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特開2024-102722金属空気電池用の正極電極及びこの正極電極を備える金属空気電池並びにこの正極電極の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024102722
(43)【公開日】2024-07-31
(54)【発明の名称】金属空気電池用の正極電極及びこの正極電極を備える金属空気電池並びにこの正極電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/86 20060101AFI20240724BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20240724BHJP
   H01M 12/08 20060101ALI20240724BHJP
   H01M 12/06 20060101ALI20240724BHJP
【FI】
H01M4/86 M
H01M4/88 K
H01M12/08 K
H01M12/06 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023006807
(22)【出願日】2023-01-19
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】荒木 翔
(72)【発明者】
【氏名】木薮 敏康
(72)【発明者】
【氏名】垣上 英正
(72)【発明者】
【氏名】野口 良典
(72)【発明者】
【氏名】江川 薫
【テーマコード(参考)】
5H018
5H032
【Fターム(参考)】
5H018AA10
5H018BB03
5H018BB08
5H018DD03
5H018DD06
5H018EE19
5H018HH03
5H032AA01
5H032AS01
5H032AS02
5H032AS03
5H032AS11
5H032BB02
5H032BB05
5H032CC11
5H032EE08
5H032EE15
5H032HH05
(57)【要約】
【課題】耐圧性及び自立性を高めた金属空気電池用の正極電極及びこの正極電極を備える金属空気電池並びにこの正極電極の製造方法を提供する。
【解決手段】陰イオン交換膜と、少なくとも酸素還元反応の活性を有する触媒を含む触媒層と、触媒層に対して陰イオン交換膜とは反対側に位置する多孔質層と、陰イオン交換膜、触媒層、又は多孔質層の少なくとも1つを支える多孔質性の少なくとも1つの支持体とが積層された金属空気電池用の正極電極において、触媒又は少なくとも1つの支持体の少なくとも一方が酸素発生反応の活性を有し、少なくとも1つの支持体は、陰イオン交換膜に対して触媒層とは反対側で陰イオン交換膜に隣接する第1位置と、陰イオン交換膜と触媒層との間の第2位置と、多孔質層に対して触媒層とは反対側で多孔質層に隣接する第3位置とのうちの少なくとも1つの位置に配置される。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
陰イオン交換膜と、
少なくとも酸素還元反応の活性を有する触媒を含む触媒層と、
前記触媒層に対して前記陰イオン交換膜とは反対側に位置する多孔質層と、
前記陰イオン交換膜、前記触媒層、又は前記多孔質層の少なくとも1つを支える多孔質性の少なくとも1つの支持体と
が積層された金属空気電池用の正極電極であって、
前記触媒又は前記少なくとも1つの支持体の少なくとも一方が酸素発生反応の活性を有し、
前記少なくとも1つの支持体は、
前記陰イオン交換膜に対して前記触媒層とは反対側で前記陰イオン交換膜に隣接する第1位置と、
前記陰イオン交換膜と前記触媒層との間の第2位置と、
前記多孔質層に対して前記触媒層とは反対側で前記多孔質層に隣接する第3位置と
のうちの少なくとも1つの位置に配置される、金属空気電池用の正極電極。
【請求項2】
前記少なくとも1つの支持体のうちの1つは前記第1位置に設けられ、
前記触媒は前記酸素発生反応の活性をさらに有する、請求項1に記載の金属空気電池用の正極電極。
【請求項3】
前記少なくとも1つの支持体のうちの1つは前記第1位置に設けられ、
前記第1位置に設けられた支持体は前記酸素発生反応の活性を有する、請求項1に記載の金属空気電池用の正極電極。
【請求項4】
前記少なくとも1つの支持体のうちの1つは前記第1位置に設けられ、
前記第1位置に設けられた支持体は前記酸素発生反応の活性を有し、前記触媒は前記酸素発生反応の活性をさらに有する、請求項1に記載の金属空気電池用の正極電極。
【請求項5】
前記少なくとも1つの支持体のうちの1つは前記第2位置に設けられ、
前記触媒は前記酸素発生反応の活性をさらに有する、請求項1に記載の金属空気電池用の正極電極。
【請求項6】
前記少なくとも1つの支持体のうちの1つは前記第2位置に設けられ、
前記第2位置に設けられた支持体は前記酸素発生反応の活性を有する、請求項1に記載の金属空気電池用の正極電極。
【請求項7】
前記少なくとも1つの支持体のうちの1つは前記第2位置に設けられ、
前記第2位置に設けられた支持体は前記酸素発生反応の活性を有し、前記触媒は前記酸素発生反応の活性をさらに有する、請求項1に記載の金属空気電池用の正極電極。
【請求項8】
前記少なくとも1つの支持体の1つは前記第3位置に設けられ、
前記触媒は前記酸素発生反応の活性をさらに有する、請求項1に記載の金属空気電池用の正極電極。
【請求項9】
前記第3位置に設けられた支持体は導電性材料を含み、前記第3位置に設けられた前記支持体は前記多孔質層を兼ねる、請求項8に記載の金属空気電池用の正極電極。
【請求項10】
