(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024102676
(43)【公開日】2024-07-31
(54)【発明の名称】捺染用インクジェットインク、画像形成方法及び画像形成装置
(51)【国際特許分類】
C09D 11/322 20140101AFI20240724BHJP
D06P 5/30 20060101ALI20240724BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20240724BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20240724BHJP
【FI】
C09D11/322
D06P5/30
B41M5/00 120
B41J2/01 501
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023006732
(22)【出願日】2023-01-19
(71)【出願人】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】白石 雅晴
(72)【発明者】
【氏名】仁藤 謙
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4H157
4J039
【Fターム(参考)】
2C056EA04
2C056FB03
2C056FC01
2H186AB03
2H186AB05
2H186AB06
2H186AB12
2H186AB41
2H186BA08
2H186DA17
2H186FB11
2H186FB15
2H186FB16
2H186FB17
2H186FB18
2H186FB22
2H186FB25
2H186FB29
2H186FB48
2H186FB54
4H157AA02
4H157BA15
4H157CA12
4H157CA14
4H157CA29
4H157CB02
4H157CC01
4H157DA01
4H157GA06
4J039BC13
4J039BE01
4J039BE22
4J039CA06
4J039EA36
4J039EA46
4J039EA48
4J039FA03
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】ヘッドの表面へのバインダ樹脂の付着に起因する吐出曲がりや吐出欠を抑制可能な捺染用インクジェットインクの提供。
【解決手段】顔料、水分散性樹脂、界面活性剤及び水を含む捺染用の水系インクジェットインクであって、前記水分散性樹脂のガラス転移温度Tgは、-35℃以下であり、前記界面活性剤を1質量%含む水溶液の、50msecにおける動的表面張力が45mN/m以下であり、且つ静的表面張力が20mN/m以上である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料、水分散性樹脂、界面活性剤及び水性媒体を含み、
前記水分散性樹脂のガラス転移温度Tgは、-35℃以下であり、
前記界面活性剤を1質量%含む水溶液の、50msecにおける動的表面張力が45mN/m以下であり、且つ静的表面張力が20mN/m以上である、
捺染用インクジェットインク。
【請求項2】
前記水分散性樹脂の含有量は、前記捺染用インクジェットインクに対して1~15質量%である、
請求項1に記載の捺染用インクジェットインク。
【請求項3】
前記界面活性剤は、アセチレングリコール系界面活性剤又はアセチレンアルコール系界面活性剤を含む、
請求項1に記載の捺染用インクジェットインク。
【請求項4】
前記界面活性剤の含有量は、前記捺染用インクジェットインクに対して0.1~5質量%である、
請求項1に記載の捺染用インクジェットインク。
【請求項5】
布帛に、請求項1~4のいずれか一項に記載の捺染用インクジェットインクをインクジェット記録ヘッドから吐出し、前記布帛に付着させる工程を含む、
画像形成方法。
【請求項6】
前記インクジェット記録ヘッドのノズル面の25℃における水の接触角は、90~130°である、
請求項5に記載の画像形成方法。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか一項に記載の捺染用インクジェットインクを収容するインク収容部と、
前記捺染用インクジェットインクを吐出するインクジェット記録ヘッドと、
を有する、
画像形成装置。
【請求項8】
前記インクジェット記録ヘッドのノズル面の25℃における水の接触角は、90~130°である、
請求項7に記載の画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、捺染用インクジェットインク、画像形成方法及び画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
捺染方法として、従来では、染料で満たされた浴に布帛を浸漬して捺染を行う吸尽捺染が知られているが、染色に長時間を要することから、生産効率が低かった。近年では、短時間で染色でき、生産効率が高いこと等から、インクジェット法により布帛への画像形成を行う、所謂、インクジェット捺染が広く行われている。
【0003】
インクジェット捺染では、インクの微小液滴をインクジェット記録ヘッドから吐出させ、布帛に着弾させて画像形成を行う。インクジェット捺染で使用されるインクとしては、染料インクが主流であるが、溶解又は反応しなかった染料を洗い流す洗浄工程等の後処理を省略可能な顔料インクの使用が検討されている。
【0004】
顔料インクは、布帛の表面に顔料粒子を留まらせることで、高い発色性を示す一方、染料インクと比べて顔料粒子の定着性が低く、摩擦堅牢性が劣る傾向がある。そこで、インク中に樹脂粒子(水分散性樹脂)を添加したり、インク上に後処理液を付与したりすることで、顔料粒子の定着性を高め、摩擦堅牢性を高める検討がなされている。
【0005】
そのような顔料インクとしては、例えば顔料、ウレタン樹脂及びスチレン・アクリル樹脂を含むインクが開示されている(特許文献1参照)。ウレタン樹脂としては、Tgが-10~40℃程度のものが使用され、スチレン・アクリル樹脂としては、Tgが71~103℃のものが使用されている。
【0006】
ところで、インクジェット捺染に限らず、インクジェットインクの吐出安定性や濡れ広がりを改善するために、界面活性剤が添加されることがある。そのようなインクジェットインクとしては、顔料、水分散性樹脂、界面活性剤及び水を含む水系インクジェットインクが知られている(例えば特許文献2~3)。水分散性樹脂としては、特許文献2ではTgが45℃以上のもの、特許文献3ではTgが80℃以上のものが使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2021-14516号公報
【特許文献2】特開2020-56018号公報
【特許文献3】特開2013-18951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、インクジェット捺染では、水分散性樹脂として、特許文献1~3に示されるようなTgの高い樹脂を用いると、画像形成後の布帛が硬くなりやすく、風合いが損なわれやすい。そのため、風合いを損なわないようにするために、Tgが低い樹脂、具体的には、Tgが-30℃もよりも低い樹脂を用いることが望まれる。
【0009】
