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  • 特開-被覆活物質 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024102620
(43)【公開日】2024-07-31
(54)【発明の名称】被覆活物質
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20240724BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240724BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20240724BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/36 C
H01M4/505
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023006631
(22)【出願日】2023-01-19
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村石 一生
(72)【発明者】
【氏名】長尾 賢治
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA12
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB03
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050HA05
(57)【要約】
【課題】放電抵抗の増加が抑制された被覆活物質を提供すること。
【解決手段】活物質と、前記活物質の表面の少なくとも一部を被覆する被覆層と、を備え、レーザー回折散乱法によって求めた体積基準の粒度分布における積算値99%での粒子径(D99)から、式「粒径増大率(%)=〔被覆活物質のD99/被覆層を含まない活物質のD99〕×100」により求められる粒径増大率が、6.5%以下である、被覆活物質。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
活物質と、前記活物質の表面の少なくとも一部を被覆する被覆層と、を備え、
レーザー回折散乱法によって求めた体積基準の粒度分布における積算値99%での粒子径(D99)から、下記式により求められる粒径増大率が、6.5%以下である、被覆活物質。

粒径増大率(%)=〔被覆活物質のD99/被覆層を含まない活物質のD99〕×100
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、被覆活物質に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1(特開2022-47501号公報)には、電極用の被覆活物質の製造方法として、活物質およびコート液を含むスラリーを液滴化させて、スラリー液滴を得る第1の工程と、スラリー液滴を加熱気体中で気流乾燥させて、前駆体を得る第2の工程と、前駆体を焼成する第3の工程と、を含む、被覆活物質の製造方法(スプレードライ法)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-47501号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示される製造方法では、焼成等の熱処理の条件によっては被覆層が軟化し、被覆層の軟化によりネッキング(被覆層を構成する粒子間にネックが形成される現象)が発生する場合がある。この場合、ネッキングによって均質な伝導が阻害され、被覆活物質の放電抵抗が増加してしまう。
【0005】
したがって、本開示の目的は、放電抵抗の増加が抑制された被覆活物質を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
〔1〕本開示は、活物質と、前記活物質の表面の少なくとも一部を被覆する被覆層と、を備え、
