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特開2024-102324ビニルシランガスの製造方法およびその製造装置
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  • 特開-ビニルシランガスの製造方法およびその製造装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024102324
(43)【公開日】2024-07-30
(54)【発明の名称】ビニルシランガスの製造方法およびその製造装置
(51)【国際特許分類】
   C07F 7/08 20060101AFI20240723BHJP
【FI】
C07F7/08 C
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024078386
(22)【出願日】2024-05-14
(62)【分割の表示】P 2019219269の分割
【原出願日】2019-12-04
(71)【出願人】
【識別番号】505354383
【氏名又は名称】株式会社ジャパン・アドバンスト・ケミカルズ
(71)【出願人】
【識別番号】000253503
【氏名又は名称】キリンホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100069073
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 和保
(72)【発明者】
【氏名】安原 重雄
(72)【発明者】
【氏名】細川 聡
(72)【発明者】
【氏名】國分 宏
(72)【発明者】
【氏名】木下 悟
(72)【発明者】
【氏名】本村 考平
(72)【発明者】
【氏名】山崎 照之
(72)【発明者】
【氏名】原田 秀一
(72)【発明者】
【氏名】仲田 智明
(57)【要約】
【課題】 本発明は、ビニルシランガスを連続的に精製し、この結果得られた高純度ビニルシランガスを安価かつ安全に充填するビニルシランの製造方法とその製造装置を提供することにある。
【解決手段】 本発明は、ビニルシランを発生させる発生段階と、発生したビニルシランを精製する精製段階と、精製されたビニルシランを充填容器に充填する充填段階とから構成され、前記精製段階は、前記発生段階で発生したビニルシランから高沸点物質を分離するとともに、分離された高沸点物質を前記発生段階に回帰させる第1の精製段階と、分離されたビニルシランからさらに高沸点物質を分離する第2の精製段階とによって構成され、前記充填段階において、前記充填容器をビニルシランの凝固点以下の温度まで冷却して前記充填容器にビニルシランを充填し、固化されたビニルシランから低沸点物質を除去するものである。
【選択図】 図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニルシランを連続して発生させる発生段階と、発生したビニルシランから高沸点材料を除去してビニルシランを精製する精製段階と、精製されたビニルシランを充填容器に充填するとともに、低沸点材料を充填容器から除去する充填段階とから少なくとも構成されるビニルシランの製造方法において、
前記発生段階は、発生するビニルシランに含まれる高沸点物質の沸点よりも高い第1の温度に調整されること、
前記精製段階は、前記発生段階で発生したビニルシランから高沸点物質を分離するとともに、分離された高沸点物質を前記発生段階に回帰させる第1の精製段階と、分離されたビニルシランからさらに高沸点物質を分離する第2の精製段階とによって構成されること、
前記第1の精製段階は、前記第1の温度よりも低い第2の温度に調整される中間段階と、前記発生段階で使用される前記高沸点材料の凝固点以上前記第2の温度以下の第3の温度に調整される溶媒回収段階とによって構成されること、
前記第2の精製段階は、大気圧におけるビニルシランの液化温度より高く高沸点材料の沸点よりも低い第4の温度に調整されること、
前記充填段階において、前記充填容器をビニルシランの凝固点より低い第5の温度まで冷却して前記充填容器にビニルシランを充填するとともに、前記充填容器からビニルシランに含まれる低沸点物質を真空排気により除去すること
前記高沸点材料は、ビニルトリクロロシラン、ビニルジクロロシラン、ビニルクロロシラン、テトラヒドロフラン及びジブチルエーテルから選択される一又は二以上の物質であること、及び、
