(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024102447
(43)【公開日】2024-07-31
(54)【発明の名称】熱延鋼板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B21C 47/32 20060101AFI20240724BHJP
B21C 47/30 20060101ALI20240724BHJP
B21C 47/26 20060101ALI20240724BHJP
【FI】
B21C47/32 B
B21C47/30
B21C47/26 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023006333
(22)【出願日】2023-01-19
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】弁理士法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】作本 大朗
【テーマコード(参考)】
4E026
【Fターム(参考)】
4E026EA17
4E026FB10
4E026FC02
4E026FC03
(57)【要約】 (修正有)
【課題】鋼板コイルを抜き出す際の動作を安定させる技術を提供する。
【解決手段】熱間圧延後の巻き出しラインでの巻取後の熱延鋼板の形状にかかり、巻取設備に備えるグリップ部での掴みにより曲げられた鋼板先端の形状が、鋼板先端の曲がり角をXとし、前記巻取設備の軸方向断面視で外周接線に対するグリップ部の相対角度をYとすると、XがYの補角以上の大きさである、熱延鋼板である。熱間圧延後の巻き出しラインのライン後方に位置する巻取設備で鋼板の最尾端まで巻取後、熱延鋼板を巻取設備から抜き出し作業をする際、巻取設備の外径を縮にし、グリップ部で掴んだ鋼板先端をリリース後、熱延鋼板先端部の曲げなおし作業を実施するステップと、曲げなおし後、鋼板抜き出し作業を行うステップと、を含み前記曲げなおし作業では、巻取設備の正転と拡縮動作を繰り返すことにより、前記熱延鋼板の先端部に複数回の曲げを行う、熱延鋼板の製造方法である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱間圧延後の巻き出しラインでの巻取後の熱延鋼板の形状にかかり、巻取設備に備えるグリップ部での掴みにより曲げられた鋼板先端の形状が、鋼板先端の曲がり角をXとし、前記巻取設備の軸方向断面視で外周接線に対するグリップ部の相対角度をYとすると、XがYの補角以上の大きさである、熱延鋼板。
【請求項2】
前記鋼板先端が前記グリップ部での掴みにより2か所以上曲げられている、請求項1に記載の熱延鋼板。
【請求項3】
熱間圧延後の巻き出しラインのライン後方に位置する巻取設備で鋼板の最尾端まで巻取後、熱延鋼板を巻取設備から抜き出し作業をする際、
巻取設備の外径を縮にし、グリップ部で掴んだ鋼板先端をリリース後、熱延鋼板先端部の曲げなおし作業を実施するステップと、
曲げなおし後、鋼板抜き出し作業を行うステップと、
を含み、
前記曲げなおし作業では、巻取設備の正転と拡縮動作を繰り返すことにより、前記熱延鋼板の先端部に複数回の曲げを行う、熱延鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱延鋼板の巻き出しラインでの抜き出し性に優れた形状の熱延鋼板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱間圧延後の熱延鋼板のコイルを巻き出し、所定の作業後巻き取りする工程をいわゆる巻き出しラインで行うことがある。たとえば、形状矯正圧延や焼鈍作業、リコイルが例示される。
図1に巻き出しラインの一例を示す。コイル状の鋼板Sは巻出設備(ペイオフリール)から巻き出される。巻きだされた鋼板Sはプレッシャーロール2で所定の張力を付与されながら入側ピンチロール3により通板方向FDに送り出される。その後、蛇行防止ロール4をへて、ミルロール5での圧延に供される。そして形状計ロール6で平坦度が計測されたのち出側デフロール7をへて、巻取設備8(テンションリール)によりコイルに巻き取られる。
【0003】
図2(a)に示すように、巻取設備8に巻き取られたコイル10は出側カー9によって巻取設備芯11から抜き取られる。このとき、鋼板先端の形状に不具合があると、
