(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024010245
(43)【公開日】2024-01-23
(54)【発明の名称】チャイニーズハムスター卵巣細胞の遺伝子操作のためのHTPプラットフォーム
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6897 20180101AFI20240116BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20240116BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240116BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20240116BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20240116BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20240116BHJP
C40B 40/06 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
C12Q1/6897 Z
C12P21/08 ZNA
C12N5/10
C12N15/13
C12N15/09 110
C12P21/02 C
C40B40/06
【審査請求】有
【請求項の数】38
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023192963
(22)【出願日】2023-11-13
(62)【分割の表示】P 2020550175の分割
【原出願日】2019-03-20
(31)【優先権主張番号】62/645,708
(32)【優先日】2018-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】517366688
【氏名又は名称】ザイマージェン インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ケイト ケイブズ
(72)【発明者】
【氏名】アマール シン
(57)【要約】
【課題】チャイニーズハムスター卵巣細胞の遺伝子操作のためのHTPプラットフォームの提供。
【解決手段】チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞中での治療タンパク質の生産を改善するための高効率(HTP)ゲノム操作プラットフォームが本明細書で提示される。開示されるHTPゲノム操作プラットフォームは、コンピュータにより駆動され、分子生物学、自動化、および先端機械学習プロトコールを統合する。このプラットフォームは、CHO細胞中での治療タンパク質生産の生物学的駆動因子を解明し、その最適化を担う特徴付けられていない遺伝子構造を解きほぐすために、治療タンパク質生産経路と関連するゲノム全体像を探索するためのユニークな一連のHTP遺伝子操作ツールを使用する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
免疫グロブリン発現を改善するためのHTP法であって、
(a)宿主細胞にとって内因性である少なくとも1つの細胞経路標的遺伝子を選択するステップであって、前記標的遺伝子が、シグナル認識粒子14(SRP14)、シグナル認識粒子9(SRP9)、シグナル認識粒子54(SRP54)、X-box結合タンパク質-1(XBP-1)、B細胞リンパ腫2(bcl-2)、インスリン様成長因子1(IGF1)、C1GALT1特異的シャペロン(COSMC)、α-1,6-フコシルトランスフェラーゼ8(FUT8)、BCL2アンタゴニスト/キラー(BAK)、活性化転写因子6(ATF6)、真核生物翻訳開始因子2αキナーゼ3(PERK)、イノシトール要求酵素1α(IRE1α)、ヒートショック70kDaプロテイン5(BiP/GRP78)、DNAヒートショックプロテインファミリーメンバーB9(Dnajb9)、および乳酸脱水素酵素A(LDHA)からなる群から選択される分子をコードする、ステップ;
(b)異なる発現プロファイルを示す複数のプロモーターを含むプロモーターラダーを提供するステップ;
(c)前記プロモーターラダー由来のプロモーターを、前記宿主細胞のゲノムにおける前記標的遺伝子に作動可能に連結することによって前記宿主細胞のゲノムを操作するステップ;
(d)ステップ(c)をさらなる宿主細胞で繰り返して、各宿主細胞のゲノムにおける前記標的遺伝子に作動可能に連結された前記プロモーターラダーに由来する異なるプロモーターを含む個々の宿主細胞を含む複数の宿主細胞を含む初期プロモータースワップ宿主細胞ライブラリーを作出するステップ;ならびに
(e)発現された目的の免疫グロブリンおよび/または前記宿主細胞の表現型特性について、前記初期プロモータースワップ宿主細胞ライブラリーの細胞をスクリーニングするステップ
を含む、方法。
【請求項2】
前記宿主細胞が哺乳動物細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記宿主細胞がマウス細胞である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記宿主細胞がチャイニーズハムスター卵巣細胞である、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記標的遺伝子が、分泌、タンパク質輸送、ストレス応答、グリコシル化、アポトーシス、アンフォールディングされたタンパク質の応答、タンパク質フォールディング、ER関連分解、および代謝からなる群から選択される機能を有する分子をコードする、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記プロモーターラダーが、CMV、EF1α、SV40、RSV、およびPGKからなる群から選択される少なくとも2つのプロモーターを含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記プロモーターラダーが、配列番号1~5からなる群から選択されるヌクレオチド配列を有する少なくとも2つのプロモーターを含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記免疫グロブリンが、IgG、IgM、IgA、IgE、およびIgDからなる群から選択される、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記免疫グロブリンが、IgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4からなる群から選択される、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記宿主細胞のゲノムの操作が、CRISPR適合性エンドヌクレアーゼおよび関連するgRNAを使用して、前記標的遺伝子の上流で前記宿主細胞ゲノムを標的にし、切断することを含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
相同組換えによって前記プロモーターラダーに由来するプロモーターを挿入することをさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
発現された目的の免疫グロブリンの表現型特性についての前記初期プロモータースワップ宿主細胞ライブラリーの細胞をスクリーニングするステップが、前記目的の免疫グロブリンの力価、N末端切断、および/またはグリコシル化パターンを確認すること、または特徴付けることを含む、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記宿主細胞の表現型特性についての前記初期プロモータースワップ宿主細胞ライブラリーの細胞をスクリーニングするステップが、以下のもの:細胞増殖、培養中の細胞生存能力のパターン、細胞密度、および1日あたり、細胞あたりに産生される免役グロブリンの細胞比生産性のうち1つまたは複数を確認すること、または特徴付けることを含む、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
1つより多い細胞経路標的遺伝子が提供される、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
ステップ(a)~(e)が繰り返される、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
(f)前記ステップにおいてスクリーニングされたプロモーターと標的遺伝子とのユニークな組合せをそれぞれ含む、その後の複数の宿主細胞を提供することによって、その後のプロモータースワップ宿主細胞ライブラリーを作出するステップ
をさらに含む、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
(f)前記ステップにおいてスクリーニングされたプロモーターと標的遺伝子とのユニークな組合せをそれぞれ含む、その後の複数の宿主細胞を提供することによって、その後のプロモータースワップ宿主細胞ライブラリーを作出するステップ;ならびに
(g)発現された目的の免疫グロブリンおよび/または前記宿主細胞の表現型特性について、前記その後のプロモータースワップ宿主細胞ライブラリーの個々の宿主細胞をスクリーニングするステップ
をさらに含む、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
(f)前記ステップにおいてスクリーニングされたプロモーターと標的遺伝子とのユニークな組合せをそれぞれ含む、その後の複数の宿主細胞を提供することによって、その後のプロモータースワップ宿主細胞ライブラリーを作出するステップ;
(g)発現された目的の免疫グロブリンおよび/または前記宿主細胞の表現型特性について、前記その後のプロモータースワップ宿主細胞ライブラリーの個々の宿主細胞をスクリーニングするステップ;ならびに
(h)ステップ(f)~(g)を1回または複数回繰り返すステップ
をさらに含む、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
目的の生成物の発現を改善するためのHTP法であって、
(a)宿主細胞にとって内因性である少なくとも1つの細胞経路標的遺伝子および異なる発現プロファイルを示す複数のプロモーターを含むプロモーターラダーを提供するステップであって、前記標的遺伝子が、シグナル認識粒子14(SRP14)、シグナル認識粒子9(SRP9)、シグナル認識粒子54(SRP54)、X-box結合タンパク質-1(XBP-1)、B細胞リンパ腫2(bcl-2)、インスリン様成長因子1(IGF1)、C1GALT1特異的シャペロン(COSMC)、α-1,6-フコシルトランスフェラーゼ8(FUT8)、BCL2アンタゴニスト/キラー(BAK)、活性化転写因子6(ATF6)、真核生物翻訳開始因子2αキナーゼ3(PERK)、イノシトール要求酵素1α(IRE1α)、ヒートショック70kDaプロテイン5(BiP/GRP78)、DNAヒートショックプロテインファミリーメンバーB9(Dnajb9)、および乳酸脱水素酵素A(LDHA)からなる群から選択される分子をコードする、ステップ;
(b)異なる発現プロファイルを示す複数のプロモーターを含むプロモーターラダーを提供するステップ;
(c)前記プロモーターラダー由来のプロモーターを、前記宿主細胞のゲノムにおける前記標的遺伝子に作動可能に連結することによって前記宿主細胞のゲノムを操作するステップ;
(d)ステップ(c)をさらなる宿主細胞で繰り返して、前記宿主細胞のゲノムにおける前記標的遺伝子に作動可能に連結された前記プロモーターラダーに由来する異なるプロモーターを含む個々の宿主細胞を含む複数の宿主細胞を含む初期プロモータースワップ宿主細胞ライブラリーを作出するステップ;ならびに
(e)発現された目的の生成物および/または前記宿主細胞の表現型特性について、前記初期プロモータースワップ宿主細胞ライブラリーの細胞をスクリーニングするステップを含む、方法。
【請求項20】
前記宿主細胞が哺乳動物細胞である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記宿主細胞がマウス細胞である、請求項19および20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記宿主細胞がチャイニーズハムスター卵巣細胞である、請求項19から21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記標的遺伝子が、分泌、タンパク質輸送、ストレス応答、グリコシル化、アポトーシス、アンフォールディングされたタンパク質の応答、タンパク質フォールディング、ER関連分解、および代謝からなる群から選択される機能を有する分子をコードする、請求項19から22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記プロモーターラダーが、CMV、EF1α、SV40、RSV、およびPGKからなる群から選択される少なくとも2つのプロモーターを含む、請求項19から23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記プロモーターラダーが、配列番号1~5からなる群から選択されるヌクレオチド配列を有する少なくとも2つのプロモーターを含む、請求項19から24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記目的の生成物がタンパク質である、請求項19から25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記目的の生成物が免疫グロブリンである、請求項19から26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記目的の生成物が、IgG、IgM、IgA、IgE、およびIgDからなる群から選択される、請求項19から27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記目的の生成物が、IgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4からなる群から選択される、請求項19から28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記宿主細胞のゲノムの操作が、CRISPR適合性エンドヌクレアーゼおよび関連するgRNAを使用して、前記標的遺伝子の上流で前記宿主細胞ゲノムを標的にし、切断することを含む、請求項19から29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
相同組換えによって前記プロモーターラダーに由来するプロモーターを挿入することをさらに含む、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
目的の生成物の表現型特性についての前記初期プロモータースワップ宿主細胞ライブラリーの細胞をスクリーニングするステップが、前記目的の生成物の力価、N末端切断、および/またはグリコシル化パターンを確認すること、または特徴付けることを含む、請求項19から31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記宿主細胞の表現型特性についての前記初期プロモータースワップ宿主細胞ライブラリーの細胞をスクリーニングするステップが、以下のもの:細胞増殖、培養中の細胞生存能力のパターン、細胞密度、および1日あたり、細胞あたりに産生される目的の生成物の細胞比生産性のうち1つまたは複数を確認すること、または特徴付けることを含む、請求項19から32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
1つより多い細胞経路標的遺伝子が提供される、請求項19から33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
ステップ(a)~(e)が繰り返される、請求項19から34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
(f)前記ステップにおいてスクリーニングされたプロモーターと標的遺伝子とのユニークな組合せをそれぞれ含む、その後の複数の宿主細胞を提供することによって、その後のプロモータースワップ宿主細胞ライブラリーを作出するステップ
をさらに含む、請求項19から35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
(f)前記ステップにおいてスクリーニングされたプロモーターと標的遺伝子とのユニークな組合せをそれぞれ含む、その後の複数の宿主細胞を提供することによって、その後のプロモータースワップ宿主細胞ライブラリーを作出するステップ;ならびに
(g)発現された目的の生成物および/または前記宿主細胞の表現型特性について、前記その後のプロモータースワップ宿主細胞ライブラリーの個々の宿主細胞をスクリーニングするステップ
をさらに含む、請求項19から35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
(f)前記ステップにおいてスクリーニングされたプロモーターと標的遺伝子とのユニークな組合せをそれぞれ含む、その
後の複数の宿主細胞を提供することによって、その後のプロモータースワップ宿主細胞ライブラリーを作出するステップ;
(g)発現された目的の生成物および/または前記宿主細胞の表現型特性について、前記その後のプロモータースワップ宿主細胞ライブラリーの個々の宿主細胞をスクリーニングするステップ;ならびに
(h)ステップ(f)~(g)を1回または複数回繰り返すステップ
をさらに含む、請求項19から35のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は、全体が参照により組み込まれる2018年3月20日に出願された米国仮出願第62/645,708号に基づく優先権の利益を主張する。
【0002】
配列表に関する陳述
本出願と関連する配列表は、紙コピーの代わりにテキスト形式で提供され、参照により本明細書に組み込まれる。配列表を含有するテキストファイルの名称は、ZYMR_024_01WO_SeqList ST25.txtである。このテキストファイルは、約98KBであり、2019年3月20日に作成されたものであり、EFS-Webを介して電子的に提出される。
【0003】
分野
本開示は、CHO細胞中での治療タンパク質の産生を改善するための高効率(HTP)ゲノム操作プラットフォームに関する。開示されるHTPゲノム操作プラットフォームは、コンピュータにより駆動され、分子生物学、自動化、および先端機械学習プロトコールを統合する。
【背景技術】
【0004】
チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞は、組換えタンパク質治療剤の工業生産のための最も頻繁に適用される宿主細胞系である。CHO細胞は、グラム量でヒト様翻訳後修飾を示す高品質の生物製剤を産生することができる。これを考慮すると、CHO細胞中で産生される治療タンパク質の需要が非常に高いことは驚くべきことではない。結果として、有効で、安全で、手頃な価格のタンパク質治療剤に対するますます増大する需要を満たすために、数十年に及ぶ懸命の努力は、CHO細胞中で産生される組換えタンパク質の量および質を最大化することに目標を設定してきた。
【0005】
しかしながら、CHO細胞を使用するバイオ医薬品のための生産プロセスは、細菌または酵母に基づく発現系と比較して、限られた増殖、低い生産性、およびストレス耐性などの細胞の制限、ならびにより高い費用に依然として悩まされている。近年、細胞操作の努力は、産物力価を改善してきた;しかしながら、特徴付けられていない細胞プロセスおよび遺伝子調節メカニズムは、細胞増殖、比生産性、およびタンパク質の品質を依然として妨げている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
かくして、ヒト治療タンパク質の生産のためにCHO細胞を操作する新しい方法が当業界で大きく必要とされている。
【0007】
特に、タンパク質生産の生物学的駆動因子を解明し、細胞増殖、比生産性、およびタンパク質の品質を妨げる特徴付けられていない細胞プロセスおよび遺伝子調節メカニズムを解きほぐすことができる、CHO細胞を操作する方法が緊急に必要である。
【0008】
開示の要旨
本開示は、CHO細胞中での治療タンパク質の産生を改善するための高効率(HTP)ゲノム操作プラットフォームに関する。
【0009】
本明細書に記載されるCHO細胞ゲノム操作プラットフォームは、遺伝的因果関係の基礎となる知識に依拠しない、HTP遺伝子操作ツールセットに基づく。結果として、教示されるプラットフォームは、治療タンパク質生産にとって重要な経路を駆動するのを担う基礎となる遺伝的構造を発見するために、遺伝子に依存しない様式でCHOゲノム全体像を探索することができる。
【0010】
特定の態様では、本開示は、治療抗体生産と関連する遺伝的経路を探索するのに有用である、HTPプロモータースワップゲノム操作ツールを教示する。HTPプロモータースワップツールは、細胞経路遺伝子の体系的摂動を可能にし、そのような摂動が目的の遺伝子、例えば、抗体などの治療タンパク質に対して有する効果を決定することができる。このHTP分子ツールを、抗体の生産のためのより良好なCHO細胞系の製造を可能にするであろう、先端機械学習プロトコールおよびHTP細胞構築工場プラットフォームと組み合わせることができる。
【0011】
HTPプロモータースワップツールの多用途性は、CHO細胞経路を摂動させ、試験するため、および特定の遺伝子の治療タンパク質産生に対する効果を識別するための体系的な方法をゲノム操作者に提供する。
【0012】
様々な「オミクス」経路における、HTPプロモータースワップゲノム操作ツールの使用から蓄積されたデータは、ゲノム情報の大きいライブラリーの開発を可能にし、次いで、これを先端機械学習モデルにおいて使用して、より良好なCHO細胞治療タンパク質産生をもたらす可能性が最も高い遺伝子摂動を理解することができる。この情報を、新たに出現したゲノム編集技術と共に使用して、CHO細胞を合理的に操作し、多くの生物製剤の量、質、および値ごろ感をさらに制御することができる。
【0013】
かくして、教示されるプラットフォームは、より良い性能のCHO細胞を操作するための合理的かつ不可知論的方法を使用する。例として、HTPプロモータースワップゲノム操作ツールを、所望の治療タンパク質産生特性に寄与する可能性が最も高いと考えられる経路内で最初に使用することができる。そのような「合理的改善」キャンペーンから蓄積された情報を遺伝子データベースに保存した後、先端機械学習プロトコールのための訓練データセットのための基礎を形成することができる。これらの機械学習アルゴリズムを使用して、摂動することが重要であり得る、純粋に合理的に設計された改善キャンペーンを使用して決定することができない、将来の標的遺伝子を予測する。
【0014】
さらに、HTPプロモータースワップゲノム操作ツールを、治療タンパク質産生と関連するとは考えられない遺伝子が摂動される、初期の「遺伝子経路非依存的様式」で使用することができる。この情報を、上記の合理的改善キャンペーンから蓄積された遺伝子情報と同様、データベース中に保存し、機械学習アルゴリズムを訓練するために使用することができる。
【0015】
実施形態では、本開示のHTPゲノム操作方法は、宿主細胞の性能の有意な向上を達成するために、予めの遺伝的知識を必要としない。実際、本開示は、元々存在する宿主細胞バリアント間の遺伝的多様性の識別(例えば、配列決定されたCHO細胞系のゲノム間の比較など);および無作為な様式でゲノム空間を効率的に「探索する」ために、「公知の経路」遺伝子を選択することなく、プロモータースワップツールを用いて遺伝子を無作為に標的にすることを含む、いくつかの機能に依存しない手法によって、多様性プールを生成する方法を教示する。
【0016】
しかしながら、一部の実施形態では、本開示はまた、下流のHTP操作のために使用される遺伝的多様性を設計するための仮説により誘導される方法も教示する。すなわち、一部の実施形態では、本開示は、選択された遺伝的変更の指向性設計を教示する。
【0017】
ある実施形態では、a)宿主細胞にとって内因性である細胞経路標的遺伝子および異なる発現プロファイルを示す複数のプロモーターを含むプロモーターラダーを提供するステップ;b)宿主細胞のゲノムを操作して、それぞれの細胞が標的遺伝子に作動可能に連結したプロモーターラダーに由来する異なるプロモーターを含む、複数の宿主細胞を含む初期プロモータースワップ宿主細胞ライブラリーを作出するステップ;ならびにc)目的の免疫グロブリンおよび/または宿主細胞の表現型特性について、初期プロモータースワップ宿主細胞ライブラリーの細胞をスクリーニングするステップを含む、免疫グロブリン発現を改善するためのHTP法が提供される。別の実施形態では、a)宿主細胞にとって内因性である細胞経路標的遺伝子および異なる発現プロファイルを示す複数のプロモーターを含むプロモーターラダーを提供するステップ;b)宿主細胞のゲノムを操作して、複数の宿主細胞が標的遺伝子に作動可能に連結したプロモーターラダーに由来する異なるプロモーターを含む個々の宿主細胞を含む、複数の宿主細胞を含む初期プロモータースワップ宿主細胞ライブラリーを作出するステップ;ならびにc)目的の免疫グロブリンおよび/または宿主細胞の表現型特性について、初期プロモータースワップ宿主細胞ライブラリーの細胞をスクリーニングするステップを含む、免疫グロブリン発現を改善するためのHTP法が提供される。実施形態では、宿主細胞は、哺乳動物細胞、マウス細胞、またはチャイニーズハムスター卵巣細胞である。実施形態では、標的遺伝子は、分泌、タンパク質輸送、ストレス、グリコシル化、アポトーシス、アンフォールディングされたタンパク質の応答、タンパク質フォールディング(例えば、シャペロン)、ER関連分解、および代謝からなる群から選択される機能を有する分子をコードする。実施形態では、標的遺伝子は、SRP14、SRP9、SRP54、XBP-1、bcl-2、IGF1、COSMC、FUT8、BCL2、BAK、ATF6、PERK、IRE1α、BiP/GRP78(HSP70)、Dnajb9(ERdj4/HSP40)、およびLDHAからなる群から選択される分子をコードする。実施形態では、プロモーターラダーは、CMV、EF1α、SV40、RSV、およびPGKからなる群から選択される少なくとも2つのプロモーターを含む。実施形態では、プロモーターラダーは、配列番号1~5からなる群から選択されるヌクレオチド配列を有する少なくとも2つのプロモーターを含む。実施形態では、免疫グロブリンは、IgG、IgM、IgA、IgE、およびIgDからなる群から選択される。実施形態では、免疫グロブリンは、IgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4からなる群から選択される。実施形態では、宿主細胞のゲノムの操作は、CRISPR適合性エンドヌクレアーゼおよび関連するgRNAを使用して、標的遺伝子の上流で宿主細胞ゲノムを標的にし、切断することを含む。一部の実施形態では、CRISPR適合性エンドヌクレアーゼは、Cas9、Cas12a、Cas12b、Cas12c、Cas12d、Cas12e、Cas13a、Cas13b、Cas13c、Cpf1、およびMAD7、またはそのホモログ、オルソログ、突然変異体、バリアントもしくは改変型から選択される。実施形態では、宿主細胞のゲノムの操作は、CRISPR適合性エンドヌクレアーゼおよび関連するgRNAを使用して、標的遺伝子の上流で宿主細胞ゲノムを標的にし、切断すること、ならびに相同組換えによってプロモーターラダーに由来するプロモーターを挿入することを含む。実施形態では、目的の免疫グロブリンの表現型特性についての初期プロモータースワップ宿主細胞ライブラリーの細胞のスクリーニングは、目的の免疫グロブリンの力価、N末端切断、および/またはグリコシル化パターンを確認すること、または特徴付けることを含む。実施形態では、宿主細胞の表現型特性についての初期プロモータースワップ宿主細胞ライブラリーの細胞のスクリーニングは、細胞増殖、培養中の細胞生存能力のパターン、細胞密度、および1日あたり、細胞あたりに産生される免疫グロブリンの細胞比生産性を確認すること、または特徴付けることを含む。実施形態では、1より多い細胞経路標的遺伝子が提供される。実施形態では、ステップa)~c)を繰り返す。実施形態では、方法は、d)前記ステップにおいてスクリーニングされた少なくとも2つの個々の宿主細胞中に存在する遺伝的変異から選択される遺伝的変異のユニークな組合せをそれぞれ含む、その後の複数の宿主細胞を提供することによって、その後のプロモータースワップ宿主細胞ライブラリーを作出するステップをさらに含む。実施形態では、方法は、d)前記ステップにおいてスクリーニングされた少なくとも2つの個々の宿主細胞中に存在する遺伝的変異から選択される遺伝的変異のユニークな組合せをそれぞれ含む、その後の複数の宿主細胞を提供することによって、その後のプロモータースワップ宿主細胞ライブラリーを作出するステップ;ならびにe)目的の免疫グロブリンおよび/または宿主細胞の表現型特性について、その後のプロモータースワップ宿主細胞ライブラリーの個々の宿主細胞をスクリーニングするステップをさらに含む。実施形態では、方法は、d)前記ステップにおいてスクリーニングされた少なくとも2つの個々の宿主細胞中に存在する遺伝的変異から選択される遺伝的変異のユニークな組合せをそれぞれ含む、その後の複数の宿主細胞を提供することによって、その後のプロモータースワップ宿主細胞ライブラリーを作出するステップ;e)目的の免疫グロブリンおよび/または宿主細胞の表現型特性について、その後のプロモータースワップ宿主細胞ライブラリーの個々の宿主細胞をスクリーニングするステップ;ならびにf)ステップd)~e)を1回または複数回繰り返すステップをさらに含む。実施形態では、教示される方法によって誘導される、宿主細胞の集団が提供される。
【0018】
一部の実施形態では、a)宿主細胞にとって内因性である細胞経路標的遺伝子および異なる発現プロファイルを示す複数のプロモーターを含むプロモーターラダーを提供するステップ;b)宿主細胞のゲノムを操作して、それぞれの細胞が標的遺伝子に作動可能に連結したプロモーターラダーに由来する異なるプロモーターを含む、複数の宿主細胞を含む初期プロモータースワップ宿主細胞ライブラリーを作出するステップ;ならびにc)目的の生成物および/または宿主細胞の表現型特性について、初期プロモータースワップ宿主細胞ライブラリーの細胞をスクリーニングするステップを含む、目的の生成物の発現を改善するためのHTP法が提供される。実施形態では、目的の生成物は、タンパク質である。他の実施形態では、a)宿主細胞にとって内因性である細胞経路標的遺伝子および異なる発現プロファイルを示す複数のプロモーターを含むプロモーターラダーを提供するステップ;b)宿主細胞のゲノムを操作して、複数の宿主細胞が標的遺伝子に作動可能に連結したプロモーターラダーに由来する異なるプロモーターを含む、個々の宿主細胞を含む、複数の宿主細胞を含む初期プロモータースワップ宿主細胞ライブラリーを作出するステップ;ならびにc)目的の生成物および/または宿主細胞の表現型特性について、初期プロモータースワップ宿主細胞ライブラリーの細胞をスクリーニングするステップを含む、目的の生成物の発現を改善するためのHTP法が提供される。実施形態では、目的の生成物は、タンパク質である。実施形態では、宿主細胞のゲノムの操作は、CRISPR適合性エンドヌクレアーゼおよび関連するgRNAを使用して、標的遺伝子の上流で宿主細胞ゲノムを標的にし、切断することを含む。一部の実施形態では、CRISPR適合性エンドヌクレアーゼは、Cas9、Cas12a、Cas12b、Cas12c、Cas12d、Cas12e、Cas13a、Cas13b、Cas13c、Cpf1、およびMAD7、またはそのホモログ、オルソログ、突然変異体、バリアントもしくは改変型から選択される。実施形態では、目的の生成物は、免疫グロブリンである。実施形態では、目的の生成物は、抗体である。実施形態では、目的の生成物は、生体分子である。実施形態では、目的の生成物は、酵素である。実施形態では、目的の生成物は、タンパク質ではない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本開示の自動化システムの一実施形態を描写する。本開示は、プロモーターラダー作出、配列決定およびDNAの構築、CHO細胞のトランスフェクション、スクリーニング、タンパク質試験/特性評価、およびCHO細胞のクローン選択を可能とする様々なモジュールを含む自動化ロボットシステムの使用を教示する。