レーザー回折散乱法によって求めた体積基準の粒度分布における積算値99%での粒子径(D99)から、下記式により求められる粒径増大率が、6.5%以下である、
被覆活物質である。

粒径増大率(%)=〔被覆活物質のD99/被覆層を含まない活物質のD99〕×100
【0007】
上記〔1〕の被覆活物質においては、放電抵抗の増加が抑制される。
すなわち、加熱温度で処理を行うことにより、コート層の軟化によるネッキングの発生を抑制できる。
活物質の表面にスプレードライ法等により被覆層を設けた後に熱処理(焼成)する際に、熱処理の温度を上記粒径増大率が6.5%以下となるように調整することで、ネッキングの発生を抑えることができる。これにより、被覆活物質の耐久性が向上し、放電抵抗の増加が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、評価試験1における各加熱温度および各加熱時間と放電直流内部抵抗(放電DC-IR)との関係を示すグラフである。
図2図2は、前駆体の水分量と前駆体のD90との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の一実施形態について説明する。ただし、本開示はこれらに限定されるものではない。なお、本明細書では、「正極」および「負極」を総称して「電極」と記す。
【0010】
<被覆活物質>
本実施形態の被覆活物質は、活物質と、前記活物質の表面の少なくとも一部を被覆する被覆層と、を備える。
【0011】
被覆活物質において、レーザー回折散乱法によって求めた体積基準の粒度分布における積算値99%での粒子径(D99)から、下記式により求められる粒径増大率は、6.5%以下である。

粒径増大率(%)=〔被覆活物質のD99/被覆層を含まない活物質のD99〕×100
【0012】
「被覆層を含まない活物質のD99」は、被覆層を除く活物質(コア粒子)のみの平均粒子径D99である。「被覆層を含まない活物質のD99」は、電極の断面において、被覆活物質を含む活物質層の断面について画像解析を行うことにより測定できる。粒径増大率も、電極の断面において、被覆活物質を含む活物質層の断面について画像解析を行うことにより測定できる。なお、被覆層を含まない活物質のD99は、被覆前の活物質(原末)のD99と基本的に同じである。
【0013】
(活物質)
活物質は、正極活物質でもよく、負極活物質でもよい。
【0014】
正極活物質としては、例えば、リチウム含有金属酸化物、リチウム含有リン酸塩等が挙げられる。
リチウム含有金属酸化物としては、例えば、LiCoO2、LiNiO2、一般式LiNiaCob2(ただし式中、a+b=1、0<a<1、0<b<1である。)で表される化合物、LiMnO2、LiMn24、一般式LiNiaCobMnc2(ただし式中、a+b+c=1、0<a<1、0<b<1、0<c<1である。)で表される化合物、LiFePO4等が挙げられる。ここで、一般式LiNiaCobMnc2で表される化合物としては、例えば、LiNi1/3Co1/3Mn1/32(NCM111)等が挙げられる。
リチウム含有金属酸化物は、例えば、高Ni材料である。本明細書において、「高Ni材料」とは、Liを除く金属元素の総モル数に対するNiの割合が70モル%以上である、リチウム含有金属酸化物を意味する。高Ni材料としては、例えば、LiNi0.8Co0.1Mn0.1(NCM80/10/10)、LiNi0.7Co0.15Mn0.15(NCM70/15/15)などが挙げられる。
リチウム含有リン酸塩としては、例えば、LiFePO等が挙げられる。
【0015】
負極活物質としては、例えば、黒鉛、易黒鉛化性炭素、難黒鉛化性炭素等の炭素系負極活物質、および、珪素(Si)、錫(Sn)等を含有する合金系負極活物質が挙げられる。
【0016】
活物質の形状は、特に限定されるものではない。例えば、活物質は、粒子(活物質粒子)状であってもよい。活物質粒子は、中実の粒子でもよく、中空の粒子でもよい。活物質粒子は、一次粒子でもよく、複数の一次粒子が凝集した二次粒子でもよい。
【0017】
