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特開2024-102626全固体二次電池用バインダー、全固体二次電池用バインダー組成物、全固体二次電池用スラリー、全固体二次電池用固体電解質シート及びその製造方法、並びに全固体二次電池及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024102626
(43)【公開日】2024-07-31
(54)【発明の名称】全固体二次電池用バインダー、全固体二次電池用バインダー組成物、全固体二次電池用スラリー、全固体二次電池用固体電解質シート及びその製造方法、並びに全固体二次電池及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20240724BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20240724BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20240724BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240724BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20240724BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/139
H01M10/0562
H01M10/052
H01M10/058
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023006639
(22)【出願日】2023-01-19
(71)【出願人】
【識別番号】322004083
【氏名又は名称】株式会社ENEOSマテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100168860
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 充史
(72)【発明者】
【氏名】飯田 雅史
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ05
5H029AK02
5H029AK03
5H029AK04
5H029AK05
5H029AK07
5H029AK16
5H029AL07
5H029AL11
5H029AM12
5H029CJ02
5H029CJ22
5H029HJ01
5H029HJ02
5H050AA07
5H050BA17
5H050CA05
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA10
5H050CA11
5H050CA15
5H050CA20
5H050GA02
5H050GA22
5H050HA01
5H050HA02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】密着性、柔軟性及びイオン伝導性に優れた全固体二次電池用電極を作製でき、かつ、全固体二次電池のサイクル寿命特性を向上させることができる全固体二次電池用バインダーを提供する。
【解決手段】本発明に係る全固体二次電池用バインダーは、芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位と、共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位とを有し、スチレン骨格を主骨格とする化合物に由来する繰り返し単位、又は下記一般式(2)で表される化合物に由来する繰り返し単位による高分子鎖の分岐点を有する、共役ジエン系重合体(A)を含有する。

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位と、共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位とを有し、
下記一般式(1)で表される化合物に由来する繰り返し単位又は下記一般式(2)で表される化合物に由来する繰り返し単位による高分子鎖の分岐点を有する、
共役ジエン系重合体(A)を含有する、全固体二次電池用バインダー。
【化1】
【化2】
(上記式(1)及び(2)中、Rは、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、及び炭素数6~20のアリール基からなる群より選ばれるいずれかを示し、その一部分に分岐構造を有していてもよい。X、X、Xは、それぞれ独立して、単結合、又は炭素、水素、窒素、硫黄、及び酸素からなる群より選ばれるいずれかを含有する有機基である。Y、Y、Yは、それぞれ独立して、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、及びハロゲン原子からなる群より選ばれるいずれかを示す。)
【請求項2】
前記共役ジエン系重合体(A)の少なくとも一端が、カップリング剤を用いてカップリングされているか又は変性剤により変性されている、請求項1に記載の全固体二次電池用バインダー。
【請求項3】
前記共役ジエン系重合体(A)の結合スチレン含量が5~50%である、請求項1に記載の全固体二次電池用バインダー。
【請求項4】
前記共役ジエン系重合体(A)の数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比(Mw/Mn)が3以下である、請求項1に記載の全固体二次電池用バインダー。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の全固体二次電池用バインダーと、液状媒体(B)とを含有し、
前記液状媒体(B)が、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素、ケトン類、エステル類及びエーテル類よりなる群から選ばれる少なくとも1種である、全固体二次電池用バインダー組成物。
【請求項6】
請求項5に記載の全固体二次電池用バインダー組成物と、固体電解質とを含有する、全固体二次電池用スラリー。
【請求項7】
前記固体電解質として、硫化物系固体電解質又は酸化物系固体電解質を含有する、請求項6に記載の全固体二次電池用スラリー。
【請求項8】
正極活物質層と、固体電解質層と、負極活物質層とを少なくとも備える全固体二次電池において、
前記正極活物質層、前記固体電解質層、及び前記負極活物質層の少なくともいずれか1層が、請求項6に記載の全固体二次電池用スラリーを塗布及び乾燥させて形成された層である、全固体二次電池。
【請求項9】
基材上に、請求項6に記載の全固体二次電池用スラリーを塗布及び乾燥させて形成された層を有する、全固体二次電池用固体電解質シート。
【請求項10】
正極活物質層と、固体電解質層と、負極活物質層とを少なくとも備える全固体二次電池において、
前記正極活物質層、前記固体電解質層、及び前記負極活物質層の少なくともいずれか1層が、請求項9に記載の全固体二次電池用固体電解質シートで形成された層である、全固体二次電池。
【請求項11】
請求項6に記載の全固体二次電池用スラリーを基材上に塗布及び乾燥させる工程を含む、全固体二次電池用固体電解質シートの製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載の全固体二次電池用固体電解質シートの製造方法を介して全固体二次電池を製造する、全固体二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体二次電池用バインダー、全固体二次電池用バインダー組成物、全固体二次電池用スラリー、全固体二次電池用固体電解質シート及びその製造方法、並びに全固体二次電池及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の駆動用電源として、高電圧かつ高エネルギー密度を有する蓄電デバイスが要求されている。このような蓄電デバイスとしては、リチウムイオン電池やリチウムイオンキャパシタなどが期待されている。
【0003】
このような蓄電デバイスに使用される電極は、活物質と、バインダーとして機能する重合体とを含有する組成物(蓄電デバイス電極用スラリー)を集電体の表面に塗布及び乾燥させることにより製造される。バインダーとして使用される重合体に要求される特性としては、活物質同士の結合能力及び活物質と集電体との密着能力が挙げられる。また、塗布・乾燥された組成物塗膜(以下、「活物質層」ともいう。)を裁断する際、活物質層から活物質の微粉などが脱落しない粉落ち耐性などを挙げることができる。このようなバインダー材料が良好な密着性を発現させて、該バインダー材料に起因する電池の内部抵抗を低減させることで、蓄電デバイスに良好な充放電特性を付与することができる。
【0004】
なお、上記の活物質同士の結合能力及び活物質と集電体との密着能力、並びに粉落ち耐性については、性能の良否がほぼ比例関係にあることが経験上明らかになっている。したがって、本明細書では、以下これらを包括して「密着性」という用語を用いて表す場合がある。
【0005】
現在、自動車などの駆動電源や家庭用蓄電池などに用いるため、大型リチウムイオン電池の研究が盛んに行われている。現在汎用されているリチウムイオン二次電池には、電解液が用いられているものが多いが、この電解液を固体電解質に置き換えることによって、構成材料の全てを固体とする全固体二次電池の開発が進められている。
【0006】
全固体二次電池は、高いイオン伝導性を示す固体電解質を用いるため、液漏れや発火の危険性がなく、安全性や信頼性に優れている。また、全固体二次電池は、電極のスタックによる高エネルギー密度化にも適している。具体的には、活物質層と固体電解質層とを並べて直列化した構造を持つ電池とすることができ、電池セルを封止する金属パッケージ、電池セルをつなぐ銅線やバスバーを省略することもできるので、電池のエネルギー密度を大幅に高めることができる。また、高電位化が可能な正極材料との相性の良さなども利点として挙げられる。このように、全固体二次電池は、安全性と高エネルギー密度、長寿命を兼ね備えた究極の電池として期待されている。
【0007】
その一方で、全固体二次電池を製造する際の課題も顕在化している。具体的には、電解質としての固体電解質と活物質との接触面積を増大させるために、それらを混合した混合物の加圧成型体とした場合には、該加圧成型体は硬くて脆い加工性に乏しいものとなる。また、活物質はリチウムイオンの吸蔵・放出により体積変化を伴うため、前記加圧成型体では、充放電サイクルに伴って活物質が剥離するなどし、顕著な容量低下が発生するなどの問題を有していた。そこで、成型性を高めるために、前記混合物にバインダー成分をさらに加えて成型性を向上させる技術が検討されている(例えば、特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11-86899号公報
【特許文献2】特公平7-87045号公報
【特許文献3】国際公開第2009/107784号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献1~3に開示された高分子化合物からなるバインダー成分を加えることで成型性は向上すると考えられる。しかしながら、固体電解質の表面が高分子化合物に覆われることで、固体電解質間のイオン伝導が阻害されやすいことに加え、昨今の全固体二次電池に要求される高レベルのサイクル寿命特性を満足することができず、さらなる改善が要求されていた。
【0010】
本発明に係る幾つかの態様は、密着性、柔軟性及びイオン伝導性に優れた全固体二次電池用電極を作製でき、かつ、全固体二次電池のサイクル寿命特性を向上させることができる全固体二次電池用バインダーを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下のいずれかの態様として実現することができる。
【0012】
本発明に係る全固体二次電池用バインダーの一態様は、
芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位と、共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位とを有し、
下記一般式(1)で表される化合物に由来する繰り返し単位又は下記一般式(2)で表される化合物に由来する繰り返し単位による高分子鎖の分岐点を有する、
共役ジエン系重合体(A)を含有する、全固体二次電池用バインダー。
【化1】
【化2】
(上記式(1)及び(2)中、Rは、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、及び炭素数6~20のアリール基からなる群より選ばれるいずれかを示し、その一部分に分岐構造を有していてもよい。X、X、Xは、それぞれ独立して、単結合、又は炭素、水
素、窒素、硫黄、及び酸素からなる群より選ばれるいずれかを含有する有機基である。Y、Y、Yは、それぞれ独立して、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、及びハロゲン原子からなる群より選ばれるいずれかを示す。)
【0013】
前記全固体二次電池用バインダーの一態様において、
前記共役ジエン系重合体(A)の少なくとも一端が、カップリング剤を用いてカップリングされているか又は変性剤により変性されていてもよい。
【0014】
前記全固体二次電池用バインダーの一態様において、
前記共役ジエン系重合体(A)の結合スチレン含量が5~50%であってもよい。
【0015】
前記全固体二次電池用バインダーの一態様において、
前記共役ジエン系重合体(A)の数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比(Mw/Mn)が3以下であってもよい。
【0016】
本発明に係る全固体二次電池用バインダー組成物の一態様は、
前記いずれかの態様の全固体二次電池用バインダーと、液状媒体(B)とを含有し、
前記液状媒体(B)が、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素、ケトン類、エステル類及びエーテル類よりなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【0017】
本発明に係る全固体二次電池用スラリーの一態様は、
前記態様の全固体二次電池用バインダー組成物と、固体電解質とを含有する。
【0018】
前記全固体二次電池用スラリーの一態様において、
前記固体電解質として、硫化物系固体電解質又は酸化物系固体電解質を含有してもよい。
【0019】
本発明に係る全固体二次電池の一態様は、
正極活物質層と、固体電解質層と、負極活物質層とを少なくとも備える全固体二次電池において、
前記正極活物質層、前記固体電解質層、及び前記負極活物質層の少なくともいずれか1層が、前記態様の全固体二次電池用スラリーを塗布及び乾燥させて形成された層である。
【0020】
本発明に係る全固体二次電池用固体電解質シートの一態様は、
基材上に、前記態様の全固体二次電池用スラリーを塗布及び乾燥させて形成された層を有する。
【0021】
本発明に係る全固体二次電池の一態様は、
正極活物質層と、固体電解質層と、負極活物質層とを少なくとも備える全固体二次電池において、
前記正極活物質層、前記固体電解質層、及び前記負極活物質層の少なくともいずれか1層が、前記態様の全固体二次電池用固体電解質シートで形成された層である。
【0022】
本発明に係る全固体二次電池用固体電解質シートの製造方法の一態様は、
前記態様の全固体二次電池用スラリーを基材上に塗布及び乾燥させる工程を含む。
【0023】
本発明に係る全固体二次電池の製造方法の一態様は、
前記態様の全固体二次電池用固体電解質シートの製造方法を介して全固体二次電池を製造する。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る全固体二次電池用バインダーによれば、密着性、柔軟性及びイオン伝導性に優れた全固体二次電池用電極を作製でき、かつ、サイクル寿命特性に優れた全固体二次電池が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係る好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、下記に記載された実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形例も含むものとして理解されるべきである。
【0026】
本明細書において、「(メタ)アクリル酸~」とは、「アクリル酸~」又は「メタクリル酸~」を表す。
【0027】
本明細書において、「X~Y」のように記載された数値範囲は、数値Xを下限値として含み、かつ、数値Yを上限値として含むものとして解釈される。
【0028】
1.全固体二次電池用バインダー
本発明の一実施形態に係る全固体二次電池用バインダーは、芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位と、共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位とを有し、下記一般式(1)で表される化合物に由来する繰り返し単位又は下記一般式(2)で表される化合物に由来する繰り返し単位による高分子鎖の分岐点を有する、共役ジエン系重合体(A)を含有する。
【0029】
以下、共役ジエン系重合体(A)の構造、製造方法、物性の順に説明する。
【0030】
1.1.共役ジエン系重合体(A)の構造
共役ジエン系重合体(A)は、芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位と、共役ジエン化合物に由来する繰り返し単位とを有し、下記一般式(1)で表される化合物に由来する繰り返し単位又は下記一般式(2)で表される化合物に由来する繰り返し単位による高分子鎖の分岐点を有する、共役ジエン系重合体(A)を含有する。
【0031】
【化3】
【0032】
上記式(1)中、Rは、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、及び炭素数6~20のアリール基からなる群より選ばれるいずれかを示し、その一部分に分岐構造を有していてもよい。上記式(1)中、Xは、単結合、又は炭素、水素、窒素、硫黄、及び酸素からなる群より選ばれるいずれかを含有する有機基である。上記式(1)中、Yは、それぞれ独立して、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、及びハロゲン原子からなる群より選ばれるいずれかを示す。
【0033】
上記一般式(1)で表される化合物の中でも、重合の分岐度向上の観点から、Rが水
素原子であり、Yが、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、及びハロゲン原子からなる群より選ばれるいずれかであることが好ましい。
【0034】
上記一般式(1)で表される化合物の中でも、重合の継続性及び分岐度向上の観点から、Rが水素原子であり、Yが、炭素数1~20のアルコキシ基又はハロゲン原子であることがより好ましい。
【0035】
上記一般式(1)で表される化合物の中でも、重合の継続性及び分岐度向上、変性率の向上の観点から、Rが水素原子であり、Yが炭素数1~20のアルコキシ基であることがさらにより好ましい。
【0036】
上記一般式(1)で表される化合物の中でも、重合の継続性及び分岐度向上、変性率の更なる向上の観点から、Rが水素原子であり、Xが単結合であり、Yが炭素数1~20のアルコキシ基であることが特に好ましい。
【0037】
【化4】
【0038】
上記式(2)中、X、Xは、それぞれ独立して、単結合、又は炭素、水素、窒素、硫黄、及び酸素からなる群より選ばれるいずれかを含有する有機基である。上記式(2)中、Y、Yは、それぞれ独立して、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、及びハロゲン原子からなる群より選ばれるいずれかを示す。
【0039】
上記一般式(2)で表される化合物の中でも、分岐度向上の観点から、Yが、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、及びハロゲン原子からなる群より選ばれるいずれかであることが好ましい。