しかしながら、Tgが-30℃もよりも低い樹脂を用いると、インクジェット記録ヘッドから吐出する際に、ヘッドの表面に樹脂が付着しやすく、吐出曲がりや吐出欠を生じやすいという問題があった。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、インクジェット記録のノズル面への樹脂の付着を抑制し、吐出曲がりや吐出欠を抑制可能な捺染用インクジェットインク、画像形成方法及び画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下の捺染用インクジェットインク、画像形成方法及び画像形成装置に関する。
【0012】
[1] 顔料、水分散性樹脂、界面活性剤及び水性媒体を含み、前記水分散性樹脂のガラス転移温度Tgは、-35℃以下であり、前記界面活性剤を1質量%含む水溶液の、50msecにおける動的表面張力が45mN/m以下であり、且つ静的表面張力が20mN/m以上である、捺染用インクジェットインク。
[2] 前記水分散性樹脂の含有量は、前記捺染用インクジェットインクに対して1~15質量%である、[1]に記載の捺染用インクジェットインク。
[3] 前記界面活性剤は、アセチレングリコール系界面活性剤又はアセチレンアルコール系界面活性剤を含む、[1]又は[2]に記載の捺染用インクジェットインク。
[4] 前記界面活性剤の含有量は、前記捺染用インクジェットインクに対して0.1~5質量%である、[1]~[3]のいずれかに記載の捺染用インクジェットインク。
[5] 布帛に、[1]~[4]のいずれかに記載の捺染用インクジェットインクをインクジェット記録ヘッドから吐出し、前記布帛に付着させる工程を含む、画像形成方法。
[6] 前記インクジェット記録ヘッドのノズル面の25℃における水の接触角は、90~130°である、[5]に記載の画像形成方法。
[7] [1]~[4]のいずれかに記載の捺染用インクジェットインクを収容するインク収容部と、前記捺染用インクジェットインクを吐出するインクジェット記録ヘッドと、を有する、画像形成装置。
[8] 前記インクジェット記録ヘッドのノズル面の25℃における水の接触角は、90~130°である、[7]に記載の画像形成装置。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、インクジェット記録ヘッドのノズル面への樹脂の付着を抑制し、吐出曲がりや吐出欠を抑制可能な捺染用インクジェットインク、画像形成方法及び画像形成装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、界面活性剤の表面張力と、ノズル面への樹脂の付着との関係を検討したグラフである。
【
図2】
図2は、本実施形態で用いられる画像形成装置を示す模式的な図である。
【
図3】
図3は、折り曲げ試験の概要を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
インクジェット記録ヘッドのノズル面への樹脂の付着を抑制するためには、インクの静的表面張力を高くすること;そのためには、静的表面張力の高い界面活性剤をインクに含有させることが有効であると考えられる。しかしながら、静的表面張力の高い界面活性剤を含有させるだけでは、ノズル面への樹脂の付着を抑制できない場合があることが判明した。
【0016】
図1は、インクに添加する界面活性剤の表面張力と、インクジェット記録ヘッドのノズル面への樹脂の付着との関係を検討したグラフである。
図1において、横軸は、界面活性剤の静的表面張力を示し;縦軸は、界面活性剤の動的表面張力を示す。
図1に示すように、界面活性剤の静的表面張力が高いほうが、ノズル面への樹脂の付着を抑制しやすい傾向はあるものの;動的表面張力が高い場合は(
図1の領域Aよりも上側)、樹脂の付着を抑制できない場合があることがわかる。
【0017】
上記結果を受けて、本発明者らは、インクの静的表面張力だけでなく、動的表面張力も所定の範囲に調整することを検討した。そして、1質量%水溶液としたときの静的表面張力が20mN/m以上となり、且つ50msecにおける動的表面張力が45mN/m以下となるような界面活性剤(
図1の領域A参照)をインクに添加することで、インクジェット記録ヘッドのノズル面への樹脂の付着を抑制できることを見出した。この理由は明らかではないが、インクが記録ヘッドから吐出される時に、界面活性剤がインクの液滴の表面に配向することで、インクの液滴がインクジェット記録ヘッドのノズル面に濡れにくく、剥がれ落ちやすくなるためと考えられる。
【0018】
即ち、本発明では、界面活性剤を水に1質量%添加した水溶液の、静的表面張力が20mN/m以上となり、且つ50msecにおける動的表面張力が45mN/m以下となる界面活性剤を、インクジェットインクに含有させる。以下、本発明のインクジェットインクの構成について詳細に説明する。
【0019】
1.インクジェットインク
本発明の一実施形態に係るインクジェットインク(以下、単に「インク」ともいう)は、好ましくはインクジェット捺染に用いられるものであり、顔料と、水分散性樹脂と、界面活性剤と、水性媒体とを含む。
【0020】
1-1.顔料
顔料は、特に限定されないが、例えばカラーインデックスに記載される下記番号の有機顔料又は無機顔料でありうる。
【0021】
橙又は黄顔料の例としては、C.I.ピグメントオレンジ31、C.I.ピグメントオレンジ43、C.I.ピグメントイエロー12、C.I.ピグメントイエロー13、C.I.ピグメントイエロー14、C.I.ピグメントイエロー15、C.I.ピグメントイエロー17、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントイエロー83、C.I.ピグメントイエロー93、C.I.ピグメントイエロー94、C.I.ピグメントイエロー128、C.I.ピグメントイエロー138、C.I.ピグメントイエロー151、C.I.ピグメントイエロー154、C.I.ピグメントイエロー155、C.I.ピグメントイエロー180、C.I.ピグメントイエロー185、C.I.ピグメントイエロー213等が挙げられる。
【0022】
赤又はマゼンタ顔料の例には、Pigment Red 3、5、19、22、31、38、43、48:1、48:2、48:3、48:4、48:5、49:1、53:1、57:1、57:2、58:4、63:1、81、81:1、81:2、81:3、81:4、88、104、108、112、122、123、144、146、149、166、168、169、170、177、178、179、184、185、208、216、226、257、Pigment Violet 3、19、23、29、30、37、50、88、Pigment Orange 13、16、20、36が含まれる。
【0023】
青又はシアン顔料の例には、Pigment Blue 1、15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:6、16、17-1、22、27、28、29、36、60が含まれる。
【0024】
緑顔料の例には、Pigment Green 7、26、36、50が含まれる。黄顔料の例には、Pigment Yellow 1、3、12、13、14、17、34、35、37、55、74、81、83、93、94,95、97、108、109、110、137、138、139、153、154、155、157、166、167、168、180、185、193が含まれる。
【0025】
黒顔料の例には、Pigment Black 7、28、26が含まれる。
【0026】
白顔料の例には、二酸化チタン等が含まれる。
【0027】
顔料は、インク中における分散性を高める観点から、顔料分散剤でさらに分散されていることが好ましい。顔料分散剤については、後述する。
【0028】
また、顔料は、自己分散性顔料であってもよい。自己分散性顔料は、顔料粒子の表面を、親水性基を有する基で修飾したものであり、顔料粒子と、その表面に結合した親水性を有する基とを有する。
【0029】
