイン、配列番号36に記載のアミノ酸配列を含むHC CDR2ドメイン、及び配列番号35に記載のアミノ酸配列を含むHC CDR1ドメインを含む抗hEGFR抗体又はその抗原結合部分を包含する。
【0131】
1実施形態において、本発明は50、52、54、56、58、60、62、64、66、68、70、72、74、76及び78から構成される群から選択されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、51、53、55、57、59、61、63、65、67、69、71、73、75、77及び79から構成される群から選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む抗hEGFR抗体又はその抗原結合部分を包含する。
【0132】
1実施形態において、本発明は配列番号10、11及び12;配列番号16、17及び18;配列番号10、11及び19;配列番号20、11及び12;配列番号21、3及び22;配列番号16、17及び19;配列番号2、3及び4;配列番号10、3及び12;配列番号80、11及び18;配列番号80、3及び18;配列番号20、3及び12;配列番号80、11及び12;並びに配列番号81、11及び22から構成される群から選択されるHC CDRセット(CDR1、CDR2及びCDR3)と;配列番号6、7及び8;配列番号23、24及び25;配列番号26、27及び28;配列番号29、30及び31;配列番号6、7及び84;配列番号82、83及び31;並びに配列番号82、27及び85から構成される群から選択されるLC軽鎖CDRセット(CDR1、CDR2及びCDR3)を含む抗hEGFR抗体又はその抗原結合部分を包含する(但し、前記抗体又はその抗原結合部分が、配列番号2、3及び4のHC CDRセットと配列番号6、7及び8のLC CDRセットを同時に含むことはない)。
【0133】
好ましくは、本発明の抗EGFR抗体は例えば当分野で公知の複数のインビトロ及びインビボアッセイのいずれか1種により評価した場合にEGFR活性を低下又は中和させる高い能力を示す。例えば、EGFRを発現する細胞株(例えばh292細胞株)におけるEGFRのリン酸化の阻害を測定することができる。ある種の実施形態において、前記単離抗体又はその抗原結合部分は、ヒトEGFRと結合し、前記抗体又はその抗原結合部分は、表面プラズモン共鳴法により測定した場合に、約5.9×10-7M以下のK速度定数でヒトEGFR(EGFR1-525)から解離する。あるいは、前記抗体又はその抗原結合部分は、表面プラズモン共鳴法により測定した場合に、約4.2×10-7MのK速度定数でヒトEGFR(1-525)から解離することができる。あるいは、前記抗体又はその抗原結合部分は、表面プラズモン共鳴法により測定した場合に、約2.5×10-7Mの概算K速度定数でヒトEGFR(1-525)から解離することができる。ある種の実施形態において、本発明の抗EGFR抗体又はその抗原結合部分は、5.9×10-7M~5×10-9MのK速度定数をもつ。
【0134】
あるいは、前記抗体又はその抗原結合部分は、表面プラズモン共鳴法により測定した場合に、約6.1×10-9M以下のK速度定数でヒトEGFRvIIIから解離することができる。あるいは、前記抗体又はその抗原結合部分は、表面プラズモン共鳴法により測定した場合に、約3.9×10-9M以下のK速度定数でヒトEGFRvIIIから解離することができる。あるいは、前記抗体又はその抗原結合部分は、表面プラズモン共鳴法により測定した場合に、約2.3×10-9M以下のK速度定数でヒトEGFRvIIIから解離することができる。
【0135】
1実施形態において、本発明は抗体AbAである抗EGFR抗体又はその抗原結合部分に関する。AbAはEGFRとの結合親和性がAb1よりも改善されており、更にAb1に比較してユニークなインビトロ及びインビボ特徴を示す。AbAはインビトロ角化細胞結合アッセイにおいてAb1よりも著しく高い親和性でEGFRと結合する。更に、AbAは異種移植H292細胞アッセイで腫瘍増殖を阻害又は抑制することができる。特に、AbAはインビトロ及びインビボ特徴が改善され、AbAよりも結合親和性が高かった他のAb1変異体抗体と同等である。AbAは他のAb1変異体抗体と比較して結合親和性が低い(例えば図3のAbP及びAbQとAbAを対比参照。)にも拘わらず、インビボアッセイにおける細胞増殖阻害は同等であった。
【0136】
「AbA」なる用語はAbAの少なくとも6個のCDRをもつIgG抗体を包含するものである。AbA抗体はAb1と同一の軽鎖をもつが、重鎖は親抗体Ab1に対して6カ所のアミノ酸配列変異(重鎖の可変領域に4カ所のアミノ酸変異と定常領域に2カ所の変異)を含む。AbA抗体は配列番号12のアミノ酸配列を含むCDR3ドメイン、配列番号11のアミノ酸配列を含むCDR2ドメイン及び配列番号10のアミノ酸配列を含むCDR1ドメインを含む重鎖可変領域と、配列番号8のアミノ酸配列を含むCDR3ドメイン、配列番号7のアミノ酸配列を含むCDR2ドメイン及び配列番号6のアミノ酸配列を含むCDR1ドメインとを含む軽鎖可変領域を含む。AbAの重鎖可変領域は配列番号9に記載のアミノ酸配列と配列番号5のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域により表される。抗体AbAの全長重鎖を配列番号15に記載のアミノ酸配列に示し、抗体AbAの全長軽鎖を配列番号13に記載のアミノ酸配列に示す(図2参照。)。AbAの重鎖の核酸配列を以下に示す。
【0137】
【化4】
【0138】
AbAの軽鎖の核酸配列を以下に示す。
【0139】
【化5】
【0140】
1実施形態において、本発明は抗体AbBである抗EGFR抗体又はその抗原結合部分に関する。前記AbB抗体は配列番号19のアミノ酸配列を含むCDR3ドメイン、配列番号17のアミノ酸配列を含むCDR2ドメイン及び配列番号16のアミノ酸配列を含むCDR1ドメインを含む重鎖可変領域と、配列番号8のアミノ酸配列を含むCDR3ドメイン、配列番号7のアミノ酸配列を含むCDR2ドメイン及び配列番号6のアミノ酸配列を含むCDR1ドメインとを含む軽鎖可変領域を含む。その他の実施形態において、本発明は配列番号64のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号65のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域をもつ抗体を提供する。
【0141】
1実施形態において、本発明は抗体AbCである抗EGFR抗体又はその抗原結合部分に関する。前記AbC抗体は配列番号4のアミノ酸配列を含むCDR3ドメイン、配列番号3のアミノ酸配列を含むCDR2ドメイン及び配列番号2のアミノ酸配列を含むCDR1ドメインを含む重鎖可変領域と、配列番号8のアミノ酸配列を含むCDR3ドメイン、配列番号7のアミノ酸配列を含むCDR2ドメイン及び配列番号6のアミノ酸配列を含むCDR1ドメインとを含む軽鎖可変領域を含む。その他の実施形態において、本発明は配列番号66のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号67のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域をもつ抗体を提供する。
【0142】
1実施形態において、本発明は抗体AbDである抗EGFR抗体又はその抗原結合部分に関する。前記AbD抗体は配列番号4のアミノ酸配列を含むCDR3ドメイン、配列番号3のアミノ酸配列を含むCDR2ドメイン及び配列番号2のアミノ酸配列を含むCDR1ドメインを含む重鎖可変領域と、配列番号31のアミノ酸配列を含むCDR3ドメイン、配列番号83のアミノ酸配列を含むCDR2ドメイン及び配列番号82のアミノ酸配列を含むCDR1ドメインを含む軽鎖可変領域を含む。その他の実施形態において、本発明は配列番号68のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号69のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域をもつ抗体を提供する。
【0143】
1実施形態において、本発明は抗体AbEである抗EGFR抗体又はその抗原結合部分に関する。前記AbE抗体は配列番号4のアミノ酸配列を含むCDR3ドメイン、配列番号3のアミノ酸配列を含むCDR2ドメイン及び配列番号2のアミノ酸配列を含むCDR1ドメインを含む重鎖可変領域と、配列番号85のアミノ酸配列を含むCDR3ドメイン、配列番号27のアミノ酸配列を含むCDR2ドメイン及び配列番号82のアミノ酸配列を含むCDR1ドメインを含む軽鎖可変領域を含む。その他の実施形態において、本発明は配列番号50のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号51のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域をもつ抗体を提供する。
【0144】
1実施形態において、本発明は抗体AbFである抗EGFR抗体又はその抗原結合部分に関する。前記AbF抗体は配列番号12のアミノ酸配列を含むCDR3ドメイン、配列番号3のアミノ酸配列を含むCDR2ドメイン及び配列番号10のアミノ酸配列を含むCDR1ドメインを含む重鎖可変領域と、配列番号8のアミノ酸配列を含むCDR3ドメイン、配列番号7のアミノ酸配列を含むCDR2ドメイン及び配列番号6のアミノ酸配列を含むCDR1ドメインとを含む軽鎖可変領域を含む。その他の実施形態において、本発明は配列番号52のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号53のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域をもつ抗体を提供する。
【0145】
1実施形態において、本発明は抗体AbGである抗EGFR抗体又はその抗原結合部分に関する。前記AbG抗体は配列番号18のアミノ酸配列を含むCDR3ドメイン、配列番号17のアミノ酸配列を含むCDR2ドメイン及び配列番号16のアミノ酸配列を含むCDR1ドメインを含む重鎖可変領域と、配列番号25のアミノ酸配列を含むCDR3ドメイン、配列番号24のアミノ酸配列を含むCDR2ドメイン及び配列番号23のアミノ酸配列を含むCDR1ドメインを含む軽鎖可変領域を含む。その他の実施形態において、本発明は配列番号72のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号73のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域をもつ抗体を提供する。
【0146】
1実施形態において、本発明は抗体AbHである抗EGFR抗体又はその抗原結合部分に関する。前記AbH抗体は配列番号18のアミノ酸配列を含むCDR3ドメイン、配列番号11のアミノ酸配列を含むCDR2ドメイン及び配列番号80のアミノ酸配列を含むCDR1ドメインを含む重鎖可変領域と、配列番号25のアミノ酸配列を含むCDR3ドメイン、配列番号24のアミノ酸配列を含むCDR2ドメイン及び配列番号23のアミノ酸配列を含むCDR1ドメインを含む軽鎖可変領域を含む。その他の実施形態において、本発明は配列番号54のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号55のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域をもつ抗体を提供する。
【0147】
1実施形態において、本発明は抗体AbJである抗EGFR抗体又はその抗原結合部分に関する。前記AbJ抗体は配列番号18のアミノ酸配列を含むCDR3ドメイン、配列番号3のアミノ酸配列を含むCDR2ドメイン及び配列番号80のアミノ酸配列を含むCDR1ドメインを含む重鎖可変領域と、配列番号25のアミノ酸配列を含むCDR3ドメイン、配列番号24のアミノ酸配列を含むCDR2ドメイン及び配列番号23のアミノ酸配列を含むCDR1ドメインを含む軽鎖可変領域を含む。その他の実施形態において、本発明は配列番号56のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号57のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域をもつ抗体を提供する。
【0148】
1実施形態において、本発明は抗体AbKである抗EGFR抗体又はその抗原結合部分に関する。前記AbK抗体は配列番号19のアミノ酸配列を含むCDR3ドメイン、配列番号11のアミノ酸配列を含むCDR2ドメイン及び配列番号10のアミノ酸配列を含むCDR1ドメインを含む重鎖可変領域と、配列番号28のアミノ酸配列を含むCDR3ドメイン、配列番号27のアミノ酸配列を含むCDR2ドメイン及び配列番号26のアミノ酸配列を含むCDR1ドメインを含む軽鎖可変領域を含む。その他の実施形態において、本発明は配列番号74のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号75のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域をもつ抗体を提供する。
【0149】
1実施形態において、本発明は抗体AbLである抗EGFR抗体又はその抗原結合部分に関する。前記AbL抗体は配列番号18のアミノ酸配列を含むCDR3ドメイン、配列番号11のアミノ酸配列を含むCDR2ドメイン及び配列番号80のアミノ酸配列を含むCDR1ドメインを含む重鎖可変領域と、配列番号28のアミノ酸配列を含むCDR3ドメイン、配列番号27のアミノ酸配列を含むCDR2ドメイン及び配列番号26のアミノ酸配列を含むCDR1ドメインを含む軽鎖可変領域を含む。その他の実施形態において、本発明は配列番号58のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号59のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域をもつ抗体を提供する。
【0150】
1実施形態において、本発明は抗体AbMである抗EGFR抗体又はその抗原結合部分に関する。前記AbM抗体は配列番号12のアミノ酸配列を含むCDR3ドメイン、配列番号11のアミノ酸配列を含むCDR2ドメイン及び配列番号20のアミノ酸配列を含むCDR1ドメインを含む重鎖可変領域と、配列番号28のアミノ酸配列を含むCDR3ドメイン、配列番号27のアミノ酸配列を含むCDR2ドメイン及び配列番号26のアミノ酸配列を含むCDR1ドメインを含む軽鎖可変領域を含む。その他の実施形態において、本発明は配列番号76のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号77のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域をもつ抗体を提供する。
【0151】
1実施形態において、本発明は抗体AbNである抗EGFR抗体又はその抗原結合部分に関する。前記AbN抗体は配列番号12のアミノ酸配列を含むCDR3ドメイン、配列番号3のアミノ酸配列を含むCDR2ドメイン及び配列番号20のアミノ酸配列を含むCDR1ドメインを含む重鎖可変領域と、配列番号28のアミノ酸配列を含むCDR3ドメイン、配列番号27のアミノ酸配列を含むCDR2ドメイン及び配列番号26のアミノ酸配列を含むCDR1ドメインを含む軽鎖可変領域を含む。その他の実施形態において、本発明は配列番号60のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号61のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域をもつ抗体を提供する。
【0152】
1実施形態において、本発明は抗体AbOである抗EGFR抗体又はその抗原結合部分に関する。前記AbO抗体は配列番号12のアミノ酸配列を含むCDR3ドメイン、配列番号11のアミノ酸配列を含むCDR2ドメイン及び配列番号80のアミノ酸配列を含むCDR1ドメインを含む重鎖可変領域と、配列番号28のアミノ酸配列を含むCDR3ドメイン、配列番号27のアミノ酸配列を含むCDR2ドメイン及び配列番号26のアミノ酸配列を含むCDR1ドメインを含む軽鎖可変領域を含む。その他の実施形態において、本発明は配列番号62のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号63のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域をもつ抗体を提供する。
【0153】
1実施形態において、本発明は抗体AbPである抗EGFR抗体又はその抗原結合部分に関する。前記AbP抗体は配列番号22のアミノ酸配列を含むCDR3ドメイン、配列番号3のアミノ酸配列を含むCDR2ドメイン及び配列番号21のアミノ酸配列を含むCDR1ドメインを含む重鎖可変領域と、配列番号31のアミノ酸配列を含むCDR3ドメイン、配列番号30のアミノ酸配列を含むCDR2ドメイン及び配列番号29のアミノ酸配列を含むCDR1ドメインを含む軽鎖可変領域を含む。その他の実施形態において、本発明は配列番号78のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号79のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域をもつ抗体を提供する。
【0154】
1実施形態において、本発明は抗体AbQである抗EGFR抗体又はその抗原結合部分に関する。前記AbQ抗体は配列番号22のアミノ酸配列を含むCDR3ドメイン、配列番号11のアミノ酸配列を含むCDR2ドメイン及び配列番号81のアミノ酸配列を含むCDR1ドメインを含む重鎖可変領域と、配列番号31のアミノ酸配列を含むCDR3ドメイン、配列番号30のアミノ酸配列を含むCDR2ドメイン及び配列番号29のアミノ酸配列を含むCDR1ドメインを含む軽鎖可変領域を含む。その他の実施形態において、本発明は配列番号70のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号71のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域をもつ抗体を提供する。
【0155】
後記実施例で表1に記載するように、Ab1変異体抗体配列はAb1 EGFRエピトープとの結合を改善させるCDR領域に相当するアミノ酸コンセンサス配列を提供する。従って、1実施形態において、本発明は配列番号40に記載のアミノ酸配列を含むCDR3ドメイン、配列番号39に記載のアミノ酸配列を含むCDR2ドメイン及び配列番号38に記載のアミノ酸配列を含むCDR1ドメインを含む軽鎖可変領域と、配列番号37に記載のアミノ酸配列を含むCDR3ドメイン、配列番号36に記載のアミノ酸配列を含むCDR2ドメイン及び配列番号35に記載のアミノ酸配列を含むCDR1ドメインとを含む重鎖可変領域を含む抗EGFR抗体又はその抗原結合部分に関する。
【0156】
1実施形態において、前記抗上皮成長因子受容体(抗EGFR抗)抗体又はその抗原結合部分は、50、52、53、56、58、60、62、64、66及び68から構成される群から選択されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、51、53、55、57、59、61、63、65、67及び69から構成される群から選択されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む。
【0157】
別の実施形態において、本発明の抗EGFR抗体又はその抗原結合部分は、配列番号12、18、19及び22に記載のアミノ酸配列を含むCDR3ドメインと、配列番号11又は17に記載のアミノ酸配列を含むCDR2ドメインと、配列番号10、16、20及び21に記載のアミノ酸配列を含むCDR1ドメインを含む重鎖可変領域と;配列番号8、25、28及び31に記載のアミノ酸配列を含むCDR3ドメインと、配列番号7、24、27及び30に記載のアミノ酸配列を含むCDR2ドメインと、配列番号6、23、26及び29に記載のアミノ酸配列を含むCDR1ドメインを含む軽鎖可変領域を含む。
【0158】
リン酸化及び増殖アッセイの結果、本願に記載する抗体はEGFR介在性リン酸化と腫瘍細胞増殖を阻害することが実証された。例えば、実施例6に記載するように、本発明のEGFR抗体(試験したもの)は腫瘍細胞増殖をインビボで阻害することが分かった。
【0159】
上記抗EGFR抗体CDR配列は、本発明に従って単離され、下表1~3に示すCDR配列を含むポリペプチドを含むEGFR結合タンパク質の新規ファミリーを確立する。
【0160】
hEGFRに対して好ましいEGFR結合及び/又は中和活性をもつCDRを作製及び選択するためには、抗体又はその抗原結合部分を作製してこれらの抗体又はその抗原結合部分のEGFR結合及び/又は中和特性を評価する方法として当分野で公知の標準方法を使用することができ、限定されないが、本願に具体的に記載する方法が挙げられる。
【0161】
ある種の実施形態において、前記抗体はIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA、IgE、IgM又はIgD定常領域等の重鎖定常領域を含む。ある種の実施形態において、前記抗EGFR抗体又はその抗原結合部分は、ヒトIgG定常領域、ヒトIgM定常領域、ヒトIgE定常領域及びヒトIgA定常領域から構成される群から選択される重鎖免疫グロブリン定常領域を含む。その他の実施形態において、前記抗体又はその抗原結合部分は、IgG1重鎖定常領域、IgG2重鎖定常領域、IgG3重鎖定常領域又はIgG4重鎖定常領域を含む。好ましくは、前記重鎖定常領域はIgG1重鎖定常領域又はIgG4重鎖定常領域である。更に、前記抗体はκ軽鎖定常領域又はλ軽鎖定常領域のいずれかの軽鎖定常領域を含むことができる。好ましくは、前記抗体κ軽鎖定常領域を含む。あるいは、前記抗体部分は例えばFabフラグメント又は1本鎖Fvフラグメントとすることができる。
【0162】
ある種の実施形態において、前記抗EGFR抗体結合部分はFab、Fab’、F(ab’)2、Fv、ジスルフィド結合したFv、scFv、シングルドメイン抗体又はダイアボディである。
【0163】
ある種の実施形態において、前記抗EGFR抗体又はその抗原結合部分は、多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)である。
【0164】
ある種の実施形態において、前記抗EGFR抗体又はその抗原結合部分は、配列番号41に記載のアミノ酸配列を含む重鎖定常領域及び/又は配列番号43に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖定常領域を含む。
【0165】
抗体エフェクター機能を改変するようにFc部分のアミノ酸残基を置換することは従来記載されている(本願に援用するWinterら.米国特許第5,648,260号及び5,624,821号)。抗体のFc部分は複数の重要なエフェクター機能に介在し、例えばサイトカイン誘導、ADCC、貪食作用、補体依存性細胞傷害作用(CDC)並びに抗体及び抗原-抗体複合体の半減期/クリアランス速度が挙げられる。これらのエフェクター機能は治療目的に応じて治療用抗体に望ましい場合もあるが、不必要または有害な場合もある。ある種のヒトIgGアイソタイプ、特にIgG1及びIgG3は夫々FcγR及び補体C1qと結合することによりADCC及びCDCに介在する。胎児性Fc受容体(FcRn)は抗体の循環半減期を決定する重要な要素である。更に別の実施形態では、抗体のエフェクター機能を改変するように抗体の定常領域(例えば抗体のFc領域)の少なくとも1個のアミノ酸残基を置換する。
【0166】
本発明の1実施形態は本願に記載する抗体の結合領域(例えばAbAの重鎖及び/又は軽鎖CDR)を含む組換えキメラ抗原受容体(CAR)を包含する。本願に記載するような組換えCARはヒト白血球抗原(HLA)に非依存的にT細胞特異性を抗原に再指向させるために使用することができる。従って、本発明のCARは対象の腫瘍を認識して攻撃するようにヒト対象自身の免疫細胞を改変し易くするために免疫療法で使用することができる(例えばCAR技術に関して各々本願に援用する米国特許第6,410,319号;8,389,282号;8,822,647号;8,906,682号;8,911,993号;8,916,381号;8,975,071号;及び米国特許出願公開第US20140322275号参照。)。この種の免疫療法は養子免疫療法(ACT)と呼ばれ、治療を必要とする対象における癌を治療するために使用することができる。
【0167】
本発明の抗EGFR CARはEGFR(例えばEGFRvIII)に特異的な細胞外抗原結合ドメインと、CARをT細胞に固定するために使用される膜貫通ドメインと、1個以上の細胞内シグナル伝達ドメインを含むことが好ましい。本発明の1実施形態において、前記CARはT細胞受容体のα、β又はζ鎖、CD28、CD3ε、CD45、CD4、CD5、CD8、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137及びCD154から構成される群から選択されるタンパク質の膜貫通ドメインを含む膜貫通ドメインを含む。本発明の1実施形態において、前記CARは共刺激ドメイン(例えばOX40、CD2、CD27、CD28、CD5、ICAM-1、LFA-1(CD11a/CD18)、ICOS(CD278)及び4-1BB(CD137)から構成される群から選択されるタンパク質の機能的シグナル伝達ドメインを含む共刺激ドメイン)を含む。本発明のある種の実施形態において、前記CARは本願に記載するCDR又は可変領域(例えばAbA抗体に由来するCDR又は可変領域)を含むscFvと、膜貫通ドメインと、共刺激ドメイン(例えばCD28又は4-1BBに由来する機能的シグナル伝達ドメイン)と、CD3に由来する機能的シグナル伝達ドメイン(例えばCD3-zeta)を含むシグナル伝達ドメインを含む。
【0168】
ある種の実施形態において、本発明は本願に記載する抗体又は本願に記載するscFvの抗原結合領域(例えばCDR)を含むCARを含むT細胞(CAR T細胞とも言う。)を包含する。
【0169】
本発明のある種の実施形態において、前記CARは配列番号40に記載のアミノ酸配列を含むCDR3ドメイン、配列番号39に記載のアミノ酸配列を含むCDR2ドメイン及び配列番号38に記載のアミノ酸配列を含むCDR1ドメインを含む軽鎖可変領域と、配列番号37に記載のアミノ酸配列を含むCDR3ドメイン、配列番号36に記載のアミノ酸配列を含むCDR2ドメイン及び配列番号35に記載のアミノ酸配列を含むCDR1ドメインとを含む重鎖可変領域を含む。
【0170】
本発明のある種の実施形態において、前記CARは配列番号12に記載のアミノ酸配列を含むCDR3ドメイン、配列番号11に記載のアミノ酸配列を含むCDR2ドメイン及び配列番号10に記載のアミノ酸配列を含むCDR1ドメインを含む重鎖可変領域と、配列番号8に記載のアミノ酸配列を含むCDR3ドメイン、配列番号7に記載のアミノ酸配列を含むCDR2ドメイン及び配列番号6に記載のアミノ酸配列を含むCDR1ドメインを含む軽鎖可変領域を含む。
【0171】
本発明の1実施形態は標識抗EGFR抗体又はその抗体部分を包含し、前記抗体は誘導体化されているか又は1個以上の機能的分子(例えば別のペプチド又はタンパク質)と連結されている。例えば、標識抗体は本発明の抗体又は抗体部分を(別の抗体(例えば二重特異性抗体又はダイアボディ)、検出可能な物質、薬剤、前記抗体もしくは抗体部分と別の分子の会合に介在することができるタンパク質もしくはペプチド(例えばストレプトアビジンコア領域又はポリヒスチジンタグ)、並びに/又は有糸分裂阻害剤、抗腫瘍性抗生物質、免疫調節剤、遺伝子治療用ベクター、アルキル化剤、抗血管新生薬、代謝拮抗剤、ホウ素含有剤、化学療法剤、ホルモン剤、抗ホルモン剤、コルチコステロイド、感光性治療剤、オリゴヌクレオチド、放射性核種剤、トポイソメラーゼ阻害剤、チロシンキナーゼ阻害剤、放射線増感剤及びその組合せから構成される群から選択される細胞毒性剤もしくは治療剤等の1個以上の他の分子体と(化学的カップリング、遺伝子融合、非共有結合的会合又は他の方法により)機能的に連結することにより得ることができる。
【0172】
抗体又はその抗体部分を誘導体化することができる有用な検出可能な物質としては蛍光化合物が挙げられる。検出可能な蛍光物質の例としては、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、5-ジメチルアミン-1-ナフタレンスルホニルクロリド、フィコエリスリン等が挙げられる。アルカリホスファターゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ等の検出可能な酵素で抗体を誘導体化してもよい。検出可能な酵素で抗体を誘導体化する場合には、酵素が検出可能な反応生成物を生成するために使用する他の試薬を加えることにより抗体を検出する。例えば、検出可能な物質として西洋ワサビペルオキシダーゼが存在する場合には、過酸化水素とジアミノベンジジンを加えて検出可能な着色反応生成物を得る。抗体をビオチンで誘導体化し、アビジン又はストレプトアビジンとの結合の間接的測定により検出してもよい。
【0173】
1実施形態では、本発明の抗体を造影剤と結合させる。本願に記載する組成物及び方法で使用することができる造影剤の例としては、限定されないが、放射性標識物質(例えばインジウム)、酵素、蛍光標識物質、発光標識物質、生物発光標識物質、磁気標識物質及びビオチンが挙げられる。
【0174】
1実施形態では、前記抗体又はADCを限定されないが、インジウム(111In)等の放射性標識物質と連結する。111インジウムはEGFR陽性腫瘍の同定用として本願に記載する抗体又はADCを標識するために使用することができる。ある種の実施形態において、本願に記載する抗EGFR抗体(又はADC)は二官能性シクロヘキシルジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)キレートである二官能性キレート剤を介して111Iで標識される(各々本願に援用する米国特許第5,124,471号、5,434,287号及び5,286,850号参照。)。
【0175】
本発明の別の実施形態は前記抗EGFR抗体又はその抗原結合部分に1個以上の糖残基を含むグリコシル化結合性タンパク質を提供する。胎児インビボタンパク質産生は更に翻訳後修飾と呼ばれるプロセシングを受ける場合がある。特に、酵素により糖(グリコシル)残基を付加することができ、グリコシル化と呼ばれるプロセスである。得られたタンパク質はオリゴ糖側鎖が共有結合しており、グリコシル化タンパク質又は糖タンパク質と呼ばれる。抗体はFcドメインと可変ドメインに1個以上の糖残基をもつ糖タンパク質である。Fcドメインの糖残基はFcドメインのエフェクター機能に大きな影響を与えるが、抗体の抗原結合や半減期には殆ど影響を与えない(R.Jefferis,Biotechnol.Prog.21(2005),pp.11-16)。他方、可変ドメインのグリコシル化は抗体の抗原結合活性に影響を与える場合がある。可変ドメインのグリコシル化は恐らく立体障害により抗体結合親和性に負の影響を与える可能性があり(Co,M.S.,et al.,Mol.Immunol.(1993)30:1361-1367)、あるいは抗原との親和性を増す可能性がある(Wallick,S.C.,et al.,Exp.Med.(1988)168:1099-1109;Wright,A.,et al.,EMBO J.(1991)10:2717-2723)。
【0176】
本発明の1態様は結合性タンパク質のO結合型又はN結合型グリコシル化部位を突然変異させたグリコシル化部位突然変異体の作製に関する。当業者は周知標準技術を使用してこのような突然変異体を作製することができる。生物活性を維持しながら結合活性を増減させたグリコシル化部位突然変異体も本発明の目的である。
【0177】
更に別の実施形態では、本発明の抗EGFR抗体又は抗原結合部分のグリコシル化を改変する。例えば、非グリコシル化抗体を作製することができる(即ちこの抗体はグリコシル化されていない)。例えば抗体の抗原との親和性を増すようにグリコシル化を改変することができる。このような糖鎖修飾は例えば抗体配列内の1箇所以上のグリコシル化部位を改変することにより実施することができる。例えば、1箇所以上の可変領域グリコシル化部位を除去することによりこの部位のグリコシル化を排除するように1箇所以上のアミノ酸置換を行うことができる。このような非グリコシル化により抗体の抗原との親和性を増すことができる。このようなアプローチはPCT公開WO2003016466A2、並びに米国特許第5,714,350号及び6,350,861号に更に詳細に記載されており、各々その開示内容全体を本願に援用する。
【0178】
上記に加え、又は上記の代わりに、フコシル残基量の少ない低フコシル化抗体やバイセクティングGlcNAc構造の多い抗体等の改変型グリコシル化タイプをもつ本発明の改変型抗EGFR抗体を作製することができる。このような改変型グリコシル化パターンは抗体のADCC能を増すことが実証されている。このような糖鎖修飾は例えばグリコシル化機序を改変させた宿主細胞で抗体を発現させることにより実施することができる。グリコシル化機序を改変させた細胞は当分野で従来記載されており、グリコシル化を改変させた抗体を産生するように本発明の組換え抗体を発現させる宿主細胞として使用することができる。例えば、各々その開示内容全体を本願に援用するShields,R.L.et al.(2002)J.Biol.Chem.277:26733-26740;Umana et al.(1999)Nat.Biotech.17:176-1並びにヨーロッパ特許第EP1,176,195号;PCT公開WO03/035835;WO99/54342 80参照。
【0179】
タンパク質グリコシル化は着目タンパク質のアミノ酸配列と、タンパク質を発現させる宿主細胞に依存する。生物によって異なるグリコシル化酵素(例えばグリコシルトランスフェラーゼやグリコシダーゼ)が産生され、利用可能な基質(ヌクレオチド糖類)も異なる場合がある。このような要因により、タンパク質グリコシル化パターンとグリコシル残基の組成は特定のタンパク質を発現させる宿主系によって異なる場合がある。本発明で有用なグリコシル残基としては、限定されないが、グルコース、ガラクトース、マンノース、フコース、n-アセチルグルコサミン及びシアリル酸が挙げられる。グリコシル化結合性タンパク質はグリコシル化パターンがヒトのパターンとなるようなグリコシル残基を含むことが好ましい。
【0180】
タンパク質グリコシル化が異なると、タンパク質特性も異なる場合がある。例えば、酵母等の微生物宿主で産生され、酵母内因性経路を利用してグリコシル化された治療用タンパク質の効力はCHO細胞株等の哺乳動物細胞で発現される同一タンパク質と比較して低下する場合がある。このような糖タンパク質は更にヒトにおいて免疫原性となる場合があり、投与後にインビボ半減期が短くなる場合がある。ヒト及び他の動物における特定の受容体は特定のグリコシル残基を認識し、血流からのタンパク質の迅速なクリアランスを助長する場合がある。他の有害な影響としては、タンパク質折畳み、溶解度、プロテアーゼ感受性、トラフィッキング、輸送、区画化、分泌、他のタンパク質もしくは因子による認識、抗原性又はアレルゲン性の変化が挙げられる。従って、実施者は特定のグリコシル化組成及びパターン(例えばヒト細胞又は所期対象動物の種特異的細胞で発現されるものと同一又は少なくとも同様のグリコシル化組成及びパターン)をもつ治療用タンパク質を優先的に選択することができる。