前記低沸点材料は、酸素、窒素及びアルゴンから選択される一又は二以上の物質であることを特徴とするビニルシランの製造方法。
【請求項2】
前記充填容器は、容器底部より上部に向かって徐々に冷却されることを特徴とする請求項1記載のビニルシランの製造方法。
【請求項3】
前記発生段階、前記精製段階及び前記充填段階は、1×10-2Torr以下の圧力において、低沸点物質の浸入を遮断できるような密閉構造を有することを特徴とする請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
前記充填段階は、ビニルシランガスの充填と低沸点物質の真空排気による除去とを交互に間欠的に行い、前記真空排気による除去は1×10 -2 Torr以下の圧力で行われることを特徴とする請求項1~3のいずれか1つに記載のビニルシランガスの製造方法。
【請求項5】
ビニルシランを連続して発生させる発生装置と、発生したビニルシランから高沸点材料を除去してビニルシランを精製する精製装置と、精製されたビニルシランを充填容器に充填するとともに、低沸点材料を充填容器から除去する充填装置と、前記発生装置から前記精製装置及び前記充填装置にビニルシランを移動させる吸引装置とから少なくとも構成されるビニルシランの製造装置において、
前記発生装置は、発生するビニルシランに含まれる高沸点物質の沸点よりも高い第1の温度に調整されること、
前記精製装置は、前記発生装置で発生したビニルシランから高沸点物質を分離するとともに、分離された高沸点物質を前記発生装置に回帰させる第1の精製装置と、分離されたビニルシランからさらに高沸点物質を分離する第2の精製装置とによって構成されること、
前記第1の精製装置は、前記第1の温度よりも低い第2の温度に調整される中間容器と、前記発生装置で使用される前記高沸点物質の凝固点以上前記第2の温度以下の第3の温度に調整される溶媒回収装置とによって構成されること、
前記第2の精製装置は、大気圧におけるビニルシランの液化温度より高く高沸点材料の沸点よりも低い第4の温度に調整されること、及び、
前記充填装置は、前記充填容器をビニルシランの凝固点より低い第5の温度まで冷却して前記充填容器にビニルシランを充填するとともに、前記充填容器からビニルシランに含まれる低沸点物質を真空排気により除去すること
前記高沸点材料は、ビニルトリクロロシラン、ビニルジクロロシラン、ビニルクロロシラン、テトラヒドロフラン及びジブチルエーテルから選択される一又は二以上の物質であること、及び、
前記低沸点材料は、酸素、窒素及びアルゴンから選択される一又は二以上の物質であることを特徴とするビニルシランの製造装置。
【請求項6】
前記第1の精製装置は、前記発生装置に対して垂直に配置されることを特徴とする請求項5記載のビニルシランの製造装置。
【請求項7】
前記発生装置、前記精製装置及び前記充填装置は、前記吸引装置による1×10-2Torr以下の圧力において、低沸点物質の浸入を遮断できるような密閉構造を有することを特徴とする請求項5又は6記載のビニルシランの製造装置。
【請求項8】
前記吸引装置は、ビニルシランガスの充填と低沸点物質の真空排気による除去とを交互に間欠的に行い、前記真空排気による除去は1×10 -2 Torr以下の圧力で行われることを特徴とする請求項5~7のいずれか1つに記載のビニルシランの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高純度のビニルシランガスを製造するための製造方法およびその製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ビニルシランの製造方法は、たとえば特許文献1(特開2004-256494号公報 )には、アセチレンとシラン化合物とを、チタン化合物存在下で反応させてビニルシランを生成する方法が開示され、さらに特許文献2(国際公開公報WO2006/064628)には、非プロトン性溶媒中、アルミニウムの存在下でビニルハロゲン化合物とハロゲン化ケイ素化合物を反応させて、ビニルシランを得る方法が開示されている。
【0003】
しかしながら、現状では、CAS番7291-09-0、構造式CH2=CH-SiH3で示されるビニルシランガスは工業的には製造されておらず、また従来の発生方法、精製方法、充填方法を一連の製法としたものは存在しない。ただし性質の類似する液化高圧ガスとして炭酸ガスや有機シランガスがあり、その精製方法はいくつかの前例があり、液体窒素による固化と真空排気を利用した高純度化が報告されている。
