(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024102246
(43)【公開日】2024-07-30
(54)【発明の名称】改善された磁気安定性とストリッピング力を有するリニアアクチュエータ
(51)【国際特許分類】
H02K 41/03 20060101AFI20240723BHJP
H02K 33/16 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
H02K41/03 A
H02K33/16 A
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024075454
(22)【出願日】2024-05-07
(62)【分割の表示】P 2022115103の分割
【原出願日】2016-10-20
(31)【優先権主張番号】1560004
(32)【優先日】2015-10-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(71)【出願人】
【識別番号】502388194
【氏名又は名称】ムービング マグネット テクノロジーズ (ソシエテ アノニム)
【氏名又は名称原語表記】MOVING MAGNET TECHNOLOGIES (S.A.)
【住所又は居所原語表記】ZAC La Fayette,1,rue Christian Huygens,F-25000 Besancon, France
(74)【代理人】
【識別番号】100092897
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 正悟
(72)【発明者】
【氏名】ルイセール,ギョーム
(72)【発明者】
【氏名】リオ-ケサダ,ハビエル
(72)【発明者】
【氏名】ビウェルシ,ステファーヌ
(72)【発明者】
【氏名】デルバエール,ミカエル
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本発明は、ストローク長cの移動範囲を有し、少なくとも前記ストロークの一端に安定位置を有する電磁アクチュエータに関する。
【解決手段】電磁アクチュエータは、Y軸方向の長さがHmで、Y軸に対して対称的な形状を有するアーマチュアと、電気コイル2を支持する固定ステータヨーク1と、を備える。固定永久磁石4は電磁アーマチュアと電気コイルの間に配置され、Y軸方向の長さがHaであり、固定ヨークとアーマチュアとの間にY軸方向の空気間隙を有し、(Ha+c)がHmと同じ程度の大きさであり、Hmの長さが0.9×(Ha+c)<Hm<1.1×(Ha+c)である。固定ヨークと一体に設けられ、固定永久磁石の両側にY軸方向に延びて設けられたそれぞれ長さがHph、Hpbである2つの磁極片を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ストローク長cの移動範囲を有し、少なくとも前記ストロークの一端に安定位置を有する電磁アクチュエータであって、
軟磁性材料から作られ、Y軸方向に移動可能であり、Y軸方向の長さがHmで、Y軸に対して対称的な形状を有するアーマチュアと、
軟磁性材料から作られ、少なくとも1つの電気コイルを支持する固定ステータヨークと、を備え、
前記アーマチュアは、Y軸方向に垂直なX軸方向に磁力を有するように磁化された少なくとも1つの固定永久磁石を備え、
前記固定永久磁石はX軸方向において前記電磁アーマチュアと前記電気コイルの間に配置され、Y軸方向の長さがHaであり、
前記固定ヨークと前記アーマチュアとの間にY軸方向の空気間隙を有し、
(Ha+c)がHmと同じ程度の大きさであり、Hmの長さが0.9×(Ha+c)<Hm<1.1×(Ha+c)であり、
前記固定ヨークと一体に設けられ、前記固定永久磁石の両側にY軸方向に延びて設けられたそれぞれ長さがHph、Hpbである2つの磁極片を備えることを特徴とするリニア電磁アクチュエータ。
【請求項2】
Hpbは前記ストローク長cとY軸方向長さが実質的に同一であり、Hpb≧Hphであることを特徴とする請求項1に記載のリニア電磁アクチュエータ。
【請求項3】
軟質強磁性材料から作られ、X軸方向において前記固定永久磁石と前記電気コイルとの間に配置されたシムを備えることを特徴とする請求項1に記載のリニア電磁アクチュエータ。
【請求項4】
前記シムは、前記Y方向において前記永久磁石の長さHaと実質的に同一の長さを有することを特徴とする請求項3に記載のリニア電磁アクチュエータ。
