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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024102452
(43)【公開日】2024-07-31
(54)【発明の名称】地盤評価システム及び地盤評価方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 1/00 20060101AFI20240724BHJP
【FI】
E02D1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023006340
(22)【出願日】2023-01-19
(71)【出願人】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 寛
(74)【代理人】
【識別番号】100170818
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 秀輝
(72)【発明者】
【氏名】笹岡 里衣
(72)【発明者】
【氏名】岡本 道孝
【テーマコード(参考)】
2D043
【Fターム(参考)】
2D043AA09
2D043BA10
(57)【要約】
【課題】地震発生後に実施される健全性の評価のための情報を短時間で得る。
【解決手段】地盤評価システム1は、地盤8において地表面82を基準とする鉛直基準線83に沿った評価点81に作用する加速度及び速度の少なくとも一方である地盤の健全性を評価するための評価対象データD1を得るセンサ21と、評価対象データD1を用いて、地盤8を評価するための評価値データD2を得る情報処理装置4と、を備える。情報処理装置4は、評価対象データD1が含む加速度及び速度の水平方向の成分の少なくとも一方を用いて評価値データD2を得る評価値演算部41を有する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物が設けられた地盤を評価するための地盤評価システムであって、
前記地盤において地表面を基準とする第1鉛直基準線に沿った第1深度に設定される第1評価点に作用する加速度及び速度の少なくとも一方である前記地盤の健全性を評価するための第1評価対象データを得る第1センサと、
前記地盤において前記地表面を基準とする第2鉛直基準線に沿った前記第1深度とは異なる第2深度に設定される第2評価点に作用する加速度及び速度の少なくとも一方である第2評価対象データを得る第2センサと、
前記第1評価対象データ及び前記第2評価対象データを用いて、前記地盤を評価するための評価値を得る情報処理部と、を備え、
前記情報処理部は、前記第1評価対象データが含む加速度及び速度の水平方向の成分の少なくとも一方と、前記第2評価対象データが含む加速度及び速度の水平方向の成分の少なくとも一方と、を用いて前記評価値を得る評価値演算部を有する、地盤評価システム。
【請求項2】
前記評価値演算部は、前記第1評価対象データが含む加速度及び速度の鉛直方向の成分の少なくとも一方と、前記第2評価対象データが含む加速度及び速度の鉛直方向の成分の少なくとも一方と、を用いて、前記評価値を補正する、請求項1に記載の地盤評価システム。
【請求項3】
前記評価値演算部は、前記第1評価対象データと前記第2評価対象データとの相対値を得る、請求項1に記載の地盤評価システム。
【請求項4】
前記第1鉛直基準線に対して水平方向に離間する第2鉛直基準線に沿って互いに異なる深度で配置される第3センサ及び第4センサをさらに備える、請求項1に記載の地盤評価システム。
【請求項5】
構造物が設けられた地盤を評価するための地盤評価方法であって、
前記地盤において地表面を基準とする第1鉛直基準線に沿った第1深度に設定される第1評価点に作用する加速度及び速度の少なくとも一方である前記地盤の健全性を評価するための第1評価対象データを得る第1センサを設置するステップと、
前記地盤において前記地表面を基準とする第2鉛直基準線に沿った前記第1深度とは異なる第2深度に設定される第2評価点に作用する加速度及び速度の少なくとも一方である第2評価対象データを得る第2センサを設置するステップと、
前記第1評価対象データ及び前記第2評価対象データを用いて、前記地盤を評価するための評価値を得るステップと、を有し、
前記評価値を得るステップは、前記第1評価対象データが含む加速度及び速度の水平方向の成分の少なくとも一方と、前記第2評価対象データが含む加速度及び速度の水平方向の成分の少なくとも一方と、を用いて前記評価値を得る、地盤評価方法。
【請求項6】
前記第1センサを設置するステップ及び前記第2センサを設置するステップは、前記構造物の施工と並行して実施される、請求項5に記載の地盤評価方法。
【請求項7】
前記第1センサを設置するステップ及び前記第2センサを設置するステップは、前記構造物の施工が完了した後に実施される、請求項5に記載の地盤評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤評価システム及び地盤評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地震が発生した後、地盤の状態を評価したうえで、その評価結果に基づいて構造物の健全性を判定する。健全性の判定結果に応じて、構造物や地盤の補修や対策の要否を判断する。このような処理は、まず、評価対象データである地表面の加速度データを取得する。次に、評価対象データを用いた数値計算によりいくつかの評価値を得る。そして、評価値を用いて補修や対策の要否を判断する。
【0003】
