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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024102551
(43)【公開日】2024-07-31
(54)【発明の名称】PRパルス電解用銅めっき液
(51)【国際特許分類】
   C25D 5/18 20060101AFI20240724BHJP
   C25D 3/38 20060101ALI20240724BHJP
【FI】
C25D5/18
C25D3/38 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023006518
(22)【出願日】2023-01-19
(71)【出願人】
【識別番号】591021028
【氏名又は名称】奥野製薬工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中 亮太
(72)【発明者】
【氏名】吉川 純二
【テーマコード(参考)】
4K023
4K024
【Fターム(参考)】
4K023AA19
4K023BA06
4K023CB11
4K023DA07
4K023EA01
4K024AA09
4K024AB01
4K024AB09
4K024BA09
4K024BB13
4K024CA01
4K024CA02
4K024CA07
4K024CB05
4K024DA03
4K024DA04
4K024GA16
(57)【要約】      (修正有)
【課題】本発明は、新たに、PRパルス電解用銅めっき液を提供する事を目的とする。
【解決手段】銅(II)イオン、酸成分、ハロゲン化物イオン、及び窒素化合物を含有する、PRパルス電解用銅めっき液。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
PRパルス電解用銅めっき液であって、
銅(II)イオン、
酸成分、
ハロゲン化物イオン、及び
窒素化合物を含有する、PRパルス電解用銅めっき液。
【請求項2】
前記ハロゲン化物イオンは、塩化物イオン、及び臭化物イオンから成る群から選ばれる少なくとも1種のハロゲン化物イオンである、請求項1に記載のPRパルス電解用銅めっき液。
【請求項3】
前記PRパルス電解用銅めっき液中、前記ハロゲン化物イオンを50mg/L~500mg/L含み、前記酸成分は100g/L以下である、請求項1に記載のPRパルス電解用銅めっき液。
【請求項4】
前記窒素化合物は、第三級アミン化合物、及び第四級アンモニウムカチオン化合物から成る群から選ばれる少なくとも1種の窒素化合物である、請求項1に記載のPRパルス電解用銅めっき液。
【請求項5】
前記窒素化合物は、第三級アミン化合物、及び第四級アンモニウムカチオン化合物から構成される重合体、及び/又は共重合体から成る群から選ばれる少なくとも1種の窒素化合物である、請求項1に記載のPRパルス電解用銅めっき液。
【請求項6】
前記PRパルス電解用銅めっき液中、前記窒素化合物を0.1mg/L~30mg/L含む、請求項1に記載のPRパルス電解用銅めっき液。
【請求項7】
含硫黄有機化合物を実質的に含まない、請求項1に記載のPRパルス電解用銅めっき液。
【請求項8】
PRパルス電解法に依る銅めっき方法であって、
(1)PRパルス電解用銅めっき液中で、被めっき物をカソードとして、PRパルス電流を通電して電解銅めっきを行う工程、を含み、
前記PRパルス電解用銅めっき液は、
銅(II)イオン、
酸成分、
ハロゲン化物イオン、及び
窒素化合物を含有する、PRパルス電解法に依る銅めっき方法。
【請求項9】
前記工程(1)を、
正電解(析出電流)を0.5ASD~200ASDとし、及び
陽極/陰極の電流密度比(陽極の電流密度/陰極の電流密度)を0.5~3とする、
PRパルスの電解条件で行う、請求項8に記載のPRパルス電解法に依る銅めっき方法。
【請求項10】
前記工程(1)を、
正電流印加時間を50ミリ秒~300ミリ秒とし、及び
正電流/負電流の印加時間比(正電流印加時間/負電流印加時間)を7以上、30未満とする、
PRパルスの電解条件で行う、請求項8に記載のPRパルス電解法に依る銅めっき方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PRパルス電解用銅めっき液に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスでは、リードフレームに半導体素子が実装され、半導体素子とリードフレームとの間はボンディングワイヤに依り電気的に接合される。その後、実装された半導体素子、及びリードフレームは、モールド樹脂に依り固定される。近年、半導体素子の高効率化が原因で生じる発熱を抑える事や、半導体デバイスの部品の小型化においてモールド樹脂の密着性を高める事が求められている。
【0003】
半導体素子とリードフレームとの接合において、リードフレーム自身、及びその表面に、比表面積(単位質量当たり表面積)、或は表面積率(s-ratio等)が高い皮膜を形成し、リードフレームとモールド樹脂との密着を強化する方法が報告されている。
【0004】
例えば、特許文献1は、硫酸銅・5水和物を200g/L、硫酸を25g/L、塩酸を400ppm、インヒビターを13.75重量%、アクセラレータを7.5重量%含有するめっき液を開示する。このめっき液を用いて得られた粗面化Cuめっきの表面粗さSaは3.0であり、めっき層に対するモールド樹脂の密着強度は25MPa~30MPa程度である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2022-127982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、新たに、PRパルス電解用銅めっき液を提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意検討した結果、PRパルス電解用銅めっき液に、窒素化合物(レベラー)を加える事に依り、硫酸銅等を用いる銅(II)イオン水溶液を用いて、リードフレーム表面をパルス電解で銅皮膜を形成すると、リードフレーム表面が粗化され、リードフレームをモールド樹脂で接合(モールド)した場合、リードフレームとモールド樹脂との間の密着性に優れた粗化表面を有する銅皮膜(銅めっき)を形成する技術を開発した。
【0008】
即ち、本発明は、次のPR(Periodic Reverse)パルス電解用銅めっき液、及び、PRパルス電解法に依る銅めっき方法を包含する。
【0009】
項1.
