IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社デンソーの特許一覧

特開2024-102695二次電池用固体電解質およびそれを用いた二次電池
<>
  • 特開-二次電池用固体電解質およびそれを用いた二次電池 図1
  • 特開-二次電池用固体電解質およびそれを用いた二次電池 図2
  • 特開-二次電池用固体電解質およびそれを用いた二次電池 図3
  • 特開-二次電池用固体電解質およびそれを用いた二次電池 図4
  • 特開-二次電池用固体電解質およびそれを用いた二次電池 図5
  • 特開-二次電池用固体電解質およびそれを用いた二次電池 図6
  • 特開-二次電池用固体電解質およびそれを用いた二次電池 図7
  • 特開-二次電池用固体電解質およびそれを用いた二次電池 図8
  • 特開-二次電池用固体電解質およびそれを用いた二次電池 図9
  • 特開-二次電池用固体電解質およびそれを用いた二次電池 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024102695
(43)【公開日】2024-07-31
(54)【発明の名称】二次電池用固体電解質およびそれを用いた二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0562 20100101AFI20240724BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20240724BHJP
   H01B 1/08 20060101ALI20240724BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240724BHJP
【FI】
H01M10/0562
H01B1/06 A
H01B1/08
H01M10/052
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023006763
(22)【出願日】2023-01-19
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-09-05
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001472
【氏名又は名称】弁理士法人かいせい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 仁志
(72)【発明者】
【氏名】吉田 周平
(72)【発明者】
【氏名】下西 裕太
【テーマコード(参考)】
5G301
5H029
【Fターム(参考)】
5G301CA02
5G301CA16
5G301CA18
5G301CD01
5H029AJ02
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL07
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM12
5H029HJ02
5H029HJ12
(57)【要約】
【課題】イオン伝導率を向上させることが可能な二次電池用固体電解質を提供する。
【解決手段】粒子状のコア相101と、コア相の少なくとも一部を被覆するシェル相102とを備える。シェル相は、1または複数の相からなる。コア相の構成材料は、組成式Aa2-αAb(1+α)/37-ββ(Aa:アルカリ金属、Ab:ランタノイド、B:カチオン金属、X:Oと置換可能なアニオン)で表されるパイロクロア型固体電解質を含んでいる。シェル相の構成材料は、パイロクロア型固体電解質と異なる化学組成を有し、かつ、パイロクロア型固体電解質よりも融点が低い材料を含んでいる。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子状のコア相(101)と、前記コア相の少なくとも一部を被覆するシェル相(102)とを備え、
前記シェル相は、1または複数の相からなり、
前記コア相の構成材料は、組成式Aa2-αAb(1+α)/37-ββ(Aa:アルカリ金属、Ab:ランタノイド、B:カチオン金属、X:Oと置換可能なアニオン)で表されるパイロクロア型固体電解質を含んでおり、
前記シェル相の構成材料は、前記パイロクロア型固体電解質と異なる化学組成を有し、かつ、前記パイロクロア型固体電解質よりも融点が低い材料を含んでいる二次電池用固体電解質。
【請求項2】
前記パイロクロア型固体電解質は、前記組成式において、αは0.6<α<2.0の範囲内であり、βは0<β≦1の範囲内であり、かつ、前記Aa、前記Abおよび前記Bからなるカチオンと前記Oおよび前記Xからなるアニオンの価数の総和がマイナスになっており、欠陥構造を含んでいる請求項1に記載の二次電池用固体電解質。
【請求項3】
前記シェル相の構成材料は、前記パイロクロア型固体電解質の構成元素のいずれかを含んだ化学組成を有している請求項1に記載の二次電池用固体電解質。
【請求項4】
前記シェル相の構成材料は、LiおよびFの少なくともいずれかを含んだ化学組成を有している請求項3に記載の二次電池用固体電解質。
【請求項5】
前記シェル相の構成材料は、LiFが含まれている請求項3に記載の二次電池用固体電解質。
【請求項6】
前記コア相と前記シェル相とを備える複数の粒子が焼結された焼結体として形成されている請求項1に記載の二次電池用固体電解質。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1つに記載の二次電池用固体電解質を含んだ電解質層(15)と、前記電解質層を挟んで設けられた正極(14)および負極(12)とを備える二次電池。
【請求項8】
前記正極に含まれる正極活物質(200)と前記二次電池用固体電解質は、直接接触するように設けられている請求項7に記載の二次電池。
【請求項9】
前記正極および前記負極を分離するセパレータ層(16)を備え、
前記二次電池用固体電解質は、前記セパレータ層の表面に塗布されて設けられている請求項7に記載の二次電池。
【請求項10】
前記正極および前記負極を分離するセパレータ層(16)を備え、
