(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024102718
(43)【公開日】2024-07-31
(54)【発明の名称】開閉弁付き圧力バランス回路を備えた車両
(51)【国際特許分類】
F02B 39/14 20060101AFI20240724BHJP
【FI】
F02B39/14 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023006794
(22)【出願日】2023-01-19
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000419
【氏名又は名称】弁理士法人太田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浦山 朋之
(72)【発明者】
【氏名】萩原 裕充
(72)【発明者】
【氏名】竹山 若葉
(72)【発明者】
【氏名】山口 和博
(72)【発明者】
【氏名】本間 勇人
【テーマコード(参考)】
3G005
【Fターム(参考)】
3G005EA04
3G005EA16
3G005FA31
3G005GA02
3G005GB39
3G005GB40
3G005GB41
3G005GB42
3G005GD11
3G005GD16
3G005JA02
3G005JA28
3G005JA29
3G005JA39
(57)【要約】
【課題】ターボチャージャの駆動に対して適正な油量および油圧の潤滑油を適正なタイミングで供給可能な車両を提供する。
【解決手段】本開示の一形態における車両は、エンジンと、前記エンジンの内部に供給される潤滑油を貯留するオイルパンよりも鉛直下方に配置されたターボチャージャと、前記ターボチャージャよりも鉛直下方に配置されたオイルキャッチタンクと、前記オイルキャッチタンクから前記エンジンの内部へ前記潤滑油を吸い上げるスカベンジポンプと、前記エンジンの内部と前記オイルキャッチタンクとを連通すると共に流路を開閉する開閉弁が設けられた圧力バランス回路と、前記開閉弁を制御する制御装置と、を含んでなる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
前記エンジンの内部に供給される潤滑油を貯留するオイルパンよりも鉛直下方に配置されたターボチャージャと、
前記ターボチャージャよりも鉛直下方に配置されたオイルキャッチタンクと、
前記オイルキャッチタンクから前記エンジンの内部へ前記潤滑油を吸い上げるスカベンジポンプと、
前記エンジンの内部と前記オイルキャッチタンクとを連通すると共に流路を開閉する開閉弁が設けられた圧力バランス回路と、
前記開閉弁を制御する制御装置と、
を含んでなる車両。
【請求項2】
前記制御装置は、
前記エンジンの回転数に基づいて、前記開閉弁を介して前記圧力バランス回路を閉塞させる、
請求項1に記載の車両。
【請求項3】
前記制御装置は、
前記エンジンの回転数と、前記ターボチャージャが必要とする前記潤滑油の給油量と給油圧の少なくとも一方と、が予め規定された前記ターボチャージャの給油情報に基づいて、前記ターボチャージャに必要な前記給油量又は前記給油圧を下回る前記エンジンの回転数となる場合に前記開閉弁を介して前記圧力バランス回路を閉塞させる、
請求項2に記載の車両。
【請求項4】
前記制御装置は、
前記潤滑油が前記ターボチャージャのタービンハウジング内へ浸入するときに前記開閉弁を介して前記圧力バランス回路を閉塞させる制御を実行する、
請求項1~3のいずれか一項に記載の車両。
【請求項5】
前記タービンハウジング内の圧力を検出するタービン圧センサをさらに含み、
前記制御装置は、
前記タービン圧センサが検出した前記タービンハウジング内の圧力に基づいて前記圧力バランス回路を閉塞させる、
請求項4に記載の車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、例えばターボ車における潤滑油の循環制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、より多くの酸素を燃焼室に送るために、過給機を用いてエンジンが吸入する空気の密度を高めて高い燃焼エネルギーを得ることが行われている。かような過給機の1つとして、エンジンから排出される排気を用いてコンプレッサを駆動するターボチャージャが既知である。