PRパルス電解用銅めっき液であって、
銅(II)イオン、
酸成分、
ハロゲン化物イオン、及び
窒素化合物(レベラー)を含有する、PRパルス電解用銅めっき液。
【0010】
項2.
前記ハロゲン化物イオンは、塩化物イオン、及び臭化物イオンから成る群から選ばれる少なくとも1種のハロゲン化物イオンである、前記項1に記載のPRパルス電解用銅めっき液。
【0011】
項3.
前記PRパルス電解用銅めっき液中、前記ハロゲン化物イオンを50mg/L~500mg/L含み、前記酸成分は100g/L以下である、前記項1に記載のPRパルス電解用銅めっき液。
【0012】
項4.
前記窒素化合物は、第三級アミン化合物、及び第四級アンモニウムカチオン化合物から成る群から選ばれる少なくとも1種の窒素化合物である、前記項1に記載のPRパルス電解用銅めっき液。
【0013】
項5.
前記窒素化合物は、第三級アミン化合物、及び/又は第四級アンモニウムカチオン化合物から構成される重合体、及び/又は共重合体から成る群から選ばれる少なくとも1種の窒素化合物である、前記項1に記載のPRパルス電解用銅めっき液。
【0014】
項6.
前記PRパルス電解用銅めっき液中、前記窒素化合物を0.1mg/L~30mg/L含む、前記項1に記載のPRパルス電解用銅めっき液。
【0015】
項7.
含硫黄有機化合物を実質的に含まない、前記項1に記載のPRパルス電解用銅めっき液。
【0016】
項8.
PRパルス電解法に依る銅めっき方法であって、
(1)PRパルス電解用銅めっき液中で、被めっき物をカソードとして、PRパルス電流を通電して電解銅めっきを行う工程、を含み、
前記PRパルス電解用銅めっき液は、
銅(II)イオン、
酸成分、
ハロゲン化物イオン、及び
窒素化合物(レベラー)を含有する、PRパルス電解法に依る銅めっき方法。
【0017】
項9.
前記工程(1)を、
正電解(析出電流)を0.5ASD~200ASDとし、及び
陽極/陰極の電流密度比(陽極の電流密度/陰極の電流密度)を0.5~3とする、
PRパルスの電解条件で行う、前記項8に記載のPRパルス電解法に依る銅めっき方法。
【0018】
項10.
前記工程(1)を、
正電流印加時間を50ミリ秒~300ミリ秒とし、及び
正電流/負電流の印加時間比(正電流印加時間/負電流印加時間)を7以上、30未満とする、
PRパルスの電解条件で行う、前記項8に記載のPRパルス電解法に依る銅めっき方法。
【0019】
本発明の銅めっき液を用いて、PRパルス電解法に依る銅めっき方法に依り、リードフレームに銅めっきを行うと、リードフレームの表面が粗化され、リードフレーム(金属材料)をモールド樹脂で接合(モールド)した場合、リードフレームとモールド樹脂との密着性に優れた粗化表面を有する銅皮膜(銅めっき)を形成する事が出来る。
【0020】
その形成される銅皮膜の粗化表面は、優れた、モールド樹脂との密着強度を有し、優れた、ボンディングワイヤとの密着強度を有する。
【0021】
本発明の銅めっき液を用いる、PRパルス電解法に依る銅めっき方法は、より短時間で銅皮膜を形成する事が出来る。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、新たに、PRパルス電解用銅めっき液を提供する事が出来る。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0024】
本発明を表す実施の形態は、発明の趣旨がより良く理解出来る説明であり、特に指定のない限り、発明内容を限定するものではない。
【0025】
本明細書において、「含む」及び「含有」は、「含む(comprise)」、「実質的にのみから成る(consist essentially of)」、及び「のみから成る(consist of)」の何れも包含する概念である。
【0026】
本明細書において、数値範囲を「A~B」で示す場合、A以上B以下を意味する。
【0027】
[1]PRパルス電解用銅めっき液
本発明のPRパルス電解用銅めっき液は、
銅(II)イオン、
酸成分、
ハロゲン化物イオン、及び
窒素化合物(レベラー)を含有する。
【0028】
本発明のPRパルス電解用銅めっき液は、ハロゲン化物イオンは、好ましくは、塩化物イオン、及び臭化物イオンから成る群から選ばれる少なくとも1種のハロゲン化物イオンである。
【0029】
本発明のPRパルス電解用銅めっき液は、好ましくは、PRパルス電解用銅めっき液中、ハロゲン化物イオンを50mg/L~500mg/L含み、酸成分は100g/L以下である。
【0030】
本発明のPRパルス電解用銅めっき液は、窒素化合物は、好ましくは、第三級アミン化合物、及び第四級アンモニウムカチオン化合物から成る群から選ばれる少なくとも1種の窒素化合物である。
【0031】
本発明のPRパルス電解用銅めっき液は、窒素化合物は、好ましくは、第三級アミン化合物、及び/又は第四級アンモニウムカチオン化合物から構成される重合体、及び/又は共重合体から成る群から選ばれる少なくとも1種の窒素化合物である。
【0032】
本発明のPRパルス電解用銅めっき液は、好ましくは、記PRパルス電解用銅めっき液中、窒素化合物を0.1mg/L~30mg/L含む。
【0033】
本発明のPRパルス電解用銅めっき液は、好ましくは、含硫黄有機化合物(ブライトナー)を実質的に含まない。
