(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024102683
(43)【公開日】2024-07-31
(54)【発明の名称】電子写真感光体およびそれを備えた画像形成装置
(51)【国際特許分類】
G03G 5/147 20060101AFI20240724BHJP
G03G 5/05 20060101ALI20240724BHJP
G03G 5/06 20060101ALI20240724BHJP
G03G 5/047 20060101ALI20240724BHJP
【FI】
G03G5/147 503
G03G5/05 101
G03G5/05 104A
G03G5/147 502
G03G5/06 312
G03G5/06 313
G03G5/147
G03G5/047
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023006743
(22)【出願日】2023-01-19
(71)【出願人】
【識別番号】000005049
【氏名又は名称】シャープ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100174883
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 雅己
(74)【代理人】
【識別番号】100189429
【弁理士】
【氏名又は名称】保田 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100213849
【弁理士】
【氏名又は名称】澄川 広司
(72)【発明者】
【氏名】木原 彰子
(72)【発明者】
【氏名】倉内 敬広
(72)【発明者】
【氏名】鳥山 幸一
(72)【発明者】
【氏名】松尾 力也
【テーマコード(参考)】
2H068
【Fターム(参考)】
2H068AA03
2H068AA04
2H068AA08
2H068AA09
2H068AA13
2H068AA14
2H068AA20
2H068AA28
2H068AA29
2H068BA13
2H068CA06
2H068FA03
(57)【要約】
【課題】耐刷性と耐ソルベントクラック性および耐光性とを両立し得る電子写真感光体およびそれを備えた画像形成装置を提供することを目的とする。
【解決手段】導電性支持体上に、1層以上で構成される感光層を少なくとも備えた電子写真感光体であり、感光層の最表面層がバインダ樹脂、シリカ粒子および電荷輸送物質を少なくとも含有し、シリカ粒子が30~100nmの数平均一次粒子径を有し、電荷輸送物質が5.40~5.55eVのイオン化ポテンシャルを有し、最表面層の表面における電子写真感光体の軸方向の帯電領域の中央部の幅4mm領域が、JIS-B-0601(1994)に定義される、0.08~0.65μmの十点平均粗さRz、350~750μmの凹凸の平均間隔Smおよび1000~3000の比Sm/Rzを有することを特徴とする電子写真感光体により、上記の課題を解決する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性支持体上に、1層以上で構成される感光層を少なくとも備えた電子写真感光体であり、
前記感光層の最表面層が、バインダ樹脂、シリカ粒子および電荷輸送物質を少なくとも含有し、
前記シリカ粒子が、30~100nmの数平均一次粒子径を有し、
前記電荷輸送物質が、5.40~5.55eVのイオン化ポテンシャルを有し、
前記最表面層の表面における前記電子写真感光体の軸方向の帯電領域の中央部の幅4mm領域が、JIS-B-0601(1994)に定義される、0.08~0.65μmの十点平均粗さRz、350~750μmの凹凸の平均間隔Smおよび1000~3000の比Sm/Rzを有する
ことを特徴とする電子写真感光体。
【請求項2】
前記感光層の最表面層が、該最表面層中に7~20質量%の割合でシリカ粒子を含有する請求項1に記載の電子写真感光体。
【請求項3】
前記電荷輸送物質が、一般式(I):
【化1】
(式中、R
1、R
2、R
5およびR
6は、同一または異なって、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アラルキル基またはハロゲン原子であり、m、n、pおよびqは、同一または異なって、0~3の整数であり、R
3およびR
4は、同一または異なって、水素原子またはアルキル基である)
で表されるスチルベン誘導体、および一般式(II):
【化2】
(式中、R
8およびR
9は、同一または異なって、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アラルキル基またはハロゲン原子であり、R
7は、水素原子またはアルキル基であり、r、sおよびtは、同一または異なって、0~3の整数である)
で表されるスチルベン誘導体から選択される少なくとも1種である請求項1または2に記載の電子写真感光体。
【請求項4】
前記一般式(I)で表されるスチルベン誘導体が、次式:
【化3】
で表されるスチルベン化合物(1)である請求項3に記載の電子写真感光体。
【請求項5】
前記一般式(I)で表されるスチルベン誘導体が、次式:
【化4】
で表されるスチルベン化合物(2)である請求項3に記載の電子写真感光体。
【請求項6】
前記電子写真感光体の最表面層の構成成分のうち、分子量1000以下の低分子化合物の質量をWa、該最表面層全体の質量をWbとしたとき、それらの比率R=Wa/Wbが0.4未満である請求項1または2に記載の電子写真感光体。
【請求項7】
前記感光層が、105℃以上のガラス転移温度Tgを有する請求項1または2に記載の電子写真感光体。
【請求項8】
前記感光層の最表面層が、温度25℃、相対湿度50%の環境下で対向角136°のビッカース四角錘ダイヤモンド圧子を用いて押込み最大荷重30mNを5秒間負荷して測定される、JIS-Z-2244に定義される、25以上のビッカース硬さ(HV)を有する請求項1または2に記載の電子写真感光体。
【請求項9】
請求項1に記載の電子写真感光体と、前記電子写真感光体を帯電させる帯電手段と、帯電された前記電子写真感光体を露光して静電潜像を形成する露光手段と、前記静電潜像を現像してトナー像を形成する現像手段と、前記トナー像を記録媒体上に転写する転写手段とを少なくとも備えることを特徴とする画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電子写真感光体およびそれを備えた画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、OA機器の目覚しい発達に伴い、電子写真方式を利用したデジタル複写機、プリンタ、ファクシミリ装置などの画像形成装置が広く普及し、そのプロセスに用いられる電子写真感光体(以下「感光体」ともいう)には、有機光導電性材料を用いた有機感光体が多用されている。しかしながら、有機感光体には、有機系材料の性質上、その周辺のクリーニングブレードなどとの接触により、その表面が摩耗し易いという欠点がある。
また、近年のローラ帯電による接触帯電方式の増加や画像形成装置のロングライフ化、小型化および高速化に伴って、有機感光体はその表面がより摩耗され易い、厳しい条件下に曝されている。
【0003】
そこで、このような感光体表面の摩耗という課題に対して、感光体の最表面層に、フィラーとしてシリカ粒子、アルミナ粒子、二酸化チタン粒子のような無機化合物微粒子を加える技術、電荷輸送層上に形成した硬化型保護層(表面保護層)にフィラーとしてシリカ粒子のような無機化合物微粒子を加える技術が提案されている。
しかしながら、感光層内にフィラーを分散させることで耐刷性が向上しロングライフを達成できるものの、クリーニング不良など、周辺部材との接触による不具合が足枷となり、実用面での課題が大きい。
【0004】
そこで、感光層表面に線状傷を形成すること、あるいはアモルファスシリコンを用いて高耐刷感光体の表面性を制御することにより、感光体表面と周辺部材(接触部材)との摩擦を最適化する技術が提案されている。
しかしながら、感光層にシリカ粒子を加えた場合、感光体の機械的強度が増し、耐刷性が向上することで、感光体の表面が削られることなく化学的に劣化が促進されて、ソルベントクラックが生じ易くなるという課題がある。
また、感光層中に分散されたシリカ粒子とバインダ樹脂のポリカーボネートとの熱膨張係数が異なるために、シリカ粒子とバインダ樹脂との間に微細空隙が生じ易くなり、感光層中にシリカ粒子の分散不良に起因する凝集体など大きな内部応力が生じて、凝集体が起点となるソルベントクラックが発生するリスクが高くなるという課題がある。
【0005】
そこで、バインダ樹脂のポリカーボネート樹脂の一方または両方の末端にポリシロキサン部位が重合された樹脂を採用することで感光層の表面の潤滑性を向上させる技術が提案されている。
しかしながら、この技術では、初期の感光体の耐ソルベントクラックは向上するものの、繰り返しの機械疲労が与えられ、表面の化学的劣化が進行した場合の課題がある。
【0006】
他方、感光体は、通常の使用において、画像形成プロセスのために複写機内部の光源の光に曝されるだけでなく、周辺部材などの交換パーツのメンテナンスや機内の紙詰まりの処置において外光に曝される。これら外光による感光体の光疲労は、複写機内での電気疲労よりダメージが大きく、画像劣化を引き起こす原因になっている。また、感光体の生産工程においては、感光体の光による劣化を考慮して、短波長カットの蛍光灯の下での作業など、入念なケアが必要となり、生産性を低下させるという課題がある。
【0007】
また、近年の研究で、感光層にシリカ粒子(フィラー)を分散させることにより、耐光性が低下することがわかっている。
さらに、近年の複写機の高速化、小型化に伴って、感光層を構成する電荷輸送物質に高応答性材料が多用され、これにより感光層が光に暴露された際に電荷輸送層と電荷発生層との間で発生したキャリアの注入効率が高まり、画像に与える影響が大きくなり、耐光性と耐刷性や耐クリーニング性との両立がさらに課題になっている。
そこで、感光層の耐光性を向上させるために、例えば、特開平10-048856号公報(特許文献1)には、380~480nmに最大吸収波長を有する紫外線吸収剤を感光層に添加する技術が提案されている。
しかしながら、紫外吸収剤はシリカを含有した感光層では十分な効果が得られないこと、感光層に低分子化合物の成分が増えると感光層の機械的強度が損なわれることがわかっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のように様々な先行技術が提案されているが、感光層の最表面層にシリカ粒子を含有させると、シリカ粒子の分散性が不十分になり、シリカ粒子の凝集体が形成された場合、これに起因するソルベントクラックが課題となる。
また、感光層がシリカ粒子を含有することで、外部から光が当たったときにメモリ(電荷)が発生し易く、耐光性が悪化する傾向がみられる。この原因は定かではないが、感光層がシリカのような負帯電になり易い微粒子を含有することで、光が当たり電荷発生層で生成した余剰キャリアが安定化し易くなるためと考えられる。
したがって、シリカ粒子は、感光体の耐刷性を向上させる有効な手段であるが、耐ソルベントクラック性、耐光性との両立が課題となっていた。
【0010】
そこで、本開示は、耐刷性と耐ソルベントクラック性および耐光性とを両立し得る電子写真感光体およびそれを備えた画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研鑽した結果、感光層中に特定の数平均一次粒子径を有するシリカ粒子の分散均一性を向上させ、かつ感光層の電荷輸送物質のイオン化ポテンシャルを最適化することで、感光体の耐刷性と耐ソルベントクラック性および耐光性とを両立できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