【0003】
ここでエンジンの仕様によっては、ターボチャージャがエンジンのオイルパンよりも下方に配置される場合もある。すると、このままではエンジン内やターボチャージャ内を流通した潤滑油(エンジンオイルやオイルとも称される)は、重力の作用によって自然とオイルパンへ還流させることができない。
【0004】
そこで、例えばターボチャージャの下方にオイルキャッチタンクを設け、ターボチャージャを通過した潤滑油を当該オイルキャッチタンクで回収して貯蔵すると共に、オイルキャッチタンクに貯留された潤滑油を排出用ポンプ(「スカベンジポンプ」とも称する)で吸い上げてオイルキャッチタンクからエンジンなどへ還流させることが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-25122号公報
【特許文献2】特開2019-52544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したターボチャージャは、コンプレッサインペラとタービンブレードを回転させる回転軸を備えている。この回転軸を潤滑させる為には、回転数に応じた相当量の潤滑油をターボチャージャへ適時に給油する必要がある。このようにターボチャージャにはその回転数に応じた給油量と給油圧が必要であるところ、潤滑油の給油量と給油圧は、エンジンその他のオイル必要箇所の給油バランスや給油先の取付位置などにも依存し、場合によってはターボチャージャへの給油量及び給油圧が不足する可能性もある。
【0007】
本開示は、上記した課題を一例に鑑みて為されたものであり、例えばターボチャージャの駆動に対して適正な油量および油圧の潤滑油を適正なタイミングで供給可能な車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本開示の一形態における車両は、エンジンと、前記エンジンの内部に供給される潤滑油を貯留するオイルパンよりも鉛直下方に配置されたターボチャージャと、前記ターボチャージャよりも鉛直下方に配置されたオイルキャッチタンクと、前記オイルキャッチタンクから前記エンジンの内部へ前記潤滑油を吸い上げるスカベンジポンプと、前記エンジンの内部と前記オイルキャッチタンクとを連通すると共に流路を開閉する開閉弁が設けられた圧力バランス回路と、前記開閉弁を制御する制御装置と、を含んでなる。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、開閉弁によって任意のタイミングでターボチャージャへの潤滑油の供給を増強でき、潤滑油を送出するオイルポンプを過度に増強せず適正な油量および油圧の潤滑油をターボチャージャへ供給することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態の車両のうち開閉弁付き圧力バランス回路が組み込まれたターボチャージャとエンジンを部分的に示す図である。
【
図2】圧力バランス回路の開閉弁が開いた状態での潤滑油の流通状態を示す模式図である。
【
図3】圧力バランス回路の開閉弁が閉じた状態での潤滑油の流通状態を示す模式図である。
【
図4】本実施形態における開閉弁の制御情報の一例(エンジン回転数と油温に基づく弁制御情報)を説明するための模式図である。
【
図5】本実施形態の圧力バランス回路の制御方法にかかるフローチャートである。
【
図6】変形例の車両のうち開閉弁付き圧力バランス回路が組み込まれたターボチャージャとエンジンを部分的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に本開示を実施するための好適な実施形態について説明する。なお本開示に直接関係のない要素や構造に関する図示は適宜省略する場合がある。従って以下で詳述する構成以外のエンジンや車両構造については、例えば特開2018-025122号公報などに記載された水平対向型エンジンの構造や、その他の公知の構造を適宜補完して実施してもよい。
【0012】
[車両100]
図1に、本開示の一実施形態である車両100の要部を示す。
図1などから理解されるとおり、本実施形態の車両100は、エンジン10、ターボチャージャ20、オイルキャッチタンク30、スカベンジポンプ40、圧力バランス回路50および制御装置60を含んで構成されている。
【0013】
