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特開2024-102666鋼管周溶接治具及びそれを用いた溶接構造物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024102666
(43)【公開日】2024-07-31
(54)【発明の名称】鋼管周溶接治具及びそれを用いた溶接構造物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 37/053 20060101AFI20240724BHJP
【FI】
B23K37/053 B
B23K37/053 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023006711
(22)【出願日】2023-01-19
(71)【出願人】
【識別番号】503378420
【氏名又は名称】日鉄ステンレス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】浅倉 誠仁
(72)【発明者】
【氏名】石丸 詠一朗
(72)【発明者】
【氏名】柿原 豊彦
(57)【要約】
【課題】機器コスト及び維持コストを低減できる鋼管周溶接治具及びそれを用いた溶接構造物の製造方法を提供する。
【解決手段】鋼管周溶接治具は、部品2の開口2aの位置に合わせて鋼管1を部品2に周溶接する際に鋼管1の変形を抑えるための鋼管周溶接治具であって、レール40と、レール40の一端側及び他端側に設けられた第1及び第2可動部41,42とを有し、第1可動部41は第1内側接触部41IN及び第1外側接触部41OUTの少なくとも1つを含み、第2可動部42は第2内側接触部42IN及び第2外側接触部42OUTの少なくとも1つを含み、第1内側接触部41IN、第1外側接触部41OUT、第2内側接触部42IN及び第2外側接触部42OUTは、互いの間隔を調整できるようにレール40の長手方向に相対的に移動可能に設けられている、少なくとも1つの拘束体4を備えている。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
部品の開口の位置に合わせて鋼管を前記部品に周溶接する際に前記鋼管の変形を抑えるための鋼管周溶接治具であって、
レールと、前記レールの一端側及び他端側に設けられた第1及び第2可動部とを有し、前記第1可動部は第1内側接触部及び第1外側接触部の少なくとも1つを含み、前記第2可動部は第2内側接触部及び第2外側接触部の少なくとも1つを含み、前記第1内側接触部、前記第1外側接触部、前記第2内側接触部及び前記第2外側接触部は、互いの間隔を調整できるように前記レールの長手方向に相対的に移動可能に設けられている、少なくとも1つの拘束体
を備え、
前記鋼管は、前記部品に周溶接される溶接端と、前記溶接端とは逆側に位置する開放端とを有しており、
前記鋼管の前記溶接端が前記部品に突き当てられた状態で、少なくとも1つの前記レールを前記鋼管の外部に残しつつ、前記少なくとも1つの拘束体の前記第1及び第2可動部を前記鋼管に設置し、前記第1可動部の前記第1内側接触部及び第1外側接触部の少なくとも1つにより、並びに前記第2可動部の前記第2内側接触部及び第2外側接触部の少なくとも1つにより、前記レールの一端側及び他端側において前記鋼管の内壁及び外壁の少なくとも一方を拘束した状態で、前記鋼管の前記溶接端を前記部品に周溶接できるように構成されている、
鋼管周溶接治具。
【請求項2】
前記第1可動部は、前記第1内側接触部及び前記第1外側接触部を含み、
前記第2可動部は、前記第2内側接触部及び前記第2外側接触部を含み、
前記第1内側接触部、前記第1外側接触部、前記第2内側接触部及び前記第2外側接触部は、互いに独立されている、
請求項1に記載の鋼管周溶接治具。
【請求項3】
前記第1内側接触部及び前記第1外側接触部の少なくとも一方、並びに前記第2内側接触部及び前記第2外側接触部の少なくとも一方は、前記レールの長手方向と比較して前記レールに直交する方向に長く延びる接触部本体を含む、
請求項1に記載の鋼管周溶接治具。
【請求項4】
前記第1内側接触部及び前記第1外側接触部の少なくとも一方、並びに前記第2内側接触部及び前記第2外側接触部の少なくとも一方は、前記レールに移動可能に取り付けられるとともに前記接触部本体を支持する支持部をさらに含む
請求項3に記載の鋼管周溶接治具。
【請求項5】