前記少なくとも1つの支持体は、前記陰イオン交換膜よりも、厚さ方向又は厚さ方向に対して垂直な方向に力を加えられたときの変形量が小さい、請求項1~9のいずれか一項に記載の金属空気電池用の正極電極。
【請求項11】
前記少なくとも1つの支持体は、前記陰イオン交換膜、前記触媒層、及び前記多孔質層のいずれよりも、厚さ方向又は厚さ方向に対して垂直な方向に力を加えられたときの変形量が小さい、請求項1~9のいずれか一項に記載の金属空気電池用の正極電極。
【請求項12】
請求項1~9のいずれか一項に記載の金属空気電池用の正極電極と、
金属を含む負極電極と
を備える金属空気電池。
【請求項13】
請求項2~4のいずれか一項に記載の金属空気電池用の正極電極の製造方法であって、
前記多孔質層に前記触媒層をコートして触媒層コート基板を作製するステップと、
前記支持体に前記陰イオン交換膜を積層するステップと、
前記支持体に積層された前記イオン交換膜に前記触媒層コート基板を積層し、プレスによって一体化するステップと
を含む製造方法。
【請求項14】
請求項2~4のいずれか一項に記載の金属空気電池用の正極電極の製造方法であって、
前記支持体に前記陰イオン交換膜を積層するステップと、
前記支持体に積層された前記陰イオン交換膜に前記触媒層を塗工して触媒層コート膜を作製するステップと、
前記触媒層コート膜に前記多孔質層を積層し、プレスによって一体化するステップと
を含む製造方法。
【請求項15】
請求項5~7のいずれか一項に記載の金属空気電池用の正極電極の製造方法であって、
前記支持体に前記陰イオン交換膜を積層するステップと、
前記多孔質層に前記触媒層をコートして触媒層コート基板を作製するステップと、
前記陰イオン交換膜が積層された前記支持体に前記触媒層コート基板を積層し、プレスによって一体化するステップと
を含む製造方法。
【請求項16】
請求項8に記載の金属空気電池用の正極電極の製造方法であって、
前記支持体に前記多孔質層を積層するステップと、
前記支持体に積層された前記多孔質層に前記触媒層をコートして触媒層コート基板を作製するステップと、
前記触媒層コート基板に前記陰イオン交換膜を積層し、プレスによって一体化するステップと
を含む製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、金属空気電池用の正極電極及びこの正極電極を備える金属空気電池並びにこの正極電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1に記載されるように、金属を負極活物質として使用するとともに酸素(空気)を正極活物質として使用する金属空気電池が公知である。このような金属空気電池は、陰イオン交換膜を介して隔てられた正極電極及び負極電極を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-77469号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
金属空気電池において陰イオン交換膜は、液相と気相との圧力差が変動した場合に破れてしまい、電解液の漏れが生じるおそれがある。陰イオン交換膜が破損するおそれを低下するためには陰イオン交換膜の膜厚を大きくすることが好ましいが、電極の低抵抗化のためには陰イオン交換膜の膜厚は小さい方が望ましい。陰イオン交換膜の膜厚を小さくすると、破損のおそれが高まることの他に、正極電極の自立性が低下し、さらに、陰イオン交換膜が電解液と接触することにより、陰イオン交換膜の膨張や収縮、歪曲等が生じることで、金属空気電池のセル内外の流速分布等の制御が不十分となって電池性能が低下してしまうといった課題があった。
【0005】
上述の事情に鑑みて、本開示の少なくとも1つの実施形態は、耐圧性及び自立性を高めた金属空気電池用の正極電極及びこの正極電極を備える金属空気電池並びにこの正極電極の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本開示に係る金属空気電池用の正極電極は、陰イオン交換膜と、少なくとも酸素還元反応の活性を有する触媒を含む触媒層と、前記触媒層に対して前記陰イオン交換膜とは反対側に位置する多孔質層と、前記陰イオン交換膜、前記触媒層、又は前記多孔質層の少なくとも1つを支える少なくとも1つの支持体とが積層された金属空気電池用の正極電極であって、前記触媒又は前記少なくとも1つの支持体の少なくとも一方が酸素発生反応の活性を有し、前記少なくとも1つの支持体は、前記陰イオン交換膜に対して前記触媒層とは反対側で前記陰イオン交換膜に隣接する第1位置と、前記陰イオン交換膜と前記触媒層との間の第2位置と、前記多孔質層に対して前記触媒層とは反対側で前記多孔質層に隣接する第3位置とのうちの少なくとも1つの位置に配置される。
【発明の効果】
【0007】
本開示の金属空気電池用の正極電極によれば、支持体が陰イオン交換膜、触媒層、又は多孔質層の少なくとも1つを支えることにより、耐圧性及び自立性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本開示の一実施形態に係る金属空気電池の構成を示す断面図である。
図2】本開示の一実施形態に係る金属空気電池の構成を示す断面図である。
図3】本開示の一実施形態に係る金属空気電池の構成を示す断面図である。
図4】本開示の一実施形態に係る金属空気電池の構成を示す断面図である。
図5】本開示の一実施形態に係る金属空気電池の構成を示す断面図である。
図6】本開示の一実施形態に係る金属空気電池用の正極電極の構成を示す断面図である。
