(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024102579
(43)【公開日】2024-07-31
(54)【発明の名称】母材支持装置
(51)【国際特許分類】
B23K 37/04 20060101AFI20240724BHJP
B23K 9/04 20060101ALI20240724BHJP
B23K 31/00 20060101ALI20240724BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20240724BHJP
【FI】
B23K37/04 Z
B23K9/04 G
B23K9/04 Z
B23K31/00 M
B33Y30/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023006567
(22)【出願日】2023-01-19
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】山縣 侑加
(57)【要約】
【課題】母材にゆがみが生じることを防止できる母材支持装置を提供する。
【解決手段】造形装置2によって上面に溶融した金属材料3が積層される母材4を載置する載置部5と、母材4の外周部を載置部5との間に挟み込み、載置部5に固定する固定部6と、を有し、載置部5の下方に設置され、母材4を下方へ引っ張る加圧部7をさらに有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
造形装置によって上面に溶融した金属材料が積層される母材を載置する載置部と、
前記母材の外周部を前記載置部との間に挟み込み、前記載置部に固定する固定部と、を有し、
前記載置部の下方に設置され、前記母材を下方へ引っ張る加圧部をさらに有することを特徴とする母材支持装置。
【請求項2】
前記載置部は、格子状であり、
前記加圧部は、前記格子を構成する部材間の領域を介して前記母材に固定可能とされていることを特徴とする請求項1に記載の母材支持装置。
【請求項3】
前記母材のゆがみ量を測定するセンサを有し、
前記母材のゆがみ量に応じて前記加圧部を制御することを特徴とする請求項1または2に記載の母材支持装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、母材支持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、WAAM(Wire arc additive manufacturing)の装置構成として、アーク溶接ロボットを用いて金属材料の積層を行うものが知られている(例えば、特許文献1参照)。WAAMでは、例えば、厚さ寸法が5mm程度の母材となる金属板の上に金属材料を積層する。このとき、母材は、テーブルなどの支持台の上に載置され、クランプなどの固定治具で母材の外周部が支持台に固定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、母材の上に溶融した金属材料を積層すると、溶融した金属から熱が母材に伝わり、母材の温度が不均一となった場合、熱による母材の伸びによってゆがみが生じ、母材が湾曲することがある。ひいては、母材上に積層された積層物(金属造形物)も母材の湾曲に追従して、湾曲することがある。
【0005】
そこで、本発明は、母材にゆがみが生じることを防止できる母材支持装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係る母材支持装置は、造形装置によって上面に溶融した金属材料が積層される母材を載置する載置部と、前記母材の外周部を前記載置部との間に挟み込み、前記載置部に固定する固定部と、を有し、前記載置部の下方に設置され、前記母材を下方へ引っ張る加圧部をさらに有することを特徴とする。
【0007】
本発明では、造形装置による金属材料の積層される際に、加圧部によって母材を下方へ引っ張ることができる。このため、金属材料が積層される際の熱によって母材が上方に撓むことが防止される。これにより、母材にゆがみが生じることを防止できる。
【0008】
また、本発明に係る母材支持装置では、前記載置部は、格子状であり、前記加圧部は、前記格子を構成する部材間の領域を介して前記母材に固定可能とされていてもよい。
【0009】
このような構成とすることにより、格子を構成する部材間の領域を介して、載置部の下方に設置された加圧部を母材に容易に固定できる。また、複数の上記領域が載置部に均等に設けられるため、加圧部を任意の位置に配置できる。