感光層中のシリカ粒子を分散させると感光体の耐光性が悪化すること、電荷輸送層にシリカ粒子を添加することで、電荷発生層との密着性が高くなることがわかっている。電荷発生層と電荷輸送層の相間では格子欠陥が存在し、外部光に曝された場合、余剰キャリアの安定性が悪いことより失活し、画像上の不具合としては目立たなかった。しかし、シリカ粒子が添加され、相間の密着が強くなることで格子欠陥が減少し、余剰キャリアの安定性が高まり、結果として耐光性が低下するものと推察される。
本開示の感光体では、感光層中に特定の数平均一次粒子径を有するシリカ粒子の分散均一性を向上させ、かつ感光層の電荷輸送物質のイオン化ポテンシャルを最適化することで、感光体の耐刷性と耐ソルベントクラック性および耐光性とを両立できた。
【0013】
かくして、本開示によれば、導電性支持体上に、1層以上で構成される感光層を少なくとも備えた電子写真感光体であり、
前記感光層の最表面層が、バインダ樹脂、シリカ粒子および電荷輸送物質を少なくとも含有し、
前記シリカ粒子が、30~100nmの数平均一次粒子径を有し、
前記電荷輸送物質が、5.40~5.55eVのイオン化ポテンシャルを有し、
前記最表面層の表面における前記電子写真感光体の軸方向の帯電領域の中央部の幅4mm領域が、JIS-B-0601(1994)に定義される、0.08~0.65μmの十点平均粗さRz、350~750μmの凹凸の平均間隔Smおよび1000~3000の比Sm/Rzを有する
ことを特徴とする電子写真感光体が提供される。
【0014】
また、本開示によれば、上記の電子写真感光体と、前記電子写真感光体を帯電させる帯電手段と、帯電された前記電子写真感光体を露光して静電潜像を形成する露光手段と、前記静電潜像を現像してトナー像を形成する現像手段と、前記トナー像を記録媒体上に転写する転写手段とを少なくとも備えることを特徴とする画像形成装置が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、耐刷性と耐ソルベントクラック性および耐光性とを両立し得る電子写真感光体およびそれを備えた画像形成装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本開示の感光体10の要部の構成を示す概略断面図である。
【
図2】本開示の感光体20の要部の構成を示す概略断面図である。
【
図3】本開示の画像形成装置の要部の構成を示す模式側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本開示の感光体は、導電性支持体上に、1層以上で構成される感光層を少なくとも備えた電子写真感光体であり、
前記感光層の最表面層が、バインダ樹脂、シリカ粒子および電荷輸送物質を少なくとも含有し、
前記シリカ粒子が、30~100nmの数平均一次粒子径を有し、
前記電荷輸送物質が、5.40~5.55eVのイオン化ポテンシャルを有し、
前記最表面層の表面における前記電子写真感光体の軸方向の帯電領域の中央部の幅4mm領域が、JIS-B-0601(1994)に定義される、0.08~0.65μmの十点平均粗さRz、350~750μmの凹凸の平均間隔Smおよび1000~3000の比Sm/Rzを有することを特徴とする。
以下に、本開示の感光体の特徴となる構成要件、感光体の最表面層に含有するシリカ粒子の物性および含有量、電荷輸送物質の物性、ならびに感光体の最表面層の表面性などの物性について説明し、その後で(1)感光体および(2)画像形成装置について説明する。
なお、以下に記述する実施形態および実施例は本開示の具体的な一例にすぎず、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0018】
<シリカ粒子の数平均一次粒子径>
本開示の感光体の最表面層が含有するシリカ粒子は、30~100nmの数平均一次粒子径を有する。
シリカ粒子の数平均一次粒子径が30nm以上であることにより、耐光性が向上する。これは、シリカ粒子の表面積が小さくなり、電荷輸送層と電荷発生層との界面での密着性が緩和され、余剰キャリアが失活し易くなるためと本発明者らは推察する。
シリカ粒子の数平均一次粒子径が30nm未満では、上記のような耐光性向上の効果が得られ難い。一方、シリカ粒子の数平均一次粒子径が100nmを超えると、塗液の分散安定性を低下することがある。より好ましいシリカ粒子の平均一次粒子は、30~50nmである。
【0019】
<最表面層中シリカ粒子の含有量>
本開示の感光体の感光層の最表面層は、最表面層中に7~20質量%の割合でシリカ粒子を含有することが好ましい。
シリカ粒子の含有量が7質量%未満では、感光体表面の機械的強度が低下して傷つき易くなるため、ソルベントクラック発生のリスクが高まることがある。一方、シリカ粒子の含有量が20質量%を超えると、表面の機械的強度が良好すぎて、表面の感光層がリフレッシュされ難くなるため、感光層のバインダ樹脂の結合が切れた極性基が表面に残存し易くなること、化学的劣化物が付着し易くなることで、表面の濡れ性が悪化し、ソルベントクラックのリスクが高まることがある。
より好ましいシリカの含有量は、7~13質量%である。
【0020】
<シリカ粒子のBET比表面積>
本開示の感光体の最表面層が含有するシリカ粒子は、JIS Z8830:2013に定義される50m2/g以下のBET比表面積を有することが好ましい。
シリカ粒子の比表面積が増大することで、電荷輸送層と電荷発生層の相関の密着が高まることがわかっており、シリカのBET比表面積を50m2/g以下にすることで、過剰な密着を抑制することができる。
また、BET比表面積を50m2/g以下にすることで、耐ソルベントクラック性も良化することがわかっている。理由は定かではないが、本発明者らは、過剰な密着性が抑制され、製膜時の内部応力が抑制されるためと推察する。
ソルベントクラックの発生要因は多々あり、感光体の脱着の際の指脂の付着に起因したクラックもある。50m2/g以下のBET比表面積を有するシリカ粒子の4%水溶液中のpH値は、50m2/gを超えるBET比表面積を有するシリカ粒子と比較して、5.5~8.0と高く、酸性度が低くなる。そのため酸性の油指が感光層表面に付着し難く、指脂が起因となるソルベントクラックの発生が抑制されるものと本発明者らは推察する。
より好ましいシリカ粒子のBET比表面積は、30~40m2/gである。
【0021】
<電荷輸送物質のイオン化ポテンシャル>
本開示の感光体において、電荷輸送物質は、5.40~5.55eVのイオン化ポテンシャルを有する。
電荷輸送層のイオン化ポテンシャルが5.40eV未満では、感光体が外光に曝された場合に、電荷発生層に蓄積された余剰キャリアが電荷輸送層に注入し易くなり、耐光性が低下することがある。一方、電荷輸送層のイオン化ポテンシャルが5.55eVを超えると、キャリアが注入され難くなり、長期の電気疲労によりVr(感光体表面電位)が上昇し易くなることがある。
電荷輸送層中の電荷輸送物質の含有量を増量して、Vr上昇を抑制できるが、感光層中の低分子化合物の成分を増やすことになり、耐ソルベントクラック性を低下させるおそれがある。したがって、耐光性と耐ソルベントクラック性との両立を図るためには、上記の範囲のイオン化ポテンシャルが好ましい。より好ましいイオン化ポテンシャルは、5.45~5.50eVである。
【0022】
<十点平均粗さRz、凹凸の平均間隔Smおよびそれらの比Sm/Rz>
最表面層の表面における前記電子写真感光体の軸方向の帯電領域の中央部の幅4mm領域が、JIS-B-0601(1994)に定義される、0.08~0.65μmの十点平均粗さRz、350~750μmの凹凸の平均間隔Smおよび1000~3000の比Sm/Rzを有する。
より好ましいRz、Smおよび比Sm/Rzは、それぞれ0.10~0.35μm、450~600μmおよび1500~2500である。
【0023】
本発明者らは、耐ソルベントクラック性を維持するためには、感光体の最表面層に含有するシリカ粒子の分散均一性を向上させることで、良好な結果が得られることを見出した。
具体的には、本発明者らは、30~100nmの数平均一次粒子径を有するシリカ粒子を感光層の最表面層中に分散させた場合、分散均一性が向上するにしたがって、感光層表面の十点平均粗さRzは小さく、凹凸の平均間隔Smが大きくなる傾向がみられ、Rz、Smおよびこれらの比Sm/Rzを上記の範囲に設定することにより、感光層中の凝集体が解砕され、耐ソルベントクラック性が向上することを見出した。
すなわち、感光体の最表面層の表面性は、シリカ粒子の分散均一性の指針となる。
【0024】
また、本発明者らは、感光体の最表面層の塗布法による形成において、シリカ粒子を溶剤に分散させる際に、シリカ粒子が分子間相互作用により溶剤中に凝集体を形成し易いことから、シリカ粒子と溶剤の濡れ性を十分確保したうえで、溶剤中にシリカ粒子を分散させることで、感光層中のシリカ粒子の凝集体の発生を抑制できることも見出した。
【0025】
<感光体の最表面層の構成成分の低分子化合物の質量比率R>
本開示の感光体の最表面層の構成成分のうち、分子量1000以下の低分子化合物の質量をWa、該最表面層全体の質量をWbとしたとき、それらの比率R=Wa/Wbが0.4未満であることが好ましい。
最表面層の低分子化合物の構成比が高くなると、感光層の耐ソルベントクラック性が悪化する傾向があり、本開示の感光体のように感光層の最表面層がシリカ粒子を含有する場合には、最表面層全体の0.4未満が良好である。
より好ましい質量比率Rは、0.25~0.33である。
【0026】
<感光層のガラス転移温度Tg>
本開示の感光体の感光層は、105℃以上のガラス転移温度Tgを有することが好ましい。
感光層のガラス転移温度はなるべく高い方が好ましく、低くなるとバインダ樹脂の高分子鎖の絡み合いが緩くなり、感光層中の低分子化合物成分に対する拘束が解かれることより、耐ソルベントクラック性が悪化することがある。シリカ粒子を含む感光層では、感光層のガラス転移温度Tgを105℃以上に調整することで、長期にわたりソルベントクラックに起因する画像不良を抑制することができる。
ガラス転移温度Tgの上限は、感光体の他の材料の変質や耐熱性を考慮して、120℃程度である。
【0027】
<感光層の最表面層のビッカース硬さHv>
本開示の感光体の最表面層は、温度25℃、相対湿度50%の環境下で対向角136°のビッカース四角錘ダイヤモンド圧子を用いて押込み最大荷重30mNを5秒間負荷して測定される、JIS-Z-2244に定義される、25以上のビッカース硬さ(HV)を有することが好ましい。
ビッカース硬さ(HV)が25以上であることにより、感光層の機械的強度が高まり、傷が入り難くいなるため、ソルベントクラックのリスクを低減させることできる。
一方、ビッカース硬さ(HV)が25未満では、感光層の機械的強度が十分に得られないことがある。
好ましいビッカース硬さ(HV)は、26~30である。
【0028】
(1)電子写真感光体
感光層は、単層型感光層、電荷発生層および電荷輸送層が積層された積層型感光層、または電荷発生層、第1電荷輸送層および第2電荷輸送層が積層された積層型感光層であり、かつ前記最表面層がそれぞれ単層型感光層、電荷輸送層および第2電荷輸送層であることが好ましい。
【0029】
図1は、本開示の実施の形態に係る感光体10の要部の構成を示す模式断面図である。