【0181】
宿主細胞とは異なるグリコシル化タンパク質を発現させるには、異種グリコシル化酵素を発現するように宿主細胞を遺伝子改変することにより実施することができる。組換え技術を使用して実施者はヒトタンパク質グリコシル化を示す抗体又はその抗原結合部分を作製することができる。例えば、非天然型グリコシル化酵素を発現するように酵母株が遺伝子改変され、これらの酵母株で産生されるグリコシル化タンパク質(糖タンパク質)が動物細胞、特にヒト細胞と同一のタンパク質グリコシル化を示すように改変されている(米国特許公開第20040018590号及び20020137134号並びにPCT公開WO2005100584A2)。
【0182】
多数の技術のいずれにより抗体を作製してもよい。例えば、重鎖及び軽鎖をコードする発現ベクターを標準技術により宿主細胞にトランスフェクションして宿主細胞から発現させる。「トランスフェクション」なる用語の各種語形は原核又は真核宿主細胞に外来DNAを導入するために広く使用されている多様な技術を包含するものであり、例えばエレクトロポレーション、リン酸カルシウム沈殿法、DEAE-デキストラントランスフェクション等が挙げられる。原核宿主細胞又は真核宿主細胞のどちらでも抗体を発現させることが可能であるが、真核細胞(特に哺乳動物細胞)は原核細胞よりも正しく折り畳まれた免疫学的に活性な抗体を組み立てて分泌する可能性が高いので、真核細胞で抗体を発現させることが好ましく、哺乳動物宿主細胞が最も好ましい。
【0183】
本発明の組換え抗体を発現させるために好ましい哺乳動物宿主細胞としては、チャイニーズハムスター卵巣(CHO細胞)(Urlaub and Chasin,(1980)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77:4216-4220に記載されているdhfr欠損CHO細胞と、例えばR.J.Kaufman and P.A.Sharp(1982)Mol.Biol.159:601-621に記載されているようなDHFR選択マーカーの併用を含む)、NS0ミエローマ細胞、COS細胞及びSP2細胞が挙げられる。抗体遺伝子をコードする組換え発現ベクターを哺乳動物宿主細胞に導入する場合には、宿主細胞における抗体の発現を可能にするため、又はより好ましくは宿主細胞を増殖させる培養培地への抗体の分泌を可能にするために十分な時間にわたって宿主細胞を培養することにより抗体を産生させる。標準タンパク質精製法を使用して培養培地から抗体を回収することができる。
【0184】
FabフラグメントやscFv分子等の機能的抗体フラグメントを作製するために宿主細胞を使用することもできる。当然のことながら、上記手順の変形も本発明の範囲に含まれる。例えば、本発明の抗体の軽鎖及び/又は重鎖のいずれかの機能的フラグメントをコードするDNAを宿主細胞にトランスフェクトすることが望ましい場合がある。着目抗原との結合に必要ない軽鎖及び重鎖の一方又は両方をコードするDNAの一部又は全部を除去するために組換えDNA技術を使用してもよい。このような短縮型DNA分子から発現される分子も本発明の抗体に含まれる。更に、標準化学架橋法により本発明の抗体を第2の抗体と架橋させることにより、一方の重鎖と一方の軽鎖が本発明の抗体であり、他方の重鎖と軽鎖が着目抗原以外の抗原に特異的である2価抗体を作製してもよい。
【0185】
本発明の抗体又はその抗原結合部分の組換え発現に好ましいシステムでは、抗体重鎖と抗体軽鎖の両方をコードする組換え発現ベクターをリン酸カルシウムトランスフェクション法によりdhfr欠損CHO細胞に導入する。組換え発現ベクター内で、遺伝子の高レベル転写を誘導するように抗体重鎖及び軽鎖遺伝子を各々CMVエンハンサー/AdMLPプロモーター調節エレメントと機能的に連結する。メトトレキサート選択/増幅を使用してベクターをトランスフェクトされたCHO細胞の選択を可能にするDHFR遺伝子も組換え発現ベクターに組込む。選択された形質転換宿主細胞を培養し、抗体重鎖及び軽鎖を発現させ、無傷の抗体を培養培地から回収する。標準分子生物学技術を使用して組換え発現ベクターを作製し、宿主細胞にトランスフェクトし、形質転換細胞を選択し、宿主細胞を培養し、培養培地から抗体を回収する。更に、本発明は組換え抗体が合成されるまで宿主細胞を適切な培養培地で培養することにより本発明の組換え抗体を合成する方法を提供する。本発明の組換え抗体は本願に開示するアミノ酸配列に対応する核酸分子を使用して作製することができる。1実施形態では、配列番号86及び/又は87に記載の核酸分子を組換え抗体の作製に使用する。前記方法は更に培養培地から組換え抗体を単離する工程を含むことができる。
【0186】
III.抗EGFR抗体薬物コンジュゲート(ADC)
本願に記載する抗EGFR抗体を薬物部分と結合させて抗EGFR抗体薬物コンジュゲート(ADC)を形成してもよい。抗体薬物コンジュゲート(ADC)は腫瘍関連抗原(例えばEGFRを発現する腫瘍)等の標的組織に1個以上の薬物部分を選択的に送達することができるため、疾患(例えば癌)の治療において抗体の治療効力を増すことができる。従って、ある種の実施形態において、本発明は治療(例えば癌の治療)用の抗EGFR ADCを提供する。
【0187】
本発明の抗EGFR ADCはEGFR抗体(即ちEGFRと特異的に結合する抗体)を1個以上の薬物部分と連結したものである。ADCの特異性は抗体(即ち抗EGFR抗体)の特異性により決定される。1実施形態では、EGFRを発現する形質転換癌細胞に体内で送達される1個以上の細胞毒性薬と抗EGFR抗体を連結する。
【0188】
本発明の抗EGFR ADCで使用することができる薬物の例と、抗体と1個以上の薬物を結合させるために使用することができるリンカーの例を以下に挙げる。「薬物」、「薬剤」及び「薬物部分」なる用語は本願では同義に使用する。「連結」及び「結合」なる用語も本願では同義に使用し、抗体と薬物部分を共有結合させることを意味する。
【0189】
所定の実施形態において、前記ADCは下式(式I):
Ab-(L-D) (I)
で表され、式中、Abは抗体(例えば抗EGFR抗体AbA)であり、(L-D)はリンカー-薬物部分である。リンカー-薬物部分はリンカーであるL-と、例えば標的細胞(例えばEGFRを発現する細胞)に対する細胞増殖抑制作用、細胞傷害作用又は他の治療作用をもつ薬物部分である-Dから構成され、nは1~20の整数である。所定の実施形態において、nは1~8、1~7、1~6、1~5、1~4、1~3、1~2、又は1である。ADCのDARは式Iに記載する「n」と等価である。1実施形態において、前記ADCは式Ab-(L-D)で表され、式中、Abは抗EGFR抗体(例えばAbA)であり、Lはリンカー、例えばバリン-シトルリン(vc)であり、Dは薬物(例えばMMAFやMMAE等のアウリスタチン)であり、nは2~4(DAR2~4に等価)である。本発明のADCで使用することができる薬物(式IのD)及びリンカー(式IのL)と代替ADC構造について以下に更に詳細に説明する。
【0190】
A.抗EGFR ADC:結合用薬物の例
1個以上の薬物を着目細胞(例えばEGFRを発現する癌細胞)に標的送達するためにADCで抗EGFR抗体を使用することができる。本発明の抗EGFR ADCは例えば1個以上の薬物を特定細胞に送達する際に抗癌治療で頻繁に認められる副作用を減らすことができる標的療法を実現する。
【0191】
アウリスタチン
本発明の抗EGFR抗体(例えばAbA抗体)を少なくとも1個のアウリスタチンと結合させてもよい。アウリスタチンは微小管ダイナミクス及びGTP加水分解を妨害して細胞分裂を阻害することにより抗癌作用をもつことが一般に示されている1群のドラスタチンアナログを表す。例えば、アウリスタチンE(米国特許第5,635,483号)は抗癌薬であるビンクリスチンと同一のチューブリン上の部位に結合することによりチューブリン重合を阻害する化合物である海洋天然物ドラスタチン10の合成アナログである(G.R.Pettit,Prog.Chem.Org.Nat.Prod,70:1-79(1997))。ドラスタチン10、アウリスタチンPE及びアウリスタチンEは4種のアミノ酸からなる直鎖ペプチドであり、そのうちの3種はドラスタチン類の化合物に特有である。有糸分裂阻害剤のアウリスタチンサブクラスの具体的な実施形態としては、限定されないが、モノメチルアウリスタチンD(MMADないしアウリスタチンD誘導体)、モノメチルアウリスタチンE(MMAEないしアウリスタチンE誘導体)、モノメチルアウリスタチンF(MMAFないしアウリスタチンF誘導体)、アウリスタチンFフェニレンジアミン(AFP)、アウリスタチンEB(AEB)、アウリスタチンEFP(AEFP)及び5-ベンゾイル吉草酸AEエステル(AEVB)が挙げられる。アウリスタチン誘導体の合成と構造は各々本願に援用する米国特許出願公開第2003-0083263号、2005-0238649号及び2005-0009751号;国際特許公開第WO04/010957号、国際特許公開第WO02/088172号、並びに米国特許第6,323,315号;6,239,104号;6,034,065号;5,780,588号;5,665,860号;5,663,149号;5,635,483号;5,599,902号;5,554,725号;5,530,097号;5,521,284号;5,504,191号;5,410,024号;5,138,036号;5,076,973号;4,986,988号;4,978,744号;4,879,278号;4,816,444号;及び4,486,414号に記載されている。
【0192】
1実施形態では、本発明の抗EGFR抗体(例えばAbA)を少なくとも1個のMMAE(モノメチルアウリスタチンE)と結合させる。モノメチルアウリスタチンE(MMAE,ベドチン)はチューブリンの重合を阻止することにより細胞分裂を阻害する。毒性が非常に強いため、薬物のまま使用することができない。最近の癌治療開発では、癌細胞中の特定のマーカー発現を認識してMMAEをこの癌細胞に誘導するモノクローナル抗体(mAb)と連結されている。1実施形態において、MMAEを抗EGFR抗体に連結するリンカーは細胞外液(即ち細胞の外部の媒体又は環境)中では安定しているが、ADCが特定の癌細胞抗原と結合してこの癌細胞に侵入すると、カテプシンにより切断され、毒性のMMAEを放出し、強力な有糸分裂阻害メカニズムを活性化させる。
【0193】
1実施形態では、本願に記載の抗EGFR抗体(例えばAbA)を少なくとも1個のMMAF(モノメチルアウリスタチンF)と結合させる。モノメチルアウリスタチンF(MMAF)はチューブリンの重合を阻止することにより細胞分裂を阻害する。C末端荷電フェニルアラニン残基をもつため、荷電していないその対応物であるMMAEに比較して細胞傷害活性が低い。毒性が非常に強いため、薬物のまま使用することはできないが、癌細胞に誘導するモノクローナル抗体(mAb)と連結することができる。1実施形態において、抗EGFR抗体とのリンカーは細胞外液中では安定しているが、コンジュゲートが腫瘍細胞に侵入すると、カテプシンにより切断され、有糸分裂阻害メカニズムを活性化させる。
【0194】
MMAF及びMMAEの構造を以下に示す。
【0195】
【化6】
【0196】
更にAbA-vcMMAEの1例を図11に示す。特に、図11は抗体(例えばAbA)を1個の薬物と連結し、従って、DARが1である状況を示す。ある種の実施形態において、前記ADCはDARが2~8、あるいは2~4となる。
【0197】
他の結合用薬物
ADCで使用することができる薬物、即ち本発明の抗EGFR抗体と結合させることができる薬物の例としては、有糸分裂阻害剤、抗腫瘍性抗生物質、免疫調節剤、遺伝子治療用ベクター、アルキル化剤、抗血管新生薬、代謝拮抗剤、ホウ素含有剤、化学療法剤、ホルモン剤、グルココルチコイド、感光性治療剤、オリゴヌクレオチド、放射性同位体、放射線増感剤、トポイソメラーゼ阻害剤、チロシンキナーゼ阻害剤及びその組合せが挙げられる。
【0198】
1.有糸分裂阻害剤
1態様では、癌の治療用ADCを形成するために抗EGFR抗体を1個以上の有糸分裂阻害剤と結合させてもよい。本願で使用する「有糸分裂阻害剤」なる用語は癌細胞に特に重要な生物学的プロセスである有糸分裂又は細胞分裂を阻止する細胞毒性剤及び/又は治療剤を意味する。有糸分裂阻害剤は、多くの場合には微小管重合又は微小管脱重合に作用することにより、細胞分裂を妨害するように微小管を崩壊させる。従って、1実施形態では、チューブリン重合を阻害することにより微小管形成を妨害する1個以上の有糸分裂阻害剤と本発明の抗EGFR抗体を結合させる。1実施形態において、本発明のADCで使用される有糸分裂阻害剤は、Ixempra(イクサベピロン)である。本発明の抗EGFR ADCで使用することができる有糸分裂阻害剤を以下に挙げる。上記アウリスタチンも有糸分裂阻害剤の部類に含まれる。
【0199】
a.ドラスタチン
本発明の抗EGFR抗体を少なくとも1個のドラスタチンと結合させてADCを形成することができる。ドラスタチンはインド洋アメフラシDolabella auriculariaから単離された短いペプチド化合物である(Pettit et al.,J.Am.Chem.Soc.,1976,98,4677参照。)。ドラスタチンの例としてはドラスタチン10とドラスタチン15が挙げられる。ドラスタチン15はDolabella auriculariaに由来する7サブユニットのデプシペプチドであり、同一生物に由来する5サブユニットペプチドである抗チューブリン剤ドラスタチン10と構造的に近縁の強力な有糸分裂阻害剤である。従って、1実施形態において、本発明の抗EGFR ADCは本願に記載するような抗EGFR抗体と、少なくとも1個のドラスタチンを含む。上記アウリスタチンはドラスタチン10の合成誘導体である。
【0200】
b.メイタンシノイド
本発明の抗EGFR抗体を少なくとも1個のメイタンシノイドと結合させてADCを形成することができる。メイタンシノイドは、高等植物であるニシキギ科(Celastraceae)、クロウメモドキ科(Rhamnaceae)及びトウダイグサ科(Euphorbiaceae)と所定種の苔類のメンバーから最初に単離された強力な抗腫瘍剤である(Kupchan et al,J.Am.Chem.Soc.94:1354-1356[1972];Wani et al,J.Chem.Soc.Chem.Commun.390:[1973];Powell et al,J.Nat.Prod.46:660-666[1983];Sakai et al,J.Nat.Prod.51:845-850[1988];及びSuwanborirux et al,Experientia 46:117-120[1990])。メイタンシノイドは、微小管タンパク質であるチューブリンの重合を阻害することにより有糸分裂を阻害し、微小管の形成を妨害することが示唆されている(例えば米国特許第6,441,163号及びRemillard et al.,Science,189,1002-1005(1975)参照。)。メイタンシノイドは、腫瘍細胞増殖を阻害することが細胞培養モデルを使用してインビトロで示されると共に、実験動物システムを使用してインビボでも示されている。更に、メイタンシノイドの細胞毒性は例えばメトトレキサート、ダウノルビシン及びビンクリスチン等の従来の化学療法剤の1,000倍である(例えば米国特許第5,208,020号参照。)。
【0201】
メイタンシノイドとしては、メイタンシン、メイタンシノール、メイタンシノールのC3エステル、並びに他のメイタンシノールアナログ及び誘導体が挙げられる(例えば各々本願に援用する米国特許第5,208,020号及び6,441,163号参照。)。メイタンシノールのC3エステルは天然型でも合成により誘導したものでもよい。更に、天然及び合成C3メイタンシノールエステルはいずれも単純なカルボン酸とのC3エステル又はN-メチル-L-アラニンの誘導体とのC3エステルとして分類することができ、後者のほうが前者よりも細胞毒性が強い。合成メイタンシノイドアナログは例えばKupchan et al.,J.Med.Chem.,21,31-37(1978)に記載されている。
【0202】
本発明のADCで使用するのに適したメイタンシノイドは、天然原料から単離することもできるし、合成により生産することもできるし、半合成的に生産することもできる。更に、メイタンシノイドは、最終的なコンジュゲート分子に十分な細胞毒性が維持される限り、任意の適切な方法で修飾することができる。この点で、メイタンシノイドは、抗体を連結できる適切な官能基をもたない。メイタンシノイドを抗体と連結してコンジュゲートを形成するには連結部分を利用することが望ましく、これについてはセクションIII.Bに詳述する。メイタンシノイドの1例であるメルタンシン(DM1)の構造を以下に示す。
【0203】
【化7】
【0204】
メイタンシノイドの代表例としては、限定されないが、DM1(N’-デアセチル-N’-(3-メルカプト-1-オキソプロピル)メイタンシン;別称メルタンシン、メイタンシノイド薬1;ImmunoGen,Inc.;Chari et al.(1992)Cancer Res 52:127も参照。)、DM2、DM3(N’-デアセチル-N’-(4-メルカプト-1-オキソペンチル)メイタンシン)、DM4((4-メチル-4-メルカプト-1-オキソペンチル)メイタンシン)及びメイタンシノール(合成メイタンシノイドアナログ)が挙げられる。メイタンシノイドの他の例は本願に援用する米国特許第8,142,784号に記載されている。
【0205】
アンサマイトシンは種々の細菌原料から単離された1群のメイタンシノイド抗生物質である。これらの化合物は強力な抗腫瘍活性をもつ。代表例としては、限定されないが、アンサマイトシンP1、アンサマイトシンP2、アンサマイトシンP3及びアンサマイトシンP4が挙げられる。
【0206】
本発明の1実施形態では、抗EGFR抗体を少なくとも1個のDM1と結合させる。1実施形態では、EGFR抗体を少なくとも1個のDM2と結合させる。1実施形態では、抗EGFR抗体を少なくとも1個のDM3と結合させる。1実施形態では、抗EGFR抗体を少なくとも1個のDM4と結合させる。
【0207】
d.植物アルカロイド
本発明の抗EGFR抗体を少なくとも1個の植物アルカロイド(例えばタキサン又はビンカアルカロイド)と結合させてもよい。植物アルカロイドはある種の植物から生産される化学療法薬である。ビンカアルカロイドはニチニチソウ(catharanthus rosea)から生産され、タキサンはタイヘイヨウイチイ(taxus)の樹皮から生産される。ビンカアルカロイド及びタキサンはいずれも抗微小管剤とも呼ばれており、以下に更に詳細に記載する。
【0208】
タキサン
本願に記載する抗EGFR抗体を少なくとも1個のタキサンと結合させてもよい。本願で使用する「タキサン」なる用語は微小管作用のメカニズムをもち、タキサン環構造と細胞増殖抑制作用に必要な立体特異的側鎖を含む構造をもつ類の抗新生物剤を意味する。親水性誘導体と疎水性誘導体の両者を含む種々の公知誘導体も「タキサン」なる用語に含まれる。タキサン誘導体としては、限定されないが、各々本願に援用する国際特許出願第WO99/18113号に記載のガラクトース及びマンノース誘導体;WO99/14209に記載のピペラジノ及び他の誘導体;WO99/09021、WO98/22451及び米国特許第5,869,680号に記載のタキサン誘導体;WO98/28288に記載の6-チオ誘導体;米国特許第5,821,263号に記載のスルフェンアミド誘導体;並びに米国特許第5,415,869号に記載のタキソール誘導体が挙げられる。タキサン化合物はこれまでにいずれも本願に援用する米国特許第5,641,803号、5,665,671号、5,380,751号、5,728,687号、5,415,869号、5,407,683号、5,399,363号、5,424,073号、5,157,049号、5,773,464号、5,821,263号、5,840,929号、4,814,470号、5,438,072号、5,403,858号、4,960,790号、5,433,364号、4,942,184号、5,362,831号、5,705,503号及び5,278,324号にも記載されている。タキサンのその他の例としては、限定されないが、ドセタキセル(Taxotere;Sanofi Aventis)、パクリタキセル(Abraxane又はTaxol;Abraxis Oncology)及びナノ粒子パクリタキセル(ABI-007/Abraxene;Abraxis Bioscience)が挙げられる。
【0209】
1実施形態では、本発明の抗EGFR抗体を少なくとも1個のドセタキセルと結合させる。1実施形態では、本発明の抗EGFR抗体を少なくとも1個のパクリタキセルと結合させる。
【0210】
ビンカアルカロイド
1実施形態では、前記抗EGFR抗体を少なくとも1個のビンカアルカロイドと結合させる。ビンカアルカロイドはチューブリンに作用して微小管の形成を妨害することにより癌細胞の分裂能を阻害する機能をもつ類の細胞周期特異的薬物である。本発明のADCで使用することができるビンカアルカロイドの例としては、限定されないが、ビンデシン硫酸塩、ビンクリスチン、ビンブラスチン及びビノレルビンが挙げられる。
【0211】
2.抗腫瘍性抗生物質
癌の治療用として本発明の抗EGFR抗体を1個以上の抗腫瘍性抗生物質と結合させてもよい。本願で使用する「抗腫瘍性抗生物質」なる用語はDNAに干渉することにより細胞増殖を阻止し、微生物から生産される抗新生物薬を意味する。多くの場合、抗腫瘍性抗生物質はDNA鎖を分解するか又はDNA合成を減速もしくは停止させる。本発明の抗EGFR ADCに含むことができる抗腫瘍性抗生物質の例としては、限定されないが、アクチノマイシン(例えばピロロ[2,1-c][1,4]ベンゾジアゼピン)、アントラサイクリン、カリケアマイシン及びデュオカルマイシンが挙げられ、以下に更に詳細に記載する。
【0212】
a.アクチノマイシン
本発明の抗EGFR抗体を少なくとも1個のアクチノマイシンと結合させてもよい。アクチノマイシンはストレプトマイセス属(Streptomyces)の細菌から単離された抗腫瘍性抗生物質のサブクラスである。アクチノマイシンの代表例としては、限定されないが、アクチノマイシンD(Cosmegen[別称アクチノマイシン、ダクチノマイシン、アクチノマイシンIV、アクチノマイシンC1]、Lundbeck,Inc.)、アントラマイシン、チカマイシンA、DC-81、マゼトラマイシン、ネオトラマイシンA、ネオトラマイシンB、ポロトラマイシン、プロトラカルシンB、SG2285、シバノマイシン、シビロマイシン及びトマイマイシンが挙げられる。1実施形態では、本発明の抗EGFR抗体を少なくとも1個のピロロベンゾジアゼピン(PBD)と結合させる。PBDの例としては、限定されないが、アントラマイシン、チカマイシンA、DC-81、マゼトラマイシン、ネオトラマイシンA、ネオトラマイシンB、ポロトラマイシン、プロトラカルシンB、SG2000(SJG-136)、SG2202(ZC-207)、SG2285(ZC-423)、シバノマイシン、シビロマイシン及びトマイマイシンが挙げられる。従って、1実施形態では、本発明の抗EGFR抗体を少なくとも1個のアクチノマイシン(例えばアクチノマイシンD)又は少なくとも1個のPBD(例えばピロロベンゾジアゼピン(PBD)二量体)と結合させる。
【0213】
PBDの構造は例えば各々その開示内容全体を本願に援用する米国特許出願公開第2013/0028917号及び2013/0028919号、並びにWO2011/130598A1に記載されている。PBDの一般構造を以下に示す。
【0214】
【化8】
【0215】
PBDはその芳香環A及びピロロ環Cの両者における置換基の数、種類及び位置と、C環の飽和度が種々に異なる。B環には、一般にDNAのアルキル化に関与する求電子中心であるN10-C11位にイミン(N=C)、カルビノールアミン(NH-CH(OH))又はカルビノールアミンメチルエーテル(NH-CH(OMe))が存在する。全ての公知天然物はキラルC11α位に(S)配置をもつため、C環からA環に向かって見たときに右にねじれた構造をとる。本願に例示するPBDを本発明の抗EGFR抗体と結合させることができる。本発明の抗EGFR抗体と結合させることができるPBDのその他の例は例えば各々その開示内容全体を本願に援用する米国特許出願公開第2013/0028917A1号及び2013/0028919A1号、米国特許第7,741,319B2号、並びにWO2011/130598A1及びWO2006/111759A1に記載されている。
【0216】
下式IIを有する代表的なPBD二量体を本発明の抗EGFR抗体と結合させることができる。
【0217】
【化9】
式中、Rは式III:
【0218】
【化10】
で表され、式中、AはC5-7アリール基であり、Xは-O-、-S-、-C(O)O-、-C(O)-、-NH(C=O)-、及び-N(R)-[式中、RはH、C1-4アルキル及び(CO)CHから構成される群から選択され、但し、mは1~3である。]から構成される群から選択されるリンカー単位と連結される基であり:
(i)Qは単結合であり、Qは単結合及び-Z-(CH-(式中、Zは単結合、O、S及びNHから構成される群から選択され、nは1~3である。)から構成される群から選択され;あるいは
(ii)Qは-CH=CH-であり、Qは単結合であり;
12はハロ、ニトロ、シアノ、C1-12アルコキシ、C3-20ヘテロシクロアルコキシ、C5-20アリールオキシ、ヘテロアリールオキシ、アルキルアルコキシ、アリールアルコキシ、アルキルアリールオキシ、ヘテロアリールアルコキシ、アルキルヘテロアリールオキシ、C1-7アルキル、C3-7ヘテロシクリル及びビスオキシ-C1-3アルキレンから構成される群から選択される1個以上の置換基で場合により置換されたC5-10アリール基であり;
及びRは独立してH、R、OH、OR、SH、SR、NH、NHR、NRR’、ニトロ、MeSn及びハロから構成される群から選択され;
但し、R及びR’は独立して場合により置換されたC1-12アルキル基、C3-20ヘテロシクリル基及びC5-20アリール基から構成される群から選択され;
はH、R、OH、OR、SH、SR、NH、NHR、NHRR’、ニトロ、MeSn及びハロから構成される群から選択され;
(a)R10はHであり、R11はOH、ORであり、但し、RはC1-4アルキルであり;あるいは
(b)R10とR11はそれらが結合している窒素原子と炭素原子の間に窒素-炭素二重結合を形成し;あるいは
(c)R10はHであり、R11はSOMであり、但し、zは2又は3であり;
11はO、S、NH及び芳香環から構成される群から選択される1個以上のヘテロ原子を鎖中に含んでいてもよいC3-12アルキレン基であり;
Y及びY’はO、S及びNHから構成される群から選択され;
6’、R7’、R9’は夫々R、R及びRと同一の基から選択され、R10’及びR11’はR10及びR11と同一であり、各Mは1価の医薬的に許容可能なカチオンであり、あるいは2つのM基は一緒になって2価の医薬的に許容可能なカチオンとなる。
【0219】
本願で使用する「場合により置換され」なる用語は親基が置換されていなくてもよいし、置換されていてもよいという意味である。
【0220】
特に指定しない限り、本願で使用する「置換」なる用語は親基が1個以上の置換基をもつことを意味する。「置換基」なる用語は本願では従来通りの意味で使用し、親基と共有結合、又は必要に応じて縮合した化学部分を意味する。多様な置換基が周知であり、その形成方法と種々の親基への導入方法も周知である。
【0221】
1-12アルキル:本願で使用する「C1-12アルキル」なる用語は炭素原子数1~12の炭化水素化合物の炭素原子から水素原子を取除くことにより得られる1価部分を意味し、脂肪族でも脂環族でもよく、飽和でも不飽和(例えば部分不飽和、完全不飽和)でもよい。即ち、「アルキル」なる用語は以下に記載するサブクラスであるアルケニル、アルキニル、シクロアルキル等を包含する。
【0222】
飽和アルキル基の例としては、限定されないが、メチル(C)、エチル(C)、プロピル(C)、ブチル(C)、ペンチル(C)、ヘキシル(C)及びヘプチル(C)が挙げられる。
【0223】
飽和直鎖アルキル基の例としては、限定されないが、メチル(C)、エチル(C)、n-プロピル(C)、n-ブチル(C)、n-ペンチル(アミル)(C)、n-ヘキシル(C)及びn-ヘプチル(C)が挙げられる。
【0224】
飽和分岐鎖アルキル基の例としては、イソプロピル(C)、イソブチル(C)、sec-ブチル(C)、tert-ブチル(C)、イソペンチル(C)及びネオペンチル(C)が挙げられる。
【0225】
3-20ヘテロシクリル:本願で使用する「C3-20ヘテロシクリル」なる用語は複素環式化合物の環原子から水素原子を取除くことにより得られる1価部分を意味し、前記部分は環原子数3~20であり、そのうち1~10個が環ヘテロ原子である。各環は環原子数3~7であり、そのうち1~4個が環ヘテロ原子であることが好ましい。
【0226】
この文脈で下付き文字(例えばC3-20、C3-7、C5-6等)は炭素原子であるか又はヘテロ原子であるかに関係なく、環原子数又は環原子数の範囲を表す。例えば、本願で使用する「C5-6ヘテロシクリル」なる用語は環原子数5又は6のヘテロシクリル基を意味する。
【0227】
:アジリジン(C)、アゼチジン(C)、ピロリジン(テトラヒドロピロール)(C)、ピロリン(例えば3-ピロリン、2,5-ジヒドロピロール)(C)、2H-ピロール又は3H-ピロール(イソピロール、イソアゾール)(C)、ピペリジン(C)、ジヒドロピリジン(C)、テトラヒドロピリジン(C)、アゼピン(C);O:オキシラン(C)、オキセタン(C)、オキソラン(テトラヒドロフラン)(C)、オキソール(ジヒドロフラン)(C)、オキサン(テトラヒドロピラン)(C)、ジヒドロピラン(C)、ピラン(C)、オキセピン(C);S:チイラン(C)、チエタン(C)、チオラン(テトラヒドロチオフェン)(C)、チアン(テトラヒドロチオピラン)(C)、チエパン(C);O:ジオキソラン(C)、ジオキサン(C)及びジオキセパン(C);O:トリオキサン(C);N:イミダゾリジン(C)、ピラゾリジン(ジアゾリジン)(C)、イミダゾリン(C)、ピラゾリン(ジヒドロピラゾール)(C)、ピペラジン(C);N:テトラヒドロオキサゾール(C)、ジヒドロオキサゾール(C)、テトラヒドロイソオキサゾール(C)、ジヒドロイソオキサゾール(C)、モルホリン(C)、テトラヒドロオキサジン(C)、ジヒドロオキサジン(C)、オキサジン(C);N:チアゾリン(C)、チアゾリジン(C)、チオモルホリン(C);N:オキサジアジン(C);O:オキサチオール(C)及びオキサチアン(チオキサン)(C);並びにN:オキサチアジン(C)。
【0228】
置換の単環式ヘテロシクリル基の例としては、環状糖類、例えばアラビノフラノース、リキソフラノース、リボフラノース及びキシロフラノース等のフラノース類(C)や、アロピラノース、アルトロピラノース、グルコピラノース、マンノピラノース、グロピラノース、イドピラノース、ガラクトピラノース及びタロピラノース等のピラノース類(C)に由来するものが挙げられる。
【0229】
5-20アリール:本願で使用する「C5-20アリール」なる用語は芳香族化合物の芳香環原子から水素原子を取除くことにより得られる1価部分を意味し、この部分は環原子数3~20である。各環は環原子数5~7が好ましい。
【0230】
この文脈で下付き文字(例えばC3-20、C5-7、C5-6等)は炭素原子であるか又はヘテロ原子であるかに関係なく、環原子数又は環原子数の範囲を表す。例えば、本願で使用する「C5-6アリール」なる用語は環原子数5又は6のアリール基を意味する。
【0231】
1実施形態では、本発明の抗EGFR抗体を下式:
【0232】
【化11】
を有するPBD二量体と結合させることができ、上記構造はPBD二量体であるSG2202(ZC-207)を表し、リンカーLを介して本発明の抗EGFR抗体と結合される。SG2202(ZC-207)は例えばその開示内容全体を本願に援用する米国特許出願公開第2007/0173497号に開示されている。
【0233】
別の実施形態では、図21に示すように薬物リンカーを介してPBD二量体であるSGD-1882を本発明の抗EGFR抗体と結合させる。SGD-1882はその開示内容全体を本願に援用するSutherland et al.(2013)Blood 122(8):1455及び米国特許出願公開第2013/0028919号に開示されている。図21に示すように、mc-val-ala-ジペプチドリンカーを介してPBD二量体であるSGD-1882を抗体と結合させることができる(図21では全体をSGD-1910と称する。)。ある種の実施形態では、本願に開示するような抗EGFR抗体を図21に示すPBD二量体と結合させる。従って、別の実施形態において、本発明は図21に示すようにmc-val-ala-ジペプチドリンカーを介してPBD二量体と結合させた本願に開示するような抗EGFR抗体を包含する。ある種の実施形態において、本発明は配列番号12のアミノ酸配列を含むCDR3ドメイン、配列番号11のアミノ酸配列を含むCDR2ドメイン及び配列番号10のアミノ酸配列を含むCDR1ドメインを含む重鎖可変領域と、配列番号8のアミノ酸配列を含むCDR3ドメイン、配列番号7のアミノ酸配列を含むCDR2ドメイン及び配列番号6のアミノ酸配列を含むCDR1ドメインとを含む軽鎖可変領域を含む抗EGFR抗体を、限定されないが、図21に示すPBD二量体等のPBDと結合させたものを包含する。ある種の実施形態において、本発明は配列番号9に記載のアミノ酸配列により表されるAbAの重鎖可変領域と、配列番号5のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む抗EGFR抗体を、限定されないが、図21の典型的PBD二量体等のPBDと結合させたものを包含する。
【0234】
b.アントラサイクリン
本発明の抗EGFR抗体を少なくとも1個のアントラサイクリンと結合させてもよい。アントラサイクリンはストレプトマイセス属(Streptomyces)の細菌から単離された抗腫瘍性抗生物質のサブクラスである。代表例としては、限定されないが、ダウノルビシン(Cerubidine,Bedford Laboratories)、ドキソルビシン(Adriamycin,Bedford Laboratories;別称ドキソルビシン塩酸塩、ヒドロキシダウノルビシン及びRubex)、エピルビシン(Ellence,Pfizer)及びイダルビシン(Idamycin;Pfizer Inc.)が挙げられる。従って、1実施形態では、本発明の抗EGFR抗体を少なくとも1個のアントラサイクリン(例えばドキソルビシン)に結合させる。
【0235】
c.カリケアマイシン
本発明の抗EGFR抗体を少なくとも1個のカリケアマイシンと結合させてもよい。カリケアマイシンは土壌生物Micromonospora echinosporaに由来するエンジイン抗生物質のファミリーである。カリケアマイシンはDNAの副溝と結合し、2本鎖DNAの切断を引き起こし、他の化学療法剤の100倍の強さで細胞死をもたらす(Damle et al.(2003)Curr Opin Pharmacol 3:386)。本発明で薬物コンジュゲートとして使用することができるカリケアマイシンの製造は米国特許第5,712,374号;5,714,586号;5,739,116号;5,767,285号;5,770,701号;5,770,710号;5,773,001号;及び5,877,296号に記載されている。使用することができるカリケアマイシンの構造類似体としては、限定されないが、γ 、α 、α 、N-アセチル-γ 、PSAG及びθ が挙げられる(Hinman et al.,Cancer Research 53:3336-3342(1993),Lode et al.,Cancer Research 58:2925-2928(1998)並びに米国特許第5,712,374号;5,714,586号;5,739,116号;5,767,285号;5,770,701号;5,770,710号;5,773,001号;及び5,877,296号)。従って、1実施形態では、本発明の抗EGFR抗体を少なくとも1個のカリケアマイシンと結合させる。
