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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024102702
(43)【公開日】2024-07-31
(54)【発明の名称】車両用シート
(51)【国際特許分類】
   B60N 2/36 20060101AFI20240724BHJP
   B60N 2/015 20060101ALI20240724BHJP
【FI】
B60N2/36
B60N2/015
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023006773
(22)【出願日】2023-01-19
(71)【出願人】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】勝部 健一
(72)【発明者】
【氏名】古閑 智貴
【テーマコード(参考)】
3B087
【Fターム(参考)】
3B087CB12
3B087CB14
(57)【要約】
【課題】シートクッションとシートバックとの隙間が小さい場合であっても、シンプルな構成でシートクッションが回動できる車両用シートを提供すること。
【解決手段】本開示の車両用シートは、前方側に設けられた回転軸を中心に後方側をシート前方に向かって回動することにより着座位置から起立位置へ移動可能なシートクッションと、前記回転軸を中心とし前記着座位置にある前記シートクッションの後端部を通過する円内にその下部が位置するシートバックと、を備え、前記シートクッションは、前記シートバックの下部との接触により前記着座位置と前記起立位置との間の回動動作が制限されないために、複数個に分割されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前方側に設けられた回転軸を中心に後方側をシート前方に向かって回動することにより着座位置から起立位置へ移動可能なシートクッションと、
前記回転軸を中心とし前記着座位置にある前記シートクッションの後端部を通過する円内にその下部が位置するシートバックと、を備え、
前記シートクッションは、前記シートバックの下部との接触により前記着座位置と前記起立位置との間の回動動作が制限されないために、複数個に分割されている、
車両用シート。
【請求項2】
前記シートクッションは、前方側シートクッションと後方側シートクッションの2つに分割され、前記前方側シートクッションが前記回転軸に回動可能に支持されており、
前記前方側シートクッションの後方下部と前記後方側シートクッションの前方下部とを回動可能に連結するヒンジ機構をさらに備える、
請求項1に記載の車両用シート。
【請求項3】
前記前方側シートクッションの後方端面と前記後方側シートクッションの前方端面とが互いに近接する方向に付勢する付勢機構と、
前記シートクッションを前記シート前方に向かって回動するのに連動して、前記後方側シートクッションを、その前方端面が前記前方側シートクッションの後方端面から離間する方向に移動させる作動機構と、をさらに備える、
請求項2に記載の車両用シート。
【請求項4】
前記作動機構は、一端部が車両のフロアに取り付けられ他端部が前記後方側シートクッションに取り付けられたワイヤーを備える、
請求項3に記載の車両用シート。
【請求項5】
前記起立位置における前記後方側シートクッションは、前記後方側シートクッションの前方端面と前記前方側シートクッションの後方端面とが同一平面上に位置するように、前記作動機構によって支持される、
請求項3に記載の車両用シート。
【請求項6】
前記付勢機構は、両端部が前記前方側シートクッションの後方端面と前記後方側シートクッションの前方端面とにそれぞれ取り付けられ、前記シートクッションが前記シート前方へ回動された際に前記ヒンジ機構の一部を覆う、弾性を有する帯状体で構成される、
請求項3に記載の車両用シート。
【請求項7】
前記前方側シートクッションの後方上部には、弾性を有し前記後方側シートクッションの上面の少なくとも一部を覆う延在部が一体に設けられている、
請求項2乃至請求項6のいずれか1項に記載の車両用シート。
【請求項8】
前記シートクッションは、上方側シートクッションと下方側シートクッションの2つに分割されており、
前記上方側シートクッションは、前記回転軸に回動可能に支持されて前記着座位置と前記起立位置の間を移動可能であると共に、少なくともその後方側の端部が弾性を有しており、
前記下方側シートクッションは、車両のフロアに取り付けられて前記着座位置にある前記上方側シートクッションの下面を支持する、
請求項1に記載の車両用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