前記第1内側接触部及び前記第1外側接触部の少なくとも一方、並びに前記第2内側接触部及び前記第2外側接触部の少なくとも一方は、前記レールに対して前記支持部を固定する固定部をさらに含む、
請求項4に記載の鋼管周溶接治具。
【請求項6】
前記接触部本体は、前記鋼管の内壁及び外壁の少なくとも一方に線接触する側端を有している、
請求項3から5までのいずれか1項に記載の鋼管周溶接治具。
【請求項7】
前記少なくとも1つの拘束体は、それぞれの前記レールが互いに交わる方向に延在された第1及び第2拘束体を含み、
前記第2拘束体の前記レールは、前記第1拘束体の前記レールの前記長手方向に移動可能に前記第1拘束体の前記レールに取り付けられている、
請求項1から5までのいずれか1項に記載の鋼管周溶接治具。
【請求項8】
溶接構造物を製造するための溶接構造物の製造方法であって、請求項1から5までのいずれか1項に記載の鋼管周溶接治具を用いて、前記鋼管の前記溶接端を前記部品に周溶接することを含む、溶接構造物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼管の周溶接に用いる鋼管周溶接治具及びそれを用いた溶接構造物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、部品の開口の位置に合わせて鋼管を部品に接合する場合などでは接合を溶接で行うことがある。この際、局所的な溶接入熱により接合部で熱膨張・収縮が起こり、溶接変形を生じて管径が変化する場合がある。
【0003】
下記の特許文献1には、円筒状の胴体と皿状の鏡板とを突き合せ、胴体と鏡板との突合せ部を外方から円周方向に溶接する際に用いる円周溶接用治具ユニットが開示されている。円周溶接用治具ユニットは、胴体と鏡板との突合せ部を内方から保持する内治具ユニットと、鏡板を外方から保持する外治具ユニットとを備えている。
【0004】
内治具ユニットは、胴体と鏡板との突合せ部の内方に挿入される円盤状の内治具ベースと、内治具ベースに環状に配置され、胴体と鏡板との突合せ部の内周面に面接触状態で密着し得る複数の内治具片から成る縮拡径自在な環状の内治具と、内治具ベースと内治具との間に設けられ、内治具を縮拡径させる縮拡径機構とを備えている。
【0005】
外治具ユニットは、円盤状の外治具ベースと、外治具ベースの一方の側面に環状に配置され、鏡板の外周面を保持し得る複数の円弧状の外治具片から成る環状の外治具とを備えており、外治具の各外治具片を外治具ベースに着脱自在に取り付けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-217511号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の特許文献1に開示された円周溶接用治具ユニットでは、内治具ユニットにおいて縮拡径機構を用いて内治具を拡縮径している。縮拡径機構として複雑な機構を用いており、機器コスト及び維持コストが高くなっている。
【0008】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、その目的の一つは、機器コスト及び維持コストを低減できる鋼管周溶接治具及びそれを用いた溶接構造物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る鋼管周溶接治具は、一実施形態において、部品の開口の位置に合わせて鋼管を部品に周溶接する際に鋼管の変形を抑えるための鋼管周溶接治具であって、レールと、レールの一端側及び他端側に設けられた第1及び第2可動部とを有し、第1可動部は第1内側接触部及び第1外側接触部の少なくとも1つを含み、第2可動部は第2内側接触部及び第2外側接触部の少なくとも1つを含み、第1内側接触部、第1外側接触部、第2内側接触部及び第2外側接触部は、互いの間隔を調整できるようにレールの長手方向に相対的に移動可能に設けられている、少なくとも1つの拘束体を備え、鋼管は、部品に周溶接される溶接端と、溶接とは逆側に位置する開放端とを有しており、鋼管の溶接端が部品に突き当てられた状態で、少なくとも1つのレールを鋼管の外部に残しつつ、少なくとも1つの拘束体の第1及び第2可動部を鋼管に設置し、第1可動部の第1内側接触部及び第1外側接触部の少なくとも1つにより、並びに第2可動部の第2内側接触部及び第2外側接触部の少なくとも1つにより、レールの一端側及び他端側において鋼管の内壁及び外壁の少なくとも一方を拘束した状態で、鋼管の溶接端を部品に周溶接できるように構成されている。