親水性基の例には、カルボキシル基、スルホン酸基、及びリン含有基が含まれる。リン含有基の例には、リン酸基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基、ホスファイト基、ホスフェート基が含まれる。
【0030】
自己分散性顔料の市販品の例には、Cabot社Cab-0-Jet(登録商標)200K、250C、260M、270V(スルホン酸基含有自己分散性顔料)、Cab-0-Jet(登録商標)300K(カルボン酸基含有自己分散性顔料)、Cab-0-Jet(登録商標)400K、450C、465M、470V、480V(リン酸基含有自己分散性顔料)が含まれる。
【0031】
顔料の含有量は、特に限定されないが、インクの粘度を上記範囲内に調整しやすく、高濃度の画像を形成可能にする観点では、インクに対して0.3~10質量%であることが好ましく、0.5~3質量%であることがより好ましい。顔料の含有量が下限値以上であると、画像の色が一層鮮やかになりやすい。顔料の含有量が上限値以下であると、インクの粘度が高くなりすぎず、吐出安定性が損なわれにくい。
【0032】
1-2.水分散性樹脂
水分散性樹脂は、顔料等を布帛に定着させる目的で含まれうる。画像形成しても布帛が硬くなりにくく、風合いを良好に維持する観点から、水分散性樹脂のガラス転移温度Tgは、低いことが好ましい。具体的には、水分散性樹脂のTgは、-35℃以下であり、好ましくは-35~-70℃である。水分散性樹脂のTgは、示差走査熱量測定法により、JIS K 7121に準拠して、昇温速度10℃/分にて測定することができる。
【0033】
水分散性樹脂のTgは、水分散性樹脂の種類やモノマー組成により調整することができる。例えば、(メタ)アクリル樹脂の場合、アルキルアクリレートに由来する構造単位(a)の含有量を多くすれば、Tgは低くなりやすい。
【0034】
水分散性樹脂の種類は、Tgが上記範囲を満たすものであれば特に制限されない。水分散性樹脂の例には、(メタ)アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂等が含まれる。中でも、良好な柔軟性を有し、布帛の風合いを一層維持しやすい観点では、(メタ)アクリル樹脂及びポリウレタン樹脂が好ましい。なお、本明細書において、(メタ)アクリルとは、アクリル、メタクリル、又はこれらの両方を表す。
【0035】
また、水分散性樹脂は、イオン性基を有していてもよい。水分散性樹脂が有するイオン性基は、布帛に付着した凝集剤のイオン性基と対をなすイオン性基であってもよい。例えば、凝集剤は、通常、カチオン性基を有することから、インクに含まれる水分散性樹脂は、アニオン性基を有してもよい。アニオン性基の例には、カルボキシル基、スルホン酸基、ホスホン酸基が含まれる。
【0036】
((メタ)アクリル樹脂)
(メタ)アクリル樹脂は、(メタ)アクリル単量体に由来する構造単位を含む重合体である。
【0037】
(メタ)アクリル単量体は、(メタ)アクリロイル基を有する単量体であり、その例には、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリルアミド類等が含まれる。なお、(メタ)アクリルは、メタクリル及びアクリルの両方を含む概念である。中でも、(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましい。
【0038】
即ち、(メタ)アクリル樹脂は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構造単位(a)を含み、水分散性や凝集性を高める観点等から、アニオン性基を有する不飽和化合物に由来する構造単位(b)をさらに含むことが好ましい。
【0039】
構造単位(a)は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する。樹脂のTgを低くする観点では、(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、アクリル酸アルキルエステルを含むことが好ましい。アクリル酸アルキルエステルのアルキル基の炭素数は、例えば1~20であり、好ましくは4~12、より好ましくは4~8である。アクリル酸アルキルエステルの例には、ブチルアクリレート、ペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘプチルアクリレート及び2-エチルヘキシルアクリレート等が含まれ、好ましくはブチルアクリレートである。
【0040】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、1種類だけであってもよいし、2種類以上を組み合わせてもよい。例えば、アクリル酸アルキルエステルとメタクリル酸アルキルエステルとを併用してもよい。
【0041】
構造単位(a)の含有量は、特に制限されないが、(メタ)アクリル樹脂を構成する全構造単位に対して70~96質量%であることが好ましい。上記含有量が70質量%以上であると、樹脂のTgをより低くしやすい。上記含有量が96質量%以下であると、耐摩擦性等が損なわれにくい。同様の観点から、上記含有量は、(メタ)アクリル樹脂を構成する全構造単位に対して80~90質量%であることがより好ましい。
【0042】
構造単位(b)は、アニオン性基を有する不飽和化合物に由来する。カルボキシ基を有する不飽和化合物の例には、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、2-アクリロイロキシエチルコハク酸等のエチレン性不飽和カルボン酸が含まれる。スルホン酸基を有する不飽和化合物の例には、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸が含まれる。リン酸基を有する不飽和化合物の例には、ビニルホスホン酸、リン酸2-((メタ)アクリロイルオキシ)エチル等が含まれる。中でも、エチレン性不飽和カルボン酸が好ましい。
【0043】
構造単位(b)の含有量は、特に制限されないが、(メタ)アクリル樹脂を構成する全構造単位に対して3~15質量%であることが好ましい。上記含有量が3質量%以上であると、インク中への水分散性樹脂の分散性や凝集性を一層高めやすい。上記含有量が15質量%以下であると、インクの粘度を増大させにくく、吐出安定性が損なわれにくい。同様の観点から、構造単位(b)の含有量は、(メタ)アクリル樹脂を構成する全構造単位に対して3~10質量%であることがより好ましい。
【0044】
(メタ)アクリル樹脂は、上記以外の他の単量体に由来する構造単位(c)をさらに含んでもよい。他の単量体の例には、エチレン性不飽和カルボン酸(例えばマレイン酸、イタコン酸);スチレン類(例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン);飽和脂肪酸ビニル類(例えば酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル);ビニル化合物(例えば1,4-ジビニロキシブタン、ジビニルベンゼン等);アリル化合物(例えばジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート等);アクリルアミド等の単官能の単量体や;ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、N,N’-メチレンビス(アクリルアミド)等の多官能(メタ)アクリレート)、多官能アクリルアミド等の二官能以上の単量体が挙げられる。
【0045】