【0004】
たとえば、特許文献3(特開2012-240870号公報)は、液化炭酸ガスが充填された容器あるいは液化炭酸ガス使用装置より回収された液化炭酸ガスを供給する液化炭 酸ガス供給部と、この液化炭酸ガス供給部から供給された液化天然ガスを気化して高沸点の液体や固体の不純物を残留させ、気相部から気体状炭酸ガスを排出する気化部と、該気体状炭酸ガスを液化する液化部、この液化部からの液化炭酸ガスを気液に分離し、低沸点の不純物を系外へ排出する排出弁を備える排出管を有する気液分離器とからなる気液分離装置と、この気液分離装置で分離精製された高純度の液化炭酸ガスを、超高純度の液化炭酸ガス使用装置へ供給弁を介して供給する供給通路とで超高純度液化炭酸ガスの精製供給装置を構成することを開示する。
【0005】
また、特許文献4(特開2001-48519号公報)は、低沸点成分の不純物として含有する部分置換フルオロシランガスを容器内で冷却し、固化した状態で真空排気する、または容器内で冷却し、固化した状態で真空排気した後、固化した部分置換フルオロシランガスを気化し、再度冷却し、固化した状態で真空排気する精製方法を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004-256494号公報
【特許文献2】国際公開公報WO2006/064628
【特許文献3】特開2012-240870号公報
【特許文献4】特開2001-48519号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上のように、特許文献3及び4に開示される方法は、炭酸ガスもしくは有機シランガスよりも低沸点の窒素や酸素ガスのみを除去しながら炭酸ガスや有機シランガスの回収にかかる歩留まりを高めたものである。しかしこの方法によると精製のために除去されるのはより低沸点のガス成分の窒素や酸素であり、高沸点物質の除去は行っていない。また代表的な有機シランガスでは、いったん液化させて別の蒸留装置へ移動してからの蒸留による分離型生産方法を用いている。蒸留後は圧縮ポンプを用いて液化圧力まで圧縮し充填を行っている。当該ビニルシランガスにおいては圧縮ポンプによる断熱圧縮で急速な反応の可能性があり、圧縮ポンプを用いることが困難である。
【0008】
本発明は、前記の点を鑑みてなされたものであり、ビニルシラン発生時に混入する高沸点物質および低沸点物質を除去することができ、さらに精製、充填を安全かつ低コストにて行うことができるビニルシランの製造方法及び装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
したがって、本発明は、ビニルシランを連続して発生させる発生段階と、発生したビニ ルシランを精製する精製段階と、精製されたビニルシランを充填容器に充填する充填段階とから少なくとも構成されるビニルシランの製造方法において、前記精製段階は、前記発生段階で発生したビニルシランから高沸点物質を分離するとともに、分離された高沸点物質を前記発生段階に回帰させる第1の精製段階と、分離されたビニルシランからさらに高沸点物質を分離する第2の精製段階とによって構成されること、及び、前記充填段階において、前記充填容器をビニルシランの凝固点以下の温度まで冷却して前記充填容器にビニルシランを充填するとともに、前記充填容器から低沸点物質を除去することにある。
【0010】
これによって、本発明は、発生段階において発生されるビニルシラン以外の高沸点物質、たとえば原料のビニルトリクロロシラン(融点:-95℃、沸点:91.5℃)、ビニルジクロロシラン及びビニルクロロシラン、溶媒のテトラヒドロフラン(融点:-108.4℃、沸点:66℃)及びジブチルエーテル(融点-97.9℃、沸点:142℃)等を精製段階において大部分を除去して発生段階に回帰させるとともに、精製段階においてさらに精製されたビニルシランを充填段階において固化して回収することができるため、充填段階において低沸点物質(たとえば酸素、窒素、アルゴンガス等)を除去することができるものである。
【0011】
また、本発明において、前記発生段階は、使用される溶媒の沸点よりも所定値高い第1の温度に調整されるとともに、前記第1の精製段階は、第1の温度よりも所定値低い第2の温度に調整される中間段階と、前記発生段階で使用される溶媒の凝固点以上前記第2の温度以下の範囲の第3の温度に調整される溶媒回収段階とによって構成されることが望ましい。
【0012】
