(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024102478
(43)【公開日】2024-07-31
(54)【発明の名称】ビームプロファイルモニタ
(51)【国際特許分類】
G01T 1/29 20060101AFI20240724BHJP
H01L 21/265 20060101ALI20240724BHJP
H01J 37/04 20060101ALI20240724BHJP
【FI】
G01T1/29 A
H01L21/265 T
H01L21/265 P
H01L21/265 603Z
H01J37/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023006383
(22)【出願日】2023-01-19
(71)【出願人】
【識別番号】520487808
【氏名又は名称】シャープディスプレイテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 良典
【テーマコード(参考)】
2G188
5C101
【Fターム(参考)】
2G188BB12
2G188BB13
2G188BB14
2G188CC40
2G188DD13
2G188DD16
2G188DD22
2G188DD30
5C101AA25
5C101EE69
5C101EE75
5C101GG13
5C101GG15
5C101GG33
5C101JJ10
(57)【要約】
【課題】板部の交換頻度を低減させる。
【解決手段】ビームプロファイルモニタ10は、主面12F1,12F2と、主面12F1,12F2に沿う第1方向に沿って延在してイオンビームを透過するスリット12Sと、を有する板部12と、板部12に対してイオンビームの照射源側とは反対側に配され、少なくとも一部がスリット12Sに臨むファラデーカップ11と、板部12を第1方向に沿って移動させる移動装置13と、を備える。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主面と、前記主面に沿う第1方向に沿って延在してイオンビームを透過するスリットと、を有する板部と、
前記板部に対して前記イオンビームの照射源側とは反対側に配され、少なくとも一部が前記スリットに臨むファラデーカップと、
前記板部を前記第1方向に沿って移動させる移動装置と、を備えるビームプロファイルモニタ。
【請求項2】
前記板部は、前記スリットにおける前記第1方向についての長さが、前記ファラデーカップにおける前記第1方向についての長さよりも大きい請求項1記載のビームプロファイルモニタ。
【請求項3】
前記板部は、前記スリットが、前記主面に沿い且つ前記第1方向と交差する第2方向に沿って間隔を空けて複数が並んで配されており、
前記ファラデーカップは、前記第2方向に沿って複数が並んで配される請求項1または請求項2記載のビームプロファイルモニタ。
【請求項4】
前記板部は、前記第1方向に沿う第1辺部を有しており、
前記移動装置は、前記第1方向に沿って延在していて前記第1辺部に接するベルトと、前記ベルトに接していて回転に伴って前記ベルトを前記第1方向に沿って移動させるモータと、を有する請求項1または請求項2記載のビームプロファイルモニタ。
【請求項5】
前記板部は、前記第1方向に沿う第2辺部を有しており、
前記移動装置は、前記第1方向に沿って延在していて前記第2辺部に接するガイド部を有する請求項4記載のビームプロファイルモニタ。
【請求項6】
前記移動装置の駆動を制御する制御部を備え、
前記制御部は、前記イオンビームが照射されるのに連動して前記板部を前記第1方向に沿って移動させる請求項1または請求項2記載のビームプロファイルモニタ。
【請求項7】
前記移動装置の駆動を制御する制御部と、
前記イオンビームの照射時間を計時するタイマと、を備え、
前記制御部は、前記タイマにより計時された前記イオンビームの照射時間が閾値に達すると、前記板部を前記第1方向に沿って移動させる請求項1または請求項2記載のビームプロファイルモニタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、ビームプロファイルモニタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ビームプロファイルモニタの一例として下記特許文献1に記載されたものが知られている。特許文献1に記載のビームプロファイルモニタは、イオンビーム源に対向する照射面を有し照射面におけるイオンビームの強度分布を計測する。