図7】本開示のいくつかの実施形態に係る金属空気電池用の正極電極の耐圧性についての検証を行うための実験装置の構成模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施形態による金属空気電池用の正極電極について、図面に基づいて説明する。以下で説明する実施形態は、本開示の一態様を示すものであり、この開示を限定するものではなく、本開示の技術的思想の範囲内で任意に変更可能である。
【0010】
<本開示のいくつかの実施形態に係る金属空気電池の構成>
図1に示されるように、本開示の一実施形態に係る金属空気電池1は、負極電極2と正極電極3とを備え、負極電極2及び正極電極3間にチャンバ4が画定されている。チャンバ4には、電解液をチャンバ4に供給するための電解液供給ライン5と、チャンバ4から電解液が流出するための電解液流出ライン6とが接続されている。
【0011】
電解液供給ライン5及び電解液流出ライン6の両方に接続されるように、電解液を貯留する貯留タンク7が設けられている。電解液供給ライン5にはポンプ8が設けられている。負極電極2及び正極電極3はそれぞれ交流直流変換器9に電気的に接続されている。交流直流変換器9は、負荷10及び交流電源11のそれぞれに電気的に接続することができる。尚、交流電源11の代わりに直流電源を使用するとともに負荷10が直流電流で稼働するものである場合には、交流直流変換器9は必要ない。
【0012】
負極電極2は、金属、例えば亜鉛で製造された電極であってもよいし、ステンレスやアルミニウム等の他の金属又は炭素系材料で製造された本体の表面に亜鉛をメッキした電極であってもよい。後者の場合、負極電極2の表面のうち、少なくとも正極電極3に対向する外表面に亜鉛がメッキされていればよい。尚、負極電極2に含まれる金属として亜鉛に限定するものではない。電解液の種類(例えば、水系電解液/非水系電解液の違い)に応じて、鉄、アルミニウム、リチウム、ナトリウム、カリウム、銅、マグネシウム等又はこれらの合金を使用することができる。正極電極3の構成については後述する。
【0013】
電解液としては、水に電解質を溶解させた水系電解液、又は、有機溶媒等の非水溶液に電解質を溶解させた非水電解質のいずれも使用可能である。水系電解液としては例えば、カリウム、ナトリウム、リチウム、バリウム、マグネシウム等の水酸化物、塩化物、リン酸塩、ホウ酸塩、硫酸塩等を電解質とした水溶液を使用することができる。すなわち、水溶液の電気伝導率を付与するための指示塩であれば、電解質として使用することができる。非水電解液としては例えば、環状又は鎖状カーボネート、環状又は鎖状エステル、環状又は鎖状エーテル、スルホン化合物、イオン液体等の液体に、アルカリ金属等からなる指示塩を溶解させたものを使用することができる。
【0014】
詳細な構成は後述するが、正極電極3は、金属空気電池1の放電時に使用される放電用正極と、金属空気電池1の充電時に使用される充電用正極とを含む構成をとることができる。この場合には、図2に示されるように、放電用正極3a及び負極電極2間を電気的に開閉する第1スイッチ12aと、負極電極2及び充電用正極3b間を電気的に開閉する第2スイッチ12bとを有する切替装置12が設けられ、三電極方式の金属空気電池1が構成される。
【0015】
図3~5に、いくつかの実施形態に係る金属空気電池1を電解液の流通方向に対して垂直な面で切断した断面図を示す。金属空気電池1は、図3に示されるように、平板状の負極電極2及び正極電極3が互いに面するように設けられた構成であってもよいし、図4に示されるように、棒状の負極電極2を囲むように筒形状の正極電極3が設けられた構成であってもよいし、図5に示されるように、筒形状の正極電極3を囲むように筒形状の負極電極2が設けられた構成であってもよい。ただし、「筒形状」は、図3~5に示されるような円筒形状に限定するものではなく、チャンバ4内を電解液が流れる方向に対して垂直な面で金属空気電池1を切断した断面が多角形となる形状等であってもよい。
【0016】
<本開示のいくつかの実施形態に係る金属空気電池用の正極電極の構成>
図6に示されるように、正極電極3は、支持体と、陰イオン交換膜と、触媒層と、多孔質層とのいずれかである層A、B、C、Dが積層された構成を有している。これらの配置として、下記表1で示される3パターンが採用可能である。これらの3パターンはいずれも、支持体が陰イオン交換膜、触媒層、又は多孔質層の少なくとも1つに接するように貼り合わされて、これらの少なくとも1つを支える構成である。尚、図6から分かるように、いずれのパターンの正極電極3においても、金属空気電池1に使用される際に、層Aが負極電極2に対向し、チャンバ4を流通する電解液に接触することになり、層Dが空気に接触することになる。
【0017】
【表1】
【0018】
正極電極3は、上述の3つのパターン、すなわち、支持体が、陰イオン交換膜に対して触媒層とは反対側で陰イオン交換膜に隣接する第1位置(パターン1)と、陰イオン交換膜と触媒層との間の第2位置(パターン2)と、多孔質層に対して触媒層とは反対側で多孔質層に隣接する第3位置(パターン3)とのうちのいずかの位置に配置される構成に限定するものではない。2つの支持体が第1位置から第3の位置のいずれか2つの位置に1つずつ配置される5層の構成でもよいし、3つの支持体が第1位置から第3の位置のそれぞれに1つずつ配置される6層の構成でもよい。
【0019】
