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特開2024-102383半導電性樹脂組成物、電力ケーブル、および電力ケーブルの製造方法
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  • 特開-半導電性樹脂組成物、電力ケーブル、および電力ケーブルの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024102383
(43)【公開日】2024-07-31
(54)【発明の名称】半導電性樹脂組成物、電力ケーブル、および電力ケーブルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/10 20060101AFI20240724BHJP
   H01B 9/02 20060101ALI20240724BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20240724BHJP
   H01B 13/24 20060101ALI20240724BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20240724BHJP
   C08L 23/16 20060101ALI20240724BHJP
【FI】
C08L23/10
H01B9/02 B
H01B13/00 541
H01B13/24 Z
C08K3/04
C08L23/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021084484
(22)【出願日】2021-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100187643
【弁理士】
【氏名又は名称】白鳥 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】岡村 元気
(72)【発明者】
【氏名】伊與田 文俊
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 智
【テーマコード(参考)】
4J002
5G327
【Fターム(参考)】
4J002BB022
4J002BB052
4J002BB121
4J002BB131
4J002BB141
4J002BB152
4J002BP012
4J002DA036
4J002FD016
4J002GQ00
4J002GQ01
5G327BA10
5G327BB10
5G327BC04
5G327BC07
5G327BD10
(57)【要約】
【課題】プロピレン系樹脂を含む電力ケーブルを安定的に製造する。
【解決手段】半導電性樹脂組成物は、プロピレン単位およびエチレン単位を含むベース樹脂と、カーボンブラックと、を有し、融解熱量は、30J/g以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともプロピレン単位を含む絶縁層に接した半導電層を構成する半導電性樹脂組成物であって、
プロピレン単位およびエチレン単位を含むベース樹脂と、
カーボンブラックと、
を有し、
融解熱量は、30J/g以下である
半導電性樹脂組成物。
【請求項2】
導体と、
前記導体の外周を覆うように設けられた半導電層と、
前記半導電層の外周を覆うように設けられ、少なくともプロピレン単位を含む絶縁性樹脂組成物により構成された絶縁層と、
を備え、
前記半導電層は、プロピレン単位およびエチレン単位を含むベース樹脂とカーボンブラックとを有する半導電性樹脂組成物により構成され、
前記半導電層の融解熱量は、30J/g以下である
電力ケーブル。
【請求項3】
前記カーボンブラックの含有量は、前記ベース樹脂100質量部としたときに、20質量部以上である
請求項2に記載の電力ケーブル。
【請求項4】
前記半導電層の融点から前記絶縁層の融点を引いた差は、-5℃以上20℃以下である
請求項2又は請求項3に記載の電力ケーブル。
【請求項5】
導体と、
前記導体の外周を覆うように設けられた半導電層と、
前記半導電層の外周を覆うように設けられ、少なくともプロピレン単位を含む絶縁性樹脂組成物により構成された絶縁層と、
を備え、
前記半導電層は、プロピレン単位およびエチレン単位を含むベース樹脂とカーボンブラックとを有する半導電性樹脂組成物により構成され、
前記半導電層の融点から前記絶縁層の融点を引いた差は、-5℃以上20℃以下である
電力ケーブル。
【請求項6】
前記絶縁層を構成するベース樹脂が含む極性基の含有量は、2質量%未満であり、且つ、
前記半導電層を構成する前記ベース樹脂が含む極性基の含有量は、2質量%未満である
請求項2から請求項5のいずれか1項に記載の電力ケーブル。
【請求項7】
25℃および100℃のそれぞれでの前記半導電層の貯蔵弾性率は、前記絶縁層の貯蔵弾性率よりも高い
請求項2から請求項6のいずれか1項に記載の電力ケーブル。
【請求項8】
前記半導電層中の架橋剤の残渣は、300ppm未満である
請求項2から請求項7のいずれか1項に記載の電力ケーブル。
【請求項9】
プロピレン単位およびエチレン単位を含むベース樹脂とカーボンブラックとを有する半導電性樹脂組成物を準備する工程と、
前記半導電性樹脂組成物により、導体の外周を覆うように半導電層を形成する工程と、
前記半導電層の外周を覆うように、少なくともプロピレン単位を含む絶縁性樹脂組成物により絶縁層を形成する工程と、
を備え、
前記半導電層を形成する工程では、
前記半導電層の融解熱量を、30J/g以下とする
電力ケーブルの製造方法。
【請求項10】
プロピレン単位およびエチレン単位を含むベース樹脂とカーボンブラックとを有する半導電性樹脂組成物を準備する工程と、
前記半導電性樹脂組成物により、導体の外周を覆うように半導電層を形成する工程と、
前記半導電層の外周を覆うように、少なくともプロピレン単位を含む絶縁性樹脂組成物により絶縁層を形成する工程と、
を備え、
前記半導電層を形成する工程では、
前記半導電層の融点から前記絶縁層の融点を引いた差を、-5℃以上20℃以下とする
電力ケーブルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、半導電性樹脂組成物、電力ケーブル、および電力ケーブルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
架橋ポリエチレンは、電力ケーブルなどにおいて広く用いられてきた(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭57-69611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、経年劣化した架橋ポリエチレンは、リサイクルできず、焼却するしかなかった。このため、環境への影響が懸念されていた。そこで、近年では、リサイクル可能な非架橋樹脂として、プロピレンを含む樹脂(以下、「プロピレン系樹脂」ともいう)が注目されている。
【0005】
本開示の目的は、プロピレン系樹脂を含む電力ケーブルを安定的に製造することができる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様によれば、
少なくともプロピレン単位を含む絶縁層に接した半導電層を構成する半導電性樹脂組成物であって、
プロピレン単位およびエチレン単位を含むベース樹脂と、
カーボンブラックと、
を有し、
融解熱量は、30J/g以下である
半導電性樹脂組成物が提供される。
【0007】
本開示の他の態様によれば、
導体と、
前記導体の外周を覆うように設けられた半導電層と、
前記半導電層の外周を覆うように設けられ、少なくともプロピレン単位を含む絶縁性樹脂組成物により構成された絶縁層と、
を備え、
前記半導電層は、プロピレン単位およびエチレン単位を含むベース樹脂とカーボンブラックとを有する半導電性樹脂組成物により構成され、
前記半導電層の融解熱量は、30J/g以下である
電力ケーブルが提供される。
【0008】
本開示の更に他の態様によれば、
導体と、
前記導体の外周を覆うように設けられた半導電層と、
前記半導電層の外周を覆うように設けられ、少なくともプロピレン単位を含む絶縁性樹脂組成物により構成された絶縁層と、
を備え、
前記半導電層は、プロピレン単位およびエチレン単位を含むベース樹脂とカーボンブラックとを有する半導電性樹脂組成物により構成され、
前記半導電層の融点から前記絶縁層の融点を引いた差は、-5℃以上20℃以下である
電力ケーブルが提供される。
【0009】
本開示の更に他の態様によれば、
プロピレン単位およびエチレン単位を含むベース樹脂とカーボンブラックとを有する半導電性樹脂組成物を準備する工程と、
前記半導電性樹脂組成物により、導体の外周を覆うように半導電層を形成する工程と、
前記半導電層の外周を覆うように、少なくともプロピレン単位を含む絶縁性樹脂組成物により絶縁層を形成する工程と、
を備え、
前記半導電層を形成する工程では、
前記半導電層の融解熱量を、30J/g以下とする
電力ケーブルの製造方法が提供される。
【0010】
本開示の更に他の態様によれば、
プロピレン単位およびエチレン単位を含むベース樹脂とカーボンブラックとを有する半導電性樹脂組成物を準備する工程と、
前記半導電性樹脂組成物により、導体の外周を覆うように半導電層を形成する工程と、
前記半導電層の外周を覆うように、少なくともプロピレン単位を含む絶縁性樹脂組成物により絶縁層を形成する工程と、
を備え、
前記半導電層を形成する工程では、
前記半導電層の融点から前記絶縁層の融点を引いた差を、-5℃以上20℃以下とする
電力ケーブルの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、プロピレン系樹脂を含む電力ケーブルを安定的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本開示の一実施形態に係る電力ケーブルの軸方向に直交する模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[本開示の実施形態の説明]
