(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024102641
(43)【公開日】2024-07-31
(54)【発明の名称】地盤評価方法および地盤評価装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/3563 20140101AFI20240724BHJP
G01V 8/10 20060101ALI20240724BHJP
【FI】
G01N21/3563
G01V8/10 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023006664
(22)【出願日】2023-01-19
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)令和4年8月1日に令和4年度土木学会全国大会第77回年次学術講演会のウェブサイトにおいて発表 (2)令和4年9月15日に令和4年度土木学会全国大会第77回年次学術講演会において発表 (3)令和4年12月1日に大成建設株式会社技術センターから発行された「大成建設技術センター報2022年 第55号」において発表 (4)令和4年12月1日に大成建設株式会社のウェブサイトにおいて発表
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】市來 孝志
(72)【発明者】
【氏名】山上 順民
【テーマコード(参考)】
2G059
2G105
【Fターム(参考)】
2G059AA01
2G059BB08
2G059EE01
2G059EE12
2G059FF01
2G059HH01
2G059HH02
2G059HH06
2G059JJ01
2G059KK04
2G059MM01
2G105AA02
2G105BB16
2G105BB17
2G105EE06
2G105LL07
(57)【要約】
【課題】粘土鉱物の有無を遠隔から簡易かつ面的に評価することが可能な地盤評価方法および地盤評価装置を提供する。
【解決手段】地盤の地盤面に設定された少なくとも一つ以上の基準エリアにおける、岩種、岩質、粘土鉱物の含有量を計測する計測工程と、前記地盤面をハイパースペクトルカメラで撮影し、赤外域を含む領域の波長情報が含まれた画像情報を取得する撮影工程と、岩種および岩質に対応する基準スペクトルを取得し、教師データとして登録する教師データ作成工程S22と、前記地盤面の岩種および岩質を画素単位で分類するスペクトル分類工程S23と、前記スペクトル分類工程の結果である分類図と、前記基準エリアにおける粘土鉱物の含有量との関係から、前記地盤面において粘土鉱物が含まれる範囲を特定する粘土鉱物特定工程S25とを備える。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤に含まれる粘土鉱物の有無を判定する地盤評価方法であって、
前記地盤の地盤面に設定された少なくとも一つ以上の基準エリアにおける、岩種、岩質、粘土鉱物の含有量を計測する計測工程と、
前記地盤面をハイパースペクトルカメラで撮影し、赤外域を含む領域の波長情報が含まれた画像情報を取得する撮影工程と、
前記画像情報に含まれる前記基準エリアの波長情報に基づいて、岩種および岩質に対応する基準スペクトルを取得し、教師データとして登録する教師データ作成工程と、
前記教師データに基づいて前記画像情報のスペクトルを分析し、前記地盤面の岩種および岩質を画素単位で分類するスペクトル分類工程と、
前記スペクトル分類工程の結果である分類図と、前記基準エリアにおける粘土鉱物の含有量との関係から、前記地盤面において粘土鉱物が含まれる範囲を特定する粘土鉱物特定工程と、を備える、
ことを特徴とする地盤評価方法。
【請求項2】
前記計測工程の前工程である岩種・岩質分布図作成工程および基準エリア選定工程をさらに備え、
岩種・岩質分布図作成工程では、岩種および岩質の分布図を作成し、
前記基準エリア選定工程では、前記岩種・岩質分布図作成工程で作成した分布図から代表となる岩種および岩質を判定し、当該代表となる岩種および岩質ごとに前記基準エリアを設定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の地盤評価方法。
【請求項3】
地盤に含まれる粘土鉱物の有無を判定する地盤評価装置であって、
前記地盤の地盤面に設定された少なくとも一つ以上の基準エリアにおける、岩種、岩質、粘土鉱物の含有量を計測した計測結果情報を記憶する記憶部と、
前記地盤面を撮影し、赤外域を含む領域の波長情報が含まれた画像情報を取得するハイパースペクトルカメラと、
前記画像情報に含まれる前記基準エリアの波長情報に基づいて、岩種および岩質に対応する基準スペクトルを取得し、教師データとして登録する教師データ作成部と、
前記教師データに基づいて前記画像情報のスペクトルを分析し、前記地盤面の岩種および岩質を画素単位で分類するスペクトル分類部と、
前記スペクトル分類部の結果である分類図と、前記基準エリアにおける粘土鉱物の含有量とを関連付けて表示部に表示させる粘土鉱物特定部と、を備える、
ことを特徴とする地盤評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤評価方法および地盤評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
土木工事では、地盤中に含まれる粘土鉱物の影響を受け、想定外の被害を受ける場合がある。膨張性粘土鉱物は、その結晶構造から水を吸収すると膨潤するものをいい、代表的なものとしてスメクタイトがある。地盤中でのスメクタイトの存在が、トンネル工事では地山の押し出し等の原因となり、切土工事では法面変状の原因となってきた。事前にスメクタイトの含有量が多い箇所や含まない箇所を把握できると、対策を検討する上で非常に有効である。