【0040】
上記一般式(2)で表される化合物の中でも、重合の継続性及び分岐度向上の観点から、Yが、炭素数1~20のアルコキシ基又はハロゲン原子であり、Yが、炭素数1~20のアルコキシ基又はハロゲン原子であることがより好ましい。
【0041】
上記一般式(2)で表される化合物の中でも、重合の継続性及び分岐度向上、変性率の更なる向上の観点から、Xが単結合であり、Yが炭素数1~20のアルコキシ基又はハロゲン原子であり、Xが単結合であり、Yが炭素数1~20のアルコキシ基又はハロゲン原子であることが特に好ましい。
【0042】
1.1.2.共役ジエン系重合体(A)の製造方法
<重合工程>
重合工程では、アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物を重合開始剤として用い、共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物とを共重合することで、活性末端を有する共役ジエン系重合体を得る。重合工程においては、リビングアニオン重合反応による成長反応による重合を行うことが好ましく、これにより活性末端を有する共役ジエン系重合体を得ることができる。
【0043】
重合開始剤としては、アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物を使用することができる。重合開始剤は、有機リチウム系化合物を用いることが好ましく、有機モノリチウム化合物を用いることがより好ましい。有機モノリチウム化合物としては、以下のものに限定されないが、例えば、低分子化合物の有機モノリチウム化合物、可溶化したオリゴマーの有機モノリチウム化合物が挙げられる。また、有機モノリチウム化合物は、その有機基とそのリチウムの結合様式において、例えば、炭素-リチウム結合を有する化合物、窒素-リチウム結合を有する化合物、及び酸素-リチウム結合を有する化合物のいずれも用いることができる。
【0044】
重合開始剤の使用量は、目的とする共役ジエン系重合体の分子量によって決めることが好ましい。重合開始剤の使用量に対する、共役ジエン化合物等の単量体の使用量が、目的とする共役ジエン系重合体の重合度に関係する。すなわち、数平均分子量及び/又は重量平均分子量に関係する傾向にある。
【0045】
有機モノリチウム化合物は、共役ジエン系重合体へ窒素原子を導入する一つの手法として用いられるという観点から、置換アミノ基を有するアルキルリチウム化合物又はジアルキルアミノリチウムであることが好ましい。これらの化合物を重合開始剤として用いると、重合開始末端にアミノ基からなる窒素原子を有する、共役ジエン系重合体が得られる。
【0046】
置換アミノ基とは、活性水素を有しない、又は、活性水素を保護した構造の、アミノ基である。活性水素を有しないアミノ基を有するアルキルリチウム化合物としては、例えば、3-ジメチルアミノプロピルリチウム、3-ジエチルアミノプロピルリチウム、4-(メチルプロピルアミノ)ブチルリチウム、4-ヘキサメチレンイミノブチルリチウムが挙げられる。活性水素を保護した構造のアミノ基を有するアルキルリチウム化合物としては、例えば、3-ビストリメチルシリルアミノプロピルリチウム、4-トリメチルシリルメチルアミノブチルリチウムが挙げられる。
【0047】
ジアルキルアミノリチウムとしては、例えば、リチウムジメチルアミド、リチウムジエチルアミド、リチウムジプロピルアミド、リチウムジブチルアミド、リチウムジ-n-ヘキシルアミド、リチウムジへプチルアミド、リチウムジイソプロピルアミド、リチウムジオクチルアミド、リチウム-ジ-2-エチルへキシルアミド、リチウムジデシルアミド、リチウムエチルプロピルアミド、リチウムエチルブチルアミド、リチウムエチルベンジルアミド、リチウムメチルフェネチルアミド、リチウムヘキサメチレンイミド、リチウムピロリジド、リチウムピペリジド、リチウムヘプタメチレンイミド、リチウムモルホリド、1-リチオアザシクロオクタン、6-リチオ-1,3,3-トリメチル-6-アザビシクロ[3.2.1]オクタン、及び1-リチオ-1,2,3,6-テトラヒドロピリジンが挙げられる。
【0048】
これらの有機モノリチウム化合物は、重合可能な単量体、例えば1,3-ブタジエン、イソプレン、スチレン等の単量体を少量反応させて、n-ヘキサン、シクロヘキサンに可溶化したオリゴマーの有機モノリチウム化合物として用いることもできる。
【0049】
有機モノリチウム化合物は、工業的入手の容易さ及び重合反応のコントロールの容易さの観点から、アルキルリチウム化合物であることが好ましい。この場合、重合開始末端にアルキル基を有する共役ジエン系重合体が得られる。アルキルリチウム化合物としては、例えば、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム、tert-ブチルリチウム、n-ヘキシルリチウム、ベンジルリチウム、フェニルリチウム、スチルベンリチウムが挙げられる。アルキルリチウム化合物としては、工業的入手の容易さ及び重合反応のコントロールの容易さの観点から、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウムが好ましい。
【0050】
これらの有機モノリチウム化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、他の有機金属化合物と併用してもよい。他の有機金属化合物としては、例えば、アルカリ土類金属化合物、他のアルカリ金属化合物、その他有機金属化合物が挙げられる。アルカリ土類金属化合物としては、例えば、有機マグネシウム化合物、有機カルシウム化合物、有機ストロンチウム化合物が挙げられる。また、アルカリ土類金属のアルコキサイド、スルフォネート、カーボネート、アミドの化合物も挙げられる。有機マグネシウム化合物としては、例えば、ジブチルマグネシウム、エチルブチルマグネシウムが挙げられる。その他有機金属化合物としては、例えば、有機アルミニウム化合物が挙げられる。
【0051】
重合工程における重合反応様式としては、例えば、回分式(以下、「バッチ式」ともいう。)、連続式の重合反応様式が挙げられる。本実施形態に係る共役ジエン系重合体(A)の製造方法においては、重合工程で、活性末端を有する共役ジエン系重合体(A)を高い割合で得るために、重合体を連続的に排出して短時間で次の反応に供することが可能な連続式が好ましい。連続式においては、反応器の数は特に限定されず、1個又は2個以上の連結された反応器を用いることができる。反応器は、モノマーと重合開始剤を溶液中で十分に接触させられるものが好ましく、撹拌機付きの槽型、管型等のものが用いられる。反応器の数は適宜選択できるが、製造設備の省スペース化の観点から反応器は1個が好ましく、生産性向上の観点から2個以上が好ましい。2個以上反応器を用いる場合は、分岐化剤は2基目以降に添加することがより好ましい。
【0052】
共役ジエン系重合体(A)の重合工程は、不活性溶媒中で行うことが好ましい。不活性溶媒としては、例えば、飽和炭化水素、芳香族炭化水素等の炭化水素系溶媒が挙げられる。炭化水素系溶媒としては、例えば、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロペンタン、メチルシクロヘキサン等の脂環族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;及びそれらの混合物からなる炭化水素が挙げられる。重合反応に供する前に、不純物であるアレン類及びアセチレン類を有機金属化合物で処理することで、高濃度の活性末端を有する共役ジエン系重合体が得られる傾向にあり、高い変性率の共役ジエン系重合体(A)が得られる傾向にあるため好ましい。
【0053】
重合工程においては、極性化合物を添加してもよい。これにより、芳香族ビニル化合物を共役ジエン化合物とランダムに共重合させることができる。また、極性化合物は、共役ジエン部のミクロ構造を制御するためのビニル化剤としても機能する場合がある。さらに、重合反応の促進等にも効果がある場合がある。
【0054】
極性化合物としては、例えば、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジメトキシベンゼン、2,2-ビス(2-オキソラニル)プロパン等のエーテル類;テトラメチルエチレンジアミン、ジピペリジノエタン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、キヌクリジン等の第3級アミン化合物;カリウム-tert-アミラート、カリウム-tert-ブチラート、ナトリウム-tert-ブチラート、ナトリウムアミラート等のアルカリ金属アルコキシド化合物;トリフェニルホスフィン等のホスフィン化合物等が挙げられる。これらの極性化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0055】
極性化合物の使用量は、特に限定されず、目的等に応じて選択することができるが、重合開始剤1モルに対して、0.01モル以上100モル以下であることが好ましい。このような極性化合物(ビニル化剤)は、共役ジエン系重合体の共役ジエン部分のミクロ構造
の調整剤として、所望のビニル結合量に応じて、適量用いることができる。多くの極性化合物は、同時に共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物との共重合において有効なランダム化効果を有し、芳香族ビニル化合物の分布の調整やスチレンブロック量の調整剤として用いることができる傾向にある。共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物とをランダム化する方法としては、例えば、特開昭59-140211号公報に記載されているように、スチレンの全量と1,3-ブタジエンの一部とで共重合反応を開始させ、共重合反応の途中で残りの1,3-ブタジエンを断続的に添加する方法が挙げられる。
【0056】
重合工程における重合温度は、リビングアニオン重合が進行する温度であることが好ましく、生産性の観点から、0℃以上120℃以下であることがより好ましく、50℃以上100℃以下であることが特に好ましい。重合温度がこのような範囲にあることで、重合終了後の活性末端に対する変性剤の反応量を充分に確保することができる傾向にある。
【0057】
<分岐化工程>
分岐化工程では、前記重合工程で得られた共役ジエン系重合体の活性末端に、分岐化剤としてスチレン誘導体を反応させる。分岐化剤が重合活性を維持してモノマーと重合しつつ、分岐化剤の官能基に別の重合体鎖の活性末端が反応することで、重合体に分岐構造が形成される。分岐構造を導入した共役ジエン系重合体に、さらにモノマー及び分岐化剤と重合、反応させることで、更なる分岐構造を形成させることも可能である。また、後述するように、官能基を有する変性剤と反応させて変性共役ジエン系重合体にしたり、カップリング反応を行なうことにより重合体鎖をさらに伸長させたりすることが可能である。このように、芳香族ビニル化合物として重合反応を継続しつつ、官能基が重合体の活性末端と反応するスチレン誘導体を分岐化剤として使用することにより、分岐化された共役ジエン系重合体(A)が得られる。
【0058】
分岐化工程で使用される、分岐化剤であるスチレン誘導体は、重合の継続性とゲル化防止の観点から、分岐化工程後に分岐部位に活性末端が1つだけ残る骨格が主骨格となるものであることが好ましく、さらに、スチレン誘導体を構成する官能基が分岐化工程時に重活性末端と十分に反応する反応性を有しているものであることが好ましい。より具体的には、スチレン骨格を主骨格とする下記一般式(1)で表される分岐化剤、又はジフェニルエチレン骨格を主骨格とする下記一般式(2)で表される分岐化剤を用いることが、連鎖移動反応抑制及び活性末端の失活抑制、ゲル化防止の観点から好ましい。
【0059】
【化5】
【0060】
【化6】
【0061】
上記式(1)及び(2)中、Rは、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、及び炭素数6~20のアリール基からなる群より選ばれるいずれかを示し、その一部分に分岐構造を有していてもよい。X、X、Xは、それぞれ独立して、単結合、又は炭素、水素、窒素、硫黄、及び酸素からなる群より選ばれるいずれかを含有する有機基である。Y、Y、Yは、それぞれ独立して、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、及びハロゲン原子からなる群より選ばれるいずれかを示す。
【0062】
上記一般式(1)で表される分岐化剤を使用する場合、重合の分岐度向上の観点から、上記式(1)中、Rが水素原子であり、Yが、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、及びハロゲン原子からなる群より選ばれるいずれかであることが好ましい。
【0063】
上記一般式(2)で表される分岐化剤を使用する場合、分岐度向上の観点から、上記式(2)中、Yが、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、及びハロゲン原子からなる群より選ばれるいずれかであることが好ましい。
【0064】
また、上記一般式(1)で表される分岐化剤を使用する場合、重合の継続性と分岐度向上の観点から、上記式(1)中、Rが水素原子であり、Yが、炭素数1~20のアルコキシ基又はハロゲン原子であることがより好ましい。
【0065】
また、上記一般式(2)で表される分岐化剤を使用する場合、重合の継続性と分岐度向上の観点から、上記式(2)中、Yが、炭素数1~20のアルコキシ基又はハロゲン原子であり、Yが、炭素数1~20のアルコキシ基又はハロゲン原子であることがより好ましい。
【0066】
また、上記一般式(1)で表される分岐化剤を使用する場合、重合の継続性と分岐度向上、変性率向上の観点から、上記式(1)中、Rが水素原子であり、Yが炭素数1~20のアルコキシ基であることがさらにより好ましい。
【0067】
また、上記一般式(1)で表される分岐化剤を使用する場合、重合の継続性と分岐度向上、変性率の更なる向上の観点から、上記式(1)中、Rが水素原子であり、Xが単結合であり、Yが炭素数1~20のアルコキシ基であることが特に好ましい。
【0068】
また、上記一般式(2)で表される分岐化剤を使用する場合、重合の継続性と分岐度向上、変性率の更なる向上の観点から、上記式(2)中、Xが単結合であり、Yが、炭素数1~20のアルコキシ基又はハロゲン原子であり、Xが単結合であり、Yが、炭素数1~20のアルコキシ基又はハロゲン原子であることが特に好ましい。
【0069】
前記一般式(1)で表される分岐化剤としては、例えば、トリメトキシ(4-ビニルフェニル)シラン、トリエトキシ(4-ビニルフェニル)シラン、トリプロポキシ(4-ビニルフェニル)シラン、トリブトキシ(4-ビニルフェニル)シラン、トリイソプロポキシ(4-
ビニルフェニル)シラン、トリメトキシ(3-ビニルフェニル)シラン、トリエトキシ(3-ビニルフェニル)シラン、トリプロポキシ(3-ビニルフェニル)シラン、トリブトキシ(3-ビニルフェニル)シラン、トリイソプロポキシ(3-ビニルフェニル)シラン、トリメトキシ(2-ビニルフェニル)シラン、トリエトキシ(2-ビニルフェニル)シラン、トリプロポキシ(2-ビニルフェニル)シラン、トリブトキシ(2-ビニルフェニル)シラン、トリイソプロポキシ(2-ビニルフェニル)シラン、ジメトキシメチル(4-ビニルフェニル)シラン、ジエトキシメチル(4-ビニルフェニル)シラン、ジプロポキシメチル(4-ビニルフェニル)シラン、ジブトキシメチル(4-ビニルフェニル)シラン、ジイソプロポキシメチル(4-ビニルフェニル)シラン、ジメトキシメチル(3-ビニルフェニル)シラン、ジエトキシメチル(3-ビニルフェニル)シラン、ジプロポキシメチル(3-ビニルフェニル)シラン、ジブトキシメチル(3-ビニルフェニル)シラン、ジイソプロポキシメチル(3-ビニルフェニル)シラン、ジメトキシメチル(2-ビニルフェニル)シラン、ジエトキシメチル(2-ビニルフェニル)シラン、ジプロポキシメチル(2-ビニルフェニル)シラン、ジブトキシメチル(2-ビニルフェニル)シラン、ジイソプロポキシメチル(2-ビニルフェニル)シラン、ジメチルメトキシ(4-ビニルフェニル)シラン、ジメチルエトキシ(4-ビニルフェニル)シラン、ジメチルプロポキシ(4-ビニルフェニル)シラン、ジメチルブトキシ(4-ビニルフェニル)シラン、ジメチルイソプロポキシ(4-ビニルフェニル)シラン、ジメチルメトキシ(3-ビニルフェニル)シラン、ジメチルエトキシ(3-ビニルフェニル)シラン、ジメチルプロポキシ(3-ビニルフェニル)シラン、ジメチルブトキシ(3-ビニルフェニル)シラン、ジメチルイソプロポキシ(3-ビニルフェニル)シラン、ジメチルメトキシ(2-ビニルフェニル)シラン、ジメチルエトキシ(2-ビニルフェニル)シラン、ジメチルプロポキシ(2-ビニルフェニル)シラン、ジメチルブトキシ(2-ビニルフェニル)シラン、ジメチルイソプロポキシ(2-ビニルフェニル)シラン、トリメトキシ(4-イソプロペニルフェニル)シラン、トリエトキシ(4-イソプロペニルフェニル)シラン、トリプロポキシ(4-イソプロペニルフェニル)シラン、トリブトキシ(4-イソプロペニルフェニル)シラン、トリイソプロポキシ(4-イソプロペニルフェニル)シラン、トリメトキシ(3-イソプロペニルフェニル)シラン、トリエトキシ(3-イソプロペニルフェニル)シラン、トリプロポキシ(3-イソプロペニルフェニル)シラン、トリブトキシ(3-イソプロペニルフェニル)シラン、トリイソプロポキシ(3-イソプロペニルフェニル)シラン、トリメトキシ(2-イソプロペニルフェニル)シラン、トリエトキシ(2-イソプロペニルフェニル)シラン、トリプロポキシ(2-イソプロペニルフェニル)シラン、トリブトキシ(2-イソプロペニルフェニル)シラン、トリイソプロポキシ(2-イソプロペニルフェニル)シラン、ジメトキシメチル(4-イソプロペニルフェニル)シラン、ジエトキシメチル(4-イソプロペニルフェニル)シラン、ジプロポキシメチル(4-イソプロペニルフェニル)シラン、ジブトキシメチル(4-イソプロペニルフェニル)シラン、ジイソプロポキシメチル(4-イソプロペニルフェニル)シラン、ジメトキシメチル(3-イソプロペニルフェニル)シラン、ジエトキシメチル(3-イソプロペニルフェニル)シラン、ジプロポキシメチル(3-イソプロペニルフェニル)シラン、ジブトキシメチル(3-イソプロペニルフェニル)シラン、ジイソプロポキシメチル(3-イソプロペニルフェニル)シラン、ジメトキシメチル(2-イソプロペニルフェニル)シラン、ジエトキシメチル(2-イソプロペニルフェニル)シラン、ジプロポキシメチル(2-イソプロペニルフェニル)シラン、ジブトキシメチル(2-イソプロペニルフェニル)シラン、ジイソプロポキシメチル(2-イソプロペニルフェニル)シラン、ジメチルメトキシ(4-イソプロペニルフェニル)シラン、ジメチルエトキシ(4-イソプロペニルフェニル)シラン、ジメチルプロポキシ(4-イソプロペニルフェニル)シラン、ジメチルブトキシ(4-イソプロペニルフェニル)シラン、ジメチルイソプロポキシ(4-イソプロペニルフェニル)シラン、ジメチルメトキシ(3-イソプロペニルフェニル)シラン、ジメチルエトキシ(3-イソプロペニルフェニル)シラン、ジメチルプロポキシ(3-イソプロペニルフェニル)シラン、ジメチルブトキシ(3-イソプロペニルフェニル)シラン、ジメチルイソプロポキシ(3-イソプロペニルフェニル)シラン、ジメチルメトキシ(2-イソプロペニルフェニル)シラン、ジメチルエトキシ(2-イ
