(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024102621
(43)【公開日】2024-07-31
(54)【発明の名称】ガイドワイヤ
(51)【国際特許分類】
A61M 25/09 20060101AFI20240724BHJP
【FI】
A61M25/09 516
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023006632
(22)【出願日】2023-01-19
(71)【出願人】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141829
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 牧人
(74)【代理人】
【識別番号】100123663
【弁理士】
【氏名又は名称】広川 浩司
(72)【発明者】
【氏名】阿部 柾樹
【テーマコード(参考)】
4C267
【Fターム(参考)】
4C267AA29
4C267BB02
4C267BB07
4C267BB11
4C267BB12
4C267BB16
4C267CC08
4C267DD01
4C267GG34
4C267HH08
4C267HH17
(57)【要約】
【課題】過度な押し込みによる血管の損傷を抑制することにより、高い安全性を備えるガイドワイヤを提供する。
【解決手段】先端部と基端部とを有する長尺な芯材20と、芯材20の先端部を覆うコイル40と、芯材20とコイル40との間に配置される管状部材80と、を有するガイドワイヤ10であって、芯材20の先端部は、先端素線72と、先端素線72の基端に接合された易変形性素線71と、易変形性素線71の基端に接合された基端素線73と、を有し、易変形性素線71は、芯材20の長軸方向Xに沿う圧縮力により、先端素線72および基端素線73よりも非弾性的に変形しやすく形成され、管状部材80は、易変形性素線71の先端から基端までを覆うように配置されている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端部と基端部とを有する長尺な芯材と、前記芯材の先端部を覆うコイルと、前記芯材と前記コイルとの間に配置される管状部材と、を有するガイドワイヤであって、
前記芯材の前記先端部は、先端素線と、前記先端素線の基端に接合された易変形性素線と、前記易変形性素線の基端に接合された基端素線と、を有し、
前記易変形性素線は、前記芯材の長軸方向に沿う圧縮力により、前記先端素線および前記基端素線よりも非弾性的に変形しやすく形成され、
前記管状部材は、前記易変形性素線の先端から基端までを覆うように配置されている請求項1に記載のガイドワイヤ。
【請求項2】
前記易変形性素線は、放射線不透過性材料で形成されている請求項1に記載のガイドワイヤ。
【請求項3】
前記管状部材の先端部は、前記先端素線の基端部に固定され、前記管状部材の基端部は、前記基端素線の先端部に固定されている請求項1または2に記載のガイドワイヤ。
【請求項4】
前記管状部材は、前記先端素線または前記基端素線の少なくとも一方に対して移動可能であり、
前記先端素線および前記管状部材は、前記管状部材の前記先端素線に対する基端方向への移動を規制する先端規制部を有し、
前記管状部材および前記基端素線は、前記管状部材の前記基端素線に対する先端方向への移動を規制する基端規制部を有する請求項1または2に記載のガイドワイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体内に挿入する長尺な医療器具をガイドするガイドワイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
ガイドワイヤは、血管内治療を行うためのカテーテルやステント等のデバイスを目的の位置までガイドするために血管内に挿入する医療器具である。ガイドワイヤは、血管内の湾曲部や狭窄部を通過するため、先端部に柔軟性を有することが求められる。そのため、ガイドワイヤの先端部には、芯材および芯材を覆うコイルが配置される(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
また、ガイドワイヤは、血管内に生じた狭窄部を通過する必要があるため、高い挿通性が求められる。特に、血管が完全に閉塞するような高度狭窄病変にガイドワイヤを挿通させるために、押し込み時の先端荷重が高いガイドワイヤや、基端から先端に向かって縮径するテーパーを備えたガイドワイヤが使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