【0034】
PRパルス電解用銅めっき液の効果
PRパルス電解用銅めっき液を用いて、PRパルス電解法に依る銅めっき方法に依り、リードフレームに銅めっきを行うと、次の効果を発揮する。
【0035】
PRパルス電解用銅めっき液は、銅イオン(I)を被めっき物表層の対流層に効果的に捕捉する事で、リードフレームと生成した銅皮膜の密着性が向上する。
【0036】
リードフレームの表面が粗化され、リードフレーム(金属材料)をモールド樹脂で接合(モールド)した場合、リードフレームとモールド樹脂との密着性に優れた粗化表面を有する銅皮膜を形成する事が出来る。その形成される銅皮膜の粗化表面は、モールド樹脂との優れた密着強度を有し、ボンディングワイヤとの優れた密着強度を有する。
【0037】
PRパルス電解用銅めっき液は、窒素化合物(レベラー)を用いる。PRパルス電解用銅めっき液は、窒素化合物(レベラー)を含む事で、リバース電解時に生成する一価銅(銅イオン(I))を効率的に捕捉し、続く析出電解時に捕捉された一価銅が速やかに電析する事で、効率的に瘤(こぶ)状めっき(銅皮膜)を形成する。
【0038】
PRパルス電解法に依る銅めっき方法に依り、一価銅を効率的に捕捉する事が出来、析出時の銅の供給が滞らず、瘤が効率的に析出する。瘤が効率的に析出し、実装後に熱履歴や高温多湿条件に曝されても、モールド樹脂との剥がれや樹脂のクラックが生じず、接着への信頼性が担保される。銅皮膜は、ボンディングワイヤとの密着強度が良好であり、接続への信頼性が担保される。
【0039】
PRパルス電解用銅めっき液は、窒素化合物(レベラー)を含む事で、高い算術平均高さ(Sa)、及び比表面積を有し、且つ均一に瘤状の銅皮膜(めっき皮膜)を形成する事が出来る。
【0040】
形成される銅皮膜は、ボンディングワイヤとの密着強度が高く、モールド樹脂との密着性に優れた瘤状の粗化皮膜を有する。この銅皮膜は、テープ剥離試験において、基材と剥離する事無く、良好な皮膜密着性を持つ。
【0041】
PRパルス電解法に依る銅めっき方法に依り、リードフレームに銅めっきを行うと、より短時間で、つまり、めっき時間を大幅に短縮し(60秒→20秒)、銅皮膜を形成する事が出来る。粗化銅めっき処理完了までの所要時間が短い程、続くシアン化Agめっき処理へのタイムラグは短く成り、銅皮膜を形成する生産性は高い。
【0042】
PRパルス電解用銅めっき液は、好ましくは、含硫黄有機化合物(ブライトナー)を添加しない。PRパルス電解用銅めっき液は、窒素化合物(レベラー)を使用し、好ましくは、含硫黄有機化合物を含有しない事で、より短時間で、高い算術平均高さ(Sa)、高い比表面積、均一で、緻密な、瘤状の粗化めっき皮膜を形成する事が出来る。形成される銅皮膜は、樹脂密着強度に優れ、シアン化Agめっき後、ワイヤボンディング強度も優れる。
【0043】
本発明のPRパルス電解用銅めっき液は、好ましくは、窒素化合物(レベラー)として、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド共重合体を用い、追加的に、非イオン系ポリエーテル高分子界面活性剤(インヒビター)として、ポリエチレングリコール(PEG)を用いる事に依り、PRパルス電解法に依る銅めっき方法に依り、リードフレーム表面に、瘤状の粒子が密な状態(粗化表面)、且つ均一に形成する事が出来る。
【0044】
[1-1]銅(II)イオン
本発明のPRパルス電解用銅めっき液は、銅(II)イオンを含有する。
【0045】
銅(II)イオンを生成する銅イオン(II)源は、めっき液中に可溶性の銅化合物であれば、特に限定なく使用出来る。
【0046】
銅イオン(II)源を提供する銅化合物は、好ましくは、硫酸銅(II)、酸化銅(II)、塩化銅(II)、炭酸銅(II)、ピロリン酸銅(II)、メタンスルホン酸銅(II)等のアルカンスルホン酸銅(II)、プロパノールスルホン酸銅(II)等のアルカノールスルホン酸銅(II)、カプリル酸銅(II)、ラウリン酸銅(II)、ステアリン酸銅(II)、ナフテン酸銅(II)等の有機酸銅(II)等である。
【0047】
銅イオン(II)源、及び銅化合物は、前記化合物から成る群から選ばれる少なくとも1種の化合物を用いて良く、これらの銅イオン(II)源、及び銅化合物を1種単独で用いても良く、或は2種以上を混合(ブレンド)して用いても良い。
【0048】
PRパルス電解用銅めっき液中の銅(II)イオン濃度は、特に限定無く範囲とする事が出来る。PRパルス電解用銅めっき液中の銅(II)イオン濃度は、好ましくは、10g/L~300g/L程度、より好ましくは、50g/L~270g/L程度の範囲に調整する。
【0049】
[1-2]ハロゲン化物イオン
本発明のPRパルス電解用銅めっき液では、ハロゲン化物イオンを含有する。
【0050】
ハロゲン化物イオンは、好ましくは、塩化物イオン(Cl-)、臭化物イオン(Br-)であり、より好ましくは、塩化物イオン(Cl-)を用いる。
【0051】
ハロゲン化物イオンは、前記化合物から成る群から選ばれる少なくとも1種の化合物を用いて良く、これらのハロゲン化物イオンを1種単独で用いても良く、或は2種以上を混合(ブレンド)して用いても良い。
【0052】