【0236】
d.デュオカルマイシン
本発明の抗EGFR抗体を少なくとも1個のデュオカルマイシンと結合させてもよい。デュオカルマイシンはストレプトマイセス属(Streptomyces)の細菌から単離された抗腫瘍性抗生物質のサブクラスである(Nagamura and Saito(1998)Chemistry of Heterocyclic Compounds,Vol.34,No.12参照。)。デュオカルマイシンはDNAの副溝と結合し、N3位のヌクレオ塩基アデニンをアルキル化する(Boger(1993)Pure and Appl Chem 65(6):1123;及びBoger and Johnson(1995)PNAS USA 92:3642)。デュオカルマイシンの合成アナログとしては、限定されないが、アドゼレシン、ビゼレシン及びカルゼレシンが挙げられる。従って、1実施形態では、本発明の抗EGFR抗体を少なくとも1個のデュオカルマイシンに結合させる。
【0237】
e.他の抗腫瘍性抗生物質
上記以外に本発明の抗EGFR ADCで使用することができるその他の抗腫瘍性抗生物質としては、ブレオマイシン(Blenoxane,Bristol-Myers Squibb)、マイトマイシン及びプリカマイシン(別称ミトラマイシン)が挙げられる。
【0238】
3.免疫調節剤
1態様では、本発明の抗EGFR抗体を少なくとも1個の免疫調節剤と結合させてもよい。本願で使用する「免疫調節剤」なる用語は免疫応答を刺激又は調節することができる物質を意味する。1実施形態において、免疫調節剤は対象の免疫応答を強化する免疫刺激剤である。別の実施形態において、免疫調節剤は対象の免疫応答を防止又は抑制する免疫抑制剤である。免疫調節剤は骨髄性細胞(単球、マクロファージ、樹状細胞、巨核球及び顆粒球)又はリンパ細胞(T細胞、B細胞及びナチュラルキラー(NK)細胞)及びその任意の分化細胞を調節することができる。代表例としては、限定されないが、カルメット・ゲラン桿菌(BCG)とレバミゾール(Ergamisol)が挙げられる。本発明のADCで使用することができる免疫調節剤の他の例としては、限定されないが、癌ワクチン、サイトカイン及び免疫調節遺伝子治療が挙げられる。
【0239】
a.癌ワクチン
本発明の抗EGFR抗体を癌ワクチンと結合させてもよい。本願で使用する「癌ワクチン」なる用語は腫瘍特異的免疫応答を誘発する組成物(例えば腫瘍抗原やサイトカイン)を意味する。癌ワクチンを投与することにより、又は本発明の場合には抗EGFR抗体と癌ワクチンを含むADCを投与することにより、対象自身の免疫系から応答を誘発する。好ましい実施形態では、免疫応答の結果として生体内の腫瘍細胞(例えば原発巣又は転移巣腫瘍細胞)が根絶する。癌ワクチンの使用は一般に例えば特定の癌細胞の表面に存在するか又は癌形成を助長することが分かっている特定の感染性物質の表面に存在する特定の抗原又は抗原群を投与するものである。所定の実施形態において、癌ワクチンの使用は予防目的であり、他の実施形態において、その使用は治療目的である。本発明の抗EGFR ADCで使用することができる癌ワクチンの非限定的な例としては、組換え2価ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンタイプ16及び18ワクチン(Cervarix,GlaxoSmithKline)、組換え4価ヒトパピローマウイルス(HPV)タイプ6、11、16及び18ワクチン(Gardasil,Merck & Company)、並びにシプリューセルT(Provenge,Dendreon)が挙げられる。従って、1実施形態では、本発明の抗EGFR抗体を免疫刺激剤又は免疫抑制剤である少なくとも1個の癌ワクチンと結合させる。
【0240】
b.サイトカイン
本発明の抗EGFR抗体を少なくとも1個のサイトカインと結合させてもよい。「サイトカイン」なる用語は一般にある細胞集団により放出され、細胞内メディエーターとして別の細胞に作用するタンパク質を意味する。サイトカインは腫瘍部位の免疫エフェクター細胞と間質細胞を直接刺激し、細胞傷害性エフェクター細胞による腫瘍細胞認識を強化する(Lee and Margolin(2011)Cancers 3:3856)。多数の動物腫瘍モデル試験の結果、サイトカインは広い抗腫瘍活性をもつことが立証されており、癌治療用の多数のサイトカイン療法アプローチに応用されている(Lee and Margoli,前出)。近年では、GM-CSF、IL-7、IL-12、IL-15、IL-18及びIL-21を含む多数のサイトカインが進行癌をもつ患者の臨床試験に入っている(Lee and Margoli,前出)。
【0241】
本発明のADCで使用することができるサイトカインの例としては、限定されないが、副甲状腺ホルモン;サイロキシン;インスリン;プロインスリン;リラキシン;プロリラキシン;卵胞刺激ホルモン(FSH)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)及び黄体形成ホルモン(LH)等の糖タンパク質ホルモン類;肝細胞増殖因子;線維芽細胞増殖因子;プロラクチン;胎盤性ラクトゲン;腫瘍壊死因子;ミュラー管抑制物質;マウスゴナドトロピン関連ペプチド;インヒビン;アクチビン;血管内皮細胞増殖因子;インテグリン;トロンボポエチン(TPO);NGF等の神経成長因子;血小板増殖因子;トランスフォーミング増殖因子(TGF);インスリン様成長因子I及びII;エリスロポエチン(EPO);骨誘導因子;インターフェロンα、β及びγ等のインターフェロン、コロニー刺激因子(CSF);顆粒球マクロファージ-CSF(GM-CSF);顆粒球-CSF(G-CSF);IL-1、IL-1α、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-11、IL-12等のインターロイキン(IL);腫瘍壊死因子;並びにLIF及びキットリガンド(KL)を含む他のポリペプチド因子が挙げられる。本願で使用するサイトカインなる用語は天然原料又は組換え細胞培養に由来するタンパク質と、天然型配列サイトカインの生物学的に活性な等価物を包含する。従って、1実施形態において、本発明は本願に記載する抗EGFR抗体とサイトカインを含むADCを提供する。
【0242】
c.コロニー刺激因子(CSF)
本発明の抗EGFR抗体を少なくとも1個のコロニー刺激因子(CSF)と結合させてもよい。コロニー刺激因子(CSF)は骨髄が赤血球を産生するのを助長する成長因子である。癌治療法(例えば化学療法)によっては(感染と戦う役割をもつ)白血球に影響を与えるものがあるため、白血球値の維持と免疫系の強化を助長するためにコロニー刺激因子を導入することができる。新しい骨髄が白血球の産生を開始し易くするために骨髄移植後にコロニー刺激因子を使用してもよい。本発明の抗EGFR ADCで使用することができるCSFの代表例としては、限定されないが、エリスロポエチン(Epoetin)、フィルグラスチム(Neopogen(別称顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF);Amgen,Inc.)、サルグラモスチム(Leukine(顆粒球マクロファージコロニー刺激因子及びGM-CSF);Genzyme Corporation)、プロメガポエチン及びオプレルベキン(組換えIL-11;Pfizer,Inc.)が挙げられる。従って、1実施形態において、本発明は本願に記載する抗EGFR抗体とCSFを含むADCを提供する。
【0243】
4.遺伝子治療
本発明の抗EGFR抗体を遺伝子治療用に(直接又は担体を介して間接的に)少なくとも1個の核酸と結合させてもよい。遺伝子治療とは一般に遺伝子材料で疾患を治療するように遺伝子材料を細胞に導入することを意味する。遺伝子治療は免疫調節剤に関連するので、対象が癌細胞増殖を抑制又は癌細胞を死滅させる自然治癒力を刺激するために使用される。1実施形態において、本発明の抗EGFR ADCは癌に関連する突然変異又は他の機能低下(例えば短縮型)遺伝子に置換えるために使用される機能的な治療用遺伝子をコードする核酸を含む。他の実施形態において、本発明の抗EGFR ADCは癌を治療するための治療用タンパク質をコードする核酸又はそれ以外でその産生を可能にする核酸を含む。治療用遺伝子をコードする核酸を抗EGFR抗体と直接結合させてもよいし、あるいは担体を介して抗EGFR抗体と結合させてもよい。遺伝子治療用に核酸を送達するために使用できる担体の例としては、限定されないが、ウイルスベクターやリポソームが挙げられる。
【0244】
5.アルキル化剤
本発明の抗EGFR抗体を1個以上のアルキル化剤と結合させてもよい。アルキル化剤はアルキル基をDNAに結合する類の抗新生物性化合物である。本発明のADCで使用することができるアルキル化剤の例としては、限定されないが、アルキルスルホネート、エチレンイミン、メチルアミン誘導体、エポキシド、ナイトロジェンマスタード、ニトロソウレア、トリアジン及びヒドラジンが挙げられる。
【0245】
a.アルキルスルホネート
本発明の抗EGFR抗体を少なくとも1個のアルキルスルホネートと結合させてもよい。アルキルスルホネートは一般式:R-SO-O-Rのアルキル化剤のサブクラスであり、式中、R及びRは典型的にはアルキル基又はアリール基である。アルキルスルホネートの代表例としては、限定されないが、ブスルファン(Myleran,GlaxoSmithKline;Busulfex IV,PDL BioPharma,Inc.)が挙げられる。
【0246】
b.ナイトロジェンマスタード
本発明の抗EGFR抗体を少なくとも1個のナイトロジェンマスタードと結合させてもよい。このサブクラスの抗癌性化合物の代表例としては、限定されないが、クロラムブシル(Leukeran,GlaxoSmithKline)、シクロホスファミド(Cytoxan,Bristol-Myers Squibb;Neosar,Pfizer,Inc.)、エストラムスチン(エストラムスチンリン酸エステルナトリウムないしEstracyt,Pfizer,Inc.)、イホスファミド(Ifex,Bristol-Myers Squibb)、メクロレタミン(Mustargen,Lundbeck Inc.)及びメルファラン(AlkeranないしL-Pamないしフェニルアラニンマスタード;GlaxoSmithKline)が挙げられる。
【0247】
c.ニトロソウレア
本発明の抗EGFR抗体を少なくとも1個のニトロソウレアと結合させてもよい。ニトロソウレアは脂溶性のアルキル化剤のサブクラスである。代表例としては、限定されないが、カルムスチン(BCNU[別称BiCNU,N,N-ビス(2-クロロエチル)-N-ニトロソウレアないし1,3-ビス(2-クロロエチル)-1-ニトロソウレア],Bristol-Myers Squibb)、フォテムスチン(別称Muphoran)、ロムスチン(CCNUないし1-(2-クロロエチル)-3-シクロヘキシル-1-ニトロソウレア、Bristol-Myers Squibb)、ニムスチン(別称ACNU)及びストレプトゾシン(Zanosar,Teva Pharmaceuticals)が挙げられる。
【0248】
d.トリアジン及びヒドラジン
本発明の抗EGFR抗体を少なくとも1個のトリアジン又はヒドラジンと結合させてもよい。トリアジン及びヒドラジンは窒素含有アルキル化剤のサブクラスである。所定の実施形態において、これらの化合物は自然分解し、あるいは代謝させることができ、核酸、ペプチド及び/又はポリペプチドへのアルキル基の移動を助長するアルキルジアゾニウム中間体を生成し、変異原性作用、発癌性作用又は細胞傷害作用を生じる。代表例としては、限定されないが、ダカルバジン(DTIC-Dome,Bayer Healthcare Pharmaceuticals Inc.)、プロカルバジン(Mutalane,Sigma-Tau Pharmaceuticals,Inc.)及びテモゾロミド(Temodar,Schering Plough)が挙げられる。
【0249】
e.他のアルキル化剤
本発明の抗EGFR抗体を少なくとも1個のエチレンイミン、メチルアミン誘導体又はエポキシドと結合させてもよい。エチレンイミンは典型的には少なくとも1個のアジリジン環を含むアルキル化剤のサブクラスである。エポキシドは環原子数が3個のみの環状エーテルとして特徴付けられるアルキル化剤のサブクラスである。
【0250】
エチレンイミンの代表例としては、限定されないが、チオテパ(Thioplex,Amgen)、ジアジコン(別称アジリジニルベンゾキノン(AZQ))及びマイトマイシンCが挙げられる。マイトマイシンCはアジリジン環を含む天然物であり、DNAとの架橋により細胞毒性を誘導すると思われる(Dorr RT,et al.Cancer Res.1985;45:3510;Kennedy KA,et al Cancer Res.1985;45:3541)。メチルアミン誘導体とそのアナログの代表例としては、限定されないが、アルトレタミン(Hexalen,MGI Pharma,Inc.)別称ヘキサメチルアミン及びヘキサスタットが挙げられる。この類の抗癌性化合物のエポキシドの代表例としては、限定されないが、ジアンヒドロガラクチトールが挙げられる。ジアンヒドロガラクチトール(1,2:5,6-ジアンヒドロデュルシトール)はアジリジンと化学的に近縁であり、一般に上記と同様のメカニズムによりアルキル基の移動を助長する。ジブロモデュルシトールは加水分解されてジアンヒドロガラクチトールとなるので、エポキシドのプロドラッグである(Sellei C,et al.Cancer Chemother Rep.1969;53:377)。
【0251】
6.抗血管新生薬
1態様では、本願に記載する抗EGFR抗体を少なくとも1個の抗血管新生薬と結合させる。抗血管新生薬は新しい血管の増殖を阻害する。抗血管新生薬は種々の方法でその効果を発揮する。所定の実施形態において、これらの薬剤は成長因子がその標的に到達するのを妨害する。例えば、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)は細胞表面上の特定の受容体と結合することにより血管新生の開始に関与する主要なタンパク質の1種である。従って、VEGFとその対応する受容体との相互作用を妨げる所定の抗血管新生薬はVEGFが血管新生を開始するのを防ぐ。他の実施形態において、これらの薬剤は細胞内シグナル伝達カスケードを妨害する。例えば、細胞表面上の特定の受容体がトリガされると、他の化学的シグナルのカスケードが開始され、血管の増殖が促進される。従って、例えば細胞増殖に寄与する細胞内シグナル伝達カスケードを助長することが知られているある種の酵素(例えば所定のチロシンキナーゼ)は癌治療の標的である。他の実施形態において、これらの薬剤は細胞間シグナル伝達カスケードを妨害する。更に他の実施形態において、これらの薬剤は細胞増殖を活性化及び促進する特定の標的を不能にし、又は血管細胞の増殖を直接妨害する。多くの直接及び間接的な阻害作用をもつ300種を越える物質で血管新生阻害特性が発見されている。
【0252】
本発明のADCで使用することができる抗血管新生薬の代表例としては、限定されないが、アンギオスタチン、ABX EGF、C1-1033、PKI-166、EGFワクチン、EKB-569、GW2016、ICR-62、EMD55900、CP358、PD153035、AG1478、IMC-C225(Erbitux)、ZD1839(Iressa)、OSI-774、エルロチニブ(tarceva)、アンギオスタチン、アレスチン、エンドスタチン、BAY12-9566単剤及びフルオロウラシル又はドキソルビシンとの併用、カンスタチン、カルボキシアミドトリオゾール単剤及びパクリタキセルとの併用、EMD121974、S-24、ビタキシン、ジメチルキサンテノン酢酸、IM862、インターロイキン-12、インターロイキン-2、NM-3、HuMV833、PTK787、RhuMab、アンギオザイム(リボザイム)、IMC-1C11、Neovastat、マリマスタット、プリノマスタット、BMS-275291、COL-3、MM1270、SU101、SU6668、SU11248、SU5416、パクリタキセルとの併用、ゲムシタビンとの併用、シスプラチン単剤及びイリノテカンとの併用、シスプラチン単剤及び放射線、テコガラン、テモゾロミド及びPEGインターフェロンα2bとの併用、テトラチオモリブデート、TNP-470、サリドマイド、CC-5013単剤及びタキソテールとの併用、タムスタチン、2-メトキシエストラジオール、VEGFトラップ、mTOR阻害剤(デフォロリムス、エベロリムス(Afinitor,Novartis Pharmaceutical Corporation)、及びテムシロリムス(Torisel,Pfizer,Inc.))、チロシンキナーゼ阻害剤(例えばエルロチニブ(Tarceva,Genentech,Inc.)、イマチニブ(Gleevec,Novartis Pharmaceutical Corporation)、ゲフィチニブ(Iressa,AstraZeneca Pharmaceuticals)、ダサチニブ(Sprycel,Brystol-Myers Squibb)、スニチニブ(Sutent,Pfizer,Inc.)、ニロチニブ(Tasigna,Novartis Pharmaceutical Corporation)、ラパチニブ(Tykerb,GlaxoSmithKline Pharmaceuticals)、ソラフェニブ(Nexavar,Bayer and Onyx)、ホスホイノシチド3-キナーゼ(PI3K))が挙げられる。
【0253】
7.代謝拮抗剤
本発明の抗EGFR抗体を少なくとも1個の代謝拮抗剤と結合させてもよい。代謝拮抗剤は細胞内の正常物質に非常によく似た型の化学療法治療薬である。細胞が代謝拮抗剤を細胞内代謝に取込むと、結果は細胞にマイナスとなり、例えば細胞は分裂できなくなる。代謝拮抗剤は妨害する物質に従って分類される。本発明のADCで使用することができる代謝拮抗剤の例としては、限定されないが、以下に詳述するような葉酸拮抗剤(例えばメトトレキサート)、ピリミジン拮抗剤(例えば5-フルオロウラシル、フロクスウリジン、シタラビン、カペシタビン及びゲムシタビン)、プリン拮抗剤(例えば6-メルカプトプリン及び6-チオグアニン)及びアデノシンデアミナーゼ阻害剤(例えばクラドリビン、フルダラビン、ネララビン及びペントスタチン)が挙げられる。
【0254】
a.葉酸拮抗剤
本発明の抗EGFR抗体を少なくとも1個の葉酸拮抗剤と結合させてもよい。葉酸拮抗剤は葉酸と構造的に類似する代謝拮抗剤のサブクラスである。代表例としては、限定されないが、メトトレキサート、4-アミノ葉酸(別称アミノプテリン及び4-アミノプテロイン酸)、ロメトレキソール(LMTX)、ペメトレキセド(Alimpta,Eli Lilly and Company)、及びトリメトレキサート(Neutrexin,Ben Venue Laboratories,Inc.)が挙げられる。
【0255】
b.プリン拮抗剤
本発明の抗EGFR抗体を少なくとも1個のプリン拮抗剤と結合させてもよい。プリンアナログはプリン類として知られるグループの化合物と構造的に類似する代謝拮抗剤のサブクラスである。プリン拮抗剤の代表例としては、限定されないが、アザチオプリン(Azasan,Salix;Imuran,GlaxoSmithKline)、クラドリビン(Leustatin[別称2-CdA],Janssen Biotech,Inc.)、メルカプトプリン(Purinethol[別称6-メルカプトエタノール],GlaxoSmithKline)、フルダラビン(Fludara,Genzyme Corporation)、ペントスタチン(Nipent,別称2’-デオキシコホルマイシン(DCF))、6-チオグアニン(Lanvis[別称チオグアニン],GlaxoSmithKline)が挙げられる。
【0256】
c.ピリミジン拮抗剤
本発明の抗EGFR抗体を少なくとも1個のピリミジン拮抗剤と結合させてもよい。ピリミジン拮抗剤はピリミジン類として知られるグループの化合物と構造的に類似する代謝拮抗剤のサブクラスである。ピリミジン拮抗剤の代表例としては、限定されないが、アザシチジン(Vidaza,Celgene Corporation)、カペシタビン(Xeloda,Roche Laboratories)、シタラビン(別称シトシンアラビノシド及びアラビノシルシトシン,Bedford Laboratories)、デシタビン(Dacogen,Eisai Pharmaceuticals)、5-フルオロウラシル(Adrucil,Teva Pharmaceuticals;Efudex,Valeant Pharmaceuticals,Inc)、5-フルオロ-2’-デオキシウリジン5’-リン酸(FdUMP)、5-フルオロウリジン三リン酸及びゲムシタビン(Gemzar,Eli Lilly and Company)が挙げられる。
【0257】
8.ホウ素含有剤
本発明の抗EGFR抗体を少なくとも1個のホウ素含有剤と結合させてもよい。ホウ素含有剤は細胞増殖を妨害する類の癌治療用化合物である。ホウ素含有剤の代表例としては、限定されないが、ボロフィシンとボルテゾミブ(Velcade,Millenium Pharmaceuticals)が挙げられる。
【0258】
9.化学保護剤
本発明の抗EGFR抗体を少なくとも1個の化学保護剤と結合させてもよい。化学保護薬は化学療法の特定の毒性作用から生体を保護するのに役立つ類の化合物である。投与した化学療法薬で癌細胞を治療できるようにすると同時に化学療法薬の毒性作用から健康な細胞を保護するために種々の化学療法薬と共に化学保護剤を投与することができる。代表的な化学保護剤としては、限定されないが、シスプラチンの累積投与に伴う腎毒性を軽減するために使用されるアミフォスチン(Ethyol,Medimmune,Inc.)、アントラサイクリン(Totect)の投与に起因する血管外漏出の治療と、抗腫瘍性抗生物質ドキソルビシン(Zinecard)の投与に起因する心臓関連合併症の治療に使用されるデクスラゾキサン(Totect,Apricus Pharma;Zinecard)、及びイホスファミドによる化学療法治療中の出血性膀胱炎を予防するために使用されるメスナ(Mesnex,Bristol-Myers Squibb)が挙げられる。
【0259】
10.ホルモン剤
本発明の抗EGFR抗体を少なくとも1個のホルモン剤と結合させてもよい。ホルモン剤(合成ホルモンを含む)は内分泌系の内因的に産生されるホルモンの産生又は活性を妨害する化合物である。所定の実施形態において、これらの化合物は細胞増殖を妨害し、又は細胞毒性作用を生じる。非限定的な例としては、アンドロゲン、エストロゲン、酢酸メドロキシプロゲステロン(Provera,Pfizer,Inc.)及びプロゲスチンが挙げられる。
【0260】
11.抗ホルモン剤
本発明の抗EGFR抗体を少なくとも1個の抗ホルモン剤と結合させてもよい。「抗ホルモン」剤はある種の内因性ホルモンの産生を抑制及び/又は機能を妨害する薬剤である。1実施形態において、抗ホルモン剤はアンドロゲン、エストロゲン、プロゲステロン及びゴナドトロピン放出ホルモンから構成される群から選択されるホルモンの活性を妨害することにより、種々の癌細胞の増殖を妨害する。抗ホルモン剤の代表例としては、限定されないが、アミノグルテチミド、アナストロゾール(Arimidex,AstraZeneca Pharmaceuticals)、ビカルタミド(Casodex,AstraZeneca Pharmaceuticals)、酢酸シプロテロン(Cyprostat,Bayer PLC)、デガレリクス(Firmagon,Ferring Pharmaceuticals)、エキセメスタン(Aromasin,Pfizer Inc.)、フルタミド(Drogenil,Schering-Plough Ltd)、フルベストラント(Faslodex,AstraZeneca Pharmaceuticals)、ゴセレリン(Zolodex,AstraZeneca Pharmaceuticals)、レトロゾール(Femara,Novartis Pharmaceuticals Corporation)、ロイプロリド(Prostap)、ルプロン、酢酸メドロキシプロゲステロン(Provera,Pfizer Inc.)、酢酸メゲストロール(Megace,Bristol-Myers Squibb Company)、タモキシフェン(Nolvadex,AstraZeneca Pharmaceuticals)、及びトリプトレリン(Decapetyl,Ferring)が挙げられる。
【0261】
12.コルチコステロイド
本発明の抗EGFR抗体を少なくとも1個のコルチコステロイドと結合させてもよい。コルチコステロイドは炎症を抑えるために本発明のADCで使用することができる。コルチコステロイドの1例としては、限定されないが、グルココルチコイド、例えばプレドニゾン(Deltasone,Pfizer,Inc.の系列会社であるPharmacia & Upjohn Company )が挙げられる。
【0262】
13.感光性治療剤
本発明の抗EGFR抗体を少なくとも1個の感光性治療剤と結合させてもよい。感光性治療剤とは投与した細胞に特定波長の電磁放射線を照射して死滅させるように構成することができる化合物を包含する。治療に適した化合物は組織に侵入する波長の電磁放射線を吸収する。好ましい実施形態において、前記化合物は十分に活性化されると細胞又は組織に対して毒性となる光化学作用を生じることが可能な非毒性形態で投与される。他の好ましい実施形態において、これらの化合物は癌組織に保持され、正常組織から容易に排出される。非限定的な例としては種々の色素及び染料が挙げられる。
【0263】
14.オリゴヌクレオチド
本発明の抗EGFR抗体を少なくとも1個のオリゴヌクレオチドと結合させてもよい。オリゴヌクレオチドは遺伝情報のプロセシングを妨害することにより作用する短い核酸鎖からなる。所定の実施形態において、ADCで使用されるオリゴヌクレオチドは未修飾の1本鎖及び/又は2本鎖DNA又はRNA分子であり、他の実施形態において、これらの治療用オリゴヌクレオチドは化学的に修飾された1本鎖及び/又は2本鎖DNA又はRNA分子である。1実施形態において、ADCで使用されるオリゴヌクレオチドは比較的短く(19~25ヌクレオチド)、細胞に存在する核酸標的のプール全体において固有の核酸配列とハイブリダイズする。重要なオリゴヌクレオチド技術をいくつか挙げると、アンチセンスオリゴヌクレオチド(RNA干渉(RNAi)を含む)、アプタマー、CpGオリゴヌクレオチド及びリボザイムが挙げられる。
【0264】
a.アンチセンスオリゴヌクレオチド
本発明の抗EGFR抗体を少なくとも1個のアンチセンスオリゴヌクレオチドと結合させてもよい。アンチセンスオリゴヌクレオチドはワトソン・クリックハイブリダイゼーションによりRNAと結合するようにデザインされている。所定の実施形態において、前記アンチセンスオリゴヌクレオチドはEGFRのある領域、ドメイン、部分又はセグメントをコードするポリヌクレオチドに相補的である。所定の実施形態において、前記アンチセンスオリゴヌクレオチドは約5~約100ヌクレオチド、約10~約50ヌクレオチド、約12~約35ヌクレオチド、及び約18~約25ヌクレオチドを含む。所定の実施形態において、前記オリゴヌクレオチドはEGFR遺伝子のある領域、部分、ドメイン又はセグメントに対して少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%又は少なくとも100%相同である。所定の実施形態では、EGFR遺伝子の連続する少なくとも15、20、25、30、35、40、50又は100ヌクレオチドにわたって実質的な配列相同が存在する。好ましい実施形態において、これらのアンチセンスオリゴヌクレオチドのサイズは12~25ヌクレオチド長であり、アンチセンスオリゴヌクレオチドの大半は18~21ヌクレオチド長である。オリゴヌクレオチドが標的RNAと結合したときにRNAの機能を阻害するために利用することができるメカニズムには複数のものがある(Crooke ST.(1999).Biochim.Biophys.Acta,1489,30-42)。最も明確に定義されているアンチセンスメカニズムによると、RNase HやRNA干渉メカニズムに関連するヌクレアーゼ等の内因性細胞内ヌクレアーゼにより標的RNAが切断される。一方、スプライシングや翻訳停止の調節等の非触媒メカニズムにより標的遺伝子の発現を阻害するオリゴヌクレオチドも遺伝子機能の強力且つ選択的なモジュレーターであり得る。
【0265】
最近多くの注目を集めている別のRnase依存性アンチセンスメカニズムはRNAiである(Fire et al.(1998).Nature,391,806-811.;Zamore PD.(2002).Science,296,1265-1269.)。RNA干渉(RNAi)は2本鎖RNAが配列特異的に遺伝子発現を阻害する翻訳後プロセスである。所定の実施形態において、RNAi作用は比較的長い2本鎖RNA(dsRNA)の導入により行われるが、好ましい実施形態において、このRNAi作用は短い2本鎖RNA、例えば短い干渉性RNA(siRNA)及び/又はマイクロRNA(miRNA)の導入により行われる。更に別の実施形態において、RNAiは標的遺伝子に相補的なdsRNAを産生するプラスミドを導入することにより行うこともできる。上記実施形態の各々において、2本鎖RNAは細胞内の特定の標的配列の遺伝子発現を妨害するようにデザインされている。一般に、このメカニズムはリボヌクレアーゼを相同のmRNA標的に誘導する短いRNAにdsRNAを変換し(要旨,Ruvkun,Science 2294:797(2001))、その後、対応する内因性mRNAを分解することにより、遺伝子発現を調節する。特に、dsRNAは抗増殖性をもつため、治療用途での利用も想定できることが報告されている(Aubel et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA 88:906(1991))。例えば、合成dsRNAはマウスにおいて腫瘍増殖を抑制することが示されており(Levy et al.Proc.Nat.Acad.Sci.USA,62:357-361(1969))、白血病マウスの治療で有効であり(Zeleznick et al.,Proc.Soc.Exp.Biol.Med.130:126-128(1969))、マウス皮膚に化学的に誘導した腫瘍形成を阻害する(Gelboin et al.,Science 167:205-207(1970))。従って、好ましい1実施形態において、本発明は乳癌の治療用としてADCにおけるアンチセンスオリゴヌクレオチドの使用を提供する。他の実施形態において、本発明はアンチセンスオリゴヌクレオチド治療を開始するための組成物及び方法として、dsRNAによりEGFRの標的細胞発現をmRNAレベルで妨害する組成物及び方法を提供する。上記で使用するdsRNAとは天然型RNA、部分的に精製されたRNA、組換え生産されたRNA、合成RNA、並びに非標準的なヌクレオチド、非ヌクレオチド材料、ヌクレオチドアナログ(例えばロックト核酸(LNA))、デオキシリボヌクレオチド及びその任意の組合せを含むことにより天然型RNAとは相違する改変型RNAを意味する。本発明のRNAは本願に記載するアンチセンスオリゴヌクレオチドによる調節に介在できるという点で天然型RNAと十分に似ていることだけが必要とされる。
【0266】
b.アプタマー
本発明の抗EGFR抗体を少なくとも1個のアプタマーと結合させてもよい。アプタマーは他の分子との結合能に基づいてランダムプールから選択された核酸分子である。抗体と同様に、アプタマーは非常に強い親和性と特異性で標的分子と結合することができる。多くの実施形態において、アプタマーは標的タンパク質と相互作用できるように複雑で配列依存的な三次元形状をとるため、抗体-抗原相互作用と同様に強く結合した複合体を形成し、このタンパク質の機能を妨害する。アプタマーは特に標的タンパク質と強く特異的に結合することができるため、分子標的治療としての利用可能性が特筆される。
【0267】
c.CpGオリゴヌクレオチド
本発明の抗EGFR抗体を少なくとも1個のCpGオリゴヌクレオチドと結合させてもよい。細菌及びウイルスDNAはヒトにおいて自然免疫と特異的免疫の両者の強力なアクチベーターであることが知られている。これらの免疫学的特徴は細菌DNAに存在するメチル化されていないCpGジヌクレオチドモチーフと関係があるとされている。これらのモチーフはヒトではまれであるため、ヒト免疫系はこれらのモチーフを感染の初期徴候として認識した後、免疫応答を開始する能力を進化させている。従って、抗腫瘍免疫応答を開始するためにこのCpGモチーフを含むオリゴヌクレオチドを利用することができる。
【0268】
d.リボザイム
本発明の抗EGFR抗体を少なくとも1個のリボザイムと結合させてもよい。リボザイムは約40~155ヌクレオチド長の触媒RNA分子である。リボザイムは特定のRNA分子を認識して切断することができるため、治療薬の有力な候補となる。代表例としてはアンギオザイムが挙げられる。
【0269】
15.放射性核種剤(放射性同位体)
本発明の抗EGFR抗体を少なくとも1個の放射性核種剤と結合させてもよい。放射性核種剤は放射性崩壊することができる不安定な核を特徴とする成分を含む。放射性核種治療の成功の基盤は放射性核種が十分な濃度であることと癌細胞に長時間留まることに依存する。他の考慮すべき因子としては、放射性核種の半減期、放出される粒子のエネルギー、及び放出される粒子の最大飛程が挙げられる。好ましい実施形態において、治療剤は111In、177Lu、212Bi、213Bi、211At、62Cu、64Cu、67Cu、90Y、I25I、I31I、32P、33P、47Sc、111Ag、67Ga、142Pr、153Sm、161Tb、166Dy、166Ho、186Re、188Re、189Re、212Pb、223Ra、225Ac、59Fe、75Se、77As、89Sr、99Mo、105Rh、I09Pd、143Pr、149Pm、169Er、194Ir、198Au、199Au及び211Pbから構成される群から選択される放射性核種である。オージェ放出粒子と共に実質的に崩壊する放射性核種も好ましい。例えば、Co-58、Ga-67、Br-80m、Tc-99m、Rh-103m、Pt-109、In-111 1、Sb-119、I-125、Ho-161、Os-189m及びIr-192である。有用なβ粒子放出核種の崩壊エネルギーは好ましくはDy-152、At-211、Bi-212、Ra-223、Rn-219、Po-215、Bi-211、Ac-225、Fr-221、At-217、Bi-213及びFm-255である。有用なα粒子放出放射性核種の崩壊エネルギーは好ましくは2,000~10,000keV、より好ましくは3,000~8,000keV、最も好ましくは4,000~7,000keVである。その他の使用できる可能性のある放射性同位体としては、11C、13N、15O、75Br、198Au、224Ac、126I、133I、77Br、113mIn、95Ru、97Ru、I03Ru、105Ru、107Hg、203Hg、121mTe、122mTe、125mTe、165Tm、I67Tm、168Tm、197Pt、109Pd、105Rh、142Pr、143Pr、161Tb、!66Ho、199Au、57Co、58Co、51Cr、59Fe、75Se、201Tl、225Ac、76Br、I69Yb等が挙げられる。