先端荷重の高いガイドワイヤは、血管内を進行する際に血管穿孔を生じる可能性がある。また、先端荷重の高いガイドワイヤは、狭窄部に過度な力で押し込まれると、ガイドワイヤの先端部が血管壁を突き破って血管穿孔を生じたり、偽腔を形成したりすることがある。
【0006】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、過度な押し込みによる血管の損傷を抑制することにより、高い安全性を備えるガイドワイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的は、下記(1)に記載の発明により達成される。
【0008】
(1) 本発明に係るガイドワイヤは、先端部と基端部とを有する長尺な芯材と、前記芯材の先端部を覆うコイルと、前記芯材と前記コイルとの間に配置される管状部材と、を有するガイドワイヤであって、前記芯材の前記先端部は、先端素線と、前記先端素線の基端に接合された易変形性素線と、前記易変形性素線の基端に接合された基端素線と、を有し、前記易変形性素線は、前記芯材の長軸方向に沿う圧縮力により、前記先端素線および前記基端素線よりも非弾性的に変形しやすく形成され、前記管状部材は、前記易変形性素線の先端から基端までを覆うように配置されている。
【発明の効果】
【0009】
上記(1)に記載のガイドワイヤは、芯材の過度な押し込み力が作用すると、易変形性素線が非弾性的に変形して収縮し、ガイドワイヤの先端が基端側へ後退する。このため、本ガイドワイヤは、過度な押し込みによる血管の損傷を効果的に抑制できる。さらに、本ガイドワイヤが過度な押し込み力により易変形性素線が非弾性的に変形すると、術者は、ガイドワイヤを操作する手の感覚で過度な押し込みがあったことを認識できる。これにより、ガイドワイヤは、過度な押し込みによる血管の損傷が抑制できるため、高い安全性を備える。さらに、ガイドワイヤは、管状部材が易変形性素線の先端から基端までの全体を覆っているため、変形した易変形性素線のガイドワイヤからの突出や脱落を抑制できる。
【0010】
(2) 上記(1)に記載のガイドワイヤおいて、前記易変形性素線は、放射線不透過性材料で形成されてもよい。これにより、ガイドワイヤは、術者が易変形性素線の非弾性的な変形を放射線透視画像により視認可能となるため、血管穿孔や偽腔の形成等の血管の損傷を抑制できる。
【0011】
(3) 上記(1)または(2)に記載のガイドワイヤおいて、前記管状部材の先端部は、前記先端素線の基端部に固定され、前記管状部材の基端部は、前記基端素線の先端部に固定されてもよい。これにより、ガイドワイヤは、易変形性素線の先端から基端までの全体が管状部材により覆われるため、変形した易変形性素線のガイドワイヤからの突出や脱落を抑制できる。
【0012】
(4) 上記(1)または(2)に記載のガイドワイヤおいて、前記管状部材は、前記先端素線または前記基端素線の少なくとも一方に対して移動可能であり、前記先端素線および前記管状部材は、前記管状部材の前記先端素線に対する基端方向への移動を規制する先端規制部を有し、前記管状部材および前記基端素線は、前記管状部材の前記基端素線に対する先端方向への移動を規制する基端規制部を有してもよい。これにより、管状部材は、非弾性的に変形した易変形性素線の先端から基端までの全体を覆った状態を維持できるため、変形した易変形性素線のガイドワイヤからの突出や脱落を抑制できる。このため、本ガイドワイヤは、非弾性的に変形する易変形性素線を有しつつも、高い安全性を備えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第1実施形態に係るガイドワイヤを示す平面図である。
【
図2】第1実施形態に係るガイドワイヤを示す断面図である。
【
図3】第1実施形態に係るガイドワイヤの先端部を拡大して示す断面図である。
【
図4】第1実施形態に係るガイドワイヤの易変形性素線を示す平面図である。
【
図5】第1実施形態に係るガイドワイヤの先端が狭窄部に突き当たった状態を示す断面図である。
【
図6】第1実施形態に係るガイドワイヤの変形例の先端部を拡大して示す断面図であり、(A)は第1変形例、(B)は第2変形例、(C)は第3変形例を示す。
【
図7】第2実施形態に係るガイドワイヤの先端部を拡大して示す断面図である。
【