【0020】
【
図2】
図2は、CHO細胞改善のための本開示の研究室情報管理システム(LIMS)の実施形態の略図である。
【0021】
【
図3】
図3は、本開示のLIMSシステムの実施形態のクラウドコンピューティングインプリメンテーションの略図である。
【0022】
【
図4】
図4は、本開示の反復予測設計ワークフローの実施形態を描写する。
【0023】
【
図5】
図5は、本開示の実施形態による、コンピュータシステムの実施形態の略図である。
【0024】
【
図6】
図6は、識別された遺伝子標的に関するプロモータースワッププロセスを行うために使用される例示的なプロモーターライブラリーを示す。PROスワップ(すなわち、プロモータースワップ、またはPROSWAP)プロセスにおいて使用されるプロモーターは、P
1~P
8(P
1は最も高い発現を有し、P
8は最も低い発現を有する)を含むプロモーターラダーとして描写される。しかしながら、一定範囲の発現強度がある限り、任意数のプロモーターをプロモーターラダーとして使用することができる。P
1~P
8プロモーターラダーは、プロモーターラダーにわたる一定範囲の発現強度の有用性を伝えるための例示目的のものである。プロモーターラダーは、3つのプロモーターを含む高>中>低ラダー配置を含んでもよい。
【0025】
【
図7】
図7A、
図7Bおよび
図7Cは、HTPプロモータースワップゲノム操作ツールを実行する様々な実施形態を示す。標的遺伝子の周囲のDNA領域を、CRISPRシステム(または同様の)遺伝子編集手法を使用して選択的に切断する。標的遺伝子の上流のプロモーターを、相同組換え修復メカニズムによってプロモーター4により置き換える。プロモーター置き換えカセットは、A~Cの実施形態で考察される様々な部分から構成されていてもよい。
図7A-構築物は3つのマーカーを担持する。マーカー1は、相同領域の外側にあり、標的化組込みの間に失われる。それは、オフターゲット組込みに対する陰性選択/スクリーニングマーカーとして使用される。マーカー2および3は、標的遺伝子座での組込みの成功時に保持され、迅速な表現型分析のためのスクリーニング(蛍光)および選択(抗生物質耐性)のために別々に使用することができる。
図7B-構築物は、オフターゲット組込みに対する陰性選択/スクリーニングマーカーのみを担持する。標的遺伝子座に陽性マーカーは組み込まれず、所与の株において複数の遺伝子を逐次的に標的にすることを可能にする。陽性マーカーの非存在下で、より広範囲の遺伝子型決定を使用して、正確に組み込まれたクローンを単離することができる。
図7C-構築物は、
図7Aにおける構築物と類似し、2つの陽性マーカー2および3の周囲にFRTまたはLoxP組換え部位の追加の特徴を有する。これらの組換え部位の存在を使用して、その中の領域を選択的にループアウトさせることができる。これにより、これらのマーカーを再利用し、所与の株における複数の標的遺伝子の逐次的操作を行うことができる。
【0026】
【
図8】
図8は、HTPプロモータースワップゲノム操作ツールの背後にある対象物の図を提供する。HTPツールは、細胞経路遺伝子の体系的摂動を可能にし、そのような摂動が目的の遺伝子、例えば、抗体などの治療タンパク質に対して有する効果を決定することができる。このHTP分子ツールを、抗体の生産のためのより良好なCHO細胞系の製造を可能にするであろう、先端機械学習プロトコールおよびHTP細胞ビルド工場プラットフォームと組み合わせることができる。
【0027】
【
図9】
図9は、例示的なHTPプロモータースワップゲノム操作ツールの実施形態を示す。
【0028】
【
図10】
図10は、治療タンパク質生産と関連するゲノム経路を探査する/摂動させるための使用されるHTPプロモータースワップゲノム操作ツールの実施形態を示す。最初に、元のCHO細胞系に、目的の遺伝子(GOI)、例えば、抗体をトランスフェクトする。安定な抗体産生CHO細胞が得られたら、以下の8つの代表的な機能:(1)分泌/タンパク質輸送、(2)ストレス、(3)グリコシル化、(4)アポトーシス、(5)アンフォールディングされたタンパク質の応答、(6)タンパク質フォールディング(例えば、シャペロン)、(7)ER関連分解、および(8)代謝のそれぞれを有する分子をコードする標的遺伝子が選択される。次に、異なる発現プロファイルを示すプロモーターを含むプロモーターラダーは、それぞれの標的遺伝子に作動可能に連結される。図において、プロモーターラダーは、3つのプロモーター(例えば、高、中、および低)を含む。結果として、それぞれの標的遺伝子(1つがそれぞれの機能の分子をコードする、合計8つ)について、CHO細胞系は、所与のプロモーターを所与の標的遺伝子に作動可能に連結するために操作される。したがって、例示的な図では、標的経路遺伝子と会合したプロモーターラダーに由来する特定のプロモーターの異なる遺伝子構築物をそれぞれ有するが、それ以外は遺伝的に同一である、合計24個のユニークなCHO細胞系が作出される。これにより、特定の経路標的を摂動させる効果を観察することができる。所与の経路標的に対するそのようなプロモーター摂動の効果は、目的の遺伝子(GOI)、例えば、抗体の発現を特徴付けることによって試験される。
【発明を実施するための形態】
【0029】
定義
以下の用語は当業者によってよく理解されると考えられるが、本開示の主題の説明を容易にするために、以下の定義を記載する。
【0030】
用語「a」または「an」は、1または複数のその実体を指す、すなわち、複数の指示対象を指してもよい。そのため、用語「a」または「an」、「1または複数(one or more)」および「少なくとも1つ(at least one)」は、本明細書では互換的に使用される。さらに、不定冠詞「a」または「an」による「要素(an
element)」に対する参照は、文脈が1つおよびただ1つの要素が存在することを明確に必要としない限り、1より多いその要素が存在する可能性を排除しない。
【0031】
本明細書で使用される場合、用語「細胞生物」、「微生物」または「マイクローブ」は、広く取られるべきである。これらの用語は、互換的に使用され、限定されるものではないが、2つの原核生物ドメインである細菌および古細菌、ならびにある特定の真核生物ドメインである真菌および原生生物が挙げられる。一部の実施形態では、本開示は、本開示の中に存在する一覧/表および図面の「微生物」または「細胞生物」または「マイクローブ」を指す。この特徴付けは、表および図面の識別された分類学上の属だけでなく、識別された分類学上の種、ならびに前記表または図面における任意の生物の様々な新規の、および新しく識別または設計された株も指してもよい。同じ特徴付けは、実施例などの明細書の他の部分におけるこれらの用語の記載についても当てはまる。
【0032】
用語「原核生物」は、当業界で認識されており、核も他の細胞オルガネラも含有しない細胞を指す。原核生物は、一般的には、細菌および古細菌の2つのドメインのうちの1つに分類される。古細菌および細菌ドメインの生物間の明確な差異は、16SリボソームRNAにおけるヌクレオチド塩基配列の基本的な差異に基づく。
【0033】
用語「古細菌」は、典型的には、特異な環境中に見出され、リボソームタンパク質の数および細胞壁におけるムラミン酸の欠如などのいくつかの基準によって、その他の原核生物と区別される、Mendosicutes門の生物の分類を指す。ssrRNA分析に基づくと、古細菌は、2つの系統発生学的に異なる群:CrenarchaeotaおよびEuryarchaeotaからなる。その生理に基づいて、古細菌を、3つの型:メタン細菌(メタンを産生する原核生物);高度好塩菌(非常に高濃度の塩(NaCl)で生存する原核生物);および高度(超)好熱菌(非常に高い温度で生存する原核生物)に体系化することができる。それらを細菌と区別する統一的な古細菌の特徴(すなわち、細胞壁にムレインを含まない、エステル結合膜脂質を含まないなど)の他に、これらの原核生物は、それらをその特定の生息環境に適合させるユニークな構造的または生化学的特質を示す。Crenarchaeotaは、主に超好熱性硫黄依存性原核生物からなり、Euryarchaeotaは、メタン細菌および高度好塩菌を含有する。
【0034】
「細菌」または「真正細菌」は、原核生物のドメインを指す。細菌は、以下のような少なくとも11種の異なる群:(1)2つの主要な亜門:(1)高G+C群(Actinomycetes、Mycobacteria、Micrococcus、その他)、(2)低G+C群(Bacillus、Clostridia、Lactobacillus、Staphylococci、Streptococci、Mycoplasmas)が存在するグラム陽性(グラム+)細菌;(2)プロテオバクテリア、例えば、紅色光合成+非光合成グラム陰性細菌(多くの「一般」グラム陰性細菌を含む);(3)シアノバクテリア、例えば、酸素発生型光合成細菌;(4)スピロヘータおよび関連種;(5)プランクトミセス;(6)Bacteroides、Flavobacteria;(7)Chlamydia;(8)緑色硫黄細菌;(9)緑色非硫黄細菌(嫌気性光合成細菌);(10)放射線耐性ミクロコッカスおよび関連種;(11)ThermotogaおよびThermosipho thermophilesを含む。
【0035】
「真核生物」は、その細胞が、膜内に封入された核および他のオルガネラを含有する任意の生物である。真核生物は、EukaryaまたはEukaryota分類群に属する。真核細胞を原核細胞(上記の細菌および古細菌)から区別する決定的な特徴は、それらが、膜に結合したオルガネラ、特に、遺伝物質を含有し、核エンベロープによって封入された核を有することである。
【0036】
本開示の意味における「宿主細胞」は、任意の原核または真核細胞を含んでもよい。しかしながら、本開示の特定の実施形態は、真核細胞に焦点を合わせる。例えば、「宿主細胞」は、BHK21、BHK TK-、CHO、CHO-Kl、CHO-DUKX、CHO-DUKX Bl、およびCHO-DG44細胞などのハムスター細胞、またはそのような細胞系のいずれかの誘導体/子孫を含む。本開示のさらなる実施形態では、宿主細胞はまた、マウスミエローマ細胞、例えば、NSOおよびSp2/0細胞、またはそのような細胞系のいずれかの誘導体/子孫も含む。本開示の意味において使用することができるマウスおよびハムスター細胞の例は、表1にもまとめられる。しかしながら、これらの細胞の誘導体/子孫、および限定されるものではないが、ヒト、マウス、ラット、サル、鳥類もしくは齧歯類細胞系などの他の哺乳動物細胞、または限定されるものではないが、酵母、昆虫、および植物細胞などの非哺乳動物真核細胞も、特に、バイオ医薬品および/または治療タンパク質の生産のために、本開示の意味において使用することができる。
【表1-1】
【表1-2】
【0037】
宿主細胞を、無血清条件下で、必要に応じて、動物起源のタンパク質/ペプチドを含まない培地中で確立し、適合化し、および完全に培養することができる。Ham’s F12(Sigma、Deisenhofen、Germany)、RPMI-1640(Sigma)、Dulbecco改変Eagle培地(DMEM;Sigma)、最少必須培地(MEM;Sigma)、Iscove改変Dulbecco培地(IMDM;Sigma)、CD-CHO(Invitrogen、Carlsbad、Calif.)、CHO-S(Invitrogen)、無血清CHO培地(Sigma)、および無タンパク質CHO培地(Sigma)などの商業的に入手可能な培地が、例示的な適切な栄養溶液である。培地はいずれも、必要に応じて、様々な化合物を添加してもよく、その例は、ホルモンおよび/または他の増殖因子(インスリン、トランスフェリン、上皮増殖因子、インスリン様増殖因子など)、塩(塩化ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、リン酸塩など)、緩衝剤(HEPESなど)、ヌクレオシド(アデノシン、チミジンなど)、グルタミン、グルコースまたは他の同等のエネルギー源、抗生物質、微量元素である。また、他の任意の必要な補給物質を、当業者には公知である適切な濃度で含有させてもよい。本開示では、無血清培地を、態様において使用することができる。しかしながら、好適な量の血清を添加した培地を、宿主細胞の培養のために使用することもできる。選択可能な遺伝子を発現する遺伝子改変された細胞の増殖および選択のために、好適な選択剤を培養培地に添加することができる。
【0038】
用語「遺伝子改変された宿主細胞」、「組換え宿主細胞」、および「組換え株」は、本明細書では互換的に使用され、クローニング、形質転換、形質転換、またはそうでなければ、本開示の方法によって遺伝子改変された宿主細胞を指す。かくして、この用語は、宿主細胞が、それが由来した天然に存在する生物と比較して、変更された、改変された、または異なる遺伝子型および/または表現型を示す(例えば、遺伝子改変が微生物のコード核酸配列に影響する場合)ように、遺伝的に変更、改変、または操作された宿主細胞(例えば、細菌、酵母細胞、真菌細胞、CHO細胞、ヒト細胞など)を含む。一部の実施形態では、この用語は、問題の特定の組換え宿主細胞だけでなく、そのような宿主細胞の子孫または潜在的な子孫も指す。
【0039】
用語「野生型微生物」または「野生型宿主細胞」は、天然に存在する細胞、すなわち、遺伝子改変されていない細胞を記載する。
【0040】
用語「遺伝子操作された」とは、宿主細胞のゲノムの任意の操作(例えば、核酸の挿入、欠失、突然変異、または置き換えによる)を指してもよい。
【0041】
用語「対照」または「対照宿主細胞」とは、遺伝子改変または実験的処置の効果を決定するための適切な比較用宿主細胞を指す。一部の実施形態では、対照宿主細胞は、野生型細胞である。他の実施形態では、対照宿主細胞は、処置宿主細胞を区別する遺伝子改変を除いて、遺伝子改変された宿主細胞と遺伝的に同一である。
【0042】
本明細書で使用される場合、用語「対立遺伝子」は、任意の1つまたは複数の代替型の遺伝子を意味し、これらの対立遺伝子は全て、少なくとも1つの形質または特徴に関する。二倍体細胞では、所与の遺伝子の2つの対立遺伝子は、相同染色体の対の対応する遺伝子座を占有する。
【0043】
本明細書で使用される場合、用語「遺伝子座(locus)」(複数形はloci)は、例えば、遺伝子または遺伝子マーカーが見出される染色体上の特定の場所(1つもしくは複数の)または部位を意味する。
【0044】
本明細書で使用される場合、用語「遺伝的に関連する」とは、交配を通して分離することが難しいような、育種中に高率で同時に遺伝する2つまたはそれより多い形質を指す。
【0045】
本明細書で使用される「組換え」または「組換え事象」とは、染色体交差または独立遺伝を指す。
【0046】
本明細書で使用される場合、用語「表現型」とは、個々の遺伝子構造(すなわち、遺伝子型)と、環境との相互作用の結果生じる、その個々の細胞、細胞培養物、生物、または生物群の観察可能な特徴を指す。
【0047】
本明細書で使用される場合、核酸配列またはタンパク質配列を記述する場合の用語「キメラ」または「組換え」とは、単一の大分子中で、少なくとも2つの異種ポリヌクレオチド、もしくは2つの異種ポリペプチドを連結する、または少なくとも1つの自然核酸もしくはタンパク質配列の1つもしくは複数のエレメントを再配置する核酸、またはタンパク質配列を指す。例えば、用語「組換え」は、例えば、化学合成による、または遺伝子操作技法による核酸の単離されたセグメントの操作による、2つのそうでなければ分離されたセグメントの配列の人工的な組合せを指してもよい。
【0048】
本明細書で使用される場合、「合成ヌクレオチド配列」または「合成ポリヌクレオチド配列」は、天然に存在することが知られていない、または天然に存在しないヌクレオチド配列である。一般に、そのような合成ヌクレオチド配列は、他の任意の天然に存在するヌクレオチド配列と比較した場合、少なくとも1つのヌクレオチドの相違を含むであろう。
【0049】
本明細書で使用される場合、用語「核酸」とは、任意の長さの、ポリマー形態のヌクレオチド、リボヌクレオチドもしくはデオキシリボヌクレオチド、またはそのアナログを指す。この用語は、分子の一次構造を指し、かくして、二本鎖および一本鎖DNA、ならびに二本鎖および一本鎖RNAを含む。また、それは、メチル化および/またはキャップ付き核酸、改変塩基を含有する核酸、骨格改変などの改変核酸も含む。用語「核酸」および「ヌクレオチド配列」は、互換的に使用される。
【0050】
本明細書で使用される場合、用語「遺伝子」とは、生物学的機能と関連するDNAの任意のセグメントを指す。かくして、遺伝子は、限定されるものではないが、コード配列および/またはその発現にとって必要とされる調節配列を含む。遺伝子はまた、例えば、他のタンパク質の認識配列を形成する非発現DNAセグメントを含んでもよい。遺伝子は、目的の供給源からのクローニングまたは公知の、もしくは予測された配列情報からの合成を含む、様々な供給源から取得することができ、所望のパラメーターを有するように設計された配列を含んでもよい。
【0051】
本明細書で使用される場合、用語「相同」または「ホモログ」または「オルソログ」は、当業界で公知であり、共通の祖先またはファミリーメンバーを共有し、配列同一性の程度に基づいて決定される、関連配列を指す。用語「ホモロジー」、「相同」、「実質的に類似する」および「実質的に一致する」は、本明細書では互換的に使用される。それらは、1つまたは複数のヌクレオチド塩基の変化が、遺伝子発現を媒介するか、またはある特定の表現型をもたらす核酸断片の能力に影響しない核酸断片を指す。これらの用語はまた、初期の非改変断片と比較して、得られる核酸断片の機能特性を実質的に変更しない1つまたは複数のヌクレオチドの欠失または挿入などの本開示の核酸断片の改変も指す。したがって、当業者であれば理解できるように、本開示が特定の例示的な配列を超えるものを包含することが理解される。これらの用語は、ある種、亜種、品種、栽培品種または株において見出される遺伝子と、別の種、亜種、品種、栽培品種または株における対応する、または同等の遺伝子との関係を記載する。本開示の目的のために、相同配列が比較される。「相同配列」または「ホモログ」または「オルソログ」は、機能的に関連することが教示される、考えられる、または公知である。機能的関係は、限定されるものではないが、(a)配列同一性の程度および/または(b)同じか、もしくは類似する生物学的機能を含む、いくつかの方法のいずれか1つにおいて示すことができる。好ましくは、(a)と(b)の両方が示される。相同性を、Current Protocols in Molecular Biology (F.M. Ausubel et al., eds., 1987) Supplement 30, section 7.718, Table 7.71で考察されたものなどの、当業界で容易に利用可能なソフトウェアプログラムを使用して得られた結果から推測することができる。一部のアラインメントプログラムは、MacVector(Oxford Molecular Ltd、Oxford、U.K.)、ALIGN Plus(Scientific and Educational Software、Pennsylvania)およびAlignX(Vector NTI、Invitrogen、Carlsbad、CA)である。別のアラインメントプログラムは、デフォルトパラメーターを使用するSequencher(Gene Codes、Ann Arbor、Michigan)である。
【0052】
本明細書で使用される場合、用語「内因性」または「内因性遺伝子」とは、それが宿主細胞ゲノム内に自然に見出される位置における、天然に存在する遺伝子を指す。本開示の文脈では、異種プロモーターを内因性遺伝子に作動可能に連結することは、その遺伝子が自然に存在する位置において、現存の遺伝子の前に異種プロモーター配列を遺伝的に挿入することを意味する。本明細書で記載される内因性遺伝子は、本開示の方法のいずれかに従って突然変異された天然に存在する遺伝子の対立遺伝子を含んでもよい。
【0053】
本明細書で使用される場合、用語「外因性」とは、その天然の供給源以外の一部の供給源に由来する物質を指す。例えば、用語「外因性タンパク質」または「外因性遺伝子」とは、生物システムに人工的に供給された、非天然の供給源に由来するタンパク質または遺伝子を指す。
【0054】
本明細書で使用される場合、用語「異種」とは、その天然の供給源または位置以外の一部の供給源または位置に由来する物質を指す。例えば、用語「異種プロモーター」は、ある供給源生物から取られ、そのプロモーターが自然には見出されない別の生物において使用されたプロモーターを指してもよい。しかしながら、用語「異種プロモーター」はまた、同じ供給源生物内に由来するが、前記プロモーターが通常は位置しない新しい位置に単に移動させたプロモーターを指してもよい。
【0055】
異種遺伝子配列を、真核発現ベクター、例えば、哺乳動物発現ベクターであってもよい、「発現ベクター」を使用することによって標的細胞中に導入することができる。ベクターを構築するのに使用される方法は、当業者には周知であり、様々な刊行物に記載されている。プロモーター、エンハンサー、終結およびポリアデニル化シグナル、選択マーカー、複製起点、ならびにスプライシングシグナルなどの機能成分の記載を含む、好適なベクターを構築するための特定の技術は、先行技術において概説されている。ベクターは、限定されるものではないが、プラスミドベクター、ファージミド、コスミド、人工/ミニ染色体(例えば、ACE)、またはバキュロウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、単純ヘルペスウイルス、レトロウイルス、バクテリオファージなどのウイルスベクターを含んでもよい。真核発現ベクターは、典型的には、複製起点などの、細菌中でのベクターの増殖を容易にする原核配列および細菌中での選択のための抗生物質耐性遺伝子をも含有するであろう。ポリヌクレオチドを作動可能に連結することができるクローニング部位を含有する、様々な真核発現ベクターは、当業界で周知であり、一部はStratagene、La Jolla、Calif.;Invitrogen、Carlsbad、Calif.;Promega、Madison、Wis.またはBD
Biosciences Clontech、Palo Alto、Calif.などの会社から商業的に入手可能である。一実施形態では、発現ベクターは、目的のペプチド/ポリペプチド/タンパク質をコードするヌクレオチド配列の転写および翻訳にとって必要な調節配列である少なくとも1つの核酸配列を含む。
【0056】
本明細書で使用される場合、用語「発現」とは、宿主細胞内での異種核酸配列の転写および/または翻訳を指す。宿主細胞中での所望の生成物/目的のタンパク質の発現レベルを、細胞中に存在する対応するmRNAの量、または選択された配列によってコードされる所望のポリペプチド/目的のタンパク質の量のいずれかに基づいて決定することができる。例えば、選択された配列から転写されるmRNAを、ノーザンブロットハイブリダイゼーション、リボヌクレアーゼRNA保護、細胞RNAへのin situハイブリダイゼーションまたはPCRによって定量することができる。選択された配列によってコードされるタンパク質を、様々な方法、例えば、ELISA、ウェスタンブロッティング、ラジオイムノアッセイ、免疫沈降、タンパク質の生物活性についてのアッセイ、タンパク質の免疫染色、次いで、FACS分析または均一系時間分解蛍光(HTRF)アッセイによって定量することができる。
【0057】
遺伝子改変された細胞またはトランスジェニック細胞が得られる、真核宿主細胞の、ポリヌクレオチドまたは発現ベクターによる「トランスフェクション」を、当業界で周知の任意の方法によって実施することができる。トランスフェクション法としては、限定されるものではないが、リポソーム媒介性トランスフェクション、リン酸カルシウム共沈降、電気穿孔、ポリカチオン(DEAE-デキストランなど)媒介性トランスフェクション、プロトプラスト融合、ウイルス感染、およびマイクロインジェクションが挙げられる。態様では、トランスフェクションは安定なトランスフェクションであることが望ましい。特定の宿主細胞系および細胞型における異種遺伝子の最適なトランスフェクション頻度および発現を提供するトランスフェクション法が好ましい。好適な方法を、日常的な手順によって決定することができる。安定なトランスフェクタントのために、構築物は、宿主細胞内で安定に維持されるために、宿主細胞のゲノムもしくは人工染色体/ミニ染色体中に組み込まれるか、またはエピソームに位置する。
【0058】
本明細書で使用される場合、用語「ヌクレオチド変化」とは、当業界でよく理解されるように、例えば、ヌクレオチド置換、欠失、および/または挿入を指す。例えば、突然変異は、サイレントな置換、付加、または欠失をもたらす変更を含有するが、コードされたタンパク質の特性もしくは活性、またはタンパク質が作製される方法を変更しない。
【0059】
本明細書で使用される場合、用語「タンパク質改変」とは、当業界でよく理解されるように、例えば、アミノ酸置換、アミノ酸改変、欠失、および/または挿入を指す。
【0060】
用語「タンパク質」は、ポリペプチドと互換的に使用され、任意の長さのアミノ酸のポリマーを指す。これらの用語はまた、限定されるものではないが、グリコシル化、アセチル化、リン酸化、またはタンパク質プロセシングを含む反応を介して翻訳後改変されたタンパク質も含む。改変および変化、例えば、他のタンパク質への融合、アミノ酸配列の置換、欠失または挿入を、ポリペプチドの構造において行うことができるが、分子はその生物学的機能活性を維持する。例えば、ある特定のアミノ酸配列置換を、ポリペプチドまたはその基礎となる核酸コード配列において行い、タンパク質を、同様の特性を用いて取得することができる。一般に、タンパク質は、アミノ酸の長さによって定義され、ポリペプチドよりも長い。用語「ポリペプチド」は、10個より多いアミノ酸を有する配列を意味し、用語「ペプチド」は、最大10アミノ酸長の配列を意味する。
【0061】
本開示は、バイオ医薬品ポリペプチド/タンパク質の産生のための宿主細胞を生成するのに好適である。本開示は、細胞生産性の増強を示す細胞による、多数の目的の異なる遺伝子の高収率の発現にとって特に好適である。
【0062】
「目的の遺伝子」(GOI)、「選択された配列」、または「生成物遺伝子」は、本明細書において同じ意味を有し、用語「所望の生成物」によっても記載される、目的の生成物または「目的のタンパク質」をコードする任意の長さのポリヌクレオチド配列を指す。選択された配列は、完全長の、またはトランケートされた遺伝子、融合物またはタグ付き遺伝子であってもよく、cDNA、ゲノムDNA、またはDNA断片、好ましくは、cDNAであってもよい。それは、天然の配列、すなわち、天然に存在する形態であってもよく、または必要に応じて、突然変異させるか、もしくはそうでなければ改変してもよい。これらの改変は、選択された宿主細胞におけるコドン使用を最適化するためのコドン最適化、ヒト化、またはタグ付けを含む。選択された配列は、分泌型、細胞質、核、膜結合型、または細胞表面ポリペプチドをコードしてもよい。
【0063】
「目的のタンパク質」は、選択された宿主細胞中で発現させることができる、任意のタンパク質、ポリペプチド、その断片、またはペプチドを含んでもよい。所望のタンパク質は、例えば、抗体、酵素、サイトカイン、リンホカイン、接着分子、受容体、その誘導体もしくは断片、アゴニストもしくはアンタゴニストとして働くことができるポリペプチド、および/または治療的もしくは診断的用途を有する任意のタンパク質であってもよい。モノクローナル抗体などのより複雑な分子の場合、GOIは、2つの抗体鎖のうちの一方または両方をコードする。「目的の生成物」は、宿主細胞中で産生可能である任意の所望の分子(タンパク質その他)であってもよい。
【0064】
「目的のタンパク質」または「所望のタンパク質」のさらなる例としては、インスリン、インスリン様増殖因子、hGH、tPA、インターロイキン(IL)、例えば、IL-1、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-11、IL-12、IL-13、IL-14、IL-15、IL-16、IL-17、IL-18、インターフェロン(IFN)アルファ、IFNベータ、IFNガンマ、IFNオメガまたはIFNタウ、TNFアルファおよびTNFベータ、TNFガンマなどの腫瘍壊死因子(TNF)、TRAILなどのサイトカイン;G-CSF、GM-CSF、M-CSF、MCP-1ならびにVEGFが挙げられる。また、エリスロポエチンまたは他の任意のホルモン増殖因子の産生も含まれる。本開示による方法を、抗体またはその断片の産生のために有利に使用することもできる。そのような断片としては、例えば、Fab断片(断片抗原結合=Fab)が挙げられる。Fab断片は、隣接する定常領域によって一緒に保持される両方の鎖の可変領域からなる。これらのものを、プロテアーゼ消化によって、例えば、パパインを用いて、従来の抗体から形成させることができるが、その間に、類似するFab断片を、遺伝子操作によって産生させることもできる。さらなる抗体断片としては、ペプシンを用いたタンパク質分解的切断によって調製することができるF(ab’)2断片が挙げられる。目的のタンパク質を、分泌型ポリペプチドとして培養培地から回収するか、または分泌シグナルなしに発現される場合、それを宿主細胞溶解物から回収することができる。
【0065】
目的のタンパク質の実質的に均一な調製物が得られるように、目的のタンパク質を、他の組換えタンパク質および宿主細胞タンパク質から精製することが必要であり得る。第1のステップとして、細胞および/または粒子状細胞デブリを、培養培地または溶解物から除去する。その後、目的の生成物を、例えば、免疫親和性もしくはイオン交換カラム上での分画、エタノール沈降、逆相HPLC、Sephadexクロマトグラフィー、シリカ上またはDEAEなどのカチオン交換樹脂上でのクロマトグラフィーによって、可溶性タンパク質、ポリペプチドおよび核酸の夾雑物から精製する。一般に、宿主細胞によって異種発現されるタンパク質をどのように精製するかを当業者に教示する方法は、当業界で周知である。
【0066】
遺伝子操作法を使用して、重鎖(VH)および軽鎖(VL)の可変領域のみからなる短縮された抗体断片を生産することができる。これらのものは、Fv断片(断片可変=可変部分の断片)と呼ばれる。これらのFv断片は定常鎖のシステインによる2つの鎖の共有結合を欠くため、Fv断片は安定化されることが多い。例えば、10~30アミノ酸、例えば、15アミノ酸の、短いペプチド断片によって、重鎖および軽鎖の可変領域を連結することが有利である。このように、ペプチドリンカーによって連結された、VHおよびVLからなる単一のペプチド鎖が得られる。この種類の抗体タンパク質は、一本鎖Fv(scFv)として公知である。この種類のscFv抗体タンパク質の例は、当業界で公知である。
【0067】
近年、多量体誘導体としてscFvを調製するための様々な戦略が開発されている。これは、特に、薬物動態および生体内分布特性が改善された、ならびに結合アビディティが増大した組換え抗体をもたらすことを目的としている。scFvの多量体化を達成するために、scFvは、多量体化ドメインを有する融合タンパク質として調製される。多量体化ドメインは、例えば、IgGのCH3領域またはロイシンジッパードメインなどのコイルドコイル構造(ヘリックス構造)であってもよい。しかしながら、scFvのVH/VL領域間の相互作用が多量体化のために使用される戦略も存在する(例えば、ダイアボディ、トリアボディおよびペンタボディ)。当業界では、ダイアボディとは、二価のホモ二量体scFv誘導体を意味する。scFv分子における5~10アミノ酸へのリンカーの短縮は、鎖間VH/VL重ね合わせが起こるホモ二量体の形成をもたらす。ダイアボディを、ジスルフィド架橋の組込みによってさらに安定化させることができる。ダイアボディ-抗体タンパク質の例は、当業界で公知である。
【0068】
当業界では、ミニボディとは、二価の、ホモ二量体scFv誘導体を意味する。それは、ヒンジ領域(例えば、これもIgG1に由来する)およびリンカー領域によってscFvに接続される、二量体化領域として、免疫グロブリン、好ましくはIgG、最も好ましくはIgG1のCH3領域を含有する融合タンパク質からなる。ミニボディ-抗体タンパク質の例は、当業界で公知である。
