IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住鉱潤滑剤株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024102508
(43)【公開日】2024-07-31
(54)【発明の名称】潤滑被膜形成用のエアゾール組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 147/02 20060101AFI20240724BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20240724BHJP
   C10N 50/04 20060101ALN20240724BHJP
   C10N 50/02 20060101ALN20240724BHJP
【FI】
C10M147/02
C10N30:06
C10N50:04
C10N50:02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023006432
(22)【出願日】2023-01-19
(71)【出願人】
【識別番号】591213173
【氏名又は名称】住鉱潤滑剤株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】茅野 啓介
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104CD02A
4H104LA03
4H104QA08
4H104QA09
(57)【要約】
【課題】潤滑被膜を形成する組成物であって、従来に比べてハイドロフルオロエーテル(HFE)を含むフッ素系溶剤の含有量を低減し、エアゾール状に噴霧して使用することができ、良好な潤滑性能を有する潤滑被膜を形成することができる潤滑被膜形成用の組成物を提供する。
【解決手段】本発明は、エアゾール状に噴霧して使用して潤滑被膜を形成する組成物であって、フッ素油と、固体潤滑剤であるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)と、フッ素系溶剤と、を含有し、記PTFEの含有量が2.0質量以上15.0質量%以下であり、記フッ素系溶剤の含有量が3.0質量%以上20.0質量%以下である、潤滑被膜形成用のエアゾール組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エアゾール状に噴霧して使用して、潤滑被膜を形成する組成物であって、
フッ素油と、
固体潤滑剤であるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)と、
フッ素系溶剤と、を含有し、
前記PTFEの含有量が2.0質量以上15.0質量%以下であり、
前記フッ素系溶剤の含有量が3.0質量%以上20.0質量%以下である、
潤滑被膜形成用のエアゾール組成物。
【請求項2】
分散剤をさらに含有する、
請求項1に記載の潤滑被膜形成用のエアゾール組成物。
【請求項3】
前記フッ素系溶剤は、ハイドロフルオロエーテル(HFE)を含む、
請求項1に記載の潤滑被膜形成用のエアゾール組成物。
【請求項4】
前記フッ素油の含有量が70.0質量%以上90.0質量%以下である、
請求項1に記載の潤滑被膜形成用のエアゾール組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑被膜を形成するための組成物に関するものであり、より詳しくは、従来に比べてハイドロフルオロエーテル等のフッ素系溶剤の量を低減し、エアゾール状に噴霧して使用する潤滑被膜形成用のエアゾール組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、低摩擦を得る方法として、低摩擦係数を示して、また真空中等の特殊環境下でも使用できるフッ素系樹脂のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を固体潤滑剤として用い、オイルやグリース中にその固体潤滑剤を混合した潤滑剤組成物を塗布する方法が知られている。
【0003】
一方、オイルやグリースを塗布できない複雑な形状な部材や極小さな形状の部材等に対しては、例えば非特許文献1に示すように、PTFE等の固体潤滑剤を混合した塗料を用いて潤滑被膜(乾性潤滑被膜)を形成する方法が知られている。
【0004】
