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特開2024-102290磁気記録媒体基板用または磁気記録再生装置用ガラススペーサ用のガラス、磁気記録媒体基板、磁気記録媒体、磁気記録再生装置用ガラススペーサおよび磁気記録再生装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024102290
(43)【公開日】2024-07-30
(54)【発明の名称】磁気記録媒体基板用または磁気記録再生装置用ガラススペーサ用のガラス、磁気記録媒体基板、磁気記録媒体、磁気記録再生装置用ガラススペーサおよび磁気記録再生装置
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/085 20060101AFI20240723BHJP
   C03C 3/087 20060101ALI20240723BHJP
   C03C 3/091 20060101ALI20240723BHJP
   G11B 5/82 20060101ALI20240723BHJP
   G11B 5/73 20060101ALI20240723BHJP
   G11B 17/038 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
C03C3/085
C03C3/087
C03C3/091
G11B5/82
G11B5/73
G11B17/038
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024076770
(22)【出願日】2024-05-09
(62)【分割の表示】P 2023503983の分割
【原出願日】2022-03-04
(31)【優先権主張番号】63/157,134
(32)【優先日】2021-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】P 2021160707
(32)【優先日】2021-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】徳光 秀造
(72)【発明者】
【氏名】橋本 和明
(57)【要約】      (修正有)
【課題】高い剛性を有する磁気記録媒体基板用ガラスを提供する。
【解決手段】少なくともLiOを含み、NaOとKOとの合計含有量が0モル%以上6.0モル%以下、B含有量が0モル%以上10.0モル%以下、かつCaO含有量が0モル%以上1.0モル%以下の非晶質ガラスである磁気記録媒体基板用または磁気記録再生装置用ガラススペーサ用のガラスが提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
LiO含有量が2.0モル%以上6.0モル%以下、
NaOとKOとの合計含有量が0モル%以上0.5%以下、
含有量が0モル%以上0.5モル%以下、
SiO含有量が54.0モル%以上70.0モル%以下、
Al含有量が10.0モル%以上19.0モル%以下、
CaO含有量が0モル%以上0.1モル%以下、
MgO含有量が12.0モル%以上26.0モル%以下、
TiO含有量が0モル%以上0.5モル%以下、
ヤング率が94.0GPa以上、かつ
ガラス転移温度Tgが697℃以上、
の非晶質ガラスである磁気記録媒体基板用または磁気記録再生装置用ガラススペーサ用のガラス。
【請求項2】
含有量が0.1モル%以上0.5モル%以下である、請求項1に記載のガラス。
【請求項3】
LiO以外のアルカリ金属酸化物を含まない、請求項1または2に記載のガラス。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のガラスからなる磁気記録媒体基板。
【請求項5】
請求項4に記載の磁気記録媒体基板と磁気記録層とを有する磁気記録媒体。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか1項に記載のガラスからなる磁気記録再生装置用ガラススペーサ。
【請求項7】
請求項5に記載の磁気記録媒体、および
請求項6に記載の磁気記録再生装置用ガラススペーサ、
からなる群から選ばれる1つ以上を含む磁気記録再生装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体基板用または磁気記録再生装置用ガラススペーサ用のガラス、磁気記録媒体基板、磁気記録媒体、磁気記録再生装置用ガラススペーサおよび磁気記録再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスク等の磁気記録媒体用の基板(磁気記録媒体基板)としては、従来、アルミニウム合金製の基板が用いられていた。しかし、アルミニウム合金製基板については、変形しやすい等の点が指摘されている。そのため現在では、ガラス製の磁気記録媒体基板が広く用いられている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-358626号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
磁気記録媒体基板用ガラスには、高い剛性を有することが望まれる。これは、以下の理由による。
磁気記録媒体は、通常、パソコン等の機器に組み込まれているハードディスクドライブ(HDD)の内部に搭載される。HDD内部には、スピンドルモータの回転軸に複数枚の磁気記録媒体(磁気ディスク)が取り付けられ、HDDに組み込まれたアクチュエーターによって、HDD内部で高速回転している磁気記録媒体の磁気記録層へのデータの書き込みや磁気記録層からのデータの読み取りが行われる。このようなデータ書き込みや読み取のために磁気記録媒体が高速回転している際に磁気記録媒体が大きく振動することは、磁気ヘッドと磁気記録媒体表面とが衝突してヘッドクラッシュが発生する原因となり得る。HDDについては、磁気記録媒体1枚当たりの厚さを薄くし、より多くの磁気記録媒体をHDDに搭載させることにより記録容量を増大させることができる。しかし、一般に磁気記録媒体を薄くするために基板を薄板化するほど、高速回転時に磁気記録媒体が振動し易くなる傾向がある。かかる振動を抑制するためには、磁気記録媒体のガラス基板として、剛性が高く薄板化しても高速回転時に振動を生じ難いガラス基板を使用することが望ましい。
【0005】
以上に鑑み、本発明の一態様は、高い剛性を有する磁気記録媒体基板用ガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、
少なくともLiOを含み、
