(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024102391
(43)【公開日】2024-07-31
(54)【発明の名称】難燃性布帛及びそれを用いた作業服
(51)【国際特許分類】
D04B 1/14 20060101AFI20240724BHJP
D01F 1/07 20060101ALI20240724BHJP
D01F 2/00 20060101ALI20240724BHJP
D01F 6/40 20060101ALI20240724BHJP
D03D 15/47 20210101ALI20240724BHJP
D03D 15/20 20210101ALI20240724BHJP
A41D 13/00 20060101ALI20240724BHJP
A41D 31/00 20190101ALI20240724BHJP
A41D 31/08 20190101ALI20240724BHJP
A41D 31/04 20190101ALI20240724BHJP
【FI】
D04B1/14
D01F1/07
D01F2/00 Z
D01F6/40
D03D15/00 D
D03D15/00 E
A41D13/00 102
A41D31/00 503B
A41D31/00 503E
A41D31/08
A41D31/04 C
A41D31/04 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021094197
(22)【出願日】2021-06-04
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 元洋
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 彰
(72)【発明者】
【氏名】見尾 渡
【テーマコード(参考)】
3B011
3B211
4L002
4L035
4L048
【Fターム(参考)】
3B011AB01
3B011AC14
3B211AB01
3B211AC14
4L002AA02
4L002AA05
4L002AA08
4L002AB01
4L002AC00
4L002AC07
4L002BA01
4L002EA04
4L002FA01
4L035EE14
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4L035JJ05
4L035JJ06
4L035KK05
4L048AA07
4L048AA13
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4L048AA53
4L048AA56
4L048AB01
4L048AB05
4L048AC14
4L048CA00
4L048CA06
4L048DA02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】難燃性に優れた布帛およびそれを用いた作業服を提供する。
【解決手段】アクリル系繊維65~90重量%及びセルロース系繊維10~35重量%を含む布帛であって、前記セルロース系繊維は、再生セルロース系繊維及び天然セルロース系繊維からなる群から選ばれる1以上であり、マグネシウム化合物が布帛全体重量に対して2.5重量%以上4.5重量%以下含む難燃性布帛に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系繊維及びセルロース系繊維を含む難燃性布帛であって、
前記セルロース系繊維は、再生セルロース系繊維及び天然セルロース系繊維からなる群から選ばれる1以上であり、
前記難燃性布帛は、繊維全体重量に対して前記アクリル系繊維を65~90重量%、前記セルロース系繊維を10~35重量%を含み、
前記難燃性布帛に含まれるマグネシウム化合物が、繊維全体重量に対して2.5重量%以上4.5重量%以下であり、
前記難燃性布帛は、ISO15025-2000に基づいた燃焼性試験によって測定した、残炎時間が2秒以下、かつ残じん時間が2秒以下である、難燃性布帛。
【請求項2】
前記アクリル系繊維は、アクリロニトリルを30~85重量%、ハロゲン含有ビニル単量体及びハロゲン含有ビニリデン単量体からなる群から選ばれる1以上のハロゲン含有単量体15~65重量%、及びスルホン酸基含有ビニル単量体を0~3重量%以下含むアクリロニトリル系共重合体で構成されている請求項1に記載の難燃性布帛。
【請求項3】