非特許文献1は、エネルギーに基づく液状化評価方法を開示する。液状化が生じているか否かは、構造物の健全性を判定する指標のひとつである。この評価方法は、応力よりも直接的に液状化を支配する物理量として累積損失エネルギーに着目する。液状化の判定は、累積損失エネルギーと地震上昇エネルギーとを互いに比較することにより行われる。この文献に開示された方法によれば、発生したひずみ及び沈下量を簡易な計算によって得ることができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】國生剛治、エネルギーに基づく液状化評価方法による発生ひずみ・沈下量の簡易計算と既往事例への適用、地盤工学ジャーナル、日本、公益社団法人地盤工学会、2020年12月31日、15巻、4号、pp683-695。
【非特許文献2】公益社団法人地盤工学会、「地盤工学・基礎理論シリーズ2 地盤の動的解析―基礎理論から応用まで―」、日本、公益社団法人地盤工学会、2007年2月28日。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
構造物の健全性の確認は、地震発生後に即座に確認することが重要である。つまり、地震発生後に実施される健全性の評価のための情報は、短時間で得ることが望まれる。
【0006】
非特許文献2に開示された有効応力解析といった手法は、比較的精度の高い結果が得られる。その一方で、計算ステップが煩雑であること、計算に利用する解析ソフトウェアの取り扱いに専門的な知識や技術を要すること、計算負荷が高く計算時間及び費用を要すること、といった課題が存在する。これらの要因によって、地震発生後に速やかに健全性の評価のための情報を得ることが難しく、即時評価として最適な手法とは言い難い。
【0007】
そこで、本発明は、地震発生後に実施される健全性の評価のための情報を短時間で得ることが可能な地盤評価システム及び地盤評価方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一形態は、構造物が設けられた地盤を評価するための地盤評価システムであって、地盤において地表面を基準とする第1鉛直基準線に沿った第1深度に設定される第1評価点に作用する加速度及び速度の少なくとも一方である地盤の健全性を評価するための第1評価対象データを得る第1センサと、地盤において地表面を基準とする第2鉛直基準線に沿った第1深度とは異なる第2深度に設定される第2評価点に作用する加速度及び速度の少なくとも一方である第2評価対象データを得る第2センサと、第1評価対象データ及び第2評価対象データを用いて、地盤を評価するための評価値を得る情報処理部と、を備え、情報処理部は、第1評価対象データが含む加速度及び速度の水平方向の成分の少なくとも一方と、第2評価対象データが含む加速度及び速度の水平方向の成分の少なくとも一方と、を用いて評価値を得る評価値演算部を有する。
【0009】
地盤評価システムは、評価対象データを演算によらず、第1センサ及び第2センサによって評価点ごとに直接に得る。従って、地盤評価システムは、構造物の健全性の確認に要する情報を、簡易な計算によって短時間に得ることができる。
【0010】
上記の地盤評価システムの評価値演算部は、第1評価対象データが含む加速度及び速度の鉛直方向の成分の少なくとも一方と、第2評価対象データが含む加速度及び速度の鉛直方向の成分の少なくとも一方と、を用いて、評価値を補正してもよい。この構成によれば、評価値の精度を高めることができる。
【0011】
上記の地盤評価システムの評価値演算部は、第1評価対象データと第2評価対象データとの相対値を得てもよい。この構成によっても、健全性の評価のための情報を短時間で得ることができる。
【0012】
上記の地盤評価システムの第1鉛直基準線に対して水平方向に離間する第2鉛直基準線に沿って互いに異なる深度で配置される第3センサ及び第4センサをさらに備えてもよい。この構成によっても、健全性の評価のための情報を短時間で得ることができる。
【0013】
本発明の別の形態は、構造物が設けられた地盤を評価するための地盤評価方法であって、地盤において地表面を基準とする第1鉛直基準線に沿った第1深度に設定される第1評価点に作用する加速度及び速度の少なくとも一方である地盤の健全性を評価するための第1評価対象データを得る第1センサを設置するステップと、地盤において地表面を基準とする第2鉛直基準線に沿った第1深度とは異なる第2深度に設定される第2評価点に作用する加速度及び速度の少なくとも一方である第2評価対象データを得る第2センサを設置するステップと、第1評価対象データ及び第2評価対象データを用いて、地盤を評価するための評価値を得るステップと、を有し、評価値を得るステップは、第1評価対象データが含む加速度及び速度の水平方向の成分の少なくとも一方と、第2評価対象データが含む加速度及び速度の水平方向の成分の少なくとも一方と、を用いて評価値を得る。
【0014】
上記の地盤評価方法において、第1センサを設置するステップ及び第2センサを設置するステップは、構造物の施工と並行して実施されてもよい。
【0015】
上記の地盤評価方法において、第1センサを設置するステップ及び第2センサを設置するステップは、構造物の施工が完了した後に実施されてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、地震発生後に実施される健全性の評価のための情報を短時間で得ることが可能な地盤評価システム及び地盤評価方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、実施形態の地盤評価システムの構成を示す概略図である。
図2図2は、地盤に配置したセンサを示す図である。
図3図3(a)は構造物である盛土にセンサユニットを配置した例を示す図である。図3(b)は構造物である建物の基礎杭の周囲にセンサユニットを配置した例を示す図である。
図4図4は、図1に示す地盤評価システムが備える情報処理装置を構成するコンピュータを説明するための図である。