車両、例えばハッチバックタイプの乗用車において、後方の荷室を拡張して種々の用途に用いるために、後列座席あるいは中列座席のシートクッションを起立させると共にシートバックを前方に倒すことができるものがある(例えば、下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-216704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両の後列座席あるいは中列座席では、シートバックとシートクッションとの間の隙間に小物等が入り込まないため、あるいは美観の観点等から、車両用シートを着座可能な状態としたときの上記隙間が小さいと好ましい。このような観点から、シートバックとシートクッションの位置を近づけてレイアウトすることがある。しかしながら、前述のレイアウトを単純に採用すると、シートクッションを単純に回動させるだけではシートクッションとシートバックとが接触し、回動動作が制限されてしまう。この点、上記特許文献1に記載の回動機構を採用すれば、シートクッションとシートバックとの接触を回避することが可能であるが、シートクッションを回動させるための構造が複雑化してしまう。
【0005】
本開示は上記の点に鑑み、シートクッションとシートバックとの隙間が小さい場合であっても、シンプルな構成でシートクッションが回動できる車両用シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本開示の第1の態様に係る車両用シートは、前方側に設けられた回転軸を中心に後方側をシート前方に向かって回動することにより着座位置から起立位置へ移動可能なシートクッションと、前記回転軸を中心とし前記着座位置にある前記シートクッションの後端部を通過する円内にその下部が位置するシートバックと、を備え、前記シートクッションは、前記シートバックの下部との接触により前記着座位置と前記起立位置との間の回動動作が制限されないために、複数個に分割されている。
【0007】
このような車両用シートにおいては、シートクッションを分割することにより、シートクッションとシートバックとの間の隙間が小さい場合でもシートクッションの回動が可能となる。
【0008】
本開示の第2の態様に係る車両用シートは、上記本開示の第1の態様に係る車両用シートにおいて、前記シートクッションは、前方側シートクッションと後方側シートクッションの2つに分割され、前記前方側シートクッションが前記回転軸に回動可能に支持されており、前記前方側シートクッションの後方下部と前記後方側シートクッションの前方下部とを回動可能に連結するヒンジ機構をさらに含む。
【0009】
このような車両用シートにおいては、後方側シートクッションがヒンジ機構によって回動することにより、シートクッションの回転半径を小さくすることができ、シートバックと接触しても回動動作を継続することができるようになる。
【0010】
本開示の第3の態様に係る車両用シートは、上記本開示の第2の態様に係る車両用シートにおいて、前記前方側シートクッションの後方端面と前記後方側シートクッションの前方端面とが互いに近接する方向に付勢する付勢機構と、前記シートクッションを前記シート前方に向かって回動するのに連動して、前記後方側シートクッションを、その前方端面が前記前方側シートクッションの後方端面から離間する方向に移動させる作動機構と、をさらに含む。
【0011】
このような車両用シートにおいては、シートクッションの回動に連動して、作動機構により後方側シートクッションが回動するため、スムーズな回動動作を実現できる。また、作動機構が動作していない際には、付勢機構によって前記前方側シートクッションの後方端面と前記後方側シートクッションの前方端面とが当接するように付勢されるため、着座位置におけるシートクッションの姿勢が安定する。
【0012】
本開示の第4の態様に係る車両用シートは、上記本開示の第3の態様に係る車両用シートにおいて、前記作動機構は、一端部が車両のフロアに取り付けられ他端部が前記後方側シートクッションに取り付けられたワイヤーを含む。
【0013】
このような車両用シートにおいては、簡単な構造により、シートクッションの回動に連動して後方側シートクッションを回動させることができる。
【0014】
本開示の第5の態様に係る車両用シートは、上記本開示の第3の態様に係る車両用シートにおいて、前記起立位置における前記後方側シートクッションは、前記後方側シートクッションの前方端面と前記前方側シートクッションの後方端面とが同一平面上に位置するように、前記作動機構によって支持される。
【0015】
このような車両用シートにおいては、起立位置にあるシートクッションを多用途で使用することができるようになる。
【0016】