前記アクリル系繊維は、繊維内部にマグネシウム化合物を5~8重量%含む請求項1又は2に記載の難燃性布帛。
【請求項4】
前記再生セルロース系繊維は、レーヨン繊維、難燃レーヨン繊維、リヨセル繊維及び難燃リヨセル繊維からなる群から選ばれる1以上である、請求項1~3のいずれかに記載の難燃性布帛。
【請求項5】
前記難燃性布帛は、前記アクリル系繊維を65~90重量%、前記再生セルロース系繊維10~35重量%含む請求項1~4のいずれかに記載の難燃性布帛。
【請求項6】
前記難燃性布帛は、前記アクリル系繊維を80~90重量%、前記天然セルロース繊維を10~20重量%含む、請求項1~4のいずれかに記載の難燃性布帛。
【請求項7】
前記アクリル系繊維は原液着色繊維である、請求項1~6のいずれかに記載の難燃性布帛。
【請求項8】
前記難燃性布帛は、洗濯30回後のJIS K 7201-2に基づいた限界酸素指数が27以上がある請求項1~7のいずれかに記載の難燃性布帛。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載の難燃性布帛を用いた作業服。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性布帛及びそれを用いた作業服に関する。
【背景技術】
【0002】
消防士、並びに石油、石化、石炭鉱山、電力、溶接及び金属加工などの作業現場などの火炎の危険にさらされる環境下の作業者は、難燃性を有する作業服を求めている。難燃性を有する作業服用布帛として、様々な構成のものが提案されている。例えば、特許文献1には、40~56%の難燃剤としてアンチモン化合物を用いた難燃モダクリル繊維、5~25%のセルロース系繊維及び20~40%の難燃ビスコース繊維を含む難燃性布帛が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、近年、難燃剤であるアンチモン化合物の溶出や排出による環境への影響が懸念されており、改善が求められていた。さらに、優れた難燃性を確保しつつ、作業服として繰り返し使用する点から、肌触りや風合い、洗濯耐久性の向上も求められていた。また、コストの観点からも改善の余地があった。
本発明は、上記従来の問題を解決するため、環境への影響が懸念されず、高い難燃性を有し、さらには優れた洗濯耐久性、風合いを有する難燃性布帛及びそれを用いた作業服を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題は、所定の組成を有する繊維に対して、所定量のマグネシウム化合物を含有させることにより解決できる。すなわち、本発明は、アクリル系繊維及びセルロース系繊維を含む難燃性布帛であって、前記セルロース系繊維は、再生セルロース系繊維及び天然セルロース系繊維からなる群から選ばれる1以上であり、前記難燃性布帛において、布帛を構成する繊維は、前記アクリル系繊維を65~90重量%、前記セルロース系繊維を10~35重量%を含み、前記難燃性布帛に含まれるマグネシウム化合物が、繊維全体重量に対して2.5重量%以上4.5重量%以下であり、前記難燃性布帛は、ISO15025-2000に基づいた燃焼性試験によって測定した、残炎時間が2秒以下、かつ残じん時間が2秒以下である、難燃性布帛に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、環境への影響の懸念が低減され、良好な難燃性、洗濯耐久性、風合いを有する難燃性布帛及びそれを用いた作業服を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の発明者らは、アクリル系繊維およびセルロース系繊維を含む布帛に、マグネシウム化合物を所定量含有させることで、環境への影響の懸念を低減しつつ、優れた難燃性が発現し、燃焼試験において残炎時間及び残じん時間が短縮されるとともに、特に驚くことに、洗濯耐久性、風合いも付与し得ることを見出した。本発明の1以上の実施形態において、「残炎時間」及び「残じん時間」は、それぞれISO15025-2000に基づいた燃焼性試験により測定することができる。本発明の1以上の実施形態において、洗濯耐久性は、ISO6330に基づいた洗濯方法を基に処理された布帛の限界酸素指数をJIS K 7201-2に基づいた方法にて測定することができ限界酸素指数が27以上となる。
【0008】
<マグネシウム化合物>
本発明の1以上の実施形態において、燃焼時に炭化層を形成しやすい観点から、難燃剤としてマグネシウム化合物を使用する。
【0009】
