IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社アイセルの特許一覧

<>
  • 特開-下地塗料、塗料および構造体 図1
  • 特開-下地塗料、塗料および構造体 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024102587
(43)【公開日】2024-07-31
(54)【発明の名称】下地塗料、塗料および構造体
(51)【国際特許分類】
   C09D 183/16 20060101AFI20240724BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20240724BHJP
【FI】
C09D183/16
C09D5/00 D
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023006583
(22)【出願日】2023-01-19
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-02-28
(71)【出願人】
【識別番号】595016440
【氏名又は名称】株式会社アイセル
(74)【代理人】
【識別番号】100120640
【弁理士】
【氏名又は名称】森 幸一
(72)【発明者】
【氏名】室川 敏治
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038DL171
4J038KA03
4J038KA06
4J038NA04
4J038NA12
4J038PA07
4J038PB05
4J038PC02
4J038PC03
4J038PC08
(57)【要約】
【課題】少なくとも表面側の少なくとも一部がほうろう、ガラス、ステンレス鋼、ポリカーボネートまたはABS樹脂により構成され、表面に水が接触する環境で使用される構造体の表面に簡便に塗装を行うことができ、扱いやすく、構造体の表面に強固に下地塗料層を形成することができ、その上に水性または油性の塗料のトップコートを簡便にかつ構造体の表面に強固に結合した状態で形成することができ、剥がれを防止することができる下地塗料を提供する。
【解決手段】少なくとも表面側の少なくとも一部がほうろう、ガラス、ステンレス鋼、ポリカーボネートまたはABS樹脂により構成され、表面に水が接触する環境で使用される構造体の上記ほうろうなどの表面に塗装を行う際に用いられる下地塗料は、無機ポリシラザンと有機ポリシラザンと溶剤とを含有し、有機ポリシラザンの濃度が上記無機ポリシラザンの濃度の13倍以上17倍以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも表面側の少なくとも一部がほうろう、ガラス、ステンレス鋼、ポリカーボネートまたはABS樹脂により構成され、表面に水が接触する環境で使用される構造体の上記ほうろう、ガラス、ステンレス鋼、ポリカーボネートまたはABS樹脂の表面に塗装を行う際に用いられる下地塗料であって、
無機ポリシラザンと有機ポリシラザンと溶剤とを含有し、上記有機ポリシラザンの濃度が上記無機ポリシラザンの濃度の13倍以上17倍以下である
ことを特徴とする下地塗料。
【請求項2】
上記溶剤はジブチルエーテルである請求項1記載の下地塗料。
【請求項3】
少なくとも表面側の少なくとも一部がほうろう、ガラス、ステンレス鋼、ポリカーボネートまたはABS樹脂により構成され、表面に水が接触する環境で使用される構造体の上記ほうろう、ガラス、ステンレス鋼、ポリカーボネートまたはABS樹脂の表面に塗装を行う際に用いられる塗料であって、
無機ポリシラザンと有機ポリシラザンと溶剤とを含有し、上記有機ポリシラザンの濃度が上記無機ポリシラザンの濃度の13倍以上17倍以下である
ことを特徴とする塗料。
【請求項4】
上記溶剤はブチルエーテルである請求項3記載の塗料。
【請求項5】
少なくとも表面側の少なくとも一部がほうろう、ガラス、ステンレス鋼、ポリカーボネートまたはABS樹脂により構成され、表面に水が接触する環境で使用される構造体であって、
上記ほうろう、ガラス、ステンレス鋼、ポリカーボネートまたはABS樹脂の表面に、無機ポリシラザンと有機ポリシラザンとを含有し、上記有機ポリシラザンの濃度が上記無機ポリシラザンの濃度の13倍以上17倍以下である下地塗料層を有する