感光体10は、導電性支持体11上に、下引き層12を設け、その上に電荷発生物質を含有する電荷発生層13と、電荷輸送物質、電荷輸送物質を結着させるバインダ樹脂およびシリカ粒子18を含有する電荷輸送層14とが、導電性支持体11から外方に向かってこの順序で積層されてなる積層構造からなる感光層(積層型感光層)17を有する積層型感光体である。以下に、各構成とそれらの特徴について説明する。
【0030】
<導電性支持体(導電性基体)11>
導電性支持体は、感光体の電極としての機能と支持部材としての機能を有し、その構成材料は、当該技術分野で用いられる材料であれば特に限定されない。
具体的には、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、亜鉛、ステンレス鋼およびチタンなどの金属材料、ならびに表面に金属箔ラミネート、金属蒸着処理または導電性高分子、酸化スズ、酸化インジウムなどの導電性化合物の層を蒸着もしくは塗布した、ポリエチレンテレフタレート、ナイロンおよびポリスチレンなどの高分子材料、硬質紙ならびにガラスなどが挙げられる。これらの中でも、加工の容易性の点からアルミニウムが好ましく、JIS3003系、JIS5000系およびJIS6000系などのアルミニウム合金が特に好ましい。
導電性支持体の形状は、
図3に示すような円筒状(ドラム状)に限定されず、シート状、円柱状、無端ベルト状などであってもよい。
また、導電性支持体の表面には、必要に応じて、画質に影響のない範囲内で、レーザ光による干渉縞防止のために、陽極酸化皮膜処理、薬品もしくは熱水などによる表面処理、着色処理、または表面を粗面化するなどの乱反射処理が施されていてもよい。
【0031】
<下引き層(中間層)12>
本開示の感光体は、導電性支持体11と感光層17との間に下引き層12を備えるのが好ましい。
下引き層は、一般に、導電性支持体の表面の凸凹を被覆し均一にして、積層型感光層、ここでは電荷発生層の成膜性を高め、積層型感光層の導電性支持体からの剥離を抑え、導電性支持体と積層型感光層との接着性を向上させる。具体的には、導電性支持体からの積層型感光層への電荷の注入が防止され、積層型感光層の帯電性の低下を防ぎ、画像のかぶり(いわゆる黒ぽち)を防止することができ、ライフを通じて、帯電性などの良好な電子写真特性を維持できる。
【0032】
下引き層は、例えば、バインダ樹脂を適当な溶剤に溶解させて下引き層用塗布液を調製し、この塗布液を導電性支持体の表面に塗布し、乾燥により有機溶剤を除去することによって形成することができる。
【0033】
バインダ樹脂としては、後述する積層型感光層に含まれるものと同様のバインダ樹脂に加えて、カゼイン、ゼラチン、ポリビニルアルコール、エチルセルロースなどの天然高分子材料などが挙げられ、これらの1種または2種以上を使用できる。
バインダ樹脂は、下引き層上に感光体層を形成する際に用いられる溶剤に対して溶解や膨潤などが起こらないこと、導電性支持体との接着性に優れること、可撓性を有することなどの特性が要求されることから、上記のバインダ樹脂の中でも、ポリアミド樹脂が好ましく、特にアルコール可溶性ナイロン樹脂が好ましい。
アルコール可溶性ナイロン樹脂としては、例えば、6-ナイロン、66-ナイロン、610-ナイロン、11-ナイロンおよび12-ナイロンなどの単独重合または共重合ナイロン、N-アルコキシメチル変性ナイロンのように、ナイロンを化学的に変性させた樹脂などが挙げられる。
【0034】
樹脂材料を溶解または分散させる溶剤としては、例えば、水、メタノール、エタノール、ブタノールなどのアルコール類、メチルカルビトール、ブチルカルビトールなどのグライム類、ジクロロエタン、クロロホルムもしくはトリクロロエタンなどの塩素系溶剤、アセトン、ジオキソラン、これらの溶剤を2種以上混合した混合溶剤などが挙げられる。これらの溶剤の中でも、地球環境に対する配慮から、非ハロゲン系有機溶剤が好適に用いられる。
【0035】
また、下引き層用塗布液は、無機化合物微粒子を含んでいてもよい。この下引き層の無機化合物微粒子は、最表面層の無機化合物微粒子とは配合目的が異なり、同一化合物であっても異なっていてもよい。
無機化合物微粒子は、下引き層の体積抵抗値を容易に調節でき、積層型感光層への電荷の注入をさらに抑制できると共に、各種環境下において感光体の電気特性を維持できる。
無機化合物微粒子としては、例えば、酸化チタン、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、酸化スズなどの微粒子が挙げられる。
下引き層用塗布液におけるバインダ樹脂と無機化合物微粒子との合計質量Cと溶剤の質量Dとの比率(C/D)は、1/99~40/60が好ましく、2/98~30/70が特に好ましい。
また、バインダ樹脂の質量Eと無機化合物微粒子の質量Fとの比率E/Fは、90/10~1/99が好ましく、70/30~5/95が特に好ましい。
【0036】
無機化合物微粒子を下引き層用塗布液に分散させるために、ボールミル、サンドミル、アトライタ、振動ミル、超音波分散機およびペイントシェーカなどの公知の装置を用いてもよい。
下引き層用塗布液の塗布方法は、塗布液の物性および生産性などを考慮に入れて最適な方法を適宜選択すればよく、例えば、スプレー法、バーコート法、ロールコート法、ブレード法、リング法および浸漬塗布法などが挙げられる。
これらの中でも、浸漬塗布法は、塗布液を満たした塗工槽に基体を浸漬した後、一定速度または逐次変化する速度で引上げることによって基体の表面に層を形成する方法であり、比較的簡単で、生産性および原価の点で優れているので、感光体の製造に好適に用いることができる。浸漬塗布法に用いる装置には、塗布液の分散性を安定させるために、超音波発生装置に代表される塗布液分散装置が設けられていてもよい。
【0037】
自然乾燥により塗膜中の溶剤を除去してもよいが、加熱により強制的に塗膜中の溶剤を除去してもよい。
このような乾燥工程における温度は、使用した溶剤を除去し得る温度であれば特に限定されないが、50~140℃程度が適当であり、80~130℃程度が特に好ましい。
乾燥温度が50℃未満では、乾燥時間が長くなることがあり、また溶剤が充分に蒸発せず感光体層中に残ることがある。また、乾燥温度が約140℃を超えると、感光体の繰り返し使用時の電気的特性が悪化して、得られる画像が劣化することがある。
このような温度条件は、下引き層のみならず後述する積層型感光層などの層形成や他の処理においても共通する。
【0038】
下引き層の膜厚は、特に限定されないが、好ましくは0.01~20μm、より好ましくは0.05~10μmである。
下引き層の膜厚が0.01μm未満では、下引き層として実質的に機能しなくなり、導電性支持体の欠陥を被覆して均一な表面性を得ることができず、導電性支持体からの積層型感光層への電荷の注入を防止することができなくなるおそれがある。一方、下引き層の膜厚が20μmを超えると、均一な下引き層を形成し難く、また感光体の感度も低下するおそれがある。
なお、導電性支持体の構成材料がアルミニウムの場合には、アルマイトを含む層(アルマイト層)を形成し、下引き層とすることができる。
【0039】
<電荷発生層13>
電荷発生層は、画像形成装置などにおいて半導体レーザ光などの照射された光を吸収することによって電荷を発生する機能を有し、電荷発生物質を主成分とし、必要に応じてバインダ樹脂や添加剤を含有する。
【0040】
電荷発生物質としては、当該分野で用いられる化合物を使用でき、具体的には、モノアゾ系顔料、ビスアゾ系顔料およびトリスアゾ系顔料などのアゾ系顔料;インジゴおよびチオインジゴなどのインジゴ系顔料;ペリレンイミドおよびペリレン酸無水物などのペリレン系顔料;アントラキノンおよびピレンキノンなどの多環キノン系顔料;チタニルフタロシアニンなどの金属フタロシアニンおよび無金属フタロシアニンなどのフタロシアニン系顔料;スクアリリウム色素、ピリリウム塩類、チオピリリウム塩類、トリフェニルメタン系色素などの有機光導電性材料;ならびにセレンおよび非晶質シリコンなどの無機光導電性材料などが挙げられ、露光波長域に感度を有するものを適宜選択して用いることができる。これらの電荷発生物質は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
これらの電荷発生物質の中でも、下記一般式(A):
【0041】
【0042】
(式中、X1、X2、X3およびX4は、同一または異なって、ハロゲン原子、アルキル基またはアルコキシ基であり、r、s、yおよびzは、同一または異なって0~4の整数である)
で表されるチタニルフタロシアニンを用いることが好ましい。
チタニルフタロシアニンは、現在一般的に用いられているレーザ光およびLED光の発信波長域(近赤外光)で高い電荷発生効率と電荷注入効率とを有する電荷発生物質であり、光を吸収することにより多量の電荷を発生させると共に、発生した電荷をその内部に蓄積することなく電荷輸送物質に効率よく注入することができる。
【0043】
一般式(A)で表されるチタニルフタロシアニンは、例えば、Moser, Frank HおよびArthur L. ThomasによるPhthalocyanine Compounds、Reinhold Publishing Corp.、New York、1963に記載されている方法などの公知の製造方法によって製造することができる。
例えば、一般式(A)で表されるチタニルフタロシアニン化合物のうち、r、s、yおよびzが0である無置換のチタニルフタロシアニンの場合は、フタロニトリルと四塩化チタンとを、加熱融解するかまたはα-クロロナフタレンなどの適当な溶剤中で加熱反応させることによってジクロロチタニルフタロシアニンを合成した後、塩基または水で加水分解することによって得られる。
また、イソインドリンとテトラブトキシチタンなどのチタニウムテトラアルコキシドとを、N-メチルピロリドンなどの適当な溶剤中で加熱反応させることによっても、チタニルフタロシアニン組成物を製造することができる。
【0044】
電荷発生層の形成方法としては、電荷発生物質を導電性支持体上に真空蒸着する方法、および溶剤中に電荷発生物質を分散して得られる電荷発生層用塗布液を導電性支持体上に塗布する方法などがある。これらの中でも、バインダ樹脂を溶剤中に混合して得られるバインダ樹脂溶液中に、電荷発生物質を従来公知の方法によって分散させ、電荷発生層用塗布液を導電性支持体上に塗布する方法が好ましい。以下、この方法について説明する。
【0045】
バインダ樹脂としては、特に限定されず、当該分野で公知の樹脂をいずれも使用でき、例えば、ポリエステル、ポリスチレン、ポリウレタン、フェノール樹脂、アルキッド樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリフェノキシ、ポリビニルブチラールおよびポリビニルホルマールなどの樹脂、ならびにこれらの樹脂を構成する繰返し単位のうちの2つ以上を含む共重合体樹脂などを挙げることができる。
共重合体樹脂としては、例えば、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル-無水マレイン酸共重合体樹脂およびアクリロニトリル-スチレン共重合体樹脂などの絶縁性樹脂が挙げられる。これらの樹脂は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0046】
溶剤としては、例えば、ジクロロメタンおよびジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素、アセトン、メチルエチルケトンおよびシクロヘキサノンなどのケトン類、酢酸エチルおよび酢酸ブチルなどのエステル類、テトラヒドロフラン(THF)およびジオキサンなどのエーテル類、1,2-ジメトキシエタンなどのエチレングリコールのアルキルエーテル類、ベンゼン、トルエンおよびキシレンなどの芳香族炭化水素類、またはN,N-ジメチルホルムアミドおよびN,N-ジメチルアセトアミドなどの非プロトン性極性溶剤などが挙げられる。これらの溶剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0047】
