(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024102577
(43)【公開日】2024-07-31
(54)【発明の名称】金属造形物の造形装置及び金属造形物の造形方法
(51)【国際特許分類】
B23K 9/04 20060101AFI20240724BHJP
B23K 37/08 20060101ALI20240724BHJP
B23K 31/00 20060101ALI20240724BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20240724BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20240724BHJP
【FI】
B23K9/04 G
B23K9/04 Z
B23K37/08 D
B23K31/00 K
B33Y10/00
B33Y30/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023006563
(22)【出願日】2023-01-19
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】山縣 侑加
(72)【発明者】
【氏名】洪 策符
(57)【要約】
【課題】より確実に金属層を積層可能とすることができる金属造形物の造形装置及び金属造形物の造形方法を提供する。
【解決手段】供給したワイヤ21(金属材料)を溶融する溶接トーチ31と、溶接トーチ31で溶融されたワイヤ21で金属層22が成形される母材24と、母材24に成形された金属層22に新たに金属層22を積層すべく、母材24に対して溶接トーチ31の相対的な位置を変更させる移動手段と、を備えた積層部3と、溶接トーチ31の姿勢と、移動手段と、を成形する金属造形物23の形状に応じて制御する積層制御部5と、を有し、溶接トーチ31成形した金属層22を切削する切削部4と、切削部4を制御する切削制御部6と、をさらに有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
供給した金属材料を溶融する溶接トーチと、前記溶接トーチで溶融された金属材料で金属層が成形される母材と、前記母材に成形された前記金属層に新たに金属層を積層すべく、前記母材に対して前記溶接トーチの相対的な位置を変更させる移動手段と、を備えた積層部と、
前記溶接トーチの姿勢と、前記移動手段と、を成形する金属造形物の形状に応じて制御する積層制御部と、
を有し、
前記溶接トーチで成形した前記金属層を切削する切削部と、
前記切削部を制御する切削制御部と、
をさらに有する金属造形物の造形装置。
【請求項2】
前記切削制御部は、
前記金属層の高さを測定する積層高さ測定部と、
前記積層高さ測定部での測定結果に基づき、前記金属層の切削の要否を判定する切削判定部と、
を有する、
ことを特徴とする請求項1に記載の金属造形物の造形装置。
【請求項3】
前記積層高さ測定部は、前記母材と平行な面において、同一の位置において、予め設定された基準積層数毎の前記金属層の高さを計測し、
前記切削判定部は、前記積層高さ測定部での測定結果を基に、前記基準積層数で積層された前記金属層の積層高さである単位金属層高さを算出し、前記単位金属層高さの最大値と最小値との差が閾値以上の場合に前記金属層の切削が必要であると判定し、前記単位金属層高さの最大値と最小値との差が前記閾値未満の場合に、前記金属層の切削が不要であると判定する、
ことを特徴とする請求項2に記載の金属造形物の造形装置。
【請求項4】
前記積層高さ測定部は、前記母材と平行な面において所定間隔、もしくは前記溶接トーチの所定移動距離毎、に延在する前記金属層の高さを計測し、
前記切削判定部は、前記積層高さ測定部での測定結果から前記金属層の高さが最も高い最高点と、前記金属層の高さが最も低い最低点と、を抽出し、
前記最高点と前記最低点との差が閾値以上の場合に前記金属層の切削が必要であると判定し、前記最高点と前記最低点との差が前記閾値未満の場合に、前記金属層の切削が不要であると判定する、
ことを特徴とする請求項2に記載の金属造形物の造形装置。
【請求項5】
母材上に金属材料を溶接トーチで溶融してなる金属層を積層し、金属造形物を形成する金属造形物の造形方法であって、
前記溶接トーチで溶融した金属材料で下地層となる金属層を成形する下地層成形工程と、
前記下地層の一部を除去する除去工程と、
前記一部が除去された下地層に、前記溶接トーチで溶融した金属材料で新たな金属層を積層する金属層成形工程と、