ことを特徴とする構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、下地塗料、塗料および構造体に関し、特に、表面に水が接触する環境で使用される各種の構造体、例えば洗面台や流しなどの塗装に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
現在、一般向けに各種塗料が販売されているが、それらには「絶えず水がかかったり、水につかるところや、いつも湿っているところ」では使用できないとの用途制限がある。このような水が接触する場所向けの塗料としては、エポキシ樹脂塗料がある。しかしながら、エポキシ樹脂塗料は塗装工程が難しいため一般向けではないだけでなく、ほうろう製品の塗装には向いていない。
【0003】
ほうろう製品向けの下地塗料(プライマー)としては、例えば、特殊変成樹脂を主成分としたエスケー化研株式会社製SK#2000プライマーが知られている(非特許文献1参照)。一方、バスタブなどに用いられるプライマーとして、North American Polymer Company製のGorilla Gripという製品が知られている(非特許文献2参照)。
【0004】
なお、少なくとも表面側の少なくとも一部がガラスにより構成されている、ガラスを用いた構造体の上記ガラスの表面に、フッ素樹脂溶液と無機ポリシラザンおよび有機ポリシラザンのうちの少なくとも無機ポリシラザンとを含有し、上記無機ポリシラザンおよび上記有機ポリシラザンの含有量が、上記フッ素樹脂100質量部に対し、300質量部以上500質量部以下であり、かつ上記有機ポリシラザンが100質量部以上300質量部以下であり、または、上記無機ポリシラザンおよび上記有機ポリシラザンの含有量が、上記フッ素樹脂100質量部に対し、400質量部以上600質量部以下であり、かつ上記無機ポリシラザンが400質量部で上記有機ポリシラザンが0質量部以上200質量部以下であるコーティング液を塗布する技術が知られている(特許文献1参照)。また、少なくとも表面側の少なくとも一部が鉄系金属、アルミニウム、アルミニウム合金または硬質合成樹脂により構成されている構造体の上記鉄系金属、アルミニウム、アルミニウム合金または硬質合成樹脂の表面に、ジブチルエーテルに溶解可能なフッ素樹脂を含有するフッ素樹脂溶液と無機ポリシラザンおよび有機ポリシラザンのうちの少なくとも無機ポリシラザンとを含有し、上記無機ポリシラザンおよび上記有機ポリシラザンの含有量が、上記フッ素樹脂100質量部に対し、200質量部以上300質量部以下であり、かつ上記有機ポリシラザンが100質量部以上200質量部以下であり、または、上記無機ポリシラザンおよび上記有機ポリシラザンの含有量が、上記フッ素樹脂100質量部に対し、400質量部以上500質量部以下であり、かつ上記有機ポリシラザンが200質量部以上300質量部以下であり、または、上記無機ポリシラザンおよび上記有機ポリシラザンの含有量が、上記フッ素樹脂100質量部に対し、400質量部以上600質量部以下であり、かつ上記有機ポリシラザンが0質量部以上200質量部以下であり、または、上記無機ポリシラザンおよび上記有機ポリシラザンの含有量が、上記フッ素樹脂100質量部に対し、700質量部以上900質量部以下であり、かつ上記有機ポリシラザンが100質量部以上300質量部以下であるコーティング液を塗布する技術が知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6960194号公報
【特許文献2】特許第7118380号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】[令和5年1月16日検索]、インターネット〈URL:https://www.sk-kaken.co.jp/product/undercoating-materials/2000primer/ 〉
【非特許文献2】[令和5年1月16日検索]、インターネット〈URL:https://www.napcoltd.com/catalogsearch/result/?q=+gorrila+grip〉