なお車両100の一例として水平対向型のエンジン10を搭載する四輪自動車が好適であるが、本開示の車両100は上記形態には限られない。すなわち車両100に搭載可能なエンジンは、ターボチャージャがエンジンのオイルパンよりも下方に配置される限りにおいて水平対向型エンジンに限定されず、例えばV型エンジンあるいはディーゼルエンジンなど公知の他のエンジンであってもよい。
【0014】
また、本開示に好適な車両100は、エンジン10と公知の二次電池とが併載されたハイブリッド車であってもよいし、二輪自動車であってもよい。また、車両100の駆動方式も、前輪駆動であってもよいし、後輪駆動であってもよいし、全輪駆動であってもよい。
【0015】
エンジン10は、車両100に搭載されて、車両100の駆動に必要な動力を発生する公知の内燃機関である。本実施形態のエンジン10は、エンジン内における各摺動部に供給される潤滑油が自然落下して貯留されるオイルパン11を下部に備えている。
図1に示されるとおり、エンジン10では、吸気管12を介して空気(酸素)が吸入されるとともに、エンジン10で燃料した排気ガスが排気管13を介して排気される。なお、
図1などに示されるように、エンジン10には公知のエンジン回転数センサ15が設けられている。
【0016】
過給機としてのターボチャージャ20は、エンジン10の内部に供給される潤滑油を貯留するオイルパン11よりも鉛直下方に配置されている。より具体的にターボチャージャ20は、エンジン10の排気管と連通されたタービンハウジング21と、このタービンハウジング21に収容されたタービンホイール22と、エンジン10の吸気管と連通されたコンプレッサハウジング23と、このコンプレッサハウジング23に収容されたコンプレッサホイール24と、ベアリングハウジング25と、このベアリングハウジング25に収容されてタービンホイール22とコンプレッサホイール24とを連結する連結シャフト26およびその軸受27と、を含んで構成されている。なお、図示されるように、各ハウジング(タービンハウジング21、コンプレッサハウジング23及びベアリングハウジング25)は、互いに連結されて一体化されていることが好ましい。
【0017】
かように構成されたターボチャージャ20では過給時に連結シャフト26が高速回転することから、連結シャフト26や軸受27などに潤滑油を供給して潤滑する必要がある。そのため、本実施形態ではエンジン10とターボチャージャ20とをオイル供給路14で接続すると共に、公知のオイルポンプ(不図示)によってオイルパン11から吸い上げられた潤滑油を、当該オイル供給路14を介して連結シャフト26や軸受27に供給するように構成されている。
【0018】
オイルキャッチタンク30は、ターボチャージャ20よりも鉛直下方に配置されて、ターボチャージャ20に供給された潤滑油を貯留する機能を有して構成されている。すなわち、本実施形態ではターボチャージャ20はエンジン10の鉛直下方に配置されており、オイル供給路14を介してエンジン10からターボチャージャ20に流入した潤滑油は、ベアリングハウジング25内の流路を流れて連結シャフト26や軸受27等を潤滑した後で、上記したオイルキャッチタンク30に流れ落ちて回収される。
【0019】
スカベンジポンプ40は、オイルキャッチタンク30とエンジン10とを接続するオイル還流路41に配置され、オイルキャッチタンク30からエンジン10の内部へ潤滑油を吸い上げる機能を有した公知のポンプである。これによりターボチャージャ20を経てオイルキャッチタンク30に貯蔵された潤滑油は、スカベンジポンプ40で吸い上げられることでオイルキャッチタンク30から強制的に排出された後に、オイル還流路41を介してエンジン10内に還流することになる。なお、上記で還流された潤滑油は、例えばエンジン10内の各摺動部を潤滑した後に再びターボチャージャ20へ送出され得る。このように本実施形態の潤滑油は、エンジン10とターボチャージャ20との間で還流されるように構成されている。
【0020】
オイルキャッチタンク30からエンジン10に潤滑油が還流するときはスカベンジポンプ40が駆動することから、オイル還流路41やオイルキャッチタンク30内は負圧状態となり得る。この状態でエンジン10が停止した場合、上記したオイルポンプのみならずスカベンジポンプ40も停止するが、オイルキャッチタンク30内が負圧状態になっているため、ターボチャージャ20の上流側に位置するオイル供給路14に残存する潤滑油並びにオイル供給路14に繋がったエンジン内部の潤滑油がターボチャージャ20やオイルキャッチタンク30側に引き込まれることになる。