本開示の第6の態様に係る車両用シートは、上記本開示の第3の態様に係る車両用シートにおいて、前記付勢機構は、両端部が前記前方側シートクッションの後方端面と前記後方側シートクッションの前方端面とにそれぞれ取り付けられ、前記シートクッションが前記シート前方へ回動された際に前記ヒンジ機構の一部を覆う、弾性を有する帯状体で構成される。
【0017】
このような車両用シートにおいては、帯状体で起立位置にあるシートクッションの隙間やヒンジ機構を隠すことができる。
【0018】
本開示の第7の態様に係る車両用シートは、上記本開示の第2乃至6のいずれかの態様に係る車両用シートにおいて、前記前方側シートクッションの後方上部には、弾性を有し前記後方側シートクッションの上面の少なくとも一部を覆う延在部が一体に設けられている。
【0019】
このような車両用シートにおいては、分割された前方側シートクッションと後方側シートクッションの境界部分が着座位置にあるシートクッションの表面からは視認できなくなり、美観が向上する。
【0020】
本開示の第8の態様に係る車両用シートは、上記本開示の第1の態様に係る車両用シートにおいて、前記シートクッションは、上方側シートクッションと下方側シートクッションの2つに分割されており、前記上方側シートクッションは、前記回転軸に回動可能に支持されて前記着座位置と前記起立位置の間を移動可能であると共に、少なくともその後方側の端部が弾性を有しており、前記下方側シートクッションは、車両のフロアに取り付けられて前記着座位置にある前記上方側シートクッションの下面を支持する。
【0021】
このような車両用シートにおいては、回動する上方側シートクッションがシートクッション全体の肉厚に比して薄くなっていること、及びそれ自体が弾性を備えていることから、その先端がシートバックに接触した際も弾性変形して回動動作を継続することができる。
【発明の効果】
【0022】
本開示の車両用シートによれば、シートクッションとシートバックとの隙間が小さい場合であっても、シンプルな構成でシートクッションが回動できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本開示の第1の実施の形態に係る車両用シートの一例を示した概略側面図である。
図2図1に示す車両用シートのシートクッションを起立位置に移動させた状態を示した図である。
図3図2に示す車両用シートのシートバックを車両前方に倒した状態を示した図である。
図4図2に示す車両用シートのシートクッションを拡大して示した斜視図である。
図5】本開示の第1の実施の形態に係る車両用シートのワイヤーの一端側を示した拡大図である。
図6】本開示の第1の実施の形態に係る車両用シートのワイヤーの他端側を示した拡大図である。
図7図1に示す車両用シートの付勢機構を変形した一変形例を示す要部拡大断面図である。
図8】本開示の第2の実施の形態に係る車両用シートの一例を示した概略側面図である。
図9】本開示の第3の実施の形態に係る車両用シートの一例を示した概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して本開示を実施するための実施の形態について説明する。なお、以下では本開示の目的を達成するための説明に必要な範囲を模式的に示し、本開示の該当部分の説明に必要な範囲を主に説明することとし、説明を省略する箇所については公知技術によるものとする。また、図中に互いに同一又は相当する部材が複数個含まれている場合には、図を見易くするために、そのうちのいくつかにのみ符号を付している場合がある。
【0025】
<第1の実施の形態>
図1は、本開示の第1の実施の形態に係る車両用シートの一例を示した概略側面図である。また、図2は、図1に示す車両用シートのシートクッションを着座位置から起立位置へ移動させた状態を示した図である。さらに、図3は、図2に示す車両用シートのシートバックを起立位置から前倒位置へ移動させた状態を示した図である。なお、以下には、図1に示すX方向を車両の前後方向とし、Y方向を車両の幅方向とし、Z方向を車両の上下方向として説明を行うものとする。
【0026】
本開示の第1の実施の形態に係る車両用シート1は、乗用車等の車両の後列座席又は中列座席に採用することができる。この車両用シート1は、図1乃至図3に示すように、少なくとも背もたれとして機能するシートバック10と、座部として機能するシートクッション20とを含む。なお、図2及び図3においては、シートクッション20の回転機構部分等の理解を容易にするために、シートクッション20を断面で示している。
【0027】
シートバック10は、その下部12が図示しないリクライニング機構のシートバック側回転軸11に軸支され、その上部にヘッドレスト13が取り付けられたものであってよい。このシートバック10は、乗員が着座する際は起立位置(図1参照)で支持され、例えば車両用シート1後方の荷室を拡張する際等には、シートバック側回転軸11を中心にシート前方、具体的には車両の前方に向かって回動された前倒位置(図3参照)で支持することができるものであってよい。