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献1記載のプライマーは主剤と硬化剤とを用いる2液溶剤型であり、使用直前に指定比率で両者を調合し、使い切ることを前提としているため、簡便性はない。また、非特許文献2記載のプライマーは、塗装面を事前にポリクリーナーで洗浄する必要があり、かつプライマー塗布後30分以内にトップコートを塗布しなければならないため、同様に簡便性はない。
【0008】
そこで、この発明が解決しようとする課題は、少なくとも表面側の少なくとも一部がほうろう、さらにはガラス、ステンレス鋼、ポリカーボネートまたはABS樹脂により構成され、表面に水が接触する環境で使用される構造体の表面に簡便に塗装を行うことができ、しかも1液溶剤型であるため扱いやすく、構造体の表面に強固に下地塗料層を形成することができ、その上にウレタン系水性塗料や油性塗料などの一般的な塗料によるトップコートを簡便にかつ構造体の表面に強固に結合した状態で形成することができ、剥がれを防止することができる下地塗料、この下地塗料の成分を含有する塗料およびこの下地塗料を用いた構造体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、この発明は、
少なくとも表面側の少なくとも一部がほうろう、ガラス、ステンレス鋼、ポリカーボネートまたはABS樹脂により構成され、表面に水が接触する環境で使用される構造体の上記ほうろう、ガラス、ステンレス鋼、ポリカーボネートまたはABS樹脂の表面に塗装を行う際に用いられる下地塗料であって、
無機ポリシラザンと有機ポリシラザンと溶剤とを含有し、上記有機ポリシラザンの濃度が上記無機ポリシラザンの濃度の13倍以上17倍以下である
ことを特徴とする下地塗料である。
【0010】
無機ポリシラザン(ペルヒドロポリシラザン(PHPS))は、珪素(Si)、窒素(N)および水素(H)のみから構成される化合物であり、炭素などの有機成分を含まない無機のポリマーであり、-(SiH2 NH)-ユニットから構成されている。この無機ポリシラザンはドイツメルク社から「Durazane」(登録商標)として、商品番号Durazane2200、Durazane2400、Durazane2600、Durazane2800で市販されており、これらの商品は各種の固形分濃度の有機溶剤溶液として入手して使用することができる。特に好ましいものはジブチルエーテルの溶液となっている商品番号Durazane2800である。有機ポリシラザン(オルガノポリシラザン(OPSZ))は、珪素(Si)、窒素(N)、水素(H)およびメチル基(CH3 )から構成される化合物であり、炭素を含む有機のポリマーであり、-(SiH2 NHCH3 )-ユニットから構成されている。この有機ポリシラザンは、ドイツメルク社から「Durazane」(登録商標)として、商品番号Durazane1033、Durazane1800、Durazane1500で市販されており、これらの商品は各種の固形分濃度の有機溶剤溶液として入手して使用することができる。特に好ましいものはジブチルエーテルの溶液となっていてかつ常温での硬化が速い商品番号Durazane1500RCである。
【0011】
下地塗料中の無機ポリシラザンおよび有機ポリシラザンのそれぞれの濃度および合計の濃度は、有機ポリシラザンの濃度が無機ポリシラザンの濃度の13倍以上17倍以下の範囲内である限り、特に限定されず、必要に応じて選択される。下地塗料には、必要に応じて、無機ポリシラザンおよび有機ポリシラザン以外の成分を含有させてもよい。例えば、下地塗料には、無機ポリシラザンおよび有機ポリシラザンに加えて酸化チタン、銅、ヨウ素またはナノ銀系改質剤を含ませることができ、そうすることで構造体に対して防臭・抗菌・帯電防止効果を付与することができ、防汚効果の向上を図ることができる。下地塗料に含まれる溶剤は必要に応じて選択されるが、好適には、構造体の表面の微小な孔や隙間などへの浸透性が高く、かつ粘度が低いものが選択され、例えば、ジブチルエーテルが選択される。
【0012】
少なくとも表面側の少なくとも一部がほうろう、ガラス、ステンレス鋼、ポリカーボネートまたはABS樹脂により構成され、表面に水が接触する環境で使用される構造体は、基本的にはどのようなものであってもよく、特に限定されず、例えば、各種のほうろう製品、ガラス製品、ステンレス鋼製品、ポリカーボネート製品またはABS樹脂製品であってよいが、具体的には、例えば、洗面台、流し、トイレ、バスタブ、容器などである。
