(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024102339
(43)【公開日】2024-07-30
(54)【発明の名称】エフロルニチンとスリンダクの固定用量複合製剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/198 20060101AFI20240723BHJP
A61K 31/192 20060101ALI20240723BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20240723BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20240723BHJP
A61K 9/12 20060101ALI20240723BHJP
A61K 9/16 20060101ALI20240723BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20240723BHJP
A61K 9/36 20060101ALI20240723BHJP
A61K 9/32 20060101ALI20240723BHJP
A61K 9/22 20060101ALI20240723BHJP
A61K 9/70 20060101ALI20240723BHJP
A61K 47/04 20060101ALI20240723BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20240723BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20240723BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20240723BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20240723BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20240723BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20240723BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240723BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20240723BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240723BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240723BHJP
A61K 47/14 20170101ALI20240723BHJP
A61K 9/48 20060101ALI20240723BHJP
A61K 9/107 20060101ALI20240723BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240723BHJP
【FI】
A61K31/198
A61K31/192
A61K9/06
A61K9/08
A61K9/12
A61K9/16
A61K9/20
A61K9/36
A61K9/32
A61K9/22
A61K9/70 401
A61K47/04
A61K47/12
A61K47/10
A61K47/38
A61K47/32
A61K47/02
A61K47/36
A61P35/00
A61P17/00
A61P43/00 121
A61P29/00
A61K47/14
A61K9/48
A61K9/107
A61K45/00
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024079276
(22)【出願日】2024-05-15
(62)【分割の表示】P 2021186911の分割
【原出願日】2016-10-31
(31)【優先権主張番号】62/248,810
(32)【優先日】2015-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/358,698
(32)【優先日】2016-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】16306430.6
(32)【優先日】2016-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】16306429.8
(32)【優先日】2016-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】512293253
【氏名又は名称】キャンサー プリベンション ファーマシューティカルズ,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】シャノン パトリック
(72)【発明者】
【氏名】ブラボー ゴンザレス ロベルト カルロス
(72)【発明者】
【氏名】ドゥカソウ ジーン
(57)【要約】
【課題】癌の予防および処置のための組成物、ならびに患者における疾患または状態を予防および/または処置する方法を提供する。
【解決手段】薬学的有効量のエフロルニチンと薬学的有効量のスリンダクとの固定用量複合製剤を含む組成物を使用する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬学的有効量のエフロルニチンと薬学的有効量の非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)またはその代謝産物との固定用量合剤を含む組成物。
【請求項2】
固定用量合剤が薬学的有効量のエフロルニチンおよび薬学的有効量のスリンダクである、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
エフロルニチンがエフロルニチン塩酸塩一水和物である、請求項2記載の組成物。
【請求項4】
エフロルニチン塩酸塩一水和物がその2つのエナンチオマーのラセミ混合物である、請求項3記載の組成物。
【請求項5】
エフロルニチン塩酸塩一水和物が実質的に光学的に純粋な調製物である、請求項3記載の組成物。
【請求項6】
エフロルニチン塩酸塩一水和物ラセミ化合物の量が約10mg~約1000mgである、請求項4記載の組成物。
【請求項7】
エフロルニチン塩酸塩一水和物ラセミ化合物の量が約250mg~約500mgである、請求項6記載の組成物。
【請求項8】
エフロルニチン塩酸塩一水和物ラセミ化合物の量が約300mg~約450mgである、請求項7記載の組成物。
【請求項9】
エフロルニチン塩酸塩一水和物ラセミ化合物の量が約350mg~約400mgである、請求項8記載の組成物。
【請求項10】
エフロルニチン塩酸塩一水和物ラセミ化合物の量が約375mgである、請求項9記載の組成物。
【請求項11】
エフロルニチン塩酸塩一水和物ラセミ化合物の量が375mgである、請求項10記載の組成物。
【請求項12】
エフロルニチン塩酸塩一水和物ラセミ化合物の量が約35~約60重量パーセントである、請求項4記載の組成物。
【請求項13】
エフロルニチン塩酸塩一水和物ラセミ化合物の量が約40~約55重量パーセントである、請求項12記載の組成物。
【請求項14】
エフロルニチン塩酸塩一水和物ラセミ化合物の量が約50~約55重量パーセントである、請求項13記載の組成物。
【請求項15】
エフロルニチン塩酸塩一水和物ラセミ化合物の量が約52~約54重量パーセントである、請求項14記載の組成物。
【請求項16】
エフロルニチン塩酸塩一水和物ラセミ化合物の量が52~54重量パーセントである、請求項15記載の組成物。
【請求項17】
スリンダクの量が約10mg~約250mgである、請求項2~16のいずれか一項記載の組成物。
【請求項18】
スリンダクの量が約50mg~約100mgである、請求項17記載の組成物。
【請求項19】
スリンダクの量が約70mg~約80mgである、請求項18記載の組成物。
【請求項20】
スリンダクの量が約75mgである、請求項19記載の組成物。
【請求項21】
スリンダクの量が75mgである、請求項20記載の組成物。
【請求項22】
スリンダクの量が約5~約20重量パーセントである、請求項2~16のいずれか一項記載の組成物。
【請求項23】
スリンダクの量が約8~約15重量パーセントである、請求項22記載の組成物。
【請求項24】
スリンダクの量が約10~約12重量パーセントである、請求項23記載の組成物。
【請求項25】
スリンダクの量が10~11重量パーセントである、請求項24記載の組成物。
【請求項26】
賦形剤をさらに含む、請求項2~25のいずれか一項記載の組成物。
【請求項27】
賦形剤がデンプン、コロイド状二酸化ケイ素、またはケイ化微結晶セルロースである、請求項26記載の組成物。
【請求項28】
賦形剤がコロイド状二酸化ケイ素である、請求項26記載の組成物。
【請求項29】
第2賦形剤をさらに含む、請求項28記載の組成物。
【請求項30】
第2賦形剤がケイ化微結晶セルロースである、請求項29記載の組成物。
【請求項31】
潤滑剤をさらに含む、請求項2~30のいずれか一項記載の組成物。
【請求項32】
潤滑剤がステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセリル、ステアリン酸アルミニウム、ポリエチレングリコール、ホウ酸、または安息香酸ナトリウムである、請求項31記載の組成物。
【請求項33】
潤滑剤がステアリン酸マグネシウムである、請求項32記載の組成物。
【請求項34】
ステアリン酸マグネシウムの量が約0.25~約2重量パーセントである、請求項33記載の組成物。
【請求項35】
ステアリン酸マグネシウムの量が約0.75~約2重量パーセントである、請求項34記載の組成物。
【請求項36】
ステアリン酸マグネシウムの量が約1~約1.5重量パーセントである、請求項35記載の組成物。
【請求項37】
ステアリン酸マグネシウムの量が約1.1重量パーセントである、請求項36記載の組成物。
【請求項38】
ステアリン酸マグネシウムの量が約1.5重量パーセントである、請求項36記載の組成物。
【請求項39】
カプセル剤、錠剤、ミニ錠剤、顆粒剤、ペレット剤、液剤、ゲル剤、クリーム剤、フォーム剤、または貼付剤の形態にある、請求項2~38のいずれか一項記載の組成物。
【請求項40】
錠剤の形態にある、請求項39記載の組成物。
【請求項41】
錠剤の重量が約650mg~約1,000mgである、請求項40記載の組成物。
【請求項42】
錠剤の重量が約675mg~約725mgである、請求項41記載の組成物。
【請求項43】
錠剤の重量が約700mgである、請求項42記載の組成物。
【請求項44】
錠剤がコーティングをさらに含む、請求項40記載の組成物。
【請求項45】
コーティングが放出調節コーティングまたは腸溶コーティングである、請求項44記載の組成物。
【請求項46】
コーティングがpH応答性コーティングとさらに定義される、請求項45記載の組成物。
【請求項47】
コーティングが、酢酸フタル酸セルロース(CAP)、酢酸トリメリト酸セルロース(CAT)、ポリ(酢酸ビニル)フタル酸(PVAP)、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HP)、ポリ(メタクリレートエチルアクリレート)(1:1)コポリマー(MA-EA)、ポリ(メタクリレートメチルメタクリレート)(1:1)コポリマー(MA MMA)、ポリ(メタクリレートメチルメタクリレート)(1:2)コポリマー、または酢酸コハク酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMCAS)を含む、請求項45記載の組成物。
【請求項48】
コーティングがエフロルニチンの味をマスキングする、請求項44記載の組成物。
【請求項49】
コーティングが、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、二酸化チタン、ポリエチレングリコール、および黄色酸化鉄を含む、請求項49記載の組成物。
【請求項50】
コーティングの量が約1~約5重量パーセントである、請求項44~49のいずれか一項記載の組成物。
【請求項51】
コーティングの量が約2~約4重量パーセントである、請求項50記載の組成物。
【請求項52】
コーティングの量が約3重量パーセントである、請求項51記載の組成物。
【請求項53】
コーティングの量が約5mg~約30mgである、請求項44~49のいずれか一項記載の組成物。
【請求項54】
コーティングの量が約15mg~約25mgである、請求項53記載の組成物。
【請求項55】
コーティングの量が約21mgである、請求項54記載の組成物。
【請求項56】
錠剤の重量が約675mg~約750mgである、請求項44記載の組成物。
【請求項57】
錠剤の重量が約700mg~約725mgである、請求項56記載の組成物。
【請求項58】
錠剤の重量が約721mgである、請求項57記載の組成物。
【請求項59】
その必要がある患者に請求項2~58のいずれか一項記載の組成物を投与する工程を含む、該患者における疾患または状態を予防および/または処置する方法。
【請求項60】
請求項2~58のいずれか一項記載の第2組成物を患者に投与する工程をさらに含み、第1組成物および第2組成物が同じ固定用量合剤を含む、請求項59記載の方法。
【請求項61】
第1投与および第2投与が同時に行われる、請求項60記載の方法。
【請求項62】
第2投与が第1投与の1秒後~1時間後に行われる、請求項61記載の方法。
【請求項63】
第1組成物および第2組成物がどちらも錠剤として製剤化され、同じ量のエフロルニチンおよびスリンダクを含有する、請求項60~62のいずれか一項記載の方法。
【請求項64】
疾患ががんである、請求項59~63のいずれか一項記載の方法。
【請求項65】
がんが、結腸がん、乳がん、膵がん、脳がん、肺がん、胃がん、血液がん、皮膚がん、精巣がん、前立腺がん、卵巣がん、肝がん、または食道がんである、請求項64記載の方法。
【請求項66】
結腸がんが家族性腺腫性ポリポーシスである、請求項65記載の方法。
【請求項67】
がんが神経芽細胞腫である、請求項64記載の方法。
【請求項68】
状態が皮膚状態である、請求項59記載の方法。
【請求項69】
皮膚状態が顔面多毛症である、請求項68記載の方法。
【請求項70】
組成物が、経口投与、動脈内投与、静脈内投与、または局所投与される、請求項59記載の方法。
【請求項71】
組成物が経口投与される、請求項59記載の方法。
【請求項72】
組成物が12時間ごとに投与される、請求項59記載の方法。
【請求項73】
組成物が24時間ごとに投与される、請求項59記載の方法。
【請求項74】
組成物が少なくとも二度投与される、請求項59記載の方法。
【請求項75】
以下の工程を含む、請求項40~58のいずれか一項記載の錠剤を生産する方法:
(a)スリンダクと賦形剤とをプレミックスして第1混合物を形成させる工程、
(b)第1混合物をエフロルニチンおよび賦形剤を含む第2混合物と混合してブレンドを形成させる工程、
(c)前記ブレンドを選別して顆粒状ブレンドを形成させる工程、
(d)前記顆粒状ブレンドに潤滑剤を加えて最終ブレンドを得る工程、ならびに
(e)前記最終ブレンドに圧縮力を適用して錠剤を形成させる工程。
【請求項76】
工程(d)の前に前記顆粒状ブレンドを混合する工程、および、工程(e)の前に前記最終ブレンドを混合する工程をさらに含む、請求項75記載の方法。
【請求項77】
第1混合物に2つの賦形剤が存在し、第1賦形剤はコロイド状二酸化ケイ素であり、第2賦形剤はケイ化微結晶セルロースである、請求項75記載の方法。
【請求項78】
第2混合物の賦形剤がケイ化微結晶セルロースである、請求項75または請求項77のいずれか一項記載の方法。
【請求項79】
プレミックスがポリエチレン被覆コンテナ内で行われる、請求項75記載の方法。
【請求項80】
混合が拡散ブレンダー内で行われる、請求項75または請求項76記載の方法。
【請求項81】
潤滑剤がステアリン酸マグネシウムである、請求項75~77のいずれか一項記載の方法。
【請求項82】
ステアリン酸マグネシウムが工程(d)の前にスクリーンを介して篩分けされる、請求項81記載の方法。
【請求項83】
スクリーンが500μmスクリーンである、請求項82記載の方法。
【請求項84】
選別が、前記ブレンドを回転キャリブレータに適用する工程を含む、請求項75記載の方法。
【請求項85】
回転キャリブレータが1.0mmスクリーンを含む、請求項84記載の方法。
【請求項86】
工程(d)後かつ工程(e)前に、前記ブレンドを工程(e)の力よりも弱い力で圧縮してプレ圧縮ブレンドを形成させるプレ圧縮工程をさらに含み、さらに、工程(e)の圧縮力が次に前記プレ圧縮ブレンドに作用することで錠剤が形成される、請求項75記載の方法。
【請求項87】
プレ圧縮工程が錠剤のキャッピングを防止する、請求項86記載の方法。
【請求項88】
プレ圧縮工程の圧縮力が、工程(e)において適用される圧縮力の約5~約15パーセントで適用される、請求項81記載の方法。
【請求項89】
プレ圧縮工程の圧縮力が2.5~3.5kNである、請求項86~88のいずれか一項記載の方法。
【請求項90】
プレ圧縮工程の圧縮力が約3kNである、請求項89記載の方法。
【請求項91】
工程(e)の圧縮力が20~35kNである、請求項75記載の方法。
【請求項92】
工程(e)の圧縮力が約25kNである、請求項91記載の方法。
【請求項93】
錠剤をコーティングする工程をさらに含む、請求項75記載の方法。
【請求項94】
コーティングが、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、二酸化チタン、ポリエチレングリコール、および黄色酸化鉄を含む、請求項93記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2015年10月30日に出願された米国仮出願第62/248,810号、2016年7月6日に出願された米国仮出願第62/358,698号、2016年10月28日に出願された欧州出願第16306429.8号、および2016年10月28日に出願された欧州出願第16306430.6号に基づく優先権の恩典を主張し、これらのそれぞれの全内容は特に参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
1.発明の分野
本発明は概してがん生物学および医学の分野に関する。より具体的には、本発明は、癌の予防および処置のための組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
2.関連技術の説明
がん細胞は、特定の代謝産物に対するその増大した所要量を満たすために、複数の経路を利用する能力を有する(Vander Heiden, 2011)。アスピリン、イブプロフェン、ピロキシカム(Reddy et al., 1990; Singh et al., 1994)、インドメタシン(Narisawa, 1981)、およびスリンダク(Piazza et al., 1997; Rao et al., 1995)を含む非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)は、AOM処置ラットモデルにおける結腸がん発生を効果的に阻害する。NSAIDスリンダクの代謝産物であるスリンダクスルホンはCOX阻害活性を欠くが、それでも腫瘍細胞におけるアポトーシスを誘発し(Piazza et al., 1995; Piazza et al., 1997b)、がん発生のいくつかの齧歯類モデルにおいて、腫瘍発生を阻害する(Thompson et al., 1995; Piazza et al., 1995, 1997a)。
【0004】
α-ジフルオロメチルオルニチン(DFMO)はオルニチンデカルボキシラーゼ(ODC)の酵素活性化非可逆的阻害剤であり、プトレシンおよびその誘導体スペルミジンの細胞内濃度の枯渇を引き起こす(Pegg, 1988)。実験動物モデルにおいて、DFMOは、結腸の発がん物質誘発性上皮がんを含む多くの器官の発がん物質誘発性上皮がんを予防する活性がとりわけ高い、がん発生の強力な阻害剤である(Weeks et al., 1982; Thompson et al., 1985; Nowels et al., 1986; Nigro et al., 1987)。
【0005】
がん化学予防の研究から臨床診療への橋渡しにとって大きな障害となってきたのは、十分とはいえない作用物質の効力およびベネフィットを上回る毒性である(Psaty and Potter, 2006; Lippman, 2006)。例えば、結腸直腸腺腫(CRA)患者で実証された長期にわたる連日の経口的なD,L-α-ジフルオロメチルオルニチン(DFMO、エフロルニチン)とスリンダクとのポリアミン阻害性合剤の著しい効力は証明されているが(Meyskens et al., 2008)、処置は、中程度の無症状性聴器毒性(McLaren et al., 2008)と、ベースライン心血管リスクが高い患者における、より多数の心血管イベント(Zell et al., 2009)とを伴った。
【0006】
