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特開2024-102576金属造形物の造形装置及び金属造形物の造形方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024102576
(43)【公開日】2024-07-31
(54)【発明の名称】金属造形物の造形装置及び金属造形物の造形方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/04 20060101AFI20240724BHJP
   B23K 37/08 20060101ALI20240724BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20240724BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20240724BHJP
【FI】
B23K9/04 G
B23K9/04 Z
B23K37/08 D
B33Y10/00
B33Y30/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023006562
(22)【出願日】2023-01-19
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】洪 策符
(72)【発明者】
【氏名】山縣 侑加
(57)【要約】
【課題】金属造形物が鉛直方向に対して傾斜する形状の場合でも造形できる金属造形物の造形装置及び金属造形物の造形方法を提供する。
【解決手段】金属層22を積層して金属造形物23を造形する造形装置1において、溶融した溶接ワイヤ21(金属材料)を供給して金属層22を成形し金属層22を積層する積層部3と、積層部3を制御する積層制御部4と、を有し、積層制御部4は、溶融した溶接ワイヤ21を供給する方向が金属造形物23の接線方向になるように積層部3を制御する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属層を積層して金属造形物を造形する金属造形物の造形装置において、
溶融した金属材料を供給して前記金属層を成形し前記金属層を積層する積層部と、
前記積層部を制御する積層制御部と、を有し、
前記積層制御部は、前記溶融した金属材料を供給する方向が前記金属造形物の接線方向になるように前記積層部の姿勢を制御する金属造形物の造形装置。
【請求項2】
成形された前記金属層の表面を切削する切削部を有し、
前記切削部は、成形された前記金属層の表面のうち、新たに金属層が積層される領域を切削する請求項1に記載の金属造形物の造形装置。
【請求項3】
前記切削部は、前記金属層の表面を切削して前記金属層と同じ方向に延びる溝部を成形する請求項2に記載の金属造形物の造形装置。
【請求項4】
金属層を積層して金属造形物を造形する金属造形物の造形装置を用いて金属造形物を造形する金属造形物の造形方法において、
溶融した金属材料を供給して前記金属層を成形し前記金属層を積層する積層工程を有し、
前記積層工程では、
前記溶融した金属材料を供給する方向を前記金属造形物の接線方向にする金属造形物の造形方法。
【請求項5】
成形された前記金属層の表面を切削する切削工程を有し、
前記切削工程では、成形された前記金属層の表面のうち、新たに金属層が積層される領域を切削する請求項4に記載の金属造形物の造形方法。
【請求項6】
前記切削工程では、前記金属層の表面を切削して前記金属層と同じ方向に延びる溝部を成形する請求項5に記載の金属造形物の造形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属造形物の造形装置及び金属造形物の造形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、WAAM(Wire arc additive manufacturing)の装置構成として、アーク溶接ロボットを用いて金属材料の積層を行うものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-144446号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
WAAMによる造形では、金属材料が上下方向に積層されるため、溶接トーチの姿勢は鉛直方向の上方から溶接可能となるように鉛直下方を向くように制御されている。このため、傾斜パイプや傾斜柱など鉛直方向に対して傾斜する金属造形物の造形は、上下に重なる層同士の接合面積が小さくなり、難しかった。特に鉛直方向に対して45°以上傾斜する金属造形物の造形は、特に困難であった。