ソプロペニルフェニル)シラン、ジメチルプロポキシ(2-イソプロペニルフェニル)シラン、ジメチルブトキシ(2-イソプロペニルフェニル)シラン、ジメチルイソプロポキシ(2-イソプロペニルフェニル)シラン、トリクロロ(4-ビニルフェニル)シラン、トリクロロ(3-ビニルフェニル)シラン、トリクロロ(2-ビニルフェニル)シラン、トリブロモ(4-ビニルフェニル)シラン、トリブロモ(3-ビニルフェニル)シラン、トリブロモ(2-ビニルフェニル)シラン、ジクロロメチル(4-ビニルフェニル)シラン、ジクロロメチル(3-ビニルフェニル)シラン、ジクロロメチル(2-ビニルフェニル)シラン、ジブロモメチル(4-ビニルフェニル)シラン、ジブロモメチル(3-ビニルフェニル)シラン、ジブロモメチル(2-ビニルフェニル)シラン、ジメチルクロロ(4-ビニルフェニル)シラン、ジメチルクロロ(3-ビニルフェニル)シラン、ジメチルクロロ(2-ビニルフェニル)シラン、ジメチルブロモ(4-ビニルフェニル)シラン、ジメチルブロモ(3-ビニルフェニル)シラン、ジメチルブロモ(2-ビニルフェニル)シラン、トリメトキシ(4-ビニルベンジル)シラン、トリエトキシ(4-ビニルベンジル)シラン、トリプロポキシ(4-ビニルベンジル)シランが挙げられる。これらの中でも、トリメトキシ(4-ビニルフェニル)シラン、トリエトキシ(4-ビニルフェニル)シラン、トリプロポキシ(4-ビニルフェニル)シラン、トリブトキシ(4-ビニルフェニル)シラン、トリイソプロポキシ(4-ビニルフェニル)シラン、トリメトキシ(3-ビニルフェニル)シラン、トリエトキシ(3-ビニルフェニル)シラン、トリプロポキシ(3-ビニルフェニル)シラン、トリブトキシ(3-ビニルフェニル)シラン、トリイソプロポキシ(3-ビニルフェニル)シラン、トリクロロ(4-ビニルフェニル)シランが好ましく、トリメトキシ(4-ビニルフェニル)シラン、トリエトキシ(4-ビニルフェニル)シラン、トリプロポキシ(4-ビニルフェニル)シラン、トリブトキシ(4-ビニルフェニル)シラン、トリイソプロポキシ(4-ビニルフェニル)シラン、トリメトキシ(4-ビニルベンジル)シラン、トリエトキシ(4-ビニルベンジル)シランがより好ましく、トリメトキシ(4-ビニルフェニル)シラン、トリエトキシ(4-ビニルフェニル)シランが特に好ましい。
【0070】
前記一般式(2)で表される分岐化剤としては、例えば、1,1-ビス(4-トリメトキシシリルフェニル)エチレン、1,1-ビス(4-トリエトキシシリルフェニル)エチレン、1,1-ビス(4-トリプロポキシシシリルフェニル)エチレン、1,1-ビス(4-トリペントキシシリルフェニル)エチレン、1,1-ビス(4-トリイソプロポキシシリルフェニル)エチレン、1,1-ビス(3-トリメトキシシリルフェニル)エチレン、1,1-ビス(3-トリエトキシシリルフェニル)エチレン、1,1-ビス(3-トリプロポキシシシリルフェニル)エチレン、1,1-ビス(3-トリペントキシシリルフェニル)エチレン、1,1-ビス(3-トリイソプロポキシシリルフェニル)エチレン、1,1-ビス(2-トリメトキシシリルフェニル)エチレン、1,1-ビス(2-トリエトキシシリルフェニル)エチレン、1,1-ビス(3-トリプロポキシシシリルフェニル)エチレン、1,1-ビス(2-トリペントキシシリルフェニル)エチレン、1,1-ビス(2-トリイソプロポキシシリルフェニル)エチレン、1,1-ビス(4-(ジメチルメトキシシリル)フェニル)エチレン、1,1-ビス(4-(ジエチルメトキシシリル)フェニル)エチレン、1,1-ビス(4-(ジプロピルメトキシシリル)フェニル)エチレン、1,1-ビス(4-(ジメチルエトキシシリル)フェニル)エチレン、1,1-ビス(4-(ジエチルエトキシシリル)フェニル)エチレン、1,1-ビス(4-(ジプロピルエトキシシリル)フェニル)エチレン、1,1-ビス(4-トリメトキシシリルベンジル)エチレン、1,1-ビス(4-トリエトキシシリルベンジル)エチレン、1,1-ビス(4-トリプロポキシシシリルベンジル)エチレン、1,1-ビス(4-トリペントキシシリルベンジル)エチレンが挙げられる。これらの中でも、1,1-ビス(4-トリメトキシシリルフェニル)エチレン、1,1-ビス(4-トリエトキシシリルフェニル)エチレン、1,1-ビス(4-トリプロポキシシシリルフェニル)エチレン、1,1-ビス(4-トリペントキシシリルフェニル)エチレン、1,1-ビス(4-トリイソプロポキシシリルフェニル)エチレンが好ましく、1,1-ビス(4-トリメトキシシリルフェニ
ル)エチレンがより好ましい。
【0071】
前記一般式(1)、(2)で表される分岐化剤を用いることにより、分岐数が向上し、密着性と分散性の向上の効果が得られる。
【0072】
本実施形態に係る共役ジエン系重合体(A)の製造方法において、分岐化剤を添加するタイミングは、活性末端を有する共役ジエン系重合体が反応系内に存在する重合工程の継続中であれば、特に限定されず、目的等に応じて選択することができる。共役ジエン系重合体(A)の絶対分子量の向上、カップリング率向上の観点から、重合開始剤添加後、原料転化率が20%以上であるタイミングが好ましく、40%以上であるタイミングがより好ましく、50%以上であるタイミングがさらに好ましく、65%以上であるタイミングがさらにより好ましく、75%以上であるタイミングが特に好ましい。分岐化剤を添加するタイミング、追加するモノマーの量によって、主鎖や側鎖の長さを調整することができるため、重合体設計自由度が高い。
【0073】
本実施形態に係る共役ジエン系重合体(A)の製造方法における分岐化工程で得られる、分岐構造が導入された共役ジエン系重合体(A)の分岐構造は、好ましくは3分岐以上24分岐以下、より好ましくは4分岐以上20分岐以下、特に好ましくは5分岐以24分岐以下である。この範囲とすることで、後述する変性工程において官能基を有する変性剤と反応させて変性共役ジエン系重合体にしたり、カップリング反応により重合体鎖をさらに伸長させることが容易である傾向にある。また、3分岐以上にすることで、得られる重合体が加工性及び耐摩耗性に優れる傾向にある。
【0074】
分岐化剤の添加量は、特に限定されず、目的等に応じて添加量を選択することができる。共役ジエン系重合体(A)の末端停止反応率の向上、カップリング率向上、分岐化後の重合の継続性の観点から、活性な重合開始剤量に対する分岐化剤量が、モル比で2分の1以下であり100分の1以上であることが好ましく、3分の1以下であり50分の1以上であることがより好ましく、4分の1以下であり30分の1以上であることがさらに好ましく、6分の1以下であり25分の1以上であることがさらにより好ましく、8分の1以下であり12分の1以上であることが特に好ましい。
【0075】
また、分岐化工程時及び/又はその後、さらにモノマーを追添加して、分岐化後に重合工程を継続してもよく、モノマーの追添加の後でさらに分岐化剤を投入し、モノマーの添加を繰り返してもよい。モノマーを追加することで、分岐点周辺の立体障害が緩和し、これにより、重合の継続性の向上とカップリング率及び変性率向上という効果が得られる。これにより、重合体の分子量を増加しつつ、所望の位置で分岐を形成することができる。追加するモノマーは、スチレン等の芳香族ビニル化合物でもブタジエン等の共役ジエン化合物でもよく、これらの混合物でもよく、最初に重合させるモノマーの種類や比率と同じでも異なってもよいが、重合の継続性の観点からは共役ジエン化合物が好ましい。重合体の耐熱性の向上の観点からは芳香族ビニル化合物を追加することが好ましい。
【0076】
分岐化工程で得られる、分岐構造が導入された共役ジエン系重合体(A)は、110℃で測定されるムーニー粘度が好ましくは10以上150以下であり、より好ましくは15以上140以下であり、さらに好ましくは20以上130以下であり、特に好ましくは30以上100以下である。ムーニー粘度が前記範囲であると、共役ジエン系重合体(A)が密着性と分散性に優れる傾向にある。
【0077】
分岐化工程で得られる、分岐構造が導入された共役ジエン系重合体(A)の重量平均分子量は、10000以上1500000以下であることが好ましく、100000以上1000000以下であることがより好ましく、200000以上900000以下である
ことが特に好ましい。重量平均分子量が前記範囲であると、共役ジエン系重合体(A)は、密着性、分散性、及びこれらの特性バランスに優れる傾向にある。
【0078】
後述する反応工程において変性共役ジエン系重合体を製造する場合、重量平均分子量の範囲が100000以上1000000以下に到達するためには、分岐化剤の添加量を重合開始剤量に対してモル比で3分の1以下であり50分の1以上の範囲で制御することが好ましい。これにより、分岐を形成させながらも重合開始剤が反応工程前にすべて消費されるのを防ぎつつ、変性剤の官能基数を2官能以上にすることが必要である。重量平均分子量の範囲が200000以上900000以下に到達するためには、分岐化剤の添加量を重合開始剤量に対してモル比で3分の1以下であり50分の1以上の範囲で制御しつつ、変性剤の官能基数を3官能以上にすることが必要である。
【0079】
共役ジエン系重合体(A)を全固体二次電池用バインダーとして用いる場合、共役ジエン化合物と芳香族ビニル化合物と分岐化剤との共重合体が好適である。この用途の共重合体において結合共役ジエン量は40質量%以上100質量%以下であることが好ましく、55質量%以上80質量%以下であることがより好ましい。また、共役ジエン系重合体(A)中の結合芳香族ビニル量は、特に限定されないが、0質量%以上60質量%以下であることが好ましく、20質量%以上45質量%以下であることがより好ましい。結合共役ジエン量及び結合芳香族ビニル量が上記範囲であると、柔軟性及び密着性に優れる傾向にある。ここで、結合芳香族ビニル量は、フェニル基の紫外吸光によって測定でき、ここから結合共役ジエン量も求めることができる。
【0080】
共役ジエン系重合体(A)のミクロ構造については、共役ジエン系重合体(A)中の各結合量が上述した数値範囲にあり、かつ、共役ジエン系重合体(A)のガラス転移温度が-80℃以上-15℃以下の範囲にあるときに、優れたサイクル寿命特性を得ることができる傾向にある。ガラス転移温度については、ISO22768:2006に従い、所定の温度範囲で昇温しながらDSC曲線を記録し、DSC微分曲線のピークトップ(Inflectionpoint)をガラス転移温度とする。
【0081】
<反応工程>
上述した重合・分岐工程を経て得られた共役ジエン系重合体(A)の活性末端に対して、カップリング剤、例えば3官能以上の反応性化合物を用いてカップリングを行う工程及び/又は窒素原子含有基を有する変性剤(好ましくは、窒素原子含有基を有するカップリング剤)を用いて変性させる工程を実施してもよい。以下、カップリングを行う工程及び/又は変性される工程を、反応工程という。反応工程においては、共役ジエン系重合体(A)の活性末端の一端に対してカップリング剤又は窒素原子含有基で変性反応させ、変性された共役ジエン系重合体(A)を得る。
【0082】
(カップリング剤)
反応工程で用いられるカップリング剤は、3官能以上の反応性化合物であればいかなる構造のものでもよいが、珪素原子を有する3官能以上の反応性化合物が好ましく、少なくとも4個の珪素含有官能基を有していることがより好ましい。さらに好ましいカップリング剤は、少なくとも1の珪素原子が、炭素数1~20のアルコキシシリル基又はシラノール基を構成する化合物である。このようなカップリング剤としては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、トリフェノキシメチルシラン、1,2-ビス(トリエトキシシリル)エタン、メトキシ置換ポリオルガノシロキサン等が挙げられる。
【0083】
[化合物A]
上述した重合工程、分岐化工程を経て得られた、分岐構造が導入された共役ジエン系重合体(A)の活性末端に対して、下記式(a)で表される化合物Aを反応させる反応工程
を実施することが好ましい。化合物Aは、窒素原子を含有したアルコキシシリル基を合計2個以上有する化合物であり、式(a)中のXで示される構造は下記式(b)~(e)で表される構造である。当該式(a)で表されるカップリング剤を用いて反応工程を行うことによって、重合体鎖の分岐数が多く、かつ、シリカと相互作用する基で変性された分岐化共役ジエン系重合体を得ることができる。
【0084】
【化7】
【0085】
上記式(a)中、R~Rは、それぞれ独立して、炭素数1~20のアルキル基又は炭素数6~20のアリール基を示し、R~Rは、それぞれ独立して、炭素数1~20のアルキレン基を示す。m及びnは、それぞれ独立して1~3の整数である。式(a)中、複数のR~R、m、nは同一でも異なっていてもよい。式(a)中、Xは、下記一般式(b)~(e)のいずれかの基で表される。
【0086】
【化8】
【0087】
上記式(b)中、Rは炭素数1~20の炭化水素基を示し、炭化水素基は一部枝分かれ構造、環状構造を有していてもよい。Rは炭素数1~20の炭化水素基又は炭素数6~20のアリール基を示し、炭化水素基の場合は一部枝分かれ構造、環状構造を有していてもよい。
【0088】
【化9】
【0089】
上記式(c)中、Rは、炭素数1~20の炭化水素基又は炭素数6~20のアリール基を示し、炭化水素基の場合は一部枝分かれ構造、環状構造を有していてもよい。
【0090】
【化10】
【0091】
上記式(d)中、R10は、炭素数1~20の炭化水素基又は炭素数6~20のアリー
ル基を示し、炭化水素基の場合は一部枝分かれ構造、環状構造を有していてもよい。
【0092】
【化11】
【0093】
上記式(e)中、R11~R14は、それぞれ独立して、炭素数1~20のアルキレン基を示す。R15~R18は、それぞれ独立して、炭素数1~20のアルキル基又は炭素数6~20のアリール基を示し、l及びoは、それぞれ独立して、1~3の整数を示し、複数存在する場合のR15~R18は、それぞれ独立している。
【0094】
化合物Aは、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0095】
(変性剤)
[式(A)~式(C)で表される化合物]
変性剤としては、下記一般式(A)~(C)のいずれかで表される化合物を含むことが好ましい。
【0096】
【化12】
【0097】
式(A)中、R1A~R4Aは、各々独立して、炭素数1~20のアルキル基、又は炭素数6~20のアリール基を示し、R5Aは、炭素数1~10のアルキレン基を示し、R6Aは、炭素数1~20のアルキレン基を示す。mは1又は2の整数を示し、nは2又は3の整数を示し、(m+n)は4以上の整数を示す。複数存在する場合のR1A~R4Aは、各々独立している。
【0098】
【化13】
【0099】
式(B)中、R1B~R6Bは、各々独立して、炭素数1~20のアルキル基又は炭素数6~20のアリール基を示し、R7B~R9Bは、各々独立して、炭素数1~20のアルキレン基を示す。m、n、及びlは、各々独立して、1~3の整数を示し、(m+n+l)は、4以上の整数を示す。複数存在する場合のR1B~R6Bは、各々独立している。
【0100】
【化14】
【0101】
式(C)中、R1C~R3Cは、各々独立に、単結合又は炭素数1~20のアルキレン基を示し、R4C~R7C、及びR9Cは、各々独立に、炭素数1~20のアルキル基を示し、R8C及びR11Cは、各々独立に、炭素数1~20のアルキレン基を示し、R10Cは、炭素数1~20のアルキル基又はトリアルキルシリル基を示す。mは、1~3の整数を示し、pは、1又は2を示す。それぞれ複数存在する場合のR1C~R11C、m、及びpは、各々独立しており、同じであっても異なっていてもよい。iは、0~6の整数を示し、jは、0~6の整数を示し、kは、0~6の整数を示し、(i+j+k)は、4~10の整数である。Aは、炭素数1~20の炭化水素基、又は、酸素原子、窒素原子、珪素原子、硫黄原子、及びリン原子からなる群より選ばれる少なくとも1種の原子を有し、活性水素を有しない有機基を表す。
【0102】
前記式(A)で表される変性剤としては、例えば、2,2-ジメトキシ-1-(3-トリメトキシシリルプロピル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2,2-ジエトキシ-1-(3-トリエトキシシリルプロピル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2,2-ジメトキシ-1-(4-トリメトキシシリルブチル)-1-アザ-2-シラシクロヘキサン、2,2-ジメトキシ-1-(5-トリメトキシシリルペンチル)-1-アザ-2-シラシクロヘプタン、2,2-ジメトキシ-1-(3-ジメトキシメチルシリルプロピ
ル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2,2-ジエトキシ-1-(3-ジエトキシエチルシリルプロピル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2-メトキシ-2-メチル-1-(3-トリメトキシシリルプロピル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2-エトキシ-2-エチル-1-(3-トリエトキシシリルプロピル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2-メトキシ-2-メチル-1-(3-ジメトキシメチルシリルプロピル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、2-エトキシ-2-エチル-1-(3-ジエトキシエチルシリルプロピル)-1-アザ-2-シラシクロペンタンが挙げられる。これらの中でも、変性剤の官能基と活物質との反応性及び相互作用性の観点、並びに加工性の観点から、mが2、nが3を示すものが好ましい。具体的には、2,2-ジメトキシ-1-(3-トリメトキシシリルプロピル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン、及び2,2-ジエトキシ-1-(3-トリエトキシシリルプロピル)-1-アザ-2-シラシクロペンタンが好ましい。
【0103】
前記式(A)で表される変性剤を、重合活性末端に反応させる際の、反応温度、反応時間等については、特に限定されないが、0℃以上120℃以下で、30秒以上反応させることが好ましい。
【0104】
前記式(A)で表される変性剤のシリル基に結合したアルコキシ基の合計モル数が、重合開始剤のアルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物の添加モル数の0.6倍以上3.0倍以下となる範囲であることが好ましく、0.8倍以上2.5倍以下となる範囲であることがより好ましく、0.8倍以上2.0倍以下となる範囲であることが特に好ましい。得られる変性共役ジエン系重合体が十分な変性率及び分子量と分岐構造を得る観点から、0.6倍以上とすることが好ましい。加工性改良のために重合体末端同士をカップリングさせ分岐状重合体成分を得ることが好ましいことに加え、変性剤コストの観点から、3.0倍以下とすることが好ましい。より具体的な重合開始剤のモル数は、変性剤のモル数に対して、好ましくは3.0倍モル以上、より好ましくは4.0倍モル以上である。
【0105】
前記式(B)で表される変性剤としては、例えば、トリス(3-トリメトキシシリルプロピル)アミン、トリス(3-メチルジメトキシシリルプロピル)アミン、トリス(3-トリエトキシシリルプロピル)アミン、トリス(3-トリプロポキシシリルプロピル)アミン、トリス(3-メチルジエトキシシリルプロピル)アミン、トリス(トリメトキシシリルメチル)アミン、トリス(2-トリメトキシシリルエチル)アミン、及びトリス(4-トリメトキシシリルブチル)アミンが挙げられる。
これらの中でも、変性剤の官能基と活物質との反応性及び相互作用性の観点、並びに加工性の観点から、n、m、及びlが全て3を示すものであることが好ましい。好ましい具体例としては、トリス(3-トリメトキシシリルプロピル)アミン、及びトリス(3-トリエトキシシリルプロピル)アミンが挙げられる。
【0106】
前記式(B)で表される変性剤を、重合活性末端に反応させる際の、反応温度、反応時間等については、特に限定されないが、0℃以上120℃以下で、30秒以上反応させることが好ましい。前記式(B)で表される変性剤のシリル基に結合したアルコキシ基の合計モル数が、上述した重合開始剤を構成するリチウムのモル数の0.6倍以上3.0倍以下となる範囲であることが好ましく、0.8倍以上2.5倍以下となる範囲であることがより好ましく、0.8倍以上2.0倍以下となる範囲であることが特に好ましい。変性共役ジエン系重合体において十分な変性率及び分子量と分岐構造とを得る観点から、0.6倍以上とすることが好ましい。加工性改良のために重合体末端同士をカップリングさせ分岐状重合体成分を得ることが好ましいことに加え、変性剤コストの観点から、3.0倍以下とすることが好ましい。より具体的な重合開始剤のモル数は、変性剤のモル数に対して、好ましくは4.0倍モル以上、より好ましくは5.0倍モル以上である。
【0107】
前記式(C)において、Aは、好ましくは下記一般式(I)~(IV)のいずれかで表される。
