(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024102429
(43)【公開日】2024-07-31
(54)【発明の名称】グラウンドアンカー用グラウト
(51)【国際特許分類】
C04B 28/04 20060101AFI20240724BHJP
C04B 18/14 20060101ALI20240724BHJP
C04B 14/28 20060101ALI20240724BHJP
【FI】
C04B28/04
C04B18/14 A
C04B14/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023006302
(22)【出願日】2023-01-19
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】391005891
【氏名又は名称】ブイ・エス・エル・ジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡本 礼子
(72)【発明者】
【氏名】大脇 英司
(72)【発明者】
【氏名】青木 智幸
(72)【発明者】
【氏名】重光 達
(72)【発明者】
【氏名】廣田 士朗
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112PA10
4G112PA29
(57)【要約】
【課題】二酸化炭素排出量を削減したうえで、低温環境での強度発現を早めることを可能としたグラウンドアンカー用グラウトを提案する。
【解決手段】水と、結合材と、混和剤とを含むグラウンドアンカー用グラウトである。結合材は、早強ポルトランドセメント、高炉スラグ微粉末、膨張材および石灰石微粉末で構成されている。また、結合材の早強ポルトランドセメントは、高炉スラグ微粉末の質量に対して5~15%の範囲内で添加されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と、結合材と、混和剤と、を含むグラウンドアンカー用グラウトであって、
前記結合材は、早強ポルトランドセメント、高炉スラグ微粉末、膨張材および石灰石微粉末で構成されており、
前記早強ポルトランドセメントが、前記高炉スラグ微粉末の質量に対して5~15%の範囲内で添加されていることを特徴とする、グラウンドアンカー用グラウト。
【請求項2】
水結合材比が40%~44%の範囲内であることを特徴とする、請求項1に記載のグラウンドアンカー用グラウト。
【請求項3】
JIS A 1108で規定されるコンクリートの圧縮強度試験方法による、15℃養生での材齢7日の圧縮強度が24N/mm2以上であることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載のグラウンドアンカー用グラウト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラウンドアンカーのアンカー体を構成するグラウンドアンカー用グラウトに関する。
【背景技術】
【0002】
グラウンドアンカーは、擁壁、地すべり抑制工、のり面保護工などに利用される。グラウトアンカーは、地盤を削孔することにより形成されたアンカー孔に、テンドンを挿入するとともに、グラウトを注入し、グラウトの硬化体(アンカー体)にテンドンを定着させたものである(例えば、特許文献1参照)。グラウンドアンカーのアンカー体には、普通ポルトランドセメントを結合材としたグラウト(セメントミルク)を用いるのが一般的である。ところが、普通ポルトランドセメントは、製造過程において、多量の二酸化炭素を排出する。
そのため、環境負荷の低減を目的として、普通ポルトランドセメントの使用量を低減したグラウンドアンカー用グラウトが求められている。
本願出願人は、特許文献2に示すように、ポルトランドセメントに代わる水硬性組成物として、高炉スラグ微粉末等の潜在水硬性物質を主体とした結合材からなるものを開発して実用化に至っている。
ところが、ポルトランドセメントに代えて高炉スラグ微粉末を主体とした結合材を使用するグラウト材は、低温環境下(例えば平均温度15℃)での強度発現が遅くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-270228号公報
【特許文献2】特許6137850号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような観点から、本発明は、二酸化炭素排出量を削減したうえで、低温環境での強度発現を早めることを可能としたグラウンドアンカー用グラウトを提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するための本発明は、水と、結合材と、混和剤とを含むグラウンドアンカー用グラウトである。前記結合材は、早強ポルトランドセメント、高炉スラグ微粉末、膨張材および石灰石微粉末で構成されていて、前記早強ポルトランドセメントが前記高炉スラグ微粉末の質量に対して5~15%の範囲内で添加されている。
かかるグラウンドアンカー用グラウトによれば、早強ポルトランドセメントが添加されているため、低温環境であっても初期強度発現が改善されている。また、産業副産物である高炉スラグを使用してセメントを少量(高炉スラグ微粉末の質量に対して5~15%)に留めているため、二酸化炭素の排出量を削減し、ひいては環境負荷を低減できる。
このグランドアンカー用グラウトの水結合材比は、40%より大きく44%以下とするのが望ましい。