難燃性布帛は、繊維全体に対するマグネシウム化合物の割合が1重量%以上10重量%以下が好ましく、より好ましくは3重量%以上5重量%以下であり、さらに好ましくは2.5重量%以上4.5重量%以下である。マグネシウム化合物の割合が1重量%未満の場合、十分な難燃性が得られないため好ましくなく、10重量%より大きい場合、高い難燃性を得るために良いが、風合い、触感、繊維強度、生地強度を損なってしまう点からの点から好ましくない。
【0010】
本発明で用いられるマグネシウム化合物の粒子径は0.3μm以上、好ましくは0.3μm以上2.0μm以下、更に好ましくは0.5μm以上1.5μm以下である。粒子径が0.3μm未満であると、マグネシウム化合物粒子の表面積が増大し、紡績等の繊維加工工程において静電気発生のより加工が困難となる。粒子径が2.0μmを超えると、紡糸工程にて紡糸口金の閉塞を引き起こしてしまうために製造上好ましくない。本発明において、マグネシウム化合物の平均粒子径は、例えば、粉体の場合は、レーザー回折法で測定することができ、水や有機溶媒に分散した分散体(分散液)の場合は、レーザー回折法または動的光散乱法で測定することができる。
【0011】
マグネシウム化合物の添加量としては、後述するアクリル系繊維100重量%に対して1重量%以上15重量%以下が好ましく、3重量%以上10重量%以下がより好ましく、更には5重量%以上8重量%以下が最も好ましい。マグネシウム化合物が1重量%未満の場合、難燃性が不十分となり、一方15重量%を超えると、繊維を紡績等の加工する際に絶縁抵抗値が高くなり、静電気が発生しやすくなり、カード工程での巻き付きといったトラブルが発生し加工が困難となるに好ましくない。
【0012】
本発明で用いられるマグネシウム化合物としては、酸化マグネシウム、過酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、フッ化マグネシウム、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、ヨウ化マグネシウム、水素化マグネシウム、二ホウ化マグネシウム、窒化マグネシウム、硫化マグネシウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウムマグネシウム、硝酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、亜硫酸マグネシウム、過塩素酸マグネシウム、リン酸三マグネシウム、過マンガン酸マグネシウム、リン酸マグネシウム等が挙げられる。中でも取り扱い易さの観点から酸化マグネシウム、水酸化マグネシウムが好適に用いられる。更にはモース硬度の観点から水酸化マグネシウムが好適に用いられる。
【0013】
本発明におけるマグネシウム化合物の好ましいモース硬度は5未満である。ここで言うモース硬度とは鉱物の硬さの指標である。例えばモース硬度5とはナイフで容易ではないものの傷をつけることができる硬さの程度であり、モース硬度6とはナイフで傷つけることが困難でナイフを痛める硬さの程度である。水酸化マグネシウム化合物及び酸化マグネシウムは、従来の難燃剤であるアンチモン化合物と同等の難燃性を確保できる。さらに、当該化合物を含む繊維では、水酸化マグネシウム化合物は酸化マグネシウム化合物より、安定的に紡績することができる。推測の域をでないが、なぜなら、水酸化マグネシウム化合物のモース硬度は約3、酸化マグネシウム化合物のモース硬度は約7であり、水酸化マグネシウム化合物は酸化マグネシウム化合物よりも柔らかいために、本発明の編物や難燃性アクリル系繊維をカットする際のカッター刃の摩耗性が低くなり、紡績に用いる機械の摩耗性が低減するためと推定される。
【0014】
水酸化マグネシウム化合物としては、特に限定されないが、例えば天然ブルース鉱石を粉砕して得られた粉末、マグネシウム塩水溶液をアルカリで中和して得られた粉末、水酸化マグネシウム粒子をリン酸塩、ホウ酸塩などで処理した粉末、酸化マグネシウムを水和させて徐々に水酸化マグネシウムを生成する方法で得られるものから選ばれる。さらに、水酸化マグネシウム化合物粒子の周囲に吸着可能な物質で吸着されている、もしくは表面処理によって表面処理されることにより被覆層を有したものであってもよい。その中でもシランカップリング剤で表面処理されることにより被覆層を有したものが、静電気抑制の観点から好ましい。シランカップリング剤で表面処理することで静電気抑制が向上する理由は推定の域をでないが、以下の様に考えられる。水酸化マグネシウム粒子表面をシランカップリング処理することによりアクリル系繊維とシランカップリング処理した水酸化マグネシウムの分散性が向上し、その結果静電気が抑制されると考えられる。さらに、加工性向上を目的に油剤を繊維表面に付着する工程を行うと、水酸化マグネシウム粒子の表面にも油剤の効果が十分に及び、加工性が大いに改善される。シランカップリング剤の種類としてはアクリル系樹脂との相溶性を向上させるであれば特に限定はなく、架橋型、非架橋型に関しても特に限定されるものではない。