支持体は、耐圧性及び自立性を有する材料、例えば、金属、無機材料、樹脂材料等によって多孔質体として形成されたものである。ここで、耐圧性とは、支持体の厚さ方向に力を加えられたときの変形のしにくさを表す指標であり、自立性とは、支持体の厚さ方向に対して垂直な方向に力を加えられたときの変形のしにくさを表す指標である。耐圧性及び自立性のそれぞれが高いとは、上述の力が支持体に加えられたときに変形量が小さいことを意味する。支持体は、支持体を構成する材料を適切に選ぶことにより、酸素発生反応(OER)の活性を有することができる。そのような材料として、SUSやFe-Ni-O等を使用することができる。支持体は、陰イオン交換膜、触媒層、又は多孔質層の少なくとも1つを支えるものであるため、支持体は、陰イオン交換膜よりも耐圧性及び自立性が高いこと、すなわち、支持体は、上述の力が加えられたときの変形量がこれらよりも小さいことが好ましく、支持体はこれらのいずれよりも耐圧性及び自立性が高いことがさらに好ましい。しかしながら、これらのうちのいずれかよりも自立性の低い支持体を設けたとしても、支持体が無い場合に比べて正極電極3の耐圧性及び自立性を高めることができるので、支持体が陰イオン交換膜よりも、又は、これらのいずれよりも耐圧性及び自立性が高いことは必須の条件ではなく、あくまでも好ましい条件である。
【0020】
陰イオン交換膜は、絶縁性を有し、陰イオンのみを透過する性質を有する膜である。多孔質層は、導電性を有し、空気透過性及び電子パスを有する。例えば、多孔質層は、カーボン繊維や金属繊維等の不織布で構成することができ、空気のみを選択的に透過できるように撥水材を不織布にコーティングしてもよい。
【0021】
触媒層は、触媒粒子と、導電助剤、イオン伝導助剤、結着材、撥水材等との複合材から構成された合材層であり、陰イオン交換膜にコートしたもの(触媒層コート膜(CCM))であってもよいし、多孔質層にコートしたもの(触媒層コート基板(CCS)であってもよいし、CCM及びCCSの両方を含むものであってもよい。触媒層に含まれる触媒は、酸素還元反応(ORR)の活性を有する触媒、又は、酸素還元反応の活性及び酸素発生反応の活性の両方を有する触媒であり、金属空気電池の正極電極用の触媒として従来から知られている金属、金属合金、金属酸化物、金属錯体等の各種の触媒を使用することができる。
【0022】
触媒の金属種としては、白金、パラジウム、イリジウム、ロジウム、ルテニウム、金、銀、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛等を例示することができる。これらの金属の中から選ばれた単一の金属触媒や金属酸化物、金属錯体、あるいは二種以上の金属の任意の組合せからなる合金や金属酸化物、金属錯体の複合体等を使用することができる。
【0023】
ABOという組成式で表されるペロブスカイト型遷移金属酸化物、Aという組成式で表されるパイロクロア型酸化物、ABという組成式で表されるスピネル型酸化物などの公知の酸化物を正極電極用の触媒として使用することもできる。特に、これらの酸化物からなる触媒は、酸素還元反応と酸素発生反応の両方に対して優れた活性を有するものであり、可逆性のある正極電極用の触媒として特に有効に使用できる。
【0024】
これらの酸化物からなる触媒のうち、ペロブスカイト型酸化物としては、LaCoOで表される酸化物や、この酸化物のLaの一部をCa、Sr、Ba等で置換した部分置換体や、Coの一部をMn、Ni、Cu、Fe、Ir等で置換した部分置換体等を用いることができる。また、パイロクロア型酸化物としては、PbRu6.5やBiRu等の組成式で表される酸化物や、この酸化物のRuの一部をIr、Pb等で置換した部分置換体等を用いることができる。また、スピネル型酸化物としては、LiMnの組成式で表される酸化物や、この酸化物のMnの一部をCo、Fe等で置換した部分置換体等を用いることができる。更に、Coという組成式で表される酸化物や、この酸化物のCoの一部をNi、Cu、Mn等で置換した部分置換体等も用いることができる。
【0025】
また、上記から選ばれる金属触媒と別の金属酸化物との複合触媒、触媒微粒子とカーボンなどの導電材との混合物、触媒微粒子をカーボンや金属酸化物などの担体上に分散させた担持触媒等として使用することも可能である。例えば、2価の金属水酸化物に3価の金属イオンが固溶した複水酸化物である層状複水酸化物(例えば、N-Fe層状複水酸化物)、金属がドープされた金属酸化物(例えば、NiがドープされたFe(OH))、ホスフィン又は金属がドープされたホスフィン(NiP)、有機金属錯体、炭素繊維、いずれかの触媒について炭素被覆したもの(例えば、炭素被覆したFeN)、窒素炭化物等を活性成分とする触媒、構造の一部に欠陥を有するカーボン触媒を挙げることができる。
【0026】
パターン1~3のそれぞれの正極電極3に対して、支持体を構成する材質及び触媒層の触媒の構成を適切に選択することにより、支持体及び触媒層のそれぞれに酸素還元反応の活性及び酸素発生反応の活性のそれぞれを振り分けることができる。その振り分けのパターンを下記表2に示す。尚、表2において「OER」が付されたものが酸素発生反応の活性を有することを意味し、「ORR」が付されたものが酸素還元反応の活性を有することを意味し、「OER+ORR」が付されたものが酸素発生反応の活性及び酸素還元反応の活性の両方を有することを意味する。
【0027】
【表2】
【0028】
正極電極3が表2の電極番号(7)の構成を採用する場合、支持体が導電性材料から形成されるか、又は、少なくとも導電性材料を含むことにより、支持体が多孔質層を兼ねることができる。すなわち、表1では、層Cが多孔質層かつ層Dが支持体となっているが、層C及び層Dを1つの部材、すなわち支持体のみで構成することができる。これにより、正極電極3が3層構造になるので、正極電極の製造工程を簡略化することができる。尚、正極電極3が表2の電極番号(7)の構成を採用する場合、上述の通り、支持体は導電性材料を含んでも含まなくてもよいが、正極電極3が表2の電極番号(1)及び(4)の構成を採用する場合も同様である。正極電極3が表2の電極番号(2)、(3)、(5)及び(6)の構成を採用する場合は、支持体は導電性材料を含むことが必須である。導電性材料から形成された支持体としては、鉄やニッケル、ステンレス等からなるメッシュ等の多孔質性基材を例示することができる。また、少なくとも導電性材料を含む支持体としては、プラスチックや炭素繊維強化プラスチック(CFRP)に対してニッケルやクロム等の金属を無電解メッキしたものを例示することができる。
