(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024102568
(43)【公開日】2024-07-31
(54)【発明の名称】乾式壁構造およびスタッド拘束具
(51)【国際特許分類】
E04B 1/86 20060101AFI20240724BHJP
E04B 2/74 20060101ALI20240724BHJP
E04B 1/82 20060101ALI20240724BHJP
【FI】
E04B1/86 P
E04B2/74 551F
E04B2/74 551G
E04B1/82 W
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023006550
(22)【出願日】2023-01-19
(71)【出願人】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001586
【氏名又は名称】弁理士法人アイミー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】針金 奏一郎
(72)【発明者】
【氏名】藤井 良清
(72)【発明者】
【氏名】ドゥ・バン・ニー
(72)【発明者】
【氏名】木下 晃一
(72)【発明者】
【氏名】玄 晴夫
【テーマコード(参考)】
2E001
【Fターム(参考)】
2E001DF02
2E001DF06
2E001FA03
2E001GA12
2E001GA15
2E001GA42
2E001HA03
2E001HA33
2E001HB02
(57)【要約】
【課題】遮音性能を維持しながら、耐火性能を向上させることのできる乾式壁構造を提供すること。
【解決手段】乾式壁構造は、第1空間側の内装面材が固定される第1のスタッド(21)と、第1のスタッドと背中合わせとなる位置に第1のスタッドとの間に間隔(20)をあけた状態で配置され、第2空間側の内装面材が固定される第2のスタッド(22)と、第1のスタッドおよび第2のスタッドの一方が他方から離れる方向に変形することを防止または抑制するスタッド拘束具(5A)とを備える。スタッド拘束具は、第1のスタッドに固定される第1領域(631)、第2のスタッドに固定される第2領域(632)、および、第1領域と第2領域とに連結され、振動減衰手段(65)が設けられた第3領域(633)を一体的に含む。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1空間と第2空間とを仕切る乾式壁の構造であって、
前記第1空間側の内装面材が固定される第1のスタッドと、
前記第1のスタッドと背中合わせとなる位置に前記第1のスタッドとの間に間隔をあけた状態で配置され、前記第2空間側の内装面材が固定される第2のスタッドと、
前記第1のスタッドおよび前記第2のスタッドの一方が他方から離れる方向に変形することを防止または抑制するスタッド拘束具とを備え、
前記スタッド拘束具は、前記第1のスタッドに固定される第1領域、前記第2のスタッドに固定される第2領域、および、前記第1領域と前記第2領域とに連結され、振動減衰手段が設けられた第3領域を一体的に含む、乾式壁構造。
【請求項2】
前記第1領域、前記第2領域、および前記第3領域が、前記第1のスタッドの側部から前記第2のスタッドの側部まで架け渡される金属製の板材により形成されており、
前記板材のうち前記第3領域に対応する部分が伸縮可能に折り曲げられることによって前記振動減衰手段が形成されている、請求項1に記載の乾式壁構造。
【請求項3】
前記第1のスタッドおよび前記第2のスタッドの両側部に、前記第1領域、前記第2領域、および前記第3領域からなる2つの接続部材が対をなして設けられている、請求項1に記載の乾式壁構造。
【請求項4】
第1空間と第2空間とを仕切る乾式壁の構造であって、
前記第1空間側の内装面材が固定される第1のスタッドと、
前記第1のスタッドと背中合わせとなる位置に前記第1のスタッドとの間に間隔をあけた状態で配置され、前記第2空間側の内装面材が固定される第2のスタッドと、
前記第1のスタッドおよび前記第2のスタッドの一方が他方から離れる方向に変形することを防止または抑制するスタッド拘束具とを備え、
前記スタッド拘束具は、