イオンビームを遮ることなく照射面を囲む枠体と、枠体に固定されイオンビームが通過可能な複数のスリット孔を有する水冷された平板状の冷却支持板と、冷却支持板のイオンビーム源の背面側に位置し複数のスリット孔を通過したイオンビームの強度をそれぞれ独立に計測する複数のファラデーカップとを備える。ファラデーカップは、枠体の背面側から着脱可能に枠体に取付けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した特許文献1に記載のビームプロファイルモニタでは、冷却支持板の照射面にボルト等で耐熱保護板を着脱可能に取り付けている。イオンビームの照射等に起因して耐熱保護板が損傷を受けた場合には、耐熱保護板を交換することができる。しかしながら、イオンビームは、耐熱保護板におけるスリット孔の縁部のうち特定の箇所に照射され続けるため、当該箇所の損傷が早く進行してしまい、耐熱保護板の交換頻度が高い、という問題があった。耐熱保護板は、真空環境下に設置されているため、交換の度に大気開放を行う必要があり、交換頻度が高いと、メンテナンスに要する時間が長くなり、生産性の低下を招いてしまう。
【0005】
本明細書に記載の技術は、上記のような事情に基づいて完成されたものであって、板部の交換頻度を低減させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本明細書に記載の技術に関わるビームプロファイルモニタは、主面と、前記主面に沿う第1方向に沿って延在してイオンビームを透過するスリットと、を有する板部と、前記板部に対して前記イオンビームの照射源側とは反対側に配され、少なくとも一部が前記スリットに臨むファラデーカップと、前記板部を前記第1方向に沿って移動させる移動装置と、を備える。
【0007】
(2)また、上記ビームプロファイルモニタは、上記(1)に加え、前記板部は、前記スリットにおける前記第1方向についての長さが、前記ファラデーカップにおける前記第1方向についての長さよりも大きくてもよい。
【0008】
(3)また、上記ビームプロファイルモニタは、上記(1)または上記(2)に加え、前記板部は、前記スリットが、前記主面に沿い且つ前記第1方向と交差する第2方向に沿って間隔を空けて複数が並んで配されており、前記ファラデーカップは、前記第2方向に沿って複数が並んで配されてもよい。
【0009】
(4)また、上記ビームプロファイルモニタは、上記(1)から上記(3)のいずれかに加え、前記板部は、前記第1方向に沿う第1辺部を有しており、前記移動装置は、前記第1方向に沿って延在していて前記第1辺部に接するベルトと、前記ベルトに接していて回転に伴って前記ベルトを前記第1方向に沿って移動させるモータと、を有してもよい。
【0010】
(5)また、上記ビームプロファイルモニタは、上記(4)に加え、前記板部は、前記第1方向に沿う第2辺部を有しており、前記移動装置は、前記第1方向に沿って延在していて前記第2辺部に接するガイド部を有してもよい。
【0011】
(6)また、上記ビームプロファイルモニタは、上記(1)から上記(5)のいずれかに加え、前記移動装置の駆動を制御する制御部を備え、前記制御部は、前記イオンビームが照射されるのに連動して前記板部を前記第1方向に沿って移動させてもよい。
【0012】
(7)また、上記ビームプロファイルモニタは、上記(1)から上記(5)のいずれかに加え、前記移動装置の駆動を制御する制御部と、前記イオンビームの照射時間を計時するタイマと、を備え、前記制御部は、前記タイマにより計時された前記イオンビームの照射時間が閾値に達すると、前記板部を前記第1方向に沿って移動させてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本明細書に記載の技術によれば、板部の交換頻度を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施形態1に係るイオン注入装置の該着的な平断面図
【
図2】実施形態1に係るイオン注入装置に備わるファラデーカップの正面図
【
図3】実施形態1に係るイオン注入装置に備わる板部の正面図
【
図4】実施形態1に係るイオン注入装置に備わるビームプロファイルモニタの正面図
【
図5】実施形態1に係るビームプロファイルモニタの
図4のv-v線断面図
【
図6】実施形態1に係る板部が一方の端位置まで移動した状態を示す正面図
【
図7】実施形態1に係る板部が他方の端位置まで移動した状態を示す正面図
【
図8】実施形態1に係るイオン注入装置の電気的構成を示すブロック図
【