<発明者等の得た知見>
まず、発明者等の得た知見について概略を説明する。
【0014】
電力ケーブルの絶縁層に含まれるベース樹脂を非架橋で使用するためには、ベース樹脂が非架橋の状態であっても、耐熱性が高いことが求められる。
【0015】
これまで、上述の非架橋と耐熱性とを満たすベース樹脂として、様々な樹脂が検討されてきた。しかしながら、上述の要件を満たすベース樹脂としては、プロピレン系樹脂が最も有望とされていた。
【0016】
発明者等は、絶縁層がプロピレン系樹脂を含む構成を鋭意検討した結果、以下の新たな課題が生じることを見出した。
【0017】
(i)半導電層が極性基を有するベース樹脂を含む場合
従来では、半導電層のベース樹脂として、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA:Ethylene-vinylacetate)またはエチレンアクリル酸エチル共重合体(EEA:Ethylene-ethylacrylate)などの極性基を有する樹脂成分が用いられてきた。
【0018】
しかしながら、EVAなどを含む半導電層と、プロピレン系樹脂を含む絶縁層と、を備える電力ケーブルを製造する場合では、極性を有する半導電層と、極性基を有しない絶縁層との間で、相溶性が低下し、これらの間の密着性が低下する。このため、半導電層と絶縁層との間の界面に剥離が生じる可能性がある。
【0019】
また、EVAなどを含む半導電層と、プロピレン系樹脂を含む絶縁層と、を備える電力ケーブルを製造する場合では、半導電層を構成するEVAの融点が、絶縁層を構成するプロピレン系樹脂の融点よりも低い。このため、押出工程の冷却過程において、半導電層の固化が、絶縁層の固化よりも遅くなる。その結果、絶縁層の収縮に起因して半導電層が引っ張られ、半導電層または絶縁層にヒケ(sink mark)が生じてしまう可能性がある。
【0020】
(ii)半導電層がプロピレン系樹脂を含む場合
半導電層の樹脂成分としては、絶縁層と同様に、プロピレン系樹脂を用いる構成も考えられる。
【0021】
しかしながら、プロピレン系樹脂の結晶性が高い状態では、所望の導電性を得る含有量までカーボンブラックを添加することが困難となる。
【0022】
例えば、ベース樹脂に対して所定量以上のカーボンブラックを添加した場合には、ベース樹脂中にカーボンブラックが均一に分散し難くなる。このため、押出工程において、プロピレン系樹脂とカーボンブラックとを含む組成物の流動性が低下する。その結果、半導電層を安定的に押出成形することができず、すなわち、電力ケーブルを成形できない可能性がある。
【0023】
また、例えば、ベース樹脂に対して所定量以上のカーボンブラックを添加した場合には、組成物の成形体の伸び性が低下する。このため、たとえ電力ケーブルを成形したとしても、電力ケーブルにおいて充分な柔軟性が得られない可能性がある。
【0024】
(iii)プロピレン系樹脂を含む絶縁層を非架橋で厚く成形する場合
従来のように、架橋ポリエチレンからなる絶縁層を厚く成形する場合には、絶縁層を厚く押出成形しても、その後に絶縁層が高温で膨張した状態で架橋される。このため、各層にヒケが発生し難い。
【0025】
しかしながら、プロピレン系樹脂を含む絶縁層を非架橋で厚く成形する場合には、絶縁層を厚く押出した直後に、絶縁層を冷却する。このとき、絶縁層の外側が、内側よりも先に冷却され固化する。このため、冷却の過程で、絶縁層の外径が先に固定された状態で、絶縁層の内側が徐々に冷却され固化していく。その過程で、絶縁層が導体の径方向外側に向けて収縮する。その結果、特に、内部半導電層側に、ヒケが生じる場合がある。
【0026】
一方で、上述と反対の場合として、内部半導電層が絶縁層よりも先に固化する場合では、内部半導電層の固化が先行することによって、内部半導電層が導体の径方向内側に向けて収縮する。このため、内部半導電層または絶縁層のヒケ、内部半導電層と絶縁層との界面の剥離が発生する場合がある。
【0027】
そこで、発明者等は、鋭意検討の結果、プロピレン系樹脂とカーボンブラックとを含む半導電性樹脂組成物に対して、さらに低結晶性樹脂を添加することで、半導電層における上述の(i)~(iii)の課題を解決することができることを見出した。
【0028】
本開示は、発明者等が見出した上述の知見に基づくものである。
【0029】
<本開示の実施態様>
次に、本開示の実施態様を列記して説明する。
【0030】
[1]本開示の一態様に係る半導電性樹脂組成物は、
少なくともプロピレン単位を含む絶縁層に接した半導電層を構成する半導電性樹脂組成物であって、
プロピレン単位およびエチレン単位を含むベース樹脂と、
カーボンブラックと、
を有し、
融解熱量は、30J/g以下である。
この構成によれば、プロピレン系樹脂を含む電力ケーブルを安定的に製造することができる。
【0031】
[2]本開示の他の態様に係る電力ケーブルは、
導体と、
前記導体の外周を覆うように設けられた半導電層と、
前記半導電層の外周を覆うように設けられ、少なくともプロピレン単位を含む絶縁性樹脂組成物により構成された絶縁層と、
を備え、
前記半導電層は、プロピレン単位およびエチレン単位を含むベース樹脂とカーボンブラックとを有する半導電性樹脂組成物により構成され、
前記半導電層の融解熱量は、30J/g以下である
この構成によれば、プロピレン系樹脂を含む電力ケーブルを安定的に製造することができる。
【0032】
[3]前記[2]に記載の電力ケーブルは、
前記カーボンブラックの含有量は、前記ベース樹脂100質量部としたときに、20質量部以上である。
この構成によれば、半導電層において充分な導電性を得ることができる。
【0033】
[4]前記[2]又は[3]に記載の電力ケーブルにおいて、
前記半導電層の融点から前記絶縁層の融点を引いた差は、-5℃以上20℃以下である。
この構成によれば、プロピレン系樹脂を含む電力ケーブルを安定的に製造することができる。
【0034】
[5]本開示の他の態様に係る電力ケーブルは、
導体と、
前記導体の外周を覆うように設けられた半導電層と、
前記半導電層の外周を覆うように設けられ、少なくともプロピレン単位を含む絶縁性樹脂組成物により構成された絶縁層と、
を備え、
前記半導電層は、プロピレン単位およびエチレン単位を含むベース樹脂とカーボンブラックとを有する半導電性樹脂組成物により構成され、
前記半導電層の融点から前記絶縁層の融点を引いた差は、-5℃以上20℃以下である。
この構成によれば、プロピレン系樹脂を含む電力ケーブルを安定的に製造することができる。
【0035】
[6]前記[2]から[5]のいずれか1つに記載の電力ケーブルにおいて、
前記絶縁層を構成するベース樹脂が含む極性基の含有量は、2質量%未満であり、且つ、
前記半導電層を構成する前記ベース樹脂が含む極性基の含有量は、2質量%未満である。
この構成によれば、半導電層および絶縁層の間における剥離の発生を抑制することが可能となる。
【0036】
[7]前記[2]から[6]のいずれか1つに記載の電力ケーブルにおいて、
25℃および100℃のそれぞれでの前記半導電層の貯蔵弾性率は、前記絶縁層の貯蔵弾性率よりも高い。
この構成によれば、半導電層が絶縁層によって潰されることを抑制することができる。
【0037】
[8]前記[2]から[7]のいずれか1つに記載の電力ケーブルにおいて、
前記半導電層中の架橋剤の残渣は、300ppm未満である。
この構成によれば、リサイクル性を向上させることができる。
【0038】
[9]本開示の他の態様に係る電力ケーブルの製造方法は、
プロピレン単位およびエチレン単位を含むベース樹脂とカーボンブラックとを有する半導電性樹脂組成物を準備する工程と、
前記半導電性樹脂組成物により、導体の外周を覆うように半導電層を形成する工程と、
前記半導電層の外周を覆うように、少なくともプロピレン単位を含む絶縁性樹脂組成物により絶縁層を形成する工程と、
を備え、
前記半導電層を形成する工程では、
前記半導電層の融解熱量を、30J/g以下とする。
この構成によれば、プロピレン系樹脂を含む電力ケーブルを安定的に製造することができる。
【0039】
[10]本開示の他の態様に係る電力ケーブルの製造方法は、
プロピレン単位およびエチレン単位を含むベース樹脂とカーボンブラックとを有する半導電性樹脂組成物を準備する工程と、
前記半導電性樹脂組成物により、導体の外周を覆うように半導電層を形成する工程と、
前記半導電層の外周を覆うように、少なくともプロピレン単位を含む絶縁性樹脂組成物により絶縁層を形成する工程と、
を備え、
前記半導電層を形成する工程では、
前記半導電層の融点から前記絶縁層の融点を引いた差を、-5℃以上20℃以下とする。
この構成によれば、プロピレン系樹脂を含む電力ケーブルを安定的に製造することができる。
【0040】
[本開示の実施形態の詳細]
次に、本開示の一実施形態を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0041】
<本開示の一実施形態>
(1)半導電性樹脂組成物
本実施形態の半導電性樹脂組成物は、後述の電力ケーブル10の、少なくともプロピレン単位を含む絶縁層に接した半導電層(内部半導電層120または外部半導電層140)を構成する材料である。半導電性樹脂組成物は、例えば、ベース樹脂と、カーボンブラックと、その他の添加物と、を有している。
【0042】
[ベース樹脂]
本実施形態のベース樹脂(ベースポリマ)は、半導電性樹脂組成物の主成分を構成する樹脂成分のこという。「主成分」とは、最も含有量が多い成分のことを意味する。
【0043】
本実施形態のベース樹脂は、モノマ単位として、例えば、少なくともプロピレン単位およびエチレン単位を含んでいる。
【0044】