(メタ)アクリル樹脂の市販品の例には、EMN-325(日本触媒社製アクリセット、アクリル系エラストマー、Tg:-50℃)、EMN-326(日本触媒社製アクリセット、アクリル系エラストマー、Tg:-50℃)等が含まれる。
【0046】
(ウレタン樹脂)
ウレタン樹脂は、熱可塑性ウレタン樹脂である。熱可塑性ウレタン樹脂は、例えば、鎖延長剤としての低分子量ジオール、ポリイソシアネート、及びポリオールの反応生成物でありうる。また、ウレタン樹脂は、自己乳化型のものであることが好ましい。自己乳化型のウレタン樹脂は、例えば、鎖延長剤としての低分子量ジオール、アニオン性基を有するポリイソシアネート、及びポリオールの反応生成物でありうる。
【0047】
低分子量ジオールは、グリコールの二官能性脂肪族オリゴマーである。グリコールの典型的な二官能性脂肪族オリゴマーとして、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4ブタンジオール、1,6ヘキサンジオール等が挙げられる。
【0048】
ポリイソシアネートは、好ましくはジイソシアネートであり、その例には、ジフェニルメタンジイソシアネート、例えば、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート;
4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、2,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート等が挙げられる。
【0049】
ポリオールは、ポリエステルポリオールであってもよいし、ポリエーテルポリオールであってもよい。ポリエステルポリオールの例には、ポリカルボン酸とポリオールの反応生成物でありうる。ポリカルボン酸の例には、マロン酸、クエン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、マレイン酸、フマル酸、テレフタル酸、フタル酸が含まれる。ポリカルボン酸と反応させるポリオールの例には、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、2-メチルグルコシド、ソルビトール、低分子量ポリオール、例えば、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール及びブロックヘテロポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレングリコール等が挙げられる。
【0050】
熱可塑性ポリウレタンは、分子中に硬質セグメントと軟質セグメントとを含む。硬質セグメントは、主に、ポリイソシアネートと低分子量ジオールとの反応により生成される部分であり;軟質セグメントは、主に、ポリオールの部分でありうる。
【0051】
熱可塑性ポリウレタンのポリマー鎖中の硬質セグメントと軟質セグメントの質量比は、例えば75/25~15/85(質量比)、好ましくは60/40~25/75(質量比)である。Tgを低くする観点では、軟質セグメントの質量比を高くすること、例えば硬質セグメントよりも軟質セグメントの質量比を高くしてもよい。
【0052】
熱可塑性ポリウレタンの市販品の例には、エラストラン1185A(BASF社製、熱可塑性ポリウレタンエラストマー、Tg:-41℃)が含まれる。
【0053】
(全般)
水分散性樹脂の酸価は、特に制限されないが、摩擦堅牢性を一層高める観点では、15~100mgKOH/gであることが好ましく、20~80mgKOH/gであることがより好ましい。水分散性樹脂の酸価は、JIS K 0070に従って測定することができる。
【0054】
水分散性樹脂の酸価は、構造単位(b)の含有量によって調整することができる。例えば、酸性基を有する不飽和化合物に由来する構造単位(b)の含有量を多くすれば、酸価は高くなる。
【0055】
インク中における水分散性樹脂の平均粒子径は、特に制限されないが、例えばインクジェットによる吐出性の観点から、好ましくは30~200nm、より好ましくは50~120nmである。平均粒子径は、一次粒子径の平均値である。平均粒子径は、例えばMelvern社製のZataizer Nano S90における分散粒径(Z平均)として測定することができる。
【0056】
水分散性樹脂の重量平均分子量は、特に制限されないが、例えば摩擦堅牢性を高める観点では、水分散性樹脂の重量平均分子量は高いことが好ましく、例えば10000~1000000であることが好ましい。一方、風合いをより高めやすくする観点では、水分散性樹脂の重量平均分子量は低いことが好ましく、10000以下であることが好ましい。水分散性樹脂の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによりポリスチレン換算にて測定することができる。特に、水分散性樹脂の重量平均分子量が10000以下と低い場合に、インクジェット記録ヘッドのノズル面への当該樹脂の付着が生じやすい。そのような場合でも、上記界面活性剤を含むことで、樹脂付着を低減できる。
【0057】
水分散性樹脂の含有量は、特に制限されないが、インクに対して1~20質量%であることが好ましい。水分散性樹脂の含有量が1質量%以上であると、布帛に対するインクの定着性を一層高めやすい。水分散性樹脂の含有量が20質量%以下であると、風合いが一層損なわれにくい。同様の観点から、水分散性樹脂の含有量は、インクに対して5~15質量%であることがより好ましい。
【0058】
1-3.界面活性剤
界面活性剤は、主にインクジェット記録ヘッドのノズル面への樹脂の付着を抑制する目的で添加されうる。界面活性剤は、当該界面活性剤を1質量%含む水溶液としたときに、静的表面張力が20mN/m以上となり、且つ50msecにおける動的表面張力が45mN/m以下となるものである(
図1の領域A参照)。
【0059】
静的表面張力が20mN/m以上であると、布帛に滴下したときに濡れやすく、布帛にインクが浸透しやすい。同様の観点から、静的表面張力は21mN/m以上であることが好ましく、25mN/m以上であることがより好ましい。静的表面張力の上限値は、特に制限されないが、例えば35mN/mでありうる。動的表面張力が45mN/m以下であると、インクジェット記録ヘッドから吐出する際に、ノズル面から吐出する瞬間のインクの液滴がヘッド周囲に濡れにくいため、樹脂が付着しにくい。同様の観点から、動的表面張力は40mN/m以下であることが好ましく、38mN/m以下であることがより好ましい。動的表面張力の下限値は、特に制限されないが、例えば25mN/mでありうる。
即ち、界面活性剤は、1質量%水溶液としたときの静的表面張力が25mN/m以上となり、且つ50msecにおける動的表面張力が40mN/m以下、好ましくは38mN/m以下となるものがより好ましい(
図1の領域A’参照)。
【0060】
界面活性剤を1質量%含む水溶液の静的表面張力や動的表面張力は、まず、インクに含まれる界面活性剤の種類をNMRにより特定する。そして、特定した界面活性剤を1質量%含む水溶液を調製し、その静的表面張力や動的表面張力を測定することによって求めることができる。
【0061】
上記水溶液の静的表面張力は、25℃において、Wilhelmy法により測定される表面張力を指す。具体的には、上記水溶液の静的表面張力は、協和界面科学社製DY-300を用いて、JIS K2241に準拠して測定できる。上記水溶液の動的表面張力は、協和界面科学社製BP-D5を用いて、25℃において最大泡圧法にて測定できる。
【0062】
上記水溶液の静的表面張力や動的表面張力(特に動的表面張力)は、界面活性剤の分子構造により調整できる。例えば、界面活性剤の分子中の疎水性基等の炭素数を多くすると、動的表面張力は低くなりやすい。
【0063】