図9】実施形態1に係る移動装置の制御に係るフローチャート
【
図10】実施形態2に係るイオン注入装置の電気的構成を示すブロック図
【
図11】実施形態2に係る移動装置の制御に係るフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0015】
<実施形態1>
実施形態1を
図1から
図9によって説明する。本実施形態では、イオン注入装置1に用いられるビームプロファイルモニタ10を例示する。なお、各図面の一部にはX軸、Y軸及びZ軸を示しており、各軸方向が各図面で示した方向となるように描かれている。
【0016】
イオン注入装置1は、処理対象の半導体基板Bに対してイオンビームを照射し、半導体基板Bに不純物イオンを注入(ドープ)することができる。半導体基板Bとしては、例えば液晶パネルを構成するアレイ基板等が挙げられる。アレイ基板には、例えば低温ポリシリコン(LTPS:low-temperature poly silicon)からなる半導体膜が成膜されており、イオン注入装置1を用いて半導体膜のうちの活性層に不純物イオンが注入されるようになっている。
【0017】
イオン注入装置1は、
図1に示すように、イオンビーム発生装置2と、基板移動部3と、ビームプロファイルモニタ10と、を備える。イオンビーム発生装置2は、導入した原料ガスから得たイオンをプラズマ化し、イオンビームを発生させるための要素である。原料ガスとしては、例えばジボラン(B
2H
6)、フォスフィン(PH
3)等が用いられる。原料ガスとしてジボラン等を用いた場合は、イオンビームとしてボロンビームが得られる。原料ガスとしてフォスフィン等を用いた場合は、イオンビームとしてリンビームが得られる。イオンビーム発生装置2は、イオン注入装置1に備わる処理室の外部に配されている。なお、
図1では、イオンビームの進行方向を矢線にて図示している。
【0018】
基板移動部3は、
図1に示すように、半導体基板Bを支持し、半導体基板Bを移動させるための要素である。基板移動部3は、イオン注入装置1に備わる処理室の内部に配されている。処理室は、真空ポンプ等によって真空状態に保たれている。基板移動部3は、処理室内において、イオンビーム発生装置2と正対する処理位置(第1位置)と、イオンビーム発生装置2に対して退避した退避位置(第2位置)と、を移動することができる。
図1では、退避位置とされる半導体基板B及び基板移動部3を二点鎖線にて図示している。半導体基板B及び基板移動部3の移動方向は、イオンビームの進行方向(図面のZ軸方向)に対して直交(交差)する方向(図面のX軸方向)となっている。半導体基板Bを支持した基板移動部3が処理位置に配された状態では、イオンビーム発生装置2からのイオンビームが半導体基板Bに照射されるようになっている。なお、処理室には、処理室外にあるイオンビーム発生装置2と、処理位置の基板移動部3と、の間となる位置に、イオンビームを透過する窓部が設けられている。窓部によって処理室の真空状態を維持しつつ、半導体基板Bに対するイオンビームの照射が可能とされる。
【0019】
ビームプロファイルモニタ10は、
図1に示すように、イオンビーム発生装置2から処理室内に向けて照射されたイオンビームの電流値を計測するための要素である。ビームプロファイルモニタ10は、処理室の内部において、処理位置に配された半導体基板B及び基板移動部3に対してイオンビーム発生装置2側とは反対側に位置して配されている。ビームプロファイルモニタ10は、半導体基板B及び基板移動部3が待機位置に配された状態では、イオンビーム発生装置2と正対する位置関係とされる。従って、半導体基板B及び基板移動部3が待機位置に配された状態では、イオンビーム発生装置2からのイオンビームがビームプロファイルモニタ10に照射されるようになっている。
【0020】
ビームプロファイルモニタ10は、
図1に示すように、ファラデーカップ11と、板部12と、移動装置13と、を備える。ファラデーカップ11は、照射されたイオンビームの電流値を計測するための要素であり、電流計に接続されている。ファラデーカップ11は、イオンビームの照射源側(
図1の左側、イオンビーム発生装置2側)に向けて開口した箱型(有底箱型)をなしている。ファラデーカップ11は、底部11Aと、底部11Aの外周端からイオンビームの照射源側に向けて延出する筒状部11Bと、を有する。ファラデーカップ11は、
図2に示すように、正面から視た形状が横長の方形とされる。なお、