前記二次電池用固体電解質は、前記正極の表面に塗布して設けられている請求項7に記載の二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池用固体電解質およびそれを用いた二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、安全性向上の観点から、電解質として有機溶媒を用いない二次電池として、固体電解質を用いて電池全体を固体化した二次電池が注目されている。このような二次電池用固体電解質として、硫化物型固体電解質や酸化物固体電解質などが提案されている。例えば空気中でより安定な固体電解質として、特許文献1にガーネット構造の酸化物型固体電解質(例えばLLZO)が開示され、特許文献2にNASICON構造の酸化物型固体電解質(例えばLAGP)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-150140号公報
【特許文献2】特開2020-80231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来用いられている酸化物系固体電解質はイオン伝導率が低く、二次電池の出力密度を充分に高くすることが難しい。このため、本出願人は特願2022-37356号で二次電池用固体電解質としてパイロクロア構造の酸化物系固体電解質を提案している。パイロクロア型固体電解質は、従来用いられている酸化物系固体電解質よりもイオン伝導率を向上させることができるが、二次電池の性能をより向上させるために、さらなるイオン伝導率の向上が望まれる。
【0005】
本発明は上記点に鑑み、イオン伝導率を向上させることが可能な二次電池用固体電解質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の二次電池用固体電解質は、粒子状のコア相(101)と、コア相の少なくとも一部を被覆するシェル相(102)とを備える。シェル相は、1または複数の相からなる。コア相の構成材料は、組成式Aa2-αAb(1+α)/37-ββ(Aa:アルカリ金属、Ab:ランタノイド、B:カチオン金属、X:Oと置換可能なアニオン)で表されるパイロクロア型固体電解質を含んでいる。シェル相の構成材料は、パイロクロア型固体電解質と異なる化学組成を有し、かつ、パイロクロア型固体電解質よりも融点が低い材料を含んでいる。
【0007】
これにより、二次電池用固体電解質の相対密度と接触面積を向上させることができ、この結果、二次電池用固体電解質のイオン伝導率を向上させることができる。
【0008】
なお、上記各構成要素の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1実施形態に係る二次電池の構成を示す断面図である。
図2】複合固体電解質の断面構成を示す図である。
図3】パイロクロア型の固体電解質の製造工程を示す図である。
図4】パイロクロア型の固体電解質の結晶構造を示す図である。
図5】複合固体電解質のSEM画像である。
図6】複合固体電解質の圧粉体および焼結体を示す図である。
図7】第1実施形態の実施例および比較例の相対密度、イオン伝導率を示す図表である。
図8】第2実施形態の正極活物質および複合固体電解質の圧粉体および焼結体を示す図である。
図9】第2実施形態の実施例および比較例の副生成物、イオン伝導率を示す図表である。
図10】第3実施形態に係る二次電池の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、図面を参照しながら本開示を実施するための複数の形態を説明する。各形態において先行する形態で説明した事項に対応する部分には同一の参照符号を付して重複する説明を省略する場合がある。各形態において構成の一部のみを説明している場合は、構成の他の部分については先行して説明した他の形態を適用することができる。各実施形態で具体的に組合せが可能であることを明示している部分同士の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、明示してなくとも実施形態同士を部分的に組み合せることも可能である。
【0011】
(第1実施形態)
以下、本発明の二次電池用固体電解質をリチウムイオン電池に適用した実施形態について図面を用いて説明する。本実施形態の二次電池10は、リチウムイオンが負極12と正極14の間を移動することで充放電が行われるリチウムイオン電池である。
【0012】
図1に示すように、二次電池10は、負極集電体11、負極12、正極集電体13、正極14、電解質層15を備えている。これらの各層11~15は積層して設けられている。
【0013】
電解質層15を挟んで負極12と正極14が設けられている。負極12および正極14は電解質層15と接触しており、負極12と正極14は電解質層15を介して連結されている。本実施形態の二次電池10は、リチウムイオンが電解質層15を介して負極12と正極14との間を移動することで充放電が行われるリチウムイオン電池セルである。
【0014】
これら負極12、正極14、および、電解質層15を含む積層体が、負極集電体11と正極集電体13との間に設けられている。負極集電体11は負極12と接触している。正極集電体13は正極14と接触している。負極集電体11と正極集電体13は積層体を介して連結されている。
【0015】
負極集電体11および正極集電体13は、リチウムイオン電池用の集電体として使用可能な任意の材料を用いることができる。本実施形態では、負極集電体11としてCuを用い、正極集電体13としてAlを用いている。
【0016】
負極12には負極活物質が含まれている。負極活物質には、リチウムイオン電池用の負極活物質として使用可能な任意の材料を用いることができ、例えばリチウム金属、黒鉛、Siあるいはこれらの混合体を用いることができる。負極12には、バインダが含まれていてもよい。
【0017】
正極14には正極活物質が含まれている。正極活物質には、リチウムイオン電池用の正極活物質として使用可能な任意の材料を用いることができる。正極14には、バインダが含まれていてもよい。正極14に含まれるバインダとしては、例えば有機系バインダを用いることができる。有機溶媒系バインダとしては、例えばポリフッ化ビニリデン(PVdF)、アクリル系バインダ、ウレタン系バインダ等を用いることができる。