これによって、発生段階では、溶媒の沸点よりも高い第1の温度に調整されることから、ビニルシラン及び溶媒が気化して中間段階に至る。中間段階では、第1の温度よりも所定値低い第2の温度に調整されるため、溶媒を十分に液化させることができ、前記発生段階に戻すことができる。さらに、中間段階の次の溶媒回収段階では、溶媒の凝固点以上前記第2の温度以下の第3の温度に調整されるので、溶媒はほとんどが液化される。ここで 液化された溶媒は中間段階を経て発生段階に戻されるため、発生段階での温度降下を抑制できるため、発生段階でのビニルシランガスの発生を継続して実施できるものである。
【0013】
さらに、前記第2の精製段階は、大気圧におけるビニルシランの液化温度より高く高沸点物質の沸点よりも所定値低い第4の温度に調整されることが望ましい。
【0014】
これによって、第2の精製段階を通過するビニルシランは気相であり、高沸点物質は液相となることから、高沸点物質は第2の精製段階において滴下するので、ビニルシランと高沸点物質は分離される。
【0015】
さらにまた、前記充填段階は、前記充填容器をビニルシランの凝固点より所定値低い第5の温度に調整されることが望ましい。特に、第5の温度は、低沸点物質の融点以上ビニルシランの凝固点以下であることが望ましい。
【0016】
これによって、充填段階まで到達したビニルシランガスは、充填段階において、前記充 填容器が第5の温度に調整されることによって充填容器内で凝固するので、充填容器内に固相として蓄積される。このとき、低沸点物質は気相または液相のままであることから、吸引することによって低沸点物質(酸素、窒素、アルゴンガス等)をビニルシランから除去することができる。
【0017】
また、前記充填容器は、容器底部より上部に向かって徐々に冷却されることが望ましい。
【0018】
これによって、充填容器にビニルシランを容器底部から確実に蓄積することができるものである。
【0019】
さらに、前記発生段階、前記精製段階及び前記充填段階は、1×10-2Torr以下の圧力(以下、高真空)において、低沸点物質の浸入を遮断できるような密閉構造を有することが望ましい。
【0020】
これによって、可燃性のビニルシランが移動する経路内に、低沸点物質、特に酸素の浸入を遮断できるため、安全性を確保できるものである。
【0021】
さらにまた、高真空度を確保可能なように高密閉性構造によって、酸素、窒素、水分等の不純物ガスの浸入を完全に防御し、特に水分の混入によるビニルシランの分解、重合を防ぐことが望ましい。
【0022】
また、前記充填段階は、ビニルシランガスの充填と真空排気とを交互に間欠的に行うことが望ましい。
【0023】
本発明は、ビニルシランを連続して発生させる発生装置と、発生したビニルシランを精製する精製装置と、精製されたビニルシランを充填容器に充填する充填装置と、前記発生装置から前記精製装置及び前記充填装置にビニルシランを移動させる吸引装置とから少なくとも構成されるビニルシランの製造装置において、前記精製装置は、前記発生装置で発生したビニルシランから高沸点物質を分離するとともに、分離された高沸点物質を前記発生装置に回帰させる第1の精製装置と、分離されたビニルシランからさらに高沸点物質を分離する第2の精製装置によって構成されること、及び、前記充填装置は、前記充填容器をビニルシランの凝固点以下の温度まで冷却する冷却装置と、前記充填容器から低沸点物質を吸引する吸引装置とによって構成されるものである。
【0024】
これによって、本発明は、発生装置で発生されるビニルシラン及びそれに含まれる高沸 点物質、たとえば原料のビニルトリクロロシラン(融点:-95℃、沸点:91.5℃)、ビニルジクロロシラン及びビニルクロロシラン、溶媒のテトラヒドロフラン(融点:- 108.4℃、沸点:66℃)及びジブチルエーテル(融点-97.9℃、沸点:142℃)等を、精製装置において大部分を除去して発生装置に回帰させるとともに、精製装置においてさらに精製されたビニルシランを充填装置において固化して回収することができるため、充填装置において低沸点物質、たとえば酸素、窒素、アルゴンガス等を除去することができるものである。
【0025】
また、前記発生装置は、溶媒の沸点よりも所定値高い第1の温度に調整されること、前記第1の精製装置は、第1の温度よりも所定値低い第2の温度に調整される中間容器と、前記発生装置で使用される溶媒の凝固点以上前記第2の温度以下の範囲の第3の温度に調整される溶媒回収容器とによって構成されることが望ましい。