被覆活物質の粒子径(D90)は、特に限定されず、例えば1nm以上、10nm以上、100nm以上、または、1μm以上でもよく、また50μm以下、または10μm以下でもよい。尚、粒子径D90は、レーザー回折散乱法によって求めた体積基準の粒度分布における積算値90%での粒子径である。
活物質粒子の平均粒径(D50)は、例えば1nm以上、5nm以上、または10nm以上でもよく、また500μm以下、100μm以下、50μm以下、または30μm以下でもよく、例えば、1~25μmでもよい。尚、平均粒子径D50は、レーザー回折散乱法によって求めた体積基準の粒度分布における積算値50%での粒子径(メジアン径)である。
【0018】
活物質は、硫化物全固体電池に用いられるものであってもよい。
【0019】
(被覆層)
被覆層は、上記活物質(例えば、活物質粒子)の表面の少なくとも一部を被覆する。
被覆層は、例えば、活物質と他の物質との間の界面抵抗の上昇を抑制する機能を有する。
【0020】
被覆層の厚さは、特に限定されず、例えば0.1nm以上、0.5nm以上、または1nm以上でもよく、また、500nm以下、300nm以下、100nm以下、50nm以下、または20nm以下でもよい。
【0021】
被覆層は、活物質の表面の70%以上または90%以上を被覆していてもよい。活物質表面における被覆層の被覆率は、粒子の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)画像等を観測することにより算出することができ、また、X線光電分光法(XPS)にて表面の元素比率を計算することにより算出することもできる。
【0022】
被覆層は、複数の空孔を備えていてもよい。空孔は、例えば、空洞、気泡(ボイド)または隙間(ギャップ)等であってもよい。各々の空孔の断面形状は、例えば、円形状でもよく、楕円形状でもよい。
【0023】
被覆活物質において、被覆層が複数の空孔を備えることで、以下の効果が期待できる。例えば、被覆活物質と他の電池材料との接触が有利になって、電子やイオンの移動が促進される可能性がある。また、被覆活物質にクッション性が発現し、これにより、電極や電池とした場合の性能が向上する可能性がある。例えば、充放電時に活物質が膨張した場合や、電極のプレス加工等において被覆活物質に対して圧力が印加された場合においても、上記のクッション性によって活物質に加わる応力が低減され、活物質の割れが抑制されるものと考えられる。
【0024】
<被覆活物質の製造方法>
上記の被覆活物質を製造する方法の一例としては、活物質およびコート液を含むスラリーを液滴化させて、スラリー液滴を得る第1の工程S1と、スラリー液滴を加熱気体中で気流乾燥させて、前駆体を得る第2の工程S2と、前駆体を焼成する第3の工程S3とを含む、被覆活物質の製造方法が挙げられる。
以下、各工程の詳細について説明する。
【0025】
[第1の工程]
第1の工程においては、活物質およびコート液を含むスラリーを液滴化させて、スラリー液滴を得る。
【0026】
(コート液)
コート液は、固形分と液体(分散媒または溶媒)を含む。コート液中の固形分は、後述の気流乾燥および焼成後、活物質の表面において被覆層を構成する。
【0027】
活物質の表面にリチウムとリチウム以外の元素Aとを含む酸化物からなる層を設ける場合、コート液は、リチウム源とA源とを含んでよい。元素Aの具体例としては、B、C、Al、Si、P、S、Ti、Zr、Nb、Mo、Ta、Wからなる群から選択される少なくとも一種が挙げられる。
【0028】
例えば、活物質の表面にニオブ酸リチウムを含む被覆層を設ける場合、コート液は、リチウム源およびニオブ源を含み得る。
コート液は、リチウム源として、リチウムイオンを含んでもよい。例えば、溶媒にLiOH、LiNO、LiSO等のリチウム化合物を溶解させることで、リチウム源としてリチウムイオンを含むコート液を得てもよい。或いは、コート液は、リチウム源として、リチウムのアルコキシドを含んでよい。
また、コート液は、ニオブ源として、ニオブのペルオキソ錯体([Nb(O3-)を含んでよい。或いは、コート液は、ニオブ源として、ニオブのアルコキシドを含んでよい。コート液に含まれるリチウム源とニオブ源とのモル比は、例えば、Li:Nb=1:1であってもよい。
【0029】