特に近年では、様々な用途部材に対して潤滑被膜を形成して、潤滑性、耐磨耗性、耐蝕性、耐薬品性、耐熱性等の複合機能を向上させることが要求され、種々の潤滑被膜を形成するための組成物が研究開発されている。
【0005】
さて、このような潤滑被膜を形成するための組成物においては、溶剤として、ハイドロフルオロエーテル(HFE)等のフッ素系溶剤が広く用いられている。HFEは、各種の部材に対する化学的浸食性が低く、またオゾン層を破壊せず地球温暖化係数が低く環境に対する悪影響が少ない化合物である。さらに、速乾性を有し、不燃性であって低毒性でもあることから、作業性が良好で、安全に使用することができる。
【0006】
例えば、これまで、種々のフッ素グリースを、HFEを含むフッ素系溶剤に溶解して、グリース被膜を形成する潤滑被膜形成用の組成物が提供されている。具体的に、フッ素グリースとしては、PTFE等の固体潤滑剤と、フッ素オイル等の合成油とを含有したものが用いられ、これをHFEに溶解して得られる潤滑剤組成物を、各種の部材に塗布して潤滑被膜を形成している。
【0007】
上述した潤滑剤組成物は、組成物中の含有量として例えば85質量%以上の多量のHFEに、フッ素グリース等を溶解して組成されるものであり、また、潤滑被膜を形成される対象部材への塗布方法としては、その潤滑剤組成物中に浸漬させて塗布するディッピング法が主流となっていた。
【0008】
しかしながら、近年、HFEの供給が不安定となることに起因して、潤滑剤組成物の製造の安定性が低下することがある。また、上述のように、HFEは、地球温暖化係数が比較的低いものであるものの、少なからず環境に影響を及ぼし得るものであり、さらに、HFEは高価な溶剤であるため、生産コストの観点からも改良の余地がある。そのため、HFEを含むフッ素系溶剤の含有量を低減した組成物の開発が求められている。
【0009】
ここで、HFEをフッ素系溶剤の含有量を低減した潤滑被膜形成用の組成物の開発にあたり、単純にフッ素系溶剤の含有量(HFEの含有量)を低減しただけでは、PTFE等の固体潤滑剤を含むグリースを溶解させることができないのみならず、ディッピング法による塗布も困難となる。
【0010】
一般的に、オイルやグリースを塗布することができない部材に対する塗布方法として、エアゾール状に潤滑剤組成物を噴霧することによって複雑な形状や極小さな形状の部材に塗布して潤滑被膜を形成するスプレー法が考えられる。ところが、フッ素系溶剤の含有量を低減した組成物では、粘度の上昇に伴って、エアゾール状に良好に噴霧することができない可能性や、潤滑性能が低下する可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2016-193968号公報
【特許文献2】特開2017-155200号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】桐生春雄著、「特殊塗料の機能と開発プロセス」、シーエムシー、1984年、p.93~97
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、潤滑被膜を形成する組成物であって、従来に比べてハイドロフルオロエーテル(HFE)を含むフッ素系溶剤の含有量を低減し、エアゾール状に噴霧して使用することができ、良好な潤滑性能を有する潤滑被膜を形成することができる潤滑被膜形成用の組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、フッ素油と、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)と、フッ素系溶剤と、を含有する潤滑被膜形成用の組成物において、特に、PTFEとフッ素系溶剤の含有量をそれぞれ特定の範囲とすることで、上述した課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
(1)本発明の第1の発明は、エアゾール状に噴霧して使用して、潤滑被膜を形成する組成物であって、フッ素油と、固体潤滑剤であるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)と、フッ素系溶剤と、を含有し、前記PTFEの含有量が2.0質量以上15.0質量%以下であり、前記フッ素系溶剤の含有量が3.0質量%以上20.0質量%以下である、潤滑被膜形成用エアゾール組成物である。
【0016】
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、分散剤をさらに含有する、潤滑被膜形成用エアゾール組成物である。