【0015】
<アクリル系繊維>
本発明のアクリル系繊維は、難燃性の観点から、30~85重量%のアクリロニトリルと、15~65重量%の他の成分とを共重合したアクリロニトリル系共重合体で構成されることが好ましい。他の成分としては、難燃性の観点から、例えば、ハロゲン含有ビニル単量体及びハロゲン含有ビニリデン単量体からなる群から選ばれる1以上を用いることが好ましい。前記アクリロニトリル系共重合体におけるアクリロニトリルの含有量は40~75重量%であることがより好ましい。前記アクリロニトリル系共重合体におけるハロゲン含有ビニル単量体及び/又はハロゲン含有ビニリデン単量体の含有量は25~60重量%であることがより好ましい。前記アクリロニトリル系共重合体は、さらにスルホン酸基を含有する単量体を含んでもよい。前記アクリロニトリル系共重合体におけるスルホン酸基を含有する単量体の含有量は0~3重量%であることが好ましい。
【0016】
ハロゲン含有ビニル系単量体としては、例えば、ハロゲン含有ビニル、ハロゲン含有ビニリデンなどが挙げられる。ハロゲン含有ビニルとしては、例えば、塩化ビニル、臭化ビニルなどが挙げられ、ハロゲン含有ビニリデンとしては、塩化ビニリデン、臭化ビニリデンなどが挙げられる。これらのハロゲン含有ビニル系単量体は、1種または2種以上を組み合わせて用いてもよい。塩化ビニル単量体、塩化ビニリデン単量体においては、塩化ビニル単量体がより好ましい。塩化ビニル単量体を用いた場合、難燃剤としてマグネシウム化合物を選択して特定の配合量で配合することで、燃焼時に炭化層を形成しやすく、高い難燃性を発現する。そのメカニズムは明確ではないが、塩化ビニルが存在する場合、マグネシウム化合物はイントメッセント難燃剤として機能し、燃焼時に炭化層、すなわちイントメッセントを形成しやすくなると推測される。また、塩化ビニリデン単量体を用いた場合、難燃剤としてマグネシウム化合物を選択する場合重合体が着色し衣料用途での使用は制限されるが、塩化ビニル単量体を用いた場合は着色が進行せず、好ましい。
【0017】
前記スルホン酸基を含有する単量体としては、特に限定されないが、例えば、アクリル酸、メタクリル酸に代表される不飽和カルボン酸類及びこれらの塩類、メタクリル酸メチルに代表されるメタクリル酸エステル、グリシジルメタクリレート等に代表される不飽和カルボン酸のエステル類、酢酸ビニルや酪酸ビニルに代表されるビニルエステル類、スルホン酸含有モノマー等を用いることができる。前記スルホン酸含有モノマーとしては、特に限定されないが、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、イソプレンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸並びにこれらのナトリウム塩等の金属塩類及びアミン塩類等を用いることができる。これらの他の共重合可能なスルホン酸基を含有する単量体は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。スルホン酸基を含有する単量体は必要に応じて使用されるが、上記アクリル系重合体中のスルホン酸基を含有する単量体の含有量が0~3質量%であれば紡糸工程の生産安定性に優れる。
【0018】
本発明のアクリル系繊維は、上記のアクリル系重合体から構成され、難燃性布帛の難燃性向上のために使用される。燃焼時に炭化することで難燃性布帛の内部を酸素欠乏状態にするとともに、表面の炎の侵入を防ぐのを助ける効果がある。
本発明に用いるアクリル系繊維は、マグネシウム化合物を含有する。アンチモン化合物を使用した際に比べ燃焼時に有害ガスである一酸化炭素の発生が抑制され、環境への影響を抑えながらも難燃性に優れ、着色の少ない(明度の高い)、難燃性布帛を得ることができる。
【0019】
アクリル系繊維は、例えば耐久性の観点から、単繊維強度が1.0~4.0cN/dtexであることが好ましく、1.5~3.5cN/dtexであることがより好ましい。アクリル系繊維は、例えば実用性の観点から、伸度が15~40%であることが好ましく、伸度が20~30%であることがより好ましい。単繊維強度及び伸度は、JIS L 1015に準じて測定することができる。