図5図5は、図1に示す地盤評価システムが備える情報処理装置の構成を示す機能ブロック図である。
図6図6は、地盤評価方法の主要なステップを示すフロー図である。
図7図7は、比較例の地盤評価システムを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照しながら本発明を実施するための形態を詳細に説明する。図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0019】
図1に示すように、地盤評価システム1は、構造物9が設けられた地盤8を評価する。地盤8の評価の結果に基づいて、構造物9の健全性を知ることができる。構造物9の健全性とは、構造物9の安全性を確保するために、構造物9又は地盤8の補修工事が必要か否かという観点から定義してもよい。例えば、地盤8に地震が作用したとき、地盤8には液状化や沈下といった種々の変化が生じる。これらの変化の度合いによっては、構造物9の安全性が確保できなくなるので、構造物9又は地盤8の補修工事を要する。地盤評価システム1は、この補修工事を要するか否かを判断するための情報(判定結果データD4)をユーザ93に提供する。
【0020】
地盤評価システム1は、センサユニット2と、情報収集装置3と、情報処理装置4と、を有する。センサユニット2は、地盤8に埋め込まれている。センサユニット2は、評価対象データD1を取得する。さらに、センサユニット2は、取得した評価対象データD1を情報収集装置3に出力する。情報収集装置3は、評価対象データD1を一時的に保存する。情報収集装置3は、評価対象データD1を情報処理装置4に出力する。情報処理装置4は、評価対象データD1を用いて、ユーザ93に対して判定結果データD4を提供する。情報処理装置4は、広義の情報処理部である。
【0021】
なお、情報収集装置3は、必要に応じて省略してもよい。この場合には、情報処理装置4は、情報収集装置3の機能を代替することとしてもよい。
【0022】
センサユニット2は、構造物9の下部における地盤8に埋め込まれている。地盤8には、評価領域80が設定される。評価領域80は、地盤評価システム1によって評価される領域を定義する。評価領域80は、複数の評価点81(第1評価点、第2評価点)を含む。評価点81は、初期状態において評価対象データD1を取得する具体的な位置を定義する。
【0023】
複数の評価点81のそれぞれには、センサ21(第1センサ、第2センサ、第3センサ、第4センサ)が配置される。つまり、センサ21は、配置された評価点81における評価対象データD1を得る。評価対象データD1は、加速度データ及び速度データの少なくとも一方である。また、それぞれのデータは、少なくとも水平方向Xの成分を含む。水平方向Xの成分は、第1軸(X軸)に沿う成分のみであってもよいし、第1軸に沿う成分と第1軸に直交する第2軸(Y軸)に沿う成分の2つを含んでもよい。さらに、それぞれのデータは、鉛直方向Zの成分を含む(Z軸)。加速度の鉛直方向Zの成分を積分することによって、センサ21の鉛直方向Zの変位を得ることができる。センサ21の鉛直方向Zの変位は、後述する理論式に用いる変数を精度よく補正できる。
【0024】
評価対象データD1が加速度であるとき、センサ21は、加速度計である。加速度計は、機械式加速度計であってもよいし、光ファイバを用いた光学式加速度計であってもよい。加速度計は、1つの水平方向Xの加速度成分と1つの鉛直方向Zの加速度成分とを取得可能な二軸加速度計であってもよい。また、加速度計は、水平方向Xの加速度成分と水平方向Yの加速度成分と鉛直方向Zの成分とを取得可能な三軸加速度計であってもよい。
【0025】
地盤評価システム1が長周期の地震が地盤8に与える影響を評価するものである場合には、センサ21は、加速度計に代えて速度計であってもよい。また、センサ21は、加速度と速度とを取得可能な計測器であってもよい。
【0026】
センサ21は、評価点81に入力された地震波に起因する評価点81の応答を取得する。つまり、評価点81における加速度及び/又は速度を取得する。センサ21は、評価点81における加速度及び/又は速度の情報を情報収集装置3に出力し続ける。
【0027】
図2に示すように、センサ21は、鉛直方向Zに沿う3つの鉛直基準線83(第1鉛直基準線、第2鉛直基準線)に沿って設置される。互いに隣り合う鉛直基準線83の間隔は、互いに同じであってもよい。図2の例示では、それぞれの鉛直基準線83に沿って3個のセンサ21が設置されている。なお、1つの鉛直基準線83に設置されるセンサ21の数は、3個に限定されない。地盤評価システム1は、少なくとも1つの鉛直基準線83を含み、その鉛直基準線83に沿って少なくとも2個のセンサ21が設置されていればよい。センサ21の間隔(スパン)は、図2に図示するように等間隔に配置されてもよい。センサ21の鉛直方向Zにおける間隔は、例えば0.5mから1.0mとしてよい。センサ21に間隔を短く設置することにより、より精度の高い結果を得ることができる。なお、センサ21の間隔は、等間隔でなくてもよい。例えば、評価領域80の力学特性の分布に応じて、センサ21の配置に粗密を設けてもよい。
【0028】
また、センサ21は、地盤8の上に設けられた構造物9に応じて、その配置を決定してもよい。構造物9として、盛土91(図3(a)参照)や、建物92(図3(b)参照)が例示できる。構造物9が盛土91である場合には、原地盤(地表面82)よりも高い位置の盛土91の内部にも複数のセンサ21を設置してもよい。また、構造物9が建物92であって健全性の評価対象が建物92の基礎杭921である場合には、基礎杭921が延びる鉛直方向Zに沿って複数のセンサ21を設置してもよい。
【0029】