【0017】
(3)本発明の第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記フッ素系溶剤は、ハイドロフルオロエーテル(HFE)を含む、潤滑被膜形成用エアゾール組成物である。
【0018】
(4)本発明の第4の発明は、第1乃至第3のいずれかの発明において、前記フッ素油の含有量が70.0質量%以上90.0質量%以下である、潤滑被膜形成用のエアゾール組成物である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、従来に比べてハイドロフルオロエーテル(HFE)を含むフッ素系溶剤の含有量を低減し、エアゾール状に噴霧して使用することができ、良好な潤滑性能を有する潤滑被膜を形成することができる潤滑被膜形成用の組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。
【0021】
本実施の形態に係る組成物は、潤滑被膜を形成する組成物であり、エアゾール状に噴霧して使用するエアゾール組成物(潤滑被膜形成用のエアゾール組成物)である。具体的に、このエアゾール組成物は、フッ素油と、固体潤滑剤であるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)と、フッ素系溶剤と、を含有する。そして、PTFEの含有量が2.0質量以上15.0質量%以下であり、フッ素系溶剤の含有量が3.0質量%以上20.0質量%以下である。
【0022】
本実施の形態に係るエアゾール組成物は、フッ素系溶剤の含有量が従来に比べて有効に低減されている。また、フッ素系溶剤が低減されていながら、一般的なスプレー装置を用いて、エアゾール状に噴霧して使用することが可能であり、潤滑被膜を形成する対象部材に対して適切に潤滑剤組成物を塗布することができ、均一な潤滑被膜を形成することができる。
【0023】
さらに、本実施の形態に係るエアゾール組成物によれば、従来と同様以上に優れた良好な潤滑性能を有する潤滑被膜を形成することができる。
【0024】
[フッ素油]
フッ素油は、基油として、後述する固体潤滑剤であるPTFEと共にフッ素グリースを構成する。
【0025】
フッ素油としては、特に限定されず、直鎖状のフッ素油であっても、側鎖状のフッ素油であっても使用することができ、例えばパーフルオロポリエーテルが挙げられる。また、フッ素油は、例えば所望する粘度に応じて、1種単独でも、2種以上を併用してもよい。
【0026】
また、フッ素油の動粘度についても特に限定されず、いずれの動粘度のものであっても使用することができるが、40℃における動粘度が15~400mm/sであるものが好ましい。
【0027】
フッ素油の含有量は、特に限定されないが、当該エアゾール組成物中において70.0質量%以上90.0質量%以下であることが好ましく、80.0質量%以上90.0質量%以下であることがより好ましい。本実施の形態に係るエアゾール組成物では、後述するように従来に比べてフッ素系溶剤の含有量が有効に低減されており、フッ素油を好ましくは上述した範囲で含有させることで、優れた潤滑性能を奏するようになる。また、一般的なスプレー装置を用いてエアゾール状に噴霧することができ、より適切に潤滑被膜を形成させることができる。
【0028】
[固体潤滑剤]
固体潤滑剤は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を含む。固体潤滑剤であるPTFEは、増ちょう剤としても作用し、上述したフッ素オイルと共にフッ素グリースを構成する。PTFEは、低摩擦性を有するものであり、形成される潤滑被膜に優れた潤滑性能を付与する。
【0029】
本実施の形態に係るエアゾール組成物においては、PTFEの含有量が、当該エアゾール組成物全量100質量%に対して2.0質量以上15.0質量%以下である。また、好ましくは、3.0質量%以上10.0質量%以下である。本実施の形態に係るエアゾール組成物では、後述するフッ素系溶剤の含有量を特定の範囲にするとともに、PTFEの含有量を2.0質量%以上15.0質量%以下の範囲とすることで、一般的なスプレー装置を用いて良好にエアゾール状に噴霧することができ、また、形成する潤滑被膜が優れた潤滑性能を奏するようになる。
【0030】