【0018】
正極活物質としては、例えば層状活物質、スピネル型活物質、オリビン型活物質を用いることができる。層状活物質としては、例えばLiCoO(LCO)、LiNiO(LNO)、LiNi0.8Co0.15Al0.05(NCA)、LiNi0.8Co0.1Mn0.1(NCM811)、LiNi0.33Mn0.33Co0.33といった三元系正極材料を用いることができる。スピネル型活物質としては、例えばLiMn、LiNi0.5Mn1.5を用いることができる。オリビン型活物質としては、例えばLiMn0.8Fe0.2PO(LMFP)、LiFePO(LFP)を用いることができる。
【0019】
電解質層15は、負極12および正極14と直接接触するように設けられている。電解質層15は、リチウムイオン伝導性を有する電解質材料を含有している。電解質層15の電解質材料は、イオン伝導性を有しており、負極12と正極14の間でリチウムイオンを移動させることができる。
【0020】
本実施形態では、電解質層15の電解質材料として、図2に示す複合固体電解質100が含まれている。電解質層15には、複合固体電解質100に加えてポリマー(例えばポリエチレンオキサイド)が含まれていてもよい。なお、複合固体電解質100が本発明の二次電池用固体電解質に相当している。
【0021】
複合固体電解質100は粒子状であり、コア相101とシェル相102を有している。コア相101は粒子状に形成され、シェル相102はコア相101の少なくとも一部を被覆するように形成されている。シェル相102は、コア相101の全面を覆っていてもよく、あるいはコア相101の一部を覆っていてもよい。
【0022】
コア相101の構成材料とシェル相102の構成材料は、それぞれ化学組成が異なるイオン伝導性物質である。シェル相102は1または複数の相からなる。シェル相102が複数の相からなる場合は、各相の化学組成が異なっており、各相は層状に形成されている。図2は、シェル相102が1つの相からなる例を示している。イオン伝導率は、シェル相102の構成材料の方がコア相101の構成材料よりも高くなっている。
【0023】
また、シェル相102は、元素拡散バリア層としての機能を有している。例えば、複合固体電解質100と正極活物質が接触している状態で加熱した場合に、コア相101の含有元素が正極活物質に拡散することを抑制し、正極活物質の含有元素がコア相101に拡散することを抑制する。
【0024】
コア相101の構成材料は酸化物系固体電解質であり、パイロクロア構造を有するパイロクロア型固体電解質である。シェル相102の構成材料はコア相101の構成材料であるパイロクロア型固体電解質の構成元素のいずれかを含んだ化学組成を有している。
【0025】
本実施形態では、コア相101のパイロクロア型固体電解質はLiおよびFの少なくともいずれかを含んでおり、シェル相102の構成物質は、LiおよびFの少なくともいずれかを含んだ化学組成を有している。コア相101の構成物質として、例えばLi1.25La0.58NbF、Li1.25La0.58TaFを例示することができる。シェル相102の構成物質として、例えばLiF、LiNb15F、LiNbOを例示することができる。
【0026】
シェル相102の構成材料は、コア相101の構成材料よりも融点が低い材料である。シェル相102の構成材料は、コア相101の構成材料よりもヤング率が低い材料である。例えば、Li1.25La0.58NbFからなるコア相101のヤング率は100GPa程度であり、LiFからなるシェル相102のヤング率は50~70GPa程度である。
【0027】
ここで、コア相101のパイロクロア型固体電解質について説明する。コア相101のパイロクロア型固体電解質は、組成式が「Aa2-αAb(1+α)/37-ββ」で表されるパイロクロア構造を有している。
【0028】
上記組成式において、Oは酸素原子であり、Aa、Ab、B、Xは任意の元素あるいは基を表している。Aa、AbおよびBはそれぞれ異なる種類のカチオンであり、OおよびXはそれぞれ異なる種類のアニオンである。
【0029】
上記組成式において、0.6<α<2.0であり、0<β≦1である。αが変化することでAaとAbの組成比が変化し、βが変化することでOとXの組成比が変化する。
【0030】
Aaはアルカリ金属である。Aaで表されるアルカリ金属として、Li、Na、Kのいずれかを用いることができる。本実施形態では、AaとしてLiを用いている。Aaの組成比(2-α)は、0<(2-α)<1.4の範囲内である。
【0031】
Abは少なくともランタノイドが含まれている。Abで表されるランタノイドとして、La、Ce、Nd、Smの少なくともいずれかを用いることができる。本実施形態では、AbとしてLaを用いている。Abの組成比(1+α)/3は、0.53<(1+α)/3<1の範囲内である。
【0032】
Abの基本構成はランタノイドからなり、Abを構成するランタノイドの一部がアルカリ土類金属(Ca、Mg、Srなど)で置換されていてもよい。本実施形態の電解質材料は、上記組成式において、0.6<α<2.0であり、0<β≦1であるパイロクロア構造にランタノイドが含まれることで結晶構造中に欠陥が生じ、イオン伝導率が向上していると考えらえる。
【0033】
本実施形態のパイロクロア型固体電解質は、一般的なパイロクロア構造の組成式「A」におけるAカチオンがリチウムとランタノイドを用いた複合カチオンとなっている。このことが本実施形態のパイロクロア型固体電解質のイオン伝導率の向上に寄与していると考えられる。
【0034】
Bは、AaおよびAbとは異なるカチオン金属であり、遷移金属あるいは第15族元素から選択される金属である。Bは、結晶中で6個のO原子に囲まれた八面体を構成する。Bで表される遷移金属としては、第4族遷移金属あるいは第5族遷移金属を用いることができ、より具体的にはNb、Ta、Ti、Zr、Hf、Vの少なくともいずれかを用いることができる。Bで表される第15族元素としては、Sb、Biを用いることができる。