【0069】
当業界では、トリアボディとは、三価のホモ三量体scFv誘導体を意味する。VH-VLが、リンカー配列を用いずに直接融合されるscFv誘導体は、三量体の形成をもたらす。
【0070】
また、当業者であれば、二価、三価または四価構造を有し、scFvから誘導される、いわゆるミニ抗体にも精通しているであろう。多量体化は、二価、三価または四価コイルドコイル構造によって実行される。
【0071】
当業者であれば、ラマまたはラクダ科に由来する他の動物から誘導される一本鎖抗体の1つまたは複数の可変ドメインからなるポリペプチド分子にも精通しているであろう。さらに、当業者であれば、そのようなラクダ科抗体の誘導体およびバリアントを知っている。そのような分子は、「ドメイン抗体」とも呼ばれる。ドメイン抗体バリアントは、ペプチドリンカーによって共有的に接続されたこれらの可変ドメインのいくつかを含む。血清半減期を増加させるために、抗体Fc部分などのポリペプチド部分またはアルブミンなどの血清中に存在する別のタンパク質に融合されたドメイン抗体を生成することができる。
【0072】
当業界では、「足場タンパク質」とは、遺伝子クローニングによって、または別の機能を有する別のタンパク質もしくはタンパク質の部分との同時翻訳プロセスによって結合されるタンパク質の任意の機能的ドメインを意味する。
【0073】
本明細書で使用される場合、核酸またはポリペプチドの用語「少なくとも一部」または「断片」とは、そのような配列の最小サイズの特徴を有する一部、または完全長分子まで、およびそれを含む、完全長分子の任意のより大きい断片を意味する。本開示のポリヌクレオチドの断片は、遺伝子調節エレメントの生物活性部分をコードしてもよい。遺伝子調節エレメントの生物活性部分を、遺伝子調節エレメントを含む本開示のポリペプチドの1つの一部を単離すること、および本明細書に記載の活性を評価することによって調製することができる。同様に、ポリペプチドの一部は、完全長ポリペプチドまでの、4アミノ酸、5アミノ酸、6アミノ酸、7アミノ酸などであってもよい。使用される部分の長さは、特定の適用に依存するであろう。ハイブリダイゼーションプローブとして有用な核酸の一部は、12ヌクレオチドほどの短さであってもよく、一部の実施形態では、それは20ヌクレオチドである。エピトープとして有用なポリペプチドの一部は、4アミノ酸ほどの短さであってもよい。完全長ポリペプチドの機能を実行するポリペプチドの一部は、一般に、4アミノ酸より長い。
【0074】
バリアントポリヌクレオチドは、DNAシャッフリングなどの変異原性および組換え手順から誘導される配列も包含する。そのようなDNAシャッフリングのための戦略は、当業界で公知である。例えば、Stemmer (1994) PNAS 91:10747-10751;Stemmer (1994) Nature 370:389-391;Crameri et al.(1997) Nature Biotech. 15:436-438;Moore et al.(1997) J. Mol. Biol. 272:336-347;Zhang et al.(1997) PNAS 94:4504-4509;Crameri et al.(1998) Nature 391:288-291;ならびに米国特許第5,605,793号および同第5,837,458号を参照されたい。
【0075】
本明細書に開示されるポリヌクレオチドのPCR増幅のために、目的の任意の生物から抽出されたcDNAまたはゲノムDNAから対応するDNA配列を増幅するためのPCR反応における使用のためのオリゴヌクレオチドプライマーを設計することができる。PCRプライマーおよびPCRクローニングを設計するための方法は、当業界で一般に公知であり、Sambrook et al.(2001) Molecular Cloning: A Laboratory Manual (3rd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Plainview, New York)に開示されている。Innis et al., eds. (1990) PCR Protocols: A Guide to Methods and Applications (Academic Press, New York);Innis and Gelfand, eds. (1995) PCR Strategies (Academic Press, New York);およびInnis and Gelfand, eds. (1999) PCR Methods Manual (Academic Press, New York)も参照されたい。公知のPCR法としては、限定されるものではないが、プライマー対、ネステッドプライマー、単一特異的プライマー、縮重プライマー、遺伝子特異的プライマー、ベクター特異的プライマー、部分ミスマッチプライマーなどを使用する方法が挙げられる。
【0076】
本明細書で使用される用語「プライマー」とは、DNAポリメラーゼの結合を可能にすることによって、プライマー伸長産物の合成が誘導される条件下に置かれた場合、すなわち、ヌクレオチドおよびDNAポリメラーゼなどの重合のための薬剤の存在下、ならびに好適な温度およびpHで、DNA合成の開始点として働く増幅標的にアニーリングすることができるオリゴヌクレオチドを指す。(増幅)プライマーは、好ましくは、増幅の最大効率のための一本鎖である。好ましくは、プライマーは、オリゴデオキシリボヌクレオチドである。プライマーは、重合のための薬剤の存在下で伸長産物の合成を刺激するのに十分長くなければならない。プライマーの正確な長さは、温度およびプライマーの組成(A/T対G/C含量)を含む多くの因子に依存するであろう。一対の二方向プライマーは、PCR増幅などのDNA増幅の当業界で一般的に使用されるように、1つのフォワードプライマーおよび1つのリバースプライマーからなる。
【0077】
本明細書で使用される場合、「プロモーター」とは、コード配列または機能的RNAの発現を制御することができるDNA配列を指す。一部の実施形態では、プロモーター配列は、近位およびより遠位の上流エレメントからなり、後者のエレメントはエンハンサーと呼ばれることが多い。したがって、「エンハンサー」は、プロモーター活性を刺激することができるDNA配列であり、プロモーターの固有のエレメントまたはプロモーターのレベルもしくは組織特異性を増強するために挿入される異種エレメントであってもよい。プロモーターは、その全体が天然の遺伝子に由来するか、または天然に見出される異なるプロモーターに由来する異なるエレメントから構成されるか、またはさらには、合成DNAセグメントを含んでもよい。当業者であれば、異なるプロモーターは、異なる組織もしくは細胞型において、または異なる発生段階で、または異なる環境条件に応答して、遺伝子の発現を指令することができることを理解できる。多くの場合、調節配列の正確な境界は完全に定義されていないため、一部の変異のDNA断片が同一のプロモーター活性を有してもよいことがさらに認識される。
【0078】
本明細書で使用される場合、語句「組換え構築物」、「発現構築物」、「キメラ構築物」、「構築物」、および「組換えDNA構築物」は、本明細書では互換的に使用される。組換え構築物は、核酸断片の人工の組合せ、例えば、天然に一緒に見出されない調節およびコード配列を含む。例えば、キメラ構築物は、異なる供給源に由来する調節配列およびコード配列、または同じ供給源に由来するが、天然に見出されるものとは異なる様式で配置された調節配列およびコード配列を含んでもよい。そのような構築物を、そのまま使用するか、またはベクターと共に使用することができる。ベクターが使用される場合、ベクターの選択は、当業者には周知の通り、宿主細胞を形質転換するために使用される方法に依存する。例えば、プラスミドベクターを使用することができる。当業者であれば、本開示の単離された核酸断片のいずれかを含む宿主細胞を上手く形質転換する、選択する、および増殖させるためにベクター上に存在しなければならない遺伝子エレメントをよく知っている。また、当業者であれば、異なる独立した形質転換事象は、異なる発現レベルおよび発現パターンをもたらし(Jones et al., (1985) EMBO J. 4:2411-2418;De Almeida et al., (1989) Mol. Gen. Genetics 218:78-86)、かくして、所望の発現レベルおよびパターンを示す細胞系を得るためには、複数の事象をスクリーニングしなければならないことも認識するであろう。そのようなスクリーニングを、特に、DNAのサザン分析、mRNA発現のノーザン分析、タンパク質発現の免疫ブロッティング分析、または表現型分析によって達成することができる。ベクターは、自律的に複製するか、または宿主細胞の染色体中に組み込まれ得る、プラスミド、ウイルス、バクテリオファージ、プロウイルス、ファージミド、トランスポゾン、人工染色体であってもよい。ベクターはまた、自律的に複製しない、裸のRNAポリヌクレオチド、裸のDNAポリヌクレオチド、同じ鎖内のDNAとRNAの両方から構成されるポリヌクレオチド、ポリリシンコンジュゲートDNAまたはRNA、ペプチドコンジュゲートDNAまたはRNA、リポソームコンジュゲートDNAなどであってもよい。本明細書で使用される場合、用語「発現」とは、機能的最終生成物、例えば、mRNAまたはタンパク質(前駆体もしくは成熟体)の産生を指す。
【0079】
「作動可能に連結される」とは、この文脈では、さらなるポリヌクレオチドの転写をもたらす、本開示によるプロモーターポリヌクレオチドと、前記さらなるオリゴまたはポリヌクレオチドとの連続的配置を意味する。
【0080】
用語「体積生産性」または「生産率」は、単位時間あたり、培地体積あたりに形成される生成物の量と定義される。体積生産性を、1時間あたり、1リットルあたりのグラム数(g/L/h)で報告することができる。
【0081】
用語「比生産性」は、生成物の形成速度と定義される。比生産性は、本明細書では、1時間あたり、細胞乾燥重量(CDW)1グラムあたりの生成物のグラム数(g/g CDW/h)での比生産性とさらに定義される。所与の比生産性に関する、CDWとOD600との関係の使用を、1時間あたり、600nm(OD)での培養ブロスの光密度あたり、培養培地1リットルあたりの生成物のグラム数(g/L/h/OD)と表すこともできる。
【0082】
用語「収率」は、原材料の単位重量あたりに得られる生成物の量と定義され、基質1gあたりの生成物のg(g/g)と表すことができる。収率を、理論収率のパーセンテージとして表してもよい。「理論収率」は、生成物を作るために使用される代謝経路の化学量論によって決定される基質の所与の量あたりに生成され得る生成物の最大量と定義される。
【0083】
用語「タイター」または「力価」は、溶液の強度または溶液中の物質の濃度と定義される。例えば、発酵ブロス中の目的の生成物(例えば、小分子、タンパク質、ペプチド、抗体、合成化合物、燃料、アルコールなど)の力価は、発酵ブロス1リットルあたりの溶液中の目的の生成物のg数(g/L)として記載される。
【0084】
用語「総力価」は、限定されるものではないが、溶液中の目的の生成物、該当する場合、気相中の目的の生成物、およびプロセスから除去され、プロセス中の初期体積またはプロセス中の動作体積に対して回収される目的の任意の生成物などの、プロセスにおいて産生される目的の全生成物の合計と定義される。
【0085】
本明細書で使用される場合、用語「HTP遺伝子設計ライブラリー」または「ライブラリー」とは、本開示による遺伝子摂動の収集物を指す。一部の実施形態では、本発明のライブラリーは、i)データベースもしくは他のコンピュータファイル中の配列情報の収集物、ii)上記の一連の遺伝子エレメントをコードする遺伝子構築物の収集物、またはiii)前記遺伝子エレメントを含む宿主細胞(例えば、CHO細胞)として現れてもよい。一部の実施形態では、本開示のライブラリーは、個々のエレメントの収集物(例えば、PROスワップライブラリーのためのプロモーターの収集物)を指してもよい。他の実施形態では、本開示のライブラリーはまた、特定のプロモーター::遺伝子の組合せなどの、遺伝子エレメントの組合せを指してもよい。一部の実施形態では、本開示のライブラリーは、宿主生物においてライブラリーの各メンバーを適用する効果と関連するメタデータをさらに含む。例えば、本明細書で使用されるライブラリーは、プロモーター::遺伝子配列の組合せの収集物と共に、特定のCHO細胞における1つまたは複数の表現型に対するこれらの組合せの得られる効果を含んでもよく、かくして、将来のプロモータースワップCHO改善キャンペーンにおいて前記組合せを使用する将来の予測値を改善する。
【0086】
本明細書で使用される場合、用語「SNP」とは、一塩基多型を指す。一部の実施形態では、本開示のSNPは、広く解釈されるべきであり、一塩基多型、配列挿入、欠失、反転、および他の配列置き換えを含む。本明細書で使用される場合、用語「非同義」または非同義SNPとは、宿主細胞タンパク質におけるコード変化をもたらす突然変異を指す。
【0087】
「高効率(HTP)」法またはゲノム操作の「高効率(HTP)」法は、非HTP法と比較して相対的に多数の実験または条件を評価することができる少なくとも1点の装備、例えば、前記方法の少なくとも1つのステップを実行するための自動化装備(例えば、液体ハンドラーまたはプレートハンドラー機器)の使用を含んでもよい。
チャイニーズハムスター卵巣細胞
【0088】
CHO細胞は、(i)化学規定培養および無血清懸濁培養におけるロバストな増殖、(ii)ヒト病原性ウイルス複製に関する合理的な安全性プロファイル、および(iii)ヒト様翻訳後改変を有するrタンパク質を発現する能力などの、他の細胞型を超えるいくつかの重要な利点のため、治療タンパク質のための最も頻繁に使用される哺乳動物生産宿主である(Kim et al., 2012)。さらに、CHO細胞システムの最も重要な特徴の1つは、ヒトでの使用のために十分な収率および許容される品質で目的の遺伝子(GOI)を安定に発現することができる操作された細胞クローンを生成する容易性である。部位特異的組込みまたは無作為の組込みによる標的遺伝子の宿主細胞ゲノムへの挿入、次いで、ジヒドロ葉酸リダクターゼ(DHFR)またはグルタミンシンテターゼ(GS)システムを使用する遺伝子増幅後に、これを達成することができる(Durocher and Butler, 2009;Kramer et al., 2010)。しかしながら、グリコシル化パターンはヒトのものと完全に同一ではないため、CHO細胞に由来するrタンパク質は、時には免疫原性であることが示された(Butler and Spearman, 2014)。
【0089】
全体の「CHO細胞システム」は、Theodore Puckによって1956年に元々単離された(Puck et al., 1958)、クローン性および自然発生的に不死化されたチャイニーズハムスター卵巣細胞におそらく全て由来した、様々な異なる細胞系を包含する。この最初のCHO細胞および全てのその後に誘導された細胞系は、プロリン合成が欠損しているという事実は、共通のクローン源の見解を強く支持する(Wurm and Hacker, 2011)。今日では、3つの異なるCHO細胞系が、バイオ医薬品製造のために一般的に使用されている:(i)機能的DHFR遺伝子を依然として担持するCHO-K1細胞系、(ii)モノ対立遺伝子DHFRノックアウトを有するCHO-DXB11系ならびに(iii)両方のDHFR対立遺伝子を物理的に欠失させた、CHO-DG44系(Urlaub and Chasin, 1980;Urlaub et al., 1983;Wurm and Hacker, 2011)。
【0090】
2011年に、最初のCHOゲノムが、CHO-K1細胞から、Xuおよび共同研究者によって配列決定され、バイオテクノロジー適用のための研究努力を有意に促進した(Xu et al., 2011)。しかしながら、CHO細胞は本質的にはゲノム再編成を受ける傾向があるため、ゲノム全体像に関するより詳細な概観を得るためには、前もっての染色体選別を含むさらなる配列決定努力が必要であった(Brinkrolf et
al., 2013;Lewis et al., 2013)。ゲノム情報に加えて、トランスクリプトーム、miRnomeならびにプロテオーム/トランスラトームデータも最近利用可能になった(Baycin-Hizal et al., 2012;Becker et al., 2011;Clarke et al., 2012;Courtes et al., 2013;Hackl et al., 2011)。より最近では、転写開始部位が解明されたが(Jakobi et al., 2014)、これは、これらの開始部位が公共的に利用可能なCHOゲノムデータベース(www.chogenome.org)に最終的に導入されたら、より詳細なバイオインフォマティクス分析を生じる。総合すると、これらの有益な寄与は全て、このバイオテクノロジー主力商品をより良好に特徴付けるのに有意に役立ち、細胞操作における研究努力を実質的に支援した。
【0091】
上記の「チャイニーズハムスター卵巣細胞」のセクションは、実質的には、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、Fischer et al., ”The art of CHO cell engineering: A comprehensive retrospect and future perspectives,” Biotechnology Advances, Vol. 33, (2015),
pgs. 1878-1896から取られたものである。
CHO細胞株改善の伝統的な方法
【0092】
治療タンパク質を産生するためのCHO細胞の性能を改善する伝統的な手法を、いくつかの大きいカテゴリーに分解することができ、それぞれ、以下に簡単に考察する。
A.生体プロセスおよびトランスジーン発現の最適化
【0093】
生体プロセスおよびトランスジーン発現の最適化は、過去数十年かけて、CHO細胞中での組換えタンパク質力価を約100倍改善してきた。体積収率のこの増加は、主に培地最適化、クローン選択プロセス、発現ベクター、遺伝子エレメント、生体プロセス制御、およびバイオリアクター設計によって達成された。その全体が参照により本明細書に組み込まれる、Kuo et al., ”The emerging role of systems biology for engineering protein production in CHO cells,” Current Opinion
in Biotechnology, Vol. 51, (2018), pgs.
64-69。
B.CHO細胞の標的化された操作
1.遺伝子の導入
【0094】
哺乳動物生産細胞系の性能を改善するための有益な遺伝子の安定なゲノム組込みが、頻繁に活用されている。一般に、有利なGOIが識別されたら、イントロン配列を欠くその(通常はコドン最適化された)相補的DNA(cDNA)を単離し、哺乳動物発現ベクター中にクローニングする。プラスミドDNA(pDNA)の送達後、トランスフェクトされた細胞を抗生物質選択圧にかけて、プラスミドDNAがそのゲノム中に安定に組み込まれた細胞プールを生成する。GOIの高い発現レベルを確保するために、その発現は強力なウイルスまたは細胞プロモーター/エンハンサーによって主に駆動されるが、選択遺伝子は、全体の発現レベルを増加させるために、通常、弱いプロモーターによって制御される。選択される細胞培養物は、個々の細胞間の表現型の差異をもたらす、様々な程度のトランスジーン過剰発現を示す細胞の異種混合プールである。したがって、単一の細胞クローンを、強力かつ安定な操作される表現型を示すクローンを得るためには、異種細胞プールから確立する必要がある。上掲のFischer et al. (2015)(内部の引用文献は省略)を参照されたい。
2.遺伝子ノックアウト
【0095】
CHO生産細胞の性能を改善するための有利なGOIを過剰発現させることとは別に、不利な遺伝子のゲノムノックアウトは、宿主細胞操作のためのさらなる有望な戦略である。例えば、化学もしくは放射線誘導性無作為突然変異誘発により、または精密ゲノム編集手法を使用して、ゲノムから遺伝子を安定に欠失させるか、またはその機能のスイッチを切るための異なる方法が存在する。かくして、高い特異性での標的ゲノム操作は、特に、調節の観点から、無作為突然変異誘発よりも優れるようになった。これに関して、現在の最先端技術は主に、亜鉛フィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写アクチベーター様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、メガヌクレアーゼまたは最近導入されたクラスター化された規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR/Cas9)(またはCpf1)システムの使用を含む。上掲のFischer et al. (2015)(内部の引用文献は省略)を参照されたい。
【0096】
歴史的には、バイオ医薬品製造のためのCHO細胞の経済的利用への道を最終的に開いた、最も重要な遺伝子操作の1つは、ジヒドロ葉酸リダクターゼ(DHFR)遺伝子のゲノム欠失/不活化であった。これらの操作を、それぞれ、DXB11およびDG44と命名される異なるDHFR欠損CHOサブ細胞系を生じる、化学的突然変異誘発およびイオン化放射によって導入したが、それらはバイオテクノロジーにおけるCHO細胞の商業的活用の出発点を示す。後に、別の遺伝子増幅システムを、高発現性組換えCHO細胞の生成を可能にする、メチオニンスルホキシミン(MSX)によって阻害することができるグルタミンシンテターゼ(GS)に基づいて導入した。代謝選択および遺伝子増幅にとって好適なCHO-GS細胞工場のレパートリーを、内因性GS遺伝子がゲノムからノックアウト(CHO-GS)されたCHO-K1SV細胞の生成によって拡大した。細胞に、機能的なDHFRまたはGS遺伝子コピーと共にトランスジーンをコードする発現ベクターを予めトランスフェクトした場合、CHO-DXB11/DG44およびCHO-GS細胞を、それぞれ、ヒポキサンチン/チミジンおよびL-グルタミンを欠く増殖培地中で安定なトランスフェクタントについて選択することができる。より重要なことに、安定にトランスフェクトされた細胞を、一定に増加する濃度のジヒドロ葉酸アナログであるメトトレキサート(MTX)(CHO-DXB11および-DG44)またはメチオニンスルホキシミン(MSX)(CHO-GS)に曝露することによって、前記細胞を遺伝子増幅にかけることができる。上掲のFischer et al. (2015)(内部の引用文献は省略)を参照されたい。
C.RNAi媒介性遺伝子サイレンシング
【0097】
低分子干渉RNA(siRNA)とも呼ばれる、低分子二本鎖RNA(dsRNA)を使用したCaenorhabditis elegans(C.elegans)遺伝子サイレンシング(遺伝子ノックダウンとしても知られる)におけるRNA干渉(RNAi)の発見は、細胞操作において頻繁に適用される技術になってきた。siRNAは、標的メッセンジャーRNA(mRNA)に対する完全な配列相補性を示す20~25塩基対の長さのdsRNA分子である。外因的に送達されたsiRNAは、RNase-III酵素DICERによって切断され、細胞質中でRNA誘導性サイレンシング複合体(RISC)のコアを構成する、アルゴノート-2(AGO2)タンパク質上に搭載される。特に、AGO2は、siRNAによって結合したら、標的mRNAの即時の切断をもたらす、スライサー活性を示す唯一のAGOファミリータンパク質である。dsRNAの5’末端での熱力学的安定性は、どの鎖がガイド鎖として好ましいかを決定付ける。標的遺伝子サイレンシングのためのsiRNAは人工的であるが、最近の研究により、トランスポゾン転写物、反復配列、長いステムループ構造またはセンス-アンチセンス転写物などの、内因性エレメントに由来する真核細胞中の天然に存在するsiRNAの存在が解明された。上掲のFischer et al. (2015)(内部の引用文献は省略)を参照されたい。
D.miRNA過剰発現/抑制
【0098】
過去数十年で、バイオ医薬品生産細胞の遺伝子操作は、単一の標的遺伝子の操作に焦点を合わせていた。しかしながら、細胞表現型の変化は、個々の遺伝子の発現を変更させる結果ではなく、むしろ、同じか、または異なる経路に関与する多数の遺伝子の発現を変更させる結果である可能性が非常に高いため、シグナル伝達経路全体の操作が、表現型の結果を改善し得ると想定可能である。マイクロRNAは、これらの内因性低分子RNAが細胞経路全体を調節することができるため、CHO細胞操作の分野に最近入った。興味深いことに、多数のmiRNAが、細胞の恒常性を保つために、複数の異なる細胞経路を同時に実際に調節することができる。これらの特性は、miRNAを、将来の次世代宿主細胞操作のための非常に魅力的な分子ツールにする。しかしながら、多数のmiRNAは依然として、その表現型の影響を特徴付けるために、CHO細胞中で機能的に評価しなければならない。これに関して、高含量の機能的miRNAスクリーニング手法、ならびにmiRnomeプロファイリング研究は、CHO細胞操作のために使用される新規標的分子を解明するのに役立つであろう。上掲のFischer et al. (2015)(内部の引用文献は省略)を参照されたい。
CHO細胞操作が進歩するにも拘わらず重大なハードルが残っている
【0099】
上で詳述されたCHO細胞操作における進歩は、タンパク質生産を増強するための強力なツールを提供してきた。しかしながら、単一のタンパク質の合成および分泌は、数百または数千の他のタンパク質の機能の協調に依存する。かくして、真に有効な操作戦略は、宿主細胞に対する複数の遺伝子変化を必要とし得る。
【0100】
これを達成するために、高率のタンパク質分泌を可能にするために存在する分子変化を包括的に研究する努力を行い、かくして、ある特定の細胞を高産生株にする分子的および生理的因子を明らかにした。オミクスデータは、産生クローンを研究するために広く使用されてきた。例えば、示差プロテオミクス分析は、高産生CHO細胞の特徴であるグルタチオン生合成の上方調節およびDNA複製の下方調節を識別した。同様に、様々なCHO細胞系のトランスクリプトームプロファイリングは、ある特定の好ましい代謝およびグリコシル化パターンが重要遺伝子の示差的発現と関連することを示した。また、抗体産生CHO細胞中での組換えタンパク質および内因性mRNAの翻訳を定量するために、リボソームプロファイリングおよびポリソームプロファイリングも使用されている。これらの、および多くのさらなる研究は、オミクスデータが、遺伝子、タンパク質、および代謝物がCHO細胞中でのタンパク質産生における望ましい形質と関連する洞察を提供する有用なアッセイとして出現したことを示す。さらに、それらは、タンパク質産生の増強のための細胞操作および生体プロセス最適化のための潜在的な標的を識別するのに役立っている。上掲のKuo et al. (2018)(内部の引用文献は省略)を参照されたい。
HTPツールおよびアッセイはオミクス空間を探索するのに必要である
【0101】
ゲノム全体像を探索し、CHO細胞オミクスデータにおける上記増加を大いに活用するために使用することができる、HTP遺伝子ツールおよびアッセイの開発が必要である。これらのHTPツールおよびアッセイは、生成される大量の生物学的データを解明するために、より大きいデータ科学および機械学習システム内で動作するようにカスタマイズおよび適合させる必要がある。
【0102】
本開示は、そのようなHTP遺伝子ツール、例えば、HTPプロモータースワップゲノム操作ツールを提供する。このツールを使用して、治療タンパク質産生にとって重要である識別された経路における任意の特定の遺伝子を体系的に標的にすることができる。
【0103】
さらに、ツールは、それを使用して、未知の機能の遺伝子、または特定の治療タンパク質産生経路と関連することが知られていない遺伝子をモジュレートすることができるという事実において、有用性を拡大した。HTPプロモータースワップツールの多用途性は、CHO細胞経路を摂動させ、試験するため、および特定の遺伝子の治療タンパク質産生に対する効果を識別するための体系的な方法をゲノム操作者に提供する。
【0104】
このために、本開示は、コンピュータにより駆動され、分子生物学、自動化、データ分析、および機械学習プロトコールを統合するユニークなHTPゲノム操作プラットフォームを記載する。この統合プラットフォームは、HTP遺伝子設計ライブラリーを構築するために使用される1組のHTP分子ツールセットを使用する。これらの遺伝子設計ライブラリーは、以下で説明される。
【0105】
さらに、本明細書で教示されるHTPプラットフォームは、個々の遺伝子変化がCHO細胞の性能に対して有する効果を識別し、特徴付け、定量することができる。この情報、すなわち、所与の遺伝子変化xが宿主細胞表現型y(例えば、治療タンパク質の産生)に対して有する効果を、生成した後、以下に考察されるHTP遺伝子設計ライブラリー中に保存することができる。すなわち、それぞれの遺伝子順列に関する配列情報、および宿主細胞表現型に対するその効果は、1つまたは複数のデータベース中に保存され、その後の分析(例えば、下で考察される上位性マッピング)のために利用可能である。本開示はまた、遺伝子挿入構築物の形態で、または前記遺伝子順列を含有する1つもしくは複数の宿主細胞生物の形態で、有用な遺伝子順列を物理的にセーブ/保存する方法も教示する(例えば、下で考察されるCHO細胞ライブラリーを参照されたい)。
【0106】
これらのHTP遺伝子設計ライブラリーを、精緻なデータ分析および機械学習プロセスと統合される反復プロセスに結合させる場合、CHO細胞を改善するための劇的に異なる方法が出現する。教示されるHTPプラットフォームは、非常に効率的かつ的確なHTP分子ツールを用いてCHO細胞の遺伝子全体像を体系的に探索することができ、前記遺伝子探索により、研究者はCHO分野で生成されるオミクスデータの拡張セットを大いに活用することができる。これらの、および他の利点は、下で考察されるHTP分子ツールセットおよび誘導される遺伝子設計ライブラリーを参照すれば明らかになるであろう。
遺伝子設計&CHO細胞操作:1組のHTP分子ツールとHTP遺伝子設計ライブラリーを使用するCHO細胞改善のための体系的組合せ手法
【0107】
上記のように、本開示は、CHO細胞ゲノムにわたる遺伝子変化の反復的体系的導入および除去によりCHO細胞を操作するための新規HTPプラットフォームおよび遺伝子設計戦略を提供する。このプラットフォームは、HTP遺伝子設計ライブラリーの作出を可能にし、所与のCHO細胞中での遺伝子変更の効率的インプリメンテーションを可能にする1組の分子ツールによって支援される。
【0108】
本開示のHTP遺伝子設計ライブラリーは、特定のCHO細胞の遺伝的背景に導入することができる可能な遺伝的変更の供給源として役立つ。このように、HTP遺伝子設計ライブラリーは、遺伝子多様性の収納場所または遺伝子摂動の収集物であり、所与のCHO細胞系の初期操作またはさらなる操作に適用することができる。宿主細胞へのインプリメンテーションのための遺伝子設計をプログラミングするための技術は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる係属中の米国特許出願第15/140,296号に記載されている。
【0109】
このプラットフォームにおいて使用されるHTP分子ツールセットは、特に、本明細書では「プロモータースワップ」または「PRO Swap」または「PROSWAP」ツールとも呼ばれる、HTPプロモータースワップゲノム操作ツールを含んでもよい。
【0110】
本開示のHTP法はまた、上位性マッピングプロトコールを含む、HTPツールセットの併合/組合せ使用を方向付けるための方法も教示する。上記のように、この組の分子ツールは、単独で、または組み合わせて、HTP遺伝子設計CHO細胞ライブラリーの作出を可能にする。
【0111】
示されるように、教示されるHTP CHO細胞操作プラットフォームの文脈での上記HTP遺伝子設計ライブラリーの使用は、単一のCHO細胞の遺伝的背景において、治療タンパク質産生と高度に関連する、有益な遺伝子摂動の識別および併合を可能にする。
【0112】