界面活性剤としては、静的表面張力及び動的表面張力が上記範囲を満たし、且つ水分散性樹脂と親和性を有する界面活性剤であれば特に制限されない。そのような界面活性剤は、ノニオン系界面活性剤であることが好ましい。
【0064】
ノニオン系界面活性剤は、イオン性基を含まない界面活性剤である。ノニオン系界面活性剤の例には、
アセチレングリコール、アセチレングリコールのエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイド付加物等のアセチレングリコール系界面活性剤(例えば、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7,-ジオール、3,6-ジメチル-4-オクチン-3,6-ジオール等やそのエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイド付加物);
アセチレンアルコール、アセチレンアルコールのエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイド付加物等のアセチレンアルコール系界面活性剤(例えば、3,5-ジメチル-1-ヘキサン-3-オール等やそのエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイド付加物):
ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル等のエーテル系界面活性剤;
ポリオキシエチレンオレイン酸、ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル、ソルビタンラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンステアレート等のエステル系界面活性剤;
ジメチルポリシロキサン等のポリエーテル変性シロキサン系界面活性剤;
フッ素アルキルエステル、パーフルオロアルキルカルボン酸塩等の含フッ素系界面活性剤等が挙げられる。
【0065】
これらの界面活性剤は、市販品であってもよい。例えば、ポリエーテル変性シロキサン化合物の市販品の例には、エボニック社製のTEGO Wet240、TEGO WetKL245、TEGO Wet250、TEGO Wet260、TEGO Wet265、TEGO Wet280、BYK社製のLPX23288、LPX23289、LPX23347、BYK-348、BYK-349が含まれる。アセチレングリコール界面活性剤及びアセチレンアルコール界面活性剤の市販品の例には、日信化学工業社製オルフィンE1010、オルフィンEXP.4036、オルフィンEXP.4123、サーフィノール465、サーフィノール485が含まれる。エーテル系界面活性剤の市販品の例には、花王社製のエマルゲン106(ポリオキシエチレンラウリルエーテル)、エマルゲン709(ポリオキシエチレン高級アルキルエーテル)、BYK社製のDYNWET800、DYNWET800N(いずれもアルコールアルコキシレート)が含まれる。
【0066】
中でも、水分散性樹脂との親和性がより良好であり、ヘッドへの樹脂の付着をより抑制しやすい観点では、アセチレングリコール系界面活性剤及びアセチレンアルコール系界面活性剤が好ましく、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物がより好ましい。
【0067】
界面活性剤の含有量は、インクに対して0.1~10質量%であることが好ましい。界面活性剤の含有量が0.1質量%以上であると、ヘッドへの樹脂の付着をより抑制しやすい。界面活性剤の含有量が10質量%以下であると、得られる画像形成物の摩擦堅牢性が一層損なわれにくい。同様の観点から、界面活性剤の含有量は、インクに対して0.1~5質量%であることがより好ましい。
【0068】
1-4.水性媒体
水性媒体は、特に制限されないが、水を含むことが好ましく、水溶性有機溶剤をさらに含むことが好ましい。
【0069】
水の含有量は、インクに対して例えば20~70質量%であり、好ましくは30~60質量%である。
【0070】
水溶性有機溶剤は、水と相溶するものであれば特に制限されないが、インクを布帛の内部まで浸透させやすくする観点、インクジェット方式での射出安定性を損なわれにくくする観点では、インクが乾燥により増粘しにくいことが好ましい。したがって、インクは、沸点が200℃以上の高沸点溶媒を含むことが好ましい。
【0071】
沸点が200℃以上の高沸点溶媒は、沸点が200℃以上である水溶性有機溶剤であればよく、ポリオール類やポリアルキレンオキサイド類であることが好ましい。
【0072】
沸点が200℃以上のポリオール類の例には、1,3-ブタンジオール(沸点208℃)、1,6-ヘキサンジオール(沸点223℃)、ポリプロピレングリコール等の2価のアルコール類;グリセリン(沸点290℃)、トリメチロールプロパン(沸点295℃)等の3価以上のアルコール類が含まれる。
【0073】
沸点が200℃以上のポリアルキレンオキサイド類の例には、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(沸点202℃)、トリエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点245℃)、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点305℃)、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル(沸点256℃);及びポリプロピレングリコール等の2価のアルコール類のエーテルや、グリセリン(沸点290℃)、ヘキサントリオール等の3価以上のアルコール類のエーテルが含まれる。
【0074】
溶媒は、上記高沸点溶媒以外の他の溶媒をさらに含んでもよい。他の溶媒の例には、沸点が200℃未満の多価アルコール類(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキサントリオール等);沸点が200℃未満の多価アルコールエーテル類(例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル;1価アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール);アミン類(例えば、エタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、モルホリン、N-エチルモルホリン、エチレンジアミン、ジエチレンジアミン、トリエチレンテトラミン);アミド類(例えば、ホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド);複素環類(例えば、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、N-シクロヘキシル-2-ピロリドン、2-オキサゾリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジン)、スルホキシド類(例えば、ジメチルスルホキシド);及びスルホン類(例えば、スルホラン)が含まれる。
【0075】
水溶性有機溶剤の含有量は、インクに対して例えば20~70質量%であり、好ましくは30~60質量%である。
【0076】
1-5.他の成分
インクは、必要に応じて他の成分をさらに含んでもよい。他の成分の例には、顔料分散剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤等が含まれる。
【0077】