PRパルス電解用銅めっき液中のハロゲン化物イオン含有量は、特に限定無く範囲とする事が出来る。PRパルス電解用銅めっき液中のハロゲン化物イオン含有量は、好ましくは、0mg/L~500mg/L程度、より好ましくは、5mg/L(或は50mg/L)~500mg/L程度、更により好ましくは、50mg/L~200mg/L程度の範囲に調整する。ハロゲン化物イオン含有量は、必要に応じて、塩酸、塩化ナトリウム等を用いて、PRパルス電解用銅めっき液中のハロゲン化物イオン濃度を調整する。
【0053】
[1-3]窒素化合物(レベラー)
本発明のPRパルス電解用銅めっき液は、窒素化合物(レベラー)を含有する。
【0054】
窒素化合物は、例えば、メチルジアリルアミン・ジアリルジメチルアンモニムクロリド重合体、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド共重合体、ジアリルメチルエチルアンモニウムエチルサルフェイト重合体、フェナジン化合物、サフラニン化合物、ポリアルキレンイミン、チオ尿素誘導体、ポリアクリル酸アミド等の窒素化合物を使用する。
【0055】
窒素化合物は、好ましくは、第三級アミン化合物、及び第四級アンモニウムカチオン化合物から成る群から選ばれる少なくとも1種の窒素化合物である。
【0056】
窒素化合物は、好ましくは、第三級アミン化合物、及び/又は第四級アンモニウムカチオン化合物から構成される重合体、及び/又は共重合体から成る群から選ばれる少なくとも1種の窒素化合物である。
【0057】
窒素化合物は、より好ましくは、メチルジアリルアミン・ジアリルジメチルアンモニムクロリド重合体、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド共重合体、ジアリルメチルエチルアンモニウムエチルサルフェイト重合体等の窒素化合物を使用する。
【0058】
窒素化合物は、前記化合物から成る群から選ばれる少なくとも1種の化合物を用いて良く、これらの窒素化合物を1種単独で用いても良く、或は2種以上を混合(ブレンド)して用いても良い。
【0059】
PRパルス電解用銅めっき液中の窒素化合物含有量は、特に限定無く範囲とする事が出来る。PRパルス電解用銅めっき液中の窒素化合物含有量は、好ましくは、0.1mg/L~30mg/L程度、より好ましくは、1mg/L~20mg/L、更に好ましくは、2mg/L~10mg程度の範囲に調整する。
【0060】
窒素化合物(レベラー)の添加効果
PRパルス電解用銅めっき液は、窒素化合物(レベラー)を含有する事に依り、めっき時間を短縮する事が出来、被めっき物(基材)との密着性に優れる銅皮膜を形成する事が出来る。
【0061】
PRパルス電解用銅めっき液は、窒素化合物を含有する事に依り、リバース電解時に放出される一価銅を効率的に捕捉し、続く析出電解時に捕捉された一価銅が速やかに電析する事で、効率的に、瘤状めっきを形成する事が出来る。
【0062】
PRパルス電解処理では、析出時の銅の供給は滞らず、効率的に瘤が析出する。効率的に瘤が析出し、実装後に熱履歴や高温多湿条件に曝され続けても、モールド樹脂との剥がれは生じず、樹脂のクラックは生じず、接着信頼性を担保する事が出来る。形成される皮膜は、ボンディングワイヤとの密着強度が高く、接続信頼性が高い。
【0063】
PRパルス電解用銅めっき液は、窒素化合物を含有する事に依り、高い算術平均高さ(Sa)、及び比表面積を有し、且つ均一に瘤状めっき皮膜を形成する事が出来る。形成される銅皮膜は、ボンディングワイヤとの密着強度が良好であり、モールド樹脂との密着性に優れる粗化皮膜と成る。形成される粒子集合体銅皮膜は、テープ剥離試験において、被めっき物(基材)と剥離する事無く、良好な密着性を持つ。
【0064】
本発明のPRパルス電解法に依る銅めっき方法は、めっき時間を大幅に短縮する事が出来る(60秒→20秒)。
【0065】
[1-4]酸成分
本発明のPRパルス電解用銅めっき液では、酸成分を含有し、酸性水溶液である。
【0066】
酸成分は、好ましくは、有機酸、及び無機酸から成る群から選ばれる少なくとも1種の酸成分であり、PRパルス電解用銅めっき液を酸性銅めっき液とする事が出来る。
【0067】
有機酸は、好ましくは、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、1-プロパンスルホン酸、2-プロパンスルホン酸等のアルカンスルホン酸、2-ヒドロキシエタン-1-スルホン酸、2-ヒドロキシプロパン-1-スルホン酸、1-ヒドロキシプロパン-2-スルホン酸、3-ヒドロキシプロパン-1-スルホン酸等のアルカノールスルホン酸等である。
【0068】
無機酸は、好ましくは、硫酸、塩酸等である。
【0069】
酸成分は、前記化合物から成る群から選ばれる少なくとも1種の化合物を用いて良く、これらの酸成分を1種単独で用いても良く、或は2種以上を混合(ブレンド)して用いても良い。
【0070】
PRパルス電解用銅めっき液中の酸成分含有量は、特に限定無く範囲とする事が出来る。PRパルス電解用銅めっき液中の酸成分含有量は、好ましくは、100g/L以下であり、より好ましくは、0g/L~100g/L程度、更により好ましくは、1g/L~80g/L程度、特に好ましくは、2g/L~50g/L程度の範囲に調整する。