【0270】
16.放射線増感剤
本発明の抗EGFR抗体を少なくとも1個の放射線増感剤と結合させてもよい。本願で使用する「放射線増感剤」なる用語は放射線増感剤を投与する細胞の電磁放射線感受性を増強するため、及び/又は電磁放射線で治療可能な疾患の治療を促進するために治療有効量を動物に投与される分子、好ましくは低分子量分子として定義される。放射線増感剤は放射線治療に対する癌細胞の感受性を高めるが、一般には正常細胞に対する影響が非常に少ない薬剤である。従って、放射線増感剤は放射性標識抗体又はADCと併用することができる。放射線増感剤を加えると、放射性標識抗体又は抗体フラグメントを単独投与した場合に比較して効力を増強することができる。放射線増感剤はD.M.Goldberg(ed.),Cancer Therapy with Radiolabeled Antibodies,CRC Press(1995)に記載されている。放射線増感剤の例としてはゲムシタビン、5-フルオロウラシル、タキサン及びシスプラチンが挙げられる。
【0271】
放射線増感剤はX線の電磁放射により活性化することができる。X線により活性化される放射線増感剤の代表例としては、限定されないが、メトロニダゾール、ミソニダゾール、デスメチルミソニダゾール、ピモニダゾール、エタニダゾール、ニモラゾール、マイトマイシンC、RSU1069、SR4233、E09、RB6145、ニコチンアミド、5-ブロモデオキシウリジン(BUdR)、5-ヨードデオキシウリジン(IUdR)、ブロモデオキシシチジン、フルオロデオキシウリジン(FUdR)、ヒドロキシ尿素、シスプラチン、並びに治療薬として有効なそのアナログ及び誘導体が挙げられる。あるいは、光線力学療法(PDT)を使用して放射線増感剤を活性化してもよい。光線力学療法用放射線増感剤の代表例としては、限定されないが、ヘマトポルフィリン誘導体、Photofrin(R)、ベンゾポルフィリン誘導体、NPe6、スズエチオポルフィリン(SnET2)、フェオホルビドa、バクテリオクロロフィルa、ナフタロシアニン、フタロシアニン、亜鉛フタロシアニン、並びに治療薬として有効なそのアナログ及び誘導体が挙げられる。
【0272】
17.トポイソメラーゼ阻害剤
本発明の抗EGFR抗体を少なくとも1個のトポイソメラーゼ阻害剤と結合させてもよい。トポイソメラーゼ阻害剤は正常な細胞周期中にDNA鎖のホスホジエステル主鎖の切断と再結合を触媒することによりDNA構造の変化を制御する酵素であるトポイソメラーゼ酵素(トポイソメラーゼI及びII)の作用を妨害するようにデザインされた化学療法剤である。DNAトポイソメラーゼI阻害剤の代表例としては、限定されないが、カンプトテシンとその誘導体であるイリノテカン(CPT-11,Camptosar,Pfizer,Inc.)及びトポテカン(Hycamtin,GlaxoSmithKline Pharmaceuticals)が挙げられる。DNAトポイソメラーゼII阻害剤の代表例としては、限定されないが、アムサクリン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、エピポドフィロトキシン、エリプチシン、エピルビシン、エトポシド、ラゾキサン及びテニポシドが挙げられる。
【0273】
18.チロシンキナーゼ阻害剤
本発明の抗EGFR抗体を少なくとも1個のチロシンキナーゼ阻害剤と結合させてもよい。チロシンキナーゼはリン酸基をアミノ酸チロシンに結合するように機能する細胞内の酵素である。タンパク質チロシンキナーゼが機能できないようにすることにより、腫瘍増殖を抑制することができる。本発明のADCで使用することができるチロシンキナーゼの例としては、限定されないが、アキシチニブ、ボスチニブ、セジラニブ、ダサチニブ、エルロチニブ、ゲフィチニブ、イマチニブ、ラパチニブ、レスタウルチニブ、ニロチニブ、セマキサニブ、スニチニブ及びバンデタニブが挙げられる。
【0274】
19.他の薬剤
本発明のADCで使用することができる他の薬剤の例としては、限定されないが、アブリン(例えばアブリンA鎖)、α毒素、アブラギリ(Aleurites fordii)タンパク質、アマトキシン、クロチン、クルシン、ジアンチンタンパク質、ジフテリア毒素(例えばジフテリアA鎖及びジフテリア毒素の非結合性活性フラグメント)、デオキシリボヌクレアーゼ(Dnase)、ゲロニン、ミトゲリン、モデシンA鎖、ツルレイシ(momordica charantia)阻害剤、ネオマイシン、オンコナーゼ、フェノマイシン、ヨウシュヤマゴボウ(Phytolaca americana)タンパク質(PAPI、PAPII及びPAP-S)、ポークウィード抗ウイルスタンパク質、シュードモナス属(Pseudomonas)内毒素、シュードモナス属(Pseudomonas)外毒素(例えば(緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)由来)外毒素A鎖)、レストリクトシン、リシンA鎖、リボヌクレアーゼ(Rnase)、サボンソウ(sapaonaria officinalis)阻害剤、サポリン、αサルシン、ブドウ球菌腸毒素(Staphylcoccal enterotoxin)A、破傷風毒素、シスプラチン、カルボプラチン及びオキサリプラチン(Eloxatin,Sanofi Aventis)、プロテアソーム阻害剤(例えばPS-341[ボルテゾミブないしVelcade])、HDAC阻害剤(ボリノスタット(Zolinza,Merck & Company,Inc.)、ベリノスタット、エンチノスタット、モセチノスタット及びパノビノスタット)、COX-2阻害剤、置換尿素、熱ショックタンパク質阻害剤(例えばゲルダナマイシンとその多数のアナログ)、副腎皮質抑制剤、並びにトリコテセン(例えばWO93/21232参照。)が挙げられる。その他の薬剤としては、アスパラギナーゼ(Espar,Lundbeck Inc.)、ヒドロキシ尿素、レバミゾール、ミトタン(Lysodren,Bristol-Myers Squibb)及びトレチノイン(Renova,Valeant Pharmaceuticals Inc.)も挙げられる。
【0275】
なお、本発明の抗EGFR ADCで使用することができるものとして上記に挙げた群の薬物部分は例示した薬物が2種以上の分類に含まれる場合もあるという点で限定的ではなく、例えばアンサミトシンは有糸分裂阻害剤であると同時に抗腫瘍性抗生物質でもある。
【0276】
上記薬物部分の全ての立体異性体、即ちDのキラル炭素におけるR配置とS配置のあらゆる組合せも本発明の化合物に含まれる。
【0277】
本願に記載する抗EGFR抗体と上記薬剤(即ち抗体と結合していない状態の薬剤)を併用療法で使用してもよい。1実施形態では、癌を治療するために抗EGFR抗体又はADCを上記薬剤のいずれかと併用療法で併用し、その場合、抗EGFR抗体又はADCの投与前、投与と同時又は投与後に前記薬剤を対象に投与する。
【0278】
B.抗EGFR ADC:リンカーの例
抗EGFR ADCは抗EGFR抗体と少なくとも1個の薬物を含み、前記抗体と前記少なくとも1個の薬剤をリンカーにより結合させる。本願で使用する「リンカー」なる用語は2価でも3価以上でもよく、抗体を薬物部分に結合するために使用される化学部分を意味する。リンカーは連結成分を1個含むものでもよいし、複数の成分を含むものでもよい。
【0279】
例えば、前記リンカーは例えば抗体の活性部位の遮蔽を避けるため又はADCの溶解度を改善するために薬物連結を延長する部分であるスペーサーを含むことができる。リンカーの成分の他の例としてはストレッチャー単位とアミノ酸単位が挙げられる。
【0280】
薬物を抗体と結合させる方法としては、酵素切断不能なマレイミドリンカー又は単純な切断可能なジスルフィドリンカーを介する鎖間システインジスルフィドの還元アルキル化と、切断可能な直鎖アミノ酸によるリジンのアシル化の2種類の方法が広く使用されている。
【0281】
1態様において、リンカーは抗体を薬物部分と共有結合させる。抗体及び薬物と結合するための反応性官能基をもつリンカーを使用してADCを作製する。例えば、抗体のシステインチオール又はアミン(例えばN末端又はリジン等のアミノ酸側鎖)はリンカーの官能基と結合を形成することができる。
【0282】
1態様において、リンカーは抗体上に存在する遊離システインと反応して共有結合を形成することが可能な官能基をもつ。このような反応性官能基の非限定的な例としては、マレイミド、ハロアセトアミド、α-ハロアセチル、スクシンイミドエステル、4-ニトロフェニルエステル、ペンタフルオロフェニルエステル、テトラフルオロフェニルエステル等の活性化エステル、酸無水物、酸塩化物、スルホニルクロリド、イソシアネート及びイソチオシアネートが挙げられる。例えばKlussman,et al(2004),Bioconjugate Chemistry 15(4):765-773の766頁の結合法を参照されたい。
【0283】
所定の実施形態において、リンカーは抗体上に存在する求電子基と反応することが可能な官能基をもつ。このような求電子基の例としては、限定されないが、アルデヒド基とケトンカルボニル基が挙げられる。所定の実施形態において、前記リンカーの反応性官能基のヘテロ原子は抗体上の求電子基と反応し、抗体単位と共有結合を形成することができる。このような反応性官能基の非限定的な例としては、限定されないが、ヒドラジド、オキシム、アミノ、ヒドラジン、チオセミカルバゾン、ヒドラジンカルボキシレート及びアリールヒドラジドが挙げられる。
【0284】
リンカー成分の例としては、6-マレイミドカプロイル、マレイミドプロパノイル(「MP」)、バリン-シトルリン(「val-cit」ないし「vc」)、アラニン-フェニルアラニン(「ala-phe」)、p-アミノベンジルオキシカルボニル(「PAB」)、N-スクシンイミジル4-(2-ピリジルチオ)ペンタノエート(「SPP」)及び4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1カルボキシレート(「MCC」)が挙げられる。
【0285】
1態様では、マレイミドカプロイル(「mc」)、バリン-シトルリン(val-citないし「vc」)及びPABA(別称「mc-vc-PABAリンカー」)を含むリンカーを介して抗EGFR抗体をアウリスタチン(例えばMMAE)と結合させる。マレイミドカプロイルは抗EGFR抗体とのリンカーとして機能し、切断できない。val-citはリンカーのアミノ酸単位であるジペプチドであり、プロテアーゼ、特にプロテアーゼカテプシンBによりリンカーを切断することができる。従って、リンカーのval-cit成分は細胞内環境に暴露されると、ADCからアウリスタチンを放出する手段となる。リンカー内でp-アミノベンジルアルコール(PABA)はスペーサーとして機能し、自壊性であるため、MMAEを放出することができる。mc-vc-PABA-MMAEリンカーの構造を図11に示す。
【0286】
適切なリンカーとしては、例えば切断可能なリンカーと切断不能なリンカーが挙げられる。リンカーは薬物の放出を容易にする「切断可能なリンカー」とすることができる。切断可能なリンカーの非限定的な例としては、(例えばヒドラゾンを含む)酸感受性リンカー、プロテアーゼ感受性(例えばペプチダーゼ感受性)リンカー、光感受性リンカー又はジスルフィド含有リンカーが挙げられる(Chari et al.,Cancer Research 52:127-131(1992);米国特許第5,208,020号)。切断可能なリンカーは一般に細胞内条件下で切断され易い。適切な切断可能なリンカーとしては、例えばリソソームプロテアーゼ又はエンドソームプロテアーゼ等の細胞内プロテアーゼにより切断可能なペプチドリンカーが挙げられる。典型的な実施形態において、前記リンカーはバリン-シトルリン(val-cit)又はフェニルアラニン-リジン(phe-lys)リンカー等のジペプチドリンカーとすることができる。
【0287】
リンカーは治療に有効であるために十分な程度に細胞外で安定であることが好ましい。細胞内に輸送又は送達する前にADCは安定し、無傷のままであること、即ち抗体が薬物部分と結合した状態に保たれることが好ましい。標的細胞の外側で安定なリンカーが一旦細胞の内側に入ると、所定の有効な速度で切断することができる。従って、有効なリンカーは(i)抗体の特異的結合性を維持し;(ii)薬物部分の送達、例えば細胞内送達を可能にし;(iii)薬物部分の治療効果、例えば細胞毒性効果を維持する。
【0288】
1実施形態において、リンカーはリンカーが切断されると、治療に有効であるために十分に抗体から薬物が細胞内環境に放出されるように、細胞内条件下で切断可能である。所定の実施形態において、前記切断可能なリンカーはpH感受性であり、即ち所定のpH値での加水分解に感受性である。一般に、前記pH感受性リンカーは酸性条件下で加水分解性である。例えば、リソソームにおいて加水分解性の酸感受性リンカー(例えばヒドラゾン、セミカルバゾン、チオセミカルバゾン、cis-アコニットアミド、オルトエステル、アセタール、ケタール等)を使用することができる(例えば米国特許第5,122,368号;5,824,805号;5,622,929号;Dubowchik and Walker,1999,Pharm.Therapeutics 83:67-123;Neville et al.,1989,Biol.Chem.264:14653-14661参照。)。このようなリンカーは血液中のような中性pH条件下で比較的安定であるが、リソソームの近似pHであるpH5.5又は5.0未満では不安定である。ある種の実施形態において、前記加水分解性リンカーはチオエーテルリンカー(例えばアシルヒドラゾン結合を介して治療剤と結合したチオエーテル)である(例えば米国特許第5,622,929号参照。)。
【0289】
他の実施形態において、前記リンカーは還元条件下で切断可能である(例えばジスルフィドリンカー)。種々のリンカーが当分野で公知であり、例えばSATA(N-スクシンイミジル-5-アセチルチオアセテート)、SPDP(N-スクシンイミジル-3-(2-ピリジルジチオ)プロピオネート)、SPDB(N-スクシンイミジル-3-(2-ピリジルジチオ)ブチレート)及びSMPT(N-スクシンイミジルオキシカルボニル-α-メチル-α-(2-ピリジルジチオ)トルエン)、SPDB及びSMPTを使用して形成できるものが挙げられる。(例えばThorpe et al.,1987,Cancer Res.47:5924-5931;Wawrzynczak et al.,In Immunoconjugates:Antibody Conjugates in Radioimagery and Therapy of Cancer(C.W.Vogel ed.,Oxford U.Press,1987)参照。米国特許第4,880,935号も参照。)。
【0290】
所定の実施形態において、前記リンカーは細胞内環境(例えばリソソーム又はエンドソーム又はカベオラ内)に存在する切断剤(例えば酵素)により切断可能である。前記リンカーは例えば細胞内ペプチダーゼ又はプロテアーゼ酵素(限定されないが、リソソーム又はエンドソームプロテアーゼ)により切断可能なペプチドリンカーである。所定の実施形態において、前記ペプチドリンカーは少なくとも2アミノ酸長又は少なくとも3アミノ酸長である。切断剤としては、カテプシンB及びDとプラスミンが挙げられ、いずれもジペプチド薬物誘導体を加水分解して活性な薬物を標的細胞の内側に放出することが知られている(例えばDubowchik and Walker,1999,Pharm.Therapeutics 83:67-123参照。)。EGFRを発現する細胞に存在する酵素により切断可能なペプチドリンカーが最も一般的である。このようなリンカーの例は例えばその開示内容全体を全目的で本願に援用する米国特許第6,214,345号に記載されている。特定の1実施形態において、細胞内プロテアーゼにより切断可能なペプチドリンカーはVal-Citリンカー又はPhe-Lysリンカーである(例えばval-citリンカーによるドキソルビシンの合成について記載している米国特許第6,214,345号参照。)。治療剤の細胞内タンパク分解放出を使用する1つの利点は治療剤をコンジュゲートにすると一般に低濃度になり、コンジュゲートの血清安定性が一般に高いという点である。
【0291】
他の実施形態において、前記リンカーはマロネートリンカー(Johnson et al.,1995,Anticancer Res.15:1387-93)、マレイミドベンゾイルリンカー(Lau et al.,1995,Bioorg-Med-Chem.3(10):1299-1304)、又は3’-N-アミドアナログ(Lau et al.,1995,Bioorg-Med-Chem.3(10):1305-12)である。
【0292】
更に他の実施形態において、前記リンカー単位は切断不能であり、例えば抗体分解により薬物を放出する。その開示内容全体を本願に援用する米国公開第20050238649号参照。切断不能なリンカーを含むADCは、ADCが実質的に細胞の外側に維持され、標的細胞表面の所定の受容体と相互作用し、ADCの結合により特定の細胞内シグナル伝達経路を開始(又は防止)するようにデザインすることができる。
【0293】
所定の実施形態において、前記リンカーは実質的に親水性のリンカー(例えばPEG4Mal及びスルホ-SPDB)である。親水性リンカーはMDR(多剤耐性)又は機能的に同様のトランスポーターにより耐性癌細胞から薬物が押し出される程度を弱めるために使用することができる。
【0294】
他の実施形態において、リンカーは切断されると細胞成長及び/又は細胞増殖を直接又は間接的に抑制するように機能する。例えば、所定の実施形態において、前記リンカーは切断されるとインターカレート剤として機能することができ、高分子生合成(例えばDNA複製、RNA転写、及び/又はタンパク質合成)を阻害する。
【0295】
他の実施形態において、前記リンカーは隣接細胞へのリンカー-薬物及び/又は薬物単独の拡散によりバイスタンダー殺傷(隣接細胞の殺傷)を助長するようにデザインされる。他の実施形態において、前記リンカーは細胞内移行を促進する。
【0296】
立体障害のあるジスルフィドが存在することにより、特定のジスルフィド結合の安定性を増し、ADCの力価を上げることができる。従って、1実施形態において、前記リンカーは立体障害のあるジスルフィド結合を含む。立体障害のあるジスルフィドとは特定の分子環境内に存在するジスルフィド結合を意味し、このような環境は一般には同一分子又は化合物内の原子がジスルフィド結合の還元を阻止又は少なくとも部分的に抑制するような特定の空間配置又は向きに配置されていることを特徴とする。従って、嵩高な(又は立体障害をもたらす)化学部分及び/又は嵩高なアミノ酸側鎖がジスルフィド結合に近接して存在すると、ジスルフィド結合の還元の原因となる潜在的相互作用にジスルフィド結合が加わるのを阻止又は少なくとも部分的に抑制する。
【0297】
特に、上記リンカー種は相互に限定的ではない。例えば、1実施形態において、本願に記載する抗EGFR ADCで使用されるリンカーは細胞内移行を促進する切断不能なリンカーである。
【0298】
所定の実施形態において、前記ADCは下式(式I):
Ab-(L-D) (I)
を有するもの又はその医薬的に許容可能な塩もしくは溶媒和物であり、式中、Abは抗体(例えば抗EGFR抗体AbA)であり、(L-D)はリンカー-薬物部分である。リンカー-薬物部分はリンカーであるL-と、例えば標的細胞(例えばEGFRを発現する細胞)に対する細胞増殖抑制作用、細胞傷害作用又は他の治療作用をもつ薬物部分である-Dから構成され、nは1~20の整数である。
【0299】
所定の実施形態において、nは1~8、1~7、1~6、1~5、1~4、1~3、1~2又は1である。
【0300】
所定の実施形態において、-D部分は同一である。更に別の実施形態において、-D部分は相互に異なる。
【0301】
上記のように、リンカーは単一の部分でもよいし、2以上の成分を含むものでもよい。従って、所定の実施形態において、前記ADCは下式(II):
Ab-(A-W-Y-D) (II)
を有するもの又はその医薬的に許容可能な塩もしくは溶媒和物であり、式中、Abは抗体(例えば抗EGFR抗体AbA)であり、-A-W-Y-は3成分以上を含むリンカー(L)であり、-A-は場合により存在するストレッチャー単位であり、aは0又は1であり、各-W-は独立してアミノ酸単位(又は所定の実施形態ではグルクロニド単位、米国公開番号2012/0107332A1も参照。)であり、wは0~12の整数であり、-Y-は自壊性スペーサー単位であり、yは0、1又は2であり、-Dは例えば標的細胞(例えばEGFRを発現する細胞)に対する細胞増殖抑制作用、細胞傷害作用又は他の治療作用をもつ薬物部分であり、nは1~20の整数である。
【0302】
所定の実施形態において、リンカー成分は抗体を別のリンカー成分又は薬物部分と連結する「ストレッチャー単位」(A)を含む。ストレッチャー単位の非限定的な例を以下に示す(但し、波線は抗体、薬物又はその他のリンカー成分との共有結合部位を示す)。
【0303】
【化12】
【0304】
ストレッチャー単位(A)が存在する場合には、抗体をアミノ酸単位(-W-)(存在する場合)、スペーサー単位(-Y-)(存在する場合)、又は薬物(-D)と連結することができる(式II参照。)。本願に記載する抗EGFR抗体に自然に又は化学的操作により存在させることができる有用な官能基としては、限定されないが、スルフヒドリル基、アミノ基、ヒドロキシル基、糖鎖のアノマーヒドロキシル基、及びカルボキシル基が挙げられる。適切な官能基はスルフヒドリル基とアミノ基である。1例において、スルフヒドリル基は抗EGFR抗体の分子内ジスルフィド結合の還元により生成することができる。別の実施形態において、スルフヒドリル基は抗EGFR抗体のリジン部分のアミノ基を2-イミノチオラン(トラウト試薬)又は他のスルフヒドリル基生成試薬と反応させることにより生成することができる。ある種の実施形態において、前記抗EGFR抗体は組換え抗体であり、1個以上のリジン部分をもつように作製される。ある種の他の実施形態において、前記組換え抗EGFR抗体は更にスルフヒドリル基(例えば更にシステイン)をもつように作製される。
【0305】
1実施形態において、前記ストレッチャー単位は前記抗体の硫黄原子と結合を形成する。硫黄原子は抗体のスルフヒドリル基に由来することができる。本実施形態の代表的なストレッチャー単位は下記のような式IIIa及びIIIbの大括弧の内側に示される。
【0306】
【化13】
式中、L-、-W-、-Y-、-D、w及びyは上記の通りであり、R17は-C-C10アルキレン-、-C-C10アルケニレン-、-C-C10アルキニレン-、カルボシクロ-、-O-(C-Cアルキレン)-、O-(C-Cアルケニレン)-、-O-(C-Cアルキニレン)-、-アリーレン-、-C-C10アルキレン-アリーレン-、-C-C10アルケニレン-アリーレン、-C-C10アルキニレン-アリーレン、アリーレン-C-C10アルキレン-、-アリーレン-C-C10アルケニレン-、-アリーレン-C-C10アルキニレン-、-C-C10アルキレン-(カルボシクロ)-、-C-C10アルケニレン-(カルボシクロ)-、C-C10アルキニレン-(カルボシクロ)-、-(カルボシクロ)-C-C10アルキレン-、-(カルボシクロ)-C-C10アルケニレン-、-(カルボシクロ)-C-C10アルキニレン、-ヘテロシクロ-、-C-C10アルキレン-(ヘテロシクロ)-、-C-C10アルケニレン-(ヘテロシクロ)-、-C-C10アルキニレン-(ヘテロシクロ)-、-(ヘテロシクロ)-C-C10アルキレン-、-(ヘテロシクロ)-C-C10アルケニレン-、-(ヘテロシクロ)-C-C10アルキニレン-、-(CHCHO)-又は-(CHCHO)-CH-から選択され、rは1~10の整数であり、単独又は別の基の一部としての前記アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、アリール基、炭素環基、カルボシクロ基、ヘテロシクロ基及びアリーレン基は場合により置換されている。所定の実施形態において、単独又は別の基の一部としての前記アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、アリール基、炭素環基、カルボシクロ基、ヘテロシクロ基及びアリーレン基は置換されていない。所定の実施形態において基、R17は-C-C10アルキレン-、-カルボシクロ-、-O-(C-Cアルキレン)-、-アリーレン-、-C-C10アルキレン-アリーレン-、-アリーレン-C-C10アルキレン-、-C-C10アルキレン-(カルボシクロ)-、-(カルボシクロ)-C-C10アルキレン-、-C-Cヘテロシクロ-、-C-C10アルキレン-(ヘテロシクロ)-、-(ヘテロシクロ)-C-C10アルキレン-、-(CHCHO)-及び-(CHCHO)-CH-から選択され、rは1~10の整数であり、前記アルキレン基は置換されておらず、その他の基は場合により置換されている。
【0307】
ストレッチャー単位の1例は下記のようにR17が-(CH-である式IIIaの単位である(U.S.8,309,093も参照。)。
【0308】
ストレッチャー単位の別の例は下記のように式IIIa中、R17が-(CHCHO)-CH-であり、rが2であるものである(本願に援用するU.S.8,309,093も参照。)。
【0309】
【化14】
【0310】
ストレッチャー単位の別の例は式IIIa中、R17がアリーレン-又はアリーレン-C-C10アルキレン-であるものである。所定の実施形態において、前記アリール基は置換されていないフェニル基である。更に、ストレッチャー単位の別の例は下記のように式IIIb中、R17が-(CH-であるものである(本願に援用するU.S.8,309,093も参照。)。
【0311】
【化15】
【0312】
ある種の実施形態において、前記ストレッチャー単位は抗EGFR抗体単位の硫黄原子とストレッチャー単位の硫黄原子の間のジスルフィド結合を介して抗EGFR抗体と連結されている。本実施形態の代表的なストレッチャー単位は式IV(下記参照、更に本願に援用するU.S.8,309,093も参照。)の大括弧の内側に示され、式中、R17、L-、-W-、-Y-、-D、w及びyは上記の通りである。
【0313】
【化16】
【0314】
なお、文脈により特に指定しない限り、下式(本願に援用するU.S.8,309,093も参照。)のS部分は抗体の硫黄原子を表す。
【0315】
【化17】
【0316】
更に他の実施形態において、前記ストレッチャーは抗体の第1級又は第2級アミノ基と結合を形成することができる反応性部位を含む。これらの反応性部位の例としては、限定されないが、スクシンイミドエステル、4-ニトロフェニルエステル、ペンタフルオロフェニルエステル、テトラフルオロフェニルエステル等の活性化エステル、酸無水物、酸塩化物、スルホニルクロリド、イソシアネート及びイソチオシアネートが挙げられる。本実施形態の代表的なストレッチャー単位は式Va及びVb(下記参照(本願に援用するU.S.8,309,093も参照。))の大括弧の内側に示され、式中、R17、L-、-W-、-Y-、-D、w及びyは上記の通りである。
【0317】
【化18】
【0318】
所定の実施形態において、前記ストレッチャーは抗体上に存在させることができる修飾糖鎖の(-CHO)基に対して反応性の反応性部位を含む。例えば、過ヨウ素酸ナトリウム等の試薬を使用して糖鎖を温和に酸化させ、Kaneko et al.,1991,Bioconjugate Chem.2:133-41に記載されているもの等のヒドラジド、オキシム、第1級又は第2級アミン、ヒドラジン、チオセミカルバゾン、ヒドラジンカルボキシレート及びアリールヒドラジド等の官能基を含むストレッチャーと得られた酸化糖鎖の(-CHO)単位をを縮合させることができる。本実施形態の代表的なストレッチャー単位は式VIa、VIb及びVIc(下記参照(本願に援用するU.S.8,309,093も参照。))の大括弧の内側に示され、式中、R17、L-、-W-、-Y-、-D、w及びyは上記の通りである。
【0319】
【化19】
【0320】
所定の実施形態において、リンカー成分は「アミノ酸単位」(W)を含む。所定のこのような実施形態において、前記アミノ酸単位はプロテアーゼによるリンカーの切断を可能にし、リソソーム酵素等の細胞内プロテアーゼに暴露されると、イムノコンジュゲートから薬物を放出し易くなる(Doronina et al.(2003)Nat.Biotechnol.21:778-784)。アミノ酸単位の例としては、限定されないが、ジペプチド、トリペプチド、テトラペプチド及びペンタペプチドが挙げられる。ジペプチドの例としては、限定されないが、バリン-シトルリン(vcないしval-cit)、アラニン-フェニルアラニン(afないしala-phe)、フェニルアラニン-リジン(fkないしphe-lys)、フェニルアラニン-ホモリジン(phe-homolys)、及びN-メチル-バリン-シトルリン(Me-val-cit)が挙げられる。トリペプチドの例としては、限定されないが、グリシン-バリン-シトルリン(gly-val-cit)とグリシン-グリシン-グリシン(gly-gly-gly)が挙げられる。アミノ酸単位は天然型アミノ酸及び/又は微量アミノ酸及び/又はシトルリン等の非天然型アミノ酸アナログであるアミノ酸残基を含むことができる。アミノ酸単位は特定の酵素(例えば腫瘍関連プロテアーゼ、カテプシンB、C及びD、又はプラスミンプロテアーゼ)により酵素切断されるようにデザインし、最適化することができる。
【0321】
1実施形態において、前記アミノ酸単位Wはバリン-シトルリン(vcないしval-cit)である。別の態様において、前記アミノ酸単位はフェニルアラニン-リジン(即ちfk)である。アミノ酸単位の更に別の態様において、前記アミノ酸単位はN-メチル-バリン-シトルリンである。更に別の態様において、前記アミノ酸単位は5-アミノ吉草酸、ホモフェニルアラニン-リジン、テトライソキノリンカルボキシレート-リジン、シクロヘキシルアラニン-リジン、イソニペコチン酸-リジン、βアラニン-リジン、グリシン-セリン-バリン-グルタミン及びイソニペコチン酸である。
【0322】
あるいは、所定の実施形態において、-W-はグルクロニド単位であり、ストレッチャー単位とスペーサー単位が存在する場合にはストレッチャー単位をスペーサー単位に連結し、スペーサー単位が存在しない場合にはストレッチャー単位を薬物部分に連結し、ストレッチャー単位とスペーサー単位が存在しない場合にはリンカー単位を薬物に連結する。グルクロニド単位はβ-グルクロニダーゼ酵素により切断することができる部位を含む(本願に援用するUS2012/0107332も参照。)。所定の実施形態において、前記グルクロニド単位は下記のような式のグリコシド結合(-O’-)を介して自壊性基(Z)と連結された糖部分(Su)を含む(本願に援用するUS2012/0107332も参照。)。
【0323】
【化20】
【0324】
グリコシド結合(-O’-)は典型的にはヒトリソソームβ-グルクロニダーゼにより切断可能な結合等のβ-グルクロニダーゼ切断部位である。グルクロニド単位に関連して「自壊性基」なる用語は、2又は3個の分離した化学部分(即ち(グリコシド結合を介して)糖部分と、(直接又はスペーサー単位を介して間接的に)薬物部分と、所定の実施形態では(直接又はストレッチャー単位を介して間接的に)リンカーと)を共有結合させて安定な分子にすることが可能な二官能性又は三官能性の化学部分を意味する。自壊性基は糖部分との結合が切断されると、第1の化学部分(例えばスペーサー単位又は薬物単位)から自然に分離する。
【0325】
所定の実施形態において、前記糖部分(Su)はピラノース等の環状ヘキソース又はフラノース等の環状ペントースである。所定の実施形態において、前記ピラノースはグルクロニド又はヘキソースである。前記糖部分は通常ではβ-D配座である。特定の1実施形態において、前記ピラノースはβ-D-グルクロニド部分(即ちβ-グルクロニダーゼにより切断可能なグリコシド結合を介して自壊性基-Z-と連結されたβ-D-グルクロン酸)である。所定の実施形態において、前記糖部分は置換されていない(例えば天然型環状ヘキソース又は環状ペントース)。他の実施形態において、前記糖部分は置換のβ-D-グルクロニド(即ち水素、ヒドロキシル、ハロゲン、硫黄、窒素又は低級アルキル等の1個以上の基で置換されたグルクロン酸)とすることができる。
【0326】
所定の実施形態において、前記グルクロニド単位は下記のような式の一方を有する(本願に援用するUS2012/0107332も参照。)。
【0327】
【化21】
式中、Suは糖部分であり、グリコシド結合はSuと自壊性基Zの間に酸素結合を含み、各Rは独立して水素、ハロ(例えばクロロ、ブロモ、フルオロ等)、-CN、-NO、又は他の電子吸引基もしくは電子供与基であり、但し、グルクロニド単位(特にZ)はグリコシド結合が切断されると、自壊する。所定の実施形態において、各Rは独立して水素、ハロ(例えばクロロ、ブロモ、フルオロ等)、-CN又は-NOである。
【0328】
所定の実施形態において、前記グルクロニド単位は下記のような式の一方を有する(本願に援用するUS2012/0107332も参照。)。
【0329】
【化22】
式中、Suは糖部分であり、グリコシド結合(-O’-)はSuと自壊性基Zの間に酸素結合を含み、各Rは独立して水素である。
【0330】
所定の実施形態において、前記自壊性基(Z)は糖部分と、(直接又はスペーサー単位を介して間接的に)薬物と、(直接又はストレッチャー単位を介して間接的に)リンカーとに共有結合している。所定の実施形態において、薬物リンカーコンジュゲートは下記のような式を有する(本願に援用するUS2012/0107332も参照。)。
【0331】
【化23】
式中、Su、O’、Z、Y、y、D、A及びaは本願に記載する通りである。典型的にはこのような薬物-リンカーコンジュゲート1~20個をリンカーと連結することができる。
【0332】
所定の実施形態において、前記グルクロニド単位を含むADCは下記のような式の一方で表され(本願に援用するUS2012/0107332も参照。)、式中、Su、Y、y、D、A、a及びLは本願に記載する通りである。
【0333】
【化24】
【0334】
所定の実施形態において、前記グルクロニド単位を含むADCは下記のような式で表され(本願に援用するUS2012/0107332も参照。)、式中、Y、y、D、A、a及びLは本願に記載する通りである。
【0335】
【化25】
【0336】
所定の実施形態において、前記グルクロニド単位を含むADCは下記のような式で表され(本願に援用するUS2012/0107332も参照。)、式中、Y、y、D及びLは本願に記載する通りである。
【0337】
【化26】
【0338】
所定の実施形態において、前記グルクロニド単位を含むADCは下記のような式で表され(本願に援用するUS2012/0107332も参照。)、式中、Y、y、D及びLは本願に記載する通りである。
【0339】
【化27】
【0340】
所定の実施形態において、前記グルクロニド単位を含むADCは下記のような式で表され(US2012/0107332A1も参照。)、式中、Dは本願に記載する通りであり、mAbはモノクローナル抗体である。
【0341】
【化28】
【0342】
スペーサー単位(-Y-)が存在する場合でアミノ酸単位が存在する場合には、前記スペーサー単位は前記アミノ酸単位(又はグルクロニド単位、本願に援用するUS2012/0107332も参照。)を薬物部分に連結する。あるいは、アミノ酸単位が存在しない場合には、スペーサー単位はストレッチャー単位を薬物部分に連結する。アミノ酸単位とストレッチャー単位のどちらも存在しない場合には、スペーサー単位は薬物単位を抗体単位に連結することもできる。