【0010】
また、本発明に係る母材支持装置では、前記母材のゆがみ量を測定するセンサを有し、前記母材のゆがみ量に応じて前記加圧部を制御してもよい。
【0011】
このような構成とすることにより、母材にゆがみが生じないように加圧部を調整できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、母材にゆがみが生じることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態による母材支持装置の一例を示す斜視図である。
【
図2】載置部、加圧部およびセンサの配置を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態による母材支持装置について、
図1-
図4に基づいて説明する。
図1に示すように、本実施形態による母材支持装置1は、造形装置2によって上面に溶融した金属材料3が積層される母材4を載置する載置部5と、母材4の外周部を載置部5に固定する固定部6と、載置部5に載置された母材4を下方へ引っ張る加圧する加圧部7と、母材のゆがみ量を測定するセンサ8と、を有する。
図1では、奥側に配置される加圧部7およびセンサ8の表記を省略している。なお、本実施形態では、「下方」とは「鉛直下方」と、また「上方」とは「鉛直上方」と同義であり、単に「下方」「上方」と記載し、説明を行う。
【0015】
造形装置2は、造形ロボットである。造形装置2は、ロボットアームと、溶接トーチ21と、を有する。造形装置2は、アーク溶接を利用した金属溶融積層方式の3Dプリンタ(WAAM)である。
ロボットアームは、不図示のロボット本体から延びている。ロボットアームの先端部には、溶接トーチ21が設けられている。溶接トーチ21は、不図示のワイヤ供給装置から溶接ワイヤ22が供給されるようになっている。造形装置2は、溶接ワイヤ22の先端でアーク放電を行い、溶接ワイヤ22を溶融し、これを母材4に積層することで、金属造形物31を製造することができる。金属造形物31の形状は、適宜設定可能である。
【0016】
母材4は、金属製の板材である。母材4は、板面(積層平面)が長方形の平板状であり、板面を水平として載置部5に載置される。
【0017】
図1-
図4に示すように、載置部5は、母材4が載置される格子状の枠部51と、枠部51を支持し床面11に設置される脚部52と、を有する。
平面視における枠部51の外形は、母材4の外形と略同じ長方形である。水平に延びる枠部51の長方形の外形は、一方の辺が横方向へ延び、この横方向と直交する縦方向へ他方の辺が延びる。図面では、横方向を矢印Xで示し、縦方向を矢印Yで示す。
【0018】
図2および
図4に示すように、枠部51は、縦方向に延びる第1棒状部53が横方向に間隔をあけて4つ配列され、横方向に延びる第2棒状部54が縦方向に間隔をあけて4つ配列された格子状とされている。したがって、枠部51は、隣り合う第1棒状部53、53の間であって、さらに隣り合う第2棒状部54、54の間に位置する領域55が9つ形成されている。
また、枠部51では、外周部、すなわち最外部に位置する、2つの第1棒状部53、53と、2つの第2棒状部54、54と、で形成される四角形の環状形状を有する外周枠部57を備える。
図1、
図3および
図4に示すように、脚部52は、枠部51から下方に延びている。本実施形態では脚部52は、枠部51(外周枠部57)の四隅、つまり最外部に位置する第1棒状部53と第2棒状部54の4つの交差部に加え、枠部51の中央部の2箇所、の合計6箇所から下方に延びている。
【0019】
図1および
図3に示すように、固定部6は、外周枠部57と同様、四角形の環状形状を有する固定枠部61を有する。固定枠部61は、枠部51の上に載置された母材4の外周部の上に載置され、枠部51とともに母材4を間に挟み込む。本実施形態では、枠部51の外周枠部57、母材4の外周部、そして固定枠部61が順次積層された状態で上下方向から挟んで固定するクランプを有する。これにより、固定部6は、母材4の外周部を枠部51の外周枠部57と固定枠部61とで挟み込んだ状態として、母材4を枠部51に固定することができる。なお固定部6は、枠部51の外周枠部57と、固定枠部61と、で母材4の外周部を挟み込み、固定できるものであれば、クランプではなく、ボルトなどの固定具で固定してもよい。このような場合は、枠部51の外周枠部57、母材4の外周部および固定枠部61に固定具が挿通される孔部が適宜設けられる。