一部の実施形態では、本開示は、発現される、および発現されない遺伝子エレメントを含む、複数の完全に異なるゲノム領域にわたる遺伝子順列のゲノムワイドな組合せ効果を分析し、CHO細胞増強をもたらすと予想される遺伝子の組合せを予測するために収集された情報(例えば、実験結果)を使用するという点で、公知のCHO細胞改善手法とは異なる。
【0113】
一部の実施形態では、本開示は、i)開示されるプラットフォームによる改善に適しているCHO細胞、ii)下流の分析のためのCHO細胞の多様性プールの生成、iii)大きいCHO細胞バリアントプールの高効率スクリーニングおよび配列決定のための方法およびハードウェア、iv)ゲノムワイドな突然変異の相乗効果の機械学習コンピュータ分析および予測のための方法およびハードウェア、ならびにv)高効率CHO細胞操作のための方法を教示する。
【0114】
CHO細胞操作プラットフォームにおいて使用される様々なHTP遺伝子設計ライブラリーの作出を可能にするHTP分子ツールセットを、ここで考察する。
プロモータースワップ:プロモータースワップCHO細胞ライブラリーの誘導のための分子ツール
【0115】
一部の実施形態では、本開示は、全体的なCHO細胞表現型(例えば、治療タンパク質の収率または生産性)に対する有益な効果をもたらすために最適な発現特性を有するプロモーターを選択する方法を教示する。
【0116】
例えば、一部の実施形態では、本開示は、一定範囲の発現強度(例えば、以下で考察されるプロモーターラダー)、または優れた調節特性(例えば、選択された遺伝子に関するより厳重な調節制御)を示す、CHO細胞内の1つもしくは複数のプロモーターを識別する、および/または1つもしくは複数のプロモーターのバリアントを生成する方法を教示する。これらの識別および/または生成されたプロモーターの特定の組合せを、以下により詳細に説明される、プロモーターラダーとして一緒にグループ化することができる。
【0117】
次いで、問題のプロモーターラダーを、所与の目的の遺伝子と会合させる。かくして、プロモーターP1~P3(一定範囲の発現強度、例えば、高>中>低)を示すことが識別された、および/または生成された3つのプロモーターを表す)を有し、プロモーターラダーをCHO細胞の遺伝的背景中で単一の目的の遺伝子と会合させる場合(すなわち、所与の標的遺伝子に作動可能に連結された所与のプロモーターを用いてCHO細胞を遺伝子操作する)、操作されたCHO細胞が、標的遺伝子と会合した特定のプロモーターを除いた他は同一の遺伝的背景を有することを考慮して、それぞれの組合せ努力から得られるそれぞれの操作されたCHO細胞を特徴付けることによって、3つのプロモーターのそれぞれの効果を確認することができる。
【0118】
このプロセスにより操作される得られるCHO細胞は、HTP遺伝子設計ライブラリーを形成する。
【0119】
HTP遺伝子設計ライブラリーは、このプロセスによって形成される実際の物理的CHO細胞収集物を指してもよく、それぞれのメンバー細胞は、その他は同一の遺伝的背景で、特定の標的遺伝子に作動可能に連結された所与のプロモーターを代表し、前記ライブラリーは「プロモータースワップCHO細胞ライブラリー」と呼ばれる。
【0120】
さらに、HTP遺伝子設計ライブラリーは、遺伝子摂動の収集物-この場合、所与の遺伝子yに作動可能に連結された所与のプロモーターx-を指してもよく、前記収集物は「プロモータースワップライブラリー」と呼ばれる。
【0121】
さらに、3つのプロモーターがそれぞれ10個の異なる遺伝子標的に作動可能に連結される、CHO細胞を操作するためのプロモーターP1~P3を含む同じプロモーターラダーを使用することができる。この手順の結果は、目的の標的遺伝子に作動可能に連結された特定のプロモーターを除いて、その他は遺伝的に同一であると推定される30種のCHO細胞系であろう。これらの30種の細胞系を適切にスクリーニングおよび特性評価し、別のHTP遺伝子設計ライブラリーを生じさせることができる。
【0122】
一定範囲の発現強度を示すことに基づいて一緒にグループ化された任意の所与の数のプロモーターおよび任意の所与の数の標的遺伝子と共に概念を適用することができるため、3つのプロモーターおよび10個の標的遺伝子の上記の例は単に例示に過ぎない。
【0123】
また、当業者であれば、任意の遺伝子標的の前に2つまたはそれより多いプロモーターを作動可能に連結する能力を認識するであろう。かくして、一部の実施形態では、本開示は、プロモーターラダーに由来する、1つ、2つ、3つ、またはそれより多いプロモーターが1つまたは複数の遺伝子に作動可能に連結されたプロモータースワップライブラリーを教示する。
【0124】
プロモーターラダーのサイズは、任意の範囲であってよい。プロモーターラダーは、定量可能な範囲の発現強度を有することを必要とするに過ぎない。かくして、高>中>低設計を有する3つのプロモーターラダーは、例に過ぎない。プロモーターラダー中に、2個のプロモーター、3個のプロモーター、4個のプロモーター、5個のプロモーター、6個のプロモーター、7個のプロモーター、8個のプロモーター、9個のプロモーター、10個のプロモーター、またはそれより多いプロモーターを有することができる。
図6は、図面中の列挙された標的遺伝子のそれぞれの前で使用することができる8個のプロモーターを含む仮説的プロモーターラダーを例示する。
【0125】
HTP遺伝子設計ライブラリー中でのCHO細胞の特性評価は、関係型データベース、オブジェクト指向型データベース、または高分配NoSQLデータベースを含む、任意のデータ保存構築物に保存することができる情報およびデータをもたらす。このデータ/情報は、例えば、所与の遺伝子標的に作動可能に連結された場合の所与のプロモーター(例えば、P1~Pn)の効果であってもよい。このデータ/情報はまた、2つまたはそれより多いプロモーター(例えば、P1~Pn)を所与の遺伝子標的に作動可能に連結する結果得られる組合せ効果のより広いセットであってもよい。
【0126】
まとめると、生物中で様々な遺伝子の発現を駆動するための様々なプロモーターの使用は、目的の形質を最適化するための強力なツールである。本発明者らによって開発された、プロモータースワッピングの分子ツールは、少なくとも1つの条件下で少なくとも1つの遺伝子座の発現を変化させることが示されたプロモーター配列のラダーを使用する。次いで、このラダーを、高効率ゲノム操作を使用して、生物中の遺伝子群に体系的に適用する。この遺伝子群は、いくつかの方法のいずれか1つに基づいて目的の形質に影響する高い可能性を有すると決定される。これらのものは、公知の機能に基づく選択、または目的の形質に対する影響、または予め決定された有益な遺伝的多様性に基づくアルゴリズム選択を含んでもよい。一部の実施形態では、遺伝子の選択は、所与の宿主中の全ての遺伝子を含んでもよい。他の実施形態では、遺伝子の選択は、無作為に選択される所与の宿主における全遺伝子のサブセットであってもよい。
【0127】
そして、上記のように、HTPプロモータースワップゲノム操作ツールを用いてモジュレートする遺伝子の選択を、任意数のオミクスデータセットに基づいて選択することができる。
【0128】
次いで、遺伝子に連結されたプロモーター配列を含有する個々の細胞の得られるHTP遺伝子設計プロモータースワップCHO細胞ライブラリーを、高効率スクリーニングモデルにおける性能について評価し、性能の増大をもたらすプロモーター-遺伝子連結を決定し、情報をデータベースに保存する。
【0129】
考察されるように、遺伝子摂動の収集物(すなわち、所与の遺伝子yに作動可能に連結された所与のプロモーターx)は、後にCHO細胞プロセシングにおいて使用される潜在的な遺伝的変更の供給源として使用することができる「プロモータースワップライブラリー」を形成する。時間と共に、より大きいセットの遺伝子摂動がより大きい多様性のCHO細胞背景に対して実装されるにつれて、目的の任意の表現型を変更する目的で(例えば、様々な抗体クラスの産生)、目的の任意のCHO細胞背景に対する標的化された変化をより正確に、また、予測的に設計するために使用することができる、実験的に確認されたデータの集成が構築されるため、それぞれのライブラリーはより強力になる。
【0130】
生物中での遺伝子の転写レベルは、生物の行動に影響させるための制御の重要なポイントである。転写は翻訳(タンパク質発現)と緊密に共役しており、どのタンパク質がどんな量で発現されるかが生物の行動を決定付ける。細胞は、数千個の異なる型のタンパク質を発現し、これらのタンパク質は、多数の複雑な方法で相互作用して、機能を作出する。タンパク質セットの発現レベルを体系的に変化させることによって、複雑性のため、予測するのが難しい方法で機能を変更することができる。一部の変更は、性能を増大させることができ、性能を評価するためのメカニズムと共役されるため、この技術は、機能が改善された生物、例えば、CHO細胞の生成および治療タンパク質産生を可能にする。
【0131】
低分子合成経路の文脈では、酵素は、基質から始まって、目的の低分子で終わる、その低分子基質および直鎖または分枝鎖の生成物を介して相互作用する。これらの相互作用は逐次的に関連するため、このシステムは、分散型の制御を示し、ある酵素の発現の増加は、別の酵素が律速になるまで経路の流れを増加させることができるに過ぎない。
【0132】
代謝制御分析(MCA)は、実験データおよび第1原理から、どの酵素または複数の酵素が律速であるかを決定するための方法である。しかしながら、MCAは新しい律速酵素を決定するためにそれぞれの発現レベル変化後に広範囲の実験を必要とするため、MCAは限定的である。
【0133】
経路中の各酵素へのプロモーターラダーの適用によって、律速酵素が見出され、同じことをその後のラウンドで行って、律速になる新しい酵素を見出すことができるため、プロモータースワッピングはこの文脈で有利である。さらに、機能上の読出しは目的の低分子のより良好な産生であるため、どの酵素が律速であるかを決定するための実験は、産生を増加させるための操作と同じであり、かくして、開発時間を短縮する。
【0134】
一部の実施形態では、本開示は、マルチユニット酵素の個々のサブユニットをコードする遺伝子へのPROスワップの適用を教示する。さらに他の実施形態では、本開示は、個々の酵素、または全生合成経路を調節するのを担う遺伝子にPROスワップ技術を適用する方法を教示する。
【0135】
一部の実施形態では、本開示のプロモータースワップツールは、選択された遺伝子標的の最適な発現を識別するために使用される。
【0136】
一部の実施形態では、プロモータースワップの目標は、代謝経路または遺伝子経路のボトルネックを減少させるために標的遺伝子の発現を増加させることであってもよい。
【0137】
他の実施形態では、プロモータースワップの目標は、標的遺伝子の発現が必要とされない場合、宿主細胞中での不必要なエネルギー消費を避けるために、前記標的遺伝子の発現を低下させることであってもよい。
【0138】
転写、輸送、またはシグナル伝達のような他の細胞システムの文脈では、様々な合理的な方法を使用して、どのタンパク質が発現変化のための標的であるか、およびその変化がどのようなものであるべきかを、先験的に発見しようとすることができる。これらの合理的な方法は、性能を改善するものを発見するために試験しなければならない摂動の数を減少させるが、それらは大きなコストでそうする。遺伝子欠失試験は、存在が特定の機能にとって重要であるタンパク質を識別し、次いで、重要な遺伝子を過剰発現させることができる。タンパク質相互作用の複雑性のため、これは性能を増大させるのには無効であることが多い。第1原理から、細胞中のタンパク質レベルの関数として、転写またはシグナル伝達挙動を記述するよう試みる異なる型のモデルが開発されている。これらのモデルは、発現変化が異なる、または改善された機能をもたらし得る標的を示唆することが多い。これらのモデルの基礎となる仮定は単純すぎ、パラメーターは測定するのが困難であり、したがって、モデルが行う予測は、特に、非モデル生物については不正確であることが多い。遺伝子欠失とモデリングの両方に関して、ある特定の遺伝子にどのように影響するかを決定するのに必要とされる実験は、性能を改善する変化を作製するためのその後の研究とは異なる。特定の摂動の重要性を強調する構築されたCHO細胞もまた、既に、改善されたCHO細胞であるため、プロモータースワッピングはこれらの課題を回避する。
【0139】
かくして、特定の実施形態では、プロモータースワッピングは、以下を含む多段階プロセスである:
【0140】
1.「ラダー」として作用する「x」プロモーターのセットを選択すること。理想的には、これらのプロモーターは、多重ゲノム遺伝子座にわたる高度に可変的な発現をもたらすことが示されているが、唯一の要件は、それらがいくつかの方法で遺伝子発現を摂動させることである(例えば、高い、中程度の、および低い遺伝子発現)。
【0141】
2.標的とする「n」遺伝子のセットを選択すること。このセットは、特定の機能にとって重要であることが公知の経路における任意の遺伝子であってもよい。しかしながら、これはまた、機能が公知ではない遺伝子を含む、任意のゲノム領域であってもよい。そして、「オフ経路」遺伝子を含む。遺伝子標的は、アルゴリズムに基づいて選択することができる。例えば、予め生成された摂動間の上位性相互作用に基づくアルゴリズム選択を使用することができる。標的にとって有益な遺伝子に関する仮説に基づく、または無作為な選択による他の選択基準を使用することができる。他の実施形態では、「n」標的遺伝子は、非コードRNAを含む、非タンパク質コード遺伝子を含んでもよい。
【0142】
3.以下の遺伝子改変を迅速に、一部の実施形態では、同時に実行するための高効率CHO細胞操作:天然プロモーターが標的遺伝子nの前に存在し、その配列が公知である場合、天然プロモーターを、ラダー中のxプロモーターのそれぞれと置き換える。天然プロモーターが存在しないか、またはその配列が未知である場合、ラダー中のxプロモーターのそれぞれを、遺伝子nの前に挿入する(例えば、
図6を参照されたい)。このように、ライブラリーの各メンバーが、その他は同一の遺伝子状況で、n標的に作動可能に連結されたxプロモーターの例である、CHO細胞の「ライブラリー」(HTP遺伝子設計ライブラリーとも呼ばれる)が構築される。以前に記載されたように、プロモーターの組合せを挿入し、ライブラリーが構築される組合せの可能性の範囲を拡張することができる。
【0143】
4.1つまたは複数の測定基準に対するその性能が、最適化された性能を示す状況での、CHO細胞によるライブラリーの高効率スクリーニング。
【0144】
この基礎的プロセスを拡張して、特に、(1)反復プロセスにおいて一度に1つずつ、または単一のステップにおいて複数の変化として、単一のCHO遺伝的背景に複数の有益な摂動を併合すること。複数の摂動は、規定の変化の特定のセットまたは部分的に無作為化された、変化の組合せライブラリーであってもよい。例えば、標的のセットが経路中の全ての遺伝子である場合、以前のライブラリーの細胞の改善されたメンバー(1つまたは複数の)への摂動のライブラリーの連続的再生は、どの遺伝子が任意の所与の反復において律速であるかに関係なく、経路中の各遺伝子の発現レベルを最適化することができる;(2)ライブラリーの個々の、および組合せ生成の結果得られる性能データを、それぞれの摂動の相互作用に基づいて摂動の最適なセットを予測するためにそのデータを使用するアルゴリズムに供給すること;ならびに(3)上記の2つの手法の組合せを実装すること、によってCHO細胞性能のさらなる改善を提供することができる。
プロモータースワップ低レベル発現変化
【0145】
上記で考察された、分子ツール、または技術は、プロモータースワッピングとして特徴付けられるが、プロモーターに限定されず、標的のセットの発現レベルを体系的に変化させる他の配列変化を含んでもよい。
【0146】
遺伝子のセットの発現レベルを変化させるための他の方法は、a)標的遺伝子からプロモーター全体を除去すること;b)リボソーム結合部位のラダー(または真核生物中のKozak配列);c)リボソーム結合部位を除去すること;d)開始コドンを置き換えること;e)開始コドンを除去すること;f)様々なmRNA安定化または脱安定化配列を、転写物の5’もしくは3’末端、または他の任意の位置に結合させること;g)様々なタンパク質安定化または脱安定化配列を、タンパク質中の任意の位置に結合させることを含んでもよい。
【0147】
また、遺伝子ノックアウトの使用を、標的遺伝子の発現を完全に除去するために使用することができる。かくして、ツールの「低発現」プロファイルは、非常に少ないか、または「発現なし」を含んでもよい。
【0148】
さらに、CRISPRi技術(または任意の型のサイレンシングもしくは干渉技術、例えば、RNAi)の使用が、標的遺伝子の発現を抑制するために企図される。
2.上位性マッピング-有益な遺伝子併合を可能にする予測分析ツール
【0149】
一部の実施形態では、本開示は、有益な遺伝的変更をCHO宿主細胞中で予測し、組み合わせるための上位性マッピング法を教示する。上記のHTP分子ツールセット(例えば、プロモータースワップ)のいずれかによって遺伝的変更を作出してもよく、これらの遺伝的変更の効果は、誘導されるHTP遺伝子設計細胞ライブラリーの特性評価から知ることができる。かくして、本明細書で使用される場合、上位性マッピングという用語は、宿主の性能の増加を得る可能性が高い遺伝的変更の組合せ(例えば、有益なプロモーター/標的遺伝子会合)を識別する方法を含む。
【0150】
実施形態では、本開示の上位性マッピング法は、2つの異なる機能群に由来する有益な遺伝的変更の組合せが、同じ機能群に由来する遺伝的変更の組合せと比較して、宿主性能を改善する可能性がより高いという考えに基づくものである。例えば、Costanzo, The Genetic Landscape of a Cell, Science, Vol. 327, Issue 5964, Jan. 22, 2010,
pp. 425-431(その全体が参照により本明細書に組み込まれる)を参照されたい。
【0151】
同じ機能群に由来する遺伝的変更は、同じメカニズムによって動作する可能性がより高く、かくして、全体の宿主性能に対して負の、または中立の上位性を示す可能性がより高い。対照的に、異なる機能群に由来する遺伝的変更は、宿主性能の改善および一部の例では、相乗効果をもたらし得る、独立したメカニズムによって動作する可能性がより高い。
【0152】
かくして、一部の実施形態では、本開示は、異なる機能群に属すると予測される遺伝的変更を分析する方法を教示する。一部の実施形態では、機能群の類似度を、遺伝的変更の相互作用プロファイルのコサイン類似度(相関係数と類似)を計算することによって決定する。本開示はまた、類似性マトリックスまたはデンドログラムによって遺伝的変更を比較することも例示する。
【0153】
かくして、上位性マッピング手順は、1つまたは複数の遺伝的背景への遺伝的変更の効率的かつ有効な併合の目的で、1つまたは複数の遺伝的背景において適用される前記変更の多様性をグループ化する、および/または順位付けるための方法を提供する。
【0154】
態様では、併合は、標的生体分子の産生のために最適化される、新規CHO細胞系を作出するために実施される。教示された上位性マッピング手順によって、遺伝子変化の機能的グループ化を識別することができ、そのような機能的グループ化は、望ましくない上位性効果を最小化する併合戦略を可能にする。
【0155】
以前に考察されたように、CHO細胞の遺伝子操作に対する合理的手法は、生物学の基礎となる複雑性に当惑する。特に、それぞれが観察される有益な効果を有する2つまたはそれより多い変化を組み合わせることを試みる場合、原因となるメカニズムはあまり理解されていない。遺伝子変化のそのような併合は正の転帰(所望の表現型活性の増加によって測定される)をもたらすことがあるが、正味の正の転帰は、期待よりも低く、一部の場合、期待よりも高くてもよい。他の例では、そのような組合せは、正味の中立的効果または正味の負の効果をもたらす。この現象は、上位性と呼ばれ、遺伝子操作に対する基礎的な課題の1つである。
【0156】
本発明のHTPゲノム操作プラットフォームは、伝統的なCHO細胞遺伝子操作手法と関連する問題の多くを解決する。本発明のHTPプラットフォームは、自動化技術を使用して、数百または数千の遺伝子変化を同時に実行する。特定の態様では、上記の合理的手法と違って、開示されるHTPプラットフォームは、数千のCHO細胞背景の同時的構築を可能にして、関連するゲノム空間の大きいサブセットをより効率的に探索する。体系的方法で「全て」を試すことによって、本発明のHTPプラットフォームは、本発明者らの限定的な生物学的理解によって誘導される困難を回避する。
【0157】
しかしながら、同時に、本発明のHTPプラットフォームは、組合せの爆発的サイズのゲノム空間、および遺伝子相互作用の複雑性を考慮した、生成されるデータセットを解釈するためのコンピュータ技術の有効性によって基本的に制限される問題に直面する。所望の転帰を得る組合せの無作為でない選択を最大化する方法で膨大な組合せ空間のサブセットを探索する技術が必要である。
【0158】
酵素最適化の場合、いくらか類似するHTP手法が有効であることが証明されている。このニッチな問題では、目的のゲノム配列(1000塩基ほど)は、いくらか複雑な物理的構成を有するタンパク質鎖をコードする。正確な構成は、その構成要素である原子成分間の集合的な電磁気相互作用によって決定される。短いゲノム配列と、物理的に拘束されたフォールディング問題とのこの組合せは、具体的に貪欲な最適化戦略に役立つ。すなわち、配列を全ての残基で個別に突然変異させ、得られた突然変異体をシャッフルして、配列活性応答モデリングと適合する解像度で局部配列空間を効率的にサンプリングすることができる。
【0159】
しかしながら、生体分子の完全なゲノム最適化のためには、いくつかの重要な理由から、そのような残基中心の手法では不十分である。第1に、生体分子のゲノム最適化と関連する関連配列空間の指数的増加のため。第2に、生体分子合成における調節、発現、および代謝相互作用の複雑性の追加のため。本発明者らは、教示される上位性マッピング手順によってこれらの問題を解決した。
【0160】
1つまたは複数の遺伝的背景への遺伝子変化のより効率的かつ有効な併合のために、前記遺伝子変化の収集物間の上位性相互作用をモデリングするための教示される方法は、革新的であり、当業界において非常に必要とされる。
【0161】
上位性マッピング手順を説明する場合、用語「より効率的」および「より有効」とは、特定の表現型対象に関して、併合CHO細胞間の望ましくない上位性相互作用の回避を指す。
遺伝子設計&HTP CHO細胞操作プラットフォームにおける使用のための遺伝子多様性プールの生成
【0162】
一部の実施形態では、本開示の方法は、遺伝子設計として特徴付けられる。本明細書で使用される場合、遺伝子設計という用語は、特定の遺伝子、遺伝子の一部、プロモーター、停止コドン、5’UTR、3’UTR、または新しい優れた宿主細胞を設計および作出するための他のDNA配列の最も最適なバリアントの識別および選択による、宿主生物のゲノムの再構築または変更を指す。
【0163】
一部の実施形態では、本開示の遺伝子設計方法における第1のステップは、新しい宿主ゲノムを再構築することができる複数の配列変化を有する初期遺伝子多様性プール集団を取得することである。
【0164】
一部の実施形態では、本明細書で教示される遺伝子設計法におけるその後のステップは、1つまたは複数の上記HTP分子ツールセット(例えば、プロモータースワッピング)を使用して、宿主細胞中での試験のために特定のゲノム変更のライブラリーを提供することによって、ゲノム操作プロセスの誘導因子として後に機能する、HTP遺伝子設計ライブラリーを構築することである。
現存のCHO細胞系に由来する多様性プールの利用
【0165】
一部の実施形態では、本開示は、様々な異なるCHO細胞系間に存在する配列多様性を識別するための方法を教示する。したがって、多様性プールは、分析に使用される所与数nのCHO細胞系であってよく、前記細胞のゲノムは、「多様性プール」を代表する。
【0166】
既存の様々なCHO細胞系は異なる表現型特性を有することが公知である。かくして、公知のCHO細胞系を配列決定することによって、これらの全ゲノム配列に基づくCHO細胞多様性の初期プールを作出することができる。
多様性を生成するための単一遺伝子座突然変異
【0167】
一部の実施形態では、本開示は、ゲノムDNAの選択された部分を導入すること、欠失させること、または置き換えることによる、遺伝子操作されたCHO細胞集団を教示する。かくして、一部の実施形態では、本開示は、遺伝的変更を特定の遺伝子座を標的にするための方法を教示する。他の実施形態では、本開示は、標的DNA領域を選択的に編集するための、ZFN、TALENS、またはCRISPRなどの遺伝子編集技術の使用を教示する。
【0168】
他の実施形態では、本開示は、宿主生物の外部で選択されたDNA領域を変更させること、次いで、その配列を宿主生物中に挿入し戻すことを教示する。例えば、一部の実施形態では、本開示は、様々な発現特性を有する一定範囲のプロモーターバリアントを生産するために天然または合成のプロモーターを変更/操作することを教示する(以下のプロモーターラダーを参照されたい)。他の実施形態では、本開示は、ProSAR(参照により本明細書に組み込まれる、Fox et al. 2007. ”Improving
catalytic function by ProSAR-driven enzyme evolution.” Nature Biotechnology Vol
25 (3) 338-343)などの単一遺伝子最適化技術と適合する。
【0169】
一部の実施形態では、選択されたDNA領域を、自然バリアントの遺伝子シャッフリング、または合成オリゴを用いたシャッフリング、プラスミド-プラスミド組換え、ウイルスプラスミド組換え、ウイルス-ウイルス組換えによってin vitroで生産する。他の実施形態では、ゲノム領域を、エラープローンPCRによって生産する。
プロモーターラダー
【0170】
プロモーターは、遺伝子が転写される速度を調節し、様々な方法で転写に影響し得る。構成的プロモーターは、例えば、内部または外部細胞条件に関係なく、一定の速度でその会合した遺伝子の転写を指令するが、調節性プロモーターは、内部および/または外部細胞条件、例えば、増殖速度、温度、特定の環境化学物質に対する応答などに応じて、遺伝子が転写される速度を増加または減少させる。プロモーターを、その通常の細胞状況から単離し、実質的に任意の遺伝子の発現を調節するように操作することができ、細胞増殖、生成物の収率および/または目的の他の表現型の有効な改変を可能にする。
【0171】
一部の実施形態では、本開示は、下流の遺伝子設計法における使用のためのプロモーターラダーライブラリーを生産する方法を教示する。例えば、一部の実施形態では、本開示は、一定範囲の発現強度、または優れた調節特性を示す、宿主細胞内の1つもしくは複数のプロモーターを識別する、および/または1つもしくは複数のプロモーターのバリアントを生成する方法を教示する。これらの識別および/または生成されたプロモーターの特定の組合せを、以下により詳細に説明される、プロモーターラダーとして一緒にグループ化することができる。
【0172】
一部の実施形態では、本開示は、プロモーターラダーの使用を教示する。一部の実施形態では、本開示のプロモーターラダーは、連続する範囲の発現プロファイルを示すプロモーターを含む。例えば、一部の実施形態では、プロモーターラダーは、刺激に対して応答して、または構成的発現を介して一定範囲の発現強度を示す自然の、天然の、または野生型のプロモーターを識別することによって作出される。これらの識別されたプロモーターを、プロモーターラダーとして一緒にグループ化することができる。
【0173】
他の実施形態では、本開示は、異なる条件にわたって一定範囲の発現プロファイルを示すプロモーターラダーの作出を教示する。例えば、一部の実施形態では、本開示は、異なる発酵段階を通して拡散した発現ピークを示すプロモーターのラダーの作出を教示する。他の実施形態では、本開示は、特定の刺激に応答して異なる発現ピーク力学を示すプロモーターのラダーの作出を教示する。当業者であれば、本開示の調節性プロモーターラダーが任意の1つまたは複数の調節プロファイルを代表し得ることを認識するであろう。
【0174】
一部の実施形態では、本開示のプロモーターラダーは、連続する応答範囲にわたって予測可能な様式で遺伝子発現を摂動させるように設計される。一部の実施形態では、プロモーターラダーの連続的性質は、さらなる予測力を有するCHO細胞改善プログラムを提供する。例えば、一部の実施形態では、選択された代謝経路のスワッピングプロモーターは、最も最適な発現比またはプロファイルを識別する宿主細胞性能曲線をもたらすことができ、不適切な環境下での不必要な過剰発現または誤発現も回避しながら、標的遺伝子がもはや、特定の反応または遺伝子カスケードの制限因子ではないCHO細胞を産生する。
【0175】
一部の実施形態では、プロモーターラダーは、所望のプロファイルを示す自然の、天然の、または野生型のプロモーターを識別することによって作出される。他の実施形態では、プロモーターラダーは、天然に存在するプロモーターを突然変異させて、複数の突然変異プロモーター配列を駆動することによって作出される。これらの突然変異プロモーターはそれぞれ、標的遺伝子発現に対する効果について試験される。一部の実施形態では、編集されたプロモーターは、それぞれのプロモーターバリアントの活性が実証/特性評価/注釈され、データベースに保存されるように、様々な条件にわたって発現活性について試験される。得られる編集されたプロモーターバリアントは続いて、その発現強度に基づいて配置されるプロモーターラダーに編成される(例えば、高度に発現するバリアントは上に近く、減弱された発現は下に近く、したがって、用語「ラダー」をもたらす)。
【0176】
一部の実施形態では、本開示は、識別された天然に存在するプロモーターと、自然/天然プロモーターの突然変異バリアントプロモーターとの組合せであるプロモーターラダーを教示する。
【0177】
一部の実施形態では、1つまたは複数の上記の識別された天然に存在するプロモーター配列が遺伝子編集のために選択される。実施形態では、本開示のプロモーターは、所望の配列を有する新しいプロモーターバリアントを合成することによって編集される。
【0178】
一部の実施形態では、プロモーターラダーは、天然プロモーターのプロモーターバリアントに基づくものではない/由来するものではない。むしろ、これらの実施形態では、プロモーターラダーは、それらの発現強度の範囲に基づいてラダーを形成するように選択された異種プロモーターの編集物である。
【0179】
本開示のプロモーターの非包括的一覧を、以下の表2に提供する。それぞれのプロモーター配列を、異種プロモーターまたは異種プロモーターポリヌクレオチドと呼ぶことができる。
【表2】
【0180】
表2において、プロモーターPGKは、最も低い発現強度を有する;RSVおよびSV40は、中程度の発現強度を有する;ならびにEF1αおよびCMVは最も強いプロモーターである。かくして、これらの5つのプロモーターを、任意の組合せに基づいてプロモーターラダーに集合させることができる。当業者であれば、発現強度の可変「ラダー」を使用することができるように、少なくとも2つのプロモーターを選択するであろう。視覚的描写のために、
図9を参照されたい。
【0181】
一部の実施形態では、本開示のプロモーターは、上記の表に由来するプロモーターヌクレオチド配列との少なくとも100%、99%、98%、97%、96%、95%、94%、93%、92%、91%、90%、89%、88%、87%、86%、85%、84%、83%、82%、81%、80%、79%、78%、77%、76%、または75%の配列同一性を示すヌクレオチド配列を含む。
仮説誘導性多様性プールおよびヒルクライミング
【0182】
本開示のHTPゲノム操作方法は、宿主細胞の性能の有意な向上を達成するために、予めの遺伝的知識を必要としない。実際、本開示は、元々存在する宿主細胞バリアント間の遺伝的多様性の識別(例えば、配列決定されたCHO細胞系のゲノム間の比較など);および無作為な様式でゲノム空間を効率的に「探索する」ために、「公知の経路」を選択することなく、プロモータースワップツールを用いて遺伝子を無作為に標的にすることを含む、いくつかの機能に依存しない手法によって、多様性プールを生成する方法を教示する。
【0183】
しかしながら、一部の実施形態では、本開示はまた、下流のHTP操作のために使用される遺伝的多様性を設計するための仮説により誘導される方法も教示する。すなわち、一部の実施形態では、本開示は、選択された遺伝的変更の指向性設計を教示する。
【0184】