再び図1に示すように、情報収集装置3は、センサユニット2に接続されている。情報収集装置3とセンサユニット2との接続構成は、特に制限はない。例えば、情報収集装置3とセンサユニット2とは、有線接続されてもよい。つまり、情報収集装置3とセンサユニット2とは、通信ケーブルによって直接に接続されてもよい。また、情報収集装置3とセンサユニット2とは、無線接続されてもよい。つまり、情報収集装置3とセンサユニット2とは、WIFIといった無線通信手段によって接続されてもよい。さらに、情報収集装置3とセンサユニット2とは、有線及び無線の組み合わせによって接続されてもよい。つまり、センサ21から延びる通信ケーブルの先端は、地表面82に設置された中継器に接続され、当該中継器から情報収集装置3は、インターネットなどの通信網を介して接続されてもよい。
【0030】
情報収集装置3は、センサユニット2から連続的に送信されてくる評価対象データD1を記録し続ける。例えば、情報収集装置3は、あらかじめ定められた記憶領域に上書きを繰り返しながら評価対象データD1を記録し続けるものであってよい。この場合には、情報収集装置3は、記憶領域の大きさに応じて決まる所定期間の評価対象データD1を保持することができる。そして、情報収集装置3は、入力された評価対象データD1が条件を満たしたときに、上書きの繰り返しを停止し、評価対象データD1が条件を満たしたときを基準とする所定期間の評価対象データD1を保持する。そして、情報収集装置3は、所定期間の評価対象データD1を情報処理装置4に送信する。情報収集装置3から情報処理装置4への評価対象データD1の送信は、情報収集装置3の能動的な動作であってもよいし、情報処理装置4から送信された命令に従う受動的な動作であってもよい。
【0031】
情報処理装置4は、評価対象データD1を利用して判定結果データD4を得る。そして、情報処理装置4は、判定結果データD4をユーザ93に提示する。情報処理装置4は、コンピュータが所定のプログラムを実行することによって実現される。図4は、実施形態に係る地盤評価システム1の情報処理装置4を構成するコンピュータ400のハードウェア構成の一例を示す図である。
【0032】
一例として、コンピュータ400はハードウェア構成要素として、プロセッサ401と、主記憶部402と、補助記憶部403と、通信制御部404と、を備える。なお、コンピュータ400は、さらに付加的な構成要素を備えてもよい。例えば、コンピュータ400は、入力操作を受け付ける入力部405と、処理結果を出力する出力部406と、を備えてもよい。
【0033】
プロセッサ401は、オペレーティングシステム及びアプリケーションプログラムを実行する演算装置である。プロセッサの例としてCPU(Central Processing Unit)及びGPU(Graphics Processing Unit)が挙げられるが、プロセッサ401の種類はこれらに限定されない。例えば、プロセッサ401はセンサ及び専用回路の組み合わせでもよい。専用回路はFPGA(Field-Programmable Gate Array)のようなプログラム可能な回路でもよいし、他の種類の回路でもよい。
【0034】
主記憶部402は、地盤評価システム1の情報処理装置4等を実現するためのプログラム、プロセッサ401から出力された演算結果などを記憶する装置である。主記憶部402は例えばROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)のうちの少なくとも一つにより構成される。
【0035】
補助記憶部403は、一般に主記憶部402よりも大量のデータを記憶することが可能な装置である。補助記憶部403は例えばハードディスク、フラッシュメモリなどの不揮発性記憶媒体によって構成される。補助記憶部403は、コンピュータ400を地盤評価システム1の情報処理装置4等として機能させるためのプログラムP1と各種のデータとを記憶する。本実施形態では、地盤評価システム1の情報処理装置4を実現させる地盤評価プログラムはプログラムP1として実装される。
【0036】
通信制御部404は、通信ネットワークを介して他のコンピュータとの間でデータ通信を実行する装置である。通信制御部404は例えばネットワークカード又は無線通信モジュールにより構成される。
【0037】
図5に示すように情報処理装置4は、機能的な構成要素として、評価値演算部41と、評価値判定部42と、健全性判定部43と、を含む。評価値演算部41及び評価値判定部42は、狭義の情報処理部を構成する。これらの機能的な構成要素は、プロセッサ401によってプログラムが実行されることにより実現される。さらに、情報処理装置4は、主記憶部402と、出力部406と、を含む。なお、図5では、図4に示した通信制御部404、入力部405の図示は省略している。
【0038】
評価値演算部41は、評価対象データD1を受け入れる。評価値演算部41は、評価対象データD1を用いて第1評価値D21と、第2評価値D22と、第3評価値D23と、第4評価値D24と、を算出する。評価値演算部41は、第1評価値D21、第2評価値D22、第3評価値D23及び第4評価値D24を評価値判定部42に出力する。例えば、第1評価値D21は、せん断応力である。第2評価値D22は、せん断ひずみである。第2評価値D22は、沈下量である。第4評価値D24は、上昇波エネルギーである。なお、評価値演算部41は、そのほかの物理量を評価値として採用してもよい。また、評価値演算部41は、第1評価値D21、第2評価値D22、第3評価値D23及び第4評価値D24の少なくとも一つを生成及び出力するものであってよい。
【0039】
評価値演算部41は、前処理部410と、せん断応力算出部411と、せん断ひずみ算出部412と、沈下量算出部413と、上昇波エネルギー算出部414と、を有する。
【0040】
前処理部410は、式(1)及び式(2)を用いて、評価対象データD1が含む加速度を速度及び変位に変換する。要するに、前処理部410は、積分演算を行う。