(スラリー)
スラリーにおける固形分濃度は、例えば、1~70体積%であってもよい。スラリー液滴をより容易に得る観点から、スラリーの固形分濃度は40体積%以下であってもよい。
【0030】
(スラリーの液滴化)
第1の工程において、活物質およびコート液を含むスラリーを液滴化させて、スラリー液滴を得る。「スラリー液滴」は、活物質とコート液とを含むスラリーの粒である。一滴のスラリー液滴は、例えば、一つの活物質粒子とそれに付着したコート液とを含んでもよく、複数の活物質粒子(粒子群)とそれらに付着したコート液とを含んでもよい。
【0031】
スラリーを液滴化させる方法としては、例えば、活物質およびコート液を含むスラリーを、噴霧することによって液滴化させる方法が挙げられる。スラリーを噴霧する場合、スプレーノズルを用いてもよい。スプレーノズルを用いてスラリーを噴霧する方法としては、加圧ノズル法や二流体ノズル法等が挙げられる。
【0032】
スプレーノズルを用いてスラリーを噴霧する場合、ノズル径は、例えば、0.1~10mmであってもよい。また、スラリーの噴霧速度(スプレーノズルに対するスラリーの供給速度)は、例えば、0.1~5g/秒であってもよい。スラリーの粘度や固形分濃度、ノズル寸法等に応じて噴霧速度を調整してもよい。
【0033】
スラリーを液滴化させる方法としては、上記したようなスプレーノズルを用いてスラリーを噴霧する方法の他、例えば、回転している円板上に活物質およびコート液を含むスラリーを一定速度で供給して遠心力により液滴化させる方法も例示できる。この場合においても、スラリーの供給速度は、例えば、0.1~5g/秒であってもよく、スラリーの粘度や固形分濃度等、ノズル寸法に応じて供給速度を調整してもよい。
【0034】
本開示の方法においては、例えば、スプレードライヤーを用いて、スラリーの液滴化(第1の工程)と気流乾燥(第2の工程)とを行ってもよい。スプレードライヤーの方式としては、上記のスプレーノズルを用いる方式や、回転円板を用いる方式等が挙げられる。
【0035】
[第2の工程]
第2の工程においては、第1の工程で得られたスラリー液滴を加熱気体中で気流乾燥させて、前駆体を得る。
「前駆体」は、目的とする被覆活物質の前駆体を指し、後述する第3の工程における焼成処理の前の状態を指す。第2の工程においては、例えば、スラリー液滴を気流乾燥させて、活物質粒子の表面にコート液由来の成分を含む層が形成された前駆体12を得てもよい。
【0036】
なお、本開示の方法において「気流乾燥」とは、スラリー液滴を高温の気流中で浮遊させつつ乾燥することを意味する。「気流乾燥」は、乾燥だけではなく、動的な気流を用いることによる付随的な操作を含み得る。気流乾燥によってスラリー液滴または前駆体に熱風を当て続けることで、スラリー液滴または前駆体に対して力が印加され続けることとなる。これを利用して、例えば、第2の工程は、気流乾燥によって、スラリー液滴や前駆体を解す(解砕する)ことを含んでいてもよい。具体的には、スラリー液滴を気流乾燥させる際に、一つのスラリー液滴を活物質粒子または活物質粒子群毎に解砕して、複数のスラリー液滴を得てもよく、凝集した一つの前駆体を活物質粒子または活物質粒子群毎に解砕して、複数の前駆体を得てもよい。言い換えれば、本開示の方法においては、スラリー液滴や前駆体の造粒体が生じた場合でも、気流乾燥によって造粒体を解砕することができる。そのため、固形分濃度の低いスラリーを用いることもでき、処理速度を増加させ易い。このように、第2の工程において、気流乾燥によってスラリー液滴や前駆体を解砕することによって、製造時間を短縮し易くなるとともに、性能の高い被覆活物質を製造し易くなる。
【0037】
第2の工程においては、上記の乾燥と解砕とが同時に行われてもよく、別々に行われてもよい。第2の工程においては、スラリー液滴の乾燥が優位となる第1の気流乾燥と、前駆体の解砕が優位となる第2の気流乾燥とを行ってもよい。また、第2の工程を繰り返し行ってもよい。
【0038】
第2の工程において、加熱気体の温度は、スラリー液滴から溶媒を揮発させることが可能な温度であればよい。例えば100℃以上であってもよい。
【0039】