NaOとKOとの合計含有量が0モル%以上6.0モル%以下、
含有量が0モル%以上10.0モル%以下、かつ
CaO含有量が0モル%以上1.0モル%以下、
の非晶質ガラスである磁気記録媒体基板用または磁気記録再生装置用ガラススペーサ用のガラス、
に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、高い剛性を有する磁気記録媒体基板用または磁気記録再生装置用ガラススペーサ用のガラスを提供することができる。また、一態様によれば、上記ガラスからなる磁気記録媒体基板、およびこの基板を含む磁気記録媒体を提供することもできる。更に一態様によれば、上記ガラスからなる磁気記録装置用ガラススペーサを提供することができる。また更に一態様によれば、磁気記録再生装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[ガラス]
上記ガラスは、磁気記録媒体基板用ガラスまたは磁気記録再生装置用ガラススペーサ用のガラスであり、非晶質ガラスである。非晶質ガラスとは、結晶化ガラスとは異なり、実質的に結晶相を含まず、昇温によりガラス転移現象を示すガラスである。一方、結晶化ガラスは製造工程が複雑である。また、磁気記録媒体基板に求められる高い平滑性を結晶化ガラスによって達成することは容易ではない。
また、上記ガラスは、非晶質の酸化物ガラスであることができる。酸化物ガラスとは、ガラスの主要ネットワーク形成成分が酸化物であるガラスである。
以下、上記ガラスについて、更に詳細に説明する。
【0009】
本発明および本明細書では、ガラス組成を、酸化物基準のガラス組成で表示する。ここで「酸化物基準のガラス組成」とは、ガラス原料が熔融時にすべて分解されてガラス中で酸化物として存在するものとして換算することにより得られるガラス組成をいうものとする。また、特記しない限り、ガラス組成はモル基準(モル%、モル比)で表示するものとする。
本発明および本明細書におけるガラス組成は、例えばICP-AES(Inductively Coupled Plasma-Atomic Emission Spectrometry)等の方法により求めることができる。定量分析は、ICP-AESを用い、各元素別に行われる。その後、分析値は酸化物表記に換算される。ICP-AESによる分析値は、例えば、分析値の±5%程度の測定誤差を含んでいることがある。したがって、分析値から換算された酸化物表記の値についても、同様に±5%程度の誤差を含んでいることがある。
また、本発明および本明細書において、構成成分の含有量が0%または含まないもしくは導入しないとは、この構成成分を実質的に含まないことを意味し、この構成成分の含有量が不純物レベル程度以下であることを指す。不純物レベル程度以下とは、例えば、0.01%未満であることを意味する。
【0010】
<ガラス組成>
上記ガラスは、CaO含有量を0%以上1.0%以下の少量としたうえで、LiOを必須成分として含み、他のアルカリ金属酸化物であるNaOとKOとの合計含有量が0%以上6.0%以下であり、かつB含有量が0%以上10.0%以下である。かかる組成を有することが、上記ガラスが高い剛性を示すことができることに寄与し得る。
【0011】
上記ガラスのCaO含有量は1.0%以下である。CaO含有量が1.0%以下であることは、ガラスの剛性向上に寄与し、更にはガラスの熱的安定性向上にも寄与し得る。これらの観点から、CaO含有量は、0.9%以下であることが好ましく、0.8%以下、0.7%以下、0.6%以下、0.5%以下、0.4%以下、0.3%以下、0.2%以下、0.1%以下の順により好ましく、0%であることもできる。上記ガラスは、CaOを含まないことが更に好ましい。
【0012】
上記ガラスは、LiOを必須成分として含み、かつ他のアルカリ金属酸化物であるNaOとKOとの合計含有量(NaO+KO)が0%以上6.0%以下である。このことも、ガラスの剛性向上に寄与し得る。ガラスの剛性を更に高める観点から、NaOとKOとの合計含有量(NaO+KO)は5.0%以下であることが好ましく、4.0%以下、3.0%以下、2.0%以下、1.0%以下、0.5%以下、0.1%以下の順により好ましく、0%であることもできる。上記ガラスは、NaOおよびKOを含まないことが更に好まく、LiO以外のアルカリ金属酸化物を含まないことが一層好ましい。
【0013】
上記ガラスのLiO含有量は0%超であり、熱的安定性向上の観点からは、1.0%以上であることが好ましく、2.0%以上であることがより好ましく、3.0%以上であることが更に好ましい。また、ガラスの熔解に要する温度を適切な範囲に維持する観点からも、LiO含有量が上記範囲であることは好ましい。ガラスの熔解に要する温度を適切な範囲に維持できることは、熔解炉の長寿命化および投入エネルギーの低減による低コスト化の観点からも好ましい。一方、ガラスの剛性の更なる向上の観点、更には、耐失透性向上の観点および/またはガラス転移温度を高める観点からは、LiO含有量は10.0%以下であることが好ましく、9.0%以下、8.0%以下、7.0%以下、6.0%以下、5.0%以下、4.0%以下の順により好ましい。
【0014】
上記ガラスのB含有量は、剛性向上の観点から、10.0%以下であり、9.0%以下であることが好ましく、8.0%以下、7.0%以下、6.0%以下、5.0%以下、4.0%以下、3.0%以下、2.0%以下、1.0%以下、0.5%以下の順により好ましい。上記ガラスのB含有量は0%以上であり、耐衝撃性向上および熱的安定性向上の観点からは、0.1%以上であることが好ましく、0.2%以上であることがより好ましい。耐衝撃性が高いガラスは、切断、研削等の加工においてワレやチッピングが発生し難いため好ましい。また、熱的安定性が高いガラスは、失透を生じ難いため好ましい。
【0015】
一形態では、上記ガラスはSiOおよびAlの一方または両方を含むことができる。
【0016】
上記ガラスのSiO含有量は、化学的耐久性向上の観点からは、50.0%以上であることが好ましく、51.0%以上、52.0%以上、53.0%以上、54.0%以上、55.0%以上の順により好ましい。化学的耐久性が高いガラスは、研磨や洗浄における面荒れが生じ難いため好ましい。一方、剛性の更なる向上の観点からは、SiO含有量は、70.0%以下であることが好ましく、69.0%以下、68.0%以下、67.0%以下、66.0%以下、65.0%以下、64.0%以下、63.0%以下の順に更に好ましい。
【0017】
上記ガラスのAl含有量は、熱的安定性向上の観点からは、20.0%以下であることが好ましく、19.0%以下、18.0%以下、17.0%以下、16.0%以下、15.0%以下、14.0%以下の順により好ましい。また、ガラスの熔解に要する温度を適切な範囲に維持する観点からも、Al含有量が上記範囲であることは好ましい。一方、剛性の更なる向上の観点からは、Al含有量は、10.0%以上であることが好ましく、11.0%以上であることがより好ましい。