【数1】

i-1の2ドット:評価点81(i-1)の水平方向の加速度成分(第1評価対象データ)。
の2ドット:評価点81(i)の水平方向の加速度成分(第2評価対象データ)。
i-1の1ドット:評価点81(i-1)の水平方向の速度成分(第1評価対象データ)。
の1ドット:評価点81(i)の水平方向の速度成分(第2評価対象データ)。
i-1:評価点81評価点(i-1)の水平方向の変位(第1評価対象データ)。
:評価点81(i)の水平方向の変位(第2評価対象データ)。
【数2】

i-1の2ドット:評価点81(i-1)の鉛直方向Zの加速度成分。
の2ドット:評価点81(i)の鉛直方向Zの加速度成分。
i-1の1ドット:評価点81(i-1)の鉛直方向Zの速度成分。
の1ドット:評価点81(i)の鉛直方向Zの速度成分。
i-1:評価点81(i-1)の鉛直方向Zの深度。
:評価点81(i)の鉛直方向Zの深度。
【0041】
せん断応力算出部411は、下記式(3)を用いてせん断応力を得る。
【数3】

τ:評価点81(i)のせん断応力。
τi-1:評価点81(i-1)のせん断応力。
ρ:地盤8の密度。
i-1の2ドット:評価点81(i-1)の水平方向の加速度成分。
の2ドット:評価点81(i)の水平方向の加速度成分。
i-1:評価点81(i-1)の鉛直方向Zの深度。
:評価点81(i)の鉛直方向Zの深度。
【0042】
地盤8の密度(ρ)は、あらかじめ実施される地盤8の土質調査により得て、主記憶部402に保存されている。せん断応力算出部411は、主記憶部402から地盤8の密度(ρ)を読み出す。せん断応力算出部411は、前処理部410から評価点81(i-1)の水平方向の加速度成分、評価点81(i)の水平方向の加速度成分を受ける。また、せん断応力算出部411は、前処理部410から地盤8の評価点81(i-1)の鉛直方向Zの深度及び評価点81(i)の鉛直方向Zの深度を受ける。
【0043】
右辺第2項の分子は、評価点81(i-1)の水平方向の加速度成分と評価点81(i)の水平方向の加速度成分との相対値である。さらに、右辺第2項(Zi-1-Z)は、評価点81(i-1)の鉛直方向Zの深度と評価点81(i)の鉛直方向Zの深度との差分である。つまり、評価点81(i-1)と評価点81(i)との間の鉛直方向Zに沿った相対的な距離である。なお、右辺第2項(Zi-1-Z)は、一定値として扱ってもよいが、評価点81(i-1)と評価点81(i)との間の鉛直方向に沿った相対的な距離とすることによって、せん断応力(τ)の精度を高めることができる。
【0044】
せん断ひずみ算出部412は、下記式(4)を用いてせん断ひずみを得る。
【数4】

γ:評価点81(i)のせん断ひずみ。
i-1:評価点81(i-1)の水平方向の変位。
:評価点81(i)の水平方向の変位。
i-1:評価点81(i-1)の鉛直方向Zの深度。
:評価点81(i)の鉛直方向Zの深度。
【0045】
せん断ひずみ算出部412は、前処理部410から地盤8の評価点81(i-1)の水平方向の変位及び評価点81(i)の水平方向の変位を受ける。さらに、せん断ひずみ算出部412は、前処理部410から地盤8の評価点81(i-1)の鉛直方向Zの深度及び評価点81(i)の鉛直方向Zの深度を受ける。
【0046】
つまり、右辺第1項の分子は、評価点81(i-1)の変位と評価点81(i)の変位との相対値である。さらに、右辺第1項の分母は、評価点81(i-1)から評価点81(i)までの鉛直方向に沿った相対的な距離である。なお、せん断応力算出部411と同様に、右辺第1項の分母は、一定値として扱ってもよいが、評価点81(i-1)から評価点81(i)までの鉛直方向に沿った相対的な距離とすることによって、せん断ひずみ(γ)の精度を高めることができる。
【0047】
沈下量算出部413は、例えば、非特許文献1に開示されている手法に基づき、下記式(5)を用いて沈下量(5)を得てもよい。
【数5】

ε、(εγmax=20%:体積ひずみ。
:基準化N値。ボーリング調査又は粒度特性などの物理試験から推定する。
:細粒分含有率。粒度試験などの物理試験から推定する。
:礫分含有率。粒度試験などの物理試験から推定する。
H:液状化層厚。
S:沈下量。
【0048】
なお、対象地盤のサンプリング試料を用いた三軸試験などからせん断ひずみ(γ)及び体積ひずみ(εV)の関係が得られている場合には、その試験結果を用いてもよい。
【0049】
上昇波エネルギー算出部414は、下記式(6)を用いて上昇波エネルギーを得る。
【数6】

uf:上昇波エネルギー。
t:時間。
ρ:地盤8の密度。
:せん断波速度。
:評価点81(i)の水平方向の変位。
【0050】
上昇波エネルギー算出部414は、前処理部410から地盤8の評価点81(i)の水平方向の変位を受ける。さらに、上昇波エネルギー算出部414は、主記憶部402から地盤8の密度(ρ)及びせん断波速度(V)を受ける。
【0051】
評価値判定部42は、評価値演算部41から第1評価値D21(せん断応力)と、第2評価値D22(せん断ひずみ)と、第3評価値D23(沈下量)と、第4評価値D24(上昇波エネルギー)とを受ける。評価値判定部42は、評価値データD2を判定する。評価値データD2の判定とは、地盤8の損傷が生じているか否かの判定である。また、評価値データD2の判定とは、液状化が生じているか否かの判定である。従って、評価値判定部42が出力する評価結果データD3は、「損傷が生じている」又は「損傷が生じていない」のいずれか一方を示す。さらに、評価結果データD3は、「液状化が生じている」又は「液状化が生じていない」のいずれか一方を示す。
【0052】
つまり、評価値判定部42は、地盤8に関する評価を行う。従って、評価値データD2は、地盤8に関する評価結果を示すものであり、構造物9の健全性そのものを示すデータではない。構造物9の健全性は、健全性判定部43によって判断する。