【0005】
そこで、本発明は、金属造形物が鉛直方向に対して傾斜する形状の場合でも造形できる金属造形物の造形装置及び金属造形物の造形方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係る金属造形物の造形装置は、金属層を積層して金属造形物を造形する金属造形物の造形装置において、溶融した金属材料を供給して前記金属層を成形し前記金属層を積層する積層部と、前記積層部を制御する積層制御部と、を有し、前記積層制御部は、前記溶融した金属材料を供給する方向が前記金属造形物の接線方向になるように前記積層部の姿勢を制御する。
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係る金属造形物の造形方法は、金属層を積層して金属造形物を造形する金属造形物の造形装置を用いて金属造形物を造形する金属造形物の造形方法において、溶融した金属材料を供給して前記金属層を成形し前記金属層を積層する積層工程を有し、前記積層工程では、前記溶融した金属材料を供給する方向を前記金属造形物の接線方向にする。
【0008】
本発明では、溶融した金属材料を供給する方向が金属造形物の接線方向になることにより、重なる金属層同士の接合面積を一定に確保でき、金属造形物が鉛直方向に対して45度以上傾斜する場合でも接合面積が小さくなることが無い。これにより、重なる金属層同士の接合強度が向上し、金属造形物が鉛直方向に対して傾斜する形状の場合でも、金属造形物の造形装置で造形できる。
【0009】
また、本発明に係る金属造形物の造形装置では、成形された前記金属層の表面を切削する切削部を有し、前記切削部は、成形された前記金属層の表面のうち、新たに金属層が積層される領域を切削してもよい。
【0010】
また、本発明に係る金属造形物の造形方法では、成形された前記金属層の表面を切削する切削工程を有し、前記切削工程では、成形された前記金属層の表面のうち、新たに金属層が積層される領域を切削してもよい。
【0011】
このような構成とすることにより、金属層の表面のうち、新たに金属層が積層される領域を均すことができる。これにより、溶融した金属材料を供給する積層部と金属層との間隔を一定に維持されるため、新たな金属層を良好に成形できる。
積層工程の間に切削工程を行うため、造形される金属造形物の形状精度及び表面粗さを向上できる。
積層工程の間に切削工程を行うため、残留応力を低減でき、疲労強度を向上できる。
【0012】
また、本発明に係る金属造形物の造形装置では、前記切削部は、前記金属層の表面を切削して前記金属層と同じ方向に延びる溝部を成形してもよい。
【0013】
また、本発明に係る金属造形物の造形方法では、前記切削工程では、前記金属層の表面を切削して前記金属層と同じ方向に延びる溝部を成形してもよい。
【0014】
このような構成とすることにより、金属層に形成された溝部に新たな金属層が積層されるため、重なる金属層同士の接合面積を大きくできる。これにより、重なる金属層同士の接合強度が向上し、金属造形物が鉛直方向に対して45度以上傾斜する場合でも重なる金属層同士を良好に接合できる。
金属層に形成された溝部に新たな金属層を積層するため、新たな金属層の位置決めが容易であり、新たな金属層22を安定した状態に積層できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、金属造形物が鉛直方向に対して傾斜する形状の場合でも金属造形物の造形装置で造形できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施例に係る金属造形物の造形装置の一例を示す斜視図である。
図2】スライサー装置の概要を説明する図である。
図3】溶接トーチ及び切削具を示す斜視図である。
図4】溝部及びリード角を説明する模式図である。
図5】切削具で金属造形物の表面に仕上げ加工を行う様子を示す図である。
図6】(a)は傾斜面の傾斜角が70°である金属造形物の積層状態を示す画像である。(b)は中空の金属造形物(シリンダー)の内側から、水平面を積層する例を示す画像である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施例に係る金属造形物の造形装置について、図1図6に基づいて説明する。
図1に示すように、金属造形物の造形装置1は、アーク溶接装置を利用した金属溶融積層方式の3Dプリンタ(WAAM)である。造形装置1は、溶融した溶接ワイヤ21(金属材料)で金属層22を成形して積層し、金属造形物23を造形する。造形装置1は、積層部3と、積層制御部4と、切削部5と、切削制御部6と、を有する。