電荷発生物質とバインダ樹脂との配合比率は、電荷発生物質の割合が10~99質量%の範囲にあることが好ましい。
電荷発生物質の割合が10質量%未満であると、感度が低下することがある。一方、電荷発生物質の割合が99質量%を超えると、電荷発生層の膜強度が低下するだけでなく、電荷発生物質の分散性が低下して粗大粒子が増大し、露光によって消去されるべき部分以外の表面電荷が減少して画像欠陥、特に白地にトナーが付着し微小な黒点が形成される黒ポチと呼ばれる画像のかぶりが多く発生することがある。
【0048】
バインダ樹脂溶液中に電荷発生物質を分散させる前に、予め電荷発生物質を粉砕機によって粉砕処理してもよい。粉砕処理に用いられる粉砕機としては、ボールミル、サンドミル、アトライタ、振動ミルおよび超音波分散機などを挙げることができる。
電荷発生物質をバインダ樹脂溶液中に分散させる際に用いられる分散機としては、ペイントシェーカ、ボールミルまたはサンドミルなどを挙げることができる。このときの分散条件としては、用いる容器および分散機を構成する部材の摩耗などによる不純物の混入が起こらないように適当な条件を選択すればよい。
電荷発生層用塗布液の塗布方法としては、下引き層用塗布液の塗付方法と同様の方法が挙げられ、浸漬塗布法が特に好ましい。
【0049】
電荷発生層の膜厚は、特に限定されないが、好ましくは0.05~5μmであり、より好ましくは0.1~1μmである。
電荷発生層の膜厚が0.05μm未満では、光吸収の効率が低下し、感光体の感度が低下することがある。一方、電荷発生層の膜厚が5μmを超えると、電荷発生層内部での電荷移動が積層型感光層表面の電荷を消去する過程の律速段階となり感光体の感度が低下することがある。
【0050】
<電荷輸送層14>
電荷輸送層は、電荷発生物質で発生した電荷を受け入れ、感光体表面まで輸送する機能を有し、電荷輸送物質、バインダ樹脂およびシリカ粒子を少なくとも含有し、本開示の効果が阻害されない範囲で、必要に応じて添加剤を含有する。
【0051】
電荷輸送物質としては、特に限定されず、当該技術分野で用いられる化合物を使用することができる。
具体的には、カルバゾール誘導体、ピレン誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、チアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、イミダゾロン誘導体、イミダゾリジン誘導体、ビスイミダゾリジン誘導体、スチリル化合物、ヒドラゾン化合物、多環芳香族化合物、インドール誘導体、ピラゾリン誘導体、オキサゾロン誘導体、ベンズイミダゾール誘導体、キナゾリン誘導体、ベンゾフラン誘導体、アクリジン誘導体、フェナジン誘導体、アミノスチルベン誘導体、トリアリールアミン誘導体、トリアリールメタン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、スチルベン誘導体、ブタジエン誘導体、エナミン誘導体、ベンジジン誘導体、これらの化合物から誘導される基を主鎖または側鎖に有するポリマー(ポリ-N-ビニルカルバゾール、ポリ-1-ビニルピレン、エチルカルバゾール-ホルムアルデヒド樹脂、トリフェニルメタンポリマー、ポリ-9-ビニルアントラセンなど)、ポリシランなどが挙げられる。これらの電荷輸送物質は、耐刷性、耐ソルベントクラック性において優位性を有し、これらの1種を単独でまたは2種以上を組み合せて使用することができる。
これらの電荷輸送物質の中でも、スチルベン誘導体が特に好ましい。
【0052】
本開示の感光体では最表面層の、電荷輸送物質が、一般式(I):
【化2】
(式中、R
1、R
2、R
5およびR
6は、同一または異なって、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アラルキル基またはハロゲン原子であり、m、n、pおよびqは、同一または異なって、0~3の整数であり、R
3およびR
4は、同一または異なって、水素原子またはアルキル基である。
で表されるスチルベン誘導体、および一般式(II):
【0053】
【化3】
(式中、R
8およびR
9は、同一または異なって、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アラルキル基またはハロゲン原子であり、R
7は、水素原子またはアルキル基であり、r、sおよびtは、同一または異なって、0~3の整数である)
で表されるスチルベン誘導体から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
以下に、一般式(I)および(II)における置換基および指数について説明する。
【0054】
一般式(I)のR1、R2、R5およびR6ならびに一般式(II)のR8およびR9のアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシルなどの炭素数1~6のアルキル基が挙げられる。
一般式(I)のR1、R2、R5およびR6ならびに一般式(II)のR8およびR9のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、イソプロポキシ、tert-ブトキシ、n-ペンチルオキシ、n-ヘキシルオキシなどの炭素数が1~6のアルコキシ基が挙げられる。
一般式(I)のR1、R2、R5およびR6ならびに一般式(II)のR8およびR9のアリール基としては、例えばフェニル、ナフチル、アントリル、フェナントリル、フルオレニル、ビフェニリル、o-テルフェニルなどが挙げられる。
一般式(I)のR1、R2、R5およびR6ならびに一般式(II)のR8およびR9としては、メチルおよびエチルが好ましく、メチルが特に好ましい。
【0055】
一般式(I)のR1、R2、R5およびR6ならびに一般式(II)のR8およびR9のアラルキル基としては、例えば、ベンジル、フェネチル、ベンズヒドリル、トリチルな どが挙げられる。
一般式(I)のR1、R2、R5およびR6ならびに一般式(II)のR8およびR9のハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素原子が挙げられる。
一般式(I)のR3およびR4ならびに一般式(II)のR7としては、上記のアルキル基が挙げられる。
一般式(I)のR1、R2、R5およびR6ならびに一般式(II)のR8およびR9としては、メチルおよびエチルが好ましく、メチルが特に好ましい。
一般式(I)のR3およびR4としては、水素原子およびメチルが好ましく、水素原子が特に好ましい。
一般式(II)のR7としては、水素原子およびメチルが好ましく、メチルが特に好ましい。
【0056】
一般式(I)のm、n、pおよびqは、同一または異なって、0~3の整数であり、この指数が2以上のとき、各置換基は互いに異なっていてもよい。好ましくは0~2であり、より好ましくは1または2である。
一般式(II)のr、sおよびtは、同一または異なって、0~3の整数であり、この指数が2以上のとき、各置換基は互いに異なっていてもよい。好ましくは0または1であり、より好ましくは1である。
【0057】
一般式(I)および(II)で表される骨格を有し、かつイオン化ポテンシャルが本開示の範囲内に該当する材料は、耐光性および耐ソルベントクラック処方を構成するにあたり有用な材料である。高応答材料であることより、感光層中の電荷輸送物質の含有量を減量しても十分な感度を確保でき、感光層中の低分子化合物の成分含有量を抑制することができ、耐ソルベントクラック性が向上し、かつ感光層の機械的特性向上との両立が可能となる。
【0058】
一般式(I)および(II)で表されるスチルベン誘導体としては、それぞれ実施例に記載の化合物(1)および化合物(2)が挙げられ、好適に用いられる。
一般式(I)で表されるスチルベン化合物は、例えば、特許第3272257号公報に 記載の方法により合成することができる。
【0059】
したがって、一般式(I)で表されるスチルベン誘導体は、次式:
【化4】
で表されるスチルベン化合物(1)であること、
【0060】
一般式(II)で表されるスチルベン誘導体が、次式:
【化5】
で表されるスチルベン化合物(2)であることが好ましい。
【0061】
最表面層になる電荷輸送層に含まれるシリカ粒子は、例えば、乾式シリカ粒子、湿式シリカ粒子が挙げられる。
乾式シリカ粒子としては、シラン化合物を燃焼させて得られる燃焼法シリカ(ヒュームドシリカ)、金属珪素粉を爆発的に燃焼させて得られる爆燃法シリカが挙げられる。
湿式シリカ粒子としては、珪酸ナトリウムと鉱酸との中和反応によって得られる湿式シリカ粒子(アルカリ条件で合成・凝集した沈降法シリカ、酸性条件で合成・凝集したゲル法シリカ粒子)、酸性珪酸をアルカリ性にして重合することで得られるコロイダルシリカ粒子(シリカゾル粒子)、有機シラン化合物(例えばアルコキシシラン)の加水分解によって得られるゾルゲル法シリカ粒子が挙げられる。
これらの中でも、シリカ粒子としては、残留電位の発生、その他電気特性の悪化による画像欠陥の抑制(細線再現性の悪化の抑制)の観点から、表面のシラノール基が少なく、低い空隙構造を持つ燃焼法シリカ粒子が望ましい。
また、シリカ微粒子ジメチルジクロロシランもしくはヘキサメチルジシラザン処理されている場合、最も良好な電子写真特性を発現することができる。
シリカ粒子の数平均一次粒子径および最表面層中の含有割合は、前記のとおりである。
【0062】
電荷輸送層の形成方法としては、バインダ樹脂を溶剤中に混合して得られるバインダ樹脂溶液中に、電荷輸送物質およびシリカ粒子を公知の方法によって分散させ、電荷輸送層用塗布液を電荷発生層上に塗布する方法が好ましい。以下、この方法について説明する。
シリカ粒子を電荷輸送層用塗布液に分散させるために、ボールミル、サンドミル、アトライタ、振動ミル、超音波分散機、ペイントシェーカ、超微粒子化装置および粒子分散装置などの公知の装置を用いてもよい。これらの装置の条件を適宜設定して電荷輸送層用塗布液を調製し、電荷輸送層を形成することにより、本開示のシリカ粒子の分散均一性を満たす感光体を得ることができる。
【0063】
バインダ樹脂としては、特に限定されず、当該技術分野で用いられる結着性を有する樹脂を使用することができ、電荷輸送物質との相溶性に優れるものが好ましい。
具体的には、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニルなどのビニル重合体樹脂およびそれらの共重合体樹脂、ならびにポリカーボネート、ポリエステル、ポリエステルカーボネート、ポリスルホン、フェノキシ樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリアリレート、ポリアミド、ポリエーテル、ポリウレタン、ポリアクリルアミド、フェノール樹脂、ポリフェニレンオキサイドなどの樹脂、これらの樹脂を部分的に架橋した熱硬化性樹脂などが挙げられる。これらのバインダ樹脂は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
これらの中でも、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアリレートは、体積抵抗値が1013Ω以上であって電気絶縁性に優れ、かつ成膜性、電位特性などにも優れるので特に好ましい。
【0064】