【0013】
この下地塗料を構造体の表面に塗装すると、構造体の表面の孔や隙間などに溶剤が浸透し、それに伴ってこれらの孔や隙間などに無機ポリシラザンおよび有機ポリシラザンも浸透する。その結果、構造体の表面の全体にこれらの無機ポリシラザンおよび有機ポリシラザンが密着する。溶剤が蒸発すると構造体の表面に下地塗料層が強固に結合して形成される。下地塗料層上にトップコートの塗装を行った後、構造体に空気中の水分が接触すると、水による反応で下地塗料層の無機有機ハイブリッドポリシラザンはシリカ結晶を形成し、ほうろう、ガラスおよびステンレス鋼のような無機素材とは無機ポリシラザンにより強固に結合し、ポリカーボネートおよびABS樹脂のような有機素材とは有機ポリシラザンにより強固に結合する。無機有機ハイブリッドポリシラザンにより形成されたシリカ結晶は有機性を持つことから、有機系の塗料によりトップコートを形成した場合にはシリカ結晶と強固に結合する。この結果、トップコートは構造体と強固に結合し、剥がれが発生し難くなる。
【0014】
また、この発明は、
少なくとも表面側の少なくとも一部がほうろう、ガラス、ステンレス鋼、ポリカーボネートまたはABS樹脂により構成され、表面に水が接触する環境で使用される構造体の上記ほうろう、ガラス、ステンレス鋼、ポリカーボネートまたはABS樹脂の表面に塗装を行う際に用いられる塗料であって、
無機ポリシラザンと有機ポリシラザンと溶剤とを含有し、上記有機ポリシラザンの濃度が上記無機ポリシラザンの濃度の13倍以上17倍以下である
ことを特徴とする塗料である。
【0015】
この塗料は、上記の下地塗料と同一の成分を含有するほか、構造体の表面に塗装を行うトップコートに必要な成分を含有し、これらの成分はトップコートが水性であるか油性であるかに応じて適宜選択される。この塗料の発明においては、その性質に反しない限り、上記の下地塗料の発明に関連して説明したことが成立する。この塗料を用いることにより一回の塗装で下地塗料およびトップコートの塗装を行うことができる。
【0016】
また、この発明は、
少なくとも表面側の少なくとも一部がほうろう、ガラス、ステンレス鋼、ポリカーボネートまたはABS樹脂により構成され、表面に水が接触する環境で使用される構造体であって、
上記ほうろう、ガラス、ステンレス鋼、ポリカーボネートまたはABS樹脂の表面に無機ポリシラザンと有機ポリシラザンとを含有し、上記有機ポリシラザンの濃度が上記無機ポリシラザンの濃度の13倍以上17倍以下である下地塗料層を有する
ことを特徴とする構造体である。
【0017】
この構造体の発明においては、その性質に反しない限り、上記の下地塗料の発明に関連して説明したことが成立する。
【発明の効果】
【0018】
この発明によれば、少なくとも表面側の少なくとも一部がほうろう、ガラス、ステンレス鋼、ポリカーボネートまたはABS樹脂により構成され、表面に水が接触する環境で使用される構造体の表面に簡便に下地塗料の塗装を行うことができ、しかも下地塗料は1液溶剤型であるため扱いやすく、構造体の表面に強固に下地塗料層を形成することができ、その上にウレタン系水性塗料や油性塗料などの一般的な塗料によるトップコートを簡便にかつ構造体の表面に強固に結合した状態で形成することができ、剥がれを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施例においてプライマーの塗装を行わずに水性塗料の塗装を行ったほうろう洗面台を1カ月間使用した後の状態を示す図面代用写真である。
図2】実施例においてプライマーおよびトップコートの塗装を行ったほうろう洗面台を3カ月間使用した後の状態を示す図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、発明を実施するための形態(以下「実施の形態」とする)について説明する。
【0021】
〈一実施の形態〉
この一実施の形態においては、表面に水が接触する環境で使用される構造体のほうろう、ガラス、ステンレス鋼、ポリカーボネートまたはABS樹脂の表面に下地塗料(以下、「プライマー」と称する)の塗装を行った後、トップコートの塗装を行う。