【0028】
また、シートバック10は、起立位置における車両の後方側の少なくとも一部を発泡ポリプロピレンのような保形性の高い材料で形成し、同じく起立位置における主に車両の前方側を発泡ポリウレタンのような柔軟な材料で形成することができる。また、このシートバック10の少なくとも車両の前方側部分は、皮革等で構成される表皮で覆われていてよい。なお、シートバック10は金属製のフレームや乗員の背面を支持する弾性体等をさらに含んでいてもよく、具体的な構造は特に限定されない。
【0029】
シートクッション20は、前方側に設けられた回転軸の一例としてのシートクッション側回転軸21を中心に、その後方側をシート前方、具体的に車両の前方に向かって回動することにより、着座位置(図1参照)P1から起立位置(図2及び図3参照)P2へ移動可能なものである。このシートクッション20も、シートバック10と同様に、例えば、着座位置P1における車両の下方側の少なくとも一部を発泡ポリプロピレンのような保形性の高い材料で形成し、同じく着座位置P1における主に車両の上方側を発泡ポリウレタンのような柔軟な材料で形成することができる。また、このシートクッション20の少なくとも車両の上方側部分は、皮革等で構成される表皮で覆われていてよい。なお、シートクッション20の構造についてもシートバック10と同様に上記のものには特に限定されない。
【0030】
また、シートクッション20の車両下面側の略中央部分には、凹部23が形成されているとよい。この凹部23は、シートクッション20が着座位置P1にある場合には、図1に示すように、フロア2に形成された突起3を収容できるものとするとよい。このような構成とすると、例えば車両の前突時にシートクッション20が前方へ移動することを抑制することができる。また、凹部23は、シートクッション20が起立位置P2にある場合には、図3に示すように、前倒位置にあるシートバック10のヘッドレスト13の一部が収容できるようにすることで、車両用シート1をコンパクトにすることができる。
【0031】
さらに、シートクッション20の後方側の任意の位置には、図2及び図3に示す、フロア2に設けられたロック機構5が着脱可能なロック片(図示省略)が形成されているとよい。このロック片がロック機構5に連結することで、シートクッション20は着座位置P1に安定して固定され得る。
【0032】
上述したシートバック10及びシートクッション20を含む車両用シート1においては、乗員の着座時には、図1に示すように、シートバック10を起立位置とし、且つシートクッション20を着座位置P1とすればよい。また、車両用シート1後方の荷室を拡大する際には、図3に示すように、シートクッション20を起立位置P2とし、且つシートバック10を前倒位置とすればよい。
【0033】
ここで、本実施の形態に係る車両用シート1は、図1に示すように、シートバック10の下部12とシートクッション20の後部との間に形成される隙間が極めて小さくなるようにそれぞれの位置が調整されている。これに関連して、シートバック10の下部12の一部は、シートクッション側回転軸21を中心として描いた、着座位置P1にあるシートクッション20の後端部22を通過する円C1内に位置した干渉部分IPとなっている。シートバック10にこのような干渉部分IPが含まれると、シートクッション20を着座位置P1から(そのままの姿勢で)シートクッション側回転軸21を中心に車両前方に回動させると、シートクッション20の後端部22がこの干渉部分IPに接触する。すなわち、シートバック10に上述の干渉部分IPがあると、シートクッション20の回動動作は制限され、起立位置P2まで回動することが困難となり得る。
【0034】
上述の点に鑑み、本実施の形態に係る車両用シート1では、シートクッション20を複数個に分割することで、上述した回動動作が制限されることを回避している。以下、具体的な構成の一例を詳述する。
【0035】
本実施の形態に係る車両用シート1のシートクッション20は、前方側シートクッション31と後方側シートクッション32の2つに分割されていてよい。また、前方側シートクッション31は、一端がシートクッション側回転軸21に軸支されたアーム35を含み、このアーム35を介して回動可能となっていてよい。シートクッション側回転軸21は、フロア2に形成された支持台4上に設けられていてよい。本実施の形態では、前方側シートクッション31と後方側シートクッション32との分割位置が、シートクッション20の後端部22から前方へ5~10cm程度離れた位置に設定されているものを例示しているが、この分割位置は適宜調整可能である。なお、分割位置をシートクッション20の中央部分に設定すると、分割位置に着座者が座ることとなり、座り心地に影響が出る可能性があるため、後端部22に近い位置に設定すると好ましい。また、分割位置を表皮の吊り込み位置に合わせて設定すると分割位置が目立たなくなり美観の点で好ましい。