【0053】
評価値データD2の判定のための条件は、地盤評価システム1が適用される具体的な場面に応じて、適宜設定してよい。地盤8の損傷が生じているか否かの判定条件として、「設計せん断強度(τ)<最大せん断応力(τ)」が例示できる。さらには、判定条件として、サンプリング試料の力学試験から得られる地盤材料のせん断強度τとの比較である「地盤のせん断強度(τ)<最大せん断応力(τ)」も例示できる。液状化が生じているか否かの判定条件として、例えば「最大せん断ひずみ(γ)>3.75%」又は「累積エネルギー比>1」が例示できる。これらの条件のいずれを用いるかについては、適宜選択してよい。これらの条件は、主記憶部402にあらかじめ保存されている。評価値判定部42は、評価値データD2に応じた条件を主記憶部402から読み出し、判定処理を実行する。
【0054】
健全性判定部43は、評価値判定部42から評価結果データD3を受ける。健全性判定部43は、評価結果データD3が「損傷あり」且つ「液状化あり」である場合、「損傷あり」且つ「液状化なし」である場合、「損傷なし」及び「液状化あり」である場合に、「補修工事を要する(健全性の問題あり)」との結果を出力する。つまり、健全性判定部43は、構造物9の健全性に問題が生じていると判定し、判定結果データD4を出力する。その場合には、健全性判定部43は、ユーザ93に対して地盤8に補修工事を要する程度の問題が生じていることを出力部406に提示させる。
【0055】
健全性判定部43は、評価結果データD3が「損傷なし」且つ「液状化なし」である場合に、「補修工事を要しない(健全性の問題なし)」との結果を出力する。つまり、健全性判定部43は、構造物9の健全性に問題が生じていないと判定し、判定結果データD4を出力する。その場合には、ユーザ93に対して地盤8に補修工事を要する程度の問題は生じていないことを出力部406に提示させる。
【0056】
健全性判定部43は、「被害あり」、「被害なし」の情報のほかに、補修工事の要否を判断するための情報を、判定結果データD4に含めてもよい。この場合には、健全性判定部43は、評価値演算部41から受けた各種の評価値を所望の形式に整える処理を実行する。健全性判定部43は、例えば、せん断ひずみ又はせん断応力の分布をコンター図の形式に整える処理を実行してもよい。さらに、せん断応力のコンター図を用いて破壊余裕度コンター図を得ることもできる。破壊余裕度コンター図において、破壊余裕度が1を上回った範囲に破壊が生じたと判断することができる。そのうえ、コンター図によれば、破壊の範囲を確定できるので、補修工事の範囲を必要最小限とすることができ、補修工事の時間短縮や費用削減に寄与することができる。そして、健全性判定部43は、可視化した情報をユーザ93に提示してもよい。ユーザ93は、コンター図に示されたせん断ひずみの分布を見て、補修工事の要否を判断してよい。つまり、実施形態の地盤評価システム1は、地盤内のせん断応力可視化システムということもできるし、地盤内のせん断ひずみ可視化システムということもできる。
【0057】
つまり、地盤評価システム1は、構造物9の健全性に問題が生じているか否かを直接に示す情報及び構造物9の健全性に問題が生じているか否かをユーザ93が判断するための情報の少なくとも一方を出力する。
【0058】
次に、地盤評価システム1を用いた地盤評価方法を説明する。図6は、地盤評価方法の主要なステップを示すフロー図である。地盤評価方法は、センサユニット2を設置するステップS11と、土質試料の特性を評価するステップS12と、評価対象データD1を用意するステップS13と、評価値データD2を得るステップS2と、評価値データD2を判定するステップS3と、健全性を判定するステップS4と、を有する。
【0059】
まず、センサユニット2を設置するステップS11を実施する。ステップS11は、構造物9の施工と並行して行われてもよい。また、ステップS11は、すでに施工された構造物9に対して事後的に設けられてもよい。センサユニット2を事後的に設ける場合には、例えば曲がりボーリング削孔法を利用することにより、それぞれの評価点81にセンサ21を設置することができる。
【0060】
土質試料の特性を評価するステップS12を実施する。このステップS12では、原位置試料の物理特性及び力学特性を得る。まず、センサユニット2を施工する深度と同深度の現地試料をサンプリングする。そして、三軸試験などにより、物理特性及び力学特性を得る。これらの特性としては、密度や粒度特性、剛性が挙げられる。得られた情報は、主記憶部402に保存される。物理特性及び力学特性を利用することにより、地盤8の損傷の程度に加えて、液状化の判定も可能となる。
【0061】
次に、評価対象データD1を用意するステップS13を実施する。このステップS13は、情報収集装置3及び情報処理装置4によって実行される。条件を満たす評価対象データD1が入力されたとき、情報収集装置3は情報処理装置4に所定期間の評価対象データD1を渡す。情報収集装置3は、評価対象データD1を主記憶部402或いは補助記憶部403に保存する。
【0062】
次に、評価対象データD1を用意するステップS2を実施する。このステップS2は、評価値演算部41によって実行される。評価対象データD1を用意するステップS2は、換言すると式(1)~(6)等に示す理論式を用いて評価値データD2を得るステップS21を含む。ステップS21の結果、評価値演算部41は、評価値データD2を出力する(ステップS22)。評価値データD2は、例えば、第1評価値D21(せん断応力)と、第2評価値D22(せん断ひずみ)と、第3評価値D23(沈下量)と、第4評価値D24(上昇波エネルギー)と、を含む。
【0063】