図8】第2実施形態に係るガイドワイヤの先端が狭窄部に突き当たった状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。なお、図面の寸法は、説明の都合上、誇張されて実際の寸法とは異なる場合がある。また、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。本明細書において、ガイドワイヤの血管に挿入する側を「先端側」、操作する側を「基端側」と称することとする。
【0015】
<第1実施形態>
第1実施形態に係るガイドワイヤ10は、
図1~3に示すように、長尺な芯材20と、芯材20の先端部を囲むコイル40と、コイル40を芯材20に固定する固定部材50と、芯材20とコイル40との間に配置される管状部材80と、被覆層60とを備えている。
【0016】
芯材20は、長軸方向Xへ長尺な部材であり、基端シャフト21と、基端シャフト21の先端側に位置する先端シャフト30とを備えている。基端シャフト21は、本体シャフト22と、本体シャフト22の先端に配置される基端結合部23とを備えている。本体シャフト22の外径は、略一定である。基端結合部23は、本体シャフト22よりも大きな外径で形成されている。
【0017】
先端シャフト30は、基端シャフト21の先端からガイドワイヤ10の先端側へ延在する長尺な部材である。先端シャフト30は、先端シャフト30の基端から先端側へ向かって、先端結合部31と、大径部32と、第1テーパー部33と、中径部34と、第2テーパー部35と、小径部36と、クサビ部37と、平板部38とを備えている。先端結合部31は、基端シャフト21の基端結合部23と接合される部位である。先端結合部31の外径は、大径部32の外径よりも大きく、基端結合部23の外径と一致する。大径部32の外径は、略一定であり、本体シャフト22の外径と略一致する。接合される先端結合部31および基端結合部23の外径は、本体シャフト22および大径部32の外径よりも大きい。このため、先端シャフト30と基端シャフト21の接合強度を高くできる。第1テーパー部33の外径は、大径部32から中径部34へ向かって減少している。中径部34の外径は、一定である。中径部34の外径は、大径部32の外径よりも小さい。第2テーパー部35の外径は、中径部34から小径部36へ向かって減少している。小径部36の少なくとも一部は、中径部34の外径よりも小さい外径を有している。クサビ部37は、小径部36の先端から平板部38へ向かって小さくなる厚みと、大きくなる幅を有している。平板部38は、一定の厚みおよび一定の幅を有している。平板部38は、手技の前に術者がガイドワイヤ10の先端部に形状付け可能とする部位である。
【0018】
上述の先端シャフト30について詳述する。先端シャフト30は、
図2~4に示すように、芯材20の長軸方向Xへ並ぶ先端コイル41および基端コイル42を備えるコイル40に覆われる範囲に、易変形性素線71を有する。長軸方向Xとは、芯材20の長尺に延びる長軸に沿う方向である。本実施形態では、易変形性素線71は、ガイドワイヤ10の先端形状付け可能な平板部38の基端からコイル40の基端近傍の位置までの範囲である。本実施形態において、易変形性素線71は小径部36に配置されるが、小径部36以外の位置に配置されてもよい。ガイドワイヤ10は、易変形素線71がより先端側に配置されることにより、押し込みや回転などの操作性を維持できる。そのため、易変形性素線71は、ガイドワイヤ10の先端から長軸方向Xへ290mmまでの範囲に配置されることが好ましく、ガイドワイヤ10の先端から長軸方向Xへ150mmまでの範囲に配置されることがより好ましい。そして、先端シャフト30は、易変形性素線71の先端に接合された先端素線72と、易変形性素線71の基端に接合された基端素線73とを有する。
【0019】
先端素線72は、先端シャフト30の易変形性素線71よりも先端側の部位である。先端素線72は、易変形性素線71の先端に溶接により接合されている。先端素線72は、先端コイル41の先端に先端固定部材51により固定されている。
【0020】
基端素線73は、先端シャフト30の易変形性素線71よりも基端側の部位である。基端素線73は、易変形性素線71の基端に溶接により接合されている。基端素線73は、先端コイル41の基端に中間固定部材52により固定されている。
【0021】