前記第1のスタッドに固定される第1領域、前記第2のスタッドに固定される第2領域、および、前記第1領域と前記第2領域とに連結された第3領域を一体的に有する接続部材と、
前記第1領域と前記第1のスタッドとを締結する第1締結部材、および、前記第2領域と前記第2のスタッドとを締結する第2締結部材のうちの少なくとも一方に設けられた振動減衰手段とを含む、乾式壁構造。
【請求項5】
前記第1締結部材および前記第2締結部材は、ピン材を含み、
前記振動減衰手段は、前記ピン材を取り囲む弾性材により構成されている、請求項4に記載の乾式壁構造。
【請求項6】
第1のスタッドと第2のスタッドとが背中合わせとなる位置に互いの間に間隔をあけた状態で配置された乾式壁に用いるスタッド拘束具であって、
前記第1のスタッドに固定される第1領域、前記第2のスタッドに固定される第2領域、および、前記第1領域と前記第2領域とに連結された第3領域を一体的に有する接続部材と、
前記第1領域と前記第1のスタッドとを締結する第1締結部材と、
前記第2領域と前記第2のスタッドとを締結する第2締結部材と、
前記接続部材の前記第3領域、または、前記第1締結部材および前記第2締結部材の少なくとも一方に設けられた振動減衰手段とを備える、スタッド拘束具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾式壁構造およびスタッド拘束具に関し、特に、界壁、または、遮音性が要求される間仕切り壁に適用可能な乾式壁の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2014-118777号公報(特許文献1)には、界壁に適用される乾式壁構造が開示されている。この乾式壁構造では、第1空間側の第1のスタッドと第2空間側の第2のスタッドとを弱軸構造で配置し、第1空間または第2空間から所定以上の荷重が掛かった場合に第1のスタッドの裏面と第2のスタッドの裏面とが当接し得るように、両スタッドの表裏方向(壁に直交する方向)の間隔が定められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の乾式壁によれば、壁の厚みを増大させることなく遮音性能と壁の強度とを両立することができるものの、耐火性能については考慮されていない。
【0005】
本発明は、遮音性能を維持しながら、耐火性能を向上させることのできる乾式壁構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明のある局面に従う乾式壁構造は、第1空間と第2空間とを仕切る乾式壁の構造であって、第1空間側の内装面材が固定される第1のスタッドと、第1のスタッドと背中合わせとなる位置に第1のスタッドとの間に間隔をあけた状態で配置され、第2空間側の内装面材が固定される第2のスタッドと、第1のスタッドおよび第2のスタッドの一方が他方から離れる方向に変形することを防止または抑制するスタッド拘束具とを備える。スタッド拘束具は、第1のスタッドに固定される第1領域、第2のスタッドに固定される第2領域、および、第1領域と第2領域とに連結され、振動減衰手段が設けられた第3領域を一体的に含む。
【0007】
好ましくは、第1領域、第2領域、および第3領域が、第1のスタッドの側部から第2のスタッドの側部まで架け渡される金属製の板材により形成されており、板材のうち第3領域に対応する部分が伸縮可能に折り曲げられることによって振動減衰手段が形成されている。
【0008】
好ましくは、第1のスタッドおよび第2のスタッドの両側部に、第1領域、第2領域、および第3領域からなる2つの接続部材が対をなして設けられている。
【0009】
なお、スタッド拘束具は、第1のスタッドおよび第2のスタッドの長手方向中央部、または、内装面材の目地に対応する部分に設けられていることが望ましい。
【0010】
この発明の他の局面に従う乾式壁構造において、スタッド拘束具は、第1のスタッドに固定される第1領域、第2のスタッドに固定される第2領域、および、第1領域と第2領域とに連結された第3領域を一体的に有する接続部材と、第1領域と第1のスタッドとを締結する第1締結部材、および、第2領域と第2のスタッドとを締結する第2締結部材のうちの少なくとも一方に設けられた振動減衰手段とを含む。
【0011】