【0035】
Xはパイロクロア構造を構成するO原子と置換可能なアニオンである。Xは、O原子と電気陰性度および分極率が異なっている。Xで表されるアニオンとして、F、S、Cl、OHの少なくともいずれかを用いることができる。Xの組成比βは0<β≦1の範囲内であり、パイロクロア構造を構成するO原子の少なくとも一部がXで置換されている。本実施形態では、XとしてFを用いている。
【0036】
本実施形態のパイロクロア型固体電解質は、パイロクロア構造を構成するO原子の一部がO原子と電気陰性度および分極率が異なるアニオンで置換されることで、結晶に格子欠陥が含まれた欠陥構造を有している。本実施形態のパイロクロア型固体電解質は、パイロクロア構造に欠陥構造が含まれていることで、イオン伝導率が向上していると考えられる。
【0037】
本実施形態のパイロクロア型固体電解質では、欠陥構造としてAa、Abの一部が欠損した状態となっている。一般的なパイロクロア構造の組成式は「A」であり、Aカチオンの組成比は2である。これに対し、本実施形態のパイロクロア型固体電解質では、Aa、Abの組成比がそれぞれ「2-α」と「(1+α)/3」であり、かつ、0.6<α<2.0であることから、Aa、Abの組成比の合計は2未満となっている。つまり、本実施形態のパイロクロア型固体電解質では、AaおよびAbの少なくともいずれかの一部が欠損している。なお、AaとAbの欠損部分に対応する組成比は、(2α-1)/3である。
【0038】
また、組成比のズレ以外にも、上記組成式において、Aa、AbおよびBからなるカチオンとOおよびXからなるアニオンの価数の総和をマイナスにすることによっても欠陥構造を形成することができる。
【0039】
また、本実施形態のパイロクロア型固体電解質は、パイロクロア構造にOおよびXのように複数のアニオンが含まれた複合アニオン化合物となっており、BO6配位八面体構造にXで表されるアニオンがある。このため、Aaのアルカリ金属がBO6配位八面体に寄ることなく、BO6配位八面体との空間の中央部に位置できる。そのため、本実施形態のパイロクロア型固体電解質は、電池のような電場をかけて用いた際に高いイオン伝導を有したと考えられる。
【0040】
また、上記組成式のαおよびβは格子欠陥およびイオン伝導率に影響を及ぼすため、適切な範囲で使用することが望ましい。αおよびβの値が大きいと結晶格子内の欠陥濃度が大きくなるが、一定量を超えると、Aaで表されるアルカリ金属の濃度が減少し、イオン伝導率が低下する。このため、αを0.6<α<2.0の範囲内、βを0<β≦1の範囲内で制御することが望ましい。
【0041】
次に、本実施形態の複合固体電解質100の製造方法について説明する。本実施形態では、コア相101のパイロクロア型固体電解質を製造する際にシェル相102も同時に形成される。つまり、パイロクロア型固体電解質を製造することで、コア相101とシェル相102を備える複合固体電解質100が形成される。
【0042】
パイロクロア型固体電解質の製造原料の一部を必要量よりも過剰にすることで、余剰の原料からシェル相102が形成される。例えばパイロクロア型固体電解質の製造工程において、パイロクロア型固体電解質の製造原料であるLiFを必要量よりも過剰に添加することで、パイロクロア型固体電解質からなるコア相101の表面にLiFからなるシェル相102を形成することができる。
【0043】
図3は、本実施形態のパイロクロア型固体電解質の製造方法を示している。パイロクロア型固体電解質の製造方法では、第1混合工程S10、第1焼成工程S20、第2混合工程S30、成形工程S40、第2焼成工程S50が順に行われる。
【0044】
(第1混合工程)
まず、パイロクロア型固体電解質の原料としてランタン源、リチウム源、ニオブ源を準備し、これらを混合する第1混合工程S10を行う。ランタン源、リチウム源、ニオブ源としては、金属酸化物や金属炭酸化物などを用いることができる。本実施形態では、ランタン源としてLa、リチウム源としてLiCO、ニオブ源としてNbを用いている。第1混合工程では、La、LiCO、Nbを所定の比率で混合する。
【0045】
(第1焼成工程)
次に、La、LiCO、Nbの混合物を焼成する第1焼成工程S20を行う。第1焼成工程S20では、二段階の焼成が行われる。第1段階として、空気中で混合物を500℃で6時間加熱する仮焼を行う。仮焼によって、混合物から水分などが除去され、反応性を高めることができる。仮焼に続いて、空気中で混合物を1200℃で4時間加熱する本焼を行う。これにより、目的物の前駆体であるLi0.5La0.5Nbが得られる。
【0046】
(第2混合工程)
次に、原料としてフッ素源を準備し、これを前駆体Li0.5La0.5Nbに混合する第2混合工程S30を行う。フッ素源としては、金属フッ化物を用いることができる。本実施形態では、フッ素源としてLiFとLaFを用いている。LiFはフッ素源かつリチウム源であり、LaFはフッ素源かつランタン源である。第2混合工程では、LiFとLaFを所定の比率でLi0.5La0.5Nbと混合する。
【0047】
本実施形態では、LiFからなるシェル相102を形成するために、LiFをパイロクロア型固体電解質を製造するための必要量よりも過剰に添加している。
【0048】
(成形工程)
次に、Li0.5La0.5Nbと、LiFと、LaFの混合粉末をペレット状に加工し、100MPaで加圧する成形工程S40を行う。これにより、Li0.5La0.5Nbと、LiFと、LaFの混合物がペレット状に成形される。
【0049】
(第2焼成工程)
次に、Li0.5La0.5Nbと、LiFと、LaFの混合物を焼成する第2焼成工程S50を行う。第2焼成工程S50では、窒素雰囲気下でLi0.5La0.5Nbと、LiFと、LaFの混合物を1000℃で6時間加熱して焼成を行う。
【0050】
以上の工程により、組成式「Li1.25La0.58NbF」で表されるパイロクロア型固体電解質からなるコア相101とLiFからなるシェル相102を有する複合固体電解質100を得ることができる。第2焼成工程S50で得られた複合固体電解質100は粒子状であり、電解質層15の電解質材料として用いることができる。
【0051】