【0029】
<本開示のいくつかの実施形態に係る金属空気電池用の正極電極の製造方法>
正極電極3が表2の電極番号(1)~(3)の構成を採用し、触媒層がCCSの場合、多孔質層に触媒層をコートしてCCSを作製するステップと、支持体に陰イオン交換膜を積層するステップと、支持体に積層されたイオン交換膜にCCSを積層し、プレスによって一体化するステップとにより正極電極3が製造される。支持体に積層された陰イオン交換膜とCCSとを一体化するため、プレス工程の安定性を向上することができる。触媒層がCCMの場合、支持体に陰イオン交換膜を積層するステップと、支持体に積層された陰イオン交換膜に触媒層を塗工してCCMを作製するステップと、CCMに多孔質層を積層し、プレスによって一体化するステップとにより正極電極3が製造される。支持体に積層された陰イオン交換膜に触媒層を塗工するので、塗工安定性を向上することができる。CCMとCCSとを両方作成した上で、それぞれの触媒層同士を貼り合わせて正極電極3を製造することもできる。
【0030】
正極電極3が表2の電極番号(4)~(6)の構成を採用する場合、支持体に陰イオン交換膜を積層するステップと、多孔質層に触媒層をコートしてCCSを作製するステップと、陰イオン交換膜が積層された支持体にCCSを積層し、プレスによって一体化するステップとにより正極電極3が製造される。支持体に積層された陰イオン交換膜とCCSとを一体化するため、プレス工程の安定性を向上することができる。
【0031】
正極電極3が表2の電極番号(7)の構成を採用し、支持体に多孔質層を積層するステップと、支持体に積層された多孔質層に触媒層をコートしてCCSを作製するステップと、CCSに陰イオン交換膜を積層し、プレスによって一体化するステップとにより正極電極3が製造される。支持体に積層された陰イオン交換膜とCCSとを一体化するため、プレス工程の安定性を向上することができる。
【0032】
電極番号(1)~(7)の正極電極3の製造方法において、CCSを作製する際に触媒層をコートする方法としては、スプレー法、各種プリント法(スクリーン印刷、転写法等)、バンクコーティング、ダイコーティング法、グラビアコート法(マイクログラビア含む)、電着塗装法等を例示することができる。
【0033】
陰イオン交換膜のイオン交換基をOHやHなどに変換して活性化させるために、上述の製造方法の前又は後に、アルカリ溶液や酸性溶液に陰イオン交換膜又は陰イオン交換膜が組み込まれた正極電極3を浸漬する活性化前処理を施してもよい。
【0034】
<本開示のいくつかの実施形態に係る金属空気電池の動作>
次に、金属空気電池1の動作について説明する。図1に示される構成の金属空気電池1、すなわち二電極方式の金属空気電池1では、ポンプ8を起動すると、貯留タンク7に貯留された電解液は、電解液供給ライン5を介してチャンバ4に流入する。電解液は、チャンバ4を流通してチャンバ4から流出した後、電解液流出ライン6を介して貯留タンク7に戻されることで、貯留タンク7とチャンバ4との間を循環する。
【0035】
金属空気電池1において負極では、下記反応式のように、負極電極2に含まれる金属Mと電解液中の水酸化物イオンとが反応して金属の水酸化物が生成するとともに電子が負極電極2へ放出される。
負極:M+2OH→M(OH)+2e
一方、正極では下記酸素還元反応が生じ、酸素及び水が正極電極3から電子を受け取ることにより水酸化物イオンとなる。
正極:O+2HO+4e→4OH
全体として、下記の反応が生じることにより、負極電極2及び正極電極3間に電位差が生じ、交流直流変換器9において交流電流に変換されて、負荷10へ電流が流れる。
全体:2M+O+2HO→2M(OH)
【0036】
金属空気電池1を充電する際は、電解液が貯留タンク7とチャンバ4との間を循環する状態で、交流電源11から交流直流変換器9に交流電流を供給する。交流電源11からの交流電流が交流直流変換器9で直流電流に変換され、正極電極3へ直流電流が流れる。すなわち、電子が負極電極2へ流れる。金属空気電池1において負極では、下記反応式のように、金属が析出して負極電極2の表面に析出する。
負極:M(OH)+2e→M+2OH
一方、正極では下記酸素発生反応が生じ、水酸化物イオンから電子が正極電極3へ放出される。
正極:4OH→O+2HO+4e
全体として、下記の反応が生じることにより、金属空気電池1が充電される。
全体:2M(OH)→2M+O+2H
【0037】
図2に示される構成の金属空気電池1、すなわち三電極方式の金属空気電池1から放電を行う場合は、スイッチ12aを閉じるとともにスイッチ12bを開けることにより、負極電極2と放電用正極3aとを電気的に接続させる。この状態で、二電極方式の金属空気電池1の上述した放電動作と同じ動作を行うことで、放電が行われる。一方、三電極方式の金属空気電池1の充電を行う場合は、スイッチ12aを開くとともにスイッチ12bを閉じることにより、負極電極2と充電用正極3bとを電気的に接続させる。この状態で、二電極方式の金属空気電池1の上述した充電動作と同じ動作を行うことで、充電が行われる。
【0038】
表2の電極番号(1)~(7)のそれぞれの構成を有する正極電極3が、二電極方式の金属空気電池1及び三電極方式の金属空気電池1のいずれに使用可能であるかを下記表3にまとめる。
【0039】
【表3】
【0040】