次に、評価値データD2を判定するステップS3を実行する。このステップS3は、評価値判定部42によって実行される。例えば、評価値判定部42は、第1評価値D21(せん断応力)を設計値と比較すると共に、第2評価値D22(せん断ひずみ)を設計値と比較する(ステップS31)。その結果、「損傷あり」又は「損傷なし」のいずれかの結果D31を得る。また、評価値判定部42は、エネルギー法に基づく液状化の判定を行う(ステップS32)。その結果、「液状化あり」又は「液状化なし」のいずれかの結果D31を得る。ステップS3の結果、結果D31、D32を含む評価結果データD3が得られる。
【0064】
次に、健全性を判定するステップS4を実施する。このステップS4は、健全性判定部43によって実行される。健全性判定部43は、評価結果データD3が下記の条件を満たす場合には、補修工事が必要な被害が地盤8に生じている(健全性に問題がある)ことを示す判定結果データD41を出力する(ステップS41:YES)。そして、地盤8に対して必要な補修又は対策が施される(ステップS42)。
条件1:評価結果データD3が「損傷あり」且つ「液状化あり」である場合。
条件2:評価結果データD3が「損傷あり」且つ「液状化なし」である場合。
条件3:評価結果データD3が「損傷なし」且つ「液状化あり」である場合。
【0065】
一方、評価結果データD3が上記の条件を満たさない場合、換言すると下記の条件を満たす場合には、補修工事が必要な被害が地盤8に生じていない(健全性に問題はない)ことを示す判定結果データD42を出力する(ステップS41:NO)。この場合には、地盤評価方法を終了する。
条件4:評価結果データD3が「損傷なし」且つ「液状化なし」である場合。
【0066】
まず、比較例の地盤評価システムを簡単に説明した後に、本実施形態の地盤評価システム1についてその違いに注目しながら説明する。
【0067】
図7は、比較例の地盤評価システム6の機能ブロック図である。比較例の地盤評価システム6は、地表面センサ62と、情報収集装置63と、情報処理装置64と、を有する。
【0068】
比較例の地盤評価システム6は、地表面センサ62が地表面82に配置されている点で実施形態の地盤評価システム1と異なる。つまり、比較例の地盤評価システム6は、地盤8の内部に設定された評価点81における評価対象データを直接に計測しない。比較例の地盤評価システム6は、地盤8の内部に設定された評価点81における評価対象データD642を推定する。
【0069】
比較例の地盤評価システム6は、地表面センサ62が受けた情報を用いて、評価点81に入力された加速度、速度及び変位を入力値推定部641によって推定する。入力値推定部641は、地表面センサ62が受けた情報を入力値として評価点81ごとの加速度、速度及び変位(データD641)を出力とする数値モデルM641を用いて、推定演算を行う。
【0070】
次に、比較例の地盤評価システム6は、評価点81ごとに推定された加速度、速度及び変位(データD641)を入力として、評価領域80の応答を推定する。この推定によって、推定された評価対象データD642を得る。この推定には、評価点81ごとの入力(加速度、速度及び変位(データD641))と、評価領域80を力学的に模擬する数値モデルM642を要する。
【0071】
つまり、比較例の地盤評価システム6は、実施形態の地盤評価システム1が直接計測により得る評価対象データD1を、少なくとも2回の推定演算によって推定値である評価対象データD642として得る。数値モデルM641が表す評価領域の態様は、実際の評価領域80の態様と完全に一致することはない。数値モデルM641は、潜在的にある程度の実際のものとの差異を含む。さらに、評価領域80を力学的に模擬する数値モデルM642は、いくつかの変数を含む。変数には、密度や剛性といったものが挙げられる。数値モデルM642を用いた推定には、これらの変数に対してある決まった数値を入力する必要がある。この数値は、実測した結果を用いた場合であっても、実際の評価領域80の態様と完全に一致することはない。
【0072】
さらに、これらの数値モデルM641、M642を用いた推定演算は、高度な演算である。従って、結果を得るためには、多量の計算パワーを要する。つまり、結果を得るためには、時間と費用とを要する。
【0073】
これに対して、実施形態の地盤評価システム1は、地盤8において地表面82を基準とする鉛直基準線83に沿った評価点81に作用する加速度及び速度の少なくとも一方である地盤8の健全性を評価するための評価対象データD1を得るセンサ21と、評価対象データD1を用いて、地盤8を評価するための評価値データD2を得る情報処理装置4と、を備える。情報処理装置4は、評価対象データD1が含む加速度及び速度の水平方向の成分の少なくとも一方を用いて評価値データD2を得る評価値演算部41を有する。
【0074】
実施形態の地盤評価システム1及び地盤評価方法は、評価点81ごとに評価対象データD1を演算によらず、センサユニット2によって直接に得る。さらに、センサユニット2から得た評価対象データD1から評価値データD2を得るための演算は、数値モデルを用いた演算のように負荷の高い繰り返し収束演算によらず、負荷の軽い演算によって得ることができる。従って、実施形態の地盤評価システム1は、地盤評価に要する情報を簡易な計算によって、短時間に得ることができる。
【0075】
さらに、実施形態の地盤評価システム1は、地震の計測データ(評価対象データD1)を用いるので、地盤8の内部に生じたせん断応力やせん断ひずみを直接に得ることができる。また、実施形態の地盤評価システム1は、地盤8の内部における液状化発生の有無や損傷の程度を、簡易な演算によって評価することが可能であるから、迅速かつ低コストで得ることができる。実施形態の地盤評価システム1は、地盤8の健全性が実測値によって証明できるので、損傷しなかったと判断された構造物9を地震後に直ちに使用開始することもできる。実施形態の地盤評価システム1は、解析による計算値ではなく、実測値によって構造物9の損傷の有無を直接に確認できる。実施形態の地盤評価システム1で得た結果は、比較例の地盤評価システム6によって得た結果の妥当性を評価するために用いることもできる。そして、観測結果から設計の内容を高精度化することができる。実施形態の地盤評価システム1は、損傷具合や損傷範囲を特定することができるので、補修工事の合理化に有利である。