【0108】
【化15】
【0109】
式(I)中、Bは、単結合又は炭素数1~20の炭化水素基を示し、aは、1~10の整数を示す。複数存在する場合のBは、各々独立している。
【0110】
【化16】
【0111】
式(II)中、Bは、単結合又は炭素数1~20の炭化水素基を示し、Bは、炭素数1~20のアルキル基を示し、aは、1~10の整数を示す。それぞれ複数存在する場合のB及びBは、各々独立している。
【0112】
【化17】
【0113】
式(III)中、Bは、単結合又は炭素数1~20の炭化水素基を示し、aは、1~10の整数を示す。複数存在する場合のBは、各々独立している。
【0114】
【化18】
【0115】
式(IV)中、Bは、単結合又は炭素数1~20の炭化水素基を示し、aは、1~10の整数を示す。複数存在する場合のBは、各々独立している。
【0116】
前記式(C)において、Aが式(I)で表される場合の変性剤としては、例えば、トリス(3-トリメトキシシリルプロピル)アミン、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル
)-[3-(2,2-ジメトキシ-1-アザ-2-シラシクロペンタン)プロピル]アミン、ビス[3-(2,2-ジメトキシ-1-アザ-2-シラシクロペンタン)プロピル]-(3-トリメトキシシリルプロピル)アミン、トリス[3-(2,2-ジメトキシ-1-アザ-2-シラシクロペンタン)プロピル]アミン、トリス(3-エトキシシリルプロピル)アミン、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)-[3-(2,2-ジエトキシ-1-アザ-2-シラシクロペンタン)プロピル]アミン、ビス[3-(2,2-ジエトキシ-1-アザ-2-シラシクロペンタン)プロピル]-(3-トリエトキシシリルプロピル)アミン、トリス[3-(2,2-ジエトキシ-1-アザ-2-シラシクロペンタン)プロピル]アミン、テトラキス(3-トリメトキシシリルプロピル)-1,3-プロパンジアミン、トリス(3-トリメトキシシリルプロピル)-[3-(2,2-ジメトキシ-1-アザ-2-シラシクロペンタン)プロピル]-1,3-プロパンジアミン、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)-ビス[3-(2,2-ジメトキシ-1-アザ-2-シラシクロペンタン)プロピル]-1,3-プロパンジアミン、トリス[3-(2,2-ジメトキシ-1-アザ-2-シラシクロペンタン)プロピル]-(3-トリメトキシシリルプロピル)-1,3-プロパンジアミン、テトラキス[3-(2,2-ジメトキシ-1-アザ-2-シラシクロペンタン)プロピル]-1,3-プロパンジアミン、トリス(3-トリメトキシシリルプロピル)-[3-(1-メトキシ-2-トリメチルシリル-1-シラ-2-アザシクロペンタン)プロピル]-1,3-プロパンジアミン、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)-[3-(2,2-ジメトキシ-1-アザ-2-シラシクロペンタン)プロピル]-[3-(1-メトキシ-2-トリメチルシリル-1-シラ-2-アザシクロペンタン)プロピル]-1,3-プロパンジアミン、ビス[3-(2,2-ジメトキシ-1-アザ-2-シラシクロペンタン)プロピル]-(3-トリメトキシシリルプロピル)-[3-(1-メトキシ-2-トリメチルシリル-1-シラ-2-アザシクロペンタン)プロピル]-1,3-プロパンジアミン、トリス[3-(2,2-ジメトキシ-1-アザ-2-シラシクロペンタン)プロピル]-[3-(1-メトキシ-2-トリメチルシリル-1-シラ-2-アザシクロペンタン)プロピル]-1,3-プロパンジアミン、テトラキス(3-トリエトキシシリルプロピル)-1,3-プロパンジアミン、トリス(3-トリエトキシシリルプロピル)-[3-(2,2-ジエトキシ-1-アザ-2-シラシクロペンタン)プロピル]-1,3-プロパンジアミン、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)-ビス[3-(2,2-ジエトキシ-1-アザ-2-シラシクロペンタン)プロピル]-1,3-プロパンジアミン、トリス[3-(2,2-ジエトキシ-1-アザ-2-シラシクロペンタン)プロピル]-(3-トリエトキシシリルプロピル)-1,3-プロパンジアミン、テトラキス[3-(2,2-ジエトキシ-1-アザ-2-シラシクロペンタン)プロピル]-1,3-プロパンジアミン、トリス(3-トリエトキシシリルプロピル)-[3-(1-エトキシ-2-トリメチルシリル-1-シラ-2-アザシクロペンタン)プロピル]-1,3-プロパンジアミン、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)-[3-(2,2-ジエトキシ-1-アザ-2-シラシクロペンタン)プロピル]-[3-(1-エトキシ-2-トリメチルシリル-1-シラ-2-アザシクロペンタン)プロピル]-1,3-プロパンジアミン、ビス[3-(2,2-ジエトキシ-1-アザ-2-シラシクロペンタン)プロピル]-(3-トリエトキシシリルプロピル)-[3-(1-エトキシ-2-トリメチルシリル-1-シラ-2-アザシクロペンタン)プロピル]-1,3-プロパンジアミン、トリス[3-(2,2-ジエトキシ-1-アザ-2-シラシクロペンタン)プロピル]-[3-(1-エトキシ-2-トリメチルシリル-1-シラ-2-アザシクロペンタン)プロピル]-1,3-プロパンジアミン、テトラキス(3-トリメトキシシリルプロピル)-1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン、トリス(3-トリメトキシシリルプロピル)-[3-(2,2-ジメトキシ-1-アザ-2-シラシクロペンタン)プロピル]-1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)-ビス[3-(2,2-ジメトキシ-1-アザ-2-シラシクロペンタン)プロピル]-1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン、トリス[3-(2,2-ジメトキシ-1-アザ-2-シラシクロペンタン)プロピル]-(3-トリメ
トキシシリルプロピル)-1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン、トリス(3-トリメトキシシリルプロピル)-[3-(1-メトキシ-2-トリメチルシリル-1-シラ-2-アザシクロペンタン)プロピル]-1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)-[3-(2,2-ジメトキシ-1-アザ-2-シラシクロペンタン)プロピル]-[3-(1-メトキシ-2-トリメチルシリル-1-シラ-2-アザシクロペンタン)プロピル]-1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン、ビス[3-(2,2-ジメトキシ-1-アザ-2-シラシクロペンタン)プロピル]-(3-トリメトキシシリルプロピル)-[3-(1-メトキシ-2-トリメチルシリル-1-シラ-2-アザシクロペンタン)プロピル]-1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン、トリス[3-(2,2-ジメトキシ-1-アザ-2-シラシクロペンタン)プロピル]-[3-(1-メトキシ-2-トリメチルシリル-1-シラ-2-アザシクロペンタン)プロピル]-1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン、テトラキス(3-トリエトキシシリルプロピル)-1,3-プロパンジアミン、トリス(3-トリエトキシシリルプロピル)-[3-(2,2-ジエトキシ-1-アザ-2-シラシクロペンタン)プロピル]-1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)-ビス[3-(2,2-ジエトキシ-1-アザ-2-シラシクロペンタン)プロピル]-1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン、トリス[3-(2,2-ジエトキシ-1-アザ-2-シラシクロペンタン)プロピル]-(3-トリエトキシシリルプロピル)-1,3-プロパンジアミン、テトラキス[3-(2,2-ジエトキシ-1-アザ-2-シラシクロペンタン)プロピル]-1,3-プロパンジアミン、トリス(3-トリエトキシシリルプロピル)-[3-(1-エトキシ-2-トリメチルシリル-1-シラ-2-アザシクロペンタン)プロピル]-1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)-[3-(2,2-ジエトキシ-1-アザ-2-シラシクロペンタン)プロピル]-[3-(1-エトキシ-2-トリメチルシリル-1-シラ-2-アザシクロペンタン)プロピル]-1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン、ビス[3-(2,2-ジエトキシ-1-アザ-2-シラシクロペンタン)プロピル]-(3-トリエトキシシリルプロピル)-[3-(1-エトキシ-2-トリメチルシリル-1-シラ-2-アザシクロペンタン)プロピル]-1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン、トリス[3-(2,2-ジエトキシ-1-アザ-2-シラシクロペンタン)プロピル]-[3-(1-エトキシ-2-トリメチルシリル-1-シラ-2-アザシクロペンタン)プロピル]-1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン、テトラキス(3-トリメトキシシリルプロピル)-1,6-ヘキサメチレンジアミン、及びペンタキス(3-トリメトキシシリルプロピル)-ジエチレントリアミンが挙げられる。
【0117】
前記式(C)において、Aが式(II)で表される場合の変性剤としては、例えば、トリス(3-トリメトキシシリルプロピル)-メチル-1,3-プロパンジアミン、ビス(2-トリメトキシシリルプロピル)-[3-(2,2-ジメトキシ-1-アザ-2-シラシクロペンタン)プロピル]-メチル-1,3-プロパンジアミン、ビス[3-(2,2-ジメトキシ-1-アザ-2-シラシクロペンタン)プロピル]-(3-トリメトキシシリルプロピル)-メチル-1,3-プロパンジアミン、トリス(3-トリエトキシシリルプロピル)-メチル-1,3-プロパンジアミン、ビス(2-トリエトキシシリルプロピル)-[3-(2,2-ジエトキシ-1-アザ-2-シラシクロペンタン)プロピル]-メチル-1,3-プロパンジアミン、ビス[3-(2,2-ジエトキシ-1-アザ-2-シラシクロペンタン)プロピル]-(3-トリエトキシシリルプロピル)-メチル-1,3-プロパンジアミン、N1,N1'-(プロパン-1,3-ジイル)ビス(N1-メチル-N3,N3-ビス(3-(トリメトキシシリル)プロピル)-1,3-プロパンジアミン)、及びN1-(3-(ビス(3-(トリメトキシシリル)プロピル)アミノ)プロピル)-N1-メチル-N3-(3-(メチル(3-(トリメトキシシリル)プロピル)アミノ)プロピル)-N3-(3-(トリメトキシシリル)プロピル)-1,3-プロパンジアミンが挙げられる。
【0118】
前記式(C)において、Aが式(III)で表される場合の変性剤としては、例えば、テトラキス[3-(2,2-ジメトキシ-1-アザ-2-シラシクロペンタン)プロピル]シラン、トリス[3-(2,2-ジメトキシ-1-アザ-2-シラシクロペンタン)プロピル]-(3-トリメトキシシリルプロピル)シラン、トリス[3-(2,2-ジメトキシ-1-アザ-2-シラシクロペンタン)プロピル]-[3-(1-メトキシ-2-トリメチルシリル-1-シラ-2-アザシクロペンタン)プロピル]シラン、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)-ビス[3-(2,2-ジメトキシ-1-アザ-2-シラシクロペンタン)プロピル]シラン、(3-トリメトキシシリル)-[3-(1-メトキシ-2-トリメチルシリル-1-シラ-2-アザシクロペンタン)-ビス[3-(2,2-ジメトキシ-1-アザ-2-シラシクロペンタン)プロピル]シラン、ビス[3-(1-メトキシ-2-トリメチルシリル-1-シラ-2-アザシクロペンタン)-ビス[3-(2,2-ジメトキシ-1-アザ-2-シラシクロペンタン)プロピル]シラン、トリス(3-トリメトキシシリルプロピル)-[3-(2,2-ジメトキシ-1-アザ-2-シラシクロペンタン)プロピル]シラン、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)-[3-(1-メトキシ-2-トリメチルシリル-1-シラ-2-アザシクロペンタン)プロピル]-[3-(2,2-ジメトキシ-1-アザ-2-シラシクロペンタン)プロピル]シラン、ビス[3-(1-メトキシ-2-トリメチルシリル-1-シラ-2-アザシクロペンタン)プロピル]-ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)シラン、及びビス(3-トリメトキシシリルプロピル)-ビス[3-(1-メトキシ-2-メチル-1-シラ-2-アザシクロペンタン)プロピル]シランが挙げられる。
【0119】
前記式(C)において、Aが式(IV)で表される場合の変性剤としては、例えば、3-トリス[2-(2,2-ジメトキシ-1-アザ-2-シラシクロペンタン)エトキシ]シリル-1-(2,2-ジメトキシ-1-アザ-2-シラシクロペンタン)プロパン、及び3-トリス[2-(2,2-ジメトキシ-1-アザ-2-シラシクロペンタン)エトキシ]シリル-1-トリメトキシシリルプロパンが挙げられる。
【0120】
前記式(C)において、Aは、好ましくは式(I)又は式(II)で表され、kは、0を示す。このような変性剤は、入手が容易である傾向にあり、また、共役ジエン系重合体(A)を加硫物としたときにおける耐摩耗性及び低ヒステリシスロス性能がより優れるものとなる傾向にある。このような変性剤としては、例えば、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)-[3-(2,2-ジメトキシ-1-アザ-2-シラシクロペンタン)プロピル]アミン、トリス(3-トリメトキシシリルプロピル)アミン、トリス(3-トリエトキシシリルプロピル)アミン、トリス(3-トリメトキシシリルプロピル)-[3-(2,2-ジメトキシ-1-アザ-2-シラシクロペンタン)プロピル]-1,3-プロパンジアミン、テトラキス[3-(2,2-ジメトキシ-1-アザ-2-シラシクロペンタン)プロピル]-1,3-プロパンジアミン、テトラキス(3-トリメトキシシリルプロピル)-1,3-プロパンジアミン、テトラキス(3-トリメトキシシリルプロピル)-1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン、トリス(3-トリメトキシシリルプロピル)-メチル-1,3-プロパンジアミン、及びビス[3-(2,2-ジメトキシ-1-アザ-2-シラシクロペンタン)プロピル]-(3-トリスメトキシシリルプロピル)-メチル-1,3-プロパンジアミンが挙げられる。
【0121】
前記式(C)において、Aが、より好ましくは式(I)又は式(II)で表され、kは、0を示し、式(I)又は式(II)において、aは、2~10の整数を示す。これにより、加硫したときにおける耐摩耗性及び低ヒステリシスロス性能がより優れるものとなる傾向にある。このような変性剤としては、例えば、テトラキス[3-(2,2-ジメトキシ-1-アザ-2-シラシクロペンタン)プロピル]-1,3-プロパンジアミン、テトラキス(3-トリメトキシシリルプロピル)-1,3-プロパンジアミン、テトラキス(
3-トリメトキシシリルプロピル)-1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン、及びN1-(3-(ビス(3-(トリメトキシシリル)プロピル)アミノ)プロピル)-N1-メチル-N3-(3-(メチル(3-(トリメトキシシリル)プロピル)アミノ)プロピル)-N3-(3-(トリメトキシシリル)プロピル)-1,3-プロパンジアミンが挙げられる。
【0122】
前記式(C)で表される変性剤の添加量は、共役ジエン系重合体(A)のモル数対変性剤のモル数が、所望の化学量論的比率となるように、共役ジエン系重合体(A)に変性剤を反応させるよう調整することができる。これにより所望の星形高分岐構造が達成される傾向にある。具体的な共役ジエン系重合体(A)のモル数は、変性剤のモル数に対して、好ましくは5.0倍モル以上、より好ましくは6.0倍モル以上である。この場合、式(C)において、変性剤の官能基数((m-1)×i+p×j+k)は、5~10の整数であることが好ましく、6~10の整数であることがより好ましい。
【0123】
[化合物M]
変性剤としては、基「-CR=N-A」及び/又は基「-N=C(R)-A」(以下、これらの基を「特定イミノ基」ともいう。)を、合計2個以上有する化合物Mを含むことも好ましい。ただし、Rは水素原子又はヒドロカルビル基であり、Aはアルコキシシリル基を有する1価の基である。変性剤として化合物Mを使用することにより、重合体鎖の分岐数が多く、かつ、活物質と相互作用する基で変性された変性共役ジエン系重合体を得ることができる。
【0124】
特定イミノ基において、Rのヒドロカルビル基としては、例えば、炭素数1~20のアルキル基、炭素数3~20のシクロアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、炭素数6~20のアリール基等が挙げられる。Aは、アルコキシシリル基を有していればその余の構造は特に限定されないが、メチレン基又はポリメチレン基をさらに有する基であることが好ましく、メチレン基又はポリメチレン基とアルコキシシリル基とを有し、かつメチレン基又はポリメチレン基で、炭素-窒素二重結合を構成する窒素原子又は炭素原子に結合していることがより好ましい。化合物Mが有する特定イミノ基の数は2個以上であればよく、2~6個が好ましい。なお、化合物Mが有する複数のR、Aは同一でも異なっていてもよい。
【0125】
化合物Mとしては、下記式(D)で表される化合物が好ましい。
【0126】
【化19】
【0127】
式(D)中、R1D及びR2Dは、それぞれ独立して、炭素数1~20のヒドロカルビル基であり、R3Dは、炭素数1~20のアルカンジイル基であり、Aは、基「*-C(R)=N-」、又は基「*-N=C(R)-」(ただし、R1Dは水素原子又はヒドロカルビル基であり、「*」はR4Dに結合する結合手であることを示す。)である。R4Dは、炭素数1~20のm価のヒドロカルビル基、又は窒素原子、酸素原子及び硫黄原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子を有し、かつ活性水素を有さない炭素数1~20のm価の基である。nは1~3の整数であり、mは2~10の整数である。式(D)中、複数のR1D、R2D、R3D、A、nは、同一でも異なっていてもよい。
【0128】
上記式(D)において、R1D、R2Dの炭素数1~20のヒドロカルビル基としては、例えば、炭素数1~20のアルキル基、アリル基、炭素数3~20のシクロアルキル基、炭素数6~20のアリール基等が挙げられる。R3Dは、炭素数1~20のアルカンジイル基であり、例えば、炭素数3~20のシクロアルキレン基、炭素数6~20のアリーレン基等が挙げられる。R3Dは、好ましくは直鎖状である。
【0129】
が有するRについては、上記の「特定イミノ基」における説明が適用される。nは、シリカ分散性の改善効果が高い観点で、2又は3が好ましく、3がより好ましい。R4Dのm価のヒドロカルビル基としては、炭素数1~20の鎖状炭化水素、炭素数3~20の脂環式炭化水素又は炭素数6~20の芳香族炭化水素からm個の水素原子を取り除いた基等が挙げられる。好ましくは、芳香族炭化水素の環部分からm個の水素原子を取り除いた基(芳香族環基)である。当該芳香族炭化水素としては、例えば、下記式(V)で表される環構造、当該環構造が2個以上連結してなる多環構造(例えばビフェニル基等)が挙げられる。
【0130】
【化20】
(式(V)中、rは0~5の整数である。)
【0131】