【0021】
すると潤滑油の油量がオイルキャッチタンク30の容量を越えてしまい、潤滑油がターボチャージャ20内の流路内に溜まることで連結シャフト26や軸受27が油没してしまう。このため、本実施形態の車両100は、エンジン10とオイルキャッチタンク30とを連通する圧力バランス回路50を含んで構成される。
【0022】
圧力バランス回路50は、エンジン10の内部とオイルキャッチタンク30の内部とを連通すると共に、ターボチャージャ20の必要油圧を確保しつつエンジン10の内部とオイルキャッチタンク30の内部の圧力を調整する機能を有して構成されている。
【0023】
より具体的に本実施形態の圧力バランス回路50は、エンジン10の内部とオイルキャッチタンク30とを連通するバランス流路51と、このバランス流路51に設置されて当該バランス流路51を開閉する開閉弁52と、を含んで構成されている。このうち開閉弁52は、後述する制御装置60に接続され、この制御装置60による制御の下でバランス流路51を開閉する機能を備えている。かような開閉弁52としては、例えば電動弁や電磁弁など公知の種々の弁機構を適用してもよい。
【0024】
制御装置60は、前述した開閉弁52の動作を制御する機能を有して構成されている。また、制御装置60は、上記したエンジン回転数センサ15からエンジン回転数を取得する機能を有して構成されている。さらに制御装置60は、後述するとおり、タービン圧センサ28からタービン圧を取得する機能を有して構成されていてもよい。制御装置60は、車載されるECU(電子制御ユニット)として構成されてもよく、例えばCPU(Central Processing Unit)等の一つ又は複数のプロセッサと、当該プロセッサと通信可能に接続されたRAM(Random Access Memory)又はROM(Read Only Memory)等の一つ又は複数のメモリを備えて構成されていてもよい。このように制御装置60は、一つ又は複数のプロセッサがコンピュータプログラムを実行することで、上述の開閉弁52の開度を制御する弁制御装置として機能することができる。
【0025】
当該コンピュータプログラムは、制御装置60が実行すべき動作をプロセッサに実行させるためのコンピュータプログラムである。プロセッサにより実行されるコンピュータプログラムは、制御装置60に備えられた不図示の記憶部(メモリ)として機能する記録媒体に記録されていてもよく、制御装置60に内蔵された記録媒体又は制御装置60に外付け可能な公知の記録媒体に記録されていてもよく、あるいは車両100の外部から公知のネットワークを介してダウンロード可能に構成されていてもよい。
【0026】
なおコンピュータプログラムを記録する記録媒体としては、ハードディスク、フロッピーディスク及び磁気テープ等の磁気媒体、CD-ROM(Compact Disk Read Only Memory)、DVD(Digital Versatile Disk)及びBlu-ray(登録商標)等の光記録媒体、フロプティカルディスク等の磁気光媒体、RAM及びROM等の記憶素子、及びUSB(Universal Serial Bus)メモリ等のフラッシュメモリ、SSD(Solid State Drive)、その他のプログラムを格納可能な媒体であってよい。
【0027】
<圧力バランス回路の開閉弁によるターボチャージャへのオイル供給量制御>
次に
図2~
図4も参照しつつ。本実施形態における圧力バランス回路50の開閉弁52によるターボチャージャ20へのオイル供給量制御について説明する。
【0028】
上述したとおり、ターボチャージャ20は、エンジン10の目標回転数によってタービンホイール22や連結シャフト26の回転数も変化するため、エンジン10の回転数に応じて相当量の潤滑油をターボチャージャへ適時に給油する必要がある。このためオイル供給路14を介してエンジン10からターボチャージャ20へ供給される潤滑油も、上記相当量に対応した給油量や給油圧が不可欠となる。
【0029】
ここで、上記した開閉弁52を具備しない圧力バランス回路を採用した場合、エンジン10とオイルキャッチタンク30とが連通して圧力バランスが均衡することで、エンジン10が停止した際には上記した連結シャフト26などの油没を防止できる点では有効である。しかしながらエンジン10内を流通する潤滑油は、ターボチャージャ20のみへ供給されるものではなく、例えばオイルポンプやギア類など他に潤滑が必要な部位へも供給されることから、エンジン構成やその設置レイアウトによってはターボチャージャ20へ必要な油量および油圧が確保できないことがあり得る。