【0010】
本発明に係る溶接構造物の製造方法は、一実施形態において、溶接構造物を製造するための溶接構造物の製造方法であって、上述の鋼管周溶接治具を用いて、鋼管の溶接端を部品に周溶接することを含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明の鋼管周溶接治具及びそれを用いた溶接構造物の製造方法の一実施形態によれば、少なくとも1つのレールを鋼管の外部に残しつつ、少なくとも1つの拘束体の第1及び第2可動部を鋼管に設置し、第1可動部の第1内側接触部及び第1外側接触部の少なくとも1つにより、並びに第2可動部の第2内側接触部及び第2外側接触部の少なくとも1つにより、レールの一端側及び他端側において鋼管の内壁及び外壁の少なくとも一方を拘束できるので、周溶接の対象の拘束を可能としつつ複雑な機構の使用を回避でき、機器コスト及び維持コストを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施の形態による鋼管周溶接治具を用いて製造される溶接構造物の一例を示す斜視図である。
図2図1の本発明の実施の形態による鋼管周溶接治具を示す平面図である。
図3図2の線III-IIIに沿う鋼管周溶接治具の断面図である。
図4】実施例における鋼管の最小径及び最大径の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。本発明は各実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、各実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施の形態に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態の構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【0014】
図1は、本発明の実施の形態による鋼管周溶接治具を用いて製造される溶接構造物の一例を示す斜視図である。図中の細線は溶接構造物の立体形状を表している。本発明の実施の形態による鋼管周溶接治具は、例えば図1に示すような溶接構造物の製造に用いることができる。図1に示すように、溶接構造物は、鋼管1と部品2とを有している。部品2は、鋼管1が接合される接合対象である。部品2は開口2aを有しており、鋼管1は部品2の開口2aの位置に合わせて部品2に周溶接されている。
【0015】
部品2は、長手方向2bと短手方向2cとを有する部材であり得る。図示の部品2は、基部20及び首部21を有している。基部20は、首部21が設けられた基礎部分である。図示の基部20は長方形の平板部分である。しかしながら、基部20の外形は、これに限定されず、例えば円形(楕円形)等の他の形状であってよい。また、基部20は、例えば湾曲板等の他の形状であってもよい。また、部品2は箱形又は管形等の立体形状を有していてよく、基部20はその立体形状の部品2の一部又は一面であってよい。例えば、部品2は鋼管1とは別の鋼管であり、基部20は別の鋼管の周壁であり、首部21はその周壁から径方向外方に突出されていてもよい(この場合、図示の溶接構造物は、部品2を元管とし、鋼管1をその元管の側部に接続された枝管とするT形状継手(チーズと呼ばれることもある)であり得る)。首部21は、基部20の長手方向2bに係る中間位置に配置されている。首部21は、基部20から基部20の面外へと突出されている。首部21の先端部は、鋼管1と同径の円環状とされている。開口2aは首部21の先端部により区画されている。首部21は、例えばバーリング加工等の任意の方法により形成されることができる。
【0016】
鋼管1は、部品2(より具体的には首部21の先端部)に周溶接されている。鋼管1の両側の端部のうち、部品2(首部21)側の端部を溶接端10と呼び、その逆側の端部を開放端11と呼ぶことがある。鋼管1の溶接端10と首部21の先端部との間には溶接により形成された接合部3(溶接ビード)が形成されている。接合部3は、溶接端10及び首部21の全周にわたって形成されていてよい。図示の鋼管1は、管長1Lが直径1D以下の管体とされている。しかしながら、鋼管1の管長1Lが直径1Dより大きくてもよい。限定はされないが、鋼管1の板厚は6mm以下であり、鋼管1の直径は500mm以下であり得る。
【0017】