【0018】
アルカリ土類金属酸化物に関して、上記ガラスのCaO含有量については先に記載した通りである。上記ガラスは、一形態では、一種または二種以上のアルカリ土類金属酸化物を含むことができる。上記ガラスに含まれ得るアルカリ土類金属酸化物の具体例としては、MgO、SrOおよびBaOを挙げることができる。一形態では、上記ガラスは、MgOを含むことができる。上記ガラスのMgO含有量は、剛性の更なる向上の観点からは、10.0%以上であることが好ましく、11.0%以上、12.0%以上の順により好ましい。また、ガラスの耐失透性向上の観点から、MgO含有量は、28.0%以下であることが好ましく、27.0%以下、26.0%以下、25.0%以下、24.0%以下、23.0%以下、22.0%以下、21.0%以下、20.0%以下、19.0%以下、18.0%以下の順により好ましい。
【0019】
上記ガラスのFe含有量は、外割で表示される含有量として、1モル%以下、0.7モル%以下、0.5モル%以下、0.4モル%以下、0.3モル%以下、0.1モル%以下、0.07モル%以下、0.05モル%以下、0.04モル%以下、0.03モル%以下または0.02モル%以下であることができる。なお、Fe含有量は外割で表示している。即ち、ガラスに含まれるFe以外の成分の合計含有量(ガラス成分に加えて添加物も含む場合にはガラス成分と添加物との合計含有量)を100%としたとき、100%に対するFe含有量のモル百分率でFe含有量を表示する。一形態では、上記ガラスは、Feを含有しないこと(上記外割表示のFe含有量が0モル%であること)ができる。
【0020】
上記ガラスは、Zr、Y、La、Ti、Hf、Cu、Co、Mn、Nd、Pr、Nb、V、Cr、Ni、Mo、HoおよびErからなる群から選ばれる一種以上の金属またはその酸化物を含むこともでき、含まないこともできる。酸化物基準のガラス組成において、Zr、Y、La、Ti、Hf、Cu、Co、Mn、Nd、Pr、Nb、V、Cr、Ni、Mo、HoおよびErからなる群から選ばれる一種以上の金属の酸化物が含まれることによって、ガラスの熱的安定性が高まる傾向がある。一形態では、Zr、Y、La、Ti、Hf、Cu、Co、Mn、Nd、Pr、Nb、V、Cr、Ni、Mo、HoおよびErからなる群から選ばれる一種以上の金属の酸化物の含有量(複数種含まれる場合はそれらの合計含有量)は、0%、0%以上もしくは0%超であることができ、また、5.0%以下、4.0%以下、3.0%以下、2.0%以下、1.0%以下、0.5%以下または0.1%以下であることができる。例えば、Y含有量は、0%以上もしくは0%超であることができ、また、3.0%以下、2.0%以下もしくは1.0%以下であることができる。TiO含有量は、0%以上もしくは0%超であることができ、また、3.0%以下、2.0%以下もしくは1.0%以下であることができる。一形態では、上記ガラスは、YおよびTiOの一方または両方を含むことができる。
【0021】
Fは、熔解時に揮発し易い成分であり、脈理の原因となる成分でもあるため、上記ガラスはFを含まないことが好ましい。Fを含まないことは、熔解炉の浸食抑制、ヤング率の低下抑制および比弾性率の低下抑制の観点からも好ましい。
【0022】
Pb、CdおよびAsは、環境に悪影響を与える物質なので、これらの導入は避けることが好ましい。
【0023】
上記ガラスは、清澄効果を得る観点から、SnO、CeOおよびSbからなる群から選ばれる一種以上を含むことができる。一形態では、SnOとCeOの合計含有量は0%であることができる。他の一形態では、上記ガラスは、SnOおよび/またはCeOを含むことができ、SnOとCeOの合計含有量(SnO+CeO)が0.05~2%であることが好ましい。SnOとCeOの合計含有量が0.05%以上であることにより、十分な清澄効果を得ることができ、泡の残存を低減することができる。また、合計含有量(SnO+CeO)が2%以下であることにより、ガラス熔解時に熔融ガラスが吹き上がり生産性が低下することを防ぐことができる。合計含有量(SnO+CeO)の下限については、0.10%以上であることが好ましく、0.20%以上であることがより好ましく、0.25%以上であることが更に好ましく、0.30%以上であることが一層好ましく、0.35%以上であることがより一層好ましく、0.40%以上であることが更に一層好ましい。また、合計含有量(SnO+CeO)の上限については、1.5%以下であることが好ましく、1.2%以下であることがより好ましく、1.0%以下であることが更に好ましく、0.70%以下であることが一層好ましく、0.65%以下であることがより一層好ましく、0.60%以下であることが更に一層好ましく、0.55%以下であることがなお一層好ましく、0.50%以下であることが更になお一層好ましい。
【0024】
SnOは、ガラスの熔融温度が比較的高い状態(1400~1600℃程度の温度域)での清澄を促進させる働きを有する。Sbや亜砒酸等の環境に悪影響を及ぼす清澄剤の使用が制限される中、熔融温度の高いガラスの泡の除去をするために、一形態では、上記ガラスにSnOを導入することが好ましい。SnOの含有量は、清澄効果を得る観点から、0.01%以上であることが好ましく、0.05%以上であることがより好ましく、0.10%以上であることが更に好ましく、0.15%以上であることが一層好ましく、0.20%以上であることがより一層好ましい。また、SnOの含有量は、2%以下であることが好ましく、1.5%以下であることがより好ましく、1.0%以下であることが更に好ましく、0.8%以下であることが一層好ましく、0.5%以下であることがより一層好ましい。
【0025】
CeOは、SnOと同様にガラスの清澄作用を示す成分である。CeOは、ガラスの熔融温度が比較的低い状態(1200~1400℃程度の温度域)で酸素を取り込んでガラス成分として定着させる働きがあるため、一形態では、清澄剤として上記ガラスにCeOを導入することが好ましい。CeOの含有量は、清澄効果を得る観点から、0.01%以上であることが好ましく、0.05%以上であることがより好ましく、0.08%以上であることが更に好ましく、0.10%以上であることが一層好ましい。また、CeOの含有量は、2%以下であることが好ましく、1.5%以下であることがより好ましく、1.0%以下であることが更に好ましく、0.8%以下であることが一層好ましく、0.5%以下であることがより一層好ましく、0.3%以下であることが更に一層好ましい。SnOとCeOを共存させることにより、広い温度域での清澄作用を得ることができるので、一形態では、上記ガラスは、SnOおよびCeOの両方を含むことが好ましい。