顔料分散剤は、インク中で、顔料粒子の表面を取り囲むように存在するか、又は、顔料粒子の表面に吸着されて、顔料分散液を形成し、顔料を良好に分散させる。顔料分散剤は、好ましくは高分子分散剤であり、より好ましくはアニオン性高分子分散剤である。
【0078】
アニオン性高分子分散剤は、カルボン酸基、リン含有基、スルホン酸基等の親水性基を有する高分子分散剤であり、好ましくはカルボン酸基を有する高分子分散剤である。
【0079】
カルボン酸基を有する高分子分散剤は、ポリカルボン酸又はその塩でありうる。ポリカルボン酸の例には、アクリル酸又はその誘導体、マレイン酸又はその誘導体、イタコン酸又はその誘導体、フマル酸又はその誘導体から選ばれるモノマーの(共)重合体及びこれらの塩が含まれる。共重合体を構成する他のモノマーの例には、スチレンやビニルナフタレンが含まれる。
【0080】
アニオン性高分子分散剤のアニオン性基当量は、顔料粒子を十分に分散させる観点では、例えば1.1~3.8meq/gであることが好ましい。アニオン性基当量が上記範囲内であると、アニオン性高分子分散剤の分子量を大きくしなくても、高い顔料分散性が得られやすい。アニオン性高分子分散剤のアニオン性基当量は、酸価から求めることができる。酸価は、JIS K0070に準拠して測定することができる。
【0081】
高分子分散剤の重量平均分子量(Mw)は、特に制限されないが、5000~30000であることが好ましい。高分子分散剤のMwが5000以上であると、顔料粒子を十分に分散させやすく、30000以下であると、インクが増粘しすぎないため、布帛への浸透性が損なわれにくい。高分子分散剤のMwは、上記と同様の方法で測定することができる。
【0082】
高分子分散剤の含有量は、顔料粒子を十分に分散させるとともに、布帛に対する浸透性を損なわない程度の粘度を有する範囲であればよく、特に制限されないが、顔料に対して20~100質量%であることが好ましく、25~60質量%であることがより好ましい。
【0083】
防腐剤又は防黴剤の例には、芳香族ハロゲン化合物(例えば、Preventol CMK)、メチレンジチオシアナート、含ハロゲン窒素硫黄化合物、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン(例えば、PROXEL GXL)等が含まれる。
【0084】
pH調整剤の例には、クエン酸、クエン酸ナトリウム、塩酸、水酸化ナトリウムが含まれる。
【0085】
1-6.物性
インクの25℃における粘度は、インクジェット方式による射出性が良好となる程度であればよく、特に制限されないが、3~20mPa・sであることが好ましく、4~12mPa・sであることがより好ましい。インクの粘度は、E型粘度計により、25℃で測定することができる。
【0086】
1-7.インクの調製
本発明のインクは、任意の方法で製造することができる。例えば、本発明のインクは、1)顔料と、顔料分散剤と、溶媒(水等)とを混合して、顔料分散液を得る工程と、2)得られた顔料分散液と、上記水分散性樹脂を含む分散体(樹脂粒子分散体)と、水性媒体等とをさらに混合する工程を経て製造されうる。
【0087】
2.画像形成装置及び画像形成方法
2-1.画像形成装置
まず、本発明の一実施形態に係る画像形成方法に用いられる画像形成装置の概要について説明する。
【0088】
図2は、上記画像形成方法に用いられる画像形成装置100の概略を示す模式図である。
図2に示すように、画像形成装置100は、インク収容部110と、インクジェット記録ヘッド120と、ヘッドキャリッジ130と、乾燥部140と、搬送部150とを有する。
【0089】
インク収容部110は、例えばインクの色ごとに複数配置され、インクジェット記録ヘッド120に供給するインク(図の符号X)を収容する。
【0090】
インクジェット記録ヘッド120は、例えばインクの色ごとに複数配置され、インク収容部110から供給される上記インクを吐出する。
【0091】
インクジェット記録ヘッド120のノズル面120Aは、インクに含まれる水分散性樹脂の付着を低減する観点から、接触角が適度に高く調整されていることが好ましい。具体的には、インクジェット記録ヘッド120のノズル面120Aは、25℃における水の接触角が、好ましくは90~130°、より好ましくは95~120°、さらに好ましくは100~120°となるように調整されている。このように、上記インクを用いるだけでなく、インクジェット記録ヘッド120のノズル面120Aの接触角を調整することにより、インクジェット記録ヘッド120のノズル面120Aへのインク中の水分散性樹脂の付着をより低減し、吐出安定性を一層高めうる。
【0092】
インクジェット記録ヘッド120のノズル面120Aの接触角は、コーティングや表面処理によって調整することができる。例えば、インクジェット記録ヘッド120のノズル面120Aをポリイミド樹脂等でコーティングすると、ノズル面120Aの接触角を適度に高くしうる。
【0093】
ヘッドキャリッジ130は、上記インクジェット記録ヘッド120を搭載し、インクジェット記録ヘッド120を搬送方向と略直交する主走査方向に走査する。インクジェット記録ヘッド120は、インク収容部110と一体で動いてもよいし、別体で動いてもよい。
【0094】
乾燥部140は、ヘッドキャリッジ130の布帛160の搬送方向(図中矢印Y方向)の下流側に配置されている。乾燥部140は、熱風を吹き付ける温風ドライヤーや、赤外線又は電離放射線を照射するヒーター、加熱ローラ等の加熱手段でありうる。
【0095】
搬送部150は、布帛160を供給し、搬送する。
【0096】
上記画像形成装置100では、布帛160は、搬送部150によりヘッドキャリッジ130の下方に搬送される(
図1の矢印Y参照)。一方、インク収容部110に収容された上記インクは、インクジェット記録ヘッド120に供給され;インクジェット記録ヘッド120のノズルからインクの液滴を吐出して、布帛160にインクの液滴を付着させる。その後、乾燥部140から、例えば温度制御された風を吹き付ける等して、布帛160に付着したインクを乾燥させて、画像を形成する。
【0097】
2-2.画像形成方法
次に、上記画像形成装置を用いた画像形成方法について、
図2を参照しながら具体的に説明する。本実施形態に係る画像形成方法は、1)布帛上に、上記インクをインクジェット記録ヘッド120から吐出して、当該インクを布帛に付着させる工程と、2)布帛に付着させたインクを乾燥及び定着させる工程とを含む。
【0098】
1)の工程
まず、インクジェット記録ヘッド120からインクを吐出させて、当該インクの液滴を布帛160に付着させる。
【0099】
布帛160に含まれる繊維素材の種類は、特に制限されず、綿(セルロース繊維)、麻、羊毛、絹等の天然繊維や;レーヨン、ビニロン、ナイロン、アクリル、ポリウレタン、ポリエステル又はアセテート等の化学繊維を含むことが好ましい。布帛は、これらの繊維を、織布、不織布、編布等、いずれの形態にしたものであってもよい。また、布帛は、2種類以上の繊維の混紡織布又は混紡不織布等であってもよい。
【0100】
例えば、インクがアニオン性分散剤を含む場合は、顔料や水分散性樹脂の吸着速度や定着性を高める観点から、布帛は、少なくとも表面にカチオン性基を有することが好ましい。少なくとも表面にカチオン性基を有する布帛は、布帛を前処理したものであってもよい。
【0101】
2)の工程
次いで、布帛160に付着させたインクを、乾燥部140により乾燥させて、インク中の溶媒成分を除去する。それにより、布帛160に顔料を定着させて、画像を形成する。
【0102】
乾燥方法は、特に制限されず、ヒーター、温風乾燥機、加熱ローラ等を用いた方法でありうる。本実施形態では、乾燥部140により、温風乾燥機とヒーターを用いて、布帛の両面を加熱して乾燥させることが好ましい。