【0071】
[1-5]非イオン系ポリエーテル高分子界面活性剤(インヒビター)
本発明のPRパルス電解用銅めっき液では、好ましくは、更に、非イオン系ポリエーテル高分子界面活性剤を含有する。
【0072】
非イオン系ポリエーテル高分子界面活性剤は、ポリマー成分と称されているものである。非イオン系ポリエーテル高分子界面活性剤は、好ましくは、硫酸銅めっき液に配合されている添加剤を用いる。
【0073】
非イオン系ポリエーテル高分子界面活性剤は、好ましくは、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリオキシアルキレングリコール等のポリエーテル化合物等である。
【0074】
非イオン系ポリエーテル高分子界面活性剤は、前記化合物から成る群から選ばれる少なくとも1種の化合物を用いて良く、これらの非イオン系ポリエーテル高分子界面活性剤を1種単独で用いても良く、或は2種以上を混合(ブレンド)して用いても良い。
【0075】
PRパルス電解用銅めっき液中の非イオン系ポリエーテル高分子界面活性剤含有量は、特に限定無く範囲とする事が出来る。PRパルス電解用銅めっき液中の非イオン系ポリエーテル高分子界面活性剤含有量は、好ましくは、0.01g/L~10g/L程度、より好ましくは、0.1g/L~5g/L程度、更に好ましくは、0.2g/L~2g/L程度の範囲に調整する。
【0076】
[1-6]含硫黄有機化合物
本発明のPRパルス電解用銅めっき液は、好ましくは、含硫黄有機化合物(ブライトナー)を実質的に含まない。
【0077】
「含硫黄有機化合物」は、銅めっき処理を行った場合に、めっき皮膜中に硫黄が共析する性質を有する化合物を意味する。従って、前記「[1-1]銅(II)イオン」の項目で説明した、銅(II)イオンを生成する銅イオン(II)源としての、硫酸銅(II)等の銅化合物(硫酸イオン)、pH調整剤等として用いられる硫酸は、無機化合物であるし、銅めっき処理を行った場合に、めっき皮膜中に硫黄が共析する性質を有する化合物ではなく、その「含硫黄有機化合物」に含まれない。
【0078】
含硫黄有機化合物は、一般に、3-メルカプトプロパンスルホン酸、そのナトリウム塩、ビス(3-スルホプロピル)ジスルフィド、その2ナトリウム塩、N,N-ジメチルジチオカルバミン酸(3-スルホプロピル)エステル、そのナトリウム塩等の硫黄化合物が有る。
【0079】
含硫黄有機化合物は、例えば、促進剤として用いられるチオ硫酸又はその塩(例えば、ナトリウム塩等)、安定剤として用いられるチオ尿素等有る。
【0080】
含硫黄有機化合物を「実質的に含まない」とは、銅めっき浴を用いた場合に形成される銅めっき皮膜における、含硫黄有機化合物由来の硫黄含有率が約0.005質量%以下、或は0.001質量%以下となる場合を意味する。銅めっき皮膜における、含硫黄有機化合物由来の硫黄含有率は、燃焼法に依り、炭素・硫黄分析装置等を用いて測定する。含硫黄有機化合物を「実質的に含まない」とは、銅めっき浴における、含硫黄有機化合物由来の硫黄化合物の濃度が、銅めっき皮膜に含まれる硫黄成分が前記数値範囲を超えない程度の微量である場合を除外するものではなく、銅めっき浴に硫黄化合物が全く含まれない事のみを意味するものではない。
【0081】
本発明のPRパルス電解用銅めっき液は、銅めっき皮膜に、含硫黄有機化合物由来の硫黄成分が前記数値範囲を超えない程度に、微量に含まれていても良く、含硫黄有機化合物が完全に含まれない使用態様でも良い。
【0082】
含硫黄有機化合物(ブライトナー)の非添加効果
本発明のPRパルス電解用銅めっき液は、含硫黄有機化合物(ブライトナー)を実質的に含有しない事に依り、良好に、瘤状の粒子集合体銅皮膜を形成する事が出来、形成される銅皮膜の比表面積は高く、優れたボンディング強度を示す事が出来る。
【0083】
PRパルス電解用銅めっき液が、ある程度の量で含硫黄有機化合物を含むと、銅皮膜上で、表面Cu粒子の均一化が促進され、良好に、瘤状粒子集合体銅皮膜を得る事が出来ない傾向が有る。形成される銅皮膜は、比表面積が低くなり、ワイヤボンディング強度が低下する傾向が有る。
【0084】
[2]PRパルス電解法に依る銅めっき方法
本発明のPRパルス電解法に依る銅めっき方法は、
(1)PRパルス電解用銅めっき液中で、被めっき物をカソードとして、PRパルス電流を通電して電解銅めっきを行う工程を含む。
【0085】
本発明のPRパルス電解法に依る銅めっき方法で用いる前記PRパルス電解用銅めっき液は、前記本発明のPRパルス電解用銅めっき液であり、
銅(II)イオン、
酸成分、
ハロゲン化物イオン、及び
窒素化合物を含有する。
【0086】
本発明のPRパルス電解法に依る銅めっき方法は、好ましくは、
前記工程(1)を、
正電解(析出電流)を0.5ASD~200ASDとし、及び
陽極(正電解)/陰極(負電解)の電流密度比(陽極(正電解)の電流密度/陰極(負電解)の電流密度)を0.5~3(好ましくは、0.5以上、3未満の正電流密度リッチな条件)とする、PRパルスの電解条件で行う。
【0087】
本発明のPRパルス電解法に依る銅めっき方法は、好ましくは、
前記工程(1)を、
正電流印加時間を50ミリ秒~300ミリ秒とし、及び
正電流/負電流の印加時間比(正電流印加時間/負電流印加時間)を7以上、30未満とする、PRパルスの電解条件で行う。