なお、上記製造工程でLa、LiCO、Nbの混合比、LiFとLaFの混合比を変更することで、組成式「Li2-αLa(1+α)/3Nb7-ββ」で表されるパイロクロア型固体電解質を得ることができる。
【0052】
この組成式に記載のαは、La、LiCO、Nbの混合比を変更することで調整することができる。βは、LiFとLaFの混合比を変更することで調整することができる。また、焼成を行うと材料の一部が昇華する。そのため、第1焼成工程および第2焼成工程の焼成条件や焼成炉雰囲気および焼成炉サイズを変更することによっても、αおよびβを調整できる。
【0053】
次に、本実施形態のパイロクロア型固体電解質の結晶構造について図4を用いて説明する。図4は、本実施形態のパイロクロア型固体電解質を放射光解析して得られた結晶構造を示している。放射光解析では、X線回折(XRD)による測定データを用いてリートベルト解析を行うことで結晶構造を得た。
【0054】
図4に示すように、パイロクロア型固体電解質は、NbOからなる八面体の3次元的ネットワークが形成された結晶構造を有している。NbOは、Nbを中心としてOが頂点に配置され、隣接するNbOと頂点を共有している。NbOからなる3次元的ネットワークには、La/Liからなるカチオンと、Fからなるアニオンが配置された六角形のトンネル構造が形成されている。
【0055】
図5は、複合固体電解質100のSEM画像である。図5に示すように、本実施形態で製造された複合固体電解質100は、コア相101の表面上にシェル相102が形成されていることが確認できる。
【0056】
粒子状の複合固体電解質100は、例えば圧粉体や焼結体の状態で、電解質層15として用いることができる。
【0057】
図6に示すように、粒子状の複合固体電解質100を所定圧力(例えば100MPa)で加圧成形することで複合固体電解質100の圧粉体を得ることができる。複合固体電解質100の圧粉体は、加圧によってヤング率が低いシェル相102が押しつぶされた状態となる。このため、複合固体電解質100の相対密度が高くなり、さらに隣接する複合固体電解質100との接触面積が拡大する。この結果、隣接する複合固体電解質100の界面抵抗を低減でき、複合固体電解質100のイオン伝導率を向上させることができる。
【0058】
図6に示すように、複合固体電解質100の圧粉体を所定温度(例えば1000℃で6時間)で加熱して焼結することで複合固体電解質100の焼結体を得ることができる。焼結体を生成するための加熱温度は、シェル相102の構成物質の融点以上で、かつ、コア相101の構成物質の融点未満に設定することが望ましい。
【0059】
複合固体電解質100の焼結体は、シェル相102の融点以上に加熱することでシェル相102が溶融し、隣接する複合固体電解質100のシェル相102が一体化する。このため、複合固体電解質100の相対密度が高くなり、さらに隣接する複合固体電解質100との接触面積が拡大する。この結果、隣接する複合固体電解質100の界面抵抗を低減でき、複合固体電解質100のイオン伝導率を向上させることができる。複合固体電解質100の焼結体は、複合固体電解質100の圧粉体よりも相対密度が高くなり、接触面積も増大するため、電解質層15のイオン伝導率をより向上させることができる。
【0060】
ここで、本実施形態の複合固体電解質100のイオン伝導率等について実施例および比較例を用いて説明する。図7に示すように、実施例1~7の固体電解質は、コア相101とシェル相102を有する複合固体電解質100である。コア相101の構成材料はパイロクロア型固体電解質であり、シェル相102の構成材料はパイロクロア型固体電解質の構成元素の一部からなる化合物である。比較例1、2の固体電解質は、パイロクロア型固体電解質からなるコア相のみから構成されており、シェル相が形成されていない。
【0061】
まず、実施例1~7および比較例1、2において、コア相101の構成材料をX線回折(XRD)によって分析した。実施例1~6、比較例1のコア相101はLi1.25La0.58NbFであった。実施例7、比較例2のコア相101はLi1.25La0.5TaFであった。
【0062】
次に、実施例1~7において、シェル相102の構成材料および厚みをエネルギー分散型X線分光法(SEM-EDX)およびX線光電子分光法(XPS)によって分析した。
【0063】
実施例1~3、7のシェル相102は1つの相からなり、実施例4、5のシェル相102は2つの相からなり、実施例6のシェル相102は3つの相からなる。シェル相102が複数の相を有する場合には、第一相がコア相101に近い側に形成され、第二相、第三相の順にコア相101から遠ざかる側に層状に形成されている。
【0064】
実施例1~3、7の複合固体電解質100は、シェル相102としてLiFからなる第一相のみを有している。実施例4の複合固体電解質100は、シェル相102として、LiFからなる第一相と、LiNbOからなる第二相を有している。実施例5の複合固体電解質100は、シェル相102として、LiFからなる第一相と、LiNb15Fからなる第二相を有している。実施例6の複合固体電解質100は、シェル相102として、LiFからなる第一相と、LiNb15Fからなる第二相と、LiNbOからなる第三相を有している。
【0065】
シェル相102の厚みは、実施例1が0.1μm、実施例2が0.4μm、実施例3が2.0μm、実施例4が0.4μm、実施例5が1.0μm、実施例6が2.0μm、実施例7が0.1μmであった。
【0066】
次に、実施例1~7および比較例1、2の固体電解質の相対密度をペレットサイズと重量から算出した。
【0067】
固体電解質の相対密度は、実施例1が88%、実施例2が92%、実施例3が93%、実施例4が85%、実施例5が87%、実施例6が87%、実施例7が85%、比較例1が68%、比較例2が65%であった。つまり、実施例1~7は相対密度が85~93%であったのに対し、比較例1、2は相対密度が65~68%であった。このように、シェル相が形成されている実施例1~7では、シェル相が形成されていない比較例1、2よりも高い相対密度が得られた。
【0068】