電荷輸送物質(A)とバインダ樹脂(B)との比率A/Bは、10/12~10/30が好ましい。比率A/Bが10/30未満でありバインダ樹脂の比率が高くなると、浸漬塗布法によって電荷輸送層を形成する場合、塗布液の粘度が増大するので、塗布速度低下を招き生産性が著しく悪くなる。また塗布液の粘度の増大を抑えるために塗布液中の溶剤の量を多くすると、ブラッシング現象が発生し、形成された電荷輸送層に白濁が発生することがある。一方、比率A/Bが10/12を超えてバインダ樹脂の比率が低くなると、バインダ樹脂の比率が高いときに比べて耐刷性が低くなり、感光層の摩耗量が増加することがある。
【0065】
電荷輸送層は、機械的強度の増強や電気的特性の向上を図るために、本開示の感光体の効果を阻害しない範囲で、シリカ粒子以外の無機化合物微粒子や有機化合物微粒子を含有してもよい。それらの含有量は、10~20質量%程度である。
【0066】
電荷輸送層は、成膜性、可撓性および表面平滑性を向上させるために、必要に応じて、可塑剤、レベリング剤などの添加剤を含有してもよい。
可塑剤としては、例えば、フタル酸エステル等の二塩基酸エステル、脂肪酸エステル、リン酸エステル、塩素化パラフィン、エポキシ型可塑剤等が挙げられる。
レベリング剤としては、例えば、シリコン系レベリング剤等が挙げられる。
【0067】
溶剤としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、モノクロルベンゼン等の芳香族炭化水素;ジクロロメタン、ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素;THF、ジオキサン、ジメトキシメチルエーテル等のエーテル類;N,N-ジメチルホルムアミド等の非プロトン性極性溶剤等が挙げられる。また必要に応じてアルコール類、アセトニトリル、メチルエチルケトン等の溶剤をさらに加えて使用することもできる。これらの溶剤の中でも、地球環境に対する配慮から、非ハロゲン系有機溶剤が好適に用いられる。これらの溶剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合せて使用してもよい。
【0068】
電荷輸送層は、例えば、前述の電荷発生層を形成する場合と同様に、適当な溶剤中に、電荷輸送物質、バインダ樹脂、および必要に応じて前述の添加剤を、溶解又は分散させて電荷輸送層用塗布液を調製し、この塗布液をスプレー法、バーコート法、ロールコート法、ブレード法、リング法又は浸漬塗布法等によって、電荷発生層上に塗布することによって形成される。これらの塗布方法の中でも、特に浸漬塗布法は、前述したように種々の点で優れているので、電荷輸送層を形成する場合にも好適である。
【0069】
電荷輸送層の膜厚は、特に限定されないが、好ましくは5~50μm、より好ましくは10~40μmである。
電荷輸送層の膜厚が5μm未満では、感光体表面の帯電保持能が低下することがある。一方、電荷輸送層の膜厚が50μmを超えると、感光体の解像度が低下することがある。
【0070】
<第2電荷輸送層16>
図2は、本開示の感光体の一例である感光体20の要部の構成を示す概略断面図である。
図2に示されるように、感光体20の電荷輸送層は、電荷発生層上に順次積層された第1電荷輸送層15および第2電荷輸送層16であり、かつ第1電荷輸送層15が電荷輸送物質およびバインダ樹脂を含有し、第2電荷輸送層16がバインダ樹脂、シリカ粒子18および電荷輸送物質を含有する。すなわち、電荷輸送層が2層からなり、感光体の最表面層となる第2電荷輸送層16にシリカ粒子18が含有される。
【0071】
電荷輸送物質、バインダ樹脂およびシリカ粒子としては、前項に記載のものが挙げられる。
第1電荷輸送層15および第2電荷輸送層16は、例えば、前述の電荷発生層13および電荷輸送層14を形成する場合と同様に、適当な溶剤中に構成成分を溶解または分散させて、それぞれ第1電荷輸送層用塗布液および第2電荷輸送層用塗布液を調製し、この塗布液をスプレイ法、バーコート法、ロールコート法、ブレード法、リング法または浸漬塗布法などによって、それぞれ電荷発生層13上および第1電荷輸送層15上に塗布することによって形成される。これらの塗布方法の中でも、特に浸漬塗布法は、前述したように種々の点で優れているので、これらの層を形成する場合にも多く利用されている。
【0072】
第1電荷輸送層の膜厚は、特に限定されないが、好ましくは15~50μm、より好ましくは25~40μmである。
第2電荷輸送層の膜厚は、特に限定されないが、好ましくは5~20μm、より好ましくは5~10μmである。
【0073】
(2)画像形成装置
本開示の画像形成装置は、本開示の感光体と、感光体を帯電させる帯電手段と、帯電された感光体を露光して静電潜像を形成する露光手段と、静電潜像を現像してトナー像を形成する(可視像化する)現像手段と、トナー像を記録媒体上に転写する転写手段とを少なくとも備えることを特徴とする。
本開示の画像形成装置は、転写されたトナー像を記録媒体上に定着して画像を形成する定着手段と、感光体に残留するトナーを除去し回収するクリーニング手段、および感光体に残留する表面電荷を除電する除電手段から選択される手段を備えていてもよい。
以下、図面を用いて本開示の画像形成装置およびその動作について説明するが、本開示の画像形成装置はこれらにより限定されるものではない。
【0074】
図3は、本開示の画像形成装置の要部の構成を模式側面図である。
図3の画像形成装置(レーザプリンタ)100は、本開示の感光体1と、露光手段(半導体レーザ)31と、帯電手段(帯電器)32と、現像手段(現像器)33と、転写手段(転写帯電器)34と、搬送ベルト(図示せず)と、定着手段(定着器)35と、クリーニング手段(クリーナ)36とを含んで構成される。符号51は記録媒体(記録紙または転写紙)を示す。
【0075】
感光体1は、画像形成装置100本体に回転自在に支持され、図示しない駆動手段によって回転軸線44回りに矢符41方向に回転駆動される。駆動手段は、例えば電動機と減速歯車とを含んで構成され、その駆動力を感光体1の芯体を構成する導電性支持体に伝えることによって、感光体1を所定の周速度で回転駆動させる。帯電手段(帯電器)32、露光手段31、現像手段(現像器)33、転写手段(転写帯電器)34およびクリーニング手段(クリーナ)36は、この順序で、感光体1の外周面に沿って、矢符41で示される感光体1の回転方向上流側から下流側に向って設けられる。
【0076】
帯電器32は、感光体1の外周面を均一に所定の電位に帯電させる帯電手段である。
露光手段31は、半導体レーザを光源として備え、光源から出力されるレーザビーム光を、帯電器32と現像器33との間の感光体1の表面に照射することによって、帯電された感光体1の外周面に対して画像情報に応じた露光を施す。光は、主走査方向である感光体1の回転軸線44の延びる方向に繰返し走査され、これらが結像して感光体1の表面に静電潜像が順次形成される。すなわち、帯電器32により均一に帯電された感光体1の帯電量がレーザビームの照射および非照射によって差異が生じて静電潜像が形成される。
【0077】
現像器33は、露光によって感光体1の表面に形成される静電潜像を、現像剤(トナー)によって現像する現像手段であり、感光体1を臨んで設けられ、感光体1の外周面にトナーを供給する現像ローラ33aと、現像ローラ33aを感光体1の回転軸線44と平行な回転軸線まわりに回転可能に支持すると共にその内部空間にトナーを含む現像剤を収容するケーシング33bとを備える。
【0078】
転写帯電器34は、現像によって感光体1の外周面に形成される可視像であるトナー像を、図示しない搬送手段によって矢符42方向から感光体1と転写帯電器34との間に供給される記録媒体である転写紙51上に転写させる転写手段である。転写帯電器34は、例えば、帯電手段を備え、転写紙51にトナーと逆極性の電荷を与えることによってトナー像を転写紙51上に転写させる接触式の転写手段である。
【0079】
クリーナ36は、転写帯電器34による転写動作後に感光体1の外周面に残留するトナーを除去し回収する清掃手段であり、感光体1の外周面に残留するトナーを剥離させるクリーニングブレード36aと、クリーニングブレード36aによって剥離されたトナーを収容する回収用ケーシング36bとを備える。また、このクリーナ36は、図示しない除電ランプと共に設けられる。
【0080】
また、画像形成装置100には、感光体1と転写帯電器34との間を通過した転写紙51が搬送される下流側に、転写された画像を定着させる定着手段である定着器35が設けられる。定着器35は、図示しない加熱手段を有する加熱ローラ35aと、加熱ローラ35aに対向して設けられ、加熱ローラ35aに押圧されて当接部を形成する加圧ローラ35bとを備える。
符号37は、転写紙と感光体を分離する分離手段、符号38は、画像形成装置の前記の各手段を収容するケーシングを示す。
【0081】
この画像形成装置100による画像形成動作は、次のようにして行われる。
まず、感光体1が駆動手段によって矢符41方向に回転駆動されると、露光手段31による光の結像点よりも感光体1の回転方向上流側に設けられる帯電器32によって、感光体1の表面が正の所定電位に均一に帯電される。
【0082】
次いで、露光手段31から、感光体1の表面に対して画像情報に応じた光が照射される。感光体1は、この露光によって、光が照射された部分の表面電荷が除去され、光が照射された部分の表面電位と光が照射されなかった部分の表面電位とに差異が生じ、静電潜像が形成される。
露光手段31による光の結像点よりも感光体1の回転方向下流側に設けられる現像器33から、静電潜像の形成された感光体1の表面にトナーが供給されて静電潜像が現像され、トナー像が形成される。
【0083】
感光体1に対する露光と同期して、感光体1と転写帯電器34との間に、転写紙51が供給される。転写帯電器34によって、供給された転写紙51にトナーと逆極性の電荷が与えられ、感光体1の表面に形成されたトナー像が、転写紙51上に転写される。
トナー像の転写された転写紙51は、搬送手段によって定着器35に搬送され、定着器35の加熱ローラ35aと加圧ローラ35bとの当接部を通過する際に加熱および加圧され、トナー像が転写紙51に定着されて堅牢な画像となる。このようにして画像が形成された転写紙51は、搬送手段によって画像形成装置100の外部へ排紙される。
【0084】
一方、転写帯電器34によるトナー像の転写後も感光体1の表面上に残留するトナーは、クリーナ36によって感光体1の表面から剥離されて回収される。このようにしてトナーが除去された感光体1の表面の電荷は、除電ランプからの光によって除去され、感光体1の表面上の静電潜像が消失する。その後、感光体1はさらに回転駆動され、再度帯電から始まる一連の動作が繰返されて連続的に画像が形成される。
【実施例0085】
以下に、実施例および比較例により本開示を具体的に説明するが、これらの実施例により本発明が限定されるものではない。
なお、実施例および比較例において、用いた材料および得られた感光体の物性を下記の方法により測定した。
【0086】
(1)シリカ粒子の数平均一次粒子径
走査型電子顕微鏡(SEM、株式会社日立ハイテクノロジーズ製、型式:S-4800)を用いて、シリカ粒子を倍率30000~300000倍、例えば100000倍で撮影し、得られた画像から任意に100個のシリカ粒子を一次粒子として観察し、画像解析によってフェレ方向の粒径(長径)の平均値を算出し、これを数平均一次粒子径とする。
【0087】
(2)シリカ粒子のBET比表面積
比表面積/細孔分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製、型式:BELSORP MAX2)を用いて、シリカ粒子のBET比表面積(m2/g)を測定する。
この測定は、JIS Z8830:2013に準ずる。
【0088】
(3)電荷輸送物質のイオン化ポテンシャルI.P.