すなわち、本実施形態の半導電性樹脂組成物を核磁気共鳴(NMR:Nuclear Magnetic Resonance)装置により分析することで、ベース樹脂に由来するモノマ単位として、プロピレン単位およびエチレン単位が検出されることとなる。
【0045】
具体的には、半導電性樹脂組成物におけるベース樹脂は、例えば、プロピレン系樹脂と、低結晶性樹脂と、を含んでいる。半導電性樹脂組成物がプロピレン系樹脂を含むことで、プロピレン系樹脂を含む絶縁層130と半導電層との間での相溶性の低下を抑制し、これらの間での密着性の低下を抑制することができる。プロピレン系樹脂に対して低結晶性樹脂を添加することで、プロピレン系樹脂の結晶成長を阻害することができる。また、プロピレン系樹脂に対して添加する低結晶性樹脂の含有量を調整することで、ベース樹脂の結晶性(融点および融解熱量)を制御することができる。
【0046】
(プロピレン系樹脂)
本実施形態のベース樹脂を構成するプロピレン系樹脂は、少なくともプロピレン単位を主成分として含んでいる。すなわち、プロピレン系樹脂としては、例えば、プロピレン単独重合体(ホモポリプロピレン)、およびプロピレンランダム重合体(ランダムポリプロピレン)などが挙げられる。
【0047】
本実施形態の半導電性樹脂組成物のNMRによる分析では、例えば、ベース樹脂がプロピレンランダム重合体である場合には、前記プロピレンランダム重合体に由来するプロピレン単位およびエチレン単位が検出され、ベース樹脂がプロピレン単独重合体である場合には、前記プロピレン単独重合体に由来するプロピレン単位が検出される。
【0048】
本実施形態では、プロピレン系樹脂における立体規則性は、例えば、アイソタクチックであることが好ましい。プロピレン系樹脂は、チーグラーナッタ触媒で重合されたものであり、汎用的である。立体規則性がアイソタクチックであることで、プロピレン系樹脂と低結晶性樹脂とを混合した組成物において、融点の低下を抑制することができる。その結果、非架橋または微架橋での使用を安定的に実現することができる。
【0049】
なお、参考までに、他の立体規則性として、シンジオタクチック、アタクチックがあるが、いずれも、本実施形態のプロピレン系樹脂の立体規則性としては好ましくない。
【0050】
これらの立体規則性を有するプロピレン系樹脂では、所定の結晶構造が得られず、単体での融点が低くなる。このため、耐熱性が低下する。
【0051】
また、これらの立体規則性を有するプロピレン系樹脂は、硬くなる傾向がある。このため、例えば、絶縁層が厚くなると、押出工程の冷却過程において、半導電層または絶縁層130にヒケが生じる可能性がある。また、これらの立体規則性を有するプロピレン系樹脂が硬くなるため、電力ケーブル10の取り回し性が低下する。例えば、電力ケーブル10を布設する際に、電力ケーブルに曲げ応力または引張応力が加わった場合に、半導電層と絶縁層130との間の界面に応力が集中し、これらの間の界面が剥離する可能性がある。
【0052】
これらの理由から、本実施形態では、シンジオタクチック、アタクチックは好ましくない。
【0053】
ベース樹脂がプロピレンランダム重合体である場合には、プロピレンランダム重合体におけるエチレン含有量(エチレン単位含有量)は、例えば、0.5質量%以上15質量%以下であることが好ましい。エチレン含有量を0.5質量%以上とすることで、球晶成長を抑制することができる。一方で、エチレン含有量を15質量%以下とすることで、融点の低下を抑制し、非架橋または微架橋での使用を安定的に実現することができる。
【0054】
なお、本実施形態に用いられるプロピレン単独重合体の単体としての融点は、例えば、160℃以上175℃以下である。また、プロピレン単独重合体の単体としての融解熱量は、例えば、100J/g以上120J/g以下である。プロピレン単独重合体の単体としての弾性率(25℃)は、例えば、1600MPaである。
【0055】
本実施形態に用いられるプロピレンランダム重合体の単体としての融点は、例えば、140℃以上150℃以下である。また、プロピレンランダム重合体の単体としての融解熱量は、例えば、90J/g以上105J/g以下である。プロピレンランダム重合体の単体としての貯蔵弾性率(25℃)は、例えば、1000MPaである。
【0056】
なお、成形体としての半導電層の融点および融解熱量については、詳細を後述する。
【0057】
(低結晶性樹脂)
本実施形態のベース樹脂を構成する低結晶性樹脂(非晶性樹脂)は、半導電性樹脂組成物に柔軟性を付与する樹脂材料である。例えば、低結晶性樹脂は融点を有しないか、或いは、低結晶性樹脂の融点は100℃未満である。また、低結晶性樹脂の融解熱量は、例えば、50J/g以下、好ましくは30J/g以下である。
【0058】
本実施形態の低結晶性樹脂は、例えば、2つ以上のモノマ単位を含んでいる。具体的には、低結晶性樹脂は、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン(ブチレン)、ヘキセン、オクテン、イソプレンおよびスチレンのうち少なくともいずれか2つのモノマ単位を共重合した共重合体からなっている。本実施形態の半導電性樹脂組成物をNMR装置により分析することで、低結晶性樹脂に由来する各モノマ単位が検出される。
【0059】
なお、オレフィン系モノマ単位における炭素-炭素二重結合は、例えば、α位にあることが好ましい。
【0060】
上述の要件を満たす低結晶性樹脂としては、例えば、エチレンプロピレンゴム(EPR:Ethylene Propylene Rubber)、超低密度ポリエチレン(VLDPE: Very Low Density Polyethylene)、スチレン系樹脂(スチレン含有樹脂)などが挙げられる。これらのうち2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0061】
低結晶性樹脂は、例えば、プロピレン系樹脂との相溶性の観点から、プロピレン単位を含む共重合体が好ましい。プロピレン単位を含む共重合体としては、EPRが挙げられる。
【0062】
EPRのエチレン含有量(エチレン単位含有量)は、例えば、20質量%以上、好ましくは40質量%以上、より好ましくは55質量%以上であることが好ましい。エチレン含有量が20質量%未満であると、プロピレン系樹脂に対するEPRの相溶性が過剰に高くなる。このため、半導電層中のEPRの含有量を少なくしても、半導電層が柔軟化する。しかしながら、プロピレン系樹脂の結晶化を阻害する効果(「結晶化阻害効果」ともいう)が発現せず、球晶のマイクロクラックに起因して絶縁性が低下する可能性がある。これに対し、本実施形態では、エチレン含有量を20質量%以上とすることで、プロピレン系樹脂に対するEPRの相溶性が過剰に高くなることを抑制することができる。これにより、EPRによる柔軟化効果を得つつ、EPRによる結晶化阻害効果を発現させることができる。その結果、絶縁性の低下を抑制することができる。さらに、エチレン含有量を好ましくは40質量%以上、より好ましくは55質量%以上とすることで、結晶化阻害効果を安定的に発現させることができ、絶縁性の低下を安定的に抑制することができる。
【0063】
一方で、低結晶性樹脂は、例えば、プロピレン単位を含まない共重合体であってもよい。プロピレン単位を含まない共重合体としては、例えば、容易入手性の観点から、VLDPEが好ましい。VLDPEとしては、例えば、エチレンおよび1-ブテンにより構成されるPE、エチレンおよび1-オクテンにより構成されるPEなどが挙げられる。このように低結晶性樹脂としてプロピレン単位を含まない共重合体を添加することで、プロピレン系樹脂に対して低結晶性樹脂を所定量混合させつつ、完全相溶を抑制することができる。このようなプロピレン単位を含まない共重合体の含有量を所定量以上とすることで、結晶化阻害効果を発現させることができる。
【0064】
また、低結晶性樹脂は、例えば、上述のように、スチレン系樹脂であってもよい。スチレン系樹脂は、ハードセグメントとしてのスチレン単位と、ソフトセグメントとして、エチレン、プロピレン、ブチレンおよびイソプレンなどのうち少なくとも1つのモノマ単位と、を含む共重合体である。スチレン系樹脂は、スチレン系熱可塑性エラストマと言い換えることもできる。スチレン系樹脂が、比較的柔軟なモノマ単位と比較的剛直なモノマ単位とを含むことで、成形性を向上させることができる。また、プロピレン系樹脂との相溶性が良いモノマ単位(例えばブチレン)を含むことで、プロピレン系樹脂とスチレン系樹脂とを均一に混合することができる。
【0065】
スチレン系樹脂としては、例えば、スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体(SBS)、水添スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体、スチレンイソプレンスチレン共重合体(SIS)、水添スチレンイソプレンスチレン共重合体、水添スチレンブタジエンラバー、水添スチレンイソプレンラバー、スチレンエチレンブチレンオレフィン結晶ブロック共重合体などが挙げられる。これらのうち2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0066】
なお、ここでいう「水添」とは、二重結合に水素を添加したことを意味する。例えば、「水添スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体」とは、スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体の二重結合に水素を添加したポリマを意味する。なお、スチレンが有する芳香環の二重結合には水素が添加されていない。「水添スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体」は、スチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体(SEBS)と言い換えることができる。
【0067】