図示はしないが、首部21が省略されて、開口2aが基部20に直接設けられていてもよい。この場合、鋼管1は、首部21ではなく、開口2aの位置に合わせて基部20の表面に周溶接されてよい。特にこのような場合、開口2aの直径は鋼管1の内径より小さくてもよい。また、部品2は鋼管1とは別の鋼管であってよく、開口2aは別の鋼管の端部に形成されていてよい。鋼管1は、別の鋼管(部品2)の長さを延長するように別の鋼管と同軸に配置されてもよい。
【0018】
鋼管1を部品2に周溶接するとき、局所的な溶接入熱により接合部3で熱膨張及び/又は収縮が起こり、鋼管1に変形が生じる場合がある。鋼管1の変形は、例えばγ系SUS鋼等の低熱伝導率かつ高熱膨張係数の材料により鋼管1が構成されているときに大きくなる傾向にある。鋼管1の溶接変形は全体的な縮径、又は一方向に拡径してその垂直方向に縮径する楕円状の変形の2つが基本的な形態である。図1に示す長手状の部品2の場合、鋼管1は、部品2の長手方向2bに関して拡径して、部品2の短手方向2cに関して縮径する傾向にある。
【0019】
このような変形が大きいと、鋼管1の径が接続先(図示せず)の径と合わなくなるため、溶接後に鋼管1の矯正が必要となる。本発明の実施の形態による鋼管周溶接治具は、鋼管1を部品2に周溶接する際に鋼管1の変形を抑え、溶接後の矯正の必要性を低減するために用いられる。
【0020】
次に、図2図1の本発明の実施の形態による鋼管周溶接治具を示す平面図であり、図3図2の線III-IIIに沿う鋼管周溶接治具の断面図である。図2及び図3では基部20の図示を省略している。また、図2及び図3では理解を容易にするために一部の構成を誇張していることがあり、各部の寸法は図示の寸法に必ずしも限定されない。
【0021】
図2及び図3に示す鋼管周溶接治具は、レール40と、レール40の一端側及び他端側に設けられた第1及び第2可動部41,42とをそれぞれ有する少なくとも1つの拘束体4を備えている。
【0022】
拘束体4の第1可動部41は、第1内側接触部41IN及び第1外側接触部41OUTの少なくとも1つを含んでいる。同様に、拘束体4の第2可動部42は、第2内側接触部42IN及び第2外側接触部42OUTの少なくとも1つを含んでいる。第1内側接触部41IN及び第2内側接触部42INは、レール40の一端側及び他端側において鋼管1の内壁と接触して、その鋼管1の内壁を拘束する(内壁の径方向内方への移動を規制する)ためのものである。第1外側接触部41OUT及び第2外側接触部42OUTは、レール40の一端側及び他端側において鋼管1の外壁と接触して、その鋼管1の外壁を拘束する(外壁の径方向外方への移動を規制する)ためのものである。
【0023】
第1内側接触部41IN及び第2内側接触部42INが内壁拘束部を構成し、第1外側接触部41OUT及び第2外側接触部42OUTが外壁拘束部を構成するとしたとき、拘束体4は、内壁拘束部及び外壁拘束部の少なくとも一方を有していてよい。鋼管1の様々な変形に対応するために内壁拘束部及び外壁拘束部の両方を拘束体4が有していることが好ましいが、特定の変形にのみ対応できれば十分であるときには内壁拘束部及び外壁拘束部のいずれか一方が省略されてよい。換言すると、第1内側接触部41IN及び第2内側接触部42INが省略されるか、又は第1外側接触部41OUT及び第2外側接触部42OUTが省略されていてよい。
【0024】
第1内側接触部41IN、第1外側接触部41OUT、第2内側接触部42IN及び第2外側接触部42OUTは、互いの間隔を調整できるようにレール40の長手方向に相対的に移動可能に設けられている。本実施の形態では、第1外側接触部41OUTがレール40の一端に固定されており、第1内側接触部41IN、第2内側接触部42IN及び第2外側接触部42OUTが移動可能に設けられている。レール40には、第1内側接触部41IN、第1外側接触部41OUT、第2内側接触部42IN及び第2外側接触部42OUTの離間距離を測定するための目盛りが設けられていてよい。目盛りは、固定された第1外側接触部41OUTからの距離を示していてよい。しかしながら、第1外側接触部41OUTがさらに移動可能に設けられていてもよい。
【0025】
本実施の形態における鋼管周溶接治具は、鋼管1の溶接端10が部品2(又はその首部21の先端)に突き当てられた状態で、少なくとも1つのレール40を鋼管1の外部に残しつつ、拘束体4の第1及び第2可動部41,42を鋼管1に設置するように構成されている。少なくとも1つのレール40の長さは、鋼管1の外径よりも大きくてよい。第1及び第2可動部41,42は、鋼管1の径方向に沿って見たときに鋼管1の周壁と重なる位置まで、鋼管1の開放端11から溶接端10に向けて鋼管1の長さ方向(軸方向)に進められる。