2つ以上の製薬をいくつかの個別用量で一定の間隔を置いて投与するのではなく、2つ以上の薬学的活性成分を1つの単位剤形に入れて共投与することの利便性は、薬学分野では認識されており、米国特許第6,428,809号および同第6,702,683号に記載されている。患者および臨床家にとっての潜在的利点としては、(1)局所性副作用および/または全身性副作用の極小化または排除、(2)併存症状態のより効果的な処置、(3)ポリファーマシーの改善、および(4)総合的な疾患管理へのより良い患者コンプライアンス(これは結果として、通院回数の減少、入院の低減、および患者福祉の改善によるコストの低減につながりうる)が挙げられる。2つ以上の製剤が単一の剤形に組み合わされまたは共製剤化された固定用量合剤製品は、改良された臨床有効性、強化された患者アドヒアランス、および簡易化された投薬が望まれる多剤レジメンにおいて役立ちうる。しかし、固形経口剤形の薬学的薬剤製品開発は、単一の薬学的活性成分(API)製剤の場合でさえ、研究開発レベルでも、商業的製造レベルでも複雑である。2つ以上のAPIの場合は、(1)薬剤-薬剤相互作用、(2)薬剤-賦形剤相互作用、(3)同時放出プロファイル、(4)差次的(differential)放出プロファイル、および(5)各薬剤構成要素のブレンド均一性を含む、さらなる複雑化要因が予想される。これらのハードルを考えると、単一実体薬剤製品と同じまたは類似する放出プロファイルを有する固定用量合剤を開発することは、かなりの難題である。これらの難題の一部または全部を克服するエフロルニチンとスリンダクの固定用量合剤は、家族性腺腫性ポリポーシス(FAP)を含む広範囲にわたる疾患または障害の効果的な処置および/または予防にとって著しい潜在的影響を有するであろう。
【発明の概要】
【0007】
一局面において、本発明は、薬学的有効量のエフロルニチンと薬学的有効量の非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)またはその代謝産物との固定用量合剤を含む組成物を提供する。いくつかの態様において、本固定用量合剤は薬学的有効量のエフロルニチンおよび薬学的有効量のスリンダクである。
【0008】
いくつかの態様において、エフロルニチンはエフロルニチン塩酸塩一水和物である。いくつかの態様において、エフロルニチンはエフロルニチン塩酸塩一水和物ラセミ化合物である。いくつかの態様において、エフロルニチン塩酸塩一水和物は、その2つのエナンチオマーのラセミ混合物である。いくつかの態様において、エフロルニチン塩酸塩一水和物は実質的に光学的に純粋な調製物である。いくつかの態様において、エフロルニチン塩酸塩一水和物はL-エフロルニチン塩酸塩一水和物またはD-エフロルニチン塩酸塩一水和物である。いくつかの態様において、エフロルニチンは無水遊離塩基エフロルニチンである。
【0009】
いくつかの態様において、エフロルニチンは約10~約1000mgの量で存在する。いくつかの態様において、エフロルニチンは約250~約500mgの量で存在する。いくつかの態様において、エフロルニチンは約300~約450mgの量で存在する。いくつかの態様において、エフロルニチンは約350~約400mgの量で存在する。いくつかの態様において、エフロルニチンは約35~約60重量パーセントの量で存在する。いくつかの態様において、エフロルニチンは約40~約55重量パーセントの量で存在する。いくつかの態様において、エフロルニチンは約50~約55重量パーセントの量で存在する。いくつかの態様において、エフロルニチンは約52~約54重量パーセントの量で存在する。いくつかの態様において、エフロルニチン塩酸塩一水和物ラセミ化合物の量は52~54重量パーセントである。いくつかの態様において、エフロルニチンは約375mgの量で存在する。いくつかの態様において、エフロルニチン塩酸塩一水和物ラセミ化合物の量は375mgである。
【0010】
いくつかの態様において、スリンダクは約10~約1500mgの量で存在する。いくつかの態様において、スリンダクは約50~約100mgの量で存在する。いくつかの態様において、スリンダクは約70~約80mgの量で存在する。 いくつかの態様において、スリンダクは約75mgの量で存在する。いくつかの態様において、スリンダクの量は75mgである。いくつかの態様において、スリンダクは約5~約20重量パーセントの量で存在する。いくつかの態様において、スリンダクは約8~約15重量パーセントの量で存在する。いくつかの態様において、スリンダクは約10~約12重量パーセントの量で存在する。いくつかの態様において、スリンダクの量は10~11重量パーセントである。
【0011】
いくつかの態様において、エフロルニチンは約375mgの量で存在し、かつスリンダクは約75mgの量で存在する。
【0012】
いくつかの態様において、本製剤は賦形剤をさらに含む。いくつかの態様において、賦形剤はデンプン、コロイド状二酸化ケイ素、またはケイ化微結晶セルロース(silicified microcrystalline cellulose)である。いくつかの態様において、賦形剤はコロイド状二酸化ケイ素である。いくつかの態様において、本製剤は第2賦形剤をさらに含む。いくつかの態様において、第2賦形剤はケイ化微結晶セルロースである。
【0013】
いくつかの態様において、本製剤は潤滑剤をさらに含む。いくつかの態様において、潤滑剤は、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセリル、ステアリン酸アルミニウム、ポリエチレングリコール、ホウ酸または安息香酸ナトリウムである。いくつかの態様において、潤滑剤はステアリン酸マグネシウムである。いくつかの態様において、ステアリン酸マグネシウムは約0.25~約2重量パーセントの量で存在する。いくつかの態様において、ステアリン酸マグネシウムの量は約0.75~約2重量パーセントである。いくつかの態様において、ステアリン酸マグネシウムの量は約1~約1.5重量パーセントである。いくつかの態様において、ステアリン酸マグネシウムの量は約1.1重量パーセントである。いくつかの態様において、ステアリン酸マグネシウムは約1.5重量パーセントの量で存在する。
【0014】
いくつかの態様において、本組成物は、カプセル剤、錠剤、ミニ錠剤、顆粒剤、ペレット剤、液剤、ゲル剤、クリーム剤、フォーム剤または貼付剤の形態にある。いくつかの態様において、本組成物は錠剤、例えば単層錠の形態にある。
【0015】
いくつかの態様において、錠剤の重量は約10mg~約2,500mgである。いくつかの態様において、錠剤の重量は約250mg~約1,500mgである。いくつかの態様において、錠剤の重量は約650mg~約1,000mgである。いくつかの態様において、錠剤の重量は約675mg~約725mgである。いくつかの態様において、錠剤の重量は約700mgである。
【0016】
いくつかの態様において、カプセル剤、ミニ錠剤、顆粒剤、またはペレット剤の重量は約10mg~約2,500mgである。いくつかの態様において、カプセル剤、ミニ錠剤、顆粒剤、またはペレット剤の重量は約250mg~約1,500mgである。いくつかの態様において、カプセル剤、ミニ錠剤、顆粒剤、またはペレット剤の重量は約650mg~約1,000mgである。いくつかの態様において、カプセル剤、ミニ錠剤、顆粒剤、またはペレット剤の重量は約675mg~約725mgである。いくつかの態様において、カプセル剤、ミニ錠剤、顆粒剤、またはペレット剤の重量は約700mgである。
【0017】
いくつかの態様において、錠剤はコーティングをさらに含む。いくつかの態様において、コーティングは放出調節コーティングまたは腸溶コーティングである。いくつかの態様において、コーティングはpH応答性コーティングである。いくつかの態様において、コーティングは、酢酸フタル酸セルロース(CAP)、酢酸トリメリト酸セルロース(CAT)、ポリ(酢酸ビニル)フタル酸(PVAP)、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HP)、ポリ(メタクリレートエチルアクリレート)(1:1)コポリマー(MA-EA)、ポリ(メタクリレートメチルメタクリレート)(1:1)コポリマー(MA MMA)、ポリ(メタクリレートメチルメタクリレート)(1:2)コポリマー、または酢酸コハク酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMCAS)を含む。いくつかの態様において、コーティングはエフロルニチンの味をマスキングする。いくつかの態様において、コーティングはヒドロキシプロピルメチルセルロース、二酸化チタン、ポリエチレングリコール、および黄色酸化鉄を含む。
【0018】
いくつかの態様において、コーティングの量は約1~約5重量パーセントである。いくつかの態様において、コーティングの量は約2~約4重量パーセントである。いくつかの態様において、コーティングの量は約3重量パーセントである。いくつかの態様において、コーティングの量は約5mg~約30mgである。いくつかの態様において、コーティングの量は約15mg~約25mgである。いくつかの態様において、コーティングの量は約21mgである。
【0019】
いくつかの態様において、コーティングを含む錠剤の重量は約675mg~約750mgである。いくつかの態様において、コーティングを含む錠剤の重量は約700mg~約725mgである。いくつかの態様において、コーティングを含む錠剤の重量は約721mgである。
【0020】
一局面では、その必要がある患者に、本明細書において提供される薬学的有効量のエフロルニチンと薬学的有効量のスリンダクとの固定用量合剤を投与する工程を含む、該患者における疾患または状態を予防および/または処置する方法が提供される。
【0021】
いくつかの態様において、本方法は、本明細書において提供される薬学的有効量のエフロルニチンと薬学的有効量のスリンダクとの固定用量合剤を含む第2組成物を患者に投与する工程をさらに含む。いくつかの態様において、第1組成物および第2組成物は、同じ固定用量合剤を含む。いくつかの態様において、第1投与と第2投与は同時に行われる。いくつかの態様において、第2投与は、第1投与の1秒後~1時間後に行われる。いくつかの態様において、第1組成物および第2組成物はどちらも錠剤として製剤化され、同じ量のエフロルニチンおよびスリンダクを含有する。
【0022】
いくつかの態様において、疾患はがんである。いくつかの態様において、がんは、結腸がん、乳がん、膵がん、脳がん、肺がん、胃がん、血液がん、皮膚がん、精巣がん、前立腺がん、卵巣がん、肝がん、または食道がんである。いくつかの態様において、結腸がんは家族性腺腫性ポリポーシスである。いくつかの態様において、がんは神経内分泌腫瘍である。いくつかの態様において、神経内分泌腫瘍は神経芽細胞腫である。
【0023】
いくつかの態様において、状態は皮膚状態である。いくつかの態様において、皮膚状態は顔面多毛症である。
【0024】
いくつかの態様において、本組成物は、経口投与、動脈内投与、静脈内投与、または局所投与される。いくつかの態様において、本組成物は経口投与される。
【0025】
いくつかの態様において、本組成物は経口投与される。いくつかの態様において、本組成物は12時間ごとに投与される。いくつかの態様において、本組成物は24時間ごとに投与される。いくつかの態様において、本組成物は少なくとも二度投与される。
【0026】
別の一局面では、(a)スリンダクと賦形剤とをプレミックスして第1混合物を形成させる工程、(b)第1混合物をエフロルニチンおよび賦形剤を含む第2混合物と混合してブレンドを形成させる工程、(c)ブレンドを選別して顆粒状ブレンドを形成させる工程、(d)顆粒状ブレンドに潤滑剤を加えて最終ブレンドを得る工程、ならびに(e)最終ブレンドに圧縮力を適用して錠剤を形成させる工程を含む、約375mgのエフロルニチン塩酸塩および約75mgのスリンダクを含む錠剤を生産する方法が提供される。いくつかの態様において、本方法は、工程(d)の前に顆粒状ブレンドを混合する工程、および工程(e)の前に最終ブレンドを混合する工程をさらに含む。
【0027】
いくつかの態様において、第1混合物には2つの賦形剤が存在し、第1賦形剤はコロイド状二酸化ケイ素であり、第2賦形剤はケイ化微結晶セルロースである。いくつかの態様において、第2混合物の賦形剤はケイ化微結晶セルロースである。
【0028】
いくつかの態様において、プレミックスはポリエチレン被覆コンテナ内で行われる。いくつかの態様において、混合は拡散ブレンダー内で行われる。
【0029】
いくつかの態様において、潤滑剤はステアリン酸マグネシウムである。いくつかの態様において、ステアリン酸マグネシウムは工程(d)の前にスクリーンを介して篩分けされる。いくつかの態様において、スクリーンは500μmスクリーンである。
【0030】
いくつかの態様において、選別は、ブレンドを回転キャリブレータに適用する工程を含む。いくつかの態様において、回転キャリブレータは1.0mmスクリーンを含む。
【0031】
いくつかの態様において、本方法は、工程(d)後かつ工程(e)前に、ブレンドを工程(e)の力よりも弱い力で圧縮してプレ圧縮ブレンドを形成させるプレ圧縮工程をさらに含み、ここでさらに、工程(e)の圧縮力が次にプレ圧縮ブレンドに作用することで錠剤が形成される。いくつかの態様において、プレ圧縮工程は錠剤のキャッピングを防止する。いくつかの態様において、プレ圧縮工程の圧縮力は、工程(e)において適用される圧縮力の約5~約15パーセントで適用される。いくつかの態様において、プレ圧縮工程の圧縮力は2.5~3.5kNである。いくつかの態様において、プレ圧縮工程の圧縮力は約3kNである。いくつかの態様において、工程(e)の圧縮力は20~35kNである。いくつかの態様において、工程(e)の圧縮力は約25kNである。
【0032】
いくつかの態様において、本方法は、錠剤をコーティングする工程をさらに含む。いくつかの態様において、コーティングはヒドロキシプロピルメチルセルロース、二酸化チタン、ポリエチレングリコール、および黄色酸化鉄を含む。
【0033】
本発明の他の目的、特徴および利点は、以下の詳細な説明から明らかになるであろう。ただし、本発明の要旨および範囲内にあるさまざまな改変および修飾は、この詳細な説明から当業者には明らかになるであろうから、詳細な説明および具体的実施例は、本発明の好ましい態様を示してはいるものの、単なる例示であることを理解すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0034】
以下の図面は本明細書の一部を形成し、本発明の一定の局面をさらに明示するために含まれる。本明細書に提示する具体的態様の詳細な説明と組み合わせてこれらの図面の1つまたは複数を参照することにより、本発明は、より良く理解されるであろう。
【0035】
【
図1】エフロルニチンHCl一水和物(375mg)およびスリンダク(75mg)の700mg錠のプロトタイプ・ロット7107/04の安定性分析。錠剤は3%w/wのコーティングを有する。含水量を決定するために、バリデーションされたカールフィッシャー滴定法を使って、試料を、時刻ゼロ(T0)および6ヶ月時(T6)に分析した。試料は、検証済みの安定性試験チャンバ中で、キャップありおよびキャップなしのHDPEボトルに保存した。値は、明示した条件における各錠剤中の水のパーセンテージを表す。
【
図2A】コーティング錠ロット7107/04および6A001の溶解分析の結果。比較のために、250mgエフロルニチンHCl一水和物の参照錠剤と市販150mgスリンダクの参照錠剤を含めた。共製剤化された錠剤は、375mgのエフロルニチンHCl一水和物および75mgのスリンダクを含有し、3%w/wのコーティングを持つ。
【
図3】エフロルニチンHCl一水和物とスリンダクとの両方を含有する錠剤のための製造プロセスを表す簡略化されたスキーム。
【
図4A】(A)選ばれた不純物を測定できることを示す、エフロルニチンHCl一水和物とスリンダクの共製剤化錠剤の典型的HPLCクロマトグラフ。(B~C)時刻ゼロ、2週時、および4週時における、錠剤賦形剤と混合されたエフロルニチンHCl一水和物活性成分およびスリンダク活性成分のX線粉末回折(XRPD)パターン。変化の欠如は、賦形剤適合性と多形安定性の両方を裏付ける。
【発明を実施するための形態】
【0036】
例示的態様の説明
いくつかの局面では、エフロルニチンとスリンダクの固定用量合剤(fixed dose combination)(FDC)のための組成物が提供される。現在の方法に伴う課題を克服する、本発明の固定用量合剤の製造方法も提供される。製造方法は、薬剤-薬剤相互作用、薬剤-賦形剤相互作用、および各薬剤構成要素のブレンド均一性を含む課題を解決するように設計された。したがって、本発明の固定用量合剤は、局所性副作用および/または全身性副作用を最小限に抑え、より効果的な処置を提供し、ポリファーマシーを改善し、より良い患者コンプライアンスを提供するために、使用することができる。
【0037】
I.家族性腺腫性ポリポーシス
過剰のポリアミン形成は古くから上皮がん発生、特に結腸直腸がん発生に関係づけられてきた。ポリアミンは、例えば転写、RNA安定化、およびイオンチャネルのゲート開閉を含むさまざまなプロセスに関与する小さな遍在性分子である(Wallace, 2000)。ポリアミン合成の最初の酵素であるオルニチンデカルボキシラーゼ(ODC)は、哺乳動物における正常な発生と組織修復にとって不可欠であるが、大半の成体組織ではダウンレギュレートされている(Gerner and Meyskens, 2004)。ポリアミンの代謝および輸送の制御における複数の異常は、いくつかの組織において腫瘍形成を促進しうる増加したポリアミンレベルをもたらす(Thomas and Thomas, 2003)。
【0038】
家族性腺腫性ポリポーシス(FAP)は、結腸がんおよび他のがんの高リスクに関連する症候群である。FAPは、腺腫性大腸ポリポーシス(APC)腫瘍抑制遺伝子中の変異によって引き起こされ、APCシグナリングはODC発現を調節することが、ヒト細胞でも(Fultz and Gerner, 2002)、FAPのマウスモデルでも(Erdman et al., 1999)示されている。FAPを持つヒトの腸上皮組織では、ポリアミン代謝がアップレギュレートされている(Giardiello et al., 1997)。
【0039】
野生型APC発現はODCの発現減少につながり、一方、変異型APCはODCの発現増加につながる。ODCのAPC依存的調節の機序には、転写活性化因子c-MYCおよび転写抑制因子MAD1を含むEボックス転写因子が関与する(Fultz and Gerner, 2002; Martinez et al., 2003)。c-MYCはODC転写を調節することが、他のグループによって示されている(Bellofernandez et al., 1993)。ポリアミン代謝に関与するいくつかの遺伝子は、ほとんどの生物の最適な成長にとって不可欠な遺伝子であり、非増殖性および/または成体の細胞および組織ではダウンレギュレートされている(Gerner and Meyskens, 2004)。他で概説されているように(Childs et al., 2003)、ポリアミンは、一部には遺伝子発現のパターンに作用することによって、特別な細胞表現型に影響を及ぼす。
【0040】
遺伝性ポリポーシス症候群である家族性腺腫性ポリポーシス(FAP)は、腺腫性大腸ポリポーシス(APC)腫瘍抑制遺伝子の生殖細胞系列変異の結果である(Su et al., 1992)。さまざまな表現を持つこの常染色体優性状態は何百もの結腸腺腫の発生と関連し、それらの結腸腺腫は、孤発性結腸がんの平均診断年齢より20年早い40歳までに、一様に腺癌へと進行する(Bussey, 1990)。FAPを持つ症状発現前の個体に関する以前の研究では、正常家族対照と比較した場合に、ポリアミンであるスペルミジンおよびスペルミンならびにそれらのジアミン前駆体プトレシンのレベルの増加が、正常な外見の結腸直腸生検に検出されている(Giardiello et al., 1997)。哺乳動物のポリアミン合成における最初の酵素であり律速酵素であるオルニチンデカルボキシラーゼ(ODC)の活性も、FAP患者からの見かけ上正常な結腸粘膜生検では上昇している(Giardiello et al., 1997; Luk and Baylin, 1984)。ポリアミンは最適な細胞増殖にとって不可欠であるから、これらの所見は興味深い(Pegg, 1986)。さらに、酵素活性化非可逆的阻害剤DFMOを使ったODC活性の抑制は、発がん物質で処置された齧歯類における結腸がん発生を阻害する(Kingsnorth et al., 1983; Tempero et al., 1989)。
【0041】
変異APC/apc遺伝子型がFAPと共通するMin(多発性腸新生物(multiple intestinal neoplasia))マウスは、ヒトFAP患者の有用な実験動物モデルとして役立つ(Lipkin, 1997)。Minマウスは、GIの出血、閉塞および死につながる100を超える胃腸腺腫/腺癌を、生後120日までに消化管の至るところに発生させうる。DFMOとスリンダクの併用治療は、これらのマウスにおける腺腫を低減するのに有効であることが示された。参照により本明細書に組み入れられる米国特許第6,258,845号およびGerner and Meyskens, 2004を参照されたい。
【0042】
II.エフロルニチン