従来、スメクタイトの含有量の評価方法としては、例えば、非特許文献1のp.243-246に記載された「粉末X線回折法」が知られている。また、粘土鉱物の評価方法として、例えば、特許文献1に記載された方法が知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】一般社団法人ダム工学会編,「総説 岩盤の地質調査と評価」,平成24年度版,古今書院,平成24年12月12日,p.243-246
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1に記載された「粉末X線回折法」は、対象地盤から採取した岩片を用いる。具体的には、試料を乳鉢などで磨りつぶして粉末状にし、アルミフォルダーあるいはガラス板に塗布した粉末の薄層供試体を作成する。そして、供試体にX線を照射する際に、角度を一定の速さで変化させながら照射することで、ブラッグの反射条件を満たしたときに結晶面からの反射が大きくなることに着目して反射X線の強度を連続して測定する。このようにしてX線の照射角度と反射X線の強度を記録して得た回折線プロファイルを得ることができる。回折プロファイルを既知の鉱物のプロファイルと照らし合わせることによって、鉱物の同定や含有量の定量を行うことができる。この方法では、工事の施工箇所である対象地盤から岩片を直接採取する必要があるため、安全上の課題がある。また、供試体の作成のため、試料を磨りつぶして粉末状にするほか、粘土鉱物を判定するためにはできる限り共存鉱物を分離する必要があるため、手間や時間が必要となる。このため、現場で即座に粘土鉱物の評価を実施することができないという課題がある。
【0006】
また、従来の評価方法として「陽イオン交換容量試験」がある。この試験の具体的方法は、地盤工学会基準「土の陽イオン交換容量(CEC)の試験方法」(JGS0261-2009)に定められているが、前述の粉末X線回折法と同様に、採取試料を粉末にする作業が必要になるという課題がある。また、試料の前処理のために特殊な溶液が必要となり、さらに、陽イオン濃度測定のために原子吸光法光度計やICP発光分析計などの特殊な装置が必要になるという課題もある。このほかの従来技術として、JIS-Z-2451「ベントナイトなどのメチレンブルー吸着量の測定方法」がある。この方法は、スメクタイトがメチレンブルーを吸着する性質を用いた試験方法であるため、スメクタイト以外の粘土鉱物には有効ではなく、また測定対象にメチレンブルーを塗布する必要があるため、トンネル工事や切土工事で対象とする、広範囲の地盤中の粘土鉱物の有無を評価するには有効性が低い方法であると考えられる。
【0007】
一方、特許文献1に記載された粘土鉱物の評価方法は、波長の異なる2枚以上の複数の赤外線画像を用いて、赤外線反射率に応じた輝度画像の相違(赤外線反射率の相違)に基づいて粘土鉱物の有無を判定する方法である。赤外線画像を取得するための赤外線カメラは、赤外線(750nm~1mm)のいずれかの波長域に感度を持ち、濃淡モノクロ画像を出力する。通常、赤外線カメラはセンサの画像ノイズが大きいという課題がある。また、赤外線カメラは単一の波長域のスペクトル感度を持つため、波長の差異を区別することはできないという課題がある。そのため、粘土鉱物の有無を判定する場合に、反射スペクトル(波長方向の反射率変化)を用いた方法は困難となる。特許文献1に記載の方法では、粘土鉱物の吸収特徴の認められる波長と認められない波長の赤外線画像を得るために、複数回にわたり画像を撮影する必要があり、時間と手間がかかる。また、精度よく粘土鉱物を検出するためには、いずれの赤外線画像も同一の範囲を撮影したものでなければならないという技術的な課題がある。
このような観点から、本発明は、粘土鉱物の有無を遠隔から簡易かつ面的に評価することが可能な地盤評価方法および地盤評価装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る地盤評価方法は、地盤に含まれる粘土鉱物の有無を判定する地盤評価方法である。この地盤評価方法は、計測工程と、撮影工程と、教師データ作成工程と、スペクトル分類工程と、粘土鉱物特定工程とを備える。
計測工程では、前記地盤の地盤面に設定された少なくとも一つ以上の基準エリアにおける、岩種、岩質、粘土鉱物の含有量を計測する。
撮影工程では、前記地盤面をハイパースペクトルカメラで撮影し、赤外域を含む領域の波長情報が含まれた画像情報を取得する。
教師データ作成工程では、前記画像情報に含まれる前記基準エリアの波長情報に基づいて、岩種および岩質に対応する基準スペクトルを取得し、教師データとして登録する。
スペクトル分類工程では、前記教師データに基づいて前記画像情報のスペクトルを分析し、前記地盤面の岩種および岩質を画素単位で分類する。
粘土鉱物特定工程では、前記スペクトル分類工程の結果である分類図と、前記基準エリアにおける粘土鉱物の含有量との関係から、前記地盤面において粘土鉱物が含まれる範囲を特定する。
本発明に係る地盤評価方法においては、光を波長ごとに分光して撮影することが可能なハイパースペクトルカメラを用いて地盤面を撮影した画像に基づいて粘土鉱物を含む範囲を特定する。ここで、ハイパースペクトルカメラの画像は、人間の目やカラーカメラでは識別できない対象物の物理特性の識別が可能である。その理由として、ハイパースペクトルカメラは画像情報に加え、可視域~赤外域における波長情報を得られる点が挙げられる。波長情報は波長ごとの反射率(太陽などの光源からの光を物質が受けて反射する割合)として取得できる。また、波長分解能(波長の差異を区別する能力)を有しており、波長方向に連続な反射スペクトルを得られる点が挙げられる。マルチスペクトルカメラもハイパースペクトルカメラと同様に波長分解能を有するが、波長方向のバンド数(波長域の数)が限られるため、ハイパースペクトルカメラよりも単純化された反射スペクトルから岩石や鉱物を判定する必要がある。赤外域を対象としたハイパースペクトルカメラでは粘土鉱物の含む範囲の画像を撮影することで、粘土鉱物の赤外域における特徴的な反射スペクトル(吸収スペクトル)を得ることができる。そのため、粘土鉱物の有無を遠隔から簡易かつ面的に評価することが可能である。