【0343】
スペーサー単位は一般に非自壊性又は自壊性の2種類がある。非自壊性スペーサー単位はアミノ酸単位(又はグルクロニド単位)が抗体薬物コンジュゲートから特に酵素により切断された後にスペーサー単位の一部又は全部が薬物部分と結合した状態に保たれるものである。非自壊性スペーサー単位の例としては、限定されないが、(グリシン-グリシン)スペーサー単位とグリシンスペーサー単位が挙げられる(いずれも下記スキーム1で表される(本願に援用するU.S.8,309,093も参照。))。
【0344】
【化29】
【0345】
グリシン-グリシンスペーサー単位又はグリシンスペーサー単位を含むコンジュゲートが酵素(例えば腫瘍細胞関連プロテアーゼ、癌細胞関連プロテアーゼ又はリンパ球関連プロテアーゼ)により酵素切断されると、グリシン-グリシン-薬物部分又はグリシン-薬物部分はL-A-W-から切断される。1実施形態では、標的細胞内で独立した加水分解反応が生じ、グリシン-薬物部分の結合が切断され、薬物が放出される。
【0346】
所定の実施形態において、非自壊性スペーサー単位(-Y-)は-Gly-である。所定の実施形態において、非自壊性スペーサー単位(-Y-)は-Gly-Gly-である。
【0347】
1実施形態では、スペーサー単位が不在である(y=0)薬物-リンカーコンジュゲート又はその医薬的に許容可能な塩もしくは溶媒和物を提供する。
【0348】
あるいは、自壊性スペーサー単位を含むコンジュゲートは薬物部分を放出させることができる。自壊性スペーサー単位は第1の部分との結合が切断されると、第2の化学部分から自然に分離する。
【0349】
所定の実施形態において、-Y-はフェニレン部分がQで置換されたp-アミノベンジルアルコール(PAB)単位であり、但し、Qは-C-Cアルキル、-C-Cアルケニル、-C-Cアルキニル、-O-(C-Cアルキル)、-O-(C-Cアルケニル)、-O-(C-Cアルキニル)、-ハロゲン、-ニトロ又は-シアノであり、mは0~4の整数である。単独又は別の基の一部としての前記アルキル基、アルケニル基及びアルキニル基は場合により置換されていてもよい。
【0350】
所定の実施形態において、-Y-はPAB基であり、PAB基のアミノ窒素原子を介して-W-と連結されると共に、カーボネート基、カルバメート基又はエーテル基を介して-Dと直接結合している。特定の理論又はメカニズムに拘泥するものではないが、下記スキーム2(U.S.8,309,093も参照。)はToki et al.,2002,J.Org.Chem.67:1866-1872により記載されているようにカルバメート基又はカーボネート基を介して-Dと直接結合したPAB基の予想される薬物放出メカニズムを示す。
【0351】
【化30】
【0352】
スキーム2において、Qは-C-Cアルキル、-C-Cアルケニル、-C-Cアルキニル、-O-(C-Cアルキル)、-O-(C-Cアルケニル)、-O-(C-Cアルキニル)、-ハロゲン、-ニトロ又は-シアノであり、mは0~4の整数であり、pは1~約20である。単独又は別の基の一部としての前記アルキル基、アルケニル基及びアルキニル基は場合により置換されていてもよい。
【0353】
自壊性スペーサーの他の例としては、限定されないが、PAB基と電子的に類似する芳香族化合物が挙げられ、例えば2-アミノイミダゾール-5-メタノール誘導体(Hay et al.,1999,Bioorg.Med.Chem.Lett.9:2237)及びオルト又はパラアミノベンジルアセタールが挙げられる。アミド結合が加水分解すると環化するスペーサーを使用することができ、例えば、置換及び非置換の4-アミノ酪酸アミド(Rodrigues et al.,1995,Chemistry Biology 2:223)、適切に置換されたビシクロ[2.2.1]及びビシクロ[2.2.2]環系(Storm et al.,1972,J.Amer.Chem.Soc.94:5815)並びに2-アミノフェニルプロピオン酸アミド(Amsberry et al.,1990,J.Org.Chem.55:5867)が挙げられる。グリシンのα位を置換されたアミン含有薬物の脱離(Kingsbury et al.,1984,J.Med.Chem.27:1447)も自壊性スペーサーの例である。
【0354】
1態様において、スペーサー単位(-Y-)は式(X)-(XII)(下記参照(U.S.8,309,093も参照。))により表され、式中、Qは-C-Cアルキル、-C-Cアルケニル、-C-Cアルキニル、-O-(C-Cアルキル)、-O-(C-Cアルケニル)、-O-(C-Cアルキニル)、-ハロゲン、-ニトロ又は-シアノであり、mは0~4の整数である。
【0355】
【化31】
【0356】
自壊性スペーサーの他の例としては、限定されないが、PAB基と電子的に類似する芳香族化合物が挙げられ、例えば2-アミノイミダゾール-5-メタノール誘導体(例えばHay et al.,1999,Bioorg.Med.Chem.Lett.9:2237参照。)及びオルト又はパラアミノベンジルアセタールが挙げられる。アミド結合が加水分解すると環化するスペーサーを使用することができ、例えば、置換及び非置換の4-アミノ酪酸アミド(例えばRodrigues et al.,1995,Chemistry Biology 2:223参照。)、適切に置換されたビシクロ[2.2.1]及びビシクロ[2.2.2]環系(例えばStorm et al.,1972,J.Amer.Chem.Soc.94:5815参照。)並びに2-アミノフェニルプロピオン酸アミド(例えばAmsberry et al.,1990,J.Org.Chem.55:5867参照。)が挙げられる。グリシンのα位を置換されたアミン含有薬物の脱離(例えばKingsbury et al.,1984,J.Med.Chem.27:1447参照。)も自壊性スペーサーの例である。
【0357】
他の適切なスペーサー単位はその開示内容を本願に援用する米国特許出願公開第2005-0238649号に開示されている。
【0358】
ADCの作製の別のアプローチは抗EGFR抗体を薬物部分に連結するヘテロ二官能性架橋剤を使用する方法である。使用することができる架橋剤の例としては、N-スクシンイミジル4-(5-ニトロ-2-ピリジルジチオ)ペンタノエート又は高水溶性アナログであるN-スルホスクシンイミジル4-(5-ニトロ-2-ピリジルジチオ)ペンタノエート、N-スクシンイミジル-4-(2-ピリジルジチオ)ブチレート(SPDB)、N-スクシンイミジル-4-(5-ニトロ-2-ピリジルジチオ)ブチレート(SNPB)及びN-スルホスクシンイミジル-4-(5-ニトロ-2-ピリジルジチオ)ブチレート(SSNPB)、N-スクシンイミジル-4-メチル-4-(5-ニトロ-2-ピリジルジチオ)ペンタノエート(SMNP)、N-スクシンイミジル-4-(5-N,N-ジメチルカルボキサミド-2-ピリジルジチオ)ブチレート(SCPB)又はN-スルホスクシンイミジル4-(5-N,N-ジメチルカルボキサミド-2-ピリジルジチオ)ブチレート(SSCPB)が挙げられる。本発明の抗体は架橋剤であるN-スクシンイミジル4-(5-ニトロ-2-ピリジルジチオ)ペンタノエート、N-スルホスクシンイミジル4-(5-ニトロ-2-ピリジルジチオ)ペンタノエート、SPDB、SNPB、SSNPB、SMNP、SCPB又はSSCPBで修飾することができ、その後、チオール部分を含むやや過剰の特定の薬物と反応させると、優れた収率でADCが得られる。架橋剤は下記のような式の化合物が好ましい(本願に援用する米国特許第6,913,748も参照。)。
【0359】
【化32】
式中、R、R、R及びRは同一又は異なり、H、メチル、エチル、又は炭素原子数3~6の直鎖、分岐鎖もしくは環状アルキル基であり、nは0又は1~4の整数であり、X及びYは同一又は異なりH、CONR又はNOであり、但し、XとYが同時にHであることはなく、R及びRは同一又は異なり、各々H、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、イソブチル又はtert-ブチルであり、ZはSO 又はHであり、但し、Mは金属イオン又はテトラアルキルアンモニウムイオンを表し、但し、X及び/又はYがNOであるとき、ZはH以外のものである。その他のヘテロ二官能性架橋剤とこのような架橋剤を使用したADCの作製方法は特に本願に援用する米国特許第6,913,748号に記載されている。
【0360】
1実施形態では、抗EGFR抗体を薬物に結合してADCを形成するために荷電リンカー(別称プロチャージリンカー)を使用する。荷電リンカーとしては、細胞プロセシング後に荷電状態となるリンカーが挙げられる。細胞プロセシング後に特定のADCのリンカー又は薬物に荷電基が存在すると、複数の利点が得られ、例えば(i)ADCの水溶解度が高くなり、(ii)水溶液中の濃度を上げて操作でき、(iii)抗体1個当たり多数の薬物分子を連結できるので、潜在的に力価が高くなり、(iv)荷電コンジュゲート種を標的細胞の内側に維持することが可能になるので、力価が高くなり、(v)多剤耐性細胞の感受性が改善され、荷電薬物種を細胞から運び出せなくなる。所定の適切な荷電又はプロチャージ架橋剤の例とその合成は米国特許第8,236,319号の図1~10に示されており、本願に援用する。荷電又はプロチャージ架橋剤はADC、特に2~20個の薬物を結合させたADCの溶解度を有意に上昇させるスルホネート、ホスフェート、カルボキシル又は第4級アミン置換基を含むものが好ましい。プロチャージ部分を含むリンカーから作製したコンジュゲートはコンジュゲートが細胞内で代謝された後に1個以上の荷電部分を生成する。
【0361】
別の実施形態において、本発明のADCは下記のような式を有するリンカーを含む(本願に援用する米国特許第8,236,319も参照。)。
【0362】
【化33】
式中、Y’は抗体との反応を可能にする官能基を表し;Qはジスルフィド、チオエーテル、チオエステル、ペプチド、ヒドラゾン、エステル、エーテル、カルバメート又はアミド結合を介して薬物との連結を可能にする官能基を表し;R、R、R、R、R、R、R、R、R及びR10は同一又は異なり、H、炭素原子数1~6の直鎖アルキル基、炭素原子数3~6の分岐鎖もしくは環状アルキル基、炭素原子数2~6の直鎖、分岐鎖もしくは環状アルケニル基もしくはアルキニル基、限定されないが、SO 、X-SO 、OPO 2-、X-OPO 2-、PO 2-、X-PO 2-、CO-等のアニオン、限定されないが、窒素含有複素環、N111213もしくはX-N111213等のカチオン又はフェニルであり、但し、R11、R12及びR13は同一又は異なり、H、炭素原子数1~6の直鎖アルキル基又は炭素原子数3~6の分岐鎖もしくは環状アルキル基であり、Xはフェニル又は炭素原子数1~6の直鎖アルキル基又は炭素原子数3~6の分岐鎖もしくは環状アルキル基を表し;l、m及びnは0又は1~4の整数であり;Aはフェニル又は置換のフェニルであり、置換基は炭素原子数1~6の直鎖アルキル基、又は炭素原子数3~6の分岐鎖もしくは環状アルキル基、又は限定されないが、SO 、X-SO 、OPO 2-、X-OPO 2-、PO 2-、X-PO 2-、CO-等のアニオンと、限定されないが、窒素含有複素環、N111213もしくはX-N111213等のカチオンから選択される荷電置換基であり、なお、Xは上記と同義であり;gは0又は1であり;Zは場合により存在する式(OCHCH(式中、pは0又は2~約1000の整数である。)のポリエチレンオキシ単位又はF1-E1-P-E2-F2であり、式中、E1及びE2は同一又は異なり、C=O、O又はNR14であり、但し、R14はH、炭素原子数1~6の直鎖アルキル基、炭素原子数3~6の分岐鎖もしくは環状アルキル基、炭素原子数2~6の直鎖、分岐鎖もしくは環状アルケニル基もしくはアルキニル基であり;Pは2~20アミノ酸長のペプチド単位であり、E1又はE2は末端窒素、末端炭素又はペプチドのアミノ酸の1個の側鎖を介してペプチドと連結することができ;F1及びF2は同一又は異なり、場合により存在する式(OCHCH(式中、pは0又は2~約1000の整数である。)のポリエチレンオキシ単位であり、但し、ZがF1-E1-P-E2-F2以外のものであるとき、R、R、R、R、R、R、R、R、R及びR10の少なくとも1個は荷電置換基であり、あるいはgが1であるとき、A、R、R、R、R、R、R、R、R、R及びR10の少なくとも1個は荷電置換基である。
【0363】
前記組成物及び方法で使用することができるリンカーのその他の例としては、バリン-シトルリン、マレイミドカプロイル、アミノ安息香酸、p-アミノベンジルカルバモイル(PAB)、リソソーム酵素で切断可能なリンカー、マレイミドカプロイル-ポリエチレングリコール(MC(PEG)6-OH)、N-メチル-バリン-シトルリン、N-スクシンイミジル4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート(SMCC)、N-スクシンイミジル4-(2-ピリジルジチオ)ブタノエート(SPDB)、及びN-スクシンイミジル4-(2-ピリジルチオ)ペンタノエート(SPP)が挙げられる(US2011/0076232も参照。)。本発明で使用される別のリンカーとしては、アビジン-ビオチン含有ADCを提供するためのアビジン-ビオチン結合が挙げられ(米国特許第4,676,980号、PCT公開番号WO1992/022332A2、WO1994/016729A1、WO1995/015770A1、WO1997/031655A2、WO1998/035704A1、WO1999/019500A1、WO2001/09785A2、WO2001/090198A1、WO2003/093793A2、WO2004/050016A2、WO2005/081898A2、WO2006/083562A2、WO2006/089668A1、WO2007/150020A1、WO2008/135237A1、WO2010/111198A1、WO2011/057216A1、WO2011/058321A1、WO2012/027494A1及びEP77671B1も参照。)、所定のこのようなリンカーはビオチニダーゼ切断に耐性である。本発明で使用することができるその他のリンカーとしては、コヘシン・ドックリンを含むADCを提供するためのコヘシン/ドックリン対が挙げられる(PCT公開番号WO2008/097866A2、WO2008/097870A2、WO2008/103947A2及びWO2008/103953A2参照。)。
【0364】
本発明で使用されるその他のリンカーは非ペプチドポリマーを含むことができる(例としては、限定されないが、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチル化ポリオール、ポリビニルアルコール、多糖類、デキストラン、ポリビニルエチルエーテル、PLA(ポリ(乳酸))、PLGA(ポリ(乳酸-グリコール酸))及びその組合せが挙げられ、好ましいポリマーはポリエチレングリコールである。)(PCT公開番号WO2011/000370も参照。)。その他のリンカーもWO2004-010957、米国公開第20060074008号、米国公開第20050238649号、及び米国公開第20060024317号に記載されており、各々その開示内容全体を本願に援用する。
【0365】
メイタンシノイドを含むADCでは、連結部分を化学的に連結するための位置としてメイタンシノイド上の多数の位置を利用することができる。1実施形態において、メイタンシノイドは、反応性化学基を含む連結部分を含み、前記連結部分がジスルフィド結合を含み、前記化学反応基がN-スクシンイミジル又はN-スルホスクシンイミジルエステルを含むメイタンシノールとそのアナログのC3エステルである。例えば、ヒドロキシル基をもつC3位、ヒドロキシメチル基で修飾されたC14位、ヒドロキシ基で修飾されたC15位及びヒドロキシ基をもつC20位はいずれも有用である。連結部分はメイタンシノールのC3位に連結されることが最も好ましい。
【0366】
リンカーを介して薬物を抗体に結合させるのは当分野で公知の任意技術により実施することができる。薬物とリンカーを抗体と共有結合させるには多数の異なる反応が利用可能である。これはリジンのアミン基、グルタミン酸及びアスパラギン酸の遊離カルボン酸基、システインのスルフヒドリル基並びに芳香族アミノ酸の種々の部分を含む抗体のアミノ酸残基の反応により実施することができる。最も広く使用されている非特異的な共有結合法の1つはカルボジイミド反応により化合物のカルボキシ(アミノ)基を抗体のアミノ(又はカルボキシ)基に連結する方法である。更に、化合物のアミノ基を抗体のアミノ基に連結するためにジアルデヒドやイミドエステル等の二官能性試薬が使用されている。薬物と抗体の結合にはシッフ塩基反応も利用可能である。この方法はグリコール基又はヒドロキシ基を含む薬物の過ヨウ素酸酸化により、アルデヒドを形成した後、結合剤と反応させる。抗体のアミノ基とのシッフ塩基の形成により結合が生じる。薬物を抗体に共有結合させるためのカップリング剤としてイソチオシアネートを使用することもできる。他の技術も当業者に公知であり、本発明の範囲に含まれる。
【0367】
ある種の実施形態では、リンカーの前駆体である中間体を適当な条件下で薬物と反応させる。ある種の実施形態では、薬物又は中間体の反応性基を使用する。薬物と中間体又は誘導体化した薬物の反応の生成物をその後、適当な条件下で抗EGFR抗体と反応させる。典型的なリンカー、ストレッチャー単位、アミノ酸単位、自壊性スペーサー単位の合成と構造については各々本願に援用する米国特許出願公開第20030083263号、20050238649号及び20050009751号に記載されている。
【0368】
ADCの安定性は質量分析法、HPLC及び分離/分析技術であるLC/MS等の標準分析技術により測定することができる。
【0369】
IV.抗EGFR ADCの精製
一定のDARをもつADCを回収するようにADCの精製を実施することができる。例えば、薬物対抗体比(DAR)が最適(例えばDARが4以下)であるADCから薬物負荷量の多いADCを分離するためにHIC樹脂を使用することができる。1実施形態では、疎水性樹脂をADC混合物に加え、望ましくないADC、即ち薬物負荷量の多いADCを樹脂に結合させて混合物から選択的に除去できるようにする。ある種の実施形態において、ADCの分離はADC混合物(例えば4以下のADC薬物負荷種と6以上のADC薬物負荷種の混合物)から除去しようとする薬物負荷種と結合させるために十分な量の疎水性樹脂とADC混合物を接触させることにより実施することができる。除去しようとするADC種(例えば6以上の薬物負荷種)を樹脂と結合させてADC混合物中の他方のADC種から除去できるように樹脂とADC混合物を混合する。この方法で使用する樹脂量は、望ましい薬物負荷種との有意結合を生じないように、除去しようとする種と樹脂の重量比に従って選択される。従って、平均DAR5.5を4未満まで減らすような方法を使用することができる。更に、任意の望ましい範囲の薬物負荷種(例えば4以下の薬物負荷種、3以下の薬物負荷種、2以下の薬物負荷種、1以下の薬物負荷種)を含むADCを単離するために、本願に記載する精製方法を使用することができる。
【0370】
ある種の分子種はこの種と疎水性樹脂の疎水性相互作用に基づいて表面と結合する。1実施形態において、本発明の方法は疎水性樹脂とADCの混合物の混合に依存する精製法に関し、混合物への樹脂の添加量によりどの種(例えばDARが6以上のADC)が結合するかが決定される。発現システム(例えば哺乳動物発現システム)から抗体の産生及び精製後に抗体を還元し、結合反応により薬物と結合させる。得られるADC混合物は多くの場合にはDARが例えば1~8の範囲のADCを含む。1実施形態において、前記ADC混合物は4以下の薬物負荷種と6以上の薬物負荷種を含む。本発明の方法によると、薬物負荷量の多いADC(例えば6以上の薬物負荷種を含むADC)から4以下の薬物負荷種を含むADCを選択・分離するように、限定されないが、バッチ法等の方法によりADC混合物を精製することができる。特に、本願に記載する精製方法はDARが任意の望ましい範囲(例えばDARが4以下、DARが3以下、DARが2以下)であるADCを単離するために使用することができる。
【0371】
従って、1実施形態では、ADC混合物と接触させる疎水性樹脂の量が6以上の薬物負荷種を結合させるために十分でありながら、4以下の薬物負荷種の有意結合を生じさせないような量となるように、4以下の薬物負荷種と6以上の薬物負荷種を含むADC混合物を疎水性樹脂と接触させて樹脂混合物を形成し;抗体をアウリスタチンと結合させたADCを含む組成物であって、6以上の薬物負荷種が15%未満である組成物を得るように疎水性樹脂をADC混合物から除去する。別の実施形態において、本発明の方法はADC混合物と接触させる疎水性樹脂の量が6以上の薬物負荷種を結合させるために十分でありながら、4以下の薬物負荷種の有意結合を生じさせないような量となるように、4以下の薬物負荷種と6以上の薬物負荷種を含むADC混合物を疎水性樹脂と接触させて樹脂混合物を形成する工程と;抗体をアウリスタチンと結合させたADCを含む組成物であって、6以上の薬物負荷種が15%未満であり且つ疎水性樹脂重量がADC混合物中の6以上の薬物負荷種の3~12倍である組成物を得るように疎水性樹脂をADC混合物から除去する工程を含む。
【0372】
本願に記載するADC分離方法はバッチ精製法を使用して実施することができる。バッチ精製法は一般に、容器内でADC混合物を疎水性樹脂に加える工程と、混合する工程と、その後、樹脂を上清から分離する工程を含む。例えば、バッチ精製の関連では、疎水性樹脂を望ましい平衡化バッファー中で調製することができ、又は望ましい平衡化バッファーで平衡化することができる。こうして疎水性樹脂のスラリーを得ることができる。次にADC混合物をスラリーと接触させ、分離しようとするADCの特定種を疎水性樹脂に吸着させる。次に、例えば濾過又はスラリーを沈殿させて上清から除去することにより、疎水性樹脂材料と結合しない望ましいADCを含有する溶液をスラリーから分離する。得られたスラリーを1以上の洗浄工程に供することができる。結合したADCを溶出させるためには、塩濃度を下げることができる。1実施形態において、本発明で使用する方法は50g以下の疎水性樹脂を利用する。
【0373】
従って、ADC混合物と接触させる疎水性樹脂の量が6以上の薬物負荷種を結合させるために十分でありながら、4以下の薬物負荷種の有意結合を生じさせないような量となるように、4以下の薬物負荷種と6以上の薬物負荷種を含むADC混合物を疎水性樹脂と接触させて樹脂混合物を形成し;抗体をアウリスタチンと結合させたADCを含む組成物であって、6以上の薬物負荷種が15%未満である組成物を得るように疎水性樹脂をADC混合物から除去するために、バッチ法を使用することができる。別の実施形態では、ADC混合物と接触させる疎水性樹脂の量が6以上の薬物負荷種を結合させるために十分でありながら、4以下の薬物負荷種の有意結合を生じさせないような量となるように、4以下の薬物負荷種と6以上の薬物負荷種を含むADC混合物を疎水性樹脂と接触させて樹脂混合物を形成し;抗体をアウリスタチンと結合させたADCを含む組成物であって、6以上の薬物負荷種が15%未満であり且つ疎水性樹脂重量がADC混合物中の6以上の薬物負荷種の3~12倍である組成物を得るように疎水性樹脂をADC混合物から除去するために、バッチ法を使用する。
【0374】
あるいは、別の実施形態では、循環法を使用して精製を実施することができ、この方法では樹脂を容器に充填し、分離しようとするADCの特定種が除去されるまでADC混合物を疎水性樹脂に流す。その後、(所望のADC種を含む)上清を容器から排出させ、樹脂を洗浄工程に供することができる。
【0375】
ADC混合物と接触させる疎水性樹脂の量が6以上の薬物負荷種を結合させるために十分でありながら、4以下の薬物負荷種の有意結合を生じさせないような量となるように、4以下の薬物負荷種と6以上の薬物負荷種を含むADC混合物を疎水性樹脂と接触させて樹脂混合物を形成し;抗体をアウリスタチンと結合させたADCを含む組成物であって、6以上の薬物負荷種が15%未満である組成物を得るように疎水性樹脂をADC混合物から除去するために、循環法を使用することができる。別の実施形態では、ADC混合物と接触させる疎水性樹脂の量が6以上の薬物負荷種を結合させるために十分でありながら、4以下の薬物負荷種の有意結合を生じさせないような量となるように、4以下の薬物負荷種と6以上の薬物負荷種を含むADC混合物を疎水性樹脂と接触させて樹脂混合物を形成し;抗体をアウリスタチンと結合させたADCを含む組成物であって、6以上の薬物負荷種が15%未満であり且つ疎水性樹脂重量がADC混合物中の6以上の薬物負荷種の3~12倍である組成物を得るように疎水性樹脂をADC混合物から除去するために、循環法を使用する。
【0376】
あるいは、所定の望ましいDARをもつADCを主体とする組成に達するようにADC混合物を精製するためにフロースルー法を使用することができる。フロースルー法では、樹脂を容器(例えばカラム)に充填し、望ましいADC種が樹脂と実質的に結合せずに樹脂を通過し、望ましくないADC種が樹脂と結合するように、充填した樹脂にADC混合物を流す。フロースルー法はシングルパスモード(目的のADC種は容器の樹脂を1回通過した結果として得られる。)又はマルチパスモード(目的のADC種は容器の樹脂を複数回通過した結果として得られる。)で実施することができる。フロースルー法は選択した樹脂重量が望ましくないADC集団と結合し、望ましいADC(例えばDAR2~4)が樹脂を通過し、1回又は複数回通過後にフロースルー中で回収されるように実施される。
【0377】
ADC混合物と接触させる疎水性樹脂の量が6以上の薬物負荷種を結合させるために十分でありながら、4以下の薬物負荷種の有意結合を生じさせないような量となるように、4以下の薬物負荷種と6以上の薬物負荷種を含むADC混合物を疎水性樹脂と接触させ、抗体をアウリスタチンと結合させた望ましいADC(例えばDAR2~4)を含有する組成物であって、6以上の薬物負荷種が15%未満である組成物を得るように4以下の薬物負荷種を1回又は複数回通過させた後に回収するために、フロースルー法を使用することができる。別の実施形態では、ADC混合物と接触させる疎水性樹脂の量が6以上の薬物負荷種を結合させるために十分でありながら、4以下の薬物負荷種の有意結合を生じさせないような量となるように、4以下の薬物負荷種と6以上の薬物負荷種を含むADC混合物を疎水性樹脂に流すことにより前記ADC混合物を前記樹脂と接触させ、抗体をアウリスタチンと結合させたADCを含む組成物であって、6以上の薬物負荷種が15%未満であり且つ疎水性樹脂重量がADC混合物中の6以上の薬物負荷種の3~12倍である組成物を得るように4以下の薬物負荷種を1回又は複数回通過させた後に回収するために、フロースルー法を使用する。
【0378】
フロースルー工程後に、(洗浄濾液中に存在する)望ましいDAR範囲のADCを更に回収するために樹脂を洗浄液で1回以上洗浄してもよい。例えば、目的のDARをもつADCを更に回収するために導電率を漸減させて複数回の洗浄を使用することができる。その後、目的のDARをもつADCの回収を改善するように、樹脂の洗浄から得られた溶出物をフロースルー工程から得られた濾液と合わせることができる。
【0379】
上記バッチ法、循環法及びフロースルー法はADCの高薬物負荷種と低薬物負荷種を分離するために疎水性樹脂の使用を基礎とする。疎水性樹脂はADCの疎水性と相互作用する疎水性基を含む。ADC上の疎水性基は疎水性樹脂内の疎水性基と相互作用する。タンパク質は疎水性が高いほど、疎水性樹脂と強く相互作用する。
【0380】
疎水性樹脂は一般に疎水性リガンド(例えばアルキル又はアリール基)を結合させる基材(例えば架橋アガロース又は合成コポリマー材料)を含む。多くの疎水性樹脂が市販されている。例としては、限定されないが、Phenyl Sepharose(TM)6 Fast Flow with low or high substitution(Pharmacia LKB Biotechnology,AB,スウェーデン);Phenyl Sepharose(TM)High Performance(Pharmacia LKB Biotechnology,AB,スウェーデン);Octyl Sepharose(TM)High Performance(Pharmacia LKB Biotechnology,AB,スウェーデン);Fractogel(TM)EMD Propyl又はFractogel(TM)EMD Phenylカラム(E.Merck,ドイツ);Macro-Prep(TM)Methyl又はMacro-Prep(TM).t-Butyl Supports(Bio-Rad,California);WP HI-Propyl(C)(TM)(J.T.Baker,New Jersey);及びToyopearl(TM)ether、hexyl、phenyl又はbutyl(TosoHaas,PA)が挙げられる。1実施形態において、前記疎水性樹脂はブチル疎水性樹脂である。別の実施形態において、前記疎水性樹脂はフェニル疎水性樹脂である。別の実施形態において、前記疎水性樹脂はヘキシル疎水性樹脂、オクチル疎水性樹脂又はデシル疎水性樹脂である。1実施形態において、前記疎水性樹脂はn-ブチルリガンドをもつメタクリル酸ポリマー(例えばTOYOPEARL(R)Butyl-600M)である。
【0381】
望ましいDARをもつ組成物を得るためのその他のADC混合物精製方法はその開示内容全体を本願に援用する米国出願第14/210,602号(米国特許出願公開第US2014/0286968号)に記載されている。
【0382】
V.抗EGFR抗体及び抗EGFR ADCの使用
本発明の抗体及び抗体部分(及びADC)はヒトEGFR活性をインビボで中和できることが好ましい。従って、本発明の抗体が交差反応するEGFRをもつヒト対象又は他の哺乳動物対象において例えばhEGFRを含む細胞中でhEGFR活性を阻害するために本発明のこのような抗体及び抗体部分を使用することができる。1実施形態において、本発明はhEGFR活性の阻害方法として、hEGFR活性が阻害されるようにhEGFRを本発明の抗体又は抗体部分と接触させる段階を含む方法を提供する。例えば、hEGFRを含むか又は含む疑いのある細胞培養液中で本発明の抗体又は抗体部分を培養培地に加え、培養液中のhEGFR活性を阻害することができる。
【0383】
別の実施形態において、本発明は対象、有利にはEGFR活性が有害である疾患又は障害に罹患した対象におけるhEGFR活性の低減方法に関する。本発明はこのような疾患又は障害に罹患した対象におけるEGFR活性の低減方法を提供し、前記方法は前記対象におけるEGFR活性を低減するように本発明の抗体又は抗体部分を前記対象に投与する段階を含む。好ましくは、前記EGFRはヒトEGFRであり、前記対象はヒト対象である。あるいは、前記対象は本発明の抗体と結合できるEGFRを発現する哺乳動物とすることができる。更に、前記対象は(例えばEGFRの投与又はEGFRトランスジーンの発現により)EGFRが導入されている哺乳動物である。本発明の抗体は治療目的でヒト対象に投与することができる。更に、本発明の抗体は獣医学的な目的又はヒト疾患の動物モデルとしてこのような抗体と結合できるEGFRを発現する非ヒト哺乳動物に投与することができる。後者に関して、このような動物モデルは本発明の抗体の治療効力を評価(例えば用量及び投与クールを試験)するために有用であると思われる。
【0384】
本願で使用する「EGFR活性が有害である障害」なる用語はこのような障害に罹患している対象におけるEGFRの存在が前記障害の病態生理に関与していること又は前記障害の増悪に寄与する因子であることが分かっているか又はその疑いのある疾患及び他の障害を包含するものである。従って、EGFR活性が有害である障害とはEGFR活性の低下が前記障害の症状及び/又は進行を緩和すると予想される障害である。このような障害は例えば障害に罹患している対象の体液中のEGFRの濃度の上昇(例えば対象の腫瘍、血清、血漿、滑液等におけるEGFRの濃度の上昇)により判定することができ、例えば上記のような抗EGFR抗体を使用して検出することができる。本発明の抗体(例えばAbA)又はその抗原結合フラグメントで治療することができる障害の非限定的な例としては、以下に記載する障害が挙げられる。例えば、適切な障害としては、限定されないが、種々の癌が挙げられ、限定されないが、乳癌、肺癌、神経膠腫、前立腺癌、膵臓癌、結腸癌、頭頸部癌及び腎臓癌が挙げられる。本願に開示する組成物及び方法を使用して治療することができる癌の他の例としては、扁平上皮癌(例えば肺扁平上皮癌又は頭頸部扁平上皮癌)、トリプルネガティブ乳癌、非小細胞肺癌、大腸癌及び中皮腫が挙げられる。1実施形態において、本願に開示する抗体及びADCは固形腫瘍を治療するため、例えばEGFRを過剰発現しているか又はEGFR陽性である固形腫瘍の増殖を抑制するため又はその大きさを縮小するために使用される。1実施形態において、本発明はEGFRが増幅している肺扁平上皮癌の治療に関する。1実施形態において、本願に開示する抗体及びADCはEGFRが増幅している頭頸部扁平上皮癌を治療するために使用される。別の実施形態において、本願に開示する抗体及びADCはトリプルネガティブ乳癌(TNBC)を治療するために使用される。本願に記載する疾患及び障害は本発明の抗EGFR抗体又はADCに加え、このような抗EGFR抗体又はADCを含有する医薬組成物により治療することができる。
【0385】
ある種の実施形態において、本願に開示する抗体及びADCは高濃度の上皮成長因子受容体(EGFR)を示す可能性の高い進行固形腫瘍種を治療するために、治療を必要とする対象に投与される。このような腫瘍の例としては、限定されないが、頭頸部扁平上皮癌、非小細胞肺癌、トリプルネガティブ乳癌、大腸癌及び多形性膠芽腫が挙げられる。
【0386】
ある種の実施形態において、本発明は固形腫瘍をもつ対象における固形腫瘍増殖の阻害又は抑制方法を包含し、前記方法は前記固形腫瘍増殖を阻害又は抑制するように、前記固形腫瘍をもつ対象に本願に記載する抗EGFR抗体又はADCに投与する段階を含む。ある種の実施形態において、前記固形腫瘍は、非小細胞肺癌又は膠芽腫である。その他の実施形態において、前記固形腫瘍はEGFRvIII陽性腫瘍又はEGFRを発現する固形腫瘍である。その他の実施形態において、前記固形腫瘍はEGFRが増幅している固形腫瘍又はEGFRを過剰発現する固形腫瘍である。ある種の実施形態では、多形性膠芽腫をもつ対象に本願に記載する抗EGFR抗体又はADCを単独投与又は別の薬剤(例えば放射線及び/又はテモゾロミド)と併用投与する。
【0387】
ある種の実施形態において、本発明はEGFRを発現する腫瘍又はEGFRを過剰発現する腫瘍(又はEGFRvIIIを発現する腫瘍)として同定された固形腫瘍をもつ対象における固形腫瘍増殖の阻害又は抑制方法を包含し、前記方法は前記固形腫瘍増殖を阻害又は抑制するように、前記固形腫瘍をもつ対象に本願に記載する抗EGFR抗体又はADCを投与する段階を含む。EGFRを発現する腫瘍(例えばEGFRを過剰発現する腫瘍)の同定方法は当分野で公知であり、FDAに認可されている試験や検証アッセイが挙げられる。例えば、EGFR pharmDx(TM)アッセイ(Dako North America,Inc.)は組織学的評価を定期的に予定されている正常及び新生物組織におけるEGFR発現を同定するために使用される定性的免疫組織化学(IHC)キットシステムである。EGFR pharmDxはEGFRを発現する細胞においてEGFR(HER1)タンパク質を特異的に検出する。更に、PCRアッセイもEGFRを過剰発現する腫瘍を同定するために使用することができる。例えば、これらのアッセイは変異体EGFR遺伝子(例えば配列番号33)及び/又はcDNAに特異的なプライマーを使用し、前記EGFR遺伝子/cDNA又はその一部を増幅させることができる。増幅されたPCR産物をその後、例えば当分野で公知の標準方法を使用してゲル電気泳動により分析し、PCR産物の寸法を求めることができる。このような試験は本願に記載する方法及び組成物で治療することが可能な腫瘍を同定するために使用することができる。