好ましくは、第1締結部材および第2締結部材は、ピン材を含み、振動減衰手段は、前記ピン材を取り囲む弾性材により構成されている。
【0012】
上述のスタッド拘束具を、単体で提供してもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、遮音性能を維持しながら、耐火性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施の形態に係る乾式壁の内部構造を模式的に示す正面図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係る乾式壁の基本構造を示す横断面図である。
【
図3】本発明の実施の形態に係る乾式壁の基本構造を示す縦断面図である。
【
図4】(A),(B)は、本発明の実施の形態のスタッド拘束具の参考例を示す図である。
【
図5】(A),(B)は、本発明の実施の形態のスタッド拘束具の他の参考例を示す図である。
【
図6】本発明の実施の形態1に係るスタッド拘束具の構成例を示す縦断面図である。
【
図7】(A),(B)は、
図6に示したスタッド拘束具が備える振動減衰手段の構成例を拡大して示す模式図である。
【
図8】本発明の実施の形態1に係るスタッド拘束具が備える振動減衰手段の他の構成例を示す模式図である。
【
図9】(A),(B)は、本発明の実施の形態2に係るスタッド拘束具が備える振動減衰手段の構成例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0016】
本実施の形態に係る乾式壁は、住宅等の建物内の隣り合う空間(部屋)を仕切る壁であり、建物の界壁(戸境壁)、あるいは、音楽室等の高遮音性が求められる間仕切り壁が想定される。
【0017】
<基本構造について>
図1および
図2を参照して、本実施の形態に係る乾式壁1の基本構造について説明する。
図1は、乾式壁1の内部構造を模式的に示す正面図である。
図2は、
図1のII-II線に沿う乾式壁1の断面図であり、乾式壁1の基本構造を示す。
図1の矢印A1は上下方向(垂直方向)を示し、矢印A2は乾式壁1の左右方向を示す。
図2の矢印A3は乾式壁1の奥行き方向(面外方向)を示す。以降の図も同様である。
【0018】
図2を参照して、乾式壁1は、第1空間S1と第2空間S2とを仕切る壁である。乾式壁1は、内部に、柱10と、第1空間S1側に整列配置された複数の第1のスタッド21と、第2空間S2側に整列配置された第2のスタッド22とを備えている。第1および第2のスタッド21,22は、鋼製の下地桟(縦桟)である。以下の説明において、第1のスタッド21と第2のスタッド22とを区別する必要がない場合には、これらをスタッド2と称する。
【0019】
本実施の形態におけるスタッド2の形状はC形である。スタッド2は、閉鎖面部201と、一対の側面部202と、閉鎖面部201に対面する一対のリップ部203とを含む。スタッド2は、一対のリップ部203間に開口部を有している。本実施の形態では、リップ部203の先端に、閉鎖面部201側に折り曲げられた折曲げ片204が設けられている。
【0020】
断面視において側面部202の幅が閉鎖面部201の幅より短い。スタッド2は、乾式壁1の奥行き方向(面外方向)に短辺を配置する弱軸配置構造で配置されている。一例として、スタッド2の横幅寸法(閉鎖面部201の幅)は60~70mm程度であり、奥行寸法(側面部202の幅)が40~50mmである。また、スタッド2の板厚は0.4~0.8mm程度である。
【0021】
第1空間S1側の内装面材4が第1のスタッド21の各々に固定され、第2空間S2側の内装面材4が第2のスタッド22の各々の閉鎖面部201に固定される。内装面材4は、たとえば二層の石膏ボード41,42により構成されている。内装面材4の耐火性能を強化するために、上張の石膏ボード41は、ガラス繊維等が混入された「網入り強化石膏ボード」であることが望ましい。また、上張の石膏ボード42の厚みが下張の石膏ボード41の厚みよりも大きいことが望ましい。
【0022】
スタッド2の説明において、内装面材4の固定面である閉鎖面部201を表面といい、リップ部203を裏面または背面という。
【0023】