スチレン系樹脂のなかでも、芳香環を除く化学構造中に二重結合を含まない水添材料が好ましい。非水添材料を用いた場合では、半導電性樹脂組成物の成形時などに、ベース樹脂が熱劣化する可能性があり、得られる成形体の諸特性が低下する可能性がある。これに対し、水添材料を用いることで、熱劣化の耐性を向上させることができる。これにより、成形体の諸特性をより高く維持させることができる。
【0068】
スチレン系樹脂中のスチレンの含有率(以下、単に「スチレン含有率」ともいう)は、特に限定されないが、例えば、5質量%以上35質量%以下であることが好ましい。スチレン含有率を5質量%以上35質量%以下とすることで、材料が過剰に硬くなることを抑制することができる。これにより、プロピレン系樹脂とスチレン系樹脂との分離および割れを抑制することができる。
【0069】
(極性基について)
本実施形態では、後述の絶縁層130を構成するベース樹脂が極性基を含まないだけでなく、上述した半導電層を構成するベース樹脂も極性基を含まないことが好ましい。なお、ここでいう「極性基」とは、炭化水素基以外の基のことであり、ヘテロ原子を1個以上含む基のことを意味する。具体的には、極性基としては、例えば、エステル結合に含まれるカルボニル基、水酸基、アミノ基、ハロゲン基などが挙げられる。
【0070】
具体的には、後述の絶縁層130を構成するベース樹脂が含む極性基の含有量は、絶縁層130のベース樹脂100質量%に対して、2質量%未満であり、且つ、半導電層を構成するベース樹脂が含む極性基の含有量は、半導電層のベース樹脂100質量%に対して、2質量%未満である。これにより、半導電層と絶縁層130との間での相溶性の低下を抑制し、これらの間での密着性の低下を抑制することができる。
【0071】
(プロピレン単位の含有量)
本実施形態では、上述した半導電層を構成するベース樹脂におけるプロピレンの含有量(プロピレン単位含有量)は、例えば、50質量%以上であることが好ましい。言い換えれば、ベース樹脂におけるモノマ単位の主成分は、プロピレン単位であることが好ましい。これにより、絶縁層を構成するベース樹脂がプロピレン系樹脂を含む場合に、半導電層と絶縁層との間で、相溶性を向上させることができ、これらの間の密着性を向上させることができる。
【0072】
[カーボンブラック]
本実施形態のカーボンブラックは、導電性を有する充填剤である。
【0073】
具体的なカーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック、チャンネルブラックなどが挙げられる。なお、これらのうち2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0074】
本実施形態では、ベース樹脂が上述のようにプロピレン系樹脂だけでなく低結晶性樹脂も含んでいることで、ベース樹脂がプロピレン系樹脂のみからなる場合よりも、半導電性樹脂組成物中のカーボンブラックの含有量を増やすことができる。
【0075】
すなわち、本実施形態のカーボンブラックの含有量は、例えば、ベース樹脂を100質量部としたときに、20質量部以上である。カーボンブラックの含有量を20質量部以上とすることで、半導電層において充分な導電性を得ることができる。
【0076】
一方で、本実施形態のカーボンブラックの含有量は、例えば、ベース樹脂を100質量部としたときに、65質量部以下であることが好ましい。カーボンブラックの含有量を65質量部以下とすることで、半導電層を安定的に押出成形することができ、電力ケーブル10の良好な機械的特性が得られる。
【0077】
本実施形態ではカーボンブラックの体積平均粒径(MV:Mean Volume Diameter)は、特に限定されるものではないが、例えば、10nm以上500μm以下である。
【0078】
なお、ここでいう「体積平均粒径(MV)」は、粒子の粒子径をd、粒子の体積Vとしたとき、以下の式で求められる。
MV=Σ(V)/ΣV
なお、体積平均粒径の測定には、動的光散乱式粒子径・粒度分布測定装置が用いられる。
【0079】
カーボンブラックの体積平均粒径を10nm以上とすることで、飛散などを抑制し、取り扱い性を向上させることができる。一方で、カーボンブラックの体積平均粒径を500μm以下とすることで、カーボンブラックの凝集を抑制し、電力ケーブル10の外観不良(突起、表面荒れ)を抑制することができる。
【0080】
[その他の添加剤]
半導電性樹脂組成物は、上述のベース樹脂およびカーボンブラックのほかに、例えば、酸化防止剤、銅害防止剤、滑剤および着色剤を含んでいてもよい。
【0081】
ただし、本実施形態の半導電性樹脂組成物は、例えば、プロピレンの結晶を生成する核剤として機能する添加剤が少ないことが好ましい。核剤として機能する添加剤としては、難燃剤などの無機物または有機物などが挙げられる。具体的には、核剤として機能する添加剤の含有量は、例えば、ベース樹脂の含有量を100質量部としたときに、1質量部未満であることが好ましい。これにより、核剤を起因とした想定外の異常な結晶化の発生を抑制し、結晶量を容易に制御することができる。
【0082】
ただし、本実施形態の半導電性樹脂組成物は、後述するように半導電層を架橋させないことから、架橋剤を含んでいない
【0083】
(2)絶縁性樹脂組成物
本実施形態の絶縁性樹脂組成物は、後述の電力ケーブル10の絶縁層130を構成する材料である。
【0084】
絶縁性樹脂組成物は、例えば、少なくともプロピレン単位を含むベース樹脂を有している。絶縁性樹脂組成物のベース樹脂は、少なくともプロピレン系樹脂を含んでいる。
【0085】
本実施形態では、絶縁性樹脂組成物は、例えば、カーボンブラックを含まない点を除いて、上述の半導電性樹脂組成物と同様に構成されていることが好ましい。
【0086】
すなわち、絶縁性樹脂組成物のベース樹脂は、例えば、半導電性樹脂組成物のベース樹脂と同様に、プロピレン単位およびエチレン単位を含んでいる。また、絶縁性樹脂組成物のベース樹脂は、例えば、プロピレン系樹脂および低結晶性樹脂を含んでいる。
【0087】
なお、本実施形態では、絶縁性樹脂組成物のベース樹脂を構成する各樹脂成分は、半導電性樹脂組成物のベース樹脂を構成する各樹脂成分と同じであってもよい。或いは、絶縁性樹脂組成物のベース樹脂を構成する少なくともいずれか1つの樹脂成分は、半導電性樹脂組成物のベース樹脂を構成する少なくともいずれか1つの樹脂成分と異なっていてもよい。
【0088】
(3)電力ケーブル
次に、図1を用い、本実施形態の電力ケーブルについて説明する。図1は、本実施形態に係る電力ケーブルの軸方向に直交する断面図である。
【0089】
本実施形態の電力ケーブル10は、いわゆる固体絶縁電力ケーブルとして構成されている。また、本実施形態の電力ケーブル10は、例えば、陸上(管路内)、水中または水底に布設されるよう構成されている。なお、電力ケーブル10は、例えば、交流に用いられる。
【0090】
具体的には、電力ケーブル10は、例えば、導体110と、内部半導電層120と、絶縁層130と、外部半導電層140と、遮蔽層150と、シース160と、を有している。
【0091】
(導体(導電部))
導体110は、例えば、純銅、銅合金、アルミニウム、またはアルミニウム合金等を含む複数撚り合わされた導体芯線(導電芯線)により構成されている。
【0092】
(内部半導電層)
内部半導電層120は、導体110の外周を覆うように設けられている。また、内部半導電層120は、半導電性を有し、導体110の表面側における電界集中を抑制するよう構成されている。内部半導電層120は、例えば、上述の半導電性樹脂組成物により構成されている。
【0093】
なお、内部半導電層120の諸特性については、後述する。
【0094】
(絶縁層)
絶縁層130は、内部半導電層120の外周を覆うように設けられている。絶縁層130は、上述の絶縁性樹脂組成物成により構成されている。
【0095】
(外部半導電層)
外部半導電層140は、絶縁層130の外周を覆うように設けられている。また、外部半導電層140は、半導電性を有し、絶縁層130と遮蔽層150との間における電界集中を抑制するよう構成されている。外部半導電層140は、例えば、内部半導電層120と同様に、上述の半導電性樹脂組成物により構成されている。
【0096】
(遮蔽層)
遮蔽層150は、外部半導電層140の外周を覆うように設けられている。遮蔽層150は、例えば、銅テープを巻回することにより構成されるか、或いは、複数の軟銅線等を巻回したワイヤシールドとして構成されている。なお、遮蔽層150の内側や外側に、ゴム引き布等を素材としたテープが巻回されていてもよい。
【0097】
(シース)
シース160は、遮蔽層150の外周を覆うように設けられている。シース160は、例えば、ポリ塩化ビニルまたはポリエチレンにより構成されている。
【0098】
なお、本実施形態の電力ケーブル10は、水中ケーブルまたは水底ケーブルであれば、遮蔽層150よりも外側に、いわゆるアルミ被などの金属製の遮水層や、鉄線鎧装を有していてもよい。
【0099】
一方で、本実施形態の電力ケーブル10は、例えば、遮蔽層150よりも外側に遮水層を有していなくてもよい。つまり、本実施形態の電力ケーブル10は、非完全遮水構造により構成されていてもよい。
【0100】
(具体的寸法等)
電力ケーブル10における具体的な各寸法としては、特に限定されるものではないが、例えば、導体110の直径は5mm以上60mm以下であり、内部半導電層120の厚さは0.1mm以上3mm以下であり、絶縁層130の厚さは1mm以上50mm以下、好ましくは3mm以上35mm以下であり、外部半導電層140の厚さは0.1mm以上3mm以下であり、遮蔽層150の厚さは0.1mm以上5mm以下であり、シース160の厚さは1mm以上である。本実施形態の電力ケーブル10に適用される交流電圧は、例えば20kV以上である。
【0101】
(4)半導電層および絶縁層の諸特性