【0388】
当分野で利用可能なあらゆる遺伝子治療法を本発明に従って使用することができる。遺伝子治療法の一般論については、Goldspiel et al.,1993,Clinical Pharmacy 12:488-505;Wu and Wu,1991,Biotherapy 3:87-95;Tolstoshev,1993,Ann.Rev.Pharmacol.Toxicol.32:573-596;Mulligan,Science 260:926-932(1993);及びMorgan and Anderson,1993,Ann.Rev.Biochem.62:191-217;May,1993,TIBTECH 11(5):155-215参照。組換えDNA技術分野で広く知られている方法のうちで使用できる方法はAusubel et al.(eds.),Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley &Sons,NY(1993);及びKriegler,Gene Transfer and Expression,A Laboratory Manual,Stockton Press,NY(1990)に記載されている。種々の遺伝子治療法の詳細な説明は本願に援用するUS20050042664A1に記載されている。
【0389】
別の態様において、本願は対象におけるEGFR関連障害の治療(例えば治癒、抑制、改善、発症の遅延もしくは予防、又は反復もしくは再発の予防)又は予防方法に関する。前記方法はEGFR関連障害を治療又は予防するために十分な量のEGFR結合剤(特に拮抗剤)、例えば本願に記載するような抗EGFR抗体又はそのフラグメントを前記対象に投与する段階を含む。EGFR拮抗剤(例えば抗EGFR抗体又はそのフラグメント)は前記対象に単独投与することもできるし、本願に記載するような他の治療法と併用投与することもできる。
【0390】
このような疾患を治療するために本発明の抗体又はADC又はその抗原結合部分を単独使用又は併用することができる。当然のことながら、本発明の抗体又はその抗原結合部分は、単独で使用することもできるし、別の薬剤(例えば治療剤)と併用することもでき、前記別の薬剤はその目的に合わせて当業者により選択される。例えば、前記別の薬剤は本発明の抗体により治療しようとする疾患又は病態を治療するために有用であると当分野で認められている治療剤とすることができる。前記別の薬剤は治療用組成物に有益な属性を付与する薬剤(例えば組成物の粘度を変化させる薬剤)とすることもできる。
【0391】
更に当然のことながら、本発明に含まれる併用剤はその所期目的に有用な併用剤である。以下に記載する薬剤は例示の目的であり、限定的ではない。本発明の一部である併用剤は本発明の抗体と、以下のリストから選択される少なくとも1種の別の薬剤とすることができる。併用剤は形成される組成物がその所期機能を発揮できる限り、2種以上の別の薬剤を含むものでもよく、例えば2種又は3種の別の薬剤を含むものでもよい。
【0392】
併用療法は、1種以上のEGFR拮抗剤、例えば抗EGFR抗体又はそのフラグメントと、1種以上の別の治療剤、例えば本願により詳細に記載するような1種以上のサイトカイン及び成長因子阻害剤、免疫抑制剤、抗炎症剤(例えば全身性抗炎症剤)、抗線維形成剤、代謝阻害剤、酵素阻害剤及び/もしくは細胞毒性剤もしくは細胞増殖抑制剤、有糸分裂阻害剤、抗腫瘍性抗生物質、免疫調節剤、遺伝子治療用ベクター、アルキル化剤、抗血管新生薬、代謝拮抗剤、ホウ素含有剤、化学療法剤、ホルモン剤、抗ホルモン剤、コルチコステロイド、感光性治療剤、オリゴヌクレオチド、放射性核種剤、トポイソメラーゼ阻害剤、チロシンキナーゼ阻害剤又は放射線増感剤との合剤化及び/又は併用投与とすることができる。
【0393】
特定の実施形態では、本願に記載する抗EGFR結合タンパク質(例えば抗EGFR抗体)を抗癌剤又は抗新生物剤と併用する。「抗癌剤」及び「抗新生物剤」なる用語は癌性増殖等の悪性腫瘍を治療するために使用される薬物を意味する。薬物療法は単独で使用してもよいし、外科手術や放射線治療等の他の治療法と併用してもよい。患部臓器の種類に応じて複数類の薬物を併用してもよい。例えば、乳癌は一般にエストロゲンにより刺激され、性ホルモンを不活性化する薬物で治療することができる。同様に、前立腺癌は男性ホルモンであるアンドロゲンを不活性化させる薬物で治療することができる。本発明の抗EGFR抗体又はADCと併用することができる抗癌剤としては、特に以下の薬剤が挙げられる。
【0394】
【表2】
【0395】
上記抗癌剤以外に、セクションIIに記載した薬剤と本願に記載する抗EGFR抗体及びADCを併用投与してもよい。更に、上記抗癌剤を本発明のADCで使用してもよい。
【0396】
特定の実施形態では、EGFR活性に関連する疾患を治療するために前記抗EGFR抗体又はADCを単独投与することもできるし、抗体と共働又は相乗作用する別の抗癌剤と併用投与することもできる。このような抗癌剤としては、例えば当分野で周知の薬剤(例えば細胞毒素、化学療法剤、低分子及び放射線)が挙げられる。抗癌剤の例としては、限定されないが、Panorex(Glaxo-Welcome)、Rituxan(IDEC/Genentech/Hoffman la Roche)、Mylotarg(Wyeth)、Campath(Millennium)、Zevalin(IDEC and Schering AG)、Bexxar(Corixa/GSK)、Erbitux(Imclone/BMS)、Avastin(Genentech)及びHerceptin(Genentech/Hoffman la Roche)が挙げられる。他の抗癌剤としては、限定されないが、その開示内容を本願に援用する米国特許第7,598,028号及び国際公開第WO2008/100624号に開示されているものが挙げられる。1種以上の抗癌剤を本発明の抗体又はその抗原結合部分の投与と同時、投与前又は投与後に投与することができる。
【0397】
本発明の特定の実施形態では、対象における白血病等の癌を治療するために、本願に記載する抗EGFR抗体又はADCをbcl-xl阻害剤やBcl-2(B細胞性リンパ腫2)阻害剤(例えばABT-199(ベネトクラックス))等のアポトーシス剤との併用療法で使用することができる。1実施形態では、癌を治療するために、本願に記載する抗EGFR抗体又はADCをbcl-xl阻害剤との併用療法で使用することができる。1実施形態では、癌を治療するために、本願に記載する抗EGFR抗体又はADCをベネトクラックスとの併用療法で使用することができる。
【0398】
本発明の特定の実施形態では、治療を必要とする対象を治療するために、本願に記載する抗EGFR抗体又はADCをNAMPTの阻害剤(本願に援用するUS2013/0303509;AbbVie,Inc.における阻害剤の例を参照。)との併用療法で使用することができる。NAMPT(別称前記B細胞コロニー増強因子(PBEF)及びビスファチン)はニコチンアミドのホスホリボシル化を触媒する酵素であり、NADを救済する2つの経路の一方における律速酵素である。本発明の1実施形態では、対象における癌を治療するために、本願に記載する抗EGFR抗体及びADCをNAMPT阻害剤と併用投与する。
【0399】
本発明の特定の実施形態では、本願に記載する抗EGFR抗体又はADCをトポイソメラーゼ阻害剤であるイリノテカンの活性代謝産物であるSN-38との併用療法で使用することができる。
【0400】
本発明の他の実施形態では、乳癌、卵巣癌及び非小細胞肺癌を含む癌を治療するために、本願に記載する抗EGFR抗体又はADCをPARP(ポリADPリボースポリメラーゼ)阻害剤(例えばベリパリブ)との併用療法で使用することができる。
【0401】
本願に記載する抗EGFR抗体又は抗EGFR ADCと併用投与及び/又は合剤化することができる別の治療剤のその他の例としては、限定されないが、吸入ステロイド薬;β作動薬(例えば短時間作用型又は長時間作用型β作動薬);ロイコトリエン又はロイコトリエン受容体の拮抗剤;ADVAIR等の併用薬;IgE阻害剤、例えば抗IgE抗体(例えばXOLAIR(R)、オマリズマブ);ホスホジエステラーゼ阻害剤(例えばPDE4阻害剤);キサンチン;抗コリン薬;クロモリン等のマスト細胞安定剤;IL-4阻害剤;IL-5阻害剤;エオタキシン/CCR3阻害剤;ヒスタミン又はH1、H2、H3及びH4を含むその受容体の拮抗剤;並びにプロスタグランジンD又はその受容体(DP1及びCRTH2)の拮抗剤の1種以上が挙げられる。このような併用剤は例えば喘息及び他の呼吸器系障害を治療するために使用することができる。本願に記載する抗EGFR抗体又は抗EGFR ADCと併用投与及び/又は合剤化することができる別の治療剤の他の例としては、限定されないが、テモゾロミド、イブルチニブ、ドゥベリシブ及びイデラリシブの1種以上が挙げられる。1種以上の抗EGFR抗体又はそのフラグメントと併用投与及び/又は合剤化することができる治療剤のその他の例としては、特にTNF拮抗剤(例えばTNF受容体の可溶性フラグメント、例えばp55又はp75ヒトTNF受容体又はその誘導体、例えば75kD TNFR-IgG(75kD TNF受容体-IgG融合タンパク質,ENBREL));TNF酵素拮抗剤、例えばTNF変換酵素(TACE)阻害剤;ムスカリン受容体拮抗剤;TGF-β拮抗剤;インターフェロンγ;ピルフェニドン;化学療法剤、例えばメトトレキサート、レフルノミドもしくはシロリムス(ラパマイシン)又はそのアナログ(例えばCCI-77);COX2及びcPLA2阻害剤;NSAIDs;免疫調節剤;p38阻害剤、TPL-2、MK-2及びNFkB阻害剤の1種以上が挙げられる。
【0402】
他の好ましい併用剤はサイトカイン抑制性抗炎症薬(CSAIDs);他のヒトサイトカイン又は成長因子(例えばIL-1、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-15、IL-16、IL-18、IL-21、IL-31、インターフェロン、EMAP-II、GM-CSF、FGF、EGF、PDGF及びエンドセリン-1)並びにこれらのサイトカイン及び成長因子の受容体の抗体又は拮抗剤である。本発明の抗体又はその抗原結合部分は、CD2、CD3、CD4、CD8、CD25、CD28、CD30、CD40、CD45、CD69、CD80(B7.1)、CD86(B7.2)、CD90、CTLA、CTLA-4、PD-1、又はCD154(gp39又はCD40L)を含むそれらのリガンド等の細胞表面分子に対する抗体と併用することができる。
【0403】
治療剤の好ましい併用剤は炎症カスケードの種々の点に介入することができ、好ましい例としては、キメラヒト化又はヒトTNF抗体等のTNF拮抗剤、アダリムマブ(HUMIRA;D2E7;本願に援用するPCT公開番号WO97/29131及び米国特許第6,090,382号)、CA2(Remicade(TM))、CDP571、及び可溶性p55又はp75 TNF受容体、その誘導体(p75TNFR1gG(Enbrel(TM))又はp55TNFR1gG(レネルセプト))、並びにTNF変換酵素(TACE)阻害剤が挙げられ、同様にIL-1阻害剤(インターロイキン-1変換酵素阻害剤、IL-1RA等)も同じ理由から有効であると思われる。他の好ましい併用剤としてはインターロイキン4が挙げられる。
【0404】
本発明の医薬組成物は「治療有効量」又は「予防有効量」の本発明の抗体又は抗体部分を含有することができる。「治療有効量」とは投与時点及び必要な期間にわたって望ましい治療結果を達成するために有効な量を意味する。抗体又は抗体部分の治療有効量は当業者が決定することができ、個体の疾患状態、年齢、性別及び体重と、抗体又は抗体部分が望ましい応答を個体に誘発する能力によって異なる。治療有効量とは治療に有益な作用が抗体又は抗体部分の毒性又は有害な作用を上回るような量でもある。「予防有効量」とは投与時点及び必要な期間にわたって望ましい予防結果を達成するために有効な量を意味する。一般的に、予防投与は疾患以前又は疾患の初期段階の対象で使用するので、予防有効量は治療有効量よりも少なくなる。
【0405】
最適な所望の応答(例えば治療又は予防応答)が得られるように投与レジメンを調節することができる。例えば、単回ボーラスを投与してもよいし、時間をかけて数回に分けて投与してもよいし、治療状況の緊急性に応じて用量を比例的に増減してもよい。投与し易さと均等性から用量単位形態で非経口組成物を製剤化すると特に有利である。本願で使用する用量単位形態とは治療しようとする哺乳動物対象に単位用量として適した物理的に別個の単位を意味し、各単位は必要な医薬担体と共に所望の治療効果を生じるように計算された所定量の活性化合物を含む。本発明の用量単位形態の規格は(a)活性化合物の独自の特性と達成しようとする特定の治療又は予防効果と、(b)個体における過敏症の治療を考慮してこのような活性化合物を配合する技術に固有の制限により決定され、直接依存する。
【0406】
本発明のADC、抗体又は抗体部分の治療又は予防有効量の範囲の非限定的な例は0.1~20mg/kg、より好ましくは1~10mg/kgである。1実施形態において、本願に記載する抗体及びADCの用量は1~6mg/kgであり、本願に記載する個々の用量、例えば1mg/kg、2mg/kg、3mg/kg、4mg/kg、5mg/kg及び6mg/kgを含む。別の実施形態において、本願に記載する抗体及びADCの用量は1~200μg/kgであり、本願に記載する個々の用量、例えば1μg/kg、2μg/kg、3μg/kg、4μg/kg、5μg/kg、10μg/kg、20μg/kg、30μg/kg、40μg/kg、50μg/kg、60μg/kg、80μg/kg、100μg/kg、120μg/kg、140μg/kg、160μg/kg、180μg/kg及び200μg/kgを含む。なお、用量値は緩和しようとする病態の種類と重症度により異なる。更に当然のことながら、任意の特定の対象について、特定の用量レジメンは個々の必要と組成物の投与者又は投与の管理者の専門的判断に従って経時的に調節すべきであり、本願に記載する用量範囲は単に例示であり、本発明の組成物の範囲又は実施を制限するものではない。
【0407】
1実施形態では、投与を必要とする対象(例えば癌をもつ対象)に本願に記載する抗EGFR抗体(例えばAbA)又はその抗原結合部分をADCとして0.1~30mg/kgの用量で投与する。別の実施形態では、投与を必要とする対象(例えば癌をもつ対象)に前記抗EGFR抗体(例えばAbA)又はその抗原結合部分をADCとして1~15mg/kgの用量で投与する。別の実施形態では、投与を必要とする対象(例えば癌をもつ対象)に前記抗EGFR抗体(例えばAbA)又はその抗原結合部分をADCとして1~10mg/kgの用量で投与する。別の実施形態では、投与を必要とする対象(例えば癌をもつ対象)に前記抗EGFR抗体(例えばAbA)又はその抗原結合部分をADCとして2~3の用量で投与する。別の実施形態では、投与を必要とする対象(例えば癌をもつ対象)に前記抗EGFR抗体(例えばAbA)又はその抗原結合部分をADCとして1~4mg/kgの用量で投与する。
【0408】
1実施形態では、投与を必要とする対象(例えば癌をもつ対象)に本願に記載する抗EGFR抗体(例えばAbA)又はその抗原結合部分をADCとして1~200μg/kgの用量で投与する。別の実施形態では、投与を必要とする対象(例えば癌をもつ対象)に前記抗EGFR抗体(例えばAbA)又はその抗原結合部分をADCとして5~150μg/kgの用量で投与する。別の実施形態では、投与を必要とする対象(例えば癌をもつ対象)に前記抗EGFR抗体(例えばAbA)又はその抗原結合部分をADCとして5~100μg/kgの用量で投与する。別の実施形態では、投与を必要とする対象(例えば癌をもつ対象)に前記抗EGFR抗体(例えばAbA)又はその抗原結合部分をADCとして5~90μg/kgの用量で投与する。別の実施形態では、投与を必要とする対象(例えば癌をもつ対象)に前記抗EGFR抗体(例えばAbA)又はその抗原結合部分をADCとして5~80μg/kgの用量で投与する。別の実施形態では、投与を必要とする対象(例えば癌をもつ対象)に前記抗EGFR抗体(例えばAbA)又はその抗原結合部分をADCとして5~70μg/kgの用量で投与する。別の実施形態では、投与を必要とする対象(例えば癌をもつ対象)に前記抗EGFR抗体(例えばAbA)又はその抗原結合部分をADCとして5~60μg/kgの用量で投与する。別の実施形態では、投与を必要とする対象(例えば癌をもつ対象)に前記抗EGFR抗体(例えばAbA)又はその抗原結合部分をADCとして10~80μg/kgの用量で投与する。
【0409】
1実施形態では、投与を必要とする対象(例えば癌をもつ対象)に本願に記載する抗EGFR ADC(例えばAbA-vc-MMAE)を1~6mg/kgの用量で投与する。別の実施形態では、投与を必要とする対象(例えば癌をもつ対象)に本願に記載する抗EGFR ADC(例えばAbA-vc-MMAE)を5~4mg/kgの用量で投与する。別の実施形態では、投与を必要とする対象(例えば癌をもつ対象)に本願に記載する抗EGFR ADC(例えばAbA-vc-MMAE)を1.8~2.4mg/kgの用量で投与する。別の実施形態では、投与を必要とする対象(例えば癌をもつ対象)に本願に記載する抗EGFR ADC(例えばAbA-vc-MMAE)を1~4mg/kgの用量で投与する。別の実施形態では、投与を必要とする対象(例えば癌をもつ対象)に本願に記載する抗EGFR ADC(例えばAbA-vc-MMAE)を約1mg/kgの用量で投与する。別の実施形態では、投与を必要とする対象(例えば癌をもつ対象)に本願に記載する抗EGFR ADC(例えばAbA-vc-MMAE)を3~6mg/kgの用量で投与する。別の実施形態では、投与を必要とする対象(例えば癌をもつ対象)に本願に記載する抗EGFR ADC(例えばAbA-vc-MMAE)を3mg/kgの用量で投与する。別の実施形態では、投与を必要とする対象(例えば癌をもつ対象)に本願に記載する抗EGFR ADC(例えばAbA-vc-MMAE)を2~3mg/kgの用量で投与する。別の実施形態では、投与を必要とする対象(例えば癌をもつ対象)に本願に記載する抗EGFR ADC(例えばAbA-vc-MMAE)を6mg/kgの用量で投与する。
【0410】
別の実施形態では、投与を必要とする対象(例えば癌をもつ対象)に薬物(例えばPBD)と結合させた本願に記載する抗EGFR抗体(ADC)を1~200μg/kgの用量で投与する。別の実施形態では、投与を必要とする対象(例えば癌をもつ対象)に本願に記載する抗EGFR ADCを5~100μg/kgの用量で投与する。別の実施形態では、投与を必要とする対象(例えば癌をもつ対象)に本願に記載する抗EGFR ADCを5~90μg/kgの用量で投与する。別の実施形態では、投与を必要とする対象(例えば癌をもつ対象)に本願に記載する抗EGFR ADCを5~80μg/kgの用量で投与する。別の実施形態では、投与を必要とする対象(例えば癌をもつ対象)に本願に記載する抗EGFR ADCを5~70μg/kgの用量で投与する。別の実施形態では、投与を必要とする対象(例えば癌をもつ対象)に本願に記載する抗EGFR ADCを5~60μg/kgの用量で投与する。
【0411】
上記用量は本願に開示する抗EGFR ADC又は抗体の投与に有用であると思われる。
【0412】
別の態様において、本願は試料(例えば血清、血漿、組織、生検等の生体試料)におけるEGFRの有無のインビトロ検出方法を提供する。本方法は障害(例えば癌)を診断するために使用することができる。前記方法は、(i)前記試料又は対照試料を本願に記載するような抗EGFR抗体又はそのフラグメントと接触させる段階と;(ii)前記抗EGFR抗体又はそのフラグメントと前記試料又は前記対照試料の複合体の形成を検出し、前記対照試料に比較して前記試料中の複合体の形成に統計的に有意な差がある場合には前記試料中にEGFRが存在すると判断する段階を含む。
【0413】
本発明の抗ヒトEGFR抗体又はその部分(及びそのADC)はヒトEGFRと結合することができるので、酵素免疫測定法(ELISA)、放射免疫測定法(RIA)又は免疫組織化学法等の従来のイムノアッセイを使用して(例えば血清や血漿等の生体試料中で)ヒトEGFRを検出するために使用することができる。1態様において、本発明は生体試料中のヒトEGFRの検出方法として、生体試料を本発明の抗体又はその部分と接触させる段階と、ヒトEGFRと結合した抗体(又は抗体部分)又は未結合抗体(又は抗体部分)を検出することにより、生体試料中のヒトEGFRを検出する段階を含む方法を提供する。結合した抗体又は未結合抗体の検出を容易にするために抗体を検出可能な物質で直接又は間接的に標識する。適切な検出可能な物質としては、種々の酵素、補欠分子族、蛍光物質、発光物質及び放射性物質が挙げられる。適切な酵素の例としては、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、-ガラクトシダーゼ又はアセチルコリンエステラーゼが挙げられ、適切な補欠分子族複合体の例としては、ストレプトアビジン/ビオチンとアビジン/ビオチンが挙げられ、適切な蛍光物質の例としてはウンベリフェロン、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、ジクロロトリアジニルアミンフルオレセイン、ダンシルクロリド又はフィコエリスリンが挙げられ、発光物質の1例としてはルミノールが挙げられ、適切な放射性物質の例としては、H、14C、35S、90Y、99Tc、111In、125I、131I、177Lu、166Ho又は153Smが挙げられる。
【0414】
抗体を標識する代わりに、検出可能な物質で標識したrhEGFR標準と未標識抗ヒトEGFR抗体を利用する競合イムノアッセイによりヒトEGFRを生物体液中で定量することができる。このアッセイでは、生体試料と標識rhEGFR標準と抗ヒトEGFR抗体を混合し、未標識抗体と結合した標識rhEGFR標準の量を測定する。生体試料中のヒトEGFRの量は抗EGFR抗体と結合した標識rhEGFR標準の量に反比例する。同様に、検出可能な物質で標識したrhEGFR標準と未標識抗ヒトEGFR抗体を利用する競合イムノアッセイにより生体試料中でヒトEGFRを定量することもできる。
【0415】
更に別の態様において、本願はEGFRの存在のインビボ検出(例えば対象におけるインビボ撮像)方法を提供する。本方法は障害(例えばEGFRに関連する障害)を診断するために使用することができる。本方法は、(i)本願に記載するような抗EGFR抗体又はそのフラグメントとEGFRの結合を可能にする条件下で前記抗体又はフラグメントを対象又はコントロール対象に投与する段階と;(ii)前記抗体又はフラグメントとEGFRの複合体の形成を検出し、前記コントロール対象に比較して前記対象における複合体の形成に統計的に有意な差がある場合にはEGFRが存在すると判断する段階を含む。
【0416】
VI.医薬組成物
本発明は更に本発明の抗体又はその抗原結合部分又はADCと、医薬的に許容可能な担体とを含有する医薬組成物を提供する。本発明の抗体又はADCを含有する医薬組成物は限定されないが、障害の診断、検出もしく監視用、障害もしくは1種以上のその症状の予防、治療、管理もしくは改善用、及び/又は研究用に使用される。特定の1実施形態において、組成物は本発明の1種以上の抗体を含有する。別の実施形態において、前記医薬組成物は本発明の1種以上の抗体又はADCと、EGFR活性が有害である障害を治療するための本発明の抗体又はADC以外の1種以上の予防剤又は治療剤を含有する。前記予防剤又は治療剤は障害又は1種以上のその症状の予防、治療、管理又は改善に有用であることが分かっているもの、これらの用途に既に使用されているもの又は現在使用されているものが好ましい。これらの実施形態によると、前記組成物は更に担体、希釈剤又は賦形剤を含有することができる。
【0417】
本発明の抗体及び抗体部分又はADCは対象に投与するのに適した医薬組成物に配合することができる。一般に、前記医薬組成物は本発明の抗体又は抗体部分と医薬的に許容可能な担体とを含有する。本願で使用する「医薬的に許容可能な担体」とは生理的に適合可能な任意のあらゆる溶媒、分散媒、コーティング、抗細菌剤、抗真菌剤、等張剤及び吸収遅延剤等を包含する。医薬的に許容可能な担体の例としては、水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノール等の1種以上とその組合せが挙げられる。多くの場合には、等張剤、例えば糖類、多価アルコール類(例えばマンニトール、ソルビトール)、又は塩化ナトリウムを組成物に加えることが好ましい。医薬的に許容可能な担体は更に抗体又は抗体部分又はADCの保存期間又は有効性を強化する湿潤剤、乳化剤、防腐剤又は緩衝剤等の添加剤を微量含有することができる。
【0418】
1実施形態において、本発明は抗EGFR抗体薬物コンジュゲートと、ショ糖と、ポリソルベート80と、ヒスチジンを含有する凍結乾燥製剤に関し、前記製剤はpH約5~7であり、前記抗EGFR抗体薬物コンジュゲートは抗EGFR抗体又はその抗原結合部分をモノメチルアウリスタチンE(MMAE)に結合させたものである。1実施形態において、本発明は更に本願に記載するような抗EGFR抗体又はその抗原結合部分をアウリスタチン(例えばMMAE)と結合させた抗EGFR ADCと、糖類(例えばショ糖)と、界面活性剤(例えばポリソルベート80等のポリソルベート)と、ヒスチジンを含有する凍結乾燥製剤を提供する。1実施形態において、前記凍結乾燥製剤はヒスチジン1~20mgと、糖類約320~410mgと、界面活性剤約0.1~0.9mgと、本願に記載するような抗EGFR抗体又はその抗原結合部分をアウリスタチン(例えばMMAE)と結合させた抗EGFR ADC約1~150mgを含有する。本発明は更に本願に記載するような抗EGFR抗体又はその抗原結合部分をアウリスタチン(例えばMMAE)と結合させた抗EGFR ADC約1~100mg/mlと、ヒスチジン約1~10mg/mLと、糖類(例えばショ糖)約50~90mg/mlと、界面活性剤(例えばポリソルベート80)約0.01~0.2mg/mlを含有する水性製剤を提供する。
【0419】
種々の送達システムが知られており、本発明の1種以上の抗体もしくはADCを投与するため、又は本発明の1種以上の抗体と障害もしくは1種以上のその症状の予防、管理、治療もしくは改善に有用な予防剤もしくは治療剤の組合せを投与するために使用することができ、例えばリポソーム、微粒子、マイクロカプセル、抗体もしくは抗体フラグメントを発現することが可能な組換え細胞への封入、受容体介在型エンドサイトーシス(例えばWu and Wu,J.Biol.Chem.262:4429-4432(1987)参照。)、レトロウイルスもしくは他のベクターの一部としての核酸の構築等が挙げられる。本発明の予防剤又は治療剤の投与方法としては、限定されないが、非経口投与(例えば皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内及び皮下)、硬膜外投与、腫瘍内投与、及び粘膜投与(例えば鼻腔内及び経口経路)が挙げられる。更に、例えばインヘラー又はネブライザーの使用及びエアゾール化剤による製剤化により経肺投与を利用することができる。例えば各々その開示内容全体を本願に援用する米国特許第6,019,968号、5,985,320号、5,985,309号、5,934,272号、5,874,064号、5,855,913号、5,290,540号及び4,880,078号、並びにPCT公開番号WO92/19244、WO97/32572、WO97/44013、WO98/31346及びWO99/66903参照。1実施形態では、Alkermes AIR(R)経肺薬物送達技術(Alkermes,Inc.,Cambridge,Mass.)を使用して本発明の抗体、併用治療剤又は組成物を投与する。特定の1実施形態では、本発明の予防剤又は治療剤を筋肉内、静脈内、腫瘍内、経口、鼻腔内、経肺又は皮下投与する。前記予防剤又は治療剤は任意の従来の経路により投与することができ、例えば輸液又はボーラス注射や、上皮又は粘膜皮膚内面(例えば口腔粘膜、直腸粘膜及び腸粘膜等)からの吸収により投与することができ、他の生物活性剤と一緒に投与してもよい。投与は全身でも局所でもよい。
【0420】
特定の1実施形態では、治療を必要とする領域に本発明の予防剤又は治療剤を局所投与することが望ましい場合があり、これは限定されないが、例えば局所輸液、注射又はインプラントにより実施することができ、前記インプラントはサイラスティックメンブレン、ポリマー、繊維状基材(例えばTissuel(R))又はコラーゲン基材等のメンブレン及び基剤を含む多孔質又は非多孔質材料からなる。1実施形態では、障害又はその症状を予防、治療、管理及び/又は改善するために有効量の本発明の1種以上の抗体拮抗剤を対象の患部に局所投与する。別の実施形態では、障害又は1種以上のその症状を予防、治療、管理及び/又は改善するために有効量の本発明の1種以上の抗体を有効量の本発明の抗体以外の1種以上の治療薬(例えば1種以上の予防剤又は治療剤)と共に対象の患部に局所投与する。
【0421】
別の実施形態では、本発明の予防剤又は治療剤を制御放出又は持続放出システムで送達することができる。1実施形態では、制御又は持続放出を達成するためにポンプを使用することができる(Langer,前出;Sefton,1987,CRC Crit.Ref.Biomed.Eng.14:20;Buchwald et al.,1980,Surgery 88:507;Saudek et al.,1989,N.Engl.J.Med.321:574参照。)。別の実施形態では、本発明の治療薬の制御又は持続放出を達成するためにポリマー材料を使用することができる(例えばMedical Applications of Controlled Release,Langer and Wise(eds.),CRC Pres.,Boca Raton,Fla.(1974);Controlled Drug Bioavailability,Drug Product Design and Performance,Smolen and Ball(eds.),Wiley,New York(1984);Ranger and Peppas,1983,J.,Macromol.Sci.Rev.Macromol.Chem.23:61参照;更にLevy et al.,1985,Science 228:190;During et al.,1989,Ann.Neurol.25:351;Howard et al.,1989,J.Neurosurg.7 1:105);米国特許第5,679,377号;米国特許第5,916,597号;米国特許第5,912,015号;米国特許第5,989,463号;米国特許第5,128,326号;PCT公開番号WO99/15154;及びPCT公開番号WO99/20253も参照。)。持続放出製剤で使用されるポリマーの例としては、限定されないが、ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(アクリル酸)、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリ(メタクリル酸)、ポリグリコリド(PLG)、ポリ酸無水物、ポリ(N-ビニルピロリドン)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリアクリルアミド、ポリ(エチレングリコール)、ポリラクチド(PLA)、ラクチド・グリコリド共重合体(PLGA)及びポリオルトエステルが挙げられる。好ましい1実施形態において、持続放出製剤で使用されるポリマーは不活性であり、浸出性不純物を含まず、保存安定性であり、無菌であり、生分解性である。更に別の実施形態では、制御又は持続放出システムを予防剤又は治療剤に近接して配置することができ、従って、全身用量の一部だけで済む(例えばGoodson,in Medical Applications of Controlled Release,前出,vol.2,pp.115-138(1984)参照。)。
【0422】
制御放出システムはLanger(1990,Science 249:1527-1533)の論文に記載されている。本発明の1種以上の治療剤を含有する持続放出製剤を製造するには当業者に公知の任意技術を使用することができる。例えば各々その開示内容全体を本願に援用する米国特許第4,526,938号、PCT公開WO91/05548、PCT公開WO96/20698、Ning et al.,1996,“Intratumoral Radioimmunotheraphy of a Human Colon Cancer Xenograft Using a Sustained-Release Gel,” Radiotherapy & Oncology 39:179-189,Song et al.,1995,“Antibody Mediated Lung Targeting of Long-Circulating Emulsions,” PDA Journal of Pharmaceutical Science & Technology 50:372-397,Cleek et al.,1997,“Biodegradable Polymeric Carriers for a bFGF Antibody for Cardiovascular Application,” Pro.Int’l.Symp.Control.Rel.Bioact.Mater.24:853-854,及びLam et al.,1997,“Microencapsulation of Recombinant Humanized Monoclonal Antibody for Local Delivery,” Proc.Int’l.Symp.Control Rel.Bioact.Mater.24:759-760参照。
【0423】
本発明の組成物が予防剤又は治療剤をコードする核酸である特定の1実施形態では、適切な核酸発現ベクターの一部として前記核酸を構築し、例えばレトロウイルスベクターの使用(米国特許第4,980,286号参照。)により、又は直接注射により、又は微粒子照射の使用(例えば遺伝子銃;Biolistic,Dupont)により、又は脂質もしくは細胞表面受容体もしくはトランスフェクト剤のコーティングにより、又は核に侵入することが知られているホメオボックス様ペプチドと連結しての投与により、細胞内に入るように投与することにより、コードされる予防剤又は治療剤の発現を促進するために、前記核酸をインビボ投与することができる(例えばJoliot et al.,1991,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:1864-1868参照。)。あるいは、核酸を細胞内に導入し、相同組換えにより発現させるように宿主細胞DNAに組込むことができる。
【0424】
本発明の医薬組成物はその所期投与経路に適合するように製剤化される。投与経路の例としては、限定されないが、非経口(例えば静脈内、皮内、皮下)、経口、鼻腔内(例えば吸入)、経皮(例えば局所)、経粘膜及び経直腸投与が挙げられる。特定の1実施形態では、ヒトに静脈内、皮下、筋肉内、経口、鼻腔内又は局所投与するのに適した医薬組成物として通常の手順に従って組成物を製剤化する。一般に、静脈内投与用組成物は滅菌等張水性緩衝液を溶媒とする溶液である。必要に応じて溶解補助剤と、注射部位の痛みを緩和するためにリグノカイン等の局所麻酔薬も組成物に加えてもよい。