PTFEの含有量が2.0質量%未満であると、一般的なスプレー装置を用いて良好にエアゾール状に噴霧して塗布することは可能であるものの、形成される潤滑被膜中のPTFE量が減少し、潤滑性能が不十分となる。一方で、PTFEの含有量が15.0質量%を超えると、形成される潤滑被膜の潤滑性能は良好であるものの、組成物の粘度が上昇しすぎてしまい、一般的なスプレー装置において適切にエアゾール状に噴霧できない可能性がある。
【0031】
なお、固体潤滑剤としては、少量のフッ素系溶剤やフッ素油と相溶するものであれば、例えば他の種類のフッ素樹脂潤滑剤を併用してもよい。具体的に、フッ素樹脂潤滑剤としては、フルオネートエチレンポリエチレン(FEP)、パーフルオロアルキル(PFA)、エチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)、エチレン・四フッ化エチレン共重合体(ETFE)等が挙げられる。
【0032】
[フッ素系溶剤]
フッ素系溶剤は、上述したフッ素油と、PTFEを含む固体潤滑剤とにより構成されるフッ素グリースを溶解するためのものである。当該エアゾール組成物を、潤滑被膜を形成する対象である部材にスプレー塗布すると、塗布部位に付着した潤滑剤組成物からフッ素系溶剤が揮発していき、フッ素グリースからなる潤滑被膜が形成される。
【0033】
本実施の形態に係るエアゾール組成物においては、従来に比べて、フッ素系溶剤の含有量が有効に低減されている。具体的に、フッ素系溶剤の含有量は、当該エアゾール組成物全量100質量%中に対して3.0質量%以上20.0質量%以下である。また、好ましくは、5.0質量%以上15.0質量%以下であり、より好ましくは、8.0質量%以上12.0質量%以下である。本実施の形態に係るエアゾール組成物では、PTFEの含有量を上述した特定の範囲にするとともに、フッ素系溶剤の含有量を3.0質量5以上20.0質量%以下の範囲とすることで、一般的なスプレー装置を用いて良好にエアゾール状に噴霧することができる。
【0034】
フッ素系溶剤の含有量が3.0質量%未満であると、組成物の粘度が上昇しすぎてしまい、一般的なスプレー装置を用いてエアゾール状に噴霧して塗布することができない。一方で、フッ素系溶剤の含有量が20.0質量%を超えると、従来の潤滑剤組成物と比べたときの溶剤使用量の低減が十分ではない。
【0035】
なお、下記実施例でも示すように、従来の潤滑剤組成物においては、フッ素系溶剤の含有量が例えば90質量%以上も含まれており、このような従来の組成物と比べると、本実施の形態に係るエアゾール組成物における上述した範囲のフッ素系溶剤の含有量は、大幅に低減されているといえる。
【0036】
フッ素系溶剤は、ハイドロフルオロエーテル(HFE)を含むことが好ましい。HFEは、ハイドロフルオロエーテルは、下記の一般式で表される。HFEは、化学的浸食性が低く、また、地球温暖化係数が低く環境に対する悪影響が少ない化合物であり、さらに、速乾性を有し、不燃性であって低毒性の化合物である。
CnF2n+1-O-C2x+1
(なお、式(I)中において、n、Xは、それぞれ1以上の整数であり、特に1~6の整数であることが好ましい。)
【0037】
具体的に、HFEとしては、例えば、メチルパーフルオロエーテル、メチルノナフルオロブチルエーテル、メチルノナフルオロイソブチルエーテル、エチルノナフルオロブチルエーテル、エチルノナフルオロイソブチルエーテル、1,1,1,2,2,3,4,5,5,5-デカフルオロ-3-メトキシ-4-(トリフルオロメチル)ペンタン、1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロ-4-(1,1,2,3,3,3-ヘキサフルオロプロポキシ)-ペンタン等が挙げられる。これらの化合物を1種単独で又は2種以上を併せて用いることができる。なお、2種以上のハイドロフルオロエーテル化合物を混合して用いる場合、それらの化合物成分の混合比率は任意であってよい。
【0038】
また、フッ素系溶剤としては、例えば、ハイドロフルオロカーボン(HFC)、ハイドロフルオロオレフィン(HFO)等の他の種類の化合物を含有してもよい。
【0039】
[分散剤]
本実施の形態に係るエアゾール組成物は、好ましくは、分散剤を含有する。分散剤を含有することで、PTFEを含む固体潤滑剤を良好に分散させることができ、フッ素系溶剤に適切に溶解することができる。また、形成される潤滑被膜中に均一に固体潤滑剤が分布するようになることから、安定的に潤滑特性が付与される。
【0040】