を有する金属造形物の造形方法。
【請求項6】
前記下地層の高さを測定した結果に基づき、前記金属層の切削の要否を判定する切削判定工程をさらに有し、
前記切削判定工程の判定結果に基づき、前記除去工程を行う、
ことを特徴とする請求項5に記載の金属造形物の造形方法。
【請求項7】
前記母材と平行な面において、同一の位置において、予め設定された基準積層数毎の前記金属層の高さを計測する積層高さ測定工程と、
前記積層高さ測定工程での測定結果を基に、前記基準積層数で積層された前記金属層の積層高さである単位金属層高さを算出し、前記単位金属層高さの最大値と最小値との差が閾値以上の場合に前記金属層の切削が必要であると判定し、前記単位金属層高さの最大値と最小値との差が前記閾値未満の場合に前記金属層の切削が不要であると判定する、
ことを特徴とする請求項6に記載の金属造形物の造形方法。
【請求項8】
前記母材と平行な面において所定間隔、もしくは前記溶接トーチの所定移動距離毎、に延在する前記金属層の高さを計測する積層高さ測定工程と、
前記積層高さ測定工程での測定結果から前記金属層の高さが最も高い最高点と、前記金属層の高さが最も低い最低点を抽出し、前記最高点と前記最低点との差が閾値以上の場合に前記金属層の切削が必要であると判定し、前記最高点と前記最低点との差が前記閾値未満の場合に、前記金属層の切削が不要であると判定する、
ことを特徴とする請求項6に記載の金属造形物の造形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属造形物の造形装置及び金属造形物の造形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、WAAM(Wire arc additive manufacturing)の装置構成として、アーク溶接ロボットを用いて金属材料の積層を行うものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のWAAMによる造形では、金属材料で成形した金属層に凹凸が生じることがあった。溶接トーチが予め設定された高さで移動するように制御されている場合、金属層に生じた凹凸によって、溶接トーチと金属層との距離が小さくなったり大きくなったりする。溶接条件が一定の場合、距離が小さいとより多く肉盛りされるため、積層回数を重ねるにつれて凹凸が大きくなり、最上段の金属層に大きな凹凸ができたり、大きく傾斜したりする虞がある。溶接トーチと金属層との距離が小さいと、溶接トーチと金属層とが衝突する虞がある。溶接トーチと金属層との距離が大きいと、溶接中に火花(溶接スパッタ)が飛散する他、溶融した金属が気化したのち空気中で冷却されることで生じる金属の小さな粒子(溶接ヒューム)が発生する虞がある。
【0005】
特に溶接によって生じる溶接ビードは、高い段差があった場合には破断してしまう。このため、金属層に凹凸が生じたまま積層を継続すると、溶接ビードが破断してしまい、金属層が不連続となる。金属層は、一度破断してしまうと、上方に積層される金属層も破断してしまうことが多く、積層方向の下から上まで連続した亀裂が金属造形物に生じてしまう。
【0006】
そこで、本発明は、より確実に金属層を積層可能とすることができる金属造形物の造形装置及び金属造形物の造形方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係る金属造形物の造形装置は、供給した金属材料を溶融する溶接トーチと、前記溶接トーチで溶融された金属材料で金属層が成形される母材と、前記母材に成形された前記金属層に新たに金属層を積層すべく、前記母材に対して前記溶接トーチの相対的な位置を変更させる移動手段と、を備えた積層部と、前記溶接トーチの姿勢と、前記移動手段と、を成形する金属造形物の形状に応じて制御する積層制御部と、を有し、前記溶接トーチで成形した前記金属層を切削する切削部と、前記切削部を制御する切削制御部と、をさらに有する。
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係る金属造形物の造形方法は、母材上に金属材料を溶接トーチで溶融してなる金属層を積層し、金属造形物を形成する金属造形物の造形方法であって、前記溶接トーチで溶融した金属材料で下地層となる金属層を成形する下地層成形工程と、前記下地層の一部を除去する除去工程と、前記一部が除去された下地層に、前記溶接トーチで溶融した金属材料で新たな金属層を積層する金属層成形工程と、を有する。