図2には、イオンビームの照射範囲IAが網掛け状にして図示されている。ファラデーカップ11におけるX軸方向についての長さは、イオンビームの照射範囲IAにおけるX軸方向についての長さよりも小さい。ファラデーカップ11は、複数がY軸方向に沿って並んで配されている。複数のファラデーカップ11は、個別にイオンビームの電流値を計測することができるよう、相互に電気的に独立している。複数のファラデーカップ11によってイオンビームの電流値を計測することで、Y軸方向についてイオンビームに係る電流値の分布を得ることが可能とされる。複数のファラデーカップ11におけるY軸方向についての長さの合計は、イオンビームの照射範囲IAにおけるY軸方向についての長さよりも小さい。
【0021】
板部12は、
図1に示すように、ファラデーカップ11に対するイオンビームの照射量を制限するための要素である。板部12は、ファラデーカップ11に対してイオンビームの照射源側に隣り合って配されている。つまり、板部12は、処理位置とされた半導体基板B及び基板移動部3と、ファラデーカップ11と、の間に挟まれた配置とされる。言い換えると、ファラデーカップ11は、板部12に対してイオンビームの照射源側とは反対側に配されている。板部12は、X軸方向及びY軸方向に沿う一対の主面12F1,12F2を有する平板状をなしており、主面12F1,12F2の法線方向がイオンビームの進行方向と一致している。板部12は、一方の主面12F1がイオンビーム発生装置2と対向し、他方の主面12F2がファラデーカップ11と対向して配されている。板部12は、金属材料(例えばモリブデン等)等により構成され、照射されるイオンビームを遮ることが可能とされる。板部12によってイオンビームを遮ることで、ファラデーカップ11の温度上昇を抑制するとともに、ファラデーカップ11に対する汚れの付着を抑制することができる。板部12には、イオンビームの照射に伴って蓄積される熱を放出するため、水冷機構等が内蔵されていてもよい。
【0022】
板部12は、
図3に示すように、正面から視た形状が横長の方形であり、X軸方向に沿う第1辺部12A及び第2辺部12Bが長辺であり、Y軸方向に沿う第3辺部12C及び第4辺部12Dが短辺である。詳しくは、板部12のうち、
図3の下側の長辺が第1辺部12Aであり、
図3の上側の長辺が第2辺部12Bであり、
図3の左側の短辺が第3辺部12Cであり、
図3の右側の短辺が第4辺部12Dである。なお、
図3には、イオンビームの照射範囲IAが網掛け状にして図示されている。板部12には、
図1及び
図3に示すように、イオンビームを透過するスリット12Sが開口して設けられている。従って、ファラデーカップ11は、少なくとも一部(底部11Aの一部)が板部12のスリット12Sに臨む配置とされる。つまり、板部12のスリット12Sと、ファラデーカップ11の一部と、は、イオンビーム発生装置2から視てイオンビームの進行方向に沿う直線上に並ぶ配置となっている。従って、イオンビーム発生装置2から発せられたイオンビームは、一部が板部12におけるスリット12Sの縁部によって遮られるものの、残りが板部12のスリット12Sを透過し、スリット12Sに臨んで配されるファラデーカップ11に照射されるようになっている。このように、板部12によってファラデーカップ11に対するイオンビームの照射量を制限することができる。
【0023】
スリット12Sは、
図1及び
図3に示すように、板部12の主面12F1,12F2に沿うX軸方向(第1方向)に沿って延在し、正面から視て横長の方形とされる。スリット12Sの開口幅(Y軸方向についての寸法)は、ファラデーカップ11の底部11Aの幅(Y軸方向についての寸法)よりも小さい。スリット12Sは、板部12の主面12F1,12F2に沿い且つX軸方向と直交(交差)するY軸方向(第2方向)に沿って複数が間隔を空けて並んで配されている。複数のスリット12Sの配列間隔は、ほぼ一定とされる。板部12におけるスリット12Sの設置数は、ファラデーカップ11の設置数と同一とされる。イオンビーム発生装置2から発せられたイオンビームは、Y軸方向に沿って間隔を空けて並ぶ複数のスリット12Sを透過すると、Y軸方向に沿って並ぶ複数のファラデーカップ11に照射される。このように、複数のファラデーカップ11によってイオンビームの電流値を計測することができる。
【0024】
移動装置13は、
図4及び
図5に示すように、板部12を移動させるための要素である。なお、