大気中光電子分光装置(理研計器株式会社製、型式:AC-2)を用いて、出力10nW~100nWの条件で、イオン化ポテンシャル(eV)を測定する。
【0089】
(4)感光体の最表面層の十点表面粗さRz、凹凸の平均間隔Smおよびそれらの比Sm/Rz
表面粗さ測定装置(株式会社東京精密製、型式:Surfcom1400D)を用いて、基準長さ0.8mm、カットオフ波長0.8mm、測定速度0.1mm/sec、カットオフ種類ガウシアンの方法で、感光体の最表面層(電荷輸送層)の軸方向の帯電領域の中央部の幅4mm領域の十点表面粗さRz(μm)および凹凸の平均間隔Sm(μm)を測定する。
得られた結果から比Sm/Rzを算出する。
RzおよびSmは、JIS-B-0601(1994)に定義される十点表面粗さRzおよび凹凸の平均間隔Smに相当する。
【0090】
(5)感光体の最表面層の構成成分の低分子化合物の質量比率R
感光体の最表面層の構成成分のうち、分子量1000以下の低分子化合物の質量をWa、最表面層全体の質量をWbとしたとき、それらの比率R=Wa/Wbを算出する。
下記の実施例および比較例では、最表面層全体の質量Wbからバインダ樹脂およびシリカ粒子の質量を減じた質量をWaとし、それらに基づいて、比Rを算出する。
【0091】
(6)感光層のガラス転移温度Tg
示差走査熱量分析装置(セイコー電子工業株式会社(現 株式会社日立ハイテクサイエンス)製、型番:DSC6200)を用いて、日本工業規格(JIS)K7121-1987に準じて、試料1gを昇温速度10℃/分で加熱してDSC曲線を測定する。得られたDSC曲線において、ガラス転移に相当する吸熱ピークの高温側のベースラインを低温側に延長した直線と、ピークの立ち上がり部分から頂点までの曲線に対して勾配が最大になるような点で引いた接線との交点の温度をガラス転移温度(Tg)とする。
試料は、カッターナイフなどで最表面層に1cm四方の傷をつけて剥離することにより得る。
【0092】
(7)感光層の最表面層のビッカース硬さHv
微小硬さ試験機(株式会社フィッシャー・インストルメント製、型式:フィッシャースコープ(登録商標)Η100V)を用いて、温度25℃、相対湿度50%の環境下で、対向角136°のビッカース四角錘ダイヤモンド圧子を用いて押込み最大荷重30mNを5秒間負荷して、感光層の最表面層のビッカース硬さ(HV)を測定する。
この測定は、JIS-Z-2244に準ずる。
【0093】
[実施例1]
(下引き層の形成)
酸化チタン(石原産業株式会社製、製品名:タイベーク(登録商標)TTO-D-1)3質量部および共重合ポリアミド(ナイロン)(東レ株式会社製、製品名:アミラン(登録商標)、グレード:CM8000)2質量部を、メチルアルコール25質量部に加え、ペイントシェーカにて8時間、分散処理して下引き層用塗布液3リットルを調製した。
得られた下引き層用塗布液を塗布槽に満たし、導電性支持体11として直径30mm、長さ255mmのアルミニウム製のドラム状支持体を浸漬した後に引き上げ、得られた塗膜を自然乾燥させて、導電性支持体11上に膜厚1μmの下引き層12を形成した。
【0094】
(電荷発生層の形成)
予め、電荷発生物質として使用する、下記構造式で表されるチタニルフタロシアニンを調製した。
【化6】
【0095】
ジイミノイソインドリン29.2gおよびスルホラン200mlを混合し、さらにチタニウムテトライソプロポキシド17.0gを加え、窒素雰囲気下、140℃で2時間反応させた。得られた反応混合物を放冷した後、析出物を濾取し、クロロホルムおよび2%の塩酸水溶液で順次洗浄し、さらに水およびメタノールで順次洗浄し、乾燥させて青紫色の結晶物25.5gを得た。
得られた結晶物の化学分析の結果、上記構造式で表されるチタニルフタロシアニンであることを確認した(収率88.5%)。
【0096】
得られたチタニルフタロシアニン1質量部およびブチラール樹脂(積水化学株式会社製、製品名:エスレックBM-2)1質量部を、メチルエチルケトン98質量部に加え、ペイントシェーカにて2時間、分散処理して電荷発生層用塗布液3リットルを調製した。
得られた電荷発生層用塗布液を、下引き層形成の場合と同様の浸漬法で、下引き層18上に塗布し、得られた塗膜を自然乾燥させて、膜厚0.3μmの電荷発生層13を形成した。
【0097】
(電荷輸送層の形成)
次いで、シリカ粒子(日本アエロジル株式会社製、製品名:AEROSIL(登録商標)RX50、数平均一次粒子径40nm、ヘキサメチルジシラザン表面処理)2.9gを、テトラヒドロフラン29.3gに懸濁させ、30時間、撹拌処理を行った。
得られたシリカフィラー懸濁液に対して、電荷輸送物質として下記構造式で表される化合物(1)(スチルベン誘導体、イオン化ポテンシャル:5.47eV)10.0g、トリベンジルアミン(東京化成株式会社製、製品名:トリベンジルアミン)0.3g、ポリカーボネート(帝人化成株式会社製、製品名:TS2050)19.0gおよびテトラヒドロフラン78.5gを加え、混合した。
【0098】
【0099】
得られた混合物を、超微粒化装置(吉田機械興業株式会社製、製品名:ダマトリシステム)を用いて5分間、撹拌処理を行った。次いで、粒子分散装置(マイクロフルイディックス社製、型式:マイクロフルイタイザーM-110P)を用いて、10Pass分散処理して電荷輸送層用塗布液140.0gを調製した。
【0100】
得られた電荷輸送層用塗布液を、下引き層形成の場合と同様の浸漬法で、電荷発生層13上に塗布し、得られた塗膜を温度115℃で1.5時間乾燥させて、膜厚35μmの最表面層(電荷輸送層)14を形成し、
図2に示す実施例1の感光体を作製した。
なお、上記化合物(1)(スチルベン誘導体)は、特許第3272257号公報に記載の方法に基づいて予め調製したものを使用した。
【0101】
[実施例2]
実施例1と同様にして、導電性支持体11上に下引き層12および電荷発生層13を形成した。
電荷輸送層用塗布液のシリカフィラー懸濁液の調製において、シリカ粒子(日本アエロジル株式会社製、製品名:AEROSIL(登録商標)VP-RX40、数平均一次粒子径80~100nm、ジメチルジクロロシラン表面処理)4.0gを、テトラヒドロフラン40.0gに懸濁させ、30時間、撹拌処理を行った。
得られたシリカフィラー懸濁液に対して、電荷輸送物質として化合物(1)(スチルベン誘導体、イオン化ポテンシャル:5.47eV)10.0g、トリベンジルアミン(東京化成株式会社製、製品名:トリベンジルアミン)0.3g、ポリカーボネート(帝人化成株式会社製、製品名:TS2050)19.0gおよびテトラヒドロフラン71.5gを加え、混合した。
得られた混合物を、実施例1と同様にして撹拌処理および分散処理に付して、電荷輸送層用塗布液144.8gを調製した。
得られた電荷輸送層用塗布液を、実施例1と同様にして電荷発生層13上に膜厚35μmの最表面層(電荷輸送層)14を形成し、実施例2の感光体を作製した。
【0102】
[実施例3]
実施例1と同様にして、導電性支持体11上に下引き層12および電荷発生層13を形成した。
電荷輸送層用塗布液のシリカフィラー懸濁液の調製において、シリカ粒子(日本アエロジル株式会社製、製品名:AEROSIL(登録商標)NAX50、数平均一次粒子径30nm、ジメチルジクロロシラン表面処理)6.4gを、テトラヒドロフラン64.3gに懸濁させ、30時間、撹拌処理を行った。
得られたシリカフィラー懸濁液に対して、電荷輸送物質として下記構造式で表される化合物(2)(スチルベン誘導体、イオン化ポテンシャル:5.45eV、高砂ケミカル株式会社製、製品名:T925)10.0g、トリベンジルアミン(東京化成株式会社製、製品名:トリベンジルアミン)0.3g、ポリカーボネート(帝人化成株式会社製、製品名:TS2050)19.0gおよびテトラヒドロフラン55.3gを加え、混合した。
得られた混合物を、実施例1と同様にして撹拌処理および分散処理に付して、電荷輸送層用塗布液155.3gを調製した。
得られた電荷輸送層用塗布液を、実施例1と同様にして電荷発生層13上に膜厚35μmの最表面層(電荷輸送層)14を形成し、実施例3の感光体を作製した。
【0103】
【0104】
[実施例4]
実施例1と同様にして、導電性支持体11上に下引き層12および電荷発生層13を形成した。
電荷輸送層用塗布液のシリカフィラー懸濁液の調製において、シリカ粒子(日本アエロジル株式会社製、製品名:AEROSIL(登録商標)RX50、数平均一次粒子径40nm、ヘキサメチルジシラザン表面処理)をシリカ粒子(日本アエロジル株式会社製、製品名:AEROSIL(登録商標)NAX50、数平均一次粒子径30nm、ジメチルジクロロシラン表面処理)に変更すること以外は、実施例1と同様にして実施例4の感光体を作製した。
【0105】
[実施例5]
実施例1と同様にして、導電性支持体11上に下引き層12および電荷発生層13を形成した。
電荷輸送層用塗布液のシリカフィラー懸濁液の調製において、シリカ粒子(日本アエロジル株式会社製、製品名:AEROSIL(登録商標)RX50、数平均一次粒子径40nm、ヘキサメチルジシラザン表面処理)2.0gを、テトラヒドロフラン20.4gに懸濁させ、30時間、撹拌処理を行った。
得られたシリカフィラー懸濁液に対して、電荷輸送物質として化合物(1)(スチルベン誘導体、イオン化ポテンシャル:5.47eV)10.0g、トリベンジルアミン(東京化成株式会社製、製品名:トリベンジルアミン)0.3g、ポリカーボネート(帝人化成株式会社製、製品名:TS2050)19.0gおよびテトラヒドロフラン84.5gを加え、混合した。
得られた混合物を、実施例1と同様にして撹拌処理および分散処理に付して、電荷輸送層用塗布液136.3gを調製した。
得られた電荷輸送層用塗布液を、実施例1と同様にして電荷発生層13上に膜厚35μmの最表面層(電荷輸送層)14を形成し、実施例5の感光体を作製した。
【0106】
[実施例6]
実施例1と同様にして、導電性支持体11上に下引き層12および電荷発生層13を形成した。
電荷輸送層用塗布液のシリカフィラー懸濁液の調製において、シリカ粒子(日本アエロジル株式会社製、製品名:AEROSIL(登録商標)RX50、数平均一次粒子径40nm、ヘキサメチルジシラザン表面処理)7.8gを、テトラヒドロフラン77.9gに懸濁させ、30時間、撹拌処理を行った。