電極番号(2)の構成を有する正極電極3は、酸素発生反応の活性を有する支持体と酸素還元反応の活性を有する触媒とが隔てられているので、三電極方式の金属空気電池用の正極電極として使用することができるが、二電極方式の金属空気電池用の正極電極として使用することはできない。しかし、電極番号(3)の構成を有する正極電極3は、酸素発生反応の活性を有する支持体と酸素還元反応の活性を有する触媒とが隔てられていることに加えて、触媒が酸素発生反応の活性及び酸素還元反応の活性の両方を有しているので、二電極方式及び三電極方式の両方が可能な金属空気電池用の正極電極として使用することができる。電極番号(2)及び(3)のいずれの構成を有する正極電極3においても、支持体が充電用正極を構成し、触媒層が放電用正極を構成する。
【0041】
表2の電極番号(1)~(7)のそれぞれの構成を有する正極電極3のいずれにおいても、支持体が陰イオン交換膜、触媒層、又は多孔質層の少なくとも1つを支えることにより、正極電極3の耐圧性及び自立性を高めることができる。また、イオン交換膜、触媒層、又は多孔質層の少なくとも1つが支持体によって押さえつけられることになるので、層間の接触抵抗が低減し、正極電極3の電極性能を向上することができる。
【0042】
上述の通り正極電極3の耐圧性及び自立性が高まることにより、チャンバ4内を流れる電解液と、正極電極3に対してチャンバ4とは反対側の空気、例えば金属空気電池1の外部の空気との圧力差が変動した場合でも、正極電極3の破損のおそれ、すなわち金属空気電池1から電解液の漏れのおそれを低減することができる。
【0043】
また、電解液と空気との圧力差に起因する正極電極3の変形も抑制されるので、チャンバ4内の電解液の流速分布を適切に制御できる。金属空気電池1の充電時には、負極電極2の表面に金属が析出するが、チャンバ4内における電解液の流速分布次第で、負極電極2の表面への金属の析出が不均一となり、デンドライトが成長するおそれもあるが、チャンバ4内の電解液の流速分布を適切に制御できるので、負極電極2の表面への金属の析出が可能な限り均一化され、デンドライトの成長のおそれを低減できる。すなわち、デンドライトによる正極電極3の破損のおそれを低減することができる。仮にデンドライトが成長して正極電極3に圧力を加えたとしても、正極電極3の耐圧性が高いことから、正極電極3が破損を免れる可能性を高めることもできる。
【0044】
さらに、陰イオン交換膜の膜厚を大きくせずに正極電極3の耐圧性及び自立性を高めることができるので、正極電極3の低抵抗化に悪影響を及ぼさないようにすることができる。
【0045】
電極番号(6)の構成を有する正極電極3では、触媒の他に、第2位置に設けられた支持体も酸素発生反応の活性を有する。このため支持体が有する酸素発生反応の活性が、触媒が有する酸素発生反応の活性をアシストすることができる。
【0046】
金属空気電池1では、酸素発生反応によって生成した水やイオン交換膜を介した随伴水が正極電極3内に滞留することで、正極電極3内の空気の拡散性が損なわれる可能性がある。このようなときには、金属空気電池1の外部から正極電極3に対して任意のガス(例えば空気等)を噴き付けることで、正極電極3内に滞留した水をチャンバ4へ排出することができる。正極電極3の耐圧性及び自立性が低いと、ガスの噴き付けによる正極電極3の変形又は破損を防止するために、ガスの噴き付け流速を抑制せざるを得ず、正極電極3からチャンバ4への水の排出効果が十分に得られない場合がある。これに対し、上述の通り正極電極3の耐圧性及び自立性が高まることにより、ガスの噴き付け流速を高めることができるので、正極電極3からチャンバ4への水の排出効果を高めることができる。
【0047】
上述した第1位置から第3位置の異なる位置に2つ又は3つの支持体を設けることができるが、支持体の構成が全て同じであることを条件に、2つ又は3つの支持体を設けた正極電極は、1つの支持体を設けた正極電極に比べて耐圧性及び自立性が高くなる。特に、第1位置及び第3位置に支持体を設けることにより、厚さ方向の両側から支持体が陰イオン交換膜を挟む状態となることで、電解液と空気との差圧が変動しても正極電極が十分な耐圧を有することができる。
【実施例0048】
次に、本開示のいくつかの実施形態に係る金属空気電池用の正極電極の耐圧性についての検証を説明する。本開示の正極電極に相当する実施例1~4の構成と、本開示の正極電極に相当しない比較例1の構成とを下記表4に示す。尚、表4において、支持体を「SB」と表記し、陰イオン交換膜を「AEM」と表記し、触媒層を「CL」と表記し、多孔質層を「GDL」と表記する。
【0049】
実施例1の正極電極は、触媒層がCCSである電極番号(1)~(3)の構成の正極電極を製造する方法で調製した。支持体は、厚さ1mmのSUSメッシュであり、陰イオン交換膜は、Dioxide Materials社から市販されている厚さ10~100μmの膜であり、多孔質層は、SGL社から市販されている厚さ100~500μmのカーボンペーパであり、触媒層は、多孔質層にスプレー塗工したものである。
【0050】
実施例2の正極電極は、多孔質層に隣接する支持体がPTFEメッシュであることを除き、実施例1の各層と同じである。実施例3の正極電極は、電極番号(4)~(6)の構成の正極電極を製造する方法で調製した。実施例3の各層は、実施例1の各層と同じである。実施例4の正極電極は、電極番号(7)の構成の正極電極を製造する方法で調製した。支持体は、厚さ1mmのPTFEメッシュであり、触媒層は、多孔質層にスプレー塗工したものである。また、実施例2~4では、陰イオン交換膜および多孔質層が実施例1と同じ厚さ条件のもので耐圧性を比較した。
【0051】