単独で文脈なく使用される場合、「エフロルニチン」という用語は、2,5-ジアミノ-2-(ジフルオロメチル)ペンタン酸を指し、その形態は、非塩型および塩型(例えばエフロルニチンHCl)、非塩型および塩型の無水型および水和物型(例えばエフロルニチン塩酸塩一水和物)、非塩型および塩型の溶媒和物、そのエナンチオマー(R体およびS体、これはd体およびl体と同定することもできる)、それらエナンチオマーの混合物(例えばラセミ混合物)を含めて、どれであってもよい。「実質的に光学的に純粋な調製物」とは、第1エナンチオマーの調製物であって、反対エナンチオマーの含有量が約5重量%以下であるものを意味する。エフロルニチンの具体的な形態として、エフロルニチン塩酸塩一水和物(すなわちCAS ID:96020-91-6; MW:236.65)、エフロルニチン塩酸塩(すなわちCAS ID:68278-23-9; MW:218.63)、および無水遊離塩基エフロルニチン(すなわちCAS ID:70052-12-9; MW:182.17)が挙げられる。必要な場合は、エフロルニチンの具体的形態が、さらに指定されている。いくつかの態様において、本開示のエフロルニチンはエフロルニチン塩酸塩一水和物(すなわちCAS ID:96020-91-6)である。用語「エフロルニチン」および「DFMO」は、本明細書では相互可換的に使用される。DFMOはジフルオロメチルオルニチンの略号である。エフロルニチンおよびDFMOの他の同義語として、α-ジフルオロメチルオルニチン、2-(ジフルオロメチル)-DL-オルニチン、2-(ジフルオロメチル)-dl-オルニチン、2-(ジフルオロメチル)オルニチン、DL-α-ジフルオロメチルオルニチン、N-ジフルオロメチルオルニチン、αδ-ジアミノ-α-(ジフルオロメチル)吉草酸、および2,5-ジアミノ-2-(ジフルオロメチル)ペンタン酸が挙げられる。
【0043】
エフロルニチンは、ポリアミン生合成経路の律速酵素であるオルニチンデカルボキシラーゼ(ODC)の酵素活性化非可逆的阻害剤である。ポリアミン合成のこの阻害の結果として、この化合物は、多くの器官系におけるがん形成の予防、がん成長の阻害、および腫瘍サイズの低減に有効である。これは他の抗新生物性作用物質との相乗作用も有する。
【0044】
エフロルニチンは、APC依存的腸腫瘍形成を減少させることがマウスにおいて示されている(Erdman et al., 1999)。ヒトに連日投与された経口エフロルニチンは、いくつかの上皮組織において、ODC調節酵素活性を阻害し、ポリアミン含量を抑制する(Love et al., 1993; Gerner et al., 1994; Meyskens et al., 1994; Meyskens et al., 1998; Simoneau et al., 2001; Simoneau et al., 2008)。エフロルニチンは、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)スリンダクとの併用により、無作為化臨床治験においてプラセボと比較した場合に、結腸腺腫を持つ個体における腺腫再発率を有意に低下させると報告されている(Meyskens et al., 2008)。
【0045】
エフロルニチンは、ストラスブールのCentre de Recherche Merrellによって、初めて合成された。現在の米国食品医薬品局(FDA)認可には、次に挙げるものが含まれる:
・アフリカ睡眠病、高用量全身性IV剤形-市販されていない(Sanofi/WHO)
・多毛症(アンドロゲン誘発性過剰発毛)局所剤形。
エフロルニチンの経口製剤はまだFDAによって認可されていないが、外用型および注射型は認可されている。Vaniqa(登録商標)は、局所投与用のクリームに15%w/wエフロルニチン塩酸塩一水和物(11.5%w/w無水エフロルニチン(EU)、13.9%w/w無水エフロルニチン塩酸塩(U.S.)にそれぞれ相当)を含有するクリーム剤である。Ornidyl(登録商標)は注射または注入に適したエフロルニチンHCl溶液である。これは1mlあたり200mgエフロルニチン塩酸塩一水和物(20g/100mL)の強度で供給されている。
【0046】
エフロルニチンおよび良性前立腺肥大の処置におけるその使用は、米国特許第4,413,141号および同第4,330,559号に記載されている。'141号特許にはエフロルニチンがインビトロでもインビボでもODCの強力な阻害剤であると記載されている。エフロルニチンの投与は、プトレシン濃度およびスペルミジン濃度の減少を、これらのポリアミンが通常は活発に生産されている細胞において引き起こすと報告されている。加えて、エフロルニチンは標準的な腫瘍モデルで試験した場合に、新生物細胞増殖を遅くする能力を有することが示されている。'559号特許には、良性前立腺肥大を処置するための、エフロルニチンおよびエフロルニチン誘導体の使用が記載されている。迅速な細胞増殖を特徴とする多くの疾患状態と同様に、良性前立腺肥大もポリアミン濃度の異常な上昇を伴う。
【0047】
潜在的に、エフロルニチンは、継続的に与えて有意な抗腫瘍効果を得ることができる。この薬剤は、0.4g/m2/日の低用量では、腫瘍におけるプトレシン合成の阻害をもたらしつつも、ヒトに対して比較的非毒性である。ラット腫瘍モデルにおける研究で、エフロルニチン注入は、末梢血小板数を抑制することなく、腫瘍プトレシンレベルの90%減少をもたらしうることが実証されている。
【0048】
エフロルニチンで観察される副作用としては、4g/m2/日の高用量において、中断すると消失する聴覚への効果が挙げられる。聴覚に対するこれらの効果は、0.4g/m2/日の低用量では、最長1年まで投与しても観察されない(Meyskens et al., 1994)。加えて、投薬を中止すると消失するめまい/眩暈が、少数の例でみられる。主として高「治療」用量のエフロルニチン(>1.0g/m2/日)を使用する研究において、そして主に以前に化学治療を受けたことがある患者または骨髄に不全を持つがん患者において、血小板減少症が報告されている。エフロルニチン治療に関連する毒性は、一般に、他のタイプの化学治療ほど重篤ではないが、限られた臨床治験において、これは用量関連血小板減少症を促進することが見いだされている。さらにまた、ラットにおける研究は、12日間にわたるエフロルニチンの持続注入が、対照と比較して血小板数を有意に低減することを示している。他の調査でも、血小板減少症が持続的静脈内エフロルニチン治療の主要毒性であるという同様の観察がなされている。これらの所見は、エフロルニチンが巨核球の骨髄前駆体のODC活性をかなり阻害しうることを示唆している。エフロルニチンは、上皮創傷治癒などの増殖性修復プロセスを阻害しうる。
【0049】
第III相臨床治験により、DFMO+スリンダクまたは対応プラセボによる36ヶ月にわたる処置後の腺腫性ポリープの再発が評価された。一時的難聴はDFMOによる処置の公知の毒性であることから、連続的気導オージオグラムを分析するための包括的アプローチが開発された。この一般化推定方程式法では、周波数での反復測定による対象内補正を考慮しつつ、気導純音閾の変化に関して処置アーム間の平均差が推定された。290人の対象によると、ベースライン値、年齢、および周波数について調整して、DFMO+スリンダクで処置された対象にはプラセボで処置された対象と比較して0.50dBの平均差があった(95% 信頼区間、-0.64~1.63dB; P=0.39)。DFMO+スリンダクで処置された患者の平均閾には、プラセボで処置された患者と比較して、<2dBの差がある。この研究の結果は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられるMcLaren et al., 2008において、より詳しく議論されている。
【0050】
III.NSAID
NSAIDはステロイドではない抗炎症性作用物質である。NSAIDは、抗炎症性効果に加えて、鎮痛効果、解熱効果、および血小板阻害効果を有するとも報告されている。NSAIDは、例えば慢性関節炎状態ならびに痛みおよび炎症を伴う一定の軟組織障害の処置などに使用される。NSAIDは、アラキドン酸をプロスタグランジンの前駆体である環状エンドペルオキシドに変換するシクロオキシゲナーゼを阻害することでプロスタグランジンの合成を遮断することによって作用すると報告されている。プロスタグランジン合成の阻害は、NSAIDの鎮痛作用、解熱作用、および血小板阻害作用の説明になるが、NSAIDの抗炎症効果には他の機構も寄与しうる。NSAIDには、リポキシゲナーゼ酵素もしくはホスホリパーゼCを阻害するもの、またはT細胞機能を調整するものもある。AMA Drug Evaluations Annual, 1814-5, 1994を参照されたい。
【0051】
アスピリン、イブプロフェン、ピロキシカム(Reddy et al., 1990; Singh et al., 1994)、インドメタシン(Narisawa, 1981)、およびスリンダク(Piazza et al., 1997; Rao et al., 1995)を含む非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)は、AOM処置ラットモデルにおける結腸がん発生を効果的に阻害する。NSAIDは活性型Ki-rasを内包する腫瘍の発生も阻害する(Singh and Reddy, 1995)。NSAIDは腫瘍細胞におけるアポトーシスの誘発によってがん発生を阻害するようである(Bedi et al., 1995; Lupulescu, 1996; Piazza et al., 1995; Piazza et al., 1997b)。アポトーシスの誘発を含むNSAIDの化学予防特性が、プロスタグランジン合成を阻害するNSAIDの能力の一機能であることは、いくつかの研究が示唆している(DuBois et al., 1996; Lupulescu, 1996; Vane and Botting, 1997に概説されている)。しかし、NSAIDはプロスタグランジン依存的機構でもプロスタグランジン非依存的機構でも作用しうることを、研究は示している(Alberts et al., 1995; Piazza et al., 1997a; Thompson et al., 1995; Hanif, 1996)。NSAIDスリンダクの代謝産物であるスリンダクスルホンはCOX阻害活性を欠くが、それでも腫瘍細胞におけるアポトーシスを誘発し(Piazza et al., 1995; Piazza et al., 1997b)、がん発生のいくつかの齧歯類モデルにおいて、腫瘍発生を阻害する(Thompson et al., 1995; Piazza et al., 1995, 1997a)。
【0052】
いくつかのNSAIDがヒト臨床治験においてその効果について調べられている。イブプロフェンの第IIa相治験(1ヶ月)が完了し、300mg/日の用量でも、平坦粘膜におけるプロスタグランジン(prostoglandin)E2(PGE2)レベルの有意な減少がみられた。300mgというイブプロフェンの用量は極めて低く(治療用量は1200~3000mg/日の範囲またはそれ以上である)、長期間にわたっても毒性がみられる可能性は少ない。しかし、動物化学予防モデルでは、イブプロフェンは他のNSAIDより有効性が低い。
【0053】
A.アスピリン
アスピリンは、アセチルサリチル酸とも呼ばれ、軽い疼痛(ache)および痛み(pain)を軽減するために鎮痛薬として、発熱を低減するための解熱薬として、ならびに抗炎症医薬剤として、多用されているサルチル酸薬である。アスピリンは、ドイツ企業Bayerの化学者であるFelix Hoffmannによって1897年に初めて単離された。アスピリンの主要代謝産物であるサリチル酸は、ヒトと動物の代謝の不可分な部分である。ヒトでは大部分が食事に起因しうるが、相当な部分が内因性に合成される。現在、アスピリンは世界中で最も広く使用されている医薬剤の一つであり、推定40,000トンのアスピリンが毎年消費されている。アスピリンがBayer所有の登録商標である国の場合、一般名はアセチルサリチル酸(ASA)である。
【0054】
アスピリンは、正常な状況下では血小板分子を一つに結合して損傷した血管壁を覆うパッチを作り出すトロンボキサンの生産を阻害することによる抗血小板効果も有する。血小板パッチは大きくなりすぎることがあり、また局所的血流および下流の血流を遮断することもあるので、アスピリンは、凝血塊を発達させるリスクが高い人々における心臓発作、卒中、および血餅形成を予防する一助として、低用量で長期的にも使用される。心臓発作の直後に、さらなる心臓発作のリスクまたは心臓組織の死のリスクを低減するために、低用量のアスピリンを与えうることも、確立されている。アスピリンは、一定タイプのがん、特に直腸結腸がんの予防にも有効でありうる。
【0055】
アスピリン経口摂取の望ましくない副作用には、特に高用量における胃腸潰瘍、胃出血、および耳鳴りがある。小児および青年の場合、アスピリンは、ライ症候群のリスクがあるので、インフルエンザ様の症状または水痘もしくは他のウイルス病の症状の抑制には、もはや適応でない。
【0056】
アスピリンは、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)と呼ばれる一群の医薬剤の一部であるが、他の大半のNSAIDとは作用機序が異なっている。アスピリンおよびサリチル酸薬と呼ばれるそのグループの他の薬は、他のNSAIDと類似する効果(解熱、抗炎症、鎮痛)を有し、同じ酵素シクロオキシゲナーゼを阻害するが、アスピリンはそれを非可逆的に行い(他のサリチル酸薬はそうではない)、他の薬とは異なり、この酵素のCOX-2変種よりもCOX-1変種に、より大きな影響を及ぼす。
【0057】
B.スリンダクおよびその主要代謝産物、スリンダク(Sulidac)スルホンおよびスリンダクスルフィド
スリンダクは、次の化学名を持つ非ステロイド性抗炎症性インデン誘導体である;(Z)-5-フルオロ-2-メチル-1-((4-(メチルスルフィニル)フェニル)メチレン)-1H-インデン-3-酢酸(Physician's Desk Reference, 1999)。理論に拘泥するわけではないが、スルフィニル部分は、インビボでは、スルフィド代謝産物への可逆的還元およびスルホン代謝産物(エクシスリンド)への非可逆的酸化によって変換される。参照により本明細書に組み入れられる米国特許第6,258,845号を参照されたい。Ki-ras活性化も阻害するスリンダクは2つの異なる分子に代謝され、それらは、COXを阻害する能力が異なるものの、どちらもアポトーシスの誘発によって化学予防効果を発揮することができる。スリンダクスルホンはCOX阻害活性を欠き、おそらくプロスタグランジン合成に依存しない形でアポトーシスの誘発を容易にするのであろう。入手できる証拠は、スルフィド誘導体が生物学的活性化合物の少なくとも1つであることを示している。これに基づいて、スリンダクはプロドラッグとみなしうる。
【0058】
スリンダク(Clinoril(登録商標))は、例えば150mg錠および200mg錠として入手することができる。最も一般的な投薬量は、成人の場合、最大1日量を400mgとして、150~200mgを1日2回である。経口投与後は、この薬剤の約90%が吸収される。ピーク血清中レベルは、空腹時の患者では約2時間で達成され、食品と共に投与した場合は3~4時間で達成される。スリンダクの平均半減期は7.8時間であり、スルフィド代謝産物の平均半減期は16.4時間である。米国特許第3,647,858号および同第3,654,349号はスリンダクの調製物を対象としており、どちらの特許も参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【0059】
スリンダクは、変形性関節症、関節リウマチ、強直性脊柱炎、急性痛風、および急性肩甲痛の徴候および症状の急性緩和および長期緩和に適応がある。スリンダク(1日あたり400mg)が発揮する鎮痛効果および抗炎症効果は、アスピリン(1日あたり4g)、イブプロフェン(1日あたり1200mg)、インドメタシン(1日あたり125mg)、およびフェニルブタゾン(1日あたり400~600mg)によって達成されるものに匹敵する。スリンダクの副作用として、患者の20%近くにおける軽度の胃腸効果が挙げられ、腹痛および悪心が最も頻度の高い愁訴である。CNS副作用は患者の最大10%にみられ、最も高頻度に報告されるのは、嗜眠状態、頭痛、および神経過敏である。皮疹およびそう痒は患者の5%に起こる。スリンダクによる慢性処置は、出血、潰瘍形成および穿孔などの深刻な胃腸毒性をもたらす場合がある。
【0060】
がん、特に結腸直腸ポリープの化学予防のためのスリンダク使用の可能性はよく研究されてきた。例えば、どちらも参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,814,625号および同第5,843,929号は、ヒトにおけるスリンダクの化学予防的使用の可能性を報告している。スリンダクは、家族性腺腫性ポリポーシス(FAP)患者において腺腫の退縮をもたらすことが示されている(Muscat et al., 1994)。ただし、孤発性腺腫における少なくとも1つの研究は、そのような効果がないことを示している(Ladenheim et al., 1995)。スリンダクおよびそのスルホン代謝産物エクシスリンドは、いくつかのがんタイプの予防および処置について、試験されており、臨床試験が続けられている。
【0061】
C.ピロキシカム
ピロキシカムは、関節リウマチおよび変形性関節症の処置において十分に確立された非ステロイド性抗炎症性作用物質であり、次の化学名を有する:4-ヒドロキシ-2-メチル-N-2-ピリジル-2H-1,2-ベンゾチアジン-3-カルボキサミド1,1-ジオキシド。筋骨格障害、月経困難症、および術後痛の処置におけるその有用性も証明されている。その長い半減期は1日1回の投与を可能にする。この薬剤は、直腸に投与された場合に、有効であることが示されている。胃腸愁訴は最も高頻度に報告される副作用である。
【0062】
ピロキシカムは効果的な化学予防作用物質であることが動物モデルにおいて示されているが(Pollard and Luckert, 1989; Reddy et al., 1987)、最近の第IIb相治験では副作用を示した。NSAIDの副作用の大規模なメタ分析により、ピロキシカムは他のNSAIDより多くの副作用を有することも示されている(Lanza et al., 1995)。
【0063】
DFMOとピロキシカムとの合剤は、結腸がん発生のAOM処置ラットモデルにおいて、相乗的化学予防効果を有することが示されている(Reddy et al., 1990)。ただし、各作用物質を個別に投与した場合、DFMOはKi-ras変異および腫瘍形成に対してピロキシカムより強い抑制効果を発揮した(Reddy et al., 1990)。ある研究では、AOM処置ラットへのDFMOまたはピロキシカムの投与が、Ki-ras変異を保持する腫瘍の数を90%から、それぞれ36%および25%まで低減した(Singh et al., 1994)。両作用物質は、既存の腫瘍における生化学的に活性なp21rasの量も低減した。
【0064】
D.セレコキシブ
セレコキシブは、変形性関節症、関節リウマチ、急性痛、強直性脊柱炎の処置、ならびにFAP患者における結腸ポリープおよび直腸ポリープの数を低減するための処置において十分に確立された、非ステロイド性抗炎症性作用物質であり、次の化学名を持つ:4-[5-(4-メチルフェニル)-3-(トリフルオロメチル)ピラゾール-1-イル]ベンゼンスルホンアミド。セレコキシブは、Pfizerにより、Celebrex、Celebra、およびOnsenalの商品名で販売されている。セレコキシブは選択的COX-2阻害剤である。セレコキシブの副作用としては、心臓血管疾患率の30%の増加が挙げられる。加えて、胃腸副作用のリスクが80%を上回る。
【0065】
E.NSAIDの組合せ
いくつかの態様では、さまざまなNSAIDの組合せも使用されうる。いくつかの態様では、2つ以上のNSAIDを低用量で使用することにより、高用量の個々のNSAIDに付随する副作用または毒性を低減することが可能である。例えばいくつかの態様において、スリンダクはセレコキシブと一緒に使用することができる。互いに組み合わせて使用しうるNSAIDの例として、イブプロフェン、ナプロキセン、フェノプロフェン、ケトプロフェン、フルルビプロフェン、オキサプロジン、インドメタシン、スリンダク、エトドラク、ジクロフェナク、ピロキシカム、メロキシカム、テノキシカム、ドロキシカム、ロルノキシカム、イソキシカム、メフェナム酸、メクロフェナム酸、フルフェナム酸、トルフェナム酸、セレコキシブ、ロフェコキシブ、バルデコキシブ、パレコキシブ、ルミラコキシブ、およびエトリコキシブが挙げられるが、それらに限定されるわけではない。
【0066】
IV.エフロルニチン/スリンダク併用治療
本明細書において提供される組成物は、いくつかの態様では、患者において、がん細胞の数を低減し、がん細胞の成長を阻害し、かつ/またはがん細胞の発生を予防するために使用することができる。標的がん細胞として、肺、脳、前立腺、腎臓、肝臓、卵巣、乳房、皮膚、胃、食道、頭頸部、精巣、結腸、子宮頸部、リンパ系および血液のがんが挙げられる。いくつかの態様において、本組成物は、結腸がん、家族性腺腫性ポリポーシス(FAP)、膵がん、および/または神経芽細胞腫を処置および/または予防するために使用することができる。
【0067】
いくつかの態様において、本明細書において提供される組成物は、前がん症状を呈する患者を処置し、それによってがんの発病を予防するために使用することができる。そのような予防的処置の標的細胞および標的組織として、ポリープおよび他の前がん病変、前悪性疾患、前新生物表現型、またはほぼ確実ながん状態への進行を示す他の異常表現型が挙げられる。例えば、本明細書において提供される組成物は、余分な毒性をほとんど伴うことなく、腺腫を予防するために使用することができる。変異APC/apc遺伝子型がFAPと共通するMin(多発性腸新生物)マウスは、ヒトFAP患者の有用な実験動物モデルとして役立つ(Lipkin, 1997)。Minマウスは、GIの出血、閉塞および死につながる100を超える胃腸腺腫/腺癌を、生後120日までに消化管の至るところに発生させうる。DFMOとスリンダクの併用治療は、これらのマウスにおける腺腫を低減するのに有効であることが示された。参照によりその全体が本明細書に組み入れられる米国特許第6,258,845号を参照されたい。