【0425】
本発明の方法が組成物の鼻腔内投与を含む場合には、エアゾール形態、スプレー、ミスト又は滴剤として組成物を製剤化することができる。特に、本発明に従って使用する予防剤又は治療剤は適切な噴射剤(例えばジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素又は他の適切なガス)を利用して加圧パック又はネブライザーからエアゾールスプレーとして簡便に送達することができる。加圧エアゾールの場合には、定量を送達するようにバルブを配置することにより用量単位を計量することができる。インヘラー又はインサフレーターで使用する(例えばゼラチンから構成される)カプセル及びカートリッジは化合物と乳糖やデンプン等の適切な粉末基剤の粉末混合物を充填して製剤化することができる。
【0426】
本発明の方法が経口投与を含む場合には、錠剤、カプセル剤、カシェ剤、ゲルカプセル剤、溶液剤、懸濁剤等として組成物を経口製剤化することができる。錠剤又はカプセル剤は結合剤(例えばα化トウモロコシデンプン、ポリビニルピロリドン又はヒドロキシプロピルメチルセルロース);充填剤(例えば乳糖、微結晶セルロース又はリン酸水素カルシウム);滑沢剤(例えばステアリン酸マグネシウム、タルク又はシリカ);崩壊剤(例えばジャガイモデンプン又はデンプングリコール酸ナトリウム);又は湿潤剤(例えばラウリル硫酸ナトリウム)等の医薬的に許容可能な賦形剤を使用して従来の手段により製造することができる。錠剤は当分野で周知の方法によりコーティングしてもよい。経口投与用液体製剤は限定されないが、溶液、シロップ又は懸濁液の形態をとることができ、あるいは使用前に水又は他の適切な媒体で構成する乾燥製剤としてもよい。このような液体製剤は懸濁化剤(例えばソルビトールシロップ、セルロース誘導体又は水素添加食用油);乳化剤(例えばレシチン又はアラビアガム);非水性媒体(例えばアーモンド油、油性エステル、エチルアルコール又は分留植物油);及び防腐剤(例えばp-ヒドロキシ安息香酸メチル、p-ヒドロキシ安息香酸プロピル又はソルビン酸)等の医薬的に許容可能な添加剤を使用して従来の手段により製造することができる。製剤には更に必要に応じて緩衝塩類、着香剤、着色剤及び甘味剤を加えてもよい。経口投与用製剤は予防剤又は治療剤の遅延放出、制御放出又は持続放出に適するように製剤化することができる。
【0427】
本発明の方法はエアゾール化剤を加えて製剤化した組成物の(例えばインヘラー又はネブライザーの使用による)経肺投与を含むことができる。例えば各々その開示内容全体を本願に援用する米国特許第6,019,968号、5,985,320号、5,985,309号、5,934,272号、5,874,064号、5,855,913号、5,290,540号及び4,880,078号;並びにPCT公開番号WO92/19244、WO97/32572、WO97/44013、WO98/31346及びWO99/66903参照。特定の1実施形態では、Alkermes AIR(R)経肺薬物送達技術(Alkermes,Inc.,Cambridge,Mass.)を使用して本発明の抗体、併用治療薬及び/又は組成物を投与する。
【0428】
本発明の方法は非経口投与用に製剤化された組成物の注射(例えばボーラス注射又は連続輸液)による投与を含むことができる。防腐剤を加えて(例えばアンプル又はマルチドーズ容器に収容した)単位用量形態の注射用製剤とすることができる。前記組成物は油性又は水性媒体で懸濁液、溶液又は乳剤の形態にしてもよく、懸濁化剤、安定剤及び/又は分散剤等の製剤化剤を添加することができる。あるいは、活性成分は使用前に適切な媒体(例えば滅菌パイロジェンフリー水)で再構成する粉末形態でもよい。
【0429】
本発明の方法は更にデポ製剤として製剤化された組成物の投与を含むことができる。このような長時間作用型製剤は移植(例えば皮下又は筋肉内)又は筋肉内注射により投与することができる。従って、例えば、前記組成物は適切なポリマー又は疎水性材料を使用して(例えば許容可能な油を分散媒とする乳剤として)製剤化してもよいし、イオン交換樹脂を使用して製剤化してもよいし、難溶性誘導体として(例えば難溶性塩として)製剤化してもよい。
【0430】
本発明の方法は中性又は塩形態として製剤化された組成物の投与も包含する。医薬的に許容可能な塩としては、塩酸、リン酸、酢酸、蓚酸、酒石酸等から誘導されるもの等のアニオンと共に形成される塩と、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウム、水酸化第2鉄、イソプロピルアミン、トリエチルアミン、2-エチルアミノエタノール、ヒスチジン、ブロカイン等から誘導されるもの等のカチオンと共に形成される塩が挙げられる。
【0431】
一般に、組成物の成分は活性剤の量を指示したアンプルやサシェ等の気密容器に入れて(例えば乾燥凍結乾燥粉末又は無水濃縮物として)単位用量形態で別々に又は混合して提供される。投与方式が輸液の場合には、無菌医薬グレード水又は生理食塩水を充填した輸液ボトルを使用して組成物を分配することができる。投与方式が注射の場合には、投与前に成分を混合できるように滅菌注射用水又は生理食塩水のアンプルを提供することができる。
【0432】
特に、本発明は薬剤の量を指示したアンプルやサシェ等の気密容器に本発明の予防剤、治療剤又は医薬組成物の1種以上をパッケージングすることも提案する。1実施形態では、本発明の予防剤、治療剤又は医薬組成物の1種以上を気密容器に入れて乾燥無菌凍結乾燥粉末又は無水濃縮物として供給し、対象に投与するのに適した濃度まで(例えば水又は生理食塩水で)再構成することができる。本発明の予防剤、治療剤又は医薬組成物の1種以上を気密容器に入れて乾燥無菌凍結乾燥粉末として少なくとも5mg、少なくとも10mg、少なくとも15mg、少なくとも25mg、少なくとも35mg、少なくとも45mg、少なくとも50mg、少なくとも75mg又は少なくとも100mgの単位用量で供給することが好ましい。本発明の凍結乾燥予防剤、治療剤又は医薬組成物は元の容器に入れたまま2℃~8℃で保存すべきであり、本発明の予防剤、治療剤又は医薬組成物は再構成後1週間以内、5日以内、72時間以内、48時間以内、24時間以内、12時間以内、6時間以内、5時間以内、3時間以内、又は1時間以内に投与すべきである。代替実施形態において、本発明の予防剤、治療剤又は医薬組成物の1種以上は薬剤の量と濃度を指示した気密容器に入れて液体形態で供給される。投与する組成物の液体形態を気密容器に入れて少なくとも0.25mg/ml、少なくとも0.5mg/ml、少なくとも1mg/ml、少なくとも2.5mg/ml、少なくとも5mg/ml、少なくとも8mg/ml、少なくとも10mg/ml、少なくとも15mg/kg、少なくとも25mg/ml、少なくとも50mg/ml、少なくとも75mg/ml又は少なくとも100mg/mlで供給することが好ましい。前記液体形態は元の容器に入れたまま2℃~8℃にて保存すべきである。
【0433】
本発明の抗体及び抗体部分は非経口投与に適した医薬組成物に配合することができる。前記抗体又は抗体部分は0.1~250mg/mlの抗体を含有する注射溶液として製造することが好ましい。注射溶液はフリントガラス又はアンバーガラスのバイアル、アンプル又はプレフィルドシリンジに収容した液体又は凍結乾燥剤形から構成することができる。緩衝液はL-ヒスチジン(1~50mM)、最適には5~10mMでpH5.0~7.0(pH6.0が最適)とすることができる。他の適切な緩衝液としては、限定されないが、琥珀酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、リン酸ナトリウム又はリン酸カリウムが挙げられる。溶液の毒性を0~300mM(液体剤形では150mMが最適)の濃度に調節するために塩化ナトリウムを使用することができる。凍結乾燥剤形には凍結保護剤、主に0~10%(0.5~1.0%が最適)のショ糖を加えることができる。他の適切な凍結保護剤としては、トレハロースと乳糖が挙げられる。凍結乾燥剤形には嵩高剤、主に1~10%(2~4%が最適)のマンニトールを加えることができる。液体及び凍結乾燥剤形のどちらにも安定剤、主に1~50mM(5~10mMが最適)のL-メチオニンを使用することができる。他の適切な嵩高剤としては、グリシン、アルギニンが挙げられ、0~0.05%ポリソルベート80(0.005~0.01%が最適)として添加することができる。その他の界面活性剤としては、限定されないが、ポリソルベート20及びBRIJ界面活性剤が挙げられる。非経口投与用注射溶液として製造される本発明の抗体及び抗体部分を含有する医薬組成物は更に治療用タンパク質(例えば抗体)の吸収又は分散を増すために使用されるもの等のアジュバントとして有用な薬剤を含有することができる。特に有用なアジュバントはHylenex(R)(組換えヒトヒアルロニダーゼ)等のヒアルロニダーゼである。注射溶液にヒアルロニダーゼを加えると、非経口投与、特に皮下投与後のヒト生体利用性が改善される。注射部位体積を増す(即ち>1ml)と共に、痛みと不快感を減らし、注射部位反応の発生を最小限にすることができる。(本願に援用するWO2004078140、US2006104968参照。)。
【0434】
本発明の組成物は種々の剤形にすることができる。これらの剤形としては、例えば液体、半液体及び個体剤形が挙げられ、具体的には溶液(例えば注射溶液及び輸液溶液)、分散液又は懸濁液、錠剤、丸剤、散剤、リポソーム及び座剤が挙げられる。好ましい剤形は所期投与方式と治療用途によって異なる。典型的な好ましい組成物はヒトを他の抗体で受動免疫するために使用されるものと似た組成等の注射溶液又は輸液溶液の形態である。好ましい投与方式は非経口(例えば静脈内、皮下、腹腔内、筋肉内)である。好ましい1実施形態では、抗体を静脈内輸液又は注射により投与する。別の好ましい実施形態では、抗体を筋肉内又は皮下注射により投与する。
【0435】
治療用組成物は一般に製造・保存条件下で無菌・安定でなければならない。前記組成物は溶液、マイクロエマルション、分散液、リポソーム又は高薬物濃度に適した他の規則的構造として製剤化することができる。無菌注射溶液は必要に応じて上記成分の1種又は組合せと共に適切な溶媒に必要量の活性化合物(即ち抗体又は抗体部分)を配合した後、濾過滅菌することにより製造することができる。一般に、塩基性分散媒と上記成分から選択される必要な他の成分を含有する滅菌媒体に活性化合物を配合することにより分散液を調製する。無菌注射溶液を調製するための無菌凍結乾燥粉末の場合には、好ましい製造方法は真空乾燥法と噴霧乾燥法であり、予め製造した活性成分と他の望ましい任意成分の無菌濾過溶液からその粉末を得る。例えばレシチン等のコーティングの使用により、分散液の場合には必要な粒度の維持により、更には界面活性剤の使用により、溶液の適正な流動性を維持することができる。吸収を遅らせる薬剤(例えばモノステアリン酸塩やゼラチン)を組成物に加えることにより注射用組成物の長時間吸収を実現することができる。
【0436】
本発明の抗体及び抗体部分又はADCは当分野で公知の種々の方法により投与することができるが、多くの治療用途に好ましい投与経路/方式は皮下注射、静脈内注射又は輸液である。当業者に自明の通り、投与経路及び/又は方式は所望される結果によって異なる。ある種の実施形態において、活性化合物はインプラント、経皮パッチ及びマイクロカプセル送達システムを含む制御放出製剤のように、化合物が迅速に放出されないようにする担体を用いて製造することができる。エチレン酢酸ビニル、ポリ酸無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル及びポリ乳酸等の生分解性生体適合性ポリマーを使用することができる。このような製剤の多くの製造方法が特許付与されており、又は一般に当業者に公知である。例えばSustained and Controlled Release Drug Delivery Systems,J.R.Robinson,ed.,Marcel Dekker,Inc.,New York,1978参照。
【0437】
ある種の実施形態では、例えば不活性希釈剤又は同化性可食担体を使用して本発明の抗体又は抗体部分又はADCを経口投与することができる。化合物(及び必要に応じて他の成分)をハード又はソフトシェルゼラチンカプセルに封入してもよいし、錠剤に圧縮してもよいし、対象の食事に直接添加してもよい。経口治療投与には、化合物に賦形剤を添加し、服用可能な錠剤、バッカル錠、トローチ剤、カプセル剤、エリキシル剤、懸濁剤、シロップ剤、ウエハース剤等として使用することができる。非経口投与以外で本発明の化合物を投与するには、その不活性化を防ぐ材料で化合物をコーティングするか、このような材料と併用投与することが必要な場合がある。
【0438】
他の実施形態では、本発明の抗体又は抗体部分又はADCをポリマー種と結合させ、本発明の抗体又は抗体部分が血管透過性・滞留性亢進(EPR効果)を享受するために十分な寸法を前記ポリマー種により本発明の抗体又は抗体部分に付与することができる(PCT公開番号WO2006/042146A2、米国公開第2004/0028687A1号、2009/0285757A1号及び2011/0217363A1号、並びに米国特許第7,695,719も参照(各々その開示内容全体を全目的で本願に援用する。))。
【0439】
補助活性化合物も組成物に配合することができる。ある種の実施形態では、EGFR活性が有害である障害を治療するために有用な1種以上の別の治療剤と本発明の抗体又は抗体部分又はADCを合剤化及び/又は併用投与する。例えば、他の標的と結合する1種以上の別の抗体(例えばサイトカイン又は細胞表面分子と結合する抗体)と本発明の抗hEGFR抗体又は抗体部分又はADCを合剤化及び/又は併用投与することができる。更に、本発明の1種以上の抗体を上記治療剤の2種以上と併用してもよい。このような併用療法は投与する治療剤を少ない用量で利用できるため、種々の単独療法に伴う毒性や合併症の可能性を避けることができるという利点がある。
【0440】
ある種の実施形態では、当分野で公知の半減期を延長する担体とEGFRに対する抗体又はADC又はそのフラグメントを連結する。このような担体しては、限定されないが、Fc領域、ポリエチレングリコール及びデキストランが挙げられる。このような担体は例えば全目的で本願に援用する米国出願第09/428,082号及び公開PCT出願第WO99/25044号に記載されている。
【0441】
当業者に容易に理解される通り、本願に記載する本発明の方法の他の適切な変形及び応用も自明であり、本発明の範囲又は本願に開示する実施形態から逸脱しない限り、適切な等価物を使用して実施できる。以上、本発明を詳細に記載したが、単に例証の目的であって限定的ではない以下の実施例を参照することにより更に明瞭に理解されよう。
【実施例0442】
実施例1:改良型抗EGFR抗体の同定
抗体1
抗体1(Ab1)はヒト化抗EGFR抗体である。Ab1の重鎖可変領域(VH)アミノ酸配列を以下に配列番号1として示す。Ab1のVH CDRアミノ酸配列は以下に下線で示し、GYSISSDFAWN(VH CDR1;配列番号2);YISYSGNTRYQPSLKS(VH CDR2;配列番号3);及びAGRGFPY(VH CDR3;配列番号4)である。
【0443】
【化34】
【0444】
Ab1の軽鎖可変領域(VL)アミノ酸配列を以下に配列番号5として示す。Ab1のVL CDRアのミノ酸配列は以下に下線で示し、HSSQDINSNIG(VL CDR1;配列番号6);HGTNLDD(VL CDR2;配列番号7);及びVQYAQFPWT(VL CDR3;配列番号8)である。
【0445】
【化35】
【0446】
Ab1よりも改善された特性をもつ抗EGFR抗体を同定するためのスクリーニングを実施した。Ab1変異体の同定の詳細を以下に記載する。
【0447】
Ab1変異体VL及びVHライブラリーの作製
Ab1の変異体重鎖又は軽鎖可変領域を含む3種の1本鎖(scFv)ライブラリーをスクリーニングすることによりAb1変異体抗体を同定した。scFvライブラリーの1つはAb1変異体重鎖可変領域を含み(即ちAb1変異体重鎖可変領域とAb1軽鎖可変領域を含むscFv)、第2のscFvライブラリーはAb1変異体軽鎖可変領域を含むものとした(即ちAb1変異体軽鎖可変領域とAb1重鎖可変領域を含むscFv)。Ab1変異体VH及びVL領域を合わせて第3のscFvライブラリーとした後、スクリーニングを複数ラウンド実施し、結合親和性がAb1よりも高いVH及びVL Ab1変異体の組合せを選択した。Ab1変異体VH及びVLライブラリーのデザインを図16に示す。
【0448】
変異体Ab1 VH領域を作製するために、Ab1のVHとVH4-4(配列番号93)及びVH4-b生殖細胞系列配列の整列に少なくとも部分的に基づいて12個のアミノ酸残基を突然変異に選択した(突然変異アミノ酸残基を「X」で示した図16A参照。)。ヒト生殖細胞系列配列とAb1配列に基づいてP101D置換(図16Aに「Z」で示す)も導入した。上記コドン使用によると、12個の残基(図16Aの「X」残基)を標的とすることにより、10ライブラリーで大半のVH Ab1変異体はクローン1個当たりの突然変異残基が4個以下になると計算された。図16Aに記載するように、N末端ピログルタミン酸形成を防ぐためにフレームワーク残基1個(Q1E)も置換させた。
【0449】
変異体Ab1 VL領域を作製するために、Ab1のVL領域とIGKV1-12(L5)生殖細胞系列配列の整列に少なくとも部分的に基づいて11個のアミノ酸残基を突然変異に選択した(図16Bに「X」で記した残基参照。)(IGKV1-12は配列番号94に記載する。)。33位と52位の残基(図16Bに夫々「1」と「2」で示す)は多様性を制限するようにデザインした。33位の残基はL、V、I又はFに制限し、52位の残基はS、A、T及びPに制限した。
【0450】
Benatuil et al.(2010)Protein Eng,Design,and Selection,23(4):155-159に記載されている形質転換法を使用して上記に基づく酵母ライブラリーを作製した。
【0451】
scFv Ab1変異体ライブラリーのスクリーニング
Ab1変異体VH又はVL領域を含む1本鎖可変領域フラグメント(scFv)を夫々のライブラリーから発現させ、scFvが短縮型野生型(wt)ヒトEGFR1-525と突然変異体EGFR(CA)に結合する能力に基づいてスクリーニングした。EGFR(CA)は295位と307位にシステイン→アラニン突然変異を含むEGFR変異体である(Garrett et al.(2009)PNAS USA 106(13):5082-5087参照。)。約1×10個のクローンを含むライブラリーをスクリーニングした。
【0452】
Ab1はEGFR(CA)と結合するが、wtEGFRとは実質的に結合しないので、初期ラウンドのスクリーニングではEGFR(CA)を使用し、EGFR(CA)との結合親和性(kon、koff又はその両方)がAb1よりも改善されたAb1変異体重鎖及び軽鎖を同定した。一方、後期ラウンドのスクリーニングではEGFR(1-525)を使用し、EGFR(1-525)との結合親和性(kon、koff又はその両方)がAb1よりも改善されたAb1変異体を同定した。
【0453】
磁気ビーズソーティング(MACS(磁気細胞分離技術))及びFACSに基づくアッセイの2種類の方法を使用してライブラリースクリーニングを実施した(MACS及びFACSについては、例えば,Chao et al(2006)Nature Protocols 1:755-765;Feldhaus et al.(2003)Nature Biotech 21:163-170;及びVanAntwerp(2000)Biotechnol.Prog.16:31-37参照。)。磁気ビーズ濃縮に基づくスクリーニングを少なくとも2ラウンド実施した後にフローサイトメトリーソーティングに基づくスクリーニングを少なくとも3ラウンド実施した(Feldhaus and Siegel,Ch.17 of Flow Cytometry Protocols,2nd ed.,ed.Hawley and Hawley,vol.263)。平衡とkoff選択を使用し、Ab1よりも結合性が改善されたscFvを同定した。
【0454】
Ab1よりも結合性が改善されたAb1変異体VH及びVL領域について合計3種のライブラリーをスクリーニングした。Ab1変異体VH及びVLライブラリーを使用して4~5ラウンドのスクリーニングを実施し、併合Ab1変異体VH/VLライブラリーで5~6ラウンドを実施した。Ab1変異体VLライブラリーと、Ab1変異体VHライブラリーと、Ab1変異体VH及びVLの併合ライブラリーのスクリーニングの結果、EGFR(EGFR(1-525)とEGFR(CA))との結合親和性がAb1よりも高いAb1変異体VH及びVL領域を含むscFvが同定された。
【0455】
改良型抗体の同定
EGFR(1-525)との特異的結合を含めて結合特性が改善されたと同定された15種のAb1変異体scFvをIgGタンパク質(具体的にはIgG1抗体)の作製に選択した。本願ではこれらの15種のAb1変異体抗体について記載し、抗体A(全文を通して「AbA」と言う。)(VH配列番号9;VL配列番号5参照。)、抗体B(本願では「AbB」と言う。)(VH配列番号64;VL配列番号65参照。)、抗体C(本願では「AbC」と言う。)(VH配列番号66;VL配列番号67参照。)、抗体D(本願では「AbD」と言う。)(VH配列番号68;VL配列番号69参照。)、抗体E(本願では「AbE」と言う。)(VH配列番号50;VL配列番号51参照。)、抗体F(本願では「AbF」と言う。)(VH配列番号52;VL配列番号53参照。)、抗体G(本願では「AbG」と言う。)(VH配列番号72;VL配列番号73参照。)、抗体H(本願では「AbH」と言う。)(VH配列番号54;VL配列番号55参照。)、抗体J(本願では「AbJ」と言う。)(VH配列番号56;VL配列番号57参照。)、抗体K(本願では「AbK」と言う。)、抗体L(本願では「AbL」と言う。)(VH配列番号58;VL配列番号59参照。)、抗体M(本願では「AbM」と言う。)(VH配列番号76;VL配列番号77参照。)、抗体N(本願では「AbN」と言う。)(VH配列番号60;VL配列番号61参照。)、抗体O(本願では「AbO」と言う。)(VH配列番号62;VL配列番号63参照。)及び抗体P(本願では「AbP」と言う。)(VH配列番号78;VL配列番号79参照。)である。VH及びVLライブラリーから選択したクローンを夫々Ab1 VL又はVH領域と対合させた(AbA、AbB、AbC、AbD、AbE及びAbF参照。)。
【0456】
Ab1変異体抗体のVH領域のアミノ酸配列を以下に示す。CDRは下線で示し、Ab1に対するアミノ酸置換を太字で強調する。
【0457】
【化36】
【0458】
Ab1変異体抗体のVL領域のアミノ酸配列を以下に示す。CDRは下線で示し、Ab1に対するアミノ酸置換を太字で強調する。
【0459】
【化37】
【0460】
15種のAb1変異体VH及び/又はVL領域の核酸配列を全長IgG抗体の発現用の発現ベクターにサブクローニングした(いずれも本願に援用する米国特許第8,187,836号及び米国特許第8,455,219号に開示されているベクター及び方法を参照。)。標準方法に従って抗体発現ベクターをHEK293細胞に一時的にトランスフェクトした(Durocher et al.(2002)Nucleic Acid Res.30(2;e9)参照。)。Ab1変異体の各々の重鎖の発現に使用したリーダー配列のアミノ酸配列はMEFGLSWLFLVAILKGVQC(配列番号88)とし、Ab1変異体の各々の軽鎖の発現のリーダー配列に使用したアミノ酸配列はMRVPAQLLGLLLLWFPGSRC(配列番号89)とした。次に親和性及び機能評価のためにAb1抗体変異体をプロテインAクロマトグラフィーにより培地から精製した。
【0461】
抗体AbA
同定されたAb1変異体抗体の1つはAbAであった。AbAは軽鎖可変領域配列がAb1(配列番号5)と同一であり、CDR1、CDR2及びCDR3アミノ酸配列(夫々配列番号6、7及び8に記載)も同一であった。
【0462】
AbAのVHアミノ酸配列を配列番号9に示す。AbAのVH CDRアミノ酸配列はGYSISRDFAWN(CDR1;配列番号10);YISYNGNTRYQPSLKS(CDR2;配列番号11);及びASRGFPY(CDR3;配列番号12)であり、下線で示す。AbAとAb1の重鎖可変領域で相違する残基は以下に太字で示す。
【0463】
【化38】
【0464】
図1及び2はAb1とAbAのVH及びVL領域(図1)と全長重鎖及び軽鎖(図2)のアミノ酸配列の整列を示す。Ab1とAbAの軽鎖アミノ酸配列は同一である(配列番号13)。一方、Ab1とAbAの重鎖アミノ酸配列はこれらの2種の配列間で6アミノ酸の相違があり、そのうち3個はCDRに位置する。Ab1 VHアミノ酸配列とAbA VHアミノ酸配列の相違を図1に影付きで示すが、VH CDRの各々に存在する。AbAの重鎖可変領域のCDR1ドメインにはセリン(Ab1)からアルギニンへのアミノ酸置換があった。重鎖可変領域のCDR2ドメインにはAb1のセリンからAbAのアスパラギンへのアミノ酸置換があった。最後に、重鎖可変領域のCDR3にはAb1のグリシンからAbAのセリンへのアミノ酸置換があった。AbA内のアミノ酸置換の2カ所は重鎖の定常領域に位置する(D354EとL356M)。AbAにおけるFc領域アミノ酸突然変異はz,aアロタイプからz,非aアロタイプへのヒトIgGアロタイプ変異に相当する。他の変異に加え、例えば図1に記載するように、最初のアミノ酸はグルタミン(Q)からグルタミン酸(E)に置換していた。
【0465】
Ab1変異体抗体配列とAb1配列の比較
表1はAb1と比較したAb1変異体抗体AbA、AbG、AbK、AbM及びAbPの重鎖及び軽鎖CDRのアミノ酸配列の整列を示す。表2はAb1、AbA、AbG、AbK、AbM及びAbPの抗EGFR抗体CDRコンセンサス配列の比較を示す。表1及び3の空欄は残基がAb1と同一であることを示す。
【0466】
【表3】
【0467】
【表4】
【0468】
表2に示すように、Ab1変異体抗体AbA、AbG、AbK、AbM、AbPは各々CDR3の重鎖可変領域にグリシンの代わりにセリン残基をもつ(表2に太字/下線で示す)。
【0469】
Ab1と抗体AbB、AbC、AbD、AbE、AbF、AbH、AbJ、AbL、AbN、AbO及びAbQのVH及びVL CDR配列の比較を表3に示す。表3に示すCDR変異に加え、AbGはVHのフレームワーク2領域内にアミノ酸残基置換がある。
【0470】
【表5】
【0471】
Ab1変異体抗体の特性決定を以下の実施例2~8に記載する。
【0472】
実施例2:抗EGFR抗体の結合解析
Biacore解析
3種の組換えEGFR、具体的には野生型EGFR細胞外領域(ECD)(EGFR1-645)(配列番号34)、EGFRvIII(EGFR(1-29)-G-(298-645)(配列番号46))及び短縮型野生型EGFR1-525(EGFR1(1-525)(配列番号47))に対するAb1、Ab2(セツキシマブと同一の6個のCDRアミノ酸配列をもつ抗体)、及び実施例1で同定された抗EGFR抗体の親和性を比較するためにBiacore解析を実施した。Ab2は夫々配列番号48及び49として示すようなAb2の重鎖及び軽鎖アミノ酸配列を含み、標準方法に従って作製した。
【0473】
Ab1とAb2はどちらも抗EGFR抗体であるが、性質が異なり、独自のエピトープと結合する。Ab2はEGFRのL2ドメインと結合し(Gan et al.(2012)Cancer Res 72(12)1-7;Li et al.(2005)Cancer Cell 7:301)、Ab1はEGFRのCR1ドメイン(ドメインII)のアミノ酸残基287-302と結合する(Gan et al.(2012)72(12)1-7;Johns et al.(2004)J BiolChem 279:30375-30384)。EGFRのドメインIIはEGFRの拡大した配座に現れる(Li et al.(2005)Cancer Cell 7:301)。図17はEGFRの全体の構造ドメイン編成の模式図であり、Ab2及びAb1のエピトープが何処に位置するかを大まかに示す。Ab2と異なり、Ab1はEGFR ECD(配列番号34)と結合しない(又は非常に弱く結合する。)。Ab1は活性化野生型EGFRと結合することができ、EGFRvIIIとのインビボ結合親和性がAb2よりも高い。従って、本願に記載する実験ではAb2を対照とし、Ab1とは異なるエピトープに結合し、異なる結合親和性特徴をもつ第2の抗EGFR抗体として使用した。
【0474】
CM5センサーチップと共にBiacore T100を使用してBiacore解析を実施し、標準アミンカップリングキットを製造業者(GE healthcare)の指示に従って使用してアミノ基を介してチップに固定化した抗ヒトFc抗体を利用して試験抗体を捕捉した。要約すると、CM5チップ表面をEDC/NHSで活性化させた。ヤギ抗ヒトFc特異的ポリクローナル抗体(Thermo Fisher Scientific Inc.,Rockford,IL)を10mM酢酸ナトリウム(pH4.5)で25μg/mLまで希釈し、活性化させた表面に注入し、固定化を行った。バイオセンサー表面の未反応部分をエタノールアミンでブロッキングした。Biacore T100は抗体とその抗原の相互作用を含む生体分子相互作用を検出、特性決定及び定量するための表面プラズモン共鳴に基づくバイオセンサーである。抗原を80μL/分で3分間注入した後、15分間解離させた。試験したEGFR ECDはEGFRのアミノ酸1-645をmycとヒスチジンタグに融合したものとした(EGFR(1-645)-LESRGPF-Myc-NMHTG-6His(「LESRGPF」(配列番号90);「6His」(配列番号91))。EGFRvIII変異体もmycとヒスチジンタグに融合し(EGFR(1-29)-G-(298-645)-LESRGPF-Myc-NMHTG-6His)、ECD EGFR1-525も同様とした(EGFR1(1-525)-SRGPF-Myc-NMHTG-6His(「SRGPF」(配列番号92))。Biacore解析で使用したランニングバッファーはHBS-EP+:10mM Hepes,pH7.5,150mM NaCl,3mM EDTA,0.05%Tween 20とした。
【0475】
Biacore結合解析からの結果を図3に示す。試験したAb1変異体抗体のうち、AbKは短縮型EGFR(1-525)との結合親和性が最大であり、Kは1.7×10-9Mであり、Ab1のKの1300倍であった。図3に記載するように、AbEは短縮型EGFR(1-525)との測定可能な親和性が最低であり、Kは5.9×10-7Mであり、Ab1のKの約4倍に過ぎなかった。AbAは短縮型EGFR(1-525)とのKの10倍の改善を示した(K2.3×10-6M(Ab1)に対してK2.2×10-7M(AbA))。Ab1と比較した短縮型EGFR1-525に対するAbB、AbC、AbD、AbF、AbG、AbH、AbJ、AbL、AbM、AbN、AbO及びAbPのK比も図3に示す。
【0476】
Ab1変異体抗体であるAb1及びAb2のEGFRvIIIとの結合親和性も試験した。図3に示すように、全てのAb1変異体はEGFRvIIIとの結合親和性がAb1よりも高かった。例えば、AbAは2.3×10-9MのKでEGFRvIIIから解離したが、Ab1は解離定数Kが9.4×10-9Mであった。従って、AbAは(解離定数により判定した場合に)親和性がAb1の4倍であった。
【0477】
Ab1と比較して短縮型EGFR(1-525)との解離定数が高かったAb1変異体抗体はEGFRvIIIとの親和性で必ずしも同一の増加を示さなかった。例えば、図3に記載するように、Ab1と比較したEGFRvIIIとの親和性の増加はAbOが最大(63倍)であったが、Ab1と比較した短縮型EGFR(1-525)との親和性の増加はAbKが最大(1300倍超)であった。別の例では、図3に記載するように、AbGはAb1変異体抗体のうちでEGFRvIIIとの結合が2番目に高かった(47倍超増加)が、Ab1と比較した短縮型EGFR(1-525)との親和性は6番目(263倍増加)であった。
【0478】
Ab1変異体の多くはEGFR1-525及びEGFRvIIIの両者との親和性がAb2よりも低く、例えば短縮型EGFR(1-525)とのKは4.0×10-9MであることがBiacore試験で判明した。
【0479】
Biacore解析の結果、Ab1もAb1変異体抗体もEGFRの全長ECD(EGFRアミノ酸1-645)とは結合しないことが判明した。他方、Ab2はEGFRのECDと結合した。従って、Ab1変異体と野生型EGFR ECDの結合はAb1と同様に存在しないか又は取るに足らないことが認められたにも拘わらず、Ab1変異体では短縮型受容体EGFR(1-525)との結合親和性が増加した。
【0480】
FACS(蛍光活性化セルソーティング)解析
FACS解析を実施し、腫瘍細胞(A431細胞)とのAbAの結合特性をAb1及びAb2と比較検討した。FACS解析を使用し、蛍光強度と細胞数を測定し、フローサイトメトリーソフトウェアを使用する解析により得られた蛍光強度(即ち幾何平均の値)を細胞に結合した抗体の量とした。具体的には、幾何平均の値を求めることにより、結合した抗体の量により表される抗体の結合活性を評価した。
【0481】
約80%コンフルエントで細胞解離バッファーを使用してA431細胞をフラスコから回収した。回収したA431細胞をPBS/1%FBS(胎仔ウシ血清)(FACSバッファー)で1回洗浄後、FACSバッファーに細胞2.5×10個/mLとなるように再懸濁した。丸底96ウェルプレートにウェル当たり細胞100μLを加えた。10倍濃度の抗体10μLを使用した(最終濃度を図4に示す)。ウェルをFACSバッファーで2回洗浄し、FACSバッファーで希釈した二次抗体(AlexaFluor 488)50μLに再懸濁した。プレートを4℃で1時間インキュベートし、FACSバッファーで2回洗浄した。細胞をPBS/1%ホルムアルデヒド100μLに再懸濁し、Becton Dickinson LSRIIフローサイトメーターで解析した。WinListフローサイトメトリー解析ソフトウェアを使用してデータを解析した。
【0482】
Ab1、Ab2及びAbAとA431腫瘍細胞との結合のFACS解析結果を図4に示し、細胞と共にインキュベートした抗体濃度に対する幾何平均を示す。図4から明らかなように、AbAはAb1よりもA431腫瘍細胞上のEGFRとの結合性が高いが、AbAはAb2に比較すると結合親和性が低かった。図4のデータは各抗体とその抗原との直接結合を表す。
【0483】
図3及び4から明らかなように、AbAはEGFRとの結合親和性が高く、EGFR濃度の高い細胞(A431腫瘍細胞)との結合性がAb1よりも増加した。AbAはA431細胞との結合性に比較すると、EGFR濃度の低い細胞との結合性(データは示さず)の増加が少ないことも分かった。
【0484】
実施例3:抗EGFR抗体のエピトープ解析
実施例1で同定された抗EGFR抗体が抗体Ab1と同一のエピトープをもつか否か、あるいはAb1変異体抗体であるAbA、AbG、AbK、AbM及びAbP内のアミノ酸置換がエピトープ結合性に影響を与えるか否かを検討する試験を実施した。
【0485】
競合アッセイ解析