図7に、上述の検証のための実験装置20の構成を示す。実験装置20は、試験対象の正極電極21を設置するカートリッジ22と、ガスコンプレッサ23と、純水及び空気が収容された圧力容器24とを備えている。カートリッジ22は、2つの固定部材22a及び22bによって円形の正極電極21の周縁部21aを挟むようにして正極電極21を内部に固定することができる。カートリッジ22内には、正極電極21のうち固定部材22a及び22bに挟まれていない部分の両側に空間25,26が形成されている。一方の空間25は、一方の固定部材22aに形成された孔27を介して、カートリッジ22の外部に連通している。すなわち、孔27を介して空間25の内部を見ることができるようになっている。他方の固定部材22bにも、他方の空間26とカートリッジ22の外部とを連通する孔28が形成されている。孔28には、一端が圧力容器24内の純水中に位置する配管29の他端が接続されている。一端がコンプレッサ23の吐出口に接続された配管30の他端は、圧力容器25内の純水の水面よりも上方に位置している。
【0052】
正極電極21として、実施例1~4及び比較例1の構成(直径45mm)の電極を調製し、1Mの水酸化カリウム水溶液に12時間浸して置換処理を行った。置換処理済の電極を、実験装置20のカートリッジ22内に設置し、ガスコンプレッサ23を起動することにより、配管29及び孔28を介して圧力容器24内の純水を空間26内に供給し、正極電極21に圧力を徐々に付加した。圧力が10kPa~200kPaの範囲の任意の設定値に到達して安定したら、その状態を5分間保持した。圧力を保持した状態で、孔27を介して空間25内を目視で観察し、漏水の有無を確認した。また、試験前後の正極電極21の厚みまたは面積の寸法変化を計測することで、変形しにくさを評価した。表4に、実施例1~4及び比較例1のそれぞれの耐圧性の評価結果を、「悪い」を意味する「×」と、「良好」を意味する「〇」と、「優れている」を意味する「◎」とのいずれかで示した。
【0053】
【表4】
【0054】
1つの支持体を備える正極電極(実施例1及び3)は、支持体を備えない正極電極(比較例1)よりも耐圧性に優れ、2つの支持体を備える正極電極(実施例2)は、1つの支持体を備える正極電極よりも耐圧性に優れていることが分かった。
【0055】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0056】
[1]一の態様に係る金属空気電池用の正極電極は、
陰イオン交換膜と、
少なくとも酸素還元反応の活性を有する触媒を含む触媒層と、
前記触媒層に対して前記陰イオン交換膜とは反対側に位置する多孔質層と、
前記陰イオン交換膜、前記触媒層、又は前記多孔質層の少なくとも1つを支える少なくとも1つの支持体と
が積層された金属空気電池用の正極電極(3)であって、
前記触媒又は前記少なくとも1つの支持体の少なくとも一方が酸素発生反応の活性を有し、
前記少なくとも1つの支持体は、
前記陰イオン交換膜に対して前記触媒層とは反対側で前記陰イオン交換膜に隣接する第1位置と、
前記陰イオン交換膜と前記触媒層との間の第2位置と、
前記多孔質層に対して前記触媒層とは反対側で前記多孔質層に隣接する第3位置と
のうちの少なくとも1つの位置に配置される。
【0057】
本開示の金属空気電池用の正極電極によれば、支持体が陰イオン交換膜、触媒層、又は多孔質層の少なくとも1つを支えることにより、耐圧性及び自立性を高めることができる。
【0058】
[2]別の態様に係る金属空気電池用の正極電極は、[1]の金属空気電池用の正極電極であって、
前記少なくとも1つの支持体のうちの1つは前記第1位置に設けられ、
前記触媒は前記酸素発生反応の活性をさらに有する。
【0059】
このような構成によれば、支持体が陰イオン交換膜、触媒層、又は多孔質層の少なくとも1つを支えることにより、耐圧性及び自立性を高めることができる。
【0060】
[3]さらに別の態様に係る金属空気電池用の正極電極は、[1]の金属空気電池用の正極電極であって、
前記少なくとも1つの支持体のうちの1つは前記第1位置に設けられ、
前記第1位置に設けられた支持体は前記酸素発生反応の活性を有する。
【0061】
このような構成によれば、陰イオン交換膜により、酸素発生反応の活性を有する支持体と、酸素還元反応の活性を有する触媒とが隔てられているので、三電極方式の金属空気電池用の正極電極として使用することができる。
【0062】
[4]さらに別の態様に係る金属空気電池用の正極電極は、[1]の金属空気電池用の正極電極であって、
前記少なくとも1つの支持体のうちの1つは前記第1位置に設けられ、
前記第1位置に設けられた支持体は前記酸素発生反応の活性を有し、前記触媒は前記酸素発生反応の活性をさらに有する。
【0063】
このような構成によれば、陰イオン交換膜により、酸素発生反応の活性を有する支持体と、酸素還元反応の活性を有する触媒とが隔てられており、触媒が酸素発生反応の活性及び酸素還元反応の活性の両方を有しているので、二電極方式及び三電極方式の両方が可能な金属空気電池用の正極電極として使用することができる。
【0064】
[5]さらに別の態様に係る金属空気電池用の正極電極は、[1]の金属空気電池用の正極電極であって、
前記少なくとも1つの支持体のうちの1つは前記第2位置に設けられ、
前記触媒は前記酸素発生反応の活性をさらに有する。
【0065】
このような構成によれば、支持体が陰イオン交換膜、触媒層、又は多孔質層の少なくとも1つを支えることにより、耐圧性及び自立性を高めることができる。
【0066】
[6]さらに別の態様に係る金属空気電池用の正極電極は、[1]の金属空気電池用の正極電極であって、
前記少なくとも1つの支持体のうちの1つは前記第2位置に設けられ、
前記第2位置に設けられた支持体は前記酸素発生反応の活性を有する。
【0067】
このような構成によれば、支持体が陰イオン交換膜、触媒層、又は多孔質層の少なくとも1つを支えることにより、耐圧性及び自立性を高めることができる。
【0068】