内部半導電層120、絶縁層130および外部半導電層140のそれぞれの諸特性について説明する。以下、「半導電層」とは、本実施形態での内部半導電層120および外部半導電層140のことである。
【0102】
[架橋剤の残渣]
本実施形態の成形体としての半導電層および絶縁層130のそれぞれは、例えば、非架橋であるか、或いは、架橋していたとしても、ゲル分率(架橋度)は低い。具体的には、半導電層および絶縁層130のそれぞれにおける架橋剤の残渣は、例えば、300ppm未満である。なお、架橋剤としてジクミルパーオキサイドを使用した場合には、残渣は、例えば、クミルアルコール、α-メチルスチレンなどである。上述のように半導電層および絶縁層130のそれぞれを非架橋か、或いは、その架橋度を低くすることで、リサイクル性を向上させることができる。
【0103】
[融点および融解熱量]
次に、融点および融解熱量について説明する。
【0104】
ここで、本実施形態の半導電層および絶縁層130のそれぞれを構成するモノマ単位の組成を核磁気共鳴(NMR)装置により分析したとしても、プロピレン単位およびエチレン単位などのモノマ単位が、プロピレン系樹脂に由来しているのか、或いは、低結晶性樹脂に由来しているのかを正確に把握することは困難である。
【0105】
これに対し、融点および融解熱量は、ベース樹脂の組成および結晶量を示す指標であって、且つ、分析可能な指標として、正確かつ容易に規定することが可能である。また、融解熱量に基づいて、樹脂成分の組成比率(低結晶性材料の含有量)を間接的に把握することが可能となる。
【0106】
なお、ここでいう「融点」および「融解熱量」は、示差走査熱量測定(DSC:Differential Scanning Calorimetry)により測定される。「示差走査熱量測定」は、例えば、JIS-K-7121(1987年)に準拠して行われる。具体的には、DSC装置において、室温(常温、例えば27℃)から220℃まで10℃/分で昇温させる。これにより、温度に対する、単位時間当たりの吸熱量(熱流)をプロットすることで、DSC曲線が得られる。
【0107】
このとき、試料における単位時間当たりの吸熱量が極大(最も高いピーク)になる温度を「融点(融解ピーク温度)」とする。また、このとき、試料の吸熱が全て樹脂成分によって行われると仮定し、室温から220℃までの試料の吸熱量(J)を試料中の樹脂成分全体の質量(g)で除した値(J/g)を「融解熱量」とする。なお、試料の融解熱量と完全結晶体の融解熱量の理論値とに基づいて、試料の結晶化度(%)を求めることができる。
【0108】
本実施形態では、融点および融解熱量が、それぞれ以下のように規定される。
【0109】
(半導電層の融解熱量)
本実施形態の半導電層は、ベース樹脂として低結晶性樹脂を含んでいることで、ベース樹脂の結晶成長が抑制され、ベース樹脂の結晶量がプロピレン系樹脂の単体としての結晶量よりも少なくなっている。具体的には、本実施形態の半導電層の融解熱量は、例えば、30J/g以下である。
【0110】
半導電層の融解熱量が30J/g超であると、ベース樹脂の結晶量が多く、ベース樹脂がプロピレン系樹脂の単体に近くなる。このため、カーボンブラックを添加することが困難となる。上述のように、ベース樹脂に対して所定量以上のカーボンブラックを添加した場合には、ベース樹脂中にカーボンブラックが均一に分散し難くなる。この状態では、押出工程において、半導電性樹脂組成物の流動性が低下する。その結果、半導電層を安定的に押出成形することができず、すなわち、電力ケーブル10を成形できない可能性がある。また、ベース樹脂に対して所定量以上のカーボンブラックを添加した場合には、半導電層の伸び性が低下する。このため、たとえ電力ケーブル10を成形したとしても、電力ケーブル10において充分な柔軟性が得られない可能性がある。
【0111】
これに対し、本実施形態では、半導電層の融解熱量を30J/g以下とすることで、ベース樹脂の結晶量が過多となることを抑制することができ、半導電性樹脂組成物において低結晶性樹脂に由来する弾性を確保することができる。これにより、所望の導電性を得る含有量で、カーボンブラックを添加することができる。
【0112】
また、上述のようにカーボンブラックを添加した状態であっても、押出工程において、半導電性樹脂組成物の流動性の低下を抑制することができる。これにより、半導電層を安定的に押出成形することができ、すなわち、電力ケーブル10を安定的に成形できる。
【0113】
また、上述のようにカーボンブラックを添加した状態であっても、半導電層の伸び性の低下を抑制することができる。これにより、電力ケーブル10において充分な柔軟性を得ることができる。
【0114】
一方で、本実施形態の半導電層の融解熱量は、例えば、5J/g以上である。
【0115】
半導電層の融解熱量が5J/g未満であると、ベース樹脂の結晶量が過剰に少なくなり、ベース樹脂が低結晶性樹脂の単体に近くなる。このため、プロピレン系樹脂に由来する機械特性が得られなくなる可能性がある。
【0116】
これに対し、本実施形態では、半導電層の融解熱量を5J/g以上とすることで、ベース樹脂の結晶量が過小となることを抑制することができる。これにより、半導電層において、プロピレン系樹脂に由来する機械特性を得ることができる。
【0117】
(絶縁層の融解熱量)
本実施形態の絶縁層130の融解熱量は、例えば、100J/g以下であることが好ましい。
【0118】
絶縁層130の融解熱量が100J/g超であると、絶縁層130において、ベース樹脂の結晶量が多く、ベース樹脂がプロピレン系樹脂の単体に近くなる。このため、押出工程の冷却過程において、絶縁層130の収縮力が強くなる。その結果、絶縁層130の収縮に起因した半導電層または絶縁層130におけるヒケが発生する可能性がある。
【0119】
これに対し、本実施形態では、絶縁層130の融解熱量を100J/g以下とすることで、絶縁層130において、ベース樹脂の結晶量が過多となることを抑制することができ、低結晶性樹脂に由来する弾性を確保することができる。これにより、押出工程の冷却過程において、絶縁層130の収縮力を抑制することができる。その結果、絶縁層130の収縮に起因した半導電層または絶縁層130におけるヒケの発生を抑制することができる。
【0120】
一方で、本実施形態の絶縁層130の融解熱量は、例えば、55J/g以上であることが好ましい。
【0121】
絶縁層130の融解熱量が55J/g未満であると、絶縁層130において、ベース樹脂の結晶量が過剰に少なくなり、ベース樹脂が低結晶性樹脂の単体に近くなる。このため、絶縁層130においてプロピレン系樹脂に由来する絶縁性および機械特性が得られなくなる可能性がある。
【0122】
これに対し、本実施形態では、絶縁層130の融解熱量を55J/g以上とすることで、絶縁層130において、ベース樹脂の結晶量が過小となることを抑制することができる。これにより、絶縁層130においてプロピレン系樹脂に由来する絶縁性および機械特性を得ることができる。
【0123】
(半導電層の融点と絶縁層の融点との関係)
本実施形態では、半導電層の融点と絶縁層130の融点とが近くなっている。具体的には、半導電層の融点から絶縁層130の融点を引いた差(以下、「層間融点差」ともいう)は、例えば、-5℃以上20℃以下である。
【0124】
層間融点差が-5℃未満である場合、すなわち、絶縁層130の融点が過剰に高い場合には、押出工程の冷却過程において、絶縁層130が半導電層よりも先に固化し、収縮する。絶縁層130の収縮に起因して半導電層が引っ張られ、半導電層または絶縁層130にヒケが生じてしまう可能性がある。特に、絶縁層130の厚さが3mm以上である場合に、ヒケが顕著に発生しうる。
【0125】
これに対し、本実施形態では、層間融点差を-5℃以上とすることで、押出工程の冷却過程において、半導電層よりも先の絶縁層130の固化を抑制するか、或いは、半導電層を絶縁層130よりも先に固化させることができる。これにより、絶縁層130の収縮を抑制することができる。その結果、絶縁層130の収縮に起因した半導電層または絶縁層130におけるヒケの発生を抑制することができる。たとえ絶縁層130の厚さが3mm以上である場合であっても、ヒケの発生を抑制することが可能となる。
【0126】
一方で、層間融点差が20℃超である場合、すなわち、半導電層の融点が過剰に高い場合には、例えば、内部半導電層120が絶縁層130よりも先に固化する。内部半導電層120の固化が先行することによって、内部半導電層120が導体110の径方向内側に向けて収縮する。このため、内部半導電層120または絶縁層130のヒケ、内部半導電層120と絶縁層130との界面の剥離が発生する場合がある。
【0127】
これに対し、本実施形態では、層間融点差を20℃以下とすることで、例えば、内部半導電層120が絶縁層130よりも過剰に早く固化することを抑制することができる。これにより、内部半導電層120が導体110の径方向内側に向けて収縮することを抑制することができる。その結果、内部半導電層120または絶縁層130のヒケの発生を抑制し、内部半導電層120と絶縁層130との界面の剥離の発生を抑制することが可能となる。
【0128】
(具体的な融点)
本実施形態では、半導電層および絶縁層130のそれぞれの融点は、上述の層間融点差を満たせば、特に限定されるものではない。しかしながら、本実施形態では、半導電層および絶縁層130のそれぞれがプロピレン系樹脂を含んでいるため、半導電層および絶縁層130のそれぞれの融点は、例えば、140℃以上168℃以下であることが好ましい。
【0129】
[貯蔵弾性率]
本実施形態では、半導電層は、例えば、絶縁層130よりも硬いことが好ましい。
【0130】
具体的には、25℃および100℃のそれぞれでの半導電層の貯蔵弾性率は、例えば、絶縁層130の貯蔵弾性率よりも高い。
【0131】
なお、ここでいう「貯蔵弾性率」は、動的粘弾性測定(DMA:Dynamic Mechanical. Analysis)により測定される。動的粘弾性測定では、例えば、対象の樹脂の試料に対して0.08%の伸縮を加えた状態(振幅が0.08%である伸縮振動を印加した状態)で、-50℃から100℃まで昇温させながら、試料の貯蔵弾性率を測定する。このとき、測定周波数を10Hzとする。また、昇温速度を10℃/minとする。