【0026】
さらに、前記第1の精製装置は、前記発生装置に対して垂直に配置されることが望ましい。これによって、発生装置で発生した気体は第1の精製装置に上昇していくと同時に、第1の精製装置において液化した高沸点物質は、自由落下することができる。
【0027】
さらにまた、前記第2の精製装置は、大気圧におけるビニルシランの液化温度より所定値高い温度に調整されることが望ましい。また、第2の精製装置においては、反応距離を確保するために、直立した所定の高さの塔によって構成しても良く、さらには、併設された複数の分離容器を直列に接続することによって反応距離を確保するようにしても良いものである。第2の精製装置で分離された高沸点物質は、所定の箇所に蓄積されてもよく、また前記発生装置へ循環させるようにしても良いものである。
【0028】
また、前記充填装置は、前記充填容器をビニルシランの凝固点より所定値低い温度に調整される冷却装置と、前記発生装置から前記精製装置を介して充填容器の上流側に、ビニルシランを移動させるための吸引装置とを具備することが望ましい。また前記冷却装置は、液体窒素によって充填容器を冷却することが望ましい。
【0029】
これによって、吸引装置によって充填容器の上流側まで吸引されたビニルシランは、充填容器が冷却されることによって、充填容器内に吸引され凝固する。これによってビニルシランを蓄積することができるものである。また、充填容器は、並列に複数設けることによって、順次充填することができるようになるものである。
【0030】
さらに、前記冷却装置は、前記充填容器の容器底部より上部に向かって徐々に冷却することが望ましい。これによって、容器底部から順にビニルシランを凝固させることができるので、効率的に充填容器にビニルシランを蓄積することができるものである。
【0031】
さらにまた、前記発生装置、前記精製装置及び前記充填装置は、前記吸引装置による1×10-2Torr以下の圧力(高真空)において、低沸点物質の浸入を遮断できるような密閉構造を有することが望ましい。
【0032】
これによって、装置を通過する可燃性のビニルシランに、空気中の酸素が混入することを防止することができるものである。
【0033】
また、前記吸引装置は、ビニルシランの充填と排気とを交互に間欠的に行うことが望ましい。これによって、充填容器からの排気が可能となるため、充填容器内の低沸点物質を大気中に放出することが可能となるものである。
【発明の効果】
【0034】
上述したように、本発明によれば、ビニルシランガスの発生、精製、充填において、反応性に富むビニルシランガスを短時間で効率的かつ安全に連続発生、精製、充填することができるものである。一般的な反応性ガスの精製方法である吸着や液化蒸留と異なり連続 性やいったん液化してからの精製と異なり大掛かりな装置にならないという効果を奏する。また可燃性かつ反応性に富むビニルシランの場合、液化させるための圧縮ポンプ内の断熱圧縮による発火の可能性を排除し効率的に精製を行うことができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1図1は本発明に係る装置の概略を説明した概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明に係るビニルシランの製造方法は、ビニルシランを連続して発生させる発生段階と、発生したビニルシランを精製する精製段階と、精製されたビニルシランを充填容器に充填する充填段階とから少なくとも構成される。
【0037】
前記発生段階は、原料供給装置より必要な量の原料、たとえばビニルトリクロロシラン(融点:-95℃、沸点:91.5℃)と、溶媒、たとえばテトラヒドロフラン(融点: -108.4℃、沸点:66℃)、ジブチルエーテル(融点:-97.9℃、沸点:142℃)などによって、ビニルシランガスを発生させる。しかしながら、発生段階において発生するビニルシランガスには、前記溶媒等の高沸点物質が含まれる。また、前記発生段階 は、使用される溶媒の沸点よりも所定値高い第1の温度に調整される。
【0038】
前記精製段階は、前記発生段階で発生したビニルシランから高沸点物質を分離するとともに、分離された高沸点物質を前記発生段階に回帰させる第1の精製段階と、分離されたビニルシランからさらに高沸点物質を分離する第2の精製段階とによって構成される。
【0039】