【0026】
Sbは、環境負荷低減の観点から、使用を控えることが望ましい。上記ガラスにおけるSbの含有量は、0~0.5%の範囲であることが好ましい。Sbの含有量は、0.3%以下であることがより好ましく、0.1%以下であることが更に好ましく、0.05%以下であることが一層好ましく、0.02%以下であることがより一層好ましく、Sbを含まないことが特に好ましい。
【0027】
上記ガラスは、所定のガラス組成が得られるように、酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、水酸化物等のガラス原料を秤量、調合し、十分混合して、熔融容器内で、例えば1400~1600℃の範囲で加熱、熔解し、清澄、攪拌して十分泡切れがなされた均質化した熔融ガラスを成形することにより作製することができる。例えば、ガラス原料を熔解槽において1400~1550℃で加熱して熔解し、得られた熔融ガラスを清澄槽において昇温して1450~1600℃に保持した後、降温して1200~1400℃でガラスを流出し成形することが好ましい。
【0028】
<ガラス物性>
上記ガラスは、以上記載した組成調整を行うことにより、以下に記載する各種ガラス物性を有することができる。
【0029】
(比弾性率)
上記ガラスは、先に記載した組成を有することにより高い剛性を有することができる。ガラスの剛性の指標としては、比弾性率を挙げることができる。比弾性率は、ガラスのヤング率を密度で除して算出される。ここで密度とはガラスの比重に、g/cmという単位を付けた値と考えればよい。上記ガラスの比弾性率は、35.0MNm/kg以上であることが好ましく、35.5MNm/kg以上、36.0MNm/kg以上、36.5MNm/kg以上、37.0MNm/kg以上、37.5MNm/kg以上、38.0MNm/kg以上の順に更に一層好ましい。比弾性率は、例えば45.0MNm/kg以下、44.0MNm/kg以下、43.0MNm/kg以下、42.0MNm/kg以下、41.0MNm/kg以下または40.0MNm/kg以下であることができるが、比弾性率が高いほど剛性が高く好ましいため、上記の例示した値に限定されるものではない。
【0030】
(ヤング率E)
ガラスの剛性の指標としては、ヤング率を挙げることもできる。上記ガラスのヤング率は、86.0GPa以上であることが好ましく、87.0GPa以上であることがより好ましく、88.0GPa以上、89.0GPa以上、90.0GPa以上、91.0GPa以上、92.0GPa以上、93.0GPa以上、94.0GPa以上、95.0GPa以上の順に更に好ましい。上記ガラスのヤング率は、例えば、120.0GPa以下または110.0GPa以下であることができるが、ヤング率が高いほど剛性が高く好ましいため、上記の例示した値に限定されるものではない。
【0031】
(比重d)
磁気記録媒体基板用ガラスの低比重化により、磁気記録媒体基板を軽量化することができ、更には磁気記録媒体の軽量化、これによるHDDの消費電力抑制が可能になる。上記ガラスの比重は、2.80以下であることが好ましく、2.75以下であることがより好ましく、2.70以下であることが更に好ましく、2.65以下であることがより一層好ましく、2.60以下であることがより一層好ましい。上記ガラスの比重は、例えば2.40以上であることができるが、比重が低いほど好ましいため、上記の例示した値に限定されるものではない。
【0032】
(ガラス転移温度Tg)
磁気記録媒体基板は、通常、基板上に磁気記録層を形成する工程で高温処理に付される。例えば、磁気記録媒体の高密度記録化のために近年開発されている磁気異方性エネルギーが高い磁性材料を含む磁気記録層を形成するためには、通常、高温で成膜が行われるか、または成膜後に高温で熱処理が行われる。磁気記録媒体基板がこのような高温処理に耐え得る耐熱性を有することは、高温に晒されて基板の平坦性が低下することを防ぐうえで好ましい。この点に関し、上記ガラスは、上記のガラス組成を有することにより、高い耐熱性を示すこともできる。耐熱性の指標であるガラス転移温度Tgについて、上記ガラスのTgは、例えば550℃以上であることができ、600℃以上であることが好ましく、610℃以上、620℃以上、630℃以上、640℃以上、650℃以上、660℃以上、670℃以上、680℃以上、690℃以上、700℃以上、710℃以上、720℃以上、730℃以上、740℃以上、750℃以上の順により好ましい。また、上記ガラスのTgは、例えば、850℃以下、830℃以下または810℃以下、790℃以下、770℃以下または750℃以下であることができるが、Tgが高いほど耐熱性の観点から好ましいため、上記の例示した値に限定されるものではない。
【0033】
(熱膨張係数)
磁気記録媒体を組み込んだHDDは、通常、中央部分をスピンドルモータのスピンドルおよびクランプで押さえて磁気記録媒体そのものを回転させる構造となっている。そのため、磁気記録媒体基板とスピンドル部分を構成するスピンドル材料の各々の熱膨張係数に大きな差があると、使用時に周囲の温度変化に対してスピンドルの熱膨張・熱収縮と磁気記録媒体基板の熱膨張・熱収縮にずれが生じてしまい、結果として磁気記録媒体が変形してしまう現象が生じる。このような現象が生じると書き込んだ情報をヘッドが読み出せなくなってしまい、記録再生の信頼性が低下する原因となる。したがって磁気記録媒体基板用ガラスの熱膨張係数とスピンドル材料(例えばステンレス等)の熱膨張係数との差が大きくなりすぎないようにすることが望ましい。一般にHDDのスピンドル材料は、100~300℃の温度範囲において70×10-7/℃以上の平均線膨張係数(熱膨張係数)を有するものであり、磁気記録媒体基板用ガラスの100~300℃における平均線膨張係数が30.0×10-7/℃以上であれば、スピンドル材料との熱膨張係数の差が少なく磁気記録媒体の信頼性向上に寄与することができる。上記ガラスの100~300℃における平均線膨張係数αは、34.0×10-7/℃以上であることが好ましく、35.0×10-7/℃以上であることがより好ましく、36.0×10-7/℃以上であることが更に好ましく、37.0×10-7/℃以上であることが一層好ましく、38.0×10-7/℃以上であることがより一層好ましく、39.0×10-7/℃以上であることが更に一層好ましく、40.0×10-7/℃以上であることがなお一層好ましい。また、上記ガラスの100~300℃における平均線膨張係数αは、70.0×10-7/℃以下であることが好ましく、68.0×10-7/℃以下であることがより好ましく、65.0×10-7/℃以下であることが更に好ましく、63.0×10-7/℃以下であることが一層好ましく、60.0×10-7/℃以下であることがより一層好ましく、57.0×10-7/℃以下であることが更に一層好ましく、55.0×10-7/℃以下であることがなお一層好ましい。