【請求項5】
前記シムは、前記ヨークの近くに配置され、Y軸方向において前記電気コイルの長さと実質的に同一の長さを有していることを特徴とする請求項3に記載のリニア電磁アクチュエータ。
【請求項6】
2つの安定位置を有することを特徴とする請求項1に記載のリニア電磁アクチュエータ。
【請求項7】
単一の安定位置を有することを特徴とする請求項1に記載のリニア電磁アクチュエータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギーを消費しない安定位置を1つまたは2つ有するリニア電磁アクチュエータに関する。これらの安定位置は少なくとも1つの永久磁石によって達成される。より詳細には本発明は、ストリッピング力といわれる、電流によってこれらの安定位置を離れる能力が先行技術に比べて改善されているアクチュエータを提案する。本発明はまた、先行技術の解決策が許容するものよりもより大きな直線行程を可能にし、所定の安定力のために使用される磁石の大きさに関する節約を可能にするアクチュエータを提案する。
【0002】
このアクチュエータを例示的に示すと、例えば空気吸入口または排出口のバルブ用のアクチュエータのような任意のタイプの自動車燃料循環バルブ、または、伝達要素を動かすための用途に適用することができる。概して、電流なしに1つ以上の安定位置の維持が必要で、電気的な指示によってこの位置を離れることができる任意の機能には、本発明に記載のようなアクチュエータを有する解決策を適用することができる。
【背景技術】
【0003】
1つ以上の磁石によって安定性が提供されるアクチュエータは、先行特許技術に公知である。
【0004】
例えば、米国特許公報4,779,582号は、自動車バルブを動かすアクチュエータのトポロジーを提案し、特にアクチュエータの両端位置の維持に積極的に参画する固定された(ステータ)部分で磁石を使用する。これらの磁石は、第1または第2のコイルの周りの磁束のループを許容するために2つの別個の電気コイルの間に配置される。
【0005】
同じタイプのアクチュエータトポロジーは、欧州特許公報0157632号に見出される。または最近では国際公開公報第2014/023326号に見出される。
【0006】
これらの装置の目的は、ばねのような機械的補助なしに単安定性または双安定性を提供し、永久磁石の使用のおかげで電気エネルギーの消費を伴わないという一般的な問題を解決することである。
【0007】
しかしながら、これらの装置は、安定位置からの容易な離脱を提供することができない。これは、ばねが安定位置からのより簡単な離脱、またはストリッピングを許容するために用いられているからである。コイル内の電流は、優先的循環方向においては、ストリッピングを支援することができるが、磁石によって生成された保持力を完全にキャンセルすることはできないか、可動部分へ加えられる摩擦または負荷に打ち勝つのに十分なストリッピング力を発生しない。
【0008】
加えて、中央位置にあるこれら磁石の両端での2つの別個のコイルの使用は、可動部分がアクチュエータの行程の一端または他端にあるときには全巻線の半分が磁気的に作動しないので、アクチュエータを非効果的にする。
【0009】
アクチュエータの可動部分に支持された磁石の作用によってこれらの安定位置を維持することが可能である、別のタイプの単安定または複数安定のアクチュエータも国際公開公報第2004/066476号の文献により公知である。
【0010】
このアクチュエータは、行程に亘って可動部分の位置に拘らず電気コイルの全体が力の生成に参加しているという点で前述のアクチュエータよりも部分的には進歩している。加えて、開発されたトポロジーは、この文献に開示された数学方程式に基づいて可動部分に磁石を埋め込むことによって最大化することができるストリッピング力の生成を可能にする。
【0011】
他方、このアクチュエータは(移動方向である)軸方向の空間要求を必要とする新規のトポロジーを有するが、要求される行程が大きい場合にはなおさらこの軸方向の空間要求が大きくなる。これは、この文献の
図6で分かるように、アクチュエータの軸方向の空間要求は、最小でも行程の2倍に加えて電気コイルおよびステータ上の強磁性磁極を設置するために必要な空間要求に等しいからである。加えて、可動磁石は極限位置における可動部分の到着の際のインパクトによって高い加速度を被るので、長期間においてはシステムの耐用年数に弊害をもたらすことが批判されるだろう。
【0012】