【0009】
前記地盤評価方法は、前記計測工程の前工程である岩種・岩質分布図作成工程および基準エリア選定工程をさらに備えてもよい。その場合、岩種・岩質分布図作成工程では、岩種および岩質の分布図を作成し、前記基準エリア選定工程では、前記岩種・岩質分布図作成工程で作成した分布図から代表となる岩種および岩質を判定し、当該代表となる岩種および岩質ごとに前記基準エリアを設定する。
このようにすると、岩種および岩質の分布図を目安にして岩種および岩質に応じた基準エリアを設定することができるので、分類の基礎となる基準スペクトルを漏れなく作成することが可能である。そのため、より精密な分類が可能である。
【0010】
本発明に係る地盤評価装置は、地盤に含まれる粘土鉱物の有無を判定する地盤評価装置である。この地盤評価装置は、記憶部と、ハイパースペクトルカメラと、教師データ作成部と、スペクトル分類部と、粘土鉱物特定部とを備える。
記憶部は、前記地盤の地盤面に設定された少なくとも一つ以上の基準エリアにおける、岩種、岩質、粘土鉱物の含有量を計測した計測結果情報を記憶する。
ハイパースペクトルカメラは、前記地盤面を撮影し、赤外域を含む領域の波長情報が含まれた画像情報を取得する。
教師データ作成部は、前記画像情報に含まれる前記基準エリアの波長情報に基づいて、岩種および岩質に対応する基準スペクトルを取得し、教師データとして登録する。
スペクトル分類部は、前記教師データに基づいて前記画像情報のスペクトルを分析し、前記地盤面の岩種および岩質を画素単位で分類する。
粘土鉱物特定部は、前記スペクトル分類部の結果である分類図と、前記基準エリアにおける粘土鉱物の含有量とを関連付けて表示部に表示させる。
本発明に係る地盤評価装置においては、光を波長ごとに分光して撮影することが可能なハイパースペクトルカメラを用いて地盤面を撮影した画像に基づいて粘土鉱物を含む範囲を特定する。ここで、ハイパースペクトルカメラの画像は、人間の目やカラーカメラでは識別できない対象物の物理特性の識別が可能である。その理由として、ハイパースペクトルカメラは画像情報に加え、可視域~赤外域における波長情報を得られる点が挙げられる。波長情報は波長ごとの反射率(太陽などの光源からの光を物質が受けて反射する割合)として取得できる。また、波長分解能(波長の差異を区別する能力)を有しており、波長方向に連続な反射スペクトルを得られる点が挙げられる。マルチスペクトルカメラもハイパースペクトルカメラと同様に波長分解能を有するが、波長方向のバンド数(波長域の数)が限られるため、ハイパースペクトルカメラよりも単純化された反射スペクトルから岩石や鉱物を判定する必要がある。赤外域を対象としたハイパースペクトルカメラでは粘土鉱物の含む範囲の画像を撮影することで、粘土鉱物の赤外域における特徴的な反射スペクトル(吸収スペクトル)を得ることができる。そのため、粘土鉱物の有無を遠隔から簡易かつ面的に評価することが可能である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、粘土鉱物の有無を遠隔から簡易かつ面的に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る地盤評価システムの概略構成図である。
【
図2】モンモリロナイトのスペクトルを示した図である。
【
図3】記憶部が記憶する情報の一例を示す図である。
【
図4】制御部が実現する機能の一例を示す図である。
【
図6】教師付き分類解析の処理を示した概略説明図である。
【
図7】地盤評価方法に含まれる事前検討工程のフローチャートの例示である。
【
図8】地盤評価方法に含まれる現場検討工程のフローチャートの例示である。
【
図9】地盤評価方法の説明図であり、(a)は地盤面の状況を示し、(b)は岩種・岩質の分布図のイメージであり、(c)は基準エリアを設定した地盤面の状況を示し、(d)は岩種・岩質の分類図のイメージである。
【
図10】検証実験における撮影対象(切土法面)である。
【
図11】検証実験における撮影の平面イメージである。
【
図12】「NH-7」によって取得した基準スペクトルのスペクトルデータである。
【
図13】「SIS-I」によって取得した基準スペクトルのスペクトルデータである。
【
図14】検証実験で行った粉末X線回折試験の結果である。
【
図15】検証実験で用いた切土法面の岩種・岩質分布図である。
【
図16】「NH-7」で撮影したハイパースペクトルデータに基づいた岩種・岩質分類図である。
【
図17】「SIS-I」で撮影したハイパースペクトルデータに基づいた岩種・岩質分類図である。
【
図18】「SIS-I」によって取得した基準スペクトルのスペクトルデータである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施をするための形態を、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。各図は、本発明を十分に理解できる程度に、概略的に示してあるに過ぎない。よって、本発明は、図示例のみに限定されるものではない。なお、各図において、共通する構成要素や同様な構成要素については、同一の符号を付し、それらの重複する説明を省略する。
【0014】
<実施形態に係る地盤評価システムについて>
図1を参照して、地盤評価システム1の構成について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る地盤評価システム1の概略構成図である。
地盤評価システム1は、地盤を撮影した画像に基づいて、地盤に含まれる粘土鉱物の有無を判定するシステムである。地盤評価システム1は、地盤に含まれる粘土鉱物の確認を必要とする様々な場面で使用することができ、工事の種類や用途、粘土鉱物の種類などは限定されない。例えば、トンネル工事での地山の押し出しや、切土工事での法面変状の推定に利用することができる。評価対象の粘土鉱物の種類は、例えば(1)カオリン鉱物(カオリナイト、ハロイサイトなど)、(2)バーミキュライト、(3)蛇紋石、(4)スメクタイトなどである。