【0020】
本発明のアクリル系繊維は原液着色できる繊維である。原液着色とは、化学繊維の原料(紡糸原液、重合体を含む溶液、重合体)に顔料や染料などの色材を加えて着色することを意味し、当該アクリル系繊維は、原液着色することができる。原液着色により、所望の色を新たに製造工程を追加することなく容易に得ることができ、さらに洗濯時に色移りしにくく、色褪せにくい繊維を得ることができる。
【0021】
本発明のアクリル系繊維は、必要に応じてマグネシウム化合物以外の溶出や排出による環境への影響が懸念されることがない他の難燃剤を含んでもよい。また、必要に応じて帯電防止剤(制電剤ともいう)、熱着色防止剤、耐光性向上剤、白度向上剤、失透性防止剤、着色剤等、他の添加剤を含有してもよい。なお、塗布方法については特に限定されず、スプレーによる塗布でもよくカット後の塗布でもよい。
【0022】
本発明のアクリル系繊維は、特に限定されないが、好ましくはアクリロニトリル及び塩化ビニルを含むアクリル系共重合体と、マグネシウム化合物を含む組成物を紡糸した後、熱処理することにより製造することができる。具体的な製造方法としては、湿式紡糸法、乾式紡糸法、半乾半湿式法等の公知の方法で行うことができる。例えば湿式紡糸法の場合は、前記アクリル系共重合体を有機溶媒に溶解した後、マグネシウム化合物を添加して得られた紡糸原液を用いる以外は、一般的なアクリル系繊維の場合と同様に、紡糸原液をノズルに通して凝固浴に押出すことで凝固させ、次いで延伸、水洗、乾燥、熱処理し、必要であれば捲縮を付与して切断することで作製することができる。前記有機溶媒としては、例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、アセトン、ジメチルスルホキシドが挙げられるが、ロダン塩水溶液、硝酸水溶液等の無機溶媒を用いても良い。
【0023】
<セルロース系繊維>
本発明の難燃性布帛は、優れた風合い、洗濯耐久性を与える目的で、セルロース系繊維を、全繊維重量に対して10~40重量%含む。より好ましくは15~35重量%含み、さらに好ましくは20~30重量%含む。本発明のセルロース系繊維は、天然セルロース系繊維及び再生セルロース系繊維からなる群から少なくとも1選ばれる。また、こられの繊維を単独で用いてもよいし、2種以上併せて用いてもよい。
天然セルロース系繊維は、例えば、木綿繊維、カポック繊維、亜麻繊維、大麻繊維、ラミー繊維、ジュート繊維、マニラ麻繊維、ケナフ繊維等の天然セルロース繊維、羊毛繊維、モヘア繊維、カシミヤ繊維、ラクダ繊維、アルパカ繊維、アンゴラ繊維、絹繊維等の天然動物繊維等が挙げられる。
【0024】
再生セルロース系繊維は、レーヨン繊維、難燃レーヨン繊維、リヨセル繊維及び難燃リヨセル繊維等が挙げられ、前記レーヨン繊維は、セルロース原料にアルカリと二硫化炭素を反応させたセルロースザンテートをカセソーダに溶解、湿式紡糸することで得られる。前記リヨセル繊維は、セルロース原料を変性させる工程がなく、N-メチルモンフォリンN-オキシドに溶解、乾湿式紡糸することで得られる。前記難燃レーヨン繊維は、リン系難燃剤を含有するレーヨン繊維であることが好ましい。前記リン系難燃剤は、特に限定されず、リン酸エステル系化合物、ハロゲンリン酸エステル系化合物、縮合リン酸エステル系化合物、ポリリン酸塩系化合物、ポリリン酸エステル系化合物などが挙げられる。前記リン系難燃剤を含有する難燃レーヨン繊維は、特に限定されないが、例えば、繊維の全体重量に対して前記リン系難燃剤を0.5重量%以上含むことが好ましく、0.8重量%以上含むことがより好ましい。前記リン系難燃剤を含有する難燃レーヨン繊維としては、例えば、Lenzing社製の難燃リヨセル「Lenzing FR」、吉林化繊社製の難燃レーヨン「JWELL FR」などの市販のものを用いてもよい。リンの含有量は、蛍光X線分析方法で測定することができる。前記難燃リヨセル繊維は、リン系難燃剤を含有するリヨセル繊維であることが好ましい。前記リン系難燃剤は、特に限定されず、リン酸エステル系化合物、ハロゲンリン酸エステル系化合物、縮合リン酸エステル系化合物、ポリリン酸塩系化合物、ポリリン酸エステル系化合物などが挙げられる。
【0025】
<難燃性布帛>