前記式(D)中、R4Dが、窒素原子、酸素原子及び硫黄原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子を有し、かつ活性水素を有さない炭素数1~20のm価の基である場合の好ましい具体例としては、m価の複素環基、3級アミン構造を有するm価の基等が挙げられる。複素環基は、共役系であることが好ましく、例えばピリジン、ピリミジン、ピラジン、キノリン、ナフタリジン、フラン、チオフェン等の単環若しくは縮合環、又は当該単環若しくは縮合環が複数個連結してなる構造の環部分からm個の水素原子を取り除いた基等が挙げられる。mは、2~10の整数であり、2~6が好ましい。なお、本明細書において「活性水素」とは、炭素原子以外の原子に結合した水素原子をいい、好ましくはポリメチレンの炭素-水素結合よりも結合エネルギーが低いものを指す。
【0132】
反応工程で用いる化合物Mの具体例としては、下記式(M-1)~下記式(M-23)で表される化合物等が挙げられる。化合物[M]は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。なお、式(M-11)中のRは水素原子又はアルキル基を表す。
【0133】
【化21】
【0134】
【化22】
【0135】
【化23】
【0136】
【化24】
【0137】
前記式(M-1)~(M-23)中、Etはエチル基であり、Meはメチル基である。
【0138】
化合物Mは、有機化学の定法を適宜組み合わせることによって合成することができる。例えば、上記式(D)で表される化合物を得る方法の一例としては、(i)アルコキシシリル基及びR3Dを有する単官能アミン化合物(例えば、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルメチルジエトキシシラン等)と、R4Dを有する多官能アルデヒド化合物(例えば、テレフタルアルデヒド、イソフタルアルデヒド、フタルジアルデヒド、2,4-ピリジンジカルボキシアルデヒド等)とを脱水縮合させる方法、(ii)R4Dを有する多官能アミン化合物(例えば、トリス(2-アミノエチル)アミン、N
,N’-ビス(2-アミノエチル)メチルアミン等)と、アルコキシシリル基及びR3Dを有する単官能型の水酸基含有化合物(例えば、4-(トリエトキシシリル)ブタナール等)とを脱水縮合させる方法、等が挙げられる。これらの合成反応は、好ましくは適当な有機溶媒中、必要に応じて適当な触媒の存在下で行われる。ただし、化合物Mの合成方法は上記の方法に限定されるものではない。
【0139】
[その他の変性剤]
上記の変性剤の他、下記式(A-1)~下記式(A-16)で表される化合物(以下、「特定変性剤」ともいう。)、トリス(3-トリメトキシシリルプロピル)-[3-(1-メトキシ-2-メチル-1-シラ-2-アザシクロペンタン)プロピル]-1,3-プロパンジアミン、1-[3-(1-メトキシ-2-トリメチルシリル-1-シラ-2-アザシクロペンタン)プロピル]-3,4,5-トリス(3-トリメトキシシリルプロピル)-シクロヘキサン、1-[3-(2,2-ジメトキシ-1-アザ-2-シラシクロペンタン)プロピル]-3,4,5-トリス(3-トリメトキシシリルプロピル)-シクロヘキサン、3,4,5-トリス(3-トリメトキシシリルプロピル)-シクロヘキシル-[3-(2,2-ジメトキシ-1-アザ-2-シラシクロペンタン)プロピル]エーテル、(3-トリメトキシシリルプロピル)ホスフェイト、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)-[3-(2,2-ジメトキシ-1-アザ-2-シラシクロペンタン)プロピル]ホスフェイト、ビス[3-(2,2-ジメトキシ-1-アザ-2-シラシクロペンタン)プロピル]-(3-トリメトキシシリルプロピル)ホスフェイト、トリス[3-(2,2-ジメトキシ-1-アザ-2-シラシクロペンタン)プロピル]ホスフェイト等を変性剤として使用することができる。
【0140】
【化25】
【0141】
【化26】
【0142】
【化27】
【0143】
前記式(A-1)~(A-16)中、Etはエチル基であり、Meはメチル基である。
【0144】
分岐化工程で得られた活性末端を有する共役ジエン系重合体と、特定変性剤との反応は、例えば溶液反応として行うことができる。特定変性剤の使用割合(2種以上使用する場合にはその合計量)は、カップリング反応を十分に進行させる観点から、重合開始剤が有する重合に関与する金属原子1モルに対して、0.01モル以上とすることが好ましく、0.05モル以上とすることがより好ましい。また、上限値については、過剰な添加を避けるため、重合開始剤が有する重合に関与する金属原子1モルに対して、2.0モル未満とすることが好ましく、1.5モル未満とすることがより好ましい。
【0145】
特定変性剤を用いたカップリング反応の温度は、通常、重合反応と同じであり、-20℃~150℃とすることが好ましく、0~120℃とすることがより好ましい。反応温度が低いと、カップリング反応後の重合体の粘度が上昇する傾向があり、反応温度が高いと重合活性末端が失活しやすくなる。反応時間は、好ましくは1分~5時間であり、より好ましくは2分~1時間である。
【0146】
分岐化工程で得られた活性末端を有する共役ジエン系重合体と、特定変性剤との反応に際しては、特定変性剤と共にその他の変性剤又はカップリング剤を用いてもよい。その他の変性剤又はカップリング剤としては、上記重合工程及び分岐化工程により得られる共役
ジエン系重合体(A)の活性末端と反応し得る化合物であれば特に限定されず、共役ジエン系重合体(A)の変性剤又はカップリング剤として公知の化合物を用いることができる。その他の変性剤又はカップリング剤を使用する場合、その使用割合は、10モル%以下とすることが好ましく、5モル%以下とすることがより好ましい。
【0147】
[その他のシランカップリング剤]
上記化合物の他、下記式(E)で表される3-(オクタノイルチオ)プロピルトリエトキシシラン(以下、「化合物E」ともいう。)をシランカップリング剤として好適に使用することができる。
【0148】
【化28】
【0149】
分岐化工程で得られた活性末端を有する共役ジエン系重合体と、前記化合物Eとの反応は、例えば溶液反応として行うことができる。化合物Eの使用割合(2種以上使用する場合にはその合計量)は、変性反応を十分に進行させる観点から、重合開始剤が有する重合に関与する金属原子1モルに対して、0.01モル以上とすることが好ましく、0.05モル以上とすることがより好ましい。また、上限値については、過剰な添加を避けるため、重合開始剤が有する重合に関与する金属原子1モルに対して、2.0モル未満とすることが好ましく、1.5モル未満とすることがより好ましい。
【0150】
変性反応の温度は、通常、重合反応と同じであり、-20℃~150℃とすることが好ましく、0~120℃とすることがより好ましい。反応温度が低いと、変性後の重合体の粘度が上昇する傾向があり、反応温度が高いと重合活性末端が失活しやすくなる。反応時間は、好ましくは1分~5時間であり、より好ましくは2分~1時間である。
【0151】
分岐化工程で得られた活性末端を有する共役ジエン系重合体(A)と化合物Eとの反応に際しては、化合物Eと共にその他の変性剤又はカップリング剤を用いてもよい。その他の変性剤又はカップリング剤としては、上記重合工程及び分岐化工程により得られる共役ジエン系重合体(A)の活性末端と反応し得る化合物であれば特に限定されず、共役ジエン系重合体の変性剤又はカップリング剤として公知の化合物を用いることができる。その他の変性剤又はカップリング剤を使用する場合、その使用割合は、10モル%以下とすることが好ましく、5モル%以下とすることがより好ましい。
【0152】
上述した重合工程、分岐化工程、及び変性工程を経て得られる、変性共役ジエン系重合体の分岐構造は、好ましくは8分岐以上36分岐以下であり、より好ましくは10分岐以上24分岐以下であり、特に好ましくは12分岐以上22分岐以下である。また、変性共役ジエン系重合体中の分岐点の総数は2カ所以上が好ましく、3カ所以上がより好ましく、4カ所以上がよりさらに好ましく、5カ所以上が特に好ましい。
【0153】
変性共役ジエン系重合体の分岐構造が8分岐以上36分岐以下の場合、分岐点の総数が2カ所以上15カ所以下であるものを構築するためには、分岐化剤のモル比が重合開始剤の2分の1以下であり100分の1以上であり、変性剤の官能基数が3官能以上を使用す
る必要がある。分岐構造が8分岐以上36分岐以下であり、分岐点の総数が3カ所以上12カ所以下であるものを構築するためには、分岐化剤のモル比が重合開始剤の3分の1以下であり50分の1以上であり、変性剤の官能基数が4官能以上であるものを使用することが好ましい。分岐構造が10分岐以上24分岐以下であり、分岐点の総数は4カ所以上10カ所以下を構築するためには、分岐化剤のモル比が重合開始剤の6分の1以下であり25分の1以上であり、変性剤の官能基数が5官能以上であるものを使用するのが好ましい。分岐構造が12分岐以上20分岐以下であり、分岐点の総数が5カ所以上9カ所以下であるものを構築するためには、分岐化剤のモル比が重合開始剤の8分の1以下であり12分の1以上であり、変性剤の官能基数が6官能以上であるものを使用することが好ましい。
【0154】
<縮合変性工程>
上述した反応工程後、又は反応工程前に、縮合促進剤の存在下で縮合反応させる縮合変性工程を行ってもよい。
【0155】
<水素化工程>
共役ジエン系重合体(A)の共役ジエン部を水素化する水素化工程を実施してもよい。共役ジエン系重合体(A)の共役ジエン部を水素化する方法は、特に限定されず、公知の方法が利用できる。好適な水素化の方法としては、触媒の存在下、重合体溶液に気体状水素を吹き込む方法で水素化する方法が挙げられる。触媒としては、特に限定されないが、例えば、貴金属を多孔質無機物質に担持させた触媒等の不均一系触媒;ニッケル、コバルト等の塩を可溶化し有機アルミニウム等と反応させた触媒、チタノセン等のメタロセンを用いた触媒等の均一系触媒が挙げられる。これら中でも、マイルドな水素化条件を選択できる観点から、チタノセン触媒が好ましい。また、芳香族基の水素化は、貴金属の担持触媒を用いることによって行うことができる。
【0156】
水素化触媒としては、以下のものに限定されないが、例えば、(1)Ni,Pt,Pd,Ru等の金属をカーボン、シリカ、アルミナ、ケイソウ土等に担持させた担持型不均一系水添触媒、(2)Ni,Co,Fe,Cr等の有機酸塩又はアセチルアセトン塩等の遷移金属塩と有機アルミニウム等の還元剤とを用いる、いわゆるチーグラー型水添触媒、(3)Ti,Ru,Rh,Zr等の有機金属化合物等のいわゆる有機金属錯体等が挙げられる。さらに、水素化触媒として、特に限定されないが、例えば、特公昭42-8704号公報、特公昭43-6636号公報、特公昭63-4841号公報、特公平1-37970号公報、特公平1-53851号公報、特公平2-9041号公報、特開平8-109219号公報に記載された公知の水素化触媒も挙げられる。好ましい水素化触媒としては、チタノセン化合物と還元性有機金属化合物との反応混合物が挙げられる。
【0157】
<失活剤、中和剤の添加工程>
上述した反応工程の後、重合体溶液に、必要に応じて、失活剤、中和剤等を添加してもよい。失活剤としては、以下のものに限定されないが、例えば、水;メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール等が挙げられる。中和剤としては、以下のものに限定されないが、例えば、ステアリン酸、オレイン酸、バーサチック酸(炭素数9~11個で、10個を中心とする、分岐の多いカルボン酸混合物)等のカルボン酸;無機酸の水溶液、炭酸ガスが挙げられる。
【0158】
<安定剤の添加工程>
重合後のゲル生成を防止する観点から、安定剤を添加してもよい。安定剤としては、以下のものに限定されず、公知のものを用いることができるが、例えば、2,6-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシトルエン(以下「BHT」とも記す。)、n-オクタデシル-3-(4’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-tert-ブチルフェノール)プロピネ
ート、2-メチル-4,6-ビス[(オクチルチオ)メチル]フェノール等の酸化防止剤が好ましい。
【0159】
1.1.3.共役ジエン系重合体(A)の物性
<1,2-ビニル結合含有量>
共役ジエン系重合体(A)において、共役ジエン結合単位中の1,2-ビニル結合含有量は、10~75モル%であることが好ましく、20~65モル%であることがより好ましく、35~60モル%であることが特に好ましい。1,2-ビニル結合含有量が上記範囲であると、良好な充放電耐久特性を示す傾向にある。なお、本明細書において「1,2-ビニル結合含有量」とは、共役ジエン系重合体中において、ブタジエンの全構造単位に対する、1,2-結合を有する構造単位の含有割合を示す値である。ここで、共役ジエン系重合体(A)がブタジエンとスチレンとの共重合体である場合には、ハンプトンの方法(R.R.Hampton,AnalyticalChemistry,21,923(1949))により、ブタジエン結合単位中のビニル結合量(1,2-結合量)を求めることができる。具体的には、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
【0160】
<結合スチレン含量>
共役ジエン系重合体(A)中における芳香族ビニル化合物に由来する繰り返し単位の割合(本明細書において、「結合スチレン含量」ともいう。)は、重合に使用する共役ジエン化合物及び芳香族ビニル化合物の合計量に対して、5~50%とすることが好ましく、7~45%とすることがより好ましい。なお、結合スチレン含量は、H-NMRによって測定した値である。
【0161】
<重量平均分子量(Mw)>
共役ジエン系重合体(A)の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは1.0×10~2.0×10であり、より好ましくは3.0×10~1.5×10であり、特に好ましくは5.0×10~1.2×10である。重量平均分子量(Mw)が上記下限値以上であると、電極の密着性が向上しやすい傾向にある。重量平均分子量(Mw)が上記上限値以下であると、電極の柔軟性が保たれる傾向にある。なお、本明細書において、「重量平均分子量(Mw)」とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算の重量平均分子量のことをいう。
【0162】
<数平均分子量(Mn)>
共役ジエン系重合体(A)の数平均分子量(Mn)は、1.0×10~1.0×10であり、より好ましくは1.5×10~8.0×10であり、特に好ましくは2.0×10~6.0×10である。数平均分子量(Mn)が上記下限値以上であると、電極の密着性が向上しやすい傾向にある。数平均分子量(Mn)が上記上限値以下であると、電極の柔軟性が保たれる傾向にある。なお、本明細書において、「数平均分子量(Mn)」とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算の数平均分子量のことをいう。
【0163】
<Mw/Mn>
共役ジエン系重合体(A)の数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比(Mw/Mn)は、好ましくは3.0以下であり、より好ましくは1.0以上2.5以下であり、特に好ましくは1.1以上2.3以下である。Mw/Mnの値が前記範囲にあると、引張特性及び粘弾性特性に優れ、各物性のバランスに優れる傾向にある。
【0164】
2.全固体二次電池用バインダー組成物
本発明の一実施形態に係る全固体二次電池用バインダー組成物は、上述の全固体二次電池用バインダーと、液状媒体(B)とを含有する。以下、本実施形態に係る全固体二次電
池用バインダー組成物に含まれる各成分について詳細に説明する。なお、全固体二次電池用バインダーについては、上述したので詳細な説明を省略する。
【0165】
2.1.液状媒体(B)
液状媒体(B)としては、特に限定されないが、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン等の脂肪族炭化水素;シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、シクロデカン等の脂環式炭化水素;トルエン、キシレン、メシチレン、ナフタレン、テトラリン等の芳香族炭化水素;3-ペンタノン、4-ヘプタノン、メチルヘキシルケトン、ジイソブチルケトン等のケトン類;酢酸ブチル、酪酸ブチル、ブタン酸メチル、ペンタン酸ブチル、ヘキサン酸ブチル、酪酸ペンチル、ペンタン酸ペンチル、ヘキサン酸ペンチル、酪酸ヘキシル、ペンタン酸ヘキシル、ヘキサン酸ヘキシル等のエステル類;ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、アニソール等のエーテル類などの有機溶媒を用いることができる。これらの有機溶媒は、1種単独であるいは2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0166】
液状媒体(B)の含有割合は、共役ジエン系重合体(A)100質量部に対して、好ましくは100~10,000質量部であり、より好ましくは150~5,000質量部であり、さらに好ましくは200~4,000質量部であり、特に好ましくは300~3,000質量部である。液状媒体(B)の含有割合を前記範囲内とすることで、全固体二次電池用バインダー組成物及びこれから得られる全固体二次電池用スラリーを用いる際の作業性を向上させることができる。
【0167】
本実施形態に係る全固体二次電池用バインダー組成物において、共役ジエン系重合体(A)は、液状媒体(B)に溶解した状態であることが好ましい。「共役ジエン系重合体(A)が液状媒体(B)に溶解する」とは、共役ジエン系重合体(A)の液状媒体(B)に対する溶解度が、液状媒体(B)100gに対し1g以上であることを意味する。共役ジエン系重合体(A)が液状媒体(B)に溶解した状態であることにより、柔軟性や密着性に優れる共役ジエン系重合体(A)によって活物質の表面がコーティングされやすくなるので、充放電時における活物質の伸縮による脱落を効果的に抑制でき、良好な充放電耐久特性を示す全固体二次電池が得られやすい。また、スラリーの安定性が良好となり、スラリーの集電体への塗布性も良好となるため好ましい。
【0168】
2.2.その他の添加剤
本実施形態に係る全固体二次電池用バインダー組成物は、必要に応じて、老化防止剤、増粘剤等の添加剤を含有してもよい。
【0169】
<老化防止剤>
老化防止剤としては、例えば、フェノール系老化防止剤、アミン系老化防止剤、キノン系老化防止剤、リン系老化防止剤、硫黄系老化防止剤、フェノチアジン系老化防止剤などが挙げられる。これらの中でも、フェノール系老化防止剤、アミン系老化防止剤が好ましい。これらの老化防止剤は、1種単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0170】
フェノール系老化防止剤としては、例えば、p-メトキシフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール、フェノール、ヒドロキノン、p-クレゾール、ブチルヒドロキシアニソール、没食子酸プロピル、クロロゲン酸、カテキン、カフェ酸、ゲンクワニン、ルテオリン、トコフェロール、カテコール、レゾルシノール、1,4-ジヒドロキシナフタレン、1,5-ジヒドロキシナフタレン、ピロガロール、4,4’-ブチリデンビス(6-tert-ブチル-m-クレゾール)、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(6-tert-ブチ
ル-4-エチルフェノール)、4,4’-チオビス(6-tert-ブチル-m-クレゾール)、2,5-ジ-tert-アミルヒドロキノン、スチレン化フェノール、2,5-ジ-tert-ブチルヒドロキノン、2-メチル-4,6-ビス[(n-オクチルチオ)メチル]フェノール、2,4-ビス(ドデシルチオメチル)-6-メチルフェノール、2-tert-ブチル-6-(3-tert-ブチル-2-ヒドロキシ-5-メチルベンジル)-4-メチルフェニル=アクリレート、2-[1-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ペンチルフェニル)エチル]-4,6-ジ-tert-ペンチルフェニル=アクリレートが挙げられる。