【0036】
図4は、図2に示す車両用シートのシートクッションを拡大して示した斜視図である。上述したシートクッション20は、前方側シートクッション31の後方下部と後方側シートクッション32の前方下部とを回動可能に連結するヒンジ機構40をさらに含んでいてよい。このヒンジ機構40は、図1及び図4に示すように、前方側シートクッション31の後方下部に取り付けられる第1の支持プレート41と、後方側シートクッション32の前方下部に取り付けられる第2の支持プレート42と、第1の支持プレート41と第2の支持プレート42とを回動自在に連結する支軸43と、を含んでいてよい。
【0037】
上述したヒンジ機構40を採用することにより、後方側シートクッション32は、前方側シートクッション31の後方下部に回動可能に連結されることとなる。したがって、後方側シートクッション32は、前方側シートクッション31の後方端面33と後方側シートクッション32の前方端面34とが当接する位置と、前方側シートクッション31の後方端面33と後方側シートクッション32の前方端面34とが離間した位置との間で自由に動作することができるようになる。
【0038】
シートクッション20を上述した構造とすることにより、シートクッション20の着座位置P1から起立位置P2への回動動作が制限されることがなくなる。具体的には、シートクッション20を車両の前方に回動させ、シートクッション20の後端部22が干渉部分IPに接触した際には、後方側シートクッション32が支軸43を中心に回動する。後方側シートクッション32が回動すると、シートクッション20の回転半径が小さくなるため、シートクッション20の回動動作は、干渉部分IPとの接触によって制限されず、継続することができるようになる。
【0039】
ところで、図3に示すような、シートクッション20を起立位置P2に移動し、シートバック10を前倒位置に移動することで拡大された荷室は、荷物ではなく乗員が載って利用する場合がある。このような使用形態においては、乗員の滞在を快適にするようなシートアレンジが望まれる。本実施の形態に係る車両用シート1においては、上述の点を考慮して、後方側シートクッション32の姿勢の調整を可能とする付勢機構及び作動機構を含むことができる。
【0040】
付勢機構は、前方側シートクッション31の後方端面33と後方側シートクッション32の前方端面34とが互いに近接する方向に付勢するものであってよい。本実施の形態においては、付勢機構の一例として、トーションばね45を採用することができる。このトーションばね45は、図4に示すように、例えばその回転中心が支軸43と同一線上の任意の位置に配設されていてよく、また、その一方の端部が第1の支持プレート41に取り付けられ、他方の端部が第2の支持プレート42に取り付けられていてよい。
【0041】
上述したトーションばね45を用いることにより、後方側シートクッション32は、前方側シートクッション31の後方端面33と後方側シートクッション32の前方端面34とが当接する位置となるように常に付勢されることになる。したがって、例えば干渉部分IPに接触することで後方側シートクッション32が回動した後、干渉部分IPとの接触が解消されると、後方側シートクッション32はトーションばね45の付勢力に起因してその前方端面34が前方側シートクッション31の後方端面33に近接する方向に移動することになる。
【0042】
作動機構は、シートクッション20を車両の前方に向かって回動するのに連動して、後方側シートクッション32を、その前方端面が前方側シートクッション31の後方端面から離間する方向に移動させるものであってよい。本実施の形態においては、作動機構の一例として、一端部が車両のフロア2に取り付けられ、他端部が後方側シートクッション32に取り付けられたワイヤー50で構成されたものを例示している。なお、作動機構は、上述した移動動作を実現可能なものであれば以下に説明するワイヤー50以外の機構で実現されていてもよい。
【0043】
図5は、本開示の第1の実施の形態に係る車両用シートのワイヤーの一端側を示した拡大図であって、図5(A)はシートクッションが着座位置にあるときの状態を示し、図5(B)はシートクッションが起立位置にあるときの状態を示したものである。また、図6は、本開示の第1の実施の形態に係る車両用シートのワイヤーの他端側を示した拡大図であって、図6(A)はシートクッションが着座位置にあるときの状態を示し、図6(B)はシートクッションが起立位置にあるときの状態を示したものである。
【0044】