得られたシリカフィラー懸濁液に対して、電荷輸送物質として化合物(1)(スチルベン誘導体、イオン化ポテンシャル:5.47eV)10.0g、トリベンジルアミン(東京化成社製、製品名:トリベンジルアミン)0.3g、ポリカーボネート(帝人化成株式会社製、製品名:TS2050)19.0gおよびテトラヒドロフラン46.3gを加え、混合した。
得られた混合物を、実施例1と同様にして撹拌処理および分散処理に付して、電荷輸送層用塗布液161.3gを調製した。
得られた電荷輸送層用塗布液を、実施例1と同様にして電荷発生層13上に膜厚35μmの最表面層(電荷輸送層)14を形成し、実施例6の感光体を作製した。
【0107】
[実施例7]
実施例1と同様にして、導電性支持体11上に下引き層12および電荷発生層13を形成した。
電荷輸送層用塗布液のシリカフィラー懸濁液の調製において、シリカ粒子(日本アエロジル株式会社製、製品名:AEROSIL(登録商標) RX50、数平均一次粒子径40nm、ジメチルジクロロシラン表面処理)2.9gを、テトラヒドロフラン29.0gに懸濁させ、30時間、撹拌処理を行った。
得られたシリカフィラー懸濁液に対して、電荷輸送物質として下記構造式で表される化合物(3)(スチルベン誘導体、イオン化ポテンシャル:5.50eV、高砂ケミカル株式会社製、製品名:T984)10.0g、トリベンジルアミン(東京化成株式会社製、製品名:トリベンジルアミン)0.3g、ポリカーボネート(帝人化成株式会社製、製品名:TS2050)19.0g、およびテトラヒドロフラン78.8gを加え、混合した。
得られた混合物を、実施例1と同様にして撹拌処理および分散処理に付して、電荷輸送層用塗布液140.0gを調製した。
得られた電荷輸送層用塗布液を、実施例1と同様にして電荷発生層13上に膜厚35μmの最表面層(電荷輸送層)14を形成し、実施例7の感光体を作製した。
【0108】
【0109】
[実施例8]
実施例1と同様にして、導電性支持体11上に下引き層12および電荷発生層13を形成した。
電荷輸送層用塗布液のシリカフィラー懸濁液の調製において、シリカ粒子(日本アエロジル株式会社製、製品名:AEROSIL(登録商標)RX50、数平均一次粒子径40nm、ヘキサメチルジシラザン表面処理)2.7gを、テトラヒドロフラン26.8gに懸濁させ、30時間、撹拌処理を行った。
得られたシリカフィラー懸濁液に対して、電荷輸送物質として化合物(1)(スチルベン誘導体、イオン化ポテンシャル:5.47eV)10.0g、トリベンジルアミン(東京化成株式会社製、製品名:トリベンジルアミン)0.5g、光吸収剤としてペリミジン化合物(A)(C.I.Solvent Red179、AmericanDyestuff製、製品名:Amesolve RedA)1.3g、ポリカーボネート(帝人化成株式会社製、製品名:TS2050)15.0gおよびテトラヒドロフラン71.8gを加え、混合した。
得られた混合物を、実施例1と同様にして撹拌処理および分散処理に付して、電荷輸送層用塗布液128.1gを調製した。
得られた電荷輸送層用塗布液を、実施例1と同様にして電荷発生層13上に膜厚35μmの最表面層(電荷輸送層)14を形成し、実施例8の感光体を作製した。
【0110】
[実施例9]
実施例1と同様にして、導電性支持体11上に下引き層12および電荷発生層13を形成した。
電荷輸送層用塗布液のシリカフィラー懸濁液の調製において、シリカ粒子(日本アエロジル株式会社製、製品名:AEROSIL(登録商標)RX50、数平均一次粒子径40nm、ヘキサメチルジシラザン表面処理)2.6gを、テトラヒドロフラン26.0gに懸濁させ、30時間撹拌処理を行った。
得られたシリカフィラー懸濁液に対して、電荷輸送物質として化合物(1)(スチルベン誘導体、イオン化ポテンシャル:5.47eV)10.0g、トリベンジルアミン東京化成株式会社製、製品名:トリベンジルアミン)0.5g、光吸収剤としてペリミジン化合物(A)(C.I.Solvent Red179、AmericanDyestuff製、製品名:Amesolve RedA)0.5g、ポリカーボネート(帝人化成株式会社製、製品名:TS2050)15.0gおよびテトラヒドロフラン69.7gを加え、混合した。
得られた混合物を、実施例1と同様にして撹拌処理および分散処理に付して、電荷輸送層用塗布液124.3gを調製した。
得られた電荷輸送層用塗布液を、実施例1と同様にして電荷発生層13上に膜厚35μmの最表面層(電荷輸送層)14を形成し、実施例9の感光体を作製した。
【0111】
[実施例10]
実施例1と同様にして、導電性支持体11上に下引き層12および電荷発生層13を形成した。
電荷輸送層用塗布液のシリカフィラー懸濁液の調製において、シリカ粒子(日本アエロジル株式会社製、製品名:AEROSIL(登録商標)RX50、数平均一次粒子径40nm、ヘキサメチルジシラザン表面処理)2.6gを、テトラヒドロフラン26.5gに懸濁させ、30時間撹拌処理を行った。
得られたシリカフィラー懸濁液に対して、電荷輸送物質として化合物(1)化合物(1)(スチルベン誘導体、イオン化ポテンシャル:5.47eV)10.0g、トリベンジルアミン(東京化成株式会社製、製品名:トリベンジルアミン)0.5g、光吸収剤としてペリミジン化合物(A)(C.I.Solvent Red179、AmericanDyestuff製、製品名:Amesolve RedA)1.0g、ポリカーボネート(帝人化成株式会社製、製品名:TS2050)15.0gおよびテトラヒドロフラン86.4gを加え、混合した。
得られた混合物を、実施例1と同様にして撹拌処理および分散処理に付して、電荷輸送層用塗布液125.3gを調製した。
得られた電荷輸送層用塗布液を、実施例1と同様にして電荷発生層13上に膜厚35μmの最表面層(電荷輸送層)14を形成し、実施例10の感光体を作製した。
【0112】
[比較例1]
電荷輸送層用塗布液のシリカフィラー懸濁液の調製において、シリカ粒子(日本アエロジル株式会社製、製品名:AEROSIL(登録商標)RX50、数平均一次粒子径40nm、ヘキサメチルジシラザン表面処理)シリカ粒子を、シリカ粒子(日本アエロジル株式会社製、製品名:AEROSIL(登録商標)NX-90S、数平均一次粒子径20nm、ジメチルジクロロシラン表面処理)に変更したこと以外は実施例1と同様にして、比較例1の感光体を作製した。
【0113】
[比較例2]
実施例1と同様にして、導電性支持体11上に下引き層12および電荷発生層13を形成した。
電荷輸送層用塗布液のシリカフィラー懸濁液の調製において、シリカ粒子(日本アエロジル株式会社製、製品名:AEROSIL(登録商標) RX50、数平均一次粒子径40nm、ジメチルジクロロシラン表面処理)2.9gを、テトラヒドロフラン29.3gに懸濁させ、30時間、撹拌処理を行った。
得られたシリカフィラー懸濁液に対して、電荷輸送物質として下記構造式で表される化合物(4)(ブタジエン誘導体、イオン化ポテンシャル:5.16eV、高砂香料株式会社製、製品名:T405)10g、トリベンジルアミン(東京化成株式会社製、製品名:トリベンジルアミン)0.3g、ポリカーボネート(帝人化成株式会社製、製品名:TS2050)19gおよびテトラヒドロフラン78.5gを加え、混合した。
得られた混合物を、実施例1と同様にして撹拌処理および分散処理に付して、電荷輸送層用塗布液140gを調製した。
得られた電荷輸送層用塗布液を、実施例1と同様にして電荷発生層13上に膜厚35μmの最表面層(電荷輸送層)14を形成し、比較例2の感光体を作製した。
【0114】
【0115】
[比較例3]
実施例1と同様にして、導電性支持体11上に下引き層12および電荷発生層13を形成した。
電荷輸送層用塗布液のシリカフィラー懸濁液の調製において、シリカ粒子(日本アエロジル株式会社製、製品名:AEROSIL(登録商標) RX50、数平均一次粒子径40nm、ジメチルジクロロシラン表面処理)2.5gを、テトラヒドロフラン25.1gに懸濁させ、30時間、撹拌処理を行った。
得られたシリカフィラー懸濁液に対して、電荷輸送物質として下記構造式で表される化合物(5)(スチルベン誘導体、イオン化ポテンシャル:5.61eV、高砂ケミカル株式会社製、製品名:CT-3)10.0g、トリベンジルアミン(東京化成株式会社製、製品名:トリベンジルアミン)0.3g、ポリカーボネート(帝人化成株式会社製、製品名:TS2050)15.0gおよびテトラヒドロフラン82.5gを加え、混合した。
得られた混合物を、実施例1と同様にして撹拌処理および分散処理に付して、電荷輸送層用塗布液135.4gを調製した。
得られた電荷輸送層用塗布液を、実施例1と同様にして電荷発生層13上に膜厚35μmの最表面層(電荷輸送層)14を形成し、比較例2の感光体を作製した。
【0116】
【0117】
[比較例4]
実施例1と同様にして、導電性支持体11上に下引き層12および電荷発生層13を形成した。
電荷輸送層用塗布液のシリカフィラー懸濁液の調製において、シリカ粒子(日本アエロジル株式会社製、製品名:AEROSIL(登録商標)RX50、数平均一次粒子径40nm、ヘキサメチルジシラザン表面処理)1.5gを、テトラヒドロフラン15.4gに懸濁させ、30時間撹拌処理を行った。
得られたシリカフィラー懸濁液に対して、電荷輸送物質として化合物(1)(スチルベン誘導体、イオン化ポテンシャル:5.47eV)10.0g、トリベンジルアミン(東京化成社製、製品名:トリベンジルアミン)0.3g、ポリカーボネート(帝人化成株式会社製、製品名:TS2050)19.0gおよびテトラヒドロフラン104.2gを加え、混合した。
得られた混合物を、実施例1と同様にして撹拌処理および分散処理に付して、電荷輸送層用塗布液150.4gを調製した。
得られた電荷輸送層用塗布液を、実施例1と同様にして電荷発生層13上に膜厚35μmの最表面層(電荷輸送層)14を形成し、比較例4の感光体を作製した。
【0118】
[比較例5]
実施例1と同様にして、導電性支持体11上に下引き層12および電荷発生層13を形成した。
電荷輸送層用塗布液のシリカフィラー懸濁液の調製において、超微粒化装置(吉田機械興業株式会社製、製品名:ダマトリシステム)を用いた撹拌処理に付さないこと以外は実施例1と同様にして、電荷輸送層用塗布液140.0gを調製した。
得られた電荷輸送層用塗布液を、実施例1と同様にして電荷発生層13上に膜厚35μmの最表面層(電荷輸送層)14を形成し、比較例5の感光体を作製した。
【0119】
[比較例6]
実施例1と同様にして、導電性支持体11上に下引き層12および電荷発生層13を形成した。