【0171】
アミン系老化防止剤としては、例えば、1-ナフチルアミン、2-ナフチルアミン、フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、4,4’-ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、N-イソプロピル-N’-フェニルベンゼン-1,4-ジアミン、N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-1,4-フェニレンジアミン、2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体、6-エトキシ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン等の芳香族アミンが挙げられる。また、アミン系老化防止剤としては、光安定化剤(HALS)、ヒンダードアミン化合物、ニトロキシルラジカル(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル(TEMPO))等も好適に用いることができる。
【0172】
リン系老化防止剤としては、ホスファイト化合物が挙げられる。硫黄系老化防止剤としては、チオール化合物やペンタエリスリチルテトラキス(3-ラウリルチオプロピオネート)などのスルフィド化合物を用いることができる。
【0173】
本実施形態に係る全固体二次電池用バインダー組成物が老化防止剤を含有する場合、老化防止剤の含有割合は、全固体二次電池用バインダー組成物の全固形分量100質量部に対して、0.05~2質量部であることが好ましく、0.1~1質量部であることがより好ましく、0.2~0.8質量部であることが特に好ましい。
【0174】
<増粘剤>
本実施形態に係る全固体二次電池用バインダー組成物が増粘剤を含有することにより、その塗布性や得られる全固体二次電池の充放電特性を更に向上できる場合がある。
【0175】
増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース系ポリマー;ポリ(メタ)アクリル酸;前記セルロース化合物又は前記ポリ(メタ)アクリル酸のアンモニウム塩もしくはアルカリ金属塩;変性ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド;ポリビニルピロリドン、ポリカルボン酸、酸化スターチ、リン酸スターチ、カゼイン、各種変性デンプン、キチン、キトサン誘導体などが挙げられる。これらの中でも、セルロース系ポリマーが好ましい。
【0176】
本実施形態に係る全固体二次電池用バインダー組成物が増粘剤を含有する場合、増粘剤の含有割合は、全固体二次電池用バインダー組成物の全固形分量100質量部に対して、5質量部以下であることが好ましく、0.1~3質量部であることがより好ましい。
【0177】
2.3.全固体二次電池用バインダー組成物の調製方法
本実施形態に係る全固体二次電池用バインダー組成物は、共役ジエン系重合体(A)に液状媒体(B)を加え、必要に応じてその他の添加剤を更に加え、適宜撹拌を行って共役ジエン系重合体(A)を液状媒体(B)中に溶解又は分散させる方法により調製することができる。
【0178】
本実施形態に係る全固体二次電池用バインダー組成物は、電極の集電体に対してだけでなく、固体電解質材料に対しても高い密着性を有するバインダーを形成することができる。また、本実施形態に係る全固体二次電池用バインダー組成物は、使用量を低減して固体電解質層の導電性を向上させることができるので、全固体型電池用として好適に用いることができる。
【0179】
本実施形態に係る全固体二次電池用バインダー組成物の調製方法においては、当該バインダー組成物中の粒子状の金属成分を除去する工程(以下、「粒子状金属除去工程」ともいう。)を含んでいてもよい。粒子状金属除去工程において、「粒子状の金属成分」とは、当該バインダー組成物中に粒子状で存在しているものを指し、溶解して金属イオン状態で存在しているものは含まれない。
【0180】
粒子状金属除去工程における、全固体二次電池用バインダー組成物から粒子状の金属成分を除去する方法は特に限定されず、例えば、フィルターを用いた濾過により除去する方法、振動ふるいにより除去する方法、遠心分離により除去する方法、磁力により除去する方法等が挙げられる。中でも、除去対象が金属成分であるため磁力により除去する方法が好ましい。
【0181】
磁力により除去する方法としては、金属成分が除去できる方法であれば特に限定されないが、生産性及び除去効率を考慮すると、全固体二次電池用バインダー組成物の製造ライン中に、磁気フィルターを配置して、重合体溶液を通過させることにより除去する方法が好ましい。
【0182】
磁気フィルターによって重合体溶液中から粒子状金属成分を除去する工程は、100ガウス以上の磁束密度以上の磁場を形成する磁気フィルターを通過させることにより行われることが好ましい。磁束密度が低いと金属成分の除去効率が低下するため、好ましくは1000ガウス以上、磁性の弱いステンレスを除去することを考慮するとさらに好ましくは2000ガウス以上、最も好ましくは5000ガウス以上である。
【0183】
製造ライン中に磁気フィルターを配置する際には、磁気フィルターの上流側に、カートリッジフィルターなどのフィルターにより粗大な異物、あるいは金属粒子を除く工程を含ませることが好ましい。粗大な金属粒子は、濾過する流速によっては、磁気フィルターを通過してしまう恐れがあるためである。
【0184】
また、磁気フィルターは、一回ろ過するのみでも効果はあるが、循環式であることがより好ましい。循環式とすることで、金属粒子の除去効率が向上するためである。
【0185】
全固体二次電池用バインダー組成物の製造ライン中に、磁気フィルターを配置する場合は、磁気フィルターの配置場所は特に制限されないが、好ましくは全固体二次電池用バインダー組成物を容器に充填する直前、容器への充填前に濾過フィルターによる濾過工程が存在する場合には、濾過フィルターの前に配置することが好ましい。これは、磁気フィルターから金属成分が脱離した場合に、製品への混入を防止するためである。
【0186】
粒子状金属成分の具体例としては、Fe、Ni、Cr等の金属又はこれらの金属化合物が挙げられる。本実施形態に係る全固体二次電池用バインダー組成物には、上記の粒子状金属成分が残留することがあるが、粒子状金属除去工程により粒径20μm以上の粒子状金属成分の含有量が10ppm以下となるように粒子状金属成分を除去することが好ましい。粒径20μm以上の粒子状金属成分の含有量は、得られた全固体二次電池用バインダー組成物を、さらに目開きが20μmに相当するメッシュでろ過し、メッシュオンした金属粒子の元素を、X線マイクロアナライザ(EPMA)を用いて元素分析し、その金属を
溶解できる酸で溶解させたものをICP(Inductively Coupled Plasma)を用いて測定することができる。
【0187】
3.全固体二次電池用スラリー
本発明の一実施形態に係る全固体二次電池用スラリーは、上述の全固体二次電池用バインダー組成物と、固体電解質とを含有する。本実施形態に係る全固体二次電池用スラリーは、正極活物質層及び負極活物質層のいずれの活物質層を形成するための材料として使用することもできるし、また固体電解質層を形成するための材料として使用することもできる。
【0188】
正極活物質層を形成するための全固体二次電池用スラリーは、上述の全固体二次電池用バインダー組成物と、固体電解質と、正極用の活物質(以下、「正極活物質」ともいう。)とを含有する。また、負極活物質層を形成するための全固体二次電池用スラリーは、上述の全固体二次電池用バインダー組成物と、固体電解質と、負極用の活物質(以下、「負極活物質」ともいう。)とを含有する。さらに、固体電解質層を形成するための全固体二次電池用スラリーは、上述の全固体二次電池用バインダー組成物と、固体電解質とを含有する。以下、本実施形態に係る全固体二次電池用スラリーに含まれ得る成分について説明する。
【0189】
3.1.活物質
<正極活物質>
正極活物質としては、例えば、MnO、MoO、V、V13、Fe、Fe、Li(1-x)CoO、Li(1-x)NiO、LiCoSn、Li(1-x)Co(1-y)Ni、Li(1+x)Ni1/3Co1/3Mn1/3、TiS、TiS、MoS、FeS、CuF、NiF等の無機化合物;フッ化カーボン、グラファイト、気相成長炭素繊維及び/又はその粉砕物、PAN系炭素繊維及び/又はその粉砕物、ピッチ系炭素繊維及び/又はその粉砕物等の炭素材料;ポリアセチレン、ポリ-p-フェニレン等の導電性高分子などを用いることができる。これらの正極活物質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0190】
正極活物質の平均粒径は、特に限定されないが、固固界面の接触面積を増加できるため、0.1μm~50μmであることが好ましい。正極活物質を所定の平均粒径とするためには、乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、衛星ボールミル、旋回気流型ジェットミル等の粉砕機や、篩、風力分級機等の分級機を用いればよい。粉砕時には、必要に応じて、水又はメタノール等の溶媒を共存させた湿式粉砕を行ってもよい。分級は、乾式、湿式ともに用いることができる。また、焼成法によって得られた正極活物質は、水、酸性水溶液、アルカリ性水溶液、又は有機溶剤にて洗浄した後使用してもよい。
【0191】
なお、活物質の平均粒径とは、レーザー回折法を測定原理とする粒度分布測定装置を用いて測定された体積平均粒径のことをいう。このようなレーザー回折式粒度分布測定装置としては、例えばHORIBALA-300シリーズ、HORIBALA-920シリーズ(以上、株式会社堀場製作所製)等が挙げられる。
【0192】
正極活物質層を形成するための全固体二次電池用スラリーにおいて、正極活物質の含有割合は、固形成分の合計を100質量部としたときに、20~90質量部であることが好ましく、40~80質量部であることがより好ましい。
【0193】
<負極活物質>
負極活物質としては、可逆的にリチウムイオン等を吸蔵・放出できるものであれば特に
限定されないが、例えば、炭素質材料、酸化錫や酸化ケイ素等の金属酸化物、リチウム単体やリチウムアルミニウム合金等のリチウム合金、Sn、SiもしくはIn等のリチウムと合金形成可能な金属等が挙げられる。中でも、信頼性の点から炭素質材料が、電池容量を大きくできる点からケイ素含有材料が、好ましく用いられる。
【0194】
炭素質材料としては、実質的に炭素からなる材料であれば特に限定されないが、例えば、石油ピッチ、天然黒鉛、気相成長黒鉛等の人造黒鉛、及びPAN系の樹脂やフルフリルアルコール樹脂等の各種の合成樹脂を焼成した炭素質材料が挙げられる。さらには、PAN系炭素繊維、セルロース系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、気相成長炭素繊維、脱水PVA系炭素繊維、リグニン炭素繊維、ガラス状炭素繊維、活性炭素繊維等の各種炭素繊維類、メソフェーズ微小球体、グラファイトウィスカー、平板状の黒鉛等が挙げられる。
【0195】
ケイ素含有材料は、一般的に用いられる黒鉛やアセチレンブラックに比べて、より多くのリチウムイオンを吸蔵できる。すなわち、単位重量当たりのリチウムイオン吸蔵量が増加するため、電池容量を大きくすることができる。その結果、バッテリー駆動時間を長くすることができるという利点があり、車載用バッテリー等への使用が今後期待されている。その一方で、ケイ素含有材料は、リチウムイオンの吸蔵、放出に伴う体積変化が大きいことが知られており、黒鉛やアセチレンブラックではリチウムイオンの吸蔵による体積膨張が1.2~1.5倍程度であるところ、ケイ素を含有する負極活物質では約3倍にもなる場合がある。この膨張・収縮(充放電)を繰り返すことによって、負極活物質層の耐久性が不足し、例えば接触不足を起こしやすくなったり、サイクル寿命(電池寿命)が短くなったりすることがある。本実施形態に係る全固体二次電池用スラリーを用いて形成された負極活物質層は、このような膨張・収縮が繰り返されてもバインダー成分が追従することによって高い耐久性(強度)が発揮されるので、良好なサイクル寿命特性を実現できるという優れた効果を奏する。
【0196】
負極活物質の平均粒径は、特に限定されないが、固固界面の接触面積を増加できるため、0.1μm~60μmであることが好ましい。負極活物質を所定の平均粒径とするためには、上記例示した粉砕機や分級機を用いることができる。
【0197】
負極活物質層を形成するための全固体二次電池用スラリーにおいて、負極活物質の含有割合は、固形成分の合計を100質量部としたときに、20~90質量部であることが好ましく、40~80質量部であることがより好ましい。
【0198】
3.2.固体電解質
本実施形態に係る全固体二次電池用スラリーは、固体電解質を含有する。固体電解質としては、一般に全固体二次電池に使用される固体電解質を適宜選択して用いることができるが、硫化物系固体電解質又は酸化物系固体電解質であることが好ましい。
【0199】
固体電解質の平均粒径の下限としては、0.01μmであることが好ましく、0.1μmであることがより好ましい。固体電解質の平均粒径の上限としては、100μmであることが好ましく、50μmであることがより好ましい。
【0200】
本実施形態に係る全固体二次電池用スラリーにおいて、固体電解質の含有割合の下限は、電池性能と界面抵抗の低減・維持効果を両立できるため、固形成分の合計を100質量部としたときに、50質量部であることが好ましく、70質量部であることがより好ましく、90質量部であることが特に好ましい。固体電解質の含有割合の上限は、同様の効果により、固形成分の合計を100質量部としたときに、99.9質量部であることが好ましく、99.5質量部であることがより好ましく、99.0質量部であることが特に好ましい。ただし、前記正極活物質又は前記負極活物質とともに用いるときには、その総和が
上記の濃度範囲となることが好ましい。
【0201】
<硫化物系固体電解質>
硫化物系固体電解質は、硫黄原子(S)及び周期表第1族又は第2族の金属元素を含み、イオン伝導性を有し、かつ、電子絶縁性を有するものが好ましい。このような硫化物系固体電解質としては、例えば、下記一般式(3)で表される組成式の硫化物系固体電解質が挙げられる。
Li ・・・・・(3)
(式(3)中、Mは、B、Zn、Si、Cu、Ga及びGeから選択される元素を表す。a~dは各元素の組成比を表し、a:b:c:d=1~12:0~1:1:2~9を満たす。)
【0202】
上記一般式(3)中、Li、M、P及びSの組成比は、好ましくはb=0である。より好ましくはb=0、かつ、a:c:d=1~9:1:3~7である。さらに好ましくはb=0、かつ、a:c:d=1.5~4:1:3.25~4.5である。各元素の組成比は、硫化物系固体電解質を製造する際の原料化合物の配合量を調整することにより制御できる。
【0203】
硫化物系固体電解質は、非結晶(ガラス)であってもよく、結晶(ガラスセラミックス)であってもよく、一部のみが結晶化していてもよい。
【0204】
Li-P-S系ガラス及びLi-P-S系ガラスセラミックスにおける、LiSとPとの比率は、LiS:Pのモル比で、好ましくは65:35~85:15であり、より好ましくは68:32~80:20である。LiSとPとの比率をこの範囲にすることにより、リチウムイオン伝導度を高くすることができる。硫化物系固体電解質のリチウムイオン伝導度は、1×10-4S/cm以上が好ましく、1×10-3S/cm以上がより好ましい。
【0205】
このような化合物としては、例えば、LiSと、第13族~第15族の元素の硫化物とを含有する原料組成物を用いてなるものが挙げられる。具体例としては、LiS-P、LiS-GeS、LiS-GeS-ZnS、LiS-Ga、LiS-GeS-Ga、LiS-GeS-P、LiS-GeS-Sb、LiS-GeS-Al、LiS-SiS、LiS-Al、LiS-SiS-Al、LiS-SiS-P、LiS-SiS-LiI、LiS-SiS-LiSiO、LiS-SiS-LiPO、Li10GeP12などが挙げられる。中でも、LiS-P、LiS-GeS-Ga、LiS-GeS-P、LiS-SiS-P、LiS-SiS-LiSiO、LiS-SiS-LiPOからなる結晶及び/又は非結晶の原料組成物が、高いリチウムイオン伝導性を有するため好ましい。
【0206】
このような原料組成物を用いて硫化物系固体電解質を合成する方法としては、例えば非晶質化法が挙げられる。非晶質化法としては、例えば、メカニカルミリング法及び溶融急冷法が挙げられる。中でも、常温での処理が可能になり、製造工程を簡略化できるため、メカニカルミリング法が好ましい。
【0207】
硫化物系固体電解質は、例えば、T.Ohtomo,A.Hayashi,M.Tatsumisago,Y.Tsuchida,S.Hama,K.Kawamoto,JournalofPowerSources,233,(2013),pp231-235又はA.Hayashi,S.Hama,H.Morimoto,M.Tatsumis
ago,T.Minami,Chem.Lett.,(2001),pp872-873等の文献を参考にして合成することができる。
【0208】
<酸化物系固体電解質>
酸化物系固体電解質は、酸素原子(O)及び周期表第1族又は第2族の金属元素を含み、イオン伝導性を有し、かつ、電子絶縁性を有するものが好ましい。このような酸化物系固体電解質としては、例えば、LixaLayaTiO〔xa=0.3~0.7、ya=0.3~0.7〕(LLT)、LiLaZr12(LLZ)、LISICON(Lithium Super Ionic Conductor)型結晶構造を有するLi3.5Zn0.25GeO、NASICON(Natrium Super Ionic Conductor)型結晶構造を有するLiTi12、Li(1+xb+yb)(Al,Ga)xb(Ti,Ge)(2-xb)Siyb(3-yb)12(ただし、0≦xb≦1、0≦yb≦1)、ガーネット型結晶構造を有するLiLaZr12が挙げられる。
【0209】
また、酸化物系固体電解質としては、Li、P、及びOを含むリン化合物も好ましい。例えば、リン酸リチウム(LiPO)、リン酸リチウムの酸素原子の一部を窒素原子で置換したLiPON、LiPOD(Dは、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zr、Nb、Mo、Ru、Ag、Ta、W、Pt及びAuから選ばれる少なくとも1種を示す。)が挙げられる。また、LiAON(Aは、Si、B、Ge、Al、C及びGaから選ばれる少なくとも1種を示す。)等も好ましく用いることができる。
【0210】
これらの中でも、Li(1+xb+yb)(Al,Ga)xb(Ti,Ge)(2-xb)Siyb(3-yb)12(ただし、0≦xb≦1、0≦yb≦1である)は、高いリチウムイオン伝導性を有し、化学的に安定で取り扱いが容易なため好ましい。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0211】
酸化物系固体電解質のリチウムイオン伝導度は、1×10-6S/cm以上が好ましく、1×10-5S/cm以上がより好ましく、5×10-5S/cm以上が特に好ましい。
【0212】
3.3.その他の添加剤
本実施形態に係る全固体二次電池用スラリーは、上述した成分以外に、必要に応じてその他の添加剤を含有してもよい。その他の添加剤としては、例えば、導電助剤、増粘剤、液状媒体(ただし、全固体二次電池用バインダー組成物からの持ち込み分を除く。)等が挙げられる。
【0213】
<導電助剤>
導電助剤は、電子の導電性を補助する効果を有するために、正極活物質層又は負極活物質層を形成するための全固体二次電池用スラリーに添加される。導電助剤の具体例としては、活性炭、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、黒鉛、炭素繊維、フラーレン等のカーボンが挙げられる。これらの中でも、アセチレンブラック、ファーネスブラックが好ましい。本実施形態に係る全固体二次電池用スラリーが導電助剤を含有する場合、導電助剤の含有割合は、活物質100質量部に対して、20質量部以下であることが好ましく、1~15質量部であることがより好ましく、2~10質量部であることが特に好ましい。