一部の実施形態では、本開示は、遺伝子注釈、仮説化された(もしくは確認された)遺伝子機能、またはゲノム内の位置に基づく、指向性遺伝的変更の作出、またはプロモータースワップツールを用いた標的化を教示する。本開示の多様性プールは、宿主細胞の性能が向上した、文献中で関連する特定の代謝経路または遺伝子経路に関与すると仮定される遺伝子中に遺伝的変更を作出することを含んでもよい。さらに他の実施形態では、本開示の多様性プールはまた、アルゴリズム予測機能、または他の遺伝子注釈に基づく、遺伝子に対する遺伝的変更を含んでもよい。
【0185】
一部の実施形態では、本開示は、仮説誘導性遺伝的変更の標的に優先順位を付けるための「シェル」ベース手法を教示する。遺伝子標的の優先順位付けのためのシェルメタファーは、少数の主要遺伝子のみが、宿主細胞の性能(例えば、単一の生体分子の産生)の特定の態様の多くを担うという仮説に基づくものである。これらの主要遺伝子はシェルのコアに位置し、次いで、第2の層における二次的効果遺伝子、第3のシェルにおける第3の効果などがある。例えば、一実施形態では、シェルのコアは、選択された代謝経路内の重要な生合成酵素をコードする遺伝子を含んでもよい。第2のシェル上に位置する遺伝子は、生成物分流またはフィードバックシグナル伝達を担う生合成経路内の他の酵素をコードする遺伝子を含んでもよい。この例示的メタファーの下での第3段の遺伝子は、生合成経路の発現をモジュレートするのを担う調節遺伝子をおそらく含むであろう。
【0186】
本開示はまた、全ての識別された遺伝的変更に由来する性能向上を最適化するための「ヒルクライム」法も教示する。一部の実施形態では、本開示は、HTP多様性ライブラリーにおける無作為な、自然の、または仮説により誘導される遺伝的変更が、宿主細胞の性能と関連する遺伝子の識別をもたらし得ることを教示する。例えば、本発明の方法は、治療タンパク質産生高率と関与すると事前に考えられていなかった標的遺伝子の発現のモジュレーションを探索するためにプロモータースワップツールを使用することができる;しかしながら、プロモータースワップツールの使用および好ましい表現型効果の観察時に、遺伝子の重要性を、生物の組合せ遺伝子空間中での性能「ヒル」の発見に類似させることができる。
【0187】
一部の実施形態では、本開示は、識別されたヒルの周囲の組合せ空間を探索する方法を教示する。すなわち、一部の実施形態では、本開示は、遺伝子ノードから得られる性能向上を最適化するための、識別された遺伝子および関連する調節配列の摂動を教示する(すなわち、ヒルクライミング)。
【0188】
ヒルクライミングの概念を、単一の遺伝子配列を取り囲む組合せ空間の探索を越えて拡大することもできる。一部の実施形態では、特定の遺伝子における遺伝的変更は、宿主細胞の性能にとっての特定の代謝経路または遺伝子経路の重要性を明らかにすることができる。
細胞培養および発酵
【0189】
本開示の細胞を、任意の所望の生合成反応または選択のために必要に応じて改変された従来の栄養培地中で培養することができる。一部の実施形態では、本開示は、プロモーターを活性化するための誘導培地中での培養を教示する。一部の実施形態では、本開示は、形質転換体の選択剤(例えば、抗生物質)を含む、選択剤を含む培地を教示する。一部の実施形態では、本開示は、細胞増殖にとって最適化された培地中で細胞培養物を増殖させることを教示する。他の実施形態では、本開示は、生成物収率について最適化された培地中で細胞培養物を増殖させることを教示する。一部の実施形態では、本開示は、細胞増殖を誘導することができる培地中で培養物を増殖させることを教示し、また、最終生成物の産生のための必要な前駆体も含有する。
【0190】
温度、pHなどの培養条件は、発現のために選択された宿主細胞と共に使用するのに好適なものであり、当業者には明らかであろう。上述の通り、細菌、植物、動物(哺乳動物を含む)および古細菌を起源とする細胞を含む、多くの細胞の培養および生産のための多くの参考文献が利用可能である。例えば、Sambrook, Ausubel (全て、上掲)、ならびにBerger, Guide to Molecular Cloning Techniques, Methods in Enzymology volume 152 Academic Press, Inc., San Diego, CA;およびFreshney (1994) Culture of Animal Cells, a Manual of Basic Technique, third edition, Wiley-Liss, New Yorkおよびそこで引用された参考文献;Doyle and Griffiths (1997) Mammalian Cell Culture: Essential Techniques
John Wiley and Sons, NY; Humason (1979)
Animal Tissue Techniques, fourth edition W.H. Freeman and Company;およびRicciardelle et al., (1989) In Vitro Cell Dev. Biol. 25:1016-1024(全て参照により本明細書に組み込まれる)を参照されたい。植物の細胞培養および再生については、Payne et al. (1992)
Plant Cell and Tissue Culture in Liquid
Systems John Wiley & Sons, Inc. New York, N.Y.;Gamborg and Phillips (eds) (1995) Plant Cell, Tissue and Organ Culture;Fundamental Methods Springer Lab Manual, Springer-Verlag (Berlin Heidelberg N.Y.);Jones, ed. (1984) Plant Gene Transfer and Expression Protocols, Humana Press, Totowa, N.J.およびPlant Molecular Biology (1993) R. R. D. Croy, Ed. Bios Scientific Publishers, Oxford, U.K. ISBN 0 12 198370 6(全て参照により本明細書に組み込まれる)を参照されたい。一般的な細胞培養培地は、Atlas and Parks (eds.) The Handbook of Microbiological Media (1993) CRC Press, Boca Raton, Fla.(参照により本明細書に組み込まれる)に記載されている。細胞培養に関するさらなる情報は、Sigma-Aldrich, Inc (St Louis, Mo.)からのLife Science Research Cell Culture Catalogue (”Sigma-LSRCCC”)および例えば、これもSigma-Aldrich, Inc (St Louis, Mo.) からのThe Plant Culture Catalogueおよび補遺(”Sigma-PCCS”)(全て参照により本明細書に組み込まれる)などの利用可能な商業文献に見出される。
生成物の回収および定量
【0191】
目的の生成物の産生についてスクリーニングするための方法は、当業者には公知であり、本明細書を通して考察される。本開示のCHO細胞をスクリーニングする場合にそのような方法を用いることができる。
【0192】
一部の実施形態では、本開示は、非分泌型細胞内生成物を産生するように設計された細胞を改善する方法を教示する。例えば、本開示は、細胞内酵素、油、医薬品、または他の有用な低分子もしくはペプチドを産生する細胞培養物のロバスト性、収率、効率、または全体的な望ましさを改善する方法を教示する。非分泌型細胞内生成物の回収または単離を、本明細書に記載されるものなどの当業界で周知の溶解および回収技術によって達成することができる。
【0193】
例えば、一部の実施形態では、本開示の細胞を、遠心分離、濾過、沈降、または他の方法によって収獲することができる。次いで、収獲された細胞を、凍結-解凍サイクル、超音波処理、機械的破壊、または細胞溶解剤の使用、または当業者には周知の他の方法を含む、任意の便利な方法によって破壊する。
【0194】
得られる目的の生成物、例えば、ポリペプチドを回収/単離し、必要に応じて、当業界で公知のいくつかの方法のいずれかによって精製することができる。例えば、生成物ポリペプチドを、限定されるものではないが、遠心分離、濾過、抽出、噴霧乾燥、蒸発、クロマトグラフィー(例えば、イオン交換、親和性、疎水性相互作用、クロマト分画、およびサイズ排除)、または沈降を含む従来の手順によって栄養培地から単離することができる。最後に、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を、最終精製ステップにおいて用いることができる(例えば、両方とも参照により本明細書に組み込まれるParry et
al., 2001, Biochem. J.353:117、およびHong et al., 2007, Appl. Microbiol. Biotechnol. 73:1331に記載された細胞内タンパク質の精製を参照されたい)。
【0195】
上記の参考文献に加えて、例えば、Sandana (1997) Bioseparation of Proteins, Academic Press, Inc.;Bollag et al. (1996) Protein Methods, 2nd Edition, Wiley-Liss, NY;Walker (1996) The Protein Protocols Handbook Humana Press, NJ;Harris and Angal (1990) Protein Purification Applications: A Practical Approach, IRL Press at Oxford, Oxford, England;Harris and Angal Protein Purification Methods: A Practical Approach, IRL Press at Oxford, Oxford, England;Scopes (1993) Protein Purification: Principles and Practice 3rd Edition, Springer Verlag, NY;Janson and Ryden (1998) Protein Purification: Principles, High Resolution Methods and Applications, Second Edition,
Wiley-VCH, NY;およびWalker (1998) Protein Protocols on CD-ROM, Humana Press, NJ(全て参照により本明細書に組み込まれる)に記載されたものを含む、様々な精製方法が当業界で周知である。
【0196】
一部の実施形態では、本開示は、分泌型生成物を産生するように設計された細胞を改善する方法を教示する。例えば、本開示は、有用な低分子またはペプチドを産生する細胞培養物のロバスト性、収率、効率、または全体的な望ましさを改善する方法を教示する。
【0197】
一部の実施形態では、免疫学的方法を使用して、本開示の細胞によって産生される分泌型または非分泌型生成物を検出および/または精製することができる。1つの例示的な手法では、従来の方法を使用して生成物分子に対して(例えば、インスリンポリペプチドまたはその免疫原性断片に対して)生じる抗体を、ビーズ上に固定し、エンドグルカナーゼが結合する条件下で細胞培養培地と混合し、沈降させる。一部の実施形態では、本開示は、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)の使用を教示する。
【0198】
他の関連する実施形態では、米国特許第5,591,645号、米国特許第4,855,240号、米国特許第4,435,504号、米国特許第4,980,298号、およびSe-Hwan Paek, et al., ”Development of rapid One-Step Immunochromatographic assay, Methods”, 22, 53-60, 2000(それぞれ参照により本明細書に組み込まれる)に開示されたような、免疫クロマトグラフィーが使用される。一般的な免疫クロマトグラフィーは、2つの抗体を使用することによって検体を検出する。第1の抗体は、試験溶液中に、または試験溶液が滴下される多孔膜から作製されたほぼ長方形の試験片の末端の一部に存在する。この抗体は、ラテックス粒子または金コロイド粒子で標識される(この抗体は、以後、標識抗体と呼ばれる)。滴下された試験溶液が検出しようとする検体を含む場合、標識抗体は、検体と結合するように検体を認識する。検体と、標識抗体との複合体は、濾紙から作製され、標識抗体を含む末端と反対の末端に結合した、吸収体に対して毛細管現象によって流動する。流動中に、検体と標識抗体との複合体が認識され、多孔膜の中央に存在する第2の抗体(以後、タッピング抗体と呼ばれる)によって捕捉され、この結果として、複合体は、目に見えるシグナルとして、多孔膜上の検出部分に出現し、検出される。
【0199】
一部の実施形態では、本開示のスクリーニング方法は、光度検出技術(吸収、蛍光)に基づく。例えば、一部の実施形態では、検出は、抗体に結合したGFPなどのフルオロフォア検出剤の存在に基づくものであってもよい。他の実施形態では、光度検出は、細胞培養物に由来する所望の生成物上での蓄積に基づくものであってもよい。一部の実施形態では、生成物は、培養物または前記培養物に由来する抽出物のUVによって検出可能であってもよい。
【0200】
当業者であれば、本開示の方法が、目的の任意の望ましい生体分子生成物を産生する宿主細胞と適合することを認識するであろう。
選択基準および目標
【0201】
本開示の方法に適用される選択基準は、細胞改善プログラムの特定の目標に応じて変化するであろう。本開示を、任意のプログラムの目標を満たすように適合させることができる。例えば、一部の実施形態では、プログラムの目標は、CHO細胞によって産生される治療タンパク質の量を最大化することであってよい。他の目標は、治療タンパク質のより効率的な産生であってもよい。一部の実施形態では、プログラムの目標は、収率、力価、生産性、副生成物の除去、プロセス逸脱に対する寛容性、最適な増殖温度および増殖速度などの、性能特性を改善することであってよい。一部の実施形態では、プログラムの目標は、目的の生成物の体積生産性、比生産性、収率または力価によって測定される、改善された宿主性能である。
配列決定
【0202】
一部の実施形態では、本開示は、本明細書に記載の生物の全ゲノム配列決定を教示する。他の実施形態では、本開示はまた、本開示の方法に対する品質対照としての、プラスミド、PCR産物、および他のオリゴの配列決定も教示する。大きい、および小さいプロジェクトのための配列決定法は、当業者には周知である。
【0203】
一部の実施形態では、核酸を配列決定するための任意の高効率技術を、本開示の方法において使用することができる。一部の実施形態では、本開示は、全ゲノム配列決定を教示する。他の実施形態では、本開示は、遺伝的変異を識別するためのアンプリコン配列決定ウルトラディープ配列決定を教示する。一部の実施形態では、本開示はまた、タグメンテーションを含むライブラリー調製のための新規方法も教示する(WO2016/073690を参照されたい)。DNA配列決定技術としては、標識されたターミネーターまたはプライマーおよびスラブまたはキャピラリー中でのゲル分離を使用する古典的なジデオキシ配列決定反応(Sanger法);逆末端標識ヌクレオチドを使用する合成による配列決定、パイロシーケンシング;454配列決定;標識されたオリゴヌクレオチドプローブのライブラリーへの対立遺伝子特異的ハイブリダイゼーション;標識されたクローンのライブラリーへの対立遺伝子特異的ハイブリダイゼーション、次いで、ライゲーションを使用する合成による配列決定;重合ステップ中の標識ヌクレオチドの組込みのリアルタイムモニタリング;ポロニーシーケンシング;ならびにSOLiDシーケンシングが挙げられる。
【0204】
本開示の一態様では、個々の分子が同時に配列決定される、固相表面上の個々の分子を空間的に単離するステップを含む、配列決定の高効率方法が用いられる。そのような固相表面は、非多孔性表面(Solexa配列決定、例えば、Bentley et al,
Nature, 456: 53-59 (2008)または完全ゲノム配列決定、例えば、Drmanac et al, Science, 327: 78-81 (2010)などにおける)、ビーズまたは粒子に結合した鋳型を含んでもよい、ウェルのアレイ(454、例えば、Margulies et al, Nature, 437:
376-380 (2005)またはIon Torrent配列決定、米国特許出願公開第2010/0137143号もしくは第2010/0304982号など)、微小膜(SMRT配列決定、例えば、Eid et al, Science, 323: 133-138 (2009)など)、またはビーズアレイ(SOLiD配列決定またはポロニーシーケンシング、例えば、Kim et al, Science, 316:
1481-1414 (2007)のような)を含んでもよい。
【0205】
別の実施形態では、本開示の方法は、単離された分子が固相表面上で空間的に単離される前または後に、単離された分子を増幅することを含む。事前増幅は、エマルジョンPCRなどのエマルジョンベース増幅、またはローリングサークル増幅を含んでもよい。また、個々の鋳型分子が固相表面上で空間的に単離され、その後、それらがブリッジPCRによって同時に増幅され、別々のクローン集団、またはクラスターを形成し、次いで、Bentley et al(上で引用された)および製造業者の使用説明書(例えば、TruSeq(商標)試料調製キットおよびデータシート、Illumina,Inc.、San Diego、Calif.、2010);ならびに以下の参考文献:米国特許第6,090,592号;第6,300,070号;第7,115,400号;およびEP0972081B1(これらは参照により組み込まれる)に記載のように配列決定される、Solexaに基づく配列決定も教示される。
【0206】
一実施形態では、固相表面上で配置および増幅される個々の分子は、1cm2あたり少なくとも105個のクラスターの密度で、または1cm2あたり少なくとも5x105の密度で、または1cm2あたり少なくとも106個のクラスターの密度でクラスターを形成する。一実施形態では、比較的高い誤り率を有する配列決定用化学物質が用いられる。そのような実施形態では、そのような化学物質によってもたらされる平均品質スコアは、配列読取りデータ長の単調減少関数である。一実施形態では、そのような減少は、配列読取りデータの0.5パーセントが1~75位に少なくとも1個のエラーを有する;配列読取りデータの1パーセントが76~100位に少なくとも1個のエラーを有する;および配列読取りデータの2パーセントが101~125位に少なくとも1個のエラーを有することに一致する。
ゲノムワイド遺伝子設計基準の効果のコンピュータ分析および予測
【0207】
一部の実施形態では、本開示は、所与のCHO細胞背景に組み込まれる特定の遺伝的変更の効果を予測する方法を教示する。さらなる態様では、本開示は、所与のCHO細胞が特定の表現型形質を有するように、前記細胞に組み込まれるべき、提唱される遺伝的変更を生成するための方法を提供する。所与の態様では、本開示は、新規宿主細胞を設計するために使用することができる予測モデルを提供する。
【0208】
一部の実施形態では、本開示は、スクリーニングの各回の性能の結果を分析する方法およびその後の回のスクリーニングにおいて宿主細胞の性能を増強すると予測される新しい提唱されるゲノムワイド配列改変を生成するための方法を教示する。
【0209】
一部の実施形態では、本開示は、以前のスクリーニング結果に基づいて宿主細胞に対する提唱された配列改変を生成するシステムを教示する。一部の実施形態では、本発明のシステムの推奨は、直前のスクリーニングの結果に基づく。他の実施形態では、本発明のシステムの推奨は、1つまたは複数の先行するスクリーニングの累積結果に基づく。
【0210】
一部の実施形態では、本発明のシステムの推奨は、以前に開発されたHTP遺伝子設計ライブラリーに基づく。例えば、一部の実施形態では、本発明のシステムは、以前のスクリーニングの結果を保存し、それらの結果を、同じか、または異なるCHO細胞背景における異なるプロジェクトに適用するように設計される。
【0211】
他の実施形態では、本発明のシステムの推奨は、化学的洞察に基づく。例えば、一部の実施形態では、推奨は、公知の特性の遺伝子(注釈付き遺伝子データベースおよび関連文献などの供給源に由来する)、コドン最適化、転写スリップ、様々な「オミクス」データ、または他の仮説誘導性配列および宿主最適化に基づく。
【0212】
一部の実施形態では、システム、または予測モデルによって推奨される宿主細胞に対する提唱された配列改変を、1つまたは複数の開示される分子ツールセット、例えば、プロモータースワップまたは上位性マッピングの使用によって実行する。
【0213】
上位性マッピングのセクションで暗示されたように、HTP遺伝子設計ライブラリーに由来する遺伝的変更の収集物を、いくつかの好ましい予測モデルを介して特定の背景に併合することによって得られる仮説的CHO細胞の性能(スコアとしても知られる)を見積もることができる。そのような予測モデルを考慮して、組合せ併合によって入手可能な全ての仮説的CHO細胞をスコア化し、順位付けることができる。
構築されたCHO細胞を特徴付けるための線形回帰
【0214】
線形回帰は、インプリメンテーションおよび解釈が容易であるため、記載されるHTPゲノム操作プラットフォームのための魅力的な方法である。得られる回帰係数を、それぞれの遺伝子変化の存在、例えば、プロモータースワップキャンペーンに由来するそれぞれのプロモーター:遺伝子コンボに帰する相対的CHO細胞性能の平均増加または減少と解釈することができる。
【0215】
したがって、教示される方法は、様々な教示されるライブラリーに由来するそのゲノム中に導入された様々な遺伝子摂動を有する、構築されたCHO細胞を記載し/特徴付け、順位付けるための線形回帰モデルを使用する。
予測設計モデリング
【0216】
構築されたCHO細胞に由来するデータを使用する、上記の線形回帰モデルを使用して、まだ構築されていないCHO細胞に関する性能予測を行うことができる。
【0217】
この手順を以下のようにまとめることができる:遺伝子変化の全ての可能な構成をin
silicoで生成する→回帰モデルを使用して、相対的細胞性能を予測する→性能によって候補細胞設計を命令する。したがって、まだ構築されていない細胞の性能を予測するために回帰モデルを使用することによって、この方法は、より少ない実験を同時に行いながら、より高い性能の細胞の産生を可能にする。
構成の生成
【0218】
まだ構築されていないCHO細胞の性能を予測するためのモデルを構築する場合、第1のステップは、設計候補の配列を生産することである。これは、細胞中の遺伝子変化の総数を固定した後、遺伝子変化の全ての可能な組合せを定義することによって行われる。例えば、潜在的な遺伝子変化/摂動の総数を設定した後、候補細胞設計をもたらすであろう潜在的な遺伝子変化の全ての可能な組合せを設計しようと決定することができる。n!/((n-r)!*r!)を使用して、nの可能な数から、サイズrの非冗長グループの数を算出することができる。
新しいCHO細胞設計の性能予測
【0219】
次いで、入力として組合せ構成を用いて上で構築された線形回帰を使用して、それぞれの候補設計の期待される相対的性能を予測することができる。
【0220】
モデルを反復的に再訓練し、再適合させるために新しい観察が使用されるため、予測精度は、時間と共に増大するはずである。予測値と観測値との関連の強度を示す相関係数、または平均モデル誤差の尺度である二乗平均平方根誤差を含むいくつかの方法によって、モデル予測の品質を評価することができる。モデル評価のための選択された測定基準を使用して、システムはモデルが再訓練されるべきである場合の規則を定義することができる。
【0221】
上記モデルに対する2つの記述されない仮定は、(1)上位性相互作用がないこと;および(2)予測モデルを構築するために使用される遺伝子変化/摂動が、遺伝子変化の提唱される組合せとして、全て同じ背景で作製されたことを含む。
二次特徴のフィルタリング
【0222】
上記の実証例は、予測された宿主細胞性能に基づく線形回帰予測に焦点を合わせたものである。一部の実施形態では、本発明の線形回帰法を、飽和バイオマス、耐性、または他の測定可能な宿主細胞特徴などの非生体分子因子に適用することもできる。かくして、本開示の方法は、構築すべき候補に優先順位を付ける場合に予測された性能の他に他の特徴を考慮することも教示する。追加の関連データがあると仮定すれば、非線形項も回帰モデルに含まれる。
変化の多様性
【0223】
上記モデルを構築する場合に、上位性相互作用の存在のため、遺伝子変化が真に付加的である(線形回帰によって仮定され、上記の仮定として記載される)と確信することはできない。したがって、遺伝子変化の相違の知識を使用して、正の相加性の可能性を増大させることができる。例えば、上記の上位のCHO細胞に由来する遺伝子変化が同じ代謝経路上にあり、類似する性能特徴を有することを知っている場合、その情報を使用して、相違する組成の変化を示す別の上位の設計を選択することができる。上位性マッピングに関する上記セクションに記載されたように、予測された最良の遺伝子変化をフィルタリングして、十分に相違する応答プロファイルを示す遺伝的変更に対する選択を制限することができる。あるいは、線形回帰は、重量予測に対する類似性マトリックスを使用する加重最小二乗回帰であってよい。
予測された性能の多様性
【0224】
最後に、予測モデルを検証し、続いて、改善するために、中程度に予測された、またはあまり予測されていない性能を有するCHO細胞を設計することを選択することができる。
反復CHO細胞設計最適化
【0225】
まとめると、
図4の流れ図を参照して、反復予測CHO細胞設計ワークフローを、以下のように記載することができる:
・入力および出力変数、例えば、入力としての遺伝子変化および出力としての性能特性の訓練セットを生成する(3302)。以前の遺伝子変化およびこれらの遺伝子変化を含むCHO細胞の対応する測定された性能に基づいて分析機器214によって生成を実施することができる。
・訓練セットに基づいて初期モデル(例えば、線形回帰モデル)を開発する(3304)。これを、分析機器214によって実施することができる。
・設計候補を生成する(3306)。
○一実施形態では、分析機器214は、変化の組合せの形態で、バックグラウンド細胞に対して作製される遺伝子変化の数を固定することができる。これらの変化を表示するために、分析機器214は、インタープリター204に、これらの変化の組合せを表す1つまたは複数のDNA明細発現(specification expressions)を提供することができる(これらの遺伝子変化またはこれらの変化を含む宿主細胞を、「試験入力」と呼ぶことができる)。インタープリター204は、1つまたは複数のDNA明細を解釈し、実行エンジン207は、DNA明細を実行して、これらの変化に関する個々の候補設計細胞を表す出力が分解されたDNA明細を投入する。
・モデルに基づいて、分析機器214は、それぞれの候補設計の期待される性能を予測する(3308)。
・分析機器214は、最も高い予測された性能を用いて、限定数、例えば、100の候補設計を選択する(3310)。
○上位性マッピングに関して本明細書に他の箇所に記載されたように、分析機器214は、例えば、上位性効果のトップの設計をフィルタリングするか、または上位性を予測モデルに組み入れることによって、上位性などの二次効果を説明することができる。
・発注エンジン208によって生成された製造指図書に基づいてフィルタリングされた候補細胞を構築する(工場210で)(3312)。
・分析機器214は、選択された細胞の実際の性能を測定し、その優れた実際の性能に基づいて限定数のこれらの選択された細胞を選択し(3314)、設計変化およびその得られる性能を予測モデルに追加する(3316)。
・次いで、分析機器214は、新しい設計候補細胞の生成に反復して戻り(3306)、停止状態が満たされるまで反復を継続する。停止状態は、例えば、目的の治療タンパク質の収率などの、性能測定基準を満たす少なくとも1つの細胞の測定された性能を含んでもよい。
CHO細胞設計を最適化するための機械学習
【0226】
上記の例では、CHO細胞設計の反復的最適化は、機械学習を実装するためのフィードバックおよび線形回帰を用いる。一般に、機械学習は、限定数の標識データの例を使用した後、未知のデータ上で同じタスクを実施する、情報タスク(分類または回帰など)の性能における、性能基準、例えば、パラメーター、技術または他の特徴の最適化と記載することができる。
【0227】
上記の線形回帰の例のものなどの教師付き機械学習において、機械(例えば、コンピュータデバイス)は、例えば、訓練データによって示される、パターン、カテゴリー、統計的関係、または他の属性を識別することによって、学習する。次いで、学習の結果を使用して、新しいデータが同じパターン、カテゴリー、統計的関係、または他の属性を示すかどうかを予測する。
【0228】
本開示の実施形態は、訓練データが利用可能である場合、他の教師付き機械学習技術を用いてもよい。訓練データがない場合、実施形態は、教師付きではない機械学習を用いてもよい。あるいは、実施形態は、少量の標識データおよび大量の非標識データを使用する、半教師付き機械学習を用いてもよい。実施形態はまた、機械学習モデルの性能を最適化するために多くの関連する特徴のサブセットを選択するための特徴選択を用いてもよい。選択される機械学習手法の種類に応じて、線形回帰の代替手段として、または線形回帰に加えて、実施形態は、例えば、ロジスティック回帰、ニューラルネットワーク、サポートベクターマシン(SVM)、決定木、隠れマルコフモデル、ベイジアンネットワーク、グラムシュミット、強化に基づく学習、階層的クラスタリングを含むクラスターに基づく学習、遺伝子アルゴリズム、および当業界で公知の任意の他の好適な学習機械を用いてもよい。特に、実施形態は、分類自体と共に分類確率(例えば、異なる機能群への遺伝子の分類)を提供するロジスティック回帰を用いてもよい。例えば、Shevade, A simple and efficient algorithm for gene selection using sparse logistic regression, Bioinformatics, Vol. 19, No. 17 2003,
pp. 2246-2253、Leng, et al., Classification using functional data analysis for temporal gene expression data, Bioinformatics, Vol. 22, No. 1, Oxford University Press (2006), pp. 68-76(全てその全体が参照により本明細書に組み込まれる)を参照されたい。
【0229】
実施形態は、特に、ディープニューラルネットワーク(DNN)として知られる形態で、機械学習タスクを実施する際に高い需要が見出されているグラフィックスプロセシングユニット(GPU)加速アーキテクチャを用いてもよい。本開示の実施形態は、GPU-Based Deep Learning Inference: A Performance and Power Analysis, NVidia Whitepaper, November 2015、Dahl, et al., Multi-task Neural Networks for QSAR Predictions,
Dept. of Computer Science, Univ. of Toronto, June 2014 (arXiv:1406.1231 [stat.ML])(全てその全体が参照により本明細書に組み込まれる)に記載されたものなどの、GPUベース機械学習を用いてもよい。また、本開示の実施形態に適用できる機械学習技術は、数ある参考文献の中でも、Libbrecht, et al., Machine learning applications in genetics and genomics, Nature Reviews: Genetics, Vol.