【0034】
(液相温度LT)
ガラスの熱的安定性の指標としては、液相温度(LT:liquidus temperature)を挙げることができる。上記ガラスのLTは、1320℃以下であることが好ましく、1310℃以下であることがより好ましく、1300℃以下、1290℃以下、1280℃以下、1270℃以下、1260℃以下、1250℃以下、1240℃以下の順に更に好ましい。液相温度LTが低いガラスは、失透を生じ難いため好ましい。LTの下限は、例えば800℃以上であることができるが、特に限定されない。
【0035】
上記の各種物性は、実施例について後述する方法によって求めることができる。
【0036】
[磁気記録媒体基板]
本発明の一態様にかかる磁気記録媒体基板は、上記ガラスからなる。
【0037】
磁気記録媒体基板は、ガラス原料を加熱することにより熔融ガラスを調製し、この熔融ガラスをプレス成形法、ダウンドロー法またはフロート法のいずれかの方法により板状に成形し、得られた板状のガラスを加工する工程を経て製造することができる。例えば、プレス成形方法では、ガラス流出パイプから流出する熔融ガラスを所定体積に切断し、所要の熔融ガラス塊を得て、これをプレス成形型でプレス成形して薄肉円盤状の基板ブランクを作製する。次いで、得られた基板ブランクに中心孔を設けたり、内外周加工、両主表面にラッピング、ポリッシング等の研磨加工を施す。次いで、酸洗浄およびアルカリ洗浄を含む洗浄工程を経て、ディスク状の基板を得ることができる。上記磁気記録媒体基板を得るために行われる各種工程については、磁気記録媒体基板の製造に関する公知技術を適用することができる。
【0038】
上記磁気記録媒体基板は、一形態では、表面および内部の組成が均質である。ここで、表面および内部の組成が均質とは、イオン交換が行われていない(即ち、イオン交換層を有さない)ことを意味する。イオン交換層を有さない磁気記録媒体基板は、イオン交換処理を行わずに製造されるため、製造コストを大幅に低減できる。
【0039】
また、上記磁気記録媒体基板は、一形態では、表面の一部または全部に、イオン交換層を有する。イオン交換層は圧縮応力を示すため、イオン交換層の有無は、主表面に対して垂直に基板を破断し、破断面においてバビネ法により応力プロファイルを得ることによって確認することができる。「主表面」とは、基板の磁気記録層が設けられる面または設けられている面である。こうした面は、磁気記録媒体基板の表面のうち、最も面積の広い面であることから、主表面と呼ばれ、ディスク状の磁気記録媒体の場合、ディスクの円形状の表面(中心孔がある場合は中心孔を除く。)に相当する。また、イオン交換層の有無は、基板表面からアルカリ金属イオンの深さ方向の濃度分布を測定する方法等によっても確認することができる。
【0040】
イオン交換層は、高温下、基板表面にアルカリ塩を接触させ、このアルカリ塩中のアルカリ金属イオンと基板中のアルカリ金属イオンを交換させることにより形成することができる。イオン交換(「強化処理」、「化学強化」とも呼ばれる。)については、公知技術を適用することができ、一例として、WO2011/019010A1の段落0068~0069を参照できる。
【0041】
上記磁気記録媒体基板は、例えば厚さが1.5mm以下、好ましくは1.2mm以下、より好ましくは1.0mm以下であり、更に好ましくは0.8mm以下であり、一層好ましくは0.8mm未満であり、より一層好ましくは0.7mm以下であり、更に一層好ましくは0.6mm以下である。また、上記磁気記録媒体基板の厚さは、例えば0.3mm以上である。磁気記録媒体基板の厚さを薄くできることは、HDDの記録容量向上の観点から好ましい。また、上記磁気記録媒体基板は、好ましくは中心孔を有するディスク形状である。
【0042】
上記磁気記録媒体基板は、非晶質ガラスからなる。非晶質ガラスによれば、結晶化ガラスと比べて基板に加工したとき優れた表面平滑性を実現できる。
【0043】
上記磁気記録媒体基板は、本発明の一態様にかかるガラスからなるため、上記ガラスについて先に記載したガラス物性を有することができる。
【0044】
[磁気記録媒体]
本発明の一態様は、上記磁気記録媒体基板と磁気記録層とを有する磁気記録媒体に関する。
【0045】
磁気記録媒体は、磁気ディスク、ハードディスク等と呼ばれ、各種磁気記録再生装置、例えば、デスクトップパソコン、サーバ用コンピュータ、ノート型パソコン、モバイル型パソコン等の内部記憶装置(固定ディスク等)、画像および/または音声を記録再生する携帯記録再生装置の内部記憶装置、車載オーディオの記録再生装置等に好適である。本発明および本明細書において、「磁気記録再生装置」とは、磁気的に情報の記録を行うこと、磁気的に情報の再生を行うこと、の一方または両方が可能な装置をいうものとする。
【0046】
磁気記録媒体は、例えば、磁気記録媒体基板の主表面上に、主表面に近いほうから順に、少なくとも付着層、下地層、磁性層(磁気記録層)、保護層、潤滑層が積層された構成になっている。
例えば、磁気記録媒体基板を、真空引きを行った成膜装置内に導入し、DC(Direct Current)マグネトロンスパッタリング法にてAr雰囲気中で、磁気記録媒体基板の主表面上に付着層から磁性層まで順次成膜する。付着層としては例えばCrTi、下地層としては例えばRuやMgOを含む材料を用いることができる。なお、適宜、軟磁性層やヒートシンク層を追加してもよい。上記成膜後、例えばCVD(Chemical Vapor Deposition)法によりCを用いて保護層を成膜し、同一チャンバ内で、表面に窒素を導入する窒化処理を行うことにより、磁気記録媒体を形成することができる。その後、例えばPFPE(ポリフルオロポリエーテル)をディップコート法により保護層上に塗布することにより、潤滑層を形成することができる。
【0047】