【0214】
<増粘剤>
増粘剤の具体例としては、上述の「2.2.その他の添加剤」の<増粘剤>の項で例示した増粘剤が挙げられる。本実施形態に係る全固体二次電池用スラリーが増粘剤を含有する場合、増粘剤の含有割合は、全固体二次電池用スラリーの全固形分量100質量部に対
して、5質量部以下であることが好ましく、0.1~3質量部であることがより好ましい。
【0215】
<液状媒体>
液状媒体の具体例としては、上述の「2.1.液状媒体(B)」の項で例示した液状媒体が挙げられる。本実施形態に係る全固体二次電池用スラリーに液状媒体を添加する場合、全固体二次電池用バインダー組成物に含まれる液状媒体(B)と同一の液状媒体を添加してもよく、異なる液状媒体を添加してもよいが、同一の液状媒体を添加することが好ましい。本実施形態に係る全固体二次電池用スラリー中の液状媒体の含有割合は、その塗布性を良好なものとし、塗布後の乾燥処理における共役ジエン系重合体(A)や活物質の濃度勾配を抑制するために、任意の割合に調整することができる。
【0216】
3.4.全固体二次電池用スラリーの調製方法
本実施形態に係る全固体二次電池用スラリーは、上述の全固体二次電池用バインダー組成物と固体電解質とを含有するものである限り、どのような方法によって製造されたものであってもよい。
【0217】
より良好な分散性及び安定性を有するスラリーを、より効率的かつ安価に製造するためには、上述の全固体二次電池用バインダー組成物に、固体電解質及び必要に応じて用いられる任意的添加成分を加え、これらを混合することにより製造することが好ましい。全固体二次電池用バインダー組成物とそれ以外の成分とを混合するためには、公知の手法による攪拌によって行うことができる。
【0218】
全固体二次電池用スラリーを製造するための混合撹拌手段としては、スラリー中に固体電解質粒子の凝集体が残らない程度に撹拌し得る混合機と、必要にして十分な分散条件とを選択する必要がある。分散の程度は粒ゲージにより測定可能であるが、少なくとも100μmより大きい凝集物がなくなるように混合分散することが好ましい。このような条件に適合する混合機としては、例えばボールミル、ビーズミル、サンドミル、脱泡機、顔料分散機、擂潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、ホバートミキサーなどを例示することができる。
【0219】
全固体二次電池用スラリーの調製(各成分の混合操作)は、少なくともその工程の一部を減圧下で行うことが好ましい。これにより、得られる正極活物質層、負極活物質層、又は固体電解質層内に気泡が生じることを防止することができる。減圧の程度としては、絶対圧として、5.0×10~5.0×10Pa程度とすることが好ましい。
【0220】
4.全固体二次電池用固体電解質シート
本発明の一実施形態に係る全固体二次電池用固体電解質シートは、基材上に上述の全固体二次電池用スラリーを塗布及び乾燥させて形成された層を有するものである。
【0221】
本実施形態に係る全固体二次電池用固体電解質シートは、例えば、基材となるフィルム上に上述の全固体二次電池用スラリーを、ブレード法(例えば、ドクターブレード法)、カレンダー法、スピンコート法、ディップコート法、インクジェット法、オフセット法、ダイコート法、又はスプレー法等により塗布し、乾燥させて層を形成した後、該フィルムを剥離することにより製造することができる。このようなフィルムとしては、例えば離型処理したPETフィルム等の一般的なものを用いることができる。
【0222】
又は、全固体二次電池用固体電解質シートを積層する相手のグリーンシート、もしくは、その他の全固体二次電池の構成部材の表面に、固体電解質を含有する全固体二次電池用スラリーを直接塗布、乾燥させて、固体電解質シートを成型することもできる。
【0223】
本実施形態に係る全固体二次電池用固体電解質シートは、層の厚さが、好ましくは1~500μm、より好ましくは1~100μmの範囲となるように、上述の全固体二次電池用スラリーを塗布することが好ましい。層の厚さが前記範囲内であると、リチウムイオン等の伝導イオンが移動しやすくなるので、電池の出力が高くなる。また、層の厚さが前記範囲内であると、電池全体を薄厚化することができるので、単位体積当たりの容量を大きくすることができる。
【0224】
全固体二次電池用スラリーの乾燥は、特に限定されず、加熱乾燥、減圧乾燥、加熱減圧乾燥等のいずれの手段も用いることができる。乾燥雰囲気は、特に限定されず、例えば大気雰囲気下で行うことができる。
【0225】
本実施形態に係る全固体二次電池用固体電解質シートにおいては、固体電解質層の重合体分布係数が、0.60~1.00であることが好ましく、0.70~0.95であることがより好ましく、0.75~0.90であることがより好ましい。本実施形態における「重合体分布係数」とは、以下の測定方法から定義される係数である。
(1)上述した方法により、基材の一方の面に固体電解質層を形成させる。これを二つに分割して、同じ固体電解質層を有する固体電解質シートを二つ作成する。
(2)あらかじめ準備しておいたアルミ板上に両面テープ(ニチバン株式会社製、品番「NW-25」)を貼り付け、さらに同両面テープの上にカプトンテープ(株式会社テラオカ製、品番「650S」)を粘着面が上になるようにして貼り付ける。
(3)(2)で用意したカプトンテープの粘着面上に、(1)で作成した固体電解質シートの一つの固体電解質層側と貼り合わせ、ローラーで圧着させる。
(4)基材を上に向けて(3)で作成されたアルミ板を水平面に固定した後、基材を上方向にアルミ板との角度が90度となるように一定速度で引き上げ、基材と固体電解質層との接着面から基材を剥離する。
(5)剥離した界面の両側、すなわち基材に残存した固体電解質層の表面から深さ1.5μm(1.5μm以下の厚さしか残存しなかった場合はその残存した全て)までの固体電解質層及び、粘着テープに残存した固体電解質層表面から深さ1.5μmまでの固体電解質層を掻き取り、それを「測定試料A」とする。
(6)(1)で作成したもう一方の固体電解質シートから固体電解質層を全て掻き取り、それを「測定試料B」とする。
(7)測定試料A及び測定試料Bのそれぞれについて、高周波誘導加熱方式パイロライザーを有する熱分解ガスクロマトグラフィを用いて分析し、各試料の単位重量当たりの重合体成分の含有量(質量%)を算出する。得られた値を下記式(4)に代入することにより、重合体分布係数を算出する。
重合体分布係数=(測定試料Aの重合体含有量:質量%)/(測定試料Bの重合体含有量:質量%) ・・・・・(4)
【0226】
なお、上記式(4)によると、重合体分布係数が1であれば、固体電解質層中の重合体成分が均一に分布していることを表す。また、重合体分布係数が1を超える値であれば、基材と固体電解質層との剥離界面近傍に重合体成分が偏在しており、1未満の値であれば、基材と固体電解質層との剥離界面近傍の重合体成分が疎になっていると解釈できる。
【0227】
したがって、固体電解質層の重合体分布係数が0.60~1.00であると、重合体成分が基材と固体電解質層との界面近傍に十分に存在するため、基材と固体電解質層間の結着性が良好となり、かつ電気的特性にも優れた全固体二次電池用固体電解質シートが得られる。固体電解質層の重合体分布係数が前記範囲未満であると、基材と固体電解質層との界面にバインダーとして機能する重合体成分が少なくなるため、基材と固体電解質層の密着性が低下する傾向がある。また、このようなブリード(移行)が起こることにより、固
体電解質層表面の平滑性が損なわれる傾向がある。一方、重合体分布係数が前記範囲を超えると、基材と固体電解質層の界面に絶縁体であるバインダー成分が局在化することにより、固体電解質シートの内部抵抗が上昇して電気的特性が損なわれる傾向がある。
【0228】
全固体二次電池用固体電解質シートに正極活物質及び固体電解質が含まれる場合には、全固体二次電池用固体電解質シートは正極活物質層としての機能を有する。全固体二次電池用固体電解質シートに負極活物質及び固体電解質が含まれる場合には、全固体二次電池用固体電解質シートは負極活物質層としての機能を有する。また、全固体二次電池用固体電解質シートに正極活物質及び負極活物質が含まれず、固体電解質が含まれる場合には、全固体二次電池用固体電解質シートは固体電解質層としての機能を有する。
【0229】
5.全固体二次電池用電極及び全固体二次電池
本発明の一実施形態に係る全固体二次電池用電極は、集電体と、前記集電体の表面上に上述の全固体二次電池用スラリーが塗布及び乾燥されて形成された活物質層と、を備えるものである。かかる全固体二次電池用電極は、金属箔などの集電体の表面に、上述の全固体二次電池用スラリーを塗布して塗膜を形成し、次いで該塗膜を乾燥して活物質層を形成することにより製造することができる。このようにして製造された全固体二次電池用電極は、集電体上に、上述の共役ジエン系重合体(A)、固体電解質、及び活物質、さらに必要に応じて添加した任意成分を含有する活物質層が結着されてなるものであるから、柔軟性、耐擦性及び粉落ち耐性に優れるとともに、良好な充放電耐久特性を示す。
【0230】
正極・負極の集電体としては、化学変化を起こさない電子伝導体が用いられることが好ましい。正極の集電体としては、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケル、チタン、及びこれらの合金等や、アルミニウム、ステンレス鋼の表面にカーボン、ニッケル、チタンあるいは銀を処理させたものが好ましく、これらの中でも、アルミニウム、アルミニウム合金がより好ましい。負極の集電体としては、アルミニウム、銅、ステンレス鋼、ニッケル、チタン、及びこれらの合金が好ましく、アルミニウム、銅、銅合金がより好ましい。
【0231】
集電体の形状としては、通常フィルムシート状のものが使用されるが、ネット、パンチされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の成形体なども用いることができる。集電体の厚みとしては、特に限定されないが、1μm~500μmが好ましい。また、集電体表面は、表面処理により凹凸を付けることも好ましい。
【0232】
全固体二次電池用スラリーを集電体上に塗布する手段としては、ドクターブレード法、リバースロール法、コンマバー法、グラビヤ法、又はエアーナイフ法等を利用することができる。全固体二次電池用スラリーの塗布膜の乾燥処理の条件としては、処理温度は20~250℃であることが好ましく、50~150℃であることがより好ましく、処理時間は1~120分間であることが好ましく、5~60分間であることがより好ましい。
【0233】
また、集電体上に形成された活物質層をプレス加工して圧縮してもよい。プレス加工する手段としては、高圧スーパープレス、ソフトカレンダー、1トンプレス機等を利用することができる。プレス加工の条件は、用いる加工機に応じて適宜設定することができる。
【0234】
このようにして集電体上に形成された活物質層は、例えば、厚みが40~100μmであり、密度が1.3~2.0g/cmである。
【0235】
このようにして製造された全固体二次電池用電極は、一対の電極間に固体電解質層が挟持されて構成される全固体二次電池における電極、具体的には全固体二次電池用の正極及び/又は負極として好適に用いられる。また、上述の全固体二次電池用スラリーを用いて形成された固体電解質層は、全固体二次電池用の固体電解質層として好適に用いられる。
【0236】
本実施形態に係る全固体二次電池は、公知の方法を用いて製造することができる。具体的には、以下のような製造方法を用いることができる。
【0237】
まず、固体電解質及び正極活物質を含有する全固体二次電池正極用スラリーを集電体上に塗布及び乾燥させて正極活物質層を形成し、全固体二次電池用正極を作製する。次いで、該全固体二次電池用正極の正極活物質層の表面に固体電解質を含有する全固体二次電池固体電解質用スラリーを塗布及び乾燥させて固体電解質層を形成する。さらに、同様にして固体電解質及び負極活物質を含有する全固体二次電池負極用スラリーを固体電解質層の表面に塗布及び乾燥させて負極活物質層を形成する。最後に、該負極活物質層の表面に負極側の集電体(金属箔)を載置することで、所望の全固体二次電池の構造を得ることができる。
【0238】
また、固体電解質シートを離型PETフィルム上に作製し、あらかじめ作製しておいた全固体二次電池用正極又は全固体二次電池用負極の上に貼り合わせる。その後、離型PETを剥離することで、所望の全固体二次電池の構造を得ることもできる。なお、上記の各組成物の塗布方法は常法によればよい。このとき、全固体二次電池正極用スラリー、全固体二次電池固体電解質層用スラリー、及び全固体二次電池負極用スラリーのそれぞれの塗布の後に、それぞれ加熱処理を施すことが好ましい。加熱温度は、共役ジエン系重合体(A)のガラス転移温度以上であることが好ましい。具体的には、30℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましく、100℃以上であることが最も好ましい。上限は、300℃以下が好ましく、250℃以下がより好ましい。このような温度範囲で加熱することで、共役ジエン系重合体(A)を軟化させるとともに、その形状を維持することができる。これにより、全固体二次電池において、良好な密着性とリチウムイオン伝導性を得ることができる。
【0239】
また、加熱しながら加圧することも好ましい。加圧圧力としては5kN/cm以上が好ましく、10kN/cm以上であることがより好ましく、20kN/cm以上であることが特に好ましい。なお、本明細書中において、放電容量とは、電極の活物質重量あたりの値を示し、ハーフセルにおいては負極の活物質重量あたりの値を示す。
【0240】
6.実施例
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0241】
6.1.各物性値の測定法
以下の実施例及び比較例において、各物性値の測定法は以下の通りである。
【0242】
(1)1,2-ビニル結合含有量の測定
重合体中の1,2-ビニル結合含有量(単位:モル%)は、重水素化クロロホルムを溶媒として用い、500MHzのH-NMRにより求めた。
【0243】
(2)結合スチレン含量
重合体中の結合スチレン含量(単位:%)は、重水素化クロロホルムを溶媒として用い、500MHzのH-NMRにより求めた。
【0244】
(3)重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、及びMw/Mn
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)(商品名「HLC-8120GPC」、東ソー株式会社製)を使用して得られたGPC曲線の最大ピークの頂点に相当する
保持時間からポリスチレン換算で、重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)をそれぞれ求め、Mw/Mnを算出した。
(GPCの条件)
・カラム:商品名「GMHXL」(東ソー社製)2本
・カラム温度:40℃
・移動相:テトラヒドロフラン
・流速:1.0mL/分
・サンプル濃度:10mg/20mL
【0245】
6.2.共役ジエン系重合体の合成例
<合成例1>
内容積が10Lで、内部の高さ(L)と直径(D)との比(L/D)が4.0であり、底部に入口、頂部に出口を有し、攪拌機付槽型反応器である攪拌機及び温度制御用のジャケットを有する槽型圧力容器を重合反応器として2基連結した。
あらかじめ水分除去した、1,3-ブタジエンを18.6g/分、スチレンを10.0g/分、n-ヘキサンを175.2g/分の条件で混合した。この混合溶液を反応基の入口に供給する配管の途中に設けたスタティックミキサーにおいて、残存不純物不活性処理用のn-ブチルリチウムを0.103mmol/分で添加、混合した後、反応基の底部に連続的に供給した。更に、極性物質として2,2-ビス(2-オキソラニル)プロパンを0.081mmol/分の速度で、重合開始剤としてn-ブチルリチウムを0.143mmol/分の速度で、攪拌機で激しく混合する1基目反応器の底部へ供給し、反応器内温を67℃に保持した。
1基目反応器頂部より重合体溶液を連続的に抜き出し、2基目反応器の底部に連続的に供給し70℃で反応を継続し、さらに2基目の頂部よりスタティックミキサーへ供給した。重合が十分に安定したところで、2基目の反応基の底部より、分岐化剤としてトリメトキシ(4-ビニルフェニル)シランを0.0190mmol/分の速度で添加し、主鎖分岐構造を有する共役ジエン系重合体(A-1)を得る重合反応及び分岐化反応を行った。重合反応と分岐化反応が安定したところで、変性剤添加前の共役ジエン系重合体溶液を少量抜出し、酸化防止剤(BHT)を重合体100gあたり0.2gとなるように添加した後に溶媒を除去し、各物性を測定した。その結果を下表1に併せて示す。
【0246】
<合成例2>
上記合成例1において、反応器の出口より流出した重合体溶液に、変性剤として、2,2-ジメトキシ-1-(3-トリメトキシシリルプロピル)-1-アザ-2-シラシクロペンタンを0.0360mmol/分の速度で連続的に添加し、スタティックミキサーを用いて混合し、変性反応させた。このとき、反応器の出口より流出した重合溶液に変性剤が添加されるまでの時間は4.8分、温度は68℃であり、重合工程における温度と、変性剤を添加するまでの温度との差は2℃であった。変性反応した重合体溶液に、酸化防止剤(BHT)を重合体100gあたり0.2gとなるように0.055g/分(n-ヘキサン溶液)で連続的に添加し、変性反応を終了した。酸化防止剤と同時に、重合体100gに対してオイル(JX日鉱日石エネルギー社製、JOMOプロセスNC140)が37.5gとなるように連続的に添加し、スタティックミキサーで混合した。スチームストリッピングにより溶媒を除去して、変性された共役ジエン系重合体(A-2)を得た。共役ジエン系重合体(A-2)の各物性を下表1に併せて示す。
【0247】
<合成例3>
変性剤を2,2-ジメトキシ-1-(3-トリメトキシシリルプロピル)-1-アザ-2-シラシクロペンタンからトリス(3-トリメトキシシリルプロピル)アミンに変更し、その添加量を0.0250mmol/分に変更した以外は、上記合成例2と同様にして、変性された共役ジエン系重合体(A-3)を得た。共役ジエン系重合体(A-3)の各
物性を下表1に併せて示す。
【0248】
<合成例4>
変性剤を2,2-ジメトキシ-1-(3-トリメトキシシリルプロピル)-1-アザ-2-シラシクロペンタンからテトラキス(3-トリメトキシシリルプロピル)-1,3-プロパンジアミンに変更し、その添加量を0.0190mmol/分に変更した以外は、上記合成例2と同様にして、変性された共役ジエン系重合体(A-4)を得た。共役ジエン系重合体(A-4)の各物性を下表1に併せて示す。
【0249】
<合成例5>
分岐化剤をトリメトキシ(4-ビニルフェニル)シランから1,1-ビス(4-(ジメチルメトキシシリル)フェニル)エチレンに変更し、その添加量を0.0120mmol/分に変更した以外は、上記合成例2と同様にして、変性された共役ジエン系重合体(A-5)を得た。共役ジエン系重合体(A-5)の各物性を下表1に併せて示す。
【0250】
<合成例6>
上記合成例1と同様に重合反応及び分岐化反応を行い、主鎖分岐構造を有する共役ジエン系重合体(A-1)を得た。次に、反応器の出口より流出した重合体溶液に、変性剤として、下記式で表される化合物(M-1)を0.0360mmol/分の速度で連続的に添加し、スタティックミキサーを用いて混合し、カップリング反応した。このとき、反応器の出口より流出した重合体溶液に変性剤が添加されるまでの時間は4.8分、温度は68℃であり、重合工程における温度と、変性剤を添加するまでの温度との差は2℃であった。
【化29】
(上記式(M-1)中、Etはエチル基である。)
次に、カップリング反応した重合体溶液に、酸化防止剤(BHT)を重合体100gあたり0.2gとなるように0.055g/分(n-ヘキサン溶液)で連続的に添加し、カップリング反応を終了した。酸化防止剤と同時に、ゴム用軟化剤として重合体100gに対してSRAEオイル(JX日鉱日石エネルギー社製JOMOプロセスNC140)が25.0gとなるように連続的に添加し、スタティックミキサーで混合した。スチームストリッピングにより溶媒を除去して、変性された共役ジエン系重合体(A-6)を得た。共役ジエン系重合体(A-6)の各物性を下表1に併せて示す。