16, June 2015、Kashyap, et al., Big Data
Analytics in Bioinformatics: A Machine Learning Perspective, Journal of Latex Class Files, Vol. 13, No. 9, Sept. 2014、Prompramote, et al., Machine Learning in Bioinformatics, Chapter 5 of Bioinformatics Technologies, pp. 117-153, Springer Berlin Heidelberg 2005(全てその全体が参照により本明細書に組み込まれる)に見出すことができる。
サービスとしてのゲノム設計および操作
【0230】
本開示の実施形態では、
図2のLIMSシステムソフトウェアを、
図3のクラウドコンピューティングシステム3202に実装して、複数のユーザーが本開示の実施形態に従ってCHO細胞を設計および構築することができるようにする。
図3は、本開示の実施形態によるクラウドコンピュータ環境3204を例示する。
図3に例示されるものなどのクライアントコンピュータ3206は、インターネットなどのネットワーク3208を介してLIMSシステムにアクセスする。実施形態では、LIMSシステムアプリケーションソフトウェア3210は、クラウドコンピューティングシステム3202中に存在する。LIMSシステムは、
図3に例示される型の1つまたは複数のプロセッサーを使用する1つまたは複数のコンピュータシステムを用いてもよい。クラウドコンピューティングシステム自体は、ネットワーク3208を介して、LIMSシステムアプリケーション3210をクライアントコンピュータ3206にインターフェース接続するためのネットワークインターフェース3212を含む。ネットワークインターフェース3212は、クライアントアプリケーションがクライアントコンピュータ3206でLIMSシステムソフトウェア3210にアクセスすることができるようにするアプリケーションプログラミングインターフェース(API)を含んでもよい。特に、APIを介して、クライアントコンピュータ3206は、限定されるものではないが、入力インターフェース202、インタープリター204、実行エンジン207、発注エンジン208、工場210、ならびに試験機器212および分析機器214を動作させるソフトウェアを含む、LIMSシステム200の構成要素にアクセスすることができる。サービス型ソフトウェア(SaaS)のソフトウェアモジュール3214は、クライアントコンピュータ3206にサービスとしてLIMSシステムソフトウェア3210を提供する。クラウド管理モジュール3216は、クライアントコンピュータ3206によるLIMSシステム3210へのアクセスを管理する。クラウド管理モジュール3216は、マルチテナントアプリケーション、仮想化、または複数のユーザーに仕える当業界で公知の他のアーキテクチャを用いる、クラウドアーキテクチャを可能にし得る。
ゲノム自動化
【0231】
本開示の方法の自動化は、高効率表現型スクリーニングと、複数の試験細胞系に由来する標的生成物の識別とを同時に可能にする。
【0232】
上記のゲノム操作予測モデリングプラットフォームは、数百個および数千個の細胞が高効率様式で構築されるという事実を前提としている。以下に記載されるロボットおよびコンピュータシステムは、そのような高効率プロセスを実行することができる構造メカニズムである。
【0233】
一部の実施形態では、本開示は、宿主細胞生産性を改善する方法を教示する。このプロセスの一部として、本開示は、工業的治療タンパク質生産のために、DNAを集合させる、新しい細胞を構築する、プレート中でスクリーニングする、およびモデル中でスクリーニングする方法を教示する。一部の実施形態では、本開示は、自動化ロボット工学によって補助される、新しい宿主細胞を作出および試験する1つまたは複数の上記方法を教示する。
HTPロボットシステム
【0234】
一部の実施形態では、本開示の自動化方法は、ロボットシステムを含む。本明細書で概略されるシステムは、一般的には、96または384ウェルのマイクロタイタープレートの使用に向けられるが、当業者であれば理解できるように、任意数の異なるプレートまたは構成を使用することができる。さらに、本明細書で概略されるステップのいずれか、または全部を自動化することができる;かくして、例えば、システムを、完全に、または部分的に自動化することができる。
【0235】
一部の実施形態では、本開示の自動化システムは、1つまたは複数のワークモジュールを含む。例えば、一部の実施形態では、本開示の自動化システムは、プロモーターラダー作出、DNAの配列決定および構築、トランスフェクション、スクリーニング、タンパク質の試験/特性評価、ならびにCHO細胞クローン選択のために調整されたモジュールを含む(
図1を参照されたい)。
【0236】
当業者であれば理解できるように、自動化システムは、限定されるものではないが、液体ハンドラー;1つまたは複数のロボットアーム;マイクロプレートの配置のためのプレートハンドラー;プレートシーラー、プレート穴開け器、非相互汚染プレート上のウェルの蓋を取り外し、置き換えるための自動化蓋ハンドラー;使い捨てチップを用いた試料分配のための使い捨てチップアセンブリ;試料分配のための洗浄可能なチップアセンブリ;96ウェルのローディングブロック;統合型サーマルサイクラー;冷却された試薬ラック;マイクロタイタープレートピペット位置(必要に応じて冷却される);プレートおよびチップのためのスタッキングタワー;磁気ビーズプロセシングステーション;濾過システム;プレート振とう器;バーコードリーダーおよびアプリケーター;ならびにコンピュータシステムを含む、様々な構成要素を含んでもよい。
【0237】
一部の実施形態では、本開示のロボットシステムは、遺伝子標的化および組換え適用のプロセスにおける全てのステップを実行するための高効率ピペッティングを可能にする自動化液体および粒子ハンドリングを含む。これは、吸引、分注、混合、希釈、洗浄、正確な容量の移動;ピペットチップの回収および廃棄;ならびに単一の試料吸引物からの複数の送達のための同一の容量の反復的ピペッティングなどの液体および粒子の操作を含む。これらの操作は、相互汚染を含まない液体、粒子、細胞、および生物の移動である。機器は、フィルター、膜、および/または娘プレートへのマイクロプレートの試料の自動化された複写、高密度移動、全プレート連続希釈、ならびに大容量運転を実行する。
【0238】
一部の実施形態では、本開示のカスタマイズされた自動化液体ハンドリングシステムは、TECANマシン(例えば、カスタマイズされたTECAN Freedom Evo)である。
【0239】
一部の実施形態では、本開示の自動化システムは、マルチウェルプレート、ディープウェルプレート、スクエアウェルプレート、試薬トラフ、試験管、ミニチューブ、マイクロ遠心管、クライオバイアル、フィルター、マイクロアレイチップ、光ファイバー、ビーズ、アガロースおよびアクリルアミドゲル、ならびに他の固相マトリックスのためのプラットフォームと適合するか、またはプラットフォームは、アップグレード可能なモジュラーデッキ上に収容される。一部の実施形態では、本開示の自動化システムは、供給源および出力試料、試薬、試料および試薬希釈液、アッセイプレート、試料および試薬リザーバ、ピペットチップ、ならびに活性チップ洗浄ステーションを配置するためのマルチポジションワーク表面のための少なくとも1つのモジュラーデッキを含有する。
【0240】
一部の実施形態では、本開示の自動化システムは、高効率電気穿孔システムを含む。一部の実施形態では、高効率電気穿孔システムは、96または384ウェルプレート中の細胞を形質転換することができる。一部の実施形態では、高効率電気穿孔システムは、VWR(登録商標)High-throughput Electroporation Systems、BTX(商標)、Bio-Rad(登録商標)Gene Pulser MXcell(商標)または他のマルチウェル電気穿孔システムを含む。
【0241】
一部の実施形態では、0℃~100℃のインキュベートする試料の正確な温度制御を提供する制御ブロックまたはプラットフォームなどの熱交換器の温度を安定化させるために、統合型サーマルサイクラーおよび/または温度調節器が使用される。
【0242】
一部の実施形態では、本開示の自動化システムは、液体、粒子、細胞、および多細胞生物をロボット操作することができる、単一または複数の磁気プローブ、親和性プローブ、レプリケーターまたはピペッターを含む互換性マシンヘッド(単一または複数チャネル)と適合する。マルチウェルまたはマルチチューブ磁気分離器および濾過ステーションは、単一または複数の試料形式で液体、粒子、細胞、および生物を操作する。
【0243】
一部の実施形態では、本開示の自動化システムは、カメラ映像および/または分光光度計システムと適合する。かくして、一部の実施形態では、本開示の自動化システムは、進行中の細胞培養における色および吸光度の変化を検出および記録することができる。
【0244】
一部の実施形態では、本開示の自動化システムは、順応性であり、システムが複数のアプリケーションを実行するのを可能にする複数のハードウェアアドオンと適合するように設計される。ソフトウェアプログラムモジュールは、方法の作出、改変、および実行を可能にする。システムの診断モジュールは、設定、機器の配列、およびモーター動作を可能にする。カスタマイズされたツール、実験機器、ならびに液体および粒子の移動パターンは、異なるアプリケーションのプログラム化および実行を可能にする。データベースは、方法およびパラメーターの保存を可能にする。ロボットおよびコンピュータインターフェースは、機器間の通信を可能にする。
【0245】
当業者であれば、本開示のHTP操作法を実行することができる様々なロボットプラットフォームを認識するであろう。
コンピュータシステムハードウェア
【0246】
図5は、本開示の実施形態に従って非一過性コンピュータ可読媒体(例えば、メモリ)中に保存されたプログラムコードを実行するために使用することができるコンピュータシステム800の例を示す。コンピュータシステムは、用途に応じて、ヒトユーザーおよび/または他のコンピュータシステムと連動させるために使用することができる、入力/出力サブシステム802を含む。I/Oサブシステム802は、例えば、キーボード、マウス、グラフィカルユーザーインターフェース、タッチスクリーン、または入力のための他のインターフェース、および例えば、LEDもしくは他のフラットスクリーンディスプレイ、またはアプリケーションプログラムインターフェース(API)を含む、出力のための他のインターフェースを含んでもよい。LIMSシステムの構成要素などの、本開示の実施形態の他の要素を、コンピュータシステム800のようなコンピュータシステムに実装することができる。
【0247】
プログラムコードを、二次メモリ810またはメインメモリ808またはその両方の中の永続記憶装置などの非一過性媒体に保存することができる。メインメモリ808は、ランダムアクセスメモリ(RAM)などの揮発性メモリまたは読出し専用メモリ(ROM)などの非揮発性メモリ、ならびに使用説明書およびデータへのより速いアクセスのための様々なレベルのキャッシュメモリを含んでもよい。二次メモリは、ソリッドステートドライブ、ハードディスクドライブまたは光ディスクなどの永続記憶装置を含んでもよい。1つまたは複数のプロセッサー804は、1つまたは複数の非一過性媒体からプログラムコードを読み取り、コンピュータシステムが本明細書の実施形態によって実施される方法を達成するのを可能にするコードを実行する。当業者であれば、プロセッサーが、ソースコードを取り込み、ソースコードを、プロセッサー804のハードウェアゲートレベルで理解可能であるマシンコードに解釈またはコンパイルすることができることを理解するであろう。プロセッサー804は、コンピュータ集約的タスクを取り扱うためのグラフィックスプロセシングユニット(GPU)を含んでもよい。特に、機械学習では、1つまたは複数のCPU 804は、1つまたは複数のGPU 804に大量のデータのプロセシングをオフロードすることができる。
【0248】
プロセッサー804は、ネットワークインターフェースカード、WiFi送受信機などの1つまたは複数の通信インターフェース807を介して外部ネットワークと通信してもよい。バス805は、I/Oサブシステム802、プロセッサー804、末梢デバイス806、通信インターフェース807、メモリ808、および永続記憶装置810を通信接続する。本開示の実施形態は、この代表的なアーキテクチャに限定されない。代替的な実施形態は、異なる配置および種類の構成要素、例えば、入力出力構成要素およびメモリサブシステムのための別々のバスを用いてもよい。
【0249】
当業者であれば、本開示の実施形態の要素の一部または全部、およびそれに伴う操作を、コンピュータシステム800のもののような、1つまたは複数のプロセッサーおよび1つまたは複数のメモリシステムを含む1つまたは複数のコンピュータシステムによって全体的または部分的に実行することができる。特に、LIMSシステム200ならびに本明細書に記載の任意のロボットおよびその他の自動化システムまたはデバイスの要素を、コンピュータに実装することができる。一部の要素および機能を、ローカルで実行し、他のものを異なるサーバーを通すネットワーク上での分配様式で、例えば、クライアント-サーバー様式で実行してもよい。特に、サーバー側の操作を、
図3に示されるように、サービス型ソフトウェア(SaaS)様式で複数のクライアントが利用できるようにすることができる。
【0250】
この文脈での構成要素という用語は、ソフトウェア、ハードウェア、またはファームウェア(またはその任意の組合せ)構成要素を広く指す。構成要素は、典型的には、特殊化された入力物を使用して有用なデータまたは他の出力物を生成することができる機能的構成要素である。構成要素は、自己完結型であっても、またはそうでなくてもよい。アプリケーションプログラム(「アプリケーション」とも呼ばれる)は、1つもしくは複数の構成要素を含んでもよいか、または構成要素は、1つもしくは複数のアプリケーションプログラムを含んでもよい。
【0251】
一部の実施形態は、他のモジュールまたはアプリケーション構成要素と共に、一部、全部の構成要素を含む、またはいずれの構成要素も含まない。さらにまだ、様々な実施形態は、2つもしくはそれより多いこれらの構成要素を単一のモジュールに組み込む、および/または1つもしくは複数のこれらの構成要素の機能の一部を、異なる構成要素と結合させることができる。
【0252】
用語「メモリ」は、情報を保存するために使用される任意のデバイスまたはメカニズムであってもよい。本開示の一部の実施形態によれば、メモリは、限定されるものではないが、揮発性メモリ、非揮発性メモリ、および動的メモリの任意の型を包含することが意図される。例えば、メモリは、ランダムアクセスメモリ、記憶保持デバイス、光メモリデバイス、磁気媒体、フロッピー(登録商標)ディスク、磁気テープ、ハードドライブ、SIMM、SDRAM、DIMM、RDRAM、DDR RAM、SODIMMS、消去・プログラム可能型読取専用メモリ(EPROM)、電気的消去・プログラム可能型読取専用メモリ(EEPROM)、コンパクトディスク、DVD、および/またはその他であってもよい。一部の実施形態によれば、メモリは、1つまたは複数のディスクドライブ、フラッシュドライブ、データベース、ローカルキャッシュメモリ、プロセッサーキャッシュメモリ、関係型データベース、フラットデータベース、サーバー、クラウドベースプラットフォーム、および/またはその他を含んでもよい。さらに、当業者であれば、情報を保存するための多くのさらなるデバイスおよび技術をメモリとして使用することができることを理解するであろう。
【0253】
メモリを使用して、プロセッサー上で1つまたは複数のアプリケーションまたはモジュールを実行するための使用説明書を保存することができる。例えば、一部の実施形態では、メモリを使用して、本出願で開示される1つまたは複数のモジュールおよび/またはアプリケーションの機能を実行するのに必要とされる使用説明書の全部または一部を保管することができる。
遺伝子設計予測に基づくHTP CHO細胞操作:ワークフロー例
【0254】
一部の実施形態では、本開示は、本開示のコンピュータ分析システムの推奨に基づく新しい宿主生物の指向性操作を教示する。
【0255】
一部の実施形態では、本開示は、全ての遺伝子設計およびクローニング法と適合する。すなわち、一部の実施形態では、本開示は、ポリメラーゼ連鎖反応、制限酵素消化、ライゲーション、相同組換え、RT PCR、および当業界で一般に公知であり、例えば、参照により本明細書に組み込まれるSambrook et al. (2001) Molecular Cloning: A Laboratory Manual (3rd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Plainview, New York)に開示された他のものなどの伝統的なクローニング技術の使用を教示する。
【0256】
一部の実施形態では、クローニングされた配列は、本明細書で教示されるHTP遺伝子設計ライブラリーのいずれかに由来する可能性、例えば、プロモータースワップライブラリーに由来するプロモーターを含んでもよい。
【0257】
さらに、特定の構築物に含有させるべき正確な配列の組合せを、上位性マッピング機能によって情報提供することができる。
【0258】
他の実施形態では、クローニングされた配列はまた、合理的設計(仮説誘導性)に基づく配列および/または科学的刊行物などの他の供給源に基づく配列を含んでもよい。
構築特異的DNAオリゴヌクレオチド
【0259】
一部の実施形態では、本開示は、宿主細胞生物のDNAセグメントの挿入および/または置換および/または変更および/または欠失を教示する。一部の態様では、本明細書に教示される方法は、宿主生物のゲノムに組み込まれるであろう、目的のオリゴヌクレオチド(すなわち、標的DNAセグメント)を構築することを含む。一部の実施形態では、本開示の標的DNAセグメントを、公知の鋳型、突然変異、またはDNA合成からコピーするか、または切断することを含む、当業界で公知の任意の方法によって取得することができる。一部の実施形態では、本開示は、標的DNA配列を生産するための商業的に入手可能な遺伝子合成産物(例えば、GeneArt(商標)、GeneMaker(商標)、GenScript(商標)、Anagen(商標)、Blue Heron(商標)、Entelechon(商標)、GeNOsys,Inc.またはQiagen(商標))と適合する。
【0260】
一部の実施形態では、標的DNAセグメントは、プロモーターを宿主生物の選択されたDNA領域に組み込むように設計される。
【0261】
一部の実施形態では、本発明の方法において使用されるオリゴヌクレオチドを、当業界で公知の酵素合成または化学合成の方法のいずれかを使用して合成することができる。オリゴヌクレオチドを、制御孔径ガラス(CPG)、ポリスチレンビーズ、またはCPGを含有してもよい熱可塑性ポリマーから構成される膜などの固相支持体上で合成することができる。また、オリゴヌクレオチドを、アレイ上で、マイクロフルイディクスを使用して平行マイクロスケールで(Tian et al., Mol. BioSyst., 5, 714-722 (2009))、または両方の組合せを提供する公知の技術(Jacobsen et al.、米国特許出願第2011/0172127号を参照されたい)を使用して合成することもできる。
【0262】
アレイ上での合成またはマイクロフルイディクスによる合成は、より少ない試薬の使用により費用を減少させることによって、従来の固相支持体合成を上回る利点を提供する。遺伝子合成にとって必要とされる規模は小さく、したがって、アレイから、またはマイクロフルイディクスにより合成されたオリゴヌクレオチド生成物の規模は、許容可能である。しかしながら、合成されたオリゴヌクレオチドは、固相支持体合成を使用する場合よりも低い品質のものである(以下のTianを参照されたい;また、Staehler et al.の米国特許出願第2010/0216648号も参照されたい)。
【0263】
伝統的な4ステップのホスホロアミダイト化学は1980年代に初めて記載されたため(例えば、ペルオキシアニオン脱保護を使用する、Sierzchala, et al. J. Am. Chem. Soc., 125, 13427-13441 (2003);代替的な保護基に関するHayakawa et al.の米国特許第6,040,439号;普遍的支持体に関するAzhayev et al, Tetrahedron 57, 4977-4986 (2001);大孔径CPGの使用によるより長いオリゴヌクレオチドの改善された合成に関するKozlov et al., Nucleosides, Nucleotides, and Nucleic Acids, 24 (5-7), 1037-1041 (2005);および誘導体化の改善に関するDamha et al., NAR, 18, 3813-3821 (1990)を参照されたい)、数々の進歩が、それにおいて達成された。
【0264】
次いで、合成の種類に関係なく、得られるオリゴヌクレオチドは、より長いオリゴヌクレオチドのためのより小さい構成要素を形成することができる。一部の実施形態では、より小さいオリゴヌクレオチドを、ポリメラーゼ連鎖アセンブリ(PCA)、リガーゼ連鎖反応(LCR)、および熱力学平衡インサイドアウト合成(TBIO)(Czar et
al. Trends in Biotechnology, 27, 63-71 (2009)を参照されたい)などの、当業界で公知のプロトコールを使用して一緒に連結することができる。PCAでは、所望のより長い生成物の全長にわたって広がるオリゴヌクレオチドをアニーリングさせ、複数のサイクル(典型的には、約55サイクル)で伸長させて、最終的に完全長の生成物を達成する。LCRは、リガーゼ酵素を使用して、両方とも第3のオリゴヌクレオチドにアニーリングする2つのオリゴヌクレオチドを連結する。TBIO合成は、所望の生成物の中心で開始し、遺伝子の5’末端でフォワード鎖と相同であり、遺伝子の3’末端でリバース鎖に対する重複オリゴヌクレオチドを使用することによって両方向に進行的に伸長される。
【0265】
より大きい二本鎖DNA断片を合成する別の方法は、トップ鎖PCR(TSP)によってより小さいオリゴヌクレオチドを組み合わせることである。この方法では、複数のオリゴヌクレオチドが所望の生成物の全長に広がり、隣接するオリゴヌクレオチドと重複する領域を含有する。増幅を、ユニバーサルフォワードおよびリバースプライマーを用いて実施することができ、複数サイクルの増幅によって、完全長二本鎖DNA生成物が形成される。次いで、この生成物は、最適誤差補正および所望の二本鎖DNA断片最終生成物をもたらすさらなる増幅を受けてもよい。
【0266】
TSPの1つの方法では、完全長の所望の生成物を形成するように組み合わせることができるより小さいオリゴヌクレオチドのセットは、40~200塩基長であり、少なくとも約15~20塩基が互いに重複する。実用的な目的では、重複領域は、オリゴヌクレオチドの特異的なアニーリングを確保するのに十分な最小の長さであり、用いられる反応温度でアニーリングする十分に高い融点(Tm)を有するべきである。重複は、所与のオリゴヌクレオチドが隣接するオリゴヌクレオチドによって完全に重複される点まで伸長してもよい。重複の量は、最終生成物の品質に対していかなる効果も有しないと考えられる。アセンブリ中の最初および最後のオリゴヌクレオチド構成要素は、フォワードおよびリバース増幅プライマーのための結合部位を含有するべきである。一実施形態では、最初および最後のオリゴヌクレオチドの末端配列は、ユニバーサルプライマーの使用を可能にするために相補的な同じ配列を含有する。
宿主細胞のトランスフェクション
【0267】
一部の実施形態では、本開示は、所望の標的DNAセクション(例えば、特定のプロモーター、および/または抗体などのGOIを含有する)を、宿主生物、例えば、CHO細胞のゲノム中に挿入することができるベクターを構築するための方法を教示する。
【0268】
一部の実施形態では、本開示は、宿主生物への形質転換またはトランスフェクションに適している任意のベクターと適合する。
【0269】
一部の実施形態では、本開示は、宿主細胞と適合するシャトルベクターの使用を教示する。本明細書に提供される方法における使用のためのシャトルベクターは、本明細書に記載の選択および/または対抗選択のためのマーカーを含んでもよい。マーカーは、当業界で公知の、および/または本明細書に提供される任意のマーカーであってもよい。シャトルベクターは、当業界で公知のように、任意の調節配列および/または前記シャトルベクターのアセンブリにおいて有用な配列をさらに含んでもよい。調節配列は、当業界で公知の、または本明細書に提供される任意の調節配列、例えば、宿主細胞の遺伝機構によって使用されるプロモーター、開始シグナル、停止シグナル、分泌および/または終結配列などであってもよい。ある特定の例では、標的DNAを、商業的なベクター(例えば、DNA2.0カスタムまたはGATEWAY(登録商標)ベクターを参照されたい)などの、任意の貯蔵所またはカタログ製品から取得可能なベクター、構築物またはプラスミドに挿入することができる。ある特定の例では、標的DNAを、商業的なベクター(例えば、DNA2.0カスタムまたはGATEWAY(登録商標)ベクターを参照されたい)などの、任意の貯蔵所またはカタログ製品から取得可能なベクター、構築物またはプラスミドに挿入することができる。
【0270】
一部の実施形態では、本開示のアセンブリ/クローニング方法は、以下のアセンブリ戦略の少なくとも1つ:i)II型の従来のクローニング、ii)II型のS媒介性または「ゴールデンゲート」クローニング(例えば、Engler, C., R. Kandzia, and S. Marillonnet. 2008 ”A one pot, one step, precision cloning method with high-throughput capability”. PLos One 3:e3647;Kotera, I., and T. Nagai. 2008 ”A high-throughput and single-tube recombination of crude PCR products using a DNA polymerase inhibitor and type IIS restriction enzyme.” J Biotechnol 137:1-7;Weber, E., R. Gruetzner, S. Werner, C. Engler, and S. Marillonnet. 2011 Assembly of Designer TAL Effectors by Golden Gate Cloning. PloS One 6:e19722を参照されたい)、iii)GATEWAY(登録商標)組換え、iv)TOPO(登録商標)クローニング、エキソヌクレアーゼ媒介性アセンブリ(Aslanidis and de Jong 1990. ”Ligation-independent cloning of PCR products (LIC-PCR).” Nucleic Acids Research, Vol. 18, No. 20 6069)、v)相同組換え、vi)非相同末端結合、vii)Gibsonアセンブリ(Gibson et al., 2009
”Enzymatic assembly of DNA molecules up