磁気記録媒体のより一層の高密度記録化のためには、磁気記録層は、磁気異方性エネルギーの高い磁性材料を含むことが好ましい。この点から好ましい磁性材料としては、Fe-Pt系磁性材料またはCo-Pt系磁性材料を挙げることができる。なおここで「系」とは、含有することを意味する。即ち、上記磁気記録媒体は、磁気記録層としてFeおよびPt、またはCoおよびPtを含む磁気記録層を有することができる。かかる磁性材料を含む磁気記録層およびその成膜方法については、WO2011/019010A1の段落0074および同公報の実施例の記載を参照できる。また、そのような磁気記録層を有する磁気記録媒体は、エネルギーアシスト記録方式と呼ばれる記録方式による磁気記録装置に適用することが好ましい。エネルギーアシスト記録方式の中で、近接場光等の照射により磁化反転をアシストする記録方式は熱アシスト記録方式、マイクロ波によりアシストする記録方式はマイクロ波アシスト記録方式と呼ばれる。それらの詳細については、WO2011/019010A1の段落0075を参照できる。なお、磁気記録層を形成するための磁性材料として、従来のCoPtCr系材料を用いてもよい。
【0048】
ところで近年、磁気ヘッドへDFH(Dynamic Flying Height)機構を搭載させることにより、磁気ヘッドの記録再生素子部と磁気記録媒体表面との間隙の大幅な狭小化(低浮上量化)を達成し、更なる高記録密度化を図ることが行われている。DFH機構とは、磁気ヘッドの記録再生素子部の近傍に極小のヒーター等の加熱部を設けて、素子部周辺のみを媒体表面方向に向けて突き出す機能である。こうすることで、磁気ヘッドと媒体の磁気記録層との距離(フライングハイト)が近づくため、より小さい磁性粒子の信号も拾うことができるようになり、更なる高記録密度化を達成することが可能となる。一形態では、上記磁気記録媒体基板は、DFH機構を搭載した磁気ヘッドを備えた磁気記録再生装置に適用される磁気記録媒体の基板として用いることができる。
【0049】
上記磁気記録媒体基板(例えば磁気ディスク用ガラス基板)、磁気記録媒体(例えば磁気ディスク)とも、その寸法に特に制限はない。例えば、高記録密度化が可能であるため媒体および基板を小型化することも可能である。また、磁気記録媒体1枚当たりの記録容量を増やすために、媒体および基板を大型化することも可能である。例えば、公称直径2.5インチは勿論、更に小径(例えば1インチ、1.8インチ)、または3インチ、3.5インチ、更にそれより大きな寸法のものとすることができる。
【0050】
[磁気記録再生装置用ガラススペーサ]
本発明の一態様にかかる磁気記録再生装置用ガラススペーサ(以下、単に「ガラススペーサ」とも記載する。)は、上記ガラスからなる。
【0051】
磁気記録媒体は、磁気記録再生装置において、情報を磁気的に記録および/または再生するために用いることができる。磁気記録再生装置は、通常、磁気記録媒体をスピンドルモータのスピンドルに固定するため、および/または、複数の磁気記録媒体の間の距離を保つために、スペーサを備えている。近年、かかるスペーサとして、ガラススペーサを用いることが提案されている。このガラススペーサにも、磁気記録媒体基板用のガラスについて先に詳述した理由と類似の理由から、高い剛性を有することが望まれる。これに対し、上記組成を有するガラスは、高い剛性を有することができるため、磁気記録再生装置用ガラススペーサとして好適である。
【0052】
磁気記録再生装置用のスペーサはリング状の部材であって、ガラススペーサの構成、製造方法等の詳細は公知である。また、ガラススペーサの製造方法については、磁気記録媒体基板用ガラスの製造方法および磁気記録媒体基板の製造方法に関する先の記載も参照できる。また、上記ガラススペーサのガラス組成、ガラス物性等のその他の詳細については、上記ガラス、上記ガラスからなる磁気記録媒体基板およびかかる磁気記録媒体基板を有する磁気記録媒体に関する先の記載を参照できる。
なお、磁気記録再生装置用のスペーサは、上記ガラススペーサからなることもでき、または上記ガラススペーサの表面に導電性膜等の膜を一層以上設けた構成であることもできる。例えば、磁気記録媒体の回転時に生じる静電気を除去するために、ガラススペーサの表面に、メッキ法、浸漬法、蒸着法、スパッタリング法等によりNiP合金等の導電性膜を形成することができる。また、ガラススペーサは、研磨加工により表面平滑性を高くすることができ(例えば、平均表面粗さRaが1μm以下)、これにより磁気記録媒体とスペーサとの密着度を強めて位置ずれの発生を抑制することができる。
【0053】
[磁気記録再生装置]
本発明の一態様は、上記磁気記録媒体および上記ガラススペーサからなる群から選ばれる1つ以上を含む磁気記録再生装置 に関する。
【0054】
磁気記録再生装置は、少なくとも1つの磁気記録媒体と、少なくとも1つのスペーサを含み、更に、通常、磁気記録媒体を回転駆動させるためのスピンドルモータと、磁気記録媒体に対して情報の記録および/または再生を行うための少なくとも1つの磁気ヘッドを含む。
上記の本発明の一態様にかかる磁気記録再生装置は、少なくとも1つの磁気記録媒体として本発明の一態様にかかる磁気記録媒体を含むことができ、本発明の一態様にかかる磁気記録媒体を複数含むこともできる。上記の本発明の一態様にかかる磁気記録再生装置は、少なくとも1つのスペーサとして本発明の一態様にかかるガラススペーサを含むことができ、本発明の一態様にかかるガラススペーサを複数含むこともできる。磁気記録媒体の熱膨張係数とスペーサの熱膨張係数との差が小さいことは、両者の熱膨張係数の差に起因して生じ得る現象、例えば、磁気記録媒体の歪み、磁気記録媒体の位置ずれによる回転時の安定性の低下等、の発生を抑制する観点から好ましい。この観点から、本発明の一態様にかかる磁気記録再生装置は、少なくとも1つの磁気記録媒体として、また複数の磁気記録媒体が含まれる場合にはより多くの磁気記録媒体として、本発明の一態様にかかる磁気記録媒体を含み、かつ、少なくとも1つのスペーサとして、また複数のスペーサが含まれる場合にはより多くのスペーサとして、本発明の一態様にかかるガラススペーサを含むことが好ましい。また、例えば、本発明の一態様にかかる磁気記録再生装置は、磁気記録媒体に含まれる磁気記録媒体基板を構成するガラスと、ガラススペーサを構成するガラスとが、同一のガラス組成を有するものであることができる。
【0055】
本発明の一態様にかかる磁気記録再生装置は、本発明の一態様にかかる磁気記録媒体および本発明の一態様にかかるガラススペーサの少なくとも一方を含むものであればよく、その他の点については磁気記録再生装置に関する公知技術を適用することができる。一態様では、磁気ヘッドとして、磁化反転をアシスト(磁気信号の書き込みを補助)するためのエネルギー源(例えばレーザー光源等の熱源、マイクロ波等)と、記録素子部と、再生素子部とを有するエネルギーアシスト磁気記録ヘッドを用いることができる。このような、エネルギーアシスト磁気記録ヘッドを含むエネルギーアシスト記録方式の磁気記録再生装置は、高記録密度かつ高い信頼性を有する磁気記録再生装置として有用である。また、レーザー光源等を有する熱アシスト磁気記録ヘッドを備えた熱アシスト記録方式等のエネルギーアシスト記録方式の磁気記録再生装置に用いられる磁気記録媒体の製造時には、磁気異方性エネルギーが高い磁性材料を含む磁気記録層を磁気記録媒体基板上に形成することが行われる場合がある。このような磁気記録層を形成するためには、通常、高温で成膜が行われるか、または成膜後に高温で熱処理が行われる。本発明の一態様にかかる磁気記録媒体基板は、一形態では、このような高温での処理に耐え得る高い耐熱性を有する磁気記録媒体基板であることができる。ただし、本発明の一態様にかかる磁気記録再生装置は、エネルギーアシスト方式の磁気記録再生装置に限定されるものではない。