分散剤としては、フッ素系溶剤あるいはフッ素油に溶解し、PTFEを含む固体潤滑剤を分散させることができるものであれば、特に限定されない。例えば、炭素数1~10のフッ化アルキル基と、アクリル基とを有する化合物等が挙げられる。
【0041】
分散剤の含有量は、特に限定されないが、当該エアゾール組成物中において0.05質量%以上3.0質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上1.0質量%以下であることがより好ましい。
【実施例0042】
以下、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0043】
[実施例1~3]
(エアゾール組成物の製造)
フッ素系溶剤としてハイドロフルオロエーテル(HFE)を用い、下記表1に示すような組成となるように、そのHFEに、分散剤と、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)とを混合して撹拌分散し、そこにフッ素油を混合した。
【0044】
フッ素系溶剤であるHFEの使用量としては、表1に示すようにエアゾール組成物100質量%に対して、実施例1では8.5質量%、実施例2では7.865質量%、実施例3では3.1質量%とした。このようなフッ素系溶剤の含有量は、従来の潤滑剤組成物(比較例1、2)に比べてはるかに少ないものであった。
【0045】
得られたエアゾール組成物は、エアスプレー装置に充填して、潤滑被膜形成に供した。なお、噴射剤としては空気を用い、エアゾール組成物の粘度に応じ霧化圧力を調整した。
【0046】
[比較例1~5]
比較例1~4では、下記表1に示すような組成となるように、実施例と同様の操作を行って、潤滑被膜形成用のエアゾール組成物を製造した。
【0047】
比較例5では、フッ素系溶剤をまったく使用せず、フッ素オイルにPTFEを混合して潤滑剤組成物を製造した。
【0048】
[参考例1]
参考例1として、フッ素オイルのみからなる潤滑剤組成物を用意した。
【0049】
[評価]
製造した各組成物について、「溶剤(フッ素系溶剤)使用量の低減」、「スプレー塗布の可否」、及び「潤滑性能」に関して評価を行った。
【0050】
また、各組成物の「粘度」について、レオメータ(AntonPaar MCR101)を用いて下記の測定条件で測定した。なお、比較例2、3の粘度は、溶剤粘度とした。
(粘度測定条件)
装置名 :AntonPaar MCR101
コーン :円柱状コーン PP08
ギャップ :0.5mm
せん断速度:100s-1
温度 :25℃
【0051】
「溶剤使用量の低減」については、従来の潤滑剤組成物に相当する比較例2を基準として、使用量を80%以上低減できた場合を「○」とし、使用量を60%以上低減できたものの未だ十分な低減とならなかった場合を「△」とし、使用量をほとんど低減できなかった場合を「×」として評価した。また、「スプレー塗布の可否」については、エアスプレーによる霧化の可否で判断し、霧化できスプレー塗布できた場合を「○」とし、霧化できずあるいは目詰まりが生じてスプレー塗布できなかった場合を「×」として評価した。
【0052】
さらに、「潤滑性能」については、SRV試験機を用いた潤滑性能試験を行い、摩擦係数により評価した。具体的な試験条件は以下のとおりとし、試験の結果、摩擦係数が0.2以下であった場合を潤滑性能が良好「○」とし、摩擦係数が0.2を超えた場合を潤滑性能が不十分「×」として評価した。
(SRV試験機を用いた潤滑性能試験)
試験片 :POMシリンダー(φ15×22mm)
POMディスク(φ24×7.9mm)
試料 :0.02g(溶剤を含む場合は揮発後の有効成分量)
荷重 :50N
摺動条件:10Hz.1mm
時間 :15分
【0053】
【表1】
【0054】
[結果]
表1に示されるように、実施例1~3のエアゾール組成物では、フッ素系溶剤の使用量が大幅に低減されたとともに、エアゾール状に噴霧して良好にスプレー塗布することができ、均一な潤滑被膜を形成することができた。さらに、優れた潤滑性能も奏した。
【0055】
一方で、比較例1のエアゾール組成物では、フッ素系溶剤の低減量が十分ではなかった。また、比較例2、3のエアゾール組成物では、フッ素系溶剤の含有量が94質量%を超えるものであり、溶剤使用量の低減した組成物とはならなかった。また、比較例4の組成物では、フッ素系溶剤の使用量は大幅に低減できたものの、粘度が上昇して、スプレー塗布することができなかった。また、フッ素系溶剤をまったく使用しなかった比較例5の組成物においても、スプレー塗布は不可であった。