【0026】
また、鋼管周溶接治具は、第1可動部41の第1内側接触部41IN及び第1外側接触部41OUTの少なくとも1つにより、並びに第2可動部42の第2内側接触部42IN及び第2外側接触部42OUTの少なくとも1つにより、レール40の一端側及び他端側において鋼管1の内壁及び外壁の少なくとも一方を拘束した状態で、鋼管1の溶接端10を部品2(又はその首部21の先端)に周溶接できるように構成されている。
【0027】
鋼管周溶接治具は、鋼管1の溶接端10を部品2に周溶接した後であって、鋼管1及び接合部3が十分に冷却された後に、鋼管1から除去され得る。このような鋼管周溶接治具を用いることで、鋼管1の変形を抑え、溶接後の鋼管1の矯正の必要性を低減することができる。また、第1内側接触部41IN、第1外側接触部41OUT、第2内側接触部42IN及び第2外側接触部42OUTをレール40に沿って直線的に移動させることで様々な径の鋼管1に対応できる。これにより、本実施の形態の鋼管周溶接治具は、複雑な機構の使用を回避でき、機器コスト及び維持コストを低減できる。
【0028】
鋼管周溶接治具の各部の材料としては、任意のものを用いることができるが、鋼管1の材料よりも高耐力のもの、又はヤング率が大きく弾性変形しづらいものが好適である。鋼管1と接触する部分(第1内側接触部41IN、第1外側接触部41OUT、第2内側接触部42IN及び第2外側接触部42OUT)は鋼管1を傷つけないように樹脂やゴム等で被覆することができる。但し、被覆材は、溶接入熱により溶融及び/又は燃焼しないよう留意することが望まれる。
【0029】
本実施の形態では、第1可動部41が第1内側接触部41IN及び第1外側接触部41OUTを含み、第2可動部42が第2内側接触部42IN及び第2外側接触部42OUTを含んでいる。また、本実施の形態では、第1内側接触部41IN、第1外側接触部41OUT、第2内側接触部42IN及び第2外側接触部42OUTが互いに独立されている。換言すると、それらは、互いに独立して相対的に移動可能に設けられている。これにより、径及び/又は板厚が異なる様々な鋼管1の周溶接に細かく対応できる。しかしながら、例えば第1内側接触部41IN及び第1外側接触部41OUTが一体に設けられる等、少なくとも2つの接触部が互いに一体に設けられていてもよい。
【0030】
第1内側接触部41IN及び第1外側接触部41OUTの少なくとも一方、並びに第2内側接触部42IN及び第2外側接触部42OUTの少なくとも一方は、レール40の長手方向と比較してレール40に直交する方向に長く延びる接触部本体43を含む。レール40の長手方向は鋼管1の径方向に相当し、レール40に直交する方向は鋼管1の長さ方向に相当し得る。第1内側接触部41IN等がこのような接触部本体43を含むことで、少なくとも1つのレール40を鋼管1の外部に残した状態で、鋼管1の内壁及び外壁の少なくとも一方をより確実に拘束できる。
【0031】
接触部本体43は、直線的に形成され、鋼管1の開放端11から接合部3の近傍まで鋼管1の内壁及び/又は外壁と連続的に接触されるように構成されていることが好ましい。接合部3の近傍のみでの接触であっても鋼管1の変形を抑えることができるが、接触部本体43が直線的に形成されていることで、拘束体4の第1及び第2可動部41,42を鋼管1に対して設置及び/又は除去する際の鋼管周溶接治具の取り回しが容易になる。
【0032】
接触部本体43の長さは、鋼管1の内壁及び外壁の少なくとも一方をより確実に拘束できるようにするために、接触部本体43と鋼管1の内壁及び/又は外壁との接触長さが鋼管1の管長1Lの3/4以上となる長さであることが好ましい。鋼管1の管長1Lが40mm以下の場合、接触部本体43の長さは、鋼管1の開放端11に鋼管周溶接治具を載置した状態で、接触部本体43の先端と開放端11側の接合部3の端部との間の距離が10mm以下であることが好ましい。また、鋼管1の管長1Lに拘わらず、接触部本体43の長さは、鋼管1の外部に残されるレール40を開放端11に載置した状態で、接触部本体43の先端と開放端11側の接合部3の端部との間の距離が5mm以上であることが好ましい。接触部本体43への溶接の熱の影響を抑えるためである。
【0033】