図4には、イオンビームの照射範囲IAが網掛け状にして図示されている。移動装置13は、板部12をX軸方向、つまりスリット12Sの延在方向に沿って移動させることができる。このようにすれば、板部12におけるスリット12Sの縁部のうちの特定の箇所にイオンビームが照射され続けるのを避けることができる。これにより、板部12の損傷が抑制され、スリット12Sの幅が局所的に広がる事態が生じ難くなるので、板部12の交換頻度を低減させることができる。板部12を交換する際には、処理室を大気開放する必要があり、交換作業に掛かる時間が長くなりがちであることに鑑みると、板部12の交換頻度が低減されれば、メンテナンスに起因するイオン注入装置1の停止期間が短く済み、生産性の向上を図る上で好適である、と言える。また、移動装置13によって板部12がX軸方向に沿って移動されても、複数のスリット12Sと複数のファラデーカップ11とのY軸方向についての位置関係には変動が生じ難い。これにより、移動装置13によって板部12をX軸方向に沿って移動させた場合でも、複数のスリット12Sを透過したイオンビームが複数のファラデーカップ11のそれぞれに適切に照射される。以上により、複数のファラデーカップ11によるイオンビームの電流値の計測を安定的に行うことができる。
【0025】
板部12は、
図4に示すように、X軸方向についての長さが、ファラデーカップ11におけるX軸方向についての長さよりも大きい。スリット12SにおけるX軸方向についての長さは、板部12におけるX軸方向についての長さよりも短いものの、ファラデーカップ11におけるX軸方向についての長さよりも大きい。板部12は、スリット12Sが、ファラデーカップ11をX軸方向について全長にわたって横切るよう配されている。また、板部12は、Y軸方向についての長さが、複数のファラデーカップ11におけるY軸方向についての長さの合計よりも大きい。このようにすれば、移動装置13によって板部12をX軸方向に沿って移動させる際の移動ストロークを、スリット12SにおけるX軸方向についての長さと、ファラデーカップ11におけるX軸方向についての長さと、の差分に相当する距離に設定することができる。この移動ストロークの範囲内で移動装置13によって板部12をX軸方向に沿って移動させる限り、スリット12Sにファラデーカップ11が臨む配置を維持することができる。これにより、移動装置13によって板部12を移動させた場合でも、イオンビームの電流値を安定的に計測することができる。
【0026】
移動装置13は、
図4及び
図5に示すように、ベルト13Aと、モータ13Bと、ガイド部13Cと、を備える。ベルト13Aは、X軸方向に沿って細長いフープ状をなしており、板部12に対して
図4及び
図5の下側に配されている。ベルト13Aのうち、
図4及び
図5の上側部分の外面は、板部12のうちの第1辺部12Aの端面に接している。ベルト13Aは、幅が板部12の厚みよりも大きい。ベルト13Aは、X軸方向についての長さが板部12の長さよりも大きい。従って、ベルト13Aは、板部12の第1辺部12Aの端面における全幅及び全長にわたって接している。モータ13Bは、ベルト13AにおけるX軸方向についての一方の端部の内側に配されている。モータ13Bは、外周面がベルト13Aの内面に接している。モータ13Bは、正逆いずれの向きにも回転可能とされる。モータ13Bが回転されると、ベルト13Aが時計回り方向または逆時計回り方向に移動されるようになっており、それに伴ってベルト13Aに接する板部12がX軸方向に沿って
図4の右側または左側に移動されるようになっている。
【0027】
ガイド部13Cは、
図4及び
図5に示すように、X軸方向に沿って延在するレール状をなしており、板部12に対してベルト13Aとは反対側、つまり
図4及び
図5の上側に配されている。ガイド部13Cは、自身の延在方向と直交する向きの断面形状が、
図4及び
図5の下向きに開口した門型をなしており、その内側に板部12のうちの第2辺部12Bが嵌合されるようになっている。ガイド部13Cの内壁面には、板部12の第2辺部12Bの端面及び両主面が接している。このようにすれば、モータ13Bの駆動に伴って板部12がX軸方向に沿って移動される動作を、第2辺部12Bに接するガイド部13Cによってガイドすることができる。これにより、板部12がX軸方向と交差する方向にがたつき難くなるので、X軸方向に沿う板部12の移動が円滑化される。
【0028】
移動装置13は、
図6に示すように、板部12がX軸方向について一方の端位置に達すると、モータ13Bをそれまでとは逆向き(
図6の時計回り方向)に回転させ、板部12をX軸方向について他方の端位置へ向けて移動させる。移動装置13は、
図7に示すように、板部12がX軸方向について他方の端位置に達すると、モータ13Bをそれまでとは逆向き(