【0015】
図1に示すように、地盤評価システム1は、撮影装置2と、地盤評価装置3とを主に備える。撮影装置2と地盤評価装置3とは、有線または無線によって通信可能に接続されている。
撮影装置2は、評価対象である地盤を撮影するものである。撮影装置2は、地盤が有する面(「地盤面」と称する)に対向して設置され、地盤面を離れた位置から撮影する。地盤面は、例えばトンネル工事での掘削面、切土工事での法面などである。撮影装置2は、光を波長ごとに分光して撮影することが可能なカメラ(例えば、ハイパースペクトルカメラ)であり、対象物の分光情報(波長情報)を画像として捉えることができる。
【0016】
一般的に人間の目やカラーカメラでは、可視光(可視域:概ね波長が「380~750nm」の範囲)を赤・緑・青(RGB)の3色に分けて光を捉えている。一方で、マルチスペクトルカメラやハイパースペクトルカメラ(「HSC」と省略して表記する場合がある)によるスペクトルイメージングは、対象物の分光情報を画像として捉える技術である。分光情報は、波長ごとの反射率(太陽などの光源からの光を物質が受けて反射する割合)として取得できる。
【0017】
マルチスペクトルカメラやハイパースペクトルカメラは、非破壊・非接触な計測手順・方法により、人間の目やカラーカメラでは識別できない対象物の色の情報の識別や、物理特性の識別が可能となる。マルチスペクトルカメラとハイパースペクトルカメラの違いは、取得できる分光情報の多さである。一般的にはマルチスペクトルカメラは、4~50バンド程度(波長数)の情報を取得できるのに対して、ハイパースペクトルカメラは、数100バンドの情報を取得できる。撮影装置2は、取得した画像情報を地盤評価装置3(
図1参照)に出力する。
【0018】
次に、
図2を参照して、撮影装置2によって測定することが可能な波長領域について説明する。
図2は、モンモリロナイトのスペクトルを示しており、アメリカ地質調査所のライブラリーのデータである。モンモリロナイトは、スメクタイトの代表的な鉱物である。
図2に示すように、モンモリロナイトのスペクトルの特徴として、近赤外域~短波長赤外域に特徴的なスペクトル(吸収スペクトル:反射率の低下する波長域)が認められる。具体的には、モンモリロナイトの吸収スペクトル(
図2で矢印で示す部分)は、短波長赤外域の「1400~1500nm,1900nm,2200nm」付近に観測され、特に「1400~1500nm」付近では、反射率の低下が大きい吸収スペクトルが複数得られる。この吸収スペクトルを観察することは、モンモリロナイト(スメクタイト)の含有の可否を判定するのに有効である。このため、撮影装置2は、赤外域(「750nm~1mm」)を測定領域として含むものであるのがよく、特に近赤外域~短波長赤外域(「750~3000nm」)を測定領域として含むものであるのが望ましい。なお、
図2ではスメクタイトの代表的な鉱物であるモンモリロナイトのスペクトルを示したが、スメクタイト以外の粘土鉱物についてもスメクタイトと同様の特性を持つ物があり、近赤外域~短波長赤外域(「750~3000nm」)を測定領域とするのが有効である。なお、
図2には、「NH-7による波長領域」および「SIS-Iによる波長領域」が表示されている。ここで、「NH-7」および「SIS-I」は、後記する検証実験で用いたハイパースペクトルカメラの製品名である。
【0019】
図1に示す地盤評価装置3は、撮影装置2から1画素ごとの波長情報を含む画像情報を取得し、当該波長情報に基づいて地盤に含まれる粘土鉱物の有無を判定する。
地盤評価装置3は、例えばコンピュータであり、記憶部10と、制御部20と、表示部30とを備える。
図1に示す地盤評価装置3の構成はあくまで一例であり、記憶部10に代えてまたは記憶部10に加えて、例えばネットワークを介して地盤の評価に必要な情報を取得してもよい。
【0020】
記憶部10は、例えばRAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、フラッシュメモリ等の記憶媒体である。記憶部10には、地盤の評価に必要な情報が記憶されている。
制御部20は、例えばCPU(Central Processing Unit)によるプログラム実行処理によって、様々な機能(特に、地盤の評価を行うための機能)を実現する。制御部20がプログラム実行処理により実現する場合、地盤評価装置3は、地盤の評価に必要なプログラム(地盤評価プログラム)を有する。
表示部30は、例えばディスプレイであり、地盤の評価の結果を表示することが可能である。
【0021】
図3を参照して(適宜、
図1および
図2を参照)、記憶部10に記憶される情報を説明する。
図3は、記憶部10が記憶する情報の一例を示す図である。
図3に示すように、記憶部10は、基準エリア情報11と、計測結果情報12と、教師データ情報13と、を有する。
基準エリア情報11は、地盤面に設定された基準エリアK(
図1参照)に関する情報である。基準エリアKは、代表的な岩種および岩質ごとに設定されるのがよい。岩種は、岩石の種類(例えば、安山岩、凝灰岩、凝灰角礫岩など)であり、岩質は、岩石の性質や特徴(例えば、色や硬さ、粘土化の有無)である。
【0022】
図1に示す基準エリアKは、計測による粘土鉱物の含有状況(例えば、粘土鉱物の含有量や有無)の把握や、岩種および岩質ごとの領域を画像上で分類するために行う教師付き分類解析で用いる教師データの作成などに利用される。教師付き分類解析は、分類したい対象のスペクトルを教師データとして登録し、判別対象とのスペクトルの類似度によって解析を行う手法であり、例えばSAM(Spectral Angle Mapper)が知られている。SAMでは、例えば、比較用の基準スペクトルと、ハイパースペクトルデータの各画素の計測スペクトルとのスペクトル間の角度を類似値として定義する。