【0103】
乾燥温度は、インク中の溶媒成分を蒸発させるように設定されればよい。具体的には、乾燥温度は、溶媒成分が蒸発する温度以上(Tg+170)℃以下(Tgは、水分散性樹脂のTgを意味する)であることが好ましい。乾燥温度は、室温であってもよい。
【0104】
上記インクに含まれる水分散性樹脂はTgが低いため、上記乾燥により水分散性樹脂が融着しても硬い被膜を形成しにくく、布帛の風合いを低下させにくい。具体的には、所定の条件で画像を形成した布帛と、画像を形成する前の布帛との折り曲げ試験における折り曲げトルク力の差は、0.006gf・cm以下であることが好ましく、0.004gf・cm以下であることがより好ましく、0.002gf・cm以下であることがさらに好ましい。
【0105】
折り曲げ試験は、以下の手順で行うことができる。
図3は、折り曲げ試験の概要を示す模式図である。
1)まず、インクを用いて、綿布上に、水分散性樹脂の付着量(水分散性樹脂を含む樹脂の付着量)が34.65g/m
2となるように画像形成する。画像形成した布帛を5×20cmの大きさに切り出し、試料片1とする。次いで、
図3に示すように、試料片1の長さ方向の一方の先端Aと、当該先端から3cm離れた位置Bとを、折り曲げ試験機のクリップに挟む。そして、当該先端Aを、位置Bを基点として回動させ、位置B付近の試料片1の曲率が2.5cm
-1になるまで曲げる時に必要な力(画像形成部の折り曲げトルク)を測定する。
2)同様の試験を、画像形成していない布帛(5×20cmの試料片)についても行う(白字部の折り曲げトルク)。
3)上記1)と2)で得られた折り曲げトルクの差を算出する。
【0106】
折り曲げ試験機としては、例えばKES-FB2-A純曲げ試験機(カトーテック)を用いることができる。「水分散性樹脂を含む樹脂の付着量」は、布帛のインク付着量とインクの樹脂濃度から計算により求めることができる。なお、インクを付与した後、後処理液等の他の液をさらに付与する場合、「水分散性樹脂を含む樹脂の付着量」は、インクに含まれる樹脂の付着量と他の液に含まれる樹脂の付着量の合計を意味する。なお、上記樹脂の付着量のうち、水分散性樹脂の付着量は、インク組成から計算により求めることもできる。
【0107】
折り曲げトルクの差は、顔料の付着量を一定とした場合、水分散性樹脂の量や種類によって調整されうる。例えば、水分散性樹脂のTgが低いほど、折り曲げトルクの差も小さくなりやすい。また、水分散性樹脂の量が少ないほど、折り曲げトルクの差も小さくなりやすい。
【0108】
また、得られる画像形成物は、摩擦堅牢性を有することが好ましい。具体的には、画像が形成された布帛のJIS L0849に準拠した乾燥摩擦堅牢度は、3級以上であることが好ましく、4級以上であることがより好ましい。
【0109】
乾摩擦堅牢性は、以下の手順で測定することができる。
得られた画像形成物について、JIS L0849(2013)に従って、II型試験機で乾燥摩擦堅牢度試験を行い、変退色グレースケールを用いて評価する。具体的には、画像を形成した部分について、200gの荷重で、横方向、縦方向の100mmの領域を綿布で100回往復して摩擦を付与する。摩擦を付与した後、綿布に付着した色の濃度を変退色グレースケールの同濃度に対応する級で判定する。
【0110】
乾摩擦堅牢性は、顔料の付着量を一定とした場合、水分散性樹脂の種類や界面活性剤の量によって調整されうる。例えば、水分散性樹脂のTgが低かったり、界面活性剤の量が多かったりすると、摩擦堅牢性は低くなりやすい。
【0111】
また、本実施形態では、必要に応じて、上記以外の工程をさらに行ってもよい。例えば、3)インクを付着させる前に布帛160を前処理する工程を行ってもよいし、4)インクを付着させた後に布帛160を後処理する工程をさらに含んでもよい。
【0112】
3)の工程
上記の通り、インクを付着させる前に、布帛160に前処理液を付与してもよい。前処理液の種類は、インクの組成に応じて選択されうる。例えば、インクがアニオン性高分子分散剤やアニオン性の水分散性樹脂を含む場合、前処理液は、酸基又はカチオン性基を有する化合物を含むことが好ましい。
【0113】
アニオン性基を有する化合物は、特に制限されず、アニオン性界面活性剤と同様のものであってもよいし、アニオン性基を有する高分子化合物等であってもよい。アニオン性基を有する高分子化合物の例には、ペクチン酸等の植物皮類、カルボキシメチルセルロース等の繊維素誘導体、カルボキシメチル澱粉、カルボキシエチル澱粉等の加工澱粉、アクリル酸・アクリル酸エステル共重合体、スチレン・アクリル酸共重合体等のアクリル酸を共重合成分とするアクリル系重合体等の合成糊が含まれる。
【0114】
前処理液を付与する方法は、特に制限されず、例えばパッド法、コーティング法、スプレー法、インクジェット法等でありうる。布帛に付与された前処理液は、温風、ホットプレート又はヒートローラーを用いて加熱乾燥させてもよい。
【0115】
4)の工程
上記の通り、布帛160にインクを付着させた後、後処理液をさらに付与してもよい。後処理液の種類は特に制限されないが、通常、水分散性樹脂と、水性媒体とを含みうる。
【0116】
後処理液の付与は、前処理液の付与方法と同様の方法で行うことができる。中でも、スプレー法やインクジェット法が好ましい。布帛に付与された後処理液は、温風、ホットプレート又はヒートローラーを用いて加熱乾燥されうる。
【0117】
2-3.作用
上記実施形態によれば、布帛上に、上記インクをインクジェット記録ヘッド120から吐出させて、布帛160に付着させる。上記インクは、静的表面張力と動的表面張力の両方が所定の範囲に調整された界面活性剤を含む。そのため、Tgが-35℃以下と低い水分散性樹脂を含んでいても、インクジェット記録ヘッド120のノズル面120Aに当該水分散性樹脂が付着しにくく、吐出曲がりや吐出欠を低減できる。
【0118】
特に、上記インクを使用するだけでなく、インクジェット記録ヘッド120のノズル面120Aの接触角を一定以上にすることで、インク中の水分散性樹脂のノズル面120Aへの付着を一層抑制できる。それにより、樹脂の付着に起因する吐出曲がりや吐出欠を一層低減できる。
【0119】
3.画像形成物
得られる画像形成物は、布帛と、当該布帛上に配置された画像層とを含む。
【0120】
画像層は、上記インクに由来する成分を含む。即ち、画像層は、顔料と、水分散性樹脂と、界面活性剤とを含む。
【0121】
上記画像形成方法で得られる画像形成物は、Tgが低い水分散性樹脂を含む。そのため、画像形成物は硬くなりにくく、布帛の風合いを良好に維持できる。
【実施例0122】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0123】
1.材料
1-1.顔料
<顔料分散液の調製>
顔料分散剤としてスチレン・ブチルアクリレート・メタクリル酸共重合体(アニオン性分散剤、重量平均分子量16000、アニオン性基当量3.5meq/g)7質量部に対し、水78質量部を混合した後、加温攪拌し、顔料分散剤の中和物を調製した。この混合液に、C.I.ピグメントブルー15:3を15質量部添加し、予備混合した後、0.5mmジルコニアビーズを体積率で50%充填したサンドグラインダーを用いて分散させて、顔料濃度15質量%のシアン顔料分散液を得た。
【0124】
1-2.水分散性樹脂
樹脂A:EMN-325(日本触媒社製アクリセット、アクリル系エラストマー、Tg:-50℃)
樹脂B:EMN-325(日本触媒社製アクリセット、アクリル系エラストマー、Tg:-50℃)
樹脂C:エラストラン1185A(BASF社製、熱可塑性ポリウレタンエラストマー、Tg:-41℃)
樹脂D:MD-2000(東洋紡社製 バイロナール(登録商標)、水分散性ポリエステル樹脂、Tg:67℃)