次に、実施例1~7および比較例1、2の固体電解質のイオン伝導率を交流インピーダンス法によって測定した。インピーダンス測定では、固体電解質に複数の周波数で交流信号を印加して、各周波数毎に交流インピーダンスを測定した。測定したインピーダンスを複素平面上にプロットすることで、図4に示す円弧軌跡を含む複素インピーダンスプロットが得られた。そして、インピーダンスの弧状に減少する複数の測定点の延長線と横軸との接点から測定サンプルの抵抗値を取得し、抵抗値の逆数に測定サンプルの厚み(cm)/電極面積(cm)を乗じることでイオン伝導率を算出した。
【0069】
イオン伝導率は、実施例1が5.0×10-3S/cm、実施例2が8.0×10-3S/cm、実施例3が6.0×10-3S/cm、実施例4が4.2×10-3S/cm、実施例5が6.3×10-3S/cm、実施例6が6.0×10-3S/cm、実施例7が1.3×10-3S/cm、比較例1が2.3×10-4S/cm、比較例2が5.0×10-5S/cmであった。
【0070】
実施例1~7の固体電解質は10-3S/cmオーダーのイオン伝導率であり、比較例1の固体電解質は10-4S/cmオーダーのイオン伝導率であり、比較例2の固体電解質は10-5S/cmオーダーのイオン伝導率であった。このように、実施例1~7の固体電解質は、比較例1、2の固体電解質と比べてイオン伝導率の桁数が異なっており、顕著に高いイオン伝導率が得られている。
【0071】
以上説明した本実施形態の二次電池10では、電解質層15の電解質材料として、コア相101とシェル相102を有する複合固体電解質100を用いている。これにより、複合固体電解質100の相対密度と接触面積を向上させることができ、この結果、複合固体電解質100のイオン伝導率を向上させることができる。
【0072】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。以下、上記第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0073】
本第2実施形態の二次電池10では、電解質層15に加え、正極14にも複合固体電解質100が含まれている。正極14には、正極活物質に加え、電解質層15で用いられている複合固体電解質100が含まれている。正極活物質と複合固体電解質100は、混合して用いられる。このため、正極14において、正極活物質と複合固体電解質100は、直接接触した状態となっている。粒子状の複合固体電解質100は、例えば圧粉体や焼結体の状態で用いることができる。
【0074】
図8に示すように、粒子状の正極活物質200および粒子状の複合固体電解質100を所定圧力(例えば100MPa)で加圧成形することで、正極活物質200および複合固体電解質100の圧粉体を得ることができる。正極活物質200および複合固体電解質100の圧粉体は、加圧によって複合固体電解質100のシェル相102が押しつぶされた状態となる。このため、正極活物質200および複合固体電解質100の相対密度が高くなり、接触面積が拡大する。この結果、正極活物質200と複合固体電解質100の界面抵抗を低減でき、イオン伝導率を向上させることができる。
【0075】
図8に示すように、正極活物質200および複合固体電解質100の圧粉体を所定温度(例えば850℃で6時間)で加熱して焼結することで、正極活物質200および複合固体電解質100の焼結体を得ることができる。焼結体を生成するための加熱温度は、シェル相102の構成物質の融点以上で、かつ、コア相101の構成物質の融点未満に設定することが望ましい。
【0076】
正極活物質200および複合固体電解質100の焼結体は、シェル相102が溶融して一体化する。このため、正極活物質200および複合固体電解質100の相対密度が高くなり、接触面積が拡大する。この結果、正極活物質200と複合固体電解質100の界面抵抗を低減でき、イオン伝導率を向上させることができる。
【0077】
本第2実施形態では、正極14にリチウムイオン伝導性を有する複合固体電解質100を添加することで、正極14のイオン伝導性を向上させることができる。
【0078】
また、本第2実施形態の構成では、複合固体電解質100のシェル相102が元素拡散バリア層として機能する。このため、複合固体電解質100と正極活物質が直接接触した状態で加熱した場合に、コア相101の含有元素が正極活物質に拡散することを抑制し、正極活物質の含有元素がコア相101に拡散することを抑制することができる。
【0079】
ここで、本第2実施形態の複合固体電解質100と正極活物質を混合して用いた場合の副生成物について実施例および比較例を用いて説明する。図9に示すように、実施例8、9の固体電解質は、コア相101とシェル相102を有する複合固体電解質100であり、上記第1実施形態の実施例4と同一の固体電解質である。比較例3、4の固体電解質は、パイロクロア型固体電解質からなるコア相のみから構成されており、シェル相が形成されていない。
【0080】
実施例8、9、比較例1のコア相101はLi1.25La0.58NbFである。実施例比較例4のコア相101はLiLaZr12である。実施例8、9の固体電解質は、シェル相102として、LiFからなる第一相とLiNbOからなる第二相を有している。
【0081】
実施例8、比較例3、4では、正極活物質としてLiCoOを用い、実施例9では、正極活物質としてLiNi0.33Mn0.33Co0.33を用いた。
【0082】
図9に示すように、シェル相102を有する固体電解質を用いた実施例8、9では、固体電解質と正極活物質の焼結体に副生成物が生成しなかった。一方、シェル相102を有さない固体電解質を用いた比較例3、4では、固体電解質と正極活物質の焼結体に副生成物が生成した。比較例3では副生成物としてLi0.5La0.5CoOおよびLi0.5La0.5Nbが生成し、比較例4では副生成物としてLi0.5La0.5CoOおよびLaZrが生成した。
【0083】
正極活物質と比較例3、4のシェル相102が存在しない固体電解質を混合して加熱した場合には、正極活物質の含有元素と固体電解質の含有元素が互いに拡散した結果、副生成物が生成したと考えられる。これに対し、実施例8、9では、複合固体電解質100のシェル相102が元素拡散バリア層として機能することで、コア相101の含有元素と正極活物質の含有元素が互いに拡散することを抑制でき、副生成物の生成を抑制できたと考えられる。