易変形性素線71は、長軸方向Xに沿って圧縮力が作用する際に、先端素線72および基端素線73よりも、塑性変形(例えばキンク)や破断を生じやすいように形成される。塑性変形や破断などの変形は、非弾性的な変形であり、エネルギーを吸収しつつ変形し、弾性的に元の形状に復元せずに変形した状態を維持できる。本実施形態では、易変形性素線71は、長軸方向Xに沿う圧縮力に対して先端素線72および基端素線73よりも変形しやすいように、外周面に複数の切り込み74が形成される。各々の切り込み74は、周方向Cに長辺を有する矩形の溝状に形成される。周方向Cとは、易変形性素線71の外周に沿う方向であり、易変形性素線71の長尺に延びる軸芯を基準軸にした回転方向と一致する。本実施形態において、周方向Cは、長軸方向Xと垂直な面と平行である。
【0022】
易変形性素線71は、先端素線72、基端素線73および先端コイル41よりも高い放射線不透過性を有する。易変形性素線71は、例えば、白金、金、タンタル、タングステンまたはそれらの金属を含む合金(例えば、白金-ニッケル合金、白金-タングステン合金等)により形成される。なお、先端素線72、基端素線73および先端コイル41は、放射線不透過性をほとんど有さない材料(例えば、ステンレス鋼やニッケル-チタン合金等)により形成されることが好ましい。
【0023】
易変形性素線71の長軸方向Xの長さL1は、例えば10mm~50mmである。易変形性素線71の外径D1は、例えば0.08mm~0.20mmである。切り込み74の深さDPは、例えば0.04mm~0.10mmである。切り込み74の深さDPは、切り込み74が易変形性素線71を分断しないように素線の外径D1の半分未満であることが好ましいが、素線の外径D1の半分以上であってもよい。切り込み74の長軸方向Xの幅W1は、例えば0.1mm~15mmである。切り込み74の周方向Cの幅W2は、例えば0.05mm~0.2mmである。
【0024】
複数の切り込み74は、芯材20の長軸方向Xに沿って間隔を空けて並んで配置される。切り込み74の長軸方向XのピッチP1は、例えば1.0mm~20mmである。なお、切り込み74の長軸方向XのピッチP1は、長軸方向Xに沿って切り込み74が繰り返される間隔(長さ)である。各々の切り込み74は、周方向Cに全周にわたって形成されてもよいが、周方向Cの一部にのみ形成されてもよい。また、複数の切り込み74が、周方向Cに沿って間隔を空けて並んで配置されてもよい。複数の切り込み74が周方向Cに並んで配置される場合の切り込み74の周方向CのピッチP2は、例えば0.05mm~0.20mmである。なお、切り込み74の周方向CのピッチP2は、易変形性素線71の周方向Cに沿って切り込み74が繰り返される間隔(長さ)である。易変形性素線71は、切り込み74の数や形状、深さDP、長軸方向Xの幅W1、周方向Cの幅W2、長軸方向XのピッチP1、周方向CのピッチP2等を適宜設定することで、変形が生じる際の長軸方向Xに沿う圧縮力を任意に設定できる。
【0025】
なお、切り込み74は、易変形性素線71の外周面に長軸方向Xに長辺を有する矩形の溝状に形成されてもよい。または、切り込み74は、易変形性素線71の外周面に螺旋状に形成されてもよい。また、切り込み74は、不定形であってもよい。
【0026】
なお、
図6(A)に示す第1変形例のように、易変形性素線71は、先端素線72および基端素線73よりも小さい外径とすることで、先端素線72および基端素線73よりも変形しやすく形成されてもよい。易変形性素線71の外径は、例えば0.05mm~0.15mmである。
【0027】
また、
図6(B)に示す第2変形例のように、易変形性素線71は、内部に空洞75が形成されることで、先端素線72および基端素線73よりも変形しやすく形成されてもよい。易変形性素線71は、空洞75が先端から基端へ貫通する管体であるが、空洞75の先端または基端の少なくとも一方が閉じた部材であってもよい。易変形性素線71の空洞75の直径は、例えば0.01mm~0.10mmである。また、易変形性素線71は、複数の空洞75を有してもよい。したがって、易変形性素線71は、多孔質体であってもよい。
【0028】
また、