[7]さらに別の態様に係る金属空気電池用の正極電極は、[1]の金属空気電池用の正極電極であって、
前記少なくとも1つの支持体のうちの1つは前記第2位置に設けられ、
前記第2位置に設けられた支持体は前記酸素発生反応の活性を有し、前記触媒は前記酸素発生反応の活性をさらに有する。
【0069】
このような構成によれば、第2位置に設けられた支持体が酸素発生反応の活性を有するので、触媒が有する酸素発生反応の活性をアシストすることができる。
【0070】
[8]さらに別の態様に係る金属空気電池用の正極電極は、[1]の金属空気電池用の正極電極であって、
前記少なくとも1つの支持体の1つは前記第3位置に設けられ、
前記触媒は前記酸素発生反応の活性をさらに有する。
【0071】
このような構成によれば、支持体が陰イオン交換膜、触媒層、又は多孔質層の少なくとも1つを支えることにより、耐圧性及び自立性を高めることができる。
【0072】
[9]さらに別の態様に係る金属空気電池用の正極電極は、[8]の金属空気電池用の正極電極であって、
前記第3位置に設けられた支持体は導電性材料を含み、前記第3位置に設けられた前記支持体は前記多孔質層を兼ねる。
【0073】
このような構成によれば、支持体が多孔質層としての機能を有することにより支持体と多孔質層とを1つの部材にできるので、正極電極の製造工程を簡略化することができる。
【0074】
[10]さらに別の態様に係る金属空気電池用の正極電極は、[1]~[9]のいずれかの金属空気電池用の正極電極であって、
前記少なくとも1つの支持体は、前記陰イオン交換膜よりも、厚さ方向又は厚さ方向に対して垂直な方向に力を加えられたときの変形量が小さい。
【0075】
このような構成によれば、支持体が陰イオン交換膜を支えることにより、耐圧性及び自立性を高めることができる。
【0076】
[11]さらに別の態様に係る金属空気電池用の正極電極は、[1]~[10]のいずれかの金属空気電池用の正極電極であって、
前記少なくとも1つの支持体は、前記陰イオン交換膜、前記触媒層、及び前記多孔質層のいずれよりも、厚さ方向又は厚さ方向に対して垂直な方向に力を加えられたときの変形量が小さい。
【0077】
このような構成によれば、支持体が陰イオン交換膜、触媒層、又は多孔質層の少なくとも1つを支えることにより、耐圧性及び自立性を高めることができる。
【0078】
[12]一の態様に係る金属空気電池用は、
[1]~[11]のいずれかの金属空気電池(1)用の正極電極(3)と、
金属を含む負極電極(2)と
を備える。
【0079】
本開示の金属空気電池によれば、支持体が陰イオン交換膜、触媒層、又は多孔質層の少なくとも1つを支えることにより、正極電極の耐圧性及び自立性を高めることができる。正極電極の耐圧性及び自立性が高まることにより、金属空気電池内の電解液の流速分布を適切に制御できることや、支持体が陰イオン交換膜、触媒層、及び多孔質層を押さえつけることにより、接触抵抗が低減することにより、電池性能を向上できる。
【0080】
[13]一の態様に係る金属空気電池用の正極電極の製造方法は、
[2]~[4]のいずれかの金属空気電池(1)用の正極電極(3)の製造方法であって、
前記多孔質層に前記触媒層をコートして触媒層コート基板を作製するステップと、
前記支持体に前記陰イオン交換膜を積層するステップと、
前記支持体に積層された前記イオン交換膜に前記触媒層コート基板を積層し、プレスによって一体化するステップと
を含む。
【0081】
本開示の金属空気電池の製造方法によれば、支持体に積層された陰イオン交換膜と触媒層コート基板とを一体化するため、プレス工程の安定性を向上することができる。
【0082】
[14]別の態様に係る金属空気電池用の正極電極の製造方法は、
[2]~[4]のいずれかの金属空気電池(1)用の正極電極(3)の製造方法であって、
前記支持体に前記陰イオン交換膜を積層するステップと、
前記支持体に積層された前記陰イオン交換膜に前記触媒層を塗工して触媒層コート膜を作製するステップと、
前記触媒層コート膜に前記多孔質層を積層し、プレスによって一体化するステップと
を含む。
【0083】
本開示の金属空気電池の製造方法によれば、支持体に積層された陰イオン交換膜に触媒層を塗工するので、塗工安定性を向上することができる。
【0084】
[15]別の態様に係る金属空気電池用の正極電極の製造方法は、
[5]~[7]のいずれかの金属空気電池(1)用の正極電極(3)の製造方法であって、
前記支持体に前記陰イオン交換膜を積層するステップと、
前記多孔質層に前記触媒層をコートして触媒層コート基板を作製するステップと、
前記陰イオン交換膜が積層された前記支持体に前記触媒層コート基板を積層し、プレスによって一体化するステップと
を含む。
【0085】
本開示の金属空気電池の製造方法によれば、支持体に積層された陰イオン交換膜と触媒層コート基板とを一体化するため、プレス工程の安定性を向上することができる。
【0086】
[16]別の態様に係る金属空気電池用の正極電極の製造方法は、
[8]の金属空気電池(1)用の正極電極(3)の製造方法であって、
前記支持体に前記多孔質層を積層するステップと、
前記支持体に積層された前記多孔質層に前記触媒層をコートして触媒層コート基板を作製するステップと、
前記触媒層コート基板に前記陰イオン交換膜を積層し、プレスによって一体化するステップと
を含む。
【0087】
本開示の金属空気電池の製造方法によれば、支持体に積層された陰イオン交換膜と触媒層コート基板とを一体化するため、プレス工程の安定性を向上することができる。
【符号の説明】
【0088】
1 金属空気電池
2 負極電極
3 正極電極
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7