ここで、前記第1の精製段階は、第1の温度よりも所定温度低い第2の温度に調整される中間段階と、前記発生段階で使用される溶媒の凝固点以上前記第2の温度以下の範囲の第3の温度に調整される分離段階とによって構成される。さらに、前記第2の精製段階は、大気圧におけるビニルシランの液化温度より高く高沸点物質の沸点よりも低い第4の温度に調整される。
【0040】
前記第1の精製段階では、第1の温度よりも所定温度低い第2の温度に調整される中間段階において、高沸点物質が液化されるとともに、第3の温度に調整された分離段階において高沸点物質がほとんど液化され、中間段階を経て発生段階に回帰される。このときに前記中間段階を設けることによって発生段階の温度の低下を抑制できるため、発生段階におけるビニルシランガスの継続的な発生を維持できるものである。
【0041】
また、前記充填段階において、前記充填容器をビニルシランの凝固点以下の温度まで冷却して前記充填容器にビニルシランを充填するとともに、凝固したビニルシランから低沸点物質を除去することにある。このために、前記充填段階は、前記充填容器をビニルシランの凝固点より所定値低い温度に調整され、また前記充填容器は、容器底部より上部に向かって徐々に冷却される。さらに、前記充填段階において、ビニルシランガスの充填と真空排気とは、交互に間欠的に行われる。
【0042】
これによって、充填容器にビニルシランを効率的に蓄積できるとともに、低沸点物質、たとえば酸素などを、効率的に除去できるものである。
【0043】
さらに、前記発生段階、前記精製段階及び前記充填段階は、1×10-2Torr以下の圧力(高真空)において、低沸点物質の浸入を遮断できるような密閉構造を有する。これによって外部からの酸素の浸入を防止できるとともに、発生段階から充填段階まで、ビ ニルシランを確実に吸引することができるものである。
【実施例0044】
本発明に係るビニルシランの製造装置1は、たとえば図1に示すように、ビニルシランを連続して発生させる発生容器D1を具備する発生装置Dと、発生したビニルシランを精 製する精製装置Bと、精製されたビニルシランを充填容器C1,C2に充填する充填装置Cとから少なくとも構成される。
【0045】
前記発生装置Dは、原料供給装置A(原料容器A1及び溶媒容器A2)より必要な量の原料、たとえばビニルトリクロロシラン(融点:-95℃、沸点:91.5℃)と、溶媒、たとえばテトラヒドロフラン(融点:-108.4℃、沸点:66℃)、ジブチルエーテル(融点:-97.9℃、沸点:142℃)などによって、ビニルシランガスを発生させる。しかしながら、発生装置Dにおいて発生するビニルシランガスには、前記溶媒等の高沸点物質が含まれる。また、前記発生装置Dは、使用される溶媒の沸点よりも所定値高い第1の温度T1に調整される。
【0046】
前記精製装置Bは、前記発生装置Dで発生したビニルシランから高沸点物質を分離するとともに、分離された高沸点物質を前記発生装置Dに回帰させる第1の精製装置BAと、分離されたビニルシランからさらに高沸点物質を分離する第2の精製段階BBとによって構成される。
【0047】
ここで、前記第1の精製装置BAは、第1の温度T1よりも所定温度低い第2の温度T2に調整される中間容器B1と、前記発生装置Dで使用される溶媒の凝固点以上前記第2の温度T2以下の範囲の第3の温度T3に調整される分離容器B2とによって構成される。さらに、前記第2の精製BBは、大気圧におけるビニルシランの液化温度より高く高沸 点物質の沸点よりも低い第4の温度T4に調整される。
【0048】
前記第1の精製装置BAでは、第1の温度T1よりも所定温度低い第2の温度T2に調整される中間容器B1において、高沸点物質が液化されるとともに、第3の温度T3に調整された分離容器B2において高沸点物質がほとんど液化され、中間容器B1を経て発生装置Dに回帰される。このときに前記中間容器B1を設けることによって発生装置Dの温度の低下を抑制できるため、発生装置Dにおけるビニルシランガスの継続的な発生を維持できるものである。
【0049】
さらに、前記第1の精製装置BAは、前記発生装置Dに対して垂直に配置される。これによって、発生装置Dで発生した気体は第1の精製装置BAに上昇していくと同時に、第1の精製装置BAにおいて液化した高沸点物質は、自由落下して中間容器B1を介して発生装置Dに回帰することができる。
【0050】