第2の工程において、加熱気体の給気量(流量)は、用いる装置の大きさやスラリー液滴の供給量等を考慮して適宜設定することができる。例えば、加熱気体の流量は、0.10~5.00m/分であってもよい。
【0040】
第2の工程において、加熱気体の給気速度(流速)についても、用いる装置の大きさやスラリー液滴の供給量等を考慮して適宜設定することができる。例えば、加熱気体の流速は、系内の少なくとも一部において、1~50m/秒以上であってもよい。
【0041】
第2の工程において、加熱気体による処理時間(乾燥時間)についても、用いる装置の大きさやスラリー液滴の供給量等を考慮して適宜設定することができる。例えば、処理時間は、5秒以下、または1秒以下であってもよい。
【0042】
第2の工程においては、活物質やコート液に対して実質的に不活性である加熱気体を用いてもよい。例えば、空気等の酸素含有ガスや、窒素やアルゴン等の不活性ガス、低露点のドライエアー等を用いることができる。その場合の露点は、-10℃以下、-50℃以下でもよく、-70℃以下でもよい。
【0043】
気流乾燥を行う装置としては、例えば、スプレードライヤーを用いることができる。
【0044】
なお、Sとの反応で継時的に進行するNbの凝集を抑制するため、第1の工程および第2の工程を10分間以内で実施することが好ましく、バッチ連続生産することが好ましい。
【0045】
[第3の工程]
第3の工程においては、第2の工程で得られた前駆体を焼成する。これにより、活物質の表面の少なくとも一部に被覆層を有する被覆活物質が得られる。
焼成に用いる装置としては、例えばマッフル炉、またはホットプレート等を用いることができる。
【0046】
例えば、正極活物質としてリチウム含有酸化物の粒子を用い、コート液としてリチウムイオンおよびニオブのペルオキソ錯体を含む溶液を用いて、上述の第1の工程および第2の工程を行って前駆体を得る。得られた前駆体を焼成することによって、正極活物質であるリチウム含有酸化物の表面にニオブ酸リチウムを含む被覆層を形成することができる。
【0047】
第3工程における焼成温度は、例えば、100℃以上、150℃以上、180℃以上、200℃以上でもよく、また350℃以下、300℃以下でもよい。
本開示の被覆活物質を製造するためには、焼成温度は、好ましくは210℃以上であり、より好ましくは220℃以上であり、さらに好ましくは225℃以上であり、さらに好ましくは225~235℃である。
【0048】
焼成時間は、例えば、1~20時間、3~15時間、または5~10時間であってもよい。
【0049】
焼成の雰囲気は、例えば、大気雰囲気、真空雰囲気、乾燥空気雰囲気、窒素ガス雰囲気、または、アルゴンガス雰囲気であってよい。
【0050】
本開示の方法によって製造された被覆活物質は、例えば、全固体電池の電極用活物質として用いることができる。
【実施例0051】
[実施例1]
以下のようにして、実施例1の被覆活物質(被覆正極活物質)が製造された。
【0052】
(1) コート液の調製
過酸化水素水、イオン交換水、ニオブ酸(Nb・3HO)およびアンモニア水を混合することにより、透明溶液を得た。得られた透明溶液に、水酸化リチウム・1水和物(LiOH・HO)を加えることにより、コート液として、ニオブのペルオキソ錯体およびリチウムイオンを含有する錯体溶液を得た。
【0053】
(2) 活物質およびコート液を含むスラリーの調製
活物質としては、リチウム含有金属酸化物のうちの高Ni材料であるLiNi0.8Co0.1Mn0.1(NCM80/10/10)(日亜化学工業株式会社製)をミキサー容器に入れ、上記の通り調製したコート液中に固形分濃度が66質量%となるように加え、マグネティックスターラーで攪拌した。これにより、活物質2000gおよびコート液1209.2gを含むスラリー(固形分率:66.0質量%)を得た。
【0054】
(3) 被覆活物質の前駆体の作製
送液ポンプを用いて、上記で調製した各実施例のスラリーを0.5g/秒の速度でスプレードライヤー(ビュッヒ社製、ミニスプレードライヤー B-290)へ供給して、スラリーの液滴化(第1の工程)と、スラリー液滴の気流乾燥(第2の工程)とを行い、前駆体を得た。