【0030】
そこで本開示の圧力バランス回路50では、このエンジン10とオイルキャッチタンク30とを連通するバランス流路51に開閉弁52を設け、この開閉弁52による弁開度を調整することでエンジン10の動作(回転数)に応じて必要となるターボチャージャ20への給油量および給油圧を確保可能とした。
【0031】
すなわち、例えばターボチャージャ20への上記した必要な給油量および給油圧が満たされている場合には、
図2に示すように、制御装置60は、開閉弁52を開状態としてエンジン10とオイルキャッチタンク30とを連通させて圧力バランスを均衡させる制御を実行する。これによりエンジン10(具体的にはクランクケース)の内圧とオイルキャッチタンク30の内圧とが同じ圧力(例えば大気圧)となり、エンジン10からターボチャージャ20へ供給される潤滑油は、上記したオイルポンプの吐出圧とオイルキャッチタンク30の内圧(本例では大気圧)の差圧に従って供給されることになる。
【0032】
従って
図2に示すごとき開閉弁52の開状態においては、例えばエンジン10が停止した際にオイルキャッチタンク30内が過度に負圧状態となることは抑制されて、上記したターボチャージャ20内の連結シャフト26や軸受27などの油没を防止することが可能となる。
【0033】
一方で、例えばエンジン10の回転数によってはターボチャージャ20への上記した必要な給油量および給油圧が不足する場合がある。かような場合には、
図3に示すように、制御装置60は、エンジン回転数センサ15を介して取得したエンジン回転数に基づいて、開閉弁52を閉状態としてエンジン10とオイルキャッチタンク30とを連通するバランス流路51を遮断する制御を実行する。これによりスカベンジポンプ40の作用によってエンジン10(具体的にはクランクケース)とオイルキャッチタンク30との差圧が増大し、この差圧の増大に追従してオイル供給路14を介した潤滑油のターボチャージャ20への給油量及び給油圧も増加することになる。
【0034】
従って
図3に示すごとき開閉弁52の閉状態においては、例えばターボチャージャ20への給油量および給油圧が不足する回転数にエンジン10が到達した場合などは、上記したターボチャージャ20内の連結シャフト26や軸受27などに必要な潤滑油を適切に供給することが可能となる。
【0035】
このように本実施形態における制御装置60は、エンジン10の回転数に基づいて開閉弁52を介して圧力バランス回路50を閉塞させる機能を有して構成されている。なお、上記したターボチャージャ20への給油量および給油圧が不足するエンジン10の回転数(以下、「特定の回転数領域」とも称する)は、エンジン仕様やターボチャージャ20の構成によって変わり得るものの、予め実験やシミュレーションによって特定することができる。
【0036】
従って制御装置60は、エンジン10のエンジン回転数と、ターボチャージャ20への潤滑油の必要な給油量および給油圧と、の関係が予め規定された給油情報をメモリ等に保持しておくこともできる。そして制御装置60は、この保持したターボチャージャの給油情報に基づいて、ターボチャージャ20に必要な給油量および給油圧を下回るエンジン回転数となる場合に開閉弁52を介して圧力バランス回路50を閉塞させてもよい。
【0037】
また、本実施形態の制御装置60は、ターボチャージャ20に必要な給油量と給油圧の双方に基づいて開閉弁52を制御しているが、本開示はこの形態に限られない。すなわち、上記したターボチャージャに関する給油情報は必要な給油量と給油圧の少なくとも一方に対してエンジン10の回転数と関連付けて規定されていてもよい。
【0038】
換言すれば、制御装置60は、上記したエンジン10の回転数と、ターボチャージャ20が必要とする潤滑油の給油量と給油圧の少なくとも一方と、が予め規定された給油情報に基づいて、ターボチャージャ20に必要な給油量や給油圧を下回るようなエンジン10の回転数となる場合に開閉弁52を介して圧力バランス回路を閉塞させてもよい。
【0039】