【0009】
本発明では、金属層(下地層)切削可能であることにより、形成された下地層の表面に凹凸が生じた場合も、その凹凸を切削部で切削できる。その結果、新たな金属層は、凹凸が切削された金属層の表面に積層されるため、より確実に金属層を積層可能とすることができる。
【0010】
また、本発明に係る金属造形物の造形装置では、前記切削制御部は、前記金属層の高さを測定する積層高さ測定部と、前記積層高さ測定部での測定結果に基づき、前記金属層の切削の要否を判定する切削判定部と、有していてもよい。
【0011】
また、本発明に係る金属造形物の造形方法では、前記下地層の高さを測定した結果に基づき、前記金属層の切削の要否を判定する切削判定工程をさらに有し、前記切削判定工程の判定結果に基づき、前記除去工程を行うようにしてもよい。
【0012】
このようにすることにより、測定した金属層(下地層)の高さに基づいて金属層の切削の要否を判断できるため、金属層の表面に形成された所定値以上の凹凸を確実に除去できる。その結果、新たな金属層は、凹凸が切削された金属層の表面に積層されるため、より確実に金属層を積層可能とすることができる。また、不要な切削を省略でき、金属層の切削を最小限に抑えることができる。
【0013】
また、前記積層高さ測定部は、前記母材と平行な面において、同一の位置において、予め設定された基準積層数毎の前記金属層の高さを計測し、前記切削判定部は、前記積層高さ測定部での測定結果を基に、前記基準積層数で積層された前記金属層の積層高さである単位金属層高さを算出し、前記単位金属層高さの最大値と最小値との差が閾値以上の場合に前記金属層の切削が必要であると判定し、前記単位金属層高さの最大値と最小値との差が前記閾値未満の場合に、前記金属層の切削が不要であると判定するように構成されていてもよい。
【0014】
また、本発明に係る金属造形物の造形方法では、前記母材と平行な面において、同一の位置において、予め設定された基準積層数毎の前記金属層の高さを計測する積層高さ測定工程と、前記積層高さ測定工程での測定結果を基に、前記基準積層数で積層された前記金属層の積層高さである単位金属層高さを算出し、前記単位金属層高さの最大値と最小値との差が閾値以上の場合に前記金属層の切削が必要であると判定し、前記単位金属層高さの最大値と最小値との差が前記閾値未満の場合に前記金属層の切削が不要であると判定するようにしてもよい。
【0015】
このようにすることにより、単位金属層高さの最大値と最小値との差に基づいて金属層の切削の要否が判断できるため、金属層の表面に形成された所定値以上の凹凸を確実に除去できる。その結果、新たな金属層は、凹凸が切削された金属層の表面に積層されるため、より確実に金属層を積層可能とすることができる。また、不要な切削を省略でき、金属層の切削を最小限に抑えることができる。
【0016】
また、本発明に係る金属造形物の造形装置では、前記積層高さ測定部は、前記母材と平行な面において所定間隔、もしくは前記溶接トーチの所定移動距離毎、に延在する前記金属層の高さを計測し、前記切削判定部は、前記積層高さ測定部での測定結果から前記金属層の高さが最も高い最高点と、前記金属層の高さが最も低い最低点と、を抽出し、記最高点と前記最低点との差が閾値以上の場合に前記金属層の切削が必要であると判定し、前記最高点と前記最低点との差が前記閾値未満の場合に、前記金属層の切削が不要であると判定するように構成されていてもよい。
【0017】
また、本発明に係る金属造形物の造形方法では、前記母材と平行な面において所定間隔、もしくは前記溶接トーチの所定移動距離毎、に延在する前記金属層の高さを計測する積層高さ測定工程と、前記積層高さ測定工程での測定結果から前記金属層の高さが最も高い最高点と、前記金属層の高さが最も低い最低点を抽出し、前記最高点と前記最低点との差が閾値以上の場合に前記金属層の切削が必要であると判定し、前記最高点と前記最低点との差が前記閾値未満の場合に、前記金属層の切削が不要であると判定してもよい。
【0018】
このようにすることにより、所定の範囲(母材と平行な面において所定間隔、もしくは溶接トーチの所定移動距離毎)における最高点と前記最低点との差に基づいて金属層の切削の要否が判断できるため、金属層の表面に形成された所定値以上の凹凸を確実に除去できる。その結果、新たな金属層は、凹凸が切削された金属層の表面に積層されるため、より確実に金属層を積層可能とすることができる。また、不要な切削を省略でき、金属層の切削を最小限に抑えることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、より確実に金属層を積層可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施例に係る金属造形物の造形装置及び金属造形物の造形方法について、