第1内側接触部41IN及び第1外側接触部41OUTの少なくとも一方、並びに第2内側接触部42IN及び第2外側接触部42OUTの少なくとも一方は、レール40に移動可能に取り付けられるとともに接触部本体43を支持する支持部44をさらに含む。支持部44は、レール40の外形に適合した内面を有する貫通孔又は溝を有する枠体であり得る。接触部本体43は、レール40の長手方向に直交する方向に支持部44から延出されている。
【0034】
第1内側接触部41IN及び第1外側接触部41OUTの少なくとも一方、並びに第2内側接触部42IN及び第2外側接触部42OUTの少なくとも一方は、レール40に対して支持部44を固定する固定部45をさらに有していてよい。固定部45は、先端がレール40の外面に当接可能に支持部44に螺着されたボルトであり得る。
【0035】
接触部本体43は、鋼管1の内壁及び外壁の少なくとも一方に線接触する側端43aを有していてよい。側端43aが対象に線接触するとは、側端43aの先端幅が、例えば3.0mm以下、好ましくは2.0mm以下、より好ましくは1.0mm以下等、極めて狭いことを意味する。側端43aの先端幅が広いと、曲率が大きな(直径が小さな)鋼管1の壁面に側端43aの最先端が接触できないことがある。線接触する側端43aであれば様々な鋼管1の壁面に対応できる。接触部本体43は、基部430と、その基部430からレール40の長さ方向に突出され基部430から離れるにつれて先細り状とされた側部431とを有していてよく、側部431の先細り状の先端部分が側端43aであってよい。なお、図3の左側の接触部本体43の下部に、接触部本体43の底面図を示している。
【0036】
少なくとも1つの拘束体4は、それぞれのレール40が互いに交わる方向に延在された第1及び第2拘束体4A,4Bを含んでいてよい。第2拘束体4Bのレール40は、第1拘束体4Aのレール40の長手方向に移動可能に第1拘束体4Aのレール40に取り付けられていてよい。このように第2拘束体4Bのレール40が移動可能に取り付けられていることで、様々な径の鋼管1に対応できる。しかしながら、例えば鋼管1の径が固定されているような場合には、第2拘束体4Bのレール40が第1拘束体4Aのレール40と固定的に一体に設けられていてもよい。
【0037】
第1及び第2拘束体4A,4Bは、それらのレール40の長手方向に直交する方向(鋼管1の長さ方向)又は上下に重なるように配置されていてよい。図示の態様では第2拘束体4Bのレール40は、第1拘束体4Aのレール40及び鋼管1の直径1Dよりも長い。しかしながら、第2拘束体4Bのレール40は、第1拘束体4Aのレール40及び鋼管1の直径1Dよりも短くてよく、鋼管1の溶接端10を部品2に周溶接する際に鋼管1の内側に挿入されてよい。この場合、第2拘束体4Bは内壁拘束部(第1内側接触部41IN及び第2内側接触部42IN)のみを有する。なお、第2拘束体4Bのレール40が第1拘束体4Aのレール40と固定的に一体に設けられる場合、第1及び第2拘束体4A,4Bのレール40は互いに同じ高さ位置に配置されていてよい。
【0038】
第2拘束体4Bのレール40は、レール支持体46によって第1拘束体4Aのレール40に取り付けられていてよい。レール支持体46は、移動可能に第1拘束体4Aのレール40に取り付けられた第1支持体461と、その第1支持体461と一体に設けられるとともに第2拘束体4Bのレール40を移動可能に支持する第2支持体462とを有していてよい。レール支持体46は、第1拘束体4Aのレール40に対する第1支持体461の位置を固定するための第1固定体463と、第2支持体462に対する第2拘束体4Bのレール40の位置を固定するための第2固定体464とをさらに有していてよい。しかしながら、第2支持体462及び第2固定体464が省略されて、第2拘束体4Bのレール40が第1支持体461に直接的に固定されていてもよい。
【0039】
第2拘束体4Bのレール40は、第1拘束体4Aのレール40に直交するように延在されていてよい。しかしながら、それらのレール40が交わる角度が90°未満又は90°超であってもよい。第1及び第2拘束体4A,4Bの間で第1及び第2可動部41,42の構成が異なっていてよい。例えば、第1拘束体4Aが外壁拘束部(第1外側接触部41OUT及び第2外側接触部42OUT)のみを有し、第2拘束体4Bが内壁拘束部(第1内側接触部41IN及び第2内側接触部42IN)のみを有していてよい。
【0040】