【0022】
[プライマー]
このプライマーは、無機ポリシラザンと有機ポリシラザンと溶剤とを含有し、有機ポリシラザンの濃度が無機ポリシラザンの濃度の13倍以上17倍以下である。有機ポリシラザンおよび無機ポリシラザンのそれぞれの濃度は必要に応じて選択される。
【0023】
[プライマーの塗装]
構造体の表面にプライマーの塗装を行う。塗装方法は特に限定されず、必要に応じて選択されるが、例えば、スプレー法、ディッピング法、刷毛塗り法、ロールコート法、グラビアコート法、フレキソ法、インクジェット法などが挙げられる。こうして構造体の表面にプライマーの塗装を行うと、構造体の表面の微小な孔や隙間などを含めた全体に無機ポリシラザンおよび有機ポリシラザンが密着する。乾燥による溶剤の除去後、構造体の表面に無機ポリシラザンおよび有機ポリシラザンからなるプライマー層が形成される。
【0024】
[トップコートの塗装]
プライマー層上にトップコートの塗装を行う。その後、トップコートの溶剤を乾燥により除去する。トップコートは水性でも油性でもよく、必要に応じて選択される。塗装方法はプライマーの塗装方法と同様である。
【0025】
[構造体と水との接触]
トップコートの塗装を行った構造体をそのまま放置して空気中の水分と接触させるか、あるいは水没させるなどして水と接触させる。構造体の表面に水が接触すると、水による反応でプライマー層の無機有機ハイブリッドポリシラザンはシリカ結晶を形成するとともに、無機ポリシラザンまたは有機ポリシラザンにより構造体の素材と強固に結合する。そして、トップコートはシリカ結晶と強固に結合する。この結果、トップコートは構造体と強固に結合し、剥がれが発生し難くなる。
【0026】
[実施例]
(試験)
無機ポリシラザンと有機ポリシラザンとの濃度比率が異なるプライマーを作製し、それぞれ、ほうろう、ガラス(シリカガラス)、ステンレス鋼(SUS304)、ポリカーボネートまたはABS樹脂からなる基板にプライマーの塗装を行い、プライマーの乾燥を経てトップコートの塗装および乾燥を行い、水と接触させた後、トップコートの剥がれの評価を行った。
【0027】
(試験法)
1.プライマーの準備
ジブチルエーテルを溶剤とした常温硬化の無機ポリシラザン(メルク社製Durazane2800-15)と同じくジブチルエーテルを溶剤とした常温硬化の有機ポリシラザン(メルク社製Durazane1500RC) とを混合し、この無機有機ハイブリッドポリシラザン溶剤をジブチルエーテルで希釈することにより、無機ポリシラザンおよび有機ポリシラザンのそれぞれの濃度を27水準に調整した無機有機ハイブリッドポリシラザン溶剤をテストプライマーとして準備した。無機ポリシラザンおよび有機ポリシラザンの一方だけを含有し、濃度を3水準に調整したテストプライマーも準備した。これらのテストプライマーの組成を表1に示す。
【0028】
【表1】
【0029】
2.トップコートの準備
テスト用トップコートとして、エアゾール式の市販の水性アクリル塗料(株式会社アサヒペンの多用途水性塗料)および油性アクリル塗料(コーナン商事株式会社の油性アクリルスプレー)を準備した。
【0030】
3.テストピースの準備
それぞれ、ほうろう、ガラス、ステンレス鋼、ポリカーボネートおよびABS樹脂からなる5cm×8cmの長方形の基板をテストピースとし、このテストピースの長手方向の片側半分をプライマー塗装用、他方の片側半分を無塗装用として2区画設定し、プライマー塗装用の区画をそれぞれ水性トップコート用、油性トップコート用としたものをテストプライマーの数だけ用意した。
【0031】
4.プライマーの塗装
テストピースのプライマー塗装用区画に、1区画当たり0.1mLのテストプライマーを滴下して不織布で塗布し、室温(10℃~20℃、湿度20%~40%)で6時間乾燥させた。
【0032】
5.トップコートの塗装
テストピースのプライマー塗装を行った区画および無塗装用区画に水性、油性のトップコートをそれぞれエアゾールで5往復塗布後、室温(10℃~20℃、湿度20%~40%)で24時間乾燥させた。
【0033】
6.水没
トップコートの塗装を行った全てのテストピースを容器に入れた常温の水道水(10℃~30℃)に水没させ、1週間放置した。