また本実施形態の制御装置60は、上記したエンジンの給油量や給油圧とエンジン回転数とを対応させた給油情報を、開閉弁52を制御する弁制御情報として用いているが、本開示はこの形態に限られない。すなわち制御装置60は、例えば
図4に示すように、横軸を上記したエンジン10の回転数(rpm)としつつ、縦軸をエンジン10の油温(℃)とした弁制御情報を用いてもよい。より具体的に制御装置60は、図示されるとおり、エンジン10の回転数と油温が第一の範囲(
図4における右側領域)となる場合に開閉弁52を開状態とするとともに、第二の範囲(
図4における左側領域)となる場合に開閉弁52を閉状態とする制御を実行してもよい。
【0040】
このように開閉弁52の動作を制御するための制御パラメータとしては、それぞれ上記したエンジン10の回転数、ターボチャージャに必要な給油量又は給油圧、エンジン10の油温の他に、例えばエンジン10の油圧や排気圧、ターボチャージャ20の過給圧や回転数、VVTなど他の油圧駆動デバイスの作動状況などが例示できる。制御装置60は、これらの制御パラメータに基づいて予め規定された弁制御情報を用いて開閉弁52の開度を調整してもよい。
【0041】
また、本実施形態の制御装置60は、開閉弁52を開状態と閉状態に制御しているが、例えばターボチャージャ20へ必要な潤滑油の給油量などに基づいて開閉弁52を半開状態とするなど弁の開度を全開又は全閉以外の開度に調整してもよい。
【0042】
このように本実施形態の開閉弁52を有する圧力バランス回路50を備えた車両100によれば、開閉弁52によってターボが必要なエンジン運転領域に対してターボチャージャ20への潤滑油の供給油量を増加でき、ターボチャージャ20の連結シャフト26などの油没を抑制しつつオイルポンプを過度に増強せずターボチャージャ20に必要な適正量および適正圧の潤滑油を確保することが可能となる。
【0043】
<制御装置60による圧力バランス回路50の制御方法>
次に
図5も参照しつつ、本実施形態における開閉弁52を用いた圧力バランス回路50の制御方法について説明する。なお、当該制御方法は、上記した制御装置60が実行可能なプログラムのアルゴリズムとして用いられてもよい。かようなアルゴリズムを有するプログラムは、例えば公知のネットワークを介して本開示の車両へダウンロード可能に流通したり、記録媒体に格納された形で流通し得る。
以下では、例えばユーザが車両100に乗車してシステム電源を起動して走行を開始したことを想定して説明する。
【0044】
まずステップ1では、制御装置60は、ターボチャージャ20が駆動中か否かを判定する。ステップ1でターボチャージャ20が駆動中でない(ステップ1でNo)と判定された場合には、ステップ4へ移行する。
【0045】
ステップ1においてターボチャージャ20が駆動中である(ステップ1でYes)と判定された場合には、ステップ2へ移行する。そしてステップ2において、制御装置60は、エンジン10のエンジン回転数が所定の範囲内か否かを判定する。ここで「所定の範囲」の具体例としては、上述した特定の回転数領域(ターボチャージャ20への給油量および給油圧が不足するエンジン10の回転数)が例示できる。さらに、上記した「所定の範囲」の他の例としては、後述する特定の運転条件下(タービン翼裏側が負圧となる場合)に相当するエンジン回転数でない範囲が例示できる。
【0046】
そしてステップ2においてエンジン回転数が所定の範囲内に入る場合(ステップ2でYes)には、制御装置60は、続くステップ3Aにおいて、開閉弁52を開状態に設定して圧力バランス回路50のバランス流路51を開放する制御を実行する。これにより、エンジン10とオイルキャッチタンク30とが連通して圧力バランスが均衡し、エンジン10の停止時などに上記したターボチャージャ20の構成部品(連結シャフト26など)の油没を防止できる。
【0047】
他方でステップ2においてエンジン回転数が所定の範囲内に入らない場合(ステップ2でNo)には、制御装置60は、続くステップ3Bにおいて、開閉弁52を閉状態に設定して圧力バランス回路50のバランス流路51を閉塞する制御を実行する。これにより、スカベンジポンプ40の作用によってオイルキャッチタンク30を介したターボチャージャ20への潤滑油の供給を増強され、必要な供給量と供給圧が確保された潤滑油を適切なタイミングでターボチャージャ20へ供給可能となる。さらには、スカベンジポンプ40の作用によってターボチャージャ20からオイルキャッチタンク30への潤滑油の流出が促進されることで、ターボチャージャ20のタービンハウジング21内などへ潤滑油が意図せず入り込むことを抑制できる。