拘束体4の数は1又は3以上であってもよい。限定はされないが、拘束体4の数が3以上であるとき、それらの拘束体4のレール40が交わる角度は、拘束体4の数で180°を除した数値であってよい。例えば3つの拘束体4が設けられるとき、それらの拘束体4のレール40が交わる角度は60°(=180°÷3)であってよい。図示しない第3拘束体のレールは第2拘束体4Bのレール40の長手方向に移動可能に第2拘束体4Bのレール40に取り付けられていてよく、それ以降も同様である。但し、設置の手間や効果を鑑みると、2つの拘束体4が好適であることが多いと考える。
【0041】
本発明の実施の形態に係る溶接構造物の製造方法は、上述のような鋼管周溶接治具を用いて、鋼管1の溶接端10を部品2に周溶接することを含む。すなわち、溶接構造物の製造方法は、鋼管1の溶接端10が部品2に突き当てられた状態で、少なくとも1つのレール40を鋼管1の外部に残しつつ、少なくとも1つの拘束体4の第1及び第2可動部41,42を鋼管1に設置し、第1可動部41の第1内側接触部41IN及び第1外側接触部41OUTの少なくとも1つにより、並びに第2可動部42の第2内側接触部42IN及び第2外側接触部42OUTの少なくとも1つにより、レール40の一端側及び他端側において鋼管1の内壁及び外壁の少なくとも一方を拘束した状態で、鋼管1の溶接端10を部品2に周溶接することを含む。レール40を鋼管1の外部に残しつつ、少なくとも1つの拘束体4の第1及び第2可動部41,42を鋼管1に設置するため、本実施の形態の鋼管周溶接治具及びそれを用いた溶接構造物の製造方法は、鋼管1の管長1Lが直径1D以下である場合に特に適している。
【0042】
溶接構造物は、部品2を元管とし、鋼管1をその元管の側部に接続された枝管とするT形状継手であってよい(図1参照)。上述のようにT形状継手の場合、鋼管1は、部品2の長手方向2bに関して拡径して、部品2の短手方向2cに関して縮径する傾向にある。例えば、第1拘束体4Aにより鋼管1の外壁を拘束することで部品2の長手方向2bに関する拡径を抑え、第2拘束体4Bにより鋼管1の内壁を拘束することで部品2の短手方向2cに関する縮径を抑えることができる。
【0043】
長手状の部品2のように変形様式が既知の場合には、第1拘束体4Aにより鋼管1の外壁のみを拘束し、第2拘束体4Bにより鋼管1の内壁のみを拘束してよい。換言すると、第1拘束体4Aにおいて第1内側接触部41IN及び第2内側接触部42INが省略され、第2拘束体4Bにおいて第1外側接触部41OUT及び第2外側接触部42OUTが省略されてもよい。しかしながら、変形様式が不明の場合は、第1及び第2拘束体4A,4Bのそれぞれにおいて鋼管1の外壁及び内壁を拘束することが好ましい。
【0044】
なお、鋼管1は、部品2の長さを延長するように部品2と同軸に配置されてもよい。このような場合、もう一つの鋼管周溶接治具を準備し、その鋼管周溶接治具の少なくとも1つの拘束体4の第1及び第2可動部41,42を部品2にも設置してよい。すなわち、鋼管1のみならず、部品2の変形もさらに抑えてよい。
【0045】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【実施例0046】
本発明者は、上述のような鋼管周溶接治具を用いて、部品2の開口2aの位置に合わせて鋼管1を部品2に周溶接した溶接構造物を試作した。鋼管1として直径100mmのSUS304製の鋼管を用い、部品2は長さ250mm、幅150mmの平板に下穴を空けたのち、バーリング加工にて首部21を成形した。首部21の先端部分に直径100mmの開口2aが設けられている。ノンフィラーTIG溶接により部品2の首部21に鋼管1を周溶接した。周溶接を行う際、第1拘束体4Aにより鋼管1の外壁を拘束することで部品2の長手方向bに関する拡径を抑え、第2拘束体4Bにより鋼管1の内壁を拘束することで部品2の短手方向2cに関する縮径を抑えた。実施例1として、接触部本体43の側端43aが鋼管1の内壁及び外壁に線接触する鋼管周溶接治具を用いた。実施例2として、接触部本体43の側端43aと鋼管1の内壁及び外壁との接触幅が15mmに設定された鋼管周溶接治具を用いた。その際の鋼管1の最小径及び最大径を測定した。
【0047】
比較例1として、周溶接時に鋼管1の内壁及び外壁を拘束しなかった場合の鋼管1の最小径及び最大径も測定した。また、比較例2として、周溶接時に鋼管1の内壁及び外壁を全周にわたって拘束した場合の鋼管1の最小径及び最大径も測定した。
【0048】