最後に、磁石が磁気構造内において固定されており、双安定特性を有し、双方の作動方向において機能するためにただ1つの電気コイルしか必要とせず、可動部分が強磁性体片のみからなるアクチュエータトポロジーもまた、公知であり、これは国際公開公報第9427303号または国際公開公報第2015/114261号の出願などに記載されている。これらのトポロジーは、それらの性質から非常に大きなストリッピング力からの効果が得られないので、磁極片の使用によってこの力(ストリッピング力)を増加させることが示唆されている。
【0013】
このタイプの構造が(固定磁石の使用および磁極片の使用によって)前述の問題を部分的に解決することが可能であるとはいえ、磁極片の使用については正確な教示が与えられていない。加えて、これらの文献、特に欧州特許公報0713604号によって与えられている寸法要求は、そのプリアンブルに示すように約+/-1ミリメートルという小さな振幅の行程を意図したアクチュエータを作る。
【0014】
従って、先行技術によっては解決されていない以下の特徴を有するアクチュエータを製造する必要性が存在する。すなわち、数ミリメートルの行程から典型的には15~20ミリメートルに及ぶ行程を有し、磁石の大きさを最小化し、好ましくは安定性保持力およびアクチュエータの移動部分に加えられる摩擦および外部負荷に抗するために十分な純磁気ストリッピング力を有し、および好ましくはアクチュエータの行程に亘って顕著な作動力を有する、という特徴である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
発明の開示
本発明は従って、電流なしで少なくとも1つの安定位置を有し、改善されたストリッピング力からの利益を得ると共に限定された軸方向の空間要求を維持しながら、数ミリメートルの行程を実現することを可能にするアクチュエータを提案することによって、先行技術の欠点を克服することを目的とする。
【0016】
本発明の別の目的は、所定の安定力(stability force)を達成するために先行技術の実施形態と比較して磁石の大きさを低減することを可能にすることである。
【0017】
これを達成するために、本発明は第1に、先行技術の教示、および特に欧州特許公報0713604号の教示を打ち破って、可動質量の高さと磁石の高さとの間に大きく異なる相対寸法を与えることを提案する。このため、当業者は本明細書によって推奨される寸法比率から逸脱することはないであろう。
【0018】
第2に磁極片の使用は、一方ではアクチュエータの磁石にこれらの磁極片を接近させ、他方では安定位置内に移動質量を与えることにより、巧みに実現される。
【0019】
第3に、当業者も驚くことには、アクチュエータの磁石とコイルとの間に配置されてコイルの高さと実質的に同じ高さを有する固定磁気シムの使用により、電気コイルによって発生するストリッピング力に悪影響を及ぼすことなく、アクチュエータの安定力を増進させることが可能である。
【0020】
より詳細には、本発明はストロークc、および少なくとも1つの安定位置をストロークの端部の1つに有するリニア電磁アクチュエータを提案する。リニア電磁アクチュエータは、軟磁性材料から製作されてY軸に対して対称的な形状を有して軸方向Y内を移動することができてY方向に長さHmを有するアーマチュアと、少なくとも1つの電気コイルを支持する軟磁性材料から製作された固定ステータヨークと、を備え、
前記アクチュエータは、さらに可動アーマチュアと電気コイルとの間を横切るように配置されてY方向に垂直なX方向を横切って磁化された少なくとも1つの固定永久磁石を備え、
磁石は、Y方向に長さHaを有しており、固定ヨークと可動アーマチュアは、それらの間の少なくとも1つの軸方向空気間隙で規定されており、Ha+cがHmと同じ大きさのオーダであり、Hmの長さが0.9×(Ha+c)<Hm<1.1×(Ha+c)であるように構成されていることを特徴とする。
従って、可動アーマチュアはその極限安定位置内にある場合には、可動アーマチュアの2つの軸方向端部のうちの1つが永久磁石の2つの軸方向端部の1つに近接している。
【0021】
本特許の意味内における「ストローク」とは、可動アーマチュアの移動を画定する2つの軸方向のストップ部の間で可動アーマチュアの軸Yに沿った移動の長さを意味する。これらのストップ部は、機械的であってもよく、双安定アクチュエータのための磁気機能を果たしてもよく、または、単安定アクチュエータのためにストップ部のうちの1つが非磁性で、他のストップ部が磁性であってもよい。
【0022】