【0023】
図1に示す地盤面は、A岩種の領域GAと、A岩種が粘土化した領域GA1と、B岩種の領域GBとを含み、領域GAに第1の基準エリアK1が設定され、領域GA1に第2の基準エリアK2が設定され、領域GBに第3の基準エリアK3が設定されている。基準エリアKのサイズは、撮影装置2によって撮影された状態(つまり、ハイパースペクトル画像)でのサイズを考慮する必要があり、例えば撮影装置2の分解能、法面から撮影装置2までの距離などに基づいて決定するのがよい。基準エリアKは、例えば、幅約20cm×高さ約20cmの正方形のエリア(幅約10ピクセル×高さ約10ピクセルの範囲)である。
【0024】
図3に示す計測結果情報12は、作業員が地盤を計測した結果に関する情報である。作業員は、地盤面を事前に計測し、計測の結果を計測結果情報12として記憶部10に予め登録する。作業員は、地盤面全体ではなく局所的に計測を行えれば足りる。作業員は、代表的な岩種および岩質ごとに地盤面から岩石(試料)を採取し、採取した試料ごとに粘土鉱物の含有状況(例えば、粘土鉱物の含有量や有無)を計測する。例えば、作業員は、基準エリアKから試料を採取して粘土鉱物の含有状況を粉末X線回折法によって計測する。
【0025】
粉末X線回折法は、対象地盤から採取した岩片試料を乳鉢などで磨りつぶして粉末状にし、アルミフォルダーあるいはガラス板に塗布した粉末の薄層供試体を作成する。供試体にX線を照射する際に、角度を一定の速さで変化させながら照射することで、ブラッグの反射条件を満たしたときに結晶面からの反射が大きくなることに着目して反射X線の強度を連続して測定する。このようにしてX線の照射角度と反射X線の強度を記録して得た回折線プロファイルを得ることができる。回折プロファイルを既知の鉱物のプロファイルと照らし合わせることによって、鉱物の同定や含有量の定量を行うことができる。
【0026】
計測結果情報12の一例を
図5に示す。
図5に示すように、計測結果情報12は、例えば、「基準エリア番号」、「岩種・岩質名」、「粘土鉱物の含有状況」を含む。
基準エリア番号は、基準エリアKを識別する識別情報である。
岩種・岩質名は、岩種および岩質の名称であり、
図5では粘土化している場合には括弧書きで「粘土化部」という文言を付記している。岩種・岩質名は、粉末X線回折法によって求められた情報である。
粘土鉱物の含有状況は、「粘土鉱物の含有量」および「粘土鉱物の有無」を含む。粘土鉱物の含有量は、粉末X線回折法によって求められた情報である。粘土鉱物の有無は、粉末X線回折法によって求められた含有量に基づいて求められた情報で有り、例えば、含有量が予め決められた閾値以上である場合に「○(粘土鉱物あり)」が登録され、含有量が閾値よりも小さい場合に「×(粘土鉱物なし)」が登録される。
【0027】
図3に示す教師データ情報13は、画像上で岩種および岩質ごとの領域を分類するために行う教師付き分類(例えば、SAM)で用いる情報である。SAMによって画素ごとにスペクトルを分析することによって画素単位で岩種および岩質を分類する場合、教師データ情報13は、例えば、各々の基準エリアKで取得したスペクトルデータ(基準スペクトル)である。
【0028】
図4および
図6を参照して(適宜、
図1ないし
図3を参照)、制御部20によって実現される機能を説明する。
図4は、制御部20が実現する機能の一例を示す図である。
図6は、教師付き分類解析の処理を示した概略説明図である。
図4に示すように、制御部20は、教師データ作成部21と、スペクトル分類部22と、粘土鉱物特定部23と、を有する。
教師データ作成部21は、画像情報に含まれる基準エリアKの波長情報に基づいて、岩種および岩質に対応する基準スペクトルを取得する(
図6(a),(b)参照)。そして、教師データ作成部21は、取得した基準スペクトルを教師データ情報13として記憶部10に登録する。
【0029】
スペクトル分類部22は、記憶部10に登録された教師データ情報13に基づいて画像情報のスペクトルを分析し、地盤面の岩種および岩質を画素単位で分類する。スペクトル分類部22は、例えば教師付き分類(例えば、SAM)によって画像情報を画素単位で分類する。そして、スペクトル分類部22は、処理の結果として岩種および岩質の分類画像を作成する(
図6(c)参照)。
粘土鉱物特定部23は、スペクトル分類部22によって作成された分類図と、記憶部10に記憶される計測結果情報12(
図5参照)とを関連付けて表示部30に表示させる。
【0030】
<実施形態に係る地盤評価システムによる地盤評価方法について>
図7ないし
図9を参照して(適宜、
図1ないし
図6を参照)、地盤評価システム1による地盤評価方法について説明する。地盤評価方法は、「事前検討工程(S10)」と「現場検討工程(S20)」とを有する。
図7は、地盤評価方法に含まれる事前検討工程のフローチャートの例示である。
図8は、地盤評価方法に含まれる現場検討工程のフローチャートの例示である。
図9は、地盤評価方法の説明図であり、(a)は地盤面の状況を示し、(b)は岩種・岩質の分布図のイメージであり、(c)は基準エリアKを設定した地盤面の状況を示し、(d)は岩種・岩質の分類図のイメージである。
【0031】
事前検討工程は、現場検討工程に先行して行われる作業や処理であり、岩種・岩質と粘土鉱物の有無との関係を予め把握するために実施される。現場検討工程は、(ア)事前検討工程で把握した岩種・岩質と粘土鉱物の有無との関係性、(イ)地盤面を撮影したハイパースペクトルデータに対する教師付き分類解析の結果(分類図)に基づいて、地盤の評価を行う。
現場検討工程は、評価を行う地盤面の範囲が変わるたびに実施する必要があるが、事前検討工程は、対象となる岩種・岩質分布が大きく変わらなければその都度実施する必要はない。そのため、事前検討工程を一度実施した後、現場検討工程のみを複数回実施することで、粘土鉱物の有無の判定を行うこともできる。