スプレードライヤーの運転条件は、以下のとおりである。
給気温度:200℃
給気風量:0.45m/分
【0055】
スプレードライヤーにおいてスラリーをノズルまで送液し、液滴化させるのに要した時間(第1の工程の液滴化処理時間)は1分未満であり、気流乾燥させた時間(第2の工程の気流乾燥処理時間)も1分未満であった。尚、気流乾燥処理時間とは、スプレーノズルへのスラリーの供給終了後、気流乾燥を終えるまでの時間を意味する。
【0056】
前駆体の回収部での連続運転による乾燥ガスからの微小水分の吸着を防ぐため、得られた前駆体は180℃での外部過熱により保温された。なお、回収容器内で継時的に含有水分量が上昇し、5000ppmを越えると凝集してしまうことが確認されている(図2参照)。図2は、カールフィッシャー滴定法により測定される前駆体の水分量と前駆体のD90との関係を示すグラフである。
【0057】
(4) 前駆体の焼成
マッフル炉を用いて、上記前駆体に対して220℃で6時間の焼成を行い、ニオブ酸リチウムを活物質表面で合成することにより、実施例1の被覆活物質を得た。
【0058】
[実施例2~4、比較例1]
実施例2~4および比較例1では、表1に示されるように前駆体の焼成の温度を変更した。それ以外は実施例1と同様にして、実施例2~4および比較例1の被覆活物質を得た。
【0059】
<評価>
[粒子径の測定]
各実施例および比較例の被覆活物質、並びに、活物質原末に対して、レーザー回折・散乱測定装置(マイクロトラック・ベル社製エアロトラックII)を用いて、D99(体積基準の粒度分布における積算値99%での粒子径)、および、D90(体積基準の粒度分布における積算値90%での粒子径)を測定した。測定結果を表1に示す。表1には、D99に関する上述の粒径増大率も併記される。
【0060】
【表1】
【0061】
〔全固体電池の作製〕
上記実施例および比較例の被覆活物質を正極活物質として用いて、全固体電池が作製された。
(正極の材料)
正極活物質:実施例および比較例の被覆活物質
硫化物固体電解質:LiIを含むLiS-P系ガラスセラミックス(D50:0.8μm)
〔被覆活物質:硫化物固体電解質=7:3(体積比)〕
導電材:VGCF(気相法炭素繊維)(100質量部の被覆活物質に対して3質量部)
バインダ:SBR(ブタジエンゴム)(100質量部の被覆活物質に対して0.7質量部)
正極集電体:Al箔
(負極の材料)
負極活物質:LiTi12粒子(D50:1μm)
硫化物固体電解質:LiIを含むLiS-P系ガラスセラミックス(D50:0.8μm)
〔負極活物質:固体電解質=6:4(体積比)〕
導電助剤:VGCF(1質量%)
バインダー:SBR(2質量%)
(セパレータ層の材料)
硫化物固体電解質:LiIを含むLiS-P系ガラスセラミックス(D50:2.5μm)
(初期容量の確認)
各々の電池について、1/3Cレートにて定電流-定電圧(CC-CV)充電および定電流(CC)放電が3サイクル繰り返された。3サイクル目の放電容量が初期容量として確認された。なお、「C」は電流レートの単位である。「1C」は、1時間の充電により、SOC(充電率:State of Charge)が0%から100%に到達する電流レートを示す。
【0062】
[初期DCIRの測定]
上記の初期容量が確認された電池が、以下の条件での定電流-定電圧充電によりSOC(充電率)が40%の状態まで充電された。
定電流充電:電流値1/3C,充電終止電圧4.05V
定電圧充電:電圧値4.05V,電流値20A
その後、電池を25℃の雰囲気下において、3Cの電流値で2秒間の放電を行い、放電開始から2秒後の電圧値を測定した。電圧降下量と放電時の電流との関係から、直流内部抵抗(DCIR)が算出された。
初期DCIRの測定結果を図1に示す。
【0063】
<評価結果>
表1および図1に示される結果から、被覆活物質のD99に関する粒径増大率が6.5%以下である場合に、放電DCIRの増加が抑制されることが分かる。
【0064】
また、上記の実施例においては、被覆活物質のD99に関する粒径増大率を6.5%以下にするためには、焼成温度が220℃以上であることが望ましいと考えられる。
図1
図2