図2(b)に示すように鋼板先端が引っ掛かって、巻取後鋼板コイルの内側12が出側カー9に追随せず、コイル形状が不良となることがある。場合によっては、コイル10と巻取設備8が分離できず、コイルの落下事故となることもあった。
【0004】
巻取設備(テンションリール)での巻取り時の不具合対策として、従来から以下のような方法がとられている。例えば、特許文献1に開示された技術は、テンションリール収縮蓄積防止方法として、テンションリールの巻き戻し時に、シリンダ油圧力を条件により定まる圧力まで上昇し、リーダストリップを強制的に層間スリップさせるものである。この構成により、リバース圧延において、テンションリールの径が完全に戻り切らないまま巻き取り始めると、テンションリール径の収縮量が増大し、最終抜取コイル内径が小さくなる現象を防止するとしている。
【0005】
また、特許文献2に開示された技術は、金属帯板のコイル巻取り方法であって、所定のマンドレル半径とし、コイル内巻先端部を鉛直下方方向に対して所定の周方向角度範囲に納めるものである。この構成により、生産性を低下させることなく、コイル内巻き部のゆるみの発生を防止することができる金属帯板のコイル巻取り方法を提供できるとしている。
【0006】
また、特許文献3に開示された技術は、テンションリール拡縮不能防止方法であって、油圧シリンダに位置検出センサを設置し、鋼帯の巻締め力によりテンションリールが収縮開始する時を検知し、そのときのコイル半径(釣合半径r)情報、巻取り単位張力(σ)情報、鋼帯5の幅(W)情報を演算機8に送り、あらかじめ設定された値を用いてtanθ-μを求め、この値が0.01以上となるようにセグメント2とマンドレルシャフト3の摺動面の摩擦係数μを良好な状態に保つものである。この構成によりコイル抜取り時にリール拡縮不能となることを防止できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平06-079323号公報
【特許文献2】特開平06-142760号公報
【特許文献3】特開平05-317961号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来技術では、以下のような課題があった。
特許文献1~3に開示された技術は、同一条件下での回転位置であり、巻取設備自体の状態維持管理といったことに着目した技術である。しかしながら、操業条件によって金属帯の状態が変化することに対しては、堅牢性が無いということが問題点である。
【0009】
本発明は、上記の事情を鑑みてなされたものであって、鋼板コイルを抜き出す際の動作を安定させる技術を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を有利に解決する本発明にかかる熱延鋼板は、熱間圧延後の巻き出しラインでの巻取後の熱延鋼板の形状にかかり、巻取設備に備えるグリップ部での掴みにより曲げられた鋼板先端の形状が、鋼板先端の曲がり角をXとし、前記巻取設備の軸方向断面視で外周接線に対するグリップ部の相対角度をYとすると、XがYの補角以上の大きさであることを特徴とする。
【0011】
なお、本発明にかかる熱延鋼板は、前記鋼板先端が前記グリップ部での掴みにより2か所以上曲げられていること、がより好ましい解決手段になり得る。
【0012】
上記課題を有利に解決する本発明にかかる熱延鋼板の製造方法は、熱間圧延後の巻き出しラインのライン後方に位置する巻取設備で鋼板の最尾端まで巻取後、熱延鋼板を巻取設備から抜き出し作業をする際、巻取設備の外径を縮にし、グリップ部で掴んだ鋼板先端をリリース後、熱延鋼板先端部の曲げなおし作業を実施するステップと、曲げなおし後、鋼板抜き出し作業を行うステップと、を含み、前記曲げなおし作業では、巻取設備の正転と拡縮動作を繰り返すことにより、前記熱延鋼板の先端部に複数回の曲げを行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の熱延鋼板や熱延鋼板の製造方法によれば、鋼板を抜き出す際に巻取設備内での引っかかりを抑制することができ、安定した抜出作業が可能となるため、生産性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】鋼板の巻き出しラインの一例を示す模式図である。
【