図6(C)に示す第3変形例のように、易変形性素線71は、外筒76と、外筒76の内周面に摺動可能に配置される内柱77とを有する入れ子構造で形成されてもよい。外筒76の先端は、先端素線72の基端に接合され、内柱77の基端は、基端素線73の先端に接合される。なお、外筒76と内柱77の配置は、長軸方向Xに沿って反対であってもよい。外筒76は、基端側に開口する内腔である収容部78を有し、内柱77の先端部は、収容部78に摺動可能に収容される。外筒76および内柱77に、長軸方向に沿う圧縮力が作用していない状態において、内柱77の先端は、外筒76に対して先端方向へ移動可能なように、外筒76の収容部78の基端側の位置に配置される。内柱77は、外筒76の内周面と内柱77の外周面との接触面に生じる静止摩擦力によって、外筒76に固定的に保持されている。外筒76および内柱77に、長軸方向Xに沿う圧縮力が外筒76の内周面と内柱77の外周面との接触面に生じる最大静止摩擦力を越えると、内柱77が外筒76に対して先端方向へ移動する。外筒76の内周面と内柱77の外周面との接触面に生じる最大静止摩擦力は、先端素線72および基端素線73を変形させる力よりも小さく設定される。このような、接触する部材同士が摩擦力に抗しながら位置を変える相対的な移動も、エネルギーを吸収しつつ変形し、弾性的に元の形状に復元せずに変形した状態を維持できるため、非弾性的な変形に該当する。
【0029】
また、図示しないが、他の変形例として、易変形性素線71は、焼鈍などの熱処理を施して易変形性素線71を形成する材料の強度を低下させることで、先端素線72および基端素線73よりも変形しやすく形成されてもよい。
【0030】
管状部材80は、
図2~3に示すように、先端から基端までの全体が、先端コイル41(コイル40)の内腔に配置される。そして、管状部材80は、易変形性素線71の先端から基端までの全体を覆っている。管状部材80は、本実施形態ではパイプであるが、コイルであってもよい。管状部材80は、易変形性素線71よりも放射線不透過性が低い金属または樹脂により形成される。管状部材80の材料は、例えばステンレス鋼、ニッケル-チタン合金、フッ素樹脂等である。
【0031】
管状部材80の先端部と先端素線72の基端部は、接着剤、溶接またはハンダ等により接合される。管状部材80および先端素線72の材料が金属であり、管状部材80がパイプの場合、管状部材80と先端素線72とは、溶接により接合されることが好ましい。管状部材80の長軸方向Xの長さは、例えば11mm~60mmである。管状部材80の外径は、例えば0.13mm~0.22mmである。
【0032】
管状部材80は、易変形性素線71の非弾性的な変形を妨げないことが好ましい。したがって、管状部材80の変形に必要な長軸方向Xに沿う圧縮力は、易変形性素線71の変形を生じる圧縮力と同程度か、それ以下の大きさに設定されることが好ましい。
【0033】
管状部材80は、コイルであってもよい。管状部材80の材料が金属であり、管状部材80がコイルの場合、管状部材80と先端素線72とは、ハンダにより接合されることが好ましい。管状部材80を形成するコイルは、長軸方向Xへ変形しやすいよう、隣接する素線間に隙間を有するように疎に巻かれることが好ましいが、隣接する素線間に隙間を有さないように密に巻かれてもよい。管状部材80を形成するコイルの素線の線径は、例えば0.04mm~0.06mmである。コイル構造の内径は、例えば0.05mm~0.18mmである。
【0034】
ガイドワイヤ10の長軸方向Xの全長は、特に限定されないが、例えば300mm~4500mmである。基端シャフト21の外径(断面が円形でない場合、断面において最も厚い部位の厚み)は、特に限定されず、例えば0.15mm~2mmである。また、先端シャフト30の先端部の外径(断面が円形でない場合、断面において最も厚い部位の厚み)は、特に限定されないが、例えば0.1mm~1mmである。
【0035】
先端シャフト30は、基端シャフト21の材料よりも剛性の低い材料により形成されることが好ましい。一例として、先端シャフト30を形成する材料は、ニッケル-チタン系合金であり、基端シャフト21を形成する材料は、ステンレス鋼である。なお、先端シャフト30および基端シャフト21は、同一の材料で形成されてもよい。
【0036】
コイル40は、素線を螺旋状に巻回してなる部材である。コイル40は、先端コイル41と、基端コイル42とを備える。先端コイル41は、基端コイル42の先端側に位置する。先端コイル41および基端コイル42は、芯材20の先端シャフト30を囲み、先端シャフト30に固定される。先端コイル41および基端コイル42は、先端シャフト30と同軸的に配置される。先端コイル41および基端コイル42のコイル外径は、ほぼ等しく、それぞれ先端から基端まで一定であることが好ましい。先端コイル41と基端コイル42は、先端コイル41の基端部の素線と基端コイル42の先端部の素線とが長軸方向に交互に並んで配置されて絡み合っているため、離間することが抑制される。先端コイル41の材料はニッケル-チタン合金等の超弾性金属であり、基端コイル42の材料はステンレス鋼であることが好ましい。