造形装置1は、金属層22を下方から上方に向かって積層する。上記の「下方から上方」とは、鉛直方向の下方から上方のみでなく、鉛直方向に対して斜めとなる傾斜方向における下方から上方も含む。
本実施例では、金属造形物の造形装置1で造形される金属造形物は、鉛直方向に延びる断面図(図2)において、鉛直方向に対して傾斜する傾斜部を有する。この鉛直方向に延びる断面図(図2)における、積層箇所での金属造形物の表面における接線方向(図面の矢印Aの方向)を以下では、単に「接線方向」とする。この接線方向は、鉛直方向に対して傾斜している。
【0018】
本実施例では、まず初めに図2に示す鉛直方向に延びる断面図は、スライサー装置Sによって、造形される金属造形物23の3DモデルMの形状データに基づき、積層する金属層22毎に用意される。
スライサー装置Sは、スライスを行うための面定義(曲面も含む)を行い、金属造形物23の3DモデルMの形状に沿って一定間隔で3DモデルMをスライスし、金属層22毎の形状データに基づいて、積層制御部4で積層部3を、また切削制御部6で切削部5を制御する。より具体的にはスライサー装置Sは、例えば造形しようとしている金属造形物23の3DモデルMにおける任意の軸を中心とした、1°おきの断面図、180枚をする。
【0019】
図1に示すように、積層部3は、溶接トーチ31と、第1ロボットアーム(不図示)と、を有する。
図1及び図3に示すように、溶接トーチ31は、不図示のワイヤ供給装置から溶接ワイヤ21が供給される。溶接トーチ31は、溶接トーチ31の先端でアーク放電を行い、溶接ワイヤ21を溶融する。
第1ロボットアームは、不図示のロボット本体から延びている。第1ロボットアームの先端部には、溶接トーチ31が取り付けられている。第1ロボットアームは、溶接トーチ31を所望の位置へ移動可能とするものであって、溶接トーチ31の姿勢が調整可能とされている。
具体的には、第1ロボットアームは、第1リンクと、第2リンクと、基部と、第1関節と、第2関節と、第3関節と、を有する3節のロボットアームを用いた。第1リンクは、溶接トーチ31に繋がるものであり、溶接トーチ31と第1リンクとの間に第1関節が設けられている。また第2リンクは、第1リンクに繋がるものであり、第1リンクと第2リンクとの間に第2関節が設けられている。そして基部は、第2リンクに繋がるものであって、第2リンクと基部との間に第3関節が設けられている。第1関節は、第1リンクの延在方向を回転軸線とするひねりの他、上下(もしくは左右)への曲げを可能とするものとした。また第2関節は、第1リンクの延在方向を回転軸線とする回転の他、上下への曲げを可能とするものとした。そして第3関節は、鉛直方向を回転軸線とする回転の他、前後もしくは左右への曲げを可能とするものとした。
【0020】
積層部3は、第1ロボットアームを駆動して溶接トーチ31を移動させつつ、溶接トーチ31で溶接ワイヤ21を溶融することで、溶融した溶接ワイヤ21を母材24(図1参照)の上に供給し、金属層22を成形する。積層部3は、溶接トーチ31を移動させながら既に成形された金属層22に重ねて新たな金属層22を成形して積層することによって金属造形物23を造形する。積層される金属層22が重なる方向(図面の矢印Bの方向)を積層方向とする。積層方向のうち、先に積層される側を基端側とし、後に積層される側を先端側とする。
本実施例では、第1ロボットアームの駆動によって溶接トーチ31が移動するように想定しているが、母材24を支持する支持台が、例えば、支持台が鉛直軸回りに回転するなど移動するように構成されていてもよい。
【0021】
積層制御部4は、溶接トーチ31の姿勢及び移動方向を制御する姿勢制御部41を有する。
姿勢制御部41は、金属造形物23の形状に応じて溶接トーチ31を移動すべく第1ロボットアームを制御する。
本実施例では、スライサー装置Sが生成した積層しようとする部分に当たる金属層22の断面が図示された金属造形物23の断面図に基づき、金属造形物23における金属層22での外接線(もしくは内接線)を特定し、接線方向を決定し、溶接トーチ31から溶融した溶接ワイヤ21が供給される方向が接線方向となるように溶接トーチ31の姿勢を制御する。このように既に形成した金属層22上に、溶接トーチ31で溶接ワイヤ21を溶融させ、断面が半円形状となる新たな金属層22を積層部3で順次、成形することで、金属造形物23が造形される。
このとき、例えば金属層22は、均一な断面形状とならず、ひいては意図した、一定の肉盛りとならないことがあった。このような場合にあっては、積層した金属層22に対し、鉛直方向直上からずれた位置に積層することは特に難しく、金属層22上にうまく積層することは難しかった。
【0022】