【0076】
本発明である地盤評価システム及び地盤評価方法は、前述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【0077】
実施形態では、評価対象データD1として、加速度及び/又は速度を例示した。評価値の演算は、加速度、速度及び変位のいずれかの一つの情報があれば、そのほかの二つの情報を得ることができる。例えば、評価対象データD1は、評価点81におけるひずみであってもよい。この場合には、センサ21として、光ファイバを用いてもよい。ひずみは、光ファイバが発生するブリルアン散乱光及びレイリー散乱光に基づいて得ることができる。センサ21としての光ファイバは、曲がりボーリング削孔により地盤8の内部に配置することができる。光ファイバが配置される方向は、鉛直方向Zであってもよいし、水平方向(X又はY)であってもよい。センサ21として光ファイバを用いる場合には、連続的な評価対象データD1を得ることができるので、より精度の高い結果を得ることができる。また、1本の光ファイバにより連続的な評価対象データD1を得ることができるので、センサユニット2を構築するためのセンサ21の数(光ファイバの数)を減らすことができる。さらに、1本の光ファイバによって3次元データを取得することができ、3次元データを分解することによって、3軸方向の評価対象データD1を得ることができる。そのうえ、光ファイバは耐久性が高いので長期間の使用に耐えることができる。
【0078】
〔付記〕
本開示は、以下の構成を含む。
【0079】
本開示は、[1]「構造物が設けられた地盤を評価するための地盤評価システムであって、
前記地盤において地表面を基準とする第1鉛直基準線に沿った第1深度に設定される第1評価点に作用する加速度及び速度の少なくとも一方である前記地盤の健全性を評価するための第1評価対象データを得る第1センサと、
前記地盤において前記地表面を基準とする第2鉛直基準線に沿った前記第1深度とは異なる第2深度に設定される第2評価点に作用する加速度及び速度の少なくとも一方である第2評価対象データを得る第2センサと、
前記第1評価対象データ及び前記第2評価対象データを用いて、前記地盤を評価するための評価値を得る情報処理部と、を備え、
前記情報処理部は、前記第1評価対象データが含む加速度及び速度の水平方向の成分の少なくとも一方と、前記第2評価対象データが含む加速度及び速度の水平方向の成分の少なくとも一方と、を用いて前記評価値を得る評価値演算部を有する、地盤評価システム。」である。
【0080】
本開示において、[2]「前記評価値演算部は、前記第1評価対象データが含む加速度及び速度の鉛直方向の成分の少なくとも一方と、前記第2評価対象データが含む加速度及び速度の鉛直方向の成分の少なくとも一方と、を用いて、前記評価値を補正する、上記[1]に記載の地盤評価システム。」である。
【0081】
本開示において、[3]「前記評価値演算部は、前記第1評価対象データと前記第2評価対象データとの相対値を得る、上記[1]又は[2]に記載の地盤評価システム。」である。
【0082】
本開示は、[4]「前記第1鉛直基準線に対して水平方向に離間する第2鉛直基準線に沿って互いに異なる深度で配置される第3センサ及び第4センサをさらに備える、上記[1]~[3]の何れか一項に記載の地盤評価システム。
【0083】
本開示は、[5]「構造物が設けられた地盤を評価するための地盤評価方法であって、
前記地盤において地表面を基準とする第1鉛直基準線に沿った第1深度に設定される第1評価点に作用する加速度及び速度の少なくとも一方である前記地盤の健全性を評価するための第1評価対象データを得る第1センサを設置するステップと、
前記地盤において前記地表面を基準とする第2鉛直基準線に沿った前記第1深度とは異なる第2深度に設定される第2評価点に作用する加速度及び速度の少なくとも一方である第2評価対象データを得る第2センサを設置するステップと、
前記第1評価対象データ及び前記第2評価対象データを用いて、前記地盤を評価するための評価値を得るステップと、を有し、
前記評価値を得るステップは、前記第1評価対象データが含む加速度及び速度の水平方向の成分の少なくとも一方と、前記第2評価対象データが含む加速度及び速度の水平方向の成分の少なくとも一方と、を用いて前記評価値を得る、地盤評価方法。」である。
【0084】
本開示において、[6]「前記第1センサを設置するステップ及び前記第2センサを設置するステップは、前記構造物の施工と並行して実施される、上記[5]に記載の地盤評価方法。」である。
【0085】
本開示において、[7]「前記第1センサを設置するステップ及び前記第2センサを設置するステップは、前記構造物の施工が完了した後に実施される、上記[5]に記載の地盤評価方法。」である。
【符号の説明】
【0086】
1…地盤評価システム、2…センサユニット、21…センサ、3…情報収集装置、4…情報処理装置、41…評価値演算部、410…前処理部、411…せん断応力算出部、412…せん断ひずみ算出部、413…沈下量算出部、414…上昇波エネルギー算出部、42…評価値判定部、43…健全性判定部、8…地盤、80…評価領域、81…評価点、82…地表面、83…鉛直基準線、9…構造物、D1…評価対象データ、D2…評価値データ、D3…評価結果データ、D4…判定結果データ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7