【0068】
V.固定用量合剤および投与経路
一局面において、本発明は、薬学的有効量のエフロルニチンと薬学的有効量の非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)またはその代謝産物との固定用量合剤を含む組成物を提供する。いくつかの態様において、本固定用量合剤は薬学的有効量のエフロルニチンおよび薬学的有効量のスリンダクである。
【0069】
いくつかの態様において、エフロルニチンはエフロルニチン塩酸塩一水和物である。いくつかの態様において、エフロルニチンはエフロルニチン塩酸塩一水和物ラセミ化合物である。いくつかの態様において、エフロルニチン塩酸塩一水和物は、その2つのエナンチオマーのラセミ混合物である。
【0070】
いくつかの態様において、エフロルニチンは約10~約1000mgの量で存在する。いくつかの態様において、エフロルニチンは約250~約500mgの量で存在する。いくつかの態様において、エフロルニチンは約300~約450mgの量で存在する。いくつかの態様において、エフロルニチンは約350~約400mgの量で存在する。いくつかの態様において、エフロルニチンは約35~約60重量パーセントの量で存在する。いくつかの態様において、エフロルニチンは約40~約55重量パーセントの量で存在する。いくつかの態様において、エフロルニチンは約50~約55重量パーセントの量で存在する。いくつかの態様において、エフロルニチンは約52~約54重量パーセントの量で存在する。いくつかの態様において、エフロルニチン塩酸塩一水和物ラセミ化合物の量は52~54重量パーセントである。いくつかの態様において、エフロルニチンは約375mgの量で存在する。いくつかの態様において、エフロルニチン塩酸塩一水和物ラセミ化合物の量は375mgである。
【0071】
いくつかの態様において、スリンダクは約10~約1500mgの量で存在する。いくつかの態様において、スリンダクは約50~約100mgの量で存在する。いくつかの態様において、スリンダクは約70~約80mgの量で存在する。 いくつかの態様において、スリンダクは約75mgの量で存在する。いくつかの態様において、スリンダクの量は75mgである。いくつかの態様において、スリンダクは約5~約20重量パーセントの量で存在する。いくつかの態様において、スリンダクは約8~約15重量パーセントの量で存在する。いくつかの態様において、スリンダクは約10~約12重量パーセントの量で存在する。いくつかの態様において、スリンダクの量は10~11重量パーセントである。
【0072】
いくつかの態様において、エフロルニチンは約375mgの量で存在し、かつスリンダクは約75mgの量で存在する。
【0073】
いくつかの態様において、本製剤は賦形剤をさらに含む。いくつかの態様において、賦形剤はデンプン、コロイド状二酸化ケイ素、またはケイ化微結晶セルロースである。いくつかの態様において、賦形剤はコロイド状二酸化ケイ素である。いくつかの態様において、本製剤は第2賦形剤をさらに含む。いくつかの態様において、第2賦形剤はケイ化微結晶セルロースである。
【0074】
いくつかの態様において、本製剤は潤滑剤をさらに含む。いくつかの態様において、潤滑剤は、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセリル、ステアリン酸アルミニウム、ポリエチレングリコール、ホウ酸または安息香酸ナトリウムである。いくつかの態様において、潤滑剤はステアリン酸マグネシウムである。いくつかの態様において、ステアリン酸マグネシウムは約0.25~約2重量パーセントの量で存在する。いくつかの態様において、ステアリン酸マグネシウムの量は約0.75~約2重量パーセントである。いくつかの態様において、ステアリン酸マグネシウムの量は約1~約1.5重量パーセントである。いくつかの態様において、ステアリン酸マグネシウムの量は約1.1重量パーセントである。いくつかの態様において、ステアリン酸マグネシウムは約1.5重量パーセントの量で存在する。
【0075】
いくつかの態様において、本組成物は、カプセル剤、錠剤、ミニ錠剤、顆粒剤、ペレット剤、液剤、ゲル剤、クリーム剤、フォーム剤または貼付剤の形態にある。いくつかの態様において、本組成物は錠剤、例えば単層錠の形態にある。
【0076】
いくつかの態様において、錠剤の重量は約650mg~約1,000mgである。いくつかの態様において、錠剤の重量は約675mg~約725mgである。いくつかの態様において、錠剤の重量は約700mgである。
【0077】
いくつかの態様において、錠剤はコーティングをさらに含む。いくつかの態様において、コーティングは放出調節コーティングまたは腸溶コーティングである。いくつかの態様において、コーティングはpH応答性コーティングである。いくつかの態様において、コーティングは、酢酸フタル酸セルロース(CAP)、酢酸トリメリト酸セルロース(CAT)、ポリ(酢酸ビニル)フタル酸(PVAP)、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HP)、ポリ(メタクリレートエチルアクリレート)(1:1)コポリマー(MA-EA)、ポリ(メタクリレートメチルメタクリレート)(1:1)コポリマー(MA MMA)、ポリ(メタクリレートメチルメタクリレート)(1:2)コポリマー、または酢酸コハク酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMCAS)を含む。いくつかの態様において、コーティングはエフロルニチンの味をマスキングする。いくつかの態様において、コーティングはヒドロキシプロピルメチルセルロース、二酸化チタン、ポリエチレングリコール、および黄色酸化鉄を含む。
【0078】
いくつかの態様において、コーティングの量は約1~約5重量パーセントである。いくつかの態様において、コーティングの量は約2~約4重量パーセントである。いくつかの態様において、コーティングの量は約3重量パーセントである。いくつかの態様において、コーティングの量は約5mg~約30mgである。いくつかの態様において、コーティングの量は約15mg~約25mgである。いくつかの態様において、コーティングの量は約21mgである。
【0079】
いくつかの態様において、コーティングを含む錠剤の重量は約675mg~約750mgである。いくつかの態様において、コーティングを含む錠剤の重量は約700mg~約725mgである。いくつかの態様において、コーティングを含む錠剤の重量は約721mgである。
【0080】
一局面において、本発明は、薬学的有効量のエフロルニチンと薬学的有効量のスリンダクとの固定用量合剤を含む組成物を提供する。いくつかの態様において、本組成物は、カプセル剤、錠剤、ミニ錠剤、顆粒剤、ペレット剤、液剤、ゲル剤、クリーム剤、フォーム剤または貼付剤の形態にある。いくつかの態様において、本組成物は固形であり、錠剤、例えば単層錠の形態で服用される。いくつかの態様において、錠剤はフィルムコーティングされている。
【0081】
いくつかの局面において、本開示は、エフロルニチンとNSAIDとの経口固定用量複合製剤を提供する。いくつかの態様では、薬学的有効量のエフロルニチンおよび薬学的有効量のNSAIDを含む薬学的組成物が提供される。いくつかの態様において、NSAIDは、スリンダク、アスピリン、ピロキシカムまたはセレコキシブである。いくつかの好ましい態様において、NSAIDはスリンダクである。
【0082】
いくつかの態様において、本発明の薬学的組成物および製剤は、経腸用、例えば経口用であり、直腸用または非経口用でもあり、本組成物は薬理活性化合物を単独でまたは薬学的補助物質(賦形剤)と共に含む。経腸投与用または非経口投与用の薬学的調製物は、例えば、コーティング錠、錠剤、カプセル剤または坐剤などの単位用量型(unit dose form)であり、アンプルでもある。これらは、自体公知の方法で、例えば従来の混合、造粒、コーティング、可溶化、または凍結乾燥プロセスを使って、調製される。したがって、経口使用のための薬学的調製物は、活性化合物を固形賦形剤と合わせ、所望であれば、得られた混合物を造粒し、要求されるのであれば、または必要であれば、その混合物または顆粒を、適切な補助物質を加えてから錠剤またはコーティング錠コアに加工することによって得ることができる。好ましい一態様では、活性成分と賦形剤の混合物が錠剤形に製剤化される。嗜好性を向上させたり吸収を遅延させたりするために、適当なコーティングを施してもよい。例えば、DFMOなどの活性化合物の不愉快な味をマスキングするために、または消化管中の一定の領域への活性分子の放出を持続させかつ/もしくは遅延させるために、錠剤にコーティングを適用することができる。
【0083】
治療化合物は、例えば不活性希釈剤または同化可能な可食担体と共に、経口投与することができる。治療化合物および他の成分を、ハードシェルまたはソフトシェルゼラチンカプセルに封入するか、錠剤に圧縮するか、または対象の食事に直接組み込んでもよい。経口治療薬投与の場合は、治療化合物を賦形剤と共に組み込み、摂取可能な錠剤、バッカル錠、トローチ剤、カプセル剤、エリキシル剤、懸濁剤、シロップ剤、またはカシェ剤の形態で使用してもよい。
【0084】
一定の態様において、本明細書において提供される錠剤および/またはカプセル剤は、活性成分と、粉末状の担体、例えばラクトース、デンプン、セルロース誘導体、ステアリン酸マグネシウム、およびステアリン酸とを含む。同様の希釈剤を使って圧縮錠剤を作製することができる。別の態様では、即時放出用または放出調節用に錠剤およびカプセル剤を製造することができる。いくつかの態様では、ある期間にわたって医薬剤の連続的な放出をもたらすように、錠剤および/またはカプセル剤が徐放製品として製造される。いくつかの態様では、不快な味をマスキングし、かつ/または錠剤を雰囲気から保護するために、圧縮錠剤が糖コーティングおよび/またはフィルムコーティングされる。いくつかの態様では、消化管における選択的崩壊のために、錠剤が腸溶コーティングされる。
【0085】
いくつかの態様において、錠剤またはカプセル剤は、例えば放出調節コーティング多粒子系など、崩壊または溶解して、第1構成要素と第2構成要素の異なる集団の粒子を含む多粒子系を遊離させることができる。これらの態様の一部では、錠剤またはカプセル剤が、口、胃、小腸、回腸終末部、または結腸において崩壊または溶解しうる。これらの態様の一部では、錠剤またはカプセル剤が放出調節特性を持って多粒子系を放出しうる。
【0086】
いくつかの態様において、本発明は、多層錠の形態にある薬学的経口固定用量合剤を提供する。多層錠は少なくとも2つの層(二層錠)を有するか、3つ、4つ、5つまたはそれ以上の層を有することができる。いくつかの態様において、層のそれぞれは2つ以上の薬学的活性成分(API)を含有しない。例えばいくつかの態様において、錠剤は2つの層を有し、それら2つの層のそれぞれにAPIのうちの1つが含まれる。いくつかの態様において、錠剤は、これら2つの層に加えて、担体だけを含有し、例えば分離層としてまたは外側コーティング層として機能しうる、さらなる層を含有する。いくつかの態様において、3つ以上の層が存在する場合、構成要素は、それらが同じ層に一緒に存在するのでない限り、2つ以上の層に存在しうる。一定の態様では、単層錠が好ましいが、以下に詳述する情報はすべて、多層錠にも等しく適用されうる。
【0087】
いくつかの態様において、本固定用量合剤は、約0.1μM~約1000μMの範囲内、好ましくは約1μM~100μMの範囲内、より好ましくは約1μM~約50μMの範囲内の総エフロルニチンおよび/またはスリンダクの平均定常状態血漿中濃度レベルを与えるように、製剤化することができる。
【0088】
A.薬学的に許容される賦形剤
いくつかの態様において、本組成物は薬学的に許容される賦形剤をさらに含む。これらの態様の一部において、薬学的に許容される賦形剤には、薬学的に許容される希釈剤、薬学的に許容される崩壊剤、薬学的に許容される結合剤、薬学的に許容される安定剤、薬学的に許容される潤滑剤、薬学的に許容される顔料、または薬学的に許容される流動促進剤(glider)が含まれうる。本発明の固定用量複合製剤では、活性成分を1:0.25~1:20の重量比で薬学的に許容される賦形剤と混合することができる。
【0089】
本発明の薬学的製剤に使用することができる希釈剤としては、微結晶セルロース(「MCC」)、ケイ化MCC(例えばPROSOLV(商標)HD90)、ミクロファインセルロース、ラクトース、デンプン、アルファ化デンプン、糖、マンニトール、ソルビトール、デキストレート、デキストリン、マルトデキストリン、デキストロース、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、二塩基性リン酸カルシウム二水和物、三塩基性リン酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、およびそれらの任意の混合物が挙げられるが、それらに限定されるわけではない。希釈剤はケイ化MCCであることが好ましい。希釈剤は、製剤の総重量に基づいて約5~約95重量パーセントの量、好ましくは約25~約40重量パーセントの量、例えば約30~約35重量パーセントの量で、使用することができる。一定の局面において、希釈剤は可溶性希釈剤であることができる。希釈剤を使用する場合、不連続な各層における各活性成分に対するその比は、極めて重要である。「可溶性希釈剤」という用語は、ラクトース、Ludipress(BASF、ラクトース、クロスポビドンおよびポビドンの混合物(93:3.5:3.5、w/w(%)))、マンニトールおよびソルビトールのような、水に溶解する希釈剤を指す。
【0090】
崩壊剤は、口腔および/または消化管において流体に曝露された後の錠剤の膨潤および崩壊を促進するために使用される。本発明の固定用量複合製剤において有用な崩壊剤の例としては、クロスポビドン、デンプングリコール酸ナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、デンプン、アルギン酸またはそのナトリウム塩、およびそれらの混合物が挙げられる。本発明の薬学的製剤において使用することができる他の崩壊剤としては、メチルセルロース、微結晶セルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム(例えばAC-DI-SOL(商標)、PRIMELLOSE(商標))、ポビドン、グアーガム、ケイ酸マグネシウムアルミニウム、コロイド状二酸化ケイ素(例えばAEROSIL(商標)、CARBOSIL(商標))、ポラクリリンカリウム、デンプン、アルファ化デンプン、デンプングリコール酸ナトリウム(例えばEXPLOTAB(商標))、アルギン酸ナトリウム、およびそれらの任意の混合物が挙げられるが、それらに限定されるわけではない。崩壊剤はコロイド状二酸化ケイ素であることが好ましい。崩壊剤は、製剤の総重量に基づいて約0.1~約30重量パーセントの量、好ましくは約0.2~約5重量パーセントの量で使用することができる。
【0091】
本発明の組成物は潤滑剤を含みうる。打錠機の杵の面に顆粒が付着すると、スティッキングが起こりうる。潤滑剤は、粉末の流動性を増進し、錠剤杵面と錠剤杵との間および錠剤表面と臼壁との間の摩擦を低減するために、使用することができる。例えば潤滑剤としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸、フマル酸ステアリルナトリウム、ポリエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸マグネシウム、および安息香酸ナトリウムが挙げられる。潤滑剤はステアリン酸マグネシウムであることが好ましい。本発明において、潤滑剤は、好ましくは、固形剤形の0.25重量パーセント~2重量パーセントを構成し、好ましくは約1.5重量パーセントの量で存在する。ある例示的製剤において、潤滑剤は、スティッキングを防止するために約1.5重量パーセントの量で存在するステアリン酸マグネシウムである。
【0092】
圧縮後に錠剤をまとめておくのを助けるために、本発明の薬学的組成物には結合剤を使用することができる。本発明にとって有用な結合剤の例は、アラビアゴム、グアーガム、アルギン酸、カルボマー(例えばCarbopol(商標)製品)、デキストリン、マルトデキストリン、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース(例えばKLUCEL(商標))、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(例えばMETHOCEL(商標))、カルボキシメチルセルロースナトリウム、液体グルコース、ケイ酸マグネシウムアルミニウム、ポリメタクリレート、ポリビニルピロリドン(例えばポビドンK-90D、KOLLIDON(商標))、コポビドン(PLASDONE(商標))、ゼラチン、デンプン、およびそれらの任意の混合物である。結合剤はデンプンであることが好ましい。本発明において、結合剤は、好ましくは、固形剤形の約1~約15重量パーセントを構成する。別の態様では、固形剤形が結合剤を含まない。
【0093】
一定の態様では、本発明の固定用量複合製剤において使用できる安定剤は酸化防止剤でありうる。酸化防止剤の使用は、他の薬学的に許容される添加剤との望ましくない反応および経時的な熱または湿気による修飾に対する活性成分の安定性を強化する。例えば酸化防止剤は、アスコルビン酸およびそのエステル、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、α-トコフェロール、システイン、クエン酸、没食子酸プロピル、硫酸水素ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、およびそれらの任意の混合物である。
【0094】
B.錠剤製造プロセス
本発明のさらなる一局面は、本明細書に開示する錠剤(エフロルニチンおよびスリンダクを含む錠剤を含む)を製造するためのプロセスを提供している。いくつかの態様において、活性作用物質は、少なくとも1つの活性作用物質および1つまたは複数の賦形剤を所望のメッシュサイズの篩でふるい分け、次に、高速ミキサー造粒機、遊星型ミキサー、マスミキサー(mass mixer)、リボンミキサー、流動層プロセッサー、または他の任意の適切な器具を使って混合することによって調製される。ブレンドは、例えば、低せん断または高せん断ミキサー、流動床造粒機などにおいて、アルコール性であれ水アルコール性であれ水性であれ、結合剤を含むまたは結合剤を含まない溶液または懸濁液を加えることによって、あるいは乾式造粒によって、造粒することができる。顆粒は、箱形乾燥機、流動層乾燥機、ロータリーコーン真空乾燥器などを使って乾燥することができる。顆粒は、振動造粒機または粉砕ミルまたは適切なスクリーンを装着した他の任意の従来設備を使ってサイズ分画することができる。あるいは、押出しおよび球形化またはローラーコンパクションによって、顆粒を調製することができる。また、活性作用物質を含有する顆粒の製造は、直接圧縮できる賦形剤との混合またはローラーコンパクションを含みうる。
【0095】
本発明の他の態様において、小さな錠剤(ミニ錠剤)は、要望どおりに、さまざまなサイズおよび形状の臼および杵を使って、顆粒を圧縮することによって作製することができる。任意で、所望であれば、錠剤にはコーティングを、例えばスプレーコーティング、ディップコーティング、流動床コーティングなどといった当業者に公知の技法によって、適用することができる。本発明の一定の態様では、加工を容易にするために、アルコール系、水アルコール系、水系、または有機系などの適切な溶媒系を使用することができる。
【0096】
1.造粒
造粒は、粉末粒子を互いに接着させて、より大きな多粒子体、すなわち顆粒を得るプロセスである。本発明の態様において、乾式または湿式技法によって得られる顆粒は、1種または複数種の潤滑剤および/または接着防止剤(anti-adherant)とブレンドし、次に単一のカプセルに充填するか、または小さい方のカプセルを別の大きい方のカプセルに充填することができるように、異なるサイズの異なるカプセルに充填することができる。
【0097】
一定の態様では、コンパクションによる乾式造粒が、固形投薬組成物の生産に使用される。乾式造粒では、粉末に力を適用することによって粉末ブレンドが圧迫され、それが一般にかなりのサイズ拡大を引き起こす。いくつかの局面では、打錠機がコンパクションプロセスに使用されるスラッグ法(slugging)が、乾式造粒プロセスにおいて使用される。別の局面では、供給システム、コンパクションユニット、およびサイズ低減ユニットを含むローラーコンパクタが、乾式造粒に使用される。この方法では、乾式造粒プロセスにおける最も重要なパラメータである力を適用することにより、2本のロール間で粉末が圧迫される。適用される力は、ロール幅1cmあたりの力であるkN/cmの単位で表される。プレス力はバールで示される場合もある。しかしこれは、液圧装置内での圧力を表しているに過ぎず、実際のところ、粉末に適用される力に関する適当な測定単位ではない。ロールに運ばれる粉末の量に応じた所与の力で、粉末は所定のリボン厚まで圧迫されることになる。