さらに、グラウンドアンカー用グラウトは、JIS A 1108で規定されるコンクリートの圧縮強度試験方法による、15℃養生での材齢7日の圧縮強度が24N/mm2以上であるのが望ましい。
このような配合のグラウンドアンカー用グラウトによれば、アンカー体として必要とされる3つの要求性能((1)混錬直後のPロート流下時間が18秒以下、(2)材齢3時間時のブリーディング率が4%以下、(3)緊張時の圧縮試験が24N/mm2以上)を満たすことが期待できるので、普通ポルトランドセメントを結合材としたグラウト(セメントミルク)を用いる場合と同じように、グラウンドアンカーを設計・施工することができる。
【発明の効果】
【0006】
本発明のグラウンドアンカー用グラウトによれば、二酸化炭素排出量を削減したうえで低温環境でも強度発現を早めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の実施形態に係るグラウンドアンカーの概要を示す断面図である。
【
図2】20℃養生時の強度発現状況を示すグラフである。
【
図3】15℃養生時の強度発現状況を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の実施形態では、グラウンドアンカーの定着部(アンカー体)を構成するグラウンドアンカー用グラウトについて説明する。
図1にグラウンドアンカー1の概要を示す。
図1に示すように、グラウンドアンカー用グラウト2は、地盤Gを削孔することにより形成されたアンカー孔3に注入される。グラウンドアンカー用グラウト2が孔内で硬化すると、アンカー孔3に挿入されたテンドン4を定着するためのアンカー体5となる。グラウンドアンカー1の頭部には、定着具6が固定されていて、支圧板7を介してアンカーの引張力を地盤Gや構造物等に伝達する。グラントアンカー1は、供用期間により仮設アンカーと、永久アンカーに分類されるが、本実施形態では、供用期間を2年未満とする仮設アンカー(ランクB)とする。
本実施形態のグラウンドアンカー用グラウトは、以下の要件を満たす性能を確保するものとする。
(1)混練直後のPロート流下時間:18秒以下(「建築地盤アンカー設計施工指針・同解説」日本建築学会より)
(2)材齢3時間のブリーディング率:4%以下(「VSL永久アンカー工法設計・施工指針」に記載されたデータを基準とする)
(3)緊張時の圧縮強度:24N/mm
2以上(「グラウンドアンカー設計・施工基準、同解説」地盤工学会より)
また、グラウンドアンカー用グラウトは、JIS A 1108で規定されるコンクリートの圧縮強度試験方法による、15℃養生での材齢7日の圧縮強度が24N/mm
2以上となるように配合する。
【0009】
グラウンドアンカー用グラウトは、水と、結合材と、混和剤とを含んでいる。
本実施形態のグラウンドアンカー用グラウトの結合材は、早強ポルトランドセメント、高炉スラグ微粉末、膨張材および石灰石微粉末で構成されている。
結合材は、水結合材比が40%~44%の範囲内、より好ましくは42~44%になるように添加する。
早強セメントには、例えば、JIS R 5210「ポルトランドセメント」に規定される早強ポルトランドセメントを使用すればよい。早強ポルトランドセメントは、初期強度を向上させる刺激材として機能する。早強ポルトランドセメントは、高炉スラグ微粉末の質量に対して5~15%の範囲内で添加されている。高炉スラグ微粉末の質量に対する早強ポルトランドセメントの質量が5%を下回ると、刺激材としての効果が得られ難くなり、15%を上回ると、二酸化炭素の排出量削減効果が得られ難くなる。
高炉スラグには、JIS(日本工業規格)R 5211「高炉セメント」で使用される高炉スラグ微粉末またはJIS A 6206「コンクリート用高炉スラグ」に適合する高炉スラグ微粉末を使用するのが望ましい。また、高炉スラグは、比表面積が2000~10000cm2/gのもの、好ましくは3500~7000cm2/gのものを使用するのが望ましい。
膨張材には、JIS A 6202「コンクリート用膨張材」に規定される膨張材を使用すればよい。膨張材は、アルカリ性で、刺激材として機能する。なお、石灰石微粉末はJIS A 5008を満足するものであれば良い。
本実施形態では、混和剤として、高性能減水剤を使用する。混和剤は、結合材100重量部に対して、1.0重量部以上2.5重量部以下の範囲内で添加する。高性能減水剤には、JIS A 6204「コンクリート用化学混和剤」で規定される高性能減水剤を使用すればよい。
【0010】
本実施形態のグラウンドアンカー用グラウトによれば、早強ポルトランドセメントが添加されているため、低温環境であっても初期強度発現が改善されている。
また、産業副産物である高炉スラグを使用して、セメントを少量(高炉スラグ微粉末の質量に対して5~15%)に留めているため、二酸化炭素の排出量を削減し、ひいては環境負荷を低減できる。
また、アンカー体として必要とされる下記の3つの要求性能を満たすことができるので普通ポルトランドセメントを結合材としたグラウト(セメントミルク)を用いる場合と同じようにグラウンドアンカーを設計・施工することができる。
(1)混錬直後のPロート流下時間が18秒以下
(2)材齢3時間時のブリーディング率が4%以下
(3)緊張時の圧縮強度が24N/mm2以上
【0011】
次に、本実施形態のグラウンドアンカー用グラウトの効果について確認するために実施した実験結果を示す。
表1に実施例に係るグラウンドアンカー用グラウトの配合例(実施例1~5)を示す。実施例1~4では、水固化材比を42%とし、実施例5では水固化材比を44%とした。また、実施例1~5の高炉スラグの質量に対する早強ポルトランドセメント(HC)の割合は、それぞれ5%、7.5%、10%、15%、15%とした。