【0125】
1-3.界面活性剤
界面活性剤1:サーフィノールE-1010(日信化学工業社製、アセチレングリコール系界面活性剤)
界面活性剤2:サーフィノール485(日信化学工業社製、アセチレングリコール系界面活性剤、エトキシ化アセチレン系)
界面活性剤3:エマルゲン709(花王社製、ポリオキシエチレン高級アルキルエーテル)
界面活性剤4:TEG 280(エボニック社製)
【0126】
なお、界面活性剤を1質量%含む水溶液の静的表面張力、動的表面張力は、以下の方法で測定した。
静的表面張力は、協和界面科学社製DY-300を用いて、JIS K2241に準拠して、25℃において、Wilhelmy法により測定した。動的表面張力は、協和界面科学社製BP-D5を用いて、25℃において、最大泡圧法で測定した。
【0127】
1-4.水溶性有機溶剤
エチレングリコール(沸点197℃)
グリセリン(沸点290℃)
プロピレングリコール(沸点188℃)
【0128】
1-5.その他の成分
プロキセルGXL(ロンザ・ジャパン社製、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン、防黴剤)
【0129】
2.インクの調製
<インク1の調製>
次いで、下記成分を混合して合計100質量部とし、インク1を得た。
上記調製した顔料分散液(顔料濃度15質量%):10質量部(固形分濃度1.5質量部)
上記調製した樹脂A:10質量部
エチレングリコール:10質量部
プロピレングリコール:10質量部
グリセリン:10質量部
界面活性剤1:0.5質量部
プロキセルGXL(ロンザ・ジャパン社製):0.10質量部
イオン交換水:残部
【0130】
<インク2~12の調製>
インク成分を表1に示されるように変更した以外はインク1と同様にして、インク2~12を調製した。
【0131】
【0132】
3.画像形成
<実施例1~9、比較例1~3>
得られたインクの吐出性を、以下の方法で評価した。また、得られたインクを用いて画像形成を行い、耐摩擦堅牢性及び風合いを評価した。
【0133】
(1)吐出性
固定してあるコニカミノルタ社製KM1024iMHEで、打滴量13pLの吐出条件にてライン方式で、上記で調製したマゼンタインクを吐出した。充填したインクが、吐出開始時に60本の全ノズルから吐出していることを確認した後、そのままインクを60分間連続で吐出させた。そして、60分間の連続吐出終了後に、最後まで吐出できていたノズル数(60分間連続吐出終了後の吐出ノズル数)を数えた。60分間連続吐出終了後の吐出ノズル数を下記の評価基準に当てはめ、インクの吐出性を評価した。
A:インクジェットヘッドに白い付着物がなく、60分間連続吐出終了後の吐出ノズル数が60本以上
B:インクジェットヘッドに白い付着物がないが、60分間連続吐出終了後の吐出ノズル数が54~59本
C:インクジェットヘッドに白い付着物があり、60分間連続吐出終了後の吐出ノズル数が53本以下
【0134】
(2)画像形成
布帛として、綿サテン(綿100%)を準備した。これに、凝集剤として水溶性カチオンポリマーを含む前処理剤を、インクジェット法で付与した後乾燥させて、前処理した。次いで、前処理した布帛に、上記調製したインクを用いて、画像形成試験を行った。
まず、画像形成装置として、インクジェット記録ヘッド(コニカミノルタヘッド #204)を準備した。上記インクジェット記録ヘッドのノズル面は、ポリイミドコートされており、水の接触角は110°であった。そして、上記調製したインクを上記ヘッドから吐出させて、ベタ画像を形成した。インクの吐出は、主走査540dpi×副走査720dpiにて行った。なお、dpiとは、2.54cm当たりのインク液滴(ドット)の数を表す。吐出周波数は、22.4kHzとした。そして、インクを付与した布帛を、ベルト搬送式乾燥機にて120℃で5分間乾燥させて、画像形成物を得た。なお、インクの樹脂付着量は、いずれも34.65g/m2であった。ここでの樹脂付着量は、水分散性樹脂の付着量を意味する。
【0135】
そして、インクの吐出性、耐摩擦堅牢性及び風合いを評価した。
【0136】
(2-1)耐摩擦堅牢性
得られた画像形成物について、JIS L0849(2013)の乾燥条件に従って、II型試験機で乾燥摩擦堅牢度試験を行い、変退色グレースケールを用いて評価した。具体的には、画像を形成した部分について、200gの荷重で、横方向、縦方向の100mmの領域を綿布で100回往復して摩擦を付与した。摩擦を付与した後、綿布に付着した色の濃度を変退色グレースケールの同濃度に対応する級で判定した。
【0137】
(2-2)風合い
得られた画像形成物について、以下の折り曲げ試験を実施した。
1)画像形成した布帛を5×20cmの大きさに切り出し、試料片1とした。次いで、
図3に示すように、試料片1の長さ方向の一方の先端Aと、当該先端から3cm離れた位置Bとを、折り曲げ試験機KES-FB2-A純曲げ試験機(カトーテック)のクリップに挟んだ。そして、当該先端Aを、位置Bを基点として回動させ、位置B付近の試料片1の曲率が2.5cm
-1になるまで曲げる時に必要な力(画像形成部の折り曲げトルク)を測定した。
2)同様の試験を、画像形成していない布帛(5×20cmの試料片)についても行った(白字部の折り曲げトルク)。
3)上記1)と2)で得られた折り曲げトルクの差を算出した。
そして、折り曲げ性を、以下の基準で評価した。
◎:折り曲げトルクの差が0.002gf・cm以下
○:折り曲げトルクの差が0.002gf・cm超0.004gf・cm以下
△:折り曲げトルクの差が0.004gf・cm超0.006gf・cm以下
×:折り曲げトルクの差が0.006gf・cm超
【0138】
<実施例10>
インクジェットヘッドI(ノズル面の接触角110°)をインクジェットヘッドII(ノズル面のコートなし、接触角95°)に変更した以外は実施例1と同様にして画像形成を行った。
【0139】
実施例1~10及び比較例1~3の評価結果を表2に示す。
【0140】
【0141】
表2に示すように、界面活性剤を含まないインクを用いた比較例1や、動的表面張力、静的表面張力の少なくとも一方が所定の範囲を満たさない界面活性剤を含むインクを用いた比較例2では、いずれもインクジェット記録ヘッドのノズル面への樹脂の付着が生じ、吐出安定性が低いことがわかる。また、樹脂のTgが高い比較例3のインクは、インクジェット記録ヘッドのノズル面への樹脂の付着は生じず、吐出安定性に問題はないが、風合いが低いことがわかる。
【0142】
また、本発明者らは、Tgが-10℃の水分散性樹脂を調製し、比較例3と同様のインクを調製して同様の評価を行ったところ、インクジェット記録ヘッドのノズル面への樹脂の付着は生じないが、風合いが依然として低いことが確認された。
【0143】
これに対し、動的表面張力、静的表面張力が所定の範囲内である界面活性剤を含むインクを用いた実施例1~10では、いずれもインクジェット記録ヘッドのノズル面への樹脂の付着を低減でき、吐出安定性が高まることがわかる。また、得られる画像形成物の耐摩擦性、風合いともに良好であることがわかる。
【0144】
これらのことから、低いTgを有する樹脂を含むインクにおいて、動的表面張力、静的表面張力が所定の範囲内である界面活性剤を添加することで、風合いを維持しつつ、吐出安定性を高め得ることがわかる。
【0145】
特に、上記インクを用いるだけでなく、ノズル面の接触角を90°以上とすることで、樹脂の付着を一層抑制でき、吐出安定性が一層向上することがわかる(実施例1と10の対比)。
本発明によれば、インクジェット記録ヘッドのノズル面への樹脂の付着を抑制し、吐出曲がりや吐出欠を抑制可能な捺染用インクジェットインク、画像形成方法及び画像形成装置を提供することができる。