【0098】
別の態様では、湿式造粒が固形投薬組成物の生産に使用される。粉末の湿式造粒は圧縮ミックスの流動およびコンパクタビリティを改良する。湿式造粒では、羽根車(高せん断造粒機中)、スクリュー(二軸造粒機中)または空気(流動床造粒機中)の作用下で、粉末床への造粒液の添加によって、顆粒が形成される。系内で生じる撹拌は、製剤内の構成要素の湿潤と共に、一次粉末粒子の凝集をもたらして、湿顆粒を生成させる。造粒液(流体)は溶媒を含有し、その溶媒は、乾燥によって除去することができるように揮発性でなければならず、また非毒性でなければならない。典型的な液体として、単独の、または組み合わされた、水、エタノールおよびイソプロパノールが挙げられる。この溶液は水系または溶媒系であることができる。水溶液には、有機溶媒よりも安全に取り扱えるという利点がある。
【0099】
錠剤は、参照により本明細書に組み入れられるMaejima et al, 1997に本質的に記載されている転動溶融造粒(tumbling melt granulation)(TMG)によって、形成させることもできる。転動溶融造粒は、溶融顆粒を調製するために使用することができる。これは転動ミキサーで行うことができる。溶融した低融点化合物をブレンダー中の結晶性サッカライドおよび粉末状サッカライド上に噴霧し、顆粒が形成されるまで混合する。この場合、低融点成分は結合剤であり、結晶性サッカライドはシードである。代替的一方法は、溶融していない低融点成分、結晶性の糖(例えばスクロースまたはマルトース)、および粉末状の水溶性成分(例えばマンニトールまたはラクトース)を、転動ミキサー内で合わせて、低融点結合剤の融点またはそれ以上の温度まで加熱しながら混合することである。シードは、結晶性または顆粒状の水溶性成分(サッカライド)、例えば顆粒状のマンニトール、結晶性マルトース、結晶性スクロース、または他の任意の糖とすべきである。転動ミキサーの一例は、ツインシェルブレンダー(Vブレンダー)または他の任意の形状の転動ミキサーである。加熱は、造粒機のチャンバ内に加熱空気を循環させること、およびチャンバの底面を加熱することによって、達成することができる。シード材料および粉末状の錠剤構成成分が加熱されたチャンバ中で循環するにつれて、低融点化合物が溶融し、シードに接着する。溶融していない粉末状の材料はシードに結合した溶融低融点材料に接着する。次に、このプロセスによって形成される球状のビーズを冷却し、接着していない粉末を除去するために、スクリーンでふるい分ける。
【0100】
本発明の錠剤組成物を形成させるために噴霧凝固またはプリル化を使用することもできる。噴霧凝固は、低融点化合物を含む組成物の溶融液滴を、表面に、または好ましくは他の錠剤構成成分に、吹き付ける工程を含む。噴霧凝固に使用することができる設備として、噴霧乾燥機(例えばNero噴霧乾燥機)および上端噴霧(top spray)による流動層コーター/造粒(例えばGlatt流動層コーター/造粒機)が挙げられる。好ましい態様では、速溶性顆粒が形成され、この場合は、好ましくは水溶性賦形剤、より好ましくはサッカライドが、溶融した低融点成分に懸濁され、噴霧凝固に付される。噴霧凝固後に、結果として生じた組成物を冷却し、凝固させる。混合物の凝固に続いて、それを選別または篩分し、残りの錠剤構成成分と混合する。低融点化合物と他の錠剤構成成分との任意の組合せを含む速溶性顆粒が溶融され、他の錠剤構成成分上に噴霧凝固される噴霧凝固プロセスは、本発明の範囲内である。低融点化合物を含むすべての錠剤構成成分が混合され、低融点化合物が溶融され、その混合物が表面上に噴霧凝固される噴霧凝固プロセスも、本発明の範囲内である。
【0101】
2.ブレンド
一定の態様では、造粒後に混合物がブレンドされる。固形薬製造におけるブレンドとは、ブレンド均一性を達成し、潤滑剤を分布させることである。一定の局面において、ブレンド工程は、潤滑剤の最終ブレンドの前にすべての構成要素の均質性が達成されるように設計される。しかし、粉末のブレンディングは、粒径、含水率、構造、かさ密度、および流動特徴ゆえに、難題である。調合成功の鍵は添加の順序である。典型的には、構成要素および薬学的に許容される添加剤を、拡散ブレンダーまたは拡散ミキサーなどの適切な容器に送出する。転動ミキサーの一例は、ツインシェルブレンダー(Vブレンダー)または他の任意の形状の転動ミキサーである。
【0102】
3.圧縮
錠剤組成物が調製されたら、それらをさまざまな形状に成形することができる。好ましい態様では錠剤組成物が造形品にプレスされる。このプロセスは、錠剤組成物を型に入れる工程、および組成物が接触している型の表面の形状をとることになるように、組成物に圧力を適用する工程を含みうる。錠剤形への圧縮は打錠機によって遂行することができる。打錠機は、臼に底から収まる下杵と、打錠材料が臼キャビティ中に落ちた後に、上部から臼キャビティに入る、対応する形状および寸法を有する上杵とを含む。錠剤は下杵および上杵に適用された圧力によって形成される。本発明の錠剤は一般に約20kP以下の硬度を有し、好ましくは、錠剤は約15kP以下の硬度を有する。典型的な圧縮圧は約5kN~約40kNであり、これは錠剤の所望のサイズおよび硬度に基づいて変動することになる。いくつかの局面において、圧縮圧は約25kN~約35kNである。特定の局面において、圧縮圧は約37kN以下、例えば約30kN未満、例えば約25kN未満である。Carverプレスなどの液圧プレス、またはStokes Versaプレスなどのロータリー打錠機は、本発明の錠剤組成物を圧縮するのに適した手段である。例示的圧縮力パラメータを表3に示す。
【0103】
一定の態様では、回転機などの適切な器具を使って潤滑剤混合済みのブレンドを圧縮することでスラグを形成させ、それを、適切なスクリーンを装着したミルまたは流体エネルギーミルまたはボールミルまたはコロイドミルまたはローラーミルまたはハンマーミルなどに通すことで、活性物の粉砕されたスラグを得ることができる。
【0104】
例えば錠剤のキャッピングを防止するなどの目的で、プレ圧縮工程を使用することができる。キャッピングとは、錠剤本体からの錠剤のキャップまたは上部の分裂または破壊を指す。キャッピングは、圧縮中に空気が押し出される時に移動する非圧縮性の微粒子によって引き起こされうる。例えばプレ圧縮は、メイン圧縮力の約5、10または15パーセントで行うことができる。好ましい態様では、錠剤が、約10kNを超えない圧力、好ましくは5kN未満の圧力で、型中にプレ圧縮される。例えば、1、1.5、2、2.1、2.2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、6、7、8、9、または10kN未満において打錠することは、本発明の範囲内である。特定の局面において、プレ圧縮力は約2.5kN~約3.5kNである。例示的プレ圧縮力パラメータを表3に示す。
【0105】
4.フィルムコーティング
本発明による組成物または固形剤形は、フィルムコーティング、腸溶コーティング、放出調節コーティング、保護コーティング、または接着防止コーティングでコーティングすることもできる。
【0106】
本発明の組成物は腸溶コーティングされていてもよい。腸溶コーティングされたまたは腸溶コーティングとは、胃における活性作用物質の放出を防止し、腸管の上部における放出を可能にする、薬学的に許容されるコーティングを意味する。別の態様において、腸溶コーティングは、回腸終末部または結腸まで活性作用物質の放出を遅延させるために適用される。腸溶コーティングは放出調節コーティング上の保護膜として加えることができる。腸溶コーティングポリマーは、腸溶コーティング製剤中に、単独でまたは組み合わせて使用することができる。腸溶コーティングは単層コーティング態様または多層コーティング態様として設計することができる。本発明の組成物のための好ましい腸溶コーティングは、酢酸フタル酸セルロース;酢酸トリメリト酸セルロース;メタクリル酸コポリマー、少なくとも40%のメチルアクリル酸を含有する、メチルアクリル酸およびそのエステルから誘導されるコポリマー;フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース;酢酸コハク酸ヒドロキシプロピルメチルセルロースまたはポリ酢酸フタル酸ビニルから選択されるフィルム形成作用物質を含む。腸溶コーティングに適したポリマーの例としては、例えば、酢酸フタル酸セルロース(CAP)、酢酸トリメリト酸セルロース(CAT)、ポリ(酢酸ビニル)フタル酸(PVAP)、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HP)、ポリ(メタクリレートエチルアクリレート)(1:1)コポリマー(MA-EA)、ポリ(メタクリレートメチルメタクリレート)(1:1)コポリマー(MA MMA)、ポリ(メタクリレートメチルメタクリレート)(1:2)コポリマー、EUDRAGIT(商標)L 30D(MA-EA、1:1)、EUDRAGIT(商標)100 55(MA-EA、3:1)、酢酸コハク酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMCAS)、SURETERIC(PVAP)、AQUATERIC(商標)(CAP)、シェラックまたはAQOAT(商標)(HPMCAS)が挙げられる。本発明と共に使用しうる標的結腸送達システムは公知であり、ヒドロキシプロピルセルロース、微結晶セルロース(MCE、FMC Corp.のAVICEL(商標))、ポリ(エチレン-酢酸ビニル)(60:40)コポリマー(Aldrich Chemical Co.のEVAC)、2-ヒドロキシエチルメタクリル酸(HEMA)、MMA、N,N'-ビス(メタクリロイルオキシエチルオキシカルボニルアミノ)-アゾベンゼンの存在下で合成されるHEMA:MMA:MAのターポリマー、アゾポリマー、腸溶コーティング持続放出システム(英国Pharmaceutical Profiles, Ltd.のTIME CLOCK(登録商標))およびペクチン酸カルシウムおよび浸透圧ポンプシステム(ALZA corp.)などの材料を利用する。
【0107】
いくつかの態様において、フィルムコーティングは、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、エチルセルロース(EC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HMPC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)、ポリ(ビニルピロリドン)(PVP)、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、ジメチルアミノエチルメタクリレート-メタクリル酸エステルコポリマー、またはエチルアクリレート-メチルメタクリレートコポリマー(EA-MMA)などのポリマーを含む。
【0108】
いくつかの態様において、本組成物は放出調節コーティングを有する。放出調節コーティングは、一定のpHに曝露されると活性作用物質を(例えば結腸直腸管に)送達することになるpH応答性コーティングでありうる。いくつかの態様において、pH応答性コーティングは約6以上のpHに曝露されると溶解するpH応答性ポリマーである。ただし、pH応答性ポリマーは約5以上のpHで溶解してもよい。pH応答性ポリマーは、例えばEUDRAGIT(商標)RSおよびEUDRAGIT(商標)RLなどのポリマー化合物であることができる。EUDRAGIT(商標)製品は、重量で約30Dのラテックス分散物を形成する。EUDRAGIT(商標)RS 30Dは、コーティングとして水透過性がそれほど高くないので徐放向きであり、EUDRAGIT(商標)RS 30Dは、コーティングとして水透過性が比較的高いので、迅速放出向きである。これら2つのポリマーは一般に組み合わせて使用される。本明細書において考えられているEUDRAGIT(商標)RS 30D/EUDRAGIT(商標)RL 30Dの許容される比は、約10:0~約8:2である。上記EUDRAGIT(商標)RS/EUDRAGIT(商標)RLの組合せの代わりに、腸放出または結腸直腸放出用のエチルセルロースもしくはS100または他の等価なポリマーを使用することもできる。
【0109】
任意で、本方法は錠剤をフィルムコーティングする工程を含む。フィルムコーティングは任意の適切な手段を使って遂行することができる。適切なフィルムコーティングは公知であり、市販されているか、公知の方法に従って作製することができる。典型的には、フィルムコーティング材料は、ポリエチレングリコール、タルクおよび着色剤などの材料を含むポリマーフィルムコーティング材料である。適切なコーティング材料は、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチル-セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、アクリルポリマー、エチルセルロース、酢酸フタル酸セルロース、ポリ酢酸フタル酸ビニル、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロースナトリウム、酢酸セルロース、酢酸フタル酸セルロース、ゼラチン、メタクリル酸コポリマー、ポリエチレングリコール、シェラック、スクロース、二酸化チタン、カルナウバロウ、マイクロクリスタリンワックス、およびゼインである。いくつかの局面において、フィルムコーティングはヒドロキシプロピルメチルセルロース、二酸化チタン、ポリエチレングリコール、および黄色酸化鉄である。例えばフィルムコーティングはOPADRY(登録商標)Yellow(Colorcon)である。典型的には、フィルムコーティング材料は、例えばフィルムコーティング錠の1%~6重量%の範囲、例えば2%~4%、例えば約3%のフィルムコーティングが得られるような量で、適用される。可塑剤および他の成分をコーティング材料に加えてもよい。コーティング材料には同じ活性物質または異なる活性物質も加えうる。
【0110】
いくつかの態様において、錠剤のコーティングは、DFMOなどの活性成分の味をマスキングするなど、嗜好性を改良することができる。例えば錠剤コーティング組成物はセルロースポリマー、可塑剤、甘味料、または粉末状フレーバー組成物を含むことができ、粉末状フレーバー組成物は固形担体と会合したフレーバー剤を含む。
【0111】
C.投与スケジュールおよび投与プロトコール
いくつかの態様では、ルーチンスケジュールで作用物質を投与することができる。本明細書にいうルーチンスケジュールとは予め決定された指定の期間を指す。ルーチンスケジュールは、スケジュールが予め決定されている限り、同一の期間または長さの異なる期間を包含しうる。例えばルーチンスケジュールは、1日2回、毎日、2日ごと、3日ごと、4日ごと、5日ごと、6日ごと、毎週、毎月、またはその間の決められた日数または週数での投与を伴いうる。あるいは、予め決定されたルーチンスケジュールは、最初の1週間は1日2回の投与、その後、数ヶ月間は1日1回の投与などを伴いうる。別の態様において、本発明は、作用物質は経口的に服用することができ、そのタイミングは食品摂取に依存する、または食品摂取に依存しない、と規定する。したがって例えば作用物質は、毎朝および/または毎晩、その対象が食事をした後か、食事をする前かを問わず、服用することができる。
【0112】
VI.患者の診断および処置
いくつかの態様において、処置方法は、本明細書において提供される組成物の投与を含む抗がん治療の効力を改良し、かつ/またはその毒性を最小限に抑えるために、診断方法で補われる。そのような方法は、例えば米国特許第8,329,636号および同第9,121,852号、米国特許出願公開US2013/0217743およびUS2015/0301060、ならびにPCT特許公報WO2014/070767およびWO2015/195120に記載されており、これらの文献はすべて参照により本明細書に組み入れられる。
【0113】
いくつかの態様において、本開示の組成物および製剤は、ODC1遺伝子プロモーターの少なくとも1つのアレルの+316番目における遺伝子型がGである対象に投与されうる。いくつかの態様において、患者のODC1遺伝子プロモーターの両アレルの+316番目における遺伝子型は、GGでありうる。いくつかの態様において、患者のODC1遺伝子プロモーターの両アレルの+316番目における遺伝子型は、GAでありうる。腺腫再発のフルモデル(full model)においてODC1遺伝子型と処置には統計的に有意な交互作用が検出され、腺腫再発のパターンは、プラセボ患者ではGG 50%、GA 35%、AA 29%であったのに対し、エフロルニチン/スリンダク患者ではGG 11%、GA 14%、AA 57%であった。アスピリン投与を受けているCRA患者では少なくとも1つのAアレルを保因する患者の方が再発性腺腫のリスクが低いことを示す以前の報告とは対照的に、エフロルニチンおよびスリンダクの腺腫阻害効果は、主要Gホモ接合ODC1遺伝子型を持つ患者の方が大きかった(Martinez et al., 2003; Barry et al., 2006; Hubner et al., 2008)。これらの結果は、+316番目におけるODC1 Aアレル保因者では、GG遺伝子型患者と比較して、エフロルニチンおよびスリンダクへの長期曝露に対する応答が異なり、腺腫再発についてはAアレル保因者の方がベネフィットが少なく、聴器毒性を発生させるリスクが、とりわけAAホモ接合体では、上昇している可能性があることを証明している。
【0114】
いくつかの態様において、本発明は、(a)少なくとも1つのODC1プロモーター遺伝子アレルの+316番目における患者の遺伝子型を決定する試験の結果を得る工程、および(b)前記結果が、ODC1プロモーター遺伝子の少なくとも1つのアレルの+316番目における患者の遺伝子型がGであることを示すのであれば、前記患者に、本明細書において提供される組成物を投与する工程を含む、患者における結腸直腸癌の予防的処置または治療的処置のための方法を提供する。いくつかの態様において、本発明は、(a)少なくとも1つのODC1プロモーター遺伝子アレルの+316番目における患者の遺伝子型を決定する試験の結果を得る工程、および(b)前記結果が、ODC1プロモーター遺伝子の少なくとも1つのアレルの+316番目における患者の遺伝子型がGであることを示すのであれば、前記患者に、本明細書において提供される組成物を投与する工程を含む、患者における結腸直腸癌リスク因子の処置のための方法であって、前記患者における新しい異常腺窩巣、新しい腺腫性ポリープまたは異形成を伴う新しい腺腫の形成を予防する方法を提供する。参照により本明細書に組み入れられる米国特許第8,329,636号を参照されたい。
【0115】
いくつかの態様において、本発明は、(a)少なくとも1つのODC1プロモーター遺伝子アレルの+316番目における患者の遺伝子型を決定する試験の結果を得る工程、および(b)前記結果が、ODC1プロモーター遺伝子の少なくとも1つのアレルの+316番目における患者の遺伝子型がGであることを示すのであれば、前記患者に、本明細書において提供される組成物を投与する工程を含む、患者における家族性腺腫性ポリポーシス(FAP)または線維芽細胞腫の予防的処置または治療的処置のための方法を提供する。いくつかの態様において、本発明は、(a)少なくとも1つのODC1プロモーター遺伝子アレルの+316番目における患者の遺伝子型を決定する試験の結果を得る工程、および(b)前記結果が、ODC1プロモーター遺伝子の少なくとも1つのアレルの+316番目における患者の遺伝子型がGであることを示すのであれば、前記患者に、本明細書において提供される組成物を投与する工程を含む、患者における家族性腺腫性ポリポーシスリスク因子または神経芽細胞種リスク因子の処置のための方法であって、前記患者における新しい異常腺窩巣、新しい腺腫性ポリープまたは異形成を伴う新しい腺腫の形成を予防する方法を提供する。参照により本明細書に組み入れられる米国特許第9,121,852号を参照されたい。
【0116】
いくつかの態様において、本発明は、癌患者に本明細書において提供される組成物を投与する工程を含む、該患者を処置するための方法であって、前記患者が、高くはない食事性ポリアミン摂取量、および/または組織ポリアミンレベル、および/または組織ポリアミンフラックスを有する方法を提供する。これらの態様の一部において、高くない食事性ポリアミン摂取量は、1日あたり300μMポリアミン以下である。これらの態様の一部において、癌は直腸結腸がんである。参照により本明細書に組み入れられる米国特許出願公開US2013/0217743を参照されたい。
【0117】