ワイヤー50は、図5及び図6に示すように、所定長さを有する例えば金属製の長尺な紐状体で構成することができ、シートクッション側回転軸21の近傍からヒンジ機構40の近傍に至るまで、アーム35の内部やシートクッション20の内部を配策されていてよい。このワイヤー50の一端部を構成する第1の端部51は、図5(A)及び図5(B)に示すように、支持台4に固定されていてよい。また、このワイヤー50の他端部を構成する第2の端部52は、図6(A)及び図6(B)に示すように、後方側シートクッション32、より具体的には後方側シートクッション32に取り付けられた第2の支持プレート42に取り付けられていてよい。
【0045】
第2の端部52は、図6(A)及び図6(B)に示すように、例えば、第1及び第2の支持プレート41、42に形成された挿通穴41A、42Aを通された後、抜け止め処理が行われることで、後方側シートクッション32に取り付けることができる。なお、第2の端部52の取付構造は上述のものに限定されない。
【0046】
また、シートクッション20の回動動作に連動して後方側シートクッション32を回動させるために、ワイヤー50の第1の端部51側の適所の配策位置が規制されているとよい。具体的には、支持台4に設けられ第1の端部51よりも車両の後方側の所定の位置でワイヤー50を支持する第1の規制点53と、第1の端部51からの距離が第1の規制点53よりも離れた位置でワイヤー50をアーム35に支持する第2の規制点54と、を含むことができる。第1及び第2の規制点53、54は、例えばワイヤー50の径よりも大きな貫通穴で構成することができる。これにより、ワイヤー50は、第1及び第2の規制点53、54においてもその長さ方向において進退自在となる。
【0047】
上述したように、ワイヤー50が第1の規制点53と第2の規制点54とで支持されているため、シートクッション20が着座位置P1から起立位置P2へ回動するのに連動してワイヤー50の第2の端部52が引っ張られるように動作する。これにより、後方側シートクッション32は、シートクッション20が着座位置P1から起立位置P2へ回動移動するのに連動して、その前方端面34が前方側シートクッション31の後方端面33から離間する方向に回動するようになる。
【0048】
上述したワイヤー50を含む車両用シート1においては、起立位置P2に到達したシートクッション20の後方側シートクッション32は、図2及び図3に示すように、着座位置P1において乗員が座る側の面が車両の後方に位置することとなる。したがって、この後方側シートクッション32は、荷室に滞在する乗員の背もたれとして利用することができる。
【0049】
加えて、起立位置P2にあるシートクッション20の前方側シートクッション31の後方端面33と後方側シートクッション32の前方端面34とを簡易的なテーブルとして利用することもできる。当該テーブルとしての利用をより行いやすくするために、後方側シートクッション32の前方端面34と前方側シートクッション31の後方端面33とが同一平面上に位置すると好ましい。なお、同一平面上とは、実質的に同一であればよく、厳密に同一平面を構成する必要はない。また、起立位置P2にあるシートクッション20の後方側シートクッション32の前方端面34の角度等は、主にワイヤー50の長さを調整することを変更することができる。さらに、前方側シートクッション31の後方端面33と後方側シートクッション32の前方端面34とで構成される面に図示しない板体を置けば、テーブルとしての利用をより容易にすることができる。
【0050】
以上説明した通り、本実施の形態に係る車両用シート1においては、シートクッション20を前後に分割するという比較的単純な構成を採用することで、シートクッション20とシートバック10との隙間が小さい場合であってもシートクッション20の円滑な回動動作を実現することができる。また、付勢機構及び作動機構によりシートクッション20の回動に連動して後方側シートクッション32の回動を行うようにしたため、シートクッション20の回動を円滑にし、且つ起立状態におけるシートクッション20を荷室の乗員の背もたれとしてあるいは簡易的なテーブルとして多用途に利用することができるようになる。
【0051】
ところで、上述した第1の実施の形態においては、付勢機構としてトーションばね45を用いたものを例示したが、本開示の付勢機構はこれに限定されず、例えばゴム等の弾性を有する部材で実現することもできる。
【0052】
図7は、図1に示す車両用シートの付勢機構を変形した一変形例を示す要部拡大断面図であって、図7(A)は着座位置におけるシートクッションの分割部分を模式的に示したものであり、図7(B)は起立位置におけるシートクッションの分割部分を模式的に示したものである。本実施の形態の付勢機構は、両端部が前方側シートクッション31の後方端面33と後方側シートクッション32の前方端面34とにそれぞれ取り付けられた弾性を有する帯状体で構成することができる。より具体的には、車両の幅方向に長尺で、短手方向の一端46が前方側シートクッション31の後方端面33に取り付けられ、同じく短手方向の他端47が後方側シートクッション32の前方端面34に取り付けられた、ゴムバンド45Aで構成することができる。