【0034】
7.トップコートの剥がれの検証
水没させたテストピースを容器から取り出し、常温で自然乾燥させた。この際、一部のテストピースでは、乾燥時にトップコートの剥離が発生した。全てのテストピースを再度水没させて2時間経過後、トップコートを布でこすり、剥がれるかを検証した。
【0035】
8.追試験
7.で剥がれなかったテストピースを1カ月間、6.と同じ条件で水没させ、再度7.と同様に剥がれを確認した。
【0036】
表1に各テストピースについての剥がれの評価結果を示す。表1中、×は剥がれが生じた場合、○は剥がれが生じなかった場合を示す。なお、試験の結果、水性トップコートと油性トップコートとの間では差異が認められなかったため、表1には、水性トップコートの塗装を行った場合の結果のみ載せた。
【0037】
表1の結果から、プライマーの無機ポリシラザンおよび有機ポリシラザンの合計のポリシラザン濃度には関係なく、また塗布する基板の種類やトップコートが水性であるか油性であるかにも関係なく、無機ポリシラザン対有機ポリシラザンの濃度倍率が13倍以上17倍以下であるプライマーが、トップコートの剥がれの防止に有効であることが検証された。なお、無機ポリシラザン、有機ポリシラザンそれぞれを単独に用いた場合の有効性は確認できなかった。また、有機物質と無機物質との架橋となるとされるシランカップリング剤(信越化学工業株式会社製ヘキサメタジシラザン)を用いて同様な試験を行ったところ、有効性は確認できなかった。さらに、剥がれが生じなかったテストピースについては、3カ月経過後もトップコートの剥離は発生していない。
【0038】
ほうろう洗面台の塗装にこのプライマーを適用した例について説明する。図1はプライマーの塗装を行わずに水性塗料の塗装を行ったほうろう洗面台を1カ月間使用した後の状態を示し、塗装が至る所、剥げていることが分かる。図2は、図1に示すほうろう洗面台の水性塗料の塗装を全て剥離した後、このほうろう洗面台の表面にプライマーの塗装を行い、室温で乾燥させた後、水性塗料によるトップコートの塗装および室温での乾燥を行い、3カ月間使用した後の状態を示す。図2より、トップコートの剥がれは全く観察されない。なお、使用したプライマーは、表1のNo.20に示すものであり、無機ポリシラザン対有機ポリシラザンの濃度倍率が15倍で無機ポリシラザンと有機ポリシラザンとの合計濃度が4.8%のものである。トップコートとしては、エアゾール式の市販の水性アクリル塗料(株式会社アサヒペンの多用途水性塗料)を使用した。
【0039】
以上のように、この一実施の形態によれば、少なくとも表面側の少なくとも一部がほうろう、ガラス、ステンレス鋼、ポリカーボネートまたはABS樹脂により構成され、表面に水が接触する環境で使用される構造体のほうろう、ガラス、ステンレス鋼、ポリカーボネートまたはABS樹脂の表面に、無機ポリシラザンと有機ポリシラザンとジブチルエーテルなどの溶剤とを含有し、有機ポリシラザンの濃度が無機ポリシラザンの濃度の13倍以上17倍以下であるプライマーの塗装を行うことにより、最終的に水性または油性のトップコートの塗装を行った場合にその剥がれを長期間防止することができる。また、プライマーは2液溶剤型ではなく1液溶剤型であるので、塗装を極めて簡便に行うことができるだけでなく、低コストでプライマー塗装を行うことができる。このプライマーは、初期塗装だけでなく、塗装が剥げた後の再塗装にも適用することができる。このプライマーを用いた塗装方法は、表面に水が接触する環境で使用される各種のほうろう製品、ガラス製品、ステンレス鋼製品、ポリカーボネート製品またはABS樹脂製品に適用して好適なものである。
【0040】
以上、この発明の実施の形態および実施例について具体的に説明したが、この発明は上述の実施の形態および実施例に限定されるものではなく、この発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0041】
この発明は、表面にほうろう、ガラス、ステンレス鋼、ポリカーボネートまたはABS樹脂を有する製品などの、ほうろう、ガラス、ステンレス鋼、ポリカーボネートまたはABS樹脂を用いた構造体のほうろう、ガラス、ステンレス鋼、ポリカーボネートまたはABS樹脂の表面の下地塗料に利用することが可能である。
図1
図2