難燃性布帛は、全繊維重量に対して、前記アクリル系繊維を65~90重量%含む。アクリル系繊維の含有量が65重量%未満の場合、難燃性が劣り、90重量%を超えると、セルロース系繊維の含有量が少なくなりすぎることから、布帛の風合いが劣る。
難燃性布帛は、難燃性と風合いの両立の観点から、繊維全体において、前記アクリル系繊維を70~90重量%、前記天然セルロース系繊維を10~30重量%含むことがより好ましく、さらには前記アクリル系繊維を80~90重量%、前記天然セルロース系繊維を10~20重量%含むことがより好ましくい。
【0026】
別の態様として、難燃性布帛は、前記アクリル系繊維を60~90重量%、前記レーヨン繊維を10~40重量%含んでいてもよく、前記アクリル系繊維を65~85重量%、前記レーヨン繊維を70~80重量%が特に好ましい。
別の態様として、難燃性布帛は、前記アクリル系繊維を65~90重量%、前記リヨセル繊維を10~35重量%を含んでいてもよく、前記アクリル系繊維を65~85重量%、前記リヨセル繊維を15~35重量%が特に好ましい。
【0027】
別の態様として、難燃性布帛は、前記アクリル系繊維を60~90重量%、前記難燃レーヨン繊維を10~40重量%を含んでいてもよく、前記アクリル系繊維を70~80重量%、前記難燃レーヨン繊維を20~30重量%が特に好ましい。
別の態様として、難燃性布帛は、前記アクリル系繊維を60~90重量%、前記難燃リヨセル繊維を10~40重量%含んでいてもよく、前記アクリル系繊維を65~85重量%、前記難燃リヨセル繊維を15~35重量%が特に好ましい。
【0028】
別の態様として、難燃性布帛は、レーヨン繊維、難燃レーヨン繊維、リヨセル繊維及び難燃リヨセル繊維からなる群から選ばれる2つ以上を含んでいても良い。
更に、難燃性布帛は、天然セルロース系繊維および再生セルロース系繊維を単独でも併用してもよく、併用する場合、重量比で天然セルロース系繊維:再生セルロース系繊維=1:2~3:1が好ましい。
【0029】
難燃性布帛は、本発明の目的及び効果を阻害しない範囲内において、他の繊維を含んでもよい。他の繊維としては、例えば、導電性繊維や耐熱性繊維や高強度高弾性繊維などが挙げられる。例えば、導電性繊維には、金属繊維、金属メッキ繊維、銅化合物被覆繊維、導電物質添加繊維など、耐熱性繊維には、メタアラミド、ポリオキサジアゾール繊維、ポリイミド繊維、ポリアミドイミド繊維、高強度高弾性繊維には、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、パラアラミド繊維、ポリアリレート繊維などが挙げられる。前記難燃性布帛は、全繊維中、他の繊維を10重量%以下含んでもよく、8重量%以下含んでもよく、1重量%以下含んでもよい。
【0030】
難燃性布帛は、強度の観点から、前記アクリル系繊維、セルロース系繊維及び前記他の繊維は短繊維でも長繊維でもよく、使用方法において適宜選択することが可能である。単繊維繊度は、使用される作業服の用途により適宜選択されるが、1以上50以下dtexが好ましく、1.5以上30以下dtexがより好ましく、1.7以上15以下dtexがさらに好ましい。カット長は、作業服の用途により適宜選択される。例えば、ショートカットファイバー(繊維長0.1mm以上5以下mm)や短繊維(繊維長38mm以上128以下mm)、あるいは全くカットされていない長繊維(フィラメント)が挙げられる。
【0031】
難燃性布帛は、特に限定されないが、風合いの観点から、目付が200~400g/m2であることが好ましく、より好ましくは220~380g/m2であり、さらに好ましくは250~350g/m2である。
【0032】
難燃性布帛の形態としては、特に限定されず、例えば織物及び編物、不織布などが挙げられる。前記織物の組織については、特に限定されず、平織、綾織、朱子織などの三原組織でもよく、ドビーやジャガーなどの特殊織機を用いた柄織物でもよい。また、前記編物の組織も、特に限定されず、丸編、横編、経編のいずれでもよい。耐久性に優れるという観点から、前記難燃性布帛は、織物であることが好ましく、綾織の織物であることがより好ましい。
【0033】
難燃性布帛は、難燃性に優れており、ISO15025-2000に基づいた燃焼性試験によって測定した、残炎時間が2秒以下、かつ残じん時間が2秒以下である。好ましくは、前記難燃性布帛は、ISO6330に基づいた洗濯方法を基に処理された布帛においてJIS K 7201-2に基づいた限界酸素指数が27以上が好ましい。
【0034】
<作業服>
本発明の1以上の実施形態において、前記難燃性布帛は、難燃性が求められる作業服用布帛として好適に用いることができる。本発明の1以上の実施形態において、作業服は、前記の難燃性布帛を用い、公知の縫製方法により製造することができる。本発明の1以上の実施形態において、前記難燃性布帛が優れた難燃性及び洗濯耐久性を有するため、作業服も、難燃性及び洗濯耐久性に優れる。また、前記難燃性布帛を繰り返し洗濯した後においても優れた風合いを有するため、前記作業服は、洗濯を繰り返しても、その難燃性、風合いが維持される。本発明の1以上の実施形態において、前記作業服は、難燃性が求められるあらゆる作業時の作業服として用いることができる。例えば、特に限定されないが、消防員が着用する防護服(消防服)、石油、石化、石炭鉱山、電力及び溶接などの火災が起こり得る作業現場で着用する防護服、並びに金属加工などの粉塵爆発が想定される作業現場で着用する作業服として使用することができる。
【0035】
【実施例0036】
以下、実施例により本発明を詳述する。但し、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例及び比較例において下記の繊維を用いた。
【0037】
<繊維>
アクリル系繊維I:アクリロニトリル49.5重量%、塩化ビニル49.5重量%及びスチレンスルホン酸ナトリウム1.0重量%からなるアクリル系共重合体で構成され、繊維全体重量に対して水酸化マグネシウム(協和化学工業株式会社製、品名「キスマ5」、平均粒子径2μm)を5重量%含有するアクリル系繊維、単繊維繊度1.7dtex、繊維長51mm、
アクリル系繊維II:アクリロニトリル49.5重量%、塩化ビニリデン49.5重量%及びスチレンスルホン酸ナトリウム1.0重量%からなるアクリル系共重合体で構成され、繊維全体重量に対して五酸化アンチモンを9.5重量%含有するアクリル系繊維、単繊維繊度1.7dtex、繊維長51mm
難燃リヨセル繊維:レンチング社製の「LenzingFR(登録商標)」、リン系難燃剤含有、単繊維繊度2.2dtex、繊維長51mm
リヨセル繊維:レンチング社製の「Tencel(登録商標)」、単繊維繊度1.3dtex、繊維長51mm
セルロース系繊維:カット長31mm以下の天然コットン繊維
メタアラミド繊維:Yantai Tayho Advanced Materials社製の「Newstar(登録商標)」、繊度1.7dtex、繊維長51mm
【0038】
(実施例1~7、比較例1~4)
表1に示すように紡績糸を製造し、天竺編みの編物を作製した。
【0039】
(比較例5)
セルロース系繊維を用いた編物を、以下の加工を施した。
リン系化合物を用い、ピロバテックス加工により難燃化処理を行った。まず、リン系化合物(商品名「ピロバテックスCP NEW」、ハンツマン製、N-メチロールジメチルホスホノプロピオン酸アミド)400g/L、架橋剤(商品名「ベッカミンJ-101」、DIC製、ヘキサメトキシメチロール型メラミン)60g/L、柔軟剤(商品名「ウルトラテックス FSA NEW」、ハンツマン社製、シリコン系柔軟剤)30g/L、85%リン酸20.7g/L、浸透剤(商品名「インバジンPBN」、ハンツマン社製)5ml/Lを含む難燃化処理液(加工薬剤)を調製した。当該編物に難燃化処理液を十分浸透させた後、絞り率が80±2%となるように脱水機で難燃化処理液を絞った後、110℃で5分間前乾燥し、150℃で5分間熱処理した。その後、当該編物を炭酸ナトリウム水溶液と水で洗浄し、過酸化水素水で中和を行い、水洗、脱水の後、タンブラー乾燥機を用いて60℃で30分間乾燥を行い、難燃性編物を得た。
【0040】
実施例及び比較例で得られた編物の難燃性、風合い、および洗濯耐久性を下記のように評価した。
【0041】
(難燃性)
ISO15025ー2000 A法に基づいて燃焼性試験を行い、残炎時間及び残じん時間を測定した。難燃性の合格基準は、炎が試験片の上端及び左右の端のいずれかに到達してないこと、残炎時間及び残じん時間が2秒以下、および生地に穴が開いていないことである。
【0042】
(風合い)
専門官能評価者により、編物の柔らかさの官能評価を行い、合否判定(○、×)した。
【0043】
(洗濯耐久性)
ISO6330に基づいた洗濯を30回を行い、限界酸素指数(LOI)をJIS K 7201-2に基づいた方法にて測定を測定し、LOIが27以上を合格(〇)とした。
【0044】
【0045】
表1の結果から、実施例の編物は優れた難燃性を有し、さらに風合いや洗濯耐久性も良好であることが明らかである。一方、比較例は、難燃性、風合い、あるいは洗濯耐久性が良くないことがわかる。