【0053】
ゴムバンド45Aは、図7(A)に示すように、シートクッション20が着座位置P1にある場合において、前方側シートクッション31の後方端面33と後方側シートクッション32の前方端面34との間に挟まれるように配置されていてよい。そして、このゴムバンド45Aは、シートクッション20が車両の前方へ回動されて起立位置P2にあるときは、図7(B)に示すように、ヒンジ機構40の支軸43部分を覆うことができる。シートクッション20が着座位置P1から起立位置P2へ回動すると、ゴムバンド45Aは短手方向に引っ張られるため、前方側シートクッション31の後方端面33と後方側シートクッション32の前方端面34とが互いに近接する方向に付勢する。
【0054】
付勢機構として、上述したゴムバンド45Aを採用すれば、シートクッション20を起立させた状態としても、乗員からヒンジ機構40が視認できなくなり、美観が向上する。また、ヒンジ機構40が隠れることでこの部分に指等を挟む恐れがなくなり、安全な利用が期待できる。なお、ヒンジ機構40のメンテナンス等を目的として、ゴムバンド45Aの一端46及び他端47の少なくとも一方は着脱自在に取り付けられていると好ましい。本実施の形態では、ゴムバンド45Aの一端46が面ファスナーで取り付けられたものを例示している。また、ゴムバンド45Aとトーションばね45とを組み合わせて採用することもできる。その場合にはゴムバンド45Aに必要な張力を小さくできる。
【0055】

<第2の実施の形態>
上述した第1の実施の形態においては、シートクッション20を前後に単純に2分割したものを例示している。この場合、着座位置P1にあるシートクッション20の表面に分割部分が露出し、視認可能な状態となる。この分割部分は、美観の観点から言えば視認できない方が一般的に好ましい。そこで、本開示の第2の実施の形態では、着座位置P1にあるシートクッションにおいて分割部分が視認されないようにした車両用シート1Aを例示的に説明する。
【0056】
図8は、本開示の第2の実施の形態に係る車両用シートの一例を示した概略側面図であって、図8(A)はシートクッションが着座位置にある状態のものを示し、図8(B)はシートクッションが起立位置にある状態のものを示したものである。また、図8(A)に示す状態は図1に対応し、図8(B)に示す状態は図3に対応している。本実施の形態に係る車両用シート1Aは、図8に示すように、シートクッション20Aの形状以外は上述した第1の実施の形態に係る車両用シート1と同様の構成であってよい。そこで、以下には、本実施の形態に係る車両用シート1Aのうち、第1の実施の形態に係る車両用シート1と異なる構成部分を中心に説明し、第1の実施の形態に係る車両用シート1と同様の構成については同一の符号を付してその説明を省略するものとする。
【0057】
本実施の形態に係る車両用シート1Aのシートクッション20Aは、図8に示すように、前方側シートクッション31Aと後方側シートクッション32Aの2つに分割されていてよい。ここで、本実施の形態に係る前方側シートクッション31Aは、図8から分かるように、その後端部の上部から後方に向けて延び、後方側シートクッション32Aの上面を覆う延在部36が設けられていてよい。これに関連して、後方側シートクッション32Aは、その肉厚が前方側シートクッション31Aに比して薄くなっている。
【0058】
延在部36は、弾性を有する部材、例えばシートクッション20Aの上面側に用いられる発泡ポリウレタンのような柔軟性を有する部材で構成することができる。延在部36が弾性を有する部材で構成され、且つその肉厚が薄いと、この延在部36は、シートクッション20Aを回動させた際に延在部36の先端37がシートバック10に接触した場合に、弾性変形する。したがって、この延在部36とシートバック10との接触によってシートクッション20Aの回動動作が制限されることがなくなる。
【0059】
また、この延在部36は、前方側シートクッション31Aの後端部と一体に形成されているとよい。延在部36が前方側シートクッション31Aの後端部と一体であると、図8(A)に示すように、着座位置P1にあるシートクッション20Aの分割位置が乗員に視認されなくなり、美観が向上する。加えて、前方側シートクッション31Aに境界がないため座り心地の向上が期待できる。
【0060】
後方側シートクッション32Aは、第1の実施の形態の後方側シートクッション32と同様に、前方側シートクッション31Aの後方下部と後方側シートクッション32Aの前方下部とを連結するヒンジ機構40を中心に回動可能とすることができる。したがって、シートクッション20Aを車両の前方に回動させ、後方側シートクッション32Aの後端部38がシートバック10に接触した際には、後方側シートクッション32Aが回動する。この回動により、シートクッション20Aの回動動作がシートバック10との接触によっても制限されず、継続することができる。