【実施例0056】
以下に、本発明を実施例により更に詳細に説明する。ただし、本発明は実施例に示す実施形態に限定されるものではない。
【0057】
[実施例1~62]
表1に示す組成のガラスが得られるように、酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、水酸化物等の原料を秤量し、混合して調合原料とした。この調合原料を熔融槽に投入して1400~1600℃の範囲で加熱、熔解して得られた熔融ガラスを、清澄槽において1400~1550℃で6時間保持した後、温度を低下(降温)させて1200~1400℃の範囲に1時間保持してから熔融ガラスを成形して、下記評価のためのガラス(非晶質の酸化物ガラス)を得た。
【0058】
<ガラス物性の評価>
(1)ガラス転移温度Tg、平均線膨張係数α
各ガラスのガラス転移温度Tgおよび100~300℃における平均線膨張係数αを、熱機械分析装置(TMA;Thermomechanical Analysis)を用いて測定した。
【0059】
(2)ヤング率E
各ガラスのヤング率を超音波法にて測定した。
【0060】
(3)比重d
各ガラスの比重をアルキメデス法にて測定した。
【0061】
(4)比弾性率
上記(2)で得られたヤング率および(3)で得られた比重から、比弾性率を算出した。
【0062】
以上の結果を表1(表1-1~表1-5)に示す。
【0063】
【表1-1】
【0064】
【表1-2】
【0065】
【表1-3】
【0066】
【表1-4】
【0067】
【表1-5】
【0068】
表1に示す結果から、実施例1~62のガラスが高い剛性を有することが確認できる。例えば、特開2002-358626号公報の表5に示されている実施例27のガラス(以下、「比較ガラス」と記載する。)は、モル%表示のガラス組成が、SiO:65.0%、Al:7.0%。MgO:1.0%、CaO:1.0%、LiO:10.0%、NaO:10.5%、KO:2.5%であり、先に詳述した本発明の一態様にかかるガラスとはガラス組成が異なる。この比較ガラスについて特開2002-358626号公報の表5に示されているヤング率の値を密度の値で除して算出される値は約32.45であり、表1に示されている実施例1~62の比弾性率の値を下回る値であった。
【0069】
(5)液相温度LT
表2に示すガラスの液相温度を、以下の方法によって求めた。
白金坩堝にガラス50gを秤量した。この白金坩堝を白金製の蓋をした状態で炉内雰囲気温度1350℃の加熱炉内に配置して坩堝内のガラスを完全に熔融状態にした後、炉内雰囲気温度を所定の温度に降温し、その温度で16時間保持した。16時間保持後、白金坩堝を炉外に取り出し放置してガラスを室温(20℃~25℃程度)まで冷却した。冷却後のガラスを目視で観察し、結晶析出の有無を調べた。
上記操作を1280℃から1200℃まで10℃刻みで実施し、結晶析出が認められなかった最低温度を液相温度LTとした。
【0070】
【表2】
【0071】
実施例17、18、22、29、33のガラスについて、以下の方法によって液相温度LTが1300℃以下であることを確認した。
白金坩堝にガラス50gを秤量した。この白金坩堝を白金製の蓋をした状態で炉内雰囲気温度1350℃の加熱炉内に配置して坩堝内のガラスを完全に熔融状態にした後、炉内雰囲気温度を1300℃に降温し、その温度で16時間保持した。16時間保持後、白金坩堝を炉外に取り出し放置してガラスを室温(20℃~25℃程度)まで冷却した。冷却後のガラスを目視で観察し、結晶析出の有無を調べたところ、結晶析出は認められなかった。
【0072】
<磁気記録媒体基板の作製>
(1)基板ブランクの作製
下記方法AまたはBにより、円盤状の基板ブランクを作製した。また、同様の方法により、磁気記録再生装置用ガラススペーサ作製のためのガラスブランクを得ることができる。
(方法A)
表1に示す組成のガラスについて、清澄、均質化した熔融ガラスを流出パイプから一定流量で流出するとともにプレス成形用の下型で受け、下型上に所定量の熔融ガラス塊が得られるよう流出した熔融ガラスを切断刃で切断した。そして熔融ガラス塊を載せた下型をパイプ下方から直ちに搬出し、下型と対向する上型および胴型を用いて、直径99mm、厚さ0.7mmの薄肉円盤状にプレス成形した。プレス成形品を変形しない温度にまで冷却した後、型から取り出してアニールし、基板ブランク(非晶質の酸化物ガラス)を得た。なお、上述の成形では複数の下型を用いて流出する熔融ガラスを次々に円盤状の基板ブランクに成形した。
(方法B)
表1に示す組成のガラスについて、清澄、均質化した熔融ガラスを円筒状の貫通孔が設けられた耐熱性鋳型の貫通孔に上部から連続的に鋳込み、円柱状に成形して貫通孔の下側から取り出した。取り出したガラスをアニールした後、マルチワイヤーソーを用いて円柱軸に垂直な方向に一定間隔でガラスをスライス加工し、円盤状の基板ブランク(非晶質の酸化物ガラス)を作製した。
なお、本実施例では上述の方法A、Bを採用したが、円盤状の基板ブランクの製造方法としては、下記方法C、Dも好適である。また、下記方法C、Dは、磁気記録再生装置用ガラススペーサ作製のためのガラスブランクの製造方法としても好適である。
(方法C)
熔融ガラスをフロートバス上に流し出し、シート状のガラスに成形(フロート法による成形)し、次いでアニールした後にシートガラスから円盤状のガラスをくり貫いて基板ブランク(非晶質の酸化物ガラス)を得ることもできる。
(方法D)
熔融ガラスをオーバーフローダウンドロー法(フュージョン法)によりシート状のガラスに成形、アニールし、次いでシートガラスから円盤状のガラスをくり貫いて基板ブランク(非晶質の酸化物ガラス)を得ることもできる。
【0073】
(2)ガラス基板の作製
上述の各方法で得られた基板ブランク(非晶質の酸化物ガラス)の中心に貫通孔をあけて、外周、内周の研削加工を行い、円盤の主表面をラッピング、ポリッシング(鏡面研磨加工)して直径97mm、厚さ0.5mmの磁気ディスク用ガラス基板に仕上げた。また、同様の方法により、磁気記録再生装置用ガラススペーサ作製のためのガラスブランクを、磁気記録再生装置用ガラススペーサに仕上げることができる。