【0088】
電解銅めっき液を用いる際のPRパルス電流の通電条件を記す。
【0089】
[2-1]陽極/陰極の電流密度比
銅めっき皮膜を析出する為の正電解(陽極)の電流密度(析出電流)を、好ましくは、0.1A/dm2(ASD)~300A/dm2(ASD)程度、より好ましくは、0.5A/dm2(ASD)~200A/dm2(ASD)程度、更に好ましくは、5A/dm2(ASD)~100A/dm2(ASD)程度の範囲に調整する。
【0090】
銅めっき皮膜を溶解する為の負(逆)電解(負極)の電流密度(溶解電流)を、好ましくは、0.1A/dm2(ASD)~200A/dm2(ASD)程度、より好ましくは、0.2A/dm2(ASD)~100A/dm2(ASD)程度、更に好ましくは、10A/dm2(ASD)~50A/dm2(ASD)程度の範囲に調整する。
【0091】
PRパルス電解法に依る銅めっき方法では、工程(1)を、好ましくは、正電解(析出電流)を0.5ASD~200ASDとし、陽極(正電解)/陰極(負電解)の電流密度比(陽極(正電解)の電流密度/陰極(負電解)の電流密度)を、好ましくは、0.5~3程度、より好ましくは、0.5以上、3未満程度の範囲に調整し、正電流密度リッチな条件で、PRパルスの電解で行う。
【0092】
[2-2]正電流/負電流の印加時間比
被めっき物に銅を析出させる為の正電流印加時間を、好ましくは、10ミリ秒(msec)~1,000ミリ秒程度、より好ましくは、20ミリ秒~500ミリ秒程度、より好ましくは、50ミリ秒~300ミリ秒程度の範囲に調整する。
【0093】
被めっき物から銅を溶解(溶出)させる為の負(逆)電流印加時間を、好ましくは、0.1ミリ秒~200ミリ秒程度、好ましくは、0.1ミリ秒~100ミリ秒程度、好ましくは、4ミリ秒~25ミリ秒程度の範囲に調整する。
【0094】
PRパルス電解法に依る銅めっき方法では、工程(1)を、好ましくは、正電流印加時間を50ミリ秒~300ミリ秒とし、正電流/負電流の印加時間比(正電流印加時間/負電流印加時間)を、好ましくは、7以上、30未満の条件に調整し、PRパルスの電解を行う。
【0095】
[2-3]電解銅めっき
前処理
銅めっき処理を行う前に、前処理方法を施しても良い。
【0096】
リードフレームに前処理を行う。前処理は、銅合金であるリードフレームの表面に付着している油分、金属粉等の汚れを除去し、銅めっきに適した清浄な状態にする為行う。前処理は、好ましくは、脱脂処理、酸洗い等の処理であり、より好ましくは、ソフトエッチング、脱脂処理、及び酸洗いを実施する。
【0097】
皮膜形成処理(粗化銅めっき処理)
第1電流:析出電流
第2電流:溶解電流
PRパルス電解法に依る銅めっき方法は、先ず、析出電流(第1電流)を印加した後に、溶解電流(第2電流)を印加する。析出電流を第1電流とする事で、被めっき物(基材、リードフレーム)の表面を荒らす事無く(侵す事無く)、非破壊的に銅めっきを形成する事が可能である。
【0098】
PRパルス電解用銅めっき液を用いて、リードフレームを電極として、(1)第1電流を第1期間流し、前記リードフレーム表面に皮膜を形成する第1膜形成処理(析出電解、正電流密度50ASD、正印加時間100ミリ秒)と、(2)前記第1膜形成処理後に、前記リードフレームを電極として第2電流を第2期間流し、形成した皮膜を溶解する皮膜溶解処理(溶解電解、負電流密度25ASD、負印加時間12.5ミリ秒)と、(3)前記(1)膜形成処理と(2)皮膜溶解処理とを、所定回数、繰り返す事を経て、前記リードフレームに銅めっきを施す。
【0099】
めっき液の液温は、好ましくは、10℃~40℃とする。
【0100】
めっき液の攪拌方法は、好ましくは、空気攪拌、噴流攪拌等を行い、両者を併用しても良い。
【0101】
PRパルス電解用銅めっき液の被めっき物(陰極、カソード)は、好ましくは、リードフレームを用いる。
【0102】
銅めっき処理を行う際に、陽極(アノード)は、好ましくは、可溶性アノード(陽極)及び不溶性アノード(陽極)の何れも用いる。不溶性アノード(不溶性陽極)は、好ましくは、チタンに酸化イリジウム(Ir)をコーティングしたもの、チタンに白金めっきしたもの等を用いる。可溶性アノード、好ましくは、リン含有量0.02質量%~0.06質量%の含リン銅を用いる。また、アノードの形状は、好ましくは、棒状、球状、板状等の各種形状のアノードを用いる。
【0103】
銅めっき処理は、リードフレーム上に形成した銅めっき皮膜の算術平均高さ(Sa)が2.3μm~2.7μm程度に成る様に調整し、(1)膜形成処理と(2)皮膜溶解処理とを、所定回数、繰り返す(処理時間20秒~60秒程度)。
【0104】
PRパルス電解用銅めっき液は、窒素化合物(レベラー)を含有する事に依り、めっき時間を20秒としても、算術平均高さ(Sa)が2.3μm~2.7μmである銅皮膜を形成する事が出来る。PRパルス電解用銅めっき液を用いると、粗化銅めっき処理完了までの所要時間が短く、連続的なシアン化Agめっきへのタイムラグが短くなり、銅皮膜形成の高い生産性に繋がる。
【0105】
シアン化Agめっき処理
粗化銅めっき処理後、シアン化Agめっきで最終表面処理を行う(処理時間15秒~30秒程度)。
【0106】