いくつかの態様において、本発明は、(a)患者からのがん細胞におけるlet-7非コードRNA、HMGA2タンパク質、および/またはLIN28タンパク質の発現レベルを決定する試験の結果を得る工程、および(b)前記結果が、前記患者のがんは、参照let-7非コードRNA発現レベルと比較して低減したlet-7非コードRNA発現レベル、参照HMGA2タンパク質発現レベルと比較して上昇したHMGA2タンパク質発現レベル、および/または参照LIN28タンパク質発現レベルと比較して上昇したLIN28タンパク質発現レベルを呈することを示すのであれば、前記患者に、本明細書において提供される組成物を投与する工程を含む、患者におけるがんの予防的処置または治療的処置のための方法を提供する。これらの態様の一部において、参照レベルは非罹患対象に観察されるレベルまたは患者からの非がん性細胞に観察されるレベルである。これらの態様の一部において、「得る工程」は、患者からがんの試料を用意し、その試料からのがん細胞におけるlet-7非コードRNA、HMGA2タンパク質、またはLIN28タンパク質の発現レベルを評価する工程を含む。これらの態様の一部において、「let-7非コードRNAの発現レベルを評価する工程」は、定量PCRまたはノーザンブロット法を含む。これらの態様の一部において、「HMGA2タンパク質またはLIN28タンパク質の発現レベルを評価する工程」は、免疫組織化学またはELISAを含む。これらの態様の一部において、試料は血液または組織、例えば腫瘍組織である。これらの態様の一部において、患者はヒトである。これらの態様の一部において、がんは、直腸結腸がん、神経芽細胞腫、乳がん、膵がん、脳がん、肺がん、胃がん、血液がん、皮膚がん、精巣がん、前立腺がん、卵巣がん、肝がん、食道がん、子宮頸がん、頭頸部がん、非黒色腫皮膚がん、または膠芽腫である。これらの態様の一部において、本方法は、(c)少なくとも1回のODC阻害剤の投与後の第2時点における該患者からの第2がん細胞においてlet-7非コードRNAの発現を決定する試験の結果を得る工程をさらに含む。これらの態様の一部において、本方法は、let-7非コードRNAの増加が観察されないかわずかな増加しか観察されなければ、患者に投与されるODC阻害剤の量を増加させる工程をさらに含む。これらの態様の一部において、本方法は、少なくとも1回のODC阻害剤の投与後の第2時点における該患者からの第2がん細胞においてHMGA2タンパク質またはLIN28タンパク質の発現を決定する試験の結果を得る工程をさらに含む。これらの態様の一部において、本方法は、HMGA2タンパク質またはLIN28タンパク質の減少が観察されないかわずかな減少しか観察されなければ、患者に投与されるODC阻害剤の量を増加させる工程をさらに含む。これらの態様の一部において、本方法は、(i)ODC1遺伝子プロモーターの少なくとも1つのアレルの+316番目における患者の遺伝子型を決定する試験の結果を得る工程、および(ii)前記結果が、ODC1遺伝子プロモーターの少なくとも1つのアレルの+316番目における患者の遺伝子型がGであることを示すのであれば、前記患者に、本明細書において提供される組成物を投与する工程を、さらに含む。いくつかの態様において、本方法は、患者から試料を得る工程と、(b)前記試料中の、let-7非コードRNA、LIN28タンパク質、およびHMGA2タンパク質からなる群より選択される少なくとも2つのマーカーの発現レベルを決定する工程とを含む、患者におけるがん状態または前がん状態を診断する工程であって、前記試料において、参照レベルとの比較で、let-7非コードRNAの発現レベルが減少しているか、LIN28タンパク質またはHMGA2タンパク質が増加しているのであれば、前記患者はがん状態または前がん状態を有すると診断される工程を含む。いくつかの態様において、本発明の固定用量合剤は、細胞または組織のlet-7レベルが低い患者に投与される。別の局面において、本組成物は、細胞または組織のHMGA2レベルが高い患者に投与される。別の局面において、本発明の組成物は、細胞または組織のLIN28レベルが高い患者に投与される。参照により本明細書に組み入れられる米国特許出願公開US2015/0301060を参照されたい。
【0118】
いくつかの態様では、(a)少なくとも1つのODC1アレルの+263番目における患者の遺伝子型を決定する試験の結果を得る工程、および(b)前記結果が、ODC1遺伝子の少なくとも1つのアレルの+263番目における患者の遺伝子型がTであることを示すのであれば、前記患者に、本明細書において提供される組成物を投与する工程を含む、患者における癌の予防的処置または治療的処置のための方法が提供される。これらの態様の一部において、試験は、患者のODC1遺伝子の一方のアレルの+263番目におけるヌクレオチド塩基を決定しうる。いくつかの態様において、試験は、患者のODC1遺伝子の両方のアレルの+263番目におけるヌクレオチド塩基を決定しうる。いくつかの態様において、結果は、ODC1遺伝子の両方のアレルの+263番目における患者の遺伝子型がTTであることを示しうる。いくつかの態様において、結果は、ODC1遺伝子の両方のアレルの+263番目における患者の遺伝子型がTGであることを示しうる。これらの態様の一部において、本方法は、少なくとも1つのODC1アレルの+316番目における患者の遺伝子型を決定する試験の結果を得る工程、および前記結果が、ODC1遺伝子の少なくとも1つのアレルの+316番目における患者の遺伝子型がGであることを示す場合にのみ、本明細書において提供する組成物を患者に投与する工程をさらに含みうる。別の一局面では、(a)少なくとも1つのODC1アレルの+263番目における患者の遺伝子型を決定する試験の結果を得る工程、および(b)前記結果が、ODC1遺伝子の少なくとも1つのアレルの+263番目における患者の遺伝子型がTであることを示すのであれば、前記患者に、本明細書において提供される組成物を投与する工程を含む、患者における結腸直腸癌リスク因子の処置のための方法であって、前記患者における新しい異常腺窩巣、新しい腺腫性ポリープまたは異形性を伴う新しい腺腫の形成を予防する方法が提供される。別の一局面では、(a)少なくとも1つのODC1アレルの+263番目における患者の遺伝子型を決定する試験の結果を得る工程、および(b)前記結果が、ODC1遺伝子の少なくとも1つのアレルの+263番目における患者の遺伝子型がTであることを示すのであれば、前記患者に、本明細書において提供される組成物を投与する工程を含む、癌の発生または再発のリスクがある患者における癌の発生または再発を予防するための方法が提供される。参照により本明細書に組み入れられるPCT特許公報WO2015/195120を参照されたい。
【0119】
上記の態様のいずれかの変形において、癌は、直腸結腸がん、神経芽細胞腫、乳がん、膵がん、脳がん、肺がん、胃がん、血液がん、皮膚がん、精巣がん、前立腺がん、卵巣がん、肝がん、食道がん、子宮頸がん、頭頸部がん、非黒色腫皮膚がん、または膠芽腫でありうる。いくつかの態様において、癌は直腸結腸がんでありうる。いくつかの態様において、直腸結腸がんはステージIでありうる。いくつかの態様において、直腸結腸がんはステージIIでありうる。いくつかの態様において、直腸結腸がんはステージIIIでありうる。いくつかの態様において、直腸結腸がんはステージIVでありうる。上記の態様のいずれかの変形において、本方法は、前記患者内での新しい進行結腸直腸新生物の形成を予防しうる。いくつかの態様において、本方法は、新しい右側進行結腸直腸新生物の形成を予防しうる。いくつかの態様において、本方法は、新しい左側進行結腸直腸新生物の形成を予防しうる。
【0120】
上記の態様のいずれかの変形において、患者は、結腸、直腸または虫垂に1つまたは複数の腺腫性ポリープを有すると同定されていてもよい。いくつかの態様において、患者は、1つまたは複数の進行結腸直腸新生物を有すると同定されていてもよい。いくつかの態様において、患者は、1つまたは複数の左側進行結腸直腸新生物を有すると同定されていてもよい。いくつかの態様において、患者は、1つまたは複数の右側進行結腸直腸新生物を有すると同定されていてもよい。いくつかの態様において、患者は家族性腺腫性ポリポーシスと診断されていてもよい。いくつかの態様において、患者はリンチ症候群と診断されていてもよい。いくつかの態様において、患者は、家族性直腸結腸がんタイプXと診断されていてもよい。いくつかの態様において、患者は、アムステルダム基準またはアムステルダム基準IIを満たしていてもよい。いくつかの態様において、患者には、1つまたは複数の結腸直腸腺腫を切除した履歴があってもよい。いくつかの態様において、患者は、上皮内新生物または前がん病変に関連するODC活性亢進を有してもよい。いくつかの態様において、患者は、上皮内新生物または前がん病変および上昇した細胞ポリアミンレベルを有してもよい。
【0121】
上記の態様のいずれかの変形において、患者はヒトである。
【0122】
VII.定義
本願明細書において使用される場合、「a」または「an」は、1つまたは複数を意味しうる。本願特許請求の範囲において使用される場合、単語「含む(comprising)」と一緒に使用される単語「a」または「an」は、1つまたは1つより大きい数を意味しうる。
【0123】
本願の全体を通して「約」という用語は、値が、その値を決定するために使用される器具、方法に固有の誤差の変動、または研究対象間に存在する変動を含むことを示すために使用される。
【0124】
本明細書において使用される場合、用語「バイオアベイラビリティ」は、薬剤または他の物質が投与後に標的組織にとって利用可能になる程度を表す。この文脈において、用語「適切なバイオアベイラビリティ」とは、本発明の組成物の投与が、活性物質を素錠で投与した後に得られるバイオアベイラビリティと比較して改良されたバイオアベイラビリティをもたらすこと、またはバイオアベイラビリティが同じ量の同じ活性物質を含有する市販品の投与後に得られるバイオアベイラビリティと比較して少なくとも同じか改良されていることを意味するものとする。具体的には、活性化合物の迅速で、より大きな、かつ/またはより完全な取り込みを得て、それにより、投薬量の低減または1日あたりの投与回数の低減をもたらすことが望ましい。
【0125】
「組成物」、「薬学的組成物」、「製剤」および「調製物」という用語は、本明細書では同義語として相互可換的に使用される。
【0126】
「含む」「有する」および「含有する」という用語は、非限定的連結動詞である。これらの動詞のうちの1つまたは複数の任意の形態または時制、例えば「含み」、「含んで」、「有し」、「有して」、「含有し」および「含有して」も、非限定的である。例えば、1つまたは複数の工程を「含む」、「有する」または「含有する」方法はいずれも、当該1つまたは複数の工程だけを包含するとは限定されず、列挙されていない他の工程もその範囲に含む。
【0127】
「その誘導体」という用語は、単量体型サッカライド単位の少なくとも1つが原子または分子群または結合の置換によって修飾されている、任意の化学修飾多糖を指す。一態様において、その誘導体はその塩である。塩は、例えば、適切な鉱酸、例えばハロゲン化水素酸、硫酸またはリン酸などとの塩、例えば塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、硫酸水素塩、またはリン酸塩、適切なカルボン酸、例えばヒドロキシル化されていてもよい低級アルカン酸、例えば酢酸、グリコール酸、プロピオン酸、乳酸、またはピバル酸との塩、ヒドロキシル化されていてもよくかつ/またはオキソ置換されていてもよい低級アルカンジカルボン酸、例えばシュウ酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、酒石酸、クエン酸、ピルビン酸、リンゴ酸、アスコルビン酸との塩、芳香族、複素芳香族または芳香脂肪族カルボン酸、例えば安息香酸、ニコチン酸またはマンデル酸との塩、および適切な脂肪族もしくは芳香族スルホン酸またはN置換スルファミン酸との塩、例えばメタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩またはN-シクロヘキシルスルファミン酸塩(シクラミン酸塩)である。
【0128】
本明細書において使用する用語「崩壊」は、薬学的経口固定用量合剤が、典型的には流体によって、別々の粒子へとばらばらになって分散するプロセスを指す。崩壊は、固形経口剤形が、USP<701>に従って、不溶性コーティングまたはカプセル殻の断片が、もし存在するなら、試験装置のスクリーン上に残っている他は、固形経口剤形のあらゆる残渣が、触知可能な硬い核を持たない柔らかな塊であるような状態にある場合に達成される。崩壊特性を決定するための流体は水、例えば水道水または脱イオン水である。崩壊時間は、当業者に公知の標準的方法によって測定される。薬局方USP<701>およびEP2.9.1およびJPに記載の国際調和された手順を参照されたい。
【0129】
本明細書において使用する用語「溶解」は、固形物質、ここでは活性成分が、媒質中に分子の形で分散するプロセスを指す。本発明の薬学的経口固定用量合剤の活性成分の溶解速度は、液体/固体界面、温度および溶媒組成の標準化された条件下で、単位時間あたりに溶解状態になる原体の量によって定義される。溶解速度は当業者に公知の標準的方法によって測定される。薬局方USP<711>およびEP2.9.3およびJPに記載の国際調和された手順を参照されたい。本発明の目的に関して、試験とは、個々の活性成分の溶解を測定するための試験であり、さまざまな態様について本明細書に記載するpHにおいて、薬局方USP<711>に従って行われる。具体的には、試験は75rpm(回転毎分)のパドル撹拌部品を使って行われる。溶解媒質は好ましくは緩衝液、典型的にはリン酸緩衝液(例えばpH7.2)である。緩衝液のモル濃度は好ましくは0.1Mである。
【0130】
「活性成分」(AI)(活性化合物、活性物質、活性作用物質、薬学的作用物質、作用物質、生物学的活性分子、または治療化合物ともいう)は、薬学的薬剤中または農薬中の生物学的に活性な成分である。医学では薬学的活性成分(API)およびバルク原薬という類似用語も使用され、農薬製剤には活性物質という用語が使用されうる。
【0131】
「薬学的薬剤」(製薬、薬学的調製物、薬学的組成物、薬学的製剤、薬学的製品、医薬製品、医薬、医薬剤、医薬品、または単に薬剤ともいう)は、疾患を診断し、治療し、処置し、または予防するために使用される薬剤である。活性成分(AI)(上に定義したもの)は、薬学的薬剤または農薬中の生物学的に活性な成分である。医学では薬学的活性成分(API)およびバルク原薬という類似用語も使用され、農薬製剤には活性物質という用語が使用されうる。一部の医薬剤および農薬製品は、2つ以上の活性成分を含有しうる。活性成分とは対照的に、不活性成分は、薬学的文脈では、通常、賦形剤と呼ばれる。
【0132】
「有効」という用語は、本明細書および/または請求項において使用される場合、所望の結果、予想される結果、または意図した結果を成し遂げるのに十分であることを意味する。患者または対象を化合物で処置する文脈において使用される場合、「有効量」、「治療有効量」または「薬学的有効量」とは、疾患を処置しまたは予防するために対象または患者に投与された時に、化合物の量が、疾患のそのような処置または予防を達成するのに十分な量であることを意味する。
【0133】
「予防」または「予防すること」は、(1)ある疾患のリスクおよび/または素因があるものの、その疾患の病態または総体症状を何も経験しておらず、呈示してもいない対象または患者における疾患の発症を阻害すること、および/または(2)ある疾患のリスクおよび/または素因があるものの、その疾患の病態または総体症状を何も経験しておらず、呈示してもいない対象または患者における疾患の病態または総体症状の発症を遅らせることを包含する。
【0134】
「処置」または「処置すること」は、(1)ある疾患の病態または総体症状を経験または呈示している対象または患者におけるその疾患を阻害すること(例えば病態および/または総体症状のさらなる発展を停止すること)、(2)疾患の病態または総体症状を経験または呈示している対象または患者における疾患を改善すること(例えば病態および/または総体症状を反転させること)、および/または(3)疾患の病態または総体症状を経験または呈示している対象または患者における疾患の何らかの測定可能な減少を達成することを包含する。
【0135】
「プロドラッグ」とは、インビボで本発明の阻害剤に代謝的に変換されうる化合物を意味する。プロドラッグそのものは、所与の標的タンパク質に関して活性を有する場合も有さない場合もある。例えば、ヒドロキシ基を含む化合物は、インビボで加水分解によってそのヒドロキシ化合物に変換されるエステルとして投与することができる。インビボでヒドロキシ化合物に変換されうる適切なエステルとしては、酢酸エステル、クエン酸エステル、乳酸エステル、リン酸エステル、酒石酸エステル、マロン酸エステル、シュウ酸エステル、サリチル酸エステル、プロピオン酸エステル、コハク酸エステル、フマル酸エステル、マレイン酸エステル、メチレン-ビス-β-ヒドロキシナフトエ酸エステル、ゲンチジン酸エステル、イセチオン酸エステル、ジ-p-トルオイル酒石酸エステル、メタンスルホン酸エステル、エタンスルホン酸エステル、ベンゼンスルホン酸エステル、p-トルエンスルホン酸エステル、シクロヘキシルスルファミン酸エステル、キナ酸エステル、アミノ酸のエステルなどが挙げられる。同様に、アミン基を含む化合物は、インビボで加水分解によってアミン化合物に変換されるアミドとして投与することができる。
【0136】
「賦形剤」は、医薬剤、薬学的組成物、製剤、または薬剤送達システムの活性成分と一緒に製剤化される薬学的に許容される物質である。賦形剤は、例えば組成物を安定化するために、組成物をかさ高くするために(したがって、この目的で使用される場合は、「増量剤」、「充填剤」または「希釈剤」と呼ばれることが多い)、または例えば薬剤吸収を容易にし、粘度を低減し、もしくは溶解性を強化するなど、最終剤形中の活性成分を治療的に強化するために、使用することができる。賦形剤としては、薬学的に許容される種類の接着防止剤、結合剤、コーティング、着色料、崩壊剤、フレーバー、流動促進剤、潤滑剤、保存剤、収着剤、甘味料、および媒体が挙げられる。活性成分を運ぶための媒質として役立つ主要賦形剤は、通常、媒体と呼ばれる。賦形剤は、予想される貯蔵寿命中の変性または凝集の防止など、インビトロ安定性を助長することに加えて、製造プロセスにおいて、例えば粉末の流動性または非粘着性を高めることなどによって、活性物質のハンドリングを助けるために使用することもできる。賦形剤の適性は、典型的には、投与経路、剤形、活性成分、ならびに他の因子に依存して変動するであろう。
【0137】
化合物の修飾語として使用される場合、「水和物」という用語は、その化合物が、例えば固体状の化合物において、各化合物分子に会合した1つ未満の水分子(例えばヘミ水和物)、1つの水分子(例えば一水和物)、または1つを上回る水分子(例えば二水和物)を有することを意味する。
【0138】
単独で使用される場合、「エフロルニチン」という用語は、2,5-ジアミノ-2-(ジフルオロメチル)ペンタン酸を指し、その形態は、非塩型および塩型(例えばエフロルニチンHCl)、非塩型および塩型の無水型および水和物型(例えばエフロルニチン塩酸塩一水和物)、非塩型および塩型の溶媒和物、そのエナンチオマー(R体およびS体、これはd体およびl体と同定することもできる)、それらエナンチオマーの混合物(例えばラセミ混合物、またはエナンチオマーの一方が他方と比較して濃縮されている混合物)を含めて、どれであってもよい。エフロルニチンの具体的な形態として、エフロルニチン塩酸塩一水和物(すなわちCAS ID:96020-91-6; MW:236.65)、エフロルニチン塩酸塩(すなわちCAS ID:68278-23-9; MW:218.63)、および遊離エフロルニチン(すなわちCAS ID:70052-12-9; MW:182.17)が挙げられる。必要な場合は、エフロルニチンの形態が、さらに指定されている。いくつかの態様において、本開示のエフロルニチンはエフロルニチン塩酸塩一水和物(すなわちCAS ID:96020-91-6)である。用語「エフロルニチン」および「DFMO」は、本明細書では相互可換的に使用される。エフロルニチンおよびDFMOの他の同義語として、α-ジフルオロメチルオルニチン、2-(ジフルオロメチル)-DL-オルニチン、2-(ジフルオロメチル)オルニチン、DL-α-ジフルオロメチルオルニチン、N-ジフルオロメチルオルニチン、オルニジル(ornidyl)、αδ-ジアミノ-α-(ジフルオロメチル)吉草酸、および2,5-ジアミノ-2(ジフルロ)ペンタン酸(2,5-diamino-2(difluro)pentanoic acid)が挙げられる。
【0139】
本明細書において使用する場合、指定された構成要素に関して「本質的に含まない」とは、本明細書では、指定されたその構成要素が組成物中に意図的に製剤化されているわけではなく、かつ/または夾雑物として存在するにすぎないことまたは微量にしか存在しないことを意味するために使用される。それゆえに、組成物の何らかの意図せぬ汚染に起因する指定された構成要素の総量は、0.05%よりはるかに低く、好ましくは0.01%未満である。最も好ましいのは、指定された構成要素の量を標準的な分析方法では検出できない組成物である。
【0140】
「固定用量合剤」または「FDC」という用語は、単一の投与単位(例えば錠剤またはカプセル剤)中に存在し、そのままで投与される、定められた用量の2つの薬剤または活性成分の合剤を指し、さらに、本明細書において使用される場合、「自由用量合剤(free dose combination)」とは、同時に投与されるが、2つの相異なる投薬単位として投与される、2つの薬剤または活性成分の合剤を指す。
【0141】
「造粒」は、粉末粒子を、薬学的活性成分を含有する、より大きな顆粒へと集塊させるプロセスを指す。「乾式造粒」は、粉末状の出発材料に液体を何も加えず、撹拌および乾燥によって固形剤形を得る工程を含む、任意のプロセスを指す。結果として得られる顆粒状薬剤製品は、さまざまな最終剤形、例えばカプセル剤、錠剤、カシェ剤、ゲル剤、口中錠などに、さらに加工することができる。
【0142】
特許請求の範囲における「または」という用語の使用は、選択肢だけを指すと明示的に示されている場合または選択肢が相互に排他的である場合を除き、「および/または」を意味するために使用される。ただし本開示は、選択肢だけならびに「および/または」を指す定義をサポートする。 本明細書において使用される「別の(another)」は、少なくとも第2の、またはそれ以上の、を意味しうる。
【0143】