第1のスタッド21と第2のスタッド22は、背中合わせとなるように配置されている。具体的には、第1のスタッド21の裏面(一対のリップ部203)と第2のスタッド22の裏面(一対のリップ部203)とが、互いの間に間隔(空間20)をあけた状態で対面している。第1のスタッド21と第2のスタッド22との間隔D1(
図4(A))は、たとえば5mm以上10mm以下の範囲で定められている。なお、左右方向に隣り合うスタッド2間には、グラスウールなどの断熱材(図示せず)が充填されている。
【0024】
図1に示すように、スタッド2は、上下方向に延在しており、上下端部がランナー31,32により拘束されている。後述の
図3に示されるように、下側のランナー31は、奥行き方向に2個並べて配置されており、それぞれのランナー31に第1および第2のスタッド21,22の下端部が独立して保持されている。上側のランナー32も同様に、奥行き方向に2個並べて配置されており、それぞれのランナー32に第1および第2のスタッド21,22の上端部が独立して保持されている。なお、下側のランナー31は、たとえば床の梁91等に固定され、上側のランナー32は、たとえば天井の梁92等に固定されている。
【0025】
上述のように、第1のスタッド21と第2のスタッド22とが、空間20の分だけ離れた状態で背中合わせで配置されているので、両スタッド21,22間における音の伝搬を抑制できる(
図2参照)。また、第1空間S1または第2空間S2側からの所定以上の荷重に対し、背中合わせの第1のスタッド21と第2のスタッド22とが一体となって対抗することができる。そのため、乾式壁1は、高い遮音性能と耐荷重性能とを備えている。
【0026】
一方で、耐火性能に関しては、たとえば第2空間S2から乾式壁1を加熱する加熱試験を行うと、第2空間S2に近い方のスタッド2、すなわち第2のスタッド22が熱膨張し、弓状に変形することが判明した。具体的には、
図3の二点鎖線で示すように、第2のスタッド22の上下方向中央部が加熱側(第2空間S2側)に突出するような面外変形が見られた。また、第2のスタッド22の面外変形により内装面材4(石膏ボード41,42)の目地が拡大や内装面材4の脱落が見られた。これにより、乾式壁1の内部空間(空気層)への入熱が促進されたため、柱10の座屈が生じ、所望の耐火性能に至らなかった。
【0027】
他方、上述の加熱試験では非加熱側(第1空間S1側)に位置する第1のスタッド21には変形が見られず、健全な状態を保っていることが分かった。そこで、本実施の形態の乾式壁1は、第1および第2のスタッド21,22の一方(加熱側のスタッド2)が他方(非加熱側のスタッド2)から離れる方向に変形することを防止または抑制するスタッド拘束具5を備えている。
【0028】
スタッド拘束具5は、第1および第2のスタッド21,22の組み合わせごとに設けられている必要はなく、たとえば、内装面材4(下張の石膏ボード41)の縦目地4a(
図1)に対応する位置に配置された第1および第2のスタッド21,22にのみ設けられていてもよい。また、スタッド拘束具5は、
図3に示すように、高さ方向に複数個設けられることが望ましいものの、スタッド2の長手方向中央部P1のみに設けられていてもよいし、内装面材4(下張の石膏ボード41)の横目地4bに対応する部分P2にのみ設けられていてもよい。
【0029】
<スタッド拘束具の構成例および取り付け構造>
(スタッド拘束具の基本構成について)
はじめに、
図4を参照しながらスタッド拘束具5の基本構成について説明する。なお、
図4に示すスタッド拘束具5は、本実施の形態の参考例を示し、後述する「振動減衰手段」を備えていない。
図4は、本実施の形態の参考例のスタッド拘束具5の取り付け構造を拡大して示す図であり、
図4(A),(B)はそれぞれ、乾式壁1の横断面図および縦断面図である。
【0030】
図4(A)を参照して、スタッド拘束具5は、第1および第2のスタッド21,22の両側部に配置される一対の接続部材61と、一対の接続部材61を第1および第2のスタッド21,22の両側部に固定するための複数(少なくとも4本)のビス81とを含む。ビス81は締結部材の一種である。
【0031】