to several hundred kilobases” Nature Methods 6, 343-345)またはその組合せを用いてもよい。モジュラー型IISベースアセンブリ戦略は、PCT公開WO2011/154147に開示されており、この開示は参照により本明細書に組み込まれる。
【0271】
プラスミドは哺乳動物には自然に存在しないが、科学者は、合成ベクターおよび培養哺乳動物細胞を使用するプラスミドに基づく研究の利益を依然として得ることができる。もちろん、これらの哺乳動物ベクターは、それらがトランスフェクトされる細胞型と適合しなければならない-細菌の複製起点(ORI)は、例えば、哺乳動物細胞中でのプラスミド複製を可能にせず、細菌を殺傷する毒素は、哺乳動物細胞に対するいかなる認識可能な効果も有しないことがある。
【0272】
遺伝物質(プラスミドなど)を哺乳動物細胞中に導入する手段は、トランスフェクションと呼ばれるプロセスである。トランスフェクションは、細菌の形質転換(細菌細胞へのDNAの導入)といくらか同等であるが、技術および試薬は異なる。哺乳動物細胞へのプラスミドのトランスフェクションは、かなり簡単であり、得られる細胞は、プラスミドDNAを一過的に発現する(細菌と同様)か、または遺伝物質をゲノムに直接組み込んで、安定なトランスフェクションを形成することができる。細菌の形質転換と違って、科学者は、同じようにプラスミドを取り込んだ細胞を「選択」しない。安定な細胞系を作出する場合、典型的には、以下に記載される選択方法が用いられ、一般的なプラスミド選択には使用されない。その代わり、トランスフェクション効率および細胞中での発現レベルを容易にモニタリングするためには、リポーター遺伝子が用いられることが多い。理想的には、選択されるリポーターは、細胞にとってユニークであり、プラスミドから発現され、都合良くアッセイすることができる。目的の遺伝子に関する直接試験は、トランスフェクションの成功を評価するための別の方法であってよい。GFPがリポーターとして使用されることが多い。
【0273】
多くの実験について、トランスフェクトされたプラスミドは、一過的に発現されれば十分である。トランスフェクションプロセスにおいて導入されるDNAは核ゲノムに組み込まれないため、プラスミド複製が存在しない場合、外来DNAは時間と共に分解されるか、または希釈されるであろう。しかしながら、これは、実験の持続期間または他のパラメーターに依存する問題ではない。哺乳動物細胞は、細菌よりもはるかに遅い速度で倍加する(それぞれ、約24hと20min)。したがって、これらの実験の多くはトランスフェクションの48h以内に完了するため、細胞中でのプラスミド複製を確認することは常に重要であるわけではない。
【0274】
もちろん、プラスミド枯渇を望まないにしても、一過的トランスフェクション法を使用することを望むことも可能である。「自然の」哺乳動物ORIは存在しないため、科学者は、空隙を埋めるためにウイルスに基づくORIを奪った。これらのORIは、しかしながら、有効な複製のために細胞内でトランスに発現される追加の構成要素を必要とする。エプスタイン・バーウイルス(EBV)核抗原1(EBNA1)またはSV40ラージT抗原(293Eもしくは293T細胞)を発現する細胞系は、それぞれ、ウイルスEBVまたはSV40 ORIを含有するプラスミドのエピソーム増幅を可能にする。これらのウイルス構成要素の存在は、プラスミド希釈の速度を大きく低下させるが、100%のトランスフェクション効率を保証するものではない。
安定なトランスフェクション
【0275】
安定なトランスフェクションは、外来遺伝物質(GOI、目的の遺伝子)をそのゲノム中に完全かつ成功裏に組み込んだ細胞の集団を作出するために使用される。酵母および細菌中での発現のために使用されるプラスミドと違って、安定なトランスフェクションのために使用されるプラスミドは、組み込まれるDNAがゲノムの一部として複製されるため、ORIを含有することは稀である。外来DNAは宿主ゲノムへの永続的な付加となるため、細胞は、外来物質の遺伝形質を継続的に発現し、続いて、それを将来世代に伝えるであろう。安定にトランスフェクトされた細胞は、元の親細胞のものに由来する完全に新しい細胞系であると考えてよい。
哺乳動物細胞中での陽性選択
【0276】
安定なトランスフェクションを達成するためには、細胞に、強制的にプラスミドDNAをゲノム中に組み込ませるための選択圧があるべきである。陽性選択は、正の形質を拾う手段であるが(すなわち、プラスミドは、細胞を毒素に対して耐性にするカセットを含有する)、陰性選択は、負の形質を拾う手段である(すなわち、プラスミドは、細胞を毒素に対して感受性にするカセットを含有する)。陰性選択技術を、陽性選択と共に使用して、確実に、遺伝子がゲノム内の特定の位置に標的化されるようにする。
【0277】
哺乳動物細胞中での陽性選択は、細菌中でのものと同様に機能し、多くの一般的に使用される選択マーカーの表を、以下に列挙する。
【表3】
タンパク質の試験および特性評価-PROSWAP誘導性遺伝子摂動の効果の測定
【0278】
様々な標的遺伝子の発現をモジュレートするためにHTPプロモータースワップゲノム操作ツールを使用する結果を、そのような手順が、一部の実施形態では、抗体(Ab)などの治療タンパク質であるGOIに対して有する効果について評価する。
【0279】
プロモータースワップツールは、ある特定の標的遺伝子をモジュレートした後、GOI生成物の表現型特性、例えば、産生される抗体の特性に対するそのようなモジュレーションの効果を測定する、HTPおよび体系的「探査」を可能にする。GOIの生成物(すなわち、治療タンパク質および/または抗体)に対する効果の評価は、遺伝子摂動がAbの発現を負に阻害しなかったことを確保するために、力価、N末端切断、グリコシル化などのいくつかのAbの表現型の特徴付けを必然的に伴うであろう。
例示的な目的の遺伝子-抗体
【0280】
本開示は、所望の目的の遺伝子(GOI)の発現を改善するためのCHO細胞のHTP遺伝子操作を教示する。1つのそのような目的の遺伝子のカテゴリーは、ヒト治療タンパク質をコードする遺伝子である。例えば、抗体をコードする遺伝子の改善された発現およびCHO細胞による抗体の産生が企図される。
【0281】
用語「抗体」および「免疫グロブリン」は、本明細書では互換的に使用される。これらの用語は、当業者によってよく理解され、抗原に特異的に結合する1つまたは複数のポリペプチドからなるタンパク質を指す。1つの形態の抗体は、抗体の基本構造単位を構成する。この形態は、四量体であり、それぞれの対が、1つの軽鎖および1つの重鎖を有する、2つの同一の対の抗体鎖からなる。それぞれの対において、軽鎖および重鎖可変領域は、一緒になって抗原への結合を担い、定常領域は、抗体エフェクター機能を担う。
【0282】
認識される免疫グロブリンポリペプチドは、カッパおよびラムダ軽鎖と、アルファ、ガンマ(IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)、デルタ、イプシロンおよびミュー重鎖または他の種における等価物を含む。完全長免疫グロブリン「軽鎖」(約25kDaまたは約214アミノ酸の)は、NH2-末端に約110アミノ酸の可変領域と、COOH-末端にカッパまたはラムダ定常領域とを含む。完全長免疫グロブリン「重鎖」(約50kDaまたは約446アミノ酸の)は、同様に、可変領域(約116アミノ酸の)と、上記重鎖定常領域の1つ、例えば、ガンマ(約330アミノ酸の)とを含む。
【0283】
用語「抗体」および「免疫グロブリン」は、任意のアイソタイプの抗体または免疫グロブリン、限定されるものではないが、Fab、Fv、scFv、およびFd断片などの、抗原への特異的結合を保持する抗体の断片、キメラ抗体、ヒト化抗体、一本鎖抗体、抗体の抗原結合性部分と、非抗体タンパク質とを含む融合タンパク質を含む。抗体を、例えば、放射性アイソトープ、検出可能な生成物を生成する酵素、蛍光タンパク質などを用いて検出可能に標識することができる。抗体を、特異的結合対のメンバー、例えば、ビオチン(ビオチン-アビジン特異的結合対のメンバー)などの他の部分にさらにコンジュゲートすることができる。また、抗体を、限定されるものではないが、ポリスチレンプレートまたはビーズなどの固相支持体に結合することもできる。また、Fab’、Fv、F(ab’)2、および/または抗原への特異的結合を保持する他の抗体断片も、この用語によって包含される。
【0284】
抗体は、例えば、Fv、Fab、および(Fab’)2、ならびに二官能性(すなわち、二重特異性)ハイブリッド抗体(例えば、Lanzavecchia et al.,
Eur. J. Immunol. 17, 105 (1987))および一本鎖(例えば、Huston et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 85, 5879-5883 (1988);Bird et al., Science, 242, 423-426 (1988); Hood et al., ”Immunology”, Benjamin, N.Y., 2nd
ed. (1984)、およびHunkapiller and Hood, Nature, 323, 15-16 (1986))を含む様々な他の形態で存在してもよい。
【0285】
免疫グロブリン軽鎖または重鎖可変領域は、「相補性決定領域」またはCDRとも呼ばれる、3個の超可変領域によって中断された「フレームワーク」領域からなる。異なる軽鎖または重鎖のフレームワーク領域の配列は、種内で比較的保存されている。構成要素である軽鎖および重鎖のフレームワーク領域の組合せである、抗体のフレームワーク領域は、CDRを配置し、整列させるのに役立つ。CDRは主に、抗原のエピトープへの結合を担う。
【0286】
キメラ抗体は、軽鎖および重鎖の遺伝子が、典型的には、遺伝子操作によって、異なる種に属する抗体可変および定常領域の遺伝子から構築された抗体である。例えば、ウサギモノクローナル抗体に由来する遺伝子の可変セグメントを、ガンマ1およびガンマ3などのヒト定常セグメントに連結してもよい。治療用キメラ抗体の例は、ウサギ抗体に由来する可変または抗原結合ドメインと、ヒト抗体に由来する定常またはエフェクタードメインとから構成されるハイブリッドタンパク質である。
【0287】
本明細書で使用される場合、別途指摘しない限り、または文脈から明らかでない限り、抗体ドメイン、領域および断片は、当業界で周知の標準的な定義に従う。例えば、Abbas, A. K., et al., (1991) Cellular and Molecular Immunology, W. B. Saunders Company, Philadelphia, Paを参照されたい。
【0288】
本明細書で使用される場合、用語「ヒト化抗体」または「ヒト化免疫グロブリン」とは、動物抗体に由来する1つまたは複数のCDRを含む抗体、親の動物抗体よりもヒトにおいて免疫原性が低くなるように改変された抗体を指す。動物抗体を、キメラ抗体産生、CDR移植(再形成とも呼ばれる)、および抗体再表面化を含むいくつかの方法を使用してヒト化することができる。
【0289】
本明細書で使用される場合、用語「マウス化抗体」または「マウス化免疫グロブリン」とは、動物抗体に由来する1つまたは複数のCDRを含む抗体、親の動物抗体よりもマウスにおいて免疫原性が低くなるように改変された抗体を指す。動物抗体を、キメラ抗体産生、CDR移植(再形成とも呼ばれる)、および抗体再表面化を含むいくつかの方法を使用してマウス化することができる。
【0290】
本明細書で使用される場合、用語「決定すること」、「測定すること」、および「評価すること」および「アッセイすること」は、互換的に使用され、定量的決定と定性的決定の両方を含む。
【0291】
上記の通り、血清中に見出される抗体分子の5つの免疫グロブリンクラス(アイソタイプ):IgG、IgM、IgA、IgE、およびIgDが存在する。それらは、それらが含有する重鎖の種類によって区別される。IgG分子は、γ鎖として知られる重鎖を有する;IgMはμ鎖を有する;IgAはα鎖を有する;IgEはε鎖を有する;およびIgDはδ鎖を有する。重鎖ポリペプチドの変異により、それぞれの免疫グロブリンクラスは、異なる型の免疫応答において、または生体防御の異なる段階中に機能することができる。これらの機能的差異を提供するアミノ酸配列は、主にFcドメイン内に位置する。
【0292】
抗体クラスはまた、その価数、すなわち、抗原に結合するのに利用可能なアームの数においても異なる。これは、J鎖を介したそのFcドメインの連結によって多量体を形成する、ある特定の免疫グロブリンの能力から生じる。例えば、IgMは、5つの同一の「Y」形状の単量体の五量体である。したがって、完全なIgMタンパク質は、10個の重鎖、10個の軽鎖および10個の抗原結合アームを含有する(得られるIgMの価数は10である)。
【0293】
ヒトにおいては、わずか2種類の軽鎖-κおよびλが存在する(VLおよびCL領域中の微妙なアミノ酸差異に基づく)。κおよびλ鎖は、それぞれ、67%および33%の時間に見出される。1つの重鎖型と、1つの軽鎖型との会合によって、任意の抗体を形成させることができる。全ての可能な組合せにおいて、抗体ユニット(単量体)中に2つの同一の重鎖および軽鎖が存在するであろう。したがって、IgM五量体は、(μ2κ2)5または(μ2λ2)5のいずれかを含んでもよい。
【0294】
以前に記載されたように、免疫グロブリンは、IgG1、IgG2、IgG3およびIgG4と命名される4つのサブクラスにさらに分解される(血清中の存在量の多いものから順に列挙される)。それらは、γ重鎖のCH領域において95%を超える配列相同性を共有する。また、IgAの2つのサブクラス:IgA1(90%)およびIgA2(10%)も存在する。血清IgAは、単量体であるが、涙、粘液および唾液などの分泌物中では二量体として見出される。分泌物中で、IgAは、J鎖およびそれと会合した分泌片(またはT片)と呼ばれる別のタンパク質を有する。さらに、κおよびλ軽鎖のいくつかのサブクラスが存在することが知られている。
【0295】
表4中のデータは、ヒト抗体に関する上記の情報の一部をまとめたものである。
【表4】
【実施例0296】
以下の実施例は、本開示の様々な実施形態を例示する目的で与えられるものであり、いかなる様式でも本発明を限定することを意味しない。特許請求の範囲によって定義される、本開示の精神に包含されるその中の変化および他の使用は、当業者によって認識されるであろう。
【0297】
単に読者を支援するために、簡単な目次を以下に提供する。この目次は、実施例または本出願の開示の範囲を限定することを意図したものではない。
【表5】
(実施例1)
標的経路遺伝子の遺伝子全体像を探索するためのプロモータースワップライブラリーのインプリメンテーションのための一般的ワークフロー
【0298】
本実施例は、HTPプロモータースワップゲノム操作ツールを使用するHTPゲノム操作手順の実施形態を例示する。
A.プロモータースワッピングのための標的の識別
【0299】
上記のように、プロモータースワッピングは、標的にする「n」遺伝子のセットを選択するステップを含む多ステッププロセスである。
【0300】
本実施例では、本発明者らは、CHO細胞治療タンパク質生産において重要であると考えられる8つの機能群を識別した。次いで、これらの8つの広い機能のそれぞれの中から、本発明者らは、プロモータースワップゲノム操作ツールを用いて標的にするための単一の特定の遺伝子を選択した。
【0301】
結果として、1つが、実験のために選択された、それぞれの代表的な機能に由来する、8つの標的遺伝子が存在していた(標的遺伝子については
図6、および実施例2を参照されたい)。
B.プロモーターラダーの作出
【0302】
プロモータースワッププロセスのインプリメンテーションにおける別のステップは、「ラダー」として作用する「x」プロモーターのセットの選択である。理想的には、これらのプロモーターは、多重ゲノム遺伝子座にわたる高度に可変的な発現をもたらすことが示されているが、唯一の要件は、それらがいくつかの方法で遺伝子発現を摂動させることである。
【0303】
これらのプロモーターラダーは、一部の実施形態では、目的の標的遺伝子と会合した自然の、天然の、または野生型プロモーターを識別すること、次いで、前記プロモーターを、複数の合成プロモーター配列を誘導するように突然変異/変更させることによって作出される。これらの編集されたプロモーターはそれぞれ、標的遺伝子発現に対する効果について試験される。
【0304】
他の実施形態では、プロモーターは、自然の、または天然のCHO遺伝子プロモーターに由来しないが、むしろ、CHO細胞ゲノムに導入された異種プロモーターである。
【0305】
一部の実施形態では、プロモーターは、それぞれのプロモーターの活性が実証/特性評価/注釈され、データベースに保存されるように、様々な条件にわたって発現活性について試験される。
【0306】
プロモーターは続いて、その発現強度に基づいて配置される「ラダー」に編成される(例えば、高度に発現するプロモーターは上に近く、減弱された発現は下に近く、したがって、用語「ラダー」をもたらす)。
C.ラダーに由来するプロモーターと標的遺伝子との会合
【0307】
プロモータースワッププロセスのインプリメンテーションにおける別のステップは、特定の標的遺伝子と会合したプロモーターラダーに由来する所与のプロモーターを含む様々なCHO細胞のHTP操作である。
【0308】
天然プロモーターが標的遺伝子nの前に存在し、その配列が公知である場合、天然プロモーターの、ラダー中のxプロモーターのそれぞれとの置き換えが実行される。
【0309】
天然プロモーターが存在しないか、またはその配列が未知である場合、ラダー中のxプロモーターのそれぞれの、遺伝子nの前への挿入が実行される。
【0310】
このように、CHO細胞のライブラリーが構築され、ライブラリーの各メンバーは、その他は同一の遺伝子状況において、n標的遺伝子に作動可能に連結されたxプロモーターの例である。
D.CHO細胞のHTPスクリーニング
【0311】
プロモータースワッププロセスにおける最後のステップは、上記ライブラリー中のCHO細胞のHTPスクリーニングである。誘導される細胞はそれぞれ、その他は同一の遺伝的背景における、n標的に連結されたxプロモーターの例を表す。
【0312】
1つまたは複数の測定基準に対するその性能が特徴付けられるシナリオにおいて、各細胞のHTPスクリーニングを実行することによって、本発明者らは、どのプロモーター/標的遺伝子会合が所与の測定基準にとって最も有益であるかを決定することができる(例えば、治療タンパク質の産生の最適化)。
(実施例2)
経路抗体発現依存性を探索するためのプロモータースワップライブラリーの特異的インプリメンテーション
【0313】
本研究は、CHO細胞中での抗体発現を改善するためのHTPプロモータースワップゲノム操作ツールを使用する。プロモータースワップツールを使用して、経路と、タンパク質発現と、品質との関係を明確に識別する。
【0314】
標的遺伝子機能と抗体発現/分泌との関係を評価するために、互いに単一の遺伝子座が異なる複数の株を構築する。遺伝子変化は、標的経路の遺伝子の発現を駆動する内因性プロモーターの、変化する強度の異種プロモーターとの置き換え、すなわち、PROSWAPを含む。例示的な実施形態の様々な概略図は、
図6~10に見出される。
【0315】
所望の変化をもたらすための全ゲノム編集手法は、Cas9およびsgRNAを用いてゲノム遺伝子座を標的にして、所望の位置でゲノムを切断し、選択マーカーおよび目的のプロモーターを担持するDNAカセットをその遺伝子座に挿入することである。他のCRISPR系、例えば、Cpf1を使用してもよい。
【0316】
標的遺伝子のCRISPR支援PROSWAPを用いたCHO株の構築および評価を、3つのフェーズに分割することができる:
フェーズI-mAB産生クローンの構築および単離*
【0317】
Horizon discoveryからの社内株(CHO-K1の誘導体)に、mAb(モノクローナル抗体)産生遺伝子をコードするGSベクターをトランスフェクトする。この宿主株は、それをグルタミン栄養要求株にする機能的グルタミンシンターゼ(GS)を欠く。線状化されたGSを担持するベクターのトランスフェクションの際に、ベクターの無作為の挿入は、グルタミン原栄養性をもたらし、組込み体は、グルタミンの非存在下で培養することによって単離される。培地に、GSの化学的阻害剤であるメチオニンスルホキシミン(MSX)を添加することによって、選択圧を増強する。
【0318】
モデルとなる発現容易抗体(GOI、例えば、ハーセプチン、リツキシマブなど)の重鎖および軽鎖をコードする遺伝子
**を、上記のGSベクター中にクローニングして、mAbを産生する安定なプールの細胞を取得する。安定に選択されたプールを、分泌抗体、およびプール増殖特徴についてここで評価する。一般に、IgG1およびIgG4は、他のクラスと比較して相対的に単純な構造を有するため、発現が最も容易な抗体クラスである。しかしながら、本開示は、任意の抗体クラスに適用可能である。
図10では、元のCHO細胞系は白丸で表され、GOIを発現する安定にトランスフェクトされたCHO細胞系は内部が線で満たされた丸で描写される。
【0319】
CHO細胞の大きいクローン間変動性のため、安定にトランスフェクトされたプールをクローニングし、産生について個別に評価する。この段階での表現型評価は、mAb力価、グリコシル化パターン、細胞増殖、培養中の生存能力のパターン、細胞密度、および比生産性(pg mAb/細胞/日)を含む。
【0320】
別の懸念は、発現の安定性であり、したがって、クローンを、数世代(12~50世代)にわたって培養することによって安定性について評価する。発現の安定性の見込みは通常、培養中の選択圧(+MSX)を保持することによって増大させることができる。
【0321】
一部の実施形態では、抗体重鎖および軽鎖を、いずれかのFRT(またはLoxP)部位によって挟むことができる。これらの組換え部位を使用して、特定のFLP(またはCre)リコンビナーゼによって抗体遺伝子を後にループアウトさせ、抗体遺伝子を有しないが、ある特定のゲノム遺伝子座(「ランディングパッド」と呼ばれる)にFRT(またはLoxP)組換え部位を担持するCHO宿主を作出することができる。将来の計画のために、異なる抗体の重鎖および軽鎖遺伝子を、組込み体のスクリーニング中に必要とされる時間および努力を減少させるであろう、特定のランディングパッドへの組込みについて標的にすることができる。
フェーズII-標的経路遺伝子のCRISPR支援プロモータースワップ
【0322】
タンパク質発現に影響すると期待される、表6に列挙される機能を有する分子をコードする遺伝子を、プロモータースワップ手順のために標的にする。この表はまた、初期のPOC試験のために標的化される特定の遺伝子を列挙する。
【0323】
これらの標的経路遺伝子を、HTPプロモータースワップゲノム操作ツールを用いてモジュレートし、フェーズIに由来する上記の挿入されたGOIに対するそのような遺伝子モジュレーションの効果を評価する。
図10は、24個のユニークなCHO細胞系をもたらす、以下の8個の標的経路遺伝子のそれぞれに作動可能に連結されたプロモーターラダー(高、中、低)を有する例の概略図を提供する。これらの細胞系は、ユニークなプロモーター:遺伝子標的エレメントについて以外は、遺伝的に同一であると推測される。
【0324】
GOI(すなわち、治療タンパク質、抗体)に対する効果の評価は、遺伝子摂動がAbの発現を負に阻害しなかったことを確保するために、力価、N末端切断、グリコシル化などのいくつかのAbの表現型の特徴付けを必然的に伴う。
【表6-1】
【表6-2】
【0325】
CRISPR媒介性組込みカセットベクターは、以下の部分からなる*
【0326】
マーカー1、次いで、ポリアデニル化シグナルの発現を駆動するプロモーター。
【0327】
標的遺伝子座へのHDRによる組込みを標的にする5’相同配列。相同性の長さは、典型的には、100~3000bpで変化してもよい。POC試験では、相同性の長さは、約1000bpであるように標的化される。
【0328】
(必要に応じて)別々のプロモーターによって駆動されるマーカー2および3、次いで、それ自身のポリアデニル化シグナル、ならびに陽性の組込み体を選択するためのネオマイシン耐性マーカー。一部の実施形態では、これらのマーカーを、FRTまたはLoxP部位のいずれかによって挟み、後の段階で使用して、これらのマーカーをループアウトさせることができる。
【0329】
モジュレートしようとする標的遺伝子の前にあるPROSWAPのためのプロモーター4(高/中/低強度)。
【0330】
標的遺伝子座へのHDRによる組込みを標的にする3’相同配列。相同性の長さは、典型的には、100~3000bpで変化してもよい。POC試験では、相同性の長さは、約1000bpであるように標的化される。
【0331】
マーカー1および2は、好ましくは、細胞間の識別を可能にする蛍光マーカー(GFP/RFP/mCHERRY/BFP/YFP)である。
【0332】
オフターゲット挿入は、マーカー1と2の両方を保持するが、所望のオンターゲット挿入は、マーカー2のみを保持する。
【0333】
マーカー3は、好ましくは、異種カセットの組込みが成功した細胞の増殖だけを可能にする抗生物質選択マーカー(ネオマイシン/ピューロマイシン/ブラスチシジン/ヒグロマイシン)である。
【0334】
プロモーター4は、その発現をモジュレートするために標的遺伝子の上流に挿入される。プロモーター4は、高、中、または低強度のものであってよい(例えば、CMV>EF1α>SV40>RSV>PGKの順の相対強度、表2および
図9を参照されたい)。
【0335】
一部の実施形態では、標的遺伝子の発現を完全に除去するために、プロモーター4、またはリボソーム結合部位、または翻訳開始シグナルのいずれかを、組込みカセットから省略する。また、上記のように、標的遺伝子の完全なノックアウトを使用するか、または標的遺伝子の転写を、CRISPRiまたはRNAiなどの干渉技術を用いて重度に抑制することができる。ポリアデニル化配列を、SV40、hGH、BGH、およびrbGlobから選択することができる。
【0336】
mABを産生するCHO細胞クローンに、i)標的遺伝子座でゲノムDNAを切断するためにCas9およびsgRNAを担持するベクター、ならびにii)目的のプロモーターと共に陽性および陰性のマーカーを担持する上記の組込みベクターをトランスフェクトする。以前に述べたように、Cpf1または任意の他の適切なCRISPRエンドヌクレアーゼを使用することができる。トランスフェクタントを、ネオマイシンを含む、または含まない培地中、96ウェルプレート中に1000~5000細胞/ウェルの密度(標的1つあたり1~10個のプレート)で播種し、37℃のインキュベーター中でインキュベートする。細胞に対して複数の選択圧を課すのを避けるために、GS(およびmAb)ベクターのMSX選択をこのステップで除外する。
【0337】
CRISPR効率は、変動し、遺伝子座依存的であると予想される。得られるコロニー(すなわち、ミニプール)を、最初に蛍光についてスクリーニングし、マーカー2を有するコロニーのみを、連結部位のPCR増幅およびPCR産物のSanger配列決定を使用して、標的遺伝子座での組込みについてさらにスクリーニングする(例えば、赤色蛍光、GFPなど)。PCRのためのプライマーを、組込みカセットの外部または内部に結合するように設計することができる。
【0338】
必要に応じて、正確な組込みを有するミニプールを、mAb力価、グリコシル化パターン、細胞増殖、培養中の生存能力のパターン、細胞密度、および比生産性(pg mAb/細胞/日)について評価する。
【0339】
図7A、
図7B、および