特に数ミリメートルの長いストロークに対して実質的にストリッピング力を増進する目的で、アクチュエータは、ヨークに固定され、磁石のいずれかの側に配置されて磁石に向かってそれぞれ高さHph、Hpbに亘って軸方向に延びる2つの磁極片を有する。
【0023】
好ましくは、Hpbはcに近く、Hpb≧Hphである。
【0024】
ストリッピング力および磁気安定力の双方に関して、増進された力からの利益を得ながら磁石の量を経済的にする目的で、アクチュエータは、永久磁石と電気コイルとの間に横方向に挿入された軟質強磁性材料から製作されたシムを備える。
【0025】
強磁性シムは、Y方向に永久磁石の長さHaに近い長さを有するが、好ましくはヨークに接近するように電気コイルの高さに近い長さを有する。
【0026】
通常、アクチュエータは1つまたは2つの安定位置を有する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
本発明の他の特徴および利点は添付図面を参照しながら以下の詳細な例示的実施形態を読むことによって明らかになる。
【
図1】(a)は第2実施形態と同様な典型的な実施形態による双安定アクチュエータの全体的な斜視図である。(b)は第2実施形態と同様な典型的な実施形態による双安定アクチュエータの一部切断図である。
【
図2】(a)は本発明の第1実施形態による双安定アクチュエータの軸方向切断面に沿った図であり、各ストロークの一方の終端位置における説明図である。(b)は本発明の第1実施形態による双安定アクチュエータの軸方向切断面に沿った図であり、各ストロークの他方の終端位置における説明図である。
【
図3】本発明の第2実施形態による双安定アクチュエータの軸方向切断面に沿った説明図である。
【
図4】本発明の第3実施形態による双安定アクチュエータの軸方向切断面に沿った説明図である。
【
図5】本発明による双安定アクチュエータによって生成された典型的な力を所定のリニア行程に亘って示すグラフである。
【
図6】(a)は本発明による単安定アクチュエータの斜視図である。(b)は本発明による単安定アクチュエータの軸方向切断面を示す説明図である。
【
図7】本発明の第4実施形態による双安定アクチュエータの軸方向切断面に沿った説明図である。
【
図8】本発明の別の実施形態による双安定アクチュエータの軸方向切断面に沿った説明図である。
【
図11】磁石の高さ、可動アーマチュアのストロークおよび高さの関係性の重要さを示すグラフである。
【
図12】
図6(a)および(b)に示されたような非対称性を有するアクチュエータの力の典型的な変化を示すグラフである。
【
図13】
図4の第3実施形態によって実現された利点を示すグラフである。
【
図14】磁極片なしに磁性体シムを用いる別の実施形態の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1(a)は、本発明の特定の実施形態によるアクチュエータの斜視図を示す。一般的な実施形態においては、好ましい形状は軸(A)に対して軸対称であり、アクチュエータは管状の形状を有する。しかしながら、本発明は
図6(a)および(b)に示すように平行六面体形状の実施形態も可能であるので、この軸対称形状の実施形態に限定されない。同様に、図にはヨーク1が2つの部分で製造されているように見えるが、これはこの外部ヨーク1を製造する方法の単なる例示的な実施形態にすぎない。
【0029】
図1(b)の一部切断図においては、実施形態の詳細がよりよく分かるようにアクチュエータの1/4が除去されており、好ましい実施形態におけるアクチュエータの全ての構成要素を有している。従って、アクチュエータの固定部分を集めているステータでは、軟質強磁性材料から作られて円筒状の外部形状をしているヨーク1、ヨーク1内に形成されたキャビティ3内に収容されている電気コイル2、およびヨーク1の中央部で軸方向に位置している永久磁石4が見出される。一方の移動方向または他方の移動方向におけるアクチュエータの機能の非対称性が好ましいときには、磁石の位置決めは中心ではなく、軸方向にオフセットさせることが想定されてもよい。この好ましい実施形態においては、ヨーク1は軸方向に延びており、電気コイル2によって画定される領域の内側には、磁石4に近接している磁極片5b、5hがある。ステータに対して軸方向に並進移動可能な部分は、軟質強磁性材料から作られた管状のアーマチュア6から構成されており、磁石4および磁極片5b、5hによって画定される領域の内側で動く。このアーマチュア6はシャフト7に固定されている。シャフト7はヨーク1に固定されたベアリング8内でスライドし、アクチュエータによって移動される(図示しない)外部部材を固定する働きをする。