各接続部材61は、第1のスタッド21の側部(側面部202)に固定される第1領域611、第2のスタッド22の側部(側面部202)に固定される第2領域612、および、第1領域611と第2領域612とに連結された第3領域613とを一体的に有している。各接続部材61は、第1のスタッド21の側部から第2のスタッド22の側部まで架け渡される金属製の平坦な板材(鋼板)により形成されており、第1領域611、第2領域612、および第3領域613が面一状に配置されている。接続部材61の平面形状は典型的には矩形形状である。
【0032】
各接続部材61は、ビス81によって現場で固定される。ビス81は、各接続部材61の第1領域611および第2領域612と第1および第2のスタッド21,22の側部とをそれぞれ締結する。これにより、第1および第2のスタッド21,22の各側部が共通の接続部材61によって接続されるので、第1および第2のスタッド21,22が接続部材61により拘束される。
【0033】
なお、接続部材61をスタッド2に固定するための締結部材は、ビス81に限定されず、たとえば接着剤であってもよい。また、締結部材を用いず、スタッド2に接続部材61を溶接工程してもよい。あるいは、たとえば
図5に示すように、スタッド2の両側部に予め設けておいた突起物82に、接続部材62を嵌め込むことにより、接続部材62をスタッド2に固定してもよい。
【0034】
図5の接続部材62は、
図4に示した接続部材61と同様に平坦な鋼板により形成されており、面一状に配置された第1領域621、第2領域622、および第3領域623を含んでいる。
図5の例では、第1および第2のスタッド21,22の両側部に突起物82が設けられており、接続部材62の第1領域621および第2領域622の下端縁に、切欠き部62aが設けられている。このような構成の場合、現場での取り付け作業を簡略化することができる。
【0035】
参考例では、第1および第2のスタッド21、22の両側部に、2つの接続部材61(または接続部材62)が対をなして(同じ高さに)設けられている。そのため、たとえば第2空間S2側からの加熱条件下において第2のスタッド22が熱膨張したとしても、第2のスタッド22が第1のスタッド21に拘束されるので、第2のスタッド22が第1のスタッド21から離れる方向に変形することを防止することができる。第1空間S1側からの加熱条件下においても同様である。そのため、2つの(一対の)接続部材61を含むスタッド拘束具5を備えることで、第1および第2のスタッド21,22間の間隔D1が広がることを防止できる。その結果、乾式壁1の耐火性能を向上させることができる。
【0036】
一方で、
図4(A)に示されるように、接続部材61は第1および第2のスタッド21,22に面接触して配置されているため、スタッド拘束具5の配置箇所においては接続部材61がサウンドブリッジとなり、たとえば第1空間S1側からの音が接続部材61を介して第2空間S2に伝搬する可能性がある。そのため、単純に、第1および第2のスタッド21,22を接続する接続部材61を設けるだけの構成では、乾式壁1の遮音性能が低下するおそれがある。
【0037】
そこで、以下に説明する各実施の形態のスタッド拘束具は、音の振動エネルギーを低減する「振動減衰手段」を備えている。
【0038】
(実施の形態1)
図6は、本発明の実施の形態1に係るスタッド拘束具5Aの構成例を示す断面図である。スタッド拘束具5Aの基本構成は、
図4に示した参考例のスタッド拘束具5と同じである。スタッド拘束具5Aは、第1および第2のスタッド21,22の両側部に配置される一対の接続部材63と、一対の接続部材63を第1および第2のスタッド21,22の両側部に固定するための複数のビス(締結部材)81とを含む。
【0039】
接続部材63は、参考例のスタッド拘束具5の接続部材61(
図4)と同様に、第1領域631、第2領域632、および第3領域633を一体的に含んでいるが、第3領域633に、振動減衰手段65が設けられている点において、上記接続部材61と相違する。つまり、スタッド拘束具5Aは、第1のスタッド21に固定される第1領域631、第2のスタッド22に固定される第2領域632、および、第1領域631と第2領域632とに連結され、振動減衰手段65が設けられた第3領域633を一体的に含む。
【0040】
本実施の形態では、接続部材63が厚さ1.0mm以下のばね鋼材(たとえばSUS304-H)によって形成されており、振動減衰手段65は、板バネにより実現されている。なお、図面上、接続部材63の板厚は、スタッド2の板厚よりも大きく誇張されているが、スタッド2の板厚よりも小さくてもよい。