【0084】
次に、実施例8、9、比較例3、4において、固体電解質と正極活物質の焼結体のイオン伝導率を測定した。実施例8のイオン伝導率は2.0×10-4S/cmであり、実施例9のイオン伝導率は3.0×10-5S/cmであった。比較例3のイオン伝導率は7.0×10-8S/cmであり、比較例4のイオン伝導率は8.0×10-9S/cmであった。
【0085】
このように、副生成物が生成しなかった実施例8、9では、副生成物が生成した比較例3、4よりも、顕著に高いイオン伝導率が得られている。
【0086】
以上説明した本第2実施形態によれば、正極活物質200と複合固体電解質100を混合して加熱した場合に、複合固体電解質100のシェル相102が元素拡散バリア層として機能し、コア相101の含有元素と正極活物質の含有元素が互いに拡散することを抑制できる。これにより、正極活物質と複合固体電解質100を混合して加熱した場合に、副生成物の生成を抑制することができ、イオン伝導率の低下を抑制することができる。
【0087】
また、本第2実施形態によれば、正極活物質200と複合固体電解質100を加圧成形することで、ヤング率が低い複合固体電解質100のシェル相102が押しつぶされた状態となる。これにより、正極活物質200と複合固体電解質100との接触面積が拡大し、界面抵抗を低減できる。
【0088】
また、本第2実施形態の複合固体電解質100には、シェル相102に無機化合物のみが含まれていたが、正極14に有機系バインダが含まれているような場合には、シェル相102に無機化合物に加えて有機系バインダに由来する有機化合物も含まれ得る。
【0089】
また、本第2実施形態の構成では、加圧および焼結によって正極活物質200と複合固体電解質100の混合体を生成したが、加圧および焼結以外の方法によって正極活物質200と複合固体電解質100の混合体を生成してもよい。例えば、正極活物質200と複合電解質100をスラリー化してもよく、正極活物質200に複合電解質100を静電噴霧してもよく、正極活物質200と複合電解質100をボールミルによって粉砕してもよい。あるいは、正極活物質200の表面にPVD(スパッタ法)、CVD(化学気相蒸着法)、ALD(原子層堆積法)によって複合電解質100を被覆してもよい。さらに、上記の方法で生成した正極活物質200と複合固体電解質100の混合物を加圧、焼結してもよい。
【0090】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態について説明する。以下、上記各実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0091】
図10に示すように、本第3実施形態の二次電池10には、セパレータ層16が設けられている。図10に示す例では、セパレータ層16は、負極12と電解質層15の間に設けられている。
【0092】
セパレータ層16は、例えば電解液とセパレータを備えた構成とすることができる。セパレータは細孔構造であり、負極12と正極14を分離するとともに、イオンを通過させる機能を有している。セパレータとしては、例えば多孔質体を用いることができる。電解液としては、例えばエチレンカーボネート等を用いることができる。セパレータ層16に電解液を用いた場合には、固体電解質よりも短絡の発生を抑制することができる。
【0093】
複合固体電解質100は、セパレータの表面あるいは正極14の表面に塗布して設けることができる。複合固体電解質100をセパレータの表面に塗布した場合には、セパレータと複合固体電解質100の接触面積を向上させることができ、セパレータと複合固体電解質100との界面抵抗を低減させることができる。複合固体電解質100を正極14の表面に塗布した場合には、正極14と複合固体電解質100の接触面積を向上させることができ、正極14と複合固体電解質100との界面抵抗を低減させることができる。
【0094】
複合固体電解質100に含まれるパイロクロア型固体電解質は、BカチオンとしてNb、V、Sb、Biの少なくともいずれかを用いた場合に、リチウム金属との接触によってリチウムイオン伝導率が低下し、抵抗が増大して絶縁化する性質を有している。このため、複合固体電解質100を正極14側に設けることで、パイロクロア型固体電解質にリチウム金属が直接接触してイオン伝導率が低下することを抑制できる。
【0095】
なお、本第3実施形態において、セパレータ層16を固体電解質あるいはポリマーによって構成してもよい。この場合には、セパレータ層16を構成する固体電解質あるいはポリマーと、複合固体電解質100との接触面積を向上させ、界面抵抗を低減させることができる。
【0096】
(他の実施形態)
本発明は上述の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、以下のように種々変形可能である。また、上記各実施形態に開示された手段は、実施可能な範囲で適宜組み合わせてもよい。
【0097】
例えば、上記実施形態では、本発明の二次電池用固体電解質をリチウムイオン電池に適用したが、本発明の二次電池用固体電解質を他の二次電池に適用してもよい。具体的には、組成式中のAaで表されるアルカリ金属としてKを用いた場合には、カリウムイオン電池用固体電解質として用いることができ、組成式中のAaで表されるアルカリ金属としてNaを用いた場合には、ナトリウムイオン電池用固体電解質として用いることができる。
【0098】
本明細書に開示された二次電池の特徴を以下の通り示す。
(項目1)
粒子状のコア相(101)と、前記コア相の少なくとも一部を被覆するシェル相(102)とを備え、
前記シェル相は、1または複数の相からなり、
前記コア相の構成材料は、組成式Aa2-αAb(1+α)/37-ββ(Aa:アルカリ金属、Ab:ランタノイド、B:カチオン金属、X:Oと置換可能なアニオン)で表されるパイロクロア型固体電解質を含んでおり、
前記シェル相の構成材料は、前記パイロクロア型固体電解質と異なる化学組成を有し、かつ、前記パイロクロア型固体電解質よりも融点が低い材料を含んでいる二次電池用固体電解質。