【0030】
磁極片5b、5hの使用は、
図2(a)および(b)の図に示すように本発明の基本部分においては必要ない。これは、これらの図に示すこの双安定アクチュエータの第1実施形態においては、アクチュエータを構成する種々の要素の寸法は、先行技術の実施形態で可能なリニアストロークよりも大きなリニアストロークを作る可能性を与える寸法であることが特に推奨されるからである。従って、磁石4の軸方向の高さをHa、可動アーマチュア6の軸方向高さをHm、アクチュエータのストロークをcとすると、Hm=Ha+cとなることが分かる。等号が厳密に尊重されない場合でも分かるこの一般的な寸法規則は、Haよりかなり大きなストロークcを有するアクチュエータを製造することを可能にする。アクチュエータの高さHtは、従って2×c+Haよりもわずかに大きい。換言すれば、ヨーク1に固定された軟質強磁性材料で形成された軸方向のストップ部9の厚さを追加することになる。この寸法関係によってアーマチュアがその極限位置にある場合には、磁石4の両端部が、軸方向に整列して並ぶか、またはアーマチュア6の両端部の近傍に軸方向に配置されるという結果になる。これは、
図3に示す第2実施形態の利点としての特徴である。
【0031】
アーマチュア6は、これらの軸方向ストップ部9と接触できること、または(図示しない)外部ストップ部と接触できること、またはストップ部9とアーマチュア6との間に挿入された(図示しない)非磁性要素に接触できることを注記する。実際には本発明の目的は、軸方向高さの残留空気間隔Hgの存在を都合よく利用することであり、その利点は
図5で理解されうる。これは、ストリッピング力および磁気安定力が所定の仕様の必要性に応じて最適化されるストローク上の点に残留空気間隔を位置づけることができるからである。
【0032】
図11によれば、Hm=Ha+cの関係性の重要な特徴が分かる。この理由は示したグラフ(
図11)が、X=Hm-(Ha+c)となるように因子Xを変化させたグラフであるからである。-5mmの位置に近いときの最適ストリッピング力は、この例ではX=0である場合であることが明らかであり、Xがきっちりと負または正になる場合に最適値の顕著な低下が観察される。一般的に考慮される場合においては、Hmが0.9×(Ha+c)<Hm<1.1×(Ha+c)になるような場合に最適ストリッピング力が観察された。この範囲から離れるに従ってストリッピング力の減少が顕著になることが判明した。
【0033】
図3は、
図1に示した好ましい実施形態と同様な第2実施形態を示す。ここでは、
図2(a)および(b)の要素も
図1(b)に記載された磁極片5b、5hも図示されている。これらの磁極片5b、5hは、ここでは、アクチュエータの軸に垂直なアクチュエータの中央平面に対して軸方向に対称的に配置されている。これらの磁極片5b、5hは、ここで記載した例示的実施形態においては一定の厚さEpcを有しており、この値によって力の曲線を最適化することができる。磁極片5h、5bはそれらの端部10h、10bが磁石に近接するように、それぞれ高さHph、Hpbに亘って軸方向に延びる。こうする際に、このアクチュエータの2つの安定位置のそれぞれに、両端部の一方10a、10bとアーマチュア6の両端部の一方との間の近接点も存在する。
磁極片5b、5hの軸方向端部10h、10bと磁石4の軸方向端部との間に存在する距離Hch、Hcbは、アクチュエータにおいて対称的な挙動を与えることを望む場合、換言すれば起動がストローク端の1つから他端へまたはその逆に生じる場合に同じタイプの力応答を有する能力である場合には等しくてもよい。
アクチュエータに非対称的な特徴(1つの移動方向と別の移動方向との間で異なる力応答)を与えることを望む場合、または例えば
図6(a)、(b)に記載されたような単安定アクチュエータを製造することを望む場合には、HcbとHchに異なる値を与えることも可能である。最終的に、これらの2つの磁極片のうちのただ1つを統合することも可能であり、ヨーク1が軸対称である場合には、360度を超えずにより小さな角に亘って延びる磁極片を製造することも可能である。後者の変更により、特に発生する力を必要に応じて調整することが可能である。
【0034】
ストリッピング力要求が高い場合、すなわち特にアクチュエータのストロークが増加するような場合には、磁極片5b、5hの使用が特に考えられる。これは、アーマチュア6と2つの磁極片5b、5hとの間の磁気的な相乗効果の効果で、高いストリッピング力が発生してストロークで全体的に生じる機械的な仕事が顕著に増加するからである。