図6の反時計回り方向)に回転させ、板部12をX軸方向について一方の端位置へ向けて移動させる。なお、
図6及び
図7には、イオンビームの照射範囲IAが網掛け状にして図示されている。ベルト13Aは、板部12がX軸方向についていずれの端位置に達した状態でも、板部12の第1辺部12Aの端面に対して全幅及び全長にわたって接している。つまり、移動装置13によって板部12が移動される間、常にベルト13Aが板部12の第1辺部12Aの端面に対して全幅及び全長にわたって接する。板部12がX軸方向についていずれの端位置に達した状態であっても、スリット12Sが、ファラデーカップ11をX軸方向について全長にわたって横切る位置関係が維持されている。つまり、移動装置13によって板部12が移動される間、ファラデーカップ11とスリット12Sとが、正面(イオンビームの照射源側)から視て重畳する面積がほぼ一定とされる。
【0029】
次に、イオン注入装置1の電気的構成について
図8のブロック図を用いて説明する。イオン注入装置1は、
図8に示すように、移動装置13の駆動を制御する移動制御部(制御部、第1制御部)20と、イオンビーム発生装置2の駆動を制御するビーム制御部(第2制御部)30と、を備える。移動制御部20は、移動装置13に備わるモータ13Bを駆動し、モータ13Bの回転の開始及び停止、モータ13Bの回転速度、モータ13Bの回転方向等を制御することができる。ビーム制御部30は、イオンビーム発生装置2を駆動し、イオンビームの照射(発生)の開始及び停止、イオンビームのイオン種、イオンビームの照射量(発生量)等を制御することができる。移動制御部20及びビーム制御部30は、相互に接続されている。移動制御部20は、接続されたビーム制御部30によるイオンビーム発生装置2の制御に連動して、移動装置13の駆動を制御することができる。例えば、移動制御部20は、ビーム制御部30によってイオンビーム発生装置2でのイオンビームの照射が開始されると、モータ13Bを駆動(回転)させて板部12をX軸方向に沿って移動させる。移動制御部20は、ビーム制御部30によってイオンビーム発生装置2でのイオンビームの照射が停止されると、モータ13Bを停止させ、板部12の移動を停止させる。なお、イオン注入装置1は、基板移動部3の駆動を制御するための基板移動制御部等も備える。
【0030】
続いて、移動制御部20による移動装置13の制御について
図9のフローチャートを用いて説明する。移動制御部20は、
図9に示すように、ビーム制御部30によってイオンビーム発生装置2でのイオンビームの照射が開始されているか否か、を判定する(ステップS10)。ステップS10の判定結果がNOであれば、ステップS10に戻る。ステップS10の判定結果がYESであれば、移動制御部20は、モータ13Bを駆動し、板部12AをX軸方向に沿って移動させる(ステップS11)。移動制御部20は、ビーム制御部30によってイオンビーム発生装置2でのイオンビームの照射が停止されているか否か、を判定する(ステップS12)。ステップS12の判定結果がNOであれば、ステップS11に戻る。ステップS12の判定結果がYESであれば、移動制御部20は、モータ13Bを停止させ、板部12Aの移動を停止させる(ステップS13)。以上のように、本実施形態によれば、イオンビームが照射される間、移動制御部20によって移動装置13の駆動が制御されることで板部12がX軸方向に沿って移動されるので、板部12のうちの特定の箇所にイオンビームが照射され続ける事態を回避することができる。これにより、スリット12Sの幅が局所的に広がる事態がより生じ難くなる。
【0031】
以上説明したように本実施形態のビームプロファイルモニタ10は、主面12F1,12F2と、主面12F1,12F2に沿う第1方向に沿って延在してイオンビームを透過するスリット12Sと、を有する板部12と、板部12に対してイオンビームの照射源であるイオンビーム発生装置2側とは反対側に配され、少なくとも一部がスリット12Sに臨むファラデーカップ11と、板部12を第1方向に沿って移動させる移動装置13と、を備える。
【0032】
イオンビームは、板部12のスリット12Sを透過し、スリット12Sに臨んで配されるファラデーカップ11に照射される。ファラデーカップ11によってイオンビームの電流値を計測することができる。移動装置13は、板部12をスリット12Sの延在方向である第1方向に沿って移動させることができる。このようにすれば、板部12におけるスリット12Sの縁部のうちの特定の箇所にイオンビームが照射され続けるのを避けることができる。これにより、板部12の損傷が抑制され、スリット12Sの幅が局所的に広がる事態が生じ難くなるので、板部12の交換頻度を低減させることができる。