図1を参照し説明する。
図1に示すように、金属造形物の造形装置1は、アーク溶接装置を利用した金属溶融積層方式の3Dプリンタ(WAAM)である。造形装置1は、溶融したワイヤ21(金属材料)で金属層22を成形して積層し、金属造形物23を造形する。造形装置1は、積層部3と、積層制御部5と、切削部4と、切削制御部6と、を有する。造形装置1は、金属層22を鉛直方向の下方から上方に向かって積層する。
【0022】
積層部3は、溶接トーチ31と、第1ロボットアーム32(移動手段)と、を有する。
溶接トーチ31は、不図示のワイヤ供給装置からワイヤ21が供給される。溶接トーチ31は、溶接トーチ31の先端でアーク放電を行い、ワイヤ21を溶融する。
第1ロボットアーム32は、不図示のロボット本体から延びている。溶接トーチ31は、第1ロボットアーム32の先端部に取り付けられている。第1ロボットアーム32は、溶接トーチ31を所望の位置へ移動可能とするものであって、溶接トーチ31の姿勢が調整可能とされている。なお第1ロボットアーム32は、移動手段の一例であり、溶接トーチ31の姿勢が変更でき、金属造形物23を形成する際に土台として用いられる母材24に対して溶接トーチ31の相対的な位置を変更させることができるものであればよい。したがって、溶接トーチ31の姿勢が変更できるように構成されていれば、少なくとも母材24に対して溶接トーチ31を二次元的に移動させることができればよく、溶接トーチ31を一方へ移動可能とし、母材24を一方と直交する他方へ移動可能とする構成でもよい。
本実施形態で用いた第1ロボットアーム32は、具体的には、第1リンク321と、第2リンク322と、基部323と、第1関節324と、第2関節325と、第3関節326と、を有する3節のロボットアームを用いた。第1リンク321は、溶接トーチ31に繋がるものであり、溶接トーチ31と第1リンク321との間に第1関節324が設けられている。また第2リンク322は、第1リンク321に繋がるものであり、第1リンク321と第2リンク322との間に第2関節325が設けられている。そして基部323は、第2リンク322に繋がるものであって、第2リンク323と基部325との間に第3関節326が設けられている。第1関節324は、第1リンク321の延在方向を回転軸線とするひねりの他、上下(もしくは左右)への曲げを可能とするものとした。また第2関節325は、第1リンク321の延在方向を回転軸線とする回転の他、上下への曲げを可能とするものとした。そして第3関節326は、鉛直方向を回転軸線とする回転の他、前後もしくは左右への曲げを可能とするものとした。
【0023】
積層部3は、第1ロボットアーム32を駆動して溶接トーチ31を移動させつつ、溶接トーチ31でワイヤ21を溶融することで、溶融したワイヤ21を母材24(
図1参照)の上に供給して金属層22を成形する。積層部3は、溶接トーチ31を移動させながら既に成形された金属層22に重ねて新たな金属層22を成形して積層することによって金属造形物23を造形する。
【0024】
積層制御部5は、溶接トーチ31の姿勢及び移動方向を制御する姿勢制御部51を有する。
姿勢制御部51は、金属造形物23の形状に応じて溶接トーチ31を移動すべく第1ロボットアーム32を制御する。このように既に成形した金属層22上に、溶接トーチ31でワイヤ21を溶融させ、断面が半円形状となる新たな金属層22を順次、成形することで、金属造形物23が造形される。
このとき、例えば金属層22は、母材24に積層した一層目よりも一層目の直上に積層される二層目、さらには二層目よりも二層目の直上に積層される三層目と、順次積層されていく結果、金属層22は次第により潰れた断面となることがあった。このように金属層22が均一な断面形状とならず、ひいては意図した、一定の肉盛りとならない場合にあっては、意図した形状の金属造形物23を成形することが難しかった。
【0025】
そこで本実施形態では、
図3に示すように切削部4を用いて、積層した金属層22の一部を除去し、この金属層22を除去した部分に、新たに金属層22を成形することとした。切削部4は、切削具41と、第2ロボットアーム42と、を有する。
【0026】