【0132】
上述のように半導電層の貯蔵弾性率を絶縁層130の貯蔵弾性率よりも高くすることで、押出工程の冷却過程において、半導電層および絶縁層130が固化したときに、半導電層が絶縁層130によって潰されることを抑制することができる。
【0133】
(5)ケーブル諸特性
本実施形態では、半導電層が上述の要件を満たすことで、電力ケーブル10において、以下の諸特性が確保されている。
【0134】
(ヒケ)
本実施形態では、半導電層および絶縁層130のそれぞれは、20μm以上のヒケを有しない。なお、ここでいう「ヒケ」とは、成形後の半導電層または絶縁層130の任意の断面を光学顕微鏡により観察したときに検出されるボイド(空隙)のことである。
【0135】
(剥離)
本実施形態では、少なくとも内部半導電層120および絶縁層130の間において、20μm以上の剥離が存在しない。
【0136】
(絶縁性)
本実施形態では、常温(例えば27℃)における電力ケーブル10の交流破壊電界は、例えば、40kV/mm以上であり、好ましくは50kV/mm以上である。より具体的には、常温(例えば27℃)において、電力ケーブル10に対して商用周波数(例えば60Hz)の交流電圧を初期に30kVで10分印加し、その後、10kVごとに昇圧し10分課電することを繰り返す条件下で印加したときの、交流破壊電界は、40kV/mm以上であり、好ましくは50kV/mm以上である。
【0137】
なお、交流破壊電界は、(絶縁破壊したときの電圧)/(絶縁破壊した箇所の絶縁層の厚さ)により算出される。
【0138】
(6)電力ケーブルの製造方法
次に、本実施形態の電力ケーブルの製造方法について説明する。以下、ステップを「S」と略す。
【0139】
(S100:樹脂組成物準備工程)
まず、半導電性樹脂組成物および絶縁性樹脂組成物を準備する。
【0140】
本実施形態では、プロピレン系樹脂および低結晶性樹脂を含むベース樹脂と、カーボンブラックと、その他の添加剤(酸化防止剤等)と、を混合機により混合(混練)し、混合材を形成する。混合機としては、例えばオープンロール、バンバリーミキサ、加圧ニーダ、単軸混合機、多軸混合機等が挙げられる。
【0141】
このとき、低結晶性樹脂の含有量を、成形後の半導電層の融点および融解熱量が上述の要件を満たすように調整する。具体的には、低結晶性樹脂の含有量を、例えば、プロピレン系樹脂と低結晶性樹脂との合計の含有量を100質量部としたときに、5質量部以上70質量部以下とする。
【0142】
また、このとき、カーボンブラックの含有量を、成形後の半導電層において充分な導電性が得られるように調整する。具体的には、カーボンブラックの含有量を、例えば、ベース樹脂を100質量部としたときに、20質量部以上とする。
【0143】
混合材を形成したら、前記混合材を押出機により造粒する。これにより、半導電層を構成することとなるペレット状の半導電性樹脂組成物が形成される。なお、混練作用の高い2軸型の押出機を用いて、混合から造粒までの工程を一括して行ってもよい。
【0144】
また、本実施形態では、カーボンブラックを添加しない点を除き、半導電性樹脂組成物の準備工程と同様の工程により、絶縁性樹脂組成物を準備する。このとき、絶縁性樹脂組成物の各配合剤の含有量を、成形後の絶縁層130における所望の諸特性が得られるように調整する。
【0145】
(S200:導体準備工程)
一方で、複数の導体芯線を撚り合わせることにより形成された導体110を準備する。
【0146】
(S300:ケーブルコア形成工程(押出工程、絶縁層形成工程))
樹脂組成物準備工程S100および導体準備工程S200が完了したら、上述の半導電性樹脂組成物により、導体110の外周を覆うように内部半導電層120を形成する。また、上述の絶縁性樹脂組成物により、内部半導電層120の外周を覆うように絶縁層130を形成する。さらに、上述の半導電性樹脂組成物により、絶縁層130の外周を覆うように外部半導電層140を形成する。
【0147】
このとき、本実施形態では、各半導電層の形成において、上述の低結晶性樹脂の含有量を有する半導電性樹脂組成物を用いることで、半導電層の融解熱量を、例えば、30J/g以下とする。
【0148】
また、このとき、本実施形態では、各半導電層の形成において、上述の低結晶性樹脂の含有量を有する半導電性樹脂組成物を用いることで、半導電層の融点から絶縁層130の融点を引いた差を、例えば、-5℃以上20℃以下とする。
【0149】
また、このとき、本実施形態では、例えば、3層同時押出機を用いて、内部半導電層120、絶縁層130および外部半導電層140を同時に形成する。
【0150】
具体的には、3層同時押出機のうち、内部半導電層120を形成する押出機Aに、例えば、上述の半導電性樹脂組成物を投入する。
【0151】
絶縁層130を形成する押出機Bに、上述の絶縁性樹脂組成物を投入する。なお、押出機Bの設定温度は、所望の融点よりも10℃以上50℃以下の温度だけ高い温度に設定する。線速および押出圧力に基づいて、設定温度を適宜調節することが好ましい。
【0152】
外部半導電層140を形成する押出機Cに、押出機Aに投入した内部半導電層用樹脂組成物と同様の材料を含む外部半導電層用組成物を投入する。
【0153】
次に、押出機A~Cからのそれぞれの押出物をコモンヘッドに導き、導体110の外周に、内側から外側に向けて、内部半導電層120、絶縁層130および外部半導電層140を同時に押出す。これにより、ケーブルコアとなる押出材が形成される。
【0154】
その後、押出材を、例えば、水により冷却する。
【0155】
以上のケーブルコア形成工程S300により、導体110、内部半導電層120、絶縁層130および外部半導電層140により構成されるケーブルコアが形成される。
【0156】
(S400:遮蔽層形成工程)
ケーブルコアを形成したら、外部半導電層140の外側に、例えば銅テープを巻回することにより遮蔽層150を形成する。
【0157】
(S500:シース形成工程)
遮蔽層150を形成したら、押出機に塩化ビニルを投入して押出すことにより、遮蔽層150の外周に、シース160を形成する。
【0158】
以上により、固体絶縁電力ケーブルとしての電力ケーブル10が製造される。
【0159】
(7)本実施形態に係る効果
本実施形態によれば、以下に示す1つ又は複数の効果を奏する。
【0160】
(a)本実施形態では、半導電層がベース樹脂としてプロピレン系樹脂とともに低結晶性樹脂を含むことで、ベース樹脂の結晶成長を抑制し、ベース樹脂の結晶量をプロピレン系樹脂の単体としての結晶量よりも少なくすることができる。
【0161】
具体的には、半導電層の融解熱量を30J/g以下とすることで、ベース樹脂の結晶量が過多となることを抑制することができ、半導電層において低結晶性樹脂に由来する弾性を確保することができる。これにより、所望の導電性を得る含有量で、カーボンブラックを添加することができる。
【0162】
また、上述のようにカーボンブラックを添加した状態であっても、押出工程において、半導電性樹脂組成物の流動性の低下を抑制することができる。これにより、半導電層を安定的に押出成形することができ、すなわち、電力ケーブル10を安定的に成形できる。
【0163】
また、上述のようにカーボンブラックを添加した状態であっても、半導電層の伸び性の低下を抑制することができる。これにより、電力ケーブル10において充分な柔軟性を得ることができる。
【0164】
このようにして、所定量のカーボンブラックが添加されたプロピレン系樹脂を含む半導電層を安定的に成形することができる。その結果、電力ケーブル10を安定的に製造することが可能となる。
【0165】
(b)さらに、上述の半導電層の融解熱量の低減に基づいて、カーボンブラックを添加しつつ、半導電性樹脂組成物において低結晶性樹脂に由来する弾性を確保することで、押出工程の冷却過程において、絶縁層130の収縮を半導電層に弾性的に吸収させ、絶縁層130の収縮に半導電層を追従させることができる。これにより、絶縁層130の収縮に起因した半導電層または絶縁層130における剥離の発生を抑制することができる。
【0166】
(c)上述のように、半導電層の融解熱量を30J/g以下とすることで、カーボンブラックの含有量を、ベース樹脂を100質量部としたときに、20質量部以上とすることができる。これにより、半導電層において充分な導電性を得ることができる。その結果、半導電層による電界緩和効果を安定的に得ることが可能となる。
【0167】
(d)本実施形態では、半導電層の融点から絶縁層130の融点を引いた差(層間融点差)は、-5℃以上20℃以下である。
【0168】
層間融点差を-5℃以上とすることで、押出工程の冷却過程において、半導電層よりも先の絶縁層130の固化を抑制するか、或いは、半導電層を絶縁層130よりも先に固化させることができる。これにより、絶縁層130の収縮を抑制することができる。その結果、絶縁層130の収縮に起因した半導電層または絶縁層130におけるヒケの発生を抑制することができる。たとえ絶縁層130の厚さが3mm以上である場合であっても、ヒケの発生を抑制することが可能となる。
【0169】
また、層間融点差を20℃以下とすることで、例えば、内部半導電層120が絶縁層130よりも過剰に早く固化することを抑制することができる。これにより、内部半導電層120が導体110の径方向内側に向けて収縮することを抑制することができる。その結果、内部半導電層120または絶縁層130のヒケの発生を抑制し、内部半導電層120と絶縁層130との界面の剥離の発生を抑制することが可能となる。
【0170】
このようにして、上述のヒケおよび剥離の発生を抑制しつつ、所定量のカーボンブラックが添加されたプロピレン系樹脂を含む半導電層を安定的に成形することができる。その結果、電力ケーブル10を安定的に製造することが可能となる。
【0171】