【0033】
また、板部12は、スリット12Sにおける第1方向についての長さが、ファラデーカップ11における第1方向についての長さよりも大きい。移動装置13によって板部12が第1方向に沿って移動されても、スリット12Sにファラデーカップ11が臨む配置を維持し易くなる。これにより、移動装置13によって板部12を移動させた場合でも、イオンビームの電流値を安定的に計測することができる。
【0034】
また、板部12は、スリット12Sが、主面12F1,12F2に沿い且つ第1方向と交差する第2方向に沿って間隔を空けて複数が並んで配されており、ファラデーカップ11は、第2方向に沿って複数が並んで配される。板部12において第2方向に沿って間隔を空けて並ぶ複数のスリット12Sを透過したイオンビームは、第2方向に沿って並ぶ複数のファラデーカップ11に照射され、各ファラデーカップ11によってイオンビームの電流値が計測される。移動装置13によって板部12が第1方向に沿って移動されても、複数のスリット12Sと複数のファラデーカップ11との第2方向についての位置関係には変動が生じ難い。これにより、移動装置13によって板部12を移動させた場合でも、各ファラデーカップ11によるイオンビームの電流値の計測を安定的に行うことができる。
【0035】
また、板部12は、第1方向に沿う第1辺部12Aを有しており、移動装置13は、第1方向に沿って延在していて第1辺部12Aに接するベルト13Aと、ベルト13Aに接していて回転に伴ってベルト13Aを第1方向に沿って移動させるモータ13Bと、を有する。移動装置13に備わるモータ13Bを回転させることで、ベルト13Aを第1方向に沿って移動させ、それに伴ってベルト13Aに第1辺部12Aが接する板部12を第1方向に沿って移動させることができる。
【0036】
また、板部12は、第1方向に沿う第2辺部12Bを有しており、移動装置13は、第1方向に沿って延在していて第2辺部12Bに接するガイド部13Cを有する。モータ13Bの駆動に伴って板部12が第1方向に沿って移動される動作を、第2辺部12Bに接するガイド部13Cによってガイドすることができる。これにより、板部12が第1方向と交差する方向にがたつき難くなるので、第1方向に沿う板部12の移動が円滑化される。
【0037】
また、移動装置13の駆動を制御する移動制御部(制御部)20を備え、移動制御部20は、イオンビームが照射されるのに連動して板部12を第1方向に沿って移動させる。このようにすれば、イオンビームが照射される間、移動制御部20によって移動装置13の駆動が制御されることで板部12が第1方向に沿って移動されるので、板部12のうちの特定の箇所にイオンビームが照射され続ける事態を回避することができる。これにより、スリット12Sの幅が局所的に広がる事態がより生じ難くなる。
【0038】
<実施形態2>
実施形態2を
図10または
図11によって説明する。この実施形態2では、タイマ40を追加した場合を示す。なお、上記した実施形態1と同様の構造、作用及び効果について重複する説明は省略する。
【0039】
本実施形態に係るイオン注入装置101は、
図10に示すように、タイマ40を備える。タイマ40は、移動制御部120及びビーム制御部130の双方に接続されている。タイマ40は、ビーム制御部130によりイオンビーム発生装置102が駆動されてイオンビームが照射される時間、つまりイオンビームの照射時間Tを計時することができる。移動制御部120は、タイマ40により計時されたイオンビームの照射時間Tを参照することができる。また、イオン注入装置101は、イオンビームの照射時間Tに係る閾値Tmax等のデータを記憶するメモリを備える。なお、本実施形態では、移動制御部120及びビーム制御部130は、相互が直接的に接続されていない。
【0040】
移動制御部120による移動装置113の制御について
図11のフローチャートを用いて説明する。移動制御部120は、