Ab1、Ab2及び対照1抗体(抗CD20抗体(陰性対照として使用したリツキシマブ(Roche)))と比較して改良型抗EGFR抗体のエピトープ特異性を検討するために競合結合FACSアッセイを使用した。EGFRvIIIを発現するU87MG細胞(ヒト膠芽腫細胞株(A.Scott,Ludwig Institute for Cancer Researchから入手)(U87MG細胞はATTCからATCC HTB-14(TM)として入手可能;例えばU-87MG Cell Line human,Sigma-Aldrichも参照。)を使用した。約80%コンフルエントで細胞解離バッファーを使用してフラスコからU87MG細胞を回収した。細胞をPBS/1%FBS(胎仔ウシ血清)(FACSバッファー)で1回洗浄後、細胞2.5×10個/mLをFACSバッファーに再懸濁した。丸底96ウェルプレートにウェル当たり細胞100μLを加えた。競合FACSでは、(競合抗体の存在下又は不在下に)フルオレセインイソチオシアネート(FITC)を最終濃度100nMで加えることによりAb1を蛍光標識した後、ウェルをFACSバッファーで2回洗浄し、PBS/1%ホルムアルデヒド100μLに懸濁し、Becton Dickinson LSRIIフローサイトメーターで解析した。蛍光を488nMで測定した。
【0486】
競合アッセイの結果を図5に示すが、蛍光の幾何平均計算値は未標識Ab1変異体抗体濃度の上昇と共に減少したので、試験したAb1変異体抗体(即ちAbA、AbG、AbK、AbM及びAbP)はAb1と同一のエピトープ(「拡大した」EGFR配座に現れるEGFRのドメインII)を認識したことが分かる。結果によると、Ab2とAb1の間又はAb2とAb1変異体抗体の間に競合は認められなかったので、Ab1/AbA/AbG/AbK/AbM/AbPエピトープはAb2エピトープと相違することも明らかである。対照1抗体は前記細胞との結合に関してFITC標識Ab1と競合できなかったので、対照1抗体も競合アッセイでAb1エピトープとの検出可能な結合を示さなかった。
【0487】
画像解析
EGFRを発現する腫瘍による抗体取込み効率を評価するために、111Inで標識したAbAを使用してSPECT画像アッセイを実施した(例えばKhalil,et al.International Journal of Molecular Imaging,Vol.2011,Article ID 796025,p.1-15参照。)。免疫組織化学的解析によるEGFR発現レベルが中等度であることから、SW48細胞(結腸腫瘍細胞;ATCC No.CCL-231(TM))とEBC-1細胞(EBC-1細胞はJapanese Research Resources Bank(Id No.RCB1965)(日本、東京)から入手したヒト肺扁平上皮癌細胞株に由来する。)の2種類の腫瘍細胞株を選択した。これらの腫瘍細胞をマウスに注入後に標識AbA抗体、標識Ab又は標識陰性対照(非EGFR結合性IgG)を投与した後、注入後4時間、12時間、24時間、48時間、72時間、120時間及び168時間の時点でnanoSPECT/CTを使用してマウスからSPECT/CT画像を取得した。全標識抗体は尾静脈注射により投与した。抗体の血液クリアランスの差を考慮し、腫瘍対血液の比としてデータを報告する。図20A及び20Bに示す結果によると、マウスにおけるSW48(図20A)及びEBC-1(図20B)細胞のどちらもAb1及びIgG対照と比較してAbA取込み率が高いことが分かる。EGFR発現レベルの低いモデルであるEBC1モデル(図20B)では、Ab1取込み率はIgG対照と同等であったが、AbA取込み率はAb1又は陰性対照のどちらよりも高かった。図20に示す結果によると、AbAはEGFRを発現する特定の腫瘍を標的にできることが明らかである。(EGFR発現レベルが高いことが分かっている扁平上皮癌固形腫瘍(ATCC No.CRL-1555)に由来する)A431腫瘍細胞を使用した場合もAbAでは同様の画像結果が認められた。
【0488】
実施例4:腫瘍細胞株における抗EGFR抗体活性のインビトロ解析
SCC-15及びH292腫瘍細胞株におけるEGFRシグナル伝達のインビトロ解析
扁平上皮癌細胞(SCC)-15(ATCC(R)CRL-1623(TM))とH292細胞(肺癌細胞株;ATCC(R)CRL-1848(TM))を使用するウェスタンブロット解析により、Ab1、Ab2、AbA、AbB、AbC、AbD、AbG、AbK、AbM及びAbPが腫瘍細胞株においてEGFRのEGF介在性チロシンリン酸化をインビトロ阻害する能力を評価した。SCC-15細胞とH292細胞はいずれも野生型EGFRを発現する。野生型EGFRを発現する腫瘍細胞において抗体投与によりpEGFRのダウンレギュレーションが誘導されるならば、これらの抗体はこの受容体を介するシグナル伝達の阻害に少なくとも部分的に関与していると判断される。SCC-15細胞(ヒト舌扁平上皮癌)は形質転換角化細胞であり、Ab1にインビボで感受性である。SCC-15細胞はAb1にインビボ感受性であるが、H292(ヒト非小細胞肺癌(NSCLC))細胞はEGFRのEGF介在性チロシンリン酸化のAb1阻害にインビトロ及びインビボのいずれでも耐性である。従って、AbA、AbB、AbC、AbD、AbG、AbK、AbM及びAbPが腫瘍細胞においてEGFRシグナル伝達をインビトロ阻害する能力を試験するためにこれらの2種の細胞株を使用した。
【0489】
細胞を24ウェルプレートにウェル当たり60,000~80,000個又は6ウェル組織培養プレートにウェル当たり100,000~200,000個の割合で播種した。細胞を増殖培地で一晩インキュベートした。必要に応じて37℃で24時間血清飢餓後、細胞を抗体と共に37℃で1時間インキュベートした後、37℃にて10分間組換えヒトEGF(R&D Systems)で刺激した。次に細胞を氷冷PBSで2回洗浄し、コンプレートミニプロテアーゼインヒビターカクテル(Roche)と0.1%NP40(Tergitol-type NP-40;ノニルフェノキシポリエトキシエタノール)を添加した細胞溶解バッファー(Cell Signaling Technolgy)100~200μL/ウェルで溶解させた。-80℃で少なくとも20分間急速冷凍後、細胞溶解液を14,000rpmで10分間4℃にて遠心分離することにより清澄化した。清澄化した試料溶解液のタンパク質濃度をBCA Protein Assay(Pierce_Thermo Scientific)で測定した。4-12%bis-Tris,ミディゲル(Life Technologies)を使用して細胞溶解液(10μg)をSDS-PAGEで展開し、iBlot Dry Transfer system(Life Technologies)を使用してニトロセルロースメンブレンに転写した。ブロットを5%脱脂粉乳/Tween-トリス緩衝生理食塩水(TTBS)で室温にて1時間ブロッキングし、TTBSで3回洗浄後、適切な一次抗体(リン酸化EGFRの検出用には抗ホスホチロシン(4G10)ビオチンコンジュゲート,Millipore,1000倍希釈液を使用し、全長EGFRの検出用にはウサギ抗EGFR,Lifespan Biosciences,2000倍希釈液を使用し、内部対照アクチンの検出用にはウサギ抗Panアクチン,Cell Signaling Technology,1000倍希釈液)と共に4℃にて一晩インキュベートした。一次抗体と共に一晩インキュベーション後、ブロットをTTBSで5分間3回洗浄した後、全長EGFRとアクチンの検出にはロバ抗ウサギ抗体(Jackson Laboratories,2000倍希釈液)を使用し、リン酸化EGFRの検出にはストレプトアビジン-HRPコンジュゲート(KPL,1000倍希釈液)を使用して室温で1時間インキュベートした。その後、ブロットをTTBSで3回洗浄し、West Dura Chemiluminescent基質(Thermo Scientific)で処理した。LAS-4000スキャナー(富士フィルム社)を使用してスキャンによりブロットを可視化した。
【0490】
Ab2を陽性対照(即ちEGFRリン酸化の阻害剤)として使用し、対照1抗体を陰性対照(即ちEGFRと結合しないので、リン酸化EGFRに影響を与えない対照)として使用した。
【0491】
SCC-15細胞を使用したインビトロ試験のウェスタンブロット解析の結果を図7Aに示すが、リン酸化EGFRの有意ダウンレギュレーションの不在から明らかなように、Ab1と抗体AbA、AbB、AbC及びAbDはSCC-15細胞においてEGFRシグナル伝達を有意に阻害できなかったことが分かる。他方、図7Aに示すように、抗体AbG、AbK、AbP及びAbMはリン酸化EGFRが減少し、リン酸化EGFRレベルは陰性対照及びAb1よりも低く、陽性対照(Ab2)レベルと同等であったことから、これらの抗体はSCC-15細胞においてEGFR活性をインビトロ低下させることが判明した。このように、多数のAb1変異体がAb1に比較してインビトロ活性を獲得した。
【0492】
H292細胞を使用したインビトロ試験のウェスタンブロット解析の結果を図7Bに示す。図7Bの結果によると、Ab1と抗体AbA、AbB、AbC及びAbDはH292細胞においてEGFRシグナル伝達のインビトロ阻害を殆ど示さず、Ab2と抗体AbG、AbK、AbM及びAbPに比較してリン酸化EGFRの有意な減少はないことが分かる。抗体AbG、AbK、AbM及びAbPはH292細胞におけるEGFRのチロシンリン酸化の阻害(図7B参照。)にはAb1よりも有効であった。図7Bに示すように、Ab2(陽性対照)もEGFRリン酸化を阻害したが、Ab2に比較した結果から明らかなように、陰性対照(対照1抗体)はリン酸化の検出可能な阻害を示さなかった。
【0493】
以下に記載するように、AbAは野生型EGFR陽性細胞(H292)におけるEGFRリン酸化のインビトロ阻害に比較的機能しないことが分かったが、AbAは同一条件下で試験した抗体Ab1と比較してこれらの細胞のリン酸化をインビボ阻害することができた。
【0494】
即ち、図7A及び7Bに示すインビトロ結果によると、AbA、AbB、AbC、AbD、AbG、AbK、AbM及びAbPは(Ab1に比較して)EGFRとの結合性が増加したにも拘わらず、試験した腫瘍細胞株においてEGF介在性シグナル伝達をインビトロで有意に阻害又は抑制することができたのはAb1変異体抗体のうちの一部のみ(即ちAbG、AbK、AbM及びAbP)であった。一般に、表面プラズモン共鳴法により測定した場合、試験したAb1変異体抗体がSCC-15及びH292細胞においてEGFRのEGF介在性チロシンリン酸化をインビトロ阻害する能力はEGFRvIII及び短縮型EGFR(1-525)の両者との親和性の上昇に相関した。
【0495】
図6はAb1、Ab2及びAb1変異体抗体のEGFR(1-525)との結合親和性をまとめたものである。図6の2つの円の輪郭線は抗体がH292細胞又はSCC-15細胞においてEGFRリン酸化を阻害する能力(EGFR活性の阻害を示す)に関する上記インビトロ結果(又は同様の試験の結果)を表す。図6に示すように、Ab1変異体抗体は図7に示す結果に基づいて試験腫瘍細胞株でEGFRシグナル伝達をインビトロ阻害しないもの(Ab1、AbA、AbB、AbD、AbE及びAbF;図6でグループ1と指定)と、図7に示すように試験腫瘍細胞株でEGFRシグナル伝達をインビトロ阻害するもの(AbG、AbH、AbL、AbK、AbJ、AbM、AbN、AbO及びAbP;図6でグループ2と指定)の2つのグループ(グループ1及び2)に分類することができた。図6で比較すると、全てのAb1変異体抗体はEGFR(1-525)との親和性がAb1に比較して高く、図7に示す結果から明らかなように、Kが1×10-4-1未満のもの(グループ2)はEGFRシグナル伝達を有意にインビトロ阻害することができた。図6に示すように、Ab1の成熟プロセスの結果、主に解離速度の高いAb1変異体が得られた。
【0496】
A431腫瘍細胞株のインビトロ解析
A431ヒト上皮癌細胞を使用してリン酸化EGFR ELISAアッセイによりAb1とAb1変異体抗体がEGFRのEGF介在性リン酸化を阻害する能力も試験した。A431細胞は野生型EGFRを発現する。
【0497】
コラーゲンをコーティングした96ウェルディッシュでウェル当たり20,000個の割合で細胞を増殖培地に播種した。24時間後に、細胞を無血清培地で洗浄し、4時間血清飢餓状態にした。必要に応じて細胞をモノクローナル抗体で1時間前処理した後、組換えEGFで10分間37℃にて刺激した。EGF刺激後、細胞を氷冷PBSで2回洗浄し、プロテアーゼ阻害剤を添加した細胞溶解バッファー100μL/ウェルで溶解させ、-80℃で少なくとも20分間急速凍結した。ウェルに抗EGFR抗体(R&D systems,part number 841402,0.8μg/mL)50μLをプレコーティングした後、BS/1% BSAで1時間処理してブロッキングし、Tween-トリス緩衝生理食塩水(TTBS)で3回洗浄することにより捕捉用プレートを作製した。捕捉用プレートに細胞溶解液を加え、4℃で一晩インキュベートした。プレートをTTBSで5回洗浄し、pTry-西洋ワサビペルオキシダーゼ(R&D Systems,DYC1095)と共に1時間インキュベートした。プレートをTTBSで5回洗浄し、3,3,5,5-テトラメチルベンジジン(TMB)100μLを各ウェルに加え、発色するまで室温でインキュベートした。1N HClの添加により反応を停止し、ODを450nmで読み取った。
【0498】
A431阻害試験の結果を図8A及び8Bに示すが、Ab1変異体抗体はA431細胞においてEGFR活性を阻害する能力に幅のあることが分かる。図8Aに示すように、Ab1と変異体AbA、AbB、AbC、AbD、AbE及びAbFは抗体濃度が1333nMであっても(EGFRのEGF介在性リン酸化により測定した場合に)A431細胞におけるEGFRシグナル伝達の阻害に無効であった。他方、Ab1変異体抗体であるAbG、AbH、AbJ、AbK、AbL、AbM、AbN、AbO、AbP及びAbQはAb2に比較すると高濃度ではあるが、EGFRリン酸化を阻止するのにAb1よりも有効であった。EGFRと結合しない対照1抗体はA431細胞のEGFR阻害に無効であった。
【0499】
図8Bは抗体Ab1、AbP及びAb2について図8Aに示したデータを更に詳しく示す。図8Bから明らかなように、Ab1はAb2又はAbPに比較して低レベル、即ち平均10%以下の阻害を示した。Ab1はA431細胞においてEGFRシグナル伝達を阻害する際のIC50値が1333nM超であったが、AbPはIC50値が40nM超であり、Ab1よりも改善された。Ab2はIC50値が2.3nM超であった。
【0500】
実施例5:インビトロ角化細胞結合アッセイにおける抗EGFR抗体のFACs解析
正常ヒト表皮角化(NHEK)細胞とのAb1変異体抗体の結合親和性を検討するために角化細胞FACs結合アッセイを実施した。NHEK細胞は野生型EGFRを発現する。
【0501】
約80%コンフルエント時にトリプシンを使用して細胞を回収し、中和し、PBS/1%FBS(FACSバッファー)で1回洗浄後、FACSバッファーに2.5×10個/mLの割合で再懸濁した。丸底96ウェルプレートにウェル当たり細胞100μLを加えた。10倍濃度(最終濃度を図に示す)のAb10μLを加え、プレートを4℃で1時間インキュベートした。ウェルをFACSバッファーで2回洗浄後、FACSバッファーで希釈した二次抗体(AlexaFluor 488)50μLに再懸濁した。プレートを4℃で1時間インキュベートした後、FACSバッファーで2回洗浄した。次に細胞をPBS/1%ホルムアルデヒド100μLに再懸濁し、Becton Dickinson LSRIIフローサイトメーターで解析した。WinListフローサイトメトリー解析ソフトウェアを使用してデータを解析した。
【0502】
インビトロ角化細胞結合アッセイの結果を図9に示すが、標識AbA、AbG、AbK、AbM及びAbP抗体の濃度が増加するにつれて角化細胞へのEGFRの結合により蛍光測定値が増加したことが分かる。陽性対照としてAb2を使用した処、NHEK細胞への抗体の添加に伴って蛍光が増加した。Ab1は抗体濃度が高くても著しく低レベルの結合しか示さなかった。
【0503】
図9に示す結果によると、試験したAb1変異体抗体は角化細胞上の野生型EGFRと結合し、正常ヒト表皮角化細胞との親和性がAb1(及び陰性対照である対照1抗体)よりも高いことが分かる。図9の結果から、抗体AbA、AbG、AbK、AbM及びAbPはAb2に比較して正常ヒト表皮角化細胞との結合性が低いことも明らかである。これらの結果から、Ab1変異体抗体はAb1よりも良好に角化細胞上の野生型EGFRと結合できることが分かる。
【0504】
実施例6:腫瘍上の抗EGFR抗体のインビボ解析
マウス異種移植アッセイを使用して腫瘍の増殖に及ぼすAb1変異体抗体のインビボ影響を評価した。
【0505】
SCID及び無胸腺CD-1ヌードマウスをCharles River(Wilmington,MA)から入手した。ケージ1個当たりマウス10匹を収容した。到着時のマウスの体重は18~20gであった。全実験は実験動物管理評価認定協会により認定された施設で米国国立衛生研究所実験動物の管理と使用に関する指針のガイドラインに従って実施した。各皮下試験では、生存可能な細胞を0日目にマウスの右脇腹に皮下接種した。注射容量はS-MEMとMatrigel(BD,Franklin Lakes,NJ)の1:1混液0.2mLとした。腫瘍は約200~250mmにサイズマッチングさせた。腫瘍のサイズマッチング当日又は24時間後に治療を開始した。ヒトIgG混合物対照を陰性対照として使用した(ヒト血清と同様の精製ヒトIgG;Innovative Research)。マウスは治療開始時に体重約25gであった。週2~3回腫瘍体積を推算した。電子キャリパーにより腫瘍の長さ(L)と幅(W)を測定し、次式:V=(L×W)/2に従って体積を計算した。腫瘍体積が3,000mmに達した時点又は皮膚潰瘍が発生した時点でマウスを安楽死させた。投与前に適量の抗体ストックをリン酸緩衝生理食塩水で希釈した。図に示すように薬物を腹腔内投与した。異種移植試験ではH292(ヒト非小細胞肺癌(NSCLC))細胞を使用した。
【0506】
インビボ実験の結果によると、Ab1変異体抗体であるAbA、AbG、AbK、AbM及びAbPはAb1に比較して腫瘍増殖を有意に阻害することができた(図10参照。)。Ab1変異体抗体はAb1に比較して応答期間の持続性を増すこともでき、例えば(同一の用量及び投与スケジュールに従って)腫瘍細胞に注射後、Ab1は500mm未満の腫瘍体積を約18日間維持したのに対して、AbAは500mm未満の腫瘍体積を29日間維持した。図10に示すように、AbAを注射したマウスは20日目に腫瘍体積が約300mmであったが、Ab1を注射したマウスは20日目に腫瘍体積が700mmであった。29日目まで、AbAを注射したマウスは20日目のサイズ(即ち約300mm)と同等の体積の腫瘍を示したが、Ab1を注射したマウスは腫瘍体積が約1000mmまで増加した。
【0507】
図10に示した結果を数値化するために腫瘍増殖阻害百分率(%TGI)を計算した。図10に示した抗体の%TGIは以下の通りである。
AbA=74
AbG=88
AbK=90
AbM=84
AbP=86
Ab1=31
Ab2=73。
【0508】
%TGI値はヒトIgG対照を投与したマウスの腫瘍体積と比較した数値である。上記のように、Ab1はヒトIgG対照と比較して31%のTGIであったが、AbAのTGI計算値は74%であった。特に、Ab1変異体抗体はAb2と比較して同等以上の%TGIを示した。
【0509】
AbAは(図10に示すように)H292異種移植片腫瘍モデルにおいてインビボで応答の持続性を増すと共に腫瘍体積を減少させることができたが、実施例4及び図7に示すように、同一細胞株でEGFRのリン酸化をインビトロ阻害することはできなかった。抗体AbAはEGFR(1-525)及びEGFRvIIIとの結合親和性が低いにも拘わらず、インビボ活性も抗体AbG、AbK、AbM及びAbPと同等であった(図3参照。)。従って、AbAはインビトロ細胞シグナル伝達阻害を殆ど~全く示さなかったにも拘わらず、AbAは親和性値が高い他の抗EGFR変異体抗体(例えばAbK、AbM及びAbP)と同様にH292腫瘍細胞増殖をインビボで抑制又は阻害した。
【0510】
実施例7:AbA ADCを使用したインビボ腫瘍増殖阻害アッセイ
インビボマウス異種移植アッセイを使用してAbA-vcMMAE ADCが腫瘍増殖を阻害する能力を検討した。本実施例で使用したAbA ADCは実施例8に記載する方法に従ってコンジュゲートにしたが、本願に記載するバッチ精製法に従って精製しなかった。本実施例で使用したAbA ADC組成物の平均DARは3.7であった。2種類の異なるNSCLC細胞株であるNCI-H1703とEBC1を使用して(実施例6に記載したアッセイと同様の)マウス異種移植アッセイを実施した。これらの2種類の異なる細胞株からの結果を図14に示す。
【0511】
図14Aに示すように、AbA-vcMMAE(用量1mg/kg体重)はNCI-H1703細胞における腫瘍体積減少と応答の持続性の増加に関してAb1(用量10mg/kg体重)及びmcリンカーによりAb1とMMAFを結合させたAb1 ADCと比較して良好であった。Ab1単独(用量10mg/kg)の場合には、用量10mg/kgで腫瘍増殖を阻害しなかった陰性対照である抗体対照2(抗破傷風毒素抗体)と同様に腫瘍体積抑制は全く得られなかった。
【0512】
EBC1細胞を使用して異種移植片マウスモデルでAbA-vcMMAE ADCの効力も試験した。この試験の結果を図14Bに示すが、AbA-mcMMAF ADC(用量3mg/kg体重)は腫瘍体積減少と応答の持続性の増加に関してAb1(用量3mg/kg体重)及びmcリンカーによりAb1とMMAFを結合させたAb1 ADC(用量3mg/kg体重)と比較して良好であった。
【0513】
要するに、図14の結果の結果によると、2種類の異なるAbAアウリスタチンADC(AbA-vcMMAEとAbA-mcMMAF)はAb1単独又はAb1-MMAF ADCと比較してインビボでの腫瘍体積減少と応答の持続性の増加に有効であった。
【0514】
実施例8:精製抗EGFR抗体薬物コンジュゲート(ADC)
バリン-シトルリン(vc)リンカーを介してAbA抗体をモノメチルアウリスタチンE(MMAE)と連結させた抗体薬物コンジュゲート(ADC)を作製した。このADC(AbA-vcMMAEと言う。)の模式図を図11に示す。
【0515】
AbA抗体とvcMMAEの結合はAbAの部分的還元から開始した後にVal-Cit-MMAE(vcMMAE)と反応させた。TCEP(TCEP:mAbのモル当量は2.1)の添加後に0℃で一晩インキュベートすることによりAbA抗体(20mg/mL)を部分的に還元した。次に還元反応液を20℃まで加温した。全チオールを結合させるために、最終的なvcMMAE:還元Cysモル比が1.15となるようにvcMMAEを加えた。結合反応は10%v/vのDMSOの存在下で実施し、20℃で60分間進行させた。
【0516】
結合反応後、過剰の遊離N(アセチル)-システイン(vcMMAE添加量に対して2当量)を加えて未反応のvcMMAEをクエンチし、Cys-Val-Cit-MMAE付加物を生成した。Cysクエンチ反応は20℃で約30分間進行させた。Cysでクエンチした反応混合液を以下のように精製した。
【0517】
バッチ精製
バッチ精製法を使用してAbA ADCを精製した。反応混合液を適量の水洗Bu-HIC樹脂(トヨパール;東ソー株式会社)で処理し、即ち混合液に7倍重量の樹脂を加えた。樹脂/反応混合液を適当な時間撹拌し、薬物コンジュゲート生成物の除去について分析用疎水性相互作用クロマトグラフィーによりモニターし、粗目ポリプロピレンフィルターで濾過し、2ベッド体積の緩衝液(0.28M塩化ナトリウム,7mMリン酸カリウム,pH7)で洗浄した。濾液とリンス液を合わせ、生成物プロファイルをHIC HPLCにより分析した。濾液とリンス液を合わせ、限外濾過/透析濾過(UF/DF)により10倍体積量の15nMヒスチジン緩衝液で15mMヒスチジン,pH6に緩衝液を交換した。
【0518】
結合及び精製後、得られたADC混合物の解析を実施した。試料を採取し、疎水性相互作用クロマトグラフィー-高性能液体クロマトグラフィー(HIC-HPLC)を使用して解析した。使用したカラムはTSKgel Butyl-NPRカラム(4.6mm ID×3.5cm,2.5μm,30℃;東ソー株式会社,日本)とし、流速0.8mL/minで使用した。移動相はA:25mM NaHPO,pH7,1.5M(NHSO及びB:25mM NaHPO,pH7(75%)/IPA(25%)とした。使用したグラジエントは2分間0%B相、12分間で0→100%B、1分間保持とした。
【0519】
UV解析を使用してタンパク質含量を解析した。HIC微量分析によると、下表4と図12に示すように、AbA-vcMMAEで得られた平均薬物対抗体比(DAR)は3.1であった。平均DARは0、1、2、3、4、5、6、7及び8のADC生成物を合計し、PA%(PA%は必要な薬物負荷によるA280におけるピーク下面積測定値により決定されるピーク面積である。)を乗じて100で割ることにより求めた。
【0520】
【表6】
【0521】
表4及び図12から明らかなように、AbA-vcMMAEのバッチ精製の結果、DARは2~4となった。初期平均DARは4.1であり、精製後の最終平均DARは3.1であった。
【0522】
AbA-vcMMAE ADC混合物を更にサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)により分析した。東ソーTSKgel GS3000SWXLカラム(7.58×30cm,5μm)を使用してSEC HPLCを実施した。0.3mL/minの流速を使用した。移動相は92.5%の25mM NaPO,pH6.8,350mM NaClと7.5%のイソプロピルアルコール(IPA)とした。希釈剤を移動相とし、UV214nmにて分析を実施した。214nmにおけるSECpa%結果を表5に示す。SEC結果を図13に示す。
【0523】
【表7】
【0524】
従って、AbA-vcMMAEのバッチ精製の結果、DARは2~4となり、平均は3.1であった。
【0525】
実施例9:AbA-MMAE ADCを使用したインビボ腫瘍増殖阻害アッセイ
実施例8に記載したように、組成物内のADCの平均DARが3.1となるようにAbA-vcMMAEの精製組成物を製造した。次に肺癌異種移植片モデルを使用して精製AbA ADC組成物が腫瘍増殖をインビボ阻害するのに有効であるか否かを検討するために精製ADCを試験した。より具体的には、異種移植片腫瘍増殖阻害アッセイを実施し、NCI-H292細胞(ヒトNSCLC癌細胞株)に及ぼす精製AbA-vcMMAE(Ab1-vcMMAEp)の効果を評価した。
【0526】
図15Aに示す結果から明らかなように、AbA-vcMMAEp(用量3mg/kg体重)は未精製AbA-vcMMAEと比較した場合にNCI-H292細胞において腫瘍体積減少と応答の持続時間の延長(応答の持続性の増加)に有効であった。同様に、図15Bから明らかなように、精製AbA-vcMMAEp(用量6mg/kg体重)はAbA-vcMMAEの未精製形と比較した場合に腫瘍増殖の阻害にも有効であった。図15A及び15Bに示すように、精製AbA-vcMMAEは更に陰性対照2抗体(単独又はMMAEとのコンジュゲート)、未精製又は精製形態のAb1とMMAE又はMMAFとのコンジュゲートよりも腫瘍体積減少と応答の持続時間の延長に有効であった。対照2抗体はEGFRと結合しない抗破傷風毒素抗体である。
【0527】
NCI-H292細胞(肺癌細胞株;ATCC(R)CRL-1848(TM))に及ぼす精製AbA-vcMMAE(Ab1-vcMMAEp)の効果を評価する別の試験では、精製AbA-vcMMAEを用量3mg/kg及び6mg/kgで同様の用量のAb1-mcMMAFと比較試験した。NSCLC腫瘍モデルにおけるこの第2の試験の結果を図18に示すが、精製AbA-vcMMAEpはAbA-vcMMAEと比較した場合に腫瘍増殖の阻害により有効であったことが明らかである。
【0528】
実施例10:AbA-vcMMAEのフロースルー法精製
フロースルー法を使用し、抗体当たりのvc-MMAE分子の薬物負荷を減らしてAbA-vcMMAE ADCを含有する組成物を製造した。AbA-vcMMAE ADCの製造については実施例7で上述した通りである。
【0529】
一定範囲のDAR(1~8)のADCを含有するAbA-vcMMAEの組成物のフロースルー精製法を実施した。先ず、Bu-HIC樹脂の5mLカラムを約28mM NaCl,7mMリン酸カリウム,pH7で平衡化した。次に1.95M NaCl,50mMリン酸カリウム,pH7を使用して反応混合液をその体積の6倍に希釈し、樹脂1mL当たりタンパク質約100mgの割合で流速1mL/min(滞留時間約5分間又は線流速36cm/h)にて樹脂に注入した。イソプロパノール1部と28mM NaCl,7mMリン酸カリウム(pH7)10部(体積基準)から構成されるリンス液をリンス液として約12カラム体積分流した。約1カラム体積後に開始してUVシグナルが平衡状態になった後まで生成物を採取した(フラクションとして採取してもよい)。HIC HPLCによりフラクションを分析し、所望のアリコートを集めてプールし、TFF(タンジェンシャルフロー濾過)により濃縮し、10倍体積量のヒスチジン緩衝液で15mMヒスチジン,pH6に交換した。下表6は精製前後の反応混合液の精製結果を示す。
【0530】
【表8】
【0531】
実施例8に記載したバッチ精製と比較すると、樹脂に対するタンパク質の負荷量は各精製方式(バッチ精製とフロースルー精製)で同等であった。バッチ精製法では、力価調整換算でADCに対して樹脂2.26倍重量を使用した。樹脂の密度は約0.23g/mlであった。 従って、例えばADC10gを使用した場合には、樹脂98.2mlを使用した。使用した負荷量は(10g×1000ml/L)/98.2ml=102g/Lの負荷量であった。フロースルー精製実験は100g/Lの負荷量を目標とする。フロースルー精製のリンス液を10v/v%IPAとした以外はどちらの場合も負荷液とリンス液は同一とした。
【0532】
実施例8に記載したバッチ精製法を使用して得られた精製AbA-vcMMAE組成物と上記フロースルー法を使用して得られた精製AbA-vcMMAE組成物の比較を表7に示す。
【0533】
【表9】
【0534】
要するに、例えば表7に示すように、フロースルー精製法とバッチ精製法はどちらもDARが2~4のADC約80%を含有する組成物を得るのに成功し、しかもDARが0~1又は5~8のADCの量は組成物中のADC総数の約20%未満に制限されていた。
【0535】
実施例11:AbA MMAE ADCを使用したインビボ腫瘍増殖阻害アッセイ
インビボマウス異種移植アッセイを使用してAbA-vcMMAE ADCが膠芽腫腫瘍増殖を阻害する能力を検討した。(EGFRvIIIを発現する)U87MGde2-7細胞を使用して(実施例6で実施したアッセイと同様の)マウス異種移植アッセイを実施した。U87細胞はヒト悪性神経膠腫(ATCC No.HTB-14(TM))に由来する。この試験では、腫瘍細胞を50%Matrigel(BD BioSciences,Franklin Lakes,NJ)と混合し、0日目に細胞3×10個を6~8週齢Nu/Nu雌性マウスの脇腹に皮下接種した(Nu/Nu雌性マウスはCharles River(Wilmington,MA)から入手した)。電子キャリパーにより腫瘍の長さ(L)と幅(W)を測定し、次式:V=(L×W)/2に従って体積を計算した。腫瘍体積が3,000mmに達した時点又は皮膚潰瘍が発生した時点でマウスを安楽死させた。図19に示す結果から明らかなように、AbA-vcMMAEpは陰性対照(対照2抗体;抗破傷風抗体)よりも膠芽腫細胞増殖の阻害に有効であった。
【0536】
【表10】
【0537】
文献援用
本願の随所に引用する全文献、特許、係属中の特許出願及び公開特許は特に本願に援用する。
【0538】
等価物
本願に記載する本発明の特定の実施形態の多くの等価物も当業者に認識され、あるいは単なる日常的な実験により確認できよう。このような等価物も以下の特許請求の範囲に含むものとする。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8A
図8B
図9
図10
図11
図12-1】
図12-2】
図13-1】
図13-2】
図14A
図14B
図15A
図15B
図16
図17
図18
図19
図20A
図20B
図21
【配列表】
2024102229000001.xml
【手続補正書】
【提出日】2024-05-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗ヒト上皮成長因子受容体(抗hEGFR)抗体又はその抗原結合部分であって、
a)アミノ酸配列CGADSYEMEEDGVRKC(配列番号45)内のエピトープに結合するか、又は競合結合アッセイにおいて上皮成長因子受容体変異体III(EGFRvIII)(配列番号33)との結合に関して第2の抗hEGFR抗体と競合し、ここで前記第2の抗EGFR抗体は、配列番号1に記載のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、配列番号5に記載のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む;
b)表面プラズモン共鳴法により測定した場合に、約1×10-6M以下の解離定数(Kd)でEGFR(1-525)(配列番号47)と結合し;および
c)インビボヒト非小細胞肺癌(NSCLC)異種移植アッセイにおいて、前記NSCLC異種移植アッセイにおいて、EGFRに特異的ではないヒトIgG抗体と比較して少なくとも約50%の腫瘍増殖阻害率%(TGI%)で腫瘍増殖を阻害する、ここで、前記抗hEGFR抗体又はその抗原結合部分と同一の用量と頻度でEGFRに非特異的なヒトIgG抗体を投与される、
前記抗体又はその抗原結合部分。
【手続補正書】
【提出日】2024-05-31
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号12に記載されるアミノ酸配列により特徴付けられる重鎖CDR3ドメイン、配列番号11に記載されるアミノ酸配列により特徴付けられる重鎖CDR2ドメイン、及び配列番号20に記載されるアミノ酸配列により特徴付けられる重鎖CDR1ドメイン、並びに、配列番号28に記載されるアミノ酸配列により特徴付けられる軽鎖CDR3ドメイン、配列番号27に記載されるアミノ酸配列により特徴付けられる軽鎖CDR2ドメイン、及び配列番号26に記載されるアミノ酸配列により特徴付けられる軽鎖CDR1ドメインを含む、抗ヒト上皮成長因子受容体(抗hEGFR)抗体。
【請求項2】
配列番号76に記載されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、及び、配列番号77に記載されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を含む、請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
ヒトIgG定常ドメイン、ヒトIgM定常ドメイン、ヒトIgE定常ドメイン、及びヒトIgA定常ドメインからなる群から選択される重鎖免疫グロブリン定常ドメインを含む、請求項1又は2に記載の抗体。
【請求項4】
IgG定常ドメインが、IgG1定常ドメイン、IgG2定常ドメイン、IgG3定常ドメイン、及びIgG4定常ドメインからなる群から選択される、請求項3に記載の抗体。