そこで本実施例では、接線方向から溶融した溶接ワイヤ21を供給するように溶接トーチ31の姿勢を制御することに加え、図3に示すように切削部5を用いて、積層した金属層22の一部を除去し、この金属層22を除去した部分に、新たに金属層22を成形することとした。図1図3に示すように切削部5は、切削具51と、第2ロボットアーム52と、を有する。
切削具51は、円柱状のエンドミルである。切削具51は、軸線方向の一方側の端部511側が第2ロボットアーム52に取り付けられ、軸線方向の他端側が第2ロボットアーム52から突出している。切削具51は、円柱形状の中心軸を回転軸として回転した状態で、軸線方向の他方側の端部512が金属層22の表面に押し付けられることで金属層22の表面を切削する。なお、本実施形態では、エンドミルを用いたフライス加工による切削を行ったが、種々の金属の切削方法を用いてもよい。
第2ロボットアーム52は、不図示のロボット本体から延びている。第2ロボットアーム52は、切削具51を所望の位置へ移動可能とするものであって、切削具51の姿勢が調整可能とされている。第2ロボットアーム52は、第1ロボットアーム同様の構成を有する3節のロボットアームを用いた。
【0023】
切削制御部6は、スライサー装置Sが生成した、切削しようとする部分に当たる金属層22が図示された金属造形物23の断面図に基づき、金属造形物23における金属層22での外接線(もしくは内接線)を特定し、接線方向を決定し、切削具51の姿勢及び移動方向を決定し、制御する。切削制御部6は、金属層22の一部を除去し、金属層22に溝部222を形成するように切削具51を移動させる。
本実施例では、切削具51の軸線方向を、スライサー装置Sが生成した金属造形物23の断面図から特定した接線方向に対して所定角度αだけ傾斜した状態で金属層22と接触させた状態としつつ、金属造形物23の形状に応じて切削具51を移動すべく第2ロボットアーム52を切削制御部6で制御した。
つまり切削制御部6は、金属層22の積層方向と直交する断面においては、切削具51の軸線方向が金属層22の接線方向Aに沿うように、より具体的には切削具51の軸線方向が金属層22の接線方向Aと平行となる姿勢をとるように、切削具51の姿勢制御を行う。さらに切削制御部6は、図4に示すように、金属層22の積層方向に延びる断面においては、切削具51の軸線方向における、一方側の端部511が他方側の端部512に対して切削具51の移動上流側に位置するように所定角度αだけ傾けられた姿勢となるように、切削具51の姿勢制御を行う。
切削具51は、このような姿勢をとるようにされることで、切削具51の角部514が金属層22に押し付けられる構成とされ、金属層22に溝部222を形成可能とされている。
そして切削制御部6は、金属層22が延びる方向、すなわち、金属層22を成形した際に溶接トーチ31の先端を移動させた方向へ切削具51を移動させるように第2ロボットアーム52を制御することで、金属層22が延びる方向と同じ方向に延びる溝部222が金属層22に形成されるようにする。
【0024】
切削具51は、切削具51の角部514を金属層22に押し付けて移動することで、金属層22の表面の起伏を滑らかにし、積層方向の高さを所定の範囲内とすることができる。
そして、切削具51で金属層22に溝部222を形成した後、溶接トーチ31の先端で溶融させた溶接ワイヤ21を溝部222の内部に少なくとも一部が入り込むようにしつつ、金属層22の上に供給し、既に形成した金属層22上に、新たな金属層22を積層部3で成形する。このように、積層部3による金属層22の積層と、切削部5による金属層22の切削(溝部222の形成)を繰り返し、造形装置1は、金属造形物23を造形する。
なお本実施例では、金属層22に設けた溝部222の断面形状は、金属層22の積層方向へ凹んだ円弧面を有する形状とした。金属層22に設けた溝部222を設けることにより、この金属層22上に積層する金属層22を成形するために供給される溶融した溶接ワイヤ21を溝部222に入り込ませることができる。これにより、既に設けられた金属層22と、新たに積層される金属層22を形成するために供給される、溶接ワイヤ21が溶融された溶融金属と、の接触面積を増大させることができる。この結果、既に設けられた金属層22を溶融金属の熱で溶かし、既に設けられた金属層22を形成していた金属と、溶接ワイヤ21が溶融した溶融金属と、が混然一体となって形成される接合部の深さが深くなることを抑制することができ、既に設けられた金属層22と、新たに積層される金属層22と、を一体化する接合部が脆くなることを抑制することができる。