図4は、実施例における鋼管1の最小径及び最大径の測定結果を示すグラフである。図4のグラフに示すように、実施例1,2と比較例1との比較から分かるように、周溶接時に鋼管周溶接治具を用いて鋼管1の内壁及び外壁を拘束することで、鋼管1の変形を抑えることができることが分かった。また、実施例1,2と比較例2との比較から分かるように、鋼管周溶接治具を用いた場合、全周にわたって拘束した場合よりは若干の変形が見られるものの、鋼管1の変形を十分に抑えられることが分かった。実施例1,2の比較から分かるように、鋼管1の内壁及び外壁と接触部本体43の側端43aとの接触幅による鋼管1の変形量への影響は殆ど無く、接触部本体43の側端43aが鋼管1の内壁及び外壁に線接触していてよいことも分かった。
【0049】
なお、本明細書に記載された発明は、次のように記載することも可能である。
[1]
部品の開口の位置に合わせて鋼管を前記部品に周溶接する際に前記鋼管の変形を抑えるための鋼管周溶接治具であって、
レールと、前記レールの一端側及び他端側に設けられた第1及び第2可動部とを有し、前記第1可動部は第1内側接触部及び第1外側接触部の少なくとも1つを含み、前記第2可動部は第2内側接触部及び第2外側接触部の少なくとも1つを含み、前記第1内側接触部、前記第1外側接触部、前記第2内側接触部及び前記第2外側接触部は、互いの間隔を調整できるように前記レールの長手方向に相対的に移動可能に設けられている、少なくとも1つの拘束体
を備え、
前記鋼管は、前記部品に周溶接される溶接端と、前記溶接端とは逆側に位置する開放端とを有しており、
前記鋼管の前記溶接端が前記部品に突き当てられた状態で、少なくとも1つの前記レールを前記鋼管の外部に残しつつ、前記少なくとも1つの拘束体の前記第1及び第2可動部を前記鋼管に設置し、前記第1可動部の前記第1内側接触部及び第1外側接触部の少なくとも1つにより、並びに前記第2可動部の前記第2内側接触部及び第2外側接触部の少なくとも1つにより、前記レールの一端側及び他端側において前記鋼管の内壁及び外壁の少なくとも一方を拘束した状態で、前記鋼管の前記溶接端を前記部品に周溶接できるように構成されている、
鋼管周溶接治具。
[2]
前記第1可動部は、前記第1内側接触部及び前記第1外側接触部を含み、
前記第2可動部は、前記第2内側接触部及び前記第2外側接触部を含み、
前記第1内側接触部、前記第1外側接触部、前記第2内側接触部及び前記第2外側接触部は、互いに独立されている、
第1項に記載の鋼管周溶接治具。
[3]
前記第1内側接触部及び前記第1外側接触部の少なくとも一方、並びに前記第2内側接触部及び前記第2外側接触部の少なくとも一方は、前記レールの長手方向と比較して前記レールに直交する方向に長く延びる接触部本体を含む、
第1又は2項に記載の鋼管周溶接治具。
[4]
前記第1内側接触部及び前記第1外側接触部の少なくとも一方、並びに前記第2内側接触部及び前記第2外側接触部の少なくとも一方は、前記レールに移動可能に取り付けられるとともに前記接触部本体を支持する支持部をさらに含む
第3項に記載の鋼管周溶接治具。
[5]
前記第1内側接触部及び前記第1外側接触部の少なくとも一方、並びに前記第2内側接触部及び前記第2外側接触部の少なくとも一方は、前記レールに対して前記支持部を固定する固定部をさらに含む、
第4項に記載の鋼管周溶接治具。
[6]
前記接触部本体は、前記鋼管の内壁及び外壁の少なくとも一方に線接触する側端を有している、
第3から5項までのいずれか1項に記載の鋼管周溶接治具。
[7]
前記少なくとも1つの拘束体は、それぞれの前記レールが互いに交わる方向に延在された第1及び第2拘束体を含み、
前記第2拘束体の前記レールは、前記第1拘束体の前記レールの前記長手方向に移動可能に前記第1拘束体の前記レールに取り付けられている、
第1から6項までのいずれか1項に記載の鋼管周溶接治具。
[8]
溶接構造物を製造するための溶接構造物の製造方法であって、第1から7項までのいずれか1項に記載の鋼管周溶接治具を用いて、前記鋼管の前記溶接端を前記部品に周溶接することを含む、溶接構造物の製造方法。
鋼管
【符号の説明】
【0050】
1 :鋼管
10 :溶接端
11 :開放端
2 :部品
4 :拘束体
4A :第1拘束体
4B :第2拘束体
40 :レール
41 :第1可動部
41IN :第1内側接触部
41OUT :第1外側接触部
42 :第2可動部
42IN :第2内側接触部
42OUT :第2外側接触部
43 :接触部本体
43a :側端
431 :側部
44 :支持部
45 :固定部
図1
図2
図3
図4