電荷輸送層用塗布液のシリカフィラー懸濁液の調製において、シリカ粒子(日本アエロジル株式会社製、製品名:AEROSIL(登録商標)NAX50、数平均一次粒子径30nm、ジメチルジクロロシラン表面処理)7.8gを、テトラヒドロフラン77.9gに懸濁させ、30時間、撹拌処理を行った。
得られたシリカフィラー懸濁液に対して、電荷輸送物質として化合物(1)(スチルベン誘導体、イオン化ポテンシャル:5.47eV)10.0g、トリベンジルアミン(東京化成社製、製品名:トリベンジルアミン)0.3g、ポリカーボネート(帝人化成株式会社製、製品名:TS2050)19.0gおよびテトラヒドロフラン70.0gを加え、混合した。
得られた混合物の超微粒化装置(吉田機械興業株式会社製、製品名:ダマトリシステム)を用いた撹拌処理5分間を2分間に変更すること以外は、実施例1と同様にして電荷輸送層用塗布液185.0gを調製した。
得られた電荷輸送層用塗布液を、実施例1と同様にして電荷発生層13上に膜厚35μmの最表面層(電荷輸送層)14を形成し、比較例6の感光体を作製した。
【0120】
[比較例7]
実施例1と同様にして、導電性支持体11上に下引き層12および電荷発生層13を形成した。
電荷輸送層用塗布液のシリカフィラー懸濁液の調製において、シリカ粒子(日本アエロジル株式会社製、製品名:AEROSIL(登録商標)VP-RX40、数平均一次粒子径80~100nm、ジメチルジクロロシラン表面処理)0.9gを、テトラヒドロフラン9.1gに懸濁させ、30時間、撹拌処理を行った。
得られたシリカフィラー懸濁液に対して、電荷輸送物質として化合物(1)(スチルベン誘導体、イオン化ポテンシャル:5.47eV)10.0g、トリベンジルアミン(東京化成社製、製品名:トリベンジルアミン)0.3g、ポリカーボネート(帝人化成株式会社製、製品名:TS2050)19.0gおよびテトラヒドロフラン108.1gを加え、混合した。
得られた混合物の超微粒化装置(吉田機械興業株式会社製、製品名:ダマトリシステム)を用いた撹拌処理5分間を7分間に変更すること以外は、実施例1と同様にして電荷輸送層用塗布液147.4gを調製した。
得られた電荷輸送層用塗布液を、実施例1と同様にして電荷発生層13上に膜厚35μmの最表面層(電荷輸送層)14を形成し、比較例7の感光体を作製した。
【0121】
[評価]
作製した実施例1~10および比較例1~7の感光体について、以下のように(1)耐刷性、(2)感度安定性、(3)耐ソルベントクラック性および(4)耐光性をを評価し、これらの結果に基づいて総合評価した。
【0122】
(1)耐刷性
評価対象の感光体を、試験用に改造したデジタル複写機(シャープ株式会社製、型式:BP-40C26)のユニットに装着し、現像器を取り付け、クリーニング手段のクリーニングブレードが感光体に接する圧力、いわゆるクリーニングブレード圧を21gf/cm(2.05×10-1N/cm:初期線圧)に調整した。温度25℃/相対湿度85%の環境下で、文字テストチャート(ISO19752)を記録紙20万枚に印刷することで、耐刷試験を行なった。
耐刷試験開始時および20万枚画像形成後の感光層の厚みを、膜厚測定装置(フィルメトリクス株式会社製、型式:F-20-EXR)を用いて測定した。
耐刷試験開始時の膜厚と20万枚画像形成後の膜厚との差から、感光体ドラム10万回転あたりの膜減り量を求め、得られた膜減り量から下記の基準で耐刷性を評価した。
なお、膜減り量が多いほど、耐刷性が悪いと評価した。
【0123】
<評価基準>
VG:膜減り量<0.50μm/10万回転
ロングライフを要求される複合機もしくはプリンタにおいても問題なく使用可
G :0.50μm/10万回転≦膜減り量<0.70μm/10万回転
膜減り量がやや多いものの、ロングライフを要求される複合機やプリンタ以外であれば、問題なく使用可
NB:0.70μm/10万回転≦膜減り量<0.85μm/10万回転
膜減り量が多いものの、安価な複合機やプリンタであれば、問題なく使用可
B :0.85μm/10万回転≦膜減り量
膜減り量が多く、実使用性上問題あり
【0124】
(2)感度安定性
評価対象の感光体を、試験用に改造したデジタル複写機(シャープ株式会社製、型式:BP-40C26)のユニットに装着し、デジタル複写機から現像器を取り外し、代わりに現像部位に表面電位計(トレック・ジャパン社製、型式:MODEL 344)を取り付けた。温度25℃/相対湿度50%の環境下において、初期の残留電位および通電疲労後の感光体の表面電位を計測し、これら差分ΔVr(V)を下記の評価基準に基づいて感度安定性を評価し、繰り返し使用による、感度悪化の指標とした。
【0125】
<評価基準>
VG:ΔVr<40
高感度を要求される高速の複合機もしくはプリンタにおいても問題なく使用可
G :40≦ΔVr<80
中低速の複合機もしくはプリンタにおいては問題なく使用可
NG:80≦ΔVr<140
低速で安価な複合機もしくはプリンタの場合であれば、やや濃度は薄いものの問題なく使用可
B:140≦ΔVr
感度が悪いため、濃度が薄く、実使用上問題あり
【0126】
(3)耐ソルベントクラック性
評価対象の感光体と、デジタル複写機(シャープ株式会社製、型式:MX-C306)から取り外した帯電ローラとを軸方向に並べて圧着し、温度40℃/相対湿度90%の環境下で100日間放置した後、帯電ローラ圧接部分にクラックが発生していないか観察し、下記の評価基準に基づいて、耐ソルベントクラック性を評価した
。また作成後、未使用の新品ドラムだけでなく、(2)耐刷性の評価で10万回転した後の感光体についても同様に評価した。
【0127】
<評価基準>
VG:クラックの発生がなく、圧接部分に感光体の構成成分の低分子成分の溶出がない
G :画像上では、感光体表面上のクラックは確認できないが、圧接部分に感光体の構成成分の低分子成分の溶出が確認できる
NB:画像上では、感光体表面上のクラックが確認できないが、感光体表面上に軽微なクラックが確認できる
B :20万枚の印刷が完了するまでに、クラックが起因となる画像不良が確認できる
【0128】
(4)耐光性
評価対象の感光体を、それぞれ蛍光灯1000Luxの光に10分間、蛍光灯400Luxの光に20分間暴露したときの、1分後の画像への影響を評価した。光の暴露箇所と非暴露箇所との画像を目視で比較し、下記の基準で耐光性を評価した。
<評価基準>
VG:両暴露条件共に、画像への影響なし
G :1000Luxの光の10分間暴露では軽微な画像不良がみられるが、400Luxの光の20分間暴露では画像への影響がなく、問題がない
NB: 400Luxの光の20分間暴露でも軽微な画像不良がみられるが、実使用上問題なし
B :光暴露の後、明確な画像不良が確認でき、10分後も明確な画像不良が残る
【0129】
(5)総合評価
上記の評価結果に基づいて、下記の基準で総合評価した。
<評価基準>
VG:全ての項目でVG判定であり、非常に良好
G :いずれかの項目でG判定を含むものの、全ての項目でG判定以上
ロングライフや高画質を要求される複合機やプリンタ以外であれば、問題なく使用可
NB:いずれかの項目でNB判定を含むものの、全ての項目でNB判定以上
安価な複合機やプリンタであれば、問題なく使用可
B :いずれかの項目にB判定があり、実使用不可。
【0130】
感光体の構成材料および物性を表1に、得られた評価結果を表2に示す。
【0131】
【0132】
【0133】
表1および2から、次のことがわかる
(1)本開示の構成要件を備えた感光体は、耐刷性、耐ソルベントクラック性および耐光性のいずれにおいても優れ(実施例1~10)、これらに対して、本開示の構成要件を備えない感光体は、耐刷性、耐ソルベントクラック性および耐光性の少なくともいずれかにおいて劣り(比較例1~7)、これらの結果は、感光体中のシリカ粒子の数平均一次粒子径やその分散性、感光層中の低分子化合物の成分含有量が最適化されていないためと推察されること
また、感光層中の電荷輸送物質のイオン化ポテンシャルが本開示の範囲より高くなると、感度が悪化し、感光層中の電荷輸送物質の比率を高くする必要が生じ、そのため耐刷性が低下し、耐ソルベントクラック性も悪化して、それらの双方を両立することが困難になること
一方、感光層中の電荷輸送物質のイオン化ポテンシャルが本開示の範囲より低くなると、感度特性は確保できるものの、耐光性が悪化し、それらの両立が困難になること
【0134】
(2)実施例1~3と実施例5および6との比較
・感光層におけるシリカ粒子の含有量が7質量%未満では、耐刷性に若干劣る傾向があり、10万回転すると感光層表面に傷が多くなる傾向がみられ、そのために耐刷試験後の耐ソルベントクラック性が低下すること(実施例5)
・一方、感光層におけるシリカ粒子の含有量が20%を超えると、耐刷性は向上する傾向がみられ、感光層表面に化学的劣化物が付着し、感光層表面がリフレッシュされ難いために感光層の機械的、電気的疲労によりバインダ樹脂が切断され、樹脂骨格の極性基が表面に現れ、感光層表面の濡れ性が低下することより耐ソルベントクラック性が悪化し、耐光性が悪化すること(実施例6)
【0135】
(3)実施例1および3と実施例7との比較
・電荷輸送物質に一般式(I)の化合物(1)および一般式(II)の化合物(2)を選定することにより、長期の電気疲労においてVr上昇が抑制されること
・電荷輸送物質に化合物(3)を用いた場合でも、電荷輸送物質の比率を高めることでVr上昇の緩和は可能となるが、その場合、耐ソルベントクラック性へのリスクを高めることになること
【0136】
(4)実施例1と実施例8および9との比較
・感光層中の低分子化合物の質量比率を0.4未満に設定することで、耐刷試験の前後に関わらず、耐ソルベントクラック性が向上すること
・一方、感光層中の低分子化合物の質量比率が0.4を超え、低分子化合物が多くなることにより、耐刷試験終了後の耐ソルベントクラック性がやや低下の傾向みられること
【0137】
(5)実施例1と実施例9および10との比較
・感光層のガラス転移温度を105℃以上にすることで、耐ソルベントクラック性が良好になること
・感光層のガラス転移温度が低くなると、感光層における分子の絡み合いが緩くなり、構成材料の拘束が低減され、ソルベントクラックが発生し易くなること
【0138】
(6)実施例1と実施例8および9との比較
・感光体表面のビッカース硬度を25以上にすることで、エージング後の耐ソルベントクラック性が向上すること
・感光層表面の機械的強度を高めることで、感光層表面に傷が入り難く、ソルベントクラックのリスクが低減されたと考えられること