切削具41は、円柱状のエンドミルである。切削具41は、軸線方向の一方側の端部411側が第2ロボットアーム42に取り付けられ、軸線方向の他端側が第2ロボットアーム42から突出している。切削具41は、円柱形状の中心軸を回転軸として回転した状態で、軸線方向の他方側の端部412が金属層22の表面に押し付けられることで金属層22の表面を切削可能とされている。なお、本実施形態では、エンドミルを用いたフライス加工による切削を行ったが、バイトと呼ばれる刃物を用いて平削りを行ってもよい。
第2ロボットアーム42は、不図示のロボット本体から延びている。第2ロボットアーム42は、切削具41を所望の位置へ移動可能とするものであって、切削具41の姿勢が調整可能とされている。第2ロボットアーム42は、第1ロボットアーム32同様の構成を有する3節のロボットアームを用いた。
【0027】
切削制御部6は、積層高さ測定部61と、切削判定部62と、切削指示部63と、を備え、切削具41の姿勢及び移動方向を決定し、制御を行い、必要に応じて金属層22を切削し、一部を除去する。
積層高さ測定部61は、金属層22を積層する工程中に、成形した、最上部に位置する金属層22の高さを非接触で測定する。なお以下では、最上部に位置する金属層22の鉛直方向における高さを、単に金属層22の積層高さと表記する。本実施形態では、金属層22を積層する毎に、金属層22の積層高さを複数の位置において、積層高さ測定部61で測定する。本実施形態では、積層高さ測定部61は、積層厚みの均一性を評価すべく、金属造形物23が成形される母材と平行な水平面において、同一の位置で、1層や2層など予め設定された基準積層数毎の金属層22の高さ(鉛直方向高さ)を計測するものとした。積層高さ測定部61によって複数の位置で測定された測定値は、切削判定部62に送信されるように構成されている。
【0028】
切削判定部62は、積層高さ測定部61で測定された複数の測定値に基づき、金属層22の基準積層数での積層高さ(水平面の同一位置における、基準積層数の金属層22の積層前後における金属層22の高さの差)である単位金属層高さを算出可能とされている。そして切削判定部62は、最大値と最小値の差が予め設定された設定値(閾値)以上であれば切削部4による金属層22の切削が必要であると判定し、設定値(閾値)未満であれば切削部4による金属層22の切削が不要であると判定する。本実施形態では、最小値に当たる基準積層数の金属層22の高さを基準高さとして、金属層22の高さをこの基準高さに揃えるべく、切削判定部62は、各計測点での切削量(切削深さ)を算出する。そして切削判定部62は、金属層22の切削の要否、並びに各計測点での切削量を切削指示部63に送信するとともに、本実施形態では、金属層22の高さの目標値である基準高さを積層制御部5にも送信する。
【0029】
切削指示部63は、切削判定部62の金属層22の切削の要否に関する情報に基づき、切削部4の制御を行う。切削判定部62が切削部4による金属層22の切削が必要であると判定した場合には、切削指示部63は、金属層22の高さが基準高さとなるように切削するように切削部4の制御を行う。本実施形態では、各計測点において、切削判定部62で算出した各計測点での切削量(切削深さ)だけ金属層22を切削すべく、切削具41を移動させ、金属層22の一部を除去する制御を行う。このとき、切削指示部63は、金属層22が延びる方向、すなわち、金属層22を成形した際に溶接トーチ31の先端を移動させた方向へ切削具41を移動させるように第2ロボットアーム52を制御することで、金属層22が延びる方向と同じ方向に切削具41を移動させ、金属層22の切削を行う。ここでは、切削指示部63は、切削具41の姿勢及び移動を制御し、金属層22の上面を平面、より具体的には水平面となるように切削すべく、制御を行う。一方、切削指示部63は、切削判定部62が切削部4による金属層22の切削が不要であると判定した場合には、切削部4による金属層22の切削を行わない。
そして、必要に応じて切削部4による切削を行い、金属層22の高さが基準高さとされた金属層22を下地層として、積層部3で新たな金属層22を積層する。なお本実施形態では、新たな金属層22を積層する場合、積層制御部5は切削判定部62から受信した基準高さを基に金属造形物23の断面形状を特定し、この断面形状となる新たな金属層22を成形すべく、溶接トーチ31の姿勢・移動を制御する。
以上のようにして、積層部3による金属層22の積層と、切削部4による金属層22の切削と、を交互に繰り返し、複数の金属層22を積層方向に積層し、金属造形物23を形成する。この結果、積層部3で成形した金属層22の高さのばらつきに左右されることなく、意図した形状の金属造形物23を形成することができる。