【0037】
コイル40は、1本の連続した素線で形成されてもよいし、3つ以上のコイルを接続して形成されてもよい。また、コイル40は、先端から基端まで1種類の金属により形成されてもよいし、複数の材料により形成されてもよい。例えば、コイル40は、ステンレス鋼により形成される先端側コイルと、その基端側に配置されるニッケル-チタン合金により形成される中間コイルと、その基端側に配置されるステンレス鋼により形成される基端側コイルとを有してもよい。これにより、中間コイルは、血管内の湾曲部を通過しても形状を保持できる。
【0038】
コイル40の素線の断面形状は、円形であることが好ましいが、楕円形、矩形等であってもよい。
【0039】
先端コイル41の素線は、隣接する素線間に隙間を有するように疎に巻かれている。これにより、先端コイル41は、長軸方向Xに沿う圧縮力が作用した際に、長軸方向Xへ容易に収縮できる。なお、先端コイル41の素線は、隣接する素線間に隙間を有さないように密に巻かれてもよい。この場合であっても、先端コイル41は、長軸方向Xに沿う圧縮力が作用した際に、隣接する素線同士がずれたり乗り上げたりすることで、長軸方向Xへ収縮できる。
【0040】
先端コイル41および基端コイル42の外径は、例えば0.15mm~2mmである。先端コイル41の長軸方向Xの長さは、例えば3mm~60mm程度である。基端コイル42の長軸方向Xの長さは、例えば10mm~400mm程度である。先端コイル41の基端部と基端コイル42の先端部とが絡み合っている部位の長軸方向Xの長さは、例えば0.1mm~2mm程度である。
【0041】
固定部材50は、コイル40を芯材20に固定する部材である。固定部材50は、先端固定部材51と、中間固定部材52と、基端固定部材53とを備えている。先端固定部材51は、先端コイル41の先端部を、先端シャフト30の平板部38に固定する。先端固定部材51は、ガイドワイヤ10の最先端に位置し、外面が略半球状に滑らかに形成される。中間固定部材52は、先端コイル41の基端部、基端コイル42の先端部および筒状部材54を、先端シャフト30の第2テーパー部35に固定する。基端固定部材5053は、基端コイル42の基端部を、先端シャフト30の中径部34に固定する。固定部材50を形成する材料は、特に限定されないが、例えば、アルミニウム合金ロウ、銀ロウ、金ロウ、亜鉛、スズ-鉛合金、鉛-銀合金、スズ-銀合金ロウ材、ハンダ、熱可塑性樹脂等である。固定部材50を形成する材料は、接着剤であってもよい。
【0042】
筒状部材54は、コイル40の内周面と芯材20の外周面との間の隙間を少なくし、コイル40を芯材20に対して同軸的に固定するための部材である。筒状部材54を形成する材料は、金属や樹脂材料である。筒状部材54の先端部の外径は、筒状部材54の基端部の外径よりも小さい。これにより、内径の小さい先端コイル41と内径の大きい基端コイル42とを、芯材20に対して同軸的に固定することができる。筒状部材54の先端部の外径と筒状部材54の基端部の外径との大小関係は、先端コイル41の内径と基端コイル42の内径に応じて適宜選択してよい。また、ガイドワイヤ10は、筒状部材54を備えていなくてもよい。
【0043】
被覆層60は、芯材20のコイル40および固定部材50を覆う先端側被覆層61と、コイル40よりも基端側に位置する部位を覆う基端側被覆層62とを有する。先端側被覆層61は、摩擦を低減する親水性コーティングであり、親水性ポリマーにより形成される。親水性ポリマーは、セルロース系高分子物質、ポリエチレンオキサイド系高分子物質、無水マレイン酸系高分子物質(例えば、メチルビニルエーテル-無水マレイン酸共重合体のような無水マレイン酸共重合体)、アクリルアミド系高分子物質(例えば、ポリアクリルアミド、グリシジルメタクリレート-ジメチルアクリルアミドのブロック共重合体)、水溶性ナイロン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、およびそれらの誘導体等が挙げられる。基端側被覆層62を形成する材料は、摩擦を低減する低摩擦材料を適用できる。低摩擦材料は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、親水性ポリマー等である。
【0044】
次に、本実施形態に係るガイドワイヤ10の作用および効果を説明する。
【0045】
術者がガイドワイヤ10を血管内で操作中に、ガイドワイヤ10の先端が狭窄部や血管壁に強く突き当たると、