【0061】
また、図示は省略しているが、本実施の形態のシートクッション20Aにも、第1の実施の形態に係る車両用シート1と同様の付勢機構及び作動機構を採用することができる。したがって、シートクッション20Aが起立位置P2にある場合には、図8(B)に示すように、多用途での利用が可能なように、前方側シートクッション31Aの後方端面33Aと後方側シートクッション32Aの前方端面34Aとが同一平面上に位置するように回動するとよい。
【0062】
<第3の実施の形態>
上述した第1及び第2の実施の形態においては、シートクッション20、20Aを前後に分割したものを例示しているが、前後以外に分割してもよい。そこで、以下には本開示の第3の実施の形態として、シートクッションを上下に分割した場合について例示する。
【0063】
図9には、本開示の第3の実施の形態に係る車両用シートの一例を示した概略側面図であって、図9(A)はシートクッションが着座位置にある状態のものを示し、図9(B)はシートクッションが起立位置にある状態のものを示したものである。また、図9(A)に示す状態は図1に対応し、図9(B)に示す状態は図3に対応している。本実施の形態に係る車両用シート1Bは、図9に示すように、シートクッション20Bの形状以外は上述した第1の実施の形態に係る車両用シート1と同様の構成であってよい。そこで、以下には、本実施の形態に係る車両用シート1Bのうち、第1の実施の形態に係る車両用シート1と異なる構成部分を中心に説明し、第1の実施の形態に係る車両用シート1と同様の構成については同一の符号を付してその説明を省略するものとする。
【0064】
本実施の形態に係る車両用シート1Bのシートクッション20Bは、図9に示すように、上方側シートクッション31Bと下方側シートクッション32Bの2つに分割されていてよい。
【0065】
上方側シートクッション31Bは、シートクッション側回転軸21にアーム35Bを介して回動可能に支持され、着座位置P1と起立位置P2の間を移動可能なものであってよい。加えて、この上方側シートクッション31Bは、少なくともその後方側の端部が弾性を有していてよい。具体的には、例えば上方側シートクッション31Bの前方下部を除く部分を、発泡ポリウレタンのような柔軟性を有する部材で構成することができる。
【0066】
また、上方側シートクッション31Bは、その前方端部を除き、肉厚がシートクッション20B全体の肉厚よりも小さく、例えばシートクッション20B全体の肉厚の半分程度に調整されていてよい。このように、上方側シートクッション31Bの後方部分を薄肉とし、且つ弾性を有する部材で構成すると、上方側シートクッション31Bの後端部39は、シートクッション20Bを回動させシートバック10に接触した際、弾性変形する。これにより、上方側シートクッション31Bは、シートバック10との接触によってその回動動作が制限されることがなくなる。
【0067】
下方側シートクッション32Bは、車両のフロア2に取り付けられて着座位置P1にある上方側シートクッション31Bの下面を支持することが可能なものであってよい。この下方側シートクッション32Bは、図9(A)及び図9(B)からも分かる通り、シートクッション側回転軸21には連結されておらず、フロア2に固定されて動作しないものであってよい。下方側シートクッション32Bには、柔軟な材料等で構成された上方側シートクッション31Bを支えるために、上方側シートクッション31Bに比して高強度の材料で構成するとよい。
【0068】
本実施の形態の車両用シート1Bにおいても、上述した各実施の形態に係る車両用シート1、1Aと同様に、シートクッション20Bとシートバック10との隙間が小さい場合であってもシートクッション20Bの円滑な回動動作を実現することができる。
【0069】
本開示は上述した実施の形態に限定されるものではなく、本開示の主旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することが可能である。そして、それらはすべて、本開示の技術思想に含まれるものである。
【符号の説明】
【0070】
1、1A 車両用シート
2 フロア
10 シートバック
20 シートクッション
21 シートクッション側回転軸(回転軸の一例)
31、31A 前方側シートクッション
31B 上方側シートクッション
32、32A 後方側シートクッション
32B 下方側シートクッション
36 延在部
40 ヒンジ機構
45 トーションばね(付勢機構の一例)
45A ゴムバンド(付勢機構の一例)
50 ワイヤー(作動機構の一例)
IP 干渉部分
P1 着座位置
P2 起立位置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9