【0035】
これらの磁極片5b、5hを使用する全実施形態に対して、HchおよびHcbの値をストロークcに対してかなり小さく保つことが重要である。我々はここで、アーマチュア6がその下側安定位置にある場合における
図3の実施例の場合の、これらの磁極片5b、5hの機能を説明する。電流の作用下でコイル2によって生成された磁束は下側磁極片5bを通過してアーマチュア6を通過する。その結果、ストローク上の全移動の際に、高さHph、Hpbはストロークcに近接し、磁束の通過が維持される。アーマチュア6の半径方向の厚さに比べて相対的に薄い厚さEpcは、磁束がヨーク1に素早く戻るよりもアーマチュアを実際に通過することを保証する。下側磁極片5bは従って、好ましくはHpbが実質的にcに等しくなければならない。即ち、HcbはcまたはHmと比較して小さい値を有する。上側磁極片5hは、アーマチュア6と上側磁極片5hとの間の局部的可変リラクタンスの効果によって、安定位置のストリッピングをアシストする引力の役割を果たす。このストリッピング力を調整する目的で、例えば、
図9に示すような力曲線上のHchの影響をフォローすることも可能である。厚さEpcは、また、ストリッピング力およびその後のストロークに対する力が所定の仕様に従って変えられるように与えられてもよい。こうするために、
図10の教示を一般的なガイドとして用いることができる。
【0036】
一般的には、以下のようなことが必要である。
-アーマチュア6と対面する磁極片5bは、HcbがcまたはHmに比べて小さい、すなわち、Hpbがcに近接する磁気安定位置にある。
-アーマチュア6と対面する磁極片5bは、Hcb≦Hchであり、例えば磁気安定力、ストリッピング力、およびストローク上の力を調整するために残留エアギャップHgの使用により、Hchの増加によって好ましいペースが刻まれた力を与えることを可能にする。
-磁極片の厚さは小さく、アーマチュア6の半径方向の厚さに対して一定である必要はない。
【0037】
電流なしでの磁気安定力を向上するために、軟質強磁性材料から作られた磁気シム11を磁石4とコイル2との間に半径方向に配置することが好ましい。このシム11は、
図7に示すように磁石4の軸方向高さと同様な高さを有してもよく、または好ましくはコイルと同様の高さを有しており、これにより、
図4に示すように磁石4とヨーク1との間の磁束の好ましい通過がなされる。コイル2の過剰な磁気パーミアンス、および従って磁石4とコイル2との間の有効磁束の短絡部分が好ましくないため、シムの磁気飽和を優先することによってシム11の厚さを最適化することも好ましい。
【0038】
このシム11は、同一の機械的特性(電流によって生成された力、電流なしでの力)を保ちながら、磁石4の厚さを低減することが可能である。結局、所定の横方向厚さの磁石4を考慮することにより、または磁石4とシム11が等価的な横方向厚さを共に有することを考慮することにより、同じ全体積および同じ大きさの電気コイル2を有するアクチュエータを得ることが可能である。磁石の体積の削減は、このようにしてオプション的に達成される。この利点および驚くべき特性を
図13に示す。ここでは、電流の有無(それぞれ0Atおよび100At)に対する力曲線における変化が、シムを有さない、または磁石の後ろにシムを有する、2つの異なるアクチュエータに対して(前者が「0」、後者が「1」で)示されている。「0」の場合には磁石4は2.5mmの厚さを有しており、「1」の場合には磁石4は2mmでシムが0.5mmの厚さを有しているので全厚さは「0」の場合に等しい。磁石の質量が削減されているにも関わらず、電流の有無によらず、「0」の場合に比較して「1」の場合の方がストリッピング力および磁気安定性は改善されている。問題となる寸法関係および存在する起磁力および磁気回路の断面については、この効果の最適化から得られる利益を得るためにシム11および磁石4の相対厚さを調整することが必要である。
【0039】
シム11は、
図4および7に示すように磁極片5h、5bと協働して用いられてもよく、
図14に示すように磁極片なしで用いられてもよい。
【0040】
単安定アクチュエータの平行六面体の実施形態を
図6(a)および(b)に示す。アクチュエータが非対称であり、磁極片5b、5hの格別な働きのおかげで両方の作動方向に同一の力応答を有していないことが顕著な特徴である。下側部分では、磁石4と下側磁極片5bとの近接を好むために距離Hcbは最小化されており、これは、