なお、本実施形態では、金属層22の上面を必要に応じて切削し、基準高さに揃える構成としたが、少なくとも金属層22の表面の起伏を滑らかにし、積層方向の高さのばらつきを所定の範囲内とすることができるものであればよい。このため、切削部4での金属層22の切削は、上記実施形態の通り、平面の他、曲面など所定の形状としてもよい。さらには上記実施形態では、金属層22を部分的に切削する構成としたものの、金属層22を一様の高さとすべく、積層部3で積層した金属層22の上部をすべて切削部4で切削し、積層方向の高さのばらつきを少なくするようにしてもよい。なお、金属層22を切削部4で切削した場合、溶融し、固化した金属層22の表面を除去した後、新たな金属層22が形成されることになる。このため、金属層22と金属層22の接合部に酸素などの不純物が取り込まれることをより良く抑制し、成形された金属造形物23が脆くなることを抑制する効果を得ることができる。
また、金属層22を切削する場合にあっては、積層した金属層22のみならず、その下層に位置する金属層22を一緒に切削してもよく、さらには金属層22を切削し、金属層22の形状を整えてもよい。
【0030】
続いて金属造形物の造形方法について説明する。 積層部3で母材24上に金属層22を成形して積層する積層工程S1(下地層成形工程)を行う。積層工程S1では、成形する金属造形物23の形状に関する三次元データに基づき、母材24と平行な断面形状を切り出し、この断面形状を金属層22で形成すべく、積層部3やワイヤ供給装置が積層制御部5で制御される。積層制御部5は、溶接トーチ31の姿勢及び移動方向を制御するため、第1ロボットアームや溶接トーチ31の駆動を制御するだけでなく、ワイヤ供給装置から溶接トーチ31へのワイヤ21の供給も制御する。
【0031】
積層工程S1で金属層22を成形した後、積層高さ測定部61によって、予め設定された基準積層数毎の金属層22の積層高さを非接触で測定する積層高さ測定工程S2を行う。積層高さ測定工程S2では、母材24と平行な水平面における同一の位置で基準積層数毎の金属層22の高さ(鉛直方向高さ)を計測する。積層高さ測定部61によって測定された複数の測定値は、切削判定部62に送信される。
【0032】
切削判定工程S3では、積層高さ測定工程S2において積層高さ測定部61の測定値に基づき、切削判定部62において次工程である切削工程S4での切削の要否を判定する。切削判定部62は、金属層22の基準積層数での積層高さ(水平面の同一位置における、基準積層数の金属層22の積層前後における金属層22の高さの差)を算出する。そして切削判定部62は、最大値と最小値の差が予め設定された設定値(閾値)以上であれば切削部4による金属層22の切削が必要であると判定し、設定値(閾値)未満であれば切削部4による金属層22の切削が不要であると判定する。なお、切削判定部62は、金属層22の切削が必要であると判定したとき、最小値に当たる基準積層数の金属層22の高さを基準高さとして、金属層22の高さをこの基準高さに揃えるべく、各計測点での切削量(切削深さ)を算出する。切削判定部62は、金属層22の切削の要否、並びに各計測点での切削量(切削深さ)を切削指示部63に送信するとともに、本実施形態では、金属層22の高さの目標値である基準高さを積層制御部5にも送信する。
【0033】
切削判定工程S3において、切削部4による金属層22の切削が不要であると判定された場合には、積層工程S1(金属層成形工程)に戻り、金属造形物23の形成を継続する。このとき、積層制御部5は、切削判定部62から受信した基準高さに基づき、金属造形物23の断面形状を特定し、この断面形状となる新たな金属層22を形成すべく、溶接トーチ31の姿勢・移動を制御する。このようにして、金属層22を、下地層となる金属層22上に成形し、金属造形物23を成形する。
【0034】
切削判定工程S3において、切削部4による金属層22の切削が必要であると判定された場合は、切削工程S4を行う。切削工程S4では、各計測点において、切削判定部62で算出した各計測点での切削量(切削深さ)だけ金属層22を切削すべく、切削具41の姿勢を制御しつつ、第2ロボットアーム52で切削具41を移動させる制御が切削指示部63で行われる。より具体的には切削指示部63は、金属層22が延びる方向、すなわち、金属層22を成形した際に溶接トーチ31の先端を移動させた方向へ切削具41を移動させるように第2ロボットアーム52を制御することで、金属層22が延びる方向と同じ方向に切削具41を移動させ、金属層22の切削を行う。ここでは、切削指示部63は、切削具41の姿勢及び移動を制御し、金属層22の上面を平面、より具体的には高さが基準高さの水平面となるように切削すべく、制御を行う。