【0251】
<合成例7>
変性剤を化合物(M-1)から下記式で表される化合物(M-2)に変更し、その添加量を0.0720mmol/分に変更した以外は、上記合成例6と同様にして、変性された共役ジエン系重合体(A-7)を得た。共役ジエン系重合体(A-7)の各物性を下表1に併せて示す。
【化30】
(上記式(M-2)中、Etはエチル基である。)
【0252】
<合成例8>
内容積が10Lで、内部の高さ(L)と直径(D)との比(L/D)が4.0であり、底部に入口、頂部に出口を有し、攪拌機付槽型反応器である攪拌機及び温度制御用のジャケットを有する槽型圧力容器を重合反応器として2基連結した。
あらかじめ水分除去した、1,3-ブタジエンを18.6g/分、スチレンを10.0g/分、n-ヘキサンを175.2g/分の条件で混合した。この混合溶液を反応基の入口に供給する配管の途中に設けたスタティックミキサーにおいて、残存不純物不活性処理用のn-ブチルリチウムを0.103mmol/分で添加、混合した後、反応基の底部に連続的に供給した。更に、極性物質として2,2-ビス(2-オキソラニル)プロパンを0.081mmol/分の速度で、重合開始剤としてn-ブチルリチウムを0.143mmol/分の速度で、攪拌機で激しく混合する1基目反応器の底部へ供給し、反応器内温を67℃に保持した。
1基目反応器頂部より重合体溶液を連続的に抜き出し、2基目反応器の底部に連続的に供給し70℃で反応を継続し、さらに2基目の頂部よりスタティックミキサーへ供給した。重合が十分に安定したところで、1,3-ブタジエンとスチレンとを共重合しながら、2基目の反応基の底部より、分岐化剤としてトリメトキシ(4-ビニルフェニル)シランを0.0190mmol/分の速度で添加し、主鎖分岐構造を有する共役ジエン系重合体を得る重合反応及び分岐化反応を行った。
次に、反応器の出口より流出した重合体溶液に、カップリング剤として、テトラエトキシシランを0.0480mmol/分の速度で連続的に添加し、スタティックミキサーを用いて混合し、カップリング反応した。このとき、反応器の出口より流出した重合体溶液にカップリング剤が添加されるまでの時間は4.8分、温度は68℃であり、重合工程における温度と、カップリング剤を添加するまでの温度との差は2℃であった。
次に、カップリング反応した重合体溶液に、酸化防止剤(BHT)を重合体100gあたり0.2gとなるように0.055g/分(n-ヘキサン溶液)で連続的に添加し、カップリング反応を終了した。酸化防止剤と同時に、ゴム用軟化剤として重合体100gに対してSRAEオイル(JX日鉱日石エネルギー社製、JOMOプロセスNC140)が25.0gとなるように連続的に添加し、スタティックミキサーで混合した。スチームストリッピングにより溶媒を除去して、変性された共役ジエン系重合体(A-8)を得た。共役ジエン系重合体(A-8)の各物性を下表1に併せて示す。
【0253】
<合成例9>
分岐化剤をトリメトキシ(4-ビニルフェニル)シランから1,1-ビス(4-(ジメチルメトキシシリル)フェニル)エチレンに変更し、その添加量を0.0120mmol/分に変更し、カップリング剤をテトラエトキシシランから1,2-ビス(トリエトキシシリル)エタンに変更し、その添加量を0.0360mmol/分に変更した以外は、上記合成例8と同様にして、変性された共役ジエン系重合体(A-9)を得た。共役ジエン系重合体(A-9)の各物性を下表1に併せて示す。
【0254】
<合成例10>
内容積が10Lで、内部の高さ(L)と直径(D)との比(L/D)が4.0であり、
底部に入口、頂部に出口を有し、攪拌機付槽型反応器である攪拌機及び温度制御用のジャケットを有する槽型圧力容器を重合反応器として2基連結した。
あらかじめ水分除去した、1,3-ブタジエンを18.6g/分、スチレンを10.0g/分、n-ヘキサンを175.2g/分の条件で混合した。この混合溶液を反応基の入口に供給する配管の途中に設けたスタティックミキサーにおいて、残存不純物不活性処理用のn-ブチルリチウムを0.103mmol/分で添加、混合した後、反応基の底部に連続的に供給した。更に、極性物質として2,2-ビス(2-オキソラニル)プロパンを0.081mmol/分の速度で、重合開始剤としてn-ブチルリチウムを0.143mmol/分の速度で、攪拌機で激しく混合する1基目反応器の底部へ供給し、反応器内温を67℃に保持した。
1基目反応器頂部より重合体溶液を連続的に抜き出し、2基目反応器の底部に連続的に供給し70℃で反応を継続し、さらに2基目の頂部よりスタティックミキサーへ供給した。
次に、反応器の出口より流出した重合体溶液に、変性剤として、2,2-ジメトキシ-1-(3-トリメトキシシリルプロピル)-1-アザ-2-シラシクロペンタンを0.0360mmol/分の速度で連続的に添加し、スタティックミキサーを用いて混合し、変性反応した。このとき、反応器の出口より流出した重合溶液に変性剤が添加されるまでの時間は4.8分、温度は68℃であり、重合工程における温度と、変性剤を添加するまでの温度との差は2℃であった。変性反応した重合体溶液に、酸化防止剤(BHT)を重合体100gあたり0.2gとなるように0.055g/分(n-ヘキサン溶液)で連続的に添加し、変性反応を終了した。酸化防止剤と同時に、重合体100gに対してオイル(JX日鉱日石エネルギー社製、JOMOプロセスNC140)が37.5gとなるように連続的に添加し、スタティックミキサーで混合した。スチームストリッピングにより溶媒を除去して、変性された共役ジエン系重合体(B-1)を得た。共役ジエン系重合体(B-1)の各物性を下表1に併せて示す。
【0255】
<合成例11>
変性剤を2,2-ジメトキシ-1-(3-トリメトキシシリルプロピル)-1-アザ-2-シラシクロペンタンからトリス(3-トリメトキシシリルプロピル)アミンに変更し、その添加量を0.0250mmol/分に変更した以外は、上記合成例10と同様にして、変性された共役ジエン系重合体(B-2)を得た。共役ジエン系重合体(B-2)の各物性を下表1に併せて示す。
【0256】
<合成例12>
変性剤を2,2-ジメトキシ-1-(3-トリメトキシシリルプロピル)-1-アザ-2-シラシクロペンタンからテトラキス(3-トリメトキシシリルプロピル)-1,3-プロパンジアミンに変更し、その添加量を0.0190mmol/分に変更した以外は、上記合成例10と同様にして、変性された共役ジエン系重合体(B-3)を得た。共役ジエン系重合体(B-3)の各物性を下表1に併せて示す。
【0257】
6.3.実施例1
6.3.1.全固体二次電池用バインダー組成物の調製
上記合成例1で得た共役ジエン系重合体(A-1)と、老化防止剤としてスミライザーGM500ppmとを液状媒体(B)であるジイソブチルケトン中に添加し、90℃で3時間撹拌することにより、共役ジエン系重合体(A-1)と老化防止剤をジイソブチルケトンに溶解させた。その後、この溶液を3つ口フラスコに移し、100Torrの減圧を維持しながら、水蒸気含有量が25.0mg/L以下の乾燥窒素ガスのバブリングを90℃で4時間行い、残留水分量を55ppmまで減らした全固体二次電池用バインダー組成物を調製した。次いで、このバインダー組成物を、平均孔径が3.00μmであるフィルター膜を有するカートリッジフィルター(アドバンテック社製、オールフッ素樹脂カート
リッジフィルター、製品名「TCF-300-H5MF」)を透過させ、アイセロ化学株式会社より市販されている1Lのクリーンバリア(登録商標)ボトル(超高純度溶剤用バリア性容器)に充填した。このバインダー組成物全体を100質量%としたときの、全固形分は10.1%である。なお、この調製作業は、清浄度クラスがISO14644-1のクラス7、室内露点が-40℃DP以下のドライルーム内で実施した。
【0258】
6.3.2.全固体二次電池用スラリーの調製及び評価
<全固体二次電池正極用スラリーの調製>
正極活物質としてLiCoO(平均粒径:10μm)70質量部と、固体電解質としてLiSとPからなる硫化物ガラス(LiS/P=75mol%/25mol%、平均粒径5μm)30質量部と、導電助剤としてアセチレンブラック2質量部と、上記で調製したバインダー組成物を固形分相当で2質量部とを混合し、さらにジイソブチルケトンを加えて、固形分濃度を75%に調整した後に自転公転ミキサー(THINKY社製、あわとり練太郎ARV-310)で10分間混合して全固体二次電池正極用スラリーを調製した。
【0259】
<全固体二次電池固体電解質層用スラリーの調製>
固体電解質としてLiSとPからなる硫化物ガラス(LiS/P=75mol%/25mol%、平均粒径5μm)100質量部と、上記で調製したバインダー組成物を固形分相当で2質量部とを混合し、さらにジイソブチルケトンを加えて、固形分濃度を55%に調整した後に自転公転ミキサー(THINKY社製、あわとり練太郎ARV-310)で10分間混合して全固体二次電池固体電解質層用スラリーを調製した。
【0260】
<全固体二次電池負極用スラリーの調製>
負極活物質としての人造黒鉛(平均粒径:20μm)65質量部、固体電解質としてLiSとPからなる硫化物ガラス(LiS/P=75mol%/25mol%、平均粒径5μm)35質量部と、上記で調製したバインダー組成物を固形分相当で2質量部とを混合し、さらにジイソブチルケトンを加えて、固形分濃度を65%に調整した後に自転公転ミキサー(THINKY社製、あわとり練太郎ARV-310)で10分間混合して全固体二次電池負極用スラリーを調製した。
【0261】
<スラリーの分散安定性評価>
上記で得られた全固体二次電池固体電解質層用スラリーについて、調製後5分以内に50rpmのB型粘度計(東機産業株式会社製)により25℃にて粘度測定を行い、その粘度をηとした。この全固体二次電池固体電解質層用スラリーを25℃に調温した恒温槽で48時間保管し、保管後のスラリーを50rpmのB型粘度計(東機産業株式会社製)により25℃にて粘度測定を行い、その粘度をηとした。このときの粘度変化率Δη(%)=η/η×100を算出し、下記基準により評価した。結果を下表1に示す。粘度変化率Δηが小さいものほどスラリーの分散安定性に優れている。
(評価基準)
AA:Δηが80%以上120%未満。
A:Δηが70%以上80%未満又は120%以上130%未満。
B:Δηが60%以上70%未満又は130%以上140%未満。
C:Δηが60%未満又は140%以上。
【0262】
6.3.3.全固体二次電池正負極・固体電解質層の作製及び評価
<全固体二次電池正極の作製>
上記で調製した全固体二次電池正極用スラリーをドクターブレード法によりアルミニウム箔上に塗布し、120℃の減圧下でジイソブチルケトンを蒸発させて3時間かけて乾燥させることにより、厚み0.1mmの正極活物質層が形成された全固体二次電池正極を作
製した。
【0263】
<固体電解質層の作製>
上記で調製した全固体二次電池固体電解質用スラリーをドクターブレード法により離型PETフィルム上に塗布し、120℃の減圧下でジイソブチルケトンを蒸発させて3時間かけて乾燥させることにより、厚み0.1mmの固体電解質層を作製した。
【0264】
<全固体二次電池負極の作製>
上記で調製した全固体二次電池負極用スラリーをドクターブレード法によりステンレス箔上に塗布し、120℃の減圧下でジイソブチルケトンを蒸発させて3時間かけて乾燥させることにより、厚み0.1mmの負極活物質層が形成された全固体二次電池負極を作製した。
【0265】
<全固体二次電池正極の剥離強度試験>
上記で得られた全固体二次電池正極のアルミニウム箔上に形成された正極活物質層について、正極活物質層上に幅20mmのテープを貼り、これを剥離角度90°、剥離速度50mm/minの条件で剥離するときの剥離強度を測定した。評価基準は下記の通りである。結果を下表1に示す。
(評価基準)
AA:剥離強度が20N/m以上。
A:剥離強度が10N/m以上20N/m未満。
B:剥離強度が5N/m以上10N/m未満。
C:剥離強度が5N/m未満。
【0266】
<全固体二次電池正極の重合体分布係数>
上記で得られた全固体二次電池正極のアルミニウム箔上に形成された正極活物質層について、正極活物質層の厚さ方向における重合体分布係数を以下のようにして算出した。
まず、得られた全固体二次電池正極を二つに分割した。次いで、あらかじめ準備しておいた70mm×150mmのアルミ板に、両面テープ(株式会社ニチバン製、品番「NW-25」)を120mm、さらに同両面テープの上にカプトンテープ(株式会社テラオカ製、品番「650S」)を粘着面が上になるようにして貼り付けた固定用ステージを作成した。この固定用ステージの上に、得られた全固体二次電池正極を20mm×100mmの大きさに切り出した試験片の活物質層側を貼り付け、ローラーで圧着させた。この試験片が固定された固定ステージを水平面に載置し、試験片を上方向に固定ステージとの角度が90°となるように一定速度で引き上げ、接着面から集電体を剥離させた。その後、集電体側に残存した活物質層の表面から深さ1.5μm及び粘着テープ側に残存した活物質表面から深さ1.5μmまでの活物質層を掻き取り、これを測定試料Aとした。一方、分割しておいたもう一つの電極から活物質層を全て掻き取り、これを測定試料Bとした。測定試料A及び測定試料Bのそれぞれについて、高周波誘導加熱方式パイロライザーを有する熱分解ガスクロマトグラフィにて分析し、各試料の単位重量当たりの重合体成分の含有量(質量%)を算出した。得られた値を下記式(4)に代入することにより、重合体分布係数を算出し、下記基準により評価した。結果を下表1に示す。
重合体分布係数=(測定試料Aの重合体含有量:質量%)/(測定試料Bの重合体含有量:質量%) ・・・・・(4)
(評価基準)
AA:重合体分布係数が0.85以上1.0未満。
A:重合体分布係数が0.7以上0.85未満。
B:重合体分布係数が0.55以上0.7未満。
C:重合体分布係数が0.55未満。
【0267】
<全固体二次電池正極の柔軟性試験>
正極試験片のアルミニウム箔側を直径1.0mmの金属棒に沿わせ、この金属棒に巻き付けて正極活物質層が割れるか否か、巻き付け端部に損傷があるか否かを評価した。評価基準は下記の通りである。結果を下表1に示す。正極活物質層の損傷が見られないものは、試験片の柔軟性が高く、全固体二次電池組み立てのプロセス適性が良好であることを示す。
(評価基準)
AA:正極活物質層の割れなし、巻き付け端部の損傷なし。
A:正極活物質層の割れなし、巻き付け端部の損傷少々あり。
B:正極活物質層の割れなし、巻き付け端部の損傷あり。
C:正極活物質層の割れあり。
【0268】
<固体電解質層のリチウムイオン伝導性>
PETフィルムから剥がした固体電解質層を2枚のステンレス鋼製の平板からなるセルで挟み、インピーダンスアナライザーを使用して測定し、ナイキストプロットからリチウムイオン伝導度を算出した。評価基準は下記の通りである。結果を下表1に示す。リチウムイオン伝導度が大きい程、電池性能が良好な全固体二次電池が得られることを示す。
(評価基準)
AA:リチウムイオン伝導度が0.8×10-4S/cm以上1.0×10-4S/cm以下。
A:リチウムイオン伝導度が0.5×10-4S/cm以上0.8×10-4S/cm未満。
B:リチウムイオン伝導度が0.2×10-4S/cm以上0.5×10-4S/cm未満。
C:リチウムイオン伝導度が0.2×10-4S/cm未満。
【0269】
6.3.4.全固体二次電池の作製及び評価
<全固体二次電池の作製>
上記で作製した全固体二次電池正極を直径13mmの円板状に切り出し、全固体二次電池負極とPETフィルムから剥がした固体電解質層を直径15mmの円板状に切り出した。次に、全固体二次電池正極の正極活物質層の面が固体電解質層と接するように、全固体二次電池正極を固体電解質層の一方の面に貼り合わせた。全固体二次電池負極の負極活物質層の面が固体電解質層と接するように、全固体二次電池負極を固体電解質層のもう一方の面に貼り合わせ、ヒートプレス機を用いて、加熱(120℃)しながら加圧し(600MPa、1分)、アルミニウム箔/正極活物質層/固体電解質層/負極活物質層/ステンレス箔の積層構造を有する全固体二次電池用積層体を作製した。次いで、このようにして作製した全固体二次電池用積層体をスペーサーとワッシャーを組み込んだステンレス製の2032型コインケースに入れ、2032型コインケースをかしめることで、全固体二次電池を作製した。
【0270】
<サイクル寿命特性(容量維持率)>
上記で作製した全固体二次電池を用い、30℃の環境下、充放電試験を実施した。充放電は、4.2V~3.0Vの電位範囲で、0.1Cレートで測定を行った。この0.1Cレートの充放電を繰り返し行い、1サイクル目の放電容量をA(mAh/g)、20サイクル目の放電容量をB(mAh/g)としたとき、20サイクル後の容量維持率を下記式(5)によって算出した。評価基準は以下の通りである。結果を下表1に示す。
20サイクル後の容量維持率(%)=(B/A)×100 ・・・・・(5)
なお、CレートのCとは時間率であり、(1/X)C=定格容量(Ah)/X(h)と定義される。Xは定格容量分の電気を充電又は放電する際の時間を表す。例えば、0.1Cとは、電流値が定格容量(Ah)/10(h)であることを意味する。
(評価基準)
AA:容量維持率が95%以上100%以下。
A:容量維持率が90%以上95%未満。
B:容量維持率が85%以上90%未満。
C:容量維持率が85%未満。
【0271】
6.4.実施例2~9、比較例1~3
使用する共役ジエン系重合体の種類を下表1に記載した通りとした以外は、上記実施例1と同様にして、全固体二次電池用バインダー組成物、全固体二次電池用スラリー、全固体二次電池正負極・固体電解質層及び全固体二次電池を作製し、評価を行った。
【0272】
6.5.評価結果
下表1に、実施例1~9及び比較例1~3で使用した開始剤及び変性剤の種類、各物性、並びに各評価結果をまとめた。
【0273】
【表1】
【0274】
上表1における略称は、それぞれ以下の化合物を表す。
<分岐化剤>
・分岐化剤a:トリメトキシ(4-ビニルフェニル)シラン
・分岐化剤b:1,1-ビス(4-(ジメチルメトキシシリル)フェニル)エチレン
<変性剤>
・変性剤A:2,2-ジメトキシ-1-(3-トリメトキシシリルプロピル)-1-アザ-2-シラシクロペンタン
・変性剤B:トリス(3-トリメトキシシリルプロピル)アミン
・変性剤C:テトラキス(3-トリメトキシシリルプロピル)-1,3-プロパンジアミン
・変性剤D:化合物(M-1)
・変性剤E:化合物(M-2)
・変性剤F:テトラエトキシシラン
・変性剤G:1,2-ビス(トリエトキシシリルエタン)
【0275】
上表1の結果から、実施例1~9の全固体二次電池用バインダー及び該バインダーを含有するバインダー組成物を使用した場合、リチウムイオン伝導性に優れ、かつ、良好なサイクル寿命特性を実現できる全固体二次電池を作製できることが確認された。
【0276】
また、実施例1~9においては、全固体二次電池用スラリーとして、本発明に係る全固体二次電池用バインダー組成物に活物質と固体電解質とが含有されてなるものが用いられている。当該スラリーによって形成された活物質層において、剥離強度の測定の際に活物質層自体が脆くなって活物質や固体電解質の脱落、あるいはクラックなどが生じることがなく、活物質及び固体電解質のいずれの間においても重合体に十分な結着性が得られていることが確認された。さらに良好な柔軟性を併せ持つことも併せて確認された。この理由としては、上表1に示す実施例1~9の全固体二次電池用バインダー組成物に含有される共役ジエン系重合体(A)は、一般式(1)、(2)で表される分岐化剤を用いることにより、分岐数が向上して結着点が増加するため高い結着力を維持することができ、形成される固体電解質には活物質層に対する十分な密着性が得られたためと推測される。
【0277】
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を包含する。また本発明は、上記の実施形態で説明した構成の本質的でない部分を他の構成に置き換えた構成を包含する。さらに本発明は、上記の実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成をも包含する。さらに本発明は、上記の実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成をも包含する。