【0041】
振動減衰手段65は、たとえば、接続部材63を構成する薄板の第3領域633に対応する部分(すなわち接続部材63の横幅方向中央部)が伸縮可能に折り曲げられることによって形成されている。これにより、接続部材63の第1領域631および第2領域632の一方側から入力した振動エネルギーを、振動減衰手段65の弾力性によって吸収することができる。なお、接続部材63の横幅方向は、乾式壁1の奥行方向(面外方向)に平行な方向である。
【0042】
振動減衰手段65の具体的な形状例については
図7を参照して説明する。
図7(A)に示されるように、振動減衰手段65は、たとえば、接続部材63の横幅方向中央部を略Z字状に折り曲げた曲折部65Aにより構成されている。具体的には、曲折部65Aは、接続部材63の横幅方向に沿って連続する山折り部と谷折り部とを含む。曲折部65Aは、空間20の範囲内で設けられている。なお、第1および第2のスタッド21,22間の空間20が比較的大きい場合には、山折り部と谷折り部とを繰り返し有する蛇腹状の曲折部(図示せず)により構成されてもよい。
【0043】
図7(B)に示すように、振動減衰手段65は、接続部材63の横幅方向中央部を略U字状(片仮名のコ字状)に折り曲げた曲折部65Bにより構成されていてもよい。曲折部65Bは、たとえば、外側方に突出するように設けられている。曲折部65Bもまた、空間20の範囲内で設けられている。
【0044】
上述のように、本実施の形態では、接続部材63の第3領域に振動減衰手段65が設けられている。これにより、
図6に概念的に示すように、たとえば第1空間S1から第1のスタッド21を介して接続部材63に入力した音の振動エネルギーが、接続部材63の振動減衰手段65において吸収または減衰されるので、接続部材63から第2のスタッド22への振動の伝達を抑制することができる。したがって、乾式壁1の内部にスタッド拘束具5Aを配置したとしても、乾式壁1の遮音性能を維持することができる。
【0045】
また、伸縮可能な曲折部65Aは空間20の範囲内に設けられているだけであるので、たとえば第2空間S2側からの加熱条件下において第2のスタッド22が熱膨張したとしても、第1および第2のスタッド21,22間の間隔D1の拡大を最低限に抑えることができる。これにより、加熱側のスタッド2の面外変形を最低限に抑えることができるので、内装面材4の脱落等を防止することができる。したがって、本実施の形態によれば、遮音性能を維持しながら、耐火性能を向上させることができる。
【0046】
なお、
図8に示すように、曲折部65Cは、空間20よりも大きい範囲に形成されていてもよい。
【0047】
(実施の形態2)
図9(A)は、本発明の実施の形態2に係るスタッド拘束具5Bの構成例を示す断面図である。スタッド拘束具5Bは、第1および第2のスタッド21,22の両側部に配置される一対の接続部材64と、一対の接続部材64を第1および第2のスタッド21,22の両側部に固定するための複数(少なくとも4つ)の締結部材83とを含む。
【0048】
本実施の形態における接続部材64は、参考例におけるスタッド拘束具5の接続部材61(
図4)と同様である。接続部材64は、平坦な鋼板により形成されており、第1領域641、第2領域642、および第3領域643が面一状に配置されている。接続部材64の板厚は、上記実施の形態1の接続部材63の板厚よりも大きく、接続部材64は全体的に剛性を有していることが望ましい。
【0049】
本実施の形態では、締結部材83の方に、振動減衰手段84が設けられている。
図9(B)に、締結部材83および振動減衰手段84を拡大して示す。
【0050】
各締結部材83は、スタッド2の側面部202および接続部材64を貫通して左右方向に延びるピン材831と、ピン材831の両端に設けられた一対の押え部材832,833とにより構成されている。振動減衰手段84は、ピン材831を取り囲む弾性材(防振ゴムなど)841により構成されている。ピン材831はボルトであってもよく、押え部材832,833はナットであってもよい。
【0051】
図9(B)に示されるように、本実施の形態では、スタッド2の側面部202に予め、ピン材831を挿通するための貫通孔202aがあけられている。また、接続部材64の第1領域641にも予め、ピン材831を挿通するための貫通孔641aがあけられている。第2領域642も同様である。