本明細書において使用する場合、「患者」または「対象」という用語は、生きている哺乳類生物、例えばヒト、サル、ウシ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、マウス、ラット、モルモット、またはそれらのトランスジェニック種を指す。一定の態様では、患者または対象は霊長類である。ヒト患者の非限定的な例は成人、青少年、幼児および胎児である。
【0144】
本明細書において一般に使用される「薬学的に許容される」は、妥当な医学的判断の範囲内で、合理的なベネフィット/リスク比に見合って、過剰な毒性、刺激、アレルギー応答、または他の問題もしくは合併症を伴わずに、ヒトおよび動物の組織、器官、および/または体液と接触させて使用するのに適した、化合物、材料、組成物、および/または剤形を指す。
【0145】
「薬学的に許容される担体」、「薬剤担体」、または単に「担体」は、化学的作用物質の運搬、送達、および/または輸送に関与する、活性成分医薬剤と一緒に製剤化される薬学的に許容される物質である。薬剤担体は、例えば、薬剤のバイオアベイラビリティを調整し、薬剤代謝を減少させ、かつ/または薬剤毒性を低減するための放出制御技術を含めて、薬剤の送達および有効性を改良するために使用することができる。いくつかの薬剤担体は、特異的標的部位への薬剤送達の有効性を増加させうる。担体の例として、リポソーム、マイクロスフェア(例えばポリ(乳酸-co-グリコール酸)製のもの)、アルブミンマイクロスフェア、合成ポリマー、ナノファイバー、ナノチューブ、タンパク質-DNA複合体、タンパク質コンジュゲート、赤血球、ビロゾーム、およびデンドリマーが挙げられる。
【0146】
本明細書において定義される「物理的に分離された」という用語は、同じ担体中に互いに混合されるのではなく、分離されるように製剤化された構成要素(a)および(b)の両方を含有する薬学的経口固定用量合剤を指す。この分離は、2つの構成要素間の、特にそれらの放出時の、相互作用を、最小限に抑えるのに役立つ。典型的には、物理的分離は、2つの構成要素(a)および(b)が、製剤の異なる区画、例えば層に存在すること、または製剤の異なる実体として、例えば粒状物または顆粒として、存在することを意味する。それら2つの構成要素(a)および(b)を、追加の層またはコーティングによって、さらに分離する必要はないが、それが適当な場合もありうる。1つの剤形における2つの構成要素(a)および(b)のこの物理的分離は、当技術分野において公知のさまざまな手段によって達成することができる。一態様において、これは、各構成要素(a)および(b)を別々の層に製剤化することによって、例えば多層または二層製剤によって、達成される。そのような製剤技法の具体例を本明細書に記載する。
【0147】
「スティッキング」という用語は、杵面上の文字、ロゴまたはデザイン内を含む、打錠機の杵の面への顆粒の付着を指す。
【0148】
「キャッピング」という用語は、錠剤本体からの錠剤のキャップまたは上部の分裂または破壊を指す。キャッピングは、圧縮中に空気が押し出される時に移動する非圧縮性の微粒子によって引き起こされうる。
【0149】
「摩損度」という用語は、本明細書では、圧縮後に砕け、崩れ、または壊れる、錠剤の傾向を指す。これは、不十分な錠剤デザイン(鋭すぎる縁部)、低含水率、不十分な結合剤などを含む、いくつかの因子によって起こりうる。いくつかの局面において、錠剤試料の摩損度は、重量減少%(すなわち元の試料重量に対するパーセントとして表される重量喪失量)で与えられる。一般に、1%を上回らない最大重量減少は、大半の錠剤にとって、許容できるとみなされる。
【0150】
本明細書において使用される「放出」という用語は、薬学的経口固定用量合剤が流体と接触して、その流体が薬剤を剤形の外に向かって剤形を取り巻く流体中へと輸送するプロセスを指す。患者において所与の剤形が呈する送達速度と送達持続時間の組合せは、そのインビボ放出プロファイルとして記述することができる。剤形の放出プロファイルは、さまざまな放出速度および放出持続時間を呈することができ、連続的であることができる。連続的放出プロファイルには、1つまたは複数の活性成分が一定の速度または可変的速度のいずれかで連続的に放出される放出プロファイルが含まれる。異なる放出プロファイルを有する2つ以上の構成要素を1つの剤形に組み合わせた場合、その結果得られるそれら2つの構成要素の個々の放出プロファイルは、それら構成要素のうちの1つだけを有する剤形と比較して、同じであっても、異なってもよい。したがって、2つの構成要素は、互いの放出プロファイルに影響を及ぼして、個々の構成要素について異なる放出プロファイルをもたらす場合がある。
【0151】
二構成要素剤形は、互いに同一であるまたは異なる、2つの構成要素の放出プロファイルを呈することができる。各構成要素が異なる放出プロファイルを有する二構成要素剤形の放出プロファイルは「非同期性」と記載することができる。そのような放出プロファイルは、(1)好ましくは構成要素(b)が構成要素(a)よりも遅い速度で放出される異なる連続的放出、および(2)構成要素(a)および構成要素(b)のうちの一方、好ましくは構成要素(b)が連続的に放出され、構成要素(a)および(b)の他方、好ましくは構成要素(a)が、遅延して連続的に放出されるように修飾されているプロファイルを、どちらも包含する。1つの薬剤に対する2つの放出プロファイルの組合せ(例えば薬剤の50%は連続的であり、同じ薬剤の50%は遅延して連続的であること)も可能である。
【0152】
即時放出:本発明の目的に関して、即時放出製剤とは、特殊な製剤デザインまたは製造方法によって計画的に修飾されていない、活性物質の放出を示す製剤である。
【0153】
放出調節:本発明の目的に関して、放出調節製剤とは、特殊な製剤デザインまたは製造方法によって計画的に修飾された、活性物質の放出を示す製剤である。この放出調節は、典型的には、構成要素のうちの一方または両方、好ましくは構成要素(a)の放出時間を遅延させることによって得ることができる。典型的には、本発明の目的に関して、放出調節とは、5時間にわたる放出、例えば3時間またはさらに短い時間にわたる放出を指す。本明細書にいう放出調節は、2つの構成要素の経時的に異なる連続放出、または構成要素のうちの一方、好ましくは構成要素(a)が遅延時間後にしか放出されない遅延放出をどちらもを包含するものとする。そのような放出調節剤形は、原体に放出調節コーティング、例えば拡散コーティングを適用することによって、または原体を包埋する放出調節マトリックスを作り出すことによって、生産することができる。
【0154】
「錠剤」という用語は、任意の形状の小さくて本質的に固形のペレットの形態にある薬理学的組成物を指す。錠剤の形状は、円柱状、球状、矩形、カプセル状、または不規則であることができる。「錠剤組成物」という用語は錠剤に含まれている物質を指す。「錠剤組成物構成成分」または「錠剤構成成分」とは、錠剤組成物中に含まれている化合物または物質を指す。これらには、低融点化合物および水溶性賦形剤に加えて、活性物および任意の賦形剤が含まれうるが、それらに限定されるわけではない。
【0155】
上記の定義は、参照により本明細書に組み入れられる参考文献のいずれかにおけるどの対立的定義にも優先される。しかし、一定の用語が定義されているからといって、その事実が、定義されていないいずれかの用語が不明瞭であることを示しているとみなしてはならない。むしろ、使用される用語はすべて、当業者が本発明の範囲および実施を理解することができるように、明確に本発明を説明していると考えられる。
【0156】
本明細書において使用される単位の略号には、平均結果(ar)、キロポンド(kp)、キロニュートン(kN)、重量/重量パーセント(%w/w)、ポンド毎平方インチ(psi)、RH(相対湿度)、色差デルタE(dE)、および回転毎分(rpm)がある。
【実施例0157】
VIII.実施例
本発明の好ましい実施形態を実証するために、以下の実施例を含める。以下の実施例において開示する技法は、本発明の実施においてうまく機能することを本発明者らが発見した技法に相当し、それゆえに、その実施のための好ましい形態を構成するとみなしうることは、当業者には理解されるはずである。しかし、当業者は、本開示に照らして、開示される具体的態様には多くの変更を加えることができ、それでもなお本発明の要旨および範囲から逸脱することなく、同様のまたは類似する結果が得られることを、理解すべきである。
【0158】
実施例1-エフロルニチンHClおよびスリンダク合剤錠の開発
エフロルニチンHClおよびスリンダクを含む固定用量合剤(FDC)錠の開発プロセスにおいて、数種類の製剤を試験した(表1)。試験したパラメータには、錠剤崩壊時間、錠剤硬度、および錠剤摩損度のパーセンテージを含めた。
【0159】
製剤Iは、まずケイ化MCC(PROSOLV(登録商標))の1/3をエフロルニチンHClと1クォートvブレンダーで混合することによって、900mg錠に製造した。次に、スリンダクとケイ化MCC(PROSOLV(登録商標))の1/3とをポリエチレン(PE)バッグ中でプレミックスし、コロイド状二酸化ケイ素(CARBOSIL(登録商標))およびアルファ化トウモロコシデンプン(STARCH 1500(登録商標))と共にブレンダーに加えた。PEバッグをケイ化MCC(PROSOLV(登録商標))の残り1/3で濯ぎ、ブレンダーに加えた。そのミックスを約25rpmで10分間ブレンドしてから、手で選別したステアリン酸マグネシウムを加え、次に、さらに3分間ブレンドした。この製剤は杵表面に多少のスティッキングを有することがわかり、粗い錠剤表面をもたらした。そこで製剤IIでは、ステアリン酸マグネシウムを0.5%から1%に増やし、ケイ化MCCを38.57%から38.07%に減らした。
【0160】
製剤IIは、CARBOSIL(登録商標)、STARCH 1500(登録商標)、およびスリンダクをPEバッグ中でプレミックスすることによって、900mg錠に製造した。次に、PROSOLV(登録商標)の1/2およびエフロルニチンHClを、8クォートvブレンダーに、前記プレミックスと共に加えた。PROSOLV(登録商標)の残り1/2を使ってPEバッグを濯ぎ、ブレンダーに加えた。そのミックスを約25rpmで10分間ブレンドした。次に、そのミックスをブレンダーから取り出し、Comill 039Rスクリーンによって崩してから、vブレンダーに戻してさらに10分間ブレンドした。次に、30メッシュ(すなわち590μm)スクリーンによって手で選別したステアリン酸マグネシウムを、用手混合することによってvブレンダーに加え、そのミックスを約25rpmで3分間ブレンドした。そのミックスをKey Model BBTS 10ステーションで錠剤に圧縮した。結果として得られた錠剤は、約29~32秒の崩壊時間、4分で0.077%および8分で0.17392%の摩損度、ならびに約28kpの硬度を有することが決定された(表1)。次に、その錠剤を、2.913重量パーセントのOPADRY(登録商標)Yellow(Colorcon)でフィルムコーティングすることにより、O'Hara Labcoat, 12''パンを使って927mgの錠剤を生産した。これらのフィルムコーティング錠は約36.0~42.1kpの硬度および1分27秒~1分53秒の崩壊時間を有した。
【0161】
製剤IIIは、CARBOSIL(登録商標)、PROSOLV(登録商標)の第2部分、およびスリンダクをPEバッグ中でプレミックスすることによって、650mg錠に製造した。次に、PROSOLV(登録商標)の第1部分の1/2およびエフロルニチンを、8クォートvブレンダーに、前記プレミックスと共に加えた。PROSOLV(登録商標)の第1部分の残り1/2を使ってPEバッグを濯ぎ、vブレンダーに加えた。そのミックスを約25rpmで10分間ブレンドした。次に、そのミックスをブレンダーから取り出し、Comill 039Rスクリーンによって崩してから、vブレンダーに戻してさらに10分間ブレンドした。次に、30メッシュ(すなわち590μm)スクリーンによって手で選別したステアリン酸マグネシウムを、用手混合することによってvブレンダーに加え、そのミックスを約25rpmで3分間ブレンドした。そのミックスをKey Model BBTS 10ステーションで錠剤に圧縮した。結果として得られた錠剤は、約51~57秒の崩壊時間、4分で0.2607%~0.3373%および8分で0.8988%~1.008%の摩損度、ならびに約13kpの硬度を有することが決定された。次に、その錠剤を、2.913重量パーセントのOPADRY(登録商標)Yellow(Colorcon)でフィルムコーティングすることにより、O'Hara Labcoat, 12''パンを使って669.5mgの錠剤を生産した。これらのフィルムコーティング錠は約36.0~42.1kpの硬度および1分27秒~1分53秒の崩壊時間を有した。この製剤の重量は900mgから650mgに低減しており、錠剤強度を増加させるためにSTARCH 1500(登録商標)がPROSOLV(登録商標)で置き換えられた。しかし摩損度試験中およびフィルムコーティングプロセス中にキャッピングが観察された。
【0162】
製剤IIIと同じプロセスを使って製剤IVを700mg錠に製造した。結果として得られた錠剤は、1分10秒~約1分34秒の崩壊時間、4分で0.1424%~0.1567%および8分で0.3186%~0.5166%の摩損度、ならびに約20kpの硬度を有すると決定された。次に、その錠剤を、2.913重量パーセントのOPADRY(登録商標)Yellow(Colorcon)でフィルムコーティングすることにより、O'Hara Labcoat, 12''パンを使って721mgの錠剤を生産した。これらのフィルムコーティング錠は1分43秒~2分7秒の崩壊時間を有した。この製剤ではPROSOLV(登録商標)の量を増やし、錠剤重量が650mgから700mgに増えた。キャッピングは摩損度試験中には観察されなかったが、3錠はフィルムコーティング中にキャッピングを起こした。
【0163】
(表1)エフロルニチンHCLおよびスリンダク固定用量合剤錠の製剤I~IV
【0164】
(表2)エフロルニチンHCLおよびスリンダク固定用量合剤錠の例示的製剤
【0165】
【0166】
【0167】
実施例2-製剤IVの開発
実施例1から、キャッピングおよびスティッキングを防止するために、どのパラメータを変更することができるかを決定するために、製剤IVをさらに試験した。試験した最初のパラメータは圧縮力および圧縮力の約5~15%でのプレ圧縮力の追加であった(表5)。製剤IV 700mg錠を約20kpの硬度に到達させるための圧縮力およびプレ圧縮力を評価するために、数回の試行を行った。1回目の試行では、設備C(表9)を使って、製剤IV 700mg錠の最終ブレンドを製造した。この製造プロセスでは、CARBOSIL(登録商標)、PROSOLV(登録商標)の第2部分およびスリンダクをPEバック中でプレミックスした。次に、PROSOLV(登録商標)の第1部分の1/2およびエフロルニチンを、10クォートvブレンダーに、前記プレミックスと共に加えた。PROSOLV(登録商標)の第1部分の残り1/2を使ってPEバッグを濯ぎ、vブレンダーに加えた。そのミックスを約7rpmで35分間ブレンドした。次に、そのミックスをブレンダーから取り出し、Frewitt TC150 1.0 mmスクリーンによって崩してから、vブレンダーに戻してさらに35分間ブレンドした。次に、ステアリン酸マグネシウムを500μmスクリーンによって手で選別し、7rpmで10分間の最終ブレンドのために、用手混合によってvブレンダーに加えた。圧縮工程は、5本の17.5×8mm刻印付きクロムメッキ杵を装着したCourtoy Modul P打錠機で行った。17.0~22.5kpの硬度が得られるようにパラメータを設定した。プレ圧縮がない場合は、キャッピングが観察されることがわかった。しかし、プレ圧縮力の使用によって硬度は増加し、キャッピングは回避された(表10)。加えて、プレ圧縮力を使って形成された錠剤は摩耗に対する耐性が高かった(すなわち摩損度が低かった)。加えて、実施例1において使用したKey BBTS 10ステーション打錠機の16.5×8mm杵の方が、摩耗を起こしやすいようだった。
【0168】
(表5)製剤IVについて試験した圧縮パラメータ
NA: 適用せず
(*)プレ圧縮なしで到達しうる最大硬度
【0169】
2回目の試行では、杵表面を変えることで、製剤IV錠に対するその効果を決定した(表11)。この試行では設備Bを使って、製剤IV 700mg錠の最終ブレンドを製造した。この製造プロセスでは、CARBOSIL(登録商標)、PROSOLV(登録商標)の第2部分およびスリンダクをPEバック中でプレミックスした。次に、PROSOLV(登録商標)の第1部分の1/2およびエフロルニチンを、10クォートvブレンダーに、前記プレミックスと共に加えた。PROSOLV(登録商標)の第1部分の残り1/2を使ってPEバッグを濯ぎ、vブレンダーに加えた。そのミックスを毎分約30サイクルで8分30秒間ブレンドした。次に、そのミックスをブレンダーから取り出し、CMA 1.0mmスクリーンによって崩してから、vブレンダーに戻してさらに8.5分間ブレンドした。次に、ステアリン酸マグネシウムを500μmスクリーンによって手で選別し、毎分30サイクルで2分20秒の最終ブレンドのために、用手混合によってvブレンダーに加えた。圧縮工程は、2本の17.5×8mm刻印付きスティッキング防止クロムメッキ杵を装着したKorsch XL100打錠機で行った。プレ圧縮は、30kN前後であるメイン圧縮力の5~10%に設定した。ステンレススチールとの対比でクロム、カーボン、タングステン、およびテフロンを含むいくつかの異なる杵表面も試験した。いくつかの態様では、スティッキングを低減するために、テフロンを使用しうる。
【0170】
スティッキングを避けるために、さらにいくつかの変数を試験し、圧縮のまさに最初に、高い拘束を課した。1.1%ステアリン酸マグネシウムによる潤滑処理も、70回転から140回転への潤滑処理時間の増加も、スティッキングを防止しなかった(表11および表12)。しかし、ステアリン酸マグネシウムの比を1.5%に増加させることで、スティッキングは防止され(表12)、錠剤硬度は約20%のわずかな減少を伴ったが、摩損度は依然として極めて低く、4分後に0.1%未満であった。種類の異なる破断線を持つ2タイプの杵(17×9mmおよび16.5×7mm)では、破断性結果は、試験した杵のどちらも、適合していた。このように、ステアリン酸マグネシウムを1.5%に増加させることでスティッキングが防止され、プレ圧縮によって製剤IVのキャッピングが防止される。
【0171】
(表6)試行1および試行2における製剤IVのバッチ重量
【0172】
(表7)製剤IVに関するさまざまな量のステアリン酸マグネシウム
(*)ステアリン酸マグネシウムのパーセンテージを増加させるための、希釈後に得られた処方。結果として、API濃度は目標よりわずかに低い。
【0173】
【0174】
【0175】
(表10)製剤IVに対するプレ圧縮力の効果を調べるための1回目の試行のパラメータおよび結果
【0176】
(表11)製剤IVに対する杵表面の効果を調べるための2回目の試行のパラメータおよび結果
【0177】
(表12)製剤IVに対する最終混合継続時間およびステアリン酸マグネシウムの効果を調べるための2回目の試行のパラメータおよび結果
(*)10錠での試験
【0178】
(表13)製剤IVに対する圧縮力の効果を調べるための試行のパラメータおよび結果
(*)30錠での試験 (**)10錠での試験 NA: 適用せず
【0179】
製剤IV合剤錠、エフロルニチン単剤錠およびスリンダク単剤錠の安定性を試験した。含水量を決定するためにKarl Fischer滴定法を使って、製剤IV錠の安定性分析を、6ヶ月時点で行った(
図1)。
図1には、製剤IVの合剤錠での6ヶ月にわたる水取り込み量がエフロルニチン単剤錠と比較して少なかったことが示されている。水は薬剤の力価および薬剤の溶解に影響を及ぼしうる。例えば水は加水分解による薬剤分解の速度を増加させる場合がある(Gerhardt, 2009)。したがって、いくつかの態様において、本明細書において提供される合剤錠は、単一活性作用物質錠の一方または両方よりも安定である。
【0180】
最後に、製剤IVの溶解プロファイルも試験した。溶解研究は、50mMリン酸ナトリウム緩衝液媒質中、7.2のpHで、パドル撹拌部品を使って75rpmで行った(USP<711>溶解装置II(パドル)(Dissolution Apparatus II(Paddle)))(
図2A~2B)。この方法は、エフロルニチン(elfonithine)およびスリンダクの溶解に関して、レベルIIでバリデーションされた。薬学的活性成分エフロルニチンおよびスリンダクの干渉は、薬学的活性成分間でも、溶解媒質でも、リン酸緩衝液でも、賦形剤でも観察されなかった。驚いたことに、製剤IVの固定用量合剤は、単剤錠と比較してオーバラップするインビトロ溶解プロファイルを有することが観察された。
【0181】
実施例3-薬剤賦形剤およびコーティング適合性
エフロルニチンHCl/スリンダク合剤錠について非cGMP薬剤賦形剤適合性研究を行った。一連の試料を使って外観、HPLCアッセイおよびXRPD特性を評価した。試験した賦形剤には、PVP、HPMC、ラクトース、EXPLOTAB(商標)、Ac-Di-Sol(登録商標)、PROSOLV(登録商標)、STARCH 1500(登録商標)、およびOPADRY(登録商標)Yellowを含めた。賦形剤適合性のために調製された試料は、5:1のエフロルニチンHCl:スリンダク調製物および約6:1:0.3のエフロルニチンHCl:スリンダク:H2O調製物を除いて、すべて、APIと賦形剤との1:1の物理的混合物であった。大半の試料の総質量は約750mgであった。調製では、構成要素を20ccシンチレーションバイアルに量り取り、閉じ、約30秒間ボルテックスした。次に、試料を40℃/75%RHの安定性試験チャンバで4週間貯蔵した。チャンバで貯蔵している間は、バイアルの蓋は緩く閉めて、遮光しておいた。