(e)本実施形態では、絶縁層130を構成するベース樹脂が含む極性基の含有量は、絶縁層130のベース樹脂100質量%に対して、2質量%未満であり、且つ、半導電層を構成するベース樹脂が含む極性基の含有量は、半導電層のベース樹脂100質量%に対して、2質量%未満である。これにより、半導電層と絶縁層130との間での相溶性の低下を抑制し、これらの間での密着性の低下を抑制することができる。その結果、半導電層および絶縁層130の間における剥離の発生を抑制することが可能となる。
【0172】
(f)本実施形態では、25℃および100℃のそれぞれでの半導電層の貯蔵弾性率は、絶縁層130の貯蔵弾性率よりも高い。このように、半導電層を絶縁層130よりも硬くすることで、押出工程の冷却過程において、半導電層および絶縁層130が固化したときに、半導電層が絶縁層130によって潰されることを抑制することができる。
【0173】
(g)本実施形態では、半導電層および絶縁層130のそれぞれがプロピレン系樹脂を含むことで、半導電層および絶縁層130のそれぞれを非架橋または微架橋とすることができる。具体的には、半導電層および絶縁層130のそれぞれにおける架橋剤の残渣は、300ppm未満である。これにより、リサイクル性を向上させることができる。その結果、環境への影響を抑制することができる。
【0174】
<本開示の他の実施形態>
以上、本開示の実施形態について具体的に説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能である。
【0175】
上述の実施形態では、外部半導電層140が、内部半導電層120と同様に、上述の半導電性樹脂組成物により構成されている場合について説明したが、この場合に限られない。少なくとも内部半導電層120が上述の半導電性樹脂組成物により構成されていれば、外部半導電層140は、上述の半導電性樹脂組成物と異なる組成物により構成されていてもよい。
【0176】
上述の実施形態では、電力ケーブル10が遮水層を有していなくてもよい場合について説明したが、本開示はこの場合に限られない。電力ケーブル10は、上述の顕著な水トリー抑制効果を有していることで、簡易的な遮水層を有していてもよい。具体的には、簡易的な遮水層は、例えば、金属ラミネートテープからなる。金属ラミネートテープは、例えば、アルミまたは銅等からなる金属層と、金属層の片面または両面に設けられる接着層と、を有している。金属ラミネートテープは、例えば、ケーブルコアの外周(外部半導電層よりも外周)を囲むように縦添えにより巻き付けられる。なお、前記遮水層は、遮蔽層よりも外側に設けられていてもよいし、遮蔽層を兼ねていてもよい。このような構成により、電力ケーブル10のコストを削減することができる。
【0177】
上述の実施形態では、電力ケーブル10が陸上、水中または水底に布設されるよう構成される場合について説明したが、本開示はこの場合に限られない。例えば、電力ケーブル10は、陸上に布設されるよう構成されていてもよい。
【0178】
上述の実施形態では、ケーブルコア形成工程S300において3層同時押出を行ったが、1層ずつ押出てもよい。
【実施例0179】
次に、本開示に係る実施例を説明する。これらの実施例は本開示の一例であって、本開示はこれらの実施例により限定されない。
【0180】
(1)電力ケーブルの作製
以下の手順により、電力ケーブルを作製した。
【0181】
まず、後述する配合剤を含む半導電性樹脂組成物および絶縁性樹脂組成物を準備した。各樹脂組成物をバンバリーミキサによって混合し、押出機によりペレット状に造粒した。また、断面積が100mmの導体を準備した。
【0182】
次に、半導電性樹脂組成物と、絶縁性樹脂組成物と、半導電性樹脂組成物と、をそれぞれ押出機A~Cに投入した。押出機A~Cからのそれぞれの押出物をコモンヘッドに導き、導体の外周に、内側から外側に向けて、内部半導電層、絶縁層および外部半導電層を同時に押出した。このとき、内部半導電層、絶縁層および外部半導電層の厚さを、それぞれ、表1に記載の厚さとした。押出後、押出材を水冷した。
【0183】
その結果、中心から外周に向けて、導体、内部半導電層、絶縁層および外部半導電層を有する、サンプルA1~A3、B1~B5、C1~C3のそれぞれの電力ケーブルを製造した。なお、電力ケーブルの軸方向の長さを1kmとした。
【0184】
サンプルA1~A3、B1~B5、C1~C3のそれぞれの半導電層および絶縁層が含む配合剤は、以下のとおりである。
【0185】
[サンプルA1~A3、B1~B5、C1~C3]
・プロピレンランダム重合体(r-PP)
立体規則性:アイソタクチック
エチレン含有量:3.5質量%
密度:0.91g/ml
融点:145℃
融解熱量:82J/g
・プロピレン単独重合体(h-PP)
立体規則性:アイソタクチック
密度:0.90g/ml
融点:164℃
融解熱量:110J/g
・直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)
モノマ単位:エチレン、1-ブテン
密度:0.92g/ml
融点:124℃
融解熱量:125J/g
【0186】
・水添スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体(SEBS)
スチレン含有率:12質量%
密度:0.89g/ml
硬度:A42
(融点・融解熱量なし)
・エチレンプロピレンゴム(EPR)
エチレン含有量:52質量%
ムーニー粘度ML(1+4)100℃:40
(融点・融解熱量なし)
・超低密度ポリエチレン(VLDPE)
エチレンおよび1-オクテンの共重合体
1-オクテン含有量:10質量%
密度:0.87g/ml
ショアA硬度:70
融点:55℃、
融解熱量:24J/g
・エチレンアクリル酸エチル共重合体(EEA)
EA含有量:18%
密度:0.93g/ml
融点:93℃
【0187】
(カーボンブラック)
アセチレンブラック
【0188】
なお、絶縁層がLLDPEを含むサンプルB1およびB2については、参考サンプルであり、これらにおいても、架橋させていない。
【0189】
(2)評価
(融点および融解熱量)
サンプルA1~A3、B1~B5、C1~C3のそれぞれの電力ケーブルにおいて、内部半導電層および絶縁層のそれぞれを導体の周方向に沿って薄くスライスし、評価用のシートを採取した。
【0190】
内部半導電層および絶縁層のそれぞれから採取したシートにおいて、DSC測定を行った。DSC測定は、JIS-K-7121(1987年)に準拠して行った。具体的には、DSC装置としては、パーキンエルマー社製DSC8500(入力補償型)を用いた。基準試料は例えばα-アルミナとした。試料の質量は、8~10mgとした。DSC装置において、室温(27℃)から220℃まで10℃/分で昇温させた。これにより、温度に対する、単位時間当たりの吸熱量(熱流)をプロットすることで、DSC曲線を得た。
【0191】
このとき、各シートにおける単位時間当たりの吸熱量が極大(最も高いピーク)になる温度を「融点」とした。また、このとき、DSC曲線において、融解ピークとベースラインとで囲まれた領域の面積を求めることにより、「融解熱量」を求めた。
【0192】
また、半導電層の融点から絶縁層の融点を引いた差を「層間融点差」として求めた。
【0193】
(貯蔵弾性率)
内部半導電層および絶縁層のそれぞれから採取したシートにおいて、動的粘弾性測定(DMA)を行った。具体的には、各シートに対して0.08%の伸縮を加えた状態で、-50℃から100℃まで昇温させながら、シートの貯蔵弾性率を測定した。また、測定周波数を10Hzとした。また、昇温速度を10℃/minとした。測定の結果、25℃および100℃のそれぞれにおける貯蔵弾性率を求めた。
【0194】
(ヒケおよび界面剥離)
サンプルA1~A3、B1~B5、C1~C3のそれぞれの電力ケーブルのうち、軸方向(長さ方向)の初端(押出開始側の端部)、中間および終端において、断面を光学顕微鏡により観察した。
【0195】
内部半導電層および絶縁層のそれぞれの断面において、20μm以上のヒケが存在するか否かを観察した。その結果、20μm以上のヒケが存在しない場合を、「なし(良好)」とし、20μm以上のヒケが存在する場合を、「あり(不良)」として評価した。
【0196】
また、各断面の、内部半導電層および絶縁層の間において、20μm以上の剥離が存在するか否かを観察した。その結果、20μm以上の剥離が存在しない場合を、「なし(良好)」とし、20μm以上の剥離が存在する場合を、「あり(不良)」として評価した。
【0197】
(潰れ)
上述と同様に、サンプルA1~A3、B1~B5、C1~C3のそれぞれの電力ケーブルのうち、軸方向の初端(押出開始側の端部)、中間および終端において、断面を光学顕微鏡により観察した。
【0198】
このとき、以下の式により、内部半導電層の偏肉率(%)を求めた。
偏肉率={(厚さ最大値-厚さ最小値)/厚さ平均値}×100
【0199】
その結果、電力ケーブルの軸方向の初端、中間および終端の全てにおいて内部半導電層の偏肉率が40%未満である場合を「なし(良好)」とし、電力ケーブルの軸方向の初端、中間および終端の少なくともいずれかにおいて偏肉率が40%以上である場合を「あり(不良)」として評価した。
【0200】
(交流破壊試験)
常温(例えば27℃)において、電力ケーブルに対して商用周波数(60Hz)の交流電圧を初期に30kVで10分印加し、その後、10kVごとに昇圧し10分課電することを繰り返す条件下で印加した。このとき、絶縁層が絶縁破壊したときの電界強度を「交流破壊電界(初期AC破壊電界)」として評価した。その結果、交流破壊強度が40kV/mm以上である場合を、良好として評価した。
【0201】
(3)結果
以下の表1~表3を用い、各サンプルの評価を行った結果を説明する。
【0202】
【表1】
【0203】
【表2】
【0204】
【表3】
【0205】
[絶縁層および半導電層の少なくともいずれかPP系樹脂を含まないサンプルとの比較]