上記で得られたガラス基板は、1.7質量%の珪弗酸(H2SiF)水溶液、次いで、1質量%の水酸化カリウム水溶液を用いて洗浄し、次いで純水ですすいだ後に乾燥させた。実施例のガラスから作製した基板の表面を拡大観察したところ、表面荒れ等は認められず、平滑な表面であった。
【0074】
<磁気記録媒体(磁気ディスク)の作製>
以下の方法により、上記で作製した磁気ディスク用ガラス基板の主表面上に、付着層、下地層、磁気記録層、保護層、潤滑層をこの順に形成し、磁気ディスクを得た。
【0075】
まず、真空引きを行った成膜装置を用いて、DCマグネトロンスパッタリング法にて、Ar雰囲気中で、付着層、下地層および磁気記録層を順次成膜した。
【0076】
このとき、付着層は、厚さ20nmの-アモルファスCrTi層となるように、CrTiターゲットを用いて成膜した。続いて、下地層としてMgOからなる10nm厚の層を形成した。また、磁気記録層は、厚さ10nmのFePtまたはCoPtのグラニュラー層となるように、FePtCまたはCoPtCターゲットを用いて成膜温度200~400℃にて成膜した。
【0077】
磁気記録層までの成膜を終えた磁気ディスクを成膜装置から加熱炉内に移しアニールした。アニール時の加熱炉内の温度は、500~700℃の範囲とした。このアニール処理によって、L10規則構造のCoPt系合金やFePt系合金の磁性粒子が形成される。なお、上記に限らず、L10規則構造が生じるように加熱すればよい。
【0078】
続いて、エチレンを材料ガスとしたCVD法により水素化カーボンからなる保護層を3nm形成した。この後、PFPE(パーフロロポリエーテル)を用いてなる潤滑層をディップコート法により形成した。潤滑層の膜厚は1nmであった。
以上の製造工程により、磁気ディスクを得た。得られた磁気ディスクを、DFH機構を備えたハードディスクドライブに搭載し、磁気ディスクの主表面上の記録用領域に、1平方インチあたり1000ギガビットの記録密度で磁気信号を記録および再生したところ、磁気ヘッドと磁気ディスク表面が衝突する現象(クラッシュ障害)は確認されなかった。
【0079】
また、表1に示す組成のガラスを用いて以上の製造工程により得られたガラススペーサの表面にNiP合金の導電性膜を形成したもの(NiP合金膜付きガラススペーサ)を、DFH機構を備えたハードディスクドライブに搭載し、本発明の一態様にかかるガラスとは異なる材料の基板を用いて別途準備した磁気ディスクの主表面上の記録用領域に、1平方インチあたり1000ギガビットの記録密度で磁気信号を記録および再生したところ、磁気ヘッドと磁気ディスク表面が衝突する現象(クラッシュ障害)は確認されなかった。
【0080】
また、本発明の一態様にかかる同一のガラス材料を用いて、上記にて製造された磁気ディスクおよび上記にて製造されたNiP合金膜付きガラススペーサを、DFH機構を備えたハードディスクドライブに搭載し、磁気ディスクの主表面上の記録用領域に、1平方インチあたり1000ギガビットの記録密度で磁気信号を記録および再生したところ、磁気ヘッドと磁気ディスク表面が衝突する現象(クラッシュ障害)は確認されなかった。ここで、上記磁気ディスクに含まれるガラス基板および上記ガラススペーサは同一のガラス材料からなるので、上述の熱膨張係数の差に起因して生じ得る現象は生じない。
【0081】
本発明の一態様によれば、高密度記録化に適する磁気記録媒体を提供することができる。
【0082】
最後に、前述の各態様を総括する。
【0083】
一態様によれば、少なくともLiOを含み、NaOとKOとの合計含有量が0モル%以上6.0モル%以下、B含有量が0モル%以上10.0モル%以下、かつCaO含有量が0モル%以上1.0モル%以下の非晶質ガラスである磁気記録媒体基板用または磁気記録再生装置用ガラススペーサ用のガラスが提供される。
【0084】
上記ガラスは、高い剛性を有することができる。
【0085】
一形態では、上記ガラスのCaO含有量は、0モル%以上0.5モル%以下であることができる。
【0086】
一形態では、上記ガラスのCaO含有量は、0モル%以上0.1モル%以下であることができる。
【0087】
一形態では、上記ガラスはCaOを含まないガラスであることができる。
【0088】
一形態では、上記ガラスのB含有量は、0.1モル%以上10.0モル%以下であることができる。
【0089】
一形態では、上記ガラスのSiO含有量は、50.0モル%以上70.0モル%以下であることができる。
【0090】
一形態では、上記ガラスのSiO含有量は、55.0モル%以上68.0モル%以下であることができる。
【0091】
一形態では、上記ガラスのLiO含有量は、1.0モル%以上10.0モル%以下であることができる。
【0092】
一形態では、上記ガラスのLiO含有量は、3.0モル%以上6.0モル%以下であることができる。
【0093】
一形態では、上記ガラスは、LiO以外のアルカリ金属酸化物を含まないガラスであることができる。
【0094】
一形態では、上記ガラスのAl含有量は、10.0モル%以上20.0モル%以下であることができる。
【0095】
一形態では、上記ガラスのAl含有量は、10.0モル%以上17.0モル%以下であることができる。
【0096】
一形態では、上記ガラスのMgO含有量は、10.0モル%以上25.0モル%以下であることができる。
【0097】
一形態では、上記ガラスは、Zr、Y、La、Ti、Hf、Cu、Co、Mn、Nd、Pr、Nb、V、Cr、Ni、Mo、HoおよびErからなる群から選ばれる一種以上の金属の酸化物を更に含むことができる。
【0098】
一形態では、上記ガラスの比弾性率は、35.0MNm/kg以上であることができる。
【0099】
一態様によれば、上記ガラスからなる磁気記録媒体基板が提供される。
【0100】
一態様によれば、上記磁気記録媒体基板と磁気記録層とを有する磁気記録媒体が提供される。
【0101】
一態様によれば、上記ガラスからなる磁気記録再生装置用ガラススペーサが提供される。
【0102】
一態様によれば、上記磁気記録媒体および上記磁気記録再生装置用ガラススペーサ
からなる群から選ばれる1つ以上を含む磁気記録再生装置が提供される。
【0103】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
例えば、上記に例示されたガラス組成に対し、明細書に記載の組成調整を行うことにより、本発明の一態様にかかる磁気記録媒体基板用ガラスおよび磁気記録再生装置用ガラススペーサを作製することができる。
また、明細書に例示または好ましい範囲として記載した事項の2つ以上を任意に組み合わせることは、もちろん可能である。