図11に示すように、ビーム制御部130によってイオンビーム発生装置102でのイオンビームの照射が開始されているか否か、を判定する(ステップS20)。ステップS20の判定結果がNOであれば、ステップS20に戻る。ステップS20の判定結果がYESであれば、タイマ40は、イオンビームの照射時間Tの計時を開始する(ステップS21)。移動制御部120は、ビーム制御部130によってイオンビーム発生装置102でのイオンビームの照射が停止されているか否か、を判定する(ステップS22)。ステップS22の判定結果がYESであれば、タイマ40は、イオンビームの照射時間Tの計時を停止し(ステップS23)、ステップS20に戻る。ステップS22の判定結果がNOであれば、移動制御部120は、タイマ40により計時されたイオンビームの照射時間Tが、閾値Tmax以上であるか否か、を判定する(ステップS24)。ステップS24の判定結果がNOであれば、ステップS22に戻る。ステップS22の判定結果がYESであれば、移動制御部120は、モータ113Bを駆動し、板部12AをX軸方向に沿って移動させる(ステップS25)。また、タイマ40は、計時されたイオンビームの照射時間Tをリセットする(ステップS26)。
【0041】
以上のように、移動制御部120は、タイマ40により計時されたイオンビームの照射時間Tが閾値Tmaxに達すると、板部12をX軸方向に沿って移動させている。ここで、イオンビームの照射に伴って板部12におけるスリット12Sの縁部に蓄積されるダメージは、イオンビームの照射時間Tに比例する傾向にある。本実施形態では、イオンビームの照射時間Tに係る閾値Tmaxとして、イオンビームの照射に伴って板部12に蓄積されるダメージが限界に達しないような数値を設定している。従って、イオンビームの照射時間Tが閾値Tmaxに達したとき、移動制御部120によって板部12がX軸方向に沿って移動されるので、板部12におけるスリット12Sの縁部のうちの特定の箇所において蓄積されるダメージが限界に達する前の段階で、当該箇所にイオンビームが照射されなくなる。これにより、スリット12Sの幅が局所的に広がる事態がより生じ難くなる。
【0042】
以上説明したように本実施形態によれば、移動装置113の駆動を制御する移動制御部120と、イオンビームの照射時間Tを計時するタイマ40と、を備え、移動制御部120は、タイマ40により計時されたイオンビームの照射時間Tが閾値Tmaxに達すると、板部12を第1方向に沿って移動させる。イオンビームの照射に伴って板部12におけるスリット12Sの縁部に蓄積されるダメージは、イオンビームの照射時間Tに比例する傾向にある。イオンビームの照射が開始されてからタイマ40により計時された照射時間Tが閾値Tmaxに達すると、移動制御部120によって移動装置113が制御されることで板部12が第1方向に沿って移動される。このようにすれば、板部12におけるスリット12Sの縁部のうちの特定の箇所においてイオンビームの照射に伴って蓄積されるダメージが限界に達する前の段階で、当該箇所にイオンビームが照射されなくなる。これにより、スリット12Sの幅が局所的に広がる事態がより生じ難くなる。
【0043】
<他の実施形態>
本明細書が開示する技術は、上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されず、例えば次のような実施形態も技術的範囲に含まれる。
【0044】
(1)ファラデーカップ11におけるX軸方向についての長さを、板部12におけるX軸方向についての長さとほぼ同じにしてもよい。
【0045】
(2)板部12における正面から視た形状は、長方形以外にも正方形、台形、平行四辺形等であってもよい。
【0046】
(3)Y軸方向についてのファラデーカップ11及びスリット12Sの並び数は、図示以外にも適宜に変更可能である。
【0047】
(4)板部12のスリット12Sと、ファラデーカップ11の一部と、は、イオンビーム発生装置2,102から視てイオンビームの進行方向に沿う直線上に並ばない配置でもよい。その場合、例えば、イオンビーム発生装置2,102と板部12との間にミラーを配置し、ミラーによりイオンビームを反射することで、イオンビームの進行方向を変更すればよい。
【0048】
(5)ビーム制御部20,120及び移動制御部30,130は、単一部品(例えばCPU(Central Processing Unit)等)により構成されてもよい。
【0049】
(6)モータ13B,113Bは、ベルト13Aの両端部に位置して一対が配されてもよい。また、モータ13B,113Bの設置数は、3つ以上でもよい。
【0050】
(7)移動装置13,113の具体的な構成は、図示以外にも適宜に変更可能である。
【符号の説明】
【0051】
2,102…イオンビーム発生装置(照射源)、10…ビームプロファイルモニタ、11…ファラデーカップ、12…板部、12A…第1辺部、12B…第2辺部、12F1,12F2…主面、12S…スリット、13,113…移動装置、13A…ベルト、13B,113B…モータ、13C…ガイド部、20,120…移動制御部(制御部)、40…タイマ、T…照射時間、Tmax…閾値