[2-4]好ましいPRパルス電解用銅めっき液
本発明のPRパルス電解用銅めっき液は、特に、基本浴を硫酸銅めっき液とする場合に良好な効果を得る事が出来る。
【0107】
【表1】
【0108】
適用例(1)
PRパルス電解用銅めっき液は、銅塩(銅(II)イオン)、ハロゲン化物イオン、窒素化合物(第4級アミン化合物(レベラー))を含有し、追加的に、酸成分、非イオン系ポリエーテル高分子界面活性剤(インヒビター)を含有する。
【0109】
PRパルス電解用銅めっき液は、好ましくは、含硫黄有機化合物(アクセラレータ)を実質的に使用しない。
【0110】
適用例(2)
PRパルス電解用銅めっき液は、アミン化合物(レベラー)は、好ましくは、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド共重合体であり、非イオン系ポリエーテル高分子界面活性剤(インヒビター)は、好ましくは、ポリエチレングリコール(PEG)である。
【0111】
適用例(3)
PRパルス電解用銅めっき液を用いる、PRパルス電解法に依る銅めっき方法は、好ましい用途は、リードフレームに銅めっきを施すめっき処理方法である。PRパルス電解用銅めっき液を用いて、(1)リードフレームを電極として第1電流を第1期間流し、前記リードフレーム表面に皮膜を形成する第1膜形成処理と、(2)前記第1膜形成処理後に、前記リードフレームを電極として第2電流を第2期間流し、皮膜を溶解する皮膜溶解処理と、(3)これら(1)膜形成処理と(2)皮膜溶解処理とを、所定回数繰り返す事に依り、前記リードフレームに銅めっきを施す。
【0112】
めっき処理方法に依り、リードフレームの表面に銅めっき層が形成され、次いで、形成された皮膜を溶解し、次いで、皮膜の溶解処理をした部分へめっきを析出させる操作を繰り返す事に依り、リードフレーム表面に、瘤状の、粗化された、粒子集合体銅めっき皮膜を形成する事が出来る。
【0113】
めっき処理方法に依り、銅イオン(I)を被めっき物表層の対流層に効果的に捕捉する事で、リードフレームと生成した銅めっき皮膜の密着性は優れる。
【0114】
めっき処理方法(電解条件)に依り、リードフレームに銅めっきを行うと、リードフレーム表面に、瘤状の粒子が密な状態、且つ均一に形成され、リードフレームの表面が粗化され、リードフレーム(金属材料)をモールド樹脂で接合(モールド)した場合、モールド樹脂との密着性に優れた粗化表面を形成する事が出来る。この粗化表面は、ボンディングワイヤとの密着強度が高い。
【実施例0115】
以下に、実施例を示して本発明を具体的に説明する。
【0116】
本発明は、以下の具体的な実施例に限定されない。
【0117】
[1]硫酸銅めっき液組成、及び硫酸銅めっき工程
(1)前処理
リードフレームを、脱脂液(商品名:DP-320クリーン 奥野製薬工業(株)製、100mL/L水溶液)に、45℃で5分間浸漬した後(脱脂処理)、1分間水洗し、100g/Lの希硫酸に、1分間浸漬して(酸洗い)、前処理を行った。
【0118】
(2)皮膜形成処理(粗化銅めっき処理)
表2に示すPRパルス電解用銅めっき液(硫酸銅めっき液)を調製した。
【0119】
PRパルス電解用銅めっき液(硫酸銅めっき液)を用いて、各めっき条件で、PRパルス電解法に依って、電解銅めっきを行い、銅めっき皮膜を形成した。
【0120】
【表2】
【0121】
陰極(カソード):リードフレーム(被めっき物)
陽極(アノード):不溶性陽極(Irコーティング)
銅めっき処理は、リードフレーム上に形成した銅めっき皮膜の算術平均高さ(Sa)が2.3μm~2.7μm程度に成る様に調整し、(1)膜形成処理と(2)皮膜溶解処理とを、所定回数、繰り返した(処理時間20秒~60秒程度)。
【0122】
(3)シアン化Agめっき処理
公知のシアン化Agめっきに依り、処理時間15秒以上、30秒未満で、最終表面処理を行った。
【0123】
[2]めっき後の粗化銅皮膜の評価項目
(1)算術平均高さ(Sa)測定(Cu皮膜のSa)
粗化銅めっき処理まで行った試験片(Cu皮膜)の算術平均高さ(Sa)を測定する。算術平均高さ(Sa)は、レーザー顕微鏡(KEYENCE VK-X3000)を用い、非接触で測定する。
【0124】
Cu皮膜の算術平均高さ(Sa)は、好ましくは、0.7μm~3.0μmであり、より好ましくは、2.0μm以上、更に好ましくは、2.3μm以上であり、特に好ましくは、2.4μm以上である。
【0125】
(2)比表面積測定(Cu皮膜の比表面積)
粗化銅めっき処理まで行った試験片(Cu皮膜)の比表面積を、BET法に基づいて測定する。
【0126】
比表面積測定(Krガス吸着法)
試料:Cu皮膜
測定分析装置:マイクロメリティックス社製3Flex(比表面積測定装置)
マイクロメリティックス社製Smart VacPrep(前処理装置)
測定分析方法:Cu皮膜を、大型特殊セルに採取し、前処理装置を用いて110℃、6時間の減圧脱気処理を施した後、Krガスに依る比表面積測定を行う。
【0127】
KrガスのMolecular Cross-Sectional Areaは、0.202nm2に設定する。
【0128】
測定分析結果:測定は、約P/Po=0.3まで行う。
【0129】