【0048】
次いで制御装置60は、ステップ4において、車両100のシステムがOFFとなったか否かを判定する。より具体的に制御装置60は、ステップ4において未だシステムが稼働中の場合(ステップ4でNo)には再びステップ1へ戻って処理を繰り返す一方で、システムが停止した場合(ステップ4でYes)には一連の処理を完了する。
【0049】
<変形例>
次に変形例に係る車両110について説明する。変形例の車両110では、上述した特定の運転条件下において制御装置60が当該開閉弁52の弁開度を調整することで、オイルキャッチタンク30内の圧力状態を可変させることが主とした特徴となっている。なお以下では、上記した実施形態と同じ機能や作用を奏する部材については同一の参照番号を付すとともに、その説明は適宜省略する。
【0050】
より具体的に、例えばエンジン10やターボチャージャ20の仕様に依っては特定の運転条件下でタービン翼裏側が負圧となる場合があり、このためオイル供給路14を介してベアリングハウジング25内に流入した潤滑油がタービンホイール22側へ流れ込んでしまうことがある。
【0051】
これに対して本変形例の制御装置60は、上記した特定の運転条件下において開閉弁52を介してオイルキャッチタンク30内の圧力を調整する。より具体的に変形例に係る制御装置60は、前記した潤滑油がターボチャージャ20のタービン側へ浸入するときに開閉弁52によって圧力バランス回路50を閉塞させる制御を実行する。
【0052】
これにより、上記した特定の運転条件下においてターボチャージャ20内の潤滑油をタービン側へ浸入させることを抑制し、ターボチャージャ20に流入した潤滑油をオイルキャッチタンク30側へ適正な方向へ流出させることが可能となっている。さらに潤滑油がターボチャージャ20のタービン側へ浸入することが抑制されることから、この浸入を防止するためのタービン用ガスケットなど追加の装備が不要となりコストアップを抑制できる。
【0053】
なお上記した特定の運転条件は、エンジン10やターボチャージャ20の仕様などによっても変わり得るものの、予め実験又はシミュレーションによって特定することができる。従って制御装置60は、この予め算出した特定の運転条件に関する情報を保持しておき、エンジン10やターボチャージャ20がこの特定の運転条件となった場合に開閉弁52によって圧力バランス回路50を閉塞させてもよい。
【0054】
このように変形例の制御装置60は、予め保持した特定の運転条件に関する情報に基づいて、圧力バランス回路50における開閉弁52の制御を行っている。しかしながら本開示は上記の例に限定されず、制御装置60は、ターボチャージャ20内の圧力値に基づいて圧力バランス回路50における開閉弁52の制御を行ってもよい。
【0055】
すなわち
図5に示すように、本変形例の車両110は、ターボチャージャ20内のタービンハウジング21内の圧力(タービン圧)を検出可能なタービン圧センサ28をさらに備えていてもよい。制御装置60は、上述のとおりこのタービン圧センサ28で検出されるタービン圧を適時に取得できる。その上で本変形例に係る制御装置60は、このタービン圧センサ28が検出したタービン圧の値に基づいて、開閉弁52を介して圧力バランス回路50を閉塞させてもよい。
【0056】
なお上記したタービン圧センサ28の形態としては、耐熱性を備えた公知の物理的な圧力センサをタービンハウジング21に設置してタービン圧を検出する他に、例えばタービンハウジング21の前後で取得される排気圧や温度などの他パラメータを検出して間接的に上記タービン圧を求めるものであってもよい。
【0057】
以上、添付図面を参照しながら本開示の好適な実施形態について詳細に説明したが、本開示はかかる例に限定されない。本開示の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、これら実施形態や変形例に対して更なる修正を試みることは明らかであり、これらについても当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0058】
10 エンジン
20 ターボチャージャ
30 オイルキャッチタンク
40 スカベンジポンプ
50 圧力バランス回路
51 バランス流路
52 開閉弁
60 制御装置
100、110 車両