図5に示すように、ガイドワイヤ10の芯材20に長軸方向Xに沿う圧縮力が作用する。この圧縮力が所定の値を超えると、易変形性素線71は、変形により長軸方向Xへ収縮し、ガイドワイヤ10の先端を基端側へ後退させる。これにより、ガイドワイヤ10は、血管壁や狭窄部への押し込み力が低減されるため、血管穿孔や偽腔形成等の血管の損傷を抑制できる。また、術者は、ガイドワイヤ10を操作する手の感覚により、易変形性素線71の変形を感じ取り、過度な押し込みがあったことを認識できる。さらに、易変形性素線71は、先端素線72、基端素線73および先端コイル41よりも放射線不透過性が高いため、術者は、放射線透視画像からも易変形性素線71の変形を視認して、過度な押し込みがあったことを認識できる。これにより、術者は、血管が損傷する前に、ガイドワイヤ10の押し込みを容易に停止させることができる。
【0046】
易変形性素線71が変形する際には、先端素線72および基端素線73に固定された管状部材80も変形する。管状部材80の変形は、易変形性素線71が変形する圧縮力と同程度か、それ以下の大きさの力で生じる。このため、管状部材80は、易変形性素線71の変形を妨げることを抑制できる。また、管状部材80は、易変形性素線71の先端から基端までの全体を覆っているため、変形した易変形性素線71のガイドワイヤ10からの突出や脱落を抑制できる。
【0047】
以上のように、第1実施形態に係るガイドワイヤ10は、先端部と基端部とを有する長尺な芯材20と、芯材20の先端部を覆うコイル40と、芯材20とコイル40との間に配置される管状部材80と、を有するガイドワイヤ10であって、芯材20の先端部は、先端素線72と、先端素線72の基端に接合された易変形性素線71と、易変形性素線71の基端に接合された基端素線73と、を有し、易変形性素線71は、芯材20の長軸方向Xに沿う圧縮力により、先端素線72および基端素線73よりも非弾性的に変形しやすく形成され、管状部材80は、易変形性素線71の先端から基端までを覆うように配置されている。これにより、ガイドワイヤ10は、芯材20に過度な押し込み力が作用すると、易変形性素線71が非弾性的に変形して収縮し、ガイドワイヤ10の先端が基端側へ後退する。このため、ガイドワイヤ10は、過度な押し込みによる血管の損傷を効果的に抑制できる。さらに、ガイドワイヤ10が過度な押し込み力により易変形性素線71が非弾性的に変形すると、術者は、ガイドワイヤ10を操作する手の感覚で過度な押し込みがあったことを認識できる。これにより、ガイドワイヤ10は、過度な押し込みによる血管の損傷が抑制できるため、高い安全性を備える。さらに、ガイドワイヤ10は、管状部材80が易変形性素線71の先端から基端までの全体を覆っているため、変形した易変形性素線71のガイドワイヤ10からの突出や脱落を抑制できる。なお、非弾性的な変形とは、ガイドワイヤ10の芯材20に押し込み力が作用した際に生じる塑性変形や破断等の変形のみでなく、
図6(C)に示す第3変形例のように、接触する部材同士が摩擦力に抗しながら相対的に移動することによって生じた変形が維持された状態を含む。
【0048】
易変形性素線71は、放射線不透過性材料で形成されている。これにより、ガイドワイヤ10は、術者が易変形性素線71の非弾性的な変形を放射線透視画像により視認可能となるため、血管穿孔や偽腔の形成等の血管の損傷を抑制できる。
【0049】
管状部材80の先端部は、先端素線72の基端部に固定され、管状部材80の基端部は、基端素線73の先端部に固定されている。これにより、ガイドワイヤ10は、易変形性素線71の先端から基端までの全体が管状部材80により覆われるため、変形した易変形性素線71のガイドワイヤ10からの突出や脱落を抑制できる。
【0050】
<第2実施形態>
第2実施形態に係るガイドワイヤ10は、管状部材80が、先端素線72または基端素線73の少なくとも一方に対して移動可能である点で、第1実施形態と異なる。なお、第1実施形態と共通する機能を有する部位には、同一の符号を付し、説明を省略する。易変形性素線71の構成は、第1実施形態と同様である。
【0051】
先端素線72は、
図7に示すように、基端の外周面に、径方向Rの外側へ突出する先端側凸部91を有する。基端素線73は、先端の外周面に、径方向R外側へ突出する基端側凸部92を有する。径方向Rとは、芯材20の半径に沿う方向であり、芯材20の軸芯と直交する面において、当該軸芯を中心とする放射方向と一致する。径方向Rの外側とは、芯材20の軸芯から放射方向へ離れる方向である。
【0052】