さらにまた、前記第2の精製装置BBは、大気圧におけるビニルシランの液化温度より所定値高い第3の温度T3に調整される。また、第2の精製装置BBにおいては、反応距離を確保するために、直立した所定の高さの塔によって構成しても良く、さらには、併設された複数の分離容器B3,B4,B5,B6を直列に接続することによって反応距離を確保するようにしても良いものである。第2の精製装置BBで分離された高沸点物質は、所定の箇所に蓄積されてもよく、また前記発生装置Dへ循環させるようにしても良いものである。尚、第1の精製装置BBにおいて分離された高沸点物質は、回収容器Eによって回収されるものであるが、発生装置Dに戻すようにしても良いものである。
【0051】
また、前記充填装置Cにおいて、前記充填容器C1,C2をビニルシランの凝固点以下の温度まで冷却して前記充填容器C1,C2にビニルシランを充填するとともに、凝固したビニルシランから低沸点物質を除去することにある。このために、前記充填装置Cは、前記充填容器C1,C2をビニルシランの凝固点より所定値低い温度(第5の温度T5)に調整され、また前記充填容器C1,C2は、容器底部より上部に向かって徐々に冷却される。さらに、前記充填装置Cにおいて、ビニルシランガスの充填と排気とは、交互に間欠的に行われる。
【0052】
これによって、充填容器C1,C2にビニルシランを効率的に蓄積できるとともに、低沸点物質、たとえば酸素などを、効率的に除去できるものである。
【0053】
さらに、前記発生装置D、前記精製装置B及び前記充填装置Cは、真空ポンプPによって吸引されて達成される1×10-2Torr以下の圧力(高真空)において、低沸点物質の浸入を遮断できるような密閉構造を有する。これによって外部からの酸素の浸入を防止できるとともに、発生装置Dから充填装置Cまで、ビニルシランを確実に吸引することができるものである。
【0054】
以上の制御を実行するために、本発明においては、V1~V9に示す開閉弁が設けられる。以上の構成のビニルシランの製造装置1において、材料供給装置Aから供給された原材料(ビニルトリクロロフラン)及び高沸点物質としての溶剤(テトラヒドロシラン)が、発生装置Dの発生容器D1において、溶媒の沸点温度(たとえば66℃)より所定値高い第1の温度T1(約80℃)まで加熱されて撹拌され、これによって気化したビニルシラン及び溶媒が第2の温度(たとえば5~10℃)に調整された前記中間容器B1を介して第3の温度(たとえば-40℃)に調整された分離容器B2まで上昇させる。この中間容器B1及び分離容器B2において、ビニルシランは気相の状態を保持するとともに、溶媒(高沸点物質)は液化して発生容器D1内に回帰する。前記分離容器B2において十分な量のビニルシランガスの発生が確認された場合、開閉弁V1,V2,V5が開弁されると、真空ポンプPの駆動によって、分離容器B2内の気体が第2の精製装置BBに導入される。
【0055】
第2の精製装置BBでは、複数の分離容器B3,B4,B5,B6が併設されるが、それぞれの分離容器B3,B4,B5,B6は直列接続される。また、それぞれの分離容器B3,B4,B5,B6で分離された高沸点物質は、回収容器Eに回収される。
【0056】
また、第2の精製装置BBから充填容器B1へのビニルシランの充填は、たとえば充填容器C1を減圧するために、開閉弁V3を閉弁すると同時に開閉弁V4,V7を開弁することによって真空ポンプPの真空引きによって充填容器C1を真空とすると同時に、充填容器C1を冷却装置Fによって冷却し、開閉弁V5,V6,V7を閉弁すると同時に開閉 弁V2,V3,V4を開弁することによって、第2の精製装置BBを通過したビニルシランガスが充填容器C1内に吸引され冷却された凝固し、充填される。この後、開閉弁V3を閉弁して開閉弁V4,V7を開弁して真空ポンプPによる真空引きをすることによって、充填容器C1内で気相として存在する低沸点物質(たとえば酸素、窒素、アルゴンガス等)を外気に放出することが可能となる。この充填作業と、低沸点物質の真空引き作業とは間欠的に交互に実行することによって、効率的にビニルシランを充填することができると共に、低沸点物質の除去を実施することができるものである。
【0057】
また、充填容器C1がいっぱいになった場合には、開閉弁V3,V4、V7に代えて開閉弁V6,V8,V9を同様に操作することによって、充填容器C2に同様にビニルシランを充填するとともに、低沸点物質の除去を実施することができるものである。
【符号の説明】
【0058】
1 製造装置
A 材料供給装置
B 精製装置
BA 第1の精製装置
BB 第2の精製装置
C 充填装置
D 発生装置
E 回収容器
F 冷却装置
P 真空ポンプ
V1~V9 開閉弁

図1