図3に示す教示と一致している。
図10で述べたようにストリッピング力の後で増加する電流による力を得るために、距離Hchは距離Hcbよりも大きい。このアクチュエータは、また、アクチュエータの上部にベアリング8の機能も兼ねる非磁性ストップ部を有しているので、アーマチュア6がこの要素に当接し、その結果、アーマチュア6が高い位置にある場合には安定力がない。このストップ部8の支持は、ここでは、非磁性プレート12によって示される。低い位置への復帰は、コイル2内の電流の作用、または重力、または任意の外部負荷によって達成されてもよい。
図12は、このようなアクチュエータの電流印加方向における挙動を示す。ここでは、100Atでの力曲線と、-100Atでの力曲線とが対称的ではなく、印加電流がない場合の曲線がストロークの中心に対して対称的ではないことも明らかである。
【0041】
一般に、磁石の高さHaを増加させることにより、ストリッピング力およびストローク上の力が改善される。例えば、
図8にはそのような実施形態を示す。ここで、電流があるときの力は
図3に示す実施形態と比べると増加するが、ストロークcは同様な高さHtを保つ場合には減少する。この磁石の大きさの増加は、しかしながらアクチュエータの適切な機能にとっては必須ではなく、高さHaは実質的に行程cよりも小さく、アーマチュア6の高さHmよりも小さいという実際的な機能とすることは本発明の目的の一部である。
【0042】
本発明の目的であるアクチュエータに与えられる利点および一般的な教示は、実施例によって
図5、9および10に示す。
【0043】
図5において、我々は、双安定アクチュエータという観点から、
図3における寸法基準が尊重されて磁極片5b、5hが用いられた場合におけるコイル2内を循環するアンペア・ターン数の関数としてのアクチュエータのストロークに亘る力の変化を示す。ここで、我々は+/-5mm、すなわち10mmのストロークcに対して、Hcb=hcb=0.5mm、およびHa+c=HmでHa=10mmの場合を取り上げる。このグラフでは、FSは磁気安定力を示し、両側に対称的であり、FAは無視できない力を有する安定位置から離れることを可能にするストリッピング力を示し、FCはアクチュエータが全ストロークに亘って(摩擦、反動力、ガスの力などの)負荷に打ち勝つ場合におそらく必要なストローク上の力を示す。磁極片の厚さは、約1~1.5mmであり、換言すればアーマチュア6の幅に比べて小さい。電流の方向は勿論重要であることを注記する。すなわち、アーマチュアが-5mmの位置にあるとき、挿入されたレベルに応じて正の電流がストリッピングを許容する全体的な正の力に帰結する一方で、負の電流はこの同じ位置において安定力を増強する。他方、アーマチュアが+5mmにおける場合には、負の電流が安定位置から離れることを可能にする。
【0044】
図9は厚さEpcの寸法関係に関する情報を提供する。前述したように、厚さは定められた仕様によって最適化されたままでなければならない。この実施例においても
図5の実施例の場合と同様に、値Epcの過剰な増大は、確実にストリッピング力を最大化するが、ストロークの第2部分における力の非常に大きな削減になり、力は負の値にもなり得るので、大きな外部負荷の場合には作動が確保されない。従って、ストロークに対して低い値を維持しながらEpcの値の最適化が必要であり、特に、磁性材料が存在する断面の最適化が必要である。一定でない厚さEpcの使用は、位置に従った磁気飽和の作用による好ましい妥協を達成することを可能にする。
【0045】
図10は、Hch=Hcbのときにアーマチュア6の端部が磁極片の端部と軸方向に整列するようにHcb=0.5mmでHm=Ha+c+0.5である仕様の場合に、最適な性能が得られるようなHchの値に対する示唆を提供する。
この調査事例は、
図5~9に示す事例と同様な事例に対応するが、我々はここで、Hcbに対するHchの増加が、ストリッピング力とストローク曲線上の力をシフトすることを可能にすることを示す。ストリッピング力を優先することを望む場合には、HchとHcbの値がほぼ等しいことを優先しなければならない。ストロークの開始で増加する力による利益を受けたい場合には、高さHchがHcbよりも大きいことを優先すること、換言すると、引力磁極片の端部とアーマチュア6の端部との間の軸方向のオフセットを作ることが必要である。HchとHcbの変動は、これらのパラメータを相互に独立的に最適化することができるので、安定力にごくわずかな影響しか及ぼさないことを注記しなければならない。