なお溝部222は、金属造形物23に空気が取り込まれることを防止するため、断面形状は、角部を有さない凹形状とすることが好ましい。このように角部を有さない凹形状の断面を有する溝部222とすることで、金属層22を切削し、溝部222を形成することも相まって、金属層22と金属層22の接合部に酸素などの不純物が取り込まれることをより良く抑制し、成形された金属造形物23が脆くなることをより良く抑制することができる。
なお、本実施例では、金属層22に溝部222を形成する構成としたが、これに限らない。少なくとも金属層22の表面の起伏を滑らかにし、積層方向の高さを所定の範囲内とすることができるものであればよい。このため、金属層22に溝部222を設ける本実施例にあっては、金属層22が成形される、下層として機能する金属層22には、金属層22の延在方向にわたって延びる溝部222を設けた。
しかしながら、金属層22の肉厚が所定以上となる部分を切削し、除去する場合にあっては、金属層22の延在方向において、部分的に切削を行い、平面や曲面など所定の形状の面を形成する構成としてもよい。金属層22を切削し、平面を形成する場合にあっては、スライサー装置Sが生成した積層しようとする部分に当たる金属層22の断面が図示された金属造形物23の断面図に基づいて特定した接線方向と直交する方向へ延びる面とすることが好ましい。これにより、平面図が形成された金属層22上に、新たな金属層22を形成し易くすることができる。
この他、切削部5は、溝部222に代わって多数の凹部からなる所定の形状を形成するように金属層22の先端面221を切削してもよい。このような場合も多数の凹部に新たな金属層22が入り込むため、重なる金属層22同士の接合面積を大きくできる。
なお、金属層22を切削する場合にあっては、積層した金属層22のみならず、その下層に位置する金属層22を一緒に切削してもよく、さらには金属層22を切削し、金属層22の形状を整えてもよい。
【0025】
続いて、金属造形物の造形装置1を用いて金属造形物23を造形する金属造形物の造形方法について説明する。
まず、金属造形物23の3Dモデルをスライサー装置Sにインポートし、3Dモデルの形状データに基づき、特定の軸を中心として切り出した、金属層22の断面を図示する、複数の金属造形物23の断面図を自動的に生成する生成工程を行う。
【0026】
続いて、積層部3で溶融した金属材料を母材24に供給して1層目の金属層22を成形する積層工程を行う。
積層制御部4は、スライサー装置Sで生成した金属造形物23の断面図に基づいて、金属造形物23における1層目の金属層22に対応する部分に溶融した溶接ワイヤ21を供給する方向が金属造形物の接線方向となるように積層部3の溶接トーチ31及び第1ロボットアーム姿勢を制御する。
金属造形物23における1層目の金属層22に対応する部分の接線方向が鉛直方向に対して傾斜する方向の場合は、この傾斜する方向から母材24に溶融した溶接ワイヤ21が供給され、金属層22が積層される。
【0027】
続いて、積層工程で既に成形された1層目の金属層22を切削する切削工程を行う。切削工程では、切削部5で、成形された1層目の金属層22を切削する。
切削制御部6は、切削具51が1層目の金属層22に沿って移動するように制御するとともに、一定のリード角αとなるように切削具51の姿勢を制御する。
切削工程によって、成形された1層目の金属層22に溝部222が形成される。なお、積層工程で金属層22に凹凸が形成された場合でも、切削工程によって凹凸を無くすことができる。これにより、金属層22の先端面221は、金属層22が延びる方向(溶接トーチ31や切削具51が移動した方向)全体にわたって溝部222が形成されるとともに、滑らかに連続した段差の少ない面になる。
【0028】
続いて、表面に溝部222が形成された1層目の金属層22に重ねるように、2層目の金属層22を成形する積層工程を行う。
積層制御部4は、スライサー装置Sで生成した金属造形物23の断面図に基づいて、金属造形物23における2層目の金属層22に対応する部分に溶融した溶接ワイヤ21を供給する方向が金属造形物の接線方向となるように積層部3の溶接トーチ31及び第1ロボットアーム姿勢を制御する。
【0029】
続いて、積層工程で既に成形された2層目の金属層22の表面を切削する切削工程を行う。2層目の金属層22の表面を切削する切削工程は、1層目の金属層22の表面を切削する切削工程と同様に行う。
【0030】
このように、積層工程と、切削工程とを繰り返し行いながら金属層22を積層し、金属造形物23を造形する。上述しているように、積層工程では、溶融した溶接ワイヤ21を供給する方向が金属造形物23における積層する金属層22に対応する部分の接線方向になるように溶接トーチ31及び第1ロボットアームを制御しながら金属層22を積層する。切削工程では、切削具51が1層目の金属造形物23の表面に沿って移動するように制御するとともに、切削具51が移動方向及び金属造形物23における1層目の金属層22に対応する部分に対して所定のリード角αとなるように制御しながら金属層22の表面に溝部222を形成する。