(項目2)
前記パイロクロア型固体電解質は、前記組成式において、αは0.6<α<2.0の範囲内であり、βは0<β≦1の範囲内であり、かつ、前記Aa、前記Abおよび前記Bからなるカチオンと前記Oおよび前記Xからなるアニオンの価数の総和がマイナスになっており、欠陥構造を含んでいる項目1に記載の二次電池用固体電解質。
(項目3)
前記シェル相の構成材料は、前記パイロクロア型固体電解質の構成元素のいずれかを含んだ化学組成を有している項目1または2に記載の二次電池用固体電解質。
(項目4)
前記シェル相の構成材料は、LiおよびFの少なくともいずれかを含んだ化学組成を有している項目3に記載の二次電池用固体電解質。
(項目5)
前記シェル相の構成材料は、LiFが含まれている項目3に記載の二次電池用固体電解質。
(項目6)
前記コア相と前記シェル相とを備える複数の粒子が焼結された焼結体として形成されている項目1ないし5のいずれか1つに記載の二次電池用固体電解質。
(項目7)
項目1ないし6のいずれか1つに記載の二次電池用固体電解質を含んだ電解質層(15)と、前記電解質層を挟んで設けられた正極(14)および負極(12)とを備える二次電池。
(項目8)
前記正極に含まれる正極活物質(200)と前記二次電池用固体電解質は、直接接触するように設けられている項目7に記載の二次電池。
(項目9)
前記正極および前記負極を分離するセパレータ層(16)を備え、
前記二次電池用固体電解質は、前記セパレータ層の表面に塗布されて設けられている項目7に記載の二次電池。
(項目10)
前記正極および前記負極を分離するセパレータ層(16)を備え、
前記二次電池用固体電解質は、前記正極の表面に塗布して設けられている項目7に記載の二次電池。
【符号の説明】
【0099】
12 負極
14 正極
15 電解質層
16 セパレータ層
100 複合固体電解質
101 コア相
102 シェル相
200 正極活物質
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【手続補正書】
【提出日】2023-07-07
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子状のコア相(101)と、前記コア相の少なくとも一部を被覆するシェル相(102)とを備え、
前記シェル相は、1または複数の相からなり、
前記コア相の構成材料は、組成式Aa2-αAb(1+α)/37-ββ(Aa:アルカリ金属、Ab:ランタノイド、B:カチオン金属、X:Oと置換可能なアニオン)で表されるパイロクロア型固体電解質を含んでおり、
前記シェル相の構成材料は、前記パイロクロア型固体電解質と異なる化学組成であってLiを含んだ化学組成を有し、かつ、前記パイロクロア型固体電解質よりも融点が低い材料を含んでおり、
前記パイロクロア型固体電解質は、前記組成式において、αは0.6<α<2.0の範囲内であり、βは0<β≦1の範囲内であり、かつ、前記Aa、前記Abおよび前記Bからなるカチオンと前記Oおよび前記Xからなるアニオンの価数の総和がマイナスになっており、欠陥構造を含んでいる二次電池用固体電解質。
【請求項2】
前記シェル相の構成材料は、LiFが含まれている請求項に記載の二次電池用固体電解質。
【請求項3】
前記コア相と前記シェル相とを備える複数の粒子が焼結された焼結体として形成されている請求項1に記載の二次電池用固体電解質。
【請求項4】
請求項1ないしのいずれか1つに記載の二次電池用固体電解質を含んだ電解質層(15)と、前記電解質層を挟んで設けられた正極(14)および負極(12)とを備える二次電池。
【請求項5】
前記正極に含まれる正極活物質(200)と前記二次電池用固体電解質は、直接接触するように設けられている請求項に記載の二次電池。
【請求項6】
前記正極および前記負極を分離するセパレータ層(16)を備え、
前記二次電池用固体電解質は、前記セパレータ層の表面に塗布されて設けられている請求項に記載の二次電池。
【請求項7】
前記正極および前記負極を分離するセパレータ層(16)を備え、
前記二次電池用固体電解質は、前記正極の表面に塗布して設けられている請求項に記載の二次電池。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0006
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0006】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の二次電池用固体電解質は、粒子状のコア相(101)と、コア相の少なくとも一部を被覆するシェル相(102)とを備える。シェル相は、1または複数の相からなる。コア相の構成材料は、組成式Aa2-αAb(1+α)/37-ββ(Aa:アルカリ金属、Ab:ランタノイド、B:カチオン金属、X:Oと置換可能なアニオン)で表されるパイロクロア型固体電解質を含んでいる。シェル相の構成材料は、パイロクロア型固体電解質と異なる化学組成であってLiを含んだ化学組成を有し、かつ、パイロクロア型固体電解質よりも融点が低い材料を含んでいる。パイロクロア型固体電解質は、組成式において、αは0.6<α<2.0の範囲内であり、βは0<β≦1の範囲内であり、かつ、Aa、AbおよびBからなるカチオンと前記Oおよび前記Xからなるアニオンの価数の総和がマイナスになっており、欠陥構造を含んでいる。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0022
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0022】
コア相101の構成材料とシェル相102の構成材料は、それぞれ化学組成が異なるイオン伝導性物質である。シェル相102は1または複数の相からなる。シェル相102が複数の相からなる場合は、各相の化学組成が異なっており、各相は層状に形成されている。図2は、シェル相102が1つの相からなる例を示している。イオン伝導率は、コア相101の構成材料の方がシェル相102の構成材料よりも高くなっている。