なお、事前検討工程の作業や処理の一部または全部を、現場検討工程で行うことも可能である。また、現場検討工程の作業や処理の一部を、事前検討工程で行ってもよい。
【0032】
≪事前検討工程(S10)≫
図7および
図9を参照して、事前検討工程について説明する。ここでは、
図9(a)に示す地盤面を想定する。
図9(a)に示す地盤面は、A岩種の領域GAと、A岩種が粘土化した領域GA1と、B岩種の領域GBとを含む。なお、
図9(a)では、領域GA,GA1,GB間の境界を実線で示しているが、実際は境界が明確になっておらずに境界を目視などで判別するのは困難である。
【0033】
・対象範囲の岩種・岩質分布図の作成(ステップS11)
作業員は、目視観察および、目視よりも上の高さについては写真を用いて対象となる地盤面に分布する岩種・岩種を把握し、
図9(b)に示すように岩種・岩質分布図を作成する。
図9(b)は、岩種・岩質分布図のイメージである。岩種・岩質分布図は、基準エリアK(
図9(c)参照)を設定する際の目安として利用される。なお、岩種・岩質分布図は、例えば、ハイパースペクトルカメラで撮影した波長ごとの反射率の違いから作成してもよい。また、複数箇所を帯磁率計等で測定し、帯磁率の違いから岩種・岩質分布図を作成してもよい。
【0034】
・基準エリアの選定(ステップS12)
次に、
図9(c)に示すように、対象となる地盤面に複数の基準エリアKを選定する。ステップS11で作成した岩種・岩質分布図から判断して、代表的な岩種・岩質に対して基準エリアKを選定する。基準エリアKの大きさは、ハイパースペクトル画像の分解能などを考慮する必要がある。例えば、基準エリアKの大きさを幅約20cm×高さ約20cmの範囲(幅約10ピクセル×高さ約10ピクセルの範囲)とする。
なお、基準エリアKの設定に関して、岩種・岩質と基準エリアKとの関係は厳密でなくてよく、一つの岩種・岩質の組合せに対して複数の基準エリアKを設定しても問題ない。本工程での作業は目視観察で行うことが可能であるので、岩種の境界などが不明瞭である場合も想定される。その場合には、基準エリアKの設定の漏れを防ぐために、多めに基準エリアを設定するのが望ましい。
【0035】
・岩石採取(ステップS13)
次に、ステップS12で指定した基準エリアKから岩石(試料)を採取する。
・粉末X線回折法による粘土鉱物含有量の取得(ステップS14)
次に、粉末X線回折法などを用いて、採取した岩石試料ごとの粘土鉱物の含有量を取得する。
【0036】
・岩石試料中の粘土鉱物の有無の判定(ステップS15)
次に、ステップS14で取得した粘土鉱物の含有量に基づいて、岩石試料中の粘土鉱物の有無を判定する。全ての岩石試料に粘土鉱物が含まれていない場合、評価対象となる地盤には粘土鉱物が含まれていないと結論付けて作業を終了する。一方、一つ以上の岩石試料に粘土鉱物が含まれていると判定した場合にステップS16に作業を進める。
【0037】
・岩種・岩質と粘土鉱物の有無の関係把握(ステップS16)
ステップS15に続いて、岩種・岩質と粘土鉱物の有無の関係を把握し、
図5に示す計測結果情報12を作成する。作業員は、作成した計測結果情報12を地盤評価装置3に登録する。
以上で、事前検討工程(S10)の作業は終了となる。
【0038】
≪現場検討工程(S20)≫
図8および
図9を参照して、現場検討工程について説明する。
・ハイパースペクトル画像の撮像(ステップS21)
作業員は、対象となる地盤面から所定距離(例えば、10~20m程度)だけ離れた位置に撮影装置2を設置し、地盤面のハイパースペクトル画像を撮像する。例えば、撮影装置2を三脚に据えて撮影を行う。
【0039】
・基準スペクトルの抽出および教師データの作成(ステップS22)
次に、ハイパースペクトル画像の基準エリアKに対応する部分から基準スペクトルを抽出し、抽出した基準スペクトルを教師データとして登録する。ハイパースペクトル画像の基準エリアKに対応する部分には、例えば幅約10ピクセル×高さ約10ピクセル=100ピクセル分の波長情報が含まれるため、これを平均した波長情報を求めて、各岩種・岩質の基準スペクトル(教師データ)として用いる。
【0040】
・スペクトル分析・分類(ステップS23)
次に、ステップS22で求め教師データとして登録した基準スペクトルを用いて、地盤面のハイパースペクトル画像に対してスペクトルの分析・分類を行う。スペクトルの分類は、各種教師付き分類により実施する。例えば、スペクトルの形状(波長に対する反射率変化)に着目して教師付き分類を行う方法(SAM)を用いる。
【0041】
・岩種・岩質分類図作成(ステップS24)
次に、岩種・岩質ごとに異なる表示方法を用いた分類図を作成する(
図9(d)参照)。岩種・岩質ごとに異なる表示方法を用いることで、視覚的にどの岩種・岩質がどの範囲で含まれるか(含まれないか)を判定できる。岩種・岩質ごとの表示方法は、例えば岩種・岩質ごとに特定の色を用いたものであってよい。
図9(d)に示す分類図は、A岩種として分類された領域HAと、A岩種の粘土化部として分類された領域HA1と、B岩種として分類された領域HBとを含む。
【0042】
・粘土鉱物を含む範囲の特定(ステップS25)
次に、ステップS24で作成した岩種・岩質の分類図(
図9(d)参照)と、ステップS16で作成した計測結果情報12とに基づいて、粘土鉱物が含まれる範囲を特定する。
図5では、A岩種およびA岩種の粘土化部が粘土鉱物ありとなっており、B岩種が粘土鉱物なしとなっている。そのため、
図9(d)のA岩種の領域HAおよびA岩種の粘土化部の領域HA1には粘土鉱物が含まれていると判定でき、B岩種の領域HBには粘土鉱物が含まれていないと判定できる。
【0043】
なお、掘削が進み、異なる地盤面(例えば、切土法面)において粘土鉱物(例えば、スメクタイト)の有無を判定する場合には、事前検討工程S10の結果を異なる地盤面に適用することで省略し、現場検討工程で示したS21~S25の工程のみを実施するようにしてもよい。