【0031】
上述しているように、積層制御部4は、溶融した溶接ワイヤ21を供給する方向が金属造形物23における積層する金属層22に対応する部分の接線方向になるように溶接トーチ31及び第1ロボットアームを制御する。
【0032】
なお、図5に示すように、切削具51の外周面513を金属層22の側面に接触させ、金属層22の側面を均すようにしてもよい。
【0033】
次に、本実施例による金属造形物の造形装置及び金属造形物の造形方法の作用・効果について説明する。
本実施例による金属造形物の造形装置及び金属造形物の造形方法では、溶融した溶接ワイヤ21を供給する方向が金属造形物23における積層する金属層22に対応する部分の接線方向になることにより、重なる金属層22同士の接合面積を一定に確保でき、金属造形物23が鉛直方向に対して45度以上傾斜する場合でも接合面積が小さくなることが無い。これにより、重なる金属層22同士の接合強度が向上し、金属造形物23が鉛直方向に対して傾斜する形状の場合でも、造形装置1で造形できる。
【0034】
従来のWAAMによる造形では、金属層の上面(先端面)に凹凸が生じる場合がある。金属層の上面に凹凸が生じると、以下のような問題が生じる虞がある。
例えば、溶接トーチが金属造形物の形状に合わせて設定された高さで移動するように制御された場合、金属層の上面に意図せずに凹凸が生じると溶接トーチと金属層との距離が一定に維持されないことがある。溶接条件が一定の場合は、距離が小さい方がより多く肉盛りされるため、積層回数を重ねるにつれて凹凸が大きくなり、最上段の金属層の傾斜角度が拡大する。
溶接トーチと金属層との距離が近くなりすぎた場合には、溶接トーチと金属層とが衝突する。
溶接トーチと金属層との距離が遠くなりすぎた場合には、溶接中に火花(溶接スパッタ)が飛散したりする他、溶融した金属が気化したのち空気中で冷却されることで生じる金属の小さな粒子(溶接ヒューム)が発生する。
【0035】
溶接ビードは、高い段差があった場合には破断される。このため、金属層の上面に凹凸が生じたまま積層を継続すると、溶接ビードが破断してしまい、金属層が不連続となる。金属層は、一度破断してしまうと、上方に積層される金属層も破断してしまうことが多く、積層方向の下から上まで連続した亀裂が金属造形物に生じてしまう。
【0036】
本実施例による金属造形物の造形装置及び金属造形物の造形方法では、成形された金属層22の先端面221を切削部5で切削する。
このような構成とすることにより、新たに金属層22が積層される金属層22の先端面221を均すことができる。これにより、溶融した金属材料を供給する溶接トーチ31と金属層22との間隔を一定に維持されるため、上述した従来のWAAMによる造形の問題が生じる虞が無く、金属層22を良好に成形できる。
積層工程の間に切削工程を行うため、造形される金属造形物23の形状精度を向上できる。
【0037】
本実施例による金属造形物の造形装置及び金属造形物の造形方法では、成形された金属層22の先端面221に金属層22と同じ方向に延びる溝部222を成形する。
このような構成とすることにより、金属層22に形成された溝部222に新たな金属層22が積層されるため、重なる金属層22同士の接合面積を大きくできる。これにより、重なる金属層同士の接合強度が向上し、金属造形物23が鉛直方向に対して45度以上傾斜する場合でも重なる金属層22同士を良好に接合できる。
金属層22に形成された溝部222に新たな金属層22を積層するため、新たな金属層22の位置決めが容易であり、新たな金属層22を安定した状態に積層できる。
【0038】
図6は、積層のみを行う従来の造形装置を採用した溶接トーチの姿勢制御の試験結果を一部示す。図6(a)には、傾斜角が45°を超えた70°である金属造形物の積層状態を示す。傾斜角の範囲が拡大したことがわかる。図6(b)には、中空の金属造形物(シリンダー)の内側から、水平面の積層例を示す。干渉を避けるため、溶接トーチを積層進行方向に対して、ローリング方向に45°傾斜した状態で金属層の積層を行う。このような場合、スライサー装置は、リード角に加えてローリング方向の傾斜角も設定可能であってもよい。
【0039】
以上、本発明による金属造形物の造形装置の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0040】
1 造形装置
3 積層部
4 積層制御部
5 切削部
22 金属層
23 金属造形物
41 姿勢制御部
222 溝部
図1
図2
図3
図4
図5
図6