絶縁層および半導電層がそれぞれ同じエチレン系樹脂を含む参考サンプルB1およびB2では、特に絶縁層の厚さが3mm以上となった場合に、半導電層または絶縁層においてヒケが生じたり、半導電層の潰れが生じたりしていた。
【0206】
参考サンプルB1およびB2では、絶縁層および半導電層がそれぞれ同じエチレン系樹脂を含んでいたが非架橋であったため、樹脂間の結合が弱く、上述のヒケが生じやすくなったと考えられる。非架橋であった点に加え、半導電層の貯蔵弾性率が低いことに起因して、半導電層の潰れが生じたと考えられる。
【0207】
絶縁層がPP系樹脂を含むが半導電層がPP系樹脂を含まないサンプルB3およびB4と、半導電層がPP系樹脂を含むが絶縁層がPP系樹脂を含まないサンプルB5とでは、絶縁層の厚さによらず、半導電層と絶縁層との間で剥離が生じていた。
【0208】
サンプルB3、B4およびB5では、絶縁層と半導電層とでベース樹脂が異なっていたため、半導電層と絶縁層との間での相溶性が低下し、これらの間での密着性が低下していたと考えられる。
【0209】
これに対し、絶縁層と半導電層との両方がプロピレン系樹脂を含むサンプルA1~A3では、絶縁層の厚さによらず、半導電層と絶縁層との間で剥離が生じていなかった。
【0210】
サンプルA1~A3では、半導電性樹脂組成物がプロピレン系樹脂を含むことで、半導電層と絶縁層との間での相溶性の低下を抑制し、これらの間での密着性の低下を抑制することができた。その結果、サンプルA1~A3では、半導電層と絶縁層との間での剥離の発生が抑制されたことを確認した。
【0211】
[融解熱量の比較]
絶縁層および半導電層の両方がPP系樹脂を含むサンプルA1~A3、C1を、融解熱量に基づいて比較する。
【0212】
半導電層および絶縁層の両方がプロピレン系樹脂を含み、半導電層の融解熱量が30J/g超であったサンプルC1では、押出工程において、半導電性樹脂組成物の流動性が低下し、電力ケーブルを成形できなかった。
【0213】
サンプルC1では、ベース樹脂としてのプロピレン系樹脂の結晶性が高かったため、ベース樹脂中にカーボンブラックが均一に分散しなかった。このため、半導電性樹脂組成物の流動性が低下したと考えられる。
【0214】
これに対し、絶縁層がプロピレン系樹脂を含み、半導電層がプロピレン系樹脂および低結晶性樹脂を含み、半導電層の融解熱量が30J/g以下であったサンプルA1~A3では、半導電性樹脂組成物の流動性が低下することなく、電力ケーブルを安定的に成形することができた。
【0215】
サンプルA1~A3では、半導電層の融解熱量を30J/g以下とすることで、ベース樹脂の結晶量が過多となることを抑制することができた。これにより、20質量部以上で、カーボンブラックを添加することができた。また、カーボンブラックを添加した状態であっても、押出工程において、半導電性樹脂組成物の流動性の低下を抑制することができた。その結果、サンプルA1~A3では、電力ケーブルを安定的に成形できたことを確認した。
【0216】
[層間融点差の比較]
絶縁層および半導電層の両方がPP系樹脂を含むサンプルA1~A3、C2およびC3を、層間融点差に基づいて比較する。
【0217】
層間融点差が-5℃未満であったサンプルC2では、絶縁層の厚さが3mm以上である場合に、半導電層または絶縁層においてヒケが発生していた。
【0218】
サンプルC2では、絶縁層の融点が過剰に高かったため、押出工程の冷却過程において、絶縁層が半導電層よりも先に固化し、収縮していた。絶縁層の収縮に起因して半導電層が引っ張られ、半導電層または絶縁層にヒケが生じたと考えられる。
【0219】
一方、層間融点差が20℃超であったサンプルC3では、絶縁層の厚さが5mm以上である場合に、内部半導電層または絶縁層のヒケ、内部半導電層と絶縁層130との界面の剥離が発生が発生していた。
【0220】
サンプルC3では、内部半導電層の融点が過剰に高かったため、内部半導電層が絶縁層よりも先に固化していた。このため、内部半導電層が導体の径方向内側に向けて収縮していた。その結果、上述したヒケおよび剥離が生じたものと考えられる。
【0221】
これに対し、層間融点差が-5℃以上20℃以下であったサンプルA1~A3では、絶縁層の厚さによらず、半導電層または絶縁層におけるヒケが生じておらず、半導電層と絶縁層との間で剥離が生じていなかった。
【0222】
サンプルA1~A3では、層間融点差を-5℃以上としたことで、押出工程の冷却過程において、半導電層よりも先の絶縁層の固化を抑制するか、或いは、半導電層を絶縁層よりも先に固化させることができた。その結果、サンプルA1~A3では、たとえ絶縁層の厚さが3mm以上である場合であっても、絶縁層の収縮に起因した半導電層または絶縁層におけるヒケの発生を抑制することができたことを確認した。
【0223】
また、サンプルA1~A3では、層間融点差を20℃以下としたことで、内部半導電層が絶縁層よりも過剰に早く固化することを抑制することができた。これにより、内部半導電層が導体の径方向内側に向けて収縮することを抑制することができた。その結果、上述のヒケおよび剥離の発生を抑制することができたことを確認した。
【0224】
[貯蔵弾性率の比較]
絶縁層および半導電層の両方がPP系樹脂を含むサンプルA1~A3、およびC2を、貯蔵弾性率に基づいて比較する。
【0225】
25℃および100℃のそれぞれでの半導電層の貯蔵弾性率が絶縁層の貯蔵弾性率よりも低いサンプルC2では、内部半導電層の偏肉率が40%以上であり、半導電層の潰れが生じていた。
【0226】
サンプルC2では、半導電層が絶縁層よりも柔らかかったため、押出工程の冷却過程において、内部半導電層が絶縁層によって潰されてしまったと考えられる。
【0227】
これに対し、25℃および100℃のそれぞれでの半導電層の貯蔵弾性率が絶縁層の貯蔵弾性率よりも高いサンプルA1~A3では、内部半導電層の偏肉率が40%未満であり、半導電層の潰れは生じていなかった。
【0228】
サンプルA1~A3では、半導電層を絶縁層よりも硬くしたことで、押出工程の冷却過程において、半導電層および絶縁層が固化したときに、絶縁層による内部半導電層の潰れを抑制できたことを確認した。
【0229】
<本開示の好ましい態様>
以下、本開示の好ましい態様を付記する。
【0230】
(付記1)
少なくともプロピレン単位を含む絶縁層に接した半導電層を構成する半導電性樹脂組成物であって、
プロピレン単位およびエチレン単位を含むベース樹脂と、
カーボンブラックと、
を有し、
融解熱量は、30J/g以下である
半導電性樹脂組成物。
【0231】
(付記2)
導体と、
前記導体の外周を覆うように設けられた半導電層と、
前記半導電層の外周を覆うように設けられ、少なくともプロピレン単位を含む絶縁性樹脂組成物により構成された絶縁層と、
を備え、
前記半導電層は、プロピレン単位およびエチレン単位を含むベース樹脂とカーボンブラックとを有する半導電性樹脂組成物により構成され、
前記半導電層の融解熱量は、30J/g以下である
電力ケーブル。
【0232】
(付記3)
前記カーボンブラックの含有量は、前記ベース樹脂100質量部としたときに、20質量部以上である
付記2に記載の電力ケーブル。
【0233】
(付記4)
前記半導電層の融点から前記絶縁層の融点を引いた差は、-5℃以上20℃以下である
付記2又は付記3に記載の電力ケーブル。
【0234】
(付記5)
導体と、
前記導体の外周を覆うように設けられた半導電層と、
前記半導電層の外周を覆うように設けられ、少なくともプロピレン単位を含む絶縁性樹脂組成物により構成された絶縁層と、
を備え、
前記半導電層は、プロピレン単位およびエチレン単位を含むベース樹脂とカーボンブラックとを有する半導電性樹脂組成物により構成され、
前記半導電層の融点から前記絶縁層の融点を引いた差は、-5℃以上20℃以下である
電力ケーブル。
【0235】
(付記6)
前記絶縁層を構成するベース樹脂が含む極性基の含有量は、2質量%未満であり、且つ、
前記半導電層を構成する前記ベース樹脂が含む極性基の含有量は、2質量%未満である
付記2から付記5のいずれか1つに記載の電力ケーブル。
【0236】
(付記7)
25℃および100℃のそれぞれでの前記半導電層の貯蔵弾性率は、前記絶縁層の貯蔵弾性率よりも高い
付記2から付記6のいずれか1つに記載の電力ケーブル。
【0237】
(付記8)
前記半導電層中の架橋剤の残渣は、300ppm未満である
付記2から付記7のいずれか1つに記載の電力ケーブル。
【0238】
(付記9)
前記絶縁層の融解熱量は、100J/g以下である
付記2から付記8のいずれか1つに記載の電力ケーブル。
【0239】
(付記10)
前記半導電層におけるプロピレン単位の総含有量は、50質量%以上である
付記2から付記9のいずれか1つに記載の電力ケーブル。
【0240】
(付記11)
プロピレン単位およびエチレン単位を含むベース樹脂とカーボンブラックとを有する半導電性樹脂組成物を準備する工程と、
前記半導電性樹脂組成物により、導体の外周を覆うように半導電層を形成する工程と、
前記半導電層の外周を覆うように、少なくともプロピレン単位を含む絶縁性樹脂組成物により絶縁層を形成する工程と、
を備え、
前記半導電層を形成する工程では、
前記半導電層の融解熱量を、30J/g以下とする
電力ケーブルの製造方法。
【0241】
(付記12)
プロピレン単位およびエチレン単位を含むベース樹脂とカーボンブラックとを有する半導電性樹脂組成物を準備する工程と、
前記半導電性樹脂組成物により、導体の外周を覆うように半導電層を形成する工程と、
前記半導電層の外周を覆うように、少なくともプロピレン単位を含む絶縁性樹脂組成物により絶縁層を形成する工程と、
を備え、
前記半導電層を形成する工程では、
前記半導電層の融点から前記絶縁層の融点を引いた差を、-5℃以上20℃以下とする
電力ケーブルの製造方法。
【符号の説明】
【0242】
10 電力ケーブル
110 導体
120 内部半導電層
130 絶縁層
140 外部半導電層
150 遮蔽層
160 シース
図1