【0020】
加圧部7は、枠部51、より具体的には領域55を介して母材4の下面に取り付けられる吸着パッド71と、床面11に設置され吸着パッド71を介して母材4を下方に引っ張ることが可能なリニアシリンダ72と、を有する。本実施形態では、加圧部7は、9つの領域55にそれぞれ設けられている(
図2参照)。
吸着パッド71は、溶融された溶接ワイヤ22が積層され、金属造形物31が形成される積層面と対向し、反対側に向いた下面に吸着可能(固定可能)とされており、金属材料3の積層により母材4が高温となった場合にも耐え得る耐熱性を有する。
【0021】
図1および
図2に示すセンサ8は、母材4の変位量を計測可能な距離センサや、電気抵抗の変化でひずみ量(ゆがみ量)を測定するひずみゲージなどで、母材4に取り付けられて母材4のゆがみ量を測定する。センサ8で測定された母材4のゆがみ量は、制御部(不図示)に送信され、母材4のゆがみ量に応じてリニアシリンダ72による加圧量が制御されるように構成されてもよい。例えば、上方に撓む母材4のゆがみ量が所定値を超える場合に、リニアシリンダ72による引っ張り量を増加させる制御を行う。センサ8は、例えば、複数の加圧部7それぞれの近接する位置に設けられる。
【0022】
次に、本実施形態による母材支持装置の作用・効果について説明する。
造形装置2で金属材料3が積層される際には、積層される金属材料3の熱によって母材4の積層面が高温となり、母材4の積層面と対向する下面との間で大きな温度差が生じる。この結果、母材4は、下面側に対して積層面側が熱膨張し、上方へ凸となる撓みが生じる。そこで本実施形態による母材支持装置では、造形装置2によって金属材料3が積層される際に、加圧部7によって母材4を下方から引っ張る構成とした。このため、金属材料3が積層される際の熱によって母材4が上方に撓むことが防止される。これにより、母材4を厚くすることなく母材4にゆがみが生じることを防止できる。
【0023】
本実施形態による母材支持装置では、載置部5は、格子状の枠部51としている。このような構成とすることにより、格子を構成する部材間の領域55を介して、載置部5の下方に設置された加圧部7を母材に容易に固定できる。また、複数の領域55が載置部5に均等に設けられるため、加圧部7を任意の位置に配置できる。
【0024】
本実施形態による母材支持装置では、母材4のゆがみ量を測定するセンサ8を有し、母材4のゆがみ量の値に応じて加圧部7を制御している。このような構成とすることにより、母材4にゆがみが生じないように加圧部7を調整できる。
【0025】
以上、本発明による母材支持装置の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上記の実施形態では、母材4の板面が長方形状であるが、長方形以外の形状であってもよい。載置部5の平面視形状は、母材4を載置して、母材4の外周部を固定部6で固定可能な形状であれば、母材4と同じ形状でなくてもよい。
上記の実施形態では、固定部6は、母材4の外周部に重なる固定枠部61とクランプなどの固定具であるが、母材4の外周部を載置部5に固定できる形態であれば、上記以外であってもよい。
【0026】
上記の実施形態では、載置部5は、格子状の枠部51を用いて、格子を構成する枠部51の部材間の領域55を介して母材4に固定可能な構成としたがこれに限らない。例えば、板状の載置部5に加圧部7を母材4固定可能な構成とする孔部を形成した構成としてもよい。また、加圧部7は、載置部5の母材4にアクセス可能な領域55の全てに設けた構成としたが、これに限らず、例えば、母材4の中央部分などゆがみが生じやすいと想定される部分に位置する領域55のみに設けられていてもよい。また、1つの領域55に複数の加圧部7を設ける構成としてもよい。
加圧部7の形態は、母材4を下方から加圧(引っ張り)可能な構成であれば、上記以外であってもよい。
【0027】
上記の実施形態では、母材4のゆがみ量を測定するセンサ8を有し、母材4のゆがみ量に応じて加圧部7を制御しているが、これに限らず、温度を測定可能なセンサ8を設け、母材4の積層面と下面の温度、ひいては温度差に基づいて制御してもよい。また、加圧部7による母材4の加圧量(引っ張り力の大きさ)は、造形装置2による金属材料3の積層が行われる際に一定値であってもよい。
【符号の説明】
【0028】
1 母材支持装置
2 造形装置
3 金属材料
4 母材
5 載置部
6 固定部
7 加圧部
8 センサ
53 第1棒状部(部材)
54 第2棒状部(部材)
55 領域