【0052】
スタッド2の貫通孔202aは、弾性材841の径よりも(若干)大きく、この貫通孔202aに、弾性材841付きのピン材831が通される。一方、接続部材64の貫通孔641aは、弾性材841の径よりも小さく、この貫通孔641aにはピン材831のみが通される。弾性材841は、スタッド2の貫通孔202aの周壁部に接触し、接続部材64の裏面に接触する。
【0053】
弾性材841の厚みはスタッド2の板厚よりも大きく、設置状態において、スタッド2の側面部202と接続部材64の対象領域(第1領域641または第2領域642)との間に、許容誤差を超える隙間が設けられている。貫通孔641aはルーズ孔であることが望ましい。これにより、スタッド2の側面部202と接続部材64の対象領域とは弾性材841のみを介して接続される。
【0054】
本実施の形態によれば、
図9(A)に概念的に示すように、たとえば第1空間S1から第1のスタッド21に入力した音の振動エネルギーが、締結部材83の振動減衰手段84(弾性材841)において吸収または減衰されるので、第1のスタッド21から接続部材64への振動の伝達を抑制することができる。
【0055】
また、仮に接続部材64に振動が伝達したとしても、振動は第2のスタッド22側の締結部材83の振動減衰手段84(弾性材841)においても吸収または減衰される。このように、本実施の形態によれば、第1のスタッド21から第2のスタッド22への振動の伝達を2段階で抑制することができる。したがって、乾式壁1の内部にスタッド拘束具5Bを配置したとしても、乾式壁1の遮音性能を維持することができる。
【0056】
また、本実施の形態では、接続部材64は剛性を有しており、締結部材83に振動減衰手段84が設けられているため、たとえば第2空間S2側からの加熱条件下において第2のスタッド22が変形しようとしても、第1および第2のスタッド21,22間の間隔D1を維持することができる。これにより、加熱側のスタッド2の面外変形を効果的に抑えることができる。
【0057】
なお、弾性材841は、スタッド2の貫通孔202aを通らず、スタッド2の側面部202と接続部材64の対象領域との間にのみ介在していてもよい。
【0058】
また、振動減衰手段84としての弾性材841は、全ての締結部材83に設けられていることが望ましいものの、接続部材64の第1領域641と第1のスタッド21とを締結する締結部材83、および、接続部材64の第2領域641と第2のスタッド22とを締結する締結部材83のうちの少なくとも一方に設けられていればよい。
【0059】
以上説明した各実施の形態によれば、スタッド拘束具の接続部材または締結部材に振動減衰手段が設けられることで、乾式壁1の内部にスタッド拘束具を設けることによる遮音性能の低下を抑制することができる。すなわち、スタッド拘束具によって第1のスタッド21および第2のスタッド22の一方が他方から離れる方向に変形することを防止または抑制するとともに、スタッド拘束具を介した第1のスタッド21および第2のスタッド22間の振動エネルギーの伝達を抑制することができる。したがって、各実施の形態の乾式壁1によれば、遮音性能を維持しながら、耐火性能を向上させることができる。
【0060】
(変形例)
本実施の形態では、スタッド2がC形鋼である例を示したが、このような例に限定されず、開口のない角形鋼であってもよい。この場合、第1のスタッド21および第2のスタッド22が強軸配置されていてもよい。
また、スタッド拘束具は、スタッド2の側部以外の箇所(たとえば2つのスタッド2が対面する部分)に固定されてもよい。
【0061】
なお、実施の形態1と実施の形態2とを組み合わせてもよい。
【0062】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0063】
1 乾式壁、2,21,22 スタッド、4 内装面材、5,5A,5B スタッド拘束具、61,62,63,64 接続部材、65,84 振動減衰手段、83 締結部材、611,621,631,641 第1領域、612,622,632,642 第2領域、613,623,633,643 第3領域、S1 第1空間、S2 第2空間。