図7Cは、上記の実験構築物の例示として参照することができ、HTPプロモータースワップゲノム操作ツールを実行する様々な実施形態を描写する。標的遺伝子の周囲のDNA領域を、CRISPR(または同様の)遺伝子編集手法を使用するsgRNAによって選択的に切断する。標的遺伝子の上流のプロモーターを、相同組換え修復メカニズムによってプロモーター4により置き換える。プロモーター置き換えカセットは、様々な部分から構成されていてもよく、例えば、
図7Aでは、構築物は3つのマーカーを担持する。マーカー1は、相同領域の外側にあり、標的化組込みの間に失われる。それは、オフターゲット組込みに対する陰性選択/スクリーニングマーカーとして使用される。マーカー2および3は、標的遺伝子座での組込みの成功時に保持され、迅速な表現型分析のためのスクリーニング(蛍光)および選択(抗生物質耐性)のために別々に使用することができる。
図7Bにおいては、構築物は、オフターゲット組込みに対する陰性選択/スクリーニングマーカーのみを担持する。標的遺伝子座に陽性マーカーは組み込まれず、所与の株において複数の遺伝子を逐次的に標的にすることを可能にする。陽性マーカーの非存在下では、正確に組み込まれたクローンを単離するために、より広範囲の遺伝子型決定を実行する。そして
図7Cにおいては、構築物は、
図7Aの実施形態におけるものと類似し、2つの陽性マーカー2および3の周囲にFRTまたはLoxP組換え部位の追加の特徴を有する。これらの組換え部位の存在を使用して、その中の領域を選択的にループアウトさせることができる。これにより、これらのマーカーを再利用し、所与の株における複数の標的遺伝子の逐次的操作を行うことができる。
フェーズIII-PROSWAPミニプールのクローニングおよび個々のクローンの評価
【0340】
ミニプール培養物を連続希釈し、これを使用して、96ウェルプレート(ミニプール1つあたり1~2個)に、0.3細胞/ウェルの細胞密度で播種して、単一細胞クローンを単離する。クローン性の証明には、Solentim(または同様の)デバイスによる各ウェルのイメージングが必要である。
【0341】
96ウェルプレート中で増殖させた後、コロニーを拡大し、バンキングし、mAb力価、グリコシル化パターン、細胞増殖、培養中の生存能力のパターン、細胞密度、および比生産性(pg mAb/細胞/日)を含む生理学的特性について評価する。タンパク質試験および特性評価モジュール(
図1を参照されたい)は、遺伝子摂動がAbの特性に負に影響しなかったことを確保するのに重要である。
【0342】
CRISPR標的化変化の安定性もまた、変動性であると予想され、かくして、最も有望なクローンを、約60世代にわたって連続培養した後、標的遺伝子座で遺伝子型決定し、ならびにmAB分泌について生産性評価を行うことによってモニタリングする。
【0343】
マーカー2および3がFRT(またはLoxP)部位によって挟まれる実施形態では、2回目のトランスフェクションを、FLPリコンビナーゼ(またはCreリコンビナーゼ)を担持するベクターを用いて行った後、マーカー2(およびマーカー3)を失ったトランスフェクタントについて蛍光スクリーニングすることができる。これらのマーカーがないクローンを、後に複数の遺伝子標的の連続的PROSWAPのために使用することができる。
【0344】
注記:*この手法は、最速の株構築および評価のために設計される。この手法を使用して生成された細胞は、異なる計画/抗体のためにそのまま使用することはできない。RFP(蛍光)およびネオマイシン(選択)マーカーは、POC実験中の選択を単純化するためだけに含まれる。CRISPR効率が広範囲(1~60%)にわたって変化すると予想されるため、正確に組み込まれたミニプール/クローンを識別するために、後の遺伝子型決定においてより多くの資源を必要とするであろう、一部の実施形態では、これらの2つのマーカーを除外することができる。ある特定の実施形態では、上記で概略されたように、FLPまたはLoxP組換え部位でマーカーをループアウトさせるために特定のリコンビナーゼ(FLPまたはCreリコンビナーゼ)による別のトランスフェクションを必要とするであろう、FRPまたはLoxP組換え部位によって、これらのマーカーを挟むことができる。**ワークフローを自動化し、複数の抗体のために同時に行うことができる。
(実施例3)
プロモータースワップライブラリーの併合および多因子組合せ試験
【0345】
本実施例では、実施例2において宿主性能に対する正の効果を有すると識別されたプロモータースワップを、新しいライブラリー中に二次組合せで併合する。
【0346】
所与のプロモーター:遺伝子組合せを併合する決定は、目的のパラメーター、例えば、mAb力価、グリコシル化パターン、細胞増殖、培養中の生存能力のパターン、細胞密度、および比生産性(pg mAb/細胞/日)を含む生理学的特性、ならびに組合せが付加的、相乗的、または非有害的効果をもたらす可能性に対する全体的な正の効果に基づく。
【表7-1】
【表7-2】
【表7-3】
本開示の番号付き実施形態
【0347】
添付の特許請求の範囲にも拘わらず、本開示は、以下の番号付き実施形態を記載する:
1.免疫グロブリン発現細胞経路依存性を探索するためのHTP法であって、
a.宿主細胞にとって内因性である細胞経路標的遺伝子および異なる発現プロファイルを示す複数のプロモーターを含むプロモーターラダーを提供するステップ;
b.宿主細胞のゲノムを操作して、標的遺伝子に作動可能に連結されたプロモーターラダーに由来するプロモーターのユニークな組合せを含む個々の宿主細胞を含む複数の宿主細胞を含む初期プロモータースワップ宿主細胞ライブラリーを作出するステップ;ならびにc.目的の免疫グロブリンおよび/または宿主細胞の表現型特性について、初期プロモータースワップ宿主細胞ライブラリーの細胞をスクリーニングするステップ
を含む、方法。
2.宿主細胞が哺乳動物細胞である、実施形態1に記載の方法。
3.宿主細胞がマウス細胞である、実施形態1に記載の方法。
4.宿主細胞がチャイニーズハムスター卵巣細胞である、実施形態1に記載の方法。
5.標的遺伝子が、分泌、タンパク質輸送、ストレス、グリコシル化、アポトーシス、アンフォールディングされたタンパク質の応答、タンパク質のフォールディング、ER関連分解、および代謝からなる群から選択される細胞経路に由来する、実施形態1に記載の方法。
6.標的遺伝子が、SRP14、SRP9、SRP54、XBP-1、bcl-2、IGF1、COSMC、FUT8、BCL2、BAK、ATF6、PERK、IRE1α、BiP/GRP78(HSP70)、Dnajb9(ERdj4/HSP40)、およびLDHAからなる群から選択される、実施形態1に記載の方法。
7.プロモーターラダーが、CMV、EF1α、SV40、RSV、およびPGKからなる群から選択される少なくとも2つのプロモーターを含む、実施形態1に記載の方法。
8.プロモーターラダーが、配列番号1~5からなる群から選択される少なくとも2つのプロモーターを含む、実施形態1に記載の方法。
9.免疫グロブリンが、IgG、IgM、IgA、IgE、およびIgDからなる群から選択される、実施形態1に記載の方法。
10.免疫グロブリンが、IgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4からなる群から選択される、実施形態1に記載の方法。
11.宿主細胞のゲノムの操作が、CRISPR適合性エンドヌクレアーゼおよび関連するgRNAを使用して、標的遺伝子の上流で宿主細胞ゲノムを標的にし、切断することを含む、実施形態1に記載の方法。
12.宿主細胞のゲノムの操作が、CRISPR適合性エンドヌクレアーゼおよび関連するgRNAを使用して、標的遺伝子の上流で宿主細胞ゲノムを標的にし、切断すること、ならびに相同組換えによってプロモーターラダーに由来するプロモーターを挿入することを含む、実施形態1に記載の方法。
13.目的の免疫グロブリンの表現型特性についての初期プロモータースワップ宿主細胞ライブラリーの細胞をスクリーニングするステップが、目的の免疫グロブリンの力価、N末端切断、および/またはグリコシル化パターンを確認すること、または特徴付けることを含む、実施形態1に記載の方法。
14.宿主細胞の表現型特性についての初期プロモータースワップ宿主細胞ライブラリーの細胞をスクリーニングするステップが、細胞増殖、培養中の細胞生存能力のパターン、細胞密度、および1日あたり、細胞あたりに産生される免疫グロブリンの細胞比生産性を確認すること、または特徴付けることを含む、実施形態1に記載の方法。
15.1つより多い細胞経路標的遺伝子が提供される、実施形態1に記載の方法。
16.ステップa)~c)が繰り返される、実施形態1に記載の方法。
17.d.前記ステップにおいてスクリーニングされた少なくとも2つの個々の宿主細胞中に存在する遺伝的変異から選択される遺伝的変異のユニークな組合せをそれぞれ含む、その後の複数の宿主細胞を提供することによって、その後のプロモータースワップ宿主細胞ライブラリーを作出するステップ
をさらに含む、実施形態1に記載の方法。
18.d.前記ステップにおいてスクリーニングされた少なくとも2つの個々の宿主細胞中に存在する遺伝的変異から選択される遺伝的変異のユニークな組合せをそれぞれ含む、その後の複数の宿主細胞を提供することによって、その後のプロモータースワップ宿主細胞ライブラリーを作出するステップ;ならびに
e.目的の免疫グロブリンおよび/または宿主細胞の表現型特性について、その後のプロモータースワップ宿主細胞ライブラリーの個々の宿主細胞をスクリーニングするステップをさらに含む、実施形態1に記載の方法。
19.d.前記ステップにおいてスクリーニングされた少なくとも2つの個々の宿主細胞中に存在する遺伝的変異から選択される遺伝的変異のユニークな組合せをそれぞれ含む、その後の複数の宿主細胞を提供することによって、その後のプロモータースワップ宿主細胞ライブラリーを作出するステップ;
e.目的の免疫グロブリンおよび/または宿主細胞の表現型特性について、その後のプロモータースワップ宿主細胞ライブラリーの個々の宿主細胞をスクリーニングするステップ;ならびに
f.ステップd)~e)を1回または複数回繰り返すステップ
をさらに含む、実施形態1に記載の方法。
20.実施形態1に記載の方法によって誘導される、宿主細胞の集団。
21.目的の生成物の発現を改善するためのHTP法であって、
a.宿主細胞にとって内因性である細胞経路標的遺伝子および異なる発現プロファイルを示す複数のプロモーターを含むプロモーターラダーを提供するステップ;
b.宿主細胞のゲノムを操作して、標的遺伝子に作動可能に連結されたプロモーターラダーに由来する異なるプロモーターを含む個々の宿主細胞を含む複数の宿主細胞を含む初期プロモータースワップ宿主細胞ライブラリーを作出するステップ;ならびに
c.目的の生成物および/または宿主細胞の表現型特性について、初期プロモータースワップ宿主細胞ライブラリーの細胞をスクリーニングするステップ
を含む、方法。
22.宿主細胞が哺乳動物細胞である、実施形態21に記載の方法。
23.宿主細胞がマウス細胞である、実施形態21に記載の方法。
24.宿主細胞がチャイニーズハムスター卵巣細胞である、実施形態21に記載の方法。
25.標的遺伝子が、分泌、タンパク質輸送、ストレス応答、グリコシル化、アポトーシス、アンフォールディングされたタンパク質の応答、タンパク質フォールディング、ER関連分解、および代謝からなる群から選択される機能を有する分子をコードする、実施形態21に記載の方法。
26.標的遺伝子が、SRP14、SRP9、SRP54、XBP-1、bcl-2、IGF1、COSMC、FUT8、BCL2、BAK、ATF6、PERK、IRE1α、BiP/GRP78(HSP70)、Dnajb9(ERdj4/HSP40)、およびLDHAからなる群から選択される分子をコードする、実施形態21に記載の方法。
27.プロモーターラダーが、CMV、EF1α、SV40、RSV、およびPGKからなる群から選択される少なくとも2つのプロモーターを含む、実施形態21に記載の方法。
28.プロモーターラダーが、配列番号1~5からなる群から選択されるヌクレオチド配列を有する少なくとも2つのプロモーターを含む、実施形態21に記載の方法。
29.目的の生成物がタンパク質である、実施形態21に記載の方法。
30.目的の生成物が免疫グロブリンである、実施形態21に記載の方法。
31.目的の生成物が、IgG、IgM、IgA、IgE、およびIgDからなる群から選択される、実施形態21に記載の方法。
32.目的の生成物が、IgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4からなる群から選択される、実施形態21に記載の方法。
33.宿主細胞のゲノムの操作が、CRISPR適合性エンドヌクレアーゼおよび関連するgRNAを使用して、標的遺伝子の上流で宿主細胞ゲノムを標的にし、切断することを含む、実施形態21に記載の方法。
34.相同組換えによってプロモーターラダーに由来するプロモーターを挿入することをさらに含む、実施形態33に記載の方法。
35.目的の生成物の表現型特性についての初期プロモータースワップ宿主細胞ライブラリーの細胞をスクリーニングするステップが、目的の生成物の力価、N末端切断、および/またはグリコシル化パターンを確認すること、または特徴付けることを含む、実施形態21に記載の方法。
36.宿主細胞の表現型特性についての初期プロモータースワップ宿主細胞ライブラリーの細胞をスクリーニングするステップが、以下のもの:細胞増殖、培養中の細胞生存能力のパターン、細胞密度、および1日あたり、細胞あたりに産生される目的の生成物の細胞比生産性のうち1つまたは複数を確認すること、または特徴付けることを含む、実施形態21に記載の方法。
37.1つより多い細胞経路標的遺伝子が提供される、実施形態21に記載の方法。
38.ステップa)~c)が繰り返される、実施形態21に記載の方法。
39.d.前記ステップにおいてスクリーニングされた少なくとも2つの個々の宿主細胞中に存在する遺伝的変異から選択される遺伝的変異のユニークな組合せをそれぞれ含む、その後の複数の宿主細胞を提供することによって、その後のプロモータースワップ宿主細胞ライブラリーを作出するステップ
をさらに含む、実施形態21に記載の方法。
40.d.前記ステップにおいてスクリーニングされた少なくとも2つの個々の宿主細胞中に存在する遺伝的変異から選択される遺伝的変異のユニークな組合せをそれぞれ含む、その後の複数の宿主細胞を提供することによって、その後のプロモータースワップ宿主細胞ライブラリーを作出するステップ;ならびに
e.目的の生成物および/または宿主細胞の表現型特性について、その後のプロモータースワップ宿主細胞ライブラリーの個々の宿主細胞をスクリーニングするステップ
をさらに含む、実施形態21に記載の方法。
41.d.前記ステップにおいてスクリーニングされた少なくとも2つの個々の宿主細胞中に存在する遺伝的変異から選択される遺伝的変異のユニークな組合せをそれぞれ含む、その後の複数の宿主細胞を提供することによって、その後のプロモータースワップ宿主細胞ライブラリーを作出するステップ;
e.目的の生成物および/または宿主細胞の表現型特性について、その後のプロモータースワップ宿主細胞ライブラリーの個々の宿主細胞をスクリーニングするステップ;ならびに
f.ステップd)~e)を1回または複数回繰り返すステップ
をさらに含む、実施形態21に記載の方法。
42.実施形態21に記載の方法によって誘導される、宿主細胞の集団。
43.実施形態42における宿主細胞の集団に由来する宿主細胞によって産生される目的の生成物。
参照による組込み
【0348】
本明細書で引用される全ての参考文献、論文、刊行物、特許、特許公開、および特許出願は、あらゆる目的でその全体が参照により本明細書に組み込まれる。しかしながら、本明細書で引用される参考文献、論文、刊行物、特許、特許公開、および特許出願の記載は、それらが正当な先行技術を構成するか、または世界のいずれかの国における共通一般知識の一部を形成するとの承認または任意の形態の提言と取られず、また、取られるべきではない。この目的で、米国特許出願第15/396,230号(米国特許出願公開第2017/0159045A1号)、米国特許出願第15/140,296号(米国特許出願公開第2017/0316353A1号)、およびPCT/US2016/065464(WO2017/100376A2)は、全て参照により本明細書に組み込まれる。
本発明は、例えば、以下の項目を提供する。
(項目1)
免疫グロブリン発現を改善するためのHTP法であって、
a.宿主細胞にとって内因性である細胞経路標的遺伝子および異なる発現プロファイルを示す複数のプロモーターを含むプロモーターラダーを提供するステップ;
b.前記宿主細胞のゲノムを操作して、前記標的遺伝子に作動可能に連結された前記プロモーターラダーに由来する異なるプロモーターを含む個々の宿主細胞を含む複数の宿主細胞を含む初期プロモータースワップ宿主細胞ライブラリーを作出するステップ;ならびに
c.目的の免疫グロブリンおよび/または前記宿主細胞の表現型特性について、前記初期プロモータースワップ宿主細胞ライブラリーの細胞をスクリーニングするステップ
を含む、方法。
(項目2)
前記宿主細胞が哺乳動物細胞である、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記宿主細胞がマウス細胞である、項目1または2に記載の方法。
(項目4)
前記宿主細胞がチャイニーズハムスター卵巣細胞である、項目1から3のいずれか一項に記載の方法。
(項目5)
前記標的遺伝子が、分泌、タンパク質輸送、ストレス応答、グリコシル化、アポトーシス、アンフォールディングされたタンパク質の応答、タンパク質フォールディング、ER関連分解、および代謝からなる群から選択される機能を有する分子をコードする、項目1から4のいずれか一項に記載の方法。
(項目6)
前記標的遺伝子が、SRP14、SRP9、SRP54、XBP-1、bcl-2、IGF1、COSMC、FUT8、BCL2、BAK、ATF6、PERK、IRE1α、BiP/GRP78(HSP70)、Dnajb9(ERdj4/HSP40)、およびLDHAからなる群から選択される分子をコードする、項目1から5のいずれか一項に記載の方法。
(項目7)
前記プロモーターラダーが、CMV、EF1α、SV40、RSV、およびPGKからなる群から選択される少なくとも2つのプロモーターを含む、項目1から6のいずれか一項に記載の方法。
(項目8)
前記プロモーターラダーが、配列番号1~5からなる群から選択されるヌクレオチド配列を有する少なくとも2つのプロモーターを含む、項目1から7のいずれか一項に記載の方法。
(項目9)
前記免疫グロブリンが、IgG、IgM、IgA、IgE、およびIgDからなる群から選択される、項目1から8のいずれか一項に記載の方法。
(項目10)
前記免疫グロブリンが、IgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4からなる群から選択される、項目1から9のいずれか一項に記載の方法。
(項目11)
前記宿主細胞のゲノムの操作が、CRISPR適合性エンドヌクレアーゼおよび関連するgRNAを使用して、前記標的遺伝子の上流で前記宿主細胞ゲノムを標的にし、切断することを含む、項目1から10のいずれか一項に記載の方法。
(項目12)
相同組換えによって前記プロモーターラダーに由来するプロモーターを挿入することをさらに含む、項目11に記載の方法。
(項目13)
目的の免疫グロブリンの表現型特性についての前記初期プロモータースワップ宿主細胞ライブラリーの細胞をスクリーニングするステップが、前記目的の免疫グロブリンの力価、N末端切断、および/またはグリコシル化パターンを確認すること、または特徴付けることを含む、項目1から12のいずれか一項に記載の方法。
(項目14)
前記宿主細胞の表現型特性についての前記初期プロモータースワップ宿主細胞ライブラリーの細胞をスクリーニングするステップが、以下のもの:細胞増殖、培養中の細胞生存能力のパターン、細胞密度、および1日あたり、細胞あたりに産生される免役グロブリンの細胞比生産性のうち1つまたは複数を確認すること、または特徴付けることを含む、項目1から13のいずれか一項に記載の方法。
(項目15)
1つより多い細胞経路標的遺伝子が提供される、項目1から14のいずれか一項に記載の方法。
(項目16)
ステップa)~c)が繰り返される、項目1から15のいずれか一項に記載の方法。
(項目17)
d.前記ステップにおいてスクリーニングされた少なくとも2つの個々の宿主細胞中に存在する遺伝的変異から選択される遺伝的変異のユニークな組合せをそれぞれ含む、その後の複数の宿主細胞を提供することによって、その後のプロモータースワップ宿主細胞ライブラリーを作出するステップ
をさらに含む、項目1から16のいずれか一項に記載の方法。
(項目18)
d.前記ステップにおいてスクリーニングされた少なくとも2つの個々の宿主細胞中に存在する遺伝的変異から選択される遺伝的変異のユニークな組合せをそれぞれ含む、その後の複数の宿主細胞を提供することによって、その後のプロモータースワップ宿主細胞ライブラリーを作出するステップ;ならびに
e.目的の免疫グロブリンおよび/または前記宿主細胞の表現型特性について、前記その後のプロモータースワップ宿主細胞ライブラリーの個々の宿主細胞をスクリーニングするステップ
をさらに含む、項目1から16のいずれか一項に記載の方法。
(項目19)
d.前記ステップにおいてスクリーニングされた少なくとも2つの個々の宿主細胞中に存在する遺伝的変異から選択される遺伝的変異のユニークな組合せをそれぞれ含む、その後の複数の宿主細胞を提供することによって、その後のプロモータースワップ宿主細胞ライブラリーを作出するステップ;
e.目的の免疫グロブリンおよび/または前記宿主細胞の表現型特性について、前記その後のプロモータースワップ宿主細胞ライブラリーの個々の宿主細胞をスクリーニングするステップ;ならびに
f.ステップd)~e)を1回または複数回繰り返すステップ
をさらに含む、項目1から16のいずれか一項に記載の方法。
(項目20)
項目1から19のいずれか一項に記載の方法によって誘導される、宿主細胞の集団。
(項目21)
目的の生成物の発現を改善するためのHTP法であって、
a.宿主細胞にとって内因性である細胞経路標的遺伝子および異なる発現プロファイルを示す複数のプロモーターを含むプロモーターラダーを提供するステップ;
b.前記宿主細胞のゲノムを操作して、前記標的遺伝子に作動可能に連結された前記プロモーターラダーに由来する異なるプロモーターを含む個々の宿主細胞を含む複数の宿主細胞を含む初期プロモータースワップ宿主細胞ライブラリーを作出するステップ;ならびに
c.目的の生成物および/または前記宿主細胞の表現型特性について、前記初期プロモータースワップ宿主細胞ライブラリーの細胞をスクリーニングするステップ
を含む、方法。
(項目22)
前記宿主細胞が哺乳動物細胞である、項目21に記載の方法。
(項目23)
前記宿主細胞がマウス細胞である、項目21または22に記載の方法。
(項目24)
前記宿主細胞がチャイニーズハムスター卵巣細胞である、項目21から23のいずれか一項に記載の方法。
(項目25)
前記標的遺伝子が、分泌、タンパク質輸送、ストレス応答、グリコシル化、アポトーシス、アンフォールディングされたタンパク質の応答、タンパク質フォールディング、ER関連分解、および代謝からなる群から選択される機能を有する分子をコードする、項目21から24のいずれか一項に記載の方法。
(項目26)
前記標的遺伝子が、SRP14、SRP9、SRP54、XBP-1、bcl-2、IGF1、COSMC、FUT8、BCL2、BAK、ATF6、PERK、IRE1α、BiP/GRP78(HSP70)、Dnajb9(ERdj4/HSP40)、およびLDHAからなる群から選択される分子をコードする、項目21から25のいずれか一項に記載の方法。
(項目27)
前記プロモーターラダーが、CMV、EF1α、SV40、RSV、およびPGKからなる群から選択される少なくとも2つのプロモーターを含む、項目21から26のいずれか一項に記載の方法。
(項目28)
前記プロモーターラダーが、配列番号1~5からなる群から選択されるヌクレオチド配列を有する少なくとも2つのプロモーターを含む、項目21から27のいずれか一項に記載の方法。
(項目29)
前記目的の生成物がタンパク質である、項目21から28のいずれか一項に記載の方法。
(項目30)
前記目的の生成物が免疫グロブリンである、項目21から29のいずれか一項に記載の方法。
(項目31)
前記目的の生成物が、IgG、IgM、IgA、IgE、およびIgDからなる群から選択される、項目21から30のいずれか一項に記載の方法。
(項目32)
前記目的の生成物が、IgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4からなる群から選択される、項目21から31のいずれか一項に記載の方法。
(項目33)
前記宿主細胞のゲノムの操作が、CRISPR適合性エンドヌクレアーゼおよび関連するgRNAを使用して、前記標的遺伝子の上流で前記宿主細胞ゲノムを標的にし、切断することを含む、項目21から32のいずれか一項に記載の方法。
(項目34)
相同組換えによって前記プロモーターラダーに由来するプロモーターを挿入することをさらに含む、項目33に記載の方法。
(項目35)
目的の生成物の表現型特性についての前記初期プロモータースワップ宿主細胞ライブラリーの細胞をスクリーニングするステップが、前記目的の生成物の力価、N末端切断、および/またはグリコシル化パターンを確認すること、または特徴付けることを含む、実施形態21から34のいずれか一項に記載の方法。
(項目36)
前記宿主細胞の表現型特性についての前記初期プロモータースワップ宿主細胞ライブラリーの細胞をスクリーニングするステップが、以下のもの:細胞増殖、培養中の細胞生存能力のパターン、細胞密度、および1日あたり、細胞あたりに産生される目的の生成物の細胞比生産性のうち1つまたは複数を確認すること、または特徴付けることを含む、項目21から35のいずれか一項に記載の方法。
(項目37)
1つより多い細胞経路標的遺伝子が提供される、項目21から36のいずれか一項に記載の方法。
(項目38)
ステップa)~c)が繰り返される、項目21から37のいずれか一項に記載の方法。
(項目39)
d.前記ステップにおいてスクリーニングされた少なくとも2つの個々の宿主細胞中に存在する遺伝的変異から選択される遺伝的変異のユニークな組合せをそれぞれ含む、その後の複数の宿主細胞を提供することによって、その後のプロモータースワップ宿主細胞ライブラリーを作出するステップ
をさらに含む、項目21から38のいずれか一項に記載の方法。
(項目40)
d.前記ステップにおいてスクリーニングされた少なくとも2つの個々の宿主細胞中に存在する遺伝的変異から選択される遺伝的変異のユニークな組合せをそれぞれ含む、その後の複数の宿主細胞を提供することによって、その後のプロモータースワップ宿主細胞ライブラリーを作出するステップ;ならびに
e.目的の生成物および/または前記宿主細胞の表現型特性について、前記その後のプロモータースワップ宿主細胞ライブラリーの個々の宿主細胞をスクリーニングするステップ
をさらに含む、項目21から38のいずれか一項に記載の方法。
(項目41)
d.前記ステップにおいてスクリーニングされた少なくとも2つの個々の宿主細胞中に存在する遺伝的変異から選択される遺伝的変異のユニークな組合せをそれぞれ含む、その後の複数の宿主細胞を提供することによって、その後のプロモータースワップ宿主細胞ライブラリーを作出するステップ;
e.目的の生成物および/または前記宿主細胞の表現型特性について、前記その後のプロモータースワップ宿主細胞ライブラリーの個々の宿主細胞をスクリーニングするステップ;ならびに
f.ステップd)~e)を1回または複数回繰り返すステップ
をさらに含む、項目21から38のいずれか一項に記載の方法。
(項目42)
項目21から41のいずれか一項に記載の方法によって誘導される、宿主細胞の集団。