Cu皮膜の比表面積は、好ましくは、1.3×10-3m2/g~3.5×10-3m2/gであり、より好ましくは、2.0×10-3m2/g以上、更に好ましくは、2.4×10-3m2/g以上であり、特に好ましくは、2.5×10-3m2/g以上である。
【0130】
(3)モールド密着強度試験(シアン化Agめっき後)
シアン化Agめっき処理まで行った試験片を用いて、シェア試験に依り、樹脂密着強度試験を行う。
【0131】
試験片のモールド密着強度は、好ましくは、17MPa~38MPaであり、より好ましくは、30MPa~38MPaであり、更に好ましくは、35Mpa以上である。
【0132】
(4)ワイヤボンディング試験(シアン化Agめっき後)
シアン化Agめっき処理まで行っている試験片を用いて、ボンディング試験、及びワイヤプル試験を行う。
【0133】
Cu皮膜のワイヤボンディングは、好ましくは、35mN~95mNであり、より好ましくは、80mN~95mNであり、更に好ましくは、80mN以上である。
【0134】
(5)テープ剥離試験(Cu皮膜の剥離試験)
粗化銅めっき処理後の粗化面に対して、粘着テープ(セロハンテープ)を用いて、剥離試験を行う。
【0135】
Cu皮膜のテープ剥離は、好ましくは、剥離無し(評価〇)である。
【0136】
PRパルス電解用銅めっき液は、窒素化合物(レベラー)を含有する事で、Cu皮膜に剥離が生じず、密着性に優れる皮膜が得られる。
【0137】
[3]めっき後の粗化銅皮膜の観察結果
【0138】
【表3】
【0139】
PRパルス電解用銅めっき液(表3の(a)(b))は、窒素化合物を含有し、好ましくは、含硫黄有機化合物を実質的に含まない事で、このPRパルス電解用銅めっき液を用いると、良好に、高い算術平均高さ(Sa)、高い比表面積を有し、且つ均一に、瘤状の銅めっき皮膜を形成する事が出来た。このPRパルス電解用銅めっき液を用いると、ボンディングワイヤとの密着強度を損なわずに、モールド樹脂との密着性に優れた瘤状の粗化粒子集合体皮膜を形成する事が出来た。
【0140】
PRパルス電解用銅めっき液(表3の(c)(d))は、含硫黄有機化合物(アクセラレータ)を含有すると、表面Cu粒子の均一化が促進され、十分には、瘤状皮膜が得られなかった。形成された銅皮膜は、比表面積が低くなり、ワイヤボンディング強度が低下する傾向が有った。
【0141】
表4:窒素化合物(1)の添加に依るめっき時間の短縮化の検討
窒素化合物(1)の添加濃度の検討
めっき液の組成
窒素化合物(レベラー)(1):5mg/L
非イオン系ポリエーテル高分子界面活性剤(インヒビター):250mg/L
含硫黄有機化合物:非含有
めっき液は、窒素化合物(1)を含む事で、短時間のめっき処理であっても、形成した銅皮膜は高い算術平均高さ(Sa)を維持した。めっき液は、含硫黄有機化合物を含有しない事で、形成した銅皮膜は高い比表面積を維持した。
【0142】
形成した銅皮膜は、高いボンディング強度を示した。
【0143】
形成した銅皮膜は、算術平均高さ(Sa)が高く、モールド樹脂密着強度は高かった。
【0144】
表5:窒素化合物(2)の添加に依るめっき時間の短縮化の検討
窒素化合物(2)の添加濃度の検討
めっき液の組成
窒素化合物(レベラー)(2):5mg/L
非イオン系ポリエーテル高分子界面活性剤(インヒビター):250mg/L
含硫黄有機化合物:非含有
従来技術のめっき液は、窒素化合物を含まず、含硫黄有機化合物を含有する。
【0145】
表6:含硫黄有機化合物の添加の検討
めっき液の組成
窒素化合物(レベラー)(1):5mg/L
非イオン系ポリエーテル高分子界面活性剤(インヒビター):250mg/L
含硫黄有機化合物:含有、又は非含有
表7:含硫黄有機化合物の添加の検討
めっき液の組成
窒素化合物(レベラー)(2):5mg/L
非イオン系ポリエーテル高分子界面活性剤(インヒビター):250mg/L
含硫黄有機化合物:含有、又は非含有
【0146】
【表4】
【0147】
【表5】
【0148】
【表6】
【0149】
【表7】
【0150】
PRパルス電解用銅めっき液は、窒素化合物(レベラー)を含有する事で、銅めっき時間を20秒としても、算術平均高さ(Sa)が2.3μm~2.7μmと成る銅皮膜を形成する事が出来た(表4の実施例)。
【0151】
粗化銅めっき処理完了までの所要時間が短い程、連続的なシアン化Agめっきへのタイムラグは短くなり、銅皮膜の高い生産性に繋がる。
【0152】
[3]産業上の利用可能性
本発明のPRパルス電解用銅めっき液は、銅(II)イオン、ハロゲン化物イオン、及び窒素化合物を含有する事で、このPRパルス電解用銅めっき液中で、被めっき物をカソードとして、PRパルス電流を通電して電解銅めっきを行う(PRパルス電解法)と、高い算術平均高さ(Sa)、高い比表面積を有し、且つ均一に瘤状めっき皮膜を形成する事が出来る。
【0153】
本発明のPRパルス電解法に依る銅めっき方法に依り、形成される銅皮膜は、ボンディングワイヤとの密着強度が良好であり、モールド樹脂との密着性に優れる瘤状の粗化粒子集合体皮膜と成る。形成される銅皮膜は、テープ剥離試験において、被めっき物(基材)と剥離する事無く、良好な密着性を持つ。
【0154】
本発明のPRパルス電解法に依る銅めっき方法は、めっき時間を大幅に短縮する事が出来る(60秒→20秒)。