図2】(a)は鋼板を巻取後の抜き取りが正常に行われた様子を示す模式断面図であり、(b)は鋼板を巻取後に先端が引っかかって内巻部が抜き取りに不具合が生じた様子を示す模式断面図である。
【
図3】(a1)および(a2)は本発明の一実施形態を示す模式図であり、(b1)および(b2)は比較例を示す模式図であり、(c1)および(c2)は他の実施形態を示す模式断面図である。
【
図4】グリップ部の相対角度Yと鋼板先端の曲がり角Xとがコイルの巻取設備からの抜出性に与える影響を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について具体的に説明する。なお、各図面は模式的なものであって、現実のものとは異なる場合がある。また、以下の実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための設備や方法を例示するものであり、構成を下記のものに特定するものでない。すなわち、本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0016】
図3(a1)および(a2)は鋼鈑Sの抜き取り作業が正常の場合の巻取設備8の軸直断面13を示し、テンションリールを「縮」にした直後の状態および正転FRさせたのちの状態をそれぞれ表す。拡大したグリップ部断面14に巻取設備外周接線に対するグリップ部の相対角度16:Y(°)、および、鋼板先端15の曲がり角17:X(°)を示す。この例では、X+Y=180°となっており、コイルは鋼鈑先端がグリップ部に引っかかることなく抜き出すことができた。角度Xは角度Yの補角の関係となっている。
【0017】
図3(b1)および(b2)は鋼鈑Sの抜き取り作業が不良の場合の巻取設備8の軸直断面13を示し、テンションリールを「縮」にした直後の状態および正転FRさせたのちの状態をそれぞれ表す。拡大したグリップ部断面14に、この場合の鋼板先端15の曲がり角18:X’(°)を示す。X’+Y<180°となっており、正転FR後にも鋼板先端15が引っかかってグリップ部から外れていない。
【0018】
図3(c1)および(c2)はテンションリールの「縮」および「拡」ならびに正転FRを複数回組み合わせて、鋼板先端15に2カ所の折り曲げを行った例を示し、テンションリールを「縮」にした直後の状態および正転FRさせたのちの状態をそれぞれ表す。この場合、2カ所の鋼板の曲がり角はいずれもグリップ部の相対角度16であるYの補角より大きくなっている。そして、鋼板先端15はグリップ部に引っかかることなく抜き出すことができた。
【0019】
鋼板先端15の曲がり角Xの制御について、ミルロール5の圧延荷重Fが高いほど鋼板先端形状が矯正され、さらに、巻取設備8の張力Tが低いほど巻取設備8に鋼板先端が沿わない方向になる。そのため、鋼板先端15の曲がり角Xの制御は、曲がり角Xが相対角度Yに対し大きくなる関係性や、正転FRの回転量、テンションリールの拡縮動作により行うことができる。
図4にグリップ部の相対角度Yと鋼板先端の曲がり角Xとがコイルの巻取設備からの抜出性に与える影響を示す。
図4中の「〇」印は巻取設備8からコイルが正常に抜き出せたことを示し、「×」印は巻取設備8からコイルの抜出作業が不良の場合を示す。
図4からX+Y≧180°の関係、つまり、XがYの補角以上の場合に巻取設備8からコイルの抜出作業が正常に行われることがわかる。
【実施例0020】
板厚1.2~6.0mmの熱間圧延後のコイルを
図1の巻き出しラインに通板し形状矯正後、巻取設備8で内径610mmのコイルに巻き取った。巻取設備8のグリップ部の相対角度Yは45°とした。ミルロール5の圧延荷重F≦50tonf(490kN)で、巻取設備8の張力T≧9tonf(88kN)の場合のコイル抜き出し作業を対象とした。従来例では巻取終了後の鋼板先端の曲げ直し作業として、テンションリールを「縮」状態にしたのち、80mm/回の正転と、「拡」および「縮」の動作をし、鋼板先端を曲げなおし作業し、その後コイルを抜き出した。従来例では。40コイル中30コイルで抜き出し不良が発生した。抜き出し不良コイルの鋼板先端曲がり角は135°以下であった。
【0021】
上記実施形態を適用し、鋼板先端の曲げ直し作業として、テンションリールを「縮」状態にしたのち、40mm/回の正転、「拡」および「縮」の動作を繰り返し、鋼板先端に2か所の曲げ部を形成した。このとき鋼板先端の曲がり角は135°以上であった。この発明例では、40コイルの抜き出し作業に不具合は生じなかった。