本実施形態では、スメクタイトの事例について説明を記載したが、近赤外域~短波長赤外域に吸収スペクトルを示す、その他の粘土鉱物(例えば、カオリナイト、イライトなど)についても有効な方法である。
【0044】
以上のように、実施形態に係る地盤評価システム1および地盤評価システム1で実現される地盤評価方法は、光を波長ごとに分光して撮影することが可能な撮影装置2(例えば、ハイパースペクトルカメラ)を用いて地盤面を撮影した画像に基づいて粘土鉱物を含む範囲を特定する。ここで、撮影装置2の画像は、人間の目やカラーカメラでは識別できない対象物の物理特性の識別が可能である。その理由として、ハイパースペクトルカメラは画像情報に加え、可視域~赤外域における波長情報を得られる点が挙げられる。波長情報は波長ごとの反射率(太陽などの光源からの光を物質が受けて反射する割合)として取得できる。また、波長分解能(波長の差異を区別する能力)を有しており、波長方向に連続な反射スペクトルを得られる点が挙げられる。マルチスペクトルカメラもハイパースペクトルカメラと同様に波長分解能を有するが、波長方向のバンド数(波長域の数)が限られるため、ハイパースペクトルカメラよりも単純化された反射スペクトルから岩石や鉱物を判定する必要がある。赤外域を対象としたハイパースペクトルカメラでは粘土鉱物の含む範囲の画像を撮影することで、粘土鉱物の赤外域における特徴的な反射スペクトル(吸収スペクトル)を得ることができる。そのため、粘土鉱物の有無を遠隔から簡易かつ面的に評価することが可能である。
【0045】
<検証実験>
図10ないし
図18を参照して、実施形態に係る地盤評価システム1の効果を検証するために行った検証実験について説明する。波長域の異なる2つのハイパースペクトルカメラを用いて当該検証実験を行った。
具体的には、切土法面を対象にして2つのハイパースペクトルカメラを用いて撮影し、ハイパースペクトルデータを取得した。撮影範囲内に分類画像作成用の基準スペクトルを取得するための基準エリアを設定した。基準スペクトルを用いてハイパースペクトルデータから岩種および岩質(粘土化の有無)の分類画像を作成し、検証データと比較することで有効性を評価した。
【0046】
(3.1 地質概要と基準エリア)
検証実験での撮影対象を
図10に示す。
図10に示すように、検証実験での撮影対象は、「幅約40m×高さ約8m」の切土法面である。この切土法面には、法面左側から凝灰角礫岩、塊状の安山岩、凝灰岩が分布する。また、この切土法面には、不規則な形状で粘土化した部分が存在する。
図10に示す切土法面には、複数の基準エリアが設定されている(
図10中の四角の範囲が基準エリアである)。基準エリアは、基準スペクトルを取得するためのエリアであり、基準スペクトルは、スペクトルデータを分類する際に使用される。基準エリアは、「幅約20cm×高さ20cm」の範囲とし、安山岩、凝灰岩、凝灰角礫岩、凝灰岩の粘土化部、および凝灰角礫岩の粘土化部について、代表的と考えられる12箇所を現地にて選定して基準エリアを設定した。
【0047】
(3.2 撮影方法)
検証実験には、波長範囲の異なる2種類のエバ・ジャパン社製のHSC(製品名「NH-7」,製品名「SIS-I」)を用いた。製品名「NH-7」は、可視域~近赤外域が測定対象(波長範囲:350~1,100nm)であり、製品名「SIS-I」は、近赤外域~短波長赤外域が測定対象(波長範囲:900~1,700nm)である。画像解像度はそれぞれ、「NH-7」では「1,280×1,024ピクセル」であり、「SIS-I」では「400×320ピクセル」である。「NH-7」,「SIS-I」の分光方式は、いずれもカメラ内部にスキャン機構を内蔵した方式である。従来法では、撮影時にカメラ自体を走査させる必要があったが、この分光方式では、固定位置での撮影が可能であり、定位置での撮影に適している。
【0048】
図11に、検証実験における撮影のイメージを示す。
図11は、検証実験における撮影の平面イメージである。
事前検討で明らかにした分解能を確保できる法面からの距離(約15m)の位置にHSCを設置後、法面を撮影してスペクトルデータを取得した。また、撮影時には反射率校正用の白板を法面に設置した。「NH-7」については、法面を左右に6分割して撮影し、「SIS-I」については、法面を上下左右に12分割して撮影し、撮影後に各画像を合成した。法面に複数本のロープを配置して分割の目印とした。各々のロープは、上下方向に設置され、左右方向に等間隔に並べて配置された。撮影日は晴天であり、法面に太陽光が直射する条件で撮影した。移動時間を除いて、法面全体の撮影で「NH-7」では約20分を要し、「SIS-I」では約40分を要した。
【0049】
(3.3 スペクトルデータの解析方法)
エバ・ジャパン社製の専用ソフトウェアを用いて基準スペクトルを基にスペクトルデータの解析を行い、岩種・岩質分類図を作成した。「3.1 地質概要と基準エリア」で述べたように、基準スペクトルは基準エリアにて取得したスペクトルデータであり、基準エリア内(幅約20cm×高さ20cmの範囲)の数ピクセルのデータを平均化して、各岩種・岩質の代表となるスペクトルデータを求めた。このようにして、12箇所の基準エリアから12の基準スペクトルを得た(岩種・岩質の内訳は、安山岩:1,凝灰岩:2,凝灰岩の粘土化:1,凝灰角礫岩:3,凝灰角礫岩の粘土化部:4,凝灰角礫岩の粘土化部かつ土砂状:1である)。
図12に「NH-7」によって取得した基準スペクトルのスペクトルデータを示し、
図13に「SIS-I」によって取得した基準スペクトルのスペクトルデータを示す。
図12,
図13中の太実線にて基準スペクトルを示し、基準スペクトルに対してはその範囲を示すため塗色した。なお、「SIS-I」に関して、大気中の水蒸気等の影響を受けたと評価される波長「1,400nm」付近のデータを解析には用いなかった(
図13参照)。
【0050】
(3.4 検証データ)
HSCによる撮影結果の検証データについては、