【0182】
外観の観察はHPLC分析用に調製したバイアルの目視によって行った。賦形剤適合性試料は緩衝液(50mMリン酸緩衝液pH2.55)中の50%アセトニトリルで抽出した。試料の一部(約150mg)を量り分けることによってスリンダクだけを含有する試料を調製し、エフロルニチンとスリンダクの最終濃度がそれぞれ9.5mg/mLおよび0.1mg/mLになるように、予め決定された体積に抽出した。適合性試料の残りは、抽出溶媒を使って、エフロルニチンとスリンダクの最終濃度が上記とほぼ同じになるように予め決定された体積の抽出溶媒に定量的に移すことによって調製した。賦形剤適合性試料は、両活性物エフロルニチンおよびスリンダクを検出することができる方法を使って分析した(
図4A)。この方法は勾配逆相HPLCを195nmにおける紫外(UV)検出で使用する。
【0183】
XRPD分析は、Bragg-Brentano配置のBruker AXS D8 Advanceシステムで、CuKα放射線を使って行った。以下のパラメータを使って室温で試料を分析した: 40kV、40mA、発散スリットおよび散乱防止スリット1°、0.05°ステップおよび1秒/ステップ時間で2~40°2θを連続モードで測定する方法。9ポジションオートサンプラアクセサリにおいて、回転トップフィル(top-filled)スチール製試料ホルダを使って、3~25mgの試料を分析した。トレーサブル標準を使ってシステムを較正した。結果を
図4B~4Cに示す。
【0184】
エフロルニチンHClとPVP K30は、2週時試料に始まって4週時に液体になる試料中の水分を示した。スリンダクとPVPK30は、2週時に試料の粘着を示し、それが4週時まで継続した。PVPK30賦形剤は単独では、2週時試料に始まって4週時に液体になる水分を示した。エフロルニチンHCl試料でも同じ挙動が観察されたが、スリンダク試料では観察されなかった。試験した試料の大半についてHPLCアッセイ結果は、異なる時点での特徴的な傾向(増加または減少)を示さない。いくつかの試料で異常に低いアッセイ値があったが、アッセイレベルは、むしろ増加傾向を示したか、または4週間にわたって比較的一定なままである。アッセイ結果の最も高い変動性は、スリンダク/エフロルニチンProSolv SMCC90試料で観察された。4週時点でのアッセイ値は、最初のアッセイ結果より10.0%高かった。この変動性は(バリデーションされていない)方法および異なる時点における試料の一貫性が一因であるだろう。バリデーションされた方法の許容されるランダム分析誤差は2%であるが、この方法の変動性は不明である。一部の試料を除き、異なる時点で試験した試料のそれぞれにおけるアッセイ値は、分析方法の通常許容される2%ランダム誤差内である。試験したストレス条件下で、APIであるエフロルニチンおよびスリンダクに、特徴的な傾向はない。この研究の結果は、両API(エフロルニチンHCl/スリンダク)が賦形剤候補と適合していたことを示唆している。
【0185】
エフロルニチンHCl/スリンダク合剤製品に関して、製剤賦形剤候補を伴うAPIの結晶性を決定するために、XRPD分析によって、薬剤賦形剤適合性研究を行った。XRPDの結果は、40℃/75%RHで4週間後に、APIと賦形剤との間に相互作用がないことを示した。これにより、両API(エフロルニチンHCl/スリンダク)は賦形剤候補と適合することが示された。
【0186】
25℃/60%RHまたは40℃/75%RHの含水率での1ヶ月および3ヶ月における安定性への効果を決定するために、錠剤上でコーティングの試行を行った。コーティングには、3パーセントまたは4パーセントの重量増加でOPADRY(登録商標)Yellow(Colorcon、03B92557)、OPADRY(登録商標)White(Colorcon Y-1-7000)、OPADRY(登録商標)II White(Colorcon 85F18422)、およびOPADRY(登録商標)Clear(Colorcon YS-3-7413)を含めた。安定性試験に付した錠剤と初期コーティング錠との間のトータル色差(total color difference)、すなわちDEを評価するために、カラーアイ(color eye)測定を行った。
【0187】
錠剤の色はDatacolor Spectraflash 600シリーズ分光測光器を使って試験した。データは国際照明委員会(CIE)L*a*b*表色系を使って分析した。L*a*b*表色系では、色が三次元空間における座標として表される。明暗はL*軸にプロットされ、L=100は純粋な白色を表し、L=0は純粋な黒色を表す。a*軸およびb*軸はそれぞれ赤/緑および青/黄の2つの補色ペアを表す。色を幾何学的にプロットすれば、以下の式を使って2点間の距離を計算することによって、2つの色の差(トータル色差=E*)を決定することができる。
DE* =[(L*1 - L*2)2 +(a*1- a*2)2+(b*1 - b*2)2]1/2
【0188】
Datacolorを使って、さまざまなコーティング製剤の各重量増加において、各錠剤を分析した。DE値がゼロに近いほど、試験した錠剤の色は色標準(初期試料)に近い。白色コーティングに関して(QC検査に合格するための)Colorconの標準スペックは1.5未満のDE値であるだろう。白色フィルムコーティングを持つ安定性試験試料はすべてその1.5DEを超えるので、Colorconの標準QC検査には合格しないであろう(表14)。クリアコーティング錠も、1.5の値を大きく上回った。
【0189】
(表14)安定性試験に付したコーティング錠のDE値
【0190】
最も良いDE結果は黄色製剤でコーティングされた錠剤にみられた。DE値は1.5を大きく下回った。1以下のDE値(トータル色差)であればヒトの眼には感知できないと考えられる。黄色コーティングに関するColorconの典型的な内部仕様は、概ね2.5~3のDE値である。したがって、合剤錠のコーティングには、OPADRY(登録商標)Yellowを使用した。
【0191】
実施例4-固定共製剤化エフロルニチン/スリンダクの生物学的同等性研究
空腹条件下で正常健常対象に単独服用されるか共投与されたエフロルニチンまたはスリンダクを含有する個別錠剤との比較で、エフロルニチン/スリンダクを含有する共製剤化錠剤の経口投与後の血漿におけるエフロルニチン、スリンダク、スリンダクスルフィド、およびスリンダクスルホンの薬物動態パラメータを比較するために、パイロット研究を行った。この研究の二次的目的は、正常健常対象に単独服用されるか共投与された個別製剤との比較で、エフロルニチン/スリンダク共製剤化錠剤の安全性および忍容性を決定することであった。
【0192】
この研究は、少なくとも18歳であるが60歳を超えない男女12人の対象を含んだ。主要組み入れ基準は、軽度喫煙者、非喫煙者、または喫煙経験者;ボディマス指数(BMI)≧18.50kg/m2かつ<30.00kg/m2; 12誘導ECGを実施した時に臨床的意味のある異常が見いだされないこと(対象はECGの前に10分間背臥位でいることを求められ、要求されたすべての採血の前にECGを行った);女性対象の場合は妊娠検査陰性;ならびに病歴、全身理学検査(バイタルサインを含む)および臨床検査(一般生化学、血液学、および尿検査)に基づいて健常であることとした。
【0193】
対象を、以下の群を含む4つの処置群で処置した:
・処置1:共製剤化されたエフロルニチン375mg/スリンダク75mg錠の単回750/150mg投与(375/75mg錠×2)
・処置2:エフロルニチン250mg錠の単回750mg投与(250mg錠×3)
・処置3:スリンダク150mg錠の単回150mg投与(150mg錠×1)
・処置4:同時に投与されるスリンダク150mg錠の単回150mg投与(150mg錠×1)およびエフロルニチン250mg錠の単回750mg投与(250mg錠×3)。
【0194】
各対象を28日間で4つの異なる処置を受けるように割り当てた。割り当てられた処置の単回経口投与を、各試験期間中に空腹条件下で施行した。処置の施行は7暦日の休薬を挟んで行った。各対象につき80回で合計120の血液試料を収集した。最初の血液試料は薬剤投与前に収集し、他の血液試料は、薬剤投与の0.25、0.5、0.75、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、5、6、8、10、12、16、24、36および48時間後に収集した。分析物はMS/MS検出によるHPLCで測定した。アッセイ範囲は、エフロルニチンについては35.0ng/mL~35000.0ng/mL、スリンダクについては30.0ng/mL~15000.0ng/mL、ならびにスリンダクスルホンおよびスリンダクスルフィドについては10.0ng/mL~8000.0ng/mLであった。安全性は、有害事象(AE)、標準的検査室評価、バイタルサイン、およびECGの評価によって評価した。
【0195】
薬物動態パラメータの数学的モデルおよび統計学的方法:主な吸収および動態パラメータは、対数線形終末相仮定の下、ノンコンパートメントアプローチを使って算出した。台形公式を使って曲線下面積を推定した。終末相推定は決定係数の最大化に基づいた。この治験の薬物動態パラメータは、Cmax、Tmax、AUC0-T、AUC0-∞、AUC0-T/∞、λZおよびThalfとした。統計解析は薬物動態パラメータのパラメトリックANOVAモデルに基づき、Cmax、AUC0-TおよびAUC0-∞の幾何平均の比の両側90%信頼区間は、ln変換データに基づき、Tmaxはランク変換した。使用したANOVAモデルでは順序、期間および処置の因子が固定され、ランダム因子は順序内にネストされた対象である。
【0196】
薬物動態パラメータには、Cmax(最大血漿中濃度観測値)、Tmax(最大血漿中濃度観測値の時刻; 2つ以上の時点で起こる場合、Tmaxはこの値をとる最初の時点と定義される)、TLQC(最後に観察された定量可能な血漿中濃度の時刻)、AUC0-T(線形台形法を使って0からTLQCまで計算される血漿中濃度時間曲線下の累積面積)、AUC0-∞(AUC0-T+CLQC/λz(式中、CLQCは時刻TLQCにおける推定濃度である)として算出される、無限大に外挿された血漿中濃度時間曲線下の面積)、AUC0-T/∞(AUC0-∞に対するAUC0-Tの相対的パーセンテージ)、TLIN(対数線形排出相が始まる時点)、λz(濃度対時間曲線の終末線形部分の線形回帰によって推定される、見かけの排出速度定数)、およびThalf(ln(2)/λzとして算出される終末消失半減期)を含めた。
【0197】
(表15)エフロルニチンの薬物動態パラメータ
*メジアン(範囲)
【0198】
(表16)スリンダクの薬物動態パラメータ
*メジアン(範囲)
** AUC
0-∞、 λ
ZおよびT
halfについてはn=7
***AUC
0-∞、λ
ZおよびT
halfについてはn=8
【0199】
生物学的同等性の基準:エフロルニチンの統計的推論は、ln変換パラメータCmax、AUC0-TおよびAUC0-∞に関して処置1と処置2、処置2と処置4および処置1と処置4の間の相違の指数関数から算出される幾何LS平均の比および対応する90%信頼区間を使って、それらがすべて80.00~125.00%の範囲になければならないとする、生物学的同等性アプローチに基づくものとした。スリンダクの統計的推論は、ln変換パラメータCmax、AUC0-TおよびAUC0-∞に関して処置1と処置3、処置3と処置4および処置1と処置4の間の相違の指数関数から算出される幾何LS平均の比および対応する90%信頼区間を使って、それらがすべて80.00~125.00%の範囲になければならないとする、生物学的同等性アプローチに基づくものとした。同じ基準をスリンダクスルフィドおよびスリンダクスルホンにも適用するものとし、結果は、同等な治療アウトカムの裏付けとなる証拠として提示するものとした。
【0200】
安全性結果:合計12人の対象が研究に参加し、すべての対象が、研究対象である4つの処置を受けた。この研究に参加したどの対象についても、重篤有害事象(SAE)および死亡は報告されなかった。安全上の理由で研究実施者が脱落させた対象はいなかった。この研究に参加した12人の対象のうち4人(33%)によって、治療下で発現した有害事象(TEAE)が合計4つ報告された。これらの事象のうち、2つは処置1の施行後に起こり、1つは処置3の施行後に起こり、残りの1つは処置4の施行後に起こった。処置2の施行を受けた対象はいかなるTEAEも報告しなかった。研究中に起こったTEAEの半数は薬剤投与に関係するとみなされた。
【0201】
この研究中のTEAEは低い発生率で起こり、1処置群あたり1人の対象(8%)が経験した。処置4の施行後に口内乾燥が報告され、処置3の施行後に上気道感染が報告され、処置1の施行後には、血管穿刺部位の挫傷および頭痛が、それぞれ報告された。
【0202】
TEAEの発生率は処置3および処置4が施行された対象では同じで(8%)、処置1が施行された対象で報告されたもの(17%)よりわずかに低かった。処置1および処置4が施行された対象では同じ発生率(8%)で薬剤関連TEAEが報告されたのに対し、処置3が施行された対象は薬剤関連TEAEを経験しなかった。この研究中に起こったTEAEの強度は、軽度(3/4、75%)および中等度(1/4、25%)とみなされた。この研究中に重篤なTEAEを経験した対象はなかった。
【0203】
異常な臨床検査値はすべて、それぞれの参照範囲よりわずかに高いか低いかであり、研究実施者が臨床的に意味があるとみなすものはなかった。さらにまた、この研究における対象のバイタルサインおよびECGにも、臨床的に意味がある異常はなかった。すべての理学的検査は正常と判断された。全体として、試験した薬剤は一般に安全であり、この研究に参加した対象にとって忍容性が高かった。
【0204】
処置1と処置2の間でのエフロルニチンの比較:薬物動態結果は、エフロルニチンのCmax、AUC0-T、およびAUC0-∞の幾何LS平均比および対応する90%信頼区間が、いずれも80.00%~125.00%の範囲内に含まれたことを実証している。この比較の結果は、処置1と処置2とを空腹条件下で施行した場合に生物学的同等性基準が満たされたことを示しており、エフロルニチン/スリンダクを含有する共製剤化錠剤とエフロルニチンだけを含有する錠剤との間で、エフロルニチンのバイオアベイラビリティが同等であることを実証している。
【0205】
(表17)処置1対処置2におけるエフロルニチンの統計解析の要約
*単位は、C
maxについてはng/mL、AUC
0-TおよびAUC
0-∞についてはng・h/mLである。
【0206】
処置2と処置4の間でのエフロルニチンの比較:薬物動態結果は、エフロルニチンのCmax、AUC0-T、およびAUC0-∞の幾何LS平均比および対応する90%信頼区間が、いずれも80.00%~125.00%の範囲内に含まれたことを実証している。この比較の結果は、処置2と処置4とを空腹条件下で施行した場合に生物学的同等性基準が満たされたことを示しており、スリンダクと、エフロルニチンの個別錠剤との共投与は、単独で投与された場合のエフロルニチンのバイオアベイラビリティに影響を及ぼさなかったことを実証している。
【0207】
(表18)処置2対処置4におけるエフロルニチンの統計解析の要約
*単位は、C
maxについてはng/mL、AUC
0-TおよびAUC
0-∞についてはng・h/mLである。
【0208】
処置1と処置4の間でのエフロルニチンの比較:薬物動態結果は、エフロルニチンのCmax、AUC0-T、およびAUC0-∞の幾何LS平均比および対応する90%信頼区間が、いずれも80.00%~125.00%の範囲内に含まれたことを実証している。この比較の結果は、処置1と処置4とを空腹条件下で施行した場合に生物学的同等性基準が満たされたことを示しており、エフロルニチン/スリンダクを含有する共製剤化錠剤と、それぞれエフロルニチンまたはスリンダクを含有する個別錠剤の同時投与とでは、エフロルニチンのバイオアベイラビリティが類似していることを実証している。
【0209】
(表19)処置1対処置4におけるエフロルニチンの統計解析の要約
*単位は、C
maxについてはng/mL、AUC
0-TおよびAUC
0-∞についてはng・h/mLである。
【0210】
処置1と処置3の間でのスリンダクの比較:薬物動態結果は、スリンダクのCmax、AUC0-T、およびAUC0-∞の幾何LS平均比および対応する90%信頼区間(90CI)のすべてが80.00%~125.00%の範囲内に含まれたわけではないことを実証している。Cmaxの90CIの下限は80.00%の限度未満であった。比はすべてのPKパラメータについて80.00%~125.00%の範囲内にあったので、対象内変動が、Cmaxの下限がBE範囲外になったことの説明になるかもしれない。この比較について得られた結果は、このパイロット研究において使用した 試料サイズが、共製剤化された錠剤およびスリンダク単独からスリンダクバイオアベイラビリティの同等性を実証するには十分でなかったことを実証している。
【0211】
(表20)処置1対処置3におけるスリンダクの統計解析の要約
*単位は、C
maxについてはng/mL、AUC
0-TおよびAUC
0-∞についてはng・h/mLである。
** AUC
0-∞についてはn=7
【0212】
データによれば、すべての比較間での変動性を組み入れた対象内変動は、Cmaxについては約24.6%、AUC0-Tについては約12%である。統計的には、幾何LS平均の予想される処置1対処置3比が90%~110%内に入ったことを考えると、少なくとも80%の統計的事前分析力で80.00~125.00%の生物学的同等性範囲を満たすための対象の数は、将来の中枢的研究では約54になるだろうと推論される。60人の対象を含めれば、脱落の可能性および推定される対象内CV前後の変動を考慮するのに十分なはずである。
【0213】
処置3と処置4の間でのスリンダクの比較:薬物動態結果は、スリンダクのCmax、AUC0-T、およびAUC0-∞の幾何LS平均比および対応する90%信頼区間が、いずれも80.00%~125.00%の範囲内に含まれたことを実証している。この比較の結果は、処置3と処置4とを空腹条件下で施行した場合に生物学的同等性基準が満たされたことを示しており、エフロルニチンまたはスリンダクを含有する個別錠剤の同時投与が、単独で投与された場合のスリンダクのバイオアベイラビリティに影響を及ぼさなかったことを実証している。
【0214】
(表21)処置3対処置4におけるスリンダクの統計解析の要約
*単位は、C
maxについてはng/mL、AUC
0-TおよびAUC
0-∞についてはng・h/mLである。
** AUC
0-∞についてはn=7
【0215】
処置1と処置4の間でのスリンダクの比較:薬物動態結果は、スリンダクのCmax、AUC0-T、およびAUC0-∞の幾何LS平均比および対応する90%信頼区間(90CI)のすべてが80.00%~125.00%の範囲内に含まれたわけではないことを実証している。Cmaxの90CIの下限は80.00%の限度未満であった。比はすべてのPKパラメータについて80.00%~125.00%の範囲内にあるので、対象内変動が、Cmaxの下限がBE範囲外になったことの説明になるかもしれない。この比較について得られた結果は、このパイロット研究において使用した 試料サイズが、共製剤化された錠剤およびエフロルニチンまたはスリンダクを含有する個別錠剤の同時投与からスリンダクバイオアベイラビリティの生物学的同等性を実証するには十分でなかったことを実証している。
【0216】
(表22)処置1対処置4におけるスリンダクの統計解析の要約
*単位は、C
maxについてはng/mL、AUC
0-TおよびAUC
0-∞についてはng・h/mLである。
** AUC
0-∞についてはn=8
【0217】
データによれば、すべての比較間での変動性を組み入れた対象内変動は、Cmaxについては約24.6%、AUC0-Tについては約12%である。統計的には、幾何LS平均の予想される処置1対処置4比が92.5%~107.5%内に入ったことを考えると、少なくとも80%の統計的事前分析力で80.00~125.00%の生物学的同等性範囲を満たすための対象の数は、将来の中枢的研究では約36になるだろうと推論される。40人の対象を含めれば、脱落の可能性および推定される対象内CV前後の変動を考慮するのに十分なはずである。
【0218】
本明細書に開示し特許請求する組成物および方法はすべて、本開示に照らして、過度な実験を行うことなく、それらを作製し、実施することができる。本発明の組成物および方法を好ましい態様に関して説明したが、本明細書に記載した方法および方法の工程もしくは工程の順序に、本発明の概念、要旨および範囲から逸脱することなく、変更を加えうることは、当業者には明らかであるだろう。より具体的に述べると、本明細書に記載した作用物質の代わりに、化学的にも生理学的にも関連する一定の作用物質を使用することができ、それでも同じまたは類似する結果が達成されるであろうことは、明らかであるだろう。当業者にとって明白なそれら類似の代替物および変更はすべて、添付の特許請求の範囲に規定される本発明の要旨、範囲および概念内にあるとみなされる。
【0219】
参考文献
以下の参考文献は、それらが本明細書における記載を補う例示的な手順の詳細または他の詳細を与える限りにおいて、参照により特に本明細書に組み入れられる。