管状部材80は、易変形性素線71の全体を覆うパイプであり、放射線透過性または易変形性素線71よりも放射線不透過性の低い金属または樹脂により形成される。管状部材80の材料は、例えばステンレス鋼、ニッケル-チタン合金、フッ素樹脂等である。
【0053】
管状部材80は、長軸方向Xの中間に配置される中間部100と、中間部100の先端側に配置される先端側係止部101と、中間部100の基端側に配置される基端側係止部102とを有する。中間部100の内径は、先端素線72の先端側凸部91の外径よりも大きく、かつ基端素線73の基端側凸部92の外径よりも大きい。このため、管状部材80は、中間部100の内腔に、先端素線72の先端側凸部91を含む基端部を長軸方向Xへ移動可能に収容できる。また、管状部材80は、中間部100の内腔に、基端素線73の基端側凸部92を含む先端部を長軸方向Xへ移動可能に収容できる。
【0054】
管状部材80の先端側係止部101の内径は、中間部100の内径よりも小さく、先端素線72の先端側凸部91の外径よりも小さく、かつ先端素線72の先端側凸部91よりも先端側の部位の外径よりも大きい。これにより、管状部材80の先端側係止部101および先端素線72の先端側凸部91は、管状部材80の先端素線72に対する基端方向への移動を規制する先端規制部110を形成する。また、管状部材80の基端側係止部102の内径は、中間部100の内径よりも小さく、基端素線73の基端側凸部92の外径よりも小さく、かつ基端素線73の基端側凸部92よりも基端側の部位の外径よりも大きい。これにより、管状部材80の基端側係止部102および基端素線73の基端側凸部92は、管状部材80の基端素線73に対する先端方向への移動を規制する基端規制部111を形成する。なお、先端素線72または基端素線73の一方は、管状部材80に固定されてもよい。
【0055】
次に、第2実施形態に係るガイドワイヤ10の作用および効果を説明する。
【0056】
ガイドワイヤ10の芯材20に長軸方向Xに沿う圧縮力が作用して、易変形性素線71が変形して収縮すると、
図8に示すように、先端素線72の先端側凸部91が、管状部材80の内腔を基端側へ移動し、基端素線73の基端側凸部92が、管状部材80の内腔を先端側へ移動する。このとき、管状部材80は、変形を必要としない。また、管状部材80は、先端規制部110により、先端素線72の先端側凸部91が管状部材80の先端側係止部101を通って先端方向へ移動することを抑制している。管状部材80は、基端規制部111により、基端素線73の基端側凸部92が管状部材80の基端側係止部102を通って基端方向へ移動することを抑制している。これにより、管状部材80は、非弾性的に変形した易変形性素線71の先端から基端までの全体を覆った状態を維持できるため、変形した易変形性素線71のガイドワイヤ10からの突出や脱落を抑制できる。なお、先端素線72または基端素線73の一方は、管状部材80に対して移動しなくてもよい。
【0057】
以上のように、第2実施形態において、管状部材80は、先端素線72または基端素線73の少なくとも一方に対して移動可能であり、先端素線72および管状部材80は、管状部材80の先端素線72に対する基端方向への移動を規制する先端規制部110を有し、管状部材80および基端素線73は、管状部材80の基端素線73に対する先端方向への移動を規制する基端規制部111を有している。これにより、管状部材80は、非弾性的に変形した易変形性素線71の先端から基端までの全体を覆った状態を維持できるため、変形した易変形性素線71のガイドワイヤ10からの突出や脱落を抑制できる。このため、ガイドワイヤ10は、非弾性的に変形する易変形性素線71を有しつつも、高い安全性を備えることができる。
【0058】
なお、本発明は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想内において当業者により種々変更が可能である。例えば、ガイドワイヤは、脈管、尿管、胆管、卵管、肝管に挿入してもよい。
【符号の説明】
【0059】
10 ガイドワイヤ
20 芯材
40 コイル
41 先端コイル
42 基端コイル
50 固定部材
60 被覆層
71 易変形性素線
72 先端素線
73 基端素線
74 切り込み
75 空洞
76 外筒
77 内柱
78 収容部
80 管状部材
91 先端側凸部
92 基端側凸部
100 中間部
101 先端側係止部
102 基端側係止部
110 先端規制部
111 基端規制部
C 周方向
R 径方向
X 長軸方向