図15に示す岩種・岩質分布図と、粉末X線回折試験(「XRD試験」と表記する場合がある)により得たスメクタイト含有量を用いた。
図15は、観察可能な高さ(約2m)で実施した目視観察、および観察可能な高さより上部については写真を用いた評価により境界線を引いた岩種・岩質分布図である。
図15では、凝灰角礫岩の粘土化部の境界線を符号701を付した点線で示し、安山岩の塊状部の境界線を符号702を付した点線で示し、凝灰岩の粘土化部の境界線を符号703を付した点線で示している。
また、
図10に示す基準エリア(No.1~No.12)のうち、No.1~No.10について岩種・岩質状況を反映し、代表的と思われるものを選定して、こぶし大ほどの大きさのものを10個採取した。得られた試料を用いてXRD試験を行った。不定方位法によりスメクタイトの有無を確認し、スメクタイトが認められた試料について定方位法の結果を用いてスメクタイトの含有量を求めた(
図14参照)。
図14は、検証実験で行ったXRD試験の結果である。
図15中に、基準エリアの位置ごとに、スメクタイト未検出のものと、30%以上のものについては10%ごとに分類したスメクタイト含有量を記載した。
【0051】
(4. 実験結果および考察)
波長域の異なる2つのHSCを用いて、スメクタイトの評価に適した波長域のHSCを検証するため、2つのHSCによる結果を比較し考察した。
(4.1 波長域の異なる2つのHSCによる結果の比較)
波長域の異なる2つのHSCによる結果として得られた岩種・岩質分類図の比較を行う上で、岩種・岩質ごとのスメクタイト含有量が重要となる。XRD試験の結果の安山岩からはスメクタイトは検出されなかった(
図14のNo.8を参照)。凝灰岩からは粘土化部と関係なくスメクタイトが30%程度検出された(
図14のNo.9およびNo.10を参照)。凝灰角礫岩からも粘土化部と関係なくスメクタイトが30~60%程度検出された(
図14のNo.1~No.7を参照)。
【0052】
次に、2つのHSCによる岩種・岩質分類図(
図16および
図17を参照)と法面での岩種・岩質分布図(
図15)とを比較する。
図16は、「NH-7」で撮影したハイパースペクトルデータに基づいた岩種・岩質分類図である。
図17は、「SIS-I」で撮影したハイパースペクトルデータに基づいた岩種・岩質分類図である。なお、
図16および
図17の岩種・岩質分類図には、
図15に記載の目視観察と写真による評価に基づく凝灰角礫岩の粘土化部、安山岩の塊状部、凝灰岩の粘土化部の境界線を符号701~703を付した点線で示している。
【0053】
図16に示す「NH-7」の岩種・岩質分類図において、英字Aを丸印で囲んだ丸A記号で示した部分に注目すると、凝灰角礫岩の粘土化部は、法面の観察結果に基づく境界線701を超えて上方に進出し、粘土化部でない凝灰角礫岩の領域まで分布する結果となった。また、英字Bを丸印で囲んだ丸B記号で示した部分に注目すると、安山岩は、法面の観察結果に基づく境界線702で囲まれる塊状の安山岩の範囲内にはほとんど分布せず、凝灰岩が分布する結果となった。
一方、
図17に示す「SIS-I」の岩種・岩質分類図においては、英字Cを丸印で囲んだ丸C記号で示した部分に注目すると、凝灰角礫岩の粘土化部は、法面の観察結果に基づく境界線701内に収まって分布しており、
図15に示す岩種・岩質分布図とほぼ整合する。また、英字Dを丸印で囲んだ丸D記号で示した部分に注目すると、安山岩は、法面の観察結果に基づく境界線702内に収まって分布しており、
図15に示す岩種・岩質分布図とほぼ整合する。
【0054】
今回の実験では、
図15に示すように、対象とする法面でのスメクタイトの分布が連続的に変化するのではなく、スメクタイトが未検出の安山岩、30%程度を含有する凝灰岩、30~60%程度を含有する凝灰角礫岩が分布し、0~30%が認められない特殊な地山条件であった。このような地山条件ではあるが、近赤外域~短波長赤外域を測定領域とする「SIS-I」では、スメクタイトが検出されない塊状の安山岩の分布を、可視域~近赤外域を測定領域とする「NH-7」と比較して精度よく評価できた(
図17中の境界線702内の範囲を参照)。以上より、「SIS-I(測定領域:900~1,700nm)」を用いることで、スメクタイトの有無を判定できる可能性があることがわかった。
【0055】
(4.2 SIS-Iにおけるスメクタイト含有量評価の有効性)
図18を参照し、岩種・岩質分類図作成の根拠となる基準スペクトルの特徴を述べ、近赤外~短波長赤外域を測定領域とする「SIS-I(測定領域:900~1,700nm)」の方が、「NH-7(測定領域:350~1,100nm)」よりもスメクタイトの評価に有効であった理由を考察する。
図18に示すように、「SIS-I」の基準スペクトルにおいて、凝灰角礫岩の粘土化部や凝灰岩の粘土化部のスペクトルに着目する。例えば、吸収スペクトルの存在のない波長「1,050nm」の反射率と、英字aを丸印で囲んだ丸a記号で示した波長範囲「1,470~1,600nm」の反射率を比較すると、波長範囲「1,470~1,600nm」では、水分子や水酸基(OH基)に起因すると考えられる吸収スペクトル(黒矢印で示す反射率の低下部)が得られている。可視光域にはない、短波長赤外域のこれらの吸収スペクトルの存在によって、凝灰角礫岩の粘土化部や凝灰岩の粘土化部のスペクトルと、安山岩、凝灰岩および凝灰角礫岩のスペクトルとが異なるものとして特徴づけられたものと考えられる。このため、「SIS-I」では、SAMによる分類により、安山岩、凝灰岩および凝灰角礫岩と、これら岩種の粘土化部とを区分でき、これらを反映した岩種・岩質分類図が得られ、スメクタイトの有無を判定できる可能性が得られたものと考えられる。
【符号の説明】
【0056】
1 地盤評価システム
2 撮影装置
3 地盤評価装置
10 記憶部
11 基準エリア情報
12 計測結果情報
13 教師データ情報
20 制御部
21 教師データ作成部
22 スペクトル分類部
23 粘土鉱物特定部
30 表示部
K 基準エリア