切削工程S4の完了後、積層工程S1(金属層成形工程)に戻り、一部が除去された金属層22(下地層)に新たな金属層22を積層し、金属造形物23の形成を継続する。このとき、積層制御部5は、切削判定部62から受信した基準高さに基づき、金属造形物23の断面形状を特定し、この断面形状となる新たな金属層22を成形すべく、溶接トーチ31の姿勢・移動を制御する。このようにして、金属層22を下地層となる金属層22上に成形し、金属造形物23を成形する。
【0035】
以上のように、第1実施形態による金属造形物の造形方法では、金属層22を成形した後、切削部4で金属層22を切削する切削工程S4を行う。このため、積層部3で金属層22を成形する積層工程S1の際に金属層22の表面に凹凸が生じた場合も、その凹凸を無くすことができ、ひいては成形される金属造形物23の形状精度を向上させることができる。加えて、金属層22の表面の凹凸が無くなることにより、積層工程S1において溶接トーチ31と金属層22の距離を一定に保持することができるため、肉盛り量が安定し、ビードの分断を抑制することができる。
また、溶接トーチ31と金属層22との距離が近くなりすぎて、溶接トーチ31と金属層22が衝突することを抑制することができる他、溶接トーチ31と金属層22との距離が大きくなりすぎて、溶接中に火花(溶接スパッタ)が飛散したり、金属の小さな粒子(溶接ヒューム)が発生したりすることを抑制することができる。
【0036】
なお上記実施形態では、積層高さ測定部61の測定値として、母材24と平行な水平面において、同一の位置で、1層や2層など予め設定された基準積層数毎の金属層22の高さ(鉛直方向高さ)を計測し、この計測結果に基づき、切削判定部62(切削判定工程S3)で金属層22の基準積層数での積層高さを算出し、金属層22の切削の要否を判定した。しかしこれに限らない。例えば積層高さ測定部61(積層高さ測定工程S2)は、母材24と平行な水平面において所定間隔、もしくは溶接トーチ31(先端)の所定移動距離毎に、延在する金属層の22の表面(上面)高さを計測するものとしてもよい。この場合、切削判定部62(切削判定工程S3)は、この計測結果に基づき、所定距離、つまり所定間隔毎の金属層22の高さから高さが最も高い最高点と高さが最も低い最下点を抽出する。そして切削判定部62(切削判定工程S3)では、最高点と最低点の差が予め設定された設定値(閾値)以上であれば切削部4による金属層22の切削が必要であると判定し、設定値(閾値)未満であれば切削部4による金属層22の切削が不要であると判定する。
【0037】
このように本実施例に係る金属造形物の造形装置及び造形方法は、切削部4(切削工程S4)において、金属層22の少なくとも一部を除去することにより、下地層となる金属層22の表面の凹凸を緩和し、金属層22の積層時に発生する問題を抑制しつつ、成形される金属造形物23の形状精度をより高めるものである。このため、積層高さ測定部61(積層高さ測定工程S2)と切削判定部62(切削判定工程S3)は必ずしも必要なく、例えば溶接トーチ31に対して、一定の位置に切削部4を設け、成形された金属層22が所定の高さ以上となった場合に、金属層22の所定の高さを超える部分を切削するようにしてもよい。この他、積層高さ測定部61(積層高さ測定工程S2)の測定結果を踏まえ、上記実施例のように基準高さに画一的に揃えることなく、基準積層数の金属層22の積層高さを所定の範囲内とするよう、または最高点と最低点の差が所定の範囲内となるようにしてもよい。つまり切削判定部62は、基準積層数の金属層22の最小値、または金属層22の高さが最も低い最下点に比べて、基準高さ、すなわち切削部4で一部が切削された金属層22の高さ、が高くなるように閾値を設定してもよい。このように切削判定部62は、基準積層数の金属層22の最小値、または金属層22の高さが最も低い最下点に比べて基準高さが高くなるように設定することで、金属層22の切削量を削減することができる。
【符号の説明】
【0038】
1 造形装置
21 ワイヤ(金属材料)
22 金属層
23 金属造形物
24 母材
3 積層部
31 溶接トーチ
32 第1ロボットアーム(移動手段)
4 切削部
41 切削具
42 第2ロボットアーム
5 積層制御部
51 姿勢制御部
6 切削制御部
61 積層高さ測定部
62 切削判定部
63 切削指示部