なお、表1には、普通ポルトランドセメント(OPC)を主体としたグラウトの配合例(比較例1)と、ポルトランドセメントを使用しないグラウトの配合例(比較例2~4)を示す。比較例2~4では、水結合材比を、それぞれ40%、42%、44%に変化させた。
【0012】
【0013】
表2に表1に示す配合のグラウトの総CO2排出量を算出した結果を示す。表2に示すように、本実施形態のグラウトアンカー用グラウト(実施例1~5)によれば、従来の普通ポルトランドセメントを使用した比較例1に比べて、CO2排出量を15~22%程度に低減でき、その結果、環境負荷の低減化を図ることができることが確認できた。なお、セメントを使用しない比較例2~4のグラウトは、CO2排出量を19%程度に低減できた。
【0014】
【0015】
次に、実施例のグラウンドアンカー用グラウトについて、所定の性能を有していることを確認するために行った試験結果を示す。試験では、表1に示す配合の材料(実施例1~5)に、混和剤を添加したグラウトについて、それぞれ、Pロート流下時間、ブリーディング率、養生温度が20℃の場合と15℃の場合の圧縮強度をそれぞれ測定した。
Pロート流下時間は、JSCE-F521-2018に則り、練り上がり時および練り上がり後1時間経過時に測定した。練り上がり後1時間経過時においては、測定前にハンドミキサーで30秒間練り混ぜた。
ブリーディング率は、JSCE-F522-2018により測定した。
圧縮強度は、φ5×10cmの容器にグラウトを打込み、封緘養生した試験体を用いてJIS A 1108に準拠して試験を行った。
【0016】
表3に試験結果を示す。表3に示すように、高炉スラグの質量に対する早強ポルトランドセメントの割合が5%の材料(実施例1)、7.5%の材料(実施例2)および10%の材料(実施例3)には、それぞれ結合材の重量に対して混和剤(高性能減水剤)を1.75%(実施例1-1)、2.0%(実施例2-1)および1.5%(実施例3-1)添加した。また、高炉スラグの質量に対する早強ポルトランドセメントの割合が15%で、水固化材比が42%の材料については、結合材の重量に対して混和剤(高性能減水剤)を1.25%、2.0%、2.25%添加したグラウトを作成した(実施例4-1~3)。さらに、高炉スラグの質量に対する早強ポルトランドセメントの割合が15%で水固化材比が44%の材料については、結合材の重量に対して混和剤(高性能減水剤)を1.5%添加したグラウト(実施例5-1)を作成した。
また、水結合材比が42%のセメントを使用しない材料(比較例3)に、混和剤を2.0%添加したグラウト(比較例3-3)、水結合材比が44%のセメントを使用しない材料(比較例4)に対して、混和剤を2.25%添加したグラウト(比較例4-2)、2.5%添加したグラウト(比較例4-3)、2.75%添加したグラウト(比較例4-4)についても実施例と同様に試験を行った。
さらに、水結合材比が40%のセメントを使用しない材料(比較例2)に混和剤を2.25%添加したグラウト(比較例2-1)、水結合材比が42%のセメントを使用しない材料(比較例3)に対して混和剤を1.5%添加したグラウト(比較例3-1)と1.75%添加したグラウト(比較例3-2)、水結合材比が44%のセメントを使用しない材料(比較例4)に混和剤を2.0%添加したグラウト(比較例4-1)について、養生温度20℃でのPロート流下時間、ブリーディング率、圧縮強度をそれぞれ測定した。
図2に20℃養生時の強度発現状況、
図3に15℃養生時の強度発現状況を示す。
【0017】
【0018】
表3に示すように、実施例2-1,3-1,4-1~4-3については、Pロートとブリーディングに関する要求性能を満たすことが確認できた。なお、実施例1-1および実施例5-1についてはブリーディングを測定していないが、他の実施例および比較例のブリーディング率が4%を下回っていることから、同様に4%を下回ることが推認できる。また、全ての実施例について、養生温度を20℃と15℃に変化させた場合であっても、材齢7日の圧縮強度が24N/mm2以上であることが確認できた。したがって、材齢7日以降にテンドンを緊張すれば、緊張時の圧縮強度が24N/mm2以上という要求性能を満たすことができる。
一方、セメントを使用しないグラウトについては、比較例3-1については、養生温度20℃および15℃の両方において3つの要求性能を確保したが、その他の比較例においては、養生温度20℃では3つの要求性能を満たしているものの、養生温度15℃では、材齢7日の圧縮強度が24N/mm2未満があった。
したがって、グラウンドアンカー用グラウトは、セメントを使用しない材料では、低温環境下において3つの要求性能を満たさないおそれがある。一方、水結合材比を40~44%、好ましくは42~44%の範囲内とし、混和剤を1.25%~2.25%の範囲内で添加し、さらに、早強ポルトランドセメントを高炉スラグ微粉末の質量に対して5~15%の範囲内で添加することで、低温環境下(養生温度15℃)においても3つの要求性能を満たすことが確認できた。
【0019】
以上、本発明に係る実施形態について説明したが、本発明は、前述の実施形態に限られず、前記の各構成要素については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更が可能である。
例えば、混和剤に使用する材料は限定されるものではない。
【符号の説明】
【0020】
1 グラウンドアンカー
2 グラウンドアンカー用グラウト
3 アンカー孔
4 テンドン(緊